JP2006115837A - 細胞凍結保存用組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明による細胞凍結保存用組成物は、セリシンと、アミノ酸および糖類からなる群より選択される1種以上の成分とを少なくとも含んでなる。また本発明による細胞の凍結保存方法は、前記細胞凍結保存用組成物中に目的細胞を入れ、これを凍結保存することを含んでなる。
【選択図】 なし
Description
本発明は、良好な細胞生存率を得られる細胞凍結保存用組成物に関する。
培養細胞の凍結保存は、継代による細胞変質の防止、継代に伴う雑菌による汚染の防止、および継代維持の煩雑さの解消を目的として行われている。例えば、動物細胞の場合では、従来、動物細胞の凍結保存技術は、5〜15%ジメチルスルホキシド(DMSO)やグリセリンを含む培養液、または牛血清に細胞を懸濁してこれを凍結チューブやアンプルに封入し、プログラムフリーザーを用いて−1℃/分前後の速度で冷却して、最終的に液体窒素中(−196℃)において保存する方法が一般的に行われていた。
さらに、プログラムフリーザーを使用する場合、その細胞凍結の手順自体が煩雑とならざるを得ず、また時間の経過と共に凍結した細胞の生存率が低下するという問題もあった。
しかしながら、これら成分の成分単独の凍結保護効果は、本発明者らの知る限り、血清成分に比べて充分なものではなかった。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、セリシンと、アミノ酸および糖類からなる群より選択される1種以上の成分とを少なくとも含んでなるものである。
本発明による細胞の凍結保存方法は、前記細胞凍結保存用組成物中に目的細胞を入れ、これを凍結保存することを含んでなる。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、前記したように、セリシンと、アミノ酸および糖類からなる群より選択される1種以上の成分とを少なくとも含んでなるものである。したがって、前記成分を含む限りにおいて、本発明による組成物は、他の細胞凍結保護成分、緩衝剤成分、他の任意成分をさらに含んでいてもよい。本発明による細胞凍結保存用組成物は、通常、水を加えて水溶液状態である凍結保存液として使用される。したがって、ここでいう細胞凍結保存用組成物には、固体状態の場合の他、液体状態となっている場合も包含される。
本発明において、セリシンは、天然物由来のものであっても、慣用の化学的および/または遺伝子工学的手法により人工的に合成されたものであってもよく、いずれのものであっても包含される。したがって、例えば、セリシンとして、家蚕や野蚕等が生産したセリシンを用いることができる。好ましくは、セリシンは、高純度に精製され、不純物を実質的に含まないものである。
本発明において、アミノ酸は、光学異性体、すなわちD体およびL体のいずれをも包含する。また、ここでいうアミノ酸には、天然のタンパク質を構成する20種のα−アミノ酸のみならず、それら以外のα−アミノ酸、ならびにβ−、γ−、δ−アミノ酸および非天然のアミノ酸等が包含されてもよい。したがって、例えば、アミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、グルタミン、アスパラギン、チロシン、リシン、アルギニン、アスパラギン酸、および、グルタミン酸からなる群より選択される1種以上のものであることができる。好ましくは、アミノ酸は、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、グリシン、およびアラニンからなる群より選択される1種以上のものであり、より好ましくは、アミノ酸は、プロリン、およびグルタミンからなる群より選択される1種以上のものである。
本発明において、糖類には、単糖類、二糖類のようなオリゴ糖類、多糖類等のいずれのものも包含される。したがって、糖類としては、例えば、グルコース、キシロース、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、myo−イノシトール、トレハロース、スクロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、ラクチトール、マルチトール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、グリコーゲン、アミロース、アミロペクチン、イヌリン、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ラフィノース、スタキオース、キサンタンガム、グルコサミン、および、ガラクトサミンからなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。好ましくは、糖類は、マルトース型二糖類である。ここでマルトース型二糖類には、例えば、マルトース,セロビオース、ラクトース等が包含される。より好ましくは、糖類はマルトースである。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、他の細胞凍結保護成分をさらに含んでなることができる。ここで、他の細胞凍結保護成分とは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールからなる群より選択されるものである。これらは2以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、緩衝剤成分をさらに含んでなることができる。緩衝剤成分は、細胞凍結保存用組成物を溶液状態である凍結保存液とした場合に、その保存液のpHが室温(例えば25℃)において6.0〜8.5、好ましくは7.0〜7.5となるように選択されることが望ましい。pHの範囲が前記範囲内であることは、細胞の成育へ影響を少なくできる点で有利である。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、他の任意成分をさらに含んでなることができる。
ここで他の任意成分としては、例えば、ペプチド、他のタンパク質、糖アルコール、アミノ糖、糖タンパク質、アルコール等の追加成分や、pH調整剤、保湿剤、防腐剤、粘度調整剤等が挙げられる。これらは2種以上を併用しても良い。他の任意成分は、凍結保存する細胞の種類、凍結方法、凍結期間等を考慮して、その種類および使用量を適宜選択することができる。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、慣用の培養液や、血清由来成分を実質的にふくまないことが望ましいが、必要であれば、これらの全部または一部を使用することを否定するものではない。
(a) セリシン 0.01〜10.0重量%;
(b) アミノ酸、および糖類からなる群より選択される1種以上の成分
0.01〜10.0重量%;
(c) ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される、追加の細胞凍結保護成分
1.0〜40.0重量%;
(d) 緩衝剤成分 1〜1000mM。
(a) セリシン 0.01〜10.0重量%;
(b1) アミノ酸 0.01〜10.0重量%;
(b2) 糖類 0.01〜10.0重量%;
(c) ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される、追加の細胞凍結保護成分
1.0〜40.0重量%;
(d) 緩衝剤成分 1〜1000mM。
本発明による細胞凍結保存用組成物は、細胞の凍結保存処理において使用される。すなわち、細胞の凍結保存処理を行う際に、目的とする細胞を、溶液状態とした本発明による組成物中に入れて懸濁し、これを凍結保存する条件下に保持して凍結させる。細胞が必要となったときに、凍結した細胞および本発明による組成物を解凍処理した後、そこから細胞を回収することができる。
ここで、細胞凍結保存用組成物中に目的細胞を入る際、その細胞濃度は、1万〜1000万cells/mlであることが望ましい。
また細胞を解凍する方法も特に制限はされず、例えば、凍結保存された凍結チューブを、37℃の水浴中に入れることによって融解させ、細胞を解凍しても良い。
家蚕(Bombyx mori)が生産した繭糸を十分に洗浄した後、繭糸100gを、抽出溶媒として0.2%炭酸水素ナトリウム水溶液2L中において、96℃の条件下において2時間加熱処理を施して加水分解し、セリシン加水分解物を抽出した。得られたセリシン加水分解物の抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過し、凝集物を除去した後、濾液を逆浸透膜により脱塩し、濃度0.2%の無色透明のセリシン水溶液を得た。
次いで、この水溶液をエバポレーターを用いてセリシン濃度が約2%になるまで濃縮させた後、凍結乾燥処理を行って、純度90%以上で、平均分子量約30,000のセリシンの粉体を得た。
なお、得られたセリシンの平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー法(測定機器として、LC−9A(株式会社島津製作所製)、カラムとして、Superdex 75HR 10/30(ファルマシア社製)を用いた)により測定した。
繭糸からセリシンを抽出する際に使用する抽出溶媒を、0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液とした以外は、前記と同様にしてセリシン粉体を得た。この場合、得られたセリシンの平均分子量は約10,000であった。
抽出溶媒の種類と、得られたセリシンの平均分子量との関係は下記表1のとおりであった。
細胞凍結保存用組成物の調製
下記表2に示した組成に従って、溶液状態の細胞凍結保存用組成物(以下において「凍結保存液」または単に「保存液」ということがある)を調製し、それぞれ凍結保存液a1〜a9とした。
ここでセリシンは、前記で得られた平均分子量約30,000のセリシンを使用した。
緩衝剤成分としては、PBS(リン酸濃度9.5mM)を使用した。
血清成分としては、牛胎児血清(以下、FBS)(GIBCO社より入手)を使用した。
試験には、FBSを10.0%含むRPMI1640培地(旭テクノグラス株式会社製)を用いて培養したマウスミエローマP3U1細胞(財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を使用した。
各凍結保存液に、細胞濃度が約1.0×106cells/mlとなるように細胞を懸濁し、これをそれぞれ凍結チューブ(旭テクノグラス株式会社製)に1mlずつ添加した。次いで、凍結チューブを、−80℃フリーザーを用いて30日間凍結保存した後、37℃水浴にチューブを漬けて解凍した。
解凍した保存液中の生細胞密度を、トリパンブルー色素排除法により算出し、各凍結保存液についての生存率を求めた。
結果は、表3に示したとおりであった。
マルトースを添加した保存液a4は、セリシンのみ(保存液a2)や他の糖類を添加した保存液と比較して、優れた凍結保護効果を示した。
下記表4に示した組成に従った以外は、例1と同様にして、凍結保存液b1〜b9を調製した。
結果は、表5に示されるとおりであった。
プロリンおよびグルタミンを0.3%ずつ添加した保存液b7は、セリシンのみやアミノ酸を単独で添加した保存液に比べて優れた凍結保護効果を示した。また、保存液b7の凍結保護効果は血清を使用したもの(保存液b1)と同程度であった。
下記表6に示した組成に従った以外は、例1と同様にして、凍結保存液c1〜c6を調製した。
結果は、表7に示されるとおりであった。
ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールを添加した保存液(保存液c2〜c5)は優れた凍結保護効果を示した。
下記表8に示した組成に従った以外は、例1と同様にして、凍結保存液d1〜d6を調製した。
結果は、表9に示されるとおりであった。
PBS、HEPES、およびTRICINEを添加した保存液(d2〜d6)は優れた凍結保護効果を示した。また、測定したいずれの緩衝剤成分濃度(d4〜d6)においても優れた凍結保護効果を示した。
平均分子量の異なるセリシンを用意して、下記表10に示した組成に従った以外は、例1と同様にして、凍結保存液e1〜e6を調製した。
ここは、前記した「セリシンの調製」の項において得られた平均分子量約10,000、約30,000および約100,000のセリシンをそれぞれ使用した。
結果は、表11に示されるとおりであった。
平均分子量3万のセリシンを添加した凍結保存液(保存液e3)は、より低分子量のセリシンおよびより高分子量のセリシンを添加した場合に比べて、優れた凍結保護効果を示した。
使用する細胞を他の細胞種に変え、凍結保存液を例5における凍結保存液e1、e3およびe6とした以外は、例1の凍結保存試験と同様にして試験を行った。
ここで使用した他の細胞種としては、正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)(Bio Whittaker社より入手)、ラット副腎髄質褐色株化細胞(PC−12)(財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団より入手)、Spodopera frugiperda由来昆虫細胞(Sf−9)(GIBCO社より入手)、CHO(Chinese Hamster ovary)細胞(理化学研究所より入手)、HepG2細胞(理化学研究所より入手)、ハイブリドーマ細胞(Cytotechnology 10, 15-23, 1992)、ヒト表皮角化細胞(HEK)(Cell APPLICATIONS,INC.より入手)およびウサギ角膜初代細胞(RC4)(理化学研究所より入手)を使用した。NHDFは創傷治療や細胞毒性の研究などに使用されている。ハイブリドーマ細胞はモノクローナル抗体を産生し、CHO細胞やSf−9細胞は遺伝子工学的手法により形質転換され生理活性物質を産生する等、これら細胞はタンパク質製造手段として工業的に利用されている。さらにHepG2細胞は人工肝臓のモデルとして、PC−12細胞は神経細胞への分化過程を調査する材料として有用な細胞である。HEK細胞は皮膚刺激性試験、RC4細胞は化粧品や農薬などの眼毒性試験に使用されている。
また、ハイブリドーマ細胞については、通常の凍結・解凍操作の後、再び凍結・解凍操作を繰り返し行った後、生存率を測定した。
結果は、表12に示されるとおりであった。
本発明による凍結保存液(保存液e3)は、由来の違う各細胞において、血清を使用した場合(保存液e1)と同程度の生存率を示した。
Claims (16)
- セリシンと、
アミノ酸、および糖類からなる群より選択される1種以上の成分と
を少なくとも含んでなる、細胞凍結保存用組成物。 - セリシンと、アミノ酸と、糖類とを少なくとも含んでなる、請求項1に記載の細胞凍結保存用組成物。
- セリシンの平均分子量が、3,000〜300,000である、請求項1または2に記載の細胞凍結保存用組成物。
- セリシンを、最終濃度が0.01〜10.0重量%となるように含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- アミノ酸が、プロリン、およびグルタミンからなる群より選択される1種以上のものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- アミノ酸を、最終濃度が0.01〜10.0重量%となるように含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- 糖類が、マルトース型二糖類から選択されるものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- 糖類を、最終濃度が0.01〜10.0重量%となるように含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールからなる群より選択される、追加の細胞凍結保護成分をさらに含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- 水溶液である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- 溶液としたときのそのpHが室温で6.0〜8.5となるように、緩衝剤成分をさらに含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物。
- 下記の量で成分(a)〜(d)を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物:
(a) セリシン 0.01〜10.0重量%;
(b) アミノ酸、および糖類からなる群より選択される1種以上の成分
0.01〜10.0重量%;
(c) ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される、追加の細胞凍結保護成分
1.0〜40.0重量%;
(d) 緩衝剤成分 1〜1000mM。 - 下記の量で成分(a)〜(d)を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物:
(a) セリシン 0.01〜10.0重量%;
(b1) アミノ酸 0.01〜10.0重量%;
(b2) 糖類 0.01〜10.0重量%;
(c) ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される、追加の細胞凍結保護成分
1.0〜40.0重量%;
(d) 緩衝剤成分 1〜1000mM。 - 請求項1〜13のいずれか一項に記載の細胞凍結保存用組成物中に目的細胞を入れ、これを凍結保存することを含んでなる、細胞の凍結保存方法。
- 細胞の凍結保存における細胞生存率を高めるための、セリシンと、アミノ酸、および糖類からなる群より選択される1種以上の成分との組み合わせの使用。
- 成分の組み合わせが、セリシンと、アミノ酸と、糖類とを少なくとも含んでなる、請求項15に記載の使用。
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