以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係る多層基板101の外観斜視図であり、図1(B)は多層基板101の分解斜視図である。図2は、第1の実施形態に係る絶縁基材層13aの平面図である。なお、図2では、構造を分かりやすくするため、複数の絶縁基材層を積層したときに、ガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14が重なる位置を破線で示している。本実施形態に係る多層基板101は、回路基板等に面実装される電子部品である。
多層基板101は、基材10A、導体パターン(導体31,32,33,34、電極P1)および層間接続導体V1,V2,V3,V4等を備える。本実施形態では、複数の導体パターンのうち最も面積の大きな導体32が、本発明における「面状導体」に相当する。
基材10Aは、長手方向がX軸方向に一致する樹脂(熱可塑性樹脂)製の直方体であり、互いに対向する第1主面S1および第2主面S2を有する。電極P1は第1主面S1に形成されており、導体33,34は基材10Aの第2主面S2に形成されている。また、導体31,32および層間接続導体V1~V4は、基材10Aの内部に形成されている。
基材10Aは、樹脂(熱可塑性樹脂)からなる絶縁基材層11a,12a,13a,14aが、この順番に積層されて形成された積層体である。絶縁基材層11a~14aはいずれも同一の材料からなる平板である。絶縁基材層11a~14aは、例えば液晶ポリマー(LCP)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を主成分とする樹脂シートである。
絶縁基材層11aの下面には、電極P1が形成されている。電極P1は、絶縁基材層11aの第4角(図1(B)における絶縁基材層11aの右下角)付近に配置される矩形の導体パターンである。電極P1は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、絶縁基材層11aには、層間接続導体V1が形成されている。
絶縁基材層12aの上面には、導体31が形成されている。導体31は、絶縁基材層12aの中央よりも第3辺(図1(B)における絶縁基材層12aの右辺)寄りの位置に配置される、X軸方向に延伸する線状の導体パターンである。導体31は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、絶縁基材層12aには、層間接続導体V2が形成されている。
さらに、絶縁基材層12aには、複数のガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14が形成されている。2つのガス抜き部NR11は、長手方向がX軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12aの第1辺(図1(B)における絶縁基材層12aの左辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR12は、長手方向がY軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12aの第2辺(図1(B)における絶縁基材層12aの上辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR13は、長手方向がX軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12aの第3辺(図1(B)における絶縁基材層12aの右辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR14は、長手方向がY軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12aの第4辺(図1(B)における絶縁基材層12aの下辺)付近に配置されている。
絶縁基材層13aの上面には、導体32が形成されている。導体32は、絶縁基材層13aの中央付近に配置される略矩形の導体パターンである。導体32は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、絶縁基材層13aには、層間接続導体V3が形成されている。
絶縁基材層14aの上面には、導体33,34が形成されている。導体33は、絶縁基材層14aの中央よりも第1辺(図1(B)における絶縁基材層14aの左辺)寄りの位置に配置される、Y軸方向に延伸する線状の導体パターンである。導体34は、絶縁基材層14aの中央よりも第3辺(図1(B)における絶縁基材層14aの右辺)寄りの位置に配置されるL字形の導体パターンである。導体33,34は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、絶縁基材層14aには、層間接続導体V4が形成されている。
図1(B)に示すように、電極P1は、層間接続導体V1,V2を介して、導体31の一端に接続されている。導体31の他端は、層間接続導体V3を介して導体32に接続されている。導体32は、層間接続導体V4を介して、導体33に接続されている。
図2に示すように、同一の絶縁基材層(12a)に形成されるガス抜き部NR11~NR14は、複数の絶縁基材層11a~14aの積層方向(Z軸方向)から視て、面状導体(導体32)に部分的に重なっている。また、ガス抜き部NR11~NR14は、Z軸方向から視て、面状導体の内側から外側まで達するように延びるように形成されている。
本実施形態では、ガス抜き部NR11~NR14が、同一の絶縁基材層12aに部分的に設けられており、偏在していない。また、本実施形態では、図2に示すように、同一の絶縁基材層12aに形成されるガス抜き部NR11~NR14が、Z軸方向から視て、面状導体(導体32)の中心CPを通る直線(例えば、X軸方向に延びる直線)に対して線対称に配置されている。さらに、本実施形態では、同一の絶縁基材層12aに形成されるガス抜き部NR11~NR14が、Z軸方向から視て、面状導体の中心CPに対して点対称に配置されている。
本実施形態に係る多層基板101は、例えば次に示す製造方法によって製造される。図3は、多層基板101の製造工程を順に示す断面図である。なお、図3では、説明の都合上、ワンチップ(個片)の図で説明するが、実際の多層基板101の製造工程は集合基板状態で行われる。「集合基板」とは、複数の多層基板101が含まれるマザー基板を言う。このことは、以降の製造工程を示す図でも同様である。
まず、図3中(1)に示すように、樹脂(熱可塑性樹脂)からなる複数の絶縁基材層11a,12a,13a,14aを準備する。絶縁基材層11a~14aは、例えば液晶ポリマー(LCP)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を主成分とする樹脂シートである。
次に、複数の絶縁基材層11a~14aに導体パターンを形成する。具体的には、絶縁基材層の一方面にラミネートされた金属箔(例えばCu箔)をフォトリソグラフィでパターニングする。これにより、絶縁基材層11aの下面に電極P1を形成し、絶縁基材層13aの上面に導体32を形成し、絶縁基材層14aの上面に導体33,34を形成する。
複数の絶縁基材層11a~14aのいずれかに導体パターン(導体32,33,34等、電極P1)を形成するこの工程が、本発明の「導体パターン形成工程」の一例である。
また、絶縁基材層12aにガス抜き部NR11,NR13等を形成する。ガス抜き部NR11,NR13は、後に複数の絶縁基材層11a~14aを積層したときにZ軸方向から視て、面状導体(導体32)に部分的に重なり、且つ、面状導体の内側から外側まで達するように延びる形状の貫通孔である。ガス抜き部NR11,NR13等は、例えばレーザー等により絶縁基材層12aをエッチングすることによって形成される。また、ガス抜き部NR11,NR13等は、パンチング等によって形成してもよい。
複数の絶縁基材層11a~14aのいずれかに、ガス抜き部NR11,NR13等を形成するこの工程が、本発明の「ガス抜き部形成工程」の一例である。
さらに、絶縁基材層14aに層間接続導体V4を形成する。層間接続導体V4は、例えば絶縁基材層14aにレーザー等で貫通孔を設けた後、上記貫通孔内にCu,Snもしくはそれらの合金等と樹脂材料とを含む導電性ペーストを配設し、後の加熱プレスで固化させることによって設けられる。なお、絶縁基材層11a~13aには、層間接続導体V4以外の層間接続導体が形成されるが、図3では図示省略している。
次に、図3中の(2)に示すように、複数の絶縁基材層11a,12a,13a,14aをこの順番に積層する。
導体パターン形成工程およびガス抜き部形成工程の後に、複数の絶縁基材層11a~14aを積層するこの工程が、本発明の「積層工程」の一例である。
その後、積層した複数の絶縁基材層11a~14aを加熱プレス(一括プレス)して図3中の(3)に示す多層基板101(基材10A)を形成する。加熱プレス時、ガス抜き部NR11,NR13等には絶縁基材層(樹脂材料)が流動する(図3中の(2)に示す矢印を参照)。これにより、ガス抜き部NR11,NR13等は埋められる。
積層工程の後に、積層した複数の絶縁基材層11a~14aを加熱プレスして基材10Aを形成するこの工程が、本発明の「加熱プレス工程」の一例である。
本実施形態では、絶縁基材層11a~14aおよび層間接続導体V1~V4は樹脂を含むため、所定の温度以上の熱を受けると、その一部が熱分解され、CO2等の気体および水分を生じる。このような気体および水分が積層体中に残っていると、多層基板を加熱した際(多層基板の製造時、多層基板の実装時におけるリフロー工程時、ホットバー等を用いた多層基板の実装時、または加熱を伴う多層基板の曲げ加工時等)に、ガス(上記気体、および上記水分から生じた気体)が膨張して層間剥離(デラミネーション)や、上記層間剥離に伴う層間接続導体と他の導体との接合不良等が生じやすい。そのため、多層基板の製造時等に上記ガスを基材外へ排出させることが重要となる。
しかし、基材内に大きな導体パターン(金属パターン)があると、製造時等に基材内に生じるガスがこの導体パターンを透過できないため、ガスが生じた場所によっては排出経路が長くなって基材内にガスが残留する場合がある。特に、面状導体(広面積の導体パターン)の中央付近に生じるガスは、面状導体の縁端部に生じるガスに比べて残留しやすい。そのため、基材内に残留したガスによって導体パターンが変形し、所望の特性が得られない虞がある。また、基材内にガスが残留していると、多層基板の加熱時(多層基板の製造時、多層基板の実装時におけるリフロー工程時、ホットバー等を用いた多層基板の実装時、または加熱を伴う多層基板の曲げ加工時等)に上記ガスが膨張して層間剥離が生じる虞がある。
一方、上記製造方法によれば、Z軸方向から視て、面状導体(導体32)の内側から外側まで達するように延びるガス抜き部NR11~NR14を、絶縁基材層12aに形成する。そのため、製造時に基材10A内に生じるガスを外部に排出するための経路が確保され、上記ガスを効果的に基材外に排出できるため、基材10A内にガスが残留することに起因する層間剥離は抑制される。
また、上記製造方法によれば、絶縁基材層との接合強度が弱いガス透過性に優れる部材(例えば、ガス透過性に優れた樹脂シート)を用いることなく、基材10Aが形成されるため、絶縁基材層同士の接合面(界面)の接合強度が確保される。具体的には、本実施形態に係る基材10Aは、同一材料からなる複数の絶縁基材層11a~14aを加熱プレス(一括プレス)してその表面同士を融着したものである。そのため、絶縁基材層11a~14a同士の接合面には異種材料の接合面は存在せず、異種材料間の物性差に起因する層間剥離は抑制される。
また、上記製造方法によれば、ガス抜き部NR11~NR14が、同一の絶縁基材層12aに部分的に設けられており、偏在していない。これにより、ガス抜き部NR11~NR14が形成された絶縁基材層12aの搬送時や積層時における変形(撓み等)が抑制される。また、上記製造方法によれば、ガス抜き部NR11~NR14が、加熱プレス時に周囲の絶縁基材層が流動して埋まるため、表面(第1主面S1または第2主面S2)が平坦な基材10Aを形成しやすい。
本実施形態では、複数の絶縁基材層11a~14aが熱可塑性樹脂からなるため、加熱プレス時に絶縁基材層(樹脂材料)が流動しやすく、基材10Aを形成後にガス抜き部NR11~NR14が埋まりやすい。そのため、表面(第1主面S1または第2主面S2)が平坦な基材10Aを形成しやすくできる。また、熱可塑性樹脂からなる複数の絶縁基材層11a~14aを加熱プレス(一括プレス)することにより基材10Aを容易に形成できるため、基材10Aの製造工程が削減され、コストを低く抑えることができる。さらに、上記製造方法により、容易に塑性変形が可能で、且つ、所望の形状を維持(保持)できる多層基板を得られる。
また、本実施形態では、複数のガス抜き部NR11~NR14が、複数の絶縁基材層11a~14aを積層したときにZ軸方向から視て、面状導体(導体32)の中心CPを通る直線に対して線対称に配置されるよう同一の絶縁基材層12aに形成される。これにより、面状導体に対するガス抜き部NR11~NR14の分布に偏りが少なくなり、ガス抜き効果が面方向で均一となりやすい。すなわち、局所的にガスが残留しなくなり、層間剥離の抑制効果が高まる。また、上記製造方法により、加熱プレス時に、Z軸方向から視た面状導体の内側から外側への絶縁基材層の流動の不均一性が抑制されるため、加熱プレス時における不規則な絶縁基材層の流動に伴う、基材10A表面の凹凸の発生や導体パターン(導体31~34または電極P1)の変形が抑制される。
さらに、本実施形態では、複数のガス抜き部NR11~NR14が、複数の絶縁基材層11a~14aを積層したときにZ軸方向から視て、面状導体(導体32)の中心CPに対して点対称に配置されるよう、同一の絶縁基材層12aに形成される。これにより、局所的なガスの残留が抑制され、層間剥離の抑制効果がさらに高まる。また、上記製造方法により、加熱プレス時における不規則な絶縁基材層の流動に伴う、基材10A表面の凹凸の発生や導体パターン(導体31~34または電極P1)の変形がさらに抑制される。
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、ガス抜き部が複数の小さな貫通孔からなる貫通孔群である例を示す。
図4(A)は第2の実施形態に係る多層基板102の外観斜視図であり、図4(B)は多層基板102の分解斜視図である。図5は、第2の実施形態に係る絶縁基材層13bの平面図である。なお、図5では、構造を分かりやすくするため、複数の絶縁基材層を積層したときに、ガス抜き部NR11A,NR12A,NR13A,NR14Aが重なる位置を破線で示している。
多層基板102は、基材10Bを備える点で、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる。多層基板102の他の構成については、多層基板101と同じである。
以下、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる部分について説明する。
基材10Bは、複数の絶縁基材層11b,12b,13b,14bが、この順番に積層されて形成された積層体である。絶縁基材層12bは、複数のガス抜き部NR11A,NR12A,NR13A,NR14Aが形成されている点で、第1の実施形態で説明した絶縁基材層12aと異なる。絶縁基材層11b~14bの材料および外形等は、第1の実施形態で説明した絶縁基材層11a~14aと同じである。
2つのガス抜き部NR11Aは、4つの小さな矩形の貫通孔がX軸方向に配列された貫通孔群であり、絶縁基材層12bの第1辺(図4(B)における絶縁基材層12bの左辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR12Aは、3つの小さな矩形の貫通孔がY軸方向に配列された貫通孔群であり、絶縁基材層12bの第2辺(図4(B)における絶縁基材層12bの上辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR13Aは、4つの小さな矩形の貫通孔がX軸方向に配列された貫通孔群であり、絶縁基材層12bの第3辺(図4(B)における絶縁基材層12bの左辺)付近に配置されている。2つのガス抜き部NR14Aは、3つの小さな矩形の貫通孔がY軸方向に配列された貫通孔群であり、絶縁基材層12bの第4辺(図4(B)における絶縁基材層12bの下辺)付近に配置されている。
図5に示すように、同一の絶縁基材層(12a)に形成されるガス抜き部NR11A~NR14Aは、Z軸方向から視て、面状導体(導体32)に部分的に重なっている。また、ガス抜き部NR11A~NR14Aは、Z軸方向から視て、面状導体の内側から外側まで達するように延びるように形成されている。
このように、ガス抜き部は、複数の小さな孔が配列された孔群でもよい。なお、ガス抜き部が孔群である場合、複数の小さな孔同士の間隙は短いことが好ましい。ガス抜き部(孔群)における複数の小さな孔同士の間隙(D1)は、例えばガス抜き部が形成された絶縁基材層の積層方向の厚み(T1)より短いことが好ましい(D1<T1)。
ガス抜き部が大きな孔である場合、加熱プレス時に絶縁基材層が流動してもガス抜き部が埋まり難く、基材の表面の平坦性が確保し難い。また、ガス抜き部が大きな孔である場合、加熱プレス時に絶縁基材層が流動する量も大きくなるため、絶縁基材層の流動に伴う導体パターンの変形や位置ずれが生じやすくなる。一方、本実施形態に係るガス抜き部NR11A~NR14Aは、複数の小さな孔が配列された孔群であるため、加熱プレス時の絶縁基材層の流動によって貫通孔群が埋まりやすく、基材10Bの表面の平坦性が確保しやすい。また、上記製造方法により、加熱プレス時に絶縁基材層が流動する量も少なくなり、絶縁基材層の流動に伴う導体パターンの変形等は抑制される。
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、ガス抜き部が面状導体に接している例を示す。
図6(A)は第3の実施形態に係る多層基板103の外観斜視図であり、図6(B)は多層基板103の分解斜視図である。図7は、第3の実施形態に係る絶縁基材層12cの平面図である。なお、図7では、構造を分かりやすくするため、複数の絶縁基材層を積層したときに、ガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14が重なる位置を破線で示している。
多層基板103は、基材10Cを備える点で、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる。多層基板103の他の構成については、多層基板101と実質的に同じである。
以下、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる部分について説明する。
基材10Cは、複数の絶縁基材層11c,12c,13cが、この順番に積層されて形成された積層体である。絶縁基材層11c~13cの材料および外形等は、第1の実施形態で説明した絶縁基材層11a~13cと同じである。
絶縁基材層11cの下面には、電極P1Aが形成されている。電極P1Aは、絶縁基材層11cの中央よりも第3辺(図6(B)における絶縁基材層11cの右辺)寄りの位置に配置される矩形の導体パターンである。電極P1Aは、例えばCu箔等の導体パターンである。また、絶縁基材層11cには、層間接続導体V1が形成されている。
絶縁基材層12cの上面には、導体31が形成されている。導体31は、第1の実施形態で説明した導体31と同じものである。また、絶縁基材層12cには、層間接続導体V2が形成されている。
さらに、絶縁基材層12cには、複数のガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14が形成されている。ガス抜き部NR11~NR14は、第1の実施形態で説明したガス抜き部NR11~NR14と同じものである。
絶縁基材層13cの上面には、導体33,34が形成されている。導体33,34は、第1の実施形態で説明した導体33,34と同じものである。また、絶縁基材層13cには層間接続導体V3が形成されている。
図6(B)に示すように、電極P1は、層間接続導体V1,V2を介して、導体32に接続されている。導体32は、層間接続導体V3を介して導体33に接続されている。
本実施形態では、ガス抜き部NR11~NR14が、面状導体(導体32)が形成された絶縁基材層12cに形成されている。
本実施形態に係る多層基板103は、例えば次に示す製造方法によって製造される。図8は、多層基板103の製造工程を順に示す断面図である。
まず、図8中の(1)に示すように、複数の絶縁基材層11c,12c,13cを準備する。次に、複数の絶縁基材層11c~13cに導体パターンを形成する。具体的には、絶縁基材層11cの下面に電極P1Aを形成し、絶縁基材層12cの上面に導体32を形成し、絶縁基材層13cの上面に導体33,34を形成する。
複数の絶縁基材層11c~13cのいずれかに導体パターン(導体32,33,34、電極P1A)を形成するこの工程が、本発明の「導体パターン形成工程」の一例である。
また、絶縁基材層12cにガス抜き部NR11,NR13等を形成する。さらに、絶縁基材層13cに層間接続導体V3を形成する。
後に積層工程において(複数の絶縁基材層11c~13cを積層したときに)面状導体(導体32)が接する絶縁基材層12cに、ガス抜き部NR11,NR13等を形成するこの工程が、本発明の「ガス抜き部形成工程」の一例である。
次に、図8中の(2)に示すように、複数の絶縁基材層11c,12c,13cをこの順番に積層する。
導体パターン形成工程およびガス抜き部形成工程の後に、複数の絶縁基材層11c~13cを積層するこの工程が、本発明の「積層工程」の一例である。
その後、積層した複数の絶縁基材層11c~13cを加熱プレス(一括プレス)して図8中の(3)に示す多層基板103(基材10C)を形成する。加熱プレス時、ガス抜き部NR11,NR13等には絶縁基材層(樹脂材料)が流動する(図8中の(2)に示す矢印を参照)。これにより、ガス抜き部NR11,NR13等は埋められる。
積層工程の後に、積層した複数の絶縁基材層11c~13cを加熱プレスして基材10Cを形成するこの工程が、本発明の「加熱プレス工程」の一例である。
本実施形態では、ガス抜き部NR11~NR14が、積層工程において複数の絶縁基材層11c~13cを積層したときに面状導体(導体32)が接する絶縁基材層12cに形成されている。上記製造方法によれば、基材10Aの製造時において面状導体の近傍に生じたガスが、面状導体で遮られることなく外部に速やかに抜ける。そのため、基材10A内に残留するガス量が低減され、製造時または使用時での加熱における層間剥離は抑制される。
なお、本実施形態では、面状導体(導体32)が形成される絶縁基材層12cに、ガス抜き部NR11~NR14を形成する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の絶縁基材層11c~13cを積層したときに面状導体に接する絶縁基材層13cに、ガス抜き部を形成しても同様の効果が得られる。
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、2以上の絶縁基材層にそれぞれガス抜き部が形成された多層基板の例を示す。
図9(A)は第4の実施形態に係る多層基板104の外観斜視図であり、図9(B)は多層基板104の分解斜視図である。図10は、第4の実施形態に係る絶縁基材層13dの平面図である。なお、図10では、構造を分かりやすくするため、複数の絶縁基材層を積層したときに、ガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14,NR21,NR22,NR23,NR24が重なる位置を破線で示している。さらに、図10では、ガス抜き部NR21~NR23をドットパターンで示している。
多層基板104は、基材10Dを備える点で、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる。また、多層基板104は、導体33,34が基材10Dの内部に形成されている点で、多層基板101と異なる。多層基板104の他の構成については、多層基板101と実質的に同じである。
以下、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる部分について説明する。
基材10Dは、複数の絶縁基材層11d,12d,13d,14dが、この順番に積層されて形成された積層体である。絶縁基材層11d~14dの構成は、第1の実施形態で説明したものと略同じである。
絶縁基材層11dの下面には、電極P1Aが形成されている。電極P1Aは、絶縁基材層11dの中央よりも第3辺(図9(B)における絶縁基材層11dの右辺)寄りの位置に配置される矩形の導体パターンである。また、絶縁基材層11dには、層間接続導体V1が形成されている。
絶縁基材層12dの上面には、導体32が形成されている。導体32は、第1の実施形態で説明した導体32と同じものである。また、絶縁基材層12dには、層間接続導体V2が形成されている。
さらに、絶縁基材層12dには、複数のガス抜き部NR11,NR12,NR13,NR14が形成されている。ガス抜き部NR11~NR14は、第1の実施形態で説明したガス抜き部NR11~NR14と同じものである。
絶縁基材層13dの上面には、導体33,34が形成されている。導体33,34は、第1の実施形態で説明した導体33,34と同じものである。また、絶縁基材層13dには層間接続導体V3が形成されている。
さらに、絶縁基材層12dには、ガス抜き部NR21,NR22,NR23,NR24が形成されている。ガス抜き部NR21は、長手方向がX軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12dの第1辺(図9(B)における絶縁基材層12dの左辺)の中央付近に配置されている。ガス抜き部NR22は、長手方向がY軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12dの第2辺(図9(B)における絶縁基材層12dの上辺)の中央付近に配置されている。ガス抜き部NR23は、長手方向がX軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12dの第3辺(図9(B)における絶縁基材層12dの右辺)の中央付近に配置されている。ガス抜き部NR24は、長手方向がY軸方向に一致する矩形の貫通孔であり、絶縁基材層12dの第4辺(図9(B)における絶縁基材層12dの下辺)の中央付近に配置されている。
図9(B)に示すように、電極P1Aは、層間接続導体V1,V2を介して、導体32に接続されている。導体32は、層間接続導体V3を介して導体33に接続されている。
本実施形態では、面状導体(導体32)をZ軸方向に挟む位置に配置された一対の絶縁基材層12d,13dに、ガス抜き部NR11~NR14,NR21~NR24がそれぞれ形成されている。また、本実施形態では、図9(B)および図10に示すように、Z軸方向に隣接するガス抜き部NR11~NR14,NR21~NR24が、Z軸方向から視て、互いに重なっていない。
本実施形態に係る多層基板104は、例えば次に示す製造方法によって製造される。図11は、多層基板104の製造工程を順に示す断面図である。
まず、図11中の(1)に示すように、複数の絶縁基材層11d,12d,13d,14dを準備する。次に、絶縁基材層11d,12d,13dに導体パターンを形成する。具体的には、絶縁基材層11dの下面に電極P1Aを形成し、絶縁基材層12dの上面に導体32を形成し、絶縁基材層13dの上面に導体33,34を形成する。
複数の絶縁基材層11d~14dのいずれかに導体パターン(導体32,33,34、電極P1A)を形成するこの工程が、本発明の「導体パターン形成工程」の一例である。
また、絶縁基材層12dに2つのガス抜き部NR14等を形成し、絶縁基材層13dにガス抜き部NR24等を形成する。絶縁基材層12d,13dは、複数の絶縁基材層11d~14dを積層したときに、面状導体(導体32)をZ軸方向に挟む位置に配置される絶縁基材層である。また、絶縁基材層13dに層間接続導体V3を形成する。
複数の絶縁基材層11d~14dを積層したときに面状導体(導体32)をZ軸方向に挟む位置に配置される一対の絶縁基材層12d,13dに、ガス抜き部NR14,NR24等をそれぞれ形成するこの工程が、本発明の「ガス抜き部形成工程」の一例である。
次に、図11中の(2)に示すように、複数の絶縁基材層11d,12d,13d,14dをこの順番に積層する。このとき、Z軸方向から視て、Z軸方向に隣接する複数のガス抜き部(ガス抜き部NR14等とガス抜き部NR24等)が互いに重ならないように、複数の絶縁基材層11d~14dが積層される。
Z軸方向から視て、Z軸方向に隣接するガス抜き部NR14,NR24が互いに重ならないように、複数の絶縁基材層11d~14dを積層するこの工程が、本発明の「積層工程」の一例である。
その後、積層した複数の絶縁基材層11d~14dを加熱プレス(一括プレス)して図11中の(3)に示す多層基板104(基材10D)を形成する。加熱プレス時、ガス抜き部NR14,NR24等には絶縁基材層(樹脂材料)が流動する(図11中の(2)に示す矢印を参照)。これにより、ガス抜き部NR14,NR24等は埋められる。
積層工程の後に、積層した複数の絶縁基材層11d~14dを加熱プレスして基材10Dを形成するこの工程が、本発明の「加熱プレス工程」の一例である。
本実施形態では、複数の絶縁基材層11d~14dを積層したときに、面状導体(導体32)をZ軸方向に挟む位置に配置される一対の絶縁基材層12d,13dに、ガス抜き部NR14,NR24等がそれぞれ形成される。この製造方法によれば、面状導体のZ軸方向における両側から効率良くガスを抜くことができる。
また、本実施形態では、Z軸方向から視て、Z軸方向に隣接するガス抜き部NR14,NR24が互いに重ならないように、複数の絶縁基材層11d~14dが積層される。そのため、Z軸方向に隣接するガス抜き部同士が重なる場合に比べて、基材10Dの主面(第1主面S1または第2主面S2)の平坦性が確保される。
《その他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、多層基板が回路基板等に面実装される電子部品の例を示したが、本発明の多層基板はこれに限定されるものではない。本発明の多層基板は、二つの回路基板同士を接続するケーブル、または回路基板と他の部品との間を接続するケーブルでもよい。また、多層基板には必要に応じてコネクタが設けられていてもよい。
以上に示した各実施形態では、基材が熱可塑性樹脂の直方体である例を示したが、基材の形状はこれに限定されるものではない。基材の平面形状は、例えば多角形、円形、楕円形、L字形、T字形、Y字形、クランク形等でもよい。また、基材は熱硬化性樹脂からなるものでもよい。また、基材は、例えば、低温同時焼成セラミックス(LTCC)の誘電体セラミックであってもよい。また、基材は、同一材料からなる複数の絶縁基材層を加熱プレスして形成されるものに限らず、接着層(或る絶縁基材層との接合強度が、或る絶縁基材層同士の接合強度よりも高い層)を有していてもよい。基材が接着層(絶縁基材層)を有する場合には、接着層にガス抜き部が形成されていてもよい。また、基材が接着層を有する場合には、基材が複数の樹脂の複合積層体でもよい。例えば、基材は、ガラス/エポキシ基板等の熱硬化性樹脂シートと、熱可塑性樹脂シートとが積層されて形成される構成でもよい。
また、以上に示した各実施形態では、3または4の絶縁基材層が積層されて形成される基材の例を示したが、絶縁基材層の積層数はこれに限定されるものではない。基材を形成する絶縁基材層の層数は、適宜変更可能である。また、多層基板において、第1主面S1または第2主面S2にソルダーレジスト膜等の保護層が形成されていてもよい。
以上に示した各実施形態では、ガス抜き部が、矩形の貫通孔(または、複数の小さな貫通孔群)である例を示したが、本発明のガス抜き部はこれに限定されるものではない。ガス抜き部は、例えばZ軸方向の厚みが部分的に薄くなった凹部(または、複数の小さな凹部群)でもよい。
また、多層基板に形成される回路構成は、以上に示した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更可能である。多層基板に形成される回路は、例えば導体パターンで構成されるコイルやインダクタ、導体パターンで形成されるキャパシタ、各種フィルタ(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ)等の周波数フィルタが形成されていてもよい。また、樹脂多層基板には、例えば他の各種伝送線路(マイクロストリップライン、コプレーナライン等)が形成されていてもよい。さらに樹脂多層基板には、チップ部品等の各種電子部品が実装または埋設されていてもよい。
また、以上に示した各実施形態では、絶縁基材層に形成された貫通孔内に導電性ペーストを配設し、後の加熱プレスで固化させて設けられる層間接続導体の例を示したが、本発明の層間接続導体はこれに限定されるものではない。層間接続導体は、例えば、絶縁基材層に形成された貫通孔内に充填されたスルーホールめっき等と、上記スルーホールめっき等の表面に設けられた導電性接合材と、で形成される導体でもよい。
以上に示した各実施形態では、矩形の電極が、基材の第1主面S1に形成された多層基板の例を示したが、この構成に限定されるものではない。電極の形状・個数・配置等は適宜変更可能である。電極の平面形状は、例えば、多角形、円形、楕円形、円弧状、リング状、L字形、U字形、T字形、Y字形、クランク形等でもよい。また、電極は第2主面S2のみに設けられていてもよく、第1主面S1および第2主面S2の両方にそれぞれ設けられていてもよい。
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。