JP2019214781A - チタン材、セパレータ、セル、および燃料電池スタック - Google Patents

チタン材、セパレータ、セル、および燃料電池スタック Download PDF

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Abstract

【課題】高い導電性を維持できるチタン材を提供する。【解決手段】純チタンからなる母材と、母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層とを備えるチタン材。当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、チタン酸化物皮膜は、CおよびNの1種以上を含む。ただし、I(101)は、α−Ti相の(101)面によるピーク強度である。I(002)は、α−Ti相の(002)面によるピーク強度である。aは、α−Ti相のa軸方向の格子定数である。cは、α−Ti相のc軸方向の格子定数である。【選択図】図1

Description

本発明は、チタン材、このチタン材を備える、燃料電池用のセパレータ、このセパレータを備える、燃料電池のセル、およびこのセルを複数個備える燃料電池スタックに関する。
導電性に優れた金属材料の用途として、電池の集電体がある。燃料電池用途では、このような金属材料は、金属製集電体であるセパレータとして利用される。燃料電池内の環境では、金属の腐食が起こり得る。このため、セパレータには、耐食性に優れた金属材料を用いる必要がある。このような金属材料として、たとえば、チタンが使用される。
特許文献1〜3には、α相の結晶粒組織を含むチタン板が開示されている。α相結晶粒の結晶方位は、所定の関係を満足するように分布する。これらのチタン板は、優れた強度と成形性とを有するとされている。
特許文献4には、純チタンまたはチタン合金からなる基材を備えた、燃料電池用セパレータ材が開示されている。基材の上には、酸化チタンとカーボンブラックとが混合した混合層が形成されている。混合層中の酸化チタンは、結晶性のルチルを含む。混合層中のカーボンのうちの70%以上がC−C結合を有するカーボンブラック単体として存在している。
特開2017−190480号公報 特開2017−186672号公報 特開2017−137561号公報 特開2016−122642号公報
鈴木順、外3名、チタン、vol. 54, No. 4, p. 259(2006)
セパレータに用いる金属材には、高い導電性が求められる。より詳細には、初期の接触抵抗が低く、かつ、耐食性を有し、燃料電池内の腐食環境で低い接触抵抗が維持されることが必要である。
しかし、特許文献1〜3では、導電性および耐食性については十分に検討されていない。チタン材が耐食性を有するのは、主として、その表層にTiOを主体とする酸化皮膜(不動態皮膜)が生成し、母材を保護することによる。酸化皮膜は、耐食性向上のためには有用であるが、導電性に乏しい。特許文献1〜3のチタン板では、酸化皮膜により、十分に高い導電性が得られない。
また、特許文献4では、基材自体の導電性を向上することは検討されていない。特許文献4のセパレータ材では、仮に、混合層の導電性が十分に高いとしても、基材の導電性は十分には高くはない。このため、セパレータ材全体としての導電性は、必ずしも高くはない。
そこで、この発明の目的は、高い導電性を維持できるチタン材および燃料電池用のセパレータを提供することである。本発明の他の目的は、高い発電効率を維持できる燃料電池のセルおよび燃料電池スタックを提供することである。
本発明の実施形態のチタン材は、
純チタンからなる母材と、
母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、
チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層と
を備え、
当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、
チタン酸化物皮膜は、CおよびNの1種以上を含む。
ただし、
I(101):α−Ti相の(101)面によるピーク強度
I(002):α−Ti相の(002)面によるピーク強度
a:α−Ti相のa軸方向の格子定数
c:α−Ti相のc軸方向の格子定数
である。
本発明の実施形態の、燃料電池用のセパレータは、上記チタン材を備える。
本発明の実施形態の、燃料電池のセルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の燃料電池スタックは、上記セルを複数個備える。
本発明のチタン材およびセパレータは、高い導電性を維持できる。本発明のセルおよび燃料電池スタックは、高い発電効率を維持できる。
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の断面図である。 図2Aは、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池スタックの斜視図である。 図2Bは、固体高分子形燃料電池スタックのセルの分解斜視図である。 図3は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明で、特に断りがない限り、化学組成について、「%」は質量%を意味する。
[チタン材]
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の断面図である。チタン材10は、母材11と、母材11の上に形成されたチタン酸化物皮膜12と、チタン酸化物皮膜12の上に形成された炭素材層13とを備える。
《母材》
母材11は、純チタンからなる。ここで、「純チタン」とは、98%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。ただし、母材11において、チタン酸化物皮膜12近傍の部分、たとえば、母材11とチタン酸化物皮膜12との界面から5μm以内の部分では、母材11のTi含有率は、90%未満になり得る。本実施形態では、チタン酸化物皮膜12近傍の部分でTi含有率が90%未満の金属部分を含めて母材11という。母材11が純チタンからなることにより、母材11はα−Ti相(Tiのα相)を主相とする。純チタンとして、たとえば、JIS1種〜JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。
《チタン酸化物皮膜》
チタン酸化物皮膜12を構成するチタン酸化物として、TiO、およびTi(2n−1)(nは1〜9の整数)を挙げることができる。TiOは、実質的に導電性を有さないのに対して、Ti(2n−1)は、導電性を有する。このため、チタン酸化物皮膜12は、Ti(2n−1)を主体とすることが好ましい。チタン酸化物皮膜12の厚さは、200nm以下であることが好ましい。チタン酸化物は延展性に乏しいため、チタン酸化物皮膜12が厚すぎると加工性が低下するおそれがあるからである。
チタン酸化物皮膜12は、酸溶液に接する環境等の腐食環境において、高い耐食性を有する。このため、チタン酸化物皮膜12により、腐食環境下で母材11を保護することができる。
チタン酸化物皮膜12は、CおよびNの1種以上を含む。これにより、チタン酸化物皮膜12は、実質的にTi(2n−1)を含まない場合であっても、導電性を有する。
チタン酸化物皮膜12が存在すること、およびチタン酸化物皮膜12がCおよびNの1種以上を含むことは、以下の方法により確認することができる。まず、チタン酸化物皮膜12に垂直な断面を有するチタン材10の試料を用意する。この断面において、チタン酸化物皮膜12が形成された端部近傍を、EDS(Energy Dispersive Spectroscopy:エネルギー分散分光分析)装置が付属するSEM(Scanning Electron Microscopy:走査電子顕微鏡)を用いて観察する。
SEM像において、母材11、チタン酸化物皮膜12、および炭素材層13は、互いに異なる明度を有するので、チタン酸化物皮膜12の領域を推定することができる。この領域に対して、Ti、O、CおよびNについてEDS分析を行う。原子比で、Tiが1に対して1以上のOが検出された場合、チタン酸化物皮膜12が存在するものとする。原子比で、Tiが10に対してCが1以上であれば、チタン酸化物皮膜12はCを含むものとする。原子比で、Tiが10に対してNが1以上であれば、チタン酸化物皮膜12はNを含むものとする。SEM観察およびEDS分析は、電界放出型走査電子顕微鏡JSM−7800F(日本電子株式会社製)を使用し、加速電圧15kV、観察倍率5万倍の条件で行うことができる。
《炭素材層》
炭素材層13は、導電性を有する。炭素材層13は、黒鉛(グラファイト)を含むことが好ましい。黒鉛は、導電性を示す面が一定の方向に配向しやすい。このため、黒鉛を含む炭素材層は、その方向について良好な導電性を示す。炭素材層13が黒鉛を含むことは、たとえば、炭素材層13のラマンスペクトルが黒鉛のピークを示すことにより確認できる。具体的には、炭素材層13についてラマン分光法によって、Gバンドのピークが得られ、かつGバンドの半価幅が100cm−1以下である場合は、炭素材層13は黒鉛を十分に含むと判断することができる。Gバンドの半価幅が100cm−1より大きい場合には、炭素材層13は黒鉛を十分に含まないと判断することができる。
炭素材層13は、酸溶液に接する環境等の腐食環境において、チタン酸化物皮膜12よりさらに高い耐食性を有する。このため、炭素材層13により、腐食環境下で、チタン酸化物皮膜12および母材11を保護することができる。このため、炭素材層13は、チタン酸化物皮膜12の全面を覆うことが好ましい。
《薄膜X線回折分析による特性》
チタン材10の表層について入射角0.3°(deg)の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)は、0.8以上である。ただし、
I(101):α−Ti相の(101)面によるピーク強度
I(002):α−Ti相の(002)面によるピーク強度
である。
薄膜X線回折分析により得られるα−Ti相のピークの大部分は、母材11に起因する。α−Ti相の結晶粒が無配向である場合は、(101)面によるピークが最も大きい。この場合、I(002)/I(101)は、0.35程度である。これに比して、母材11のI(002)/I(101)は、著しく大きい。母材11では、(002)面によるピークが最も大きい場合がある。これは、α−Ti相の結晶粒のc軸と母材11の表面とが垂直に近いα−Ti相の結晶粒が多くなるように、α−Ti相の結晶粒が配向していることを意味する。
本発明者らの試験によると、I(002)/I(101)が0.8以上である母材11は、α−Ti相の結晶粒が無配向である母材に比して、母材11表面に平行な方向の導電性のみならず、母材11表面に垂直な方向の導電性も高くなる。その理由は、必ずしも明らかではない。たとえば、以下のメカニズムにより、母材11表面に垂直な方向の導電性が高くなると考えられる。α−Ti相がc軸方向に配向している場合、結晶粒間において粒界部分ではc軸方向の面間隔の狭い部分が生じる。この狭い面間隔の部分が導電パスとなることにより、母材11表面に垂直な方向の導電性が高くなると考えられる。母材11表面に垂直な方向の導電性を高くする効果を十分に奏するためには、I(002)/I(101)は、0.85以上であることが好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。
また、チタン材10の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により求めたc/aは、1.598以上である。ただし、
a:α−Ti相のa軸方向の格子定数
c:α−Ti相のc軸方向の格子定数
である。
aおよびcは、Braggの式に基づき、α−Ti相の(101)面によるピークおよびα−Ti相の(002)面によるピークが現れる回折角度(2θ)、ならびに、用いたX線(Co−Kα線)の波長(λ)から求められる。たとえば、X線としてCo−Kα線(波長:1.78897nm)を用いたときに、(002)面によるピークの回折角度が45.014°であり、(101)面によるピークの回折角度が47.068°であったとする。この場合、a=0.29483nm、c=0.46818nmとなる。この場合、c/aは、1.5880である。
純チタンのα−Ti相のc/aは、通常、1.586程度である。α−Ti相の結晶格子間に、C、N、およびOのいずれか1種以上が侵入すると、aはほとんど変化しないのに対して、cは大きくなり、その結果、c/aは大きくなる。したがって、c/aは、α−Ti相に含まれるC、N、およびOのいずれか1種以上の量の指標となる。
c/aが1.598以上であることにより、チタン酸化物皮膜12と炭素材層13との密着性が高くなる。この効果を十分に奏するためには、c/aは、1.599以上であることが好ましく、1.600以上であることがより好ましい。
c/aが1.598以上でチタン酸化物皮膜12と炭素材層13との密着性が高くなるのは、以下のメカニズムによると考えられる。母材11表層のα−Ti相で、c/aが1.598以上であるものは、CおよびNの1種以上を、一定量以上含む。チタン酸化物皮膜12は、母材11に対応する基材の表面近傍を酸化させて形成することができる。この場合、母材11表層のα−Ti相およびチタン酸化物皮膜12の双方が、CおよびNの1種以上を一定量以上含むことになる。チタン酸化物皮膜12に含まれるCおよびNの1種以上は、炭素材層13との結合の起点となる。これにより、チタン酸化物皮膜12と炭素材層13との密着性が高くなる。c/aが1.598以上であることは、チタン酸化物皮膜12と炭素材層13との密着性が十分に高くなる程度に、チタン酸化物皮膜に含まれるCおよびNの1種以上の量が多いことの目安となる。
α−Ti相の(101)面によるピークおよびα−Ti相の(200)面によるピークの強度および回折角度を求める際、以下の処理をすることが好ましい。まず、得られたX線回折パターンを21点の放物線フィルタで平滑化する。この平滑化したデータに対して、ピーク強度閾値を20cps、ピーク幅閾値を0.1°として、二次微分法でピーク検出を行う。ピーク位置は重心角度とする。以上の処理を行うために、解析ソフトとして、ライトストーン社製のJADEを使用することができる。ピーク強度は、X線回折曲線の連続バックグラウンドより上の部分の面積とする。ここで、「面積」とは、測定したカウント数を使って得た積分強度である。
以上のように、I(002)/I(101)が0.8以上であることにより、母材11表層において、母材11表面に垂直な方向の導電性が高い。また、チタン酸化物皮膜12がCおよびNの1種以上を含むことにより、チタン酸化物皮膜12の導電性は低減されている。さらに、炭素材層13も導電性を有する。したがって、チタン材10は、高い導電性を有する。炭素材層13およびチタン酸化物皮膜12が耐食性を有すること、ならびに炭素材層13とチタン酸化物皮膜12との密着性が高いことにより、腐食環境下でも、チタン材10の高い導電性は維持される。
[チタン材の製造方法]
チタン材は、たとえば、以下に説明する第1工程および第2工程を含む方法により製造することができる。第1工程では、基材を準備し、基材の表層にTiO相を主体とする酸化皮膜(以下、「中途酸化物皮膜」という。)を形成する。第2工程では、中途酸化物皮膜を還元して、Ti(2n−1)相を含むチタン酸化物皮膜を形成し、炭素材層を形成する。これにより、上記チタン材が得られる。基材は、チタン材の母材に対応する。
《第1工程》
〈基材の準備〉
基材として、冷間圧延を施し、かつ、焼鈍を施していない純チタン箔を用いる。冷間圧延を施すことにより、基材表層のα−Ti相の結晶粒は配向する。この状態の基材では、I(002)/I(101)は0.8を超える。冷間圧延後の基材に焼鈍を施すと、α−Ti相の結晶粒の配向性は低減する。第1工程では、基材に焼鈍を施さないので、α−Ti相の結晶粒の配向性は維持される。
〈基材表層の酸化〉
次に、冷間圧延を施した基材に対して、陽極酸化処理を施す。これにより、基材の表層に、厚さが10〜200nmの中途酸化物皮膜を形成する。すなわち、基材の表層に、不可避的に形成されるチタン酸化物(自然酸化皮膜)に比して厚いチタン酸化物の皮膜を形成する。中途酸化物皮膜を構成するTiは、基材に由来するので、基材と中途酸化物皮膜との密着性は高い。
陽極酸化処理は、チタンの一般的な陽極酸化処理に用いられる水溶液、たとえば、リン酸水溶液、硫酸水溶液などを用いて実施することが可能である。陽極酸化処理の電圧は、15V以上で、絶縁破壊を起こさない電圧(約150V)を上限とする。陽極酸化処理の電圧は、好ましくは、40V以上115V以下とする。電圧を40V以上とすることにより、中途酸化物皮膜中にアナターゼ型TiO相が形成される。このような中途酸化物皮膜に対して第2工程を実施することにより、Ti(2n−1)相を容易に形成することができる。115Vは、工業的に容易にチタンの陽極酸化が可能な上限の電圧である。
《第2工程》
第2工程は、炭素による還元処理を含む。この処理は、還元に寄与する炭素を含む炭素源を用いた熱処理とすることができる。この熱処理により、冷間圧延時に基材に導入された歪みが低減するとともに、中途酸化物皮膜のTiOが、より低次のチタン酸化物(Ti(2n−1))に還元される。この処理により、たとえば、下記式(a)の反応が生じる。この例では、低次のチタン酸化物はTiである。
2TiO+C→Ti+CO↑ (a)
また、この処理により、中途酸化物皮膜がCおよびNの1種以上の元素を含むようになる。
中途酸化物皮膜を構成するTiが基材に由来することにより、チタン酸化物皮膜を構成するTiも、基材に由来する。このため、得られるチタン材において、母材とチタン酸化物皮膜との密着性は高い。
〈炭素源の供給〉
まず、還元に用いる炭素源を、中途酸化物皮膜の上に供給する。炭素源は、低酸素分圧(実質的に無酸素)の雰囲気中で加熱することにより炭化する物質とすることができる。
炭素源は、たとえば、冷間圧延に用いる圧延油であってもよい。この場合、炭素源の供給は、表面に中途酸化物皮膜を形成した基材の表面に圧延油を塗布し、この基材に対して、スキンパス圧延、すなわち、圧下率が5%以下の圧延を施すことにより実施できる。圧下率が5%を超えると、中途酸化物皮膜が破壊されて、基材の表面に金属が露出してしまう。この場合、表層に所定のチタン酸化物皮膜が均一に形成されたチタン材が得られなくなるので、好ましくない。
また、炭素源は、樹脂フィルムであってもよい。この場合、炭素源の供給は、中途酸化物皮膜の上に樹脂フィルムをラミネートすることにより実施してもよい。樹脂フィルムは、たとえば、PET(Polyethylene Terephthalate)樹脂、またはポリエチレン樹脂からなるものとすることができる。
また、炭素源は、有機物を溶媒(水、または有機溶媒)に溶解させた溶液、または、有機物の微粒子を分散させた液体であってもよい。このような有機物として、たとえば、CとHとOとで構成された物質、およびCとHとOとNとで構成された物質を挙げることができる。CとHとOとで構成された物質は、たとえば、ポリビニールアルコール(以下、「PVA」と略記する。)、およびカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と略記する。)である。CとHとOとNとで構成された物質は、たとえば、ポリアニリン、およびアクリルニトリルである。
炭素源として用いることができる有機物には、水溶性の物質と難水溶性の物質とがある。PVAおよびCMCは、水溶性である。これらの有機物の水溶液は適度の粘度を有するので、中途酸化物皮膜に塗布するのに適している。有機物は、水溶性を有しなくても、有機溶媒に可溶であれば、この有機物を有機溶媒に溶解し、中途酸化物皮膜に塗布して用いることができる。
〈熱処理〉
熱処理は、低酸素分圧雰囲気、たとえば、酸素分圧が0.1Pa以下の雰囲気中で行う。熱処理の温度は、400℃以上850℃以下とする。熱処理の温度が400℃未満では、還元反応が十分に進行しない。熱処理の温度が850℃を越える温度では、炭素源から中途酸化物皮膜またはチタン酸化物皮膜を介して基材中へCが拡散し、基材中にTiC(炭化チタン)が形成される可能性がある。TiCは、条件によっては、酸溶液に溶解することがある。このため、酸溶液に接する環境、たとえば、固体高分子形燃料電池内の環境で用いるチタン材を作製する場合は、基材にTiCが形成されない条件で熱処理することが好ましい。熱処理時間は、所定の温度に到達してから10秒以上10分以下とする。熱処理時間が10秒未満では、還元反応が十分に進行しない。熱処理時間が10分を越えると、Ti(2n−1)に加えて、TiCが生成することがある。
本発明者らは、下記(i)および(ii)の処理を行った場合、基材の冷間圧延時に得られたα−Ti相の配向性が維持されることを見出した。したがって、上記の製造方法により、I(002)/I(101)が0.8以上であるチタン材を得ることができる。
(i) 陽極酸化処理により基材の表層に中途酸化物皮膜を形成する。
(ii) 中途酸化物皮膜を炭素源で覆った状態で、低酸素分圧雰囲気中で熱処理する。
第1工程で、陽極酸化処理の代わりに、酸化性雰囲気中で熱処理することにより中途酸化物皮膜を形成すると、この熱処理時に、基材の冷間圧延時に得られたα−Ti相の配向性が損なわれる。このため、中途酸化物皮膜を形成する方法としては、酸化性雰囲気中での熱処理は適さない。
低酸素分圧雰囲気中での熱処理により、中途酸化物皮膜に含まれていたO、および炭素源に含まれていたC、N、O等の軽元素は、基材において中途酸化物皮膜に隣接する部分(以下、「隣接部」という。)に拡散する。これにより、隣接部に存在するα−Ti相に軽元素が侵入し、これらの軽元素を侵入型元素として多く含むTiの結晶相が形成される。この結晶相はα−Ti構造を維持する。軽元素は結晶内の特定の位置にしか入ることができない。その結果、結晶格子は、c軸方向の長さが長くなる一方、a軸方向の長さはほとんど変化しない。したがって、熱処理により、隣接部へ軽元素を拡散させて、隣接部におけるα−Ti相のc/aを1.598以上にすることができる。熱処理後の基材について薄膜X線回折分析でc/aを求めることにより、隣接部におけるα−Ti相への軽元素の侵入量を定量することができる。
中途酸化物皮膜の上に十分な量の炭素源を供給した基材に熱処理を施した場合は、中途酸化物皮膜(チタン酸化物皮膜)の上に、炭素源に由来するCを主体とし、導電性を有する炭素材層が形成される。
炭素源の供給量が少なく、炭素源に含まれていたCの大部分が中途酸化物皮膜の還元に消費された場合でも、熱処理後に得られるチタン酸化物皮膜の上に、さらに、Cを付加することにより、炭素材層を形成することができる。Cのさらなる付加は、たとえば、塊状(ブロック状等)の導電性炭素材をチタン酸化物皮膜に対して摺動させることによって行うことができる。導電性炭素材は、黒鉛であることが好ましい。黒鉛では、炭素原子からなる六員環の面間の結合は弱い。このため、黒鉛をチタン酸化物皮膜に対して摺動させると、黒鉛は、鱗状の粒子となってチタン酸化物皮膜の表面にほぼ平行に配向して付着する。これにより、チタン酸化物皮膜の表面を黒鉛で効率的に覆うことができる。炭素材層の形成は、蒸着によって、チタン酸化物皮膜の表面へCを供給することにより行ってもよい。
[セパレータ、セル、および固体高分子形燃料電池スタック]
図2Aは、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池スタックの斜視図である。図2Bは、固体高分子形燃料電池スタックのセル(単セル)の分解斜視図である。図2Aおよび図2Bに示すように、固体高分子形燃料電池スタック1(以下、単に、「スタック1」という。)は単セルの集合体である。スタック1において、複数のセルが積層され直列に接続されている。
図2Bに示すように、単セルでは、固体高分子電解質膜2の一面および他面に、それぞれ、燃料電極膜(アノード)3、および酸化剤電極膜(カソード)4が積層されている。そして、この積層体の両面にセパレータ5a、5bが重ねられている。セパレータ5a、5bは、上記チタン材10(図1参照)を備える。
固体高分子電解質膜2を構成する代表的な材料として、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素系イオン交換樹脂膜がある。燃料電極膜3および酸化剤電極膜4は、カーボンシートからなる拡散層と、拡散層の表面に接するように設けられた触媒層とを備えている。カーボンシートは、カーボン繊維から構成される。カーボンシートとしては、カーボンペーパ、またはカーボンクロスが用いられる。触媒層は、粒子状の白金触媒と、触媒担持用カーボンと、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素樹脂とを有する。固体高分子電解質膜2に、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4が貼り合わされた一体的な構成部材は、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。
セパレータ5a、5bには、それぞれ、溝である流路6a、6bが形成されている。流路6a、6bは、サーペンタイン流路を構成する。図2Bでは、セパレータ5a、5bの周縁部は図示を省略している。
セパレータ5aの流路6aには、燃料ガス(水素または水素含有ガス)G1が流される。これにより、燃料電極膜3に燃料ガスG1が供給される。燃料電極膜3では、燃料ガスG1は拡散層を透過して触媒層に至る。また、セパレータ5bの流路6bには、空気等の酸化性ガスG2が流される。これにより、酸化剤電極膜4に酸化性ガスG2が供給される。酸化剤電極膜4では、酸化性ガスG2は拡散層を透過して触媒層に至る。燃料ガスG1および酸化性ガスG2の供給により、電気化学反応が生じて、燃料電極膜3と酸化剤電極膜4との間に、直流電圧が発生する。
セパレータ5a、5bは、チタン材10を備えることにより、電極膜3、4との初期の接触抵抗は低い。また、チタン材10が、高い耐食性を有することにより、スタック1内の腐食環境(酸溶液の環境)で、セパレータ5a、5bと電極膜3、4との低い接触抵抗は維持される。これにより、セルおよびスタック1は、高い発電効率を維持することができる。
セパレータ5a、5bは、薄板状のチタン材10をプレス成形することにより、流路(溝)6a、6bを形成して得ることができる。また、薄板状の基材を、セパレータ5a、5bの形状に成形してから、その基材に対して、陽極酸化処理、炭素源の供給、および熱処理等を実施することにより、チタン材10を備えるセパレータ5a、5bを形成してもよい。
本発明の燃料電池スタックは、固体高分子形燃料電池スタックに限られず、たとえば、固体電解質形燃料電池スタック、溶融炭酸塩形燃料電池スタック、またはリン酸形燃料電池スタックであってもよい。
本発明の効果を確認するため、各種のチタン材を作製して評価した。表1に、チタン材の製造条件を示す。
Figure 2019214781
《基材》
基材は、厚さが0.1mmの板状のJIS1種チタン材であった。表2に、基材の組成を示す。基材として、冷間圧延を行った後、焼鈍を施していないものおよび焼鈍を施したものを用いた。焼鈍を施していない基材に対しては、後述の熱処理を行う前には、300℃以上でのいかなる加熱も行わなかった。焼鈍は、800℃のAr雰囲気中で30分保持することにより実施した。
Figure 2019214781
基材表層の配向性を、リガク社製X線回折装置RINT2500を使用して、薄膜X線回折分析により調査した。焼鈍を施さなかった基材については、X線回折パターンの最大のピークは、α−Ti相の(002)面によるものであった。一方、焼鈍を施した基材については、X線回折パターンの最大のピークは、α−Ti相の(101)面によるものであった。
《チタン酸化物皮膜の形成》
第1工程として、基材に対して陽極酸化処理を施した。ただし、比較例2の基材に対しては、比較のため、陽極酸化処理を施さなかった。その後、第2工程として、基材に対して、炭素源の供給、および低酸素分圧雰囲気中での熱処理を行った。ただし、比較例1および4の基材に対しては、比較のため、炭素源を供給しなかった。また、比較例2の基材に対しては、比較のため、熱処理を行わなかった。以下、第1工程および第2工程について、詳細に説明する。
〈第1工程〉
比較例2を除き、基材の表層を陽極酸化処理することにより、中途酸化物皮膜を形成した。陽極酸化処理は、8質量%の硫酸(HSO)および1質量%のリン酸(HPO)を含む水溶液中で、直流安定化電源により、基材と対極との間に60Vの電圧を印加することにより実施した。対極として、白金製の電極を用いた。電圧の印加開始後、60Vの電圧まで2.0V/秒の速度で電圧を上げ、その後、60秒間保持して処理を完了した。これにより、中途酸化物皮膜を形成した。
〈第2工程〉
比較例1および4を除き、下記方法1〜3のいずれかにより、基材(中途酸化物皮膜)の上に炭素源を供給した。
方法1:樹脂の塗布
基材の表面に、炭素源として、導電性樹脂であるポリアニリンを塗布した。より詳細には、ポリアニリンのトルエン溶液(化研産業社製PANT)を、バーコーターを用いて、基材の一方の主面に塗布した。この状態の基材を、室温で3時間乾燥させて、ポリアニリンの塗膜を得た。目視により、塗膜が乾燥したこと、および塗膜の剥離がないことを確認した後、基材の他方の主面にも、同様にポリアニリンのトルエン溶液を塗布した。この状態の基材を、室温で24時間乾燥させて、基材の他方の主面にも、ポリアニリンの塗膜を形成した。塗膜は、基材の一方および他方の主面に形成された中途酸化物皮膜の全面に形成された。
方法2:樹脂フィルムのラミネート
基材を、炭素源としての樹脂フィルム(明光商会社製MSパウチフィルム)で挟んだ。この樹脂フィルムは、ポリエチレンからなるものであった。樹脂フィルムの厚さは、100μmであった。この状態の基材に対して、ラミネーター(アコ・ブランズ・ジャパン社製フュージョン5100L)を用いて、樹脂フィルムを加熱圧着させた。樹脂フィルムは、基材の一方および他方の主面に形成された中途酸化物皮膜の全面に付着された。
方法3:圧延油の塗布
基材の表面に、炭素源としての圧延油を塗布して、圧下率1%のスキンパス圧延を行った。圧延油として、出光興産社製ダフニーロールオイルX−4Kを使用した。圧延油は、基材の一方および他方の表面に形成された中途酸化物皮膜の全面に付着された。
比較例2を除き、以上の処理を施した基材を、Ar雰囲気中で熱処理して、中途酸化物皮膜を構成するTiOを還元した。Ar雰囲気の露点は、−60℃であった。Ar雰囲気の酸素分圧は、0.02Paであった。表1の「熱処理条件」の欄に、熱処理の温度およびその温度での保持時間を示す。比較例1,2および4を除き、熱処理後の基材表面には、炭素源を起源とする炭素材層が形成されていた。比較例2では、熱処理を行わなかったので、炭素源として塗布した圧延油はまま残存した。したがって、炭素材層は得られなかった。
以上の工程により、本発明例1〜3ならびに比較例3および5として、母材の上に、チタン酸化物皮膜、および炭素材層がこの順に形成されたチタン材を得た。比較例1,2および4として、母材の上にチタン酸化物皮膜が形成されたチタン材を得た。
以上のチタン材について、以下の評価をした。表1に、評価結果を示す。
《薄膜X線回折分析》
上述の方法による薄膜X線回折分析により、I(002)/I(101)(以下、「配向比」という。)、およびc/aを求めた。薄膜X線回折分析の条件は、以下の通りであった。
入射角:0.3°
X線:Co−Kα
励起:加速電圧を30kVとした100mAの電子線照射
測定対象の回折角度(2θ)の範囲:20〜110°
スキャン:0.04°のステップでのステップスキャン
各ステップの固定時間:4秒
《チタン酸化物皮膜中のCおよびN》
上述のSEM観察およびEDS分析により、いずれの試料についても、母材の上にチタン酸化物皮膜が形成されていることを確認した上で、チタン酸化物皮膜にCおよびNの1種以上が含まれているか否かを調査した。
《接触抵抗》
得られたチタン材の試料について、非特許文献1に記載されている方法に準じ、接触抵抗を測定した。図3は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、各試料の接触抵抗を測定した。図3を参照して、まず、作製した試料Sを、燃料電池用の電極膜(ガス拡散層)として使用される1対のカーボンペーパ(東レ(株)製TGP−H−90)22で挟み、これを金めっきした1対の電極23で挟んだ。各カーボンペーパ22の面積は、1cmであった。
次に、この1対の金めっき電極23の間に、10kgf/cm(9.81×10Pa)の荷重を加えた。図3に、荷重の方向を白抜き矢印で示す。この状態で、1対の金めっき電極23間に一定の電流を流し、このとき生じるカーボンペーパ22と試料Sとの間の電圧降下を測定した。この結果に基づいて抵抗値を求めた。得られた抵抗値は、試料Sの両面の接触抵抗を合算した値となるため、これを2で除して、試料Sの片面あたりの接触抵抗値とした。表1の「初期」の欄に、このようにして測定した接触抵抗の値を示す。
《耐食性の調査》
得られたチタン材の試料を、90℃で、Fを5ppm含有するpH2の硫酸(HSO)水溶液に50時間浸漬した後、水洗して乾燥させた。そして、上述の方法により、この試料の接触抵抗を測定した。表1の「浸漬後」の欄に、このようにして測定した接触抵抗の値を示す。耐食性が良好ではない場合には、硫酸水溶液が接触することにより、チタン材のチタン酸化物皮膜上に、TiOを主体とする不動態皮膜が成長するので、浸漬前と比較して接触抵抗が上昇する。
《密着性》
上記耐食性の調査で、硫酸水溶液中の浸漬、水洗、および乾燥を行った後の試料について、テープ剥離試験により、チタン酸化物皮膜と炭素材層との間の密着性を評価した。テープ剥離試験は、JISH8504のめっきの密着性試験方法で、「g)引きはがし試験方法」の「1)テープ試験方法」に準拠した方法により行った。ただし、比較例1,2および4については、炭素材層が形成されなかったことにより、テープ剥離試験を実施しなかった。表1の「密着性」の欄の記号の意味は、以下の通りである。
○:チタン酸化物皮膜の剥離なし
×:チタン酸化物皮膜の剥離あり
《評価結果》
本発明例1〜3の試料では、いずれも、配向比は0.8以上であった。これらの試料の製造工程では、いずれも、基材の冷間圧延時に基材表層のα−Ti相が配向し、中途酸化物皮膜を炭素源で覆った状態で低酸素分圧雰囲気中にて熱処理したことにより、基材表層のα−Ti相の配向比が維持された。
本発明例1〜3の試料では、いずれも、c/aは1.598以上であった。このことから、母材の表層において、α−Ti相の格子間に、C、N、およびOのいずれか1種以上が侵入していたと考えられる。これらの試料のチタン酸化物皮膜には、CおよびNが含まれていた。また、これらの試料では、炭素材層の剥離は生じなかった。すなわち、チタン酸化物皮膜と炭素材層との密着性は高かった。c/aが1.598以上であることから、チタン酸化物皮膜中のCおよびNの1種以上の含有率は高く、このCおよびNの1種以上が炭素材層との結合の起点となり、チタン酸化物皮膜と炭素材層との密着性を高めたと考えられる。
これらの試料では、初期および浸漬後の接触抵抗は、いずれも、10Ω・cm未満と低かった。初期の接触抵抗が低かったのは、下記の理由による。
・母材の表層でα−Ti相が配向していた。
・チタン酸化物皮膜に低次のチタン酸化物が形成されていた。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を含んでいた。
・導電性を有する炭素材層が形成されていた。
浸漬後の接触抵抗が低かったのは、炭素材層とチタン酸化物皮膜との密着性が高かったことにより、炭素材層によって硫酸水溶液からチタン酸化物皮膜が保護され、チタン酸化物皮膜上に、不動態皮膜が成長しなかったためである。
比較例1の試料では、配向比は、0.8以上と高かったが、本発明例1〜3の試料の配向比に比して低かった。これは、比較例1の試料の製造工程では、中途酸化物皮膜の上に炭素源が存在しない状態で熱処理を行ったことによる。
比較例1の試料では、c/aは1.598未満と低かった。この試料のチタン酸化物皮膜には、CおよびNのいずれも含まれていなかった。これは、比較例1の試料の製造工程では、基材(チタン酸化物皮膜)の上に炭素源を供給しなかったことにより、CおよびNのいずれも、チタン酸化物皮膜および基材に拡散しなかったことによる。
この試料の接触抵抗は、初期は10Ω・cmと低かったが、浸漬後は600Ω・cmと著しく高くなった。これは、この試料が炭素材層を備えていなかったことにより耐食性が乏しかったことによる。
比較例2の試料では、配向比は0.8以上であり、また、本発明例1〜3の試料の配向比より高かった。これは、比較例2の試料の製造工程では熱処理を行っていないことにより、冷間圧延時に得られたα−Ti相の配向比が、そのまま維持されたことによる。
比較例2の試料では、c/aは、1.598未満と低く、別途測定した試料深部のc/aとほぼ同じであった。これは、比較例2の試料の製造工程で、炭素源の供給後、熱処理を行わなかったことにより、炭素源からCおよびNの1種以上が基材に拡散することがなかったためである。
また、比較例2では、炭素材層は形成されず、圧延油が存在していた。圧延油は液体であるため、母材に対する密着性は極めて低かった。この試料の接触抵抗は、初期は8Ω・cmと低かったが、浸漬後は、120Ω・cmと著しく高くなった。これは、圧延油によっては、浸漬時にチタン酸化物皮膜を十分に保護できなかったためである。
比較例3の試料では、配向比は0.8以上と高かったが、本発明例1〜3の試料の配向比に比して低かった。これは、熱処理時間が45分と長かったことにより、冷間圧延時に得られた配向比が熱処理によりわずかに低下したためである。
比較例3の試料では、c/aが1.598未満であり、また、チタン酸化物皮膜にCおよびNのいずれも含まれていなかった。これは、この試料の製造工程で、熱処理の温度が350℃と低かったため、炭素源から中途酸化物皮膜および基材にCおよびNのいずれも実質的に拡散しなかったことによる。
比較例3の試料の接触抵抗は、初期および浸漬後がそれぞれ52Ω・cmおよび320Ω・cmと高かった。また、この試料では、炭素材層の剥離が生じた。初期の接触抵抗が高かったのは、下記の理由による。
・熱処理の温度が低かったことにより、十分に高い導電性を有する炭素材層が得られなかった。
・熱処理の温度が低かったことにより、中途酸化物皮膜を構成するTiOが炭素源により十分に還元されなかった。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を実質的に含まなかった。
炭素材層の剥離が生じたのは、チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を含まなかったことによる。浸漬後の接触抵抗が高かったのは、チタン酸化物皮膜に対する炭素材層の密着性が低く、浸漬時にチタン酸化物皮膜を十分に保護できなかったためである。
比較例4の試料では、配向比は、0.8未満であった。これは、基材として、冷間圧延後に焼鈍を施したものを用いたためである。この試料では、c/aは、1.598未満であり、また、チタン酸化物皮膜にCおよびNのいずれも含まれていなかった。これは、この試料の製造工程で、中途酸化物皮膜の上に炭素源を供給せずに熱処理したことにより、CおよびNのいずれも、チタン酸化物皮膜および基材に拡散しなかったことによる。
比較例4の試料では、初期および浸漬後の接触抵抗は、それぞれ23Ω・cmおよび700Ω・cmと高かった。初期の接触抵抗が高かったのは、下記の理由による。
・母材の表層のα−Ti相が配向していなかった。
・チタン酸化物皮膜に低次のチタン酸化物が実質的に形成されていなかった。
・チタン酸化物皮膜がCおよびNの1種以上を実質的に含まなかった。
・炭素材層が形成されていなかった。
浸漬後の接触抵抗が高かったのは、炭素材層が形成されていなかったことにより、浸漬時にチタン酸化物皮膜を十分に保護できなかったためである。
比較例5の試料では、配向比は0.8未満であった。これは、基材として、冷間圧延後に焼鈍を施したものを用いたためである。この試料では、初期および浸漬後の接触抵抗は、それぞれ21Ω・cmおよび30Ω・cmと高かった。初期の接触抵抗が高かったのは、母材の表層のα−Ti相が配向していなかったことによる。初期の接触抵抗が高かったため、浸漬後の接触抵抗も高かった。
1:固体高分子形燃料電池スタック
5a、5b:セパレータ
10:チタン材
11:母材
12:チタン酸化物皮膜
13:炭素材層
S:試料(チタン材)

Claims (4)

  1. 純チタンからなる母材と、
    前記母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、
    前記チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層と
    を備えるチタン材であって、
    当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、
    前記チタン酸化物皮膜は、CおよびNの1種以上を含む、チタン材。
    ただし、
    I(101):α−Ti相の(101)面によるピーク強度
    I(002):α−Ti相の(002)面によるピーク強度
    a:α−Ti相のa軸方向の格子定数
    c:α−Ti相のc軸方向の格子定数
    である。
  2. 請求項1に記載のチタン材を備える、燃料電池用のセパレータ。
  3. 請求項2に記載のセパレータを備える、燃料電池のセル。
  4. 請求項3に記載のセルを複数個備える、燃料電池スタック。
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