JP7209114B2 - 繊維強化プラスチックに耐火層を設けたバッテリーボックスの構成部品、及びバッテリーボックスの構成部品の製造方法 - Google Patents
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Description
また、耐火性付与方法として、特許文献2には、特定の熱発泡性耐火被覆材を基材に塗布する方法が記載されている。
特許文献3にはシートモールディングコンパウンド(SMC)へ耐火層であるラミネート層を積層した後に、ラミネート層とシートモールディングコンパウンドを同時に成形し、耐火層を設ける発明が記載されている。
特許文献3に記載のバッテリーボックスには、以下の問題点がある。
特許文献3の問題点1.ラミネート層をシートモールディングコンパウンドと積層した後に成形した場合、成形時にラミネート層がシートモールディングコンパウンドの流動を阻害してしまう。特に成形後の成形体の形状が複雑である場合、ラミネート層が追従されずに成形できなくなってしまうか、又はシートモールディングコンパウンドの流動によってラミネート層(耐火層)が破れてしまう。一般的に、シートモールディングコンパウンドを材料に用いて成形する場合、成形型に対して投影面積比100%未満で材料をチャージするため、シートモールディングコンパウンドは成形時に流動する。複雑な形状をした成形体に、ラミネート層を積層させて成形したいときは、予めラミネート層(フィルムやシート)を複雑な成形型の形状に沿わして、成形型へ配置しておく必要がある(プレフォームが必要になる)。しかしながら、プレフォームは工程が煩雑であり生産効率に劣る。
特許文献3の問題点2.熱膨張剤を含んだラミネート層(耐火層)とシートモールディングコンパウンドを同時に成形すると、シートモールディングコンパウンドの硬化時の加熱によって、熱膨張剤が膨張してしまう恐れがある。仮に熱膨張剤の過大な膨張を抑制できたとしても、一般的に熱膨張剤は線膨張率が高く、シートモールディングコンパウンドの硬化時の温度でラミネート層が膨張してしまい、脱型できなくなる恐れがある。
熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とする、強化繊維を含む繊維強化プラスチックに、耐火層を設けたバッテリーボックスの構成部品であって、
前記強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続強化繊維であり、
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、
前記繊維強化プラスチックの厚さXは1.0mm以上5mm未満であり、
前記耐火層は、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物を含む、
バッテリーボックスの構成部品。
[2]
前記耐火層はウレタン系樹脂を含み、前記耐火層と前記繊維強化プラスチックが隣接している、[1]に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[3]
前記熱硬化性樹脂は不飽和ポリエステル系樹脂、又はビニルエステル系樹脂である、[2]に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[4]
前記耐火層の厚みYは0.1mm以上1.0mm未満である、[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[5]
前記繊維強化プラスチックの厚みXと、前記耐火層の厚みYとの関係が、0.01<Y/X<1.0である[4]に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[6]
前記耐火層の単位面積当たりの質量が、100~1200g/m2である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[7]
前記強化繊維がガラス繊維である、[1]乃至[6]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[8]
前記繊維強化プラスチックの比重が2.1g/cm3以下であり、前記耐火層の比重が1.5g/cm3以下である、[1]乃至[7]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[9]
前記バッテリーボックスの構成部品が車両用である、[1]乃至[8]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[10]
前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイであって、燃焼試験前に対する燃焼試験後の引張強度保持率が40%以上である、[9]に記載のバッテリートレイ。
[11]
前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイであって、前記耐火層の上にトップ層を積層させた、[9]又は[10]に記載のバッテリートレイ。
[12]
前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイ又はバッテリーカバーである、[1]乃至[9]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[13]
[1]乃至[12]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品の製造方法であって、
シートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造し、
前記バッテリーボックスの構成部品は凹凸形状を有する、
バッテリーボックスの構成部品の製造方法。
[14]
さらに、インモールドコート又はスプレーコートによって前記耐火層を前記繊維強化プラスチックへ設ける、[13]に記載のバッテリーボックスの構成部品の製造方法。
[15]
前記繊維強化プラスチックの端面に耐火層が設けられている、[1]乃至[12]のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[16]
前記繊維強化プラスチックの片面及び端面の全てにおいて、耐火層が設けられている、[15]に記載のバッテリーボックスの構成部品。
[17]
前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイである、[16]に記載のバッテリーボックスの構成部品。
前記強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続強化繊維であり、
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、
前記繊維強化プラスチックの厚さXは1.0mm以上5mm未満であり、
前記耐火層は、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物を含む。
以下に、本発明の一実施形態について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
本発明におけるバッテリーボックスの構成部品は、バッテリートレイ又はバッテリーカバーであることが好ましい。
バッテリーカバーはバッテリーボックスの内部に存在するバッテリーからの炎に対する耐火性能が必要になるため、バッテリーボックスの内部に向けて耐火層が必要になる。反対に、バッテリートレイはバッテリーボックス外からの(バッテリートレイが車載用途である場合は、車の外からの)炎に対する耐火要求が必要になるため、バッテリーボックスの外部に向けての耐火層が必要になる。
バッテリートレイは、
(1)フランジ、第一底面部、前記第一底面部の外周に立設された周壁、前記第一底面部と接続する第一内部壁、前記第一底面部と接続する第二内部壁、を備え、
(2)前記フランジ、前記第一底面部、前記周壁、前記第一内部壁、及び前記第二内部壁は一体成形された繊維強化プラスチックであり、
(3)前記第一底面部は屈曲して、前記第一内部壁、及び前記第二内壁部に接続している、ことが好ましい。
図5に、本発明のバッテリートレイの一例の断面の模式図を示す。図5のバッテリートレイ200は、フランジF、第一底面部G、前記第一底面部Gの外周に立設された周壁SW、前記第一底面部Gと接続する第一内部壁W1、前記第一底面部Gと接続する第二内部壁W2、を備える。フランジF、第一底面部G、周壁SW、第一内部壁W1、及び第二内部壁W2は一体成形された繊維強化プラスチックである。第一底面部Gは屈曲して、第一内部壁W1、及び第二内壁部W2に接続している。
バッテリーボックスの構成部品は、熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とする、強化繊維を含む繊維強化プラスチックを含む。
また、シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、バッテリートレイやバッテリーカバーのような複雑形状であっても、容易に成形することができる。
すなわち、シートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造し、凹凸形状を有するバッテリーボックスの構成部品を製造することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。
本発明に用いる強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、及び玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。強化繊維はガラス繊維であることがより好ましい。
1.不連続強化繊維
近年、車載用のバッテリーは大型化し、バッテリーボックスの縦横の寸法が1m×1mや、1.5×1.5mのようなサイズになっている。このような大きなバッテリーボックスを作成する場合、特許文献1に記載の射出成形で作成された繊維強化プラスチックでは、強化繊維の重量平均繊維長が0.1~0.3mm程度となってしまい、大きなバッテリーを格納するための機械物性を担保できない。
したがって、本発明で用いる強化繊維の重量平均繊維長は、1mm以上100mm以下の不連続強化繊維である。重量平均繊維長は1mm~70mmがより好ましく、1mm~50mmがさらに好ましい。
強化繊維の重量平均繊維長を100mm以下とすれば、流動性に優れるため好ましい。反対に、強化繊維が1mm以上であれば機械物性に優れた構造材が得られる。
本発明においては繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる不連続強化繊維は、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、成形体から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(a)に基づいて求めることができる。
なお、個々の強化繊維の繊維長をLi、測定本数をjとすると、数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、以下の式(a)、(b)により求められる。
Ln=ΣLi/j ・・・式(a)
Lw=(ΣLi2 )/(ΣLi) ・・・式(b)
繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。
繊維強化プラスチックからの強化繊維の抽出は、例えば、繊維強化プラスチックに加熱処理を施し、炉内にて熱硬化性樹脂を除去することによって行うことができる。
繊維強化プラスチックに連続繊維を用いた場合に比べて、重量平均繊維長が1mm以上100mm以下の不連続強化繊維を使用した場合、炎に暴露されたときに内部のバッテリーが脱落しやすい。一般的に、バッテリートレイが自動車事故によって火災を受けた場合、数分程度で搭乗者は車から退避可能である。バッテリーがバッテリートレイの外に脱落してしまうと、より大きな爆発を生じる可能性があるため、搭乗者が脱出する間(数分程度)は、強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続強化繊維(短繊維)を用いた場合であっても、バッテリーをバッテリートレイの上に把持させる必要がある。
強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が小さすぎると熱硬化性樹脂の繊維への含浸性が困難となり、大きすぎると成形性や加工性に悪影響をもたらす。
本発明における繊維強化プラスチックは熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂として含む。
本発明における熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである。熱硬化性樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いる繊維強化プラスチックを形成するための樹脂組成物は、強化繊維、及び熱硬化性樹脂の他、増粘剤、無機充填剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤、顔料、内部離型剤等の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明において、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物を含む耐火層が繊維強化プラスチックに設けられている。
膜厚が0.1mm以上1.0mm未満の耐火層を設け、耐火試験時には20~30倍に発泡する発泡組成物によって断熱層を形成し、耐火性能を発揮することが好ましい。
発泡組成物は特に限定されないが、例えばポリリン酸アンモニウムなどが好ましい。
なお、発泡組成物は、耐火試験前は発泡しておらず、加熱すると発泡が始まる。
耐火層に発泡組成物を含んでいるため、シートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造する場合、成形完了後に耐火層を設けることが好ましい。シートモールディングコンパウンドの成形後に耐火層を設けることで、シートモールディングコンパウンドを硬化するための加熱によって、発泡組成物が発泡するのを抑制できる。シートモールディングコンパウンドを用いて成形完了後に耐火層を設ける場合、塗布によって耐火層を設けることが好ましい。なお、ここでいう「成形完了後に耐火層を設ける」とは、インモールドコート法やオープンモールド法によって、繊維強化プラスチックへ耐火層を設けることを含む概念である。
繊維強化プラスチックの片面とは、バッテリーボックスとなった際に、外側へ暴露されている面、又は内側(収納側)の面をいう。シートモールディングコンパウンドを上型と下型を用いてプレス成形して繊維強化プラスチックを製造する場合、片面とは、成形完了直後に上型に接触している繊維強化プラスチックの面、又は下型に接触している繊維強化プラスチックの面である。
バッテリートレイの端面が耐火層で覆われていることにより、端面からの加熱を抑制できる。特に、本発明の強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続繊維であるため、端面から加熱が進むと、端面周辺の樹脂が焼失し、バッテリートレイそのものが脱落する。
バッテリートレイの端面とは、例えば図4のバッテリートレイ100におけるT1及びT2で示される面である。
バッテリートレイの端面が耐火層で覆われていない場合に耐火試験によって生じ得る端面周辺の樹脂の焼失部分とは、例えば図4のバッテリートレイ100における矢印S1及びS2で示した部分である。
バッテリートレイの端面が耐火層で覆われていれば、バッテリートレイの端面に火がついても、2分以内に火が自然と消えるため好ましい。
端面に耐火層を設ける場合、スプレーコートにより塗布して耐火層を設けることが好ましい。インモールドコートによって耐火層を設けた場合、バリ取り工程において端面の耐火層が部分的にはがれる可能性があるため、剥がれた部分は再度塗布すると良い。
1.繊維強化プラスチックの厚さX
本発明おいて、繊維強化プラスチックの厚さXは1.0mm以上5mm未満であり、好ましくは1.5mm以上5mm未満である。5mm未満であれば、バッテリーボックスの軽量化の観点で好ましい。繊維強化プラスチックが1.0mm未満であると、耐火試験を行った際、繊維強化プラスチックが燃え落ちやすいため、顕著な課題が発生する。
一方、本発明のバッテリーボックス構成部品がバッテリーカバーの場合、好ましくは繊維強化プラスチックの厚さXは1mm~4mmであり、より好ましくは1mm~3mmである。
耐火層の厚みYは0.1mm以上1.0mm未満であることが好ましい。これは、厚さが1.0mm未満であれば、バッテリーボックスの構成部品である、バッテリーカバー又はバッテリートレイの重量が軽減できる。
一方、耐火層の厚みYが0.1mm以上であれば、十分な耐火性を確保しやすい。
好ましい耐火層の厚みは、0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上である。耐火層厚みが0.5mm以上あると、耐火性が安定する。
繊維強化プラスチックの厚みXと、耐火層の厚みYとが、0.01<Y/X<1.0であることが好ましい。好ましくは0.05<Y/X<0.5であり、より好ましくは0.1≦Y/X<0.2である。0.01<Y/Xであると、耐火性を担保しやすく、Y/X<1.0であれば、軽量性を担保できる。
耐火層の単位面積当たりの質量は、100~1200g/m2であることが好ましい。
好ましい熱硬化性樹脂と耐火層の組み合わせは、熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル系樹脂、又はビニルエステル系樹脂であって、耐火層はアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物である。熱硬化性樹脂は成形性、生産サイクル、樹脂強度等を勘案し、耐火層は耐候性、硬化時間、樹脂強度、耐水性等を勘案して選定した。
より好ましい熱硬化樹脂と耐火層の組み合わせは、熱硬化性樹脂がビニルエステル系樹脂、又は不飽和ポリエステル系樹脂であって、耐火層が発泡組成物を含んだウレタン系樹脂である。
更に好ましい熱硬化樹脂と耐火層の組み合わせは、熱硬化性樹脂がビニルエステル系樹脂であり、耐火層が発泡組成物を含んだウレタン系樹脂である。
金属の基材に耐火層を設ける場合、一般的に基材上にプライマー層を予め設ける必要があるが、耐火層にウレタン系樹脂を用いることによって、プライマー層を無くし、耐火層と繊維強化プラスチックが隣接していても、好ましく耐火層と繊維強化プラスチック層が結合すると期待できる。
また、熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂に比べてビニルエステル系樹脂を用いた場合は、厚みを薄くできる可能性がある。
また、本発明の更なる課題として、従来は特許文献2に記載されているように、鉄骨に耐火性を持たせるために、下地処理した鉄骨へ、発泡性耐火被覆材を設けた技術が知られている。しかしながら、耐火層を設ける場合は下地層(プライマー層)が必要であり、2度の塗装が必要になる。
繊維強化プラスチックの比重が2.1g/cm3以下であり、耐火層の比重が1.7g/cm3以下であることが好ましく、1.5g/cm3以下であることがより好ましい。耐火層の比重は1.5g/cm3以下が好ましい。強化繊維の重量割合が少なくなると、繊維強化プラスチックの密度は小さくなるが、燃えやすくなる。したがって耐火層を設けることがより重要となる。
本発明の対象が車両用のバッテリートレイの場合、初期強度を保持することも重要であるが、燃焼後の強度保持も極めて重要である。車両用のバッテリートレイに繊維強化プラスチックを用い、強化繊維として連続繊維を用いた場合には、仮に樹脂が燃えて焼失しても、格納されたバッテリーが脱落することはない。これは連続繊維によってバッテリーが保持されるためである。
言い換えると、本発明は下記の構成であることが好ましい。
熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とする、強化繊維を含む繊維強化プラスチックに、耐火層を設けたバッテリーボックスの構成部品であって、
前記強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続強化繊維であり、
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、
前記繊維強化プラスチックの厚さXは1.0mm以上5mm未満であり、
前記耐火層は、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物を含み、
燃焼試験前に対する燃焼試験後の引張強度保持率が40%以上である、
バッテリーボックスの構成部品。
ただし、燃焼試験は、欧州のUN規格Regulation No. 100に記載の「電動パワートレーンの特定要件に係る車両の認可に関する統一規定(Uniform provisionsconcerning the approval of vehicles with regard to specific requirements for the electric power train)」の附則8Eの3.2.2~3.7.4に記載された方法で行う。
引張強度保持率(%)=(燃焼後の引張強度B ÷ 燃焼前の引張強度A)×100・・・式(1)
また、本発明において、引張試験は、ASTM D3039(2019)に準拠し、負荷速度2mm/min.の条件で試験するものとする。
耐火層の耐水性を確保したい場合、耐火層の上にトップ層を設けることが好ましい。言い換えると、トップ層は耐水性向上層であることが好ましい。
トップ層の材料に制限はないが、エポシキ系樹脂、ウレタン系樹脂、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。トップ層を設けるのが好ましいのは、特に本発明のバッテリーボックスの構成部品を車両用のバッテリートレイとして用いる場合である。これは、バッテリートレイはバッテリーカバーよりも車体のより下方に存在しているため、耐水性が求められる場合が多いためである。
耐火層は、インモールドコート又はスプレーコートによって耐火層を繊維強化プラスチックへ設けることが好ましい。インモールドコーティング方法とは、得られた成形品を成形型から取り出さずに成形型内に被覆剤を注入して成形品の表面に被膜を形成する方法である。
また、耐火層はマイカシートなどの不燃シートや不燃フィルムを用いて、繊維強化プラスチックに貼り付けても良い。ただし、バッテリートレイやバッテリーカバーは形状が複雑であるため、シートやフィルムを貼り合わせて耐火層を設けるより、コーティングして耐火層を設けることが好ましい。
本発明の耐火層は発泡組成物を含み、発泡により燃焼面側の温度を下げることができる。これによって、長時間(例えば5分以上)の燃焼に対しては、マイカシートを用いるよりも耐火性能が高い。
1.繊維強化プラスチック
(i)シートモールディングコンパウンド(SMC)を用いた繊維強化プラスチック
以下のContinental Structural Plastics社製(CSPと略する場合がある)のシートモールディングコンパウンドを準備し、各実施例、比較例に記載の繊維強化プラスチックに成形した。
・品番:CSP834E
樹脂:ビニルエステル系樹脂
繊維:E-ガラス繊維、繊維重量割合Wf49%。なお、繊維重量割合(Wf 単位:重量%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた全体の重量に対する強化繊維の重量の割合である。
・炭素繊維織物の繊維強化プラスチック
帝人株式会社製プリプレグW -7U 61(100)/Q -112
構成:(0/90°)×7ply積層板をオートクレーブ成形(130℃×90分)
厚さ:3mm
・ガラス繊維織物の繊維強化プラスチック
住友ベークライト株式会社製ガラスエポキシ積層板(品番:PL-3762)
厚さ:3mm
染めQテクノロジー社製 ミッチャクロンマルチ
(i)ポリリン酸アンモニウム(発泡剤)を含むアクリル系耐火塗料
日本ペイント株式会社製 商品名:タイカリットSー100ベースコート
(ii)ポリリン酸アンモニウム(発泡剤)を含むポリウレタン系耐火塗料
ナリファイア社製 商品名:ナリファイア・ハイブリッドベースコートSC902-A
(iii)特殊変性アクリル樹脂とノンハロゲンリン系難燃剤を調合した耐火塗料(非発泡性難燃塗料)
大日技研工業社製 商品名:ランデックスコート 難燃クリア Sタイプ
・日本ペイント社製 ファインウレタン U100 ホワイト(ウレタン系)
・大日本塗料社製 エポオール #65-W(エポキシ系)
1.耐火評価
各実施例、比較例で作成した試験片を、欧州のUN規格Regulation No. 100に記載の「電動パワートレーンの特定要件に係る車両の認可に関する統一規定(Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to specific requirements for the electric power train)」の附則8Eの3.2.2~3.7.4に記載された方法で燃焼させて燃焼前後の試験片を観察した。なお、燃料はガソリンを用い、燃焼時の温度は700~800℃であった。
Good:耐火試験後、繊維強化プラスチックの厚み3mmを保持していた。
Bad:耐火試験後、繊維強化プラスチックの厚みが3mm未満となったもの。
(ii)耐火試験による燃焼形態の評価
樹脂炭化:マトリクス樹脂(熱硬化性樹脂)が燃えてしまったが、繊維は残っていた。
2.1 燃焼前の引張試験
燃焼前の試験片から幅25mm×長さ250mmを切り出し、引張試験を行った。
欧州のUN規格Regulation No. 100に記載の「電動パワートレーンの特定要件に係る車両の認可に関する統一規定(Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to specific requirements for the electric power train)」の附則8Eの3.2.2~3.7.4に記載された方法で燃焼試験を行った後、引張試験をした。なお、燃料はガソリンを用い、燃焼時の温度は700~800℃であった。具体的には、以下の段階A、B、Cを経て引張試験を行った。
試験片(長さ300mm×幅300mm×厚み3mm)から3mの距離で、パン(図3の303)内の燃料を点火するものとする。60秒間の予熱後、パンを試験片の下に置くものとする。パンのサイズが大きすぎて液体漏れなどのリスクがあるために移動できないため、代わりに試験片と試験リグをパンのところに移動させた。
試験片を70秒間、燃焼している燃料からの炎に曝露するものとする。
段階Bの完了後すぐに、スクリーン(図3の301)を燃焼しているパンと試験片の間に置くものとする。試験片をさらに60秒間、この軽減した炎に曝露するものとする。
燃焼後の試験片の中央領域から幅25mm×長さ250mmを切り出し、引張試験を行った。
下記式(1)から引張強度保持率を算出した。
引張強度保持率(%)=(燃焼後の引張強度B ÷ 燃焼前の引張強度A)×100・・・式(1)
(1)吸水前の引張試験
吸水前の試験片から幅25mm×長さ250mmを切り出し、引張試験を行った。これを燃焼前の引張強度A’とした。
(2)吸水、及び燃焼させた試験片の引張試験
40度の温水に、7日間浸漬させた後、1日程度風乾させた。その後、上述の「2.耐火性評価後の強度保持率」に記載の方法と同様に、燃焼試験後の引張試験を行った。
(3)引張強度保持率(吸水後)
下記式(2)から引張強度保持率(吸水後)を算出した。
引張強度保持率(吸水後)(%)=(吸水、及び燃焼後の引張強度B’ ÷ 吸水、及び燃焼前の引張強度A’)×100・・・式(2)
上記引張試験は、ASTM D3039(2019)に準拠し、負荷速度2mm/min.の条件で試験した。燃焼後の引張試験は、燃焼後の試験片から幅25mm×長さ250mmを切り出して行った。このとき、試験片長さ250mmのうち、110mmが燃焼部であった。なお、試験回数はN=8とした。
5.1 不連続強化繊維を使用した場合(実施例・比較例)
マトリクス樹脂が燃えて、繊維が残っている状態(樹脂炭化)において、繊維は樹脂に把持されず、バッテリーの重みによってバッテリーがバッテリートレイから脱落すると判断した。
マトリクス樹脂が燃えて、繊維が残っている状態(樹脂炭化)において、繊維の端は燃えていない領域の樹脂によって把持されているため、バッテリーの重みによってバッテリーがバッテリートレイから脱落することは無いと判断した。
1.繊維強化プラスチックの準備
CSP社製のシートモールディングコンパウンド(品番,CSP834E)を加熱した成形型へチャージし、長さ300mm×幅300mm×厚み3mmに成形した。
耐火塗料として、日本ペイント株式会社製 商品名タイカリット 銘柄:タイカリットSー100ベースコート(アクリル系発泡型塗料)を膜厚0.2mmとなるようにスプレーで塗布し、試験片とした。得られた試験片は、繊維強化プラスチックと耐火塗料の2層構造であった。結果を表1に示す。
耐火層の厚みを表1に記載されている通り、0.3mm、0.4mm、0.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックに耐火層を設けた試験片を作成した。
耐火層を設けた繊維強化プラスチックに、トップ層として、日本ペイント社製のファインウレタンU100をスプレーコーティングして0.2mmのトップ層を設けたこと以外は、実施例4と同様にして試験片を作成して評価した。なお、トップ層の単位面積当たりの質量は240g/m2であった。
繊維強化プラスチックに、プライマー層として染めQテクノロジー社製ミッチャクロンマルチをスプレーコーティングし、この上から日本ペイント株式会社製の商品名タイカリットを、膜厚0.5mmでスプレー塗布したこと以外は、実施例4と同様にして試験片を作成して評価した。
耐火層を設けるため、耐火塗料として、ナリファイア社製の耐火塗料ナリファイア・ハイブリッドベースコートSC902-Aを、膜厚0.3mmとなるようにスプレーコートしたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し、評価した。結果を表1に示す。
耐火層の膜厚を0.5mmとしたこと以外は、実施例7と同様にして試験片を作成し、評価した。結果を表1に示す。
耐火層を設けた繊維強化プラスチックに、トップ層として、大日本塗料社製の変性エポキシ・ウレタン樹脂系塗料のエポオールをスプレーコーティングして0.2mmのトップ層を設けたこと以外は、実施例8と同様にして試験片を作成し、評価した。結果を表1に示す。なお、トップ層の単位面積当たりの質量は270g/m2であった。
耐火層を設けずに、繊維強化プラスチックだけを試験片としたこと以外は、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
耐火層の代わりに、非発泡性難燃塗料(大日技研工業社製のランデックスコート難燃クリアSタイプ)を繊維強化プラスチックにスプレーコーティングで膜厚0.2mmとなるように設けたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し、評価した。結果を表1に示す。
GF:ガラス繊維
CF:炭素繊維
VE:ビニルエステル系樹脂
EP:エポキシ系樹脂
繊維強化プラスチックとして、連続繊維を用いた炭素繊維織物の繊維強化プラスチック(帝人製プリプレグW -7U 61(100)/Q -112、厚さ3mm)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして評価した。結果を表2に示す。
繊維強化プラスチックとして、連続繊維を用いたガラス繊維織物の繊維強化プラスチック(住友ベークライト社製ガラスエポキシ積層板(品番:PL-3762))を用いたこと以外は、実施例4と同様にして評価した。結果を表2に示す。
耐火層を設けなかったこと以外は、参考例1又は2とそれぞれ同様にして評価した。結果を表2に示す。
参考例においては、耐火層の有無に関わらず、バッテリーの脱落は無い。これは、例え樹脂炭化した場合であっても、連続繊維は樹脂炭化していない領域の樹脂に把持されているため、バッテリーが繊維に支えられているためである。したがって、繊維強化プラスチックが連続繊維を含む場合、燃焼試験後に、バッテリートレイからバッテリーが脱落するという課題は無い。
耐火層の代わりに、マイカシート(厚さ0.8mm)を平板形状のSMC成形体に張り付けたこと以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、評価した。燃焼中にマイカシート層内での浮き、剥離があり断熱効果が不安定であった。
図6と図7を対比することにより、実施例2の耐火層は、比較例3のマイカシートよりも上面及び下面(燃焼面)の温度上昇を抑えることができることが分かった。
本出願は、2020年4月24日出願の日本特許出願(特願2020-077534)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
20、100、200 バッテリートレイ
22 バッテリートレイの底
24、24’ バッテリートレイのサイドウォール
26、26’ バッテリートレイのエンドウォール
28 キャビティ
29 内部分割壁
30、30’ エネルギー吸収部材
32 ファスナー(エネルギー吸収部材とバッテリートレイを締結)
40 バッテリーカバー
50 バッテリー
52 電圧線
60 補強フレーム
70 温度制御システム
301 スクリーン
302 試験片
303 板金パン
T1、T2 バッテリートレイの端面
S1、S2 バッテリートレイの端面が耐火層で覆われていない場合に耐火試験によって生じ得る端面周辺の樹脂の焼失部分
F フランジ
G 第一底面部
SW 周壁
W1 第一内壁部
W2 第二内壁部
Claims (17)
- 熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とする、強化繊維を含む繊維強化プラスチックに、耐火層を設けたバッテリーボックスの構成部品であって、
前記強化繊維は重量平均繊維長1mm以上100mm以下の不連続強化繊維であり、
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、
前記繊維強化プラスチックの厚さXは1.0mm以上5mm未満であり、
前記耐火層は、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、及び発泡組成物を含む、
バッテリーボックスの構成部品。 - 前記耐火層はウレタン系樹脂を含み、前記耐火層と前記繊維強化プラスチックが隣接している、請求項1に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記熱硬化性樹脂は不飽和ポリエステル系樹脂、又はビニルエステル系樹脂である、請求項2に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記耐火層の厚みYは0.1mm以上1.0mm未満である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記繊維強化プラスチックの厚みXと、前記耐火層の厚みYとの関係が、0.01<Y/X<1.0である請求項4に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記耐火層の単位面積当たりの質量が、100~1200g/m2である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記強化繊維がガラス繊維である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記繊維強化プラスチックの比重が2.1g/cm3以下であり、前記耐火層の比重が1.5g/cm3以下である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記バッテリーボックスの構成部品が車両用である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイであって、燃焼試験前に対する燃焼試験後の引張強度保持率が40%以上である、請求項9に記載のバッテリートレイ。
- 前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイであって、前記耐火層の上にトップ層を積層させた、請求項9又は10に記載のバッテリートレイ。
- 前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイ又はバッテリーカバーである、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 請求項1乃至12のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品の製造方法であって、
シートモールディングコンパウンドを成形して繊維強化プラスチックを製造し、
前記バッテリーボックスの構成部品は凹凸形状を有する、
バッテリーボックスの構成部品の製造方法。 - さらに、インモールドコート又はスプレーコートによって耐火層を繊維強化プラスチックへ設ける、請求項13に記載のバッテリーボックスの構成部品の製造方法。
- 前記繊維強化プラスチックの端面に耐火層が設けられている、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記繊維強化プラスチックの片面及び端面の全てにおいて、耐火層が設けられている、請求項15に記載のバッテリーボックスの構成部品。
- 前記バッテリーボックスの構成部品が、バッテリートレイである、請求項16に記載のバッテリーボックスの構成部品。
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