JP7421101B2 - チタン材、燃料電池用セパレータ、燃料電池セル、および燃料電池スタック - Google Patents

チタン材、燃料電池用セパレータ、燃料電池セル、および燃料電池スタック Download PDF

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Description

本発明は、チタン材、このチタン材を用いた燃料電池用セパレータ、このセパレータを用いた燃料電池セル、およびこの燃料電池セルを用いた燃料電池スタックに関する。
燃料電池のセパレータには、導電性と耐食性とが要求される。このような要求を満たす材料として、チタン材がある。チタン材の表面には、通常、酸化により、主としてTiO2からなるチタン酸化物層が形成されている。チタン酸化物層により、チタン材は、腐食環境下で高い耐食性を有する。
しかし、TiO2は、実質的に導電性を有さない。燃料電池内で、セパレータは電極膜と電気的に接続されている必要がある。このため、燃料電池のセパレータとして、表面にTiO2からなるチタン酸化物層が形成されたチタン材を用いると、セパレータと電極膜との接触抵抗が高くなる。この場合、燃料電池の発電効率が低下する。そこで、チタン材の表面に、チタンの低次酸化物(TiOx(0<x<2))を含むチタン酸化物層を形成することが試みられている。チタンの低次酸化物は導電性を有するので、セパレータに、チタンの低次酸化物を含むチタン酸化物層を備えるチタン材を用いることにより、セパレータと電極膜との接触抵抗を低くすることができる。
特許文献1には、純チタンからなる基材に対して、酸洗、第1熱処理工程、および第2熱処理工程を順次施す、チタン材の製造方法が開示されている。第1熱処理工程は、酸素分圧が0.1Pa以下の低酸素分圧下で行われる。第2熱処理工程は、酸素分圧が10000Pa以上の高酸素分圧下で行われる。この製造方法により、チタンの低次酸化物としてTiOx(1<x<2)を含むチタン酸化物層を備えるチタン材が得られる。
特許文献2には、純チタンまたはチタン合金からなる基材に対して、陽極酸化、および還元熱処理を順次施す、チタン材の製造方法が開示されている。この製造方法により、チタンの低次酸化物として、Ti23およびTiOを含むチタン酸化物層を備えるチタン材が得られる。
国際公開第2016/140306号 国際公開第2018/123690号
ところが、特許文献1および特許文献2の製造方法により得られるチタン材では、いずれも、チタン酸化物層は、表層部(基材とは反対側の部分)では主としてTiO2から構成され、下層部(基材側の部分)では主としてTiOxから構成される。このため、チタン酸化物層において、表層部、すなわち、主としてTiO2から構成された層で導電率が低くなる。このようなチタン材を備えるセパレータと電極膜との接触抵抗を低くするためには、主としてTiO2から構成された層を薄くする必要がある。しかし、その場合、チタン材の耐食性が不十分となるおそれがある。
そこで、本発明の目的は、低い接触抵抗と高い耐食性とを兼ね備えたチタン材および燃料電池用セパレータを提供することである。本発明の他の目的は、高い発電効率を維持することができる燃料電池セルおよび燃料電池スタックを提供することである。
本発明の実施形態のチタン材は、純チタンまたはチタン合金からなる基材と、前記基材の表面に形成されたチタン酸化物層と、を備える。前記チタン酸化物層は、TiO2相の結晶粒およびTiOx(0<x<2)相の結晶粒を分散状態で含む。前記TiO2相の結晶粒および前記TiOx相の結晶粒の平均粒径は、60nm以下である。当該チタン材の表層についての入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピーク強度に基づいて、I(TiO2)/(I(TiO2)+ΣI(TiOx))×100で表されるTiO2割合Rは、5以上、65以下である。
ただし、
I(TiO2):TiO2相の最強ピーク強度
ΣI(TiOx):TiOx相それぞれの最強ピーク強度の合計
である。
本発明の実施形態の燃料電池用セパレータは、上記チタン材を備える。
本発明の実施形態の燃料電池セルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の燃料電池スタックは、上記燃料電池セルを備える。
このチタン材および燃料電池用セパレータは、低い接触抵抗と高い耐食性とを兼ね備えている。この燃料電池セルおよび燃料電池スタックは、高い発電効率を維持することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式断面図である。 図2は、チタン酸化物層を構成する結晶相を示す、チタン材の模式断面図である。 図3は、試料の透過電子顕微鏡像の模式図である。 図4Aは、本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックとしての固体高分子形燃料電池の斜視図である。 図4Bは、固体高分子形燃料電池を構成する燃料電池セルの分解斜視図である。 図5は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。
上述のように、従来のチタン材のチタン酸化物層には、主としてTiO2から構成された層と、TiOxから構成された層とが存在する。すなわち、チタン酸化物層において、TiO2相とTiOx相とが偏って分布する。そして、チタン酸化物層の導電率は、主としてTiO2から構成された層で低くなる。そこで本発明者らは、低い接触抵抗と高い耐食性とを兼ね備えたチタン材を実現するために、チタン酸化物層において、TiO2相とTiOx相とを、偏らせず、すなわち、分散状態で存在させることに想到した。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明で、特に断りがない限り、化学組成について、「%」は質量%を意味する。
[チタン材]
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式断面図である。チタン材7は、基材8と、基材8の表面に形成されたチタン酸化物層9とを備える。
〈基材〉
基材は、純チタンまたはチタン合金からなる。ここで、「純チタン」とは、98.8%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。純チタンとして、たとえば、JIS1種~JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。「チタン合金」とは、70%以上のTiを含有し、残部が合金元素と不純物元素とからなる金属材を意味する。チタン合金として、たとえば、耐食用途のJIS11種、13種、もしくは17種、または高強度用途のJIS60種を用いることができる。
基材の平均厚さは、30~200μmであることが好ましい。基材の平均厚さが小さすぎると、チタン材の強度を確保できないおそれがある。このため、基材の平均厚さの下限は、好ましくは30μmであり、より好ましくは40μmであり、さらに好ましくは50μmである。
一方、基材の平均厚さが大きすぎると、燃料電池スタックを形成する際の集積化の観点から好ましくない。すなわち、基材の平均厚さが大きすぎると、チタン材を含むセパレータが厚くなる。これにより、セパレータを備える燃料電池セルが大型化し、複数の燃料電池セルを積層(集積)して得られる燃料電池スタックが大型化してしまう。このため、基板の平均厚さの上限は、好ましくは200μmであり、より好ましくは180μmであり、さらに好ましくは150μmである。
〈チタン酸化物層〉
図2は、チタン酸化物層9を構成する結晶相を示すチタン材7の模式断面図である。チタン酸化物層9は、TiO2相の結晶粒G1、およびTiOx(0<x<2)相の結晶粒G2を、分散状態で含む。チタン酸化物層9の厚さ方向に関して、図2では、数個のTiO2相の結晶粒G1およびTiOx相の結晶粒G2を示している。すなわち、図2では、チタン酸化物層9の厚さは、TiO2相またはTiOx相の結晶粒G1、G2の径の数倍である。しかし、チタン酸化物層9の厚さは、TiO2相またはTiOx相の結晶粒G1、G2の径の数十倍~数千倍であり得る。
ここで、化学式TiOx(0<x<2)で表されるチタン酸化物には、TiO、Ti23、Ti47などの低次酸化物(定比化合物)、およびTiO2の酸素の一部が欠損したもの(不定比化合物;以下、「酸素欠損型TiOx」という。)が含まれ得る。TiO2は、実質的に導電性を有さないが、耐食性、たとえば、燃料電池内のふっ酸を含む環境に対する耐食性は高い。一方、TiOx(0<x<2)は、TiO2に比して、導電性は高いが、耐食性は低い。ただし、TiOxの耐食性は、基材を構成する純チタンまたはチタン合金の耐食性より高い。
チタン酸化物層が「TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を分散状態で含む」ことは、FIB(Focused Ion Beam)μ-サンプリング法により作製した薄膜状試料について、以下に説明する評価結果が得られることを意味する。薄膜状試料は、基材に垂直(すなわち、チタン酸化物層に垂直)で、チタン酸化物層がその厚さ方向全体に渡って含まれるように作製する。
この試料について、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;エネルギー分散型X線分光装置)を備えるTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)により、以下の観察および分析をする。まず、チタン酸化物層がその厚さ方向全体に渡って含まれるように、試料の透過電子顕微鏡像を得る。図3は、試料の透過電子顕微鏡像の模式図である。
透過電子顕微鏡像は、基材8の像とチタン酸化物層9の像とを含む。この透過電子顕微鏡像において、チタン酸化物層9を、その厚さ方向に、基材8に近い側から遠い側に向かって4つの帯状領域Z1~Z4に等分する。すなわち、各帯状領域Z1~Z4の幅(基材8の表面に垂直な方向の長さ)は、チタン酸化物層9の厚さの1/4である。
次に、最も基材8に近い帯状領域Z1内に、観察領域R1を設定する。同様に、基材8側から3番目の帯状領域Z3に、観察領域R3を設定する。観察領域R1は、基材8に近い部分を代表している。観察領域R3は、表面に近い(基材8から遠い)部分を代表している。このため、観察領域R1と観察領域R3とは、帯状領域Z1~Z4のうち隣接した領域には設定されない。
各観察領域R1、R3は、一辺の長さが20nmの正方形の領域とする。したがって、各観察領域R1、R3の面積は、400nm2である。各観察領域R1、R3の辺は、基材8とチタン酸化物層9との界面BSに平行または垂直である。ただし、各帯状領域Z1、Z3の幅が20nm未満であるときは、各観察領域R1、R3における、界面BSに垂直な辺の長さを各帯状領域Z1、Z3の幅とする。この場合、界面BSに平行な辺の長さを20nmより大きくして、各観察領域R1、R3を長方形の領域とし、その面積を400nm2とする。
続いて、観察領域R1内の結晶粒について、個々に、EDSにより、TiおよびOの含有率を測定し、Ti含有率とO含有率との比より、測定対象の結晶粒がTiO2であるか、TiOxであるかを特定する。これに基づいて、観察領域R1内のTiO2相の結晶粒の面積A1[TiO2]とTiOx相の面積A1[TiOx]とを求める。さらに、観察領域R1のTiO2相の結晶粒の面積率S1を、下記式に基づいて求める。
S1=A1[TiO2]/(A1[TiO2]+A1[TiOx])
面積率S1を求めるにあたって、TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒のみを考慮し、これら以外、たとえば、Ti以外の金属の酸化物は考慮しない。後述の面積率S3についても、同様である。なお、基材8にはほとんどO(酸素)が含有されないこと、および基材8を構成する結晶粒はチタン酸化物層9を構成する結晶粒に比して著しく大きいことから、界面BS(帯状領域Z1と基材8との境界)は容易に特定することができる。
同様に、観察領域R3内の結晶粒について、個々に、EDSにより、TiおよびOの含有率を測定し、Ti含有率とO含有率との比より、測定対象の結晶粒がTiO2であるか、TiOxであるかを特定する。これに基づいて、観察領域R3内のTiO2相の結晶粒の面積A3[TiO2]とTiOx相の結晶粒の面積A3[TiOx]とを求める。さらに、観察領域R3のTiO2相の結晶粒の面積率S3を、下記式に基づいて求める。
S3=A3[TiO2]/(A3[TiO2]+A3[TiOx])
下記不等式が満足されるとき、チタン酸化物層はTiOx相の結晶粒およびTiO2相の結晶粒を分散状態で含むものとする。下記不等式は、チタン酸化物層において、基材に近い部分と表面に近い(基材から遠い)部分とで、TiO2相が、同程度に存在することを意味する。下記不等式が満足されないときは、チタン酸化物層はTiOx相の結晶粒およびTiO2相の結晶粒を分散状態では含まないものとする。
|S3-S1|/((S3+S1)/2)≦1
後述の製造方法によりチタン材を製造すると、ボイドを含むチタン酸化物層が形成される。ボイドの部分では、上述のEDSによって測定されるTiおよびOの含有率は、チタン酸化物について測定されるTiおよびOの含有率に比して著しく低い。ボイドの部分で測定されるTi含有率およびO含有率は、それぞれ、TiO2相の結晶粒について測定されるTiおよびOの含有率の1/5以下である。このようにして、ボイドを特定することができる。これに基づいて、観察領域R1、R3それぞれに占めるボイドの面積率SB(ボイドの部分の面積を、観察領域R1または観察領域R3の面積で除して得られる値)を求めることができる。面積率SBは、たとえば、1~80%である。ボイドの平均直径は、たとえば、1~50nmである。
以下、EDSにより特定されるTiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を総称して、「特定粒子」という。特定粒子の平均粒径を、以下の通り定義する。透過電子顕微鏡像の観察領域R1について、特定粒子の長径を測定する。測定は、観察領域R1内に全体が入る特定粒子のすべてを対象とする。そして、長径の測定値のメジアン値(個数基準)を求める。同様にして、観察領域R3について、特定粒子の長径を測定し、長径の測定値のメジアン値を求める。観察領域R1についてのメジアン値と、観察領域R3についてのメジアン値との平均を、特定粒子(TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒)の平均粒径とする。
後述の製造方法によりチタン材を製造する場合は、特定粒子の平均粒径が大きくなると、チタン酸化物層中のボイドも大きくなる。チタン材をプレス成形する際等において、大きなボイドがつぶれると、基材が露出しやすい。その場合、チタン材の耐食性が低下するおそれがある。このため、特定粒子の平均粒径は、60nm以下であり、好ましくは55nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。なお、プレス加工は、たとえば、平板状のチタン材を、溝を有するセパレータに加工する場合に行われる。
後述の製造方法によりチタン材を製造する場合は、特定粒子の平均粒径は、通常、1nm以上であり、3nm以上となることが多い。
チタン材の表層についての入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピーク強度は、下記式(1)を満足する。ここで、チタン材の表層とは、チタン酸化物層が形成されている面の表層であり、チタン酸化物層が形成されていない面がある場合は、その面の表層は対象とはしない。
5≦I(TiO2)/(ΣI(TiOx)+I(TiO2))×100≦65 …(1)
ただし、
I(TiO2):TiO2相の最強ピーク強度
ΣI(TiOx):TiOx相それぞれの最強ピーク強度の合計
である。
薄膜X線回折分析により得られるピーク強度は、いずれも、ピークの積分強度である。I(TiO2)は、アナターゼの最強ピーク強度と、ルチルの最強ピーク強度との合計である。アナターゼの最強ピークは、(004)面によるものである。このピークは、CoKα線を用いた薄膜X線回折では、回折角2θが29.4°付近の位置に現れる。ルチルの最強ピークは、(110)面によるものである。このピークは、CoKα線を用いた薄膜X線回折では、回折角2θが31.8°付近の位置に現れる。
チタン酸化物層に含まれる代表的なTiOx相として、Ti23が挙げられる。Ti23の最強ピークは(110)面によるものである。しかし、TiO2の(110)面によるピークは、基材に含有され得る純チタンによるピークと重なる。そこで、Ti23の最強ピークは(104)面によるものとする。このピークは、CoKα線を用いた薄膜X線回折では、回折角2θが38.5°付近の位置に現れる。
TiOxが酸素欠損型TiOxである場合、xが1.89以下であれば、TiOxの最強ピークとTiO2の最強ピークとを明確に区別することができる。この場合は、ΣI(TiOx)に酸素欠損型TiOxの最強ピーク強度を含めるものとする。換言すれば、xが1.89より大きい場合は、TiOxの最強ピークとTiO2の最強ピークとは、必ずしも区別することができない。この場合は、TiOxの最強ピークとTiO2の最強ピークとを区別することができたとしても、ΣI(TiOx)には酸素欠損型TiOxの最強ピーク強度は含めない。
基材にはチタン酸化物は含まれないとみなすことができるので、式(1)は、チタン酸化物層における、すべてのチタン酸化物に占めるTiO2相が占める割合が所定の範囲内にあることを実質的に意味する。チタン酸化物の各相の最強ピーク強度は、およそ各相の含有率(質量%)に比例する。したがって、チタン酸化物層が実質的にチタン酸化物のみからなる場合は、式(1)は、チタン酸化物層に占めるTiO2相の質量割合が、およそ、5%以上、65%以下であることを意味する。
R=I(TiO2)/(ΣI(TiOx)+I(TiO2))×100とすると、式(1)に示す通り、R(以下、「TiO2割合R」という。)の下限は5%であり、TiO2割合Rの上限は65%である。TiO2割合Rが5%未満であると、チタン酸化物層は高い耐食性を有さない。チタン酸化物層が十分に高い耐食性を有するようにするため、TiO2割合Rの下限は、好ましくは6%であり、より好ましくは7%である。TiO2割合Rが65%を超えると、チタン材(チタン酸化物層)の接触抵抗が低くならない。チタン材が十分に低い接触抵抗を有するようにするため、TiO2割合Rの上限は、好ましくは62%であり、より好ましくは60%である。
チタン酸化物層の平均厚さは、20nm~2μmであることが好ましい。チタン酸化物層が薄すぎると、チタン酸化物層に他の部材が接触したときに、チタン酸化物層が損傷して、基材が露出しやすくなる。基材が露出したチタン材を備えるセパレータを、たとえば、燃料電池内のふっ酸を含む環境下で用いた場合には、基材が溶解し、溶解した基材の成分が酸化物を伴ってチタン材の表面に再析出することがある。この場合、チタン材表面近傍の導電率が低下し、燃料電池の発電効率が低下する。このため、チタン酸化物層の平均厚さの下限は、好ましくは20nmであり、より好ましくは30nmであり、さらに好ましくは40nmである。
チタン酸化物層が厚すぎると、チタン酸化物層自体の電気抵抗が高くなりすぎ、低い接触抵抗が得られなくなるおそれがある。また、チタン酸化物層が厚すぎると、基材に対するチタン酸化物層の密着性が低下することがある。この場合、チタン材をプレス加工すると、プレス加工時に、チタン酸化物層が基材から剥離し、基材が露出するおそれがある。以上の理由により、チタン酸化物層の平均厚さの上限は、好ましくは2μmであり、より好ましくは1.5μmであり、さらに好ましくは1μmである。
チタン酸化物層の平均厚さは、以下の方法により求めるものとする。チタン材を、基材の表面に垂直に、互いに平行な2つ以上の切断面で切断する。切断面は、切断前のチタン材の幅を等分した位置に設定する。たとえば、5つの切断面で切断する場合は、チタン材の幅を6等分した位置に切断面を設定する。そして、切断したチタン材において、各切断面に隣接する部分から、FIBμ-サンプリング法により、薄膜状試料を得る。ただし、同じ切断面を挟んだ一方および他方のチタン材からは、いずれか1つのチタン材のみから薄膜状試料を得る。
各薄膜状試料について、透過電子顕微鏡像を得る。透過電子顕微鏡像の視野は、チタン酸化物層の全体が入るように設定する。そして、透過電子顕微鏡像において、チタン酸化物層の厚さを無作為の2箇所以上で測定する。すべての薄膜状試料のすべての測定位置でのチタン酸化物層の厚さを平均して、「チタン酸化物層の平均厚さ」とする。
〈効果〉
本実施形態のチタン材では、チタン酸化物層は、TiO2相の結晶粒、およびTiOx相の結晶粒を、分散状態で含む。すなわち、実質的に導電性を有さないTiO2は、チタン酸化物層中で、偏っては存在しない。TiO2割合Rが65%以下であることにより、チタン酸化物層において、その厚さ方向に関してTiOx相の結晶粒による導電経路が確保される。本実施形態のチタン材によれば、従来のチタン材に比してチタン酸化物層におけるTiO2相の割合が多くても、高い導電性(低い接触抵抗)を得ることができる。
また、TiO2割合Rが5%以上であることに、チタン酸化物層は、高い耐食性を有する。すなわち、このチタン材は、低い接触抵抗と高い耐食性とを兼ね備えている。
[チタン材の製造方法]
上述のチタン材の製造方法は、特に限定されない。一例として、上述のチタン材は、以下に説明する、陽極酸化工程と還元熱処理工程とを含む製造方法により、製造することができる。陽極酸化工程では、基材の表層を酸化させて、TiO2相を主体とする酸化物層(以下、「中途酸化物層」という。)を形成する。還元熱処理工程では、中途酸化物層を還元処理して、TiO2とTiOxとを分散状態で含むチタン酸化物層を形成する。
〈陽極酸化工程〉
この工程では、純チタンまたはチタン合金からなる基材を電解液に浸漬し陽極酸化処理することによって、基材の表層部を酸化させる。これにより、基材の表面に、平均厚さが、たとえば、厚さが50nm~2μmの中途酸化物層を形成する。陽極酸化の電圧は、15V以上で、絶縁破壊を起こさない電圧(約150V)を上限とする。中途酸化物層に含まれるTiO2の結晶構造がアナターゼ型である場合は、TiO2の結晶構造がルチル型またはブルッカイト型である場合に比して、次に実施する還元熱処理工程で、より多くの低次酸化物を生成できる。陽極酸化の電圧を40V以上とすることにより、中途酸化物層のTiO2の結晶構造をアナターゼ型にすることができる。このため、陽極酸化の電圧は、40V以上とすることが好ましい。
電圧を印加する際の昇圧速度は、0.01V/秒~30V/秒とすることが好ましい。昇圧速度が30V/秒を超えると、チタン酸化物層(中途酸化物層)中の特定粒子の平均粒径が大きくなり、これに伴って、後述のボイドが大きくなりすぎるおそれがある。昇圧速度が0.01V/秒未満であると、中途酸化物層が所望の厚さ(たとえば、100nm以上)に成長するまでに時間がかかりすぎる。
陽極酸化の処理時間は、10~600秒程度とすることが好ましい。処理時間が10秒未満であると、チタン酸化物層が所望の厚さを有するまで成長しないおそれがある。処理時間が600秒を超えると、中途酸化物層中の特定粒子の平均粒径が大きくなり、これに伴ってボイドが大きくなりすぎるおそれがある。
陽極酸化処理に用いることができる電解液として、硫酸水溶液、リン酸水溶液、ホウ酸水溶液、過酸化水素水溶液を挙げることができる。陽極酸化処理中は、電解液に対して酸素を継続的に供給し、電解液の溶存酸素量を高く保つ。電解液の溶存酸素量は、たとえば、20℃において2~9mg/Lである。電解液に対する酸素の供給は、たとえば、酸素を含むガス(たとえば、空気)によるバブリングにより実施することができる。
溶存酸素量を高く保った電解液中で陽極酸化を行うことにより、ボイドが形成された中途酸化物層が得られる。これは、以下の理由によると推定される。溶存酸素量が高い電解液中で陽極酸化を行うと、溶存酸素量が低い電解液中で陽極酸化を行う場合に比して、中途酸化物層の成長が促進される。しかし、中途酸化物層の成長が速すぎることにより、電解液中のOには、基材中のTiと結合できずに、O2-として中途酸化物中に取り込まれるものが生じる。このO2-は、さらに電圧が印加されると酸素ガス(O2)となる。中途酸化物層中で、このO2が存在する部分がボイドとなる。ボイドは、中途酸化物層中に、ほぼ均一に、すなわち、偏らずに存在する。
〈還元熱処理工程〉
この工程では、陽極酸化処理により中途酸化物層を形成した基材に対して、低酸素分圧雰囲気中で熱処理(還元熱処理)を施す。低酸素分圧雰囲気の酸素分圧は、10-3Pa以下とすることが好ましい。
熱処理温度は、熱処理時間にもよるが、570℃以上、750℃以下とすることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、TiO2割合Rが5%未満となるおそれがある。一方、熱処理温度が高すぎると、TiO2割合Rが65%を超えるおそれがある。熱処理時間は、熱処理温度に応じて、TiO2割合Rが所望の値となるように設定することができる。熱処理時間は、所定の温度に到達してからの、その温度での保持時間である。熱処理時間は、たとえば、1秒以上、30分以下である。
還元熱処理工程により、中途酸化物層のTiO2はTiOx(0<x<2)に還元される。これにより、中途酸化物層から、TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を分散状態で含むチタン酸化物層が得られる。これは、以下の理由によると推定される。
還元反応は、中途酸化物層(チタン酸化物層)中のOが基材中に拡散することで進行する。ボイドはO拡散の障壁となる。中途酸化物層(チタン酸化物層)においてその表面側から基材側に移動するOは、ボイドに到達すると、それ以上基材側に移動することができない。これにより、チタン酸化物層において表面側と基材側とで、ボイド以外の部分(チタン酸化物が存在する部分)に関しては、酸素の減少量が同等となる。その結果、TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を分散状態で含むチタン酸化物層が得られる。
[セパレータ、燃料電池セル、および燃料電池スタック]
図4Aは、本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックとしての固体高分子形燃料電池の斜視図である。図4Bは、固体高分子形燃料電池を構成する燃料電池セル(単セル)の分解斜視図である。図4Aおよび図4Bに示すように、固体高分子形燃料電池(以下、単に、「燃料電池」という。)1は燃料電池セル10の集合体である。燃料電池1は、積層され直列に接続された複数の燃料電池セル10を含む。
図4Bに示すように、燃料電池セル10では、固体高分子電解質膜2の一面および他面に、それぞれ、燃料電極膜(アノード)3、および酸化剤電極膜(カソード)4が積層されている。そして、この積層体の両面にセパレータ5a、5bが重ねられている。セパレータ5a、5bは、上記チタン材を備える。
固体高分子電解質膜2を構成する代表的な材料として、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素系イオン交換樹脂膜がある。燃料電極膜3および酸化剤電極膜4は、カーボンシートからなる拡散層と、拡散層の表面に接するように設けられた触媒層とを備えている。カーボンシートは、カーボン繊維から構成される。カーボンシートとしては、カーボンペーパ、またはカーボンクロスが用いられる。触媒層は、粒子状の白金触媒と、触媒担持用カーボンと、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素樹脂とを有する。固体高分子電解質膜2に、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4が貼り合わされた一体的な構成部材であるMEA(Membrane Electrode Assembly)を用いてもよい。
セパレータ5aに形成された溝である流路6aには、燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流される。これにより、燃料電極膜3に燃料ガスAが供給される。燃料電極膜3では、燃料ガスAは拡散層を透過して触媒層に至る。また、セパレータ5bに形成された溝である流路6bには、空気等の酸化性ガスBが流される。これにより、酸化剤電極膜4に酸化性ガスBが供給される。酸化剤電極膜4では、酸化性ガスBは拡散層を透過して触媒層に至る。これらのガスA、Bの供給により、電気化学反応が生じて、燃料電極膜3と酸化剤電極膜4との間に、直流電圧が発生する。
セパレータ5a、5bが上記チタン材を備えることにより、セパレータ5a、5bと電極膜3、4との初期の接触抵抗が低いとともに、セパレータ5a、5bは高い耐食性を有する。したがって、燃料電池1内の環境で、セパレータの低い接触抵抗が維持される。
セパレータ5aの他面(流路6aが形成されている面とは反対側の面)には、流路6bが形成されていてもよい。セパレータ5bの他面(流路6bが形成されている面とは反対側の面)には、流路6aが形成されていてもよい。流路(溝)が形成された形状のセパレータ5a、5bは、薄板状のチタン材をプレス成形して得ることができる。
また、板状の基材を、セパレータ5a、5bの形状に成形してから、その基材に対して、上述の陽極酸化工程および還元熱処理工程を実施して、セパレータ5a、5bを形成してもよい。この場合も、基材と基材の表面に形成されたチタン酸化物層とを含むチタン材を備えるセパレータ5a、5bを得ることができる。
燃料電池セル10および燃料電池1では、セパレータ5a、5bと電極膜3、4との低い接触抵抗が維持される。これにより、燃料電池セル10および燃料電池1は、高い発電効率を維持することができる。
本実施形態の燃料電池スタックは、固体高分子形燃料電池に限られず、たとえば、固体電解質形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、またはリン酸形燃料電池であってもよい。
本発明の効果を確認するため、種々のチタン材の試料を作製し、得られた試料を評価した。表1に、試料の作製条件、および評価結果を示す。
Figure 0007421101000001
[試料の作製]
〈試験片の準備〉
厚さ0.1mmの板状の、JIS1種のチタン材を準備した。このチタン材から、短辺が50mmで長辺が70mmの矩形の試験片を切り出した。この試験片を、エタノール中で1分間、超音波洗浄した。その後、試験片を1分間酸洗した。酸洗は、2質量%のふっ酸および6質量%の硝酸を含む硝ふっ酸水溶液を用い、常温(15~25℃)で実施した。
〈陽極酸化処理〉
準備した試験片に対して、陽極酸化処理を施し、中途酸化物層を備えるチタン材を得た。陽極酸化は、電解液中で試験片と対極との間に80Vの電圧を印加し、30秒間保持することにより実施した。電解液として、H2SO4濃度が1mol/Lの硫酸水溶液を用いた。対極として、チタン製のものを用いた。電圧の印加には、直流安定化電源を用いた。電圧の昇圧速度は、表1に示す通り、0.1V/秒または40V/秒とした。
試験番号3を除き、陽極酸化処理中、電解液へ空気を継続的に供給して、バブリングを行った。バブリングの際、1Lの電解液に対して、空気を200mL/minの割合で供給した。試験番号3では、陽極酸化処理中、バブリングを行わなかった。
〈還元熱処理〉
陽極酸化処理を施した試験片を、大気圧のアルゴン雰囲気中で加熱することにより、中途酸化物層の還元処理を行い、チタン材の試料を得た。アルゴン雰囲気は、純度が99.995%以上で3ppm未満のO(酸素)を含有する工業用アルゴンガスを用いて得た。すなわち、加熱熱処理の雰囲気の酸素分圧は、2.0×10-4Paであった。表1に、各試料の加熱条件を示す。
[評価]
得られた試料のチタン酸化物層について、厚さ、TiO2割合R、特定粒子(TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒)の平均粒径を測定した。また、チタン酸化物層が特定粒子を分散状態で含むか否かを判定した。さらに、試料(チタン材)の接触抵抗を測定した。
〈チタン酸化物層の平均厚さ〉
透過電子顕微鏡像に基づく上述の測定方法により、各試料について、チタン酸化物層の平均厚さを求めた。より詳細には、各チタン材から、一辺の長さが30mmの正方形の測定用試料を切り出した。そして、この測定用試料を6等分するように切断した。切断面は、測定用試料の辺に平行かつ測定用試料に垂直であった。したがって、切断後の各試料の幅は5mmであった。切断後の各試料において、切断面に隣接する部分から、FIBμ―サンプリング法により、薄膜状試料を得た。これにより、1つのチタン材の試料につき、5つの薄膜状試料を得た。各薄膜状試料の厚さは、120nmであった。
各薄膜状試料について、透過電子顕微鏡像を得た。したがって、1つのチタン材の試料につき、5つの透過電子顕微鏡像を得た。透過電子顕微鏡像は、日本電子社製の透過電子顕微鏡JEM-2100Fを用い、加速電圧を170kVとし、倍率100万倍として得た。透過電子顕微鏡像の視野は、正方形であった。この視野の一辺の長さは、試料における500nmの長さに対応していた。そして、各透過電子顕微鏡像について、チタン酸化物層の厚さを、無作為の5箇所で測定した。1つのチタン材の試料につき、すべての透過電子顕微鏡像のすべての測定値、すなわち、25個の測定値を平均して、チタン酸化物層の平均厚さとした。
〈TiO2割合R〉
薄膜X線回折分析により、各試料についてX線回折測定を行い、上記式(1)に基づいて、TiO2割合Rを求めた。薄膜X線回折分析は、以下の条件で行った。各試料から一辺が15mmの正方形の測定用試料を切り出した。この測定用試料について、理学電機(リガク)社製の分析装置Rint-2500を用いて、薄膜X線回折分析を行った。X線として、CoKα線を用いた。入射角は0.3°とした。
〈チタン酸化物層が特定粒子を分散状態で含むか否か、および特定粒子の平均粒径〉
透過電子顕微鏡像に基づく上述の方法により、チタン酸化物層が特定粒子を分散状態で含むか否かを判定し、また、特定粒子の平均粒径を求めた。透過電子顕微鏡像は、各試料について、チタン酸化物層の平均厚さを求めるために用いたもののうちの1つとした。
特定粒子の確認、すなわち、透過電子顕微鏡像で観察される粒子の各々について、TiO2であるかTiOxであるかの特定は、日本電子社製のEDS分析装置JED-2300Tを用い、ビーム電流値を80μAとしたときの測定値に基づいて行った。
表1の「分散」の欄の記号の意味は、以下の通りである。
○:チタン酸化物層が特定粒子を分散状態で含むと判断された。
×:チタン酸化物層が特定粒子を分散状態では含まないと判断された。
〈接触抵抗〉
図5は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、各試料の接触抵抗を測定した。図5を参照して、まず、作製した試料11を、燃料電池用のガス拡散層として使用される1対のカーボンペーパ(東レ社製TGP-H-90)12で挟み込み、これを金めっきした1対の白金電極13で挟んだ。各カーボンペーパ12の面積は、1cm2であった。次に、この1対の白金電極13の間に、10kgf/cm2(9.81×105Pa)の荷重を加えた。図5に、荷重の方向を白抜き矢印で示す。この状態で、1対の白金電極13間に一定の電流を流し、このとき生じるカーボンペーパ12と試料11との間の電圧降下を測定した。この結果に基づいて抵抗値を求めた。得られた抵抗値は、試料11の両面の接触抵抗を合算した値となるため、これを2で除して、試料11の片面あたりの接触抵抗値とした。
接触抵抗は、製造後未処理(初期)の試料、および酸処理後の試料について測定した。酸処理には、Fイオンを1ppm含み、H2SO4を用いてpHを3に調整した水溶液(以下、「酸処理液」という。)を用いた。酸処理は、70℃に加熱した酸処理液に試料を96時間浸漬することにより行った。酸処理を施した試料は、水洗し、乾燥させた後、接触抵抗の測定に供した。
初期の接触抵抗値は、20mΩ・cm2以下であれば、良好(接触抵抗は低い)と判定した。酸処理後の接触抵抗の良否は、以下のように判定した。試料の耐食性が高くなければ、基材表面に、主としてTiO2からなる不動態皮膜が成長するので、初期の接触抵抗に比して、酸処理後の接触抵抗は高くなる。酸処理後の接触抵抗が、初期の接触抵抗の1.5倍以下であれば、耐食性は良好(試料の耐食性は高い)と判定した。表1では、初期および酸処理後の接触抵抗について、良好と判定されたものを「○」で示し、良好ではないと判断されたものを「×」で示す。
試験番号1および2の試料は、いずれも、本発明で規定する要件を満たした。試験番号1および2の試料では、初期の接触抵抗が低く、酸処理による接触抵抗の増加率が低かった。すなわち、試験番号1および2の試料は、低い接触抵抗と高い耐食性とを兼ね備えていた。これは、TiO2割合Rが5~65%の範囲内にあり、かつ、チタン酸化物層が特定粒子を分散状態で含んでおり、さらに、特定粒子の平均粒径が60nm以下であることによりボイドが小さかったことによる。
試験番号3の試料では、チタン酸化物層は、TiO2相の結晶粒とTiOx相の結晶粒とを含んでいた。しかし、チタン酸化物層は、これらの結晶粒を分散状態では含んでいなかった。具体的には、チタン酸化物層において、基材側には主としてTiOx相の結晶粒が存在し、表面側(基材とは反対側)には主としてTiO2相の結晶粒が存在していた。これは、陽極酸化工程でバブリングを行わなかったことと関係していると考えられる。
試験番号3の試料では、酸処理による接触抵抗の増加率は低かったが、初期の接触抵抗は高かった。これは、チタン酸化物層において、表面近傍にTiO2相の結晶粒が偏って存在していたことによる。
試験番号4の試料では、チタン酸化物層のTiO2割合Rは100%であった。すなわち、チタン酸化物層は、TiOx相の結晶粒を実質的に含まなかった。これは、還元熱処理の温度が低く、中途酸化物層を構成するTiO2が実質的に還元されなかったことによる。試験番号4の試料では、チタン酸化物層がTiOx相の結晶粒を含まなかったことにより、初期の接触抵抗が高かった。また、試験番号4の試料では、酸処理による接触抵抗の増加率が高かった。その理由として、チタン酸化物層の表面付近に結晶性の低いTiO2が形成されていたこと、およびチタン酸化物層にわずかに酸素欠損が生じていたことが考えられる。
試験番号5の試料では、チタン酸化物層は、TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を含んでいたが、TiO2割合Rが高かった。これは、還元熱処理の温度が十分には高くはなく、中途酸化物層を構成するTiO2が十分には還元されなかった、すなわち、TiOxが十分に形成されなかったことによる。試験番号5の試料では、チタン酸化物層のTiO2割合Rが高かったことにより、初期の接触抵抗が高かった。
試験番号6の試料は、TiO2相の結晶粒およびTiOx相の結晶粒を含んでいたが、これら特定粒子の平均粒径が大きかった。また、試験番号6の試料の透過電子顕微鏡像を観察したところ、チタン酸化物層に、径が70~90nmの大きなボイドが含まれていた。これは、陽極酸化の際の昇圧速度が大きかったことによる。試験番号6の試料では、大きなボイドが含まれていたことにより、チタン酸化物層の耐食性が低く、酸処理による接触抵抗の増加率が大きかった。
試験番号7の試料では、チタン酸化物層のTiO2割合Rが低かった。これは、還元熱処理の温度が高く、中途酸化物層を構成するTiO2が過剰に還元されたことによる。試験番号7の試料では、チタン酸化物層のTiO2割合Rが低かったことにより、チタン酸化物層の耐食性が低く、酸処理による接触抵抗の増加率が大きかった。
1:固体高分子形燃料電池(燃料電池スタック)
2:固体高分子電解質膜
3:燃料電極膜
4:酸化剤電極膜
5a、5b:セパレータ
7:チタン材
8:基材
9:チタン酸化物層
10:燃料電池セル
11:試料(チタン材)
A:燃料ガス
B:酸化性ガス
G1:TiO2相の結晶粒
G2:TiOx相の結晶粒

Claims (6)

  1. 純チタンまたはチタン合金からなる基材と、前記基材の表面に形成されたチタン酸化物層と、を備えるチタン材であって、
    前記チタン酸化物層は、TiO2相の結晶粒およびTiOx(0<x<2)相の結晶粒を分散状態で含み、
    前記TiO2相の結晶粒および前記TiOx相の結晶粒の平均粒径は、60nm以下であり、
    当該チタン材の表層についての入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピーク強度に基づいて、I(TiO2)/(I(TiO2)+ΣI(TiOx))×100で表されるTiO2割合Rが、5以上、65以下である、チタン材。
    ただし、
    I(TiO2):TiO2相の最強ピーク強度
    ΣI(TiOx):TiOx相それぞれの最強ピーク強度の合計
    である。
  2. 請求項1に記載のチタン材であって、
    前記基材の平均厚さが、30~200μmである、チタン材。
  3. 請求項1または2に記載のチタン材であって、
    前記チタン酸化物層の平均厚さが、20nm~2μmである、チタン材。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載のチタン材を備える、燃料電池用セパレータ。
  5. 請求項4に記載のセパレータを備える、燃料電池セル。
  6. 請求項5に記載の燃料電池セルを備える、燃料電池スタック。
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