JP7280623B2 - 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法 - Google Patents

細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7280623B2
JP7280623B2 JP2020219323A JP2020219323A JP7280623B2 JP 7280623 B2 JP7280623 B2 JP 7280623B2 JP 2020219323 A JP2020219323 A JP 2020219323A JP 2020219323 A JP2020219323 A JP 2020219323A JP 7280623 B2 JP7280623 B2 JP 7280623B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cell
sample
freezing
cell cryopreservation
cryopreservation solution
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2020219323A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2022104240A (ja
Inventor
華奈 奥田
哲男 大和田
Original Assignee
株式会社アビー
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by 株式会社アビー filed Critical 株式会社アビー
Priority to JP2020219323A priority Critical patent/JP7280623B2/ja
Publication of JP2022104240A publication Critical patent/JP2022104240A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7280623B2 publication Critical patent/JP7280623B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Description

本発明は細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法に関する。
近年、各種臓器の細胞組織や多能性細胞等を凍結保存しておき、移植等の治療時に凍結保存しておいた細胞を解凍して利用する、細胞凍結技術が注目されている。細胞組織の一般的な凍結方法は、例えば、細胞組織に、生理食塩水に各種添加剤を添加した凍結保存液を加えた細胞懸濁液を作製し、その細胞懸濁液が入った容器(クライオチューブなど)を、2-プロパノールで満たされた細胞凍結容器内に設置し、その細胞凍結容器を、冷凍装置の冷凍庫内に保持することで行われる。
より具体的は、プログラムフリーザーなどを用いて所定の降温速度(例えば、1℃/min等)で所定の温度(例えば、-80℃)まで冷却することで行われる。あるいは、細胞凍結容器を所定の温度に設定された冷凍庫内に所定時間(例えば、24H)保持することで行われる。そして、凍結後の細胞懸濁液が入った容器を液体窒素に浸漬して凍結細胞を保存する。
なお、以下の非特許文献1や2にはiPS細胞の凍結保存技術について記載されている。また以下の非特許文献3には、iPS細胞などの細胞組織の凍結保存方法や細胞組織用の凍結保存液の概略について記載されている。以下の特許文献1や非特許文献4には、細胞毒性が低い細胞凍結保存液である細胞凍結保存用組成物について記載されている。以下の特許文献2には、本発明の実施例に関連して、磁場を印加しながら細胞を凍結させるための冷凍装置について記載されている。
特開2006-115837号公報 特開2017-104061号公報
京都大学、"ヒトiPS細胞の効果的凍結保存法の確立"、[online]、[令和2年12月20日検索]、インターネット<URL:http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2010/101201_3.htm> 公益社団法人日本生物工学会、" 霊長類ES/iPS細胞の凍結保存"、[online]、[令和2年12月20日検索]、インターネット<URL:https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9009/9009_tokushu-1_3.pdf> ゼノアックリソース株式会社、"STEM-CELLBANKER GMP grade 製品案内(「STEM-CELLBANKER」は登録商標)"、[online]、[令和2年12月20日検索]、インターネット<URL:http://www.zenoaq.jp/zenoaq_resource/stem-cellbanker.html> ナカライテスク株式会社、"細胞保存液 Cell Reservoir One"、[online]、[令和2年12月20日検索]、インターネット<URL:https://www.nacalai.co.jp/products/entry/d001007.html>
一般的な細胞凍結保存液は、非特許文献3に記載されているように、添加剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を含んでいる。しかし、DSMOには細胞毒性があることが知られている。したがって、現在の実験レベルや臨床レベルにある、医療用途の細胞凍結保存技術を、今後の実用レベルにまで移行させていくことを考慮すると、細胞凍結保存液にはより高い安全性が求められる。もちろん、細胞凍結保存液には、安全性ととともに、解凍時に高い細胞生存率を有することも求められている。
上記特許文献1や非特許文献4に記載の細胞凍結保存液は、絹タンパク質であるセリシンを主とした添加剤を含み、さらに、これらの文献にはDSMOを含まないものについても開示されている。しかしながら、セリシンは、マユ由来の絹タンパク質を原料とし、製糸過程の製錬工程で発生する排水中から抽出して精製して得ることから、より低いコストで製造することが難しい。また、原料の入手先も限定される。
医療用途の細胞凍結技術を実用レベルにまで引き上げるためには、安全性と細胞生存率が高く、かつ安価で入手が容易な原料を用いた細胞凍結保存液が必要となる。
そこで本発明は、解凍後の細胞生存率が高く、安全性に優れた安価で、原料の入手が容易な細胞凍結保存液と、この細胞凍結保存液を用いた細胞凍結方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水を溶媒とし、添加剤として主成分の添加剤と副成分の添加剤のみが添加されてなり、前記主成分の添加剤はトレハロースであり、前記副成分の添加剤はコンドロイチン硫酸である、細胞凍結保存液である。
前記ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水中に200mM以上300mM以下の濃度で前記トレハロースが含まれるトレハロース溶液に前記コンドロイチン硫酸が添加されてなる細胞凍結保存液とすれば好ましい。さらに、前記コンドロイチン硫酸が5vol%以上~10vol%以下の割合で含まれている細胞凍結保存液とすればより好ましい。
本発明の態様には、上記細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法も含まれ、当該方法は、
凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
前記サンプルが収納された第1の容器を、2-プロパノールで満たされた第2の容器内に設置するするサンプル設置ステップと、
前記サンプル設置ステップに次いで、前記第2の容器を冷凍庫内に載置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
を含み、
前記凍結ステップでは、前記冷凍庫内に磁場を発生させて、当該磁場を前記サンプルに印加するとともに、-50℃以上-30℃以下の温度まで徐冷するとともに、当該温度で所定時間維持する、
細胞凍結方法としている。
本発明によれば、解凍後の細胞生存率が高く、安価で安全性に優れた細胞凍結保存液、その細胞凍結保存液を用いた細胞凍結方法が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
凍結槽内に磁場を発生することができる磁場発生式冷凍装置の外観の一例を示す図である。 上記磁場発生式冷凍装置の構成の一例を示す図である。 HEK293細胞(試験用細胞)に生理食塩水(D-PBS)に各種糖類が添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。 上記試験用細胞に、上記D-PBSにトレハロースと各種タンパク質とが添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。 上記試験用細胞に、上記D-PBSにトレハロースが所定の濃度で含まれる溶液にコンドロイチン硫酸が各種添加量で添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。 上記試験用細胞に、上記D-PBSに上記トレハロースと上記コンドロイチン硫酸とが添加された細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを、磁場発生式冷凍装置を用いて各種温度で凍結させて解凍したときの細胞生存率を示す図である。
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。
===第1の実施例===
<主添加物>
上述したように、医療用途の細胞凍結保存技術を実用化させるためには、高い安全性と高い細胞生存率とに加え、低価格で入手が容易であることも重要となる。そこで本発明者は、食品由来の物質を細胞凍結保存液に用いることを検討し、その上で、より高い細胞生存率を達成するべく鋭意研究を重ねた。そして、本発明に想到した。
本発明の実施例に係る細胞凍結保存液は、食品由来の物質を添加剤として含んでいる。食品由来の細胞凍結保存液の添加物としては、上記特許文献1にも記載されているように、糖類がある。そこでまず、主となる添加剤として糖類を含む凍結保存液を用いた細胞懸濁液をサンプルとし、そのサンプルを凍結させ、解凍後の細胞生存率を調べた。
<サンプルの作製手順>
以下、サンプルの作製手順、サンプルの凍結手順、及びサンプルの解凍手順について、その一例を具体的に説明する。なお、ここでは、凍結対象となる細胞組織として、ヒト胎児由来腎細胞株(HEK293A)を培養して得たHEK293細胞を採用した。
サンプルの作製手順は、まず、ヒト胎児由来腎細胞株(HEK293A)を、基本培地であるDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco's Modified Eagle's Medium)に対してウシ胎児血清(FBS)及びペニシリンストレプトマイシンを、夫々10vol%及び1vol%加えた培地を用いて、温度37℃、CO濃度5%の環境下で培養してHEK293細胞(以下、「試験用細胞」と言うことがある。)を得る。次に、試験用細胞に細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとする。なお、細胞懸濁液における細胞濃度は1×10(cells/ml)とした。
サンプルに用いた細胞凍結保存液は、D-PBS(ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水)を主成分として糖類が添加されたものであり、サンプルに応じて糖類の種類が異なっている。また、各細胞凍結保存液における糖類の濃度は、サンプルごとにD-PBSの量を変えることで一律に200mMとした。
次に、クライオチューブを第1の容器として、当該第1の容器(以下、「チューブ」と言うことがある。)に500μlのサンプルを入れた。次いで、サンプルが入ったチューブを、2-プロパノールで満たされた第2の容器である凍結保存容器内に設置し、その凍結保存容器(以下、「容器」と言うことがある。)を後述する冷凍装置を用いてサンプルを凍結させた。
解凍は、凍結したサンプルが入ったチューブが設置された凍結保存容器を、37℃の恒温槽に1分間保持する手順で行った。そして、各サンプルに対し、上述した手順で凍結して解凍する凍結解凍試験を行い、解凍後のサンプル内において生存している細胞の数を計測し、凍結前の細胞の数と解凍後の生存細胞の数とに基づいて細胞生存率を求めた。なお、生存細胞の数は、フロートサイトメーターによる自動解析により、視細染色色素(PI)を用いて染色したサンプル内の試験用細胞の生死判定を行うことで計測した。
<冷凍装置>
細胞懸濁液を凍結させるための従来の手順は、プログラムフリーザーの冷凍庫内にサンプルを載置し、冷凍庫内を室温から所定の降温速度(例えば、-1℃/min)で-80℃程度の極低温にまで冷却して凍結させる。-80℃の温度に設定した冷凍庫内にサンプルを投入する凍結方法もある。なお、以下では、これらの手順による凍結方法を一般凍結方法と称することとする。
ところで、実施例に係る細胞凍結保存液は、細胞内に浸透するDMSOを含むものとは異なり、添加剤として糖類を含んでいる。周知のごとく糖類は、毒性がなく、脂溶性でないことから、-80℃の極低温の温度下で凍結させる一般凍結方法を用いてサンプルを凍結させるとサンプルを適切に評価できない可能性がある。
具体的には、細胞を凍結させる際、細胞外の氷晶形成より、細胞内の氷晶形成が細胞の生存率に大きく影響する。そのため、DMSOを含む細胞凍結保存液を用いてサンプルを凍結させる場合、一般凍結方法により、細胞内に凍結保護剤であるDMSOを十分に浸透させ,細胞内の氷のもとになる自由水と凍結保護剤とを置換し、氷晶形成による細胞内の器官(オーガナイザー)の損傷を抑制することが重要となる。
一方、実施例に係る細胞凍結保存液では、添加剤として分子量が大きい糖類を用いているため、細胞内に浸透し難い。そのため、細胞内の自由水を可能な限り脱水する、あるいは細胞内の浸透圧がある程度保たれるように、超過冷却状態となる温度(例えば、-30℃)で維持することで一気に凍結させる方法が適していると考えることができる。そして、実施例に係る細胞凍結保存液の性能を正しく評価するためには、添加物の物性を考慮した適切な方法でサンプルを凍結させて、異なる添加物同士での性能比較ができるようにすることが必要である。
そこで、サンプルの凍結には、上記特許文献2に記載の冷凍装置と同様の冷凍装置を用いることとした。この種の冷凍装置は、冷凍庫内に磁場を発生させることが可能なものであり、上記特許文献2では、従来のDMSOを含む細胞凍結保存液を用いたサンプルを、当該文献に記載の冷凍装置を用いてサンプルに磁場を印加させながら凍結させている。そして、生存率等が向上することも開示されている。そこで、実施例に係る細胞凍結保存液を評価するために作製した種々のサンプルは、基本的に、この種の冷凍装置(以下、「磁場発生式冷凍装置」と言うことがある。)を用いて、磁界中で凍結させることとしている。
参考までに、図1と図2に、磁場発生式冷凍装置1の一例を示した。図1は、磁場発生式冷凍装置1の外観図であり、図2は磁場発生式冷凍装置1の概略構成を示している。
図1に示した磁場発生式冷凍装置1は、水平面に載置した状態で上下方向に長い箱状の冷凍装置本体(以下、本体10とも言う)と本体10とケーブル2で接続された制御ユニット20とから構成されている。制御ユニット20は、本体10の動作を制御したり、本体の動作状態を監視したりするための装置であり、ユーザインタフェースとして、各種設定操作を受け付ける入力部(23、26)や、本体10の設定状態等を表示する表示部(24、27)を備える。
図2に示したように、本体10は内部に冷凍庫(以下、「凍結槽」と言うことがある。)11、スターリング冷凍機等の冷凍機12、熱交換器である冷却ヘッド13、ヒーター14、凍結槽11内の温度を監視する温度センサ15、および凍結槽11内に磁場を発生させるためのコイル16などを含んで構成されている。なおコイル16を構成する導線は、例えば、上下方向を軸として凍結槽11の周囲に矩形状に巻回される。また冷却ヘッド13は上面が凍結槽の底面を構成し、この冷却ヘッド13内にヒーター14と温度センサ15が組み込まれている。それによって凍結槽11内がこの冷却ヘッド13を介して直接冷却あるいは加温される。
<試験結果>
糖類の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルを、上記磁場発生式冷凍装置(CAS-LAB1、株式会社アビー製)の凍結槽に入れ、-2℃/minの降温速度で-30℃まで冷却し、-30℃の温度で10分間維持した。なお、降温過程および-30℃での維持期間では、周波数50Hz、磁束密度0.30~0.31mTの磁場をサンプルに印加した。そして、-30℃でサンプルを維持した後、-80℃の冷凍庫にサンプルを移し、24H保管した。このようにして凍結、保管したサンプルを、上記の方法で解凍し、細胞生存率を調べた。なお、以下に示す各サンプルについても、断りがない限り、同様の条件で凍結させ、同様の方法で解凍した。
図3に糖類の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルの夫々における細胞生存率を示した。図3に示したように、添加剤にトレハロースを用いたサンプルでは細胞生存率が50%を上回った。
<添加物の副成分>
上述したように、細胞毒性のある添加剤を含まず食品由来の糖類であるトレハロースを添加剤とした細胞凍結保存液を用いることで、少なくとも50%以上の細胞生存率が得られることがわかった。そこで、細胞生存率をさらに向上させるために、トレハロースを添加剤の主成分として、このトレハロースとトレハロース以外の副成分とからなる添加剤を含む細胞凍結保存液を用いてサンプルを作製した。そして、上記と同様の手順でサンプルに対する凍結解凍試験を行って、サンプルの細胞生存率を調べた。
ここでは、添加剤の副成分として、各種タンパク質を用いた。タンパク質は、糖と同様に、生体において極めて重要な高分子であるとともに、生体においては水を溶媒としていることから、生理食塩水であるD-PBSに対する添加剤として糖とタンパク質とを含んだ細胞凍結保存液であれば、添加剤と水との相互作用(水和)によって、凍結時の細胞の破壊を抑制し、かつ解凍後の細胞生存率も向上すると仮定した。そして、細胞凍結保存液の添加剤として実績のある、特許文献1や非特許文献4に記載のセリシンや、FBS、ウシ血清アルブミン(BSA)を副成分として選定した。
さらに、セリシン、FBS、BSAは、決して安価とは言えないことから、細胞凍結保存液用としては全く実績のない添加剤についても検討する必要があると考え、コンドロイチン硫酸を選定した。コンドロイチン硫酸としては、例えば、豚軟骨を原料として、コンドロイチン硫酸Aを多く含む豚軟骨抽出物がある。この種のコンドロイチン硫酸は、サプリメント等の原料として広く使用されており、安全性が高く、極めて安価に、かつ容易に入手できる。
そこで、D-PBSを溶媒とした濃度200mMのトレハロース溶液に上記副成分のいずれかを加えてなる各種細胞凍結保存液を作製し、夫々の細胞凍結保存液を用いた細胞懸濁液をサンプルとした。なお、細胞凍結保存液中の副成分の濃度は、10vol%とした。
図4に、副成分の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルに対する凍結解凍試験後の細胞生存率を示した。図4に示したように、添加剤の副成分としてコンドロイチン硫酸を含んだ細胞凍結保存液を用いたサンプルでは、細胞生存率が89.0%で、当該サンプルは他の副成分を用いたサンプルに対して特異的に細胞生存率が高かった。したがって、細胞生存率を向上させるためには、細胞凍結保存液の添加物にトレハロースとコンドロイチン硫酸とを用いることが有効である。
細胞凍結保存液の添加剤として用いたトレハロースとコンドロイチン硫酸は、上述したように、食品由来の高い安全性を有する添加剤であり、かつ安価で入手も容易である。第1の実施例に係る細胞凍結保存液は、こられの添加剤を含む細胞凍結保存液であり、第1の実施例に係る細胞凍結保存液は、凍結細胞を利用した医療の実用化にも寄与するものと考えられる。
<細胞凍結保存液の最適化>
次に、D-PBSを溶媒とし、糖濃度が300mMのトレハロース溶液に対してコンドロイチン硫酸の添加量を変え、細胞凍結保存液中のコンドロイチン硫酸の濃度が異なる各種細胞凍結保存液を調製して、上記と同様の細胞懸濁液を作製した。そして、これらの細胞懸濁液をサンプルとして、各サンプルに対して上記と同様の手順で凍結保存試験を行った後、各サンプルにおける細胞生存率を調べた。
図5に、コンドロイチン硫酸の濃度が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルの細胞生存率を示した。図5に示した各サンプルの細胞生存率から、コンドロイチン硫酸が微量(0.1vol%)含まれているサンプルであっても、約80%の細胞生存率が得られた。そして、コンドロイチン硫酸の濃度が5.0vol%以上では90%前後の極めて高い細胞生存率が得られた。
そして、先に図4に示した、200mMのトレハロース溶液を用いてコンドロイチン硫酸の濃度を10vol%としたサンプルの生存率と、図5に示した300mMのトレハロース溶液を用いてコンドロイチン硫酸の濃度を10vol%としたサンプルの生存率とが同じ89.0%であることを考慮すれば、トレハロース溶液の濃度は200mM以上300mM以下のトレハロース溶液であれば、より確実に80%前後の高い細胞生存率が得られると考えられる。また、コンドロイチン硫酸の濃度を5.0vol%以上とすれば、90%前後の極めて高い細胞生存率が得られることもわかった。
なお、コンドロイチン硫酸の濃度の上限は、特に規定されるものではないが、図4、図5に示された試験結果から、少なくとも10vol%の濃度までであれば、安定して高い細胞生存率が得られると言える。さらに、図5に示したように、コンドロイチン硫酸の濃度と細胞生存率とは5.0vol%付近で閾値があるように見えるものの、明確な相関性が見いだせなかったことから、濃度をより高くする必要はないと考えるのが妥当である。したがって、コンドロイチン硫酸の濃度の上限は、10vol%とすることが現実的である。
いずれにしても、実施例に係る細胞凍結保存液の技術的意義は、従来の用途からでは想到し得なかったコンドロイチン硫酸が細胞凍結保存液の添加剤として利用でき、しかも、コンドロイチン硫酸を添加剤とすることで、高い安全性を確保しつつ、想定外の高い効果を奏することが確認されたことにある。
<凍結温度>
実施例に係る細胞凍結保存液を用いた上記の凍結解凍試験では、磁場発生式冷凍装置によってサンプルを凍結させた後、-80℃の温度に設定された冷凍庫内でサンプルを24H保持していた。すなわち、磁場発生式冷凍装置を用いて磁場を印加することで凍結温度を一般凍結法の-80℃に対して50℃も高い-30℃で凍結させていた。
一般凍結法では、凍結温度となる-80℃にまで冷凍庫内を冷却することになり、冷凍庫内が設定した凍結温度に達するまでに長い時間が掛かる。当然、冷凍装置の消費電力量も嵩む。そのため、一般凍結法では、試料を凍結する度に、多大な時間と冷凍庫の運転コストとが掛かることになる。したがって、試料を極低温で凍結さる場合、時間も含めた総合的なコストを考慮すれば、プログラムフリーザーを用いて冷凍庫内を設定した凍結温度まで所定の降温速度で徐冷するより、冷凍庫内を凍結温度の状態で維持しておき、その凍結温度にある冷凍庫内に試料を入れて凍結させる方が好ましい。
そこで、実施例に係る細胞凍結保存液を用いつつ、総合的なコストを考慮した凍結方法法について検討した。具体的には、上記試験用細胞と、300mMのトレハロース溶液に10vol%のコンドロイチン硫酸を含む細胞凍結保存液とを用いた細胞懸濁液をサンプルとして作製した。次いで、そのサンプルを、磁場発生式冷凍装置を用いつつ、凍結温度を変えて凍結させる磁場印加凍結試験と、-80℃の温度に維持された冷凍庫内にサンプルを載置する方式での一般凍結法による凍結試験とを行った。また、磁場印加凍結試験では、周囲温度の状態にある冷凍庫内にサンプルを載置した上で冷凍庫内を-20℃、-30℃、及び-50℃のいずれかの凍結温度まで降温させ、各凍結温度で10分間維持することでサンプルを凍結させた。そして、一般凍結法での凍結試験後、及び各温度での磁場印加凍結試験後のサンプルを-80℃の温度に設定された冷凍庫内で24H保持し、その後解凍して細胞生存率を調べた。磁場印加凍結試験では、周波数50Hz、磁束密度0.30~0.31mTの磁場をサンプルに印加しつつ、-2℃/minの降温速度で各温度まで冷却したのち、その温度を10分間維持することでサンプルを凍結させた。
図6に、磁場印加凍結試験の結果を示した。図6に示したように、磁場を印加しながらの凍結方法(以下、「磁場印加凍結方法」と言うことがある。)によってサンプルを冷却することで、高い温度でかつ極めて短い時間(10分)でサンプルを凍結させることができ、解凍後の細胞生存率も一般凍結方法で凍結させたサンプルよりも高くなった。特に、磁場を印加しつつ-30℃の温度で凍結させたサンプルは、高い細胞生存率(89.2%)を示した。
このように、実施例に係る細胞凍結保存液と、磁場発生式冷凍装置とを用いて細胞を凍結させれば、細胞生存率を向上させることができるとともに、細胞の凍結コストを低減させることが可能となる。すなわち、細胞生存率の向上と凍結コストの低減との相乗効果により、医療用途の細胞凍結技術の実用化可能性をより高めることができる。そして、サンプルに印加する磁束密度や冷凍庫内の温度、あるいは冷却手順を最適化すれば、さらに生存率を高めることが期待できる。
===補足説明、その他の実施例===
上記各実施例では、試験用細胞としてHEK293細胞を用いていたが、上記各実施例は、他の細胞にも適用可能である。
上記サンプルは、試験を行う際にその都度調製されたものである。そのため、実施例において使用されたサンプルは、作製条件や試験方法が同じであっても、細胞生存率等の試験結果が若干異なる場合がある。
図1、図2に示した磁場発生式冷凍装置1は、磁場発生式冷凍装置の基本的、或いは代表的な構成を説明するためのものであり、上記各サンプルの凍結試験に使用された磁場発生式冷凍装置や、実用時に導入される磁場発生式冷凍装置とは、当然のことながら、外観、細部の構成、仕様等が異なる場合がある。
1 磁場発生式冷凍装置、10 冷凍装置本体、11 凍結槽(冷凍庫)、
12 冷凍機、15 温度センサ、16 コイル、20 制御ユニット、
22 コイル制御部、25 温度制御部

Claims (4)

  1. ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水を溶媒とし、添加剤として主成分の添加剤と副成分の添加剤のみが添加されてなり、
    前記主成分の添加剤はトレハロースであり、
    前記副成分の添加剤はコンドロイチン硫酸である、
    細胞凍結保存液。
  2. 請求項1に記載の細胞凍結保存液であって、前記ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水中に200mM以上300mM以下の濃度で前記トレハロースが含まれるトレハロース溶液に前記コンドロイチン硫酸が添加されてなる、細胞凍結保存液。
  3. 請求項2に記載の細胞保存凍結液であって、前記コンドロイチン硫酸が5vol%以上~10vol%以下の割合で含まれている、細胞凍結保存液。
  4. 請求項1~請求項3のいずれかに記載の細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法であって、
    凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
    前記サンプルが収納された第1の容器を、2-プロパノールで満たされた第2の容器内に設置するするサンプル設置ステップと、
    前記サンプル設置ステップに次いで、前記第2の容器を冷凍庫内に載置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
    を含み、
    前記凍結ステップでは、前記冷凍庫内に磁場を発生させて、当該磁場を前記サンプルに印加するとともに、-50℃以上-30℃以下の温度まで徐冷するとともに、当該温度で所定時間維持する、
    細胞凍結方法。
JP2020219323A 2020-12-28 2020-12-28 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法 Active JP7280623B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020219323A JP7280623B2 (ja) 2020-12-28 2020-12-28 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020219323A JP7280623B2 (ja) 2020-12-28 2020-12-28 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2022104240A JP2022104240A (ja) 2022-07-08
JP7280623B2 true JP7280623B2 (ja) 2023-05-24

Family

ID=82280241

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2020219323A Active JP7280623B2 (ja) 2020-12-28 2020-12-28 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7280623B2 (ja)

Citations (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006115837A (ja) 2004-09-24 2006-05-11 Seiren Co Ltd 細胞凍結保存用組成物
CN101720253A (zh) 2007-07-11 2010-06-02 林德股份公司 用于乙烯二聚、三聚和/或四聚的催化剂组合物和方法
CN101720753A (zh) 2009-12-09 2010-06-09 中国人民解放军第四军医大学 组织工程产品的低温保存液及其使用方法
JP2019504643A (ja) 2016-02-01 2019-02-21 グリーン・クロス・ラブ・セル・コーポレイション 細胞の凍結保存のための培地組成物およびその使用
JP2019024325A (ja) 2017-07-25 2019-02-21 国立大学法人京都大学 ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞の凍結方法
CN109845728A (zh) 2019-03-25 2019-06-07 西安医斯美生物科技有限公司 临床应用级别的脂肪组织冻存液及冻存方法
JP2019533442A (ja) 2016-10-04 2019-11-21 アルブミディクス リミティド 組換え酵母由来血清アルブミンの使用
WO2020165152A1 (en) 2019-02-13 2020-08-20 Tigenix, S.A.U. Cryopreservation of stem cells

Patent Citations (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006115837A (ja) 2004-09-24 2006-05-11 Seiren Co Ltd 細胞凍結保存用組成物
CN101720253A (zh) 2007-07-11 2010-06-02 林德股份公司 用于乙烯二聚、三聚和/或四聚的催化剂组合物和方法
CN101720753A (zh) 2009-12-09 2010-06-09 中国人民解放军第四军医大学 组织工程产品的低温保存液及其使用方法
JP2019504643A (ja) 2016-02-01 2019-02-21 グリーン・クロス・ラブ・セル・コーポレイション 細胞の凍結保存のための培地組成物およびその使用
JP2019533442A (ja) 2016-10-04 2019-11-21 アルブミディクス リミティド 組換え酵母由来血清アルブミンの使用
JP2019024325A (ja) 2017-07-25 2019-02-21 国立大学法人京都大学 ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞の凍結方法
WO2020165152A1 (en) 2019-02-13 2020-08-20 Tigenix, S.A.U. Cryopreservation of stem cells
CN109845728A (zh) 2019-03-25 2019-06-07 西安医斯美生物科技有限公司 临床应用级别的脂肪组织冻存液及冻存方法

Non-Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Cryobiology, 2009, 58(1): pp. 28-36
Cryobiology, 2018, 83: pp. 97-99
Cryobiology, 2020, 96: pp. 1-11
化学便覧 基礎編I 改訂5版(2004) 丸善株式会社 p. 653
実験医学別冊 目的別で選べる細胞培養プロトコール 第1刷(2012年) 株式会社 羊土社 pp. 88-89

Also Published As

Publication number Publication date
JP2022104240A (ja) 2022-07-08

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Huang et al. Predehydration and ice seeding in the presence of trehalose enable cell cryopreservation
CN104145943A (zh) 一种人脐带华通氏胶组织的冻存保护液及其制备与应用
SCHACHAR et al. Investigations of low-temperature storage of articular cartilage for transplantation.
EA028147B1 (ru) Криозащитный агент, содержащая его композиция и способ криоконсервирования
US20230371499A1 (en) Ice Nucleation Formulations for Cryopreservation and Stabilization of Biologics
Wowk et al. Vitrification tendency and stability of DP6-based vitrification solutions for complex tissue cryopreservation
Gavish et al. Cryopreservation of whole murine and porcine livers
JP2017104061A (ja) ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法
Han et al. Engineering challenges in tissue preservation
JP7280623B2 (ja) 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法
JP7318983B2 (ja) 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法
Yang et al. Effect of cryoprotectants on rat kidney decellularization by freeze-thaw process
JP2023153389A (ja) 凍結保存液
JP7266892B2 (ja) 細胞凍結保存液、凍結細胞保存方法、及び細胞凍結方法
CN110892890A (zh) 一种血管的低温保存方法及复温方法
CN102480935B (zh) 用于移植的同种异体皮肤的处理方法及由其制备的冷冻保存同种异体皮肤
JP2016059290A (ja) 動物細胞のガラス化凍結保存方法
WO2020166711A1 (ja) 凍結保存液
JP2024048991A (ja) 細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法
KR101101308B1 (ko) 인간 유래 단핵세포의 냉동보존용 배지 조성물
WO2023243709A1 (ja) 生細胞凍結方法および生細胞凍結システム
JP5100998B2 (ja) 抜歯体の凍結保存方法
RU2655222C2 (ru) Способ подготовки жировой ткани к криоконсервированию
Trufanova et al. Choice of Vitrifi cation Mode for Macroporous Matrices Seeded with Mesenchymal Stromal Cells
Bajpayee et al. 67. Concentration of glycerol in water-in-soybean oil droplets for single cell vitrification

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20211125

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220927

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20221118

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20230110

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20230116

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20230404

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20230502

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7280623

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150