JP7200787B2 - 電極板 - Google Patents
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Description
本発明において「電極板」という時は、これらの総称、すなわち、MEAの用途を問わず、MEAの両面に配置される拡散層等を含む導電性部材の総称を表す。
例えば、特許文献1には、チタン合金板とステンレス鋼板の積層板からなる複極板を備えた水電解槽が開示されている。
同文献には、
(a)複極板としてチタン合金を用いる場合、陰極側を白金メッキして水素脆化を防止する必要があるが、白金メッキを施しても水素脆化を完全に防止できない点、及び、
(b)ステンレス鋼板が陰極側に来るように積層板を配置すると、チタン合金の水素脆化防止のために複極板の陰極側を白金メッキする必要がなくなる点、
が記載されている。
同文献には、
(a)電子伝導性を有する酸化チタンはカーボンより耐食性が高いが、電子伝導性を付与するためには1000℃近い高温での還元焼成が必要であるために、還元と同時に粒子が粗大化する点、及び、
(b)酸化チタンと樹脂(PVA)とを均一に混合したものを高温の水素雰囲気下で還元焼成処理すると、酸化チタンの表面にカーボン層が形成され、酸化物粉体間の焼結を防止することができる点
が記載されている。
(1)前記電極板は、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、チタン亜酸化物を含む。
(3)前記被覆膜は、次の式(1)を満たす。
I/I0≦0.8 …(1)
但し、
Iは、TiO2のA1gモードに対応する417cm-1付近のラマンピーク強度、
I0は、前記チタン亜酸化物由来の140~170cm-1付近のラマンピーク強度。
基板上に、スパッタ法を用いてチタン亜酸化物からなる被覆膜を形成する第1工程と、
前記被覆膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理し、前記被覆膜の表層に含まれるTiO2を還元し、前記チタン亜酸化物の結晶性を向上させる第2工程と
を備えている。
[1. 電極板]
本発明に係る電極板は、以下の構成を備えている。
(1)前記電極板は、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、チタン亜酸化物を含む。
(3)前記被覆膜は、実質的にTiO2を含まない。
基板の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。電極板には、通常、発電用燃料、酸化剤、電解用原料、あるいは反応生成物を流通させるためのガス流路が設けられている。
但し、本発明においては、被覆膜に高耐食性、かつ、高導電性のチタン亜酸化物が用いられるため、基板は、少なくともMEAの使用環境に耐える耐食性を持つものであれば良く、必ずしも導電性材料である必要はない。
(a)チタン若しくはチタン合金、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、銅、ニッケル、モリブデン、クロムなどの金属、
(b)カーボン、
(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック材料、及び、プラスチック材料をガラス、カーボン、樹脂等の繊維で強化した繊維強化樹脂などの高分子材料
などがある。
ステンレス鋼は、安価であり、加工性に優れているという利点がある。
アルミニウム又はアルミニウム合金や高分子材料は、安価、軽量であり、加工性にも優れているという利点がある。
[1.2.1. 材料]
被覆膜は、高耐食・高導電性のチタン亜酸化物を含む。本発明において、「チタン亜酸化物」とは、次の式(1)で表される組成を有する化合物をいう。
TixO2x-1 …(1)
但し、xは、1以上の整数。
他の相としては、例えば、
(a)不可避的不純物、
(b)チタン亜酸化物以外の高耐食性物質、
などがある。
但し、TiO2は、絶縁体であるため少ないほど良い。この点については後述する。
被覆膜の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、被覆膜の厚さが薄くなりすぎると、十分な耐食性が得られない。従って、被覆膜の厚さは、0.02μm以上が好ましい。被覆膜の厚さは、好ましくは、0.03μm以上、さらに好ましくは、0.04μm以上である。
一方、被覆膜の厚さが厚くなりすぎると、基板との密着性が低下し、剥離や割れが生じるおそれがある。従って、被覆膜の厚さは、500μm以下が好ましい。被覆膜の厚さは、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、100μm以下である。
基板が導電性材料からなる場合、被覆膜は、基板の全面に形成されていても良く、あるいは、電極との接触面にのみ形成されていても良い。基板には、通常、ガス流路を形成するための凹凸が形成されており、電極板は凸部を介して電極と接触する。このような場合、電極との非接触面に高抵抗層が形成されたとしても電子の授受に支障はないので、少なくとも電極との接触面(凸部の先端面)に被覆膜を形成すれば良い。
一方、基板が導電性材料でない場合、電子の授受は被覆膜を介して行われる。このような場合には、被覆膜は、電極との接触面だけでなく、電極と負荷又は電源との間で電子の授受が可能となる位置に形成する必要がある。
本発明において、被覆膜は、成膜後に不活性雰囲気下又は還元雰囲気下で熱処理することにより得られる。そのため、被覆膜は、実質的にTiO2を含まない。本発明に係る被覆膜は、具体的には、次の式(1)を満たす。
I/I0≦0.8 …(1)
但し、
Iは、TiO2のA1gモードに対応する417cm-1付近のラマンピーク強度、
I0は、前記チタン亜酸化物由来の140~170cm-1付近のラマンピーク強度。
本発明に係る電極板は、
(a)固体高分子形燃料電池用セパレータ、
(b)PEM水電解装置用バイポーラプレート、
などに用いることができる。
本発明に係る電極板の製造方法は、
基板上に、スパッタ法を用いてチタン亜酸化物からなる被覆膜を形成する第1工程と、
前記被覆膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理し、前記被覆膜の表層に含まれるTiO2を還元し、前記チタン亜酸化物の結晶性を向上させる第2工程と
を備えている。
まず、基板上に、スパッタ法を用いてチタン亜酸化物からなる被覆膜を形成する(第1工程)。
電極板は、所定の形状を有する基板の表面に、所定のパターンで被覆膜を形成することにより製造することができる。
被覆膜の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、めっき法、プラズマ法、CVD法などがある。これらの中でも、スパッタリング法は、他の方法と比べて低コストであり、大面積の成膜も容易であるので、被覆膜の形成方法として好適である。
次に、前記被覆膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理し、前記被覆膜の表層に含まれるTiO2を還元し、前記チタン亜酸化物の結晶性を向上させる(第2工程)。
一方、熱処理温度が高すぎると、基板がダメージを受けるため、強度が低下する。従って、熱処理温度は、800℃以下である必要がある。熱処理温度は、好ましくは、780℃以下、さらに好ましくは、740℃以下である。
チタン亜酸化物は、耐食性及び導電性に優れている。また、チタン亜酸化物は、貴金属を含まないため、低コストである。さらに、チタン亜酸化物からなる薄膜は、比較的低コストなスパッタ法により成膜することができる。そのため、チタン亜酸化物からなる薄膜を電極板の被覆膜に適用すれば、耐食性及び導電性に優れ、しかも低コストな電極板を得ることができる。
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
スパッタ法により、Ti基板(0.1×100×50mm、(株)ニラコ製)の表面にチタン亜酸化物からなる被覆膜を成膜した。ターゲットには、Ti4O7を用いた。スパッタ時の雰囲気はAr雰囲気とし、成膜時の基板温度は40℃とした。さらに、被覆膜の膜厚は、0.3μmとした。成膜後、被覆膜付き基板をAr雰囲気中において、700℃で5時間熱処理した。熱処理後、Ti基板を切断し、1cm×2cmの試料を得た。
被覆膜を成膜した後、熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[2.1. 耐食試験]
1Lのセパラブルフラスコに0.01N硫酸を800mL入れた。これをマントルヒーターにセットし、80℃まで加熱した。80℃に保たれた硫酸に試料を浸漬し、試料に2.0Vの電圧を6時間印加した。
[2.2. 抵抗測定]
電圧印加前後の抵抗変化を測定するために、ロードセルで試料(1cm×2cm)に1MPa加圧した。試料面に垂直方向に0~0.5Aの電流を流した時の電圧値を測定した。さらに、電圧値から接触抵抗を算出した。
被覆膜のラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから、I/I0比を算出した。
[3.1. 抵抗変化]
比較例1の場合、電圧印加前の接触抵抗は10mΩcm2であるのに対し、電圧印加後の接触抵抗は9mΩcm2であった。
これに対し、実施例1の場合、電圧印加前後の接触抵抗は、いずれも、4mΩcm2であった。被覆膜としてTi4O7を用い、成膜後に被覆膜を熱処理すると、耐食性が高く、かつ、良好な導電性を示す電極板が得られることが実証された。
図1に、熱処理なしの被覆膜(比較例1)及び熱処理ありの被覆膜(実施例1)のラマンスペクトルを示す。熱処理なし(比較例1)の場合、ラマンスペクトルには、Ti4O7ピークと共に、表面酸化層であるTiO2のピークが観測された。比較例1のI/I0比は、0.91であった。これに対し、熱処理あり(実施例1)の場合、ラマンスペクトルからTiO2のピークがほぼ消失し、Ti4O7のピークのみが確認できた。実施例1のI/I0比は、0.62であった。
以上の結果から、加熱処理により、表面酸化層であるTiO2を大幅に除去できることが分かった。
[1. 試料の作製]
スパッタリング用のターゲットとして、Ti6O11を用いた以外は、実施例1と同様にして、成膜及び熱処理を行った。
[2.1. 耐食試験及び抵抗測定]
実施例1と同一条件下で、耐食試験を行った。さらに、実施例1と同様にして、電圧印加前後の接触抵抗を測定した。
[2.2. ラマンスペクトル]
実施例1と同様にして、被覆膜のラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから、I/I0比を算出した。
[3.1. 抵抗変化]
実施例2の場合、電圧印加前後の接触抵抗は、いずれも、5mΩcm2であった。被覆膜としてTi6O11を用いた場合であっても、成膜後に被覆膜を熱処理すると、耐食性が高く、かつ、良好な導電性を示す電極板が得られることが実証された。
[3.2. ラマンスペクトル]
実施例2の場合、ラマンスペクトルには、Ti6O11のピークのみが確認できた。実施例2のI/I0比は、0.64であった。
以上の結果から、加熱処理により、表面酸化層であるTiO2を大幅に除去でき、結晶性の良いTi6O11が得られることが分かった。
Claims (7)
- 以下の構成を備えた電極板。
(1)前記電極板は、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、チタン亜酸化物を含む。
(3)前記被覆膜は、次の式(1)を満たす。
I/I0≦0.8 …(1)
但し、
Iは、TiO2のA1gモードに対応する417cm-1付近のラマンピーク強度、
I0は、前記チタン亜酸化物由来の140~170cm-1付近のラマンピーク強度。 - 前記チタン亜酸化物は、TixO2x-1(xは、1以上7以下の整数)で表される組成を有するいずれか1以上の化合物を含む請求項1に記載の電極板。
- 前記基板は、チタン若しくはチタン合金、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は、高分子材料からなる請求項1又は2に記載の電極板。
- 前記被覆膜は、少なくとも電極との接触面に形成されている請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極板。
- 前記被覆膜の厚さは、0.02μm以上500μm以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載の電極板。
- 固体高分子形燃料電池用セパレータ、又は、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる請求項1から5までのいずれか1項に記載の電極板。
- 基板上に、スパッタ法を用いてチタン亜酸化物からなる被覆膜を形成する第1工程と、
前記被覆膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理し、前記被覆膜の表層に含まれるTiO2を還元し、前記チタン亜酸化物の結晶性を向上させる第2工程と
を備えた電極板の製造方法。
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