JP7056397B2 - チタン材、セパレータ、セル、および燃料電池スタック - Google Patents
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Description
純チタンからなる母材と、
母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、
チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層と
を備え、
当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、
チタン酸化物皮膜は、CおよびNの1種以上を含む。
ただし、
I(101):α-Ti相の(101)面によるピーク強度
I(002):α-Ti相の(002)面によるピーク強度
a:α-Ti相のa軸方向の格子定数
c:α-Ti相のc軸方向の格子定数
である。
本発明の実施形態の、燃料電池のセルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の燃料電池スタックは、上記セルを複数個備える。
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の断面図である。チタン材10は、母材11と、母材11の上に形成されたチタン酸化物皮膜12と、チタン酸化物皮膜12の上に形成された炭素材層13とを備える。
母材11は、純チタンからなる。ここで、「純チタン」とは、98%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。ただし、母材11において、チタン酸化物皮膜12近傍の部分、たとえば、母材11とチタン酸化物皮膜12との界面から5μm以内の部分では、母材11のTi含有率は、90%未満になり得る。本実施形態では、チタン酸化物皮膜12近傍の部分でTi含有率が90%未満の金属部分を含めて母材11という。母材11が純チタンからなることにより、母材11はα-Ti相(Tiのα相)を主相とする。純チタンとして、たとえば、JIS1種~JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。
チタン酸化物皮膜12を構成するチタン酸化物として、TiO2、およびTinO(2n-1)(nは1~9の整数)を挙げることができる。TiO2は、実質的に導電性を有さないのに対して、TinO(2n-1)は、導電性を有する。このため、チタン酸化物皮膜12は、TinO(2n-1)を主体とすることが好ましい。チタン酸化物皮膜12の厚さは、200nm以下であることが好ましい。チタン酸化物は延展性に乏しいため、チタン酸化物皮膜12が厚すぎると加工性が低下するおそれがあるからである。
炭素材層13は、導電性を有する。炭素材層13は、黒鉛(グラファイト)を含むことが好ましい。黒鉛は、導電性を示す面が一定の方向に配向しやすい。このため、黒鉛を含む炭素材層は、その方向について良好な導電性を示す。炭素材層13が黒鉛を含むことは、たとえば、炭素材層13のラマンスペクトルが黒鉛のピークを示すことにより確認できる。具体的には、炭素材層13についてラマン分光法によって、Gバンドのピークが得られ、かつGバンドの半価幅が100cm-1以下である場合は、炭素材層13は黒鉛を十分に含むと判断することができる。Gバンドの半価幅が100cm-1より大きい場合には、炭素材層13は黒鉛を十分に含まないと判断することができる。
チタン材10の表層について入射角0.3°(deg)の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)は、0.8以上である。ただし、
I(101):α-Ti相の(101)面によるピーク強度
I(002):α-Ti相の(002)面によるピーク強度
である。
a:α-Ti相のa軸方向の格子定数
c:α-Ti相のc軸方向の格子定数
である。
チタン材は、たとえば、以下に説明する第1工程および第2工程を含む方法により製造することができる。第1工程では、基材を準備し、基材の表層にTiO2相を主体とする酸化皮膜(以下、「中途酸化物皮膜」という。)を形成する。第2工程では、中途酸化物皮膜を還元して、TinO(2n-1)相を含むチタン酸化物皮膜を形成し、炭素材層を形成する。これにより、上記チタン材が得られる。基材は、チタン材の母材に対応する。
〈基材の準備〉
基材として、冷間圧延を施し、かつ、焼鈍を施していない純チタン箔を用いる。冷間圧延を施すことにより、基材表層のα-Ti相の結晶粒は配向する。この状態の基材では、I(002)/I(101)は0.8を超える。冷間圧延後の基材に焼鈍を施すと、α-Ti相の結晶粒の配向性は低減する。第1工程では、基材に焼鈍を施さないので、α-Ti相の結晶粒の配向性は維持される。
次に、冷間圧延を施した基材に対して、陽極酸化処理を施す。これにより、基材の表層に、厚さが10~200nmの中途酸化物皮膜を形成する。すなわち、基材の表層に、不可避的に形成されるチタン酸化物(自然酸化皮膜)に比して厚いチタン酸化物の皮膜を形成する。中途酸化物皮膜を構成するTiは、基材に由来するので、基材と中途酸化物皮膜との密着性は高い。
第2工程は、炭素による還元処理を含む。この処理は、還元に寄与する炭素を含む炭素源を用いた熱処理とすることができる。この熱処理により、冷間圧延時に基材に導入された歪みが低減するとともに、中途酸化物皮膜のTiO2が、より低次のチタン酸化物(TinO(2n-1))に還元される。この処理により、たとえば、下記式(a)の反応が生じる。この例では、低次のチタン酸化物はTi2O3である。
2TiO2+C→Ti2O3+CO↑ (a)
また、この処理により、中途酸化物皮膜がCおよびNの1種以上の元素を含むようになる。
まず、還元に用いる炭素源を、中途酸化物皮膜の上に供給する。炭素源は、低酸素分圧(実質的に無酸素)の雰囲気中で加熱することにより炭化する物質とすることができる。
熱処理は、低酸素分圧雰囲気、たとえば、酸素分圧が0.1Pa以下の雰囲気中で行う。熱処理の温度は、400℃以上850℃以下とする。熱処理の温度が400℃未満では、還元反応が十分に進行しない。熱処理の温度が850℃を越える温度では、炭素源から中途酸化物皮膜またはチタン酸化物皮膜を介して基材中へCが拡散し、基材中にTiC(炭化チタン)が形成される可能性がある。TiCは、条件によっては、酸溶液に溶解することがある。このため、酸溶液に接する環境、たとえば、固体高分子形燃料電池内の環境で用いるチタン材を作製する場合は、基材にTiCが形成されない条件で熱処理することが好ましい。熱処理時間は、所定の温度に到達してから10秒以上10分以下とする。熱処理時間が10秒未満では、還元反応が十分に進行しない。熱処理時間が10分を越えると、TinO(2n-1)に加えて、TiCが生成することがある。
(i) 陽極酸化処理により基材の表層に中途酸化物皮膜を形成する。
(ii) 中途酸化物皮膜を炭素源で覆った状態で、低酸素分圧雰囲気中で熱処理する。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池スタックの斜視図である。図2Bは、固体高分子形燃料電池スタックのセル(単セル)の分解斜視図である。図2Aおよび図2Bに示すように、固体高分子形燃料電池スタック1(以下、単に、「スタック1」という。)は単セルの集合体である。スタック1において、複数のセルが積層され直列に接続されている。
基材は、厚さが0.1mmの板状のJIS1種チタン材であった。表2に、基材の組成を示す。基材として、冷間圧延を行った後、焼鈍を施していないものおよび焼鈍を施したものを用いた。焼鈍を施していない基材に対しては、後述の熱処理を行う前には、300℃以上でのいかなる加熱も行わなかった。焼鈍は、800℃のAr雰囲気中で30分保持することにより実施した。
第1工程として、基材に対して陽極酸化処理を施した。ただし、比較例2の基材に対しては、比較のため、陽極酸化処理を施さなかった。その後、第2工程として、基材に対して、炭素源の供給、および低酸素分圧雰囲気中での熱処理を行った。ただし、比較例1および4の基材に対しては、比較のため、炭素源を供給しなかった。また、比較例2の基材に対しては、比較のため、熱処理を行わなかった。以下、第1工程および第2工程について、詳細に説明する。
比較例2を除き、基材の表層を陽極酸化処理することにより、中途酸化物皮膜を形成した。陽極酸化処理は、8質量%の硫酸(H2SO4)および1質量%のリン酸(H3PO4)を含む水溶液中で、直流安定化電源により、基材と対極との間に60Vの電圧を印加することにより実施した。対極として、白金製の電極を用いた。電圧の印加開始後、60Vの電圧まで2.0V/秒の速度で電圧を上げ、その後、60秒間保持して処理を完了した。これにより、中途酸化物皮膜を形成した。
比較例1および4を除き、下記方法1~3のいずれかにより、基材(中途酸化物皮膜)の上に炭素源を供給した。
基材の表面に、炭素源として、導電性樹脂であるポリアニリンを塗布した。より詳細には、ポリアニリンのトルエン溶液(化研産業社製PANT)を、バーコーターを用いて、基材の一方の主面に塗布した。この状態の基材を、室温で3時間乾燥させて、ポリアニリンの塗膜を得た。目視により、塗膜が乾燥したこと、および塗膜の剥離がないことを確認した後、基材の他方の主面にも、同様にポリアニリンのトルエン溶液を塗布した。この状態の基材を、室温で24時間乾燥させて、基材の他方の主面にも、ポリアニリンの塗膜を形成した。塗膜は、基材の一方および他方の主面に形成された中途酸化物皮膜の全面に形成された。
基材を、炭素源としての樹脂フィルム(明光商会社製MSパウチフィルム)で挟んだ。この樹脂フィルムは、ポリエチレンからなるものであった。樹脂フィルムの厚さは、100μmであった。この状態の基材に対して、ラミネーター(アコ・ブランズ・ジャパン社製フュージョン5100L)を用いて、樹脂フィルムを加熱圧着させた。樹脂フィルムは、基材の一方および他方の主面に形成された中途酸化物皮膜の全面に付着された。
基材の表面に、炭素源としての圧延油を塗布して、圧下率1%のスキンパス圧延を行った。圧延油として、出光興産社製ダフニーロールオイルX-4Kを使用した。圧延油は、基材の一方および他方の表面に形成された中途酸化物皮膜の全面に付着された。
上述の方法による薄膜X線回折分析により、I(002)/I(101)(以下、「配向比」という。)、およびc/aを求めた。薄膜X線回折分析の条件は、以下の通りであった。
入射角:0.3°
X線:Co-Kα線
励起:加速電圧を30kVとした100mAの電子線照射
測定対象の回折角度(2θ)の範囲:20~110°
スキャン:0.04°のステップでのステップスキャン
各ステップの固定時間:4秒
上述のSEM観察およびEDS分析により、いずれの試料についても、母材の上にチタン酸化物皮膜が形成されていることを確認した上で、チタン酸化物皮膜にCおよびNの1種以上が含まれているか否かを調査した。
得られたチタン材の試料について、非特許文献1に記載されている方法に準じ、接触抵抗を測定した。図3は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、各試料の接触抵抗を測定した。図3を参照して、まず、作製した試料Sを、燃料電池用の電極膜(ガス拡散層)として使用される1対のカーボンペーパ(東レ(株)製TGP-H-90)22で挟み、これを金めっきした1対の電極23で挟んだ。各カーボンペーパ22の面積は、1cm2であった。
得られたチタン材の試料を、90℃で、Fを5ppm含有するpH2の硫酸(H2SO4)水溶液に50時間浸漬した後、水洗して乾燥させた。そして、上述の方法により、この試料の接触抵抗を測定した。表1の「浸漬後」の欄に、このようにして測定した接触抵抗の値を示す。耐食性が良好ではない場合には、硫酸水溶液が接触することにより、チタン材のチタン酸化物皮膜上に、TiO2を主体とする不動態皮膜が成長するので、浸漬前と比較して接触抵抗が上昇する。
上記耐食性の調査で、硫酸水溶液中の浸漬、水洗、および乾燥を行った後の試料について、テープ剥離試験により、チタン酸化物皮膜と炭素材層との間の密着性を評価した。テープ剥離試験は、JISH8504のめっきの密着性試験方法で、「g)引きはがし試験方法」の「1)テープ試験方法」に準拠した方法により行った。ただし、比較例1,2および4については、炭素材層が形成されなかったことにより、テープ剥離試験を実施しなかった。表1の「密着性」の欄の記号の意味は、以下の通りである。
○:チタン酸化物皮膜の剥離なし
×:チタン酸化物皮膜の剥離あり
本発明例1~3の試料では、いずれも、配向比は0.8以上であった。これらの試料の製造工程では、いずれも、基材の冷間圧延時に基材表層のα-Ti相が配向し、中途酸化物皮膜を炭素源で覆った状態で低酸素分圧雰囲気中にて熱処理したことにより、基材表層のα-Ti相の配向比が維持された。
・母材の表層でα-Ti相が配向していた。
・チタン酸化物皮膜に低次のチタン酸化物が形成されていた。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を含んでいた。
・導電性を有する炭素材層が形成されていた。
・熱処理の温度が低かったことにより、十分に高い導電性を有する炭素材層が得られなかった。
・熱処理の温度が低かったことにより、中途酸化物皮膜を構成するTiO2が炭素源により十分に還元されなかった。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を実質的に含まなかった。
・母材の表層のα-Ti相が配向していなかった。
・チタン酸化物皮膜に低次のチタン酸化物が実質的に形成されていなかった。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を実質的に含まなかった。
・炭素材層が形成されていなかった。
5a、5b:セパレータ
10:チタン材
11:母材
12:チタン酸化物皮膜
13:炭素材層
S:試料(チタン材)
Claims (4)
- 純チタンからなる母材と、
前記母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、
前記チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層と
を備えるチタン材であって、
当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、
前記チタン酸化物皮膜は、CおよびNの1種以上を含む、チタン材。
ただし、
I(101):α-Ti相の(101)面によるピーク強度
I(002):α-Ti相の(002)面によるピーク強度
a:α-Ti相のa軸方向の格子定数
c:α-Ti相のc軸方向の格子定数
である。 - 請求項1に記載のチタン材を備える、燃料電池用のセパレータ。
- 請求項2に記載のセパレータを備える、燃料電池のセル。
- 請求項3に記載のセルを複数個備える、燃料電池スタック。
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