JP7252425B2 - 高ビッカース硬度を有するクロムベースのコーティングを含む物体、製造方法、およびそのための水性電気めっき浴 - Google Patents

高ビッカース硬度を有するクロムベースのコーティングを含む物体、製造方法、およびそのための水性電気めっき浴 Download PDF

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Description

本開示は、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体に関する。本開示はさらに、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造するための方法に関する。本開示はさらに、水性電気めっき浴に関する。
要求の厳しい環境条件で使用される物体には、多くの場合、環境条件が物体に影響を与えるのを防ぐために、例えば、機械的または化学的保護が必要とされる。物体への保護は、その上、すなわち基材上にコーティングを施すことによって実現することができる。様々な目的のための保護コーティングが開示されており、基材を機械的影響から保護する硬化コーティング、および化学的影響から保護するための拡散障壁がある。
しかしながら、環境に優しい方法で硬化コーティングを製造するさらなる方法が必要である。
基材上にクロムベースのコーティングを含む物体が開示される。クロムは、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴から電気めっきされ得る。クロムベースのコーティングは、87~98重量%のクロム、0.3~5重量%の炭素、ならびに0.1~11重量%のニッケルおよび/または鉄を含むことができる。クロムベースのコーティングは、900~2000HVのビッカース微小硬度値(Vickers microhardness value)を有することができる。クロムベースのコーティングは炭化クロムを含有しない。
基材上にクロムベースのコーティングを含む物体が開示される。クロムは、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴から電気めっきされ得る。クロムベースのコーティングは、87~98重量%のクロム、0.3~5重量%の炭素、ならびに0.1~11重量%のニッケルおよび/または鉄を含むことができる。クロムベースのコーティングは、1000~2000HVのビッカース微小硬度値を有することができる。クロムベースのコーティングは炭化クロムを含有しない。
基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造するための方法がさらに開示される。この方法は、
- 水性電気めっき浴からの少なくとも1回の電気めっきサイクルに基材を供することによって基材上にクロム含有層を堆積させ、
電気めっきサイクルが、50~300A/dmの電流密度および1.5~10μm/分の堆積速度で実施され、水性電気めっき浴が、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6であり、
堆積したクロム含有層を熱処理に供することなく、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有する硬化クロムベースのコーティングを製造することを含み得る。
水性電気めっき浴がさらに開示される。水性電気めっき浴は、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み得、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6である。
水性電気めっき浴がさらに開示される。水性三価クロム浴は、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.2~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み得、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6であり、水性電気めっき浴の導電率が、160~400mS/cmである。
本開示は、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体に関する。クロムは、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴から電気めっきされ得る。クロムベースのコーティングは、87~98重量%のクロム、0.3~5重量%の炭素、ならびに0.1~11重量%のニッケルおよび/または鉄を含むことができる。クロムベースのコーティングは、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有することができる。クロムベースのコーティングは炭化クロムを含有しなくてもよい。
本開示は、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体に関する。クロムは、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴から電気めっきされ得る。クロムベースのコーティングは、87~98重量%のクロム、0.3~5重量%の炭素、ならびに0.1~11重量%のニッケルおよび/または鉄を含むことができる。クロムベースのコーティングは、1000~2000HVのビッカース微小硬度値を有することができる。クロムベースのコーティングは炭化クロムを含有しない。
当業者には明らかであるように、クロムベースのコーティング中の異なる元素の総量は、100重量%を超えてはならない。クロムベースのコーティング中の異なる元素の重量%での量は、所与の範囲の間で変化し得る。
本開示はさらに、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造するための方法に関する。この方法は、
- 水性電気めっき浴からの少なくとも1回の電気めっきサイクルに基材を供することによって基材上にクロム含有層を堆積させ、少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々が、50~300A/dmの電流密度および1.5~10μm/分の堆積速度で実施され、水性電気めっき浴が、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6であり、
堆積したクロム含有層を熱処理に供することなく、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有する硬化クロムベースのコーティングを製造することを含み得る。
一実施形態では、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造するための方法は、本明細書に定義されるように基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造することを含む。
本開示は、水性電気めっき浴に関する。水性電気めっき浴は、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み得、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6である。
本開示は、水性電気めっき浴に関する。水性三価クロム浴は、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
- 1.2~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み得、
カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6であり、水性電気めっき浴の導電率が、160~400mS/cmである。
驚くべきことに、本発明者は、本出願に開示されるように、水性電気めっきを使用することによって、電気めっき浴から堆積されたクロム含有層の熱処理を使用せずに、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有する硬化クロムベースのコーティングを製造することが可能であることを見出した。「熱処理」という表現は、別段の記載がない限り、本明細書では、堆積されたクロム含有層を、300~1200℃の温度で一定時間熱処理に供することを指すものとして理解されるべきであり、これにより、クロムベースのコーティングにおける炭化クロムの形成がもたらされる。このような熱処理は、クロムの結晶構造をさらに変化させる可能性がある。すなわち、クロムベースのコーティングを製造するための方法は、堆積されたクロム含有層が、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有するクロムベースのコーティングを形成するために熱処理に供されないという条件を含み得る。しかしながら、この条件は、例えば、脱水素アニーリングを除外するものではない。
一実施形態では、クロムベースのコーティングは、1000~1900HV、または1100~1800HV、または1200~1700HV、または1300~1600HV、または1400~1500HVのビッカース微小硬度値を有する。ビッカース微小硬度値は、標準ISO 14577-1:2015に従って測定され得る。
一実施形態では、クロムベースのコーティングは、ASTM G195-18(ホイールCS10、1000g)に従って測定した場合、1.5mg/1000RPM未満、または1.3mg/1000RPM未満、または1.2mg/1000RPM未満、または1.1mg/1000RPM未満のテーバー指数(Taber index)を有し得る。テーバー指数は、クロムベースのコーティングの耐摩耗性を示す。テーバー指数の値が小さいほど、クロムベースのコーティングの耐摩耗性が良好になる。
一実施形態では、クロムの結晶サイズは、7~40nm、または9~20nm、または11~16nmであり得る。クロムの結晶サイズは、以下の方法で測定することができる。
試料を、斜入射(GID)ジオメトリにおいてX線回折(XRD)により測定する。GIDジオメトリでは、X線は小さな入射角で試料に標的を定められ、測定中は一定に保たれる。このようにして、X線は、基材からの信号を最小限に抑える目的で、試料の表面層に焦点を合わせられ得る。測定は、0.075°の増分で、30°~120°の2θ角度範囲で実施される。各試料についての合計測定時間は1時間である。X線の入射角は4°である。試料に加えて、コランダム試料を同一の設定で測定して、回折ピークの機器による広がり(instrumental broadening)を測定した。この測定は、Cu KαX線源を備えたBruker D8 DISCOVER回折計で実施する。X線はGobelミラーで並列化し、1mmのスリットで一次側に制限する。2次側には0.2°の赤道ソーラースリットを使用する。試料からの相は、PDF-2 2015データベースを利用したDIFFRAC.EVA 3.1ソフトウェアで測定されたディフラクトグラムから識別される。TOPAS 4.2ソフトウェアで実施されるフルプロファイルフィッティングにより、試料から微結晶サイズおよび格子パラメーターが決定される。機器による広がりは、コランダム試料の測定値から決定される。微結晶サイズは、Scherrerの式を使用して計算し[Patterson,A.(1939).「The Scherrer Formula for X-Ray Particle Size Determination」.Phys.Rev.56(10):978-982を参照のこと]、ピーク幅は積分幅法で決定される[Scardi,P.,Leoni,M.,Delhez,R.(2004).「Line broadening analysis using integral breadth methods:A critical review」.J.Appl.Crystallogr.37:381-390を参照のこと]。格子パラメーターについての得られた値は、PDF-2 2015データベースからの文献値と比較される。測定値と文献値の差は、コーティング内に残留応力が存在することを示唆している。
一実施形態では、クロムベースのコーティングは、87~98重量%、または92~97重量%のクロムを含む。一実施形態では、クロムベースのコーティングは、0.3~5重量%、または1.0~3.0重量%の炭素を含む。一実施形態では、クロムベースのコーティングは、0.1~11重量%のニッケルおよび/もしくは鉄、または1.1~8.2重量%のニッケルおよび/もしくは鉄、または1.5~6.2重量%のニッケルおよび/もしくは鉄を含む。すなわち、クロムベースのコーティング中のニッケルおよび/または鉄の総量は、0.1~11重量%、または1.1~8.2重量%、または1.5~6.2重量%であり得る。一実施形態では、クロムベースのコーティングは、0~6重量%、または0.1~5重量%、または0.5~3.0重量%のニッケルを含む。一実施形態では、クロムベースのコーティングは、0.1~5重量%、または1.0~3.2重量%の鉄を含む。
クロムベースのコーティング中のクロム、鉄、およびニッケルなどの異なる元素の量は、XRF分析装置で測定および決定され得る。クロムベースのコーティング中の炭素の量は、赤外線(IR)検出器で測定および決定され得る。このような検出器の例は、Leco C230炭素検出器である。
クロムベースのコーティングは、他の元素も含むことができる。クロムベースのコーティングは、さらに酸素および/または窒素を含んでもよい。
通常、少なくとも900HVのビッカース微小硬度値を有する硬化クロムベースのコーティングを実現するには、クロムが実質的に三価の形態でのみ存在する水性電気めっき浴を使用する場合、300~1200℃の温度での、堆積したクロム含有層の少なくとも1回の熱処理の使用を必要とし得る。本発明者は驚くべきことに、本明細書で定義された水性電気めっき浴を使用した場合、そのような熱処理を方法から省略できることを見出した。この種の熱処理を省略することにより、炭化クロムを本質的に含まないクロムベースのコーティングを形成することが可能になり得る。「炭化クロム」という用語は、本明細書では、炭化クロムの全ての化学組成を含むと理解されるべきである。第1の層に存在し得る炭化クロムの例は、Cr、Cr、Cr23、またはそれらの任意の組合せである。このような炭化クロムは、通常、三価クロム浴からの電気めっきによって基材上に堆積されたクロム含有層が、300~1200℃の温度で少なくとも1回の熱処理に供されると、クロムベースのコーティングに形成される。
本明細書において、特に明記しない限り、「電気めっき」、「電解めっき」および「電着」という用語は、同義語として理解されるべきである。基材上にクロム含有層を堆積させることは、本明細書では、コーティングされる基材上に層を直接堆積させることを意味する。本開示において、クロム含有層は、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴からの電気めっきによって堆積され得る。これに関連して、「三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴からの」電気めっきという表現は、クロムが実質的に三価形態でのみ存在する電解浴から堆積が行われるプロセスステップを定義するために使用される。
本明細書に示されているように、水性電気めっき浴は、
- 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
- 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、
- 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
を含み得る。
水性電気めっき浴中のカルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比は、0.015~0.099である。一実施形態では、カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比は、0.015~0.09、0.03~0.08、または0.065~0.075である。本発明者は驚くべきことに、カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンの指定したモル比が、硬化クロムベースのコーティングを実現するために、堆積されたクロム含有層の通常必要とされる熱処理を省略することを可能にする付加された有用性を有することを見出した。
三価クロムカチオン源として、任意の可溶性三価クロム塩を使用することができる。このような三価クロム塩の例は、硫酸カリウムクロム、酢酸クロム(III)、および塩化クロム(III)である。
一実施形態では、カルボン酸イオン源はカルボン酸である。一実施形態では、カルボン酸イオン源は、ギ酸、酢酸、またはクエン酸である。一実施形態では、カルボン酸イオン源は、ギ酸である。一実施形態では、カルボン酸イオン源は、酢酸および/またはクエン酸と一緒にギ酸である。
一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.13~0.24mol/l、または0.17~0.21mol/lの量の三価クロムカチオンを含む。
水性電気めっき浴は、鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオンを含む。本発明者らは驚くべきことに、クロム含有層を堆積させるために、前記カチオンが必要であり得ることを見出した。ニッケルイオンは、ボルタンメトリーに必要な電位を下げるという付加された有用性を有することができる。一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.18~3.6mmol/l、または0.23~0.4mmol/lの量の鉄カチオンを含む。一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.0~2.56mmol/l、または0.53~1.2mmol/lの量のニッケルカチオンを含む。一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.18~6.16mmol/l、または0.76~1.6mmol/lの量の鉄カチオンおよびニッケルカチオンを含む。一実施形態では、水性電気めっき浴は、鉄カチオンを含むが、ニッケルカチオンを含まない。一実施形態では、水性電気めっき浴は、ニッケルカチオンを含むが、鉄カチオンを含まない。一実施形態では、水性電気めっき浴は、鉄カチオンおよびニッケルカチオンの両方を含む。
一実施形態では、水性電気めっき浴は、2.0~6.0mol/l、または2.3~3.2mol/lの量のカルボン酸イオンを含む。
一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.15~0.3mol/l、0.21~0.25mol/lの量の臭化物イオンを含む。一実施形態では、臭化物イオン源は、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、およびそれらの任意の組み合わせまたは混合物からなる群から選択される。一実施形態では、臭化物イオン源は、臭化カリウム、臭化ナトリウム、または臭化アンモニウムである。臭化カリウムなどの臭化物の使用は、電気めっきシステムの陽極での六価クロムの形成を効率的に防止するという付加された有用性を有することができる。
一実施形態では、水性電気めっき浴は、2~10mol/l、または2.5~6mol/l、または3~3.4mol/lの量のアンモニウムイオンを含む。一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.18~1.5mol/l、または0.45~1.12mol/lの量のアンモニウムイオンを含む。アンモニウムイオンの使用は、水性電気めっき浴にコンダクタンスを提供するという付加された有用性を有する。アンモニウムイオンの使用は、クロムと錯体を形成するという付加された有用性を有する。一実施形態では、アンモニウムイオン源は、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、およびそれらの任意の組み合わせまたは混合物からなる群から選択される。
一実施形態では、水性電気めっき浴のpHは、2~6、または3~5.5、または4.5~5、または4.1~5であり得る。pHは、必要に応じて水性電気めっき浴に塩基を含めることによって調整され得る。水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムが、水性電気めっき浴のpHを調整するために使用され得る塩基の例として挙げられ得る。一実施形態では、水性電気めっき浴は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、および/または水酸化カリウムを含む。一実施形態では、水性電気めっき浴は、0.5~3.1mol/l、または1.4~1.8mol/lの量の塩基を含む。
一実施形態では、水性電気めっき浴の導電率は、160~400mS/cm、200~350mS/cm、または250~300mS/cmである。水性電気めっき浴の導電率は、例えば、導電率に関して異なる塩の使用により調整され得る。塩化アンモニウム、塩化カリウム、および塩化ナトリウムが、導電率を調整するために使用され得る塩の例として挙げられ得る。導電率は、例えば、標準EN 27888(水質;電気伝導度の測定(ISO 7888:1985))に従って測定され得る。
当業者に明らかであるように、クロムベースのコーティングは、上記の材料に加えて、電気めっきプロセスなどの製造プロセスに起因する微量の残留元素および/または化合物を含有し得る。そのようなさらなる元素の例は、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、およびそれらを含む任意の化合物である。
本明細書に開示されている方法およびクロムベースのコーティングは、金属基材を腐食から保護するのに十分に適している。一実施形態では、物体の耐食性は、少なくとも24時間、または少なくとも48時間、または少なくとも96時間、または少なくとも168時間、または少なくとも240時間、または少なくとも480時間である。耐食性は、標準EN ISO 9227 NSS(中性塩水噴霧)評価9または10(2017)に従って測定され得る。
クロムベースのコーティングの厚さは、物体が使用される用途に応じて異なり得る。クロムベースのコーティングの厚さは、構成する層の数および厚さに依存し得る。一実施形態では、クロムベースのコーティングの厚さは、0.05~200μm、または0.5~100μm、または0.3~5μmである。
「基材」とは、本明細書では、本開示によるクロムベースのコーティングがコーティングされる任意の構成要素(コンポーネント)または本体を意味する。一般に、本開示によるクロムベースのコーティングは、可変の基材上で使用することができる。一実施形態では、基材は、金属、金属の組み合わせ、または金属合金を含むか、またはそれらからなる。一実施形態では、基材は、鋼、銅、ニッケル、鉄、またはそれらの任意の組み合わせから構成される。基材は、セラミック材料から構成されてもよい。基材は均質な材料である必要はない。換言すれば、基材は異種材料であってもよい。基材は積層されてもよい。例えば、基材は、ニッケルの層、またはニッケルリン合金(Ni-P)の層によってコーティングされた鋼物体であってもよい。一実施形態では、基材は、切削工具、例えば切削ブレードである。一実施形態では、基材は、金属を含む切削工具である。
一実施形態では、基材上にクロムベースのコーティングを含む物体は、ニッケルの層を含まない。一実施形態では、クロムベースのコーティングは、ニッケルの層を含まない。一実施形態では、基材はニッケルの層を含まない。
一実施形態では、物体は、ガスタービン、ショックアブソーバ、油圧シリンダー、連結ピン(linked pin)、継手ピン、ブッシュリング、丸棒、バルブ、ボールバルブ、またはエンジンバルブである。
一実施形態では、基材を少なくとも1回の電気めっきサイクルに供することによってクロム含有層を堆積させることは、基材を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回の電気めっきサイクルに供することを含む。少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々は、1分~4時間、または10~60分、または20~40分、または約30分間継続され得る。少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々は、50~300A/dm、または80~250A/dm、または110~200A/dm、または120~180A/dm、または130~170A/dm、または140~150A/dmの電流密度で実施され得る。水性電気めっき浴の温度は、電気めっきサイクルの間、25~70℃または40~50℃に維持され得る。一実施形態では、少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々は、1.8~5μm/分、または2.0~4μm/分、または2.5~3.5μm/分の堆積速度で実施される。
少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々は、互いに重なり合って配置される少なくとも2つの副層を形成するように、時間的に別の電気めっきサイクルから分離され得る。一実施形態では、電気めっきサイクルの各々は、電気めっきプロセスを所定の時間停止させることによって時間的に互いに分離される。少なくとも2回の電気めっきサイクルの各々は、別の電気めっきサイクルから、少なくとも1秒、または少なくとも10秒、または少なくとも30秒、または少なくとも1分、または少なくとも5分、または少なくとも10分、分離される。一実施形態では、少なくとも2回の電気めっきサイクルの各々は、別の電気めっきサイクルから、0.1ミリ秒~3分、または1秒~60秒、または10~30秒、分離される。一実施形態では、少なくとも2回の電気めっきサイクルの各々は、別の電気めっきサイクルから、0.5~10分、または2~8分、または3~7分、分離される。
異なる電気めっきサイクルは、水性電気めっき浴を通過する電流を停止させることによって互いに分離され得る。電気めっきに供される基材は、一定時間、水性電気めっき浴から取り出され、その後、電気めっきを継続するために浴に戻されてもよい。電気めっきに供される基材は、一定時間、ある三価クロム浴から取り出され、別の三価クロム浴に置かれ、連続する電気めっきサイクルが行われてもよい。
この方法は、クロムベースのコーティングの表面を研磨することをさらに含んでもよい。クロムベースのコーティングの表面を研磨または研削することにより、滑らかな上面の形成が可能になる。この方法は、クロムベースのコーティングの表面を、0.6未満または0.2未満のRa値まで研磨することを含んでもよい。粗さの値(Ra値)は、EN ISO 4288:1998に従って測定され得る。クロムベースのコーティングの表面は、物体の最終用途に必要な粗さの値まで研磨され得る。
本明細書に開示された物体は、物体の硬度が関連する用途に十分に適しているという付加された有用性を有する。クロムベースのコーティングの材料は、物体の高い耐久性を必要とする特定の用途に適した硬度を基材に与えるという付加された有用性を有する。クロムベースのコーティングは、使用中の環境との相互作用によって引き起こされる影響から下部の基材を保護するという付加された有用性を有する。クロムベースのコーティングは、優れた耐食性を提供するという付加された有用性を有する。クロムベースのコーティングはさらに、三価クロムから形成されるという付加された有用性を有し、それによって環境への影響は六価クロムを使用する場合よりも少ない。さらに、本明細書に開示されている方法は、六価クロムを使用する場合よりもクロムベースのコーティングの安全な製造方法であるという付加された有用性を有する。さらに、クロム含有層の熱処理を省略できる一方で、クロムベースのコーティングに高いビッカース微小硬度値を依然として提供できることは、製造方法を簡素化するという付加された有用性を有し、したがって製造コストに有益な影響を与える。
ここで、様々:な実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。
以下の説明は、当業者が本開示に基づいて実施形態を利用できるように、いくつかの実施形態を詳細に開示する。ステップまたは特徴の多くは、本明細書に基づいて当業者には明らかであるため、実施形態の全てのステップまたは特徴が詳細に論じられているわけではない。
実施例1 - 基材上へのクロムベースのコーティング作製
この実施例では、基材上にクロムベースのコーティングを各々含む異なる物体を作製した。
最初に、金属基材、すなわち、CK45鋼基材を洗浄し、その上に電気めっきによって基材の一部として厚さ約3~4μmのニッケル層を設けることによって、基材を前処理した。その後、基材を水ですすいだ後、クロムベースのコーティングが基材上に形成された。
水性電気めっき浴は以下を含んだ:
Figure 0007252425000001
水性電気めっき浴は、通常の初期めっきを行った後、すぐに使用できる状態になった。
基材を電気めっきサイクルに供することによって、クロム含有コーティングを基材の各々の上に堆積させた。電気めっきサイクルは10分間で実施した。次に、クロム含有層を有する基材をすすぎ、Ra値が約0.2になるまで研磨した。
作製した物体のクロムベースのコーティングの以下の特性およびパラメーターを決定した。結果を以下の表に示す。
Figure 0007252425000002
実施例2 - クロムベースのコーティングの硬度に対する電流密度の効果
この実施例では、電気めっきの間の電流密度の効果を試験した。水性電気めっき浴は、上記実施例1の浴3と同様の浴であった。結果を以下の表に示す。
Figure 0007252425000003
技術の進歩に伴い、基本的な着想が様々な方法で実装される可能性があることは、当業者には明らかである。したがって、実施形態は上記の例に限定されず、代わりに、特許請求の範囲内で変化する場合がある。
本明細書の前述の実施形態は、互いに任意に組み合わせて使用することができる。いくつかの実施形態を一緒に組み合わせて、さらなる実施形態を形成することができる。本明細書で開示される物体、方法、または水性電気めっき浴は、本明細書で前述した実施形態のうちの少なくとも1つを含み得る。上記の利益および利点は、一実施形態に関連する場合もあれば、いくつかの実施形態に関連する場合もあることが理解されるであろう。実施形態は、記載された問題のいずれかもしくは全てを解決するもの、または記載された利益および利点のいずれかまたは全てを有するものに限定されない。「1つの(an)」項目への言及は、それらの項目の1つまたは複数を指すことがさらに理解されるであろう。「含む」という用語は、本明細書において、1つまたは複数の追加の特徴または行為の存在を排除することなく、その後に続く特徴または行為を含むことを意味するために使用される。

Claims (16)

  1. 基材上にクロムベースのコーティングを含む物体であって、前記クロムが、三価クロムカチオンを含む水性電気めっき浴から電気めっきされ、前記クロムベースのコーティングが、87~98重量%のクロム、0.3~5重量%の炭素、ならびに0.1~11重量%のニッケルおよび/または鉄を含み、前記クロムベースのコーティングが、1000~2000HVのビッカース微小硬度値を有し、前記クロムベースのコーティングが、炭化クロムを含有しない、物体。
  2. クロムベースのコーティングが、ASTM G195-18に従って測定して、1.5mg/1000RPM未満、または1.3mg/1000RPM未満、または1.2mg/1000RPM未満、または1.1mg/1000RPM未満のテーバー指数を有する、請求項1に記載の物体。
  3. 前記クロムの結晶サイズが、7~40nm、または9~20nm、または11~16nmである、請求項1または2に記載の物体。
  4. 前記クロムベースのコーティングが、1000~1900HV、または1100~1800HV、または1200~1700HV、または1300~1600HV、または1400~1500HVのビッカース微小硬度値を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物体。
  5. 前記物体が、ガスタービン、ショックアブソーバ、油圧シリンダー、連結ピン、継手ピン、ブッシュリング、丸棒、バルブ、ボールバルブ、またはエンジンバルブである、請求項1~4のいずれか一項に記載の物体。
  6. 基材上にクロムベースのコーティングを含む物体を製造するための方法であって、前記方法が、
    - 水性電気めっき浴からの少なくとも1回の電気めっきサイクルに基材を供することによって前記基材上にクロム含有層を堆積させ、
    前記少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々が、50~300A/dmの電流密度および1.5~10μm/分の堆積速度で実施され、前記水性電気めっき浴が、
    - 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
    - 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
    - 1.22~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
    を含み、
    前記カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、水性三価クロム浴のpHが2~6であり、
    堆積したクロム含有層を熱処理に供することなく、900~2000HVのビッカース微小硬度値を有する硬化クロムベースのコーティングを製造することを含む、方法。
  7. 前記水性電気めっき浴の温度が、前記電気めっきサイクルの間、25~70℃、または40~50℃に維持される、請求項6に記載の方法。
  8. 前記少なくとも1回の電気めっきサイクルの各々が、1分~4時間、または10~60分、または20~40分、または約30分間継続される、請求項6または7に記載の方法。
  9. 前記電気めっきサイクルが、80~250A/dm、または110~200A/dm、または120~180A/dm、または130~170A/dm、または140~150A/dmの電流密度で実施される、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 水性電気めっき浴であって、
    水性三価クロム浴が、
    - 0.12~0.3mol/lの量の三価クロムカチオン、
    - 0.18~6.16mmol/lの量の鉄カチオンおよび/またはニッケルカチオン、ならびに
    - 1.2~7.4mol/lの量のカルボン酸イオン
    を含み、
    前記カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.099であり、前記水性三価クロム浴のpHが2~6であり、前記水性電気めっき浴の導電率が、160~400mS/cmである、水性電気めっき浴。
  11. 前記カルボン酸イオンに対する三価クロムカチオンのモル比が、0.015~0.09、0.03~0.08、または0.065~0.075である、請求項10に記載の水性電気めっき浴。
  12. 前記水性電気めっき浴が、0.15~0.3mol/l、0.21~0.25mol/lの量の臭化物イオンを含む、請求項10または11に記載の水性電気めっき浴。
  13. 前記水性電気めっき浴が、0.18~1.5mol/l、または0.45~1.12mol/lの量のアンモニウムイオンを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の水性電気めっき浴。
  14. カルボン酸イオン源がギ酸である、請求項10~13のいずれか一項に記載の水性電気めっき浴。
  15. 前記水性三価クロム浴のpHが、3~5.5、または4.5~5、または4.1~5である、請求項10~14のいずれか一項に記載の水性電気めっき浴。
  16. 前記水性電気めっき浴の導電率が、200~350mS/cm、または250~300mS/cmである、請求項10~15のいずれか一項に記載の水性電気めっき浴。
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