JP6805823B2 - チタン材、セパレータ、セル、および固体高分子形燃料電池 - Google Patents
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Description
純チタンまたはチタン合金からなる母材と、
前記母材の上に形成され、第1主相および第2主相を含むチタン酸化物皮膜と、を備え、
当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により複数種の結晶相が同定され、
前記第1主相は、前記薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であり、
前記第2主相は、前記薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、β−Ti相、および前記第1主相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であり、
前記第1および第2主相が、いずれも、TinO(2n-1)(nは、1〜9の整数)相のいずれかであり、
前記第2主相の最強ピーク強度が前記第1主相の最強ピーク強度の20%以上であり、
前記薄膜X線回折分析によりTiO2相に起因するピークが認められる場合は、前記第1主相の最強ピーク強度と前記第2主相の最強ピーク強度との合計が、TiO2相の最強ピーク強度の5倍以上であり、
前記薄膜X線回折分析によりTiO2相に起因するピークが認められない場合は、前記第1主相の最強ピーク強度と前記第2主相の最強ピーク強度との合計が、α−Ti相の最強ピーク強度の8%以上である、チタン材である。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池のセルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池は、上記セルを備える。
チタン材は、母材と、母材の表面に形成されたチタン酸化物皮膜とを備える。
母材は、純チタンまたはチタン合金からなる。ここで、「純チタン」とは、98.8%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。純チタンとして、たとえば、JIS1種〜JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。「チタン合金」とは、70%以上のTiを含有し、残部が合金元素と不純物元素とからなる金属材を意味する。チタン合金として、たとえば、耐食用途のJIS11種、13種、もしくは17種、または高強度用途のJIS60種を用いることができる。
チタン酸化物皮膜は、第1主相および第2主相を含む。第1および第2主相は、後述のX線回折分析により特定される。第1および第2主相は、いずれも、TinO(2n-1)(nは、1〜9の整数;以下、特に断りのない限り、同様)相のいずれかである。すなわち、チタン酸化物皮膜は、TinO(2n-1)の2種以上を主たる相(およそ存在比が大きい相)として含む。これにより、チタン酸化物皮膜に繰り返し応力変動が与えられたとき、チタン材の接触抵抗の上昇が抑制される。nは、1〜9の範囲で小さい方が、このような効果が得られやすい。この点で、nは、1〜5の整数であることが好ましい。
このチタン材では、表層について入射角0.3°(deg)の薄膜X線回折分析を行うと、複数種の結晶相が同定される。ここで、「表層」とは、チタン酸化物皮膜と、母材においてチタン酸化物皮膜の近傍の部分とを意味する。第1主相は、薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相である。第2主相は、α−Ti相、β−Ti相、および第1主相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相である。第1および第2主相を特定するのにα−Ti相およびβ−Ti相を除くのは、これらの相の大部分がチタン酸化物皮膜を構成するものではなく、母材に含まれるTiであるためである。
X線:Co−Kα線
励起:加速電圧を30kVとした100mAの電子線照射
測定対象の回折角度:2θ=20〜100°
スキャン:0.02°のステップでのステップスキャン
各ステップの固定時間:10秒
(i)候補となる結晶相のDB回折線において強度が強い順に3番目までのDB回折線のうち、実測回折線と一致するDB回折線の数。
(ii)同様に、強度が強い順に8番目までのDB回折線のうち、実測回折線と一致するDB回折線の数。
I2≧0.2×I1 …(1)
(I1+I2)≧5×ITiO2 …(2A)
(I1+I2)≧0.08×ITi …(2B)
チタン酸化物皮膜の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。チタン酸化物皮膜の厚さが10nm未満であると、チタン材と他の部材との擦過により、チタン酸化物皮膜が損耗し、母材が露出するおそれがある。露出した母材の表面には、TiO2を主体とする自然酸化膜が形成される。したがって、この場合は、チタン酸化物皮膜がTinO(2n-1)の2種以上を主たる相として含んでいても、安定した導電性は得られない。チタン酸化物皮膜の厚さは、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。
このチタン材は、以下に説明する第1工程および第2工程を含む方法により製造することができる。第1工程では、母材の表層を酸化させて、TiO2相を主体とする酸化皮膜(以下、「中途酸化物皮膜」という。)を形成する。第2工程では、中途酸化物皮膜を還元処理して、TinO(2n-1)相の2種以上を含むチタン酸化物皮膜を形成する。
第1工程は、酸化性雰囲気中での熱処理、または陽極酸化処理を含むものとすることができる。母材の表面に均質な酸化皮膜を生成させるという観点では、陽極酸化処理を採用することが好ましい。
酸化性雰囲気は、たとえば大気雰囲気とすることができる。大気雰囲気中で母材の表面に中途酸化物皮膜を生成させるためには、350℃以上700℃以下の温度で加熱する。350℃未満での加熱では、生成する中途酸化物皮膜の厚さが薄く、第2工程での還元処理により、酸化皮膜が消失する可能性がある。また、700℃を超える温度で加熱すると、気孔率が大きい中途酸化物皮膜が生成し、中途酸化物皮膜そのものが脱落するおそれがある。より好ましい温度範囲は、干渉色が青色から紫色となる500℃以上700℃以下である。加熱時間は、たとえば、所定の温度に到達してから、5分〜90分とすることができる。
陽極酸化処理は、チタンの一般的な陽極酸化に用いられる水溶液、たとえば、リン酸水溶液、硫酸水溶液などを用いて実施することが可能である。陽極酸化の電圧は、15V以上で、絶縁破壊を起こさない電圧(約150V)を上限とする。陽極酸化の電圧は、好ましくは、40V以上115V以下とする。電圧を40V以上とすることにより、中途酸化物皮膜中にアナターゼ型TiO2相が形成される。このような中途酸化物皮膜に対して第2工程を実施するとTinO(2n-1)相を多く含むチタン酸化物皮膜を形成することができる。115Vは、工業的に容易にチタンの陽極酸化が可能な上限の電圧である。
第2工程は、たとえば、炭素による還元処理を含むものとすることができる。この処理は、還元に寄与する炭素を含む炭素源を用いた熱処理とすることができる。この熱処理では、一例として、下記式(a)の反応により、TiO2が、より低次の酸化物(この例では、Ti2O3)に還元される。
2TiO2+C→Ti2O3+CO↑ (a)
このセパレータは、上記チタン材を備える。セパレータにおいて電極膜との接触部には、チタン酸化物皮膜が存在する。このため、固体高分子形燃料電池内で、セパレータと電極膜との初期の接触抵抗は低いとともに、セパレータと電極膜との接触部に応力変動が繰り返し与えられても、チタン酸化物皮膜の導電性は劣化しにくい。さらに、チタン材(チタン酸化物皮膜)が耐食性を有することにより、セパレータは耐食性を有する。すなわち、セパレータの導電性と耐食性とは安定している。
セルは、上記セパレータと、固体高分子電解質膜と、燃料電極膜(アノード)と、酸化剤電極膜(カソード)とが、所定の順序で積層された公知の構造を有するものとすることができる。固体高分子形燃料電池は、複数のセルが積層され電気的に直列に接続された公知の構造を有するものとすることができる。これらのセルおよび固体高分子形燃料電池では、セパレータの導電性と耐食性とが安定していることにより、セパレータと電極膜との低い接触抵抗が維持される。これにより、これらのセルおよび固体高分子形燃料電池は、高い発電効率を維持することができる。また、セパレータに貴金属を用いる必要がないので、これらのセルおよび固体高分子形燃料電池は低コストである。
1.母材の準備
母材として、厚さが0.1mmの板状のJIS1種チタン材、および厚さが1mmの板状のJIS17種チタン合金材を使用した。表1に、母材の組成を示す。
第1工程として母材の表面に中途酸化物皮膜を形成した後、第2工程として中途酸化物皮膜を還元処理することにより、チタン酸化物皮膜を形成した。
中途酸化物皮膜は、母材の表面を大気酸化または陽極酸化することにより形成した。大気酸化は、アズワン社製ガス置換マッフル炉を用い、空気ボンベから0.5L/分の流量で炉内に空気を導入しながら実施した。陽極酸化は、10質量%硫酸水溶液中、白金製の対極を用い、直流安定化電源により、母材と対極との間に所定の電圧を印加することにより実施した。電圧の印加開始後、電流が除々に下がり低位に安定してから30秒間保持して処理を完了した。
本実施例では、PVAを用いて中途酸化物皮膜の還元を実施した。PVAとして、キシダ化学社製試薬(重合度:500、鹸化度:86.5〜89)を用いた。このPVAの10質量%水溶液を作製した。この水溶液中に、室温で、中途酸化物皮膜が形成された母材を浸漬した。これにより、中途酸化物皮膜の表面にこの水溶液を塗布した。その後、この母材を大気中で24時間乾燥した。以上の処理を経た母材を、常圧のAr雰囲気中で加熱することにより、中途酸化物皮膜の還元処理を行った。Ar雰囲気は、純度が99.995%以上で3ppm未満のOを含有する工業用アルゴンガスを用いて得た。
上述の中途酸化物皮膜のTiO2相の同定と同様の条件により、チタン材の試料表層部について、薄膜X線回折分析を行った。その結果に基づいて、第1および第2主相を同定した。また、ピーク強度ITi、I1、I2、およびITiO2を測定した。これらの強度に基づき、各試料について、I2/I1を求め、さらに、TiO2相に起因するピークが認められた場合は(I1+I2)/ITiO2を求めた。TiO2相に起因するピークが認められなかった場合は(I1+I2)/ITiを求めた。
チタン酸化物皮膜の厚さを、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、チタン材の表面からの深さ方向に、O含有率の分析を行うことで測定した。測定装置として、アルバックファイ社製のQuantum2000を用いた。X線源は、mono-Al Kα線を用いた。X線のビーム直径は、200μmとした。Ar+を加速電圧2kVで加速し、チタン材の表面を5.4nm/分の速度でスパッタした。O含有率が最大値の1/2に低減した深さをチタン酸化物皮膜の厚さと定義した。
得られたチタン材の試料について、非特許文献3に記載されている方法に準じ、接触抵抗を測定した。図1は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、各試料の接触抵抗を測定した。図1を参照して、まず、作製した試料11を、燃料電池用のガス拡散層として使用される1対のカーボンペーパ(東レ(株)製 TGP−H−90)12で挟み込み、これを金めっきした1対の電極13で挟んだ。各カーボンペーパ12の面積は、1cm2であった。
得られたチタン材の試料(繰り返し変動する荷重を加えていないもの)を、90℃、pH2のH2SO4水溶液に96時間浸漬した後、十分に水洗して乾燥させた。そして、上述の方法により接触抵抗を測定した。耐食性が良好ではない場合には、チタン材表面の不動態皮膜が成長するので、浸漬前と比較し接触抵抗が上昇する。
Claims (6)
- 純チタンまたはチタン合金からなる母材と、
前記母材の上に形成され、第1主相および第2主相を含むチタン酸化物皮膜と、を備えるチタン材であって、
当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により複数種の結晶相が同定され、
前記第1主相は、前記薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であり、
前記第2主相は、前記薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、β−Ti相、および前記第1主相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であり、
前記第1および第2主相が、いずれも、TinO(2n-1)(nは、1〜9の整数)相のいずれかであり、
前記第2主相の最強ピーク強度が前記第1主相の最強ピーク強度の20%以上であり、
前記薄膜X線回折分析によりTiO2相に起因するピークが認められる場合は、前記第1主相の最強ピーク強度と前記第2主相の最強ピーク強度との合計が、TiO2相の最強ピーク強度の5倍以上であり、
前記薄膜X線回折分析によりTiO2相に起因するピークが認められない場合は、前記第1主相の最強ピーク強度と前記第2主相の最強ピーク強度との合計が、α−Ti相の最強ピーク強度の8%以上である、固体高分子形燃料電池のセパレータ用のチタン材。 - 請求項1に記載のチタン材であって、前記nが1〜5の整数である、チタン材。
- 請求項1または2に記載のチタン材であって、
前記チタン酸化物皮膜の厚さが、10〜1000nmである、チタン材。 - 請求項1〜3のいずれかに記載のチタン材を備える、固体高分子形燃料電池のセパレータ。
- 請求項4に記載のセパレータを備える、固体高分子形燃料電池のセル。
- 請求項5に記載のセルを備える、固体高分子形燃料電池。
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