以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下に説明する形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。以下の各実施形態におけるXYZ座標系では、主軸の回転軸方向をZ方向とし、水平面に平行な平面をYZ平面とし、Z方向に直交する方向をY方向と表記する。YZ平面に垂直な方向はX方向とし、このX方向は、ワークに対する切削量を規定する方向である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の指す方向が+方向であり、反対の方向が-方向であるとして説明する。また、以下の各実施形態では、Y軸周りの方向をθY方向と表記し、Z軸周りの方向をθZ方向と表記する。また、θY方向、θZ方向については、+Y側及び+Z側から見た場合における時計回りの方向を+方向とし、反時計回りの方向を-方向とする。
実施形態に係る工作機械100について、図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係る工作機械100の一例を示す図である。また、図2は、本体部1の一例を示す斜視図である。図3は、本体部1を+Y側から見た場合の一例を示す図である。図4は、本体部1を+Z側から見た場合の一例を示す図である。図1から図4に示す工作機械100は、旋盤である。工作機械100は、本体部1と、制御装置2と、を備える。
図1から図4に示すように、本体部1は、ベッド3と、主軸台4と、刃物台5と、移動装置6と、計測装置7と、を有する。ベッド3は、例えば床面等に載置される固定基台である。ベッド3上には、主軸台4及び刃物台5を囲むカバーCが設けられる。主軸台4は、移動装置6を介してベッド3に支持される。主軸台4は、移動装置6によりX方向及びZ方向のそれぞれに移動可能である。主軸台4は、主軸10を有する。主軸10は、不図示の軸受等によってZ方向に平行な主軸軸心AX1の周りをθZ方向に回転可能に支持される。主軸10の+Z側の端部には、チャック駆動部11が設けられている。
チャック駆動部11は、ワークWを保持する複数の把持爪(チャック)11aを有する。複数の把持爪11aのそれぞれは、主軸10の径方向に移動可能である。チャック駆動部11は、複数の把持爪11aを主軸10の径方向に移動させてワークWを保持させる。ワークWを把持爪11aで保持した際、ワークWの回転中心は、主軸軸心AX1と一致する。把持爪11aは、主軸10の回転軸周りに等間隔に複数配置される。把持爪11aの個数や形状は、ワークWを保持可能な任意の構成が用いられる。
刃物台5は、ベッド3に固定される。刃物台5は、タレット50を備える。タレット50は、X方向に平行な軸心AX2の周りをθX方向に回転可能な状態で刃物台5に支持される。タレット50は、刃物Tを交換可能に保持する。刃物Tとしては、ワークWに対して切削加工を施すバイト等の他、ドリル又はエンドミル等の回転工具が用いられてもよい。刃物Tは、ホルダ51を介してタレット50に保持される。
ベッド3の下部には、冷却装置30が配置される。冷却装置30は、ワークWの加工部位にクーラントを吐出して冷却する。冷却装置30は、クーラント供給源31と、配管32とを有する。クーラント供給源31は、温度管理されたクーラントが貯留される。クーラント供給源31は、ポンプ等の駆動源31aにより、クーラントを配管32に流通させる。配管32は、ベッド3に沿って引き回され、刃物台5の-Z側の面から刃物台5の内部に挿入される。この配管32は、タレット50及びホルダ51を貫通して配置され、クーラントの流通方向の下流側端部がワークWの加工部位に向けられる。
移動装置6は、X方向ガイド61と、送り台62と、Z方向ガイド63と、を有する。2本のX方向ガイド61は、ベッド3上にX方向に沿って平行に配置される。X方向ガイド61は、送り台62をX方向に案内する。送り台62は、矩形の板状又は台状に形成され、X方向ガイド61上に配置される。本明細書において矩形は、正方形を含む長方形を意味する。
送り台62は、X方向駆動部64の駆動によりX方向に移動する。X方向駆動部64は、例えば、電気モータ等の回転駆動力を用いて、ボールネジ機構等により直線運動に変換する機構、ラック及びピニオンギアを用いた機構、あるいは油圧又は空圧シリンダ装置などが用いられる。2本のZ方向ガイド63は、送り台62上にZ方向に沿って平行に配置される。Z方向ガイド63は、主軸台4をZ方向に案内する。主軸台4は、Z方向駆動部65の駆動によりZ方向に移動する。Z方向駆動部65は、例えば、電気モータなど、X方向駆動部64と同様の構成が用いられる。
計測装置7は、基準フレーム70と、主軸側位置計測装置71と、刃物側位置計測装置72と、を有する。また、計測装置7は、温度測定器として、第1温度測定器73と、第2温度測定器74と、第3温度測定器79と、第4温度測定器75と、第5温度測定器76と、を有する。基準フレーム70は、支柱部77と、水平部78とを有する。基準フレーム70は、ベッド3よりも熱膨張係数の低い材料を用いて形成される。このような材料としては、例えばインバー材等の合金材料又はセラミックス等が挙げられる。支柱部77は、ベッド3からY方向に沿って起立した状態で配置される。支柱部77は、不図示の固定部材等によってベッド3に固定される。
水平部78は、基端側が支柱部77の上端に連結され、+Z方向に向かって直線状に延びるように配置される。水平部78は、支柱部77によって、いわゆる片持ち状に支持される。水平部78は、補強部78a(図2参照)によって支持される。水平部78は、タレット50の回転軸の軸心AX2の高さに配置される。水平部78は、+Z側の端部が刃物台5の+X側の位置に(すなわち、タレット50と反対側の位置に)配置される。水平部78の+Z側の端部には、後述する第2スケール72a及び第2読み取り装置72bを挿入するための貫通孔が形成される。貫通孔は、X方向に水平部78を貫通して設けられる。
主軸側位置計測装置71は、主軸軸心AX1のX方向への変位を検出する。主軸側位置計測装置71は、第1スケール71aと、第1読み取り装置71bと、を有する。第1スケール71aは、例えば、断面が円形状、楕円形状、又は多角形状の棒状の部材である。第1スケール71aは、支柱部77に連結され、X方向に沿って直線状に配置される。第1スケール71aは、支柱部77にいわゆる片持ち状に支持される。第1スケール71aは、Y方向の位置が送り台62の高さ位置に配置される。第1スケール71aは、-X方向の端部が送り台62の+Z側の位置に配置される。
第1スケール71aは、X方向に並んで形成された目盛りM1を有する。目盛りM1は、光学的又は磁気的に読み取り可能である。目盛りM1は、第1スケール71aに直接形成された構成であってもよいし、目盛りが形成された部材が第1スケール71aに取り付けられた構成であってもよい。本実施形態では、目盛りM1は、例えば磁性部分と非磁性部分とが第1スケール71aのX方向に交互に配置された構成である。目盛りM1は、主軸10がX方向に移動する範囲(主軸軸心AX1のX方向の移動範囲)を含む領域に形成される。第1スケール71aは、支柱部77に支持されている部分が第1基準位置P1となる。すなわち、主軸側位置計測装置71は、ベッド3における第1基準位置P1に対する主軸10の半径方向の主軸軸心AX1の位置を計測する。
第1読み取り装置71bは、送り台62の+Z側の端面62aに固定され、かつ主軸軸心AX1を通る主軸10の半径方向に垂直な平面上を読み取り基準とする。読み取り基準は、主軸軸心AX1を通り、YZ平面と平行な平面状である。第1読み取り装置71bは、例えば、磁性部分と非磁性部分とを検出する磁気ヘッドが用いられる。第1読み取り装置71bは、主軸台4及び送り台62に熱変形が生じた場合、主軸台4及び送り台62の変形に伴って変位する。従って、第1読み取り装置71bは、第1スケール71aに形成された目盛りM1(磁性部分及び非磁性部分)に対してX方向に変位する場合の変位を検出可能である。第1読み取り装置71bは、目盛りM1に対するX方向の変位を電気信号として制御装置2に送信する。
刃物側位置計測装置72は、タレット50の-X側(刃物T側あるいはワークW側)の端面50aについてのX方向の変位を計測する。刃物側位置計測装置72は、第2スケール72aと、第2読み取り装置72bと、を有する。第2スケール72aは、第1スケール71aと同様に、例えば、断面が円形状、楕円形状、又は多角形状の棒状の部材であり、X方向に沿って直線状に配置される。第2スケール72aは、中心軸がタレット50の回転の軸心AX2に一致して、刃物台5及びタレット50をX方向に貫通して配置されており、刃物台5及びタレット50と一体に設けられる。第2スケール72aは、タレット50の-X側の端面50aにいわゆる片持ち状に支持される。第2スケール72aは、刃物台5に熱変形が生じた場合、刃物台5の熱変形に伴って変位する。
第2スケール72aは、+X側の端部が水平部78をX方向に貫通し+X側に突出して配置される。第2スケール72aは、第1スケール71aと同様に、X方向に並んで配置された目盛りM2を有する。目盛りM2は、光学的又は磁気的に読み取り可能である。目盛りM2は、第2スケール72aのうち水平部78の内部に挿入される領域に配置される。第2スケール72aが貫通する水平部78の位置が第2基準位置P2となる。
第2スケール72aは、-X側の端面72cがタレット50の-X側の端面50aに一致して配置される。この端面72cは、X方向の位置がタレット50の端面50aに一致する。端面50aは、刃物台5の第3基準位置P3である。従って、第2スケール72aの端面72cは、第3基準位置P3に配置されている。すなわち、刃物側位置計測装置72は、ベッド3における第2基準位置P2に対して、第3基準位置P3の位置を計測する。なお、第1基準位置P1及び第2基準位置P2は、主軸半径方向に対して互いに熱変位量が等しい位置であり、互いに一致している。また、第1基準位置P1及び第2基準位置P2は、熱膨張係数の低いインバー材等にそれぞれ設定されているので、両者が相対的に移動することを防止できる。ただし、第1基準位置P1と第2基準位置P2とを別の基準フレーム等に配置させてもよい。
第2読み取り装置72bは、水平部78の第2基準位置P2に固定される。第2基準位置P2は、水平部78の内部のうちタレット50の軸心AX2に重なる位置である。第2読み取り装置72bは、例えば、磁性部分と非磁性部分とを検出する磁気ヘッドが用いられる。第2読み取り装置72bは、目盛りM2(磁性部分及び非磁性部分)がX方向に変位する場合の変位を検出可能である。第2読み取り装置72bは、目盛りM2がX方向に変位した場合、この変位を電気信号として制御装置2に送信する。このように、本実施形態の刃物側位置計測装置72では、第2読み取り装置72bが固定位置に配置され、第2スケール72aが変位する構成であるが、これに限定されない。例えば、第2スケール72aが水平部78に固定され、第2読み取り装置72bがタレット50の端面50aに配置される構成でもよい。
第1温度測定器73は、例えば、刃物台5の-Z側の端面に配置される。第1温度測定器73は、刃物台5又はその近傍の第1温度t1を測定する。第1温度測定器73は、配管32の温度を測定することにより、配管32を流れるクーラントの温度を測定する。切削加工時には刃物Tに向けてクーラントが吐出されるため、クーラントが流れる配管32の温度は切削加工時の刃物T及びその周囲の温度にほぼ等しい。従って、配管32内のクーラントの温度を測定することにより、切削時の刃物台5又はその近傍の第1温度t1を測定することができる。
第2温度測定器74は、主軸台4(又は主軸10)及び/又はその近傍の温度である第2温度を1つ以上測定する。第2温度測定器74は、主軸台4の第2温度t2を測定可能であれば、その取り付け位置は任意であり、例えば、主軸10近傍に取り付けられてもよいし、主軸台4又は主軸10の内部に配置されてもよい。また、第2温度測定器74は、配置されなくてもよい。本実施形態において、第2温度測定器74は、主軸台4の+X側の側面に取り付けられる。なお、第2温度測定器74によって検出される第2温度t2は、例えば、図1に示す主軸10の近傍の領域TEM1(破線で囲んだ領域)と同一又はほぼ同一の温度である。
第3温度測定器79は、カバーCの内側に設けられる。第3温度測定器79は、カバーCの内側の第3温度t3を測定する。本実施形態において、カバーCの内側の第3温度t3は、刃物台5及び主軸台4の周囲の外気温度に対応する。従って、第3温度測定器79は、第3温度t3を測定することにより、刃物台5及び主軸台4の周囲の外気温度に対応する温度を測定することができる。なお、第3温度測定器79は、カバーCの内側に限定されず、例えば、カバーCの外側に配置されてもよいし、カバーCの外側から離れて(本体部1から離れて)設けられてもよい。
第4温度測定器75は、送り台62の温度である第4温度t4を測定する。第4温度測定器75は、例えば、送り台62の表面に取り付けられ、送り台62の温度を測定することが可能である。なお、第4温度測定器75は、送り台62の内部に配置されてもよい。本実施形態において、第4温度測定器75は、送り台62の+X側かつ-Z側の角部において+Y側の面に取り付けられる。なお、第4温度測定器75によって検出される第4温度t4は、例えば、図1に示す送り台62の-X側の領域TEM2(破線で囲んだ領域)と同一又はほぼ同一の温度である。
第5温度測定器76は、ベッド3の+Y側の面であって、刃物台5の-Z側の領域に配置される。第5温度測定器76は、ベッド3のうち当該刃物台5の-Z側の領域の温度(第5温度)t5を測定する。なお、第5温度測定器76によって検出される第5温度t5は、例えば、図1に示す刃物台5の+Z側の端面の領域TEM3の温度と同一又はほぼ同一の温度である。また、第4温度測定器75及び第5温度測定器76の一方又は双方は、配置されなくてもよい。
制御装置2は、図1に示すように、例えば、コンピュータであり、数値制御機能及びプログラマブルコントローラなどを有する。制御装置2は、移動制御部21と、演算部22と、運転実行部23と、係数調整部24と、記憶部25と、入力部26と、表示部27と、を有する。移動制御部21は、移動装置6のX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御することにより、ワークWと刃物TとをX方向及びZ方向に相対的に移動させる。移動制御部21は、ワークWと刃物Tとの間のX方向の相対移動を制御する場合、主軸10の主軸軸心AX1と刃物Tの刃先TaとのX方向の距離Lを制御する。
この距離Lは、主軸台4のX方向の位置と、刃物台5に取り付けられるタレット50、ホルダ51及び刃物TのX方向の取り付け寸法とによって求められる。また、距離Lは、例えば、主軸10に保持したテストピースに刃物Tを突き当てて(もしくは実際に切削して)計測してもよい。また、制御装置2は、後述する各熱変位量に基づいてワークWの加工データ(例えば座標値等)を補正し、補正後の加工データに基づいて移動制御部21によりX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御する。
演算部22は、例えば、記憶部25に記憶されたプログラム及びデータに基づいて、各種の演算を行う。演算部22は、主軸側位置計測装置71で計測された主軸軸心AX1のX方向についての変位(位置)に基づいて、主軸台熱変位量ΔSを算出する。主軸台熱変位量ΔSは、熱によって生じた主軸台4の熱変位量である。また、演算部22は、刃物側位置計測装置72で計測された第3基準位置P3のX方向についての変位(位置)に基づいて、刃物台熱変位量ΔTを算出する。刃物台熱変位量ΔTは、熱によって生じた刃物台5の熱変位量である。
演算部22は、第1温度測定器73で測定された第1温度t1に基づいて、刃物熱変位量ΔHを推定する。刃物熱変位量ΔHは、第3基準位置P3から刃物Tの刃先Taまでの部分(ホルダ51及び刃物T)のX方向についての熱変位量である。第1温度t1と刃物熱変位量ΔHとの間には所定の相関関係がある。第1温度t1と刃物熱変位量ΔHとの相関関係は、実験やシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第1温度t1の値を変数とする刃物熱変位量ΔHの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第1温度t1の値に対応する刃物熱変位量ΔHを算出する。
また、演算部22は、第2温度測定器74が測定した主軸10の温度(第2温度)t2に基づいて、主軸軸心熱変位量Δθsを推定してもよい。主軸軸心熱変位量Δθsは、図4に示すように、読み取り基準に対する主軸軸心AX1の熱変位量である。例えば、主軸軸心熱変位量Δθsは、第1読み取り装置71b又は第1読み取り装置71bの近傍を中心とした主軸台4のZ軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。主軸軸心熱変位量Δθsは、例えば、主軸台4とZ方向ガイド63との間に形成される隙間の熱変位に起因した主軸軸心AX1の熱変位量を含む。
第2温度t2と主軸軸心熱変位量Δθsとの間には所定の相関関係がある。主軸軸心熱変位量Δθsは、第2温度t2と第4温度t4との温度差が増加するに従って、+(プラス)側の絶対値が増加する。なお、第2温度と第4温度t4との間に相関関係がある場合には、第2温度t2の値から第4温度t4の温度を算出し、算出結果に基づいて温度差を算出してもよい。このような第2温度t2と第4温度t4との温度差と、主軸軸心熱変位量Δθsとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、温度差の値を変数とする主軸軸心熱変位量Δθsの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第2温度t2の値に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出する。
なお、制御装置2は、移動制御部21及び演算部22がソフトウェアにより実現されてもよい。また、制御装置2は、移動制御部21と演算部22とで別の制御装置によって構成されてもよい。また、記憶部25は、例えば、制御装置2に内蔵されたハードディスク、あるいは持ち運び可能なCD-ROM、USBメモリなどが用いられてもよい。
また、演算部22は、第1温度測定器73が測定した配管32の温度(第1温度)t1から取付位置熱変位量Δθtを推定する。取付位置熱変位量Δθtは、図3に示すように、第2スケール72aの-X側の端面72c(あるいはタレット50の回転中心)に対するタレット50の刃物取付位置の熱変位量である。取付位置熱変位量Δθtは、端面72cを中心とした刃物台5のX軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。
第1温度t1と取付位置熱変位量Δθtとの間には所定の相関関係がある。取付位置熱変位量Δθtは、第1温度t1と第5温度t5との温度差が増加するに従って、-(マイナス)側の絶対値が増加する。このような第1温度t1と第5温度t5との温度差と取付位置熱変位量Δθtとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第1温度t1と第5温度t5との温度差の値を変数とする取付位置熱変位量Δθtの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第1温度t1と第5温度t5との温度差に対応する取付位置熱変位量Δθtを算出する。
また、演算部22は、第3温度測定器79が測定した第3温度t3から主軸軸心AX1と刃物Tの刃先(加工先端)刃先Taとの熱変位量である外気要因熱変位量ΔGを推定する。外気要因熱変位量ΔGは、第2スケール72aの-X側の端面72c(あるいはタレット50の回転中心)に対するタレット50の刃物取付位置の熱変位量のうち、外気温度に起因する熱変位量である。外気要因熱変位量ΔGは、端面72cを中心とした刃物台5のX軸周りの熱変位量のうち、X方向の成分を抽出した値である。
第3温度t3と外気要因熱変位量ΔGとの間には所定の相関関係がある。第3温度t3と外気要因熱変位量ΔGとの相関関係は、実験又はシミュレーションなどにより予め求められる。この相関関係は、例えば、第3温度t3の値を変数とする外気要因熱変位量ΔGの関数データとして、記憶部25に記憶される。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、第3温度t3に対応する外気要因熱変位量ΔGを算出する。また、第3温度測定器79は、配置されなくてもよい。この場合、後述する所定補正式では、第3温度t3に基づく外気要因熱変位量ΔGは除外される。
演算部22は、上述した主軸台熱変位量ΔS、刃物台熱変位量ΔT、刃物熱変位量ΔH、主軸軸心熱変位量Δθs、取付位置熱変位量Δθt、及び外気要因熱変位量ΔGを補正値に含めて主軸台4と刃物台5との相対移動量を演算することができる。この場合、補正値ΔXは、以下の所定補正式で表される。
ΔX=ΔS+ΔT+ΔH+Δθs+Δθt+ΔG
このうち、Δθs、Δθt、ΔGについては、
Δθs=K1・Δt2+K2・Δt4
Δθt=K3・Δt1+K4・Δt5
ΔG =K5・Δt3
で表される。なお、Δt1からΔt5のそれぞれは、所定期間における第1温度t1から第5温度t5の変化量である。また、K1からK5のそれぞれは、係数である。
運転実行部23は、上記の所定補正式を用いつつ、工作機械100に調整用連続運転を実行させる。調整用連続運転は、ワークWを切削せずに主軸10、主軸台4、及び刃物台5を駆動させる空加工を挟んで複数のワークWを断続的に加工する運転である。ワークWを切削しない空加工としては、例えば、把持爪(チャック)11aにワークWを把持させずに主軸10、主軸台4、及び刃物台5を駆動させる形態と、把持爪11aにワークWを把持させて主軸10、主軸台4、及び刃物台5を駆動させつつ刃物TによりワークWを切削しない(切削による切り屑を出さない)形態と、がある。この形態のうち、把持爪11aにワークWを把持させつつ刃物TによりワークWを切削しない形態では、運転実行部23は、例えば、刃物TがワークWに接触しないように、主軸台4及び刃物台5の移動量に対してオフセットを設定した状態で主軸台4及び刃物台5の駆動を制御する。運転実行部23は、刃物Tの加工先端である刃先Taが摩耗しない、又はほぼ摩耗しない範囲で、加工するワークWの数を設定する。
図5は、調整用連続運転の運転サイクルの一例を示すグラフである。図5の横軸は工作機械100の電源投入時からの経過時間を示し、縦軸は加工後のワークWの径を示している。なお、図5の縦軸は、設計値に対する加工後のワークWの寸法を示している。図5に示す例において、運転実行部23は、加工するワークWの数を、例えば13個として設定している。運転実行部23は、まず、工作機械100の電源がオフの状態から電源が投入されてオンに切り替わると、1個目のワークWの加工を行うように制御する。1個目のワークWの加工を行った後、運転実行部23は、電源投入時から15分が経過するまで、すなわち、次のワークWの加工開始までの間、空加工を行うように制御する。空加工は、ワークWを切削せずに主軸10を回転させつつ、主軸台4をX方向に移動させ、かつ、刃物台5をZ方向に移動させる。空加工の形態としては、上記のように、把持爪11aにワークWを把持させずに主軸10の回転等を行う。すなわち、この空加工は、ワークWを加工するときの動作を、ワークWなしで行う動作である。また、空加工の他の形態としては、把持爪11aにワークWを把持させ、主軸10の回転等を行うが、刃物TによるワークWの切削を行わない。なお、空加工において、いずれの形態を行うかは任意である。
次に、運転実行部23は、電源投入時から15分経過後に2個目のワークWの加工を行うように制御し、電源投入時から30分経過後に3個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、2個目及び3個目のワークWの加工は、それぞれ15分間隔で行う。また、運転実行部23は、2個目のワークWの加工後から3個目のワークWの加工開始までの間と、3個目のワークWの加工後から4個目のワークWの加工開始までの間とのそれぞれにおいて、空加工を行うように制御する。
次に、運転実行部23は、電源投入時から1時間経過後に4個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、4個目のワークWの加工は、3個目のワークWの加工に対して30分間隔で行う。4個目のワークWの加工を行った後、運転実行部23は、次のワークWの加工開始までの間、空加工を行うように制御する。
そして、運転実行部23は、電源投入時から2時間経過後に5個目のワークWの加工を行うように制御し、電源投入時から3時間経過後に6個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、5個目及び6個目のワークWの加工は、それぞれ1時間間隔で行う。また、運転実行部23は、5個目のワークWの加工後から6個目のワークWの加工開始までの間、空加工を行うように制御する。電源投入時から1時間の間で4個のワークWを加工するのは、電源投入時から1時間の間で熱変位が大きく、熱変位の履歴を細かく取得するためである。
6個目のワークWの加工を行った後、運転実行部23は、工作機械100の電源を投入した状態で、動作を停止させる。この場合、加工プログラムが停止され、空加工も実行されない。このような停止期間を設けることにより、工場等の休憩時間又は工具交換などで工作機械100の動作を停止した場合(加工プログラムを停止した場合)、その後の熱変位のデータを取得することができ、所定補正式の汎用性を向上させることができる。工作機械100の動作が停止してから1時間経過後、運転実行部23は、工作機械100の運転を再開させると同時に、7個目のワークWの加工を行うように制御する。なお、停止時間は1時間に限定されず、例えば、15分又は30分などにんいに設定可能である。また、停止回数は1回に限定されず、2回以上であってもよい。7個目のワークWの加工を行った後、運転実行部23は、次のワークWの加工開始までの間、空加工を行うように制御する。
次に、運転実行部23は、運転再開から15分経過後に8個目のワークWの加工を行うように制御し、運転再開から30分経過後に9個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、8個目及び9個目のワークWの加工は、それぞれ15分間隔で行う。また、運転実行部23は、8個目のワークWの加工後から9個目のワークWの加工開始までの間と、9個目のワークWの加工後から10個目のワークWの加工開始までの間とのそれぞれにおいて、空加工を行うように制御する。
次に、運転実行部23は、運転再開から1時間経過後に10個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、10個目のワークWの加工は、9個目のワークWの加工に対して30分間隔で行う。10個目のワークWの加工を行った後、運転実行部23は、次のワークWの加工開始までの間、空加工を行うように制御する。運転再開時から1時間の間で4個のワークWを加工するのは、電源投入時と同様に、運転再開時から1時間の間で熱変位が大きく、熱変位の履歴を細かく取得するためである。
そして、運転実行部23は、運転再開から2時間経過後に11個目のワークWの加工を行うように制御し、電源投入時から3時間経過後に12個目のワークWの加工を行うように制御し、する。電源投入時から4時間経過後に13個目のワークWの加工を行うように制御する。つまり、11個目、12個目及び13個目のワークWの加工は、それぞれ1時間間隔で行う。また、運転実行部23は、11個目のワークWの加工後から12個目のワークWの加工開始までの間と、12個目のワークWの加工後から13個目のワークWの加工開始までの間とのそれぞれにおいて、空加工を行うように制御する。運転実行部23は、13個目のワークWを加工した後、工作機械100の運転を停止させる。
このように、運転実行部23は、例えば電源投入又は運転再開により工作機械100が動作を開始する場合など、工作機械100における熱変位が大きいと予測される場合には、ワークWの加工間隔を短くする。その後、工作機械100における熱変位が小さくなると予測される場合には、ワークWの加工間隔を長くする。運転実行部23は、13個目のワークWの加工を行った後、工作機械100の動作を停止させる。
図5に示すように、1個目のワークWは、設計値(所望値)からのズレ量が0であるが、時間経過とともにズレが大きくなっていることが示されている。また、工作機械100の動作停止を挟むと、一旦ズレ量が小さくなるが、運転再開から時間経過とともにズレが大きくなっていることが示されている。なお、13個目のワークWのズレは、12個目のワークWのズレより小さいが、設計値(所望値)からのズレ量が大きいことに変わりない。なお、調整用連続運転において、ワークWを加工するタイミングで、第1温度t1から第5温度t5が計測されている。
係数調整部24は、調整用連続運転時における加工後のワークWの寸法と、設計値とのズレである変位量、及びワークWを加工したタイミングの第1温度t1から第5温度t5に基づいて、この変位量を減少させるように所定補正式の所定熱変位量の推定に用いた係数を調整する。本実施形態において、係数調整部24は、主軸軸心熱変位量Δθsの推定に用いる係数K1及びK2と、取付位置熱変位量Δθtの推定に用いる係数K3及びK4と、外気要因熱変位量の推定に用いる係数K5のそれぞれを調整する。係数K1からK5の調整は、例えば、係数K1からK5にそれぞれ予め用意した値を代入して、変位量が最も小さくなる係数K1からK5の組み合わせを選択することにより行う。
図6は、係数調整部24による係数の調整前後の所定熱変位量を示すグラフである。図6の横軸は工作機械100の電源投入時からの経過時間を示している。図6の縦軸は、加工後のワークWの径の変位量を示している。図6の縦軸の0は、設計値からのズレがない(熱変位がない)値であり、0より上側がワークWの径の増加側のズレ、下側がワークWの径の減少側のズレを示している。図6に示すように、係数調整前の補正値(所定補正式)によりワークWを加工した場合に比べて、係数調整後の補正値(係数調整後の所定補正式)によりワークWを加工した場合の方が、運転開始から8時間を経過する間において、加工後のワークWにおける設計値からのズレが小さくなっていることが確認される。
入力部26は、調整用連続運転時における加工後のワークWの寸法を入力可能である。入力部26としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力インターフェースを用いることができる。入力部26による入力結果は、制御装置2の係数調整部24に送られる。入力部26によりワークWの寸法が入力された場合、係数調整部24は、入力部26に入力されたワークWの各寸法に基づいて、先に設定されている上記の所定補正式における係数K1からK5をそれぞれ調整する。
表示部27は、制御装置2から出力される所定の情報を表示可能である。表示部27としては、例えば液晶パネル、有機エレクトロルミネセンスパネル等のディスプレイ装置が用いられる。例えば、入力部26からの入力結果を係数調整部24が表示部27に出力することにより、表示部27は、入力部26における入力結果を表示可能である。
図7は、表示部27に表示される表示画面の一例を示す図である。図7に示す例において、表示部27の表示画面Gには、調整用連続運転時に加工対象となる13個のワークWのそれぞれについてのワーク径を入力するための入力欄Rが表示されている。入力欄Rには、ワークWの加工順に応じて連続番号1から13のワーク番号が付与されている。作業者は、入力欄Rの各ワークWの寸法を、入力部26を操作して入力する。このように、作業者は、入力欄Rに入力部26を用いてワークWの寸法を入力するといった簡単な作業により、係数K1からK5の調整を実行させることができる。
なお、制御装置2は、移動制御部21、演算部22、運転実行部23、及び係数調整部24がソフトウェアにより実現されてもよい。また、制御装置2は、移動制御部21、演算部22、運転実行部23、及び係数調整部24の少なくとも1つが別の制御装置によって構成されてもよい。また、記憶部25は、例えば、制御装置2に内蔵されたハードディスク、あるいは持ち運び可能なCD-ROM、USBメモリなどが用いられてもよい。
次に、以上のように構成された工作機械100の動作について説明する。まず、加工対象であるワークWを把持爪11aによって主軸10に保持させる。ワークWを主軸10に保持させた後、制御装置2は、主軸10を主軸軸心AX1の軸周り方向(θZ方向)に回転させることにより、ワークWを主軸軸心AX1の軸周り方向に回転させる。
続いて、制御装置2は、移動制御部21によってX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を制御し、ワークWと刃物Tとを相対的に移動させることにより刃物Tの刃先TaでワークWを切削加工する。なお、ワークWと刃物Tとの相対的な移動量及び速度などに関する加工データは、例えば上位の制御装置からの送信あるいは作業者による入力によって記憶部25等に保管されている。加工データは、例えば、刃物Tの刃先Taが移動すべき軌跡の座標データなどである。移動制御部21は、記憶部25等の加工データに基づいてX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を駆動させる。
ワークWの切削を行う場合、環境温度の変化、ワークWの切削時に生じる切削熱、及び運転に伴う各部位の発熱などにより、主軸台4、刃物台5、主軸10、タレット50、刃物T、ホルダ51、ベッド3等が熱変形し、主軸軸心AX1と刃物Tの刃先Taとの間のX方向の距離が変動する。この距離の変動により、初期に設定された基準位置又は基準距離(例えば、主軸軸心AX1と刃先Taとの間のX方向の距離Lなど)が変化し、ワークWに対する刃物Tの刃先Taの位置が想定値(加工データに基づく設定値)からずれてしまう。このため、本実施形態では、演算部22において、熱変位量を算出又は推定し、主軸10と刃物Tとの相対移動量である補正値ΔXを演算して加工データを補正する。
図8は、距離Lの補正値を算出する処理の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、演算部22は、主軸側位置計測装置71で計測された主軸軸心AX1のX方向についての変位(位置)に基づいて、主軸台熱変位量ΔSを算出する(ステップS01)。また、演算部22は、刃物側位置計測装置72で計測された第3基準位置P3のX方向についての変位(位置)に基づいて、刃物台熱変位量ΔTを算出する(ステップS02)。また、演算部22は、第1温度測定器73で測定された配管32の温度(第1温度)に基づいて、刃物熱変位量ΔHを推定する(ステップS03)。
演算部22は、第2温度測定器74が測定した主軸台4の温度(第2温度)に基づいて、上記したように、主軸軸心熱変位量Δθsを推定する(ステップS04)。また、演算部22は、第1温度測定器73が測定した配管32の温度(第1温度)から取付位置熱変位量Δθtを推定する(ステップS05)。また、演算部22は、第3温度測定器79が測定したカバーCの内側の温度(第3温度)に基づいて、上記したように、外気要因熱変位量ΔGを推定する(ステップS06)。
演算部22は、算出又は推定した主軸台熱変位量ΔS、刃物台熱変位量ΔT、刃物熱変位量ΔH、主軸軸心熱変位量Δθs、取付位置熱変位量Δθt及び外気要因熱変位量ΔGに基づいて、主軸10の主軸軸心AX1と、刃物Tの刃先Taとの相対移動量である補正値ΔX(ΔX=ΔS+ΔT+ΔH+Δθs+Δθt+ΔG)を演算する(ステップS07)。
移動制御部21は、演算部22で算出された相対移動量(補正値ΔX)に基づいて加工データを補正し、この補正した加工データに基づいてX方向駆動部64及びZ方向駆動部65を駆動させ、ワークWを切削加工する(ステップS08)。ステップS08において、補正した加工データに基づいてワークWを切削加工するので、X方向(ワークWの切込み量)及びZ方向(刃先Taの送り量)について、工作機械100(本体部1)の熱変形の影響が排除されてワークWが加工され、ワークWを所望の寸法に正確に切削加工を行うことができる。
ワークWの切削加工が終了した場合、把持爪11aによる保持を解除し、ワークWを主軸10から取り出す。なお、主軸10に対するワークWの搬入又は搬出は、不図示のワーク搬送装置によって行ってもよい。なお、ワーク搬送装置によりワークWの搬入から搬出までの一連の動作は、例えば、制御装置2からの指示によって行われてもよく、また、作業者のマニュアル操作によって行われてもよい。ワーク搬送装置によりワークWの搬入から搬出までの一連の動作が制御装置2で行うことにより、ワークWの加工を自動で行うことができる。
また、運転実行部23は、調整用連続運転を実行する(ステップS09)。ステップS09において、運転実行部23は、予め定められたスケジュールにおいて調整用連続運転を実行させてもよいし、作業者等からの実行指示により調整用連続運転を実行させてもよい。例えば、運転実行部23は、工場等の稼働を停止する休日又は祝日等に調整用連続運転を実行させてもよいし、加工するワークWが変わったタイミング、又は刃物Tを交換したタイミングで実行させてもよい。
図9は、調整用連続運転の一例を示すフローチャートである。図9に示すように、運転実行部23は、調整用連続運転を実行するか否かの判定を行う(ステップS11)。ステップS11において、運転実行部23は、例えば、加工プラグラム中に調整用連続運転を行うためのフラグの有無を判断し、フラグがある場合には調整用連続運転を実行するよう制御する(ステップS11のYES)。なお、運転実行部23は、例えば、上記したフラグが無い場合、調整用連続運転を実行しないと判定し(ステップS11のNO)、ステップS11の処理を繰り返し行う。なお、上記したフラグとしては、例えば、タイマー等により工作機械100を稼働させてから所定期間が経過した場合、又は作業者等により入力部26から調整用連続運転を行う旨の入力があった場合等が挙げられる。
調整用運転を実行する場合(ステップS11のYES)、運転実行部23は、1個のワークWの加工を開始する(ステップS12)。ステップS12において、運転実行部23は、予め設定されている所定補正式により算出された補正値ΔXを用いて主軸台4及び刃物台5の動作を制御する。1個のワークの加工を行った後、運転実行部23は、空加工を実行する(ステップS13)。ステップS13において、運転実行部23は、把持爪11aにワークWを把持させずに、又は把持爪11aに把持されたワークWを刃物Tで切削しないように主軸10、主軸台4、及び刃物台5を駆動する。運転実行部23は、空加工を実行してから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS04)。所定時間が経過していない場合(ステップS14のNO)、運転実行部23は、空加工を継続させる。
所定時間が経過した場合(ステップS14のYES)、運転実行部23は、加工済みのワークWが所定数に到達したか否かを判定する(ステップS15)。運転実行部23は、加工済みのワークWが所定数に到達していないと判定した場合(ステップS15のNO)、上記したステップS12に戻り、1個のワークWを加工させ、加工済みのワークWが所定数に到達するまで、上記のステップS12からS14の動作を繰り返し行うように制御する。運転実行部23は、加工済みのワークWが所定数に到達したと判定した場合(ステップS15のYES)、加工後のワークWの寸法を入力して(ステップS16)、調整用連続運転を終了する。ステップS16において、加工後のワークWの寸法の入力は、例えば、作業者が入力部26を用いて入力してもよいし、ワークWの寸法を計測する計測装置から自動で送られて入力される形態のいずれであってもよい。
ステップS09の調整用連続運転を実行した後、図8に示すように、係数調整部24は、調整用連続運転時における加工後のワークWの寸法と、設計値との変位量に基づいて、この変位量を減少させるように、所定熱変位量の推定に用いた所定補正式の係数K1からK5を調整する(ステップS10)。係数K1~K5が調整された後、制御装置2は、係数調整後の所定補正式により算出される補正値を用いて、新たな切削加工を行うように制御してもよい。
このように、実施形態に係る工作機械100は、上記した調整用連続運転を実行し、調整用連続運転時における加工後のワークWの寸法と、設計値との変位量に基づいて、この変位量を減少させるように、所定補正式の所定熱変位量の推定に用いた係数K1からK5を調整するため、主軸軸心AX1と刃先Taとの距離Lについて、熱変形による変位に応じた補正値を工作機械100に合わせて調整することができ、ワークWを高精度に加工することができる。
上記した本実施形態を4台の工作機械100A、100B、100C、100Dに適用した場合の具体例について説明する。工作機械100Aから100Dは、それぞれ上記した工作機械100と同様の構成を有している。また、工作機械100Aから100Dには、予め用意された所定補正式(以下、この所定補正式を基準補正式と称す)が与えられている。この基準補正式は、工作機械100Aから100Dと異なる別の工作機械を用いて算出されている。この別の工作機械についても、上記した工作機械100と同様の構成を有している。
図10(A)は、工作機械100Aについて係数K1からK5の調整前後の熱変位量を示すグラフであり、図10(B)は工作機械100Bについて係数K1からK5の調整前後の所定熱変位量を示すグラフである。図11(A)は工作機械100Cについて係数K1からK5の調整前後の所定熱変位量を示すグラフであり、図11(B)は、工作機械100Dについて係数K1からK5の調整前後の所定熱変位量を示すグラフである。図10及び図11において、横軸は工作機械100Aから100Dの電源投入時からの経過時間を示しており、縦軸は設計値に対するワークWの径の変位量(ズレ)を示している。図10及び図11の縦軸の0は、設計値からのズレがない(熱変位がない)値を示し、0より上側がワークWの径の増加側のズレ、下側がワークWの径の減少側のズレを示している。
図10(A)及び(B)、図11(A)及び(B)において、点線は、係数調整前の基準補正式により算出された補正値を用いたときの変位量であり、実線は、係数調整後の基準補正式により算出された補正値を用いたときの変位量である。図10(A)から図11(B)の点線に示すように、工作機械100Aから100Dに対して基準補正式により算出された補正値を適用した場合、時間の経過とともに異なる変位を示し、それぞれの変位の範囲が大きい。すなわち、各工作機械100A等に共通の基準補正式を適用した場合には、設計値に対して大きい範囲(例えば±15μmの範囲など)の加工誤差によりワークWの生産(加工)を行うことを可能にしているが、より加工誤差が小さい(設計値に近い)高精度な生産を実現できない。
本実施形態によれば、各工作機械100Aから100Dについて、係数K1からK5を調整した補正式(所定補正式)により算出された補正値を用いるので、図10(A)から図11(B)の実線に示すように、変位の範囲が小さくなっている。すなわち、設計値に対して小さい範囲(例えば±5μmの範囲など)の加工誤差によりワークWの加工(生産)を行うことが可能となり、加工誤差が小さい(設計値に近い)高精度な加工を実現することができる。従って、各工作機械100Aから100Dは、それぞれ係数K1からK5が調整されることにより、ワークWを高精度に加工できるようにチューニングされたといえる。
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記した実施形態では、主軸軸心熱変位量Δθsを第2温度から推定しているが、この形態に限定されない。例えば、工作機械の運転開始から経過時間によって主軸軸心熱変位量Δθsを推定してもよい。主軸軸心熱変位量Δθsは、運転開始から所定値まで増加する。このような運転開始からの時間と主軸軸心熱変位量Δθsとの関係は、例えば、運転開始からの時間を変数とする主軸軸心熱変位量Δθsの関数データとして、記憶部25に記憶されてもよい。この場合、演算部22は、記憶部25に記憶される関数データを用いて、運転開始からの時間に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出してもよい。
上記したように、主軸軸心熱変位量Δθsの値が工作機械の運転開始からの時間との間で相関関係を有している場合は、運転開始からの時間を計測して、この時間に対応する主軸軸心熱変位量Δθsを算出すればよいので、第2温度を計測する第2温度測定器74が不要となる。この構成により、本体部1の装置構成及び制御装置2の処理を簡略化することができる。