JP7151471B2 - 金属材、セパレータ、燃料電池セル、および燃料電池スタック - Google Patents

金属材、セパレータ、燃料電池セル、および燃料電池スタック Download PDF

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Description

本発明は、金属材、この金属材を備えるセパレータ、このセパレータを備える燃料電池セル、およびこの燃料電池セルを複数個備える燃料電池スタックに関する。
導電性を有する材料として、金属材は、様々な用途に使用されている。そのような用途の1つとして、たとえば、燃料電池のセパレータを挙げることができる。燃料電池は、水素と酸素との結合反応の際に発生するエネルギーを利用して発電する。燃料電池には、固体電解質形、溶融炭酸塩形、リン酸形、および固体高分子形などの種類がある。
セパレータ、たとえば、固体高分子形燃料電池のセパレータに求められる主な機能は、次の通りである。
(1)燃料ガス、または酸化性ガスを、電極膜(アノードおよびカソード)に均一に供給する「流路」としての機能
(2)カソード側で生成した水を、空気、酸素といったキャリアガスとともに、燃料電池から効率的に系外に排出する「流路」としての機能
(3)電極膜と接触して電気の通り道となり、さらに、隣接する2つの単セル間の電気的「コネクタ」となる機能
(4)隣り合うセル間で、一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との「隔壁」としての機能
(5)冷却水の流通路を持つセパレータを備える水冷型燃料電池では、冷却水流路と隣接するセルとの「隔壁」としての機能
固体高分子形燃料電池に用いられるセパレータの材料は、このような機能を果たすことができるものである必要がある。セパレータには、黒鉛基板、または樹脂で固めた炭素粉末を用いた炭素系材料が用いられることがある。しかし、近年では、セパレータに金属系材料が用いられることが多い。これは、金属系材料が金属特有の性質として加工性に優れるという利点を有しているためである。すなわち、平板状の金属材を、上述の流路を有する所望のセパレータ形状に加工することは容易である。また、金属系材料を用いることにより、セパレータの厚みを薄くすることができ、セパレータの軽量化が図れる。金属系材料としては、チタン、ステンレス、炭素鋼などが用いられる。これらの金属系材料からなるセパレータは、プレス加工により成形される。
燃料電池用セパレータには高い導電性が求められる。セパレータの導電性が低いと、燃料電池の発電効率が低くなる。チタンは高い導電性を有するが、その表面には、導電性の低いチタン酸化物(TiO2)が形成される。これにより、そのチタン材の接触抵抗は高くなる。他の金属でも、表面に酸化物が形成されることにより、接触抵抗は高くなる。
そこで、表面に酸化物が形成された金属材の接触抵抗を低減する方法が提案されている。特許文献1および2では、金属材の表面に貴金属が設けられる。この貴金属により、高い導電性が維持される。特許文献3では、表面のチタン酸化物に、5価の金属を導入することにより、導電性が高いチタン酸化物が形成される。非特許文献1および2には、チタン酸化物に5価の金属を導入する方法として、物理蒸着(PVD;Physical Vapor Deposition)、塗布などの方法が開示されている。特許文献3および4では、表面のチタン酸化物に、導電性が高い酸素欠損型酸化物が形成される。
特許文献5では、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、炭素層が設けられる。基材と炭素層との間には、炭化チタンを含有する中間層が形成される。この方法では、炭素層により接触抵抗が低減される。中間層は、基材と炭素層との密着性を向上させるために形成される。
特開2003-105523号公報 特開2006-190643号公報 特開2015-224368号公報 国際公開第2017/169712号 特開2014-22250号公報
Meagen A. Gillispie、外4名、"rf magnetron sputter deposition of transparent conducting Nb-doped TiO2 films on SrTiO3"、Journal of Applied Physics 101 (2007) 33125 Jinming Liu、外9名、"Influence of annealing process on conductive properties of Nb-doped TiO2 polycrystalline films prepared by sol-gel method"、Applied Surface Science 257 (2011) 10156 鈴木順、外3名、「貴金属元素含有チタン合金の酸洗後熱処理による接触抵抗の低減」、チタン、平成18年、vol. 54, no. 4, p.258-262
ところで、燃料電池用セパレータにおいて、酸化性ガスを流す流路では、酸素と水素との反応によって水が発生する。流路の排水性が低い場合は、発生した水は流路内にとどまる。その結果、酸化性ガスの流れが妨げられる。すなわち、流路内を流れる酸化性ガスの流量が低減する。これにより、酸素と水素との反応量が少なくなり、燃料電池の発電量が低下する。
特許文献1~5では、セパレータ材料の接触抵抗を低減することが目的とされており、流路の排水性には着目されていなかった。たとえば、特許文献5のセパレータでは、表面の全面がグラファイトなどの炭素層からなる。しかし、このような炭素層は、水に対する濡れ性が低く、排水性が低かった。
そこで、本発明の目的は、接触抵抗を低く維持できるとともに、燃料電池のセパレータとして用いたときに排水性を高く維持できる金属材を提供することである。本発明の他の目的は、接触抵抗を低く維持できるとともに、排水性を高く維持できるセパレータを提供することである。本発明のさらに他の目的は、発電量を高く維持できる燃料電池セルおよび燃料電池スタックを提供することである。
本発明の実施形態の金属材は、金属製の基材と、前記基材の上に設けられたチタン酸化物層とを備え、
前記チタン酸化物層は、TiOx(1≦x<2)、MOy(M:Nb、TaおよびVの1種以上;1≦y≦2.5)を含み、
前記チタン酸化物層のTiおよびMの含有量は、下記式(1)を満たし、
前記チタン酸化物層のC含有量は、1~50質量%であり、
前記チタン酸化物層は、表面から深さ方向10nmまでの表層領域に、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を有し、
前記表層領域において、前記チタン炭化物を構成するCの含有量、前記チタン窒化物を構成するNの含有量、ならびに前記TiOxおよび前記MOyを構成するOの含有量は、下記式(2)を満たし、
前記チタン酸化物層の厚みは、10~1000nmである。
0.005≦[M]/([Ti]+[M])≦0.10 (1)
ここで、
[Ti]:チタン酸化物層のTi含有量(at%)
[M]:チタン酸化物層のM含有量(at%)
0.05≦([C]+[N])/[O]≦1.0 (2)
ここで、
[C]:前記表層領域の、チタン炭化物を構成するCの含有量(at%)
[N]:前記表層領域の、チタン窒化物を構成するNの含有量(at%)
[O]:前記表層領域の、チタン酸化物およびMOyを構成するOの含有量(at%)。
本発明の実施形態の、燃料電池用のセパレータは、上記金属材を備える。
本発明の実施形態の燃料電池セルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の燃料電池スタックは、上記燃料電池セルを複数個備える。
本発明の金属材は、接触抵抗を低く維持できるとともに、セパレータとして用いたときに排水性を高く維持できる。本発明のセパレータは、接触抵抗を低く維持できるとともに、排水性を高く維持できる。本発明の燃料電池セルおよび燃料電池スタックは、発電量を高く維持できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る金属材の断面図である。 図2Aは、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池全体の斜視図である。 図2Bは、本発明の一実施形態に係る燃料電池セル(単セル)の分解斜視図である。 図3は、一実施例の金属材についての、表面からの深さと各元素の濃度と関係を示す図である。 図4は、金属材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。
本発明者らは、金属材およびセパレータの接触抵抗を低く維持するために、金属材およびセパレータの最表層を、導電性を有するチタン酸化物層で構成することを検討した。そして、本発明者らは、このような構成に基づき、金属材およびセパレータの排水性を高くするために、金属材およびセパレータに対する水の濡れ性(親和性)を高くすることを検討した。
以下の説明で、特に断りがない限り、化学組成についての「%」は「質量%」を意味する。
〈本発明の金属材〉
図1は、本発明の一実施形態に係る金属材の断面図である。金属材11は、基材12と、基材12上に設けられたチタン酸化物層13とを備える。
〈基材〉
基材は金属製である。したがって、基材は、導電性を有する。基材の電気抵抗率は、2×10-4Ω・cm(20℃)以下であることが好ましく、1×10-4Ω・cm(20℃)以下であることがより好ましい。
基材を構成する金属元素の種類は、特に制限されない。基材は、実質的に1種類の金属元素のみを含有してもよい。たとえば、基材は、不純物を除き、Ti、Pt、またはAlからなるものであってもよい。また、基材は、複数種類の金属元素を含有してもよい。たとえば、基材は、チタン合金、ステンレス鋼、またはアルミニウム合金などの合金(不純物を含む。)からなるものであってもよい。
純チタン、およびチタン合金は、耐食性に優れ、軽量であるという利点を有する。このため、腐食耐性が高く軽量であることが要求される用途、たとえば、燃料電池のセパレータの用途では、基材は、純チタンまたはチタン合金からなることが好ましい。ここで、「純チタン」とは、98.8%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。純チタンとして、たとえば、JIS1種~JIS4種の純チタンを用いることができる。「チタン合金」とは、70%以上のTiを含有し、残部が合金元素と不純物元素とからなる金属材を意味する。チタン合金として、たとえば、JIS11種、13種、17種、または60種のチタン合金を用いることができる。
基材としてのチタン合金は、6%以下のM(Nb、Ta、およびVの1種以上)を含有することが好ましい。基材は、Mを含有しなくてもよい。Mを含有することにより、チタン合金の耐食性、導電性、および機械的強度は高くなる。このような効果を十分に得るためには、チタン合金のM含有量は、0.1%以上であることが好ましい。一方、Mの含有量が6%を超えると、導電性および曲げ加工性が低下する。Mを0.1~6%含有するチタン合金は、耐食性、導電性、曲げ加工性、および機械的強度のいずれについても、純チタンを上回る。これらの効果をより十分に得るためには、Mの含有量は、0.5~6%であることがより好ましい。
〈チタン酸化物層〉
チタン酸化物層は、下記要件(i)~(vi)を満たす。
(i) TiOx(1≦x<2)およびMOy(M:Nb、TaおよびVの1種以上;1≦y≦2.5)を含む。
(ii) TiおよびMの含有量は、下記式(1)を満たす。
0.005≦[M]/([Ti]+[M])≦0.10 (1)
ここで、
[Ti]:チタン酸化物層のTi含有量(at%)
[M]:チタン酸化物層のM含有量(at%)
(iii) C(炭素)を、1~50%含有する。
(iv) 表面から深さ方向10nmまでの表層領域において、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を有する。
(v) 表層領域において、チタン炭化物を構成するCの含有量、チタン窒化物を構成するNの含有量、ならびにTiOxおよびMOyを構成するOの含有量が、下記式(2)を満たす。
0.05≦([C]+[N])/[O]≦1.0 (2)
ここで、
[C]:表層領域の、チタン炭化物を構成するCの含有量(at%)
[N]:表層領域の、チタン窒化物を構成するNの含有量(at%)
[O]:表層領域の、チタン酸化物およびMOyを構成するOの含有量(at%)
(vi) 厚みが10~1000nmである。
以下、要件(i)~(vi)の各々について、詳細に説明する。
〈要件(i):チタン酸化物層は、TiOx(1≦x<2)とMOy(1≦y≦2.5)とを含む〉
TiOxとの化学式で表されるチタン酸化物は、TiO、Ti23、およびTi47などの低次酸化物、ならびにTiO2の結晶構造を有し酸素(O)の一部が欠損したものを含み得る。チタン酸化物層には、これらのチタン酸化物の1種以上が存在する。xは、チタン酸化物の平均化学組成としての、Tiに対するOの原子比である。
MOyとの化学式で表される酸化物(以下、「M酸化物」という。)は、最も安定な酸化物であるM25(Nb25、Ta25、V25)のみならず、低次酸化物のMO2(NbO2、TaO2、VO2)、MO(NbO、TaO、VO)などを含み得る。チタン酸化物層には、これらのM酸化物の1種以上が存在する。yは、M酸化物の平均化学組成としての、Mに対するOの原子比である。
要件(i)を満たすチタン酸化物層は導電性が高い。その理由は、下記の通りであると推定される。
(1) TiOxにおける酸素の欠損、および、yが2.5未満である場合には、MOyにおける酸素の欠損により、電子キャリアが増える。
(2) MOyの存在により、TiOxにおける酸素欠損量が安定し、たとえば、TiOxがTiO2まで酸化されることが抑制される。
チタン酸化物層は、TiとMとの複合酸化物、たとえば、Ti1-zMzO2(0<z≦0.2)をさらに含んでもよい。このような複合酸化物の導電性は高い。
TiOx(1≦x<2)、およびMOy(1≦y≦2.5)が存在しているか否かは、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法)で確認できる。XPSスペクトルで、TiとOとの結合エネルギーに関して、Ti3+およびTi2+の少なくとも一方のピークが存在していれば、1≦x<2であると判断することができる。この場合、Ti4+のピークが存在していてもよい。また、MとOとの結合エネルギーに関して、Nb5+のピークのみが存在していれば、y=2.5であると判断することができる。M4+およびM2+の少なくとも一方のピークが存在していれば、1≦y<2.5であると判断することができる。この場合、M5+のピークが存在していてもよい。
XPSスペクトルでTi3+、Ti2+、M4+およびM2+のいずれかのピークが存在するか否かは、たとえば、当該ピークの波形を微分し、ピークが存在すると予想される位置近傍における微分値の変化に基づいて判断することができる。具体的には、以下の通りである。XPSスペクトルの波形は、結合エネルギーEと放出光電子強度Iとがどのように対応しているかにより決まる。放出光電子強度Iは、結合エネルギーEの関数I(E)と捉えることができる。ここで、たとえば、Eの正方向に関して、I(E)をEで3回微分した値が、ピークが存在すると予想される位置近傍で、負の値から正の値に変化すれば、当該ピークが存在すると判断することができる。一方、ピークが存在すると予想される位置近傍で、そのような変化がなければ、ピークは存在しないと判断することができる。
XPSの測定条件は、以下の通りとする。
X線:AlKα (hν=1486.6eV(h:プランク定数、ν:X線の振動数))
X線径(直径):100μm
検出器取込角度:45°
スパッタリングを併用してXPSの測定を行う場合は、スパッタ条件は、以下の通りとする。
イオン種:Ar+
加速電圧:2~4kV
ラスター領域:一辺が1~3mmの正方形状の領域
上記の条件による測定は、たとえば、アルバック・ファイ社製のQuantera SXMに、同社製のPHI 5000 VersaProbe IIIを組み合わせた装置を用いて行うことができる。
〈要件(ii):チタン酸化物層のTiおよびMの含有量は、式(1)を満たす〉
[M]/([Ti]+[M])が0.005以上とする理由は、チタン酸化物層の導電性を高くするためである。[M]/([Ti]+[M])が0.005未満であると、TiO2およびTiOxと、MOyとの電子的な相互作用が弱く、導電性への寄与が不十分となる。[M]/([Ti]+[M])は、0.010以上であることが好ましい。
[M]/([Ti]+[M])が0.10以下であるとする理由は、コストを低く抑え、かつ加工性を高くし、さらに、接触抵抗を低くするためである。Mは、Tiに比して高価であるので、[M]/([Ti]+[M])が大きくなると、原料費が増大する。また、[M]/([Ti]+[M])が大きくなると、チタン酸化物層の延性が低くなるので、金属材の加工性は低くなる。さらに、[M]/([Ti]+[M])が大きいと、接触抵抗が高くなる。これは、チタン酸化物層中のM酸化物の量が多くなることにより、M酸化物が凝集した状態で存在し、これにともなって、チタン酸化物層に物理的欠陥が多く生じるためであると推測される。[M]/([Ti]+[M])は、0.080以下であることが好ましい。
[Ti]および[M]の測定は、XPSにより行うことができる。チタン酸化物層が厚い場合(たとえば、チタン酸化物層の厚みが100nm以上である場合)は、Arによりスパッタリングしながら深さ方向にTiおよびMの濃度プロファイルを求め、これらの濃度プロファイルについて深さ方向の積分値として、それぞれ、[Ti]および[M]を算出する。後述のゾル液を用いる方法で金属材を作製した場合は、一般に、[M]/([Ti]+[M])の値は、チタン酸化物層の表面近傍の部分を除き、ほぼ一定となる。このため、チタン酸化物層の厚み方向全体に渡ってXPSを行う必要はなく、代表的な[M]/([Ti]+[M])が得られる深さでの[Ti]および[M]を採用してもよい。
〈要件(iii):チタン酸化物層のC(炭素)含有量は1~50%である〉
チタン酸化物層には、導電性を有する炭素質材を構成するCが多く含まれていることが好ましい。この場合、チタン酸化物層のC含有量が1%以上であることにより、チタン酸化物層の導電性が高くなり、金属材表面の接触抵抗が低くなる。導電性を有する炭素質材としては、たとえば、グラファイト、金属炭化物、および金属炭窒化物を挙げることができる。
炭素質材に対する水の濡れ性は、一般に低い。これは、金属材をセパレータに用いたときに排水性を高くするのに不利である。しかし、チタン酸化物層中に細かい炭素質材を分散させることにより、チタン酸化物層に対する水の濡れ性が低下することを抑制できる。後述する製造方法では、チタン酸化物層を形成するために、有機ポリマーが混合されたゾル液が用いられる。このような有機ポリマーの炭化により生じるグラファイトは、細かく、チタン酸化物の結晶の周辺に分散しやすい。この場合、炭素質材が含まれることによるチタン酸化物層に対する水の濡れ性の低下を抑制できる。このような理由により、導電性を有する炭素質材は、有機ポリマーを起源とするグラファイトであることが好ましい。
チタン酸化物層のC含有量が1%未満であると、金属材表面の接触抵抗を低くする効果が十分得られない。チタン酸化物層のC含有量は、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。また、チタン酸化物層のC含有量が50%以下であることにより、基材に対するチタン酸化物層の密着性を高くすることができる。チタン酸化物層のC含有量が50%を超えると、チタン酸化物層の組成は不均一となり、基材から剥離しやすくなる。チタン酸化物層のC含有量は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
チタン酸化物層のC含有量は、以下の方法により測定することができる。まず、アルカリ系の剥離剤を用いて、チタン酸化物層を基材から剥離する。そして、剥離したチタン酸化物層の質量を測定する。また、剥離したチタン酸化物層に含まれる炭素の質量を、燃焼赤外線吸収法により測定する。その後、炭素の質量をチタン酸化物層の質量で除して、チタン酸化物層のC含有量(質量%)を求める。燃焼赤外線吸収法では、具体的には、酸素気流下、燃焼温度1400℃で、チタン酸化物層に含まれる有機系炭素および無機系炭素をすべて燃焼させ、これらの炭素をすべてCO2やCOにし、赤外線吸収よりCの質量を定量する。
〈要件(iv):チタン酸化物層は、表層領域に、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を有する〉
チタン炭化物およびチタン窒化物の導電率は、TiOxの導電率よりも高い。このため、チタン酸化物層が要件(iv)を満たすことにより、チタン酸化物層における表層領域の導電性が高くなり、金属材表面の接触抵抗が低くなる。チタン炭化物は、たとえば、TiCやTi2Cであってもよい。チタン窒化物は、たとえば、Ti34であってもよい。
また、表層領域がチタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を有することにより、燃料電池内でセパレータの排水性が向上する。これは、以下の理由による。これらの化合物は、TiOxに比して耐食性が乏しく、燃料電池環境下では腐食または分解しやすい。これらの化合物の腐食により、セパレータ(金属材のチタン酸化物層)の表面に、Ti(OH)4およびTiO2の少なくとも1種が生成する。Ti(OH)4およびTiO2は水との接触角が小さい。すなわち、腐食生成物であるTi(OH)4およびTiO2は、水との親和性が高い。したがって、燃料電池内で、水はセパレータの表面に留まりにくくなる。その結果、セパレータの排水性が向上する。
表層領域において、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種は、微細かつ分散して存在していることが好ましい。この場合、燃料電池環境下では、チタン酸化物層の表面には、微細な腐食生成物が分散して形成される。腐食生成物の導電性は低い。しかし、チタン酸化物層の表面に微細な腐食生成物が分散して存在していると、より導電性が高い物質、たとえば、TiOxおよびMOyによる導電経路が確保される。したがって、腐食生成物が形成されることによる接触抵抗の上昇を抑制することができる。
〈要件(v):チタン酸化物層の表層領域において、チタン炭化物を構成するCの含有量、チタン窒化物を構成するNの含有量、ならびにTiOxおよびMOyを構成するOの含有量は式(2)を満たす〉
[C]は、表層領域におけるチタン炭化物量の指標である。[N]は、表層領域におけるチタン窒化物量の指標である。チタン炭化物およびチタン窒化物の導電率がTiOxの導電率よりも高いことにより、([C]+[N])/[O]が大きくなると、チタン酸化物層の表層領域の導電率は高くなる。([C]+[N])/[O]が0.05未満では、表層領域の導電率を高くする効果が十分に得られない。このため、([C]+[N])/[O]は、0.05以上とする。([C]+[N])/[O]は、0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。
一方、([C]+[N])/[O]が1.0を超えると、燃料電池環境下でのチタン炭化物およびチタン窒化物の腐食(分解)量が過剰となり、金属材表面に多量のTiO2が形成される。この場合、金属材の接触抵抗が高くなる。このため、([C]+[N])/[O]は1.0以下とする。([C]+[N])/[O]は、0.50以下であることが好ましい。
式(2)が満たされることにより、表層領域の導電性を高くしつつ、燃料電池環境下で金属材表面に対する水の濡れ性を高く維持することができる。
表層領域にチタン炭化物およびチタン窒化物のうち少なくとも1種が存在することの確認、ならびに、[C]、[N]および[O]の測定は、以下の方法により行うことができる。まず、XPSにより、表層領域において、チタン酸化物層の表面から深さ方向に、C、NおよびOの濃度プロファイルを測定する。その際、C、NおよびOは、それぞれ、チタン炭化物、チタン窒化物、ならびにチタン酸化物およびMOyを構成しているものを対象とする。具体的には、以下の通りである。チタン炭化物を構成しているCの濃度は、炭化物に起因するC1sのピーク強度より求める。チタン窒化物を構成しているNの濃度は、窒化物に起因するN1sのピーク強度より求める。チタン酸化物およびMOyを構成しているOの濃度は、酸化物に起因するO1sのピーク強度より求める。このようにして、表層領域において、チタン酸化物層の表面から2nmまでの領域を除く1点における[C]、[N]および[O]を求める。
図3は、後述の実施例(試験番号1;本発明例)の試料について、XPSによる深さ方向分析の結果であって、表面からの深さと各元素の濃度と関係を示す図である。図3に示すような表面からの深さと各元素の濃度と関係を示す図に基づき、式(1)(要件(ii))の[Ti]および[M]、ならびに式(2)(要件(v))の[C]、「N」および[O]を求めることができる。
上記分析により、チタン酸化物層において、表面から10nmまでの領域、すなわち表層領域に、チタン炭化物を構成するCが検出された場合は、表層領域にチタン酸化物が存在すると判断する。表層領域に、チタン窒化物を構成するNが検出された場合は、表層領域にチタン窒化物が存在すると判断する。表層領域に、チタン炭化物を構成するCおよびチタン窒化物を構成するNのいずれも検出されなかった場合は、表層領域に、チタン炭化物およびチタン窒化物のいずれも存在しないと判断する。XPSによりチタン炭化物を構成するCおよびチタン窒化物を構成するNのいずれかが検出されたか否かは、Ti3+、Ti2+、M4+およびM2+のいずれかのピークが存在するか否かを判断する上述の方法と同様の方法により判断することができる。
〈要件(vi):チタン酸化物層の厚みは、10~1000nmである〉
チタン酸化物層の厚みが10nm以上であることにより、基材を良好に保護することができる。チタン酸化物層の厚みが10nm未満であると、チタン酸化物層は、燃料電池(たとえば、固体高分子形燃料電池)のセル内で、電極(たとえば、カーボン繊維により構成されるもの)との接触によって損傷を受けたときに、基材が露出しやすくなる。この場合、露出部には、腐食または酸化によって酸化物が形成される。たとえば、基材が純チタンまたはチタン合金からなる場合は、露出部にはTiO2が形成される。TiO2の電気抵抗は高いので、これにより、合金材(セパレータ)の接触抵抗は増大する。チタン酸化物層の厚みは、20nm以上であることが好ましく、25nm以上であることがより好ましい。
また、チタン酸化物層の厚みが1000nm以下であることにより、チタン酸化物層の厚み方向の電気抵抗を低くするとともに、基材に対するチタン酸化物層の密着性を高くすることができる。すなわち、チタン酸化物層の厚みが1000nmを超えると、チタン酸化物層の厚み方向の電気抵抗が、基材の電気抵抗に対して無視できない程度に高くなり、また、プレス加工時に、チタン酸化物層が基材から剥離しやすくなる。チタン酸化物層の厚みは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
チタン酸化物層の厚みは、チタン酸化物層の平均厚みとする。平均厚みは、チタン酸化物層の少なくとも3箇所で測定した厚みの平均値とする。各測定箇所でのチタン酸化物層の厚みは、XPSによる深さ方向分析により求める。具体的には、Arによりスパッタリングしながら、チタン酸化物層の表面から深さ方向に、O(酸素)濃度プロファイルを求める。そして、このO濃度プロファイルにおいて、表面近傍のピークに対して、O濃度が半分になる深さをチタン酸化物層の厚みとする。
XPSによる深さ方向分析では、スパッタ時間と表面からの深さとが所定の関係を有すると仮定して、スパッタ時間により、チタン酸化物層の表面から深さを求める。このため、表面からの深さを正確に求めるために、別途、O濃度プロファイル測定時の条件でスパッタリングした時間と、スパッタリングにより実際に到達した深さとの関係を求める。スパッタリングにより実際に到達した深さは、スパッタリング後のチタン酸化物層(金属材)について、スパッタ部を含み基材に垂直な断面のSEM(Scanning Electron Microscope)像から求める。これにより、スパッタ時間に基づいて、正確にチタン酸化物層の表面から深さ求めることができる。
〈チタン酸化物層表面に対する水の接触角〉
以下、チタン酸化物層表面に対する水の接触角を、単に、「接触角」という。金属材を燃料電池のセパレータとして用いた場合、燃料電池運転後、たとえば、0.5A/cm2の定電流運転で500時間運転後の接触角は、105°以下であることが好ましい。これにより、燃料電池のセパレータで酸化性ガスを流す流路に生じる水を良好に排出することができる。燃料電池運転後の接触角は、90°以下であることがより好ましく、45°以下であることがさらに好ましい。
上述のように、チタン酸化物層に含まれるチタン炭化物およびチタン窒化物の腐食生成物は、水との親和性が高い。したがって、燃料電池の運転時間とともに、接触角は小さくなるので、燃料電池の長期の運転にわたって、酸化性ガスを流す流路で発生した水は良好に排出される。燃料電池の運転を開始する前の接触角は、90°を超えていてもよい。
接触角は、JIS R3257(1999)の静滴法に準じて室温で測定するものとする。この方法では、まず、試料の表面に、水滴を付着させる。次いで、試料と水との接触部の端部を含む部分について、試料表面に沿う方向から見た画像を得る。そして、この画像を、コンピュータにより処理して、試料表面と水の表面とのなす角度を算出し、接触角とする。この方法では、試料の表面近傍、たとえば、試料の表面から深さ1~2mmまでの部分の特性を反映した接触角が得られる。
〈金属材の製造方法〉
本発明の金属材は、たとえば、以下に説明する接触工程および熱処理工程を含む方法により製造することができる。接触工程では、基材の表面に、チタン酸化物層の原料となる液体を接触させる。熱処理工程では、接触工程を実施した後の基材を、非酸化性の雰囲気中で熱処理することにより、チタン酸化物層を形成する。
接触工程で用いる液体は、たとえば、チタン酸化物の前駆体化合物と、M(Nb、TaおよびVの1種以上)の酸化物の前駆体化合物と、有機ポリマーとを含有するゾル液とすることができる。
熱処理工程では、チタン酸化物、およびM酸化物が形成されるとともに、Mの少なくとも一部はチタン酸化物にドーピングされる。原料となる液体としてゾル液を用いる場合は、熱処理工程では、ゾル液中の有機ポリマーによって、チタン酸化物が部分的に還元され、還元型チタン酸化物TiOx(Ti23、Ti47など)が形成されるとともに、M酸化物も部分的に還元される。また、ゾル液が有機ポリマーを含有することにより、熱処理工程で、チタン酸化物層にグラファイトなどの導電性を有する炭素質材が形成される。
さらに、有機ポリマーの熱分解によって生じる炭素またはその化合物類は、チタン酸化物のTiと反応し、チタン酸化物層にチタン炭化物を生じる。炭素またはその化合物は、基材と反応して、基材にチタン炭化物を生じることもある。同様に、有機ポリマーが窒素を含む場合は、有機ポリマーの熱分解によって生じる窒素またはその化合物は、チタン酸化物のTiと反応して、チタン酸化物層にチタン窒化物を生じる。窒素またはその化合物は、基材と反応して、基材にチタン窒化物を生じることもある。
以下、接触工程で上述のゾル液を用いる場合について、金属材の製造方法の一例を詳細に説明する。
〈接触工程〉
ゾル液は、以下に説明する成分を含むものとすることができる。チタン酸化物の前駆体化合物の例としては、Tiのアルコキシド(エトキシド、ブトキシド、プロポキシドなど)、Ti塩化物、Tiの錯体化合物、および酸化チタン微粒子(コロイド)を挙げることができる。ゾル液には、これらの化合物の1種以上を用いることができる。
M酸化物の前駆体化合物の例としては、Nb、TaおよびVの1種以上のアルコキシド(エトキシド、ブトキシド、プロポキシドなど)、硝酸塩、塩化物、および酸化物微粒子(コロイド)を挙げることができる。ゾル液には、これらの化合物の1種以上を用いることができる。
有機ポリマーは、ゾル液の溶媒に溶解する必要がある。ポリビニルピロリドン、およびポリ酢酸ビニルは、各種アルコール等の有機溶媒に可溶である。ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水系の各種樹脂は、水に可溶である。ゾル液の溶媒の種類により、その溶媒に溶解する樹脂を適宜選択することができる。
ポリビニルピロリドンおよびポリ酢酸ビニルは、熱処理工程で、チタン酸化物およびM酸化物を部分的に還元でき、これらの酸化物の導電性を高くすることができる。また、ポリビニルピロリドンおよびポリ酢酸ビニルを起源とするCは、熱処理条件によっては、導電性を有する炭素質材としてチタン酸化物層中に残留する。このような炭素質材により、チタン酸化物層の導電性を高くすることができる。これらの点で、有機ポリマーとして、ポリビニルピロリドンおよびポリ酢酸ビニルの少なくとも1種を用いることが好ましい。
チタン酸化物の前駆体化合物とM酸化物の前駆体化合物とを、可溶、相溶、または分散する溶媒中で、これらの前駆体化合物を所定比率で混合して、ゾル液を作製することができる。その際、必要に応じて、硝酸、塩酸などの酸を加えて加水分解または重合を促進してもよい。また、ゾル液には、ジエタノールアミン、アセチルアセトンなどの安定化剤を加えてもよい。
有機ポリマーは、チタン酸化物の前駆体化合物とM酸化物の前駆体化合物とを溶媒中で混合する際に、同時に添加してもよい。また、有機ポリマーは、チタン酸化物の前駆体化合物とM酸化物の前駆体化合物とを含むゾル液を作製した後、このゾル液に添加してもよい。
有機ポリマーの分子量は制限されないが、たとえば、有機ポリマーとしてポリビニルピロリドンおよびポリ酢酸ビニルの少なくとも1種を用いる場合は、有機ポリマーの分子量は、200000以下であることが好ましい。分子量が200000を超えると、ゾル液の粘度が高くなり過ぎて、基材の表面へのゾル液の均一な供給が困難となるおそれがある。
ゾル液に対する有機ポリマーの添加量(添加後のゾル液中の有機ポリマーの割合;以下、「ポリマー添加量」という)は制限されない。しかし、添加量が少なすぎると、チタン酸化物を十分に還元させることができない。このため、ポリマー添加量は、1%以上とすることが好ましい。また、ポリマー添加量が多すぎると、ゾル液の粘度が高くなりすぎ、基材の表面に均一に適量のゾル液を供給することが困難になる。基材の表面に過剰にゾル液が供給されると、熱処理工程を実施した後、炭素分が必要以上に残留し、チタン酸化物層が不均一になる。このため、ポリマー添加量は、30%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましい。
以上のようにして得たゾル液を、ディップ法、スプレー法、バー法、ドクターブレード法などの湿式コーティングにより、基材の表面に付着(接触)させる。付着するゾル液の厚みは、形成するべきチタン酸化物層の厚みに応じて調整する。
〈熱処理工程〉
熱処理工程では、チタン酸化物の前駆体化合物およびM酸化物の前駆体化合物が、熱分解および重合し、チタン酸化物およびM酸化物が形成される。さらに、Mは、ドーパントとしてチタン酸化物内に取り込まれる。取り込まれたMは、チタン酸化物層のTiの一部を置換する。これにより、たとえば、Ti1-zz2(0<z≦0.2)が形成される。Mが取り込まれたチタン酸化物の導電性が高いので、これにより、チタン酸化物層の導電性は高くなる。
また、熱処理工程では、有機ポリマーが分解してCを生じる。熱処理工程が非酸化性雰囲気中で行われることにより、有機ポリマーは還元的に熱分解して、グラファイトなどの導電性を有する炭素質材を生ずる。有機ポリマーが分解して生じたCにより、チタン酸化物が還元される。この際、M酸化物も還元されてもよい。さらに、有機ポリマーが分解して生じたCは、Tiと反応してチタン炭化物を生じる。このようにして、TiOx、MOy、導電性を有する炭素質材、およびチタン炭化物を含むチタン酸化物層が形成される。
有機ポリマーがNを含む場合は、有機ポリマーの分解により、Cに加えてNを生ずる。これらのCおよびNの少なくとも1種により、チタン酸化物が還元される。この際、M酸化物も還元されてもよい。さらに、CおよびNの少なくとも1種は、Tiと反応して、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を生じる。したがって、この場合は、TiOx、MOy、導電性を有する炭素質材、ならびにチタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を含むチタン酸化物層が形成される。
以上より、熱処理の温度は、下記(a)~(d)の反応が生じる温度である必要がある。
(a) チタン酸化物の前駆体化合物およびM酸化物の前駆体化合物が分解し、チタン酸化物およびM酸化物が形成される。
(b) 有機ポリマーが熱分解し、これにより生じたCおよびNの少なくとも1種により、チタン酸化物が還元される。
(c) 有機ポリマーが熱分解して生じたCおよびNの少なくとも1種がTiと反応して、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種が形成される。
(d) 有機ポリマーが熱分解して、導電性を有する炭素質材が形成され、かつ、この炭素質材がチタン酸化物層中に残留する。
以上を勘案して、熱処理温度を決定する。熱処理温度は、具体的には、650~950℃の範囲内であることが好ましい。熱処理時間は、熱処理温度等を勘案して適宜設定することができ、たとえば、10秒~1時間とすることができる。
熱処理温度を650℃以上とすることにより、有機ポリマーから生成したCおよびNの少なくとも1種により、チタン酸化物およびM酸化物が還元される。また、熱処理温度を950℃以下とすることにより、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を、適切な量だけ生成させることができる。具体的には、熱処理温度を950℃以下とすることにより、式(2)が満たされやすくなる。熱処理温度が950℃を超えると、チタン酸化物層中にチタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種が過剰に生成し、式(2)が満たされ難くなる傾向がある。また、950℃を超える温度で熱処理すると、エネルギーコストが増大して、経済性が低下する。さらに、基材が純チタンまたはチタン合金からなる場合は、950℃を超える温度で熱処理すると、基材の硬度が増し、セパレータ形状に加工することが困難になる。
炭素質材がチタン酸化物層中に残留する温度は、有機ポリマーの種類によって大幅に変化する。炭素質材をチタン酸化物層内に残留させるためには、熱処理温度は、以下の通りとすることが好ましい。すなわち、有機ポリマーがポリビニルピロリドンのときは、熱処理温度は650~900℃とすることが好ましい。有機ポリマーがポリ酢酸ビニルのときは、熱処理温度は650~800℃とすることが好ましい。
熱処理の雰囲気は、有機ポリマーを熱分解し、上記(b)~(d)の反応を生じさせるために、非酸化性の雰囲気である必要がある。非酸化性雰囲気としては、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気、水素などの還元ガス雰囲気、または真空(減圧雰囲気)を採用することができる。不活性ガスまたは還元ガスには、酸素分圧で0.1Pa以下であれば、酸素または水蒸気が含まれていてもよい。酸素分圧が0.1Paを超えると、有機ポリマーが酸化的に分解して消失し、チタン酸化物およびM酸化物が還元されなくなる。
なお、熱処理中には、チタン酸化物の前駆体化合物およびM酸化物の前駆体化合物の分解、ならびに有機ポリマーの熱分解によって、様々なガスが発生する。このため、これらのガスが基材付近で滞留して所望の反応を阻害または抑制しないように、不活性ガスまたは還元ガスを流通させながら熱処理を行うことが好ましい。真空中で熱処理を行う場合は、真空度を10-2Pa以下とすることが好ましい。
基材が純チタンまたはチタン合金からなる場合は、接触工程を実施する前に、基材の表層部を酸化し、チタン酸化物を含有する予備層を予め形成した後、接触工程を実施してもよい。純チタンまたはチタン合金からなる基材の表層部が酸化することによって、チタン酸化物を含む予備層が形成される。予備層は、基材の直接酸化によって形成されるため、基材の残部との密着性が高く、均一な厚みを有する。
予備層が形成された基材に対して、ゾル液を用いた接触工程を実施し、その後、熱処理工程を実施すると、ゾル液中の有機ポリマーの熱分解によって生ずるCおよびNの少なくとも1種によって、前駆体化合物を起源とするチタン酸化物のみならず、予備層に含まれるチタン酸化物も還元される。これにより、これらのチタン酸化物に導電性が付与される。予備層を起源とするチタン酸化物は、チタン酸化物層の一部であるものとする。予備層を形成することにより、チタン酸化物層の厚みを容易に厚くすることができるとともに、チタン酸化物層と基材との密着性を向上させることができる。
予備層の厚みは、3nm以上、1μm未満であることが好ましい。予備層の厚みが3nm未満であると、密着性向上の効果が十分に得られない。予備層の厚みは、5nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。一方、予備層の厚みが1μm以上では、予備層に含まれるチタン酸化物は、ゾル液中の有機ポリマーの熱分解によって生ずるCおよびNの少なくとも1種によっては、十分に還元されなくなる。その結果、チタン酸化物層全体として、導電性が低下する。予備層の厚みは、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
予備層を形成する方法、すなわち、基材の表層部を酸化する方法は、特に制限されない。予備層は、たとえば、酸化雰囲気下での熱処理、または電気化学的酸化により形成することができる。酸化雰囲気下で熱処理する場合、酸化雰囲気は、大気雰囲気であってもよく、酸化剤を含んだ雰囲気であってもよい。熱処理温度は、たとえば、200~900℃とすることができる。加熱時間は、予備層が所望の厚みを有するように、適宜設定することができる。電気化学的酸化は、硫酸水溶液、酢酸水溶液、またはリン酸水溶液中での陽極酸化とすることが好ましい。酸化条件は限定されないが、たとえば、印加電圧を数十Vとし、電流密度が0.1~10A/cm2程度となる電解条件で行うことができる。陽極酸化による処理時間は、予備層が所望の厚みを有するように、適宜設定することができる。
本発明の金属材は、以下に説明するように燃料電池用セパレータに用いることができる。また、本発明の金属材は、電気分解用の電極等にも用いることができる。
〈燃料電池用セパレータ〉
本発明のセパレータは、上記金属材を備える。このセパレータは、プレス成形により所望の形状に形成されたものとすることができる。燃料電池が、たとえば、固体高分子形燃料電池である場合、セパレータには、後述のように、燃料ガスおよび酸化性ガスの流路となる溝が形成されている。この場合、平板状の基材を所望の形状にプレス成形した後、この基材の上にチタン酸化物層を形成してもよく、平板状の基材の上にチタン酸化物層を形成して金属材を得た後、この金属材をプレス成形してもよい。
本発明のセパレータは、本発明の金属材を備えているので、接触抵抗が低く維持されるとともに、水の濡れ性、したがって、排水性が高く維持される。
〈燃料電池セルおよび燃料電池スタック〉
本発明の燃料電池セルは、上記セパレータを備える。本発明の燃料電池スタックは、上記燃料電池セルを複数個備える。複数個の燃料電池セルは、互いに積層され電気的に直列に接続されたものとすることができる。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図であり、図2Bは、燃料電池スタックを構成する燃料電池セル(単セル)の分解斜視図である。図2Aおよび図2Bは、燃料電池が固体高分子形燃料電池である例を示している。
図2Aおよび図2Bに示すように、燃料電池スタック1は複数の燃料電池セル(単セル)の集合体である。図2Bに示すように、単セルでは、固体高分子電解質膜2の一面および他面に、それぞれ、燃料電極膜(アノード)3、および酸化剤電極膜(カソード)4が積層されている。そして、この積層体の両面にセパレータ5a、5bが重ねられている。固体高分子電解質膜2、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4は、互いに貼り合わされて一体的な構成部材としたMEA(Membrane Electrode Assembly)であってもよい。
セパレータ5a、5bは、本発明の金属材を備える。このため、燃料電極膜3および酸化剤電極膜4に対するセパレータ5a、5bの接触抵抗は低く維持される。固体高分子電解質膜2、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4は、公知の材料からなるものであってもよい。
セパレータ5a、5bには、それぞれ、流路6a、6bを構成する溝が形成されている。流路6a、6bは、サーペンタイン流路を構成する。図2Bでは、セパレータ5a、5bの周縁部は図示を省略している。
セパレータ5aに形成された流路6aには、燃料ガス(水素または水素含有ガス)G1が流される。これにより、燃料電極膜3に燃料ガスG1が供給される。燃料電極膜3では、燃料ガスG1は拡散層を透過して触媒層に接触する。また、セパレータ5bに形成された流路6bには、空気等の酸化性ガスG2が流される。これにより、酸化剤電極膜4に酸化性ガスG2が供給される。酸化剤電極膜4では、酸化性ガスG2は拡散層を透過して触媒層に接触する。これらのガスにより、電気化学反応が生じて、燃料電極膜3と酸化剤電極膜4との間に、直流電圧が発生する。この反応の結果、各燃料電池セルの酸化剤電極膜4側のセパレータ5bの流路6b内に水が発生する。
セパレータ5bの排水性が高く維持されることにより、セパレータ5bの流路6b内に流される酸化性ガスG2は、水に阻害されることなく高い流量で流れ続ける。したがって、燃料ガスG1と酸化性ガスG2との反応量は高く維持される。そして、燃料電極膜3および酸化剤電極膜4に対するセパレータ5a、5bの接触抵抗が低く維持されることにより、燃料電池セルおよび燃料電池スタックは低い内部抵抗を有し続ける。したがって、燃料ガスG1と酸化性ガスG2との反応により、高い直流電圧が生じ続ける。すなわち、各燃料電池セルおよび燃料電池スタック1は、発電量を高く維持することができる。
本発明の効果を確認するため、以下の方法により金属材の試料を作製し、評価した。
1.試料の作製
表1に、試料の作製条件および評価結果を示す。
Figure 0007151471000001
(1)基材の準備
基材として、純チタン(表1に「Ti」と表記する。)、Taを3%含むチタン合金(表1に「Ti-Ta」と表記する。)、およびSUS304からなるものを用いた。原料を溶解および鋳造した後、圧延により厚みが1mmの板に成形し、この板から一辺が4cmの正方形の小片を切り出して、この小片を基材とした。一部の基材に対しては、予備酸化(酸化処理)により、予備層を形成した。予備酸化は、露点-70℃のアルゴン雰囲気中で、500℃で5分保持することにより行った。
(2)接触工程
まず、ゾル液を、次の手順で準備した。チタン酸化物の前駆体化合物であるチタンテトラブトキシド(TBOT)と、M(Nb、TaまたはV)酸化物の前駆体化合物とを、無水エタノールに溶解させたもの(以下、「A液」という。)を用意した。Nb酸化物の前駆体化合物として、ニオブエトキシドを用いた。Ta酸化物の前駆体化合物として、タンタルエトキシドを用いた。V酸化物の前駆体化合物として、バナジウムエトキシドを用いた。比較のため、試験番号16では、Mを実質的に含まないゾル液を用意した。
A液中の各前駆体化合物の量は、TiとMとの比が、形成しようとするチタン酸化物層におけるTiとMとの比となるように調製した。たとえば、TiとNbとが原子比で0.94:0.06のチタン酸化物層を形成する場合は、0.94当量のTiを含むTBOTと、0.06当量のNbを含むニオブエトキシドとを含有するように、A液を調製した。
次いで、硝酸および蒸留水を含むエタノール溶液(以下、「B液」という。)を作製し、A液に添加した。B液は、前駆体化合物の加水分解を促進するためのものである。B液のA液への添加は、A液を攪拌しながら、滴下ロートを用いてA液に対してB液を2時間かけて滴下することにより行った。これにより、透明なゾル液を得た。このゾル液に、有機ポリマーとして、ポリビニルピロリドン(PVP;分子量約40000)またはポリ酢酸ビニル(PVAc;分子量約120000)を、表1に示す割合(ポリマー添加量)で溶解させ、接触工程に用いるゾル液を得た。比較のため、試験番号3では、有機ポリマーを実質的に含まないゾル液を作製した。
その後、ディップコート法により、ゾル液を基材表面に付着させた。ゾル液の塗布量(厚み)は、ゾル液にディップ(浸漬)した基材を、ゾル液から引き上げる速度(引上げ速度)により調整した。
(3)熱処理工程
以上のようにしてゾル液を付着させた基材を、100℃で2時間乾燥させた後、アルゴン気流中で、表1に示す加熱温度で、5分加熱して金属材を得た。
(4)金属材の特性
各金属材について、上記要件(i)~(vi)に関する特性を、上述の方法により測定した。表1に、要件(ii)([M]/([Ti]+[M]))、要件(iii)(C含有量)、要件(v)(([C]+[N])/[O])、および要件(vi)(チタン酸化物層の厚み)についての測定結果を示す。要件(i)および(iv)については、以下の通りである。
(4-1)要件(i)
試験番号3以外の試料は、いずれも、チタン酸化物層にTiOx(1≦x<2)を含んでいた。試験番号3の試料は、TiO2を含んでいたが、TiOxは含んでいなかった。試験番号3の試料では、用いたゾル液が有機ポリマーを含まなかったため、TiO2が還元されなかった。また、試験番号16以外の試料は、いずれも、チタン酸化物層にMOy(1≦y≦2.5)を含んでいた。試験番号16の試料では、用いたゾル液が実質的にMを含まなかったことにより、チタン酸化物層にMOy(1≦y≦2.5)が形成されなかった。
(4-2)要件(iv)
試験番号3以外の試料は、いずれも、チタン酸化物層に、チタン炭化物を含んでいた。チタン炭化物としては、TiCが検出された。これらの試料では、チタン酸化物の前駆体化合物(チタンテトラブトキシド)を起源とするTiと、有機ポリマー(ポリビニルピロリドンまたはポリ酢酸ビニル)を起源とするCとが反応して、チタン炭化物が形成された。試験番号1、2、4~10、12~14および16~18の試料は、チタン酸化物層に、チタン炭化物に加えてチタン窒化物を含んでいた。チタン窒化物としては、Ti34が検出された。これらの試料では、チタン酸化物の前駆体化合物を起源とするTiと、ポリビニルピロリドンを起源とするNとが反応してチタン窒化物が形成された。試験番号3の試料は、チタン酸化物層に、チタン炭化物およびチタン窒化物のいずれも含んでいなかった。
(5)試料の評価
(5-1)接触抵抗の測定
図4は、試料の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、非特許文献3に記載の方法に従い、各試料の接触抵抗を測定した。図4を参照して、まず、作製した試料(金属材)Sを、燃料電池用のガス拡散層として使用される1対のカーボンペーパー(東レ(株)製 TGP-H-90)22で挟み込み、これを金めっきした1対の電極23で挟んだ。各カーボンペーパー22の面積は、1cm2であった。
次に、この1対の金めっき電極23の間に荷重を加えて、10kgf/cm2(9.81×105Pa)の圧力を生じさせた。この状態で、1対の金めっき電極23間に一定の電流を流して、このとき生じるカーボンペーパー22と試料Sとの間の電圧降下を測定した。この結果に基づいて抵抗値を求めた。得られた抵抗値は、試料Sの両面の接触抵抗を合算した値となるため、これを2で除して、試料Sの片面あたりの接触抵抗値(初期接触抵抗)とした。
次に、初期接触抵抗測定後の試料をセパレータとして用いて、固体高分子形の燃料電池セル(単セル)を作製した。単セルとした理由は、単セルを積層して多セル(燃料電池スタック)とした状態では、積層の状態が評価結果に大きく影響するためである。燃料電池セルには、固体高分子電解質膜として、東陽テクニカ製PFEC用スタンダードMEA(ナフィオン(登録商標)-1135使用)FC50-MEA(膜電極接合体(MEA))を使用した。
この燃料電池セルに、アノード側燃料用ガスとして、純度が99.9999%の水素ガスを流し、カソード側ガスとして、空気を流した。水素ガス、および空気の燃料電池セルへの導入ガス圧は0.04~0.20bar(4000~20000Pa)とした。燃料電池セル本体は、全体を70±2℃に保温するとともに、燃料電池セル内部の湿度は、ガス導入部での露点を70℃とすることで制御した。燃料電池セル内部の圧力は、1気圧(1.01×105Pa)であった。
この燃料電池セルを、0.5A/cm2の定電流密度で運転した。そして、500時間運転後、セパレータ(金属材)を取り出した。このセパレータについて、上述の方法により接触抵抗を測定し、発電後接触抵抗とした。接触抵抗の測定、ならびに燃料電池の運転時における電流および電圧の測定には、デジタルマルチメータ((株)東陽テクニカ製 KEITHLEY2001)を使用した。
(5-2)水に対する親和性の評価
燃料電池におけるセパレータの排水性の指標として、金属材表面に対する水の接触角(以下、単に、「接触角」という。)を、上述のJIS R3257(1999)の静滴法に準拠して測定した。測定は、燃料電池に用いる前の金属材、および上述の500時間運転の燃料電池に用いた金属材(セパレータ)について行い、それぞれ、初期の接触角、および発電後の接触角とした。
(6)評価結果
表1に、初期および発電後の各試料についての接触抵抗および接触角を示す。接触抵抗の判断基準は、下記の通りとした。
特に良好(◎):初期および発電後ともに、接触抵抗が10mΩ・cm2以下。
良好(○):発電後接触抵抗が、30mΩ・cm2以下(「特に良好」の基準を満たすものを除く)。
不良(×):発電後接触抵抗が、30mΩ・cm2を超える。
また、接触角は、発電後について、105°以下を良好(○)とし、105°超を不良(×)とした。
本発明例の試料(本発明の要件を満たす金属材)の発電後接触抵抗は、いずれも30mΩ・cm2以下と低かった。また、本発明例の試料の発電後の接触角は、いずれも90°以下と小さかった。試験番号12および17の試料とこれら以外の本発明例の試料とを対比すると、以上の効果は、基材が、純チタン、チタン合金、およびステンレスのいずれからなる場合でも得られることがわかる。また、試験番号13および14の試料とこれら以外の本発明例の試料とを対比すると、以上の効果は、Mが、Nb、TaおよびVのいずれである場合でも得られることがわかる。
試験番号3の試料は、有機ポリマーを実質的に含まないゾル液を用いて作製したことにより、チタン酸化物層のC含有量は0%であった。この試料は、初期および発電後の接触抵抗が高かった。試験番号1~2、6および7等の試料と対比すると、チタン酸化物層が所定量のCを含有することにより、チタン酸化物層の導電性が向上し、初期および発電後の接触抵抗が低くなることがわかる。
また、試験番号3の試料では、チタン酸化物層がチタン炭化物およびチタン窒化物のいずれも含まず、([C]+[N])/[O]が0であった。この試料は、初期の接触角は90°以下であったが、発電後の接触角が90°を超えて大きくなった。試験番号1~2、6および7等の試料と対比すると、チタン酸化物層がチタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を所定量含むことにより、低い接触角を維持できることがわかる。これは、燃料電池の運転時に、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種の腐食生成物が生じ、この腐食生成物に対する水の濡れ性が高いためであると推測される。
試験番号11の試料では、チタン酸化物層が所定量のCを含有し、表層領域にチタン炭化物が含まれていた。しかし、この試料の表層領域の([C]+[N])/[O]は、0.05未満であった。このため、チタン炭化物の腐食生成物が形成されることによる水の濡れ性向上の効果が十分に得られず、発電後の接触角が大きかった。
試験番号4の試料では、チタン酸化物層のC含有量が50%を超えていた。この試料では、発電後に、基材とチタン酸化物層との間で剥離が生じた。このため、発電後は、基材とチタン酸化物層との間で電気的な接続が十分に得られておらず、接触抵抗が高かった。
試験番号5および10の試料では、チタン酸化物層の表層領域で、([C]+[N])/[O]が1.0を超えた。これらの試料では、発電時に、チタン炭化物およびチタン窒化物の腐食生成物が多量に生じた。これらの腐食生成物の電気抵抗は高い。したがって、これらの腐食生成物により、チタン酸化物層の電気抵抗が高くなり、発電後の接触抵抗が高くなった。
試験番号16の試料では、作製時にM酸化物の前駆体化合物を実質的に含まないゾル液を用いたことにより、チタン酸化物層の[M]/([Ti]+[M])が0であった。また、試験番号9では、作製時にM(Nb)酸化物の前駆体化合物を含むゾル液を用いたが、[M]/([Ti]+[M])は0.005未満であった。これらの試料では、MOy(1≦y≦2.5)が形成されることによるチタン酸化物層の導電性向上の効果が、全くまたは十分に得られず、発電後の接触抵抗が高くなった。
試験番号8の試料では、[M]/([Ti]+[M])が0.10を超えた。この試料では、発電後の接触抵抗が高くなった。これは、[M]/([Ti]+[M])が大きい、すなわち、チタン酸化物層中のM酸化物の量が多いことにより、M酸化物が凝集した状態で存在し、これにともなって、チタン酸化物層に物理的欠陥が多く生じたためであると推測される。
この本発明の金属材は、たとえば、燃料電池のセパレータ、電気分解用の電極(たとえば、水の電気分解用の電極)等に利用することができる。
1:燃料電池スタック
2:固体高分子電解質膜
3:燃料電極膜
4:酸化剤電極膜
5a、5b:セパレータ
6a、6b:流路
11:金属材
12:基材
13:チタン酸化物層
S:試料(金属材)

Claims (4)

  1. 金属製の基材と、前記基材の上に設けられたチタン酸化物層とを備える金属材であって、
    前記チタン酸化物層は、TiO(1≦x<2)、MO(M:Nb、TaおよびVの1種以上;1≦y≦2.5)、および導電性を有する炭素質材を含み、
    前記チタン酸化物層のTiおよびMの含有量は、下記式(1)を満たし、
    前記チタン酸化物層の、燃焼赤外線吸収法により測定したC含有量は、1~50質量%であり、
    前記チタン酸化物層は、表面から深さ方向10nmまでの表層領域に、チタン炭化物およびチタン窒化物の少なくとも1種を有し、
    前記表層領域において、前記チタン炭化物を構成するCの含有量、前記チタン窒化物を構成するNの含有量、ならびに前記TiOおよび前記MOを構成するOの含有量は、下記式(2)を満たし、
    前記チタン酸化物層の厚みは、10~1000nmである、金属材。
    0.005≦[M]/([Ti]+[M])≦0.10 (1)
    ここで、
    [Ti]:チタン酸化物層のTi含有量(at%)
    [M]:チタン酸化物層のM含有量(at%)
    0.05≦([C]+[N])/[O]≦1.0 (2)
    ここで、
    [C]:前記表層領域の、チタン炭化物を構成するCの含有量(at%)
    [N]:前記表層領域の、チタン窒化物を構成するNの含有量(at%)
    [O]:前記表層領域の、チタン酸化物およびMOを構成するOの含有量(at%)。
  2. 請求項1に記載の金属材を備える、燃料電池用のセパレータ。
  3. 請求項2に記載のセパレータを備える、燃料電池セル。
  4. 請求項3に記載の燃料電池セルを複数個備える、燃料電池スタック。
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