以下、添付図面に従って本発明に係る電子顕微鏡の実施例について説明する。電子顕微鏡は、電子線を試料に照射することによって試料を観察する装置である。
図1を用いて実施例1の電子顕微鏡100の全体構成について説明する。なお鉛直方向をZ方向、水平方向をX方向及びY方向とする。電子顕微鏡100は、電子銃101、引出電極102、陽極104、集束レンズ105、絞り106、調整ノブ107、上側偏向器108、下側偏向器109、第一検出器110、ウィーンフィルタ114、引上電極115、対物レンズ118、試料台121、補償電極135、第二検出器136、制御装置150、ディスプレイ151、記憶装置152を備える。制御装置150は各部の動作等を制御する装置であり、例えばコンピュータである。記憶装置152には、各部の電圧、電流等の制御条件を定めた制御テーブル153が格納される。制御装置150は、記憶装置152から制御テーブル153を読み出して、制御テーブル153に定められた制御条件に基づいて各部を制御しても良い。
電子銃101は、電子を放出する電子源であり、例えば電界放出型陰極である。引出電極102と陽極104は、電子銃101に対し正の電圧が印加される電極であり、電子銃101から放出される電子である一次電子線B1が通過する孔をそれぞれが有する。なお電子銃101に対する電圧の絶対値は、陽極104のほうが引出電極102よりも大きい。集束レンズ105は、一次電子線B1を集束させるレンズである。絞り106は、対物レンズ118における一次電子線B1の開き角を定める部材であり、一次電子線B1が通過する孔を有する。調整ノブ107は、絞り106の中心位置の調整に用いられる。上側偏向器108及び下側偏向器109は、一次電子線B1を偏向して試料120の上で走査させる。
対物レンズ118は、偏向された一次電子線B1を集束させるレンズであり、回転対称な形状の磁極116と対物レンズコイル117を有する。対物レンズコイル117に電流が流れることにより発生する磁界は、磁極116のギャップ119から試料120に向けて漏洩し、一次電子線B1を細束化させる。すなわち対物レンズ118はセミインレンズである。
試料台121は試料120を保持するとともに、試料120の位置や姿勢を制御する。すなわち試料台121は、試料120を水平方向または鉛直方向に移動させたり、水平面に対して傾斜させたり、鉛直方向を回転軸として回転させたりする。試料台121には負の電圧が印加され、試料台121の上の試料120と対物レンズ118との間に一次電子線B1を減速させる電界が形成される。
減速された一次電子線B1が試料120の上のS点に照射されると、S点から二次電子と反射電子が放出される。二次電子は例えばエネルギが100eV未満の電子であり、反射電子は例えばエネルギが100eV以上の電子である。また二次電子と反射電子のそれぞれは、試料120の表面に対して高角に放出される高角電子Cと低角に放出される低角電子Dに分けられる。一次電子線B1を減速させた電界は、高角電子Cを加速させながら、対物レンズ118の通路内に引き上げる。通路内に引き上げられた高角電子Cは対物レンズ118の磁界の作用を受けて螺旋軌道を描きながら電子銃101の側に進む。なおより多くの高角電子Cが引き上げられるように、対物レンズ118の内側に設けられる引上電極115に電圧が印加されても良い。
ウィーンフィルタ114は、電極111及び電極112とコイル113を有し、電極111と電極112が形成する電界134とコイル113が形成する磁界133とによって、引き上げられた高角電子Cを第一検出器110に向けて偏向させる。なお電界134と磁界133は一次電子線B1にも作用するものの、両者の作用が打ち消し合うので一次電子線B1は直進する。
第一検出器110は、ウィーンフィルタ114によって偏向された高角電子Cのうちの二次電子を検出し、検出された二次電子の量に応じた検出信号を制御装置150へ送信する。制御装置150は受信した検出信号に基づいて二次電子像を生成する。生成された二次電子像は、ディスプレイ151に表示されたり、記憶装置152に格納されたりする。
図2A、図2B、図2Cを用いて、S点から放出された低角電子Dの軌道について説明する。なお図2Aは対物レンズ118及び試料120の側面図であり、図2Bと図2Cは試料120を電子銃101の側から見た上面図である。低角電子Dは、一次電子線B1に対する鏡面反射方向を中心として全方位に放出され、対物レンズ118から漏洩する磁界である漏洩磁界によって、図2Aに示されるように試料120へ引き戻されて試料120に衝突する。なおS点から低角電子Dが試料120に衝突するA点までの距離は、低角電子Dのエネルギと仰角、漏洩磁界の強度に依存する。また図2Bと図2Cに示されるように、全方位に放出された低角電子Dのそれぞれは、S点を中心とする回転軌道を描く。なお回転軌道の方向は漏洩磁界の方向に依存し、磁界の方向が逆になると低角電子Dの回転軌道の方向も逆になる。すなわち、図2Bと図2Cでは、対物レンズコイル117に流れる電流の向きが逆であり、漏洩する磁界の方向も逆である。
図3を用いて、S点から低角電子Dが試料120に衝突するA点までの距離と低角電子Dのエネルギの関係について説明する。図3には、エネルギの異なる三つの低角電子D1、D2,D3の軌道が示される。S点からA点までの距離は、低角電子Dのエネルギと仰角、漏洩磁界の強度に依存し、エネルギが高いほどまた磁界の強度が低いほど長い。すなわち図3に例示されるように、エネルギが最も高い低角電子D1が試料120に衝突するA1点がS点から最も遠く、エネルギが最も低い低角電子D3が試料120に衝突するA3点がS点から最も近い。なお低角電子Dは全方位に放出されるとともにエネルギと仰角の値が幅を有するので、低角電子Dが試料120に衝突するA点はS点を中心とする円環領域内に分布する。
図2A、図2B、図2C、図3に例示される軌道の低角電子Dを検出するために、一次電子線B1が照射される位置であるS点に近づけられた検出器は、一次電子線B1の細束化に悪影響を及ぼす。そこで実施例1では、低角電子Dを検出する代わりに、低角電子Dが試料120に衝突するときに試料120から放出される二次電子を検出する。なお実施例1では低角電子Dが試料120に衝突するときに放出される二次電子を三次電子Eと呼び、S点から放出される二次電子と区別する。
三次電子Eは低角電子Dのうちの比較的エネルギが高い反射電子によって放出させられる電子であり、三次電子Eの量は低角電子Dのうちの反射電子である低角反射電子の量に比例する。なお三次電子Eの量は低角電子Dが衝突する位置の状態にも依存するものの、低角電子Dが衝突するA点はS点を中心とする円環領域内に分布するので、低角電子Dが衝突する位置の状態の影響は軽減される。すなわち、三次電子Eを検出することによって得られる検出信号の強度に基づいて生成される画像は、低角反射電子像となる。試料の広い円環領域から発生する三次電子を検出すると、むしろノイズとなって鮮明な反射電子像を得ることは難しいと想到されるが、発明者は、計算および実験により、一次電子線が照射された構造が十分に認識可能な反射電子像が得られることを見出したのである。なお、低角電子Dのうちの比較的エネルギが低い二次電子は三次電子Eの放出に寄与しないので、以降の説明では低角電子Dを低角反射電子Dと読み替える。
図4を用いて、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点から放出される三次電子Eの軌道について説明する。三次電子Eは数eVのエネルギを有し、低角反射電子Dが試料120に入射する方向の鏡面反射方向を中心として全方位に放出され、漏洩磁界によって螺旋軌道を描く。そこで、実施例1では、三次電子Eを検出する検出器がS点から離れた位置に配置されるとともに、対物レンズから漏洩される磁界が存在する空間において、三次電子Eを検出する検出器に向けて三次電子Eの軌道を制御する電界を重畳する電極が設けられる。
図1の説明に戻る。第二検出器136は、三次電子Eを検出する検出器であり、蛍光板137、カバー138、光電子増倍管139を有する。蛍光板137は、三次電子Eの入射により発光する平板であって、第二検出器136の検出面である。カバー138は三次電子Eを蛍光板137に導く電界を形成する金属部材である。光電子増倍管139は、蛍光板137の発光によって生じる光電子を増幅させた電気信号を出力する。すなわち第二検出器136は、蛍光板137に入射した三次電子Eの量に応じた検出信号を制御装置150へ送信する。なお、第二検出器136は、一次電子線B1が照射されるS点から十分に離れた位置、例えば対物レンズ118の最外径よりも外側に配置される。また三次電子Eの検出効率を向上させるように第二検出器136の向きが定められる。例えば第二検出器136の中心線140、すなわち蛍光板137の中心を通り蛍光板137と直交する線と、試料120の表面とが交差するT点が、S点から離れて第二検出器136に近づくように、第二検出器136が配置される。補償電極135は、一次電子線B1が照射されるS点と第二検出器136との間に設けられる電極であり、対物レンズから漏洩される磁界が存在する空間において、三次電子Eの軌道を制御する電界を形成する。なお、第二検出器136の中心線140とは、光電子増倍管の形状である円筒の中心線にほぼ重なる。
図5A及び図5Bを用いて、対物レンズから漏洩される磁界が存在する空間において、補償電極135による三次電子Eの軌道の制御について説明する。なお図5Aは側面図であり、図5Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図5A及び図5Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
実施例1の補償電極135は、互いに平行な平板である電極135A1と電極135A2によって構成され、電圧源149から電圧が印加される。試料120の表面及び蛍光板137に対して略垂直に配置される電極135A1と電極135A2とに、互いに逆極性で絶対値の等しい電圧が印加されるとき、試料120の表面及び蛍光板137と略平行な矢印161の方向に電界が形成される。そして補償電極135に印加される電圧の調整により、A点から放出される三次電子Eが第二検出器136に検出される割合を制御できる。
図6を用いて、補償電極135に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係の一例について説明する。図6は、電子軌道解析によって得られた関係であり、横軸は電極135A1に印加される電圧、縦軸は第二検出器136に検出される三次電子Eの数である。なお、電極135A2には電極135A1に印加される電圧とは逆極性の電圧が印加される。
図6によれば、電極135A1に正の電圧が印加されるとき、検出される三次電子Eの数は少なく、電極135A1に負の電圧が印加され絶対値が大きくなるにつれて、検出される三次電子Eの数が増大する。電極135A1に負の電圧が印加されるとき、電極135A1と電極135A2の間には図5Bの矢印161の方向に電界が形成される。矢印161の方向の電界は、漏洩磁界によってS点を中心とする低角反射電子Dの回転を抑制するように作用する。
図5Bの説明に戻る。A点から放出される三次電子Eは、いったんは電極A1に近づくものの、矢印161の方向の電界によって第二検出器136へ向かうように軌道が制御される。すなわち、対物レンズから漏洩される磁界が存在する空間において、電極135A1と電極135A2の間に形成される電界の強度を調整することによって、第二検出器136に検出される三次電子Eの割合を制御できる。なお第二検出器136に検出される電子には、三次電子Eに限らず、S点から放出される二次電子や反射電子、A点から放出される反射電子等が含まれても良い。ただし、第二検出器136に検出される電子の主要素は三次電子Eであり、S点から放出される二次電子や反射電子、A点から放出される反射電子の量は三次電子Eの量よりも少ない。
また図5Bの構成では、全方位のうちの特定の方位に放出される低角反射電子Dが試料120に衝突することによって放出される三次電子Eが検出される。そのため、生成される低角反射電子像は方位限定された画像となる。
なお低角反射電子Dが衝突するA点が試料120または試料台121から外れた位置であると三次電子Eは放出されないので、試料120または試料台121はA点が分布する円環領域を包含する大きさを有することが望ましい。円環領域の外径は漏洩磁界の強度に依存し、例えば像分解能が数nmの電子顕微鏡100に用いられる対物レンズ118の場合、200mm程度である。すなわち、電子顕微鏡100の像分解能が数nmである場合、試料120または試料台121は200mm以上の直径を有することが望ましい。なお試料120または試料台121の形状は、円に限定されず、矩形等の任意の形状であっても良い。
また電極135A1と電極135A2の間に形成される電界の方向は、漏洩磁界の方向に応じて設定されることが望ましい。すなわち図2Cや図5Bに例示されるように低角反射電子Dが反時計回りに回転する場合は図5Bの矢印161の方向に電界を形成させ、図2Bに例示されるように低角反射電子Dが時計回りに回転する場合は逆方向に電界を形成させる。言い換えると、漏洩磁界による低角反射電子Dの回転を抑制する方向の電界が補償電極135によって形成されることが望ましい。すなわち、対物レンズの漏洩磁界に、補償電極135によって形成される電界を重畳することによって、三次電子を第二検出器136に導くのである。
またA点から放出される三次電子Eは、試料120の表面近傍を飛行するので、補償電極135は試料120の表面近傍に配置されることが望ましい。なお、試料120との衝突を避けるために、試料120と補償電極135との距離を、例えば試料120と対物レンズ118との距離と同等にしても良い。さらに補償電極135によって形成される電界によって三次電子Eの軌道を制御するので、補償電極135の試料120に対向する面は、試料120の表面に平行であることが望ましい。このような構造により、三次電子Eが飛行する領域をより広く覆う電界が形成でき、三次電子Eの軌道を制御しやすくなる。
なお補償電極135を構成する電極の数は二つに限定されず、三つ以上であっても良く、第二検出器136から出力される検出信号の値がより高くなるように各電極に印加される電圧が調整されても良い。また第二検出器136の中心線140と、試料120の表面とのなす角は、第二検出器136から出力される検出信号の値がより高くなるように調整されても良い。
図7を用いて、ディスプレイ151に表示される画面の一例について説明する。図7に例示される画面には、二次電子像154、反射電子像155とともに、インジケータ156が表示される。二次電子像154は第一検出器110から送信される検出信号に基づいて生成された画像であり、反射電子像155は第二検出器136から送信される検出信号に基づいて生成された画像である。インジケータ156には補償電極135に電圧が印加されているか否かが表示され、図7には電圧が印加されている場合が例示される。
二次電子像154は、多くの場合、信号ノイズ比SNR(Signal to Noise Ratio)が高い画像であるので試料120の細部を観察しやすい画像であるものの、試料120の凹凸を認識しにくい画像でもある。これに対し反射電子像155は方位限定された画像であるので、照明方向157から光を当てたかのように、構造物の端部を示す輝線158や構造物の近傍に生じる影159が含まれる画像となる。すなわち、試料120の凹凸を認識しやすい画像となる。
以上説明したように、対物レンズであるセミインレンズから漏洩する磁界が存在する空間において、補償電極135によって形成される電界を重畳させることによって、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点から放出される三次電子Eが第二検出器136に向かうように制御されるので、第二検出器136によって三次電子Eを検出できる。三次電子Eの量は、電子線が照射されるS点から放出される低角反射電子の量に比例するので、第二検出器136の検出信号に基づいて、低角反射電子像を生成できる。なお第二検出器136は一次電子線B1の細束化に悪影響を与えない位置に配置され、補償電極135はA点と第二検出器136との間に設けられる。
すなわち実施例1によれば、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また従来に比べて凹凸を認識しやすい画像を得ることができる。
実施例1では、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる補償電極135が、互いに平行な電極135A1と電極135A2によって構成される場合について説明した。実施例2では、電極135A1と電極135A2とによって構成される補償電極135とともに、グリッド電極が設けられる場合について説明する。なお実施例2には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図8A及び図8Bを用いて実施例2の補償電極135とグリッド電極162について説明する。なお図8Aは側面図であり、図8Bは電子銃101の側から見た上面図である。補償電極135は、実施例1と同様に、互いに平行な電極135A1と電極135A2によって構成され、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。
グリッド電極162は、金属線が格子状に組まれた電極であり、一次電子線B1が照射されるS点と補償電極135との間に設けられる。なおグリッド電極162の代わりに、電子が通過する複数の開口を有する金属薄板で構成される電極が用いられても良い。グリッド電極162は接地電位であり、補償電極135によって形成される電界が一次電子線B1を偏向させることを防ぐ。その結果、偏向収差による一次電子線B1のビーム径増大が抑制され、電子顕微鏡の分解能を維持できる。なお、A点から放出される三次電子Eは、グリッド電極162を通過した後、補償電極135によって形成される電界と漏洩磁界からの力を受けながら飛行し、第二検出器136に入射して検出される。
またグリッド電極162を通過する三次電子Eを増加させるために、グリッド電極162に数ボルトの電圧が印加されても良い。グリッド電極162を通過する三次電子Eが増加することにより、第二検出器136での検出効率が向上し、SNRが高い反射電子像を得ることができる。
実施例2によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。またグリッド電極162によって、一次電子線B1のビーム径増大が抑制されたり、第二検出器136での検出効率を向上させたりできるので、反射電子像の画質を向上させることができる。
実施例1では、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる補償電極135が、互いに平行な電極135A1と電極135A2によって構成される場合について説明した。実施例3では、補償電極135が、電極135A1と電極135A2のいずれか一方によって構成される場合について説明する。なお実施例3には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図9A及び図9Bを用いて実施例3の補償電極135について説明する。なお図9Aは側面図であり、図9Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図9A及び図9Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図9A及び図9Bに例示される補償電極135は、実施例1と同様に、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。ただし、実施例1に示された互いに平行な電極135A1と電極135A2のうちの一方である電極135A1によって、補償電極135が構成される。また図9Bに示されるように、低角反射電子Dは、漏洩磁界によって反時計回りに回転して電極135A1の側に向かい、試料120と衝突するA点から三次電子Eを放出させる。図9Bにおいて、電極135A1に負の電圧が印加されると、三次電子Eは電極135A1にいったんは近づくものの、電極135A1の周辺に形成される電界によって第二検出器136へ向かうように軌道が制御される。すなわち、対物レンズであるセミインレンズから漏洩する磁界が存在する空間において、電極135A1の周辺に形成される電界の強度を調整することによって、第二検出器136に検出される三次電子Eの割合を制御できる。
図10を用いて、図9Bの電極135A1に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係の一例について説明する。なお図10は、図6と同様に電子軌道解析によって得られた関係であり、横軸は電極135A1に印加される電圧、縦軸は第二検出器136に検出される三次電子Eの数である。
図10には、電極135A1に-200Vの電圧が印加されるときに検出される三次電子Eの数が最多であり、電圧が印加されない場合の約6倍であることが示される。ただし、電極135A1に正の電圧が印加される場合には、検出される三次電子Eの数に大きな変化はない。つまり、実施例1と同様に、漏洩磁界による低角反射電子Dの回転を抑制する方向に電界が形成されるように、電極135A1に電圧が印加されることが望ましい。
図11A及び図11Bを用いて実施例3の補償電極135の変形例について説明する。なお図11Aは側面図であり、図11Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図11A及び図11Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図11A及び図11Bに例示される補償電極135は、図9A及び図9Bと同様に、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。ただし、図9A及び図9Bの場合とは逆側の電極である電極135A2によって、補償電極135が構成される。また図11Bに示されるように、低角反射電子Dは、漏洩磁界によって、図9Bとは逆方向である時計回りに回転して電極135A2の側に向かい、試料120と衝突するA点から三次電子Eを放出させる。図11Bにおいて、電極135A2に負の電圧が印加されると、三次電子Eは電極135A2にいったんは近づくものの、電極135A2の周辺に形成される電界によって第二検出器136へ向かうように軌道が制御される。すなわち、対物レンズであるセミインレンズから漏洩する磁界が存在する空間において、電極135A2の周辺に形成される電界の強度を調整することによって、第二検出器136に検出される三次電子Eの割合を制御できる。
図12を用いて、図11Bの電極135A2に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係の一例について説明する。なお図12は、図6や図10と同様に電子軌道解析によって得られた関係であり、横軸は電極135A2に印加される電圧、縦軸は第二検出器136に検出される三次電子Eの数である。
図12には、電極135A2に-200Vの電圧が印加されるときに検出される三次電子Eの数が最多であって、電極135A2に正の電圧が印加される場合には検出される三次電子Eの数に大きな変化が無いことが示され、図10と同じ傾向である。つまり、実施例1と同様に、漏洩磁界による低角反射電子Dの回転を抑制する方向に電界が形成されるように、電極135A2に電圧が印加されることが望ましい。
図13A及び図13Bを用いて実施例3の補償電極135の変形例について説明する。なお図13Aは側面図であり、図13Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図13A及び図13Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図13A及び図13Bに例示される補償電極135は、図11A及び図11Bと同様に、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる電極135A2によって構成される。また図13Bに示されるように、低角反射電子Dは、漏洩磁界によって、図11Bとは逆方向である反時計回りに回転して電極135A2の側から遠ざかり、試料120と衝突するA点から三次電子Eを放出させる。図13Bにおいて、電極135A2に正の電圧が印加されると、三次電子Eは電極135A2からいったんは離れるものの、電極135A2の周辺に形成される電界によって第二検出器136へ向かうように軌道が制御される。すなわち、対物レンズであるセミインレンズから漏洩する磁界が存在する空間において、電極135A2の周辺に形成される電界の強度を調整することによって、第二検出器136に検出される三次電子Eの割合を制御できる。また補償電極135が、電極135A1と電極135A2のいずれか一方によって構成される場合であっても、補償電極135に印加される電圧の極性を漏洩磁界の向きに応じて切り替えることにより、三次電子Eを検出できる。
図14を用いて、図13Bの電極135A2に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係の一例について説明する。なお図14は、図6や図10、図12と同様に電子軌道解析によって得られた関係であり、横軸は電極135A2に印加される電圧、縦軸は第二検出器136に検出される三次電子Eの数である。
図14には、電極135A2に負の電圧が印加される場合には検出される三次電子Eの数は余り増加せず、電極135A2に印加される正の電圧が高くなるにつれて検出される三次電子Eの数が増加することが示される。つまり、実施例1と同様に、漏洩磁界による低角反射電子Dの回転を抑制する方向に電界が形成されるように、電極135A2に電圧が印加されることが望ましい。
また図14において検出される三次電子Eの数を図12と同等にするには、電極135A2に印加される電圧の絶対値をより高くする必要がある。すなわち電極135A2が形成する電界の強度は電極135A2に近いほど大きくなるので、電極135A2に近づく三次電子Eよりも電極135A2から遠ざかる三次電子Eのほうがより高い電圧を必要とする。
実施例3によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また実施例3の補償電極135は、電極135A1と電極135A2のいずれか一方のみで構成されるので、構造が簡単で製造コストの低い電子顕微鏡を提供することができる。
実施例1では、試料120が水平に保たれた場合について説明した。実施例4では、試料120が水平面に対して傾けられた場合について説明する。なお実施例4には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図15A及び図15Bを用いて実施例4について説明する。なお図15Aは側面図であり、図15Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図15A及び図15Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図15A及び図15Bに例示される補償電極135は、図9A及び図9Bと同様に、電極135A1によって構成され、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。また試料台121が水平面に対して45度傾けられることにより、試料台121に保持される試料120も水平面に対して45度傾けられる。図15Bでは、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点が対物レンズ118からより離れているので、A点付近の磁界強度が弱く、A点から放出される三次電子Eは第二検出器136に到達しやすい。なお、試料120との衝突を避けるため、電極135A1及び第二検出器136は試料120が下がる側に設けられる。
図16A及び図16Bを用いて実施例4の変形例について説明する。なお図16Aは側面図であり、図16Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図16A及び図16Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図16A及び図16Bに例示される補償電極135及び第二検出器136は、図9A及び図9Bと同様に、電極135A1によって構成され、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。また図15A及び図15Bと同様に、試料120が水平面に対して45度傾けられる。ただし、三次電子Eの検出率を向上させるため、図16Bのように試料120の傾斜方向に対して斜めであって、低角反射電子Dが向かう側に電極135A1及び第二検出器136が配置されるように、試料120は傾けられる。一方、点線で示される第二検出器136Gの位置では、三次電子Eの検出率が低下する。なお漏洩磁界の方向が逆になった場合には、第二検出器136Gの位置において、三次電子Eの検出率が向上する。すなわち、漏洩磁界の方向や第二検出器136の位置に応じて、第二検出器136における三次電子Eの検出率が向上するように試料120が傾けられる方向が設定されても良い。また、第二検出器136における三次電子Eの検出率が向上するように漏洩磁界の方向が設定されても良い。
実施例4によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また試料120が水平面に対して傾けられた場合であっても三次電子Eを検出できるので、高いSNRを有する反射電子像を得ることができる。
実施例1乃至4では、一組の補償電極135と第二検出器136が設けられる場合について説明した。実施例5では、二組の補償電極135と第二検出器136が設けられる場合について説明する。なお実施例5には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図17A及び図17Bを用いて実施例5について説明する。なお図17A及び図17Bは電子銃101の側から見た上面図であり、図17Aでは試料120が水平に保たれ、図17Bでは試料120が図16Bと同様に傾けられる。また図17AにはS点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの二つの軌道が示される。
図17A及び図17Bには、電極135A1と第二検出器136との組が図16Bと同様に設けられるとともに、電極135B1と第二検出器136Tとの組が設けられる。S点から第二検出器136と第二検出器136Tとのそれぞれに延びる半直線がなす角は90度である。
電極135A1は、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられ、対物レンズ118から漏洩するに磁界が存在する空間において、A点から放出される三次電子Eが第二検出器136に向かうような電界を重畳する。また電極135B1は、低角反射電子DTが試料120に衝突するAT点と第二検出器136Tとの間に設けられ、対物レンズ118から漏洩するに磁界が存在する空間において、AT点から放出される三次電子ETが第二検出器136Tに向かうような電界を重畳する。
第二検出器136が検出する三次電子Eと第二検出器136Tが検出する三次電子ETとは、方位角が異なる低角反射電子Dと低角反射電子DTのそれぞれが試料120に衝突することで放出されるので、方位角が異なる二つの反射電子像を得ることができる。得られた二つの反射電子像は、照明方向が90度異なる陰影像であるので、両者の観察によって試料120の凹凸構造がより明確に把握できる。なお、二組の補償電極135と第二検出器136が図17Bのように配置されれば、試料120が傾けられた場合であっても方位角が異なる二つの反射電子像を得ることができる。
実施例5によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また方位角が異なる二つの反射電子像を得ることができるので、試料120の凹凸構造をより明確に把握できる。
実施例1乃至5では、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に補償電極135が設けられる場合について説明した。実施例6では、補償電極135の代わりに、三次電子Eの軌道を制御するための磁界を形成する補償磁極が設けられる場合について説明する。なお実施例6には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図18A及び図18Bを用いて実施例6について説明する。なお図18Aは側面図であり、図18Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図18A及び図18BにはS点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示される。
図18A及び図18Bには、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる補償磁極131が示される。補償磁極131は、漏洩磁界による低角反射電子Dの回転を抑制するように作用する磁界を形成する。すなわち、漏洩磁界の方向とは逆方向の磁界が補償磁極131によって形成される。補償磁極131によって形成される磁界は、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点から放出される三次電子Eが第二検出器136に向かうように作用する。その結果、第二検出器136によって検出される三次電子Eの数が増え、高いSNRの反射電子像を得ることができる。
なお対物レンズコイル117を流れる電流が逆向きになった場合には、補償磁極131が形成する磁界の方向も逆方向になるように制御されれば良い。さらに補償磁極131は、低角反射電子Dが飛行する領域から十分に離れて配置されることが望ましい。また補償磁極131の代わりに、漏洩磁界を遮蔽する磁気遮蔽材がA点と第二検出器136との間に設けられても良い。
実施例6によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また補償磁極131として永久磁石が用いられる場合、補償磁極131に用いられる電源を備えずにすむので、構造が簡単で製造コストやランニングコストの低い電子顕微鏡を提供することができる。
実施例1乃至5では、補償電極135として平板な電極が設けられる場合について説明した。実施例7では、補償電極135として屈折した形状の電極が設けられる場合について説明する。なお実施例7には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図19A及び図19Bを用いて実施例7について説明する。なお図19A及び図19Bは電子銃101の側から見た上面図である。図19Aでは試料120が水平に保たれ、図19Bでは試料120が45度傾けられる。なお、傾斜軸はY軸に平行な軸である。また図19AにはS点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道が示される。
電極135A1及び電極135A2は、低角反射電子Dが試料120に衝突するA点と第二検出器136との間に設けられる。そして、対物レンズ118から漏洩するに磁場が存在する空間において、A点から放出される三次電子Eが第二検出器136に向かうような電界を重畳する。これにより反射電子放出の方位角が制限された反射電子像が得られる。
ここで、本実施例では、図19A及び図19Bに示すように、電極135A1及び電極135A2が、一次電子線B1が照射されるS点側で、すなわち対物レンズ側で対向する電極に向かって45度屈折している。このようにすると、三次電子Eが第二検出器136に到達する確率が特に高くなることが分かった。特に、対物レンズの励磁が強く反射電子が衝突する位置Aが、S点に近い場合に効果が高い。これにより高SNRの反射電子像が得られる。すなわち、試料120の凹凸構造がより明確に把握できる。なお、電極135A1が図19Aのように内側に屈折していることが重要である。その結果として対向する電極135A2との距離が検出器側に比べて先端側で短くなる。また、対物レンズ側で第二検出器136の中心線140に向かって屈折していると表現できる。すなわち、電極135A1を、図19Bに示すように検出器の中心線140に向けて屈折させると、図19Bに示すように、ステージをY軸に平行な軸で傾斜させた場合も、電極135A1とステージが干渉しないという効果を奏する。
図19Aでは、電極135A2も、対物レンズ側を検出器の中心線の方向に屈折している。このようにすると、三次電子Eが第二検出器136に到達する確率が特に高くなることが分かった。ただし、その効果は、実施例7の対物レンズの磁場条件では電極135A1の効果の方が大きい。すなわち、実施例7では、電極135A1および電極135A2の双方とも屈折させたが、一方のみを屈折させてもよい。また、図19Aでは平板を屈折させたが、円弧上に曲げても良い。また、必ずしも平板である必要もない。
なお、補償電極が第二検出器136の中心線140に向かって屈折するというのは、屈折の方向が一つの方向に限定されるものではない。第二検出器136近傍の空間を、補償電極に対して第二検出器136の中心線140が含まれる空間と、中心線140が含まれない空間に、おおよそ分けた時に、第二検出器136の中心線140が含まれる空間側に屈折していたり、湾曲していたりすればよく、屈折や湾曲の始まりの位置や方向、屈折の角度、湾曲の曲率が限定されるものではない。
また、2個の補償電極の間隔が、対物レンズ側と検出器側で比べて電子線側が小さくなっていると同様な効果を得られることがわかった。すなわち、補償電極と検出器の中心線との距離が、検出器側に比べて対物レンズ側に短い箇所が存在すれば同様な効果が得られる。
また、図19A、図19Bには、実施例2に示したように補償電極135とS点の間にグリッド電極162を挿入している。この場合には、補償電極電圧の電子ビームへの影響を低減できるという効果を奏する。
実施例7によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また、特に高効率に三次電子を検出できるので高SNRの反射電子像を得ることができるので、試料120の凹凸構造をより明確に把握できる。
実施例2では、電極135A1と電極135A2とによって構成される補償電極135とともに、グリッド電極162が設けられる場合について説明した。実施例8では、グリッド電極162の少なくとも一部を板材で構成することについて説明する。なお実施例8には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図20A及び図20Bを用いて実施例8の補償電極135と板材で構成される電極である板材電極163について説明する。なお図20Aは電子銃101の側から見た上面図であり、図20Bは側面図である。第二検出器136は、試料120の傾斜方向であるX軸に対して中心線140が30度の傾きを有するように配置される。
補償電極135は、実施例7と同様に、試料120の表面に対して略垂直に配置されるとともに第二検出器136の中心線140に向けて屈折した形状を有する電極135A1と電極135A2によって構成される。なお電極135A1には負の電圧が、電極135A2には正の電圧がそれぞれ印加され、電極135A1と電極135A2との間に矢印161の方向の電界が形成される。矢印161の方向の電界は、電極135A1と電極135A2との間の空間において、図20Aに示されるような低角反射電子Dの反時計回りの回転を抑制するとともに、低角反射電子DがA点に衝突することにより放出される三次電子Eを第二検出器136に向かうように作用する。
ここで電極135A1と電極135A2との間の空間において、低角反射電子Dの回転方向が、少なくとも電界の方向を一つの成分として分解可能な場合に、低角反射電子Dの回転方向と電界とが同方向であるとする。必ずしも、低角反射電子Dの回転方向が、電界の方向と全く同一である必要はない。また低角反射電子Dの回転方向が、電界と逆の方向を一つの成分として分解可能な場合に、低角反射電子Dの回転方向と電界とが逆方向であるとする。必ずしも、低角反射電子Dの回転方向が、電界の方向と全く逆である必要はない。すなわち図20Aに示される低角反射電子Dの回転方向は、矢印161の電界と同方向である。
板材電極163は、一次電子線B1と補償電極135との間に試料120の表面に対して略垂直に配置されるとともに補償電極135に沿いながら覆うような形状を有する。なお板材電極163は対物レンズ118の外側と同電位にされる。また板材電極163は、三次電子Eが放出されるA点と第二検出器136との間には配置されない。
板材電極163が一次電子線B1と補償電極135との間に配置されることにより、補償電極135によって形成される電界が一次電子線B1に及ぼす悪影響は低減される。すなわち板材電極163は、補償電極135が形成する電界を遮蔽するシールド電極として機能し、一次電子線B1の偏向やビーム形状の歪みを抑制し、電子顕微鏡の像分解能の劣化を防止する。なお実施例2のグリッド電極162も補償電極135が形成する電界を概ね遮蔽するのでシールド電極として機能する。
シールド電極として板材電極163が用いられる場合、S点から放出される軌道と試料120の表面とのなす角度である放出角度が比較的大きい低角反射電子Dは図21に示されるように板材電極163に衝突する。その結果、放出角度が比較的小さい低角反射電子DがA点に衝突することにより放出される三次電子Eのみが第二検出器136に検出されるので、試料の凹凸がより明瞭な反射電子像が形成される。さらにシールド電極として板材電極163が用いられる場合、シールド電極の構造が簡単になり、製造コストを低減できる。
シールド電極としてグリッド電極162が用いられる場合、放出角度が比較的大きい低角反射電子Dの一部がグリッド電極162を通過して試料120に衝突するので、第二検出器136に検出される三次電子Eが増え、より明るい反射電子像が形成される。
実施例8によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また板材電極163等のシールド電極によって、一次電子線B1のビーム径増大が抑制されたり、第二検出器136での検出効率を向上させたりできるので、反射電子像の画質を向上させることができる。特にシールド電極として板材電極163が用いられる場合、試料の凹凸がより明瞭な反射電子像が形成されるとともに、製造コストを低減できる。
実施例1では、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2に互いに逆極性で絶対値の等しい電圧が印加される場合について説明した。実施例9では、電極135A1と電極135A2に互いに逆極性であって絶対値の異なる電圧を印加することについて説明する。なお実施例9には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図22A及び図22Bを用いて実施例9について説明する。なお図22Aは電子銃101の側から見た上面図であり、図22Bは電極135A1と電極135A2に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係を電子軌道解析で求めた結果の一例である。第二検出器136は、試料120の傾斜方向であるX軸に対して中心線140が30度の傾きを有するように配置される。
補償電極135は、実施例7と同様に、試料120の表面に対して略垂直に配置されるとともに第二検出器136の中心線140に向けて屈折した形状を有する電極135A1と電極135A2によって構成される。なお電極135A1と電極135A2とは中心線140から同距離に配置される。また電極135A1には負の電圧が、電極135A2には正の電圧がそれぞれ印加され、電極135A1と電極135A2との間に矢印161の方向の電界が形成される。
シールド電極には、グリッド電極162と板材電極163との組み合わせが用いられる。すなわち、第二検出器136の中心線140と直交する面にはグリッド電極162が配置され、補償電極135に沿う形状を有する板材電極163がグリッド電極162に連なるように配置される。このようなシールド電極が用いられることより、放出角度が比較的大きい低角反射電子Dの一部がグリッド電極162を通過して試料120に衝突するので、第二検出器136に検出される三次電子Eが増え、より明るい反射電子像が形成される。また補償電極135に沿うように板材電極163が配置されることにより、補償電極135によって形成される電界が一次電子線B1に及ぼす悪影響は低減される。すなわち一次電子線B1の偏向やビーム形状の歪みが抑制されるので、電子顕微鏡の像分解能の劣化を防止できる。
図22Bには、図22Aの構成において電極135A1と電極135A2に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係が示される。図22Bの縦軸は第二検出器136に検出される三次電子Eの数であり、横軸は電極135A1に印加される電圧である第一電極電圧と電極135A2に印加される電圧である第二電極電圧である。なお第一電極電圧と第二電極電圧との差異を400Vに固定し、補償電極135によって形成される電界の強度を一定にすることで、一次電子線B1に及ぼす悪影響を増大させないようにする。また第一電極電圧は負の電圧であり、第二電極電圧は正の電圧であるので、電極135A1と電極135A2との間には矢印161の方向の電界が形成され、この電界の方向は低角反射電子Dの回転方向と同方向である。
図22Bでは、第一電極電圧を-200V、第二電極電圧を200Vとした場合、すなわち両電圧の絶対値を等しくした場合よりも、第一電極電圧を-300V、第二電極電圧を100Vとした場合の方が、検出電子数が多いことが示される。この結果は、三次電子Eの軌道が第二検出器136の中心線140に対して傾斜していることに基づく。すなわち三次電子Eは、正の電圧が印加される電極135A2から遠ざかり、負の電圧が印加される電極135A1に近づく軌道であり、正の電圧による作用を受けにくく負の電圧による作用を受けやすい。そのため、第二検出器136の中心線140から同距離に配置される電極135A1と電極135A2に対して、互いに逆極性で絶対値の等しい電圧を印加するのではなく、絶対値の異なる電圧を印加することで三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。
実施例9によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また第二検出器136の中心線140から同距離に配置される電極135A1と電極135A2に対して、逆極性であって絶対値の異なる電圧を印加することで三次電子Eの検出電子数が増えるので、より明るい反射電子像を得ることができる。
またグリッド電極162と板材電極163とを組み合わせたシールド電極が用いられることにより、補償電極135が形成する電界が一次電子線B1に及ぼす悪影響が低減されるとともに、三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。その結果、高分解能であってより明るい電子顕微鏡像を得ることができる。
実施例1では、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2が第二検出器136の中心線140から同距離、すなわち中心線140に対して対称に配置される場合について説明した。実施例10では、電極135A1と電極135A2が中心線140から異なる距離に配置される場合、すなわち中心線140に対して非対称に配置される場合について説明する。なお実施例10には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図23A、図23B、図24A、図24Bを用いて実施例10について説明する。なお図23Aと図23Bは電子銃101の側から見た上面図である。また図24Aは側面図であり、図24Bは補償電極135に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係を電子軌道解析で求めた結果の一例である。また図23A、図23B、図24Aには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示されるとともに、当該低角反射電子DがA点に衝突することにより放出される三次電子Eが第二検出器136に入射する軌道が示される。
補償電極135は、実施例1と同様に、互いに平行な平板である電極135A1と電極135A2によって構成され、試料120の表面に対して略垂直に配置される。また電極135A1には負の電圧が、電極135A2には正の電圧が印加され、電極135A1と電極135A2との間に矢印161の方向の電界が形成される。なお電極135A1と電極135A2に印加される電圧の絶対値は等しい。
電極135A1から中心線140までの距離をL1、電極135A2から中心線140までの距離をL2とするとき、図23AではL1<L2であり、図23BではL1>L2である。また電極135A1から一次電子線B1や第二検出器136までの距離は、L1<L2のときのほうが短い。ここで図23AのようなL1<L2となる配置をA1配置、図23BのようなL1>L2となる配置をA2配置と呼ぶ。
図24BではA2配置よりもA1配置の方が、三次電子Eの検出電子数が多いことが示される。実施例9で述べたように、三次電子Eは、負の電圧が印加される電極135A1に近づく軌道であって負の電圧による作用を受けやすい。そのため、負の電圧が印加される電極135A1を中心線140に近づけることで三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。
実施例10によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また負の電圧が印加される電極135A1を中心線140に近づけることで三次電子Eの検出電子数が増えるので、より明るい反射電子像を得ることができる。
実施例10では、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2が、第二検出器136の中心線140から異なる距離に配置される場合、すなわち非対称に配置される場合について説明した。電極135A1と電極135A2との非対称配置は実施例10に限定されない。実施例11では、電極135A1と電極135A2との非対称配置の他の例として、一次電子線B1から異なる距離に配置される場合について説明する。なお実施例11には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図25A、図25B、図26、図27を用いて実施例11について説明する。なお図25A、図25B、図27は電子銃101の側から見た上面図であり、図26は補償電極135に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係を電子軌道解析で求めた結果の一例である。また図25A、図25Bには、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの一つの軌道だけが示されるとともに、当該低角反射電子DがA点に衝突することにより放出される三次電子Eが第二検出器136に入射する軌道が示される。
補償電極135は、実施例1と同様に、互いに平行な平板である電極135A1と電極135A2によって構成され、試料120の表面に対して略垂直に配置される。また電極135A1には負の電圧が、電極135A2には正の電圧が印加され、両電圧の絶対値は等しい。なお図25Aでは電極135A1の方が電極135A2よりも一次電子線B1やS点との距離が短く、図25Bでは電極135A2の方が電極135A1よりも一次電子線B1やS点との距離が短い。ここで図25Aの配置をB1配置、図23Bの配置をB2配置と呼ぶ。
図26ではB2配置よりもB1配置の方が、三次電子Eの検出電子数が多いことが示される。実施例9で述べたように、三次電子Eは、負の電圧が印加される電極135A1に近づく軌道であって負の電圧による作用を受けやすい。そのため、負の電圧が印加される電極135A1を、低角反射電子Dが放出されるS点に近づけることで三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。
なお電極135A1と電極135A2とは必ずしも同じ大きさでなくても良い。図27に例示されるように、S点に近づけられる電極135A1が電極135A2よりもX方向に長い場合であっても、図25Aの配置と同様に三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。
実施例11によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また負の電圧が印加される電極135A1を、低角反射電子Dが放出されるS点に近づけることで三次電子Eの検出電子数が増えるので、より明るい反射電子像を得ることができる。
実施例10や実施例11では、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2が非対称に配置される場合について説明した。実施例12では、電極135A1と電極135A2との非対称配置の他の例として、試料120の表面の垂線に対して電極135A1と電極135A2が傾けられる場合について説明する。なお実施例12には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図28、図29A、図29B、図30を用いて実施例12について説明する。なお図28は対物レンズ118や第二検出器136など斜め上から見た斜視図であり、図29A、図29Bは第二検出器136に相対する側から見た側面図である。また図30は補償電極135に印加される電圧と第二検出器136に検出される三次電子Eの数との関係を電子軌道解析で求めた結果の一例である。図28には、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの二つの軌道が示される。さらに図28には、左側に放出された低角反射電子DがA点に衝突して放出される三次電子Eが第二検出器136に入射する軌道と、右側に放出された低角反射電子Dが試料120に衝突して放出される三次電子Hが対物レンズ118に衝突する軌道が示される。
補償電極135は、実施例1と同様に、互いに平行な平板である電極135A1と電極135A2によって構成され、電極135A1と電極135A2には、互いに逆極性で絶対値の等しい電圧が印加される。なお実施例12の補償電極135は第二検出器136のカバー138に電気的に絶縁されながら取り付けられる。そして第二検出器136の中心線140を回転軸としてカバー138を回転させることにより、試料120の表面の垂線に対して電極135A1と電極135A2が傾けられる。
図29Aには、第二検出器136の蛍光板137に相対する面において、カバー138を時計回りに回転させた場合が示され、図29Bにはカバー138を反時計回りに回転させた場合が示される。図29Aでは電極135A1が電極135A2よりも一次電子線B1から遠く、W2<W1となる。また図29Bでは電極135A1が電極135A2よりも一次電子線B1に近く、W2>W1となる。ここで図29Aの配置をC1配置、図29Bの配置をC2配置、電極135A1と電極135A2が試料120の表面に対して略垂直な状態をC0配置と呼ぶ。C0配置では電極135A1から一次電子線B1までの距離と、電極135A2から一次電子線B1までの距離が等しい。
図30ではC1配置よりもC2配置の方が三次電子Eの検出電子数が多く、C0配置はC1配置とC2配置の中間であることが示される。なおC1配置とC2配置ではカバー138をそれぞれの方向に10度回転させた。実施例9で述べたように、三次電子Eは、負の電圧が印加される電極135A1に近づく軌道であって負の電圧による作用を受けやすい。そのため、負の電圧が印加される電極135A1と一次電子線B1との距離を短くし、低角反射電子Dが放出されるS点に電極135A1を近づけることで三次電子Eの検出電子数を増やすことができる。
実施例12によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また負の電圧が印加される電極135A1を、低角反射電子Dが放出されるS点に近づけることで三次電子Eの検出電子数が増えるので、より明るい反射電子像を得ることができる。
なお電極135A1と電極135A2とが取付けられる場所はカバー138に限定されず、例えば対物レンズ118に取り付けられても良い。対物レンズ118は電子顕微鏡において安定した位置に配置されるので、電極135A1と電極135A2とが対物レンズ118に取り付けられることにより、電極135A1と電極135A2の位置ずれに起因する第二検出器136の感度低下を抑制することができる。
実施例10乃至12において、電極135A1と電極135A2を非対称に配置することで三次電子Eの検出電子数を増加させることについて説明した。電極135A1と電極135A2を非対称に配置するのに先立って、電極135A1と電極135A2のそれぞれに電圧を印加したときの一次電子線B1の移動量を計測し、計測された移動量に基づいて電極135A1と電極135A2を配置しても良い。
実施例1では、補償電極135を電極135A1と電極135A2との2つの電極で構成することについて説明した。実施例13では、電極135A1と電極135A2に加えて3つ目の電極を配置することについて説明する。なお実施例13には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図31を用いて実施例13について説明する。なお図31は対物レンズ118や第二検出器136など斜め上から見た斜視図である。図31には、S点から全方位に放出される低角反射電子Dのうちの二つの軌道が示される。なお二つの軌道のうちの左側に放出された低角反射電子DがA点に衝突して放出される三次電子Eは第二検出器136に入射し、右側に放出された低角反射電子Dが試料120に衝突して放出される三次電子Hは対物レンズ118に衝突する。
補償電極135は、互いに平行な平板である電極135A1と電極135A2とともに、電極135A3によって構成される。電極135A3は、電極135A1や電極135A2よりも電子銃101に近い側に配置される。電極135A1と電極135A2には、互いに逆極性で絶対値の等しい電圧が印加され、電極135A3には負の電圧が印加される。電極135A1や電極135A2よりも電子銃101に近い側に配置される電極135A3に負の電圧が印加されることにより、第二検出器136よりも電子銃101側へ進もうとする三次電子Eは押し戻されて第二検出器136へ入射する。すなわち負の電圧が印加される電極135A3が形成する電界によって、第二検出器136に検出される三次電子Eが増える。
実施例13によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また負の電圧が印加される電極135A3を、電極135A1や電極135A2よりも電子銃101に近い側に配置することで三次電子Eの検出電子数が増えるので、より明るい反射電子像を得ることができる。
実施例12では、試料120の表面の垂線に対して傾けられるように、電極135A1と電極135A2が第二検出器136のカバー138に電気的に絶縁されながら取り付けられる場合について説明した。実施例14では、電極135A1と電極135A2のより具体的な取り付け方について説明する。なお実施例14には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
図32、図33を用いて実施例14について説明する。なお図32、図33は対物レンズ118や第二検出器136など斜め上から見た斜視図である。また実施例14の動作は実施例12と同じである。
図32では、電極135A1と電極135A2が位置調整部材201を介して第二検出器136のカバー138に取り付けられる。位置調整部材201は、カバー138に対する位置が調整可能であり、第一ネジ202が締め付けられることによって固定される。また電極135A1と電極135A2は、位置調整部材201に対する位置が調整可能であり、第二ネジ203が締め付けられることによって固定される。すなわち、位置調整部材201や第一ネジ202、第二ネジ203は、補償電極135の位置を調整する機構として機能する。なお位置調整部材201や電極135A1と電極135A2に微動機能が付加される場合には、外部からの制御によって電極135A1と電極135A2の位置を調整できる。
図32に例示されるように、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2が第二検出器136のカバー138に取り付けられると、第二検出器136と補償電極135が一体化され、検出器ユニットとして扱えるようになる。検出器ユニットとして扱えると、電子顕微鏡への脱着が容易になり、メンテナンスコストを低減できる。
図33では、電極135A1と電極135A2が位置調整部材201を介して対物レンズ118に固定される。位置調整部材201は、対物レンズ118に対する位置が調整可能であり、第一ネジ202が締め付けられることによって固定される。また電極135A1と電極135A2は、位置調整部材201に対する位置が調整可能であり、第二ネジ203が締め付けられることによって固定される。なお位置調整部材201や電極135A1と電極135A2に微動機能が付加される場合には、外部からの制御によって電極135A1と電極135A2の位置を調整できる。
図33に例示されるように、補償電極135を構成する電極135A1と電極135A2が、電子顕微鏡において安定した位置に配置される対物レンズ118に固定されると、補償電極135の位置ずれを低減できる。その結果、補償電極135の位置ずれに起因する第二検出器136の感度低下を抑制することができる。
図34A、図34Bを用いて、電極135A1や電極135A2に電圧を印加したときの一次電子線B1の移動量の計測について説明する。図34Aは、試料上の十字マークを、電極135A1と電極135A2に電圧を印加せずに観察したときの観察画像であり、十字マークが画面中央に位置調整されている。図34Bは、図34Aの観察画像が得られた試料位置において、電極135A1に-100Vが印加されたときの観察画像であり、十字マークが画面中央から右上に移動している。十字マークの移動は、電極135A1への電圧の印加によるものであり、十字マークの移動量は一次電子線B1の移動量に相当する。すなわち、制御装置150は、図34Aと図34Bに例示される観察画像を対比することにより、一次電子線B1の移動量である電子線移動量を計測する機構として機能する。
図35A、図35Bを用いて、計測された電子線移動量に基づいて電極135A1や電極135A2の位置を調整することについて説明する。図35Aには、電極135A1に-100V、-200V、-300Vを、電極135A2に+100V、+200V、+300Vをそれぞれ印加したときに計測された電子線移動量が示される。図35Aでは、電極135A2に電圧を印加したときよりも電極135A1に電圧を印加したときの方が、電子線移動量が大きいことが示される。したがって、電極135A1と電極135A2が一次電子線B1に対して非対称に配置されていることがわかる。一次電子線の移動方向や移動量は、補償電極135の位置と電圧に基づいて求められる。ここで、補償電極135の位置を、位置調整部材201や第一ネジ202、第二ネジ203を用いて調整する。
図35Bには、位置調整部材201や第一ネジ202、第二ネジ203を用いて補償電極135の位置が調整された後に計測された電子線移動量が示される。図35Bでは、電極135A1に電圧を印加したときと電極135A2に電圧を印加したときとでは、電子線移動量がほぼ等しいことが示される。したがって、電極135A1と電極135A2が一次電子線B1に対して対称に配置されていることがわかる。なお電極135A1と電極135A2は、一次電子線B1に対して対称に配置されるのに限定されず、電子線移動量を計測する機構と補償電極135の位置を調整する機構とを用いて、所望の位置に配置されても良い。
実施例14によれば、実施例1と同様に、試料に磁界を漏洩させる対物レンズを備える電子顕微鏡であっても、試料面に対して低角で放出される反射電子による走査電子顕微鏡像を取得可能な電子顕微鏡を提供することができる。また補償電極135の位置が適宜調整されるので、安定して明るい反射電子像が得ることができる。
以上、本発明の電子顕微鏡の複数の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。