JP2017104061A - ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法 - Google Patents

ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法 Download PDF

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Abstract

【課題】脊髄損傷に対する移植治療に適用可能なiPS−NSPCsの凍結方法を提供する。【解決手段】ニューロスフェアを形成するヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞に凍結保存液を加えてなる細胞懸濁液からなるサンプルを冷却して凍結させる冷却ステップと、凍結したサンプルを急速融解法により前記容器内で融解させる融解ステップとを含み、冷却ステップでは、凍結槽11と、当該凍結槽内に磁場を発生させる手段(16、22)と、前記凍結槽内の温度を可変制御する手段25とを備えた冷凍装置1を用い、凍結槽内にサンプルが収納された容器を配置した上で、交流磁場をサンプルに印加しながら凍結槽内の温度を初期温度T1から前記サンプルの凍結温度よりも低い温度T2まで冷却するとともに、温度T2に至る過程で凍結保存液が過冷却状態となる温度T3で所定時間維持するように凍結槽内の温度を制御する。【選択図】図1

Description

本発明はヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法に関する。
近年、ヒトiPS細胞を用いた再生医療技術が注目されている。周知のごとく再生医療では、まず体細胞からiPS細胞を樹立し、そのiPS細胞から移植に必要な細胞に分化誘導する手順が必要となる。しかしながらiPS細胞の樹立には3ヶ月程度の時間を要することから、再生医療を実用化させるために、樹立後のiPS細胞を凍結保存しておきiPS細胞の樹立に要する期間を省略することが検討されている。そして以下の非特許文献1や2にはiPS細胞の凍結保存技術について記載されている。また以下の非特許文献3には、iPS細胞などの細胞組織の凍結保存方法や細胞組織用の凍結保存液の概略について記載され、非特許文献4には神経幹細胞の培養方法や継代方法などについて記載されている。なお以下の特許文献1には本発明に関連する冷凍技術について記載されている。
国際公開第2001/024647号公報
京都大学、"ヒトiPS細胞の効果的凍結保存法の確立"、[online]、[平成27年6月26日検索]、インターネット<URL:http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2010/101201_3.htm> 公益社団法人日本生物工学会、"霊長類ES/iPS細胞の凍結保存"、[online]、[平成27年6月26日検索]、インターネット<URL:http:// www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/.../9009_tokushu-1_3.pdf> 日本全薬工業株式会社、"STEM-CELLBANKER GMP grade 製品案内(「STEM-CELLBANKER」は登録商標)"、[online]、[平成27年6月26日検索]、インターネット<URL:http://www.zenoaq.jp/cellbanker/ja/stem-cellbanker.html> 国立研究開発法人 国立環境研究所、"神経幹細胞を用いた化学物質の有害性評価"、[online]、[平成27年6月26日検索]、インターネット<URL:https://www.nies.go.jp/kanko/news/28/28-3/28-3-04.html>
本発明が対象とするヒトiPS 細胞由来神経幹細胞/前駆細胞(以下、iPS−NSPCs)は、移植の有効性が示され、例えば脊髄損傷などによって機能不全になった神経組織を再生させて、機能を回復させることが期待される。しかし現行の分化誘導法ではヒトiPS細胞から移植に用いられるiPS−NSPCsに分化させるまでに3ヶ月程度の時間を要し、例えば脊髄損傷に対してiPS−NSPCsを移植する場合、移植の至適時期である亜性急期に間に合わない。そこで自家、他家の移植を問わず、事前にヒトiPS細胞からiPS−NSPCsを誘導分化させ、そのiPS−NSPCsを凍結保存しておくとともに、移植の至適時期に融解して移植に供することが考えられる。
上記非特許文献1に記載されているように、ヒトiPS細胞の冷凍保存技術については様々な検討がなされ、iPS細胞バンクの構想も現実味を帯びているものの、iPS細胞と同様の方法でiPS−NSPCsを凍結した場合では、融解後のiPS−NSPCsの生存率は十分とは言い難い。そして凍結と融解のプロセスを経ていない非凍結のiPS−NSPCsと比較すると、十分な増殖能や分化能も得られていない。
そこで本発明は、脊髄損傷に対する移植治療に適用可能なiPS−NSPCsの凍結方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するための本発明は、ニューロスフェアを形成するヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞に凍結保存液を加えてなる細胞懸濁液をサンプルとして、当該サンプルが収納された容器を漸次冷却して当該サンプルを凍結させる冷却ステップと、
前記冷却ステップにより凍結した前記サンプルを急速融解法により前記容器内で融解させる融解ステップと、
を含み、
前記冷却ステップでは、凍結槽と、当該凍結槽内に磁場を発生させる手段と、前記凍結槽内の温度を可変制御する手段とを備えた冷凍装置を用い、前記凍結槽内に前記サンプルが収納された容器を配置した上で、交流磁場を前記サンプルに印加しながら前記凍結槽内の温度を初期温度T1から前記サンプルの凍結温度よりも低い温度T2まで冷却するとともに、前記温度T2に至る過程で前記凍結保存液が過冷却状態となる温度T3で所定時間維持するように前記凍結槽内の温度を制御する、
ことを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法としている。
前記容器内には1mlの前記凍結保存液に対して200万個以上500万個以下の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞が含まれているとともに、前記冷却ステップでは、継代後3〜6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該ステップを開始することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法としてもよい。そして前記冷却ステップでは、継代後6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該ステップを開始するとともに、周波数が25Hz〜35Hzで磁界強度が0.22〜0.50mTの磁場を前記サンプルに印加してもよい。
あるいは前記冷却ステップでは前記凍結槽内に周波数が25Hz〜35Hzで、磁界強度が0.30〜0.50mTの磁場を前記サンプルに印加することとしてもよい。好適には、前記冷却ステップでは前記凍結槽内に周波数が25Hz〜35Hzで、磁界強度が0.30〜0.40mTの磁場を前記サンプルに印加すること、さらには前記容器内には1mlの前記凍結保存液に対して200万個の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞が含まれていることとすることである。そして前記冷却ステップでは、継代後6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該ステップを開始することとすればより好適である。
本発明のiPS―NSPCsの凍結方法によれば、iPS―NSPCsを損傷させずに凍結させることができ、融解後のiPS―NSPCsの生存率を向上させることができる。そして融解後のiPS―NSPCsには十分な増殖能と分化能も有して、脊髄損傷に対する移植治療の実現に寄与することができる。
本発明の実施例に係るヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞(iPS―NSPCs)の凍結方法において、iPS―NSPCsを凍結させる際に用いた冷凍装置の概略を示す図である。 上記冷凍装置における凍結槽の概略構造を示す図である。 上記凍結槽内に設置されるサンプルホルダの概略構造を示す図である。 上記実施例において使用する凍結保存液の温度特性を示す図である。 上記冷凍装置の設定温度に対する凍結槽内の温度変化を示す図である。 上記凍結槽の周囲に巻回されたコイルに流す電流と凍結槽内に発生する磁場の磁界強度との関係を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsの融解後の生存率を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsの融解後のニューロスフェアの直径を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsの融解後の増殖能を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsの融解後の分化能を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsの融解後の分化能を示す図である。 本実施例に係る方法で凍結させたiPS―NSPCsと非凍結のiPS―NSPCsの遺伝子発現状態についての主成分分析結果を示す図である。
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。
===CAS冷凍技術について===
本発明の実施例は、ヒトiPS細胞から分化誘導されたiPS−NSPCsを凍結して保存した後に融解させたときの生存率を高め、かつ融解後のiPS−NSPCsに十分な分化能と増殖能を維持させることができる凍結方法である。そして本実施例の特徴の一つは、上記特許文献1などにも記載されている、CAS(Cell Alive System:「CAS」「Cell Alive System」は登録商標)冷凍技術と呼ばれる技術を用いてiPS−NSPCsを凍結させる点にある。
CAS冷凍技術は、磁界や電界、気流などのエネルギー(以下、便宜上CASエネルギーと称する)を凍結対象物に与えながら冷却することで、細胞組織における細胞破壊を最小限に抑制し、例えば、生鮮食料品などの鮮度を保ったまま凍結させるというものである。このCAS冷凍技術を用いた細胞組織の凍結メカニズムについては、エネルギーを印加しながら凍結対象物である細胞組織を冷却すると、凍結対象物が過冷却の状態で維持され、凝固が開始されるとほぼ瞬時に凍結されるので、細胞組織の損傷の原因となる細胞内の水の結晶化が抑制される、という理論が提唱されている。
しかしながらCAS冷凍技術を医療や生物工学(バイオテクノロジー)分野の現場で利用する場合、すなわち凍結対象物がiPS細胞や幹細胞などの生きた細胞組織である場合、それらの細胞組織に全く損傷が生じないように凍結させ、さらには融解した際には凍結前と同等に機能することが求められている。本発明の対象であるiPS−NSPCsでは、融解後に十分な増殖能を有し、かつ多分化能が抑制されてニューロン優位の分化能を有していることが必要となる。そして本発明はiPS−NSPCsを再生医療用途に供するために、CAS冷凍技術を応用しつつiPS−NSPCsに特化した凍結方法について鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
===冷凍装置===
本実施例に係るiPS−NSPCsの凍結方法では、凍結槽内にCASエネルギーとして磁場を発生することができるとともに、凍結槽内の温度を可変制御できるプログラムフリーザー(Cells Alive-1:株式会社アビー製、以下、冷凍装置とも言う)を用いてiPS―NSPCsを凍結させている。以下では冷凍装置の構成について説明し、その上で本実施例に係るiPS−NSPCsの凍結方法の内容について説明する。
図1は実施例に用いた冷凍装置1の概略構成を示す図である。図1(A)は冷凍装置1の外観図であり、図1(B)は冷凍装置1の機能ブロック構成の概略を示す図である。図1(A)に示したように、冷凍装置1は、水平面に載置した状態で上下方向に長い箱状の冷凍装置本体(以下、本体10とも言う)と本体10とケーブル2で接続されて本体10の動作を制御したり、その動作状態を監視したりするための制御ユニット20とから構成されている。図1(B)に示したように、本体10は内部に凍結槽11、スターリング冷凍機12、熱交換器である冷却ヘッド13、ヒーター14、凍結槽11内の温度を監視する温度センサ15、および凍結槽11内に磁場を発生させるためのコイル16などを含んで構成されている。なおコイル16を構成する導線は上下方向を軸として凍結槽11の周囲に矩形状に巻回されている。また冷却ヘッド13は上面が凍結槽の底面を構成し、この冷却ヘッド13内にヒーター14と温度センサ15が組み込まれている。それによって凍結槽11内がこの冷却ヘッド13を介して直接冷却あるいは加温される。
制御ユニット20は、自身20と本体10を動作させるための電力を供給するための電源21と、コイル制御部22と、温度制御部25を備えている。コイル制御部22と温度制御部25は、それぞれにユーザインタフェースとして入力部(23、26)と表示部(24、27)を備えている。コイル制御部22は、入力部23を介して設定された値と周波数の電流をコイル16に与えて凍結槽内に磁場を発生させる。またその電流値や周波数を表示部に表示する。温度制御部25は、入力部26を介して設定された温度制御手順に従ってスターリング冷凍機12やヒーター14を制御するとともに、本体10の温度センサ15から出力される信号に基づいてスターリング冷凍機12やヒーター14をフィードバック制御する。それによって凍結槽11内の温度が精密に制御される。また設定温度やその制御手順、あるいは温度センサ15からの信号に基づく凍結槽11内の温度を表示部27に表示する。
なお図1(A)に示したように、冷凍装置1の本体10上部は凍結槽11の蓋3であり、この蓋3は図中の紙面奥行き側に設けられたヒンジにより開閉するようになっている。
図2に凍結槽11の概略構造を示した。図2(A)は凍結槽11を上方から見たときの平面図であり、図2(B)は(A)におけるa−a矢視断面図である。図2に示したように、凍結槽11の内部は、縦横の幅W=154mmで開口して所定の深さD1の矩形箱状の空間11aと、その矩形箱状の空間11aの底部11b中央に直径φで円形に開口しつつ凍結槽11本来の底部11cに至る円筒状の凹部11dの二つの空間(11a、11d)を上下方向に連続させた形状である。なお凹部11dの底11cは冷却ヘッド13の上面でもある。
凍結槽11の開口11eから凍結槽11本来の底部である凹部11dの底11bまでは深さD=78mmであり、凹部11dは深さD2=40mmである。そして凹部11dの周囲には上下方向を軸として導線16aが円形に巻回されてコイル16が形成されている。また凍結槽11の開口11eの周囲には蓋を閉じたときに凍結槽11を密閉するための矩形枠状のパッキン17が配置されている。そして凍結槽11内の円筒状の凹部11dには複数のクライオチューブを立設させた状態で保持するためのサンプルホルダが設置される。
図3にサンプルホルダ30の概略構造を示した。図3(A)はサンプルホルダ30を斜め上方から見たときの斜視図であり、図3(B)は当該サンプルホルダ30を上方から見たときの平面図である。サンプルホルダ30は、上下方向を軸40として、直径φ1=103mm、高さH=40mmの円柱状のアルミニウムブロックからなり、直径φ1は図2に示した凍結槽11内の上記凹部11cの内径φとはほぼ同じで、当該サンプルホルダ30を図2に示した凍結槽11内に設置すると、その外周面31が凹部11cの内壁と接触する。
サンプルホルダ30の円形の上面32には、中心41とその中心41を共有する内外の二つの同心円(33、34)上に直径φ2=14.5mmで深さが35mmの孔35が形成されている。孔35は内周側の同心円33に沿って6箇所、外周側の同心円34に沿って12箇所に等角度間隔で形成されている。そして合計19カ所の孔35のそれぞれにサンプルが収納されたクライオチューブが立設された状態で挿入される。実施例において使用したクライオチューブ(図示せず)はポリプロピレン(PP)からなる直径12.5mm、長さ48mmの試験管状で、総容量2mL使用容量1.8mLのものである。また内部を密閉するためのインナーキャップ型のスクリューキャップを備えている。なおサンプルホルダ30の上面32外周近傍には、中心41に対して対象となる2カ所にねじ穴36が形成されており、このねじ穴36に取り付けた雄ねじを介してハンドルを取り付けたり、雄ねじ自体をハンドルにすることで、図2に示した凍結槽11内の凹部11cにサンプルホルダ30を設置したり、凹部11cからサンプルホルダ30を取り出したりすることができる。
===温度制御手順===
iPS−NSPCsなどの細胞組織の凍結方法としては緩慢凍結法がよく知られている。緩慢凍結法は、プログラムフリーザーを用いて凍結槽内の温度が1〜3℃/min程度の降温速度で徐々に冷却されるように制御し、最終的には凍結槽内を−80℃程度まで冷却して細胞懸濁液を凍結させ、その後液体窒素に浸漬して保存する方法である。またこの緩慢凍結法に対し、細胞懸濁液を氷点近傍の温度(例えば4℃)で一定時間(例えば、5分)保持した後、細胞懸濁液の凝固点以下の温度(例えば−20℃)で所定時間(例えば、50分)、極低温(例えば−80℃)で所定時間(例えば、12時間)の順に段階的に冷却していく凍結方法(段階的凍結法とも言う)もある。なお本実施例で用いた保存液を含め、近年市販されている保存液にはディープフリーザーを用いて直接−80℃の温度で細胞懸濁液を凍結できるものもある。
そして本実施例では、概略的には、緩慢凍結法にCAS冷凍技術を組み合わせて細胞懸濁液を凍結させている。もちろん融解後のiPS−NSPCsの生存率を向上させ、かつ十分な増殖能や分化能を備えさせるためには、単純に緩慢凍結法にCAS冷凍技術を組み合わせるのではなく、何らかの工夫が必要であることが予想される。すなわちCAS冷凍技術を用いながら、最適な温度制御手順で細胞懸濁液を凍結させることが必要となる。
しかしその一方で極めて厳密な温度制御を要すれば、温度管理に要するコストが増加する。再生医療の実用化を目的とするならば、より簡便な温度制御手順によってiPS−NSPCsを凍結させた方がよい。そこで冷凍装置の温度センサに基づく凍結槽内の温度と、実質的な細胞懸濁液の温度であるクライオチューブ内の凍結保存液との関係、および凍結保存液が凍結に至るまでの温度特性をあらかじめ測定し、その測定結果を検討した上で温度制御手順を決定することとした。
<凍結保存液の温度特性>
まず凍結保存液の温度特性の測定方法について説明する。凍結保存液には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む周知の細胞用の凍結保存液(以下、保存液とも言う)を用いた。ここではSTEM-CELLBANKER(登録商標)を用いた。そして保存液を収納したクライオチューブを図3に示したサンプルホルダ30の孔35に挿入して当該サンプルホルダ30を図2に示した凍結槽11内の上記凹部11c内に設置した。そして凍結槽11内を段階的に降温させながら凍結槽11内の温度と保存液の温度を測定した。なお保存液の温度については、クライオチューブ内の保存液に熱電対を接触させ、その熱電対からの凍結槽11外に導出した信号線を制御ユニットとは別の温度センサに接続することで測定した。
図4に冷凍装置における設定温度に対する凍結槽内および保存液の温度の測定結果を示した。図4に示したように、冷凍装置の制御ユニットにて4℃に維持されている凍結槽内を−7℃から−10℃まで、−8℃、―9℃、−9.5℃の各温度で所定時間維持するようにしながら段階的に降温させるように設定した。ここでは−7℃/20分、−8℃/8分、―9℃/12分、−9.5℃/9分の順で各温度を所定時間維持した後、―10℃の温度を維持するように設定した。そしてこのような温度設定に対し、実際の凍結槽内の温度(以下、庫内温度とも言う)は速やかに追従した。
一方保存液は、当初5℃弱の温度に維持されており、庫内温度が−7℃になった時点から約15分程度で約−6℃の温度に維持された。その後は庫内温度が−10℃になるまで緩やかにその庫内温度に追従した。なお保存液は庫内温度に対して0.5℃〜1.0℃程度高い温度を示した。そして庫内温度が−10℃になり、保存液の温度が約−8.5℃になったとき、その保存液の温度が急上昇し、約―4℃まで昇温した後再び降温に転じた。これは過冷却状態にあった保存液が約−8.5℃で凝固に向けて潜熱を放出し始めたことを示している。過冷却状態にあった保存液が潜熱を放出し始めたことで温度が上昇したのである。そして保存液は約―4℃で凝固し始め、その後潜熱を放出しながら緩やかに降温したのち、最終的に凝固に至る。なお図中では全潜熱が放出される途中までの温度特性が示されているが、庫内温度を−10゜の状態でさらに長い時間維持すれば、保存液が約―4℃から緩やかに降温していき、ある温度になった時点で庫内温度に向けて急速に降温する状態に遷移するはずである。
<庫内温度の制御手順>
つぎにサンプルを凍結させる際の温度制御手順について説明する。まず温度制御手順を決定するのに当たり、細胞懸濁液中では細胞組織内の水分が保存液に置換されており、図4に示したように、保存液を過冷却状態を経て凍結させる、ということを考慮した。そこで本実施例では細胞懸濁液を冷却していく過程で、その細胞懸濁液が過冷却状態を一時的に維持されるように温度制御を行うこととした。そして融解時の細胞の生存率をより高めることが期待できる緩慢解凍法の利点と、温度制御手順が比較的簡便になる段階的凍結法の利点とに鑑み、上記冷凍装置に対し、4℃で5分、−7℃で15分、その後に−70℃の各温度の順で段階的に温度を設定した。もちろん冷凍装置は降温速度の設定も可能であるが、ここでは温度制御をより簡便にするために、庫内温度とその維持時間のみを段階的に設定した。
図5は冷凍装置に対する段階的な温度設定と庫内温度、および保存液の温度の関係を示しており、ここででは当初の庫内温度が0℃のときに、その庫内温度が−70℃となるように設定した際の庫内温度および保存液の温度の変化を示している。また保存液の温度については3回分の測定結果を示した。この図5に示したように厳密に降温速度を設定しなくても、庫内温度は緩慢凍結法に近似した状態で漸次冷却されていることがわかる。そして保存液は先に図4に示した保存液の温度特性と同様に約―4℃で凝固し始め、その後潜熱を放出しながら緩やかに降温して凝固したのち、庫内温度の−70℃に向けて降温することが確認できた。すなわち厳密に降温速度を設定しなくても実質的に緩慢凍結法と同様にしてサンプルを凍結させることができる。
ところで、上記の設定温度について、最初に4℃で5分維持するのは、簡易的な緩慢凍結法では一般的な手順であり、ここでもその手順を採用した。さらに4℃は水分子の運動エネルギーが最も小さくなる温度でもある。保存液の推奨保管温度も4℃程度であり、サンプルの冷却開始時点でサンプルの温度が急激に変化することもない。
次いで庫内温度を−7℃で15分維持するのは、過冷却状態にある保存液が潜熱を放出し始める温度が−8.5℃〜−16.0℃であり、その温度よりも若干高い温度で維持することで細胞組織内の保存液を確実に過冷却状態にするためである。それによって保存液を含む細胞組織は過冷却状態に維持されつつ最終的な庫内温度である−70℃に向けて冷却されていく過程で保存液とともに凍結する。なお最終的な庫内温度である−70℃は、使用した冷凍装置の温度設定範囲の下限値に近い温度であり、冷凍装置の仕様によっては−70℃より低温であってもよい。なお周知のごとく、細胞を極低温まで冷却して凍結させた際、その細胞は損傷していなければ極低温下で半永久的に保存される。
===サンプルの凍結融解試験===
次にiPS−NSPCsに保存液を加えた細胞懸濁液に対し、上記の冷凍装置を用いて磁場を印加しながら上記の温度制御手順に従って冷却して凍結させた後、その細胞懸濁液を融解させる試験(CAS凍結融解試験)を行った。そして凍結と融解を経た細胞懸濁液中のiPS−NSPCsを培養し、そのiPS−NSPCsの生存率、増殖能、未分化能、および分化能を調べた。なお細胞懸濁液の作製方法や融解手順、融解後の細胞を培養する手順については上記非特許文献3にその概要が記載されている。
iPS−NSPCsについては、成人皮膚繊維芽細胞にレトロウイルスを用いてOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycを導入して樹立した201B7株ヒトiPS細胞を胚様体を経て一次ニューロスフェア(Primary Neurosphere)に神経分化誘導させることで得た。そして一次ニューロスフェアから継代培養した二次以降のニューロスフェアに上記の保存液を加えた細胞懸濁液を上記のCAS凍結融解試験用のサンプルとした。なお当該試験に使用するサンプルとして、凍結開始時点での継代後の経過日数や、クライオチューブ内の保存液1ml当たりのiPS−NSPCsの細胞数(細胞濃度:個/ml)などの条件が異なる複数種類を用意した。
以下の表1にサンプルの種類を示した。
表1に示したように、サンプルには、細胞濃度と継代後の経過日数が異なる4種類のサンプルA〜Dがある。サンプルを凍結する際には、各サンプルA〜Dをクライオチューブに分納するとともに、同じ種類のサンプルが収納されたクライオチューブをサンプルホルダに保持させて上記冷凍装置の凍結槽内に配置した。そしてサンプルを冷凍装置の凍結槽内で磁場を印加しながら凍結させた。さらに凍結したサンプルが入ったクライオチューブを保持したサンプルホルダを液体窒素中に浸漬してサンプルを凍結状態で保存した。サンプルに印加する磁場については、冷凍装置のコイルに30Hzの周波数で電流値が0.3A、0.4A、0.5A、および0.6Aのいずれかの交流電流を流すことで発生させた。またサンプルの融解には上記非特許文献3にも記載されている周知の急速融解法を用いた。
さらにCAS凍結融解試験に対する比較試験として、凍結用コンテナを用いて上記4種類のサンプルA〜Dを凍結し、それを融解する試験も行った。具体的には種類が異なるサンプルが入ったクライオチューブをそれぞれ図3に示したサンプルホルダ30と同様のコンテナに保持し、そのコンテナを上記冷凍装置とは異なるディープフリーザーの凍結槽内に配置した。ここでは庫内温度が−80℃の凍結槽内にコンテナを配置することでサンプルを凍結させた。次いでコンテナに保持されたクライオチューブを液体窒素中に浸漬することでサンプルを保存した。サンプルの融解手順については上記と同様の急速融解法に従った。なお以下では比較試験に対応する凍結融解手順を必要に応じて「コンテナ凍結」と称することとする。
<磁場の発生条件と磁界強度について>
CAS凍結融解試験では、コイルに印加する電流の周波数と電流値を磁場の発生条件として規定しているが、実際には同じ磁場発生条件でも凍結槽内には磁界強度にバラツキがある。すなわちサンプルの位置によっては電流値の大小と磁界強度の大小が逆転する場合もある。しかし凍結槽内の各位置で測定した磁界強度を平均すれば、磁界強度は電流値に比例する。図6に冷凍装置のコイルに30Hzの交流電流を流す際の電流値と凍結槽内の磁界強度との関係を示した。この図6では凍結槽内におけるサンプルの配置領域で発生する磁界強度の平均値を丸印「○」で示した。また図中では各電流値における磁界強度の最大値と最小値を付記するとともに磁界強度の範囲を「I」字状のマークで示した。
===試験結果===
上述した各種条件や凍結手順が異なるサンプルを凍結して融解した後、サンプル中のiPS−NSPCsの生存率、増殖能、未分化能、および分化能を調べた。
<生存率>
CAS凍結融解試験および比較試験を行ったサンプルについて、周知のトリパンブルー色素排除試験法(Tripan blue exclusion test)を用いてiPS−NSPCsの生存率を調べた。図7に各サンプルについて、試験条件と生存率との関係を示した。図7(A)は表1に示したサンプルAとBについての生存率を示しており、図7(B)はサンプルCとサンプルDについての生存率を示している。図中では1回の試験機会に同時に凍結させた同じ条件のサンプルの平均生存率を棒グラフによって示し、生存率の最大値と最小値を棒グラフの上端側に付した「I」字状のマークによって示した。なお図中では、参考までに有意差検定の結果も示した。ここでは有意水準が0.05で有意である場合および0.01で有意である場合をそれぞれ「*」および「**」で示した。また以下の表2に図7に示した結果を数値にして示した。
図7の(A)と(B)、および表2より、細胞濃度と継代後の経過日数が同じであればCAS凍結融解試験を経たサンプルの方が数値としては比較試験を経たサンプルよりも生存率が高くなることが確認できた。そして同じ条件(同じ電流値)でCAS凍結融解試験を行ったサンプルでは細胞濃度が200万個/mlのサンプルの方が生存率が高くなること、および同じ条件でCAS凍結融解試験を行ったサンプルでは細胞濃度が同じであれば、継代後の経過日数が3日目よりも6日目のサンプルの方が生存率が高くなることが分かった。とくに細胞濃度が200万個/mlで継代後6日目から凍結を開始したサンプルCでは0.4Aの交流電流を印加した場合には66.6%の極めて高い生存率を示した。
以上より、サンプルに適宜な磁界強度の磁場を印加しながら凍結槽内をサンプルの凍結温度よりも低い温度まで冷却していく過程で、保存液が過冷却状態となる温度(ここでは−7℃)が維持されるように庫内温度を制御することでiPS−NSPCsの生存率が向上する可能性が高くなることが分かった。そしてサンプルが継代後3〜6日目に凍結を開始して融解したもので、容器内のサンプルにおけるiPS−NSPCsの細胞濃度が200万個/ml〜500万個/mlであればサンプルに印加する磁界強度に適正な条件が存在することが実証された。すなわち試験に用いた冷却装置では、0.3〜0.5Aの範囲にある所定の電流値に対応する磁界強度をサンプルに印加する場合、容器内のiPS−NSPCsの細胞濃度が200万個/ml〜500万個/mlの範囲で、継代後3日〜6日経過した時点でサンプルの凍結を開始すれば生存率を確実に高めることができる。そして0.4Aの電流値に対応する磁界強度を印加すると生存率が劇的に向上し、細胞濃度が200万個/mlで継代後6日目から凍結を開始すると生存率がさらに向上する。
<増殖能>
つぎに継代後の経過日数が3日目と6日目で細胞濃度が200万個/mlのサンプルAとサンプルCのうち、0.4Aの交流電流を印加しながらCAS凍結融解試験を行ったサンプルと液体窒素を用いて凍結させた後融解させる比較試験後のサンプル、および凍結と融解のプロセスを経ていない「非凍結」のサンプルについて、ニューロスフェアの直径(スフィア径)を測定した。図8にそのニューロスフェアの直径についての測定結果をグラフにするとともに、以下の表3に当該測定結果を数値にして示した。
表3に示したように、どの凍結条件においても、継代後の日数が経過するのに応じてニューロスフェアの直径が大きくなっていることが分かる。そして継代後の日数に拘わらず,比較試験によるサンプルでは直径が小さく、3日が経過した時点ではCAS凍結融解試験を経たサンプルと非凍結のサンプルとではニューロスフェアの直径に大きな差がなかった。継代後6日目では非凍結のサンプルの方がCAS凍結融解試験を経たサンプルよりも直径が大きくなった。 そして継代後3日目または6日目にCAS冷凍装置を用いて凍結したサンプルの方がコンテナ凍結したサンプルよりも融解後の径が保たれていた。
つぎにCAS凍結融解試験を経たサンプルから分離したiPS−NSPCsと凍結と融解のプロセスを経ていない非凍結のiPS−NSPCsの増殖能を周知の細胞周期関連核タンパク質Ki-67を用いて比較した。その結果CAS凍結融解試験を経たiPS−NSPCsと非凍結のiPS−NSPCsとには増殖能に大きな差がなかった(有意差がなかった)。図9に凍結の有無によるiPS−NSPCsの増殖能についての検討結果を示した。ここでは30Hz/0.4Aの磁場発生条件でCAS凍結融解試験を行ったサンプル凍結させたサンプルAとサンプルCのそれぞれにおけるiPS−NSPCsと非凍結のiPS−NSPCsの増殖能を比較した結果を示した。図9(A)は、細胞増殖関タンパクki-67、幹細胞マーカーであるSOX2を、それぞれKi-67抗体、SOX2抗体の各抗体で免疫染色したときの顕微鏡写真、細胞核を核染色色素Hoechst33258(以下、Hoechst)を用いて核染色したときの顕微鏡写真、およびこれらの顕微鏡写真を重ね合わせた写真(図中「Merge」で表記)を示している。そして図9(B)は、Ki-67とSOX2の陽性率(陽性細胞数/全細胞数)を示している。
また以下の表4にKi-67とSOX2の陽性率を数値にして示した。
図9および表4に示したように、継代後3日目、および6日目に凍結を開始したサンプルAおよびサンプルCから取得したiPS−NSPCsは、継代後の経過日数が同じであれば非凍結のiPS−NSPCsと同等の増殖能を示した。また継代後の経過日数による増殖能については継代3日経過後のサンプルAの法方が若干増殖能に優れていた。いずれにしてもCAS凍結融解試験を経たサンプルと非凍結のサンプルとには大きな差異が無かった。
<分化能>
本発明はiPS−NSPCsを脊髄損傷などの移植用途に供することを目的としていることから、CAS凍結融解試験を経たiPS−NSPCsは神経系へ分化する能力(分化能)を有していることが必要となる。 そこでiPS−NSPCsから分化可能なニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトの各細胞への分化状態を調べた。ここではニューロスフェアを形成しているiPS−NSPCsに対して神経細胞への分化誘導操作を行い、その分化誘導後10日目の細胞を、Hu抗体、GFAP抗体、sox2抗体、βIII-tubulin抗体、CNPase抗体、およびHoechstを用いて染色し、iPS−NSPCsから上記各細胞への分化状態を調べた。図10と図11に細胞濃度200万個/mlで継代3日後と6日後のサンプルAとサンプルCについて、0.4Aの磁場発生条件でCAS凍結融解試験を行ったiPS−NSPCsと、非凍結のiPS−NSPCsの分化能を比較した結果を示した。
図10にHoechst、βIII-tubulin抗体を試薬として免疫染色したときの顕微鏡写真を示した。この図10は、Hoechst、βIII-tubulin抗体で発色されるように免疫染色したものであるが、βIII-tubulin抗体に対応する色(濃度)での発色が支配的であり、ニューロン優位に分化していることが確認された。
図11(A) は、Hu抗体、SOX2抗体、およびHoechstを試薬として細胞を染色したときの顕微鏡写真を示している。またこれらの顕微鏡写真を重ね合わせた写真(Merge)についても示した。そして図11(B)にHuとSOX2の陽性率を示した。また以下の表5にHuとSOX2の陽性率を数値にして示した。
図11(A)に示したように、ニューロン新生のマーカー抗体であるHu抗体に対応する発色が顕著であった。すなわちこの顕微鏡写真からもニューロン優位に分化していることが確認された。図11(B)および表5に示したように、継代後3日目、および6日目に凍結を開始したサンプルから得たiPS−NSPCsは、Huの陽性率が、継代後の経過日数が同じであれば非凍結のiPS−NSPCsと同等であることが示され、本実施例に係るiPS−NSPCsの凍結方法によって非凍結のiPS−NSPCsと同等の分化能を発現させる可能性があることが確認された。Sox2の陽性率については、継代後の日数が3日目よりも6日目の方が低く、またCAS凍結融解試験を経たiPS−NSPCsよりも非凍結のiPS−NSPCsの方が低かった。
以上より、本実施例に係るiPS−NSPCsの凍結方法によれば、凍結保存後に融解させたiPS−NSPCsの生存率を高め、非凍結のiPS−NSPCsと同等の増殖能や分化能を発現させることができる。したがって脊髄損傷に対する亜性急期の移植への適用が期待できる。なおCAS冷凍技術を用いて凍結させたiPS−NSPCsと非凍結のiPS−NSPCsとの遺伝子発現プロファイルの類似性を確認するために、サンプルAとサンプルCに対して異なる条件で凍結させて融解させた検体、および非凍結の検体について、マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム分析を実施した。概略的には各検体からRNAを抽出し、そのRNAをcDNAに変換し、そのcDNAをマイクロアレイにより分析した。なお分析に供した検体は、サンプルAとサンプルCのそれぞれについて、細胞濃度200万個/mlで0.4Aの電流によって磁場を印加しながら凍結させたiPS−NSPCs、コンテナ凍結させたiPS−NSPCs、および非凍結のiPS−NSPCsとした。また比較例としてiPS細胞も検体として用意した。
図12に当該トランスクリプトーム分析の結果を周知の主成分分析の手法を用いて示した。この図12では一つの検体を一つのプロットで示しており、プロットのマークの大きさによって遺伝子発現プロファイルの類似度を表現している。また各主成分(x、y、z軸)の寄与率も合わせて示している。図12に示した分析結果より、遺伝子発現プロファイルは、継代後の日数に応じて互いに類似したグループを形成していることが分かる。そしてiPS細胞の遺伝子発現プロファイルは、iPS−NSPCsを検体とした遺伝子発現プロファイルと大きくかけ離れていることも分かった。すなわちiPS−NSPCsは、凍結の有無や凍結の条件によって遺伝子発現プロファイルが左右されない。したがって本実施例の凍結方法では、iPS−NSPCsを凍結して融解したときの生存率を高めることできるとともに、遺伝子発現プロファイルが非凍結のiPS−NSPCsと同等であることから、移植への適用性が高いと言える。
===その他の実施例===
上記実施例においてサンプルに印加した磁場の周波数や磁界強度は一例であり、実施例とは異なる周波数と磁界強度の組み合わせでもiPS−NEPCsを効果的に凍結できるものと考えられる。また上記実施例では30Hzの交流磁界をサンプルに印加していたが、5Hz程度の誤差であれば同様の試験結果が得られると考えられる。すなわち25Hz〜35Hz程度の周波数で磁界強度が0.22mT〜0.50mTの磁場をサンプルに印加すれば、凍結後に融解した際のサンプルの生存率を高めることができる。もちろん温度制御手順についても同様に上記実施例に限らない。例えば、サンプルを過冷却状態にするために−7℃の温度を15分維持していたが、過冷却状態が得られるのであれば温度や時間は適宜に設定できる。いずれにしても保存液の温度特性に応じて適宜に設定すればよい。
1 CAS冷凍装置、10 冷凍装置本体、11 凍結槽、15 温度センサ、
16 コイル、20 制御ユニット、22 コイル制御部、25 温度制御部、
30 サンプルホルダ、35 孔

Claims (7)

  1. ニューロスフェアを形成するヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞に凍結保存液を加えてなる細胞懸濁液をサンプルとして、当該サンプルが収納された容器を漸次冷却して当該サンプルを凍結させる冷却ステップを含み、
    前記冷却ステップでは、凍結槽と、当該凍結槽内に磁場を発生させる手段と、前記凍結槽内の温度を可変制御する手段とを備えた冷凍装置を用い、前記凍結槽内に前記サンプルが収納された容器を配置した上で、交流磁場を前記サンプルに印加しながら前記凍結槽内の温度を初期温度T1から前記サンプルの凍結温度よりも低い温度T2まで冷却するとともに、前記温度T2に至る過程で前記凍結保存液が過冷却状態となる温度T3で所定時間維持するように前記凍結槽内の温度を制御する、
    ことを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法。
  2. 請求項1において、前記容器内には1mlの前記凍結保存液に対して200万個以上500万個以下の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞が含まれているとともに、前記冷却ステップでは、継代後3〜6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該ステップを開始することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法。
  3. 請求項2において、前記冷却ステップでは、継代後6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該冷却ステップを開始するとともに、周波数が25Hz〜35Hzで磁界強度が0.22〜0.50mTの磁場を前記サンプルに印加することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法。
  4. 請求項2において、前記冷却ステップでは前記凍結槽内に周波数が25Hz〜35Hzで、磁界強度が0.30〜0.50mTの磁場を前記サンプルに印加することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結方法。
  5. 請求項4において、前記冷却ステップでは前記凍結槽内に周波数が25Hz〜35Hzで、磁界強度が0.30〜0.40mTの磁場を前記サンプルに印加することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法。
  6. 請求項5において、前記容器内には1mlの前記凍結保存液に対して200万個の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞が含まれていることを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法。
  7. 請求項6において、前記冷却ステップでは、継代後6日目の前記ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を用いて当該ステップを開始することを特徴とするヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の凍結方法。
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