JP7295420B2 - 塗装金属板 - Google Patents

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Description

本発明は、塗装金属板およびその製造方法に関する。
塗装金属板は、一般に、耐久性、耐候性および意匠性に優れ、例えば外装建材に好適に用いられている。外装建材用の塗装金属板の中でも、長期耐久性を要求される塗装金属板には、フッ素樹脂製の塗膜を有する塗装金属板が好適である。このようなフッ素樹脂系の塗装金属板として、ステンレス鋼板と、当該表面に配置されたポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との混合樹脂からなる透明塗膜と、を有するフッ素樹脂系塗装ステンレス鋼板が知られている(例えば、特許文献1)。当該フッ素樹脂系塗装ステンレス鋼板では、透明塗膜が特定の結晶化度および硬度を有する。また、別のフッ素樹脂系の塗装金属板として、フッ素樹脂、アクリル樹脂、無機焼成顔料、および有機顔料を含有するフッ素系着色層を鋼板の表面に有し、かつ特定のガラス転移温度のポリエステルによる塗膜を鋼板の裏面に有するフッ素樹脂系塗装鋼板も知られている(例えば、特許文献2参照)。
フッ素樹脂は、結晶化が経時的に進行することが知られている。すなわち、フッ素樹脂は、ガラス転移温度(例えばポリフッ化ビニリデンであれば-40℃程度)以上の温度域では分子が比較的運動しやすいという性質と、結晶性を有するという性質と、を有する。そのため、フッ素樹脂は、上記のガラス転移温度以上の温度域において、不規則な分子配列構造(非晶質構造)から規則的な分子配列構造(結晶構造)に変化しやすい。
そしてフッ素樹脂が結晶化すると、分子鎖同士の結合力が強固となる。フッ素樹脂系の塗膜は、フッ素樹脂の結晶化により経時的に延性が低下することがある。つまり、フッ素樹脂系の塗膜を有する塗装金属板は、フッ素樹脂系塗膜の延性が高い製造直後は成形加工時の塗膜の破断(塗膜割れ)が生じにくいが、製造後、長期間保管されてフッ素樹脂系塗膜の延性が低下した後で成形加工されると、塗膜が破断してしまうことがある。
フッ素樹脂塗膜の加工性改善方法として、製造直後の結晶化を抑制し、塗膜の経時的な加工性低下を防止する方法が提示されている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。また、フッ素樹脂塗膜の経時的な加工性低下を防止する方法として、フッ素樹脂にアクリル樹脂をグラフト重合する方法も提示されている(例えば、特許文献6参照)。
なお、フッ素樹脂塗膜は、フッ素樹脂の結晶型によって加工性に違いが生じるとされている、具体的には、フッ素樹脂のα型結晶はβ型結晶より加工性が低いため、α型結晶が塗膜中に生じることは好ましくないとされている(例えば、特許文献7、非特許文献1参照)。
特開2001-009367号公報 特開2008-087242号公報 特開昭61-114846号公報 特開平6-262139号公報 特開平8-131945号公報 特開平9-87575号公報 特開2000-70844号公報
川西勝次、「フッ素樹脂塗装鋼板の加工性に及ぼすポリフッ化ビニリデン(PVDF)の結晶構造の影響」、表面技術、1997年、48巻、第8号、p.811~814
近年、マグネシウムを添加した高耐食亜鉛系めっき鋼板が塗装用原板として使用されはじめている。これらの亜鉛系めっき鋼板が有するマグネシウムを添加した亜鉛系めっき層は、一般に硬質であるため、成形加工時のめっき層の割れ幅が大きくなりやすい。そして、成形加工時のめっき層の割れ幅が大きくなると、成形加工時のフッ素樹脂塗膜の割れも大きくなる傾向にある。そのため、特には長期保管後であってもフッ素樹脂塗膜の割れをより生じにくくして、加工性をより高めることが望まれている。なお、フッ素樹脂塗膜の割れは、フッ素樹脂塗膜が顔料粒子を含むときに生じやすいことが知られている。
一方で、従来の方法によってフッ素樹脂塗膜の割れを抑制しようすると、その表面の硬度が低くなりやすく、例えば製造過程において圧痕等が生じてしまうことがあった。
さらに近年、外装建材において、自動車の排気ガス、工場からの煤煙等に含まれるカーボン系汚染物質(以下、「疎水性カーボン」とも称する)の付着による汚れも問題となっている。このような汚れの中でも特に、雨筋に沿って付着する汚れ(以下、「雨筋汚れ」とも称する)が目立ちやすい。フッ素樹脂製の塗膜を有する塗装金属板でも、雨筋汚れが比較的短時間のうちに目立つようになることは避けられない。そのため、フッ素樹脂製の塗膜を有する塗装金属板においても、雨筋汚れを発生し難くすることが求められている。
そこで本発明は、顔料粒子を含むフッ素樹脂層を有する塗装金属板であって、長期保管後でも高い加工性を有するとともに、表面の硬度が高く、耐雨筋汚れ性を有する塗装金属板、およびその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、以下の塗装金属板を提供する。
金属板と、フッ素樹脂層と、を有する塗装金属板であって、前記フッ素樹脂層は、ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂と、アクリル樹脂と、顔料粒子と、シリコーンレジンの硬化物と、を含み、前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂は、広角X線回折における、非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するα型結晶(2θ=18.4°)の強度Icαの比で表されるα型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が2.5未満であり、かつ、前記α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が、前記非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するβ型結晶(2θ=20.5°)の強度Icβの比で表されるβ型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)よりも大きい、塗装金属板。
本発明は、以下の塗装金属板の製造方法も提供する。
金属板の表面に、ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂と、アクリル樹脂と、顔料粒子と、Si原子の総モル量に対して5~50モル%のシラノール基を含むシリコーンレジンと、を含む塗料を塗布する工程と、前記塗料を硬化させる工程と、前記硬化後の前記塗料にフレーム処理を行う工程と、を有する、塗装金属板の製造方法。
本発明によれば、顔料粒子を含むフッ素樹脂層を有する塗装金属板であって、長期保管後でも高い加工性を有するとともに、表面の硬度が高く、耐雨筋汚れ性を有する塗装金属板、およびその製造方法が提供される。
図1Aは、フッ素樹脂層を延伸したときに印加される応力の大きさを示す模式図であり、図1Bは、フッ素樹脂層の形成直後にフッ素樹脂層を延伸したときに、フッ素樹脂の延伸および空隙の成長により引張応力の集中が緩和される様子を示す模式図であり、図1Cは、フッ素樹脂層の形成から一定時間が経過した後に、フッ素樹脂が延伸しにくく、クラックが成長しやすくなる様子を示す模式図である。
1.塗装金属板
本発明の一実施形態に係る塗装金属板は、金属板と、フッ素樹脂層と、を有する。
1-1.金属板
上記金属板は、本発明の効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。上記金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛系めっき鋼板、Zn-Al系合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板および銅板が含まれる。
上記金属板は、耐食性および軽量化の観点から、めっき鋼板またはステンレス鋼板が好適であり、さらに対費用効果の観点から、めっき鋼板が好適である。また、上記金属板は、耐食性をより高める観点等から、溶融55%Al-Zn系合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板が好適である。これらのうち、亜鉛系めっき鋼板が好ましく、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板等のマグネシウムを含む亜鉛系めっき鋼板がより好ましい。
上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途等に基づいて適宜に決めることができる。例えば、上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途が外装建材である場合には、0.2~3.0mmが好ましく、加工性をより高める観点から、0.25~2.0mmが好ましい。
1-2.フッ素樹脂層
上記フッ素樹脂層は、上記金属板の表面に接して、または他の層を介して、配置された樹脂層であり、後述の塗装金属板の製造方法で詳しく説明するように、フレーム処理された層である。
上記フッ素樹脂層は、フッ素樹脂およびアクリル樹脂を含有し、上記フッ素樹脂層の膜構造を構成する基材樹脂と、上記基材樹脂中に分散されている顔料粒子と、当該基材樹脂の表面で膜構造を構成するシリコーンレジンの硬化物と、を含有する。シリコーンレジンの硬化物で構成される膜構造は非常に薄く、フッ素樹脂やアクリル樹脂を含む部分との切り分けが困難であるため、以下の説明では、フッ素樹脂層における顔料粒子以外の部分を基材樹脂、として説明する。なお、上記フッ素樹脂層は、塗装金属板の耐候性をより高める観点から、上記塗装金属板の最表面を構成する層であることが好ましい。
上記フッ素樹脂層の厚さは、50μm以下が好ましい。フッ素樹脂層の厚さは、フッ素樹脂層の複数個所(例えば、任意に選ばれる10箇所)における底面から表面までの距離の平均値で表すことができる。上記厚さが50μm以下であると、フッ素樹脂層を作製する際の塗料の塗布量を多くする必要がなくなり、上記塗料の膜を加熱し、硬化させる際に、ワキ(泡状のフクレや穴)等の塗装欠陥が発生しにくくなる。
なお、上記フッ素樹脂層の厚さは、顔料粒子の含有量、色調および紫外線遮蔽度、ならびに塗装金属板の成形加工時における加工度等を含む諸要因に基づいて適宜に決めることが可能である。
例えば、フッ素樹脂層中の顔料粒子の含有量が高いとき、着色顔料である顔料粒子の色調明度(JISに定めるL値)が低いとき、および、顔料粒子の紫外線遮蔽度が高いとき等は、顔料粒子によるフッ素樹脂層の発色性(その下地の色に対する色隠蔽性)およびその下地への紫外線遮蔽率が高くなる。そのため、これらの場合には、フッ素樹脂層の厚さは、より小さくすることが可能である。また、上記加工度が低い場合等、フッ素樹脂層に求められる延性が低くなるため、フッ素樹脂層の厚さを小さくすることが可能である。
一方で、例えば、フッ素樹脂層とその下地との長期密着性を維持する(界面破断を長期間抑制する)観点からは、フッ素樹脂層の紫外線透過率を低くすることが好ましく、そのためにはフッ素樹脂層の厚さを大きくすることが好ましい。また、一般に、塗膜に引張応力がかかる際、伸び変位が同一であっても、膜厚が小さいほど伸び変形歪が高くなる。そのため、伸び変形歪を低くする観点からも、フッ素樹脂層の厚さは、大きいことが好ましい。
このように、フッ素樹脂層の厚さの下限値は、一概には言えないが、例えば、上記加工度が4T曲げ加工度相当であって、着色顔料である顔料粒子(例えば酸化チタン粒子)のL値が80超であれば、フッ素樹脂層の厚さは、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。また、上記の加工度で、かつ着色顔料である顔料粒子(例えば鉄-クロム系焼成顔料粒子)のL値が70以下であれば、フッ素樹脂層の厚さは、15μm以上が好ましく、18μm以上がより好ましい。
1-2-1.フッ素樹脂
本明細書において、フッ素樹脂とは、ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂をいう。当該フッ素樹脂は、基材樹脂の主成分となり、フッ素樹脂層に耐久性、耐薬品性、耐熱性、耐摩耗性、耐候性、耐食性および耐汚染性等を付与する。
上記フッ素樹脂層は、フッ素樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。フッ素樹脂の具体例には、1,1-ジフルオロエチレンの単独重合体であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、および1,1-ジフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体等が含まれる。これらのうち、特に加工性が高いことから、フッ素樹脂は、1,1-ジフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体がより好ましく、上記共重合体の含有量は、フッ素樹脂の全質量に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
フッ素樹脂の含有量は、本発明の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、例えば基材樹脂の全質量に対して49質量%以上84質量%以下が好ましく、69質量%以上84質量%以下がより好ましい。
上記フッ素樹脂は、少なくとも部分的に結晶化している。フッ素樹脂の結晶構造としては、α型結晶およびβ型結晶が知られている。上記フッ素樹脂は、これらのうち、α型結晶の割合(結晶化度)がβ型結晶の割合(結晶化度)より多いことを一つの特徴とする。
具体的には、上記フッ素樹脂は、広角X線回折における非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するα型結晶(2θ=18.4°)の強度Icαの比で表されるα型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が、広角X線回折における非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するβ型結晶の強度Icβの比で表されるβ型結晶(2θ=20.5°)の結晶化度(Icβ/Ia)よりも大きい。
一方で、加工性の低下を抑制する観点から、上記α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)は、2.5未満とする。
より具体的には、上記α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)は、1.2以上2.0以下であると加工性が高まるため好ましく、1.4以上2.0以下であると加工性がより高まるためより好ましい。また、上記β型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)は、1.5未満が好ましく、1.2未満であると加工性が高まるためより好ましく、0.8未満であると加工性がより高まるためさらに好ましい。
なお、上記β型結晶の結晶化度は、フッ素樹脂の結晶化により、フッ素樹脂層の形成から時間が経過していくにつれて高まっていくことがある。このような場合でも、塗装金属板における上記β型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)は、1.5未満が好ましい。なお、本発明の塗装金属板では、おそらくはα型結晶がβ型結晶の成長を阻害するため、経時変化が生じても、上記β型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)は1.2未満となることがある。なお、上記β型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)の下限値は、0である。
フッ素樹脂が上記特徴を有する塗装金属板は、フッ素樹脂層が顔料粒子を含有しているにもかかわらず十分な延性を有し、そのため、十分な加工性を有する。本発明者らが想定している、その理由について、フッ素樹脂層を延伸したときに空隙が生じる様子を模式的に示す図1A、図1Bおよび図1Cを参照しながら、以下に説明する。なお、図1A、図1Bおよび図1Cはいずれも、顔料粒子120が分散している基材樹脂110に、図中上下方向に引張応力を印加したときに、基材樹脂110中に応力が印加される様子を示している(それぞれの位置における応力の大きさを矢印の長さで示す)。
本発明者らの知見によると、顔料粒子を含有する一般的なフッ素樹脂層を有する塗装金属板を、フッ素樹脂層の形成直後に延伸すると、フッ素樹脂層には、顔料粒子を起点として生じた空隙が引張方向に成長するのが確認される。一方で、顔料粒子を含有するフッ素樹脂層を有する塗装金属板を、フッ素樹脂層の形成から一定時間が経過した後に延伸すると、フッ素樹脂層には、顔料粒子を起点として生じた空隙が引張方向とは直交する方向に成長するのが確認される。
これは、フッ素樹脂層を延伸した時に基材樹脂110に印加される応力が、顔料粒子120の縁部に沿った領域においてより大きく印加されるためであると考えられる。具体的には、基材樹脂110中に、顔料粒子120等に起因する樹脂孔が存在するとき、樹脂孔に対して延伸方向と直交する方向側の、樹脂孔の縁部に沿った領域では、その他の領域よりも3倍近くの応力が基材樹脂110に印加される(図1A参照)。
また、一般に、塗装金属板が成形加工される際、塗装金属板が有する塗膜には引張応力がはたらき、当該塗膜は伸縮方向に延伸する。この延伸は、最初にとある箇所にくびれ、変形、伸張をもたらし、このように変形した領域(くびれ変形部)は、引張方向に拡大(伝播)していく。
当該くびれ変形部では、塗膜を構成するフッ素樹脂の、くびれ変形前はランダムに向いていた分子鎖が、引張応力により引張方向に配向する。このため、上記くびれ変形部において、ある程度の引張応力がかかると、それ以上引張応力がかかっても、既に配向した分子鎖は、それ以上は容易には伸びにくい。そのため、上記くびれ変形部の周囲にある「まだくびれ変形していない部位(配向していない分子鎖)」がくびれ変形する。
このような分子鎖の配向の伝播が、樹脂製の塗膜の伸び変形である。言い換えれば、樹脂製の塗膜の高い延性は、分子鎖が破断することなく、分子鎖の上記の配向の伝播が塗膜全体に進行することに起因する。なお、分子鎖の配向に必要な応力は、非晶質の樹脂よりも結晶化している樹脂の方が高い。これは、規則的に折りたたまれている結晶分子鎖同士の結合力が高いためである。
ここで、フッ素樹脂層の形成直後は、分子鎖がより配向してくびれ変形しやすいため、フッ素樹脂層も幅変形しやすい。このとき、顔料粒子120の周囲では、フッ素樹脂が延伸できない引張方向には空隙130が発生し、当該空隙130が引っ張り方向に成長していく(図1B参照)。フッ素樹脂層の形成直後は、このフッ素樹脂の延伸および空隙130の成長により、引張応力の集中が緩和されると考えられる。
一方で、フッ素樹脂層の形成から一定時間が経過すると、フッ素樹脂の結晶化が進行するため分子鎖が配向しにくく、くびれ変形も生じにくい。そのため、大きい応力が印加される、顔料粒子120(樹脂孔)に対して延伸方向と直交する方向側の、顔料粒子120の縁部に沿った領域では、顔料粒子120を起点として、延伸方向と直交する方向にクラック140が生じてしまう(図1C参照)。このように生じたクラック140も樹脂孔の一種であり、当該樹脂孔に対して延伸方向と直交する方向側の、樹脂孔の縁部に沿った領域でも、より大きい応力が基材樹脂110に印加される。また、このように引張方向とは直交する方向に形成された空隙は、引張応力を緩和しにくい。そのため、引張応力が印加されるにつれ、クラック140は、延伸方向と直交する方向に成長していく。このようにして、フッ素樹脂層の形成から一定時間が経過した後のフッ素樹脂層は、延伸時に、顔料粒子120を起点として生じた空隙が引張方向とは直交する方向に成長していき、やがてフッ素樹脂層の破断に至ることにより、延性が低下して加工性が低下すると考えられる。
さらには、基材樹脂がフッ素樹脂に加えてアクリル樹脂を含有するとき、フッ素樹脂のβ型結晶はアクリル樹脂とともに相分離して微細構造を生成すると考えられる。このような微細な相分離構造は、分子鎖の配向を阻害するため、くびれ変形をより生じにくくして、そのために形成から一定時間が経過したフッ素樹脂層の延性をますます低下させるものと考えられる。
一方で、フッ素樹脂のα型結晶は、β型結晶とは異なり、上記微細な相分離構造を生成しにくい。そのため、α型結晶をより多く含有し、β型結晶をより少なく含有するフッ素樹脂層は、くびれ変形による幅変形が生じやすく、また、延伸方向と直交する方向へのクラックが生じにくい。これにより、延伸によりフッ素樹脂層に印加される引張応力は緩和されやすくなり、フッ素樹脂層の延性も高まるものと考えられる。
ただし、結晶化の進行により加工性をより低下させやすいα型結晶が多くなりすぎると、フッ素樹脂層の経時変化後の延性がかえって低下することがあるため、α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)は、2.5未満とする。
1-2-2.アクリル樹脂
上記アクリル樹脂は、上記フッ素樹脂の過剰な結晶化を抑制する観点、顔料粒子の分散性を高める観点、および、フッ素樹脂層の他の層(例えば金属板等)に対する密着性を高める観点、等により、フッ素樹脂層(基材樹脂)に含まれる。
フッ素樹脂層は、アクリル樹脂を、一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。アクリル樹脂の例には、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等のアクリル系モノマーのポリマー、または当該アクリル系モノマーを含むモノマーのコポリマーが含まれる。
上記基材樹脂における上記アクリル素樹脂の含有量は、本発明の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、例えば基材樹脂の全質量に対して14質量%以上49質量%以下が好ましく、14質量%以上29質量%以下がより好ましい。また、上記基材樹脂における、フッ素樹脂(FR)とアクリル樹脂(AR)との質量比(FR:AR)は、50:50~85:15が好ましい。アクリル樹脂の含有量が上記範囲であると、耐候性、耐食性および耐汚染性等のフッ素樹脂の特性が十分に発揮させ、一方で、フッ素樹脂層の密着性を顕著には低下させないため塗装金属板の十分な加工性を維持することができる。
上述したくびれ変形を生じやすくする観点からは、上記アクリル樹脂はより軟質が好ましく、このような観点からは、上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、45℃以下が好ましい。Tgが45℃以下であるアクリル樹脂は、塗装金属板の保管中等に硬化しにくいため、長期保管後における塗装金属板の加工性の低下を抑制できる。上記観点からは、アクリル樹脂のTgは43℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。アクリル樹脂のTgは、モノマー組成からFOXの式で計算した値、または示差熱分析(DTA)によって測定された値とすることができる。
また、上記アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上200,000以下が好ましく、10,000以上150,000以下がより好ましい。
また、上記アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、(メタ)アクリル酸と炭素数1以上6以下のアルコールとのエステル化合物と、の共重合体;メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリロニトリルとの共重合体;またはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体;のうちのいずれか一種、または二種以上の共重合体を含むことが好ましい。
上記共重合体がメタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、(メタ)アクリル酸と炭素数1以上6以下のアルコールとのエステル化合物と、の共重合体である場合、メタクリル酸メチルにより適度な硬度を付与され、アクリル酸エチルにより適度に軟化される。また、当該共重合体は、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸エチルがフッ素樹脂との相溶性を高める一方で、上記エステル化合物がフッ素樹脂との相溶性を適度に低下させることにより、あらかじめ微細なα型結晶を形成させる。これにより、β型結晶とアクリル樹脂の微細な相分離構造の形成を防ぐとともに、アクリル樹脂による密着性の向上等を維持できるため、加工性をより高めると考えられる。
このような特性を十分に発揮させる観点から、当該共重合体は、メタクリル酸メチルに由来する構造の割合が10質量%以上50質量%以下であり、アクリル酸エチルに由来する構造の割合が40質量%以上80質量%以下であり、上記エステル化合物に由来する構造の割合は、10質量%以上50質量%以下が好ましい。さらには、上記共重合体は、β型結晶の成長を抑制する観点から、メタクリル酸メチルに由来する構造の割合が10質量%以上30質量%以下であり、アクリル酸エチルに由来する構造の割合が60質量%以上80質量%以下であり、上記エステル化合物に由来する構造の割合は、10質量%以上30質量%以下が好ましい。
また、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリロニトリルとの共重合体、またはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体においても、同様の効果が期待される。
メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリロニトリルとの共重合体では、メタクリル酸メチルに由来する構造の割合が20質量%以上60質量%以下、アクリル酸エチルに由来する構造の割合が30質量%以上70質量%以下、アクリロニトリルに由来する構造の割合は5質量%以上20質量%以下が好ましい。さらにメタクリル酸メチルに由来する構造の割合が40質量%以上55質量%以下、アクリル酸エチルに由来する構造の割合が30質量%以上50質量%以下、アクリロニトリルに由来する構造の割合は5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体においては、メタクリル酸メチル由来の構造の割合が20質量%以上70質量%以下、アクリル酸ブチル由来の構造の割合は30質量%以上80質量%以下が好ましい。さらに、メタクリル酸メチル由来の構造の割合が30質量%以上60質量%以下、アクリル酸ブチル由来の構造の割合は40質量%以上70質量%以下がより好ましい。
1-2-3.顔料粒子
上記フッ素樹脂層は、上記基材樹脂中に分散している顔料粒子を含む。
上記顔料粒子は、着色顔料粒子でもよいし、光沢調整剤粒子でもよいし、体質顔料粒子でもよい。フッ素樹脂層は、顔料粒子を一種のみ含んでもよく、二種以上含んでいてもよい。
上記着色顔料粒子は、塗料用の着色顔料として一般に入手できる有機系着色顔料および無機系着色顔料の粒子のいずれであってもよい。着色顔料粒子は、非透明であり、フッ素樹脂層に色調を与えて着色塗膜とする。
上記無機系着色顔料の例には、酸化チタン、酸化クロム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、およびモリブデン赤等が含まれる。
上記有機系着色顔料の例には、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、およびアニリンブラック等が含まれる。
上記着色顔料粒子は、金属成分を含む複合酸化物焼成顔料の粒子であってもよい。上記焼成顔料の例には、CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、FeZn、CoCr、MnCo、およびSnZnTi等が含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、メタリック顔料の粒子であってもよい。上記メタリック顔料粒子の例には、Alフレーク、樹脂被覆Alフレーク、金属酸化物被覆Alフレーク、Niフレーク、Cuフレーク、およびステンレス鋼フレーク等が含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、パール顔料の粒子であってもよい。上記パール顔料粒子の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、および酸化チタン-酸化鉄被覆雲母等が含まれる。
上記着色顔料粒子の個数平均粒径は、本発明の効果が得られる範囲において適宜に決めることができるが、通常は3μm以下であり、0.01μm以上1.5μm以下が好ましい。着色顔料粒子の粒径がより小さいと、フッ素樹脂層における着色顔料粒子の含有量をより多くすることができる。このような観点からは、着色顔料粒子の個数平均粒径は、2.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。例えば、上記個数平均粒径が2.0μm以下であれば、通常、フッ素樹脂層に着色顔料粒子を5体積%まで含有させることが可能となり、上記個数平均粒径が0.5μm以下であれば、フッ素樹脂層に着色顔料粒子を20体積%まで含有させることが可能となる。
上記光沢調整剤粒子は、フッ素樹脂層に所望の光沢を付与する目的、または、フッ素樹脂層の上面に凹凸を形成する目的、のために用いることができる。フッ素樹脂層は、光沢調整剤粒子を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。上記光沢調整剤粒子の材料の例には、シリカおよび炭酸カルシウム等を含む無機材料;アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾクアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびフッ素樹脂等の樹脂材料;等が含まれる。フッ素樹脂層に含有される上記光沢調整剤粒子の個数平均粒径は、3μm以下が好ましい。市販の光沢調整剤粒子の平均粒径は、通常3μm超であるので、市販の光沢調整剤粒子を用いる場合には、分級によって粒径3μm以下の粒子を分取して用いること、または、含有量を1体積%以下とすることが好ましい。
上記フッ素樹脂層における上記光沢調整剤粒子の含有量は、例えば、上記光沢調整剤粒子の粒径によって異なるが、光沢調整剤粒子をフッ素樹脂層中に配合することによる所期の意匠性の発現の観点から、0.2体積%以上1.0体積%以下が好ましい。
一方で、フッ素樹脂層における光沢の調整の観点から、フッ素樹脂層中の光沢調整剤粒子の粒径は、例えば、個数平均粒径が3μm超であってもよい。このような大きい粒径の光沢調整剤粒子を用いるとき、その含有量は、0.2体積%以上が好ましい。なお、上記含有量は、上述したように、保管後の加工性の観点から1.0体積%以下が好ましい。
上記体質顔料粒子は、フッ素樹脂層の硬度の調整や塗料のコストダウン(カサ増し効果)等の観点から、フッ素樹脂層に含有される顔料であり、一般に、フッ素樹脂層の色調には影響しない。体質顔料粒子は、通常、フッ素樹脂に比べて安価であることから、本発明の効果が得られる範囲において、フッ素樹脂層は体質顔料粒子を含有することが好ましい。また、体質顔料粒子は、その可視光の透過率が高いことが好ましい。体質顔料粒子は、一種でもそれ以上でもよい。体質顔料粒子の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウム等の粒子が含まれる。例えば、上記体質顔料粒子の個数平均粒径は、0.01μm以上1μm以下が好ましい。また、フッ素樹脂層における体質顔料粒子の含有量は、0.1体積%以上10体積%以下が好ましい。
1-2-4.シリコーンレジンの硬化物
上記フッ素樹脂層は、シリコーンレジンの硬化物を含有する。シリコーンレジンの硬化物は、一種のシリコーンレジンの硬化物であってもよく、二種以上のシリコーンレジンの硬化物であってもよい。当該シリコーンレジンの硬化物は、フッ素樹脂層を形成する際にシリコーンレジンを硬化させることで得られる。
本明細書において、本明細書においてシリコーンレジンとは、アルコキシシランが部分加水分解縮合した化合物であって、三次元状の架橋型構造を主体とするが、ゲル化までには至らず、有機溶剤に可溶なポリマーとする。シリコーンレジンが含む三次元状の架橋型構造は特に制限されず、例えば、カゴ状、梯子状、またはランダム状のいずれであってもよい。なお、本明細書において、テトラアルコキシシラン、およびテトラアルコキシシランのみを加水分解縮合させた縮合物(オルガノシリケート)は、シリコーンレジンに含まないものとする。
シリコーンレジンは、三次元状の架橋型構造を含むため、フッ素樹脂層を形成する際に、膜の表面側に移行しやすく、さらには、当該膜の表面に沿って均一に並びやすい。そして、このような状態で硬化させた後、フレーム処理を行うと、シリコーンレジンが含む有機基(例えば、メチル基やフェニル基等)がムラなく除去されて、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合が導入される。その結果、塗装金属板の表面の親水性が均一に高くなり、耐雨筋汚れ性が非常に良好となる。さらに、シリコーンレジンの硬化物が表面に配向することで、フッ素樹脂層の硬度が高まる。
シリコーンレジンの分子鎖には、通常、下記一般式で表される、トリアルコキシシラン由来のT-1単位~T-3単位(これらを総称して「T単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上が含まれる。
Figure 0007295420000001
上記一般式において、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、Xは水素原子、または炭化水素基を表す。シリコーンレジンには、上記RやXの種類が異なる複数種類のT単位が含まれていてもよい。
は炭素数1~12の炭化水素基が好ましく、その具体例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびフェニル基である。
一方、Xは水素原子または炭素数1~8の炭化水素基が好ましく、当該炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびエチル基である。
また、シリコーンレジンの分子鎖には、下記一般式で表される、ジアルコキシシラン由来のD-1単位およびD-2単位(これらを総称して「D単位」とも称する)のいずれか一方または両方が含まれていてもよい。
Figure 0007295420000002
上記一般式において、RおよびRはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、Xは、水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンには、上記RやR、Xの種類が異なる複数種類のD単位が含まれていてもよい。
およびRはそれぞれ、炭素数1~12の炭化水素基が好ましく、その具体例には、上述のT単位のRと同様の基が含まれる。一方、Xは水素原子または炭素数1~8の炭化水素基が好ましく、その具体例には、上述のT単位のXと同様の基が含まれる。
さらに、シリコーンレジンの分子鎖には、下記一般式で表されるテトラアルコキシシラン由来のQ-1単位~Q-4単位(これらを総称して「Q単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上が含まれていてもよい。
Figure 0007295420000003
上記一般式において、Xは水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンには、上記Xの種類が異なる複数種類のQ単位が含まれていてもよい。
は水素原子または炭素数1~8の炭化水素基が好ましく、その具体例には、上述のT単位のXと同様の基が含まれる。
シリコーンレジンは、上記T単位、D単位、および/またはQ単位が三次元的に結合した構造を有する。前述のように、本発明の塗料に含まれるシリコーンレジン中のシラノール基の量(モル数)は、Si原子の総モル量に対して、5~50モル%であり、15~40モル%がより好ましい。シラノール基の量がSi原子の総モル量に対して50モル%を超えると、シリコーンレジンの反応性が高過ぎて、均一な硬化物が得られないことがある。一方、シラノール基の量がSi原子の総モル量に対して5モル%未満であると、シリコーンレジンの硬化物とフッ素樹脂層中の他の成分(例えば、アクリル樹脂等)とが水素結合し難くなり、フッ素樹脂層からシリコーンレジンの硬化物が脱離しやすくなる。
また、シリコーンレジン中のシラノール基量が上記範囲であると、フッ素樹脂層を形成する際に、シリコーンレジンが蒸発し難く、十分にフッ素樹脂層表面に配向することができ、さらにはその加熱装置を汚染し難くなる。
シリコーンレジンが含むSi原子のモル数、およびシリコーンレジンが含むシラノール基の量は、29Si-NMRによる分析、およびH-NMRによる分析により特定することができる。また、シリコーンレジンにおけるシラノール基の量は、T単位、D単位、およびQ単位の仕込み比や、縮合反応の程度によって調整することができる。例えば、トリアルコキシシランを用いてシリコーンレジンを調製する場合、縮合反応時間を長くすること等で、T-3単位が多くなり、シラノール基の量が少なくなる。
また、シリコーンレジンは、シリコーンレジンが含むSi原子の総モル量に対して、トリアルコキシシラン由来のSi原子、すなわちT単位を構成するSi原子を50~100モル%含むことが好ましく、60~100モル%含むことがより好ましい。T単位量が50モル%未満である(特にD単位量が50モル%より多くなる)と、シリコーンレジンがミセル構造を形成しやすくなり、塗膜表面にシリコーンレジンが海島状に濃化しやすくなる。その結果、フレーム処理を行ってもフッ素樹脂層表面の親水性を均一に高めることが難しくなり、フッ素樹脂層の耐雨筋汚れ性にムラが生じやすくなる。なお、シリコーンレジンが塗膜表面で海島状に濃化していることは、フレーム処理後のフッ素樹脂層表面をAFM(原子間力顕微鏡)で分析することで確認することが可能である。例えば、フレーム処理によるエッチング深度はフッ素樹脂層表面の海部分と島部分で異なる。そこで、フッ素樹脂層表面の凹凸によって、シリコーンレジンの海島分布を確認することが可能である。
これに対し、T単位量が50モル%以上であると、シリコーンレジンがミセル構造を形成し難くなり、フッ素樹脂層表面にシリコーンレジンが均一に濃化しやすくなる。その結果、フッ素樹脂層の耐雨筋汚れ性が良好になる。T単位を構成するSi原子の量は、29Si-NMRによる分析によって特定することができる。
また、シリコーンレジンのSi原子に直接結合するアルキル基のモル数に対する、シリコーンレジンのSi原子に直接結合するアリール基のモル数、すなわちアリール基/アルキル基の割合は20~80%が好ましく、30~70%がより好ましい。アリール基のモル比が多いほど、フッ素樹脂層中の他の成分との親和性が高まる。ただし、アリール基の割合が過剰になると、硬化時の反応速度が大幅に低下して、十分な架橋密度が得られ難くなることがある。上記アルキル基とアリール基との比は、H-NMRによる分析によって特定することができる。
ここで、硬化前のシリコーンレジンの重量平均分子量は好ましくは700~50000であり、より好ましくは1000~10000である。シリコーンレジンの重量平均分子量が700未満になると、フッ素樹脂層形成時にシリコーンレジンが蒸発しやすくなり、加熱装置を汚染したり、フッ素樹脂層表面のシリコーンレジン量が少なくなる。一方、重量平均分子量が50000を超えると、フッ素樹脂層を形成し難くなる。なお、上記シリコーンレジンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算量である。
シリコーンレジンの硬化物は、フッ素樹脂層の例えば基材樹脂の全質量に対して1~10質量部含まれることが好ましく、2~6質量部含まれることがより好ましい。フッ素樹脂層の基材樹脂にシリコーンレジンの硬化物が当該範囲含まれることで、フッ素樹脂層の表面硬度が高まりやすく、さらに耐雨筋汚れ性も良好になる。
なお、上述のシリコーンレジンは、トリアルコキシシラン等を加水分解重合させて調製することができる。具体的には、トリアルコキシシラン等のアルコキシシランやその部分縮合物を水やアルコール等の溶剤に分散させる。そして、当該分散液のpHを好ましくは1~7、より好ましくは2~6に調整し、アルコキシシラン等を加水分解させる。その後、加水分解物どうし脱水縮合させることで、シリコーンレジンが得られる。脱水縮合時間等によって、得られるシリコーンレジンの分子量等を調整することができる。加水分解物の縮合は、上記加水分解と連続して行うことが可能であり、加水分解により生成したアルコールや、水を留去することで、縮合反応を促進させることができる。
なお、シリコーンレジンの調製に用いるアルコキシシランは、所望のシリコーンレジンの構造に応じて適宜選択される。トリアルコキシシラン化合物の例には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリシラノール、フェニルトリシラノール等が含まれる。
ジアルコキシシランの例には、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が含まれる。
さらに、テトラアルコキシシランの例には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が含まれる。
シリコーンレジン調製の際には、上記トリアルコキシシランやジアルコキシシラン、テトラメトキシシランの部分縮合物を原料として用いてもよい。
1-3.その他の層
上記塗装金属板は、本発明の効果が得られる範囲において、上記フッ素樹脂層以外の他の層をさらに有していてもよい。当該他の層の例には、化成処理層、下塗り層および中塗り層が含まれる。上記塗装金属板は、金属板と、化成処理層と、下塗り層と、前記フッ素樹脂層と、がこの順に積層されていることが好ましく、金属板と、化成処理層と、下塗り層と、中塗り層と、前記フッ素樹脂層と、がこの順に積層されていることがより好ましい。
1-3-1.化成処理層
上記化成処理層は、塗装金属板の密着性および耐食性を向上させる目的で、上記金属板上に直接、すなわち金属板とフッ素樹脂層との間に配置される。化成処理層は、金属板の表面に接して形成された層であり、塗装前処理によって金属板の表面に付着した組成物で構成される。化成処理層の例には、非クロメート系皮膜およびクロメート系皮膜が含まれる。いずれも、防錆処理による皮膜である。
上記非クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点および塗装金属板の製造および使用における環境への負荷を軽減する観点から好ましく、上記クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点から好ましい。
上記非クロメート系皮膜の例には、Ti-Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜、樹脂系皮膜、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜、シリカ系皮膜、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜、ジルコニウム系皮膜、ならびに、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜等が含まれる。
上記非クロメート系皮膜の付着量は、その種類に応じて適宜に決めることができる。例えば、上記Ti-Mo複合皮膜の付着量は、全TiおよびMo換算で10mg/m以上500mg/m以下が好ましい。上記フルオロアシッド系皮膜の付着量は、フッ素換算または総金属元素換算で3mg/m以上100mg/m以下が好ましく、上記リン酸塩皮膜の付着量は、リン元素換算で0.1mg/m以上5g/m以下が好ましい。上記樹脂系皮膜の付着量は、樹脂換算で1mg/m以上500mg/m以下が好ましく、上記樹脂およびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m以上50mg/m以下が好ましい。上記シリカ系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m以上200mg/m以下が好ましく、上記シリカおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m以上200mg/m以下が好ましい。上記ジルコニウム系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1mg/m以上100mg/m以下が好ましく、上記ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1mg/m以上100mg/m以下が好ましい。
上記クロメート系皮膜の例には、塗布型クロメート処理皮膜、およびリン酸-クロム酸系処理クロメート防錆処理皮膜等が含まれる。これらのクロメート系皮膜の付着量は、いずれも、クロム元素換算で20g/m以上80g/m以下が好ましい。
1-3-2.下塗り層
上記下塗り層は、塗装金属板におけるフッ素樹脂層の密着性および耐食性を高める観点から、上記金属板と前記フッ素樹脂層の間に配置される。上記下塗り層は、金属板の表面、あるいは上記化成処理層が作製されている場合は、当該化成処理層の表面、に形成される。
上記下塗り層は、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、変性シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂等が含まれる。
上記下塗り層は、防錆顔料粒子、着色顔料粒子、メタリック顔料粒子、パール顔料粒子、体質顔料粒子、および光沢調整剤粒子等の添加剤をさらに含有していてもよい。上記防錆顔料粒子の例には、変性シリカ、バナジン酸塩、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、およびポリリン酸アルミニウム等を含む非クロム系の防錆顔料の粒子、ならびに、クロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウム等を含むクロム系防錆顔料の粒子等が含まれる。
上記着色顔料粒子の例には、酸化チタン、酸化クロム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラック、CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、FeZn、CoCr、MnCo、およびSnZnTi等の粒子が含まれる。
上記メタリック顔料粒子の例には、Alフレーク、樹脂被覆Alフレーク、金属酸化物被覆Alフレーク、Niフレーク、Cuフレーク、およびステンレス鋼フレーク等が含まれる。上記パール顔料粒子の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、および酸化チタン-酸化鉄被覆雲母等が含まれる。上記体質顔料粒子の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウム等の粒子が含まれる。上記光沢調整剤粒子の例には、シリカおよび炭酸カルシウム等の無機材料、ならびに、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾクアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびフッ素樹脂等の樹脂材料等が含まれる。
上記添加剤の下塗り層中における含有量は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることが可能である。例えば、フッ素樹脂層にパール顔料を含有させ、フッ素樹脂層と金属板の間に、明度の低い下塗り層を設けることで、パール顔料独特の色調および光輝感を付与することができる。また、例えば、下塗り層中に粒径数十μm程度の大粒径顔料粒子を添加することで、下塗り層とフッ素樹脂層との界面に凹凸を形成させて、フッ素樹脂層の密着性をさらに高めることができ、また、塗装金属板表面における凹凸の形成または発達により低光沢性をさらに高めることができる。また、例えば、上記下塗り層における上記防錆顔料の含有量は、10体積%以上70体積%以下が好ましい。
1-3-3.中塗り層
上記中塗り層は、塗装金属板における層間の密着性および耐食性を高める観点から、上記下塗り層と上記フッ素樹脂層との間に配置される。
上記中塗り層も、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、変性シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂が含まれる。上記中塗り層も、上記下塗り層と同様に、本発明の効果が得られる範囲において、上記添加剤を適宜にさらに含有していてもよい。当該添加剤は、例えば、フッ素樹脂層で説明したものと同じものを使用可能である。
なお、上記他の層を配置する場合には、フッ素樹脂層の厚さは、上記他の層の存在を考慮して決めることが可能である。例えば、塗装金属板が下塗り層およびフッ素樹脂層を有する場合には、フッ素樹脂層の厚さは、意匠性、耐食性および経時加工性を高める観点から、10μm以上35μm以下が好ましい。
2.塗装金属板の製造方法
上記塗装金属板の製造方法は、上記金属板上に上記フッ素樹脂層用の塗料(フッ素樹脂塗料)の膜を形成する工程と、当該塗料を硬化させる工程と、硬化後の塗料にフレーム処理を行う工程と、を含む。なお、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよい。
2-1.塗膜形成工程
塗料の調製およびその塗布は、公知の方法に基づいて行うことができる。塗料は、上述のフッ素樹脂と、上述のアクリル樹脂と、上述の顔料粒子と、上述のSi原子の総モル量に対して5~50モル%のシラノール基を含むシリコーンレジンと、を含む。また、必要に応じて溶剤や各種添加剤を含んでいてもよい。
塗料が含む溶剤の例には、トルエン、キシレン等の炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;セロソルブ等のエーテル;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン;が含まれる。また、添加剤の例には、各種硬化剤、硬化触媒が含まれる。
塗料が含む硬化剤の例には、塗料の硬化(焼付け)時に、上記基材樹脂同士(特にフッ素樹脂およびアクリル樹脂)を架橋させる化合物が含まれる。当該硬化剤は、基材樹脂の種類や焼付け条件等に応じて、既知の架橋剤や硬化剤等から適宜に選択することができる。このような硬化剤の例には、メラミン化合物、イソシアネート化合物およびその両方、が含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。イソシアネート化合物は、芳香族、脂肪族、脂環族のいずれでもよく、例としては、m-キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのブロック化合物が含まれる。
また、塗料は基材樹脂同士(特にフッ素樹脂およびアクリル樹脂)を架橋させるための硬化触媒を含んでいてもよく、触媒作用を有する公知の成分から適宜選択できる。
一方、塗料は、上記シリコーンレジンを硬化させるための硬化触媒をさらに含んでいてもよい。シリコーンレジン硬化用触媒はシリコーンレジンを主に架橋させる触媒として機能するものであればよく、その例には、シラノール基の脱水縮合反応に触媒活性を有する公知の金属(例えば、アルミニウムや亜鉛、スズ等)を含む触媒やアミン変性した酸触媒が含まれる。
シリコーンレジンの硬化触媒は、市販されているものを使用することができ、例えば商品名CAT-AC、D-15(信越化学工業社製)、NACURE2500、NACURE4167(KING INDUSTRIES社製)等がある。
上記塗料の塗布は、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コート等の公知の方法によって行うことができる。上記塗料の塗布量は、フッ素樹脂層の所望の厚さに応じて適宜に調整される。
2-2.硬化工程
上記塗料の硬化は、上記塗料を金属板に加熱によって焼き付ける公知の方法によって行うことが可能である。例えば、上記塗料が塗布された金属板は、その到達温度が200~260℃となるように加熱される。加熱時間は、例えば、3~90秒であることが好ましく、10~70秒であることがより好ましく、20~60秒であることがさらに好ましい。またこのとき、板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けてもよい。一般に風を吹き付けながら塗料を硬化させると、例えばシリコーンレジン等が蒸発してしまい、加熱装置が汚染されやすい。しかしながら、上述の塗料中では、シリコーンレジンと他の成分とが水素結合しやすい。そのため、風を吹き付けながら塗料を硬化させても、シリコーンレジンが蒸発し難く、加熱装置を汚染し難い。
その後、上記加熱によりフッ素樹脂塗料が硬化した膜をフッ素樹脂の溶融温度以上の温度(200℃)からフッ素樹脂の分子運動が低下して結晶が成長しにくくなる温度(70℃)まで130℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。これにより、上述の結晶化度を有するフッ素樹脂層が得られやすくなる。なお、粗大な結晶が生じることによる加工性の低下を抑制する観点からは、冷却速度はより速いことが好ましく、250℃/秒以上が好ましい。
焼き付け後の着色塗膜の冷却は、空冷、水冷、放冷、冷却部材へ接触およびこれらの組み合わせ等の公知の方法によって行うことが可能である。
上記冷却(結晶化)は、上記フッ素樹脂塗料の膜の加熱による硬化の直後に行ってもよいし、上記の溶融温度よりも低い温度の上記硬化した膜を上記溶融温度以上の温度まで加熱した後に行ってもよい。上記フッ素樹脂の結晶構造は、当該フッ素樹脂の融点温度以上の温度では実質的に消失する。
2-3.フレーム処理工程
上記塗膜(塗料の硬化物)の形成後、フレーム処理を行うことで、塗膜表面が親水化される。塗膜をフレーム処理すると、その表面に配向したシリコーンレジンの硬化物の炭化水素基(例えばメチル基やフェニル基等)が分解されて、シラノール基やシロキサン結合が生じる。これにより、フッ素樹脂層表面の親水性が高まり、耐雨筋汚れ性が発現する。
フレーム処理は、塗膜を形成した金属板を、ベルトコンベア等の搬送機に載置し、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで塗膜に火炎を放射する方法等とすることができる。
ここで、フレーム処理量は、30~1000kJ/mが好ましく、100~600kJ/mがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m未満では、処理にムラが生じることがあり、塗膜表面を一様に親水化することが難しい。一方、フレーム処理量が1000kJ/mを超えると、塗膜が酸化して黄変することがある。
また、上述のフレーム処理前に、塗膜表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属板(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属板)表面に形成された塗膜に、火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に塗膜の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、塗膜表面(金属板)を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
塗膜を予熱する手段は特に限定されず、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、いすゞ製作所社製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV-11)、東上熱学社製自動排出型乾燥器(型式 ATO-101)、および東上熱学社製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT-1000)等が含まれる。
2-4.その他の工程
上記塗装金属板の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、化成処理皮膜を形成する化成処理工程、下塗り層を形成する工程、および、中塗り層を形成する工程、が含まれる。
上記化成処理工程は、化成処理皮膜を形成するための水性の化成処理液を、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法等の公知の方法で上記金属板の表面に塗布し、塗布後に上記金属板を水洗せずに乾燥させることによって行うことが可能である。当該金属板の乾燥温度および乾燥時間は、生産性の観点から、例えば、金属板の到達温度で60~150℃、2~10秒間が好ましい。
上記下塗り層を形成する工程は、下塗り層用の塗料(下塗り塗料)の塗布およびそれによる膜の硬化によって行うことができる。当該下塗り塗料は、必要に応じて、上記溶剤および上記添加剤を含んでいてもよい。下塗り塗料は、上述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。下塗り塗料は、例えば、上塗り塗料について上述した公知の方法で、1~10μm(好ましくは3~7μm)の乾燥膜厚が得られる塗布量で金属板に塗布される。当該塗料の塗膜は、例えば、金属板の到達温度で180~260℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
上記中塗り層を形成する工程も、下塗り層を形成する工程と同様に、中塗り層用の塗料(中塗り塗料)の塗布およびそれによる膜の硬化によって行うことができる。当該中塗り塗料も、中塗り層の材料以外に、必要に応じて上記溶剤および上記添加剤を含んでいてもよい。中塗り塗料も、上述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。中塗り塗料は、例えば上記の公知の方法で3~20μm(好ましくは5~15μm)となる塗布量で塗布されることが好ましい。当該塗料の層は、例えば、金属板の到達温度で180~260℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
[塗装原板の作製]
板厚0.4mm、両面めっき付着量180g/mの溶融Zn-6%Al-3%Mg系合金めっき鋼板をアルカリ脱脂した。
上記アルカリ脱脂しためっき鋼板の表面に、下記の成分を下記の量で含有する非クロメート防錆処理液を塗布し、塗布後のめっき鋼板を水洗することなく100℃で乾燥させ、Ti換算で10mg/mの付着量の非クロメート防錆処理を行った。
ヘキサフルオロチタン酸 55g/L
ヘキサフルオロジルコニウム酸 10g/L
アミノメチル置換ポリビニルフェノール 72g/L
次いで、めっき鋼板の上記の非クロメート防錆処理後の表面に、下記の成分を下記の量で含有するエポキシ樹脂系の下記塗料を塗布し、めっき鋼板の到達温度が200℃となるように上記の塗布後のめっき鋼板を加熱し、乾燥膜厚が5μmのクロメートフリーの塗膜を有するめっき鋼板を得た。これを塗装原板とする。なお、下記クリアー塗料は、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製「NSC680」である。
リン酸塩混合物 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
上記クリアー塗料 残り
[塗料1~34の調製]
(フッ素樹脂の準備)
フッ素樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製「Kynar500」、「Kynar」は同社の登録商標)を用意した。これをフッ素樹脂1とする。また、フッ素樹脂として、1,1-ジフルオロエチレン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合樹脂(アルケマ社製「Kynar Flex LBG」、「Kynar Flex」は同社の登録商標)を用意した。これをフッ素樹脂2とする。
(アクリル樹脂の準備)
アクリル樹脂として、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、アクリル酸エチル(EA)、アクリル酸ブチル(BA)、およびアクリロニトリル(NA)を下記配合比で含む重合物を常法で合成し、アクリル樹脂1~6とした。アクリル樹脂1~6の合成に用いたモノマーの質量比、GPC(スチレン換算)で求めた重量平均分子量(Mw)およびガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
Figure 0007295420000004
(顔料樹脂の準備)
顔料粒子として、酸化チタン(テイカ株式会社製「JR-805」、平均粒径:0.29μm)を用意した。
(シリコーンレジンの準備)
・シリコーンレジン1の準備
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン408g(3.0モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液180~216g(10.0~12.0モル)を5~25℃で、20~40分間かけて滴下した。滴下終了後、5~25℃で0.6~6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。これにより、シリコーンレジン1を得た。なお、シリコーンレジン1中のシラノール基量や構成単位量は、上記反応時間(攪拌時間)および反応温度、および塩酸水溶液の添加量で調整した。
その後、当該調製液から、加水分解によって生成したメタノールを、70℃、60mmHgで1時間減圧留去した。メタノール留去後の調製液は白濁しており、一晩静置することで、2層に分離した。下層は、水に不溶となって沈降したシリコーンレジン1である。当該調製液に、メチルイソブチルケトン(MIBK)469gを加え、室温で1時間攪拌した。これにより、沈降したシリコーンレジン1を完全にMIBKに溶解させた。そして、当該調製液を静置し、水層とMIBK層とを分離させた。その後、コック付きフラスコにて下層の水層を取り除き、固形分が50質量%、かつ無色透明のシリコーンレジン溶液を得た。
得られたメチル系シリコーンレジン1の構造を、29Si-NMRによって測定したところ、2本のブロードなシグナルが観測された。これらの化学シフトは、(1)δ=-54~-58ppm、(2)δ=-62~-68ppmであった。当該化学シフトは、以下の式で表されるT単位のうち、T-2単位およびT-3単位のケイ素原子にそれぞれ帰属する。つまり、当該メチル系シリコーンレジンAには、T-1単位は含まれていなかった。また、メチル系シリコーンレジン1についてH-NMR分析を行ったところ、メチルトリメトキシシラン由来のメトキシ基は全て加水分解され、水酸基となっていた。
Figure 0007295420000005
さらに、以下の条件でGPC分析(ポリスチレン換算)を行い、シリコーンレジン1の重量平均分子量Mwと、分子量分布Mw/Mnとを測定した。以下の表2に物性を示す。
測定機種:東ソー社製 HLC-8320GPC
カラム:Shodex K・G+K・805L×2本+K・800D
溶離液:クロロホルム
温度:カラム恒温槽 40.0℃
流速:1.0mL/min
濃度:0.2質量/体積%
注入量:100μl
溶解性:完全溶解
前処理:0.45μmフィルターでろ過
検出器:示差屈折計(RI)
・シリコーンレジン2の準備
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン203.8g(1.5モル)とフェニルトリメトキシシラン297g(1.5モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液180~216g(10.0~12.0モル)を5~25℃で20~40分間かけて滴下した。滴下終了後、5~25℃で0.6~6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。滴下終了後、メチル系シリコーンレジンの合成1と同様の操作を行い、固形分約50質量%のメチル/フェニル系シリコーンレジン2を含む調製液を得た。なお、メチル/フェニル系シリコーンレジン2のシラノール基量や構成単位量は、上記反応時間(攪拌時間)、反応温度、塩酸水溶液の添加量、および仕込み量で調整した。
得られたシリコーンレジン2について、29Si-NMRおよびH-NMR分析により、構造を特定した。なお、当該シリコーンレジン2の構造を29Si-NMRによって測定したところ、4本のブロードなシグナルが観測された。これらの化学シフトは、(1)δ=-52~-61ppm、(2)δ=-62~-71ppm、(3)δ=-67~-75ppm、(4)δ=-75~-83ppm、であり、それぞれ下記式で表されるT単位およびT単位のうち、T-2単位、T-3単位、T-2単位、およびT-3単位のケイ素原子に帰属する。また、当該メチル/フェニル系シリコーンレジン2についてH-NMR分析を行ったところ、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリメトキシシラン由来のメトキシ基が全て加水分解され、水酸基となっていた。さらに、GPC分析により、重量平均分子量Mwと、分子量分布Mw/Mnとを測定した。以下の表2に物性を示す。
Figure 0007295420000006
Figure 0007295420000007
Figure 0007295420000008
(塗料の調製)
上記フッ素樹脂およびアクリル樹脂を以下の表3に示す質量比で配合した。さらに、ドデシルベンゼンスルフォン酸を触媒として、フッ素樹脂およびアクリル樹脂の混合物の総量に対して1質量%加えた。そして、ジメチルアミノエタノールをさらに加えた。なお、ジメチルアミノエタノールの量は、ドデシルベンゼンスルフォン酸の酸当量に対してアミン当量が1.25倍となる量とした。さらに、塗料溶剤成分としてイソホロンを加え、固形分の全質量に対して30質量%(15体積%)となる量の顔料粒子を配合して混合した。その後、表3に示すように、フッ素樹脂およびアクリル樹脂の総量に対して、5質量%のシリコーンレジンを添加した。そして、得られた混合物を500メッシュのフィルターでろ過して凝集粒子を当該混合物から除去して、フッ素樹脂塗料1~34を調製した。
なお、フッ素樹脂塗料28は、市販のフッ素樹脂クリアー塗料である、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製「ディックフローC」に、固形分の全質量に対して30質量%(15体積%)となる量の顔料粒子、フッ素樹脂およびアクリル樹脂の総量に対して5質量%となるシリコーンレジン1を添加した。ディックフローCは、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂とのブレンドであり、70質量%のポリフッ化ビニリデンに対して30質量%の割合のアクリル樹脂を含有する。また、ディックフローCが含有するアクリル樹脂は、65質量%のMMAと35質量%のEAとの共重合樹脂であり、GPCで測定された重量平均分子量(Mw)は140,000、ガラス転移温度(Tg)は50℃である。
Figure 0007295420000009
[塗装金属板1の作製]
塗装原板の表面にフッ素樹脂塗料2を塗布し、フッ素樹脂塗料2が塗布された塗装原板をそのめっき鋼板の到達温度が250℃となるように加熱した。次いで、20℃の水中に浸漬して水冷した。次いで、水中より取り出しガーゼで水分をふき取り、23℃の室内で乾燥させた。このとき200℃から70℃への冷却速度は、250℃/秒だった。こうして、塗装原板の表面にフッ素樹脂塗料2による厚さ20μmの塗膜(フッ素樹脂層)を形成した。
得られた塗膜をフレーム処理した。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cmに対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.7L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さは4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて50mmとした。さらに、塗膜の搬送速度を30m/分とすることで、フレーム処理量を212kJ/mに調整した。
フレーム処理前後の塗装金属板1が有するフッ素樹脂層を広角X線回折で測定し、非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するα型結晶(2θ=18.4°)の強度Icαの比をα型結晶の結晶化度(Icα/Ia)とし、および、上記非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するβ型結晶(2θ=20.5°)の強度Icβの比をβ型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)とした。
広角X線回折の測定条件は、以下の通りとした。
X線発生装置:Rigaku UltimaIII
出力:40kV,40mA
モノクロメータ:グラファイト
線源:CuKα(0.154184nm)
走査範囲:10°≦2θ≦30°
走査方法:θ-2θ
走査速度:0.5°/min
また、保管後の経時変化を摸擬するため、塗装金属板1を60℃の環境下に7日間静置した後に、Icβ/Iaを再度測定した。なお、上記静置条件は、長期常温保管によるフッ素樹脂の結晶化および延性低下を再現した条件である。
[塗装金属板2の作製]
フッ素樹脂塗料2に代えて、表4および表5に示すように、フッ素樹脂塗料1、またはフッ素樹脂塗料3~34を用いて、塗装金属板2~39を作製した。ただし、塗装金属板19および塗装金属板20はそれぞれ40℃、60℃の水中に浸漬して水冷した。このとき200℃から70℃への冷却速度は、それぞれ160℃/秒、130℃/秒であった。また、塗装金属板29~31は、フッ素樹脂塗料が塗布された塗装原板を加熱した後に、水中に浸漬させず放冷させて、塗膜を形成した。このときの冷却速度は、1℃/秒だった。
[評価]
塗装金属板1~39について、以下の評価を行った。結果を表4および5に示す。また表4および表5には、塗装金属板の作製に用いたフッ素樹脂塗料の番号、冷却速度、広角X線解析によるフレーム処理前後のIcα/IaおよびIcβ/Ia、ならびに保管後のIcα/IaおよびIcβ/Iaも示す。
1.加工性
(1)初期加工性
各塗装金属板をフレーム処理する前、かつ塗膜形成後2時間以内に、塗膜を外側にして試験板と同一厚さの板をはさみ、23℃で180°に折り曲げた。このとき、塗膜にクラックが生じない最少の板はさみ枚数Tを記録した。3Tまでが実用状問題ない範囲である。
(2)フレーム処理後の加工性
各塗装金属板について、フレーム処理後に、上記の180°曲げ試験に供して、塗膜にクラックが生じない最少の板はさみ枚数Tを記録した。
(3)保管後の加工性
フレーム処理後の塗装金属板を60℃の環境下に7日間静置し、次いで上記の180°曲げ試験に供して、塗膜にクラックが生じない最少の板はさみ枚数Tを記録した。
2.鉛筆硬度
(1)初期鉛筆硬度
各塗装金属板をフレーム処理する前、かつ塗膜形成後2時間以内に、JIS K5600-5-4(ISO/DIS 15184)に準拠して、塗膜表面の耐傷付き性を評価する鉛筆硬度試験を行った。
(2)フレーム処理後の鉛筆硬度
各塗装金属板について、フレーム処理後に上記の鉛筆硬度試験を行った。
(3)保管後の鉛筆加工性
フレーム処理後の塗装金属板を60℃の環境下に7日間静置し、次いで上記の鉛筆硬度試験を行った。
3.耐雨筋汚れ性
(1)初期の耐雨筋汚れ性
各塗装金属板をフレーム処理する前の塗装金属板の上部に、地面に対して角度20°となるように、波板を取り付けた。このとき、雨水が塗装金属板表面を筋状に流れるように、波板を設置した。この状態で、屋外暴露試験を6ヶ月間行い、汚れの付着状態を観察した。耐雨筋汚れ性の評価は、暴露前後の塗装金属板の明度差(ΔL)で、以下のように評価した。
×:ΔLが2以上の場合(汚れが目立つ)
△:ΔLが1以上2未満の場合(雨筋汚れは目立たないが視認できる)
〇:ΔLが1未満の場合(雨筋汚れがほとんど視認できない)
◎:ΔLが1未満で、かつ雨筋汚れが全く視認できない
なお、△、○、◎を合格とした。
(2)フレーム処理後の耐雨筋汚れ性
各塗装金属板について、フレーム処理後に上記の屋外暴露試験を行った。
(3)保管後の耐雨筋汚れ性
フレーム処理後の塗装金属板を60℃の環境下に7日間静置し、次いで上記の屋外暴露試験を行った。
Figure 0007295420000010
Figure 0007295420000011
[結果]
表4および表5から明らかなように、Icα/Iaが2.5未満であり、かつIcα/IaがIcβ/Iaよりも大きい塗装金属板1~26、および塗装金属板37~39は、塗装直後、フレーム処理後、および保管後のいずれにおいても加工性が高かった。
また、フッ素樹脂が1,1-ジフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を、フッ素樹脂の全質量に対して50質量%以上含む塗装金属板10~18は、上記共重合体の含有量が50質量%未満である塗装金属板(例えば塗装金属板4~9等)と比較して、加工性がより良好であった。
また、アクリル樹脂3および4(メタクリル酸メチルに由来する構造の割合が10質量%以上30質量%以下であり、アクリル酸エチルに由来する構造の割合が60質量%以上80質量%以下であり、前記エステル化合物に由来する構造の割合が10質量%以上30質量%以下である、共重合樹脂)を含む塗装金属板では、塗膜にβ型結晶が生成しなかった(例えば、塗装金属板2、3、5、6、8、9、11、12、14、15、17~23、34~36)。
また、塗膜がシリコーンレジンを含まない塗装金属板37~39では、フレーム処理をしても、耐雨筋汚れ性が高まらなかった。なお、表5において、シリコーンレジンを含まない場合(塗装金属板37~39)のフレーム処理後の塗膜硬度は、フレーム処理前と変わらない評価となっているが、フレーム処理前より多少高まっていた。ただし、シリコーンレジンを含む場合と比較すると、その向上幅が少なかった。これに対し、塗膜がシリコーンレジンを含む塗装金属板では、いずれもフレーム処理をすることによって、塗装金属板の耐雨筋汚れ性が良好になった(塗装金属板1~36)。また、これらの塗装金属板においては、塗膜の鉛筆硬度も良好になった。
本発明の塗装金属板は、フッ素樹脂系の塗膜であっても保管後にも高い加工性を呈する。さらに、塗膜の耐雨筋汚れ性が良好であり、かつその硬度も高い。よって、フッ素樹脂系の塗装金属板のさらなる普及が、特に外装建材の材料としてのさらなる普及が期待される。
110 基材樹脂
120 顔料粒子
130 空隙
140 クラック

Claims (10)

  1. 金属板と、フッ素樹脂層と、を有する塗装金属板であって、
    前記フッ素樹脂層は、ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂と、アクリル樹脂と、顔料粒子と、シリコーンレジンの硬化物と、を含み、
    前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂は、
    広角X線回折における、非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するα型結晶(2θ=18.4°)の強度Icαの比で表されるα型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が2.5未満であり、かつ、
    前記α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が、前記非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するβ型結晶(2θ=20.5°)の強度Icβの比で表されるβ型結晶の結晶化度(Icβ/Ia)よりも大きい、
    塗装金属板。
  2. 前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂は、前記α型結晶の結晶化度(Icα/Ia)が1.2以上2.0以下である、
    請求項1に記載の塗装金属板。
  3. 前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂は、1,1-ジフルオロエチレンの単独重合体、または1,1-ジフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を含む、
    請求項1または2に記載の塗装金属板。
  4. 前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂は、1,1-ジフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を含み、前記共重合体の含有量は、前記ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂の全質量に対して50質量%以上である、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  5. 前記アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルと(メタ)アクリル酸と炭素数1以上6以下のアルコールとのエステル化合物との共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリロニトリルとの共重合体、およびメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体、からなる群から選ばれる共重合体を少なくとも1種含む、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  6. 前記アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が45℃以下である、
    請求項1~5のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  7. 前記非晶質ハーロー(2θ=18°)の強度Iaに対するβ型結晶の強度Icβの比で表されるβ型結晶(2θ=20.5°)の結晶化度(Icβ/Ia)は、1.5未満である、
    請求項1~6のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  8. 前記シリコーンレジンの硬化物は、Si原子の総モル量に対して、トリアルコキシシラン由来のSi原子を50~100モル%含む、
    請求項1~7のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  9. 前記フッ素樹脂層が、フレーム処理されている、
    請求項1~8のいずれか一項に記載の塗装金属板。
  10. 前記金属板と、化成処理層と、下塗り層と、前記フッ素樹脂層と、がこの順に積層された、
    請求項1~9のいずれか1項に記載の塗装金属板
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