以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
本発明の一実施形態の水処理方法(以下、「本方法」と記載することがある。)は、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理する方法である。本方法は、被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)を含む。また、本方法は、被処理水に、被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)を含む。さらに、本方法は、工程(B)で得られた反応液に、被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が被処理水中の全シアン濃度の測定値からシアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)を含む。そして、本方法は、工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する工程(D)を含む。
なお、本方法では、工程(A)乃至(D)がそれぞれ別個に行われてもよいが、連続して行われることが好ましい。また、工程(A)乃至(D)には便宜上「工程」という文言が使用されているが、それらにおける一の工程が完了する前に、他の工程が始まっていてもよい。
例えば、工程(A)では、被処理水中の全シアン濃度及びシアン化物イオン濃度の両方が測定されるが、シアン化物イオン濃度の測定後、全シアン濃度の測定前に、工程(B)が開始されていてもよい。また、例えば、工程(B)では、被処理水に過酸化水素を添加して反応させるが、この過酸化水素の反応が完了する前に、工程(C)が開始されていてもよい。したがって、工程(C)において銅(I)化合物を添加する対象となる「工程(B)で得られた反応液」は、過酸化水素が添加された被処理水を意味し、過酸化水素による反応が完了している状態のほか、当該反応が進行中の状態及び当該反応が開始する前の状態等も含み得る。さらに、例えば、工程(C)では、工程(B)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させるが、この銅(I)化合物の反応が完了する前に、工程(D)が開始されていてもよい。したがって、工程(D)において固液分離処理の対象となる「工程(C)で得られた反応液」は、さらに銅(I)化合物が添加された被処理水を意味し、銅(I)化合物による反応が完了している状態のほか、当該反応が進行中の状態及び当該反応が開始する前の状態等も含み得る。
本方法では、被処理水に特定量の過酸化水素を添加する工程(B)によって、工程(B)で得られる反応液中に過酸化水素の残留を抑制しつつ、被処理水中のシアン化物イオンを過酸化水素により、十分に分解処理することが可能となる。また、本方法では、被処理水(工程(B)で得られた反応液)に特定量の銅(I)化合物を添加する工程(C)によって、工程(C)で得られる反応液や処理水中に、銅(I)化合物の残留を抑制しつつ、被処理水中のシアノ錯体を難溶化し、その難溶化物を生成することができる。そして、この難溶化物を工程(D)によって分離除去することができる。
したがって、本方法によれば、シアン化物イオン及びシアノ錯体が除去された処理水を得ることが可能であり、しかも、銅の残留量が抑制された処理水を得ることが可能である。そのため、処理水に銅が残留していた場合に必要となる、銅を処理するための工程や設備を省略可能となることが期待でき、それにより、設備費及び処理コストを抑えること、及び敷地面積を抑えることが期待できる。
本方法では、シアン化物イオン(遊離シアンとも称される。)及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理対象とする。「被処理水」とは、処理対象の水、すなわち、処理を被る水を意味する文言である。この被処理水は、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する水であれば、特に制限されない。被処理水は、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有することから、シアン含有水と称してもよい。
被処理水中のシアノ錯体としては、例えば、鉄シアノ錯体、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体(例えば[Cu(CN)3]3-等)等を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上が被処理水に含有されていてもよい。好適な被処理水としては、シアノ錯体として、鉄シアノ錯体を含有する廃水を挙げることができる。鉄シアノ錯体としては、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-;ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン)、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-;ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン)、並びに鉄カルボニルシアノ錯体([Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-)等を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上の鉄シアノ錯体が被処理水に含有されていてもよい。これらの鉄シアノ錯体を含有する廃水は、例えば、特開2018-39004号公報や特開2018-69227号公報に開示されている。
一般に、実際の廃水処理設備に処理対象として流入してくる、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体等のシアン成分を含有する廃水(シアン含有廃水)においては、その廃水中のシアン成分の濃度は日々変動する。本発明者らの検討により、実際の廃水処理設備において、仮に、シアン含有廃水に過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理を行うと、日々変化するシアン含有廃水によっては、一時的に、シアン成分の除去性能が低下する問題が生じることがわかった。具体的には、廃水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度がいずれも低い場合には、上述の問題が生じ難い一方、廃水中のシアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い場合には、上述の問題が生じ易い傾向にあることがわかった。そのため、本方法における好適な処理対象としては、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水を挙げることができる。
上述のシアン含有廃水としては、例えば、石炭工場、メッキを行う工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水を挙げることができる。シアン含有廃水としては、シアン化物イオン、並びに鉄シアノ錯体(フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)5(CO)]3-、及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のうちの少なくとも1種)を含有する可能性が高いと考えられることから、排出ガスの洗浄排水がより好適である。排出ガスの洗浄排水には、排ガス処理装置から生じる排水も含まれる。さらに好適な被処理水としては、コークスを燃料とする炉から発生する、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から、懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。
工程(A)では、被処理水中の全シアン(以下、「T-CN」と記載することがある。)濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン(以下、「F-CN」と記載することがある。)濃度(mg-CN/L)を測定する。
工程(A)で被処理水中のF-CN濃度を測定するのは、後述する工程(B)において被処理水に添加する過酸化水素の量をF-CN濃度の測定値に基づき制御するためである。また、F-CN濃度の測定に加えて、工程(A)で被処理水中のT-CN濃度を測定するのは、後述する工程(C)において被処理水に添加する銅(I)化合物の量を、T-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値に基づき制御するためである。
従来のアルカリ塩素法で用いられる次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、被処理水の酸化-還元電位(ORP)により制御されることがある。しかし、被処理水として好適な上述のシアン含有廃水の場合、シアン成分以外にも、例えばアンモニウム性窒素(NH4
+-N)及び還元性硫黄化合物等の様々な成分が含有されていることから、ORPによる制御は難しい。また、次亜塩素酸ナトリウムはアンモニアと反応しやすく、その反応に消費されてしまう。そのため、本方法では、過酸化水素を用いることとし、かつ、その添加量の制御に、被処理水中のF-CN濃度の測定値を用いることとしている。
一般に、シアン化物イオン濃度の測定方法には、イオン電極法があり、全シアン濃度の測定方法には、加熱蒸留-比色法、加熱蒸留-イオン電極法、及び紫外線(UV)錯体分解-イオン電極法等がある。工程(A)では、T-CN濃度及びF-CN濃度はいずれも、加熱蒸留-イオン電極法により、測定することが好ましい。
具体的には、工程(A)は、被処理水の一定量を試料としてその試料を前処理後、pH2以下に調整して加熱通気蒸留を行い、シアン化物イオン電極を用いて、被処理水中のT-CN濃度(mg-CN/L)を測定することを含むことが好ましい。また、工程(A)は、被処理水の一定量を試料としてその試料を前処理後、pH5~6に調整して加熱通気蒸留を行い、シアン化物イオン電極を用いて、被処理水中のF-CN濃度(mg-CN/L)を測定することを含むことが好ましい。これらの加熱蒸留-イオン電極法を用いた測定により、様々な成分が含有されている上述のシアン含有廃水や、そのシアン含有廃水のようにF-CN濃度及びシアノ錯体濃度が日々変動する被処理水に対しても、T-CN濃度及びF-CN濃度を正確に測定することが可能となる。
上述の加熱蒸留-イオン電極法によるT-CN濃度及びF-CN濃度の測定は、より具体的には、次のようにして行うことがより好ましい。T-CN濃度の測定については、一定量の試料(被処理水)の前処理として、その試料に塩化第一銅溶液(好適には塩化第一銅の塩酸溶液)及びリン酸水溶液をそれぞれ加えてpHを2以下に調整し、加熱時間約10~30分(より好ましくは15~25分、さらに好ましくは20分)の条件にて加熱通気蒸留を行う。加熱通気蒸留において、リン酸により試料をpH2以下の酸性条件とすることでシアノ錯体が分解され、塩化第一銅は、シアノ錯体の分解を促進し、また、測定に干渉する物質(例えば硫化物イオン等)のマスキング剤としてもはたらく。そして、その加熱通気蒸留により発生するシアン化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた後、シアン化物イオン電極を用いてT-CN濃度を測定することができる。また、F-CN濃度の測定については、一定量の試料(被処理水)の前処理として、その試料に酢酸亜鉛溶液(好適には酢酸亜鉛二水和物の水溶液)及び酢酸水溶液をそれぞれ加えてpH5~6(より好ましくはpH5.3~5.7、さらに好ましくはpH5.5)に調整し、加熱時間約10~30分(より好ましくは15~25分、さらに好ましくは20分)の条件にて加熱通気蒸留を行う。加熱通気蒸留において、酢酸と酢酸亜鉛により試料を上記pHに調整することで、ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン等のシアノ錯体からのシアン化水素の発生が抑制される。そして、その加熱通気蒸留により発生するシアン化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた後、シアン化物イオン電極を用いてF-CN濃度を測定することができる。
上述のT-CN濃度の測定には、市販の測定装置を用いることもでき、例えば、株式会社アナテック・ヤナコ製の製品名「全シアン自動測定装置 TCN-580」を用いることができる。この装置は、一定量の試料(被処理水)、塩化第一銅溶液、及びリン酸水溶液を、各計量管を介して加熱槽に導入し、約10~30分間負圧通気蒸留し、この際に生じたシアン化水素ガスを、予め測定槽に用意した少容量の水酸化ナトリウム水溶液に吸収、濃縮してシアン化物イオン電極で測定することが可能なものである。また、F-CN濃度の測定には、例えば、上記全シアン自動測定装置における塩化第一銅溶液、及びリン酸水溶液を、それぞれ、酢酸亜鉛溶液、及び酢酸水溶液に変えた装置を用いることができる。
工程(B)では、被処理水に、被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が上述の工程(A)における被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる。例えば、工程(A)において、被処理水中のシアン化物イオン(F-CN)濃度が2mg-CN/Lと測定された場合、工程(B)では、被処理水に過酸化水素を2~8mg-H2O2/L添加することができる。
工程(B)において、被処理水に過酸化水素を添加して反応させることにより、過酸化水素が被処理水中のシアン化物イオン(CN-)と酸化反応し、CN-を分解することが可能である。この効果が得られやすい観点から、過酸化水素の添加量は、被処理水中のH2O2としての添加濃度が被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値に対して1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。シアン化物イオンは、炭素(C)及び窒素(N)からなることから、最終的には、二酸化炭素(CO2)や窒素(N2)に分解される。なお、被処理水に、例えば、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体が含有されている場合には、そのようなシアノ錯体も工程(B)によって分解することが期待できる。
工程(B)における被処理水への過酸化水素の添加量は、被処理水中のH2O2としての添加濃度が被処理水中のF-CN濃度の測定値に対して1.0~4.0倍となる量であるため、工程(B)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の量を抑制することができる。本発明者らの検討により、被処理水に後述する銅(I)化合物を添加する際に、被処理水中に過酸化水素が比較的多めに残っていると、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下しやすいとの知見が得られている。これに対し、本方法では、銅(I)化合物を添加する際に、工程(B)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の量を抑制できることから、銅(I)化合物を使用することによるシアン成分の除去性能を高めやすくなる。この観点から、被処理水への過酸化水素の添加量は、被処理水中のH2O2としての添加濃度が被処理水中のF-CN濃度の測定値に対して3.5倍以下となる量が好ましく、3.0倍以下となる量がより好ましく、2.5倍以下となる量がさらに好ましい。
また、本方法では、被処理水への過酸化水素の添加量は、被処理水中のF-CN濃度の測定値に基づく量である。そのため、実際の廃水処理設備に処理対象として流入してくるシアン含有廃水のように、シアン成分の濃度が日々変動する被処理水中のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度の差が急激に変化した場合であっても、その変化に追従しやすい。すなわち、被処理水中のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度が様々な場合であっても、安定した処理性能を実現することが可能となる。
さらに、被処理水への銅(I)化合物の添加前に、被処理水に過酸化水素を添加して反応させる工程(B)を行うため、銅(I)化合物の添加によって難溶化物を生じさせた際に、難溶化物中に含有されるシアンの量を適度に低くすることができる。そのため、難溶化物中に含有されるシアンの量が低減されることから、難溶化物を処分する際に、シアンの溶出の可能性やその程度を低減できるという利点にもつながる。
上述の通り、工程(B)では、被処理水に特定量の過酸化水素を添加することで、工程(B)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の量を抑制できるが、工程(B)で得られた反応液中の過酸化水素の残留量をさらに低減させる工程を行ってもよい。例えば、工程(B)で得られた反応液と、その反応液中に残留する過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させることにより、当該反応液中の残留過酸化水素濃度をさらに低減させてもよい。
工程(B)における処理を行う際の被処理水のpHは、5.0~10.0が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6.0~8.0がさらに好ましい。この際、被処理水のpHをpH調整剤(例えば、塩酸及び水酸化ナトリウム等)等により、調整してもよい。工程(B)における反応時間は、3~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。また、工程(B)における反応温度は、15~80℃であることが好ましく、20~60℃であることがより好ましい。
工程(C)では、上述の工程(B)で得られた反応液に、被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が被処理水中のシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる。被処理水中のシアノ錯体濃度値は、前述の工程(A)における被処理水中の全シアン(T-CN)濃度の測定値からシアン化物イオン(F-CN)濃度の測定値を減じて求められる。被処理水には、シアン化物イオン及びシアノ錯体が含有されているため、被処理水中のT-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を減じた値は、被処理水中のシアノ錯体濃度値とみなすことができる。
工程(C)における銅(I)化合物の添加量について、一例を挙げて説明する。例えば、工程(A)において、被処理水中のF-CN濃度が2mg-CN/Lと測定され、かつ、T-CN濃度が8mg-CN/Lと測定された場合、被処理水中のシアノ錯体濃度値は、6mg-CN/Lと求められる。このシアノ錯体濃度値に対して、被処理水中のCuとしての添加濃度が1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加する場合、被処理水(工程(B)で得られた反応液)に、銅(I)化合物を6~24mg-Cu/L添加する。
工程(C)において、工程(B)で得られた反応液(被処理水)に銅(I)化合物を添加することにより、被処理水中のシアノ錯体(例えば鉄シアノ錯体等)、及び過酸化水素で分解されずに残る可能性があるシアン化物イオンを、銅(I)化合物と反応させて難溶化することができる。これにより、工程(C)で得られる反応液や処理水中に、シアン成分(例えば鉄シアノ錯体等)の難溶化物を生成することができる。この効果が得られやすい観点から、銅(I)化合物の添加量は、被処理水中のCuとしての添加濃度が被処理水中のシアノ錯体濃度値に対して1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。
また、工程(C)における被処理水(工程(B)で得られた反応液)への銅(I)化合物の添加量は、被処理水中のCuとしての添加濃度がシアノ錯体濃度値に対して1.0~4.0倍となる量であるため、工程(C)で得られる反応液や処理水中に残留する銅の量を抑制することができる。そのため、工程(C)の後に、処理水に銅が残留していた場合に必要となる、銅を除去するための設備及び処理(例えば、銅を水酸化物にして沈殿除去する沈殿装置やそれを用いた処理等)を要しない程度の処理水を得ることも可能となる。これにより、銅を処理するための工程や設備を省略可能となることが期待でき、その結果、設備費及び処理コストを抑えること、及び敷地面積を抑えることも期待できる。これらの効果が得られやすい観点から、銅(I)化合物の添加量は、被処理水中のCuとしての添加濃度が被処理水中のシアノ錯体濃度値に対して3.8倍以下であることが好ましく、3.5倍以下であることがより好ましく、3.0倍以下であることがさらに好ましい。
また、本方法では、被処理水への銅(I)化合物の添加量は、被処理水中のシアノ錯体濃度値に基づく量である。そのため、実際の廃水処理設備に処理対象として流入してくるシアン含有廃水のように、シアン成分の濃度が日々変動する被処理水中のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度の差が急激に変化した場合であっても、その変化に追従しやすい。すなわち、被処理水中のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度が様々な場合であっても、安定した処理性能を実現することが可能となる。
銅(I)化合物は、1価の銅化合物(第一銅化合物)である。銅(I)化合物を添加する際の銅(I)化合物の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができる。このため、銅(I)化合物としては、被処理水中で銅(I)イオン(Cu+)を生じ得る銅(I)化合物や、溶媒中でCu+を生じ得る銅(I)化合物を用いることができる。銅(I)化合物としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、及び硫酸銅(I)等を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらのなかでも、酸化銅(I)を用いることがさらに好ましい。
工程(C)における処理を行う際の被処理水(工程(B)で得られた反応液)のpHは、5.0~10.0が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6.0~8.0がさらに好ましい。このようなpH範囲となるように前述のpH調整剤を用いて調整してもよい。工程(C)において、工程(B)で得られた反応液に銅(I)化合物を添加してからそれを反応させる際の時間(反応時間)としては、3~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。また、その際の反応温度は、15~80℃であることが好ましく、20~60℃であることがより好ましい。
前述の通り、本方法は、工程(B)で得られた反応液と、その反応液中に残留する過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程を含んでいてもよい。この場合、工程(C)は、工程(B)で得られた反応液と、その反応液中に残留する過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させ反応させることで得られた反応液に、銅(I)化合物の添加が行われる工程(C1)を含むことができる。
工程(C1)により、銅(I)化合物を添加する対象となる、工程(B)で得られた反応液を、その反応液中の過酸化水素の残留量が十分に低い状態又は過酸化水素が残留していない状態にできる。そのため、被処理水中のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度値が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能となる。
工程(B)で得られた反応液と、過酸化水素除去剤との接触は、工程(B)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させてもよく、過酸化水素除去剤に、工程(B)で得られた反応液を接触させてもよく、それら両方を行ってもよい。工程(B)で得られた反応液と過酸化水素除去剤との反応時間は、それらの接触を開始してから、1~30分であることが好ましく、1~15分であることがより好ましい。また、その際の反応温度は、15~80℃であることが好ましく、20~60℃であることがより好ましい。
過酸化水素除去剤は、過酸化水素の還元剤、及び過酸化水素の分解触媒のいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。過酸化水素の還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)及び亜硫酸カリウム(K2SO3)等の亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)及び亜硫酸水素カリウム(KHSO3)等の亜硫酸水素塩(別名:重亜硫酸塩);硫酸鉄(II)及び硝酸鉄(II)等の鉄(II)塩(別名:2価の鉄塩、第一鉄塩);アスコルビン酸及びその塩等を挙げることができる。これらのような、過酸化水素の還元剤を過酸化水素除去剤として用いる場合、工程(B)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤(過酸化水素の還元剤)を添加することにより、工程(B)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させることが好ましい。過酸化水素の還元剤を添加する際の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
過酸化水素の分解触媒としては、液体状の分解触媒や、固体状の分解触媒を用いることができる。液体状の分解触媒としては、例えば、カタラーゼや下水処理場で使用される活性汚泥等を挙げることができる。固体状の分解触媒としては、例えば、粉末状又は粒状の二酸化マンガンや、粒状又はペレット状の活性炭等を挙げることができる。上述のような過酸化水素の分解触媒を過酸化水素除去剤として用いる場合、工程(B)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤(過酸化水素の分解触媒)を添加することにより、工程(B)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させることが好ましい。また、過酸化水素の分解触媒を基材に担持させたものを反応液に浸漬させたり、固体状の分解触媒にあっては、繊維状やメッシュ状に加工したものを反応液に浸漬させたり、固体状の分解触媒を充填した槽に反応液を通過させたりすることにより、工程(B)で得られた反応液と、過酸化水素除去剤(過酸化水素の分解触媒)とを接触させることも好ましい。
工程(C)は、工程(B)で得られた反応液に、前述の被処理水中のシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の第4級アンモニウム化合物をさらに添加し、反応させる工程(C2)を含むことが好ましい。この場合、第4級アンモニウム化合物の添加は、工程(B)で得られた反応液に行われれば、前述の銅(I)化合物の添加前及び添加後のいずれに行われてもよく、銅(I)化合物の添加と同時期に行われてもよい。
工程(C2)における第4級アンモニウム化合物の添加量について、一例を挙げて説明する。例えば、前述の例のように、工程(A)によって測定された、被処理水中のT-CN濃度及びF-CN濃度に基づき、被処理水中のシアノ錯体濃度値が6mg-CN/Lと求められた場合を挙げる。このシアノ錯体濃度値に対して、1.0~4.0倍となる量の第4級アンモニウム化合物を添加する場合、被処理水(工程(B)で得られた反応液)に、第4級アンモニウム化合物を6~24mg/L添加する。
工程(C2)における被処理水(工程(B)で得られた反応液)に、銅(I)化合物とともに、第4級アンモニウム化合物を特定量添加することにより、被処理水中のシアノ錯体(例えば鉄シアノ錯体等)を難溶化しやすくなる。また、被処理水への銅(I)化合物の添加により、被処理水中に溶解するシアンと銅の錯体として、テトラシアノ銅錯体([Cu(CN)4]3-)やトリシアノ銅錯体([Cu(CN)3]2-)が生じる可能性があるところ、これらの錯体も第4級アンモニウム化合物の併用により、難溶化することが可能となる。そのため、工程(C2)により、シアン成分の難溶化効果がより高まりやすくなり、また、工程(C)で得られる反応液や処理水中の銅の残留をより抑制しやすくなる。さらに、工程(C2)により、銅(I)化合物の必要量を減少させることも可能となる。
第4級アンモニウム化合物による上述の効果が奏されやすい観点から、第4級アンモニウム化合物の添加量は、被処理水中のシアノ錯体濃度値に対して、1.2~3.5倍であることがより好ましく、1.5~3.0倍であることがさらに好ましい。
第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムカチオンを有する化合物であり、モノマーでもよいし、ポリマーでもよい。第4級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム化合物、及びカチオン性ポリマー等を好適に用いることができる。第4級アンモニウム化合物を添加する際の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
テトラアルキルアンモニウム化合物としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩が好ましい。さらに、これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンが、ハロゲン化物イオンであるものが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンであるものがより好ましい。
カチオン性ポリマーとしては、第4級アンモニウムカチオンを有するポリマーであればよく、例えば、ポリアクリル酸エステル系化合物、ポリメタクリル酸エステル系化合物、ポリアミン系化合物、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩系化合物、ジアリルジアルキルアンモニウム塩-アクリルアミド共重合体系化合物、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物、並びにジメチルアミン、エピクロロヒドリン及びアンモニアの重縮合物等を挙げることできる。
工程(D)では、工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する。これによって、シアン成分が除去された処理水を得ることができる。被処理水や工程(C)で得られた反応液にその他の浮遊物質(SS)が含まれている場合には、工程(D)によって、SSを除去することも可能である。
工程(D)における固液分離処理の手法としては、沈殿処理、膜分離処理、及びろ過処理等を挙げることができ、これらのなかでも沈殿処理が好ましい。固液分離処理の際には、固液分離処理を行う対象となる反応液に凝集剤を添加してもよく、また、その反応液を撹拌してもよい。凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、及び塩化第二鉄等の無機凝集剤、並びに高分子凝集剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
工程(D)における処理を行う際の被処理水(工程(C)で得られた反応液)のpHは、5.0~10.0が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6.0~8.0がさらに好ましい。このようなpH範囲となるように前述のpH調整剤を用いて調整してもよい。工程(D)における処理を行う際の反応温度は、15~80℃であることが好ましく、20~60℃であることがより好ましい。
前述の集塵水を固液分離処理して得られた排出ガス洗浄廃水を被処理水として、この水処理方法を適用する場合、本発明の一実施形態の水処理方法は、その一態様として、次の工程(E)及び(F)を含むことが好ましい。すなわち、工程(D)で液分とは分離された固形分を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行う工程(E)と、工程(E)で得られた分離水を、排出ガスの洗浄廃水を得るための上記固液分離処理に送る工程(F)とを行うことが好ましい。工程(D)で得られる固形分を含むスラリーには、前述の工程(C)によって生じ得る難溶化物等が含まれ、そのスラリー中の水分に、酸化、pH変化、及び温度変化等の影響により、シアン成分が溶出する可能性がある。これに対して、上記工程(E)及び(F)を行うことによって、被処理水からのシアン成分の除去処理をさらに安定して行うことが可能となる。懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から懸濁物質を除去するための固液分離処理としては、沈降分離処理、膜分離処理、及びろ過処理等を挙げることができ、これらのなかでも沈降分離処理が好ましい。
なお、本発明の一実施形態の水処理方法では、その一態様として、工程(B)における過酸化水素を添加する対象となる被処理水、及び工程(C)における銅(I)化合物を添加する対象となる反応液のいずれか一方又は両方に、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、例えば、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、塩化第一鉄、並びに硫化ナトリウム及び四硫化ナトリウム等のアルカリ金属硫化物等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、前述の過酸化水素除去剤(過酸化水素の還元剤)も兼ね得ることから、亜硫酸塩及び重亜硫酸塩の少なくとも一方を用いることが好ましく、それを工程(B)で得られた反応液に添加することがより好ましい。チオ硫酸塩、亜硫酸塩、及び重亜硫酸塩における塩を形成する陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオン等を挙げることができる。被処理水に添加する際の還元剤の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
また、本発明の一実施形態の水処理方法では、その一態様として、過酸化水素を用いる工程(B)と、銅(I)化合物を用いる工程(C)とを、共通の反応槽で行ってもよく、別々の反応槽で行ってもよい。さらに、前述の過酸化水素除去剤を用いる場合、過酸化水素除去剤は、工程(B)及び(C)を行う各反応槽とは別個の反応槽で使用されてもよく、工程(B)を行う反応槽で使用されてもよく、工程(C)を行う反応槽で使用されてもよい。また、前述の第4級アンモニウム化合物を用いる場合、第4級アンモニウム化合物は、銅(I)化合物を用いる工程(C)を行う反応槽で使用されることが好ましい。
以下、本発明の一実施形態の水処理方法における各工程について、それらの処理方法を実行し得る水処理装置及び処理フローの概略構成を表す図面を参照しながら、さらに述べる。なお、図面における各図で共通する部分については同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、図1~図3中の実線矢印は、処理対象である被処理水とその処理過程にある液の流れを表す。
図1は、前述の本発明の一実施形態の水処理方法を実行し得る水処理装置及び処理フローの概略構成の一例を表す説明図である。図1に示すように、水処理装置10は、全シアン(T-CN)濃度測定装置32、シアン化物イオン(F-CN)濃度測定装置34、第1の反応槽22、第2の反応槽24、及び固液分離装置26を備える。T-CN濃度測定装置32及びF-CN濃度測定装置34にて、前述の工程(A)を行うことができる。また、第1の反応槽22にて前述の工程(B)を、第2の反応槽24にて前述の工程(C)を、固液分離装置26にて前述の工程(D)を行うことができる。
水処理装置10は、被処理水W1を第1の反応槽22に送る前の段階において、被処理水を貯留させる調整槽21を備えることが好ましい。この調整槽21を設けることによって、被処理水W1の性状が変動する場合のその性状の平均化、及び被処理水W1の流入量が変動する場合に第1の反応槽22に安定して一定程度の量を送る効果が期待できる。また、この場合、調整槽21に流入されてきた被処理水W1から、一定量を試料として分取して、T-CN濃度測定装置32及びF-CN濃度測定装置34に供給し、それぞれ、被処理水W1中のT-CN濃度及びF-CN濃度の測定を行うことが好ましい。なお、調整槽21を設けない場合には、第1の反応槽22に流入されてきた被処理水を分取して上記測定装置(32,34)に供給してもよい。また、第1の反応槽22の前段階の被処理水W1の流路を分岐することで、被処理水W1の一定量を試料として分取して、上記測定装置(32,34)に供給してもよい。
T-CN濃度測定装置32及びF-CN濃度測定装置34には、加熱通気蒸留-シアン化物イオン電極法を利用した測定装置を用いることが好ましい。前述の通り、T-CN濃度測定装置32としては、例えば、株式会社アナテック・ヤナコ製の製品名「全シアン自動測定装置 TCN-580」を用いることができる。また、F-CN濃度測定装置34としては、使用試薬を変更したこと以外は上記全シアン濃度自動測定装置と同様の装置を用いることができる。これらの装置(32,34)は、例えば、試料(被処理水)の供給手段、希釈水(希釈水用タンク及びそれに貯留された希釈水)、使用する各試薬(各試薬用タンク及びそれに貯留された各試薬)及びそれらの各種計量管、導入用集合管、加熱槽、冷却管、測定槽(スターラ付き測定槽)、通気用ポンプ、シアン化物イオン電極、並びに比較電極等から構成される。T-CN濃度測定装置32には、上記試薬として、水酸化ナトリウム水溶液、塩化第一銅溶液(好適には塩化第一銅の塩酸溶液)、及びリン酸水溶液を使用することができる。また、F-CN濃度測定装置34には、上記試薬として、水酸化ナトリウム水溶液、酢酸亜鉛溶液(好適には酢酸亜鉛二水和物の水溶液)、及び酢酸水溶液を使用することができる。
上記T-CN濃度測定装置32では、供給手段により被処理水W1の一定量が試料として供給され、供給された試料、希釈水、塩化第一銅溶液、及びリン酸水溶液が導入用集合管で集合し、pH2以下に調整された試料が加熱槽に供給され、10~30分(より好ましくは15~25分、さらに好ましくは20分)程度加熱される。一方、水酸化ナトリウム水溶液は、測定槽に供給され、貯留される。pH2以下に調整された試料の加熱通気蒸留により発生するシアン化水素ガスは、測定槽内の水酸化ナトリウム水溶液に捕集され、測定槽に設けられたシアン化物イオン電極及び比較電極により、被処理水中のT-CN濃度を測定することができる。
上記F-CN濃度測定装置34では、供給手段により被処理水W1の一定量が試料として供給され、供給された試料、希釈水、酢酸亜鉛溶液、及び酢酸水溶液が導入用集合管で集合し、pH5~6(より好ましくは5.3~5.7、さらに好ましくは5.5)に調整された試料が加熱槽に供給され、10~30分(より好ましくは15~25分、さらに好ましくは20分)程度加熱される。一方、水酸化ナトリウム水溶液は、測定槽に供給され、貯留される。上記pHに調整された試料の加熱通気蒸留により発生するシアン化水素ガスは、測定槽内の水酸化ナトリウム水溶液に捕集され、測定槽に設けられたシアン化物イオン電極及び比較電極により、被処理水中のF-CN濃度を測定することができる。
第1の反応槽22は、流入されてきた被処理水W1に過酸化水素を添加して反応させる槽である。この際、第1の反応槽22では、F-CN濃度測定装置34により測定されたF-CN濃度の測定値(mg-CN/L)に対して、被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が1.0~4.0倍となる量の過酸化水素が添加される。第1の反応槽22には、過酸化水素を添加するための装置(過酸化水素添加装置)42を設けることができる。
第2の反応槽24は、第1の反応槽22で得られた反応液W2に銅(I)化合物を添加して反応させる槽である。この際、第2の反応槽24では、被処理水中のシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して、被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物が添加される。被処理水中のシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)は、T-CN濃度測定装置32により測定された被処理水W1中のT-CN濃度の測定値から、F-CN濃度測定装置34により測定された被処理水W1中のF-CN濃度の測定値を減じて求められる。第2の反応槽24には、銅(I)化合物を添加するための装置(銅(I)化合物添加装置)44を設けることができる。
固液分離装置26は、第2の反応槽24で得られた、難溶化物を含む反応液W4を固液分離処理し、第2の反応槽24で生成した難溶化物を分離除去する装置である。固液分離装置26での固液分離処理により、難溶化物が除去された処理水W6を得ることができる。固液分離装置26としては、例えば、シックナー等の沈殿装置や、各種のろ過器及び膜分離機等を用いることができる。これらのなかでも、沈殿装置が好ましく、沈殿装置には撹拌機構が設けられていてもよい。固液分離装置26による処理の際に、凝集剤を用いる場合には、固液分離装置に、凝集剤を添加するための装置(凝集剤添加装置)を設けてもよい。
上述した過酸化水素添加装置42、銅(I)化合物添加装置44、及び凝集剤添加装置は、例えば、それらの装置において使用される各材料を貯留するためのタンク、並びに各材料を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。
水処理装置10は、その一態様として、過酸化水素の添加量及び銅(I)化合物の添加量を制御することが可能な制御部を備えることが好ましい。制御部51を備える水処理装置12について、図2を参照しながら説明する。図2は、前述の本発明の一実施形態の水処理方法を実行し得る水処理装置及び処理フローの概略構成の別の一例を表す説明図である。
制御部51は、上述した過酸化水素添加装置42と接続し、協働することが好ましい。例えば、F-CN濃度測定装置34により測定されたF-CN濃度の測定値を制御部51に入力することにより、制御部51に、F-CN濃度の測定値を過酸化水素添加装置42に出力させることができる。そして、制御部51は、過酸化水素添加装置42に、被処理水中のH2O2としての添加濃度が被処理水中のF-CN濃度の測定値に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加させることができる。このように、第1の反応槽22において、過酸化水素添加装置42からの過酸化水素の添加量を、被処理水中のF-CN濃度の測定値に基づいて半自動的に制御することが可能となる。
また、制御部51は、上述した銅(I)化合物添加装置44と接続し、協働することが好ましい。例えば、上記F-CN濃度の測定値のほか、T-CN濃度測定装置32により測定されたT-CN濃度の測定値を制御部51に入力し、制御部51に、T-CN濃度の測定値とF-CN濃度の測定値との差を演算させ、その差であるシアノ錯体濃度値を銅(I)化合物添加装置44に出力させることができる。そして、制御部51は、銅(I)化合物添加装置44に、被処理水中のCuとしての添加濃度が被処理水中のシアノ錯体濃度値に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加させることができる。このように、第2の反応槽24において、銅(I)化合物添加装置44からの銅(I)化合物の添加量を、被処理水中のシアノ錯体濃度値に基づいて半自動的に制御することが可能となる。
制御部51は、T-CN濃度測定装置32及びF-CN濃度測定装置34と接続し、それらとも協働することがより好ましい。例えば、F-CN濃度測定装置34により測定されたF-CN濃度の測定値、及びT-CN濃度測定装置32により測定されたT-CN濃度の測定値を制御部51に自動入力させることができる。また、制御部51に、シアノ錯体濃度値を演算させ、F-CN濃度の測定値を過酸化水素添加装置42に出力させ、シアノ錯体濃度値を銅(I)化合物添加装置44に出力させることが可能となる。これにより、第1の反応槽22において、過酸化水素添加装置42からの過酸化水素の添加量を、被処理水中のF-CN濃度の測定値に基づいて自動制御することが可能となる。また、第2の反応槽24において、銅(I)化合物添加装置44からの銅(I)化合物の添加量を、被処理水中のシアノ錯体濃度値に基づいて自動制御することが可能となる。制御部51は、例えば、電源ユニット、CPUユニット、入力ユニット、出力ユニット、及び記憶ユニット等を備えて構成することができ、パーソナルコンピューター等を用いることができる。
前述の工程(B)において、過酸化水素とともに、前述の亜硫酸塩等の還元剤を用いる場合、第1の反応槽22には、その第1の反応槽22に還元剤を添加するための装置(還元剤添加装置)を設けることができる。また、工程(C)において、銅(I)化合物とともに、前述の還元剤や前述の第4級アンモニウム化合物を用いる場合、第2の反応槽24には、還元剤添加装置や、第2の反応槽24に第4級アンモニウム化合物を添加するための装置を設けることができる。一例として、図2において、第4級アンモニウム化合物を添加するための装置(第4級アンモニウム化合物添加装置)45を示す。
第4級アンモニウム化合物添加装置45を備える水処理装置12の場合においても、上述の制御部51が設けられていることが好ましく、制御部51は、第4級アンモニウム化合物添加装置45と接続し、協働することが好ましい。例えば、前述のように、制御部51にシアノ錯体濃度値を演算させ、そのシアノ錯体濃度値を第4級アンモニウム化合物添加装置45に出力させることができる。これにより、第2の反応槽24において、第4級アンモニウム化合物添加装置45からの第4級アンモニウム化合物の添加量を、被処理水中のシアノ錯体濃度値に基づいて半自動的に又は自動的に制御することが可能となる。
なお、図1及び図2では、過酸化水素を用いる工程(B)、及び銅(I)化合物を用いる工程(C)を説明し易いように、第1の反応槽22と第2の反応槽24とを別々に示したが、第1の反応槽22及び第2の反応槽24は同一(共通)の反応槽であってもよい。一方、工程(B)における過酸化水素による反応終了後に、次工程に進むことが好ましいことから、第1の反応槽22と第2の反応槽24とは別々の槽であることが好ましい。
前述の工程(C)が、前述の工程(C1)を含む場合、本発明の一実施形態の水処理装置は、その一態様として、過酸化水素除去槽(以下、単に「除去槽」と記載することがある。)をさらに備えることができる。過酸化水素除去槽23を備える水処理装置14について、図3を参照しながら説明する。図3は、前述の本発明の一実施形態の水処理方法を実行し得る水処理装置及び処理フローの概略構成のまた別の一例を表す説明図である。
除去槽23は、第1の反応槽22で得られた反応液W2が流入される槽であり、その反応液W2と、前述の過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる槽である。この除去槽23にて、反応液W2中に残留する過酸化水素の濃度が低減された反応液W3を得ることができる。除去槽23には、第1の反応槽22で得られた反応液W2に過酸化水素除去剤を添加するための装置43(タンク、ポンプ、及び供給管等)を設けることができる。また、過酸化水素除去剤として前述の分解触媒を用いる場合には、その分解触媒を担持させた基材を、除去槽23内に設けることもできる。その除去槽23に第1の反応槽22で得られた反応液W2を通過せることにより、分解触媒を担持させた基材が反応液W2に浸漬するようにしてもよい。さらに、過酸化水素除去剤として前述の固体状の分解触媒を用いる場合には、除去槽23を、固体状の分解触媒を充填した槽とすることもできる。その除去槽23に、第1の反応槽22で得られた反応液W2を通過させることにより、反応液W2と過酸化水素除去剤とを接触させてもよい。
なお、図3では、過酸化水素を用いる工程(B)、過酸化水素除去剤を用いる工程、及び銅(I)化合物を用いる工程(C)を説明し易いように、第1の反応槽22、除去槽23、及び第2の反応槽24をそれぞれ別々に示したが、第1の反応槽22及び除去槽23;除去槽23及び第2の反応槽24;並びに第1の反応槽22、除去槽23、及び第2の反応槽24;は、同一(共通)の槽であってもよい。一方、工程(B)における過酸化水素による反応終了後に、次工程に進むことが好ましく、また、過酸化水素除去剤による反応終了後、次工程に進むことが好ましいことから、第1の反応槽22、除去槽23、及び第2の反応槽24は、それぞれ別々の槽であることが好ましい。
前述の通り、被処理水としては、排出ガスの洗浄廃水が好適であることから、前述の水処理方法を、排出ガスの洗浄廃水の処理設備に適用することもできる。図4は、本発明の一実施形態の水処理方法を適用することを想定した場合の排出ガスの処理設備及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
図4に示す排出ガスGの処理設備60は、排出ガスGを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)61と、湿式集塵機61から得られた集塵水W61を沈降分離処理する沈殿槽63と、沈降分離により得られた上澄み液W63を一次処理水として貯留する一次処理水槽65とを備える。また、一次処理水槽65に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水W65として、補給水W60が加えられつつ湿式集塵機61に戻されて、排出ガスGの洗浄に循環使用されてもよい。さらに、沈殿槽63で沈降分離により得られた沈殿物S63を脱水処理する脱水機67を設けてもよく、脱水機67により処理された一部は脱水ケーキCとして処理され、また別の一部は脱離液(脱水ろ液)W67として沈殿槽63に再送されてもよい。
上述の一次処理水槽65における一次処理水に、シアン化物イオン及びシアノ錯体が含有されている場合に、その一次処理水を、前述の水処理方法における処理対象である被処理水W1とすることができる。図4では、一次処理水槽65内の一次処理水をブロー水(被処理水W1)として、前述した水処理装置10、12、14(それらにおける第1の反応槽22又は調整槽21)に送り、被処理水W1の処理を行う場合が例示されている。水処理装置10、12、14における固液分離装置26で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機67に送って脱水処理し、脱水機67で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽63に送ることが好ましい。図4に示す脱水機67は、濃縮槽であってもよく、濃縮槽と脱水機67とを併用してもよい。また、沈殿槽63には、脱水ろ液のほか、上記濃縮槽で得られた分離水が送られてもよく、余剰の上記スラリーが送られてもよい。なお、沈殿槽63の代わりに、各種の膜分離装置及びろ過器等が使用されてもよい。
以上詳述した本発明の一実施形態の水処理方法では、被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値に対して特定量の過酸化水素を被処理水に添加するため、被処理水中のシアン化物イオンを十分に分解可能でありながら、過酸化水素添加後の反応液中に過酸化水素の残留を抑制することが可能である。また、上記水処理方法では、被処理水中のシアノ錯体濃度値に対して特定量の銅(I)化合物を被処理水に添加するため、被処理水中のシアノ錯体を難溶化し、その難溶化物を生成可能でありながら、銅(I)化合物添加後の反応液(処理水)中に、銅(I)化合物の残留を抑制することが可能である。そのため、処理水に銅が残留していた場合に必要となる、銅を処理するための工程や設備を省略可能となることが期待でき、それにより、設備費及び処理コストを抑えること、及び敷地面積を抑えることが期待できる。
また、本方法では、被処理水への過酸化水素の添加量が被処理水中のF-CN濃度の測定値に基づく特定量に制御され、被処理水への銅(I)化合物の添加量が被処理水中のシアノ錯体濃度値に基づく特定量に制御されている。そのため、実際の廃水処理設備に処理対象として流入してくるシアン含有廃水のように、シアン成分の濃度が日々変動する被処理水中のシアン化物イオン濃度及びシアノ錯体濃度の差が急激に変化した場合であっても、その変化に追従しやすい。したがって、本方法は、F-CN濃度及びシアノ錯体濃度が様々な値に日々変動するような実際のシアン含有廃水についても、そのシアン含有廃水中のシアン化物イオン及びシアノ錯体を安定して有効に除去処理することが可能である。
なお、本発明の一実施形態の水処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1]シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理する水処理方法であって、前記被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)と、前記被処理水に、前記被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)と、前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が前記被処理水中の前記全シアン濃度の測定値から前記シアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)と、前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、前記工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する工程(D)と、を含む水処理方法。
[2]前記工程(A)は、前記被処理水の一定量を試料としてその試料を前処理後、pH2以下に調整して加熱通気蒸留を行い、シアン化物イオン電極を用いて、前記被処理水中の前記全シアン濃度(mg-CN/L)を測定すること;及び前記被処理水の一定量を試料としてその試料を前処理後、pH5~6に調整して加熱通気蒸留を行い、シアン化物イオン電極を用いて、前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定すること;を含む、上記[1]に記載の水処理方法。
[3]前記工程(C)は、前記工程(B)で得られた反応液と、その反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させ反応させることで得られた反応液に、前記銅(I)化合物の添加が行われる工程(C1)を含む、上記[1]又は[2]に記載の水処理方法。
[4]前記工程(C)は、前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中の前記シアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の第4級アンモニウム化合物をさらに添加し、反応させる工程(C2)を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の水処理方法。
[5]前記銅(I)化合物は、酸化銅(I)を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の水処理方法。
以下、試験例を挙げて、本発明の一実施形態の水処理方法の効果等をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
<被処理水>
シアン化物イオン(溶解性F-CN)、及び溶解性金属シアノ錯体を含有する被処理水として、以下に述べる原水を用いた。所定の工場における排出ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛分等の懸濁物質を含有する廃水を沈降分離して得られた上澄水を用意した。この上澄水について、表1に示す通り、溶解性のF-CN濃度及びシアノ錯体濃度が異なる3種類の原水(原水1~3)を用意した。原水1~3は、採取した日が異なること以外は同じである。
各原水中の全シアン(T-CN)濃度及びシアン化物イオン(F-CN)濃度は、次のようにして測定し、T-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を減じて、シアノ錯体濃度を求めた。各原水中のT-CN濃度の測定には、測定槽に水酸化ナトリウム溶液を用い、原水を前処理する試薬として塩化第一銅の塩酸溶液及びリン酸溶液を用いる、加熱通気蒸留-シアン化物イオン電極法を利用した測定装置(製品名「全シアン自動測定装置 TCN-580」、株式会社アナテック・ヤナコ製)を使用した。この分析では、前処理として、塩化銅(I)の濃度が2質量%である塩化第一銅の塩酸溶液と、1+2リン酸溶液(特級リン酸:純水=1:2(質量比)の混合液)を原水試料に加え、その試料をpH2以下に調整し、20分の加熱通気蒸留を行い、発生するシアン化水素ガスを0.5質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液にて捕集し、シアン化物イオン電極により測定した。また、各原水中のF-CN濃度の測定には、上記全シアン自動測定装置における試薬(塩化第一銅の塩酸溶液及びリン酸水溶液)を、酢酸亜鉛二水和物の水溶液、及び酢酸水溶液に変更した装置を使用した。この分析では、前処理として、酢酸亜鉛二水和物の濃度を66.4g/Lに調整した酢酸亜鉛水溶液、並びに0.5M酢酸水溶液と0.5M酢酸ナトリウム水溶液を1:4(質量比)の割合で混合した酢酸水溶液を原水試料に加え、その試料をpH5.3~5.7に調整し、20分の加熱通気蒸留を行い、発生するシアン化水素ガスを0.5質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液にて捕集し、シアン化物イオン電極により測定した。
なお、各原水におけるシアン成分以外の水質については、pHが7.0~8.0、水温が50~60℃、懸濁物質濃度が40~80mg/L、CODMnが5~15mg/L、T-N(全窒素)が80~140mg/L、T-P(全りん)が1mg/L未満の範囲であった。これらについては、JIS K0102の規定に準じて測定した。
また、各原水について、特開2018-69227号公報に記載の装置(液体クロマトグラフィ-誘導結合プラズマ質量分析(LC-ICP-MS)装置)及び条件にて分析したところ、各原水には、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、鉄カルボニルシアノ錯体([Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-)、並びに銅シアノ錯体([Cu(CN)3]3-)が含有されていたことが確認された。
<予備試験例>
各原水を用いて、原水に過酸化水素を添加することによるシアン化物イオンの分解能及び処理水(反応液)中の過酸化水素の残留量を確認した。
(予備試験例1~9)
原水を500mLビーカーにとり、塩酸により原水をpH6.8に調整した後、原水に35質量%濃度の過酸化水素水を添加した。過酸化水素水の添加量は、原水中のH2O2としての添加濃度が原水中のF-CN濃度の測定値に対して、1.0倍、3.0倍、及び5.0倍となる量とした。原水に過酸化水素水を添加してから15分間、過酸化水素を反応させた後、反応液をろ紙(5種C)でろ過し、ろ液を得た。このろ液中のシアン化物イオンの濃度を、JIS K0102の38.1.1.2で規定される「加熱蒸留法(pH5.5で酢酸亜鉛の存在下で発生するシアン化水素)」で前処理し、JIS K0102の38.3で規定される「4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法」に準じて測定した。また、ろ液中に残留する過酸化水素(H2O2)の濃度を、簡易反射式光度計(製品名「RQフレックス」、試験紙「リフレクトクァント 過酸化物テスト」、関東化学株式会社製)を用いて測定した。予備試験例1~9の結果を試験条件とともに表2に示す。
予備試験例1~9では、各原水のF-CN濃度に対し、1.0倍、3.0倍、及び5.0倍の過酸化水素を添加した結果、ろ液中のシアン化物イオン濃度はいずれも1mg-CN/L未満となることが確認された。一方、ろ液中の過酸化水素の濃度(残留濃度)は、過酸化水素の添加量を増やすほど高い値であった。予備試験例1~9の結果より、原水への過酸化水素の添加量は、原水中のF-CN濃度の1.0~4.0倍(好ましくは1.0~3.0倍)程度とすれば、シアン化物イオンを1mg-CN/L未満に低減でき、かつ、過酸化水素の添加後に得られる反応液中の残留過酸化水素の濃度を10mg-H2O2/L以下に抑制できることがわかった。この予備試験例の結果から、原水への過酸化水素の添加量は、原水中のF-CN濃度の1.5倍を目安として以降の試験を行うこととした。
<試験例>
上記の各原水について、過酸化水素及び銅(I)化合物を用いて、原水中のシアン成分の除去処理を試みる試験を行った。試験例1(試験例1.1~1.9)では上記原水1を用い、試験例2(試験例2.1~2.12)では上記原水2を用い、試験例3(試験例3.1~3.12)では上記原水3を用いた。試験例1~3では、以下の処理手順にて試験を行った。
(処理手順)
原水を500mLビーカーにとり、塩酸により原水をpH6.8に調整した後、原水に35質量%濃度の過酸化水素水を添加し、15分間反応させ、反応液を得た。過酸化水素水の添加量は、原水中のH2O2としての添加濃度が原水中のF-CN濃度の測定値に対して、1.5倍となる量とした。また、試験例2.4~2.12及び3.4~3.12では、過酸化水素水を添加した後の上記反応液にさらに、その液中の残留している可能性のある過酸化水素を除去するため、亜硫酸ナトリウムを添加し、15分間反応させ、反応液を得た。亜硫酸ナトリウムの添加には、30質量%濃度の亜硫酸ナトリウム水溶液を用い、添加量は、Na2SO3として75mg/Lとした。
次に、上記反応液に、銅(I)化合物として、酸化銅(I)を添加し、15分間反応させ、反応液を得た。酸化銅(I)の添加量は、原水中のCuとしての添加濃度が原水中のシアノ錯体濃度値に対して、試験例1.1~1.6、2.1~2.9及び3.1~3.9では、1.0~4.0倍の範囲内とし、それら以外の試験例では、1.0~4.0倍の範囲外とした。酸化銅(I)の添加には、酸化銅(I)を1+1塩酸(純水:35質量%塩酸=1:1(質量比)の混合液)に溶解し、銅(Cu)として5質量%濃度となるように調整した酸化銅(I)溶液を使用した。
また、上記反応液に酸化銅(I)を添加する際に、試験例1.4~1.6、2.7~2.9、及び3.7~3.9、並びに試験例1.9、2.12、及び3.12では、酸化銅(I)溶液とともに、第4級アンモニウム化合物であるジデシルジメチルアンモニウムクロリド(DDAC)を添加した。DDACの添加量は、原水中のDDACとしての添加濃度が原水中のシアノ錯体濃度値に対して、試験例1.4~1.6、2.7~2.9、3.7~3.9、及び3.12では、1.0~4.0倍の範囲内とし、試験例1.9及び2.12では、1.0~4.0倍の範囲外とした。
上述のようにして得られた反応液に、アニオン性高分子凝集剤(製品名「KEA-730」、日鉄環境株式会社製)を1mg/L添加した。アニオン性高分子凝集剤を添加した後の反応液を静置させ、反応液中に生じた不溶性のシアン化合物を沈殿分離させることで固液分離し、得られた上澄水を処理水とした。この処理水について、処理水中の全シアンの濃度を、JIS K0102の38.1.2で規定される「全シアン(pH2以下で発生するシアン化水素)」で前処理し、JIS K0102の38.3で規定される「4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法」に準じて測定した。また、処理水中の銅(溶解性銅)の濃度を、JIS K0102の52.4で規定されるICP発光分光分析法に準じて測定した。なお、上記の各反応はいずれも、マグネティックスターラを用いた撹拌下にて行った。
試験例1~3の結果を試験条件とともに表3に示す。
試験例1.1~1.6、2.1~2.9、及び3.1~3.9では、原水への過酸化水素の添加量を原水中のF-CN濃度の1.5倍に、かつ、原水への銅(I)化合物の添加量を原水中のシアノ錯体濃度の1.0~4.0倍の範囲内に制御したことによって、全シアンの濃度が十分に低減され、かつ、銅の残留量が抑制された処理水を得ることができた。また、過酸化水素を添加した後に亜硫酸ナトリウムを添加しなかった試験例2.1~2.3及び3.1~3.3と、亜硫酸ナトリウムを添加した試験例2.4~2.6及び3.4~3.6では、処理水中の全シアンの濃度、及び銅の残留濃度は同程度であったことから、過酸化水素の添加量を原水中のF-CN濃度から設定することで、過酸化水素の残留によるシアン成分の除去性が低下する問題を抑制できることが確認された。さらに、試験例1.4~1.6、2.7~2.9、及び3.7~3.9では、銅(I)化合物とともに、第4級アンモニウム化合物を、原水中のシアノ錯体濃度の1.0~4.0倍の範囲内となる量で添加したことによって、処理水中の全シアンの濃度、及び銅の残留量をさらに低減できることが確認された。
一方、試験例1.7及び2.10では、銅(I)化合物の添加量が原水中のシアノ錯体濃度の0.5倍と少なかったために、また、試験例3.10では、銅(I)化合物を添加しなかったために、原水からのシアン成分の除去性能は十分でなかった。
また、試験例1.8、1.9、2.11、2.12、3.11、及び3.12では、銅(I)化合物の添加量が原水中のシアノ錯体濃度の4.0倍を超えていた(約6.7倍又は7.5倍であった)ため、処理水中の全シアンの濃度は低下したが、処理水中に残留する銅の濃度が高くなった。そのため、試験例1.8、1.9、2.11、2.12、3.11、及び3.12では、処理水中に残留する銅を処理するための処理がさらに必要となった。
以上の試験例の結果から、前述した本発明の一実施形態の水処理方法によれば、原水中のシアン化物イオンを十分に分解可能であるとともに原水中のシアノ錯体を十分に難溶化することが可能でありながら、銅の残留が抑制された処理水を得られることがわかった。したがって、前述した本発明の一実施形態の水処理方法によれば、処理水中の残留銅を処理するための工程や設備を省略可能となることが期待でき、それにより、設備費及び処理コストを抑えること、及び敷地面積を抑えることが期待できる。