JP2018104808A - チタン材、セパレータ、セル、および固体高分子形燃料電池 - Google Patents

チタン材、セパレータ、セル、および固体高分子形燃料電池 Download PDF

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淳子 今村
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悠 佐藤
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Hideya Kaminaka
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Abstract

【課題】導電性と耐食性とに優れたチタン材を提供する。【解決手段】純チタンまたはチタン合金からなる母材と、母材の上に形成され、主相を含むチタン酸化物皮膜と、チタン酸化物皮膜の上に形成され導電性を有する炭素材と、を備えるチタン材。主相は、当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であるとともに、TinO(2n-1)(nは、1〜9の整数)相のいずれかである。チタン酸化物皮膜の厚さは、200nm以下である。当該チタン材の表面近傍領域は、実質的にTiCを含まない。【選択図】図1

Description

本発明は、チタン材、このチタン材を用いた固体高分子形燃料電池のセパレータ、このセパレータを用いたセル、およびこのセルを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
導電性に優れた金属材料の用途として、電池の集電体、電池ケースなどがある。燃料電池用途では、このような金属材料は金属製集電セパレータ材として利用される。腐食が起こりうる環境では、耐食性に優れた金属材料として、ステンレス鋼またはチタンが使用される。ステンレス鋼が耐食性を有するのは、その表面にCr23を主体とする酸化皮膜が生成し、母材を保護することによる。同様に、チタン材が耐食性を有するのは、その表面にTiO2を主体とする酸化皮膜が生成し、母材を保護することによる。
これらの酸化皮膜は、耐食性向上のためには有用であるが、導電性に乏しく、母材を構成する金属の本来の導電性を利用する障害となっている。そこで、耐食性と導電性とを両立させたチタン材が開発されている。
特許文献1には、チタン基材上に炭素系導電層を被覆したセパレータが開示されている。特許文献1では、炭素系導電層中に存在するグラファイト成分の量の指標として、ラマン分光法によって分析した際のDバンドとGバンドとのピーク強度比が規定されている。この比を0.10〜1.0とすること等により、セパレータの初期接触抵抗および加速耐久試験後の接触抵抗が低くなるとされている。
特許文献2には、チタン基材と表面層とから形成されるセパレータ用チタン材が開示されている。表面層は、化合物混在チタン層のみ、または該化合物混在チタン層とその表面に形成された厚み5nm未満の不動態皮膜とからなるとされている。化合物混在チタン層では、O、C、およびNが固溶したTiに、O、C、およびNから選択される1種以上とTiとにより形成される化合物が混在している。特許文献2では、表面層が化合物混在チタン層を含むことにより、不働態皮膜を安定して著しく薄くでき、このチタン材の接触抵抗を低くできるとされている。
特許文献3には、導電性を有するチタン酸化物皮膜の表面に、導電性炭素材を被覆したチタン材が開示されている。特許文献3の技術では、導電性炭素材がチタン酸化物皮膜を覆っていることにより、燃料電池のセパレータ環境で、チタン酸化物皮膜の表面にふっ化物等の腐食生成物が形成されにくい。このため、このチタン材は低い接触抵抗を維持できるとされている。
特許第5564068号公報 特許第5639216号公報 特開2015−138696号公報
日立粉末冶金テクニカルレポート No.3(2004)、「黒鉛の特性と技術展開」、白髭外1名 佐藤俊樹 外1名、「黒鉛をコーティングした固体高分子形燃料電池用チタン製セパレータの特性」、神戸製鋼技報、Vol. 65 No. 2(Sep. 2015)
しかし、特許文献1の技術では、チタン基材上に直接炭素系導電層が被覆される。これにより、炭素系導電層と基材との界面近傍に、TiCが生成する。炭素系導電層には、被覆の不具合、欠陥の導入などにより薄い部分が生じ得る。また、セパレータを形成する際のプレス加工、他の部材との擦れなどにより、炭素系導電層が薄くなることがある。このような部分では、TiCが容易に露出する。TiCは、耐食性が低いので、燃料電池のセパレータ環境で容易に溶解する。これにより、腐食生成物が形成され、セパレータの導電性が低下し、燃料電池の効率が低下する。
引用文献2の技術では、化合物がTiCの場合、表面に露出したTiCがセパレータ内の腐食環境で溶解する。最表層に不動態皮膜があっても、不動態皮膜の厚さが5nm未満では、不働態皮膜の欠陥部または薄い部分では、やはりTiCが溶解する。この場合、特許文献1の技術と同じ問題が生じる。
特許文献3では、チタン酸化物皮膜が薄すぎるため、母材のTiと導電性炭素材のCとが反応してTiCが形成されやすい。TiCが形成されると、特許文献1の技術と同じ問題が生じ得る。
以上のように、特許文献1〜3に開示される技術は、導電性の炭素を利用することで、安価に導電性および耐食性を向上させることを意図したものである。しかし、TiCが耐食性を劣化させることについては、十分に検討されていなかった。そこで、本発明の目的は、導電性と耐食性とに優れたチタン材、および固体高分子形燃料電池のセパレータを提供することである。本発明の他の目的は、高い発電効率を維持できる固体高分子形燃料電池のセルおよび固体高分子形燃料電池を提供することである。
本発明の実施形態のチタン材は、
純チタンまたはチタン合金からなる母材と、
前記母材の上に形成され、主相を含むチタン酸化物皮膜と、
前記チタン酸化物皮膜の上に形成され導電性を有する炭素材と、を備え、
前記主相は、当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であるとともに、Tin(2n-1)(nは、1〜9の整数)相のいずれかであり、
前記チタン酸化物皮膜の厚さが、200nm以下であり、
当該チタン材の表面近傍領域が実質的にTiCを含まない、チタン材である。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池のセパレータは、上記チタン材を備える。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池のセルは、上記セパレータを備える。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池は、上記セルを備える。
このチタン材および固体高分子形燃料電池のセパレータは、導電性と耐食性とに優れている。この固体高分子形燃料電池のセルおよび固体高分子形燃料電池は、高い発電効率を維持することができる。
図1は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明で、特に断りがない限り、化学組成について、「%」は質量%を意味する。
[チタン材]
チタン材は、母材と、母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、チタン酸化物皮膜の上に形成され導電性を有する炭素材とを備える。
〈母材〉
母材は、純チタンまたはチタン合金からなる。ここで、「純チタン」とは、98.8%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。純チタンとして、たとえば、JIS1種〜JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。「チタン合金」とは、70%以上のTiを含有し、残部が合金元素と不純物元素とからなる金属材を意味する。チタン合金として、たとえば、耐食用途のJIS11種、13種、もしくは17種、または高強度用途のJIS60種を用いることができる。
〈チタン酸化物皮膜〉
チタン酸化物皮膜は、主相を含む。主相は、後述のX線回折分析により特定される。主相は、Tin(2n-1)(nは、1〜9の整数;以下、特に断りのない限り、同様)相のいずれかである。具体的には、Tin(2n-1)相は、Ti917(n=9)、Ti815(n=8)、Ti713(n=7)、Ti611(n=6)、Ti59(n=5)、Ti47(n=4)、Ti35(n=3)、Ti23(n=2)、およびTiO(n=1)である。
Tin(2n-1)相は導電性を有する。チタン酸化物皮膜は、主相としてTin(2n-1)相を含むので、導電性を有する。チタン酸化物皮膜の導電性は、母材の導電性より低い。しかし、チタン酸化物皮膜の厚さは、200nm以下であるので、チタン酸化物皮膜の電気抵抗は十分に低い。また、チタン酸化物皮膜が厚すぎると、チタン材をプレス加工する際にチタン酸化物皮膜に割れが生じやすくなる。チタン酸化物皮膜の厚さが200nm以下であることにより、このような割れは生じ難い。
また、Tin(2n-1)相は、耐食性を有する。導電性と耐食性とのバランスをよくするためには、nが1〜5の整数であることが好ましい。チタン酸化物皮膜は、Tin(2n-1)(nは、1〜9の整数)相の2種以上を含んでいてもよい。この場合、いずれのTin(2n-1)相のnも、1〜5の整数であることが好ましい。Tin(2n-1)相は、Ti23相およびTiO相の1種以上であることが、最も好ましい。
チタン酸化物皮膜は、母材と炭素材との間に介装されている。これにより、母材のTiと炭素材のCとが反応してTiCが形成されることを抑制できる。このような反応は、チタン酸化物皮膜が形成されていない場合に、たとえば、チタン材の製造工程で母材等が加熱されることにより生じ得る。すなわち、チタン酸化物皮膜は、母材のTiおよび炭素材のCに対して、バリア層として機能する。ただし、Tin(2n-1)相は、TiO2型の酸化チタンに酸素欠損が生じたものと考えることができる。Tin(2n-1)相は、酸素欠損に起因してCを拡散させ得る。母材のTiと炭素材のCとが反応を十分に抑制するためには、チタン酸化物皮膜の厚さは、30nm以上とすることが好ましく、50nm以上とすることがより好ましい。
チタン酸化物皮膜の厚さは、以下のようにして求めることができる。まず、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、チタン材の表面からの深さ方向に、ArでスパッタしながらO含有率の分析を行う。O含有率は、Ti、母材に1%以上含まれる成分、C、およびOの濃度の合計を100%として算出する。O含有率について、表層から1000nmまでの間のO含有率が最大値となる深さ位置を挟み、それより浅い側と深い側とでO含有率が最大値の1/2となる深さ位置の相互の距離をチタン酸化物皮膜の厚さとする。最表層のO含有率が最大値の1/2より大きい場合は、最表層から最大値を経て、最大値の1/2となる深さ位置までの距離をチタン酸化物皮膜の厚さとする。
〈炭素材〉
炭素材は、導電性を有する。炭素材は、黒鉛(グラファイト)を含むことが好ましい。炭素材が黒鉛を含むことは、たとえば、炭素材のラマンスペクトルが黒鉛のピークを示すことにより確認できる。具体的には、炭素材についてラマン分光法によって、Gバンドのピークが得られ、かつGバンドの半価幅が100cm-1以下である場合に、炭素材は黒鉛を十分に含むと判断することができる。Gバンドの半価幅が100cm-1未満の場合には、炭素材は黒鉛を十分に含まないと判断することができる。
チタン酸化物皮膜の表面積に対する、炭素材で覆われている部分の面積の割合を、「炭素材の被覆率」と定義する。炭素材の被覆率は、100%であることが最も好ましい。しかし、炭素材の被覆率が30%以上であれば、チタン材は、低い接触抵抗を有する。炭素材の被覆率は、50%以上であることが好ましい。
炭素材に含まれる黒鉛のC面間隔d002は、3.38Å以下であることが好ましい。チタン酸化物皮膜をこのような黒鉛で被覆すると、良好な密着性が得られると同時に、特に低い接触抵抗が得られる。より詳細には、黒鉛のC面間隔d002を3.38Å以下とすることにより、下記(i)〜(iv)の効果が得られる。
(i)C面間隔d002が小さくなり理想的な結晶状態における3.354Åに近づくほど、黒鉛の可塑性は高くなる。d002≦3.38Åであれば、可塑性は十分に高いため、チタン酸化物皮膜の表面の被覆が容易である。
(ii)結晶性の高い黒鉛の電気抵抗値には、異方性がある(上記非特許文献1の表1参照)。a軸方向の体積抵抗率は4〜7×10-5Ω・cmと低い。一方、c軸方向の体積抵抗率は1〜5×10-1Ω・cmと高い。a軸方向の電気伝導は、sp2結合におけるπ結合が共役することによってもたらされている。このため、結晶性が高くなるほど体積抵抗率は低くなる。d002≦3.38Åである黒鉛は結晶性が高いので、a軸方向の体積抵抗率が特に低い。これにより、黒鉛全体の体積抵抗率が低くなり、接触抵抗の低下がもたらされる。結晶の向きがランダムであり、全体として方向性のない炭素の体積抵抗率は、平均1375×10-6Ω・cmである。このため、黒鉛のa軸方向の低い体積抵抗率(4〜7×10-5Ω・cm)により、接触抵抗を効率的に低減することができる。
(iii)黒鉛の腐食は、結晶性が低い部分において発生しやすく、結晶性が高い部分ほど発生しにくい。したがって、d002≦3.38Åの黒鉛を主体とする炭素材は、チタン酸化物皮膜の導電性劣化を効果的に防止するように機能する。このため、チタン材とセパレータの電極膜との間の接触抵抗の経時的な増大を生じにくくすることができる。
(iv)結晶性の高い黒鉛をチタン材に対して摺動させると、黒鉛は、炭素原子からなる六員環の面で剥離され、鱗状の粒子となる。この粒子は、チタン酸化物皮膜に固着し、黒鉛層を形成する。この際、黒鉛の粒子が鱗状であることにより、電気抵抗の低いa軸方向がチタン酸化物皮膜の表面に平行となるように、粒子が配向する。これにより、チタン酸化物皮膜の表面と平行な方向に、電気が流れやすくなる。しかし、チタン酸化物皮膜と黒鉛層との界面には無数の凹凸が存在するため、黒鉛層とチタン酸化物皮膜との導電性は、黒鉛のa軸が表面に平行に配向した状態でも十分確保される。この状態で、燃料電池の稼働時に、チタン酸化物皮膜の表面で黒鉛層に覆われていない部分に何らかの腐食生成物が形成され、当該表面に垂直な方向に導通が得られない部分が生じることがある。しかし、黒鉛層の下に存在するチタン酸化物皮膜には、腐食生成物が形成されず、稼働前の状態が維持される。したがって、黒鉛層とチタン材の母材との導電性が確保される。
〈薄膜X線回折分析〉
チタン材表層のチタン酸化物皮膜に含まれる結晶相の同定は、薄膜X線回折により行う。チタン酸化物皮膜の上にある炭素材(炭素層)が薄い場合は、炭素材は、X線を十分に透過し、問題とはならない。この状態でチタン酸化物の回折線が検出可能ならば、そのまま分析してもよい。
炭素材の影響は、チタン酸化物皮膜および炭素材が形成されていない比較試料と、金属チタンの回折線強度を対比することにより、見積もることができる。比較試料は、母材の表層を金属光沢が得られるまで十分研削したものとすることが好ましい。この研磨面をX線回折の分析面とする。金属チタンの回折線強度について、チタン材の回折線強度が比較試料の回折線強度のたとえば30%以上であれば、チタン材について、チタン酸化物の回折線が検出できなくても、特に処理をしないこととしてもよい。この場合、そのまま炭素材を透過するX線により分析することができる。チタン酸化物の回折線が検出できないのは、酸化物層の厚みが十分ではないためと判断することができる。
一方、チタン材について、チタン酸化物の回折線が検出できず、かつ金属チタンの回折線強度が比較試料の回折線強度の30%未満であれば、炭素材が厚いために、チタン酸化物皮膜の結晶相が十分に検出されないと考えられる。この場合は、炭素材を十分に薄くしてから分析を行う。炭素材を薄くする方法は、チタン酸化物皮膜を変質させない限り、どのようなものであってもよい。たとえば、湿式研磨により、炭素材を薄くしてもよい。この場合、湿式研磨は、炭素材の厚さに比して炭素材の除去厚さが十分に薄くなる条件で行う。その後、薄膜X線回折分析を行って金属チタンの回折線強度を測定し、必要により、湿式研磨を繰り返す。金属チタンについて、チタン材の回折線強度が比較試料の回折線強度の30%を超え50%以下となったときに、チタン材についてチタン酸化物の回折線が検出できるか否か、検出できる場合はどのような結晶相が存在するか等を確認することができる。
このチタン材では、表層について入射角0.3°(deg)の薄膜X線回折分析を行うことにより、主相が同定される。主相は、薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相である。主相を特定するのにα−Ti相およびβ−Ti相を除くのは、これらの相の大部分が、チタン酸化物皮膜を構成するものではなく、母材に含まれるTiであるためである。ここで、表層は、少なくとも、チタン酸化物皮膜と、母材においてチタン酸化物皮膜の近傍の部分とを含む。
結晶相の同定は、たとえば、以下の手順により行うことができる。まず、検出されることが予想される結晶相として、結晶相の候補を決定する。結晶相の候補は、たとえば、Ti、ならびにTiとC、およびOの1種以上とを含む化合物とすることができる。具体的な候補として、TiO2(ルチル型)、TiO2(アナターゼ型)、Tin(2n-1)、α−Ti、β−Ti、C(黒鉛)、およびTiCが挙げられる。母材がチタン合金である場合、合金元素を含む化合物も候補としてもよい。チタン材の製造工程で、Hを含む雰囲気で処理した場合は、Hを含む化合物も候補としてもよい。候補には、少なくとも、TiO2(ルチル型)、TiO2(アナターゼ型)、Tin(2n-1)、α−Ti、β−Ti、およびC(黒鉛)が含まれる。
X線回折分析の条件は、たとえば、下記の通りとすることができる。
X線:Co−Kα線
励起:加速電圧を30kVとした100mAの電子線照射
測定対象の回折角度:2θ=20〜100°
スキャン:0.02°のステップでのステップスキャン
各ステップの固定時間:10秒
ピーク強度は、X線回折曲線の連続バックグラウンドより上の部分の面積とする。ここで、「面積」とは、測定したカウント数を使って得た積分強度である。
そして、上記候補の金属チタンおよびチタン化合物のX線回折パターンのデータベースを用い、候補の結晶相のうち薄膜X線回折分析の結果と整合するものが存在すると判断する。その手順は、たとえば、以下の通りである。まず、得られたデータを21点の放物線フィルタで平滑化する。この平滑化したデータに対して、ピーク強度閾値を20cps、ピーク幅閾値を0.1°として、二次微分法でピーク検出を行う。ピーク位置は重心角度とする。以下、このようにして検出されたピークを「実測回折線」という。
実測回折線のうち、上記データベースにあるC(黒鉛)、α−Tiおよびβ−Tiの回折線(以下、「DB回折線」という。)と0.1°以内の角度にあるものを除いて最大のものに対応する結晶相が主相である。すなわち、主相は、上述の候補のいずれかに同定される。母材は純チタンまたはチタン合金からなるので、Tin(2n-1)相、およびTiO2相は、チタン酸化物皮膜中に存在する。本発明のチタン材では、チタン酸化物皮膜は、Tin(2n-1)相を主相として含む。
最大の回折線に対して複数種の結晶相が対応する場合は、確度評価が最も高いものを、主相とする。確度評価として、たとえば、上述の複数種のいずれを主相とするかを、まず、下記(i)の判定基準により決定することを試みる。そして、この判定基準で決定できない場合は、下記(ii)の判定基準により、決定を試みる。
(i)候補となる結晶相のDB回折線において強度が強い順に3番目までのDB回折線のうち、実測回折線と一致するDB回折線の数。
(ii)同様に、強度が強い順に8番目までのDB回折線のうち、実測回折線と一致するDB回折線の数。
上記(i)および(ii)の判定基準では、一致するDB回折線の数が多いほど確度が高い。さらに、DB回折線と一致する実測回折線の数が同じ場合には、一致するDB回折線と実測回折線とについて、DB回折線の回折角度と実測回折線の回折角度との差の平均を比較し、この角度差の平均が小さいものをより確度が高いとする。これにより、主相の同定を客観的に行うことができる。以上の手順は、たとえば、X線回折分析装置に付属するソフトウェアを用いて実施することができる。
TiO2相は導電性に乏しいため、TiO2相(ルチル型またはアナターゼ型)の最強ピーク強度ITiO2は0であることが好ましい。ITiO2が0ではない場合は、主相の最強ピーク強度I1は、ITiO2の5倍以上であることが好ましい。すなわち、この場合、チタン材の薄膜X線回折分析によるピーク強度は、下記式(1)を満足する。
I1≧5×ITiO2 …(1)
式(1)は、チタン酸化物皮膜中において、導電性を有する主相が導電性に乏しい結晶相であるTiO2相に比して十分多く存在することを意味する。したがって、式(1)を満足するチタン材のチタン酸化物皮膜は、高い導電性を有する。
〈チタン材の表面近傍領域〉
チタン材の表面近傍領域は、実質的にTiCを含まない。「表面近傍領域」は、以下のように、XPS分析によるCの強度で決定することができる。チタン酸化物皮膜の上には、炭素材が形成されている。このため、チタン材の表面からArスパッタしながらXPS分析によりCの強度を分析すると、Cの強度は、表面近傍で最大値を示し、測定位置が深くなるに従って小さくなる。チタン材の表面と、Cの強度が最大値の5%になる深さとの間の領域を、「表面近傍領域」とする。
「実質的にTiCを含まない」とは、以下の評価によりTiCが検出されないことを意味する。XPSにより、Ti、C、およびOについてチタン材の表面近傍領域について深さ方向に分析する。このとき、TiCを示すC1sの炭化物のピークによる成分比(原子比)が、Ti、C、およびOの成分合計に対して10%未満のとき、「実質的にTiCを含まない」ものとする。
XPSのデータ解析に際しては、Cについては、TiCを示す炭化物、C−C、C−N、C−OH、C=O、O−C=O、および炭酸塩を仮定し、ピーク分離フィッティングして、C成分内で炭化物(TiC)成分比を求めた。そして、C成分内の炭化物成分比とTi、C、およびO中のCの成分比とをかけ合わせて、Ti、C、およびOの成分合計に対するTiC成分比とする。
TiCの検出は、まず、薄膜X線回折分析により、TiC相が検出されるか否かを確認し、TiC相が検出されなかったものについてのみ、上述のXPSによる確認を行うこととしてもよい。薄膜X線回折分析によりTiC相が検出されるチタン材については、XPSでは必ずTiCが検出されるからである。
[チタン材の製造方法]
このチタン材は、以下に説明する第1工程および第2工程を含む方法により製造することができる。第1工程では、母材の表層を酸化させて、TiO2相を主体とする酸化皮膜(以下、「中途酸化物皮膜」という。)を形成する。第2工程では、中途酸化物皮膜を還元処理して、Tin(2n-1)相を主相とするチタン酸化物皮膜を形成する。
〈第1工程〉
第1工程は、酸化性雰囲気中での熱処理、または陽極酸化処理を含むものとすることができる。母材の表面に均質な酸化皮膜を生成させるという観点では、陽極酸化処理を採用することが好ましい。
《酸化性雰囲気中での熱処理》
酸化性雰囲気は、たとえば大気雰囲気とすることができる。大気雰囲気中で母材の表面に中途酸化物皮膜を生成させるためには、350℃以上700℃以下の温度で加熱する。350℃未満での加熱では、生成する中途酸化物皮膜の厚さが薄く、第2工程での還元処理により、酸化皮膜が消失する可能性がある。また、700℃を超える温度で加熱すると、気孔率が大きい中途酸化物皮膜が生成し、中途酸化物皮膜そのものが脱落するおそれがある。より好ましい温度範囲は、干渉色が青色から紫色となる500℃以上700℃以下である。加熱時間は、たとえば、所定の温度に到達してから、5分〜90分とすることができる。
《陽極酸化処理》
陽極酸化処理は、チタンの一般的な陽極酸化に用いられる水溶液、たとえば、リン酸水溶液、硫酸水溶液などを用いて実施することが可能である。陽極酸化の電圧は、15V以上で、絶縁破壊を起こさない電圧(約150V)を上限とする。陽極酸化の電圧は、好ましくは、40V以上115V以下とする。電圧を40V以上とすることにより、中途酸化物皮膜中にアナターゼ型TiO2相が形成される。このような中途酸化物皮膜に対して第2工程を実施するとTin(2n-1)相を多く含むチタン酸化物皮膜を形成することができる。115Vは、工業的に容易にチタンの陽極酸化が可能な上限の電圧である。
酸化性雰囲気中での熱処理、および陽極酸化処理のいずれにより中途酸化物皮膜を形成した場合でも、チタン酸化物皮膜を構成するTiは、母材に由来する。これにより、母材に対するチタン酸化物皮膜の密着性が高くなるとともに、チタン酸化物皮膜中の導電性を有するチタン酸化物(Tin(2n-1)相等)と母材との導電経路が得られやすくなる。
これに対して、蒸着のような手段により、母材に由来しないTiを母材上に付加してチタン酸化物皮膜を形成した場合は、母材に対するチタン酸化物皮膜の密着性が不十分になることがある。また、このような場合、Tiを付加する前に、母材表面に導電性に乏しいTiO2相が形成されていることがある。この場合、チタン酸化物皮膜中の導電性を有するチタン酸化物と母材との導通が阻害されることがある。このようなTiO2相の存在は、チタン材の表面から深さ方向のO(酸素)含有率プロファイルを取得し、母材とチタン酸化物皮膜との境界領域に高いO含有率の部分が存在するか否かにより確認することができる。O含有率プロファイルを取得するための分析手段として、たとえば、GD−OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)を用いることができる。
〈第2工程〉
第2工程は、炭素による還元処理を含むものとすることができる。この処理は、還元に寄与する炭素を含む炭素源を用いた熱処理とすることができる。この熱処理では、一例として、下記式(a)の反応により、TiO2が、より低次の酸化物(この例では、Ti23)に還元される。
2TiO2+C→Ti23+CO↑ (a)
熱処理の際、中途酸化物皮膜またはこれが還元して得られるチタン酸化物皮膜がバリア層となって、炭素源のCと母材のTiとの反応が抑制される。したがって、TiCは形成されにくい。
この方法では、まず、還元に用いる炭素源を、中途酸化物皮膜の上に供給する。炭素源の供給は、たとえば、表面に中途酸化物皮膜を形成した母材に対して、スキンパス圧延、すなわち、圧下率が5%以下の圧延を行うことにより実施できる。この場合、炭素源として、圧延油を用いる。圧下率が5%を超えると、中途酸化物皮膜が破壊されて、表面に金属が露出してしまう。この場合、表面に所定のチタン酸化物皮膜が均一に形成されたチタン材が得られなくなる。
また、中途酸化物皮膜の上にC含有の樹脂フィルムをラミネートして、その後熱処理によりこのフィルムを炭化させてもよい。これによっても、中途酸化物皮膜の上に炭素源が供給される。
炭素源の供給は、たとえば、実質的に無酸素の雰囲気中で加熱することにより炭素化する物質を、中途酸化物皮膜に付着させることによって実施してもよい。このような物質として、たとえば、C(炭素)とH(水素)とO(酸素)とで構成された物質、およびCとHとCl(塩素)とで構成された物質を挙げることができる。CとHとOとで構成された物質は、たとえば、ポリビニールアルコール(以下、「PVA」と略記する。)、およびカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と略記する。)である。CとHとClとで構成された物質は、たとえば、ポリ塩化ビニリデン、およびポリ塩化ビニルである。
PVAおよびCMCは、水溶性である。これらの水溶液は適度の粘度を有するので、中途酸化物皮膜に塗布するのに適している。有機溶媒に対して可溶性を有する炭素源であれば、水溶性を有しなくても、有機溶媒に溶解して塗布して用いることができる。塗布後、自然乾燥または熱風乾燥により、炭素源を中途酸化物皮膜に固着させてもよい。
第1工程が陽極酸化処理を含む場合、母材の表面に形成される中途酸化物皮膜が光触媒能を有し、撥水性を示す場合がある。このような中途酸化物皮膜に対して光照射または紫外線照射を行うことにより、中途酸化物皮膜の表面が親水性を有するように改質することが可能である。しかし、確実に中途酸化物皮膜の表面を親水性にするように光照射または紫外線照射を行うと、工数が増大し、コスト面で不利になる。
炭素源の水溶液が低粘度である場合、この水溶液を撥水性の中途酸化物皮膜の表面に付着させると、この水溶液は中途酸化物皮膜の表面に水滴状で存在することになる。この状態の水溶液を乾燥後、還元処理を行うと、水滴状の水溶液が存在していた部分に炭素源が集中するので、この部分では還元が進行する。一方、水滴状の水溶液が実質的に存在していなかった部分では、還元が進行しない。還元が進行しない部分では、Tin(2n-1)が生成しない。このため、炭素源の水溶液は均一に塗布される必要がある。PVA、CMC等の水溶液は、適度の粘度を有することにより、撥水性を有する中途酸化物皮膜の表面に塗布した後、均一に存在し得る。
熱処理の温度は、600℃以上850℃以下とする。600℃未満では、還元反応が十分に進行しない。850℃を超える温度では、炭素源から中途酸化物皮膜またはチタン酸化物皮膜を介して母材中へCが拡散し、母材中にTiCが形成される可能性がある。熱処理時間は、所定の温度に到達してから10秒以上10分以下とする。10秒未満では、還元反応が十分に進行しない。10分を超えると、Tin(2n-1)相に加えて、TiC相が生成することがある。
熱処理をする前に、中途酸化物皮膜の上に十分な量の炭素源を供給しておけば、熱処理後、チタン酸化物皮膜の上には、炭素源に由来する導電性の炭素が残存する。残存した炭素は、炭素材となる。この場合、炭素材は、還元時に中途酸化物皮膜のTiO2から供給されたOを含有する。このような炭素材では、Cに対するOの割合(原子比)が0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。この場合、チタン酸化物皮膜に対する炭素材の密着性が高くなる。熱処理後、チタン酸化物皮膜の上に、十分な量の炭素が残存しない場合は、熱処理の後、別途、チタン酸化物皮膜の上に炭素を供給して、炭素材を形成してもよい。
チタン酸化物皮膜の表面に対する炭素源の供給は、たとえば、塊状(ブロック状等)の導電性炭素材をチタン酸化物皮膜に対して摺動させることによって行ってもよい。導電性炭素材は、黒鉛であることが好ましい。黒鉛では、炭素原子からなる六員環の面間の結合は弱い。このため、黒鉛をチタン酸化物皮膜に対して摺動させると、黒鉛は、鱗状の粒子となってチタン酸化物皮膜の表面にほぼ平行に配向する。これにより、チタン酸化物皮膜の表面を黒鉛で効率的に覆うことができる。
経済的に許容されるのであれば、チタン酸化物皮膜の表面に対して、蒸着によってCを供給してもよい。
[固体高分子形燃料電池のセパレータ]
このセパレータは、上記チタン材を備える。炭素材は、チタン材において最表部に形成されているものとすることができる。そして、セパレータにおいて、炭素材の上には、他の部材等は形成されておらず、炭素材が露出しているものとすることができる。この場合、セパレータにおいて電極膜との接触部には、炭素材が存在する。炭素材は導電性を有するので、固体高分子形燃料電池内で、セパレータと電極膜との初期の接触抵抗は低い。また、チタン材がTiCを実質的に含まないことにより、固体高分子形燃料電池内でTiCが溶解することはない。さらに、チタン酸化物皮膜が耐食性を有することにより、セパレータは耐食性を有する。したがって、セパレータの表面近傍の導電性は劣化しにくい。すなわち、このセパレータは、導電性と耐食性とに優れる。
セパレータは、表面に溝が形成された形状を有するものとすることができる。たとえば、セパレータの一面には、燃料ガスを流すための溝が形成されている。セパレータの他面には、酸化性ガスを流すための溝が形成されている。このような形状のセパレータは、薄板状のチタン材をプレス成形して得ることができる。
また、板状の母材をセパレータの形状に成形してから、その母材の表面に、Tin(2n-1)相を主相として含むチタン酸化物皮膜、および炭素材を形成してもよい。この場合も、母材と、母材の上に形成された所定のチタン酸化物皮膜と、チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材とを含むチタン材を備えるセパレータを得ることができる。
[セルおよび固体高分子形燃料電池]
セルは、上記セパレータと、固体高分子電解質膜と、燃料電極膜(アノード)と、酸化剤電極膜(カソード)とが、所定の順序で積層された公知の構造を有するものとすることができる。固体高分子形燃料電池は、複数のセルが積層され電気的に直列に接続された公知の構造を有するものとすることができる。これらのセルおよび固体高分子形燃料電池では、セパレータの導電性と耐食性とが優れることにより、セパレータと電極膜との低い接触抵抗が維持される。これにより、これらのセルおよび固体高分子形燃料電池は、高い発電効率を維持することができる。
本発明の効果を確認するため、各種のチタン材を作製して評価した。
1.母材の準備
母材として、厚さが0.1mmの板状のJIS1種チタン材、および厚さが1mmの板状のJIS17種チタン合金材を使用した。表1に、母材の組成を示す。
Figure 2018104808
2.チタン酸化物皮膜の形成
第1工程として母材の表面に中途酸化物皮膜を形成した後、第2工程として中途酸化物皮膜を還元処理することにより、チタン酸化物皮膜を形成した。
2−1.中途酸化物皮膜の形成
中途酸化物皮膜は、母材の表面を大気酸化または陽極酸化することにより形成した。大気酸化は、アズワン社製ガス置換マッフル炉を用い、空気ボンベから0.5L/分の流量で炉内に空気を導入しながら実施した。陽極酸化は、直流安定化電源により、10質量%硫酸水溶液中で母材と対極との間に所定の電圧を印加することにより実施した。対極は、白金製のものを用いた。電圧の印加開始後、電流が除々に下がり低位に安定してから30秒間保持して処理を完了した。
得られた試料について、リガク社製X線回折装置RINT2500を使用して、薄膜X線回折分析により、表層のTiO2相の種類、すなわち、ルチル型であるかアナターゼ型であるかを同定した。この際、ターゲットはCoを使用し、入射角を0.3°とした。TiO2は、中途酸化物皮膜を構成するものである。
2−2.中途酸化物皮膜の還元
下記方法1〜4のいずれかにより、炭素源を中途酸化物皮膜の上に供給した。
〈方法1〉
PVAの10質量%水溶液を作製した。PVAとして、キシダ化学社製試薬(重合度:500、鹸化度:86.5〜89)のPVAを用いた。この水溶液中に、室温で、中途酸化物皮膜が形成された母材を浸漬した。これにより、中途酸化物皮膜の表面にこの水溶液を塗布した。その後、この母材を大気中で24時間乾燥した。
〈方法2〉
炭素源としての黒鉛を中途酸化物皮膜の表面に擦りつけた。黒鉛として、新日本テクノカーボン製のブロック状の黒鉛を用いた。この黒鉛は、直径が10mmの円柱状であった。この黒鉛のd002は、0.3365nmであった。
〈方法3〉
中途酸化物皮膜の表面に、炭素源としての圧延油を塗布して、圧下率1%のスキンパスを行った。圧延油として、出光興産社製のダフニーロールオイルFX−50を使用した。
〈方法4〉
方法2と同様にして、黒鉛を中途酸化物皮膜の表面に擦りつけ、後述の方法により還元処理を行った後、再度、方法2と同様にして黒鉛をチタン酸化物皮膜または炭素材の表面に擦りつけた。
以上のいずれかの方法により中途酸化物皮膜の上に炭素源を供給した母材を、常圧のAr雰囲気中で加熱することにより、中途酸化物皮膜の還元処理を行った。Ar雰囲気は、純度が99.995%以上で3ppm未満のOを含有する工業用アルゴンガスを用いて得た。
3.薄膜X線回折分析
上述の中途酸化物皮膜のTiO2相の同定と同様の条件により、チタン材の試料表層部について、薄膜X線回折分析を行った。その結果に基づいて、主相を同定した。また、ピーク強度I1、およびITiO2を測定した。これらの強度に基づき、各試料について、TiO2相に起因するピークが認められた場合は、I1/ITiO2を求めた。
4.チタン酸化物皮膜の厚さ
チタン酸化物皮膜の厚さを、XPSによる上述の方法により求めた。測定装置として、アルバックファイ社製のQuantum2000を用いた。X線源は、AlのKα線を用いた。
5.TiC、黒鉛、および酸素の分析
チタン材の表面近傍領域が実質的にTiCを有するか否かを、XPSによる上述の方法により調査した。その際、表面近傍領域を深さ方向に4等分した深さ位置(表面を含め5点)の各々で測定を行い、いずれの深さ位置でも炭化物成分比が10%未満であれば、「実質的にTiCを含まない」と判断した。いずれかの深さ位置で炭化物成分比が10%以上であれば、「実質的にTiCを含む」と判断した。
また、炭素材が黒鉛を十分に含むか否かを、ラマンスペクトルによる上述の方法により、調査した。さらに、炭素材についてXPS分析を行い、O(酸素)が検出されるか否かを調査した。
6.密着性
炭素材の密着性を、テープ剥離試験により調査した。テープ剥離を行う前に、チタン材の評価面を直径が1mmまたは3mmの丸棒に密着させ、この丸棒を支点としてチタン材を180°折り曲げた後、チタン材を平板状に開いた。このチタン材の評価面に対して、テープ剥離試験を行った。テープとして、ニチバン社製のセロテープ(登録商標)を用いた。評価面に貼り付けたテープをはがしたときに、炭素材が剥離するか否かにより、密着性を評価した。
7.接触抵抗の測定
得られたチタン材の試料について、非特許文献2に記載されている方法に準じ、接触抵抗を測定した。図1は、チタン材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図である。この装置を用い、各試料の接触抵抗を測定した。図1を参照して、まず、作製した試料11を、燃料電池用のガス拡散層として使用される1対のカーボンペーパ(東レ(株)製 TGP−H−90)12で挟み込み、これを金めっきした1対の電極13で挟んだ。各カーボンペーパ12の面積は、1cm2であった。
次に、この1対の金めっき電極13の間に、10kgf/cm2(9.81×105Pa)の荷重を加えた。図1に、荷重の方向を白抜き矢印で示す。この状態で、1対の金めっき電極13間に一定の電流を流し、このとき生じるカーボンペーパ12と試料11との間の電圧降下を測定した。この結果に基づいて抵抗値を求めた。得られた抵抗値は、試料11の両面の接触抵抗を合算した値となるため、これを2で除して、試料11の片面あたりの接触抵抗値とした。このようにして測定した接触抵抗を、初回の接触抵抗とした。
次に、この1対の金めっき電極13の間に加える荷重を、5kgf/cm2(4.90×105Pa)と20kgf/cm2(19.6×105Pa)との間で繰り返し10回変化させた。その後圧力を10kgf/cm2(9.81×105Pa)として、同様に、接触抵抗を測定した。このようにして測定した接触抵抗を、10回加重後の接触抵抗とした。
8.耐食性の調査
得られたチタン材の試料(繰り返し変動する荷重を加えていないもの)を、90℃、pH2のH2SO4水溶液に96時間浸漬した後、十分に水洗して乾燥させた。そして、上述の方法により接触抵抗を測定した。耐食性が良好ではない場合には、チタン材表面の不動態皮膜が成長するので、浸漬前と比較し接触抵抗が上昇する。
表2に、チタン材の作製条件、および評価結果を示す。
Figure 2018104808
表2の「酸素検出」の欄の記号は、Cの量に対するOの量の比(原子比)が以下の通りであることを示す。
○:0.2以上
△:0.1以上0.2未満
×:0.1未満
表2の「密着性」の欄の記号は、折り曲げに用いた丸棒の直径、およびテープ剥離の有無が以下の通りであることを示す。
○:直径が1mmの丸棒を用いて折り曲げしてもテープ剥離が生じなかった。
△:直径が1mmの丸棒を用いて折り曲げするとテープ剥離が生じたが、直径が3mmの丸棒を用いて折り曲げするとテープ剥離が生じなかった。
×:直径が3mmの丸棒を用いて折り曲げするとテープ剥離が生じた。
本発明例1〜16では、いずれも、主相はTin(2n-1)相のいずれかであり、チタン酸化物皮膜の厚さは200nm以下であり、チタン材の表面近傍領域は実質的にTiCを含まなかった。これらの試料では、接触抵抗の値は、初期および耐食試験後のいずれでも40mΩ・cm2以下と低かった。すなわち、これらの試料が導電性と耐食性とに優れることが確認された。
本発明例11では、他の本発明例の試料に比して、接触抵抗がやや高かった。これは、I1/ITiO2が5以下、すなわち、チタン酸化物皮膜においてTiO2相に比してTin(2n-1)相が十分には多くはなかったことと関係していると思われる。
本発明例16では、密着性試験の結果が良好ではなかった。本発明例5および7、すなわち、方法2により中途酸化物皮膜の上に黒鉛を供給した試料と対比すると、本発明例16では熱処理の後に炭素材の上に供給した黒鉛が剥離したものと考えられる。したがって、黒鉛により炭素材を形成する場合は、黒鉛は熱処理の前に中途酸化物皮膜の上に供給することが好ましい。本発明例5および7と本発明例14とを対比すると、熱処理の温度が高くなると、チタン酸化物皮膜に対する黒鉛の密着性が高くなることがわかる。
比較例1および2は、それぞれ、処理を施していない母材AおよびBである。これらの表層部には、Tin(2n-1)相が実質的に形成されていない、TiO2相を主体とする自然酸化膜が形成されていると考えられる。比較例1および2では、接触抵抗は、初期で100mΩ・cm2を超え、耐食試験後には大幅に高くなった。
比較例3、5、6、8、および9では、TiCが検出された。これらの試料では、耐食試験後で少なくとも10回加重後の接触抵抗が40mΩ・cm2を超えた。これらの試料では、耐食試験によりTiCが溶解し腐食生成物が生じて接触抵抗が上昇したものと考えられる。これらの試料がTiCを含むのは、中途酸化物皮膜の厚さが薄すぎたこと、熱処理の温度が高すぎたこと、および熱処理の時間が長すぎたことの少なくともいずれかによると考えられる。そのような条件では、中途酸化物皮膜またはチタン酸化物皮膜がバリア層として十分に機能せずに、炭素材のCと母材のTiとが反応し得る。
比較例4では、主相はTin(2n-1)ではなくTiO2であった。これは、炭素還元をしていないことによる。この試料の接触抵抗は、初期および耐食試験後のいずれも、300mΩ・cm2を超えた。TiO2が導電性に乏しいことにより、接触抵抗が高くなったものと考えられる。
比較例7では、耐食試験後で10回加重後の接触抵抗が40mΩ・cm2を超えた。これは、チタン酸化物皮膜の厚さが200nmを越えたことにより、チタン酸化物皮膜自体の抵抗が高かったためと考えられる。
表2で、「酸素検出」の欄と「密着性」の欄とを対比すると、概ね炭素材におけるCに対するOの割合が多くなるほど、密着性が高くなることがわかる。Cに対するOの割合は、0.2以上であれば、密着性は良好である。
11:試料(チタン材)

Claims (7)

  1. 純チタンまたはチタン合金からなる母材と、
    前記母材の上に形成され、主相を含むチタン酸化物皮膜と、
    前記チタン酸化物皮膜の上に形成され導電性を有する炭素材と、を備えるチタン材であって、
    前記主相は、当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析により得られるピークのうち、α−Ti相、およびβ−Ti相に対応するピークを除いて、最大のピークに対応する結晶相であるとともに、Tin(2n-1)(nは、1〜9の整数)相のいずれかであり、
    前記チタン酸化物皮膜の厚さが、200nm以下であり、
    当該チタン材の表面近傍領域が実質的にTiCを含まない、チタン材。
  2. 請求項1に記載のチタン材であって、前記炭素材が黒鉛を含む、チタン材。
  3. 請求項1または2に記載のチタン材であって、前記薄膜X線回折分析で、TiO2相に起因するピークが認められる場合に、前記主相の最強ピーク強度がTiO2相の最強ピーク強度の5倍以上である、チタン材。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のチタン材であって、前記チタン酸化物皮膜の厚さが、30nm以上である、チタン材。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のチタン材を備える、固体高分子形燃料電池のセパレータ。
  6. 請求項5に記載のセパレータを備える、固体高分子形燃料電池のセル。
  7. 請求項6に記載のセルを備える、固体高分子形燃料電池。
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