JP7256822B2 - 難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物 - Google Patents

難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物 Download PDF

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Description

本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、機械的特性、電気的特性、耐熱性など各種特性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品や電気・電子機器部品など種々の用途に広く利用されている。これらのうち、電気・電子機器部品用途では、トラッキング等による発火を防ぐため、使用される材料には難燃性が要求されており、また自動車部品についても、近年のハイブリッド化や電動化に伴い、種々の電気・電子部品が搭載されるようになっていることから、難燃性材料の要求が広がっている。ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、それ自体では難燃性が不足するため、難燃剤を添加した難燃性樹脂組成物として使用されている。
このようなポリブチレンテレフタレート樹脂に添加される難燃剤の一種としてハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤があり、その例としては特許文献1に紹介されているようなポリペンタブロモベンジルアクリレート(PBBPA)がある。この難燃剤を製造する方法として特許文献1の段落[0004]には、モノマーであるペンタブロモベンジルアクリレートを、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル中で重合する方法やクロロベンゼン中で重合する方法が例示されている。
これらのうち、ハロゲン化芳香族化合物であるクロロベンゼンを溶媒として重合した場合、最終的にPBBPA中に不純物として微量のクロロベンゼンが存在することになる。そして、これを添加して難燃化したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物もクロロベンゼンを含有することとなる。
このクロロベンゼンは一般的には安定した化合物であるが、高温環境下において、特に金属酸化物やアルカリ金属系化合物などの金属と接触した場合、脱塩素化が起こり、塩化水素等の化合物が発生することがある。そのため、これを含む組成物をインサート成形や端子圧入など金属部材と接触する成形品に用いると、当該金属部材の腐蝕が生じるといった問題が起こる場合がある。ここで、前述した電気・電子部品用途においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が電気絶縁部材として、導電部である金属部材と組み合わせて用いられるため、その金属部材を腐蝕させないことが要求される。また、成形品が金属部材と組み合わせて用いられる場合のみに限らず、成形品自体を成形する過程において、成形機のスクリュやシリンダ、あるいは金型といった金属部材の腐蝕の観点からも、これを抑制することが求められる。
ところでポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂であるため、成形後の結晶化に伴う成形収縮や使用環境での後収縮が発生しやすい。また、金属に対し線膨張係数が大きいため、上述のような金属部材と組み合わせて用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が、加熱冷却を繰り返す環境下に曝される場合には、樹脂の成形収縮及び後収縮の発生と、金属と樹脂の線膨張係数の違いに起因して発生する歪とが相俟って、成形品にクラック等の破損が生じやすくなる(いわゆるヒートショック破壊)。そこで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐ヒートショック性を向上させる技術として、特許文献2では、ポリブチレンテレフタレート等を用いたインサート成形品の耐ヒートショック性を向上させるために、成形品の脆弱部近傍に応力集中部を設ける技術が開示されている。
特表2015-532350号公報 特開2013-103472号公報
本発明は、難燃剤としてハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該組成物からなる成形品が加熱冷却を繰り返す環境下で使用される際のヒートショックによる破壊を抑制するとともに、当該成形品と接触する金属部材の腐蝕を抑制することを課題とする。
本発明者は、上記を課題とする研究の過程で、難燃剤としてハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を用い、特定の耐ヒートショック性向上剤を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される、クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物の量を抑える、特に当該難燃剤の製造工程に由来するハロゲン化芳香族化合物の量を抑えることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の(1)~(12)に関する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤3~50質量部と、(C)耐ヒートショック性向上用樹脂5~100質量部と、(D)耐ヒートショック性向上用充填剤10~200質量部と、(E)耐ヒートショック性向上用添加剤0.1~30質量部とを含有し、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(150℃、1時間加熱)により測定される、前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が0.5ppm未満の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、前記耐ヒートショック性向上用添加剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上を含有することを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤が、一般式(I)で表されるブロム化アクリル重合体を含有する、(1)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
Figure 0007256822000001
(式中、Xは、水素原子または臭素原子であり、少なくとも1つ以上のXは臭素原子であり、mは10~2000の数である。)
(3)(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤が、ポリペンタブロモベンジルアクリレートを含有する、(1)または(2)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(4)前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物が、ハロゲン化ベンゼンを含有する、(1)から(3)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(5)前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物が、クロロベンゼンを含有する、(1)から(4)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(6)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物の含有量が10~1000ppmであるハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を含有する、(1)から(5)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(7)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、線状低分子量体を50~1000ppm含有する、(1)から(6)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(8)プロトン性化合物が、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の重合溶媒に由来する、(6)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(9)プロトン性化合物が、アルコキシアルコールである、(6)または(8)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(10)(1)から(9)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程を有し、該工程で用いる溶媒中のハロゲン化芳香族化合物の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする、製造方法。
(11)(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程において、溶媒としてハロゲン化芳香族化合物を用いない、(10)に記載の製造方法。
(12)(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程において、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンからなる群から選択される一以上の溶媒を用いる、(10)又は(11)に記載の製造方法。
本発明によれば、難燃剤としてハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該難燃剤の製造工程におけるクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物の量を抑えることで、当該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品と組み合わされる金属部材の腐蝕を抑制することができ、かつ当該成形品の加熱冷却を繰り返す環境下におけるヒートショック破壊を抑制することができる。
耐ヒートショック性試験で用いた試験片を示す図であって、(A)は斜視図であり、(B)は上面図である。 図1に示す試験片のインサート部材を示す図であって、(A)は斜視図であり、(B)は上面図である。 本発明において溶融流動性を測定する際に用いた成形品の例を示した図である。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本発明においてA~Bとは、A以上B以下であることを意味している。
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
以下、本実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各成分の詳細を例を挙げて説明する。
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.5dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上1.2dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。
((B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤)
本発明に用いられる(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤としては、下記一般式(I)で示されるブロム化アクリル重合体が挙げられる。
Figure 0007256822000002
式中のXは、水素原子または臭素原子であり、少なくとも1つ以上が臭素原子である。Xの数は、一構成単位中1~5であるが、難燃化の効果から3~5であることが好ましい。平均重合度mは10~2000であり、好ましくは15~1000の範囲である。平均重合度が10より低いものは、熱安定性が悪化し、2000を超えると添加したポリブチレンテレフタレート樹脂の成形加工性を悪化させる。また、上記ブロム化アクリル重合体は1種又は2種以上混合使用してもよい。
本発明に用いられる(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤は、当該難燃剤自体である上記のブロム化アクリル重合体以外に、不純物として、重合時の溶媒やブロム化アクリル重合体の分解物に由来するハロゲン化芳香族化合物を含有しうるが、そのような不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
一般式(I)で表されるブロム化アクリル重合体は臭素を含有するベンジルアクリレートを単独で重合することによって得られるが、類似構造のベンジルメタクリレート等を共重合させてもよい。臭素含有ベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート、又はその混合物が挙げられる。中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが好ましい。また、共重合可能な成分であるベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。さらにはビニル系モノマーとの共重合も可能であり、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。また、架橋性のビニル系モノマー、キシリレンジアクリレート、キシリレンジメタクリレート、テトラブロムキシリレンジアクリレート、テトラブロムキシリレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンも使用できる。これらはベンジルアクリレートやベンジルメタクリレートに対し等モル量以下、好ましくは0.5倍モル量以下が使用される。
(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造方法として、上記のブロム化アクリル重合体の製造法の一例を示すと、ブロム化アクリルのモノマーを溶液重合あるいは、塊状重合にて所定の重合度に反応させる方法が挙げられる。溶液重合の場合、溶媒中のハロゲン化芳香族化合物の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、300ppm以下であることがさらに好ましく、100ppm以下であることが特に好ましい。溶媒としてハロゲン化ベンゼンや、クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物を用いないことがより好ましい。また、溶液重合の際の溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。ただし、本発明においては後述の通り、樹脂組成物としてプロトン性化合物を含むものとするため、重合溶媒としてプロトン性化合物を含むものを用いることができる。
上記のブロム化アクリル重合体等の(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤は、残留ポリアクリル酸ナトリウム等の反応副生成物を除去するために、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液にて洗浄されることが好ましい。なお、本明細書において、「アルカリ(土類)金属イオンを含有する」とは、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンを含有することを意味している。アルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液はアルカリ(土類)金属塩を水に投入することで容易に得られるが、塩化物イオン、リン酸イオン等を含まないアルカリ(土類)金属である水酸化物(例えば水酸化カルシウム)が最適である。アルカリ(土類)金属塩として、例えば水酸化カルシウムを用いる場合、水酸化カルシウムは一般に20℃において100gの水中に0.126g程度可溶であり、水溶液濃度は溶解度までであれば特に規定はない。また、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄の手法も特に限定されず、ブロム化アクリル重合体を適当な時間、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる等の手法で良い。上記、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄処理を終えたブロム化アクリル重合体は、一般的に温水抽出分中の乾固分が100ppm以下のものとなり、このようなブロム化アクリル重合体を用いる場合、その成形品表面に異物を発生させることが殆どなくなる。
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、前述の不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が、0.5ppm未満であり、好ましくは0.3ppm以下、より好ましくは0.1ppm以下である。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が上記範囲であることにより、当該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品において、金属部材と組み合わせて用いられる場合も、金属部材の腐蝕を抑制することができ、かつ、当該成形品が加熱冷却を繰り返す環境下に曝される場合のヒートショック破壊を抑制することができる。このような難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
上記樹脂の難燃化において、アンチモン系の難燃助剤をあわせて使用することが好ましい。難燃助剤の代表的なものとしては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、耐ヒートショック性をより高められる点で、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダを用いることが好ましい。アンチモン系難燃助剤の添加量は耐ヒートショック性と機械的特性や流動性を考慮して適宜設定すれば良いが、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。
(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤及びアンチモン系難燃助剤の樹脂に対する添加の範囲は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して前記重合体3~50質量部であり、5~40質量部であることが好ましく、10~35質量部であることがより好ましい。アンチモン系難燃助剤は、1~40質量部の範囲が好ましい。ブロム化アクリル重合体及びアンチモン系難燃助剤の添加量が過少であると十分な難燃性を付与することができず、過大であると成形品としての物性を悪化させることがある。
(プロトン性化合物) 本発明においてプロトン性化合物とは、プロトン(水素イオン)供与性を有する化合物のことをいう。 本発明においてプロトン性化合物としては、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の重合溶媒に由来するものが一例として挙げられ、アルコキシアルコールが好ましく、C1~C20アルコキシC1~C20アルコールがより好ましい。C1~C20アルコキシC1~C20アルコールとしては、メトキシC1~C20アルコールや、C1~C20アルコキシエタノールがより好ましく、メトキシエタノールがさらに好ましい。
またプロトン性化合物としては、C1~C20ジアルコキシC1~C20アルコールも好ましく、C1~C20ジアルコキシC1~C20アルコールとしては、3,3-ジエトキシプロパノールが好ましい。
また本発明においてプロトン性化合物としては、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の原料に由来するものが一例として挙げられ、芳香族カルボン酸が好ましく、安息香酸がより好ましい。なお、本発明においてプロトン性化合物としては、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の原料に由来するものよりも、重合溶媒に由来するものの方が好ましい。
本発明においてハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量は、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤中、10~1000ppmであることが好ましいが、100~800ppmであることがより好ましく、300~500ppmであることがさらに好ましい。ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量が10ppm未満であると、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の改善効果が得にくくなる。また、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤に含有されるプロトン性化合物の量が1000ppmを超えると、コンパウンド時にガスの発生量が増加し、ペレット化の際にストランド切れが発生しやすくなる。
(線状低分子量体)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤に含まれるプロトン性化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の線状低分子量体(オリゴマー)との反応物である線状化合物を生成し、これが可塑剤と同様の効果をもたらし、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性を改善させるものと推測される。このため、ポリブチレンテレフタレート樹脂は線状低分子量体を含有することが好ましい。含有される線状低分子量体の量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂中、50~1000ppmであることが好ましく、70~700ppmであることがより好ましく、100~200ppmであることがさらに好ましい。線状低分子量体の量が50ppm未満であると、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の改善効果が得にくく、1000ppmを超えると、Mold Deposit(金型付着物)が発生しやすくなるため、好ましくない。
((C)耐ヒートショック性向上用樹脂)
本発明に用いられる(C)耐ヒートショック性向上用樹脂は、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が加熱冷却を繰り返す環境下で使用される場合において要求される、耐ヒートショック性を向上させるために添加される。
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に靱性を付与することで、成形品に発生する歪を吸収できるようにする意味で、ゴムやエラストマ等の弾性体を用いることが好ましく、具体的には、オレフィン系エラストマ、コアシェル系エラストマ、ジエン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、シリコーン系エラストマ、スチレン系エラストマ、ポリアミド系エラストマ等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
オレフィン系エラストマとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、α-オレフィン・α,β-不飽和カルボン酸(エステル)・α,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル系三元共重合体、エチレン(共)重合体に無水マレイン酸又はメタクリル酸グリシジルを共重合したエチレン系共重合体等が含まれる。好ましいオレフィン系エラストマには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
コアシェル系エラストマは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものが好ましい。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC~Cのアルキルエステルがより好ましい。
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
ポリエステル系エラストマとしては、ハードセグメントとソフトセグメントにいずれもポリエステル系単位構造を有するエステル-エステル型と、ソフトセグメントをポリエーテル系単位構造としたエステル-エーテル型の、いずれも好ましく用いることができるが、耐熱性面では前者、寸法精度面では後者が、それぞれより好ましい。ハートセグメントのポリエステル単位構造としてはポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステル単位を好ましく用いることができ、ソフトセグメントのポリエステル単位としてはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステル単位を好ましく用いることができ、ソフトセグメントのポリエーテル単位としてはポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったものを好ましく用いることができるが、これに限定されるものではない。
ウレタン系エラストマの例としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルもしくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
スチレン系エラストマとしては、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-エポキシ基含有ビニル系共重合体等が挙げられ、これらを単独又は二種以上組み合せて用いることができる。
ポリアミド系エラストマの例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、厳密にはエラストマに分類されないが、本発明におけるポリアミド系エラストマとして脂肪族ポリアミドも用いることができる。
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、5~100質量部であり、10~90質量部または20~80質量部であっても良い。ただし、難燃性の低い樹脂では、多量に添加することで組成物としての燃焼性を悪化させるおそれがあるため、耐ヒートショック性向上用樹脂の含有量は、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂の収縮率や線膨張係数を低減することにより、成形品に発生する歪を小さくする意味で、樹脂成形品の加工温度範囲や使用温度範囲における収縮率や線膨張係数の小さい、無機系充填剤、金属系充填剤が好ましく、金属部材と組み合わせる絶縁部材として用いる成形品においては、絶縁性を確保する意味で無機系充填剤を用いることが特に好ましい。
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤の形状としては、繊維状充填剤、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤、曲面状充填剤、不定形充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、ヒートショックによる破壊を抑制するためには、収縮や線膨張の異方性も低減することが好ましいため、充填剤自体も異方性の小さいものであることが望ましく、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤等、特にアスペクト比が1に近い充填剤を用いることがより好ましい。一方、ガラス繊維等の繊維状充填剤を用いる場合、引張強度等の機械的特性の向上効果は大きいが、繊維状充填剤の配向に起因して、収縮率の異方性が大きくなる傾向にあるため、繊維状充填剤としては、ミルドファイバやウィスカ等の短繊維や、断面が繭型や長円形・楕円形といった扁平形状(例えば断面の長径÷短径の比が1.3~10)の繊維といった、アスペクト比が比較的小さいものを用いることがより好ましい。特に、断面が扁平形状のガラス繊維を用いる場合、耐ヒートショック性と機械的特性がともに向上できるため好ましい。
板状充填剤の具体例としては、板状タルク、マイカ、ガラスフレーク、金属片及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、球状充填剤の具体例としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、球状シリカ及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、粉状充填剤としてはガラス粉、タルク粉、石英粉末、石英粉末、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト、炭化珪素、窒化珪素、金属粉、無機酸金属塩(炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)の粉末、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等)の粉末、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)等)の粉末、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン等)の粉末、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。なお、金属腐食性の観点では、これら(D)耐ヒートショック性向上用充填剤中に含まれる遊離無機酸の含有量がそれぞれ0.5質量%以下のものであることが好ましい。
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤のサイズについては、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。例えばタルクとしては、体積平均粒子径が1~10μmのタルク、または嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを好適に用いることができ、マイカとしては、体積平均粒子径が10~60μmのマイカを好適に用いることができる。
これらの(D)耐ヒートショック性向上用充填剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよい。表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO・nHOで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては、エポキシ化合物やアミン化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ、ノボラック型エポキシ等のエポキシ化合物およびモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物がより好ましい化合物として例示することができる。
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、10~200質量部であり、20~180質量部または30~150質量部であっても良い。(D)耐ヒートショック性向上用充填剤の添加量は、耐ヒートショック性向上効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステルなどが挙げられ、これらの1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
カルボジイミド化合物としては、分子内に少なくともひとつの(-N=C=N-)で表されるカルボジイミド基を有する化合物を用いることができ、このようなカルボジイミド化合物は、例えば適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加熱し、脱炭酸反応で製造できる。
カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-o-トルイルカルボジイミド、ジ-p-トルイルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-o-トルイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン-ビス-シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-o-トリイルカルボジイミド、N,N´-ジフェニルカルボジイミド、N,N´-ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N´-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジ-tert -ブチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N´-フェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-トルイルカルボジイミド、N,N′-ベンジルカルボジイミド、N-オクタデシル-N′-フェニルカルボジイミド、N-ベンジル-N′-フェニルカルボジイミド、N-オクタデシル-N′-トリルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N′-トリルカルボジイミド、N-フェニル-N′-トリルカルボジイミド、N-ベンジル-N′-トリルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-エチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-エチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2-エチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2-イソブチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′-ジメチル-4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。また、ポリカルボジイミドには、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-テトラメチルキシレンジイソシアネート等から合成されるキシリレン系ポリカルボジイミドも用いることができる。さらに、ジイソシアネート化合物を、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、シリコーンジオール、ポリオレフィンポリオール、ポリウレタンポリオール、アルキレン(炭素数21~)ジオール等のジオール化合物と反応させたカルボジイミド化合物を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性の観点から、N,N´-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドなどの芳香族カルボジイミドが好ましく、また、ポリカルボジイミドが好ましい。
エポキシ化合物としては、分子構造中にエポキシ基を含む化合物であればよく、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
グリシジルエーテル化合物の例としては、ブチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応から得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
グリシジルエステル化合物の例としては、安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げることができる。なかでも、安息香酸グリシジルエステルやバーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
グリシジルアミン化合物の例としては、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロモアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
グリシジルイミド化合物の例としては、N-グリシジルフタルイミド、N-グリシジル-4-メチルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-3-メチルフタルイミド、N-グリシジル-3,6-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-4-エトキシフタルイミド、N-グリシジル-4-クロルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジクロルフタルイミド、N-グリシジル-3,4,5,6-テトラブロムフタルイミド、N-グリシジル-4-n-ブチル-5-ブロムフタルイミド、N-グリシジルサクシンイミド、N-グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N-グリシジル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、N-グリシジルマレインイミド、N-グリシジル-α,β-ジメチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-エチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-プロピルサクシンイミド、N-グリシジルベンズアミド、N-グリシジル-p-メチルベンズアミド、N-グリシジルナフトアミド、N-グリシジルステラミドなどを挙げることができる。なかでも、N-グリシジルフタルイミドが好ましい。
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-エチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-フェニル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-ナフチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-トリル-3-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミドなどを挙げることができる。
また、その他のエポキシ化合物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油などのエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノゾラック型エポキシ樹脂などを用いることができる。
さらに、エポキシ化合物としては、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等のエポキシ化合物を、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合により他のモノマーと共重合させた、エポキシ変性樹脂あるいはエポキシ変性エラストマ、具体的には、α-オレフィンと、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体や、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合してなるポリオルガノシロキサン/ポリアルキル(メタ)アクリレ-ト複合ゴムグラフト共重合体、主鎖にエポキシ基を有するスチレン/ブタジエン共重合体エラストマ等を用いることもでき、一般的に難燃剤として使用される臭素化エポキシ化合物(エポキシ基を封止していないもの)を用いることもできる。
オキサゾリン化合物の例としては、2-メトキシ-2-オキサゾリン、2-エトキシ-2-オキサゾリン、2-プロポキシ-2-オキサゾリン、2-ブトキシ-2-オキサゾリン、2-ペンチルオキシ-2-オキサゾリン、2-ヘキシルオキシ-2-オキサゾリン、2-ヘプチルオキシ-2-オキサゾリン、2-オクチルオキシ-2-オキサゾリン、2-ノニルオキシ-2-オキサゾリン、2-デシルオキシ-2-オキサゾリン、2-シクロペンチルオキシ-2-オキサゾリン、2-シクロヘキシルオキシ-2-オキサゾリン、2-アリルオキシ-2-オキサゾリン、2-メタアリルオキシ-2-オキサゾリン、2-クロチルオキシ-2-オキサゾリン、2-フェノキシ-2-オキサゾリン、2-クレジル-2-オキサゾリン、2-o-エチルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-o-プロピルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-o-フェニルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-m-エチルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-m-プロピルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-p-フェニルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、2-ブチル-2-オキサゾリン、2-ペンチル-2-オキサゾリン、2-ヘキシル-2-オキサゾリン、2-ヘプチル-2-オキサゾリン、2-オクチル-2-オキサゾリン、2-ノニル-2-オキサゾリン、2-デシル-2-オキサゾリン、2-シクロペンチル-2-オキサゾリン、2-シクロヘキシル-2-オキサゾリン、2-アリル-2-オキサゾリン、2-メタアリル-2-オキサゾリン、2-クロチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2-o-エチルフェニル-2-オキサゾリン、2-o-プロピルフェニル-2-オキサゾリン、2-o-フェニルフェニル-2-オキサゾリン、2-m-エチルフェニル-2-オキサゾリン、2-m-プロピルフェニル-2-オキサゾリン、2-p-フェニルフェニル-2-オキサゾリン、2,2′-ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-エチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4,4′-ジエチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-プロピル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ブチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-シクロヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ベンジル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-デカメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-テトラメチレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-9,9′-ジフェノキシエタンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-シクロヘキシレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物なども挙げることができる。
オキサジン化合物の例としては、2-メトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-エトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-プロポキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ブトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ペンチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ヘキシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ヘプチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-オクチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ノニルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-デシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-シクロペンチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-シクロヘキシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-アリルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-メタアリルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-クロチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2′-ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-メチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-エチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-プロピレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ブチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ヘキサメチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-p-フェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-m-フェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ナフチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-P,P′-ジフェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。
上記オキサゾリン化合物やオキサジン化合物の中では、2,2′-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)が好ましい。
芳香族多価カルボン酸エステルとしては、例えばトリメリット酸エステルやピロメリット酸エステルが好適な例として挙げられ、特にアルキルエステルが好ましい。このアルキルエステルを構成するアルキル基としては、例えばトリオクチル基、トリイソデシル基、トリス(2-エチルヘキシル)基、トリブチル基等が挙げられ、これらのいずれか又は二種以上を組み合わせて用いても良い。このような芳香族多価カルボン酸エステルは一種または二種以上を併用することができる。
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~30質量部であり、0.2~20質量部であることが好ましく、0.3~10質量部であることがより好ましい。
また、(E)耐ヒートショック性向上用添加剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の末端カルボキシル基量を1として、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン環、エステル基の合計官能基含有量が0.3~5当量となるように設定しても良い。好ましい合計官能基含有量は0.5~3当量、より好ましくは0.8~2当量である。
(添加剤) 本発明の組成物には必要に応じて、難燃性と耐ヒートショック性以外の所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂等に添加される、耐ヒートショック性向上用添加剤に該当するもの以外の公知の物質を添加併用することができる。例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、流動性向上剤、靱性向上剤、耐衝撃性向上剤、耐ヒートショック性向上用樹脂に該当するもの以外の樹脂、耐ヒートショック性向上用充填剤に該当するもの以外の充填剤等、いずれも配合することが可能である。
なお、着色剤としてカーボンブラック等の無機顔料を用いる場合、耐ヒートショック性の低下を抑制できる点で、平均一次粒子径が10~100nmのものを用いることが好ましく、25~50nmのものを用いることがより好ましい。なお、ここでいう平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の着色剤1000個の電子顕微鏡観察により求めた算術平均粒子径である。
また着色剤を添加する際は、いったん(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂又は(C)耐ヒートショック性向上用樹脂として用いる樹脂、あるいはポリブチレンテレフタレート樹脂と相溶性の高い他の樹脂と溶融混練した、マスターバッチの状態で添加すると、耐ヒートショック性の低下をさらに抑制できる点で好ましい。
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の形態は、粉粒体混合物であってもよいし、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)であってもよい。本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、(B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程を有している。当該工程については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、特性評価は以下の方法により行った。
(1)ハロゲン化芳香族化合物含有量
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを粉砕したものを試料とした。試料を5gとり、20mlのヘッドスペース中に150℃で1時間放置した後、装置:横河ヒューレット・パッカード社製HP5890A、カラム:HR-1701(0.32mm径×30m)を用い、50℃で1分間保持後、5℃/minで昇温させ、ガスクロマトグラフにより、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量を測定し、ハロゲン化芳香族化合物の含有量をppmで示した。結果を表1に示す。
(2)金属腐蝕性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレット50gを、1cm×1cmの銀板とともに300mlのガラス製共栓ビンに入れ栓をして、150℃のギアオーブン中で500時間静置した後、銀板の表面を目視にて確認し、腐蝕が発生していないものを○、腐蝕が発生していたものを×として評価した。結果を表1に示す。
(3)難燃性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、125mm×13mm×厚さ1/32インチの短冊状試験片を作製して燃焼性を評価した。結果を表1に示す。
(4)耐ヒートショック性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥後、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、図1,2に示す試験片をインサート成形し、耐ヒートショック性を評価した。図1は、インサート成形した試験片10を示す図であり、図2は、インサート部材2を示す図である。試験片10は、図1に示すように、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる四角柱状の樹脂部材1に金属からなる四角柱状のインサート部材2が埋設されたものである。樹脂部材1は、上記のようにして得られた樹脂組成物ペレットを用いて成形されたものである。インサート部材2は、図2に示すように、四角柱状の上部2aと四角柱状の下部2bとこれらの間において両者を接続する円柱状の括れ部2cとを備えた構成とされている。インサート部材2は、下部2b及び括れ部2cが、樹脂部材1内に埋設され、上部2aが樹脂部材1の上面から露出している(図1(A)参照)。さらに、図1(B)に示すように、樹脂部材1の角部とインサート部材2の角部は、互いに異なる方向に位置するように配置されている。すなわち、インサート部材2の角部は、樹脂部材1の側面に向かうように配置されている。そして、インサート部材2の角部の先端と、樹脂部材1の側面との距離は約1mmである。樹脂部材1において、インサート部材2の角部(シャープコーナー)の先端近傍が肉薄部となっている。上記の試験片10に対し、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製)を用い、-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するというサイクルを繰り返し、20サイクル毎にウェルド部を観察した。ウェルド部にクラックが発生したときのサイクル数を耐ヒートショック性の指標として、200サイクル以上を◎、100サイクル以上を○、100サイクル未満を×として評価した。結果を表1に示す。
(5)ストランド切れ
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリュを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX-30)に供給してシリンダ温度260℃、スクリュ回転数120rpm、押出量15kg/hrの条件で溶融混練し、ダイからストランド状に押し出した後、冷却・裁断してポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得る際に、ストランド切れの発生状況を確認し、ストランド切れがほとんど発生しなかったものを○、度々発生したものを×として評価した。結果を表1に示す。
(6)溶融流動性
上記(5)の方法で得たペレットを140℃で3時間乾燥させた後、図3に示す箱状成形品(四辺の壁および底の厚さはいずれも0.7mm)を樹脂温度260℃、金型温度60℃、射出速度100mm/s、保圧力50MPaで射出成形し、完全に充填できたものを〇、流動性不足で末端まで充填できなかったものを×として評価した。
(7)金型付着物
上記(3)の評価に用いた短冊状試験片を連続で6000ショット成形した後、金型キャビティ表面を目視観察により評価した。金型付着物が見られなかったものを○、付着が見られたものを×として評価した。
Figure 0007256822000003

表中のN.D.は検出限界(0.1ppm)以下であることを示す。
含有量の単位は、質量部である。
表1に記載の各成分の詳細は下記の通りである。なお、PBT樹脂の線状低分子量体の量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィ)、難燃剤中のプロトン性化合物の量はヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)によりそれぞれ測定した。
(A-1)PBT樹脂1:ポリプラスチックス株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/g、線状低分子量体50ppmのポリブチレンテレフタレート樹脂
(A-2)PBT樹脂2:ポリプラスチックス株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/g、線状低分子量体150ppmのポリブチレンテレフタレート樹脂
(A-3)PBT樹脂3:ポリプラスチックス株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/g、線状低分子量体30ppmのポリブチレンテレフタレート樹脂
(A-4)PBT樹脂4:ポリプラスチックス株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/g、線状低分子量体1200ppmのポリブチレンテレフタレート樹脂
(B-1)PBBPA1:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール20ppm含有)
(B-2)PBBPA2:溶媒にクロロベンゼンを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量150ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール20ppm含有)
(B-3)PBBPA3:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール300ppm含有)
(B-4)PBBPA4:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール800ppm含有)
(B-5)PBBPA5:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物として3,3-ジエトキシプロパノール100ppm含有)
(B-6)PBBPA6:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール5ppm含有)
(B-7)PBBPA7:溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール1200ppm含有)
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂
EEA:NUC社製、エチレンエチルアクリレート共重合体 NUC-6570
EEA-g-BAMMA:日油社製、エチレンエチルアクリレートとブチルアクリレート-メチルメタクリレートのグラフト共重合体 モディパーA5300
コアシェル:ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、グリシジル基含有アクリルコアシェル系エラストマ パラロイドEXL2314
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤
円形断面GF:日本電気硝子社製、ECS03T-127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
扁平断面GF:日東紡社製、CSG3PA830(長径28μm、短径7μmの長円形断面(長径÷短径比=4)、平均繊維長3mmの長円形断面ガラス繊維)
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤
カルボン酸エステル:ADEKA社製、ピロメリット酸エステル アデカイザーUL100
カルボジイミド:ラインケミージャパン社製、芳香族ポリカルボジイミド STABAXOL P
三酸化アンチモン:日本精鉱社製、PATOX-M
五酸化アンチモン:日本化学工業株式会社製、サンエポックNA1030
滴下防止剤:ポリテトラフルオロエチレン樹脂

Claims (12)

  1. (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、
    (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤3~50質量部と、
    (C)耐ヒートショック性向上用樹脂5~100質量部と、
    (D)耐ヒートショック性向上用充填剤10~200質量部と、
    (E)耐ヒートショック性向上用添加剤0.1~30質量部とを含有し、
    ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(150℃、1時間加熱)により測定される、前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が0.5ppm未満の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、前記耐ヒートショック性向上用添加剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上を含有することを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  2. (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤が、一般式(I)で表されるブロム化アクリル重合体を含有する、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
    Figure 0007256822000004
    (式中、Xは、水素原子または臭素原子であり、少なくとも1つ以上のXは臭素原子であり、mは10~2000の数である。)
  3. (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤が、ポリペンタブロモベンジルアクリレートを含有する、請求項1または2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  4. 前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物が、ハロゲン化ベンゼンを含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  5. 前記難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物が、クロロベンゼンを含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  6. ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定される、プロトン性化合物の含有量が10~1000ppmであるハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  7. ポリブチレンテレフタレート樹脂が、線状低分子量体を50~1000ppm含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  8. プロトン性化合物が、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の重合溶媒に由来する、請求項6に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  9. プロトン性化合物が、アルコキシアルコールである、請求項6または8に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  10. 請求項1から9のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
    (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程を有し、該工程で用いる溶媒中のハロゲン化芳香族化合物の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする、製造方法。
  11. (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程において、溶媒としてハロゲン化芳香族化合物を用いない、請求項10に記載の製造方法。
  12. (B)ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤の製造工程において、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンからなる群から選択される一以上の溶媒を用いる、請求項10又は11に記載の製造方法。
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