実施例1におけるイグニッション診断装置は、前進9速・後退1速のギア段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「イグニッション診断装置の構成」、「イグニッション診断処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系には、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3は、ギアトレーン3aとパークギア3bを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個のソレノイドバルブを有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
エンジン車の電子制御系には、図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。つまり、変速機コントロールユニット10の起動/停止を、イグニッションスイッチによる起動/停止の場合に比べて起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」としている。
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送出するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送出する。この変速機コントロールユニット10は、他にタービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、第3クラッチ油圧センサ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転数(=変速機入力軸回転数)を検出し、タービン回転数Ntの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転数を検出し、出力軸回転数No(=車速VSP)の信号を変速機コントロールユニット10に送出する。第3クラッチ油圧センサ15は、第3クラッチK3のクラッチ油圧を検出し、第3クラッチ油圧PK3の信号を変速機コントロールユニット10に送出する。
シフタコントロールユニット18は、シフタ181へのドライバ操作により選択されたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送出する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転数を検出し、中間軸回転数Nintの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(図4参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
アクセル開度センサ16は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOの信号をエンジンコントロールモジュール11に送出する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転数を検出し、エンジン回転数Neの信号をエンジンコントロールモジュール11に送出する。
エンジンコントロールモジュール11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とは、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して接続されているため、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転数Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
[自動変速機の詳細構成]
図2は自動変速機3のギアトレーン3aの一例を示すスケルトン図であり、図3は自動変速機3での締結表であり、図4は自動変速機3での変速マップの一例を示す。以下、図2~図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。
自動変速機3のギアトレーン3aは、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
自動変速機3は、図2に示すように、ギアトレーン3aを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギアS1と、第1サンギアS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギアR1と、を有する。
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギアS2と、第2サンギアS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギアR2と、を有する。
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギアS3と、第3サンギアS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギアR3と、を有する。
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギアS4と、第4サンギアS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギアR4と、を有する。
自動変速機3は、図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギアS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギア等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギアR4に断接可能に連結している。
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギアR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギアR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギアS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギアS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギアR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギアS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
第1クラッチK1は、第4リングギアR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
図3に基づいて、各ギア段を成立させる変速構成を説明する。1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギア比が1を超えている減速ギア比によるアンダードライブギア段である。
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギア比=1の直結段である。
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギア比が1未満の増速ギア比によるオーバードライブギア段である。
さらに、1速段から9速段までのギア段のうち、隣接するギア段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギア段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、6つの摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
そして、変速機コントロールユニット10には、図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギア段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
[油圧制御系の詳細構成]
図5はコントロールバルブユニット6の詳細構成を示す。以下、図5に基づいて油圧制御系の詳細構成を説明する。
コントロールバルブユニット6は、油圧源としてメカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23とを備える。そして、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切り替え弁66とを備える。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68とを備える。
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。6個のクラッチソレノイド20は、第1ブレーキソレノイド、第2ブレーキソレノイド、第3ブレーキソレノイド、第1クラッチソレノイド、第2クラッチソレノイド、第3クラッチソレノイドである。
ロックアップソレノイド23は、ライン圧調圧弁64によるライン圧PLの調圧時における余剰油を用いてロックアップクラッチ2aの差圧を制御する。
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切り替え弁66への切替え圧とを作り出し、摩擦要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦要素とギアトレーン3aを含むパワートレーン(PT)へクーラー69を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
ブースト切り替え弁66は、潤滑ソレノイド22からの切替え圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切り替え弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
P-nP切り替え弁67は、潤滑ソレノイド22(又はパークソレノイド)からの切替え圧によってパーク油圧アクチュエータ68へのライン圧路を切り替える。Pレンジへの選択時にパークギア3bを噛合わせるパークロックと、PレンジからPレンジ以外のレンジへの選択時にパークギア3bの噛合を解除するパークロック解除を行う。
このように、シフタコントロールユニット18及びモーメンタリ構造のシフタ181を採用している。そして、コントロールバルブユニット6からDレンジ圧油路やRレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止することで、シフト・バイ・ワイヤを達成している。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68によりパークモジュールを構成することで、パーク・バイ・ワイヤを達成している。
[イグニッション診断装置の構成]
図6は、実施例1のイグニッション診断装置を示す。以下、図6に基づいて、イグニッション診断装置の構成を説明する。
イグニッション診断装置は、プッシュキー80と、キーフォグ81と、チューナー82と、を備える。そして、車体コントロールモジュール73(略称:「BCM」という。)と、センサモジュールユニット71と、エンジンコントロールモジュール11と、車両挙動コントローラ72(略称:「VDC」という。)と、変速機コントロールユニット10と、を備える。
プッシュキー80は、押し釦タイプのイグニッションスイッチであり、イグニッションオン/オフ信号は、ワイヤハーネスを介して、車体コントロールモジュール73のマイコン73aとセンサモジュールユニット71のマイコン71aに送出する。キーフォグ81は、ドライバが携帯するもので、自車に対して所定距離範囲内まで近づいたドライバがボタン操作することにより飛ばした電波を、チューナー82及びワイヤハーネスを介して、車体コントロールモジュール73のマイコン73aに送出する。
車体コントロールモジュール73は、プッシュキー80からの信号、又は、チューナー82からの信号を、ワイヤハーネスを介して入力するマイコン73aを有する。そして、マイコン73aからのON指示を、CAN通信線を介してセンサモジュールユニット71のマイコン71aに送出する。また、マイコン73aからのON指示を、ワイヤハーネスを介してセンサモジュールユニット71のIGNリレー71bに送出する。
センサモジュールユニット71は、マイコン71aとIGNリレー71bとを有する。マイコン71aは、プッシュキー80からの信号(ハードIGN OFF)とマイコン73aからのON指示とCAN通信線70からのモニタ信号を入力する。そして、USM_IGN信号状態(IGN ON/IGN OFF)とECM CAN通信状態(受信/未受信)とVDC CAN通信状態(受信/未受信)の情報をイグニッション診断部110に送出する。IGNリレー71bは、マイコン73aからのON指示とマイコン71aからのON指示を入力すると、CAN通信線70を介してIGN信号(起動信号)をエンジンコントロールモジュール11と車両挙動コントローラ72に送出する。
エンジンコントロールモジュール11は、マイコン11aを有し、IGNリレー71bからのIGN信号がオン信号であると起動し、IGN信号がオフ信号であると停止する。車両挙動コントローラ72は、マイコン72aを有し、エンジンコントロールモジュール11と同様に、IGNリレー71bからのIGN信号がオン信号であると起動し、IGN信号がオフ信号であると停止する。
変速機コントロールユニット10は、イグニッションスイッチ信号に代え、車体コントロールモジュール73からの要求により起動されることに伴って、通常IGN OFF状態判定/通常IGN ON状態判定/IGN異常判定を行うイグニッション診断部100を有する。
イグニッション診断部100は、センサモジュールユニット71のマイコン71aからUSM_IGN信号状態(IGN ON/IGN OFF)とECM CAN通信状態(受信/未受信)とVDC CAN通信状態(受信/未受信)の情報を入力する。加えて、タービン回転センサ13からのタービン回転数Ntの情報と、出力軸回転センサ14からの車速VSPの情報と、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置情報とを入力する。そして、これらの入力状態に基づいて、通常IGN OFF状態判定と通常IGN ON状態判定とIGN異常判定とを行い、その診断結果を出力する(詳細は図7を参照)。
[イグニッション診断処理構成]
図7は、変速機コントロールユニット10のイグニッション診断部100にて実行されるイグニッション診断処理の流れを示す。以下、図7の各ステップについて説明する。
ステップS1では、イグニッション診断スタートに続き、センサモジュールユニット71から入力されるイグニッション信号の状態であるUSM_IGN信号状態を判断する。USM_IGN信号状態がIGN ONの場合はステップS8へ進み、USM_IGN信号状態がIGN OFFの場合はステップS2へ進む。
ステップS2では、S1でのUSM_IGN信号状態がIGN OFFであるとの判断に続き、エンジンコントロールモジュール11からのECM CAN通信状態を判断する。ECM CAN通信状態が受信の場合はステップS5へ進み、ECM CAN通信状態が未受信の場合はステップS3へ進む。なお、「受信」とは送信周期+10msec間受信がある状態をいい、「未受信」とは送信周期+10msec間受信がない状態をいう。以下、「受信」、「未受信」については、同様の定義とする。
ステップS3では、S2でのECM CAN通信状態が未受信であるとの判断に続き、車両挙動コントローラ72からのVDC CAN通信状態を判断する。VDC CAN通信状態が受信の場合はステップS6へ進み、VDC CAN通信状態が未受信の場合はステップS4へ進む。
ステップS4では、S3でのVDC CAN通信状態が未受信であるとの判断に続き、正常(定常停止中)条件の成立とし、ステップS7へ進む。ここで、正常(定常停止中)条件の成立とは、USM_IGN信号状態がIGN OFFの場合、ECM CAN通信状態が未受信、かつ、VDC CAN通信状態が未受信であることをいう。
ステップS5では、S2でのECM CAN通信状態が受信であるとの判断に続き、車両挙動コントローラ72からのVDC CAN通信状態を判断する。VDC CAN通信状態が受信の場合(異常判定の場合)はステップS14へ進み、VDC CAN通信状態が未受信の場合はステップS6へ進む。
ステップS6では、S3でのVDC CAN通信状態が受信という判断、或いは、S5でのVDC CAN通信状態が未受信であるとの判断に続き、正常(シャットダウン中)条件の成立とし、ステップS7へ進む。ここで、正常(シャットダウン中)条件の成立とは、USM_IGN信号状態がIGN OFFの場合、ECM CAN通信状態が未受信であるがVDC CAN通信状態が受信であること、又は、VDC CAN通信状態が未受信であるがECM CAN通信状態が受信であることをいう。
ステップS7では、S4又はS6での正常条件成立に続き、「IGN OFF」との判定を診断結果とし、イグニッション診断エンドへ進む。即ち、ステップS2~ステップS7を、通常IGN OFF状態の判定ステップとする。
ステップS8では、S1でのUSM_IGN信号状態がIGN ONであるとの判断に続き、エンジンコントロールモジュール11からのECM CAN通信状態を判断する。ECM CAN通信状態が受信の場合はステップS9へ進み、ECM CAN通信状態が未受信の場合はステップS11へ進む。
ステップS9では、S8でのECM CAN通信状態が受信であるとの判断に続き、車両挙動コントローラ72からのVDC CAN通信状態を判断する。VDC CAN通信状態が受信の場合はステップS10へ進み、VDC CAN通信状態が未受信の場合はステップS12へ進む。
ステップS10では、S9でのVDC CAN通信状態が受信であるとの判断に続き、正常(正常起動中)条件の成立とし、ステップS13へ進む。ここで、正常(正常起動中)条件の成立とは、USM_IGN信号状態がIGN ONの場合、ECM CAN通信状態が受信、かつ、VDC CAN通信状態が受信であることをいう。
ステップS11では、S8でのECM CAN通信状態が未受信であるとの判断に続き、車両挙動コントローラ72からのVDC CAN通信状態を判断する。VDC CAN通信状態が未受信の場合(異常判定の場合)はステップS18へ進み、VDC CAN通信状態が受信の場合はステップS12へ進む。
ステップS12では、S9でのVDC CAN通信状態が未受信という判断、或いは、S11でのVDC CAN通信状態が受信であるとの判断に続き、正常(起動中:過渡)条件の成立とし、ステップS13へ進む。ここで、正常(起動中:過渡)条件の成立とは、USM_IGN信号状態がIGN ONの場合、ECM CAN通信状態が受信であるがVDC CAN通信状態が未受信であること、又は、VDC CAN通信状態が受信であるがECM CAN通信状態が未受信であることをいう。
ステップS13では、S10又はS12での正常条件成立に続き、「IGN ON」との判定を診断結果とし、イグニッション診断エンドへ進む。即ち、ステップS8~ステップS13を、通常IGN ON状態の判定ステップとする。
ステップS14では、S5でのVDC CAN通信状態が受信という判断に続き、異常判定(IGNリレー下流天絡、又は、USM IGN OFF故障)とし、ステップS15へ進む。
ステップS15では、S14での異常判定に続き、IGN OFF異常の判定条件が成立したままでIGN異常判定タイマによるタイマ時間経過条件が成立したか否かを判断する。YES(タイマ時間経過条件成立)の場合はステップS16へ進み、NO(タイマ時間経過条件が不成立)の場合はステップS1へ戻る。
ステップS16では、S15でのタイマ時間経過条件成立との判断に続き、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグを立て、DTC(diagnostic trouble code、「エラー・コード」)を記憶し、ステップS17へ進む。
ステップS17では、S16でのIGN異常フラグを立てる処理に続き、「IGN ON」と判定し、ステップS18へ進む。
ステップS18では、S17での「IGN ON」との判定に続き、制御用イグニッション信号をハードIGN OFFとなって所定時間経過するまで継続して出力するON判定処理を実行し、ステップS19へ進む。
ステップS19では、S18でのON判定処理に続き、CAN通信信号の受信無しか否かを判断する。YES(CAN通信信号の受信無し)の場合はステップS20へ進み、NO(CAN通信信号の受信有り)の場合はステップS19の判断を繰り返す。
ステップS20では、S19でのCAN通信信号の受信無しとの判断に続き、シャットダウンにより電源を落とし、イグニッション診断エンドへと進む。
ステップS21では、S11でのVDC CAN通信状態が未受信という判断に続き、異常判定(IGNリレー下流断線、又は、USM IGN ON故障)とし、ステップS22へ進む。
ステップS22では、S18での異常判定に続き、IGN ON異常の判定条件が成立したままでIGN異常判定タイマによるタイマ時間経過条件が成立したか否かを判断する。YES(タイマ時間経過条件成立)の場合はステップS23へ進み、NO(タイマ時間経過条件が不成立)の場合はステップS1へ戻る。
ステップS23では、S22でのタイマ時間経過条件成立との判断に続き、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグを立て、DTC(diagnostic trouble code、「エラー・コード」)を記憶し、ステップS24へ進む。
ステップS24では、S23でのIGN異常フラグを立てる処理、或いは、S27での「IGN ON」との判定に続き、レンジ位置がPレンジ又はNレンジであるか否かを判断する。YES(Pレンジ又はNレンジ)の場合はステップS25へ進み、NO(Pレンジ又はNレンジ以外)の場合はステップS27へ進む。
ステップS25では、S24でのレンジ位置がPレンジ又はNレンジであるとの判断に続き、車速VSPが所定値以下であるか否かの車速条件を判断する。YES(車速VSP≦所定値)の場合はステップS26へ進み、NO(車速VSP>所定値)の場合はステップS27へ進む。
ステップS26では、S25での車速VSPが所定値以下であるとの判断に続き、タービン回転数Ntが所定値以下であるか否かを判断する。YES(タービン回転数Nt≦所定値)の場合はステップS28へ進み、NO(タービン回転数Nt>所定値)の場合はステップS27へ進む。
ステップ27では、S24でのPレンジ又はNレンジ以外との判断、又は、S25での車速VSP>所定値との判断、又は、S26でのタービン回転数Nt>所定値との判断に続き、「IGN ON」と判定し、ステップS24へ戻る。
ステップS28では、S26でのタービン回転数Nt≦所定値であるとの判断に続き、IGNOFF判定タイマにより停車条件が成立している時間経過を判断する。所定時間経過前はステップS28による判断を繰り返し、所定時間が経過するとステップS29へ進む。
ステップS29では、S28でのIGNOFF判定タイマで所定時間が経過したとの判断に続き、「IGN OFF」と判定し、ステップS20へ進む。つまり、シャットダウンにより電源を落とし、イグニッション診断エンドへと進む。
次に、「背景技術の課題及び課題解決方策」を説明する。そして、実施例1の作用を、「正常時イグニッション診断作用」、「イグニッションオン固着診断作用」、「イグニッションオフ固着診断作用」に分けて説明する。
[背景技術の課題及び課題解決方策]
背景技術における変速機コントロールユニットの起動タイミングは、図8に示すように、イグニッションスイッチがOFF→ONになる時刻t3から少し後の時刻t4としている。そして、変速機コントロールユニットの停止タイミングは、図8に示すように、イグニッションスイッチがON→OFFになる時刻t5から少し後の時刻t6としている。
これに対し、実施例1の「ウェイクアップ/スリープ制御」での変速機コントロールユニット10の起動タイミングは、図8に示すように、マスターECUである車体コントロールモジュール73がドア開閉などによりスリープ→ウェイクアップになる時刻t1から少し後の時刻t2としている。そして、変速機コントロールユニット10の停止タイミングは、図8に示すように、イグニッションオフ後、所定時間の経過により車体コントロールモジュール73がウェイクアップ→スリープになる時刻t7から少し後の時刻t8としている。
即ち、実施例1の場合、背景技術に対して変速機コントロールユニット10の起動タイミングは早く(時刻t4→時刻t2)、停止タイミングは遅く(時刻t6→時刻t8)、イグニッション状態に関係なく起動/停止する。このように、車体コントロールモジュール73からの要求により変速機コントロールユニット10が起動されるため、起動バリエーションが増える。
したがって、現状分析すると、イグニッションオンで全制御を動かした背景技術での制御とは違って、「ウェイクアップ/スリープ制御」では各状態遷移により背景技術での変速機コントロールユニットでの制御を分けて実行する必要である。また、起動シークエンスの変更により変速機コントロールユニット10は、イグニッションオフ時にも通常起動するので背景技術でのイグニッションスイッチ信号による起動シークエンスとの差分を考える必要である。さらに、イグニッション信号で自己診断許可/禁止の切り替えやアプリ起動/停止を制御しているため、イグニッション診断が必要である。
これに対し、イグニッション診断技術としては、特開2006-117131号公報に記載されているように、センサ電圧によるイグニッションスイッチのオン、オフ状態の判別結果と自己のイグニッションスイッチ情報とを比較して異常状態を判別するものが知られている。しかし、従来技術は、イグニッションスイッチを前提としているため、起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」への対応を確保することができない。加えて、従来技術は、異常状態を判別しているだけに過ぎないため、イグニッションスイッチがオン固着等によりオン異常が判定されたとき、イグニッションオフ判定に基づいて電源を落とすシャットダウンへ移行するのが遅れてしまい、不要な電力が消費される場合がある、という課題があった。
本発明者等は、上記課題に対し、起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」への対応を確保する。加えて、イグニッションオン異常が判定された場合、電源を落としても問題のない車両状態であれば、直ちにイグニッションオフ判定に基づいてシャットダウンへ移行するという点に着目した。
上記着目点に基づいて、所定の入力情報により起動する車体コントロールモジュール73と、車体コントロールモジュール73からイグニッションオン指示を受けるセンサモジュールユニット71と、センサモジュールユニット71からのイグニッション信号により起動・停止する変速機コントロールユニット10と、を備える。この自動変速機3のイグニッション診断装置であって、センサモジュールユニット71は、イグニッションオン指示を受けると変速機コントロールユニット10を起動するイグニッション信号を出力するマイコン71aと、イグニッションオン指示を受けると通信線(CAN通信線70)により接続された車載コントローラ(ECM、VDC)を起動するイグニッションリレー71bを有する。変速機コントロールユニット10に、センサモジュールユニット71のイグニッション信号状態と、車載コントローラ(ECM、VDC)からの通信状態とがアンマッチであるときにイグニッション異常と診断するイグニッション診断部100を設ける。イグニッション診断部100は、イグニッション信号状態がイグニッションオンであるとき、車載コントローラ(ECM、VDC)からの通信状態が未受信であることによりイグニッションオン異常が判定された場合、停車状態であると判断したらイグニッションオフと判定してシャットダウンへ移行する、という課題解決方策を採用した。
即ち、イグニッション診断の考え方は、
・車両IGN状態とUSMからCAN受信するIGN信号のアンマッチを異常状態とする。
・車両IGN状態は、IGN ON時に起動するECU(ECM,VDC)の状態を見て判断する。
・IGN ON異常と判定された場合、停車状態が確保されていると「IGN OFF」と判断し、シャットダウンへ移行し、バッテリ上りを防止する。
という点にある。
車体コントロールモジュール73からの要求によるセンサモジュールユニット71のイグニッション信号状態と、車載コントローラ(ECM、VDC)からの通信状態とがアンマッチであるときにイグニッション異常と診断される。このため、起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」へ対応できる。そして、イグニッションオン異常が判定された場合、停車状態であると判断したらイグニッションオフと判定してシャットダウンへ移行することで、不要な電力が消費されるのが回避される。
この結果、起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」に対応する診断としながら、イグニッションオン異常が判定された場合、不要な電力が消費されるのを回避することができる。
[正常時イグニッション診断作用]
まず、USM IGN信号がOFFであるとき、正常時イグニッション診断では、下記の3つの組み合わせパターンに分かれる。
(a)停止中、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が未受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S7へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN OFF」と判定される。
(b)シャットダウン時、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S6→S7へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN OFF」と判定される。
(c) シャットダウン時、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が未受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S2→S5→S6→S7へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN OFF」と判定される。
次に、USM IGN信号がONであるとき、正常時イグニッション診断では、下記の3つの組み合わせパターンに分かれる。
(d)通常起動中、USM IGN信号がON、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S8→S9→S10→S13へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN ON」と判定される。
(e)起動時、USM IGN信号がON、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が未受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S8→S9→S12→S13へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN ON」と判定される。
(f)起動時、USM IGN信号がON、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が受信であると、図7のフローチャートにおいて、S1→S8→S11→S12→S13へと進み、パワートレーンイグニッション状態が正常と判断され、「IGN ON」と判定される。
次に、通常時(USM通信正常時)における各特性を図9に基づいて説明する。時刻t1にてハードIGN ONにすると、時刻t2にてUSM IGN信号及び制御用IGN信号がONになり、時刻t3にてVDC通信状態が受信になり、時刻t4にてECM通信状態が受信になる。そして、時刻t4の後、時刻t5にてハードIGN OFFになり、さらに、時刻t6にてUSM IGN信号がOFFになるまでは、USM IGN信号がON、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信である状態が維持される。
時刻t6から時刻t7までは、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信になるため、図7のフローチャートにおいてS1→S2→S5→S14へと進み、S14にてIGN異常が判定される。しかし、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信となる時間が瞬間的であり、IGN異常判定タイマによる継続時間より短いため、S1→S2→S5→S14→S15へと進む流れが繰り返される。時刻t7になると、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が未受信になるため、IGN異常フラグが立てられることなく、S5からS6→S7へと進む。
その後、時刻t7から時刻t8までは、S1→S2→S5→S6→S7へと進む流れが繰り返される。時刻t8になると、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が未受信になるため、S1→S2→S3→S4→S7へと進む流れが繰り返される。
このように、通常時(USM通信正常時)においては、IGN異常フラグが立てられることなく、車体コントロールモジュール73からの要求により変速機コントロールユニット10がUSM IGN信号に基づいて起動されるため、起動バリエーションが増える。
[イグニッションオン固着診断作用]
USM IGN信号のON固着時は、USM IGN信号がON、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が未受信になるため、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過する前までは、S1→S8→S11→S21→S22へと進む流れが繰り返される。
そして、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過すると、S22からS23へと進み、S23では、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグが立てられる。そして、S24(レンジ位置条件)、S25(車速条件)、S26(タービン回転数条件)による停車条件が判断され、何れかの条件が不成立である間は「IGN ON」と判定される。
しかし、S24(レンジ位置条件)、S25(車速条件)、S26(タービン回転数条件)による全ての停車条件が成立であり、かつ、S28でのIGNOFF判定タイマによる時間経過条件が成立すると、S28からS29へ進み、「IGN OFF」と判定され、次のS20では、シャットダウンにより電源が落とされ、イグニッション診断エンドへと進む。
次に、IGN ON固着時における各特性を図10に基づいて説明する。時刻t1にてハードIGN ONにすると、時刻t2にてUSM IGN信号及びF/S IGN信号がONになり、ONになったタイミングでUSM IGN信号がON固着したとする。
この後、時刻t3にてVDC通信状態が受信になり、時刻t4にてECM通信状態が受信になる。そして、時刻t4の後、時刻t5にてハードIGN OFFになり、さらに、時刻t6にてVDC通信状態が未受信になり、時刻t7にてECM通信状態が未受信になったとする。
時刻t7になると、USM IGN信号がON(固着)、ECM通信状態が未受信、VDC通信状態が未受信になるため、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過する前までは、S1→S8→S11→S21→S22へと進む流れが繰り返される。そして、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間(t7~t8)が経過すると、S22からS23へと進み、S23では、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグが立てられる。
よって、時刻t8にて停車条件が成立していると、IGNOFF判定タイマによる時間が経過すると、「IGN OFF」と判定され、シャットダウンにより電源が落とされることになる。このため、イグニッションオン固着により異常が判定された場合、不要な電力が消費されるのを回避することができる。
[イグニッションオフ固着診断作用]
USM IGN信号のOFF固着時は、USM IGN信号がOFF、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信になるため、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過する前までは、S1→S2→S5→S14→S15へと進む流れが繰り返される。
そして、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過すると、S15からS16へ進み、S16では、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグが立てられ、次のS17では、「IGN ON」と判定される。次のS18では、制御用IGN信号がハードIGN OFFとなって所定時間経過するまで継続して出力するON判定処理が実行される。次のS19では、S18でのON判定処理に続き、CAN通信信号の受信無しか否かが判断され、CAN通信信号の受信が無くなると、S20へ進み、S20では、シャットダウンにより電源が落とされる。
次に、IGN OFF固着時における各特性を図11に基づいて説明する。時刻t1にてハードIGN ONにすると、時刻t2にてUSM IGN信号がONになるが、ONになった直後の時刻t3のタイミングでUSM IGN信号がOFF固着したとする。
この後、時刻t4にてVDC通信状態が受信になり、時刻t5にてECM通信状態が受信になると、USM IGN信号がOFF(固着)、ECM通信状態が受信、VDC通信状態が受信になるため、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間が経過する前までは、S1→S2→S5→S14→S15へと進む流れが繰り返される。そして、継続時間がIGN異常判定タイマによる時間(t5~t6)が経過すると、S15からS16へと進み、S16では、「IGN異常」の確定に基づいてIGN異常フラグが立てられる。
そして、時刻t6になると、制御用IGN信号を時刻t7にてハードIGN OFFとなって所定時間経過する時刻t8まで継続して出力するON判定処理が実行される。さらに、時刻t9にてECM通信状態が未受信になると、シャットダウンにより電源が落とされる。
よって、USM IGN信号のOFF固着時、時刻t6にてIGN OFF異常が確定した場合、時刻t6から「IGN ON」と判定し、ON判定処理として、制御用IGN信号の出力をハードIGN OFFの直後(時刻t8)まで維持する制御が行われる。このため、USM IGN信号がONになった直後のタイミングでOFF固着した場合、ハードIGN OFFの直後(時刻t8)まで変速機コントロールユニット10による制御の実行を確保することができる。
以上述べたように、実施例1の自動変速機3のイグニッション診断装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1) 所定の入力情報により起動する車体コントロールモジュール73と、車体コントロールモジュール73からイグニッションオン指示を受けるセンサモジュールユニット71と、センサモジュールユニット71からのイグニッション信号により起動・停止する変速機コントロールユニット10と、を備える自動変速機3のイグニッション診断装置であって、
センサモジュールユニット71は、イグニッションオン指示を受けると変速機コントロールユニット10を起動するイグニッション信号を出力するマイコン71aと、イグニッションオン指示を受けると通信線(CAN通信線70)により接続された車載コントローラ(ECM,VDC)を起動するイグニッションリレー71bを有し、
変速機コントロールユニット10に、センサモジュールユニット71のイグニッション信号状態と、車載コントローラ(ECM,VDC)からの通信状態とがアンマッチであるときにイグニッション異常と診断するイグニッション診断部100を設け、
イグニッション診断部100は、イグニッション信号状態がイグニッションオンであるとき、車載コントローラ(ECM,VDC)からの通信状態が未受信であることによりイグニッションオン異常が判定された場合、停車状態であると判断したらイグニッションオフと判定してシャットダウンへ移行する。
このため、起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」に対応する診断としながら、イグニッションオン異常が判定された場合、不要な電力が消費されるのを回避することができる。
(2) イグニッション診断部100は、シフタ181へのドライバ操作により選択されたレンジ位置を検出するシフタコントロールユニット18から送信されるレンジ位置信号に基づくレンジ位置と、車速VSPと、トルクコンバータ2のタービン回転数(=変速機入力軸回転数)を検出するタービン回転センサ13から送信される信号に基づくタービン回転数Ntにより停車状態を判断する。
このため、停車状態を的確に判断し、シャットオフによる車両挙動の変化を防止することができる。
(3) イグニッション診断部100は、レンジ位置と車速VSPとタービン回転数Ntにより停車状態と判断した場合、停車状態との判断開始から所定時間が経過してからイグニッションオフと判定する。
このため、停車状態であることの判断を確実に、かつ、精度良く行うことができる。即ち、回転センサ系は停車状態判断のように回転数が低くなる判断であるほど精度が低くなることによる。
(4) イグニッション診断部100は、車載コントローラとして複数の車載コントローラ(エンジンコントロールモジュール11、車両挙動コントローラ72)を設け、複数の車載コントローラからの通信状態が受信/未受信であるかを判断する。
このため、車載コントローラのマイコン個体故障によるイグニッション異常の誤判定を防止することができる。加えて、イグニッションオフ異常判定の場合、シャットダウン中の異常誤判定を防止することができるし、イグニッションオン異常判定の場合、起動過渡期の異常誤判定を防止することができる。
(5) イグニッション診断部100は、イグニッション信号状態がイグニッションオフであるとき、車載コントローラ(ECM、VDC)からの通信状態が受信であることによりイグニッションオフ異常が判定された場合、判定開始から所定時間が経過してからイグニッションオンと判定して制御用イグニッション信号の出力をハードイグニッションオフの直後まで継続する。
このため、イグニッション信号状態がオンになった直後のタイミングでオフ固着した場合、ハードイグニッションオフの直後(時刻t8)まで変速機コントロールユニット10による制御の実行を確保することができる。
以上、本発明の自動変速機のイグニッション診断装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、レンジ位置と車速VSPとタービン回転数Ntにより停車状態を判断する例を示した。しかし、停車状態の判断は、例えば、レンジ位置と車速とタービン回転数の何れか一つ、或いは、二つにより判断するようにしても良い。
実施例1では、車載コントローラとして、エンジンコントロールモジュール11と車両挙動コントローラ72を用いる例を示した。しかし、車載コントローラとしては、センサモジュールユニット71と通信線により接続され、イグニッションオン指示を受けると起動する車載コントローラであれば、エンジンコントロールモジュールと車両挙動コントローラに限ることなく、他のコントローラであっても良い。また、1個の車載コントローラでも良いし、また、3個以上の車載コントローラであっても良い。
実施例1では、自動変速機3として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段変速段を持つ自動変速機の例としても良いし、無段階変速比によるベルト式無段変速機としても良いし、ベルト式無段変速機と有段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機3のイグニッション診断装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機のイグニッション診断装置としても適用することが可能である。