以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下に説明する形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。以下の各実施形態におけるXYZ座標系では、主軸の回転軸方向をZ方向とし、水平面に平行な平面をYZ平面とし、Z方向に直交する方向をY方向と表記する。YZ平面に垂直な方向はX方向とし、このX方向は、ワークに対する切削量を規定する方向である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の指す方向が+方向であり、反対の方向が-方向であるとして説明する。また、以下の各実施形態では、Y軸周りの方向をθY方向と表記し、Z軸周りの方向をθZ方向と表記する。また、θY方向、θZ方向については、+Y側及び+Z側から見た場合における時計回りの方向を+方向とし、反時計回りの方向を-方向とする。
実施形態に係る工作機械100について、図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係る工作機械100の一例を示す図である。また、図2は、本体部1の一例を示す斜視図である。図3は、本体部1を+Y側から見た場合の一例を示す図である。図4は、本体部1を+Z側から見た場合の一例を示す図である。図1から図4に示す工作機械100は、旋盤である。工作機械100は、本体部1と、制御装置2と、を備える。
図1から図4に示すように、本体部1は、ベッド3と、主軸台4と、刃物台5と、移動装置6と、計測装置7と、を有する。ベッド3は、例えば床面等に載置される固定基台である。ベッド3上には、主軸台4及び刃物台5を囲むカバーCが設けられる。主軸台4は、移動装置6を介してベッド3に支持される。主軸台4は、移動装置6によりX方向及びZ方向のそれぞれに移動可能である。主軸台4は、主軸10を有する。主軸10は、不図示の軸受等によってZ方向に平行な主軸軸心AX1の周りをθZ方向に回転可能に支持される。主軸10の+Z側の端部には、チャック駆動部11が設けられている。
チャック駆動部11は、ワークWを保持する複数の把持爪(チャック)11aを有する。複数の把持爪11aのそれぞれは、主軸10の径方向に移動可能である。チャック駆動部11は、複数の把持爪11aを主軸10の径方向に移動させてワークWを保持させる。ワークWを把持爪11aで保持した際、ワークWの回転中心は、主軸軸心AX1と一致する。把持爪11aは、主軸10の回転軸周りに等間隔に複数配置される。把持爪11aの個数又は形状は、ワークWを保持可能な任意の構成が用いられる。
刃物台5は、ベッド3に固定される。刃物台5は、タレット50を備える。タレット50は、X方向に平行な軸心AX2の周りをθX方向に回転可能な状態で刃物台5に支持される。タレット50は、刃物T及び計測用刃物Tmをそれぞれ交換可能に保持する。刃物T及び計測用刃物Tmとしては、ワークWに対して切削加工を施すバイト等の他、ドリル又はエンドミル等の回転工具が用いられてもよい。計測用刃物Tmは、複数のワークWのうち未加工のワークWの少なくとも1つが取り出された計測用ワークWmを加工する。
計測用ワークWmは、通常の加工対象におけるワークWと同一又はほぼ同一である。計測用刃物Tmは、刃物Tと同一又はほぼ同一である。従って、計測用刃物Tmにより計測用ワークWmを加工することは、刃物TによりワークWを加工する場合と同一又はほぼ同一とすることができる。刃物Tは、ホルダ51を介してタレット50に保持される。計測用刃物Tmは、ホルダ52を介してタレット50に保持される。タレット50をθX方向に回転させることにより、刃物Tと計測用刃物Tmとを選択可能である。
ベッド3の下部には、冷却装置30が配置される。冷却装置30は、ワークWの加工部位にクーラントを吐出して冷却する。冷却装置30は、クーラント供給源31と、配管32とを有する。クーラント供給源31は、温度管理されたクーラントが貯留される。クーラント供給源31は、ポンプ等の駆動源31aにより、クーラントを配管32に流通させる。配管32は、ベッド3に沿って引き回され、刃物台5の-Z側の面から刃物台5の内部に挿入される。この配管32は、タレット50及びホルダ51を貫通して配置され、クーラントの流通方向の下流側端部がワークWの加工部位に向けられる。
移動装置6は、X方向ガイド61と、送り台62と、Z方向ガイド63と、を有する。2本のX方向ガイド61は、ベッド3上にX方向に沿って平行に配置される。X方向ガイド61は、送り台62をX方向に案内する。送り台62は、矩形の板状又は台状に形成され、X方向ガイド61上に配置される。本明細書において矩形は、正方形を含む長方形を意味する。
送り台62は、X方向駆動部64の駆動によりX方向に移動する。X方向駆動部64は、例えば、電気モータ等の回転駆動力を用いて、ボールネジ機構等により直線運動に変換する機構、ラック及びピニオンギアを用いた機構、あるいは油圧又は空圧シリンダ装置などが用いられる。2本のZ方向ガイド63は、送り台62上にZ方向に沿って平行に配置される。Z方向ガイド63は、主軸台4をZ方向に案内する。主軸台4は、Z方向駆動部65の駆動によりZ方向に移動する。Z方向駆動部65は、例えば、電気モータなど、X方向駆動部64と同様の構成が用いられる。
計測装置7は、基準フレーム70と、主軸側位置計測装置71と、刃物側位置計測装置72と、を有する。また、計測装置7は、温度測定器として、第1温度測定器73と、第2温度測定器74と、第3温度測定器79と、第4温度測定器75と、第5温度測定器76と、を有する。基準フレーム70は、支柱部77と、水平部78とを有する。基準フレーム70は、ベッド3よりも熱膨張係数の低い材料を用いて形成される。このような材料としては、例えばインバー材等の合金材料又はセラミックス等が挙げられる。支柱部77は、ベッド3からY方向に沿って起立した状態で配置される。支柱部77は、不図示の固定部材等によってベッド3に固定される。
水平部78は、基端側が支柱部77の上端に連結され、+Z方向に向かって直線状に延びるように配置される。水平部78は、支柱部77によって、いわゆる片持ち状に支持される。水平部78は、補強部78a(図2参照)によって支持される。水平部78は、タレット50の回転軸の軸心AX2の高さに配置される。水平部78は、+Z側の端部が刃物台5の+X側の位置に(すなわち、タレット50と反対側の位置に)配置される。水平部78の+Z側の端部には、後述する第2スケール72a及び第2読み取り装置72bを挿入するための貫通孔が形成される。貫通孔は、X方向に水平部78を貫通して設けられる。
主軸側位置計測装置71は、主軸軸心AX1のX方向への変位を検出する。主軸側位置計測装置71は、第1スケール71aと、第1読み取り装置71bと、を有する。第1スケール71aは、例えば、断面が円形状、楕円形状、又は多角形状の棒状の部材である。第1スケール71aは、支柱部77に連結され、X方向に沿って直線状に配置される。第1スケール71aは、支柱部77にいわゆる片持ち状に支持される。第1スケール71aは、Y方向の位置が送り台62の高さ位置に配置される。第1スケール71aは、-X方向の端部が送り台62の+Z側の位置に配置される。
第1スケール71aは、X方向に並んで形成された目盛りM1を有する。目盛りM1は、光学的又は磁気的に読み取り可能である。目盛りM1は、第1スケール71aに直接形成された構成であってもよいし、目盛りが形成された部材が第1スケール71aに取り付けられた構成であってもよい。本実施形態では、目盛りM1は、例えば磁性部分と非磁性部分とが第1スケール71aのX方向に交互に配置された構成である。目盛りM1は、主軸10がX方向に移動する範囲(主軸軸心AX1のX方向の移動範囲)を含む領域に形成される。第1スケール71aは、支柱部77に支持されている部分が第1基準位置P1となる。すなわち、主軸側位置計測装置71は、ベッド3における第1基準位置P1に対する主軸10の半径方向の主軸軸心AX1の位置を計測する。
第1読み取り装置71bは、送り台62の+Z側の端面62aに固定され、かつ主軸軸心AX1を通る主軸10の半径方向に垂直な平面上を読み取り基準とする。読み取り基準は、主軸軸心AX1を通り、YZ平面と平行な平面状である。第1読み取り装置71bは、例えば、磁性部分と非磁性部分とを検出する磁気ヘッドが用いられる。第1読み取り装置71bは、主軸台4及び送り台62に熱変形が生じた場合、主軸台4及び送り台62の変形に伴って変位する。従って、第1読み取り装置71bは、第1スケール71aに形成された目盛りM1(磁性部分及び非磁性部分)に対してX方向に変位する場合の変位を検出可能である。第1読み取り装置71bは、目盛りM1に対するX方向の変位を電気信号として制御装置2に送信する。
刃物側位置計測装置72は、タレット50の-X側(刃物T側あるいはワークW側)の端面50aについてのX方向の変位を計測する。刃物側位置計測装置72は、第2スケール72aと、第2読み取り装置72bと、を有する。第2スケール72aは、第1スケール71aと同様に、例えば、断面が円形状、楕円形状、又は多角形状の棒状の部材であり、X方向に沿って直線状に配置される。第2スケール72aは、中心軸がタレット50の回転の軸心AX2に一致して、刃物台5及びタレット50をX方向に貫通して配置されており、刃物台5及びタレット50と一体に設けられる。第2スケール72aは、タレット50の-X側の端面50aにいわゆる片持ち状に支持される。第2スケール72aは、刃物台5に熱変形が生じた場合、刃物台5の熱変形に伴って変位する。
第2スケール72aは、+X側の端部が水平部78をX方向に貫通し+X側に突出して配置される。第2スケール72aは、第1スケール71aと同様に、X方向に並んで配置された目盛りM2を有する。目盛りM2は、光学的又は磁気的に読み取り可能である。目盛りM2は、第2スケール72aのうち水平部78の内部に挿入される領域に配置される。第2スケール72aが貫通する水平部78の位置が第2基準位置P2となる。
第2スケール72aは、-X側の端面72cがタレット50の-X側の端面50aに一致して配置される。この端面72cは、X方向の位置がタレット50の端面50aに一致する。端面50aは、刃物台5の第3基準位置P3である。従って、第2スケール72aの端面72cは、第3基準位置P3に配置されている。すなわち、刃物側位置計測装置72は、ベッド3における第2基準位置P2に対して、第3基準位置P3の位置を計測する。なお、第1基準位置P1及び第2基準位置P2は、主軸半径方向に対して互いに熱変位量が等しい位置であり、互いに一致している。また、第1基準位置P1及び第2基準位置P2は、熱膨張係数の低いインバー材等にそれぞれ設定されているので、両者が相対的に移動することを防止できる。ただし、第1基準位置P1と第2基準位置P2とを別の基準フレーム等に配置させてもよい。
第2読み取り装置72bは、水平部78の第2基準位置P2に固定される。第2基準位置P2は、水平部78の内部のうちタレット50の軸心AX2に重なる位置である。第2読み取り装置72bは、例えば、磁性部分と非磁性部分とを検出する磁気ヘッドが用いられる。第2読み取り装置72bは、目盛りM2(磁性部分及び非磁性部分)がX方向に変位する場合の変位を検出可能である。第2読み取り装置72bは、目盛りM2がX方向に変位した場合、この変位を電気信号として制御装置2に送信する。このように、本実施形態の刃物側位置計測装置72では、第2読み取り装置72bが固定位置に配置され、第2スケール72aが変位する構成であるが、この構成に限定されない。例えば、第2スケール72aが水平部78に固定され、第2読み取り装置72bがタレット50の端面50aに配置される構成でもよい。
第1温度測定器73は、例えば、刃物台5の-Z側の端面に配置される。第1温度測定器73は、刃物台5又はその近傍の第1温度t1を測定する。第1温度測定器73は、配管32の温度を測定することにより、配管32を流れるクーラントの温度を測定する。切削加工時には刃物Tに向けてクーラントが吐出されるため、クーラントが流れる配管32の温度は切削加工時の刃物T及びその周囲の温度にほぼ等しい。従って、配管32内のクーラントの温度を測定することにより、切削時の刃物台5又はその近傍の第1温度t1を測定することができる。
第2温度測定器74は、主軸台4(又は主軸10)及び/又はその近傍の温度である第2温度を1つ以上測定する。第2温度測定器74は、主軸台4の第2温度t2を測定可能であれば、その取り付け位置は任意であり、例えば、主軸10近傍に取り付けられてもよいし、主軸台4又は主軸10の内部に配置されてもよい。また、第2温度測定器74は、配置されなくてもよい。本実施形態において、第2温度測定器74は、主軸台4の+X側の側面に取り付けられる。なお、第2温度測定器74によって検出される第2温度t2は、例えば、図1に示す主軸10の近傍の領域TEM1(破線で囲んだ領域)と同一又はほぼ同一の温度である。
第3温度測定器79は、カバーCの内側に設けられる。第3温度測定器79は、カバーCの内側の第3温度t3を測定する。本実施形態において、カバーCの内側の第3温度t3は、刃物台5及び主軸台4の周囲の外気温度に対応する。従って、第3温度測定器79は、第3温度t3を測定することにより、刃物台5及び主軸台4の周囲の外気温度に対応する温度を測定することができる。第3温度測定器79は、カバーCの内側に限定されず、カバーCの外側に配置されてもよい。なお、第3温度測定器79は、カバーCの内側に限定されず、例えば、カバーCの外側に配置されてもよいし、カバーCの外側から離れて(本体部1から離れて)設けられてもよい。
第4温度測定器75は、送り台62の温度である第4温度t4を測定する。第4温度測定器75は、例えば、送り台62の表面に取り付けられ、送り台62の温度を測定することが可能である。なお、第4温度測定器75は、送り台62の内部に配置されてもよい。本実施形態において、第4温度測定器75は、送り台62の+X側かつ-Z側の角部において+Y側の面に取り付けられる。なお、第4温度測定器75によって検出される第4温度t4は、例えば、図1に示す送り台62の-X側の領域TEM2(破線で囲んだ領域)と同一又はほぼ同一の温度である。
第5温度測定器76は、ベッド3の+Y側の面であって、刃物台5の-Z側の領域に配置される。第5温度測定器76は、ベッド3のうち当該刃物台5の-Z側の領域の温度(第5温度)t5を測定する。なお、第5温度測定器76によって検出される第5温度t5は、例えば、図1に示す刃物台5の+Z側の端面の領域TEM3の温度と同一又はほぼ同一の温度である。なお、第4温度測定器75及び第5温度測定器76の一方又は双方は、配置されなくてもよい。
制御装置2は、図1に示すように、例えば、コンピュータであり、数値制御機能及びプログラマブルコントローラなどを有する。制御装置2は、移動制御部21と、演算部22と、運転実行部23と、係数調整部24と、記憶部25と、入力部26と、表示部27と、を有する。移動制御部21は、移動装置6のX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御することにより、ワークWと刃物TとをX方向及びZ方向に相対的に移動させる。移動制御部21は、ワークWと刃物Tとの間のX方向の相対移動を制御する場合、主軸10の主軸軸心AX1と刃物Tの刃先TaとのX方向の距離Lを制御する。
この距離Lは、主軸台4のX方向の位置と、刃物台5に取り付けられるタレット50、ホルダ51及び刃物TのX方向の取り付け寸法とによって求められる。また、距離Lは、例えば、主軸10に保持したテストピースに刃物Tを突き当てて(もしくは実際に切削して)計測してもよい。また、制御装置2は、後述する各熱変位量に基づいてワークWの加工データ(例えば座標値等)を補正し、補正後の加工データに基づいて移動制御部21によりX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御する。
演算部22は、例えば、記憶部25に記憶されたプログラム及びデータに基づいて、各種の演算を行う。演算部22は、主軸側位置計測装置71で計測された主軸軸心AX1のX方向についての変位(位置)に基づいて、主軸台熱変位量ΔSを算出する。主軸台熱変位量ΔSは、熱によって生じた主軸台4の熱変位量である。また、演算部22は、刃物側位置計測装置72で計測された第3基準位置P3のX方向についての変位(位置)に基づいて、刃物台熱変位量ΔTを算出する。刃物台熱変位量ΔTは、熱によって生じた刃物台5の熱変位量である。
演算部22は、第1温度測定器73で測定された第1温度t1に基づいて、刃物熱変位量ΔHを推定する。刃物熱変位量ΔHは、第3基準位置P3から刃物Tの刃先Taまでの部分(ホルダ51及び刃物T)のX方向についての熱変位量である。第1温度t1と刃物熱変位量ΔHとの間には所定の相関関係がある。第1温度t1と刃物熱変位量ΔHとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第1温度t1の値を変数とする刃物熱変位量ΔHの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第1温度t1の値に対応する刃物熱変位量ΔHを算出する。
また、演算部22は、第2温度測定器74が測定した主軸10の温度(第2温度)t2に基づいて、主軸軸心熱変位量Δθsを推定してもよい。主軸軸心熱変位量Δθsは、図4に示すように、読み取り基準に対する主軸軸心AX1の熱変位量である。例えば、主軸軸心熱変位量Δθsは、第1読み取り装置71b又は第1読み取り装置71bの近傍を中心とした主軸台4のZ軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。主軸軸心熱変位量Δθsは、例えば、主軸台4とZ方向ガイド63との間に形成される隙間の熱変位に起因した主軸軸心AX1の熱変位量を含む。
第2温度t2と主軸軸心熱変位量Δθsとの間には所定の相関関係がある。主軸軸心熱変位量Δθsは、第2温度t2と第4温度t4との温度差が増加するに従って、+(プラス)側の絶対値が増加する。なお、第2温度と第4温度t4との間に相関関係がある場合には、第2温度t2の値から第4温度t4の温度を算出し、算出結果に基づいて温度差を算出してもよい。このような第2温度t2と第4温度t4との温度差と、主軸軸心熱変位量Δθsとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、温度差の値を変数とする主軸軸心熱変位量Δθsの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第2温度t2の値に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出する。
なお、制御装置2は、移動制御部21及び演算部22がソフトウェアにより実現されてもよい。また、制御装置2は、移動制御部21と演算部22とで別の制御装置によって構成されてもよい。また、記憶部25は、例えば、制御装置2に内蔵されたハードディスク、あるいは持ち運び可能なCD-ROM、USBメモリなどが用いられてもよい。
また、演算部22は、第1温度測定器73が測定した配管32の温度(第1温度)t1から取付位置熱変位量Δθtを推定する。取付位置熱変位量Δθtは、図3に示すように、第2スケール72aの-X側の端面72c(あるいはタレット50の回転中心)に対するタレット50の刃物取付位置の熱変位量である。取付位置熱変位量Δθtは、端面72cを中心とした刃物台5のX軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。
第1温度t1と取付位置熱変位量Δθtとの間には所定の相関関係がある。取付位置熱変位量Δθtは、第1温度t1と第5温度t5との温度差が増加するに従って、-(マイナス)側の絶対値が増加する。このような第1温度t1と第5温度t5との温度差と取付位置熱変位量Δθtとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第1温度t1と第5温度t5との温度差の値を変数とする取付位置熱変位量Δθtの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第1温度t1と第5温度t5との温度差に対応する取付位置熱変位量Δθtを算出する。
また、演算部22は、第3温度測定器79が測定した第3温度t3から主軸軸心AX1と刃物Tの刃先(加工先端)刃先Taとの熱変位量である外気要因熱変位量ΔGを推定する。外気要因熱変位量ΔGは、第2スケール72aの-X側の端面72c(あるいはタレット50の回転中心)に対するタレット50の刃物取付位置の熱変位量のうち、外気温度に起因する熱変位量である。外気要因熱変位量ΔGは、端面72cを中心とした刃物台5のX軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。
第3温度t3と外気要因熱変位量ΔGとの間には所定の相関関係がある。第3温度t3と外気要因熱変位量ΔGとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第3温度t3の値を変数とする外気要因熱変位量ΔGの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第3温度t3に対応する外気要因熱変位量ΔGを算出する。また、第3温度測定器79は、配置されなくてもよい。この場合、後述する所定補正式では、第3温度t3に基づく外気要因熱変位量ΔGは除外される。
演算部22は、上述した主軸台熱変位量ΔS、刃物台熱変位量ΔT、刃物熱変位量ΔH、主軸軸心熱変位量Δθs、取付位置熱変位量Δθt、及び外気要因熱変位量ΔGを補正値に含めて主軸台4と刃物台5との相対移動量を演算することができる。この場合、補正値ΔXは、以下の所定補正式で表される。
ΔX=ΔS+ΔT+ΔH+Δθs+Δθt+ΔG
このうち、Δθs、Δθt、ΔGについては、
Δθs=K1・Δt2+K2・Δt4
Δθt=K3・Δt1+K4・Δt5
ΔG =K5・Δt3
で表される。なお、Δt1からΔt5のそれぞれは、所定期間における第1温度t1~第5温度t5の変位量である。また、K1からK5のそれぞれは、係数である。
運転実行部23は、工作機械100に通常運転及び計測用運転を行わせる。通常運転は、刃物Tにより複数のワークWを順次加工させる運転である。計測用運転は、通常運転を行わせつつ、複数のワークWのうち未加工のワークWの少なくとも1つを取り出して計測用ワークWmとし、その計測用ワークWmに対して刃物Tと同一又はほぼ同一の計測用刃物Tmにより、刃物Tによるワークの加工と同一又はほぼ同一の条件で加工させる運転である。
図5は、通常運転及び計測用運転におけるワークWの加工状況を模式的に示すタイムテーブルである。図5では、計測用運転を行った場合、及び計測用運転を行った後に通常運転を行う場合を例に挙げて説明する。図5に示すように、運転実行部23は、計測用運転の間において、複数のワークWの加工を行いつつ、所定時間間隔で複数のワークWから計測用ワークWmを取り出して加工する。運転実行部23は、上述した計測用刃物Tmを用いて計測用ワークWmの加工を行う。従って、運転実行部23は、計測用運転において、ワークWの加工時と計測用ワークWmの加工時とで、切削工具を刃物Tと計測用刃物Tmとで切り替える。計測用ワークWmの加工と計測用ワークWmの加工との間は、刃物TmによりワークWの加工を行っている。また、図5に示すように、運転実行部23は、計測用運転後、通常運転を実行させ、複数のワークWを刃物Tにより加工する。
図5に示す計測用運転では、刃物Tにより2個のワークWを加工した後に1個の計測用ワークWmを計測用刃物Tmにより加工しているが、この形態に限定されない。上記した所定時間間隔で計測用ワークWmを加工しているので、この所定時間によって刃物Tにより加工するワークWの数が増減される。また、上記した所定時間は、同一時間であることに限定されず、異なる時間であってもよい。例えば、計測用運転の開始当初は所定時間が短く設定され、順次所定時間が長く設定される形態であってもよい。
運転実行部23は、予め設定されている所定補正式を用いて、又は所定補正式を用いずに、計測用刃物Tmにより計測用ワークWmを加工させる。この場合、所定補正式を用いたときの設計値からのズレ、又は所定補正式を用いないときの設計値からのズレに基づいて、予め設定されている所定補正式を修正するので、ワークWをより高精度に加工することができる。
係数調整部24は、加工後の計測用ワークWmの寸法と、設計値とのズレである変位量、及び計測用ワークWmを加工したタイミングの第1温度t1から第5温度t5に基づいて、この変位量を減少させるように所定補正式の所定熱変位量の推定に用いた係数を調整する。本実施形態において、係数調整部24は、主軸軸心熱変位量Δθsの推定に用いる係数K1及びK2と、取付位置熱変位量Δθtの推定に用いる係数K3及びK4と、外気要因熱変位量の推定に用いる係数K5のそれぞれを調整する。係数K1からK5の調整は、例えば、係数K1からK5にそれぞれ予め用意した値を代入して、変位量が最も小さくなる係数K1からK5の組み合わせを選択することにより行う。
入力部26は、計測用運転時における加工後の計測用ワークWmの寸法を入力可能である。入力部26としては、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の入力インターフェースを用いることができる。入力部26による入力結果は、制御装置2の係数調整部24に送信される。入力部26により計測用ワークWmの寸法が入力された場合、係数調整部24は、入力部26に入力された計測用ワークWmの寸法に基づいて、先に設定されている上記の所定補正式における係数K1からK5をそれぞれ係数K1~K5を調整する。
表示部27は、制御装置2から出力される所定の情報を表示可能である。表示部27としては、例えば液晶パネル、有機エレクトロルミネセンスパネル等のディスプレイ装置が用いられる。例えば、入力部26からの入力結果を係数調整部24が表示部27に出力することにより、表示部27は、入力部26における入力結果を表示可能である。また、運転実行部23が計測用運転を実行する場合、表示部27は、計測用運転の実行中であることを表示可能である。
図6は、表示部27に表示される表示画面の一例を示す図である。図6に示す例において、表示部27の表示画面Gには、運転状況表示領域27aと、ワーク径表示領域27bと、係数表示領域27cと、操作ボタン表示領域27dとが表示される。なお、本実施形態では、表示部27の表示画面Gに入力部26としてタッチパネルが用いられる場合を例に挙げて説明する。入力部26としてタッチパネルが用いられることで、作業者は、各領域に対して容易に入力することができる。
運転状況表示領域27aには、例えば計測用運転の経過及び計測用運転後のワークWの状況を示す情報が表示される。ワーク径表示領域27bには、入力部26により計測用運転時の計測用ワークWmの寸法が入力された場合、それぞれの入力結果が表示される。係数表示領域27cには、計測用運転の前後における係数K1~K5が表示される。操作ボタン表示領域27dには、例えば計測用運転を開始するためのボタン、ワーク径を入力するためのボタン、計測運転後のワークWの状況を示す情報を表示するためのボタン等の操作ボタンが表示される。表示部27の表示画面のうち操作ボタンが表示された領域を作業者等がタッチすることにより、操作ボタンに対応する所定の入力信号が運転実行部23に送信されるようになっている。
なお、制御装置2は、移動制御部21、演算部22、運転実行部23、及び係数調整部24がソフトウェアにより実現されてもよい。また、制御装置2は、移動制御部21、演算部22、運転実行部23、及び係数調整部24の少なくとも1つが別の制御装置によって構成されてもよい。また、記憶部25は、例えば、制御装置2に内蔵されたハードディスク、あるいは持ち運び可能なCD-ROM、USBメモリなどが用いられてもよい。
次に、以上のように構成された工作機械100の動作について説明する。まず、工作機械100が通常運転を行う場合について説明する。この場合、制御装置2は、加工対象であるワークWを把持爪11aによって主軸10に保持させる。ワークWを主軸10に保持させた後、制御装置2は、主軸10を主軸軸心AX1の軸周り方向(θZ方向)に回転させることにより、ワークWを主軸軸心AX1の軸周り方向に回転させる。
続いて、制御装置2は、移動制御部21によってX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御し、ワークWと刃物Tとを相対的に移動させることにより刃物Tの刃先TaでワークWを切削加工する。なお、ワークWと刃物Tとの相対的な移動量及び速度などに関する加工データは、例えば上位の制御装置からの送信あるいは作業者による入力によって記憶部25等に保管されている。加工データは、例えば、刃物Tの刃先Taが移動すべき軌跡の座標データなどである。移動制御部21は、記憶部25等の加工データに基づいてX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を駆動させる。
ワークWの切削を行う場合、環境温度の変化、ワークWの切削時に生じる切削熱、及び運転に伴う各部位の発熱などにより、主軸台4、刃物台5、主軸10、タレット50、刃物T、ホルダ51、ベッド3等が熱変形し、主軸軸心AX1と刃物Tの刃先Taとの間のX方向の距離が変動する。この距離の変動により、初期に設定された基準位置又は基準距離(例えば、主軸軸心AX1と刃先Taとの間のX方向の距離Lなど)が変化し、ワークWに対する刃物Tの刃先Taの位置が想定値(加工データに基づく設定値)からずれてしまう。このため、本実施形態では、演算部22において、熱変位量を算出又は推定し、主軸10と刃物Tとの相対移動量である補正値ΔXを演算して加工データを補正する。
図7は、距離Lの補正値を算出する処理の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、演算部22は、主軸側位置計測装置71で計測された主軸軸心AX1のX方向についての変位(位置)に基づいて、主軸台熱変位量ΔSを算出する(ステップS01)。また、演算部22は、刃物側位置計測装置72で計測された第3基準位置P3のX方向についての変位(位置)に基づいて、刃物台熱変位量ΔTを算出する(ステップS02)。また、演算部22は、第1温度測定器73で測定された配管32の温度(第1温度)に基づいて、刃物熱変位量ΔHを推定する(ステップS03)。
演算部22は、第2温度測定器74が測定した主軸台4の温度(第2温度)に基づいて、上記したように、主軸軸心熱変位量Δθsを推定する(ステップS04)。また、演算部22は、第1温度測定器73が測定した配管32の温度(第1温度)から取付位置熱変位量Δθtを推定する(ステップS05)。また、演算部22は、第3温度測定器79が測定したカバーCの内側の温度(第3温度)に基づいて、上記したように、外気要因熱変位量ΔGを推定する(ステップS06)。
演算部22は、算出又は推定した主軸台熱変位量ΔS、刃物台熱変位量ΔT、刃物熱変位量ΔH、主軸軸心熱変位量Δθs、取付位置熱変位量Δθt及び外気要因熱変位量ΔGに基づいて、主軸10の主軸軸心AX1と、刃物Tの刃先Taとの相対移動量である補正値ΔXを所定補正式(ΔX=ΔS+ΔT+ΔH+Δθs+Δθt+ΔG)により演算する(ステップS07)。
移動制御部21は、演算部22で算出された相対移動量(補正値ΔX)に基づいて加工データを補正し、この補正した加工データに基づいてX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を駆動させ、ワークWを切削加工する(ステップS08)。ステップS08において、補正した加工データに基づいてワークWを切削加工するので、X方向(ワークWの切込み量)及びZ方向(刃先Taの送り量)について、工作機械100(本体部1)の熱変形の影響が排除されてワークWが加工され、ワークWを所望の寸法に正確に切削加工を行うことができる。
ワークWの切削加工が終了した場合、把持爪11aによる保持を解除し、ワークWを主軸10から取り出す。なお、主軸10に対するワークWの搬入又は搬出は、不図示のワーク搬送装置によって行ってもよい。なお、ワーク搬送装置によりワークWの搬入から搬出までの一連の動作は、例えば、制御装置2からの指示によって行われてもよく、また、作業者のマニュアル操作によって行われてもよい。ワーク搬送装置によりワークWの搬入から搬出までの一連の動作が制御装置2で行うことにより、ワークWの加工を自動で行うことができる。
次に、工作機械100が計測用運転を行う場合について説明する。図8は、計測用運転を行う処理の一例を示すフローチャートである。運転実行部23は、上述したステップS08と同様に、ワークWの加工を実行させる(ステップS11)。このワークの加工動作において、運転実行部23は、計測用運転を実行するか否かの判定を行う(ステップS12)。ステップS12において、運転実行部23は、例えば計測用運転を行うためのフラグの有無を判断する。このようなフラグとしては、例えば、工作機械100を稼働させてから所定期間が経過した場合、又は入力部26から計測用運転を行う旨の入力があった場合等が挙げられる。例えば、運転実行部23は、工場等の稼働を停止する休日又は祝日等が経過した最初の稼働時に計測用運転を実行させてもよいし、加工するワークWが変わったタイミング、又は刃物Tを交換したタイミングで実行させてもよい。
図9は、表示部27に表示される表示画面Gの一例を示す図であり、計測用運転を行う前の表示画面Gを示している。図9に示すように、運転実行部23は、計測用運転を開始するか否かの確認メッセージを表示画面Gの運転状況表示領域27aに表示させる。また、運転実行部23は、計測用運転を開始するための操作ボタンを操作ボタン表示領域27dに表示させる。図9の表示画面Gにおいて計測用運転を開始する旨の信号が入力された場合、運転実行部23は、計測用運転を行うためのフラグがあったと判定する。
運転実行部23は、図8に示すように、計測用運転を行う旨の入力がない場合、計測用運転を実行しないと判定し(ステップS12のNO)、ステップS11及びステップS12の処理を繰り返して行う。また、運転実行部23は、計測用運転を行う旨の入力がある場合、計測用運転を実行すると判定し(ステップS12のYES)、計測用ワークWmを加工する(ステップS13)。ステップS13において、運転実行部23は、未加工のワークWの少なくとも1個を取り出して計測用ワークWmとする。計測用ワークWmは、例えば、ワークWの載置台等において加工順に並べられている未加工のワークWの1つである。
また、運転実行部23は、計測用ワークWmを取り出した後、計測用刃物Tmにより、刃物TによるワークWの加工と同一又はほぼ同一の条件でこの計測用ワークWmを加工する。この場合、運転実行部23は、例えば、刃物TによりワークWを加工する加工プログラムが用いられる。運転実行部23は、計測用刃物Tmが所定の加工位置に配置されるようにタレット50をθX方向に回転させる。そして、運転実行部23は、上記した加工プラグラムにより、予め設定された加工量となるように主軸10、主軸台4、及び刃物台5の動作を制御する。
図10は、表示部27に表示される表示画面Gの一例を示す図であり、計測用運転が開始された場合の表示画面Gを示している。運転実行部23は、計測用運転を開始した場合、図10に示すように、表示部27の表示画面Gにおける運転状況表示領域27aに、計測用運転を実行中であることを表示させる。この表示により、作業者に対して工作機械100が計測用運転中であることを容易に報知することができる。なお、運転実行部23は、補正値を算出する補正低補正式において、調整前の係数K1~K5を係数表示領域27cに表示させてもよい。
運転実行部23は、計測用運転において、複数のワークWから計測用ワークWmを所定時間間隔で取り出し、計測用刃物Tmによりそれぞれの計測用ワークWmを加工させる。所定時間、及び計測用ワークWmの取り出し数については、予め記憶部25に記憶させることで設定することができる。運転実行部23は、1つの計測用ワークWmを加工した後、次の計測用ワークWmを加工するまでの間、刃物Tにより通常のワークWの加工を実行させる。つまり、運転実行部23は、刃物Tにより複数のワークWを加工する通常の加工動作の中で、所定時間が経過するごとに、刃物Tを計測用刃物Tmに切り替えて、計測用ワークWmとして設定した未加工のワークWを加工する。計測用ワークWmを加工した後、運転実行部23は、所定時間が経過するまで、再び計測用刃物Tmを刃物Tに切り替えて、通常のワークWの加工を実行させる。
運転実行部23は、図8に示すように、1つの計測用ワークWmを加工した後、加工した計測用ワークWmが所定数に到達したか否かを判定する(ステップS14)。運転実行部23は、加工した計測用ワークWmが所定数に到達していないと判定した場合(ステップS14のNO)、運転実行部23は、加工した計測用ワークWmが所定数に到達するまで、上記のステップS13以降の動作を繰り返して行うように制御する。つまり、運転実行部23は、所定時間が経過したか否かを判定し(ステップS15)、所定時間が経過した場合(ステップS15のYES)に、未加工のワークWの中から次の計測用ワークWmを設定して、計測用刃物Tmにより加工を行う。運転実行部23は、所定時間が経過していない場合(ステップS15のNO)、ステップS15の判定を繰り返して行う。
運転実行部23は、加工した計測用ワークWmが所定数に到達したと判定した場合(ステップS14のYES)、加工後の計測用ワークWmの寸法を表示部27の表示画面Gに表示させる。図11は、表示部27に表示される表示画面Gの一例を示す図であり、加工後の計測用ワークWmの寸法(径)を入力する場合の表示画面Gを示している。運転実行部23は、表示部27の表示画面Gにワーク径入力領域27eを表示させる。作業者は、入力部26としてのタッチパネルを操作して、ワーク径入力領域27eのそれぞれに計測用ワークWmの寸法(径)を入力する(ステップS16)。
ワーク径入力領域27eは、表示画面Gにおいて上下に複数の記入欄が設けられている。この記入欄を作業者がタッチすることにより、例えばテンキーが表示画面Gに表示され、このテンキーを作業者が操作することにより計測用ワークWmの寸法(径)が入力される。作業者は、例えば、計測用ワークWmを加工した順に、上の欄から順に計測用ワークWmの寸法(径)を入力する。なお、ステップS16は、作業者が入力することに限定されない。例えば、計測用ワークWmの寸法(径)を計測装置により計測する場合、この計測装置からの計測結果が制御装置2に送られて、自動で計測用ワークWmの寸法が入力される構成であってもよい。
運転実行部23は、ワーク径入力領域27eによりワーク径が入力された場合、図11に示すように、ワーク径表示領域27bに入力結果を表示させる。ワーク径入力領域27eに計測用ワークWmの寸法が入力されると、係数調整部24は、計測用運転時における加工後の計測用ワークWmの寸法と、設計値との変位量に基づいて、この変位量を減少させるように所定補正式の所定熱変位量の推定に用いた係数K1~K5を調整する(ステップS17)。
図12は、ステップS17における調整処理の一例を示すフローチャートである。図12に示すように、係数調整部24は、主軸台熱変位量ΔSの算出(ステップS21)、刃物台熱変位量ΔTの算出(ステップS22)、刃物熱変位量ΔHの推定(ステップS23)、主軸軸心熱変位量Δθsの推定(ステップS24)、取付位置熱変位量Δθtの推定(ステップS25)、外気要因熱変位量ΔGの推定(ステップS26)を行う。これらステップS21からステップS26は、図7に示すステップS01からステップS06と同様の処理であり、説明を省略する。係数調整部24は、主軸台熱変位量ΔS、刃物台熱変位量ΔT、刃物熱変位量ΔH、主軸軸心熱変位量Δθs、取付位置熱変位量Δθt、外気要因熱変位量ΔGから所定補正式における係数K1からK5を算出し、先に設定されている所定補正式の係数K1からK5を新たな係数K1からK5に調整することにより所定補正式を修正(又は更新)する(ステップS27)。
図13は、表示部27に表示される表示画面Gの一例を示す図であり、係数調整後の状況についての表示画面Gを示している。係数K1~K5が調整された後、運転実行部23は、係数調整後の補正値と、係数調整前の補正値とを比較するためのグラフを、表示画面Gの運転状況表示領域27aに表示させることができる。このグラフにより、作業者に対して係数調整の前後における補正値の変化を容易に報知することができる。また、係数K1~K5が調整された後、制御装置2は、係数調整後の所定補正式による補正値を用いて新たな切削加工を行うように制御してもよい。
このように、実施形態に係る工作機械100は、刃物Tにより複数のワークWを順次加工を行いつつ、複数のワークWのうちの1つである計測用ワークWmに対して計測用刃物Tmにより加工させる計測用運転を実行し、加工後の計測用ワークWmの寸法と、設計値との変位量に基づいて、この変位量を減少させるように所定補正式の所定熱変位量の推定に用いた係数K1~K5を調整するため、工作機械100による生産(ワークWの加工)を停止させることなく所定補正式を修正することができ、ワークWを高精度に加工しつつ、工作機械100による生産効率(ワークWの加工効率)が低下するのを抑制することができる。
なお、計測用運転中に加工された計測用ワークWmは、刃物Tにより加工されたワークWと同様に加工済みワークWとして取り扱われてもよい。また、上記した計測用運転は、加工後におけるワークWの寸法誤差の許容値が大きい加工を行っている際に行うようにしてもよい。この場合、ワークWの寸法誤差の許容値が大きい加工を行っている間に所定補正式を修正することが可能となり、その後、寸法誤差の許容値が小さいワークWを加工する際に対応可能となる。
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記した実施形態では、主軸軸心熱変位量Δθsを第2温度から推定しているが、この形態に限定されない。例えば、工作機械の運転開始から経過時間によって主軸軸心熱変位量Δθsを推定してもよい。主軸軸心熱変位量Δθsは、運転開始から所定値まで増加する。このような運転開始からの時間と主軸軸心熱変位量Δθsとの関係は、例えば、運転開始からの時間を変数とする主軸軸心熱変位量Δθsの関数データとして、記憶部25に記憶されてもよい。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、運転開始からの時間に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出してもよい。
上記したように、主軸軸心熱変位量Δθsの値が工作機械の運転開始からの時間との間で相関関係を有している場合は、運転開始からの時間を計測して、この時間に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出すればよいので、第2温度を計測する第2温度測定器74が不要となる。この形態により、本体部1の装置構成及び制御装置2の処理を簡略化することができる。
また、上述した実施形態では、1つのタレット50の異なるホルダに刃物T及び計測用刃物Tmが取り付けられた構成として説明したが、この形態に限定されない。例えば、刃物Tと計測用刃物Tmとが同一のホルダに取り付けられてもよい。また、上述した実施形態では、1つの主軸10を用いてこの主軸に10に計測用ワークWmを保持させる構成としているがこの形態に限定されない。例えば、主軸10とは別に、計測用ワークWmを保持させる主軸を備える工作機械であってもよい。また、工作機械100が平行2軸旋盤である場合、2つの主軸のうち、一方の主軸を用いて刃物TによりワークWの加工を行いつつ、他方の主軸を用いて計測用刃物Tmにより計測用ワークWmの加工を行ってもよい。この場合、計測用ワークWmの加工時に、ワークWの加工が中断されないので、ワークの加工効率の低下を抑制できる。