JP7266459B2 - 表面処理鋼板の製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1では、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる少なくとも一種と、フッ素と、マンガン、アルカリ土類金属、シランカップリング剤等から選ばれる少なくとも一種とを、組み合わせてなる化成処理剤が提案されている。
さらに、特許文献3及び4では、ケイ酸アルカリ金属塩、あるいはケイ酸アルカリ金属塩とケイ酸コロイドを含み、さらに有機樹脂を含有する表面処理皮膜を形成してなる表面処理金属板が提案され、また、特許文献5では、前記表面処理皮膜の最下層皮膜に、SiおよびLi系無機化合物を含有させることが開示されている。
加えて、特許文献7では、ジルコニウム化合物とバナジウム化合物とを組み合わせてなる皮膜を被覆形成し、さらには皮膜中に珪酸化合物やリン酸化合物を含有させてなる溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板が提案されている。
また、特許文献3~7の表面処理剤を用いて形成された皮膜はいずれも、耐食性が不充分であったり、溶接性が悪かったり、皮膜が剥離しやすく黒変化するなどの問題があり、さらなる改善が必要とされていた。
例えば、特許文献8では、金属めっき鋼板の表面に塗布される水系表面処理液について、水溶性ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ及びシランカップリング剤を除く珪酸塩化合物(B)、4価のバナジウム化合物(C)、アクリル樹脂エマルション(D)、ニッケル化合物(E)及びリン酸化合物(F)を含有させつつ、各成分の組み合わせや配合条件を調整することによって、ジルコニウム(Zr)を含む緻密な表面処理皮膜を形成し、耐食性、耐黒変性及び溶接性を両立させる技術が開示されている。
ただし、化成皮膜のような表面処理皮膜中に多くのニッケルを含有させた場合、ジルコニウムの自己縮合反応を促進させることができるものの、表面処理液の安定性が低下し、プリン状になる(ゲル状の沈殿物が生じる)になることから、表面処理皮膜を形成できず(成膜性が低下する)、逆に耐食性及び耐黒変性を悪化させることが考えられた。
1.めっき層を有するAl-Zn系めっき鋼板上に、表面処理皮膜を形成する工程を備えた、表面処理鋼板の製造方法であって、
前記表面処理皮膜を、水溶性ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ及びシランカップリング剤を除く珪酸塩化合物(B)、4価のバナジウム化合物(C)、アクリル樹脂エマルション(D)並びにリン酸化合物(F)を含有し、且つ、下記(1)~(4)の条件を満足する水系表面処理液を、塗布し、乾燥させることにより形成し、
(1)水系表面処理液における、ジルコニウムの含有量(a)と、珪酸塩化合物(B)の含有量(b)との質量比(b/a):0.05~0.3
(2)珪酸塩化合物(B)は、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属(M)と、SiO2とを含有し、該アルカリ金属の酸化物(M2O)に対するSiO2のモル比(SiO2/M2O):2.0~5.0
(3)水系表面処理液中の固形分量(X)と、アクリル樹脂エマルション(D)の固形分量(d)との質量比(d/X):0.01~0.1
(4)水系表面処理液のpH:8~10
前記表面処理皮膜中のジルコニウムの付着量が、30~1200mg/m2であり、
前記Al-Zn系めっき鋼板のめっき層は、Niを0.02~0.5質量%含有することを特徴とする、表面処理鋼板の製造方法。
前記アクリル樹脂エマルション(D)の質量平均分子量が、100000~600000であり、且つ、
前記水系表面処理液における、前記ジルコニウムの含有量(a)と、リン酸の含有量(f)との質量比(f/a)が、0.05~0.8である、
ことを特徴とする、前記1に記載の表面処理鋼板の製造方法。
そして、本発明の表面処理鋼板の製造方法では、前記表面処理皮膜を、水溶性ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ及びシランカップリング剤を除く珪酸塩化合物(B)、4価のバナジウム化合物(C)、アクリル樹脂エマルション(D)並びにリン酸化合物(F)を含有し、且つ、下記(1)~(4)の条件を満足する水系表面処理液を、塗布し、乾燥させることにより形成する。
(1)水系表面処理液における、ジルコニウムの含有量(a)と、珪酸塩化合物(B)の含有量(b)との質量比(b/a):0.05~0.3
(2)珪酸塩化合物(B)は、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属(M)と、SiO2とを含有し、該アルカリ金属の酸化物(M2O)に対するSiO2のモル比(SiO2/M2O):2.0~5.0
(3)水系表面処理液中の固形分量(X)と、アクリル樹脂エマルション(D)の固形分量(d)との質量比(d/X):0.01~0.1
(4)水系表面処理液のpH:8~10
上記のように、水系表面処理の形成に用いる水系表面処理液の組成や、各成分の含有量及びpHについて適正化を図ることによって、優れた耐食性、耐黒変性及び溶接性を有する表面処理鋼板を得ることができる。
まず、水系表面処理液の成分である水溶性ジルコニウム化合物(A)は、特に限定はされないが、炭酸ジルコニウムのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩や、ジルコニウム弗化水素酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩などを用いることが好ましく、これらの一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、耐水密着性の点から、炭酸ジルコニウムアンモニウム塩またはジルコニウムフッ化水素酸アンモニウム塩を主成分とする水溶性ジルコニウム化合物を用いることがより好ましい。
なお、シランカップリング剤は、単体でもめっき表面に対して強力に密着し、優れた耐食性を発揮することができるが、高価であるため工業的に利用することができず、さらに後述するように水系表面処理液のpHを8~10に調整した場合に、シラノールの縮合が進みやすく、また液の安定性を保つことが難しいという問題点がある。
また、前記アルカリ金属(M)をLi、Na、Kのいずれか一種以上に限定する理由は、前記以外のアルカリ金属(M)を主成分とする珪酸塩化合物は、一般に入手が困難で、コストが高いため工業的な実用性に欠けるためである。
これは、SiO2/M2O(モル比率)が2.0よりも小さいと、アルカリ性および親水性が高くなるため、皮膜の耐食性が劣り、一方、5.0を超えると、水溶性に劣り沈殿が生じやすくなるためである。
前記4価バナジウム化合物(C)の種類としては、例えば、酸化バナジウム(V2O4)、硫酸バナジル、シュウ酸バナジル、バナジルアセチルアセトナート等があり、これらの一種または二種以上混合して用いることもできる。
そして、前記水系表面処理液中の固形分量(X)と、このアクリル樹脂エマルション(D)の固形分(d)との質量比(d/X)は、0.01~0.1の範囲であることを要し(条件(3))、好ましくは、0.03~0.06である。これは、前記質量比(d/X)が0.01未満では、加工時の柔軟性に劣り、一方、0.1超では、樹脂の絶縁性に起因する表面抵抗の増大によって溶接性が悪くなってしまうためである。
前記アクリル樹脂エマルション(D)は、これらのモノマーを、公知の重合開始剤を用いて乳化重合法または懸濁重合法などによって所定の分子量になるまで共重合させることにより得られる。
前記表面処理皮膜中のジルコニウム(Zr)の付着量が、30 mg/m2未満では、前記めっき層表面を十分に覆うことができず、耐食性に劣ることとなる。一方、前記表面処理皮膜中のジルコニウム(Zr)の付着量が、1200mg/m2超では、その効果が飽和して経済性の面で好ましくない。
また、本発明の表面処理鋼板の製造方法では、前記ジルコニウム(Zr)の付着量が30~1200mg/m2の範囲であればよく、前記表面処理皮膜の付着量や膜厚については、要求される性能に応じて適宜変更することができる。
なお、前記水系表面処理液を塗布した後の乾燥については、特に限定はされないが、金属めっき鋼板の到達板温で60~150℃となるように加熱することが好ましく、より好ましくは70~120℃の温度範囲とする。これは、到達板温の温度が、60℃未満の加熱では、皮膜中に水分が大量に残り、耐食性が不十分となるためであり、一方、該温度が150℃を超えるような加熱は、経済性の点で好ましくないためである。
本発明の表面処理鋼板の製造方法では、めっき層を有するAl-Zn系めっき鋼板を用いる。前記Al-Zn系めっき鋼板を用いることによって、優れた耐食性を確保できる。
ここで、前記Al-Zn系めっき鋼板については、めっき層中にAl及びZnを含有するものであれば特に限定はされない。例えば、5%Al-Zn系めっき鋼板や、8%Al-Zn系めっき鋼板、15%Al-Zn系めっき鋼板等のAl-Zn系合金めっきや、6%Al-3%Mg-Zn系めっき鋼板や、11%Al-3%Mg-Zn系めっき鋼板等のAl-Mg-Zn系合金めっき、アルミニウムをベースとする55%Al-Zn系めっき鋼板や75%Al-Zn系めっき鋼板等のZn-Al系合金めっき鋼板などを用いることができる。
本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上述した表面処理皮膜上に、直接又はプライマーを介して、塗膜を形成することもできる。
なお、前記塗膜の種類や、塗膜を形成する方法については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等の形成方法が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することが可能である。
表1に示す3種類の水溶性ジルコニウム化合物と、表2に示す11種類の珪酸塩化合物と、表3に示す3種類の4価バナジウム化合物と、表4に示す4種類のアクリル樹脂エマルションと、表5に示す2種類のニッケル化合物及び2種類のリン酸化合物とを、表6及び表7に示す組成で配合し、攪拌して、各サンプルの水系表面処理液を準備した。
なお、鋼板の板厚は、評価の目的に応じて選定し、また皮膜の膜厚は、水系表面処理液の固形分(加熱残分)濃度、または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
*1:表8のめっき鋼板No.に対応
*2:表1の水溶性ジルコニウム化合物のNo.に対応
*3:水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr含有量(質量%)
*4:表2の珪酸塩化合物のNo.に対応
*5:珪酸塩化合物の含有量(質量%)
*6:表3の4価バナジウム化合物のNo.に対応
*7:4価のバナジウム化合物(C)のV含有量(質量%)
*8:表4のアクリル樹脂エマルションのNo.に対応
*9:アクリル樹脂エマルションの固形分の含有量(質量%)
*10:表5のニッケル化合物のNo.に対応
*11:ニッケル化合物(E)のNiの含有量(質量%)
*12:表5のリン酸化合物のNo.に対応
*13:リン酸化合物(F)のPO4の含有量(質量%)
*14:NH3とH2CO3(炭酸ガス)を用いてpH8.2~10.9の範囲内に調整
*15:めっき鋼板の到達板温(℃)
*16:ジルコニウムの含有量(a)と、珪酸塩化合物(B)の含有量(b)との質量比(b/a)
*17:ジルコニウムの含有量(a)と、バナジウムの含有量(c)との質量比(c/a)
*18:ジルコニウムの含有量(a)と、ニッケルの含有量(e)との質量比(e/a)
*19:ジルコニウムの含有量(a)と、リン酸の含有量(f)との質量比(f/a)
上記のように得られた水系表面処理液の各サンプル、並びに、表面処理鋼板の各サンプルに対し、以下の評価を行った。その結果を表9に示す。
得られた各サンプルの水系表面処理液について、以下の基準に従って、安定性について評価を行った。
○ : 表面処理液に問題なし
△ : 表面処理液に増粘、沈殿、濁りが見られる
× : 表面処理液がゲル化した
得られた各サンプルの表面処理鋼板について、平面部での塩水噴霧試験(JIS-Z2371)を行い、700時間経過後の白錆面積率を評価した。なお、評価基準は以下のとおりである。
◎ : 白錆面積率 5%未満
○ : 白錆面積率 5%以上、10%未満
△ : 白錆面積率 10%以上、50%未満
× : 白錆面積率 50%以上
得られた各サンプルの表面処理鋼板について、80℃×98%RHの環境下で7日間放置した後の、色調変化ΔL(試験後のL値-試験前のL値)を測定することで評価した。なお、評価基準は以下のとおりである。
◎ : ΔL≧-1
○ : -1>ΔL≧-2
△ : -2>ΔL≧-3
× : ΔL<-3
各サンプル(鋼板)を2枚重ね合わせ、それに溶接電流を変えてスポット溶接を行い、JIS-Z2201に従って引っ張り試験を実施した。なお、4kN以上の強度が得られる溶接電流値を最小電流値(Imin)とし、溶着して溶接が出来なくなる最大電流地(Imax)までの電流範囲ΔI=Imax-Iminで溶接性を評価した(一般にΔIが大きいほど、実機での溶接適応性が高くなる)。溶接条件と評価基準は、以下のとおりである。
試験条件;電流形状:ドーム型(先端径 16mmφ)、加圧力:160gf、溶接時間:20サイクル
◎ : Δ≧3kA
○ : 3kA>ΔI≧2kA
△ : 2kA>ΔI≧1kA
× : 1kA>ΔI
一方、比較例のサンプルは、本発明例と比較して、処理液の安定性、耐食性、耐黒変性及び溶接性のいずれかの性能が劣る結果となっている。
No.31、32のサンプルは、水溶性ジルコニウム化合物および4価バナジウム化合物のみからなるため、耐食性および耐黒変性が得られず、No.33およびNo.34では、SiO2/M2Oの比率が本発明例の範囲外であるため耐食性、液安定性に劣る結果となったと考えられる。また、No.35は、珪酸塩化合物として水分散性シリカを用いているため、本発明例のような耐食性向上の効果は認められず、No.36では、シランカップリング剤を添加したことにより液安定性が悪化したと考えられる。No.37では、珪酸塩化合物の添加量が本発明の範囲よりも少ないため、耐食性に劣り、一方No.38では、珪酸塩化合物の添加量が多すぎるために液安定性と耐食性が劣る結果となったと考えられる。No.39では、5価バナジウム化合物が用いられているため、液安定性および耐食性に劣り、No.40では、4価バナジウム化合物の添加量が少ないために耐食性に劣る結果となったと考えられる。
さらにまた、No.54及び55のサンプルについては、めっき層中にニッケルが含有されておらず、表面処理皮膜中のジルコニウムの縮合反応を促進することができないため、所望の耐食性及び耐黒変性を得ることができなかったと考えられる。
Claims (4)
- めっき層を有するAl-Zn系めっき鋼板上に、表面処理皮膜を形成する工程を備えた、表面処理鋼板の製造方法であって、
前記表面処理皮膜を、水溶性ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ及びシランカップリング剤を除く珪酸塩化合物(B)、4価のバナジウム化合物(C)、アクリル樹脂エマルション(D)並びにリン酸化合物(F)を含有し、且つ、下記(1)~(4)の条件を満足する水系表面処理液を、塗布し、乾燥させることにより形成し、
(1)水系表面処理液における、ジルコニウムの含有量(a)と、珪酸塩化合物(B)の含有量(b)との質量比(b/a):0.05~0.3
(2)珪酸塩化合物(B)は、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属(M)と、SiO2とを含有し、該アルカリ金属の酸化物(M2O)に対するSiO2のモル比(SiO2/M2O):2.0~5.0
(3)水系表面処理液中の固形分量(X)と、アクリル樹脂エマルション(D)の固形分量(d)との質量比(d/X):0.01~0.1
(4)水系表面処理液のpH:8~10
前記表面処理皮膜中のジルコニウムの付着量が、30~1200mg/m2であり、
前記Al-Zn系めっき鋼板のめっき層は、Niを0.02~0.5質量%含有することを特徴とする、表面処理鋼板の製造方法。 - 前記水系表面処理液における、前記ジルコニウムの含有量(a)と、バナジウムの含有量(c)との質量比(c/a)が、0.05~0.5であり、
前記アクリル樹脂エマルション(D)の質量平均分子量が、100000~600000であり、且つ、
前記水系表面処理液における、前記ジルコニウムの含有量(a)と、リン酸の含有量(f)との質量比(f/a)が、0.05~0.8である、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板の製造方法。 - 前記水系表面処理液塗布後の乾燥は、めっき鋼板の到達板温が60~150℃となるように加熱することを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板の製造方法。
- 前記水系表面処理液は、ニッケル化合物(E)をさらに含有し、前記水系表面処理液における、前記ジルコニウムの含有量(a)と、前記ニッケルの含有量(e)との質量比(e/a):0.008~0.05であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
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