本発明の一実施の形態に係る塗装金属板の製造方法は、金属板と、上記金属板上に配置される着色塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法である。
上記金属板は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。当該金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板および銅板が含まれる。
上記金属板は、耐食性および軽量化の観点から、めっき鋼板またはステンレス鋼板であることが好適であり、さらに対費用効果の観点から、めっき鋼板であることが好適である。また、上記金属板は、耐食性の観点、および、外装建材としての適性の観点から、溶融55%Al−Zn合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板またはアルミニウムめっき鋼板であることが好適である。
上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途などに基づいて適宜に決めることができる。たとえば、上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途が外装建材である場合には、0.2〜3.0mmであることが好ましく、そのための加工性の観点から、0.25〜2.0mmであることが好ましい。
上記着色塗膜は、上記着色塗膜の膜構造を構成する基材樹脂と、上記着色塗膜中に分散されている顔料粒子とを含有する。
上記着色塗膜の厚さは、50μm以下である。当該着色塗膜の厚さは、その表面が後述する表面粗さを有する着色塗膜の厚さである。ただし、当該厚さは、それに対して表面粗さが十分に小さい場合には、着色塗膜の粗面化される前の厚さであってもよい。着色塗膜の厚さは、着色塗膜の複数個所(例えば、任意に選ばれる10箇所)における底面から表面までの距離の平均値で表すことができる。上記厚さが50μmを超えると、着色塗膜を作製する際の着色塗料の塗布量を多くする必要があり、当該塗料の膜を加熱し、硬化させる際に、ワキ(泡状のフクレや穴)が塗装欠陥として発生しやすくなる。また、上記塗布量が多くなることから、コスト面で不利となる。
上記着色塗膜の厚さは、上記の厚さの範囲内において、着色顔料の含有量、色調、紫外線遮蔽度や、塗装金属板の成形加工時における加工度などの諸要因に基づいて適宜に決めることが可能である。
たとえば、着色塗膜の厚さは、着色顔料の含有量が高いほど、あるいは、着色顔料の色調明度(JISに定めるL値)が低いほど、あるいは、紫外線遮蔽度が高いほど、着色塗膜の発色性(その下地の色に対する色隠蔽性)やその下地への紫外線遮蔽率に優れることから、小さくすることが可能である。また、上記加工度が低い場合、着色塗膜に求められる延性が低くなるため、着色塗膜の厚さを小さくすることが可能である。
また、例えば、着色塗膜とその下地との長期密着性を維持する(界面破断を長期間抑制する)観点から、着色塗膜の紫外線透過率を低くすることが好ましく、そのためには着色塗膜の厚さを大きくすることが好ましい。また、一般に、塗膜に引張応力がかかる際、伸び変位が同一であっても、膜厚が低いほど伸び変形歪が高くなる。このため、伸び変形歪を低くする観点から、着色塗膜の厚さは、大きいことが好ましい。
このように、着色塗膜の厚さの下限値は、一概には言えないが、例えば、上記加工度が4T曲げ加工度相当であって、着色顔料粒子(例えば酸化チタン粒子)のL値が80超であれば、着色塗膜の厚さは、20μm以上であることが好ましく、25μmであることがより好ましい。また、上記の加工度で、かつ着色顔料粒子(例えば鉄−クロム系焼成顔料粒子)のL値が70以下であれば、着色塗膜の厚さは、15μm以上であることが好ましく、18μm以上であることがより好ましい。
上記着色塗膜における上記顔料粒子の含有量は、12体積%以下である。当該顔料粒子は、着色顔料粒子を含み、他の顔料粒子をさらに含んでいてもよい。
上記顔料粒子は、着色塗膜中にあって着色塗膜が変形しても変形せず、当該塗膜の変形を抑制する。したがって、上記含有量が12体積%を超えると、顔料粒子による塗膜の変形を抑制する効果が高まり、着色塗膜の延性が不十分となることがある。
また、上記着色塗膜における上記着色顔料粒子の含有量は、2体積%以上である。当該着色顔料は、意匠性の付与を目的として着色塗膜に含有される。よって、上記含有量が2体積%未満であると、着色顔料粒子による発色、色の隠蔽が不十分となり、下地の色が透けてしまい、意匠性が不十分となることがある。また、後述する基材樹脂であるフッ素樹脂は、紫外線を透過する性質があり、着色顔料粒子の上記含有量が2体積%未満では、屋外環境において、着色塗膜の下地への紫外線の照射量が高くなり、当該下地と着色塗膜との界面における密着性が早期に低下し、着色塗膜が上記下地から剥離する可能性がある。
上記着色塗膜中における顔料粒子の含有量は、例えば着色塗膜の断面を顕微鏡等で拡大観察し、任意範囲(例えば着色塗膜厚さ×200μm幅の範囲)における顔料と樹脂の断面積を測定しこの比率を計算することによって求めることが可能である。
上記着色塗膜における粒径が3μm超の粒子の含有量は、1体積%以下である。ここで、「粒径」とは、着色塗膜中の粒子の大きさを意味し、顔料粒子が一次粒子として着色塗膜中に存在する場合には、一次粒子径であってよいし、顔料粒子が凝集している場合には、その凝集粒子の粒子径であってよい。
塗装金属板の成形加工では、それが有する塗膜の表面に引張応力がかかる。塗膜の伸び性が低い場合では、その塗膜は破断し、下地の金属板が一部露出することがある。屋外環境で長期間晒される場合、この金属板と水や塩化物イオンといった金属の腐食を促進する因子とが直に接触する状況が長期間発生し、この金属板における露出部分を起点として金属板の腐食が進行することがある。一方、塗膜の伸び性が高い場合、当該塗膜は破断せず、下地の金属板が外界に露出することがない。このため、下地の金属板の腐食の進行を長期間抑えることができ、長期耐久性を呈する。
上記着色塗膜における粒径3μm超の上記粒子の含有量が1体積%を超えると、着色塗膜の延性が不十分となり、上述した下地の金属板の腐食が発生することがある。上記長期耐久性の観点から、上記含有量は、小さい程好ましく、上記着色塗膜が上記粒子を含有しないことが最も好ましい。
上記基材樹脂は、フッ素樹脂を含有する。当該フッ素樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。上記フッ素樹脂成分の例には、ポリテトラフルオロエチレンのような、樹脂中の炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子に置き換わっている完全フッ素化樹脂、および、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、三ふっ化塩化エチレンのような、完全フッ素化樹脂のフッ素原子の一部が水素原子や塩素原子などの他の原子に置き換わっている部分フッ素化樹脂、が含まれる。上記フッ素樹脂は、耐久性や耐薬品性、耐熱性、耐摩耗性、耐汚染性などに優れ、中でも、高い加工性および機械的強度を有することから、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であることが好ましい。
上記基材樹脂は、フッ素樹脂以外の他の樹脂をさらに含有していてもよい。基材樹脂は、互いに結合していてもよいし、結合していなくてもよい。上記他の樹脂も、一種でもそれ以上でもよく、その例にはアクリル樹脂が含まれる。上記アクリル樹脂は、塗膜密着性の向上に寄与する。アクリル樹脂は、ポリフッ化ビニリデンと相溶性を有する熱可塑性アクリル樹脂または熱硬化性アクリル樹脂であることが好ましい。当該アクリル樹脂の例には、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなどのアクリル系モノマーのポリマー、または当該アクリル系モノマーを含むモノマーのコポリマーが含まれる。
上記基材樹脂における上記フッ素樹脂の含有量は、50質量%以上である。上記基材樹脂中の上記フッ素樹脂の含有量が少なすぎると、長期保管後における加工性が不十分になることがある。上記基材樹脂における上記フッ素樹脂の含有量は、50質量%以上の範囲において、本実施の形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、例えば、着色塗膜における十分な低光沢性を達成する観点から50〜85質量%であることが好ましく、塗装金属板の十分な耐候性および加工性をさらに達成する観点から70〜85質量%であることであることが好ましい。たとえば、上記基材樹脂は、50〜85質量%のフッ素樹脂および残余のアクリル樹脂から構成されていてもよい。
たとえば、上記基材樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とアクリル樹脂(AR)との質量比(PVDF:AR)が50:50〜85:15である樹脂であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデンの質量比が低すぎると、耐候性や耐食性、耐汚染性などのフッ素樹脂の特性を十分に発揮させることができないことがあり、ポリフッ化ビニリデンの質量比が高すぎると、着色塗膜の密着性が低下し、塗装金属板の加工性が低下してしまうことがある。
上記着色顔料粒子は、一種でもそれ以上でもよく、塗料用の着色顔料として一般に入手できる有機系着色顔料および無機系着色顔料の粒子のいずれであってもよい。着色顔料粒子は、非透明であり、着色塗膜に色調を与える。
上記無機系着色顔料の例には、酸化チタン、酸化クロム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、および、モリブデン赤、が含まれる。
上記有機系着色顔料の例には、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、および、アニリンブラック、が含まれる。
上記着色顔料粒子は、金属成分を含む複合酸化物焼成顔料の粒子であってもよく、当該焼成顔料の例には、CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、FeZn、CoCr、MnCo、および、SnZnTi、が含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、メタリック顔料の粒子であってもよく、当該メタリック顔料粒子の例には、Alフレーク、樹脂被覆Alフレーク、金属酸化物被覆Alフレーク、Niフレーク、Cuフレーク、および、ステンレス鋼フレーク、が含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、パール顔料の粒子であってもよく、当該パール顔料粒子の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、酸化チタン−酸化鉄被覆雲母が含まれる。
上記着色顔料粒子の個数平均粒径は、本実施の形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、通常、3μm以下であり、例えば、0.01〜1.5μmである。着色顔料粒子の粒径がより小さいと、着色塗膜における着色顔料粒子の含有量をより多くすることができ、このような観点から、着色顔料粒子の上記平均粒径は、2.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。たとえば、上記平均粒径が2.0μm以下であれば、通常、着色塗膜に着色顔料粒子を5体積%まで含有させることが可能となり、上記平均粒径が0.5μm以下であれば、着色塗膜に着色顔料粒子を10体積%まで含有させることが可能となる。
上記着色塗膜が含有していてもよい他の顔料粒子の例には、光沢調整剤粒子および体質顔料粒子が含まれる。
上記光沢調整剤粒子は、着色塗膜に所望の光沢を付与する観点、あるいは、着色塗膜の上面に凹凸を形成する観点、から用いることができる。当該光沢調整剤粒子は、一種でもそれ以上でもよく、その材料の例には、シリカや炭酸カルシウムなどの無機材料、および、アクリル樹脂やウレタン樹脂、ベンゾクアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂材料、が含まれる。着色塗膜に含有される上記光沢調整剤粒子の粒径は、3μm以下である。市販の光沢調整剤粒子の平均粒径は、通常、3μm超であるので、市販の光沢調整剤粒子を用いる場合には、分級によって粒径3μm以下の粒子を分取して用いること、または、含有量を1体積%未満とすること、が好ましい。
上記着色塗膜における上記光沢調整剤粒子の含有量は、例えば、当該光沢調整剤粒子の粒径によって異なるが、光沢調整剤粒子を着色塗膜中に配合することによる所期の意匠性の発現の観点から、0.2〜1.0体積%であることが好ましい。
あるいは、着色塗膜における光沢の調整の観点から、着色塗膜中の光沢調整剤粒子の粒径は大きい方(例えば、上記の粒径で3μm超)であることが好ましく、その含有量は、0.2体積%以上であることが好ましい。なお、上記含有量は、前述したように、保管後の加工性の観点から1.0体積%以下であることが好ましい。
上記体質顔料粒子は、塗膜の硬度の調整や塗料のコストダウン(カサ増し効果)などの観点から、塗膜に含有される顔料であり、一般に、塗膜の色調には影響しない。体質顔料粒子は、通常、フッ素樹脂に比べて安価であることから、本実施の形態の効果が得られる範囲において、着色塗膜が体質顔料粒子を含有することが好ましい。また、体質顔料粒子は、その可視光の透過率が高いことが好ましい。体質顔料粒子は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムの粒子が含まれる。たとえば、上記体質顔料粒子の個数平均粒径は、0.01〜1μmであり、また着色塗膜における体質顔料粒子の含有量は、例えば、0.1〜10体積%である。
上記着色塗膜は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、前述した基材樹脂および顔料粒子以外の添加剤をさらに含有していてもよい。たとえば、着色塗膜は、耐候性をさらに向上させる観点から、10体積%以下の紫外線吸収剤や光安定化剤を含有していてもよい。また、上記添加剤として、上記着色塗膜は、可塑剤、染料、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤および分散助剤の一種以上をさらに含有していてもよい。
上記製造方法は、上記金属板上の上記着色塗膜の表面を算術平均粗さで200nm以上に粗す粗面化工程を含む。
上記粗面化工程が施された着色塗膜の表面の算術平均粗さは、200nm以上である。上記粗面化処理によって表面が粗された着色塗膜では、低光沢性は、実質的には着色塗膜の表面における光散乱効果のみによって発現される。当該表面粗さが200nm以上であることにより、上記着色塗膜の表面には適度な凹凸が形成され、塗装金属板の60°における鏡面光沢度が40以下となり、低光沢な塗装金属板が実現される。当該表面粗さは、塗装金属板に求められる光沢度や意匠性などの観点から適宜に決めることが可能であるが、上記鏡面光沢度をより小さくする観点から、300nm以上であることがより好ましく、一方で、光沢の低減効果が頭打ちになる観点から、4000nm以下であることが好ましい。
上記表面粗さは、接触式および非接触式のいずれの公知の測定装置を用いて求めることが可能である。接触式による測定装置の例には、接触式粗さ計、および、原子間力顕微鏡、が含まれる。非接触式による測定装置の例には、白色干渉計、レーザー顕微鏡、および、電子顕微鏡、が含まれる。
上記粗面化工程は、塗装金属板の塗膜の表面を粗すことが可能な公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、上記粗面化工程は、上記着色塗膜の表面に凹凸を有する押圧部材を押圧すること(以下、「エンボス工程」とも言う)によって行うことができる。
上記エンボス工程は、硬化した上記膜の表面に、所望の凹凸形状を反転させた反転凹凸形状をその表面に有する物体(押圧部材)の当該表面を押し当てることによって行うことができる。上記押圧部材は、公知の材料、例えば、金属やガラスなど、により構成することができる。
上記押圧部材の押圧は、上記膜の温度が上記フッ素樹脂の溶融温度以上の温度であるときの上記膜に対して行われることが、所望の凹凸形状をその表面に正確に転写する観点から好ましい。押圧の開始温度は、溶融温度+20℃以上の温度であることがより好ましい。また、上記押圧部材の押圧は、上記膜の温度がフッ素樹脂の溶融温度以下の温度になった後に解除する(押し当てた押圧部材を膜から離す)ことが、転写された凹凸形状が熱によって変形することを防止する観点から好ましい。押圧の解除終了温度は、当該溶融温度−20℃以下の温度であることがより好ましい。
たとえば、フッ素樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合では、溶融温度が180℃であることから、上記膜の温度が200℃以上(例えば200℃)のときに押圧部材を上記膜に押し当て、160℃以下(例えば160℃)まで冷却した後に押圧部材を上記膜から離す。
また、上記粗面化工程は、例えば、上記着色塗膜の表面を研削すること(以下、「研削工程」とも言う)によって行うことができ、当該研削工程は、機械的研磨、ショットブラストなどの公知の方法によって行うことができる。上記研削工程は、十分に冷却された上記膜に対して行われることが、膜が研削以外の原因で変形することを防止する観点から好ましく、このような観点から、上記金属板の温度が−40〜40℃であるときに行われることが、上記着色塗膜の表面粗さを正確に制御する観点から好ましい。たとえば、フッ素樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合では、−40℃未満の場合、ポリフッ化ビニリデンのガラス転移温度以下となり、着色塗膜の硬度が高くなることから、研削効率が低下することがある。また、40℃超の場合、フッ素樹脂の結晶化が過度に進行し、着色塗膜の延性低下を招くことがある。
上記塗装金属板は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記着色塗膜および上記着色塗膜以外の他の膜をさらに有していてもよい。当該他の膜の例には、化成処理皮膜、下塗り塗膜および中塗り塗膜が含まれる。
上記化成処理皮膜は、塗装金属板の密着性および耐食性を向上させる目的で、上記金属板上に直接、すなわち金属板と着色塗膜との間に配置される。化成処理皮膜は、金属板上の層であり、塗装前処理によって金属板の表面に付着した組成物で構成される。化成処理皮膜の例には、非クロメート系皮膜およびクロメート系皮膜が含まれる。いずれも、防錆処理による皮膜である。
上記非クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点および塗装金属板の製造および使用における環境への負荷を軽減する観点から好ましく、上記クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点から好ましい。
上記非クロメート系皮膜の例には、Ti−Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜、樹脂系皮膜、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜、シリカ系皮膜、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜、ジルコニウム系皮膜、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜が含まれる。
上記非クロメート系皮膜の付着量は、その種類に応じて適宜に決めることができる。たとえば、上記Ti−Mo複合皮膜の付着量は、全TiおよびMo換算で10〜500mg/m2であり、上記フルオロアシッド系皮膜の付着量は、フッ素換算または総金属元素換算で3〜100mg/m2であり、上記リン酸塩皮膜の付着量は、リン元素換算で0.1〜5g/m2であり、上記樹脂系皮膜の付着量は、樹脂換算で1〜500mg/m2であり、上記樹脂およびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜50mg/m2であり、上記シリカ系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/m2であり、上記シリカおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/m2であり、上記ジルコニウム系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/m2であり、上記ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/m2であることが好ましい。
上記クロメート系皮膜の例には、塗布型クロメート処理皮膜、および、リン酸−クロム酸系処理クロメート防錆処理皮膜、が含まれる。これらのクロメート系皮膜の付着量は、いずれも、クロム元素換算で20〜80g/m2であることが好ましい。
上記下塗り塗膜は、塗装金属板における着色塗膜との密着性および耐食性を高める観点から、上記金属板および前記着色塗膜の間に配置される。上記下塗り塗膜は、金属板の表面、あるいは上記化成処理皮膜が作製されている場合は、当該化成処理皮膜の表面、に形成される。
上記下塗り塗膜の膜構造は、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、上記完全フッ素化樹脂、上記部分フッ素化樹脂、ポリエステル樹脂、変性シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂が含まれる。
上記下塗り塗膜は、防錆顔料粒子や、着色顔料粒子、メタリック顔料粒子、パール顔料粒子、体質顔料粒子、光沢調整剤粒子などの添加剤をさらに含有していてもよい。上記防錆顔料粒子の例には、変性シリカ、バナジン酸塩、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、およびポリリン酸アルミニウムなどの非クロム系の防錆顔料の粒子、および、クロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウムなどのクロム系防錆顔料の粒子、が含まれる。
上記着色顔料粒子の例には、酸化チタン、酸化クロム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラック、CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、FeZn、CoCr、MnCo、および、SnZnTi、の粒子が含まれる。
上記メタリック顔料粒子の例には、Alフレーク、樹脂被覆Alフレーク、金属酸化物被覆Alフレーク、Niフレーク、Cuフレーク、および、ステンレス鋼フレーク、が含まれる。上記パール顔料粒子の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、酸化チタン−酸化鉄被覆雲母が含まれる。上記体質顔料粒子の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムの粒子が含まれる。上記光沢調整剤粒子の例には、シリカや炭酸カルシウムなどの無機材料、および、アクリル樹脂やウレタン樹脂、ベンゾクアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂材料、が含まれる。
上記の顔料粒子の下塗り塗膜中における含有量は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、適宜に決めることが可能であり、例えば、着色塗膜にパール顔料を含有させ、着色塗膜と金属板の間に、明度の低い下塗り塗膜を設けることで、パール顔料独特の色調および光輝感を付与することができる。また、例えば、下塗り塗膜中に粒径数十μm程度の大粒径顔料粒子を添加することで、下塗り塗膜と着色塗膜との界面に凹凸が形成されることから、着色塗膜との密着性をさらに高めることができ、また、塗装金属板表面における凹凸の形成または発達により低光沢性をさらに高めることができる。また、例えば、上記下塗り塗膜における上記防錆顔料の含有量は、10〜70体積%であることが好ましい。
上記中塗り塗膜は、塗装金属板における塗膜間の密着性および耐食性を高める観点から、上記下塗り塗膜および上記着色塗膜の間に配置される。
上記中塗り塗膜の膜構造も、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、上記完全フッ素化樹脂、上記部分フッ素化樹脂、ポリエステル樹脂、変性シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂が含まれる。上記中塗り塗膜も、上記下塗り塗膜と同様に、本実施の形態における効果が得られる範囲において、上記添加剤を適宜にさらに含有していてもよい。当該添加剤は、例えば、着色塗膜で説明したそれと同じである。
なお、上記他の膜として上記の塗膜を配置する場合では、着色塗膜の厚さは、上記の塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。例えば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜および着色塗膜を有する場合には、着色塗膜の厚さは、意匠性、耐食性および経時加工性の観点から、10〜35μmであることが好ましい。
上記製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、前述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、化成処理皮膜を形成する化成処理工程、下塗り塗膜を形成する工程、中塗り塗膜を形成する工程、および、着色塗膜を形成する工程、が含まれる。
上記化成処理工程は、化成処理皮膜を形成するための水性の化成処理液を、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの公知の方法で上記金属板の表面に塗布し、塗布後に上記金属板を水洗せずに乾燥させることによって行うことが可能である。当該金属板の乾燥温度および乾燥時間は、生産性の観点から、例えば、金属板の到達温度で60〜150℃、2〜10秒間であることが好ましい。
上記下塗り塗膜を形成する工程は、下塗り塗膜用の塗料(下塗り塗料)の塗布およびそれによる膜の硬化によって行うことができる。当該下塗り塗料は、塗膜の材料を含有する液状の組成物である。必要に応じて、上記溶剤および上記添加剤を含んでいてもよい。下塗り塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。下塗り塗料は、例えば、上塗り塗料について前述した公知の方法で、1〜10μm(好ましくは3〜7μm)の乾燥膜厚が得られる塗布量で金属板に塗布される。当該塗料の塗膜は、例えば、金属板の到達温度で180〜260℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
上記中塗り塗膜を形成する工程も、下塗り塗膜を形成する工程と同様に、中塗り塗膜用の塗料(中塗り塗料)の塗布およびそれによる膜の硬化によって行うことができる。当該中塗り塗料も、塗膜の材料を含有する液状の組成物であり、必要に応じて上記溶剤および上記添加剤を含んでいてもよい。中塗り塗料も、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。中塗り塗料は、例えば上記の公知の方法で3〜20μm(好ましくは5〜15μm)となる塗布量で塗布されることが好ましい。当該塗料の塗膜は、例えば、金属板の到達温度で180〜260℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
上記着色塗膜を形成する工程も、下塗り塗膜および中塗り塗膜の作製と同様に、着色塗膜用の塗料(着色塗料)の塗布、それによる膜の硬化、および硬化した膜の冷却、によって行うことができる。上記着色塗料の調製、その塗布、当該塗布による膜の硬化、および、硬化した膜の冷却、は、いずれも公知の方法に基づいて行うことができる。
上記着色塗料は、塗膜の材料を含有する液状の組成物である。上記塗料は、例えば、前述したそれぞれの塗膜の材料を溶剤中に分散することによって調製される。上記溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、セロソルブなどのエーテル、および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、が含まれる。
当該着色塗料は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、溶剤の他の添加剤をさらに含有していてもよい。当該添加剤の例には、硬化剤、硬化触媒および親水化剤が含まれる。
上記硬化剤は、塗料の硬化(焼付け)時に、上記基材樹脂同士を架橋させる。硬化剤は、基材樹脂の種類や焼付け条件などに応じて、既知の架橋剤や硬化剤などから適宜に選択することができる。硬化剤の例には、メラミン化合物、イソシアネート化合物およびその両方、が含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。イソシアネート化合物は、芳香族、脂肪族、脂環族のいずれでもよく、例としては、m−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのブロック化合物が含まれる。
上記硬化触媒は、上記膜の硬化または上記基材樹脂の架橋を促進させる成分であり、このような触媒作用を有する公知の成分から適宜に選ぶことができる。上記着色塗料における硬化触媒の含有量は、塗料の十分な貯蔵安定性が得らえる範囲において適宜に決めることができ、例えば、10〜30体積%である。
上記親水化剤は、着色塗膜の添加剤として好適であり、着色塗膜の雨筋汚れを防止する観点から、着色塗料に例えば30体積%以下の量で含有され得る。当該親水化剤の例には、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物が含まれる。
上記着色塗料の塗布は、前述の他の塗料の塗布と同様に、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法によって行うことができる。上記着色塗料の塗布量は、塗膜の所望の厚さに応じて適宜に調整される。
なお、直接重なる二つの塗膜のうちの少なくとも上の塗膜の塗料の塗布を、カーテンフローコートやスプレーコートなどの非接触な塗装方法(被塗装物への接触がない、いわゆるウェットオンウェット塗装が可能な塗装方法)で行う場合には、下の塗料の膜の硬化を上の塗料の膜の硬化と一度に同時に行うことが可能であるので、上の塗膜のための塗料を塗布する前に下の塗料の膜を硬化させる工程を省略することが可能である。
たとえば、前述した他の塗膜または皮膜の上に上記着色塗膜が直に配置される場合では、他の膜用の塗料の膜を形成し、次いで着色塗料の膜を非接触の塗装方法で形成し、次いで、他の膜とそれに重なる着色塗料の膜とを(加熱により)硬化させることが可能である。
上記着色塗料の膜の硬化は、上記塗料を金属板に加熱によって焼き付ける公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、着色塗料が塗布された金属板は、その到達温度が200〜260℃となるように加熱される。
焼き付け後の着色塗膜の冷却は、空冷、水冷、放冷、冷却部材へ接触およびこれらの組み合わせなどの公知の方法によって行うことが可能である。
上記製造方法によって製造される塗装金属板は、着色塗膜が顔料粒子を含有しているにもかかわらず十分な延性と意匠性とを有し、このため、十分な加工性を有する。また、当該塗装金属板は、着色塗膜が上記の表面粗さを有することから十分な低光沢性を有する。その理由について、以下に説明する。
一般に、塗装金属板が成形加工される際、塗装金属板が有する塗膜には引張応力がはたらき、当該塗膜は延伸する。この延伸は、最初にとある箇所にくびれ、変形、伸張をもたらし、このように変形した領域(くびれ変形部)は、引張方向に拡大(伝播)していく。
当該くびれ変形部では、塗膜を構成するフッ素樹脂の、くびれ変形前ではランダムに向いていた分子鎖が、引張応力により引張方向に配向する。このため、上記くびれ変形部において、ある程度の引張応力がかかると、それ以上引張応力がかかっても、既に配向した分子鎖は、それ以上は容易には伸びにくい。そのため、上記くびれ変形部の周囲にある「まだくびれ変形していない部位(配向していない分子鎖)」がくびれ変形する。
このような分子鎖の配向の伝播が、樹脂製の塗膜の伸び変形である。言い換えれば、樹脂製の塗膜の高い延性は、分子鎖が破断することなく、分子鎖の上記の配向の伝播が塗膜全体に進行することに起因する。なお、分子鎖の配向に必要な応力は、非晶質の樹脂よりも結晶化している樹脂の方が高い。これは、規則的に折りたたまれている結晶分子鎖同士の結合力が高いためである。
ここで、顔料粒子を含有しない樹脂製の塗膜(例えばクリヤー塗膜)の場合では、樹脂の結晶状態により変形抵抗に多少の差異があるものの、引張応力を受けて延伸変形するので、塗膜の延性は高い。これに対して、顔料粒子は、樹脂に比べて極めて硬質であり、伸びによる変形をしない。
そのため、顔料粒子を含有する樹脂製の塗膜であって、当該樹脂が結晶性樹脂である場合では、塗膜を構成している樹脂が結晶化し(非晶部分が少なくなり)、変形抵抗がより一層大きくなり、配向する分子鎖と顔料粒子との間に空隙が生まれやすい。このため、このくびれ変形部に生じた空隙に応力が集中し、空隙が成長し、その結果、塗膜の破断に至る。すなわち塗膜の延性が低い。
このくびれ変形部に発生する空隙のうち、初期に発生する空隙の大きさが、塗膜のくびれ変形部の厚み(3〜5μm程度)に対して無視できないサイズである場合、当該空隙へ応力が集中し、当該空隙が成長する。そして、この初期に発生する空隙の大きさは、塗膜中の顔料粒子の粒径と同等と考えられ、この初期の空隙の大きさが塗膜のくびれ変形部の厚みに対して十分に小さい場合、空隙への応力集中は、実質的には発生しない、と考えられる。
すなわち、塗膜中の顔料粒子の粒径がある閾値を超えるサイズであれば、空隙への上記の応力集中が起こり、また、塗膜中の顔料粒子の含有量がある閾値を超える場合では、小さな空隙が十分に密集するために大きな空隙と同様の作用を呈し、応力集中による空隙の成長、合体が生じ、上記の塗膜の破断が発生しやすい。つまり、塗膜の延性が低くなる。本実施の形態では、上記閾値について検討した結果、顔料粒子の粒径の閾値は3μmであり、顔料粒子の含有量の閾値は1体積%であることがわかった。
このように、本実施の形態により製造される塗装金属板は、着色塗膜を有するが、この着色塗膜は、意匠性を発現するのには十分であるものの、小粒径の顔料粒子を特定の量以下しか含有しない。このため、上記着色塗膜が塗装金属板の加工時に十分な延性を発現し、上記の応力集中による着色塗膜の割れが防止される。よって、当該塗装金属板では、長期保管後に加工に供されたとしても着色塗膜に割れが生じず、十分な耐食性が発現され、さらに着色塗膜による意匠性と着色塗膜による低光沢性とが発現される。
従来の一般的な外装建材用フッ素樹脂塗料は、通常、これら閾値を超えてしまう。たとえば、一般的な塗料には、塗膜表面の光沢調整を目的として光沢調整顔料が添加されている。光沢調整顔料は塗膜表面に凹凸を付与するために、その平均粒径は5〜30μm程度であり、塗膜中の含有量は1体積%超であることが一般的である。
また、顔料粒子は、一般に塗料中において凝集する性質があり、顔料粒子の凝集粒子は、くびれ変形部において大きな空隙をもたらす。本発明者は、顔料粒子の粒径が3μm以下である塗料を静置したところ、粒径3μm超の凝集粒子が当該塗料中に存在することを確認し、また、その含有量は乾燥塗膜に対して1体積%以上となることを確認した。このように、従来の外装建材用フッ素樹脂系塗装金属板では、その加工性が経時的にかつ極端に低下することがあることがわかった。
以上の説明から明らかなように、本実施の形態における塗装金属板の製造方法は、金属板上の着色塗膜の表面を算術平均粗さで50nm以上に粗す粗面化工程を含む。そして、上記着色塗膜は、50質量%以上のフッ素樹脂を含むとともに上記着色塗膜の膜構造を構成する基材樹脂と、着色顔料粒子を含むとともに上記着色塗膜中に分散されている顔料粒子とを含有し、上記着色塗膜の厚さは、50μm以下であり、上記着色塗膜における上記顔料粒子の含有量は、12体積%以下であり、上記着色塗膜における上記着色顔料粒子の含有量は、2体積%以上であり、上記着色塗膜における粒径が3μm超の粒子の含有量は、1体積%以下である。よって、本実施の形態によれば、長期保管後であっても加工性、意匠性および低光沢性を十分に有するフッ素樹脂系の塗装金属板を提供することができる。
上記粗面化工程は、上記着色塗膜の表面に凹凸を有する押圧部材を押圧する工程であってよく、この粗面化工程において、上記押圧部材を押圧するときの上記金属板の到達温度が上記フッ素樹脂の溶融温度以上であることは、着色塗膜の表面粗さを精密に制御する観点からより一層効果的である。
あるいは、上記粗面化工程は、上記着色塗膜の表面を研削する工程であってよく、この粗面化工程において上記金属板の温度が−40〜40℃であることは、着色塗膜の表面粗さを精密に制御する観点からより一層効果的である。
また、上記基材樹脂における上記フッ素樹脂の含有量が70〜85質量%であることは、塗装金属板の十分な耐候性を達成する観点からより一層効果的である。70質量%未満の場合、フッ素樹脂よりも硬質なアクリル樹脂成分が多くなるため、着色塗膜の初期加工性および経時加工性が低下する。また85質量%超の場合、フッ素塗料中のフッ素樹脂濃度が過剰のため塗料の長期保管安定性が低下する可能性があり、コスト的にも不利であり、耐候性の向上効果も少ない。
また、上記着色顔料粒子の平均粒径が2.0μm以下であることは、着色顔料粒子の含有量を(最大で5体積%まで)高める観点および塗装金属板の保管後の加工性を高める観点からより一層効果的であり、上記着色顔料粒子の平均粒径が0.5μm以下であることは、着色顔料粒子の含有量を(最大で10体積%まで)高める観点および塗装金属板の保管後の加工性を高める観点からより一層効果的である。
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
[塗装原板1〜4の作製]
板厚1.0mm、両面付着量150g/m2の溶融55%Al−Zn合金めっき鋼板をアルカリ脱脂した。これを塗装原板1とする。
塗装原板1の表面に、クロメート系防錆処理液(日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社製「サーフコートNRC300」を塗布し、塗布後の塗装原板1を水洗することなく100℃で乾燥させ、クロム換算で20mg/m2の付着量のクロメート防錆処理を行った。これを塗装原板2とする。
塗装原板2の上記のクロメート防錆処理後の表面に、下記の成分を下記の量で含有するエポキシ樹脂系の塗料を塗布し、塗装原板2におけるめっき鋼板の到達温度が200℃となるように、上記の塗布後の塗装原板2を加熱し、乾燥膜厚が5μmのクロメート系の塗膜を有するめっき鋼板を得た。これを塗装原板3とする。なお、下記クリアー塗料は、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製「NSC680」である。
クロム酸ストロンチウム 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
クリアー塗料 残り
塗装原板1の表面に、下記の成分を下記の量で含有する非クロメート防錆処理液を塗布し、塗布後の塗装原板1を水洗することなく100℃で乾燥させ、Ti換算で10mg/m2の付着量の非クロメート防錆処理を行った。
ヘキサフルオロチタン酸 55g/L
ヘキサフルオロジルコニウム酸 10g/L
アミノメチル置換ポリビニルフェノール 72g/L
水 残り
次いで、塗装原板1の上記の非クロメート防錆処理後の表面に、下記の成分を下記の量で含有するエポキシ樹脂系の下記塗料を塗布し、塗装原板1におけるめっき鋼板の到達温度が200℃となるように上記の塗布後の塗装原板1を加熱し、乾燥膜厚が5μmのクロメートフリーの塗膜を有するめっき鋼板を得た。これを塗装原板4とする。なお、下記クリアー塗料は、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製「NSC680」である。
リン酸塩混合物 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
上記クリアー塗料 残り
[クリアー塗料1〜8の調製]
日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製のフッ素樹脂系クリアー塗料「ディックフローC」をクリアー塗料1とする。クリアー塗料1は、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂とのブレンド塗料であり、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂の重量比率は85:15である。クリアー塗料1中の樹脂成分の溶融温度は180℃であり、結晶化温度は130℃である。
また、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製「Kynar500」、「KYNAR」は同社の登録商標)、アクリル樹脂(ロームアンドハース社製「Paraloid B−44」、「Paraloid」は同社の登録商標)および塗料溶剤成分(イソホロン)を混合し、クリアー塗料2〜8を得た。クリアー塗料2〜8中のポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂の重量比率は、それぞれ、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、85:15、90:10である。クリアー塗料2〜8中の樹脂成分の溶融温度はいずれも180℃であり、結晶化温度はいずれも130℃である。
[顔料粒子1〜8の調製]
酸化チタン(石原産業株式会社製「R−930」、平均粒径:0.25μm)を用意した。当該平均粒径は、顕微鏡などによる拡大観察により確認することが可能であり、あるいは、画像解析法、コールター法(例えば、ベックマン・コールター社製、精密粒度分布測定装置「Multisizer4」、動的光散乱法(例えば、株式会社島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置「SALD−7500nano」)などを用いて測定することが可能である。
次いで、上記酸化チタンから、上記平均粒径以上の粒子を分級により除去した。こうして、着色顔料粒子である顔料粒子1を得た。
酸化チタン「R−930」に代えて、鉄−クロム系複合酸化物(アサヒ化成工業株式会社製「BLACK6350」、平均粒径:0.5μm)を用い、上記平均粒径(0.5μm)で分級処理を行う以外は顔料粒子1の調製と同様にして、着色顔料粒子である顔料粒子2を得た。また、酸化チタン「R−930」に代えて、鉄−亜鉛系複合酸化物(アサヒ化成工業株式会社製「BROWN4123」、平均粒径:1.8μm)を用い、上記平均粒径(1.8μm)で分級処理を行う以外は顔料粒子1の調製と同様にして、着色顔料粒子である顔料粒子3を得た。さらに、酸化チタン「R−930」に代えて、カーボンブラック(CoalFillers製「AUSTIN BLACK325」平均粒径:5.5μm)を用い、上記平均粒径(5.5μm)で分級処理を行う以外は顔料粒子1の調製と同様にして、着色顔料粒子である顔料粒子4を得た。
また、酸化チタン「R−930」に代えて、シリカ1(富士シリシア化学株式会社製「サイリシア710」平均粒径:2.8μm)、シリカ2(富士シリシア化学株式会社製「サイリシア350」平均粒径:4.0μm)、シリカ3(富士シリシア化学株式会社製「サイリシア770」平均粒径:6.0μm)、シリカ4(富士シリシア化学株式会社製「サイリシア380」平均粒径:9.0μm)を用い、上記平均粒径(2.8μm、4.0μm、6.0μmおよび9.0μm)のそれぞれで分級処理を行う以外は顔料粒子1の調製と同様にして、光沢調整剤粒子である顔料粒子5〜8のそれぞれを得た。
[着色塗料1〜6の調製]
下記の成分を下記の量で混合し、得られた混合物を500メッシュのフィルターでろ過して凝集粒子を当該混合物から除去した。こうして、着色塗料1を得た。
顔料粒子1 15.0体積%
クリアー塗料1 残り
顔料粒子1の量を12.0体積%、10.0体積%、7.5体積%および5.0体積%にそれぞれ変更する以外は着色塗料1の調製と同様にして、着色塗料2および4〜6のそれぞれを得た。
また、着色塗料2を28℃の環境下に30日間静置した。これを着色塗料3とする。着色塗料3中の顔料粒子1の粒径分布を、株式会社島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置「SALD−7500nano」にて測定したところ、顔料粒子1の量は10.0体積%であり、その凝集物である平均粒径3.5μmの酸化チタンの凝集粒子の量が2.0体積%であり、顔料粒子1の一部が凝集していることが認められた。
[着色塗料7〜14の調製]
顔料粒子1に代えて顔料粒子2を用いる以外は着色塗料1、2および4〜6のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料7〜9、11および12のそれぞれを得た。また、顔料粒子1に代えて顔料粒子2を用い、顔料粒子2の量を2.0体積%および1.0体積%のそれぞれに変更する以外は着色塗料1の調製と同様にして、着色塗料13および14のそれぞれを得た。
また、着色塗料9を28℃の環境下に30日間静置した。これを着色塗料10とする。着色塗料10中の顔料粒子2の粒径分布を、株式会社島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置「SALD−7500nano」にて測定したところ、顔料粒子2の量は8.5体積%であり、その凝集物である平均粒径4.0μmの鉄−クロム系複合酸化物の凝集粒子の量が1.5体積%であり、顔料粒子2の一部が凝集していることが認められた。
[着色塗料15〜22の調製]
顔料粒子1に代えて顔料粒子3を用いる以外は着色塗料1、2および4〜6のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料15、16および18〜20のそれぞれを得た。また、顔料粒子1に代えて顔料粒子3を用い、顔料粒子3の量を2.0体積%および1.0体積%のそれぞれに変更する以外は着色塗料1の調製と同様にして、着色塗料21および22のそれぞれを得た。
また、着色塗料16を28℃の環境下に30日間静置した。これを着色塗料17とする。着色塗料17中の顔料粒子3の粒径分布を、株式会社島津製作所製 ナノ粒子径分布測定装置「SALD−7500nano」にて測定したところ、顔料粒子3の量は10.0体積%であり、その凝集物である平均粒径6.0μmの鉄−亜鉛系複合酸化物の凝集粒子の量が2.0体積%であり、顔料粒子3の一部が凝集していることが認められた。
[着色塗料23〜26の調製]
顔料粒子1に代えて顔料粒子4を用いる以外は着色塗料5および6のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料23および24のそれぞれを得た。また、顔料粒子1に代えて顔料粒子4を用い、顔料粒子4の量を2.0体積%および1.0体積%のそれぞれに変更する以外は着色塗料1の調製と同様にして、着色塗料25および26のそれぞれを得た。
[着色塗料27〜36の調製]
下記の成分を下記の量で混合し、得られた混合物を500メッシュのフィルターでろ過して凝集粒子を当該混合物から除去した。こうして、着色塗料27を得た。
顔料粒子2 8.5体積%
顔料粒子5 12.0体積%
クリアー塗料1 残り
顔料粒子5の量を10.0体積%、7.5体積%、5.0体積%、2.0体積%および1.0体積%のそれぞれに変更する以外は着色塗料27の調製と同様にして、着色塗料28〜32のそれぞれを得た。
顔料粒子2に代えて顔料粒子1および顔料粒子3のそれぞれを用いる以外は着色塗料32の調製と同様にして、着色塗料33および34のそれぞれを得た。また、顔料粒子5の量を0.5体積%および0.2体積%のそれぞれに変更する以外は着色塗料27の調製と同様にして、着色塗料35および36のそれぞれを得た。
[着色塗料37〜46の調製]
顔料粒子5に代えて顔料粒子6を用いる以外は着色塗料27〜36のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料37〜46のそれぞれを得た。
[着色塗料47〜51の調製]
顔料粒子5に代えて顔料粒子7を用いる以外は着色塗料30〜32、35および36のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料47〜51のそれぞれを得た。
[着色塗料52〜56の調製]
顔料粒子7に代えて顔料粒子8を用いる以外は着色塗料47〜51のそれぞれの調製と同様にして、着色塗料52〜56のそれぞれを得た。
着色塗料1〜56の顔料粒子の組成を表1および表2に示す。
[着色塗料57〜63の調製]
クリアー塗料1に代えてクリアー塗料2〜8を用いる以外は着色塗料5の調製と同様にして、着色塗料57〜63のそれぞれを得た。
[塗装金属板1の作製]
塗装原板3の表面に着色塗料1を塗布し、着色塗料1が塗布された塗装原板3をそのめっき鋼板の到達温度が250℃となるように加熱し、250℃の塗装原板3を空冷により200℃まで冷却し、まだわずかに柔らかい着色塗膜の表面に、表面粗さRaが250nmの梨地ロールを押圧し、当該塗膜の表面に梨地ロールの凹凸を転写した。なお、梨地ロールによる押圧後、塗装金属板から離れた際の塗装金属板の温度は160℃であった。次いで、凹凸転写後の上記金属板を30℃の水に浸漬してさらに冷却し、次いで、水中より取り出しガーゼで水分をふき取り、30℃で1時間乾燥させた。こうして、厚さ25μmの着色塗膜を有する塗装金属板1を作製した。塗装金属板1のRaは270nmであった。
[塗装金属板2〜63の作製]
着色塗料1に代えて着色塗料2〜63のそれぞれを用いる以外は塗装金属板1の作製と同様にして、塗装金属板2〜63のそれぞれを作製した。塗装金属板2〜63のRaは、いずれも、270〜290nmの範囲内であった。
[塗装金属板64〜66の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板1、2および4のそれぞれを用いる以外は塗装金属板5の作製と同様にして、塗装金属板64〜66のそれぞれを作製した。塗装金属板64〜66のRaは、いずれも、270〜285nmの範囲内であった。
[塗装金属板67の作製]
エンボス工程における梨地ロールを、表面粗さRaが150nmの梨地ロールに変更する以外は塗装金属板5の作製と同様にして、塗装金属板67を作製した。塗装金属板67のRaは164nmであった。
[塗装金属板68の作製]
塗装原板3の表面に着色塗料1を塗布し、着色塗料1が塗布された塗装原板3をそのめっき鋼板の到達温度が250℃となるように加熱し、着色塗料が塗布された250℃の金属板を30℃の水に浸漬することによって700℃/秒の速度で30℃まで冷却し、ガーゼで水分をふき取り、30℃で1時間乾燥させた。次いで、得られた塗装金属板の着色塗膜の表面にブラスト装置(株式会社不二製作所製「ニューマブラスターSCM−1ADE−401」)を用いて、投射材(平均粒径400μmのナイロン樹脂ビーズ)を、吐出圧0.2MPaの空気で吹き付けて当該表面を粗し、こうして、塗装金属板68を作製した。塗装金属板68のRaは735nmであった。なお、当該粗面化工程における塗装金属板の温度は25℃であった。
[塗装金属板69〜130の作製]
着色塗料1に代えて着色塗料2〜63のそれぞれを用いる以外は塗装金属板68の作製と同様にして、塗装金属板69〜130のそれぞれを作製した。塗装金属板69〜130のRaは、いずれも、340〜810nmの範囲内であった。
[塗装金属板131〜133の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板1、2および4のそれぞれを用いる以外は塗装金属板72の作製と同様にして、塗装金属板131〜133のそれぞれを作製した。塗装金属板131〜133のRaは、いずれも、590〜610nmの範囲内であった。
[塗装金属板134の作製]
研削工程における投射材を、平均粒径200μmのナイロン樹脂製ビーズに変更する以外は塗装金属板72の作製と同様にして、塗装金属板134を作製した。塗装金属板134のRaは210nmであった。
[塗装金属板135の作製]
研削工程における投射材を、平均粒径50μmのナイロン樹脂製ビーズに変更する以外は塗装金属板72の作製と同様にして、塗装金属板135を作製した。塗装金属板135のRaは159nmであった。
[評価]
(1)初期加工性
塗装金属板1〜135のそれぞれを4T折り曲げ加工し、JISK5600−7−1にて規定される塩水噴霧試験に500時間供し、上記の折り曲げを施した加工部の腐食状態を以下の基準により評価した。下記「○」の評価は、この程度であれば、長期間の屋外耐久性を有している、と考えられる。
◎:サビ、フクレ等の異常なし
○:1、2ヶ所、微小なフクレあるいはサビが発生
×:加工部全体にサビ発生(実用上問題あり)
(2)保管後の加工性
塗装金属板1〜135のそれぞれを60℃の環境下に7日間静置し、次いで上記の4T折り曲げ加工し、JISK5600−7−1にて規定される塩水噴霧試験に500時間供し、上記の折り曲げを施した加工部の腐食状態を以下の基準により評価した。なお、上記静置条件は、長期常温保管によるフッ素樹脂の結晶化および延性低下を再現した条件である。
◎:サビ、フクレ等の異常なし
○:1、2ヶ所、微小なフクレあるいはサビが発生
×:加工部全体にサビ発生(実用上問題あり)
(3)色調
塗装金属板1〜135のそれぞれと、それと同じクリアー塗料樹脂成分および顔料粒子を有する基準塗装金属板とを、JISZ8722の5(分光測色方法)により測色し、その色差を求めた。当該色差が1.5以下となる場合を合格とする。
上記基準塗装金属板は、塗装原板3、および、その表面に配置されている厚さ25μmの着色塗膜、を有し、当該着色塗膜は、クリアー塗料1〜8のいずれかによる塗膜であり、10体積%の着色顔料粒子、および、1.5体積%の光沢調整剤粒子(シリカ4、富士シリシア化学株式会社製「サイリシア770」平均粒径:6.0μm)、を含有する。当該基準塗装金属板の構成は、従来の外装建材用フッ素樹脂塗装金属板の代表的な塗膜構成の一つである。
(4)光沢性
塗装金属板1〜135のそれぞれの、JISK5600−4−7で規定される60度における鏡面光沢度(G60)を測定した。外装用途であれば40以下を合格とすることができる。
塗装金属板1〜135の構成、物性および評価結果を表3〜表6に示す。
[加工性]
表3〜表6から明らかなように、いずれの塗装金属板においても、初期加工性は良好である。作製直後においては、フッ素樹脂の経時的な結晶化が生じておらず、着色塗膜がきわめて延性の高い状態であり、このため、着色塗膜中の顔料粒子の粒径や含有量にかかわらず、いずれの塗装金属板の着色塗膜も、高い延性を有していると考えられる。
しかしながら、着色塗膜中の顔料粒子の総含有率が12体積%超、あるいは、当該顔料粒子の粒径が3μm超である粒子の含有量が1体積%超、あるいは着色塗膜中の基材樹脂におけるフッ素樹脂の含有量が50質量%未満である塗装金属板では、保管後の加工性が不十分となっている。たとえば、エンボス工程による粗面化であれば、塗装金属板1、3、7、10、15、17、23〜25、27〜30、37〜41、47、48、52、53および57であり、研削工程による粗面化であれば、塗装金属板68、70、74、77、82、84、90〜92、94〜97、104〜108、114、115、119、120および124である。その理由は、保管に伴い着色塗膜を構成しているフッ素樹脂の結晶化が進行し、折り曲げ加工時に着色塗膜に形成された空隙が応力集中によって成長し、着色塗膜を横断する腐食因子の通路が形成されたため、あるいは、フッ素樹脂の含有量が低い場合、結晶化したフッ素樹脂よりもさらに延性が低いアクリル樹脂の含有量が相対的に高くなり、空隙への応力集中がさらに増したため、と考えられる。
一方で、着色塗膜中の顔料粒子の平均粒径が2.0μm以下で、着色塗膜中の基材樹脂におけるフッ素樹脂の含有量が70質量%以上であれば、保管後の加工性も十分である。そして、特に、例えば、塗装金属板4〜6、9、11〜14、20〜22、34〜36、46、60〜67、71〜73、76、78〜81、87〜89、101〜103、113、127〜135から明らかなように、当該顔料粒子の平均粒径が小さい程、あるいは当該顔料粒子の含有量が少ない程、あるいは当該顔料粒子のうちの比較的大きな粒子の含有量が十分に少ない程、あるいは着色塗膜中の基材樹脂におけるフッ素樹脂の含有量が高い程、保管後の加工性がより良好になることがわかる。フッ素樹脂の含有量が高くなると、結晶化したフッ素樹脂よりもさらに延性が低いアクリル樹脂の含有量が相対的に低くなったため、と考えられる。
[色調]
表3〜表6から明らかなように、着色塗膜における着色顔料の含有量が2.0体積%以上であれば、基準塗装金属板との色差が1.5以下であり、所期の意匠性が発現されていることがわかる。しかしながら、例えば、塗装金属板14、22、26、81、89および93から明らかなように、上記含有量が2体積%未満の場合では、基準板との色差が1.5よりも大きくなった。これは、着色塗膜中の着色顔料粒子による色隠蔽性が不十分となり、下地の色調が強く透けてみえたため、と考えられる。
[低光沢性]
表3〜表6から明らかなように、着色塗膜の表面が粗面化工程によって粗される場合では、着色塗膜中の顔料粒子の平均粒径が大きい程、あるいは、当該顔料粒子の含有量が多い程、着色塗膜の表面の算術平均粗さRaが高いことがわかる。たとえば、研削工程による粗面化では、着色塗膜中において硬質な顔料粒子は投射材によって研削されにくいため、顔料粒子よりも軟質な樹脂相が優先的に研削されることで、凹凸が大きくなると考えられる。また、着色塗膜の表面の算術平均粗さRaが200nm以上であると、G60が40以下となることがわかる。また、着色塗膜の表面の算術平均粗さRaが高いほど鏡面光沢度G60は低くなる傾向が見られる。