以下、発明を実施するための形態(以下、これを実施の形態と呼ぶ)について、図面を用いて詳細に説明する。
[1.画像形成装置の全体構成]
図1に、画像形成装置1の全体構成の概略を示す。尚、図1は、画像形成装置1の全体構成を示す側面図となっている。この図1に示すように、画像形成装置1は、電子写真方式のプリンタであり、略箱型の装置筐体2を有している。ここで、装置筐体2の図中右側を前面、図中左側を後面として、装置筐体2の前面から後面への方向を後方向、後面から前面への方向を前方向、装置筐体2の下側から上側への方向を上方向、装置筐体2の上側から下側への方向を下方向、装置筐体2の図中手前側から奥側への方向を右方向、装置筐体2の図中奥側から手前側への方向を左方向とする。
装置筐体2の内部には、その上部に、画像形成装置1で扱う複数色の現像剤(例えばブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の4色のトナー)の各々に対応する4個の画像形成ユニット3(3K、3Y、3M、3C)が、媒体としての用紙Pの搬送路Rに沿って前後方向に並べて設けられている。
各画像形成ユニット3(3K、3Y、3M、3C)は、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)と、トナーカートリッジ5(5K、5Y、5M、5C)とを有している。各画像形成ユニット3(3K、3Y、3M、3C)は、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)の表面に光を照射して露光することで、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)の表面に静電潜像を形成した後、この静電潜像にトナーカートリッジ5(5K、5Y、5M、5C)から供給されるトナーを付着させることで、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)の表面にトナー像を形成する装置である。
さらに装置筐体2の内部には、画像形成ユニット3(3K、3Y、3M、3C)の下方に、転写ユニット6が設けられている。転写ユニット6は、搬送路Rに沿って後方(図中左方向)に走行自在に配設された環状の搬送ベルト7と、搬送ベルト7を間に挟んで感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)の下方に対向配置された転写ローラ8(8K、8Y、8M、8C)とを有している。
転写ローラ8(8K、8Y、8M、8C)は、用紙Pが、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)と搬送ベルト7との間を通過する際に、用紙Pをトナーとは逆極性に帯電させることで、感光体ドラム4(4K、4Y、4M、4C)上に形成された各色のトナー像を用紙Pに転写する部材である。
さらに装置筐体2の内部には、転写ユニット6の下方(つまり装置筐体2の下部)に、用紙Pを収容するトレイ9が設けられている。さらにこのトレイ9の近傍には、トレイ9に収容された用紙Pを1枚ずつ搬送路Rへと繰り出すホッピングローラ10が設けられている。さらに装置筐体2の内部には、トレイ9と転写ユニット6との間の搬送路R上に、用紙Pを搬送する搬送ローラ対などが設けられている。
さらに装置筐体2の内部には、転写ユニット6の用紙搬送方向下流側(つまり後方)に、定着器11が設けられている。定着器11は、上側の定着ベルト12と下側の加圧ローラ13とを備え、定着ベルト12と加圧ローラ13との間に形成されるニップ部を用紙Pが通過する際に、用紙Pを加熱及び加圧することで、用紙Pにトナー像を定着させる装置である。この定着器11の詳細な構成については後述する。
さらに装置筐体2の上端部には、用紙Pが排出されるスタッカ14が設けられている。さらに装置筐体2の内部には、定着器11とスタッカ14との間の搬送路R上に、用紙Pをスタッカ14へと排出する排出ローラ対などが設けられている。さらに装置筐体2の内部には、搬送路R上の複数の箇所に、用紙Pを検知する媒体検知センサなどが設けられている。画像形成装置1の全体構成は、以上のようになっている。尚、図1では省略しているが、装置筐体2の内部には、CPUなどで構成される制御部、定着器11の温度を検出するサーミスタ、各ローラを駆動させるモータなども設けられている。また装置筐体2の外部には、ユーザによる操作を受け付ける操作部なども設けられている。
ここで、画像形成装置1の動作について簡単に説明する。画像形成装置1は、トレイ9に収容されている用紙Pを、ホッピングローラ10により1枚ずつ搬送路Rへと繰り出す。搬送路Rへと繰り出された用紙Pは、転写ユニット6へと搬送され、転写ユニット6の搬送ベルト7により画像形成ユニット3K、3Y、3M、3Cへと順に搬送される。ここで、各画像形成ユニット3K、3Y、3M、3Cは、感光体ドラム4K、4Y、4M、4Cの表面上に各色のトナー像を形成する。このようにして感光体ドラム4K、4Y、4M、4Cの表面上に形成されたトナー像は、転写ローラ8K、8Y、8M、8Cにより、用紙P上に転写され、これにより用紙P上にカラーのトナー像が形成される。
カラーのトナー像が形成された用紙Pは、転写ユニット6から定着器11へと搬送される。定着器11は、カラーのトナー像を用紙Pに定着させる。これにより、用紙P上にカラー画像が印刷されたことになる。その後、この用紙Pは、スタッカ14へと搬送され、スタッカ14上に排出される。画像形成装置1の動作は、以上のようになっている。
[2.定着器の構成]
次に、定着器11の構成について、図2~図6を用いて詳しく説明する。尚、図2~図6は、適宜、定着器11の一部を省略したり簡略化したりした図となっている。具体的に、図2は定着器11の外観斜視図である。この図2では、矢印Ar1で示す方向が用紙搬送方向となっている。また図3は定着器11を正面から見た正面図、図4は定着器11の断面図、図5(A)、(B)は図4の一部を拡大した拡大断面図、図6は定着器11の一部を分解した分解斜視図である。
図2及び図3に示すように、定着器11は、定着器11の左端に位置する左サイドフレーム20Lと、右端に位置する右サイドフレーム20Rと、左サイドフレーム20Lの下端と右サイドフレーム20Rの下端とを繋ぐ中央下フレーム20Cとを有していて、左サイドフレーム20Lと右サイドフレーム20Rとによって、定着ベルト12を有するベルトユニット21の左右両端部と加圧ローラ13の回転軸となる加圧ローラシャフト22の左右両端部とを支持している。
図2及び図3に示すように、加圧ローラ13は、円筒状のローラであり、左サイドフレーム20Lの下部及び右サイドフレーム20Rの下部により回転自在に支持されている左右方向に延びる加圧ローラシャフト22に固定されている。右サイドフレーム20Rの外側面側(つまり右側面側)には、加圧ローラ13の駆動系である3個のギヤ23、24、25が設けられている。加圧ローラシャフト22は、その右端が、右サイドフレーム20Rに設けられている図示しない孔を通って右サイドフレーム20Rの外側面側まで延び、ギヤ25に固定されている。加圧ローラ13の駆動系では、ギヤ23が、画像形成装置1の本体側のギヤと連結されていて、本体側のギヤが回転すると、その回転が、ギヤ23、ギヤ24、ギヤ25へと伝達され、ギヤ25に固定されている加圧ローラシャフト22とともに加圧ローラ13が回転するようになっている。
図2に示すように、ベルトユニット21は、加圧ローラ13の上側に位置していて、ベルトユニット21の左端に位置する左レバー30Lと、右端に位置する右レバー30Rと、これら左レバー30L及び右レバー30Rの間に位置する定着ベルト12とを有している。左レバー30L及び右レバー30Rは、定着器11の左サイドフレーム20L及び右サイドフレーム20Rのそれぞれの内側面の上下方向の中央に取り付けられていて、左右方向に延びる管状(環状)の定着ベルト12の左右両端部を回転自在に支持している。
ここで、図3に示すA-A切断線により定着器11を切断した場合の断面図である図4、及びベルトユニット21の分解斜視図である図6に示すように、左レバー30Lは、内側面(つまり左側面)に、略円盤状の円盤部31rと略円柱状の円柱部31sとを組み合わせた形状でなるフランジ31が固定されている。このフランジ31は、円盤部31rが左レバー30Lの内側面に固定され、円柱部31sが定着ベルト12の左端部の内側に入り込んで左端部の内周面と接触することにより、定着ベルト12の左端部を回転自在に支持している。尚、このフランジ31には、下端(加圧ローラ13側の端)からフランジ31の中心軸部分までを切り欠く凹部31gが設けられていて、全体として左右方向から見て略C字型となっている。
また図示しないが、右レバー30Rも、左レバー30Lと左右対称になるようにして、内側面(つまり右側面)にフランジ31が固定されていて、このフランジ31により、定着ベルト12の右端部を回転自在に支持している。このようにベルトユニット21では、左レバー30L及び右レバー30Rに設けられた左右のフランジ31によって、定着ベルト12の左右両端部を回転自在に支持している。
さらに図4に示すように、左レバー30Lは、フランジ31の前方近傍に丸孔32が形成されていて、この丸孔32に、左サイドフレーム20Lに設けられた回転軸33が挿通されている。このようにして左レバー30Lは、左サイドフレーム20Lにより回転自在に支持されている。さらに左レバー30Lは、左レバー30Lと左サイドフレーム20Lとの間に設けられたスプリング34により、図4中矢印Ar2で示す方向(つまり支持している定着ベルト12を加圧ローラ13に押し付ける方向)に付勢されている。また図示しないが、右レバー30Rも、左レバー30Lとは左右対称になるようにして、右サイドフレーム20Rにより回転自在に支持されているとともに、左レバー30Lと同一方向(つまり支持している定着ベルト12を加圧ローラ13に押し付ける方向)に付勢されている。
このようにして、定着器11は、定着ベルト12をベルトユニット21ごと加圧ローラ13に押し付けるようになっている。
さらに図4、図4に示す仮想の円Cr内を拡大した図5(A)、及び図6に示すように、定着ベルト12の内側には、定着ベルト12の支柱となるステー40が設けられている。このステー40は、左右方向に延びる断面略コの字型の部材であり、コの字の開口を下側(加圧ローラ13側)に向けた状態で、左右両端部が左レバー30L及び右レバー30Rにネジで固定されている。尚、ステー40は、左右両端部が、左右のフランジ31の凹部31gの内側を通るようになっていて、左右のフランジ31の中心軸に沿って延びている。
さらに、図5(A)及び図6に示すように、ステー40の下側(つまり加圧ローラ13側)には、左右方向に延びる保持部材41がステー40の下側の開口を塞ぐように取り付けられている。図5(A)に加えて、図5(A)から保持部材41のみを抽出した図である図5(B)に示すように、この保持部材41は、下面(加圧ローラ13側の面)の用紙搬送方向上流側となる前端部41fと、下面の用紙搬送方向下流側となる後端部41bとの間に、左右方向に延びる溝部42が設けられている。この保持部材41は、前端部41fと後端部41bが定着ベルト12の内周面に当接するとともに、溝部42が定着ベルト12により覆われるようになっている。この溝部42は、前端部41f側の前端溝42fと、後端部41b側の後端溝42bと、前端溝42fと後端溝42bとの間に位置する中央溝42cとで構成されている。溝部42は、中央溝42cよりも前端溝42f及び後端溝42bの方が深く形成されていて、全体として断面コの字型の溝となっている。
保持部材41では、この溝部42に、保熱板43と、ヒータ44と、熱拡散部材45とを収容し、これら保熱板43、ヒータ44及び熱拡散部材45を、溝部42を覆う定着ベルト12とともに保持するようになっている。尚、保熱板43は、ヒータ44の熱が逃げないように保持する部材であり、熱拡散部材45は、ヒータ44の熱を拡散しながら定着ベルト12に伝達する部材である。
具体的に、保熱板43とヒータ44は、それぞれ中央溝42cに収容可能な板状部材となっている。一方、熱拡散部材45は、金属板をコの字に折り曲げるようにして形成された断面コの字型の部材であり、前端溝42fに差し込まれる前端部45fと、後端溝42bに差し込まれる後端部45bと、前端部45fと後端部45bとを繋ぐ中央部45cとで構成されている。
この保持部材41は、中央溝42cに、保熱板43とヒータ44が、保熱板43が上側、ヒータ44が下側となるように重ねて配置された状態で、保熱板43の前端面及び後端面と、ヒータ44の下面、前端面及び後端面とを熱拡散部材45が囲うように、熱拡散部材45の前端部45f及び後端部45bが、前端溝42f及び後端溝42bに差し込まれることで、溝部42に、保熱板43、ヒータ44及び熱拡散部材45を収容するようになっている。つまり、保持部材41の溝部42には、保持部材41と熱拡散部材45との間に挟み込まれるようにして、保熱板43とヒータ44とが収容される。尚、定着器11では、上述したように、断面コの字型の熱拡散部材45が、ヒータ44の下面、前端面及び後端面を囲うように配置されていることにより、ヒータ44の熱が、ヒータ44の下面、前端面及び後端面から効率良く熱拡散部材45に伝わるようになっている。
さらに、保持部材41の溝部42に保熱板43、ヒータ44及び熱拡散部材45が収容された状態で、保持部材41の溝部42が定着ベルト12に覆われることにより、溝部42に収容された保熱板43、ヒータ44及び熱拡散部材45が、保持部材41と定着ベルト12との間に挟み込まれるようにして保持される。このとき、熱拡散部材45の下面(ヒータ44とは反対側の面)45sが、定着ベルト12の内周面と当接する。このようにして、保持部材41は、溝部42に収容された、保熱板43と、ヒータ44と、熱拡散部材45とを、定着ベルト12との間に挟み込んで保持するようになっている。
尚、保熱板43、ヒータ44、熱拡散部材45は、保持部材41に固定されているわけではなく、保持部材41と定着ベルト12との間に挟み込まれているだけである。さらに保持部材41は、前端溝42f及び後端溝42bが、熱拡散部材45の前端部45f及び後端部45bよりも深さ方向に長くなっていて、熱拡散部材45に対して上下方向(前端溝42f及び後端溝42bの深さ方向)に移動可能なガタ(遊び)を持たせている。これにより、保熱板43、ヒータ44、熱拡散部材45は、溝部42から外れない範囲で、上下方向(前端溝42f及び後端溝42bの深さ方向)に移動可能となっている。
定着ベルト12は、内側で熱拡散部材45と当接する部分Bpが、加圧ローラ13に押し付けられて加圧ローラ13とともにニップ部Npを形成するようになっている。つまり、保熱板43、ヒータ44、熱拡散部材45は、加圧ローラ13によって保持部材41に押し付けられることで、保熱板43の下面とヒータ44の上面、ヒータ44の下面と熱拡散部材45の上面、熱拡散部材45の下面45sと定着ベルト12の内周面が、それぞれ当接して位置が固定された状態となる。定着ベルト12は、この状態で、加圧ローラ13が回転すると、熱拡散部材45の下面45sに対して摺動しながら、加圧ローラ13に連れ回るようにして回転する。このとき、定着器11では、ヒータ44の熱が、ヒータ44から熱拡散部材45へと伝わり、さらに熱拡散部材45から定着ベルト12のニップ部Npを形成している部分(以下、これをニップ形成部と呼ぶ)Bpへと伝わることで、ニップ部Npを通過する用紙を加熱するようになっている。
尚、ヒータ44の下面と熱拡散部材45の上面との間には、ヒータ44の熱を熱拡散部材45へと効率良く伝えるために熱伝導グリス(図示せず)が塗布されている。さらに定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と、熱拡散部材45の下面45sとの間には、ニップ形成部Bpと熱拡散部材45の下面45sとの間の摺動性を確保して摩耗を防止するために潤滑剤としての摺動グリス(図示せず)が塗布されている。定着器11の構成は、以上のようになっている。
ここで、定着器11の動作について簡単に説明する。定着器11の動作は、画像形成装置1の図示しない制御部によって制御される。すなわち、定着器11は、ヒータ44を動作させて定着ベルト12の温度を設定温度まで上昇させるとともに、モータの駆動力をギヤ23、ギヤ24、ギヤ25へと伝達することにより加圧ローラ13を回転させる。定着器11は、加圧ローラ13が回転すると、この加圧ローラ13に押し付けられている定着ベルト12が、加圧ローラ13とは逆方向に連れ回る。そして、定着器11は、用紙が、定着ベルト12と加圧ローラ13との間のニップ部Npを通過する際に、用紙を加熱及び加圧することで、用紙にトナー像を定着させる。定着器11の動作は、以上のようになっている。
[3.定着ベルトの構成]
次に、定着ベルト12の構成についてさらに詳しく説明する。定着ベルト12の断面図である図7に示すように、定着ベルト12は、用紙上のトナー像と接触する表面層12sと、加圧ローラ13に押し付けられることで変形する弾性層12eと、定着ベルト12の耐久性及び機械的強度を発現させる基層12bとの少なくとも3層で構成される。
表面層12sは、定着ベルト12の最外周の表面を形成する層であり、用紙上のトナー像と接触する部分である。表面層12sは、弾性層12eの変形に対して追従できるように薄膜であることが望まれるが、薄すぎると加圧ローラ13との摺擦(こすれ合うようにしてすべること)や用紙との摺擦によってシワが発生してしまう。このことから、表面層12sの膜厚は、15μm~50μmであることが望ましい。またこの表面層12sには、定着温度に耐え得る耐熱性と、トナー像が貼り付き難い離型性とが求められる。ゆえにこの表面層12sには、一般的にフッ素置換された材料が使用される。これらの点を踏まえて、本実施の形態の定着ベルト12では、膜厚30μmのPFA(フッ素樹脂)を、表面層12sとして使用している。
弾性層12eは、表面層12sと基層12bとの間に位置する層であり、ニップ部Npの形成に適したゴム硬度と膜厚が必要である。また一方で、この弾性層12eは、ヒータ44から伝わる熱量の損失を抑制して、ヒータ44の熱を効率良く定着ベルト12の最外周(つまり表面層12sの外周面)まで伝える必要がある。この弾性層12eを厚くすれば、ニップ部Npでのニップ圧が均一になるが、その一方で熱容量が大きくなり熱量の損失が大きくなるため好ましくない。このことから、弾性層12eの膜厚は、50μm~500μmであることが望ましい。またこの弾性層12eのゴム硬度は、ニップ圧を均一にするために20度~60度であることが望ましい。これらの点を踏まえて、本実施の形態の定着ベルト12では、ゴム硬度が20度、膜厚が300μmであり、且つ定着温度に耐え得る耐熱性を有するシリコーンゴムを、弾性層12eとして使用している。尚、ここでは、弾性層12eの材料としてシリコーンゴムを使用しているが、これに限らず、定着温度に耐え得る耐熱性を有する材料であれば、例えばフッ素ゴムなどの材料を使用してもよい。
基層12bは、定着ベルト12が寿命となるまで定着ベルト12が破断することなく走行できるように、機械的強度が高く、屈曲及び座屈に対する高い耐久性を有することが必要である。これらの点を踏まえて、本実施の形態の定着ベルト12では、φ30(つまり直径30mm)、膜厚30μmのSUS304スリーブを、基層12bとして使用している。尚、ここでは、基層12bの材料としてSUS304(ステンレス鋼)を使用しているが、これに限らず、定着温度に耐え得る耐熱性と座屈に対する高い耐久性とを有し、ヤング率が所定の大きさ以上となる材料であれば、ポリイミド(PI)やポリエーテルケトン(PEEK)などの材料を使用してもよい。ちなみに、これらPIやPEEKを使用する場合、必要に応じて、これらPIやPEEKに対して、PTFEやチッカホウ素などのフィラーや、カーボンブラックや亜鉛などの金属元素を含んだ導電性フィラーなどを添加する。定着ベルト12の構成は、以上のようになっている。尚、上述した定着ベルト12の構成は一例であり、上述した構成とは異なる構成であってもよい。
[4.加圧ローラの構成]
次に、加圧ローラ13の構成についてさらに詳しく説明する。尚、ここでは、加圧ローラシャフト22についても加圧ローラ13の一部として説明する。加圧ローラ13の外観斜視図である図8(A)、及びこの図8(A)に示すB-B切断線により加圧ローラ13を切断した場合の断面図である図8(B)に示すように、加圧ローラ13は、用紙と接触する表面層13sと、定着ベルト12が押し付けられることで変形する弾性層13eと、表面層13sと弾性層13eとを接着する接着層13aと、加圧ローラシャフト22との少なくとも4層で構成される。
表面層13sは、加圧ローラ13の最外周の表面を形成する層であり、用紙と接触する部分である。表面層13sは、定着ベルト12の表面層12sと同様、弾性層13eの変形に対して追従できるように薄膜であることが望まれるが、薄すぎると定着ベルト12との摺擦や用紙との摺擦によってシワが発生してしまう。このことから、表面層13sの膜厚は、15μm~50μmであることが望ましい。またこの表面層13sには、定着温度に耐え得る耐熱性と、定着ベルト12に残存したトナーや用紙から出る紙粉が貼り付き難い離型性とが求められる。ゆえにこの表面層13sにも、一般的にフッ素置換された材料が使用される。これらの点を踏まえて、本実施の形態の加圧ローラ13では、膜厚30μmのPFA(フッ素樹脂)を、表面層13sとして使用している。
接着層13aは、表面層13sがシワになったり弾性層13eから剥離したりすることを抑制するために、表面層13sを弾性層13eに接着する部分である。本実施の形態の加圧ローラ13では、定着温度に耐え得る耐熱性と接着力とを有する、導電剤が添加されたシリコーン接着剤を、接着層13aとして使用している。ここで、導電材が添加されたシリコーン接着剤(つまり導電性を有するシリコーン接着剤)を使用している理由は、印刷を繰り返すことにより加圧ローラ13の表面層13sに帯電した電荷が蓄積されて、加圧ローラ13の表面に紙粉などが静電的に付着することを抑制するためである。尚、ここでは、接着層13aの材料として、導電性を有する接着剤を使用しているが、これに限らず、非導電性の接着剤を使用してもよい。
弾性層13eは、定着ベルト12の弾性層12eと同様、ニップ部Npの形成に適したゴム硬度と膜厚が必要である。また一方で、この弾性層13eについては、定着ベルト12から用紙及び用紙上のトナー像へと伝わった熱量の損失を抑制するために蓄熱性に留意する必要がある。これらの点を踏まえて、本実施の形態の加圧ローラ13では、厚さ3mmのシリコーンスポンジを、弾性層13eとして使用している。尚、弾性層13eとして使用するシリコーンスポンジについては、発泡セル(つまり気泡)の大きさを小さくすれば、ニップ部Npにおいてニップ跡が残存しなくなる。この点と、蓄熱性とを考慮すると、弾性層13eとして使用するシリコーンスポンジとしては、発泡セルの平均セル径が20μm~250μmのものが好ましく、本実施の形態では、発砲セルの平均セル径が100μmのシリコーンスポンジを弾性層13eとして使用している。ちなみに、セル径の測定は、シリコーンスポンジをカミソリなどで厚さ方向に切断して、その断面をCCD顕微鏡で観察し、観察視野角内に存在する発泡セルのセル径を10個測定して平均化した。
また本実施の形態の加圧ローラ13では、接着層13aと同様、表面層13sに電荷が蓄積されることを抑制するために、弾性層13eとして、導電剤を添加したシリコーンスポンジ(つまり導電性を有するシリコーンスポンジ)を使用している。尚、弾性層13eの材料として、非導電性のシリコーンスポンジを使用してもよい。
加圧ローラシャフト22は、加圧ローラ13の回転軸となる部分であり、定着圧力(つまり定着ベルト12を加圧ローラ13に押し付ける圧力)に耐え得るものであれば、中実のものであっても中空のものであってもよい。このことから、本実施の形態の加圧ローラ13では、中実のSUS304シャフトを、加圧ローラシャフト22として使用している。加圧ローラ13の構成は、以上のようになっている。尚、上述した加圧ローラ13の構成は一例であり、上述した構成とは異なる構成であってもよい。
[5.熱拡散部材の構成]
次に、熱拡散部材45の構成についてさらに詳しく説明する。本実施の形態では、耐久性が高く、ヒータ44の熱を効率良く定着ベルト12に伝えることのできるSUS(ステンレス鋼)を、熱拡散部材45として使用している。また、複数個の発熱体を有するヒータ44の温度段差による光沢ムラを低減するために、熱拡散部材45の板厚を0.6mmとしている。尚、光沢ムラとは、定着ベルト12の温度ムラに起因して用紙に転写されたトナー像上に発生する光沢のムラである。
さらに本実施の形態では、定着ベルト12の基層12bとの摺擦によって変形することがないように、熱拡散部材45の表面を耐擦傷性の高いガラス材料で被覆(コーティング)している。尚、本実施の形態では、定着ベルト12の基層12bにSUSを使用しているため、熱拡散部材45の表面をガラス材料で被覆したが、これに限らず、定着ベルト12の内周面(つまり基層12b)との摺動性を有するコーティング材料であれば、ガラス材料以外のコーティング材料で被覆するようにしてもよい。例えば、ポリイミドやフッ素樹脂などのコーティング材料で、熱拡散部材45の表面を被覆するようにしてもよい。一方で、定着ベルト12の基層12b側に摺動性を有する材料が使用されている場合には、熱拡散部材45の表面側についてはコーティングしなくてもよい。
ところで、上述したように、熱拡散部材45の下面45sと、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面との間には摺動グリスが塗布されている。ここで、熱拡散部材45の下面45sが平滑になっていると、熱拡散部材45の下面45sと、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面との間に、摺動グリスを適切に保持することができない。そこで、本実施の形態では、熱拡散部材45の下面45sを平滑ではなく、なだらかな凹凸で形成されるうねり形状とした。具体的には、定着ベルト12の摺動性、印刷品質、摺動グリスの劣化具合の3つの観点から見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持されるように、熱拡散部材45の下面45sを、算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となるうねり形状とした。
JIS B 0601:2013の規定では、輪郭曲線(表面の凹凸を表す曲線)の波長成分をカットオフ値λcで短波長成分と長波長成分に分離した場合の短波長成分を粗さ曲線、長波長成分のことをうねり曲線と呼んでいて、粗さよりも間隔が広い凹凸のことをうねりと呼んでいる。またこのJIS B 0601:2013の規定では、うねり曲線における凹凸高さの絶対値の平均を、算術平均うねりWaと定義している。よって、上述した算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となるうねり形状とは、うねりの凹凸高さの絶対値の平均が、0.39μm以上、0.95μm以下であることを意味する。
尚、本実施の形態では、カットオフ値λcを0.25mmに設定して得られたうねり曲線から算術平均うねりWaを算出している。また本実施の形態では、熱拡散部材45の下面45sの短手方向(つまり用紙搬送方向)に沿ったうねり、及び長手方向(つまり定着ベルト12の回転軸方向)に沿ったうねりのそれぞれの算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となっているが、少なくとも短手方向に沿ったうねりの算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となっていればよい。極端な例を挙げると、熱拡散部材45の下面45sに、用紙搬送方向に沿ったうねりのみを形成するようにしてもよい。さらに本実施の形態では、摺動グリスとして、グリスの硬さを表す混和ちょう度が265~295(NLGI No.2)のフッ素化グリスを使用している。
ここで、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲(つまり0.39μm以上、0.95μm以下)については、図9の表に示す実験結果をもとに選定している。
図9の表は、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaを変えると、定着ベルト12の内周面の状態、印刷画像の品質、及び摺動グリスの状態がどのように変化するのかについて実験した結果を示している。この実験では、下面45sの算術平均うねりWaが異なる熱拡散部材45を複数個用意した。具体的には、熱拡散部材45の表面を被覆するガラス材料の焼成温度を調節することで、下面45sの算術平均うねりWaが異なる熱拡散部材45を複数個作成した。つまり、熱拡散部材45の下面45sには、下面45sをコーティングしているガラス材料にうねりが形成されるようになっている。尚、これに限らず、例えば、表面の算術平均うねりWaが異なる金型を複数個用意して、それぞれの金型で熱拡散部材45を成型することにより、算術平均うねりWaの異なるうねりが金型から下面45sに転写された熱拡散部材45を複数個作成するようにしてもよい。このように金型を用いる場合、熱拡散部材45の表面がガラスなどのコーティング材料によりコーティングされていなくても、熱拡散部材45の表面にうねり形状を形成することができる。
具体的に実験では、算術平均うねりWaが0.25μmのサンプルA、算術平均うねりWaが0.33μmのサンプルB、算術平均うねりWaが0.39μmのサンプルC、算術平均うねりWaが0.44μmのサンプルD、算術平均うねりWaが0.50μmのサンプルE、算術平均うねりWaが0.83μmのサンプルF、算術平均うねりWaが0.95μmのサンプルG、算術平均うねりWaが1.14μmのサンプルHのように、算術平均うねりWaが小さい順にサンプルA~Gまでの8個の熱拡散部材45を用意した。そして、8個の熱拡散部材45のそれぞれを定着器11に取り付け、A4用紙500枚印刷後に、摺動グリス付着面積率を算出するとともに、定着ベルト内周面摩耗、印刷画像、摺動グリス劣化を評価する実験を行った。
摺動グリス付着面積率は、熱拡散部材45の下面45sにおける単位面積当たりの摺動グリスの付着面積を割合として算出したものである。つまり、摺動グリス付着面積率は、摺動グリスの保持具合を示していて、100%に近いほど、熱拡散部材45の下面45s全体に満遍なく摺動グリスが保持されていることを意味する。具体的にこの摺動グリス付着面積率については、A4用紙500枚印刷後の熱拡散部材45の下面45sを撮像して得られた画像を摺動グリスとガラス材料との輝度の違いにより2値化して算出した。
実験では、摺動グリス付着面積率として、サンプルAが30.2%、サンプルBが60.2%、サンプルCが81.2%、サンプルDが90.2%、サンプルEが94.6%、サンプルFが87.1%、サンプルGが82.1%、サンプルHが71.0%となった。これらサンプルごとの摺動グリス付着面積率と算術平均うねりWaとの関係を、図10のプロット図に示す。このプロット図からも明らかなように、摺動グリス付着面積率は、算術平均うねりWaが0.25μmから大きくなるにつれて増加していくが、算術平均うねりWaが0.50のときをピークにして減少している。このことから、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルEの0.50μm付近となる場合に、摺動グリスの保持具合が最良となることがわかる。
一方で、摺動グリス付着面積率は、算術平均うねりWaが0.25μmの場合に最小の30.2%となるが、この場合でも、熱拡散部材45の下面45sが平滑である場合と比べれば、わずかではあるが摺動グリス付着面積率は高くなった。つまり、算術平均うねりWaが0.25μm以上であれば、熱拡散部材45の下面45sが平滑である場合と比べて、摺動グリスの保持具合は良くなる。
定着ベルト内周面摩耗の評価は、定着ベルト12の内周面が摩耗しているかどうかにより行う。熱拡散部材45に対する定着ベルト12の摺動性が悪化すると定着ベルト12の内周面が摩耗することから、定着ベルト12の内周面が摩耗していれば定着ベルト12の摺動性が悪化していることを意味する。つまり、定着ベルト内周面摩耗を評価することで、定着ベルト12の摺動性について評価することができる。具体的にこの定着ベルト内周面摩耗の評価では、A4用紙500枚印刷後の定着ベルト12の内周面を拡大観察して、幅1mm以上の摺動傷が有れば摩耗有(摺動性不良、図9中×印)と判定し、無ければ摩耗無(摺動性良好、図9中〇印)と判定した。
実験では、サンプルAとサンプルHでは定着ベルト12の内周面に摩耗が見られ、サンプルBからサンプルGでは摩耗が見られなかった。このことから、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルBの0.33μm以上、サンプルGの0.95μm以下であれば、定着ベルト12の内周面が摩耗せず、定着ベルト12の摺動性が良好であることがわかる。ちなみに、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルAの0.25μmである場合、下面45sのうねりの凹凸高さが小さすぎて、熱拡散部材45の下面45sと定着ベルト12の内周面との間に摺動グリスを十分に保持することができず、定着ベルト12の内周面が摩耗したと推定される。また熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルHの1.14μmである場合、下面45sのうねりの凹凸高さが大きすぎて、うねりの凸部が定着ベルト12の内周面に当たって定着ベルト12の内周面が摩耗したと推定できる。
印刷画像の評価は、100%ベタ印刷において縦方向(つまり用紙搬送方向)に延びるスジ状の画像不良が発生しているかどうかにより行う。熱拡散部材45の下面45sのうねりの凹凸高さが大きすぎると、うねりの凸部が局所的に定着ベルト12を変形させることで、印刷画像にスジ状の画像不良が発生して印刷品質が低下する。具体的にこの印刷画像の評価では、印刷画像に幅1mm以上の縦スジが有れば画像不良が発生している(印刷品質不良、図9中×印)と判定し、無ければ画像不良が発生していない(印刷品質良好、図9中〇印)と判定した。
実験では、サンプルHでのみ画像不良が見られた。このことから、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルAの0.25μm以上、サンプルGの0.95μm以下であれば、熱拡散部材45の下面45sのうねりの凹凸高さが大きすぎず、印刷品質が良好であることがわかる。
摺動グリス劣化の評価は、摺動グリスの色が変化しているかどうかにより行う。定着ベルト12の内周面から削れた摩耗粉が摺動グリスに混入すると、摺動グリスは劣化する(つまり性能が低下する)とともに、例えば黒色に変色する。摺動グリスが劣化すると、熱拡散部材45に対する定着ベルト12の摺動性が悪化する可能性が出てくる。つまり、摺動グリス劣化を評価することで、定着ベルト12の摺動性について評価することができる。具体的にこの摺動グリス劣化の評価では、劣化していない摺動グリスの色と劣化した摺動グリスの色とが印刷された媒体を用意して、この媒体に印刷されている色と、A4用紙500枚印刷後の摺動グリスの色とを目視で比較し、摺動グリスの色が劣化前の色に近ければ摺動グリスが劣化していない(摺動性良好、図9中〇印)と判定し、劣化後の色に近ければ劣化している(摺動性不良、図9中×印)と判定した。
実験では、サンプルAとサンプルBでのみ摺動グリスの劣化が見られた。このことから、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルCの0.39μm以上であれば、摺動グリスが劣化せず、定着ベルト12の摺動性が良好であることがわかる。ちなみに、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaがサンプルBの0.33μm以下である場合、摺動グリス付着面積率が小さすぎて、定着ベルト12の内周面が摩耗したと推定される。
尚、摺動グリス劣化の評価と、定着ベルト内周面摩耗の評価は、ともに定着ベルト12の摺動性について評価するものであるが、摺動グリス劣化の評価は摺動グリスに混入する摩耗粉の量によるものであり、定着ベルト内周面摩耗は定着ベルト12の内周面の摺動傷の有無によるものであることから、定着ベルト12の摺動性についての評価が一致するわけではない。実際、例えばサンプルBの場合、定着ベルト内周面摩耗の評価では摺動性良好の〇印となっているのに対して、摺動グリス劣化の評価では摺動性不良の×印となっている。
この実験結果から、図9の表に示すように、定着ベルト内周面摩耗の評価と、印刷画像の評価と、摺動グリス劣化の評価の全てで、良好な評価(つまり図9中〇印の評価)が得られるのは、サンプルCからサンプルGの熱拡散部材45であることがわかった。換言すると、この実験結果から、定着ベルト12の内周面が摩耗せず、印刷品質が良好で摺動グリスが劣化しないように摺動グリスを保持するには、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaを、サンプルCの0.39μm以上、サンプルGの0.95μm以下にすればよいことがわかった。このように、本実施の形態では、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を0.39μm以上、0.95μm以下に選定することで、定着ベルト12の内周面の摩耗、印刷画像の品質、摺動グリスの劣化の3つの観点から見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持できるようになっている。
尚、本実施の形態では、定着ベルト12の内周面の摩耗、印刷画像の品質、摺動グリスの劣化の3つの観点から見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持できるように、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaを0.39μm以上、0.95μmとしたが、これに限らず、例えば、これら3つの観点のうち、画像形成装置1のユーザにとって最も重要である印刷画像の品質という1つの観点のみから見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持できるようにする場合には、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を、印刷画像の品質が良好(図9中〇印)となる0.25μm以上、0.95μm以下とすればよい。
またこれに限らず、これら3つの観点のうち、例えば、定着ベルト12の内周面の摩耗と印刷画像の品質の2つの観点から見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持できるようにする場合には、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を、定着ベルト12の内周面が摩耗してなく(図9中〇印)、印刷画像の品質が良好(図9中〇印)となる0.33μm以上、0.95μm以下とすればよい。また、定着ベルト12の内周面の摩耗という1つの観点から見て、熱拡散部材45と定着ベルト12との間に摺動グリスが適切に保持できるようにする場合にも、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を、0.33μm以上、0.95μm以下とすればよい。
このように、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲については、定着ベルト12の内周面の摩耗、印刷画像の品質、摺動グリスの劣化の3つの観点のうちのどの観点から見るかによって、適宜選定すればよい。
[6.まとめと効果]
ここまで説明したように、本実施の形態の定着器11は、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と当接する熱拡散部材45の下面45sを、カットオフ値λcを0.25mmに設定して算出される算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となるうねり形状にした。こうすることで、定着器11では、定着ベルト12の内周面が摩耗せず(つまり定着ベルト12の摺動性を確保しつつ)、印刷品質が良好で摺動グリスが劣化しないように、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に摺動グリスを保持することができる。
さらに、本実施の形態の定着器11は、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を0.33μm以上、0.95μm以下まで広げた場合でも、定着ベルト12の内周面が摩耗せず、印刷品質が良好となるように、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に摺動グリスを保持することができる。
さらに、本実施の形態の定着器11は、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を0.25μm以上、0.95μm以下まで広げた場合でも、印刷品質が良好となるように、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に摺動グリスを保持することができる。
このように、定着器11は、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を、0.39μm以上、0.95μm以下、又は0.33μm以上、0.95μm以下、もしくは0.25μm以上、0.95μm以下に選定することにより、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に摺動グリスを適切に保持することができる。
別の言い方をすると、定着器11は、熱拡散部材45の下面45sの算術平均うねりWaの範囲を0.25μm以上、0.95μm以下、より好ましくは0.33μm以上、0.95μm以下、より好ましくは0.39μm以上、0.95μm以下に選定することにより、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に摺動グリスを適切に保持することができる。
[7.他の実施の形態]
[7-1.他の実施の形態1]
尚、上述した実施の形態では、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面に、熱拡散部材45の下面45sを当接させ、ヒータ44の熱を、熱拡散部材45を介して定着ベルト12のニップ形成部Bpに伝えるようにした。これに限らず、定着器11から熱拡散部材45を省略して、ヒータ44の下面を直接、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面に当接させるようにしてもよい。
この場合、熱拡散部材45の代わりにヒータ44の下面(全面でも良い)を、算術平均うねりWaが0.39μm以上、0.95μm以下となるうねり形状、又は0.33μm以上、0.95μm以下となるうねり形状、もしくは0.25μm以上、0.95μm以下となるうねり形状にすればよい。このようにすれば、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面とヒータ44の下面との間に摺動グリスを適切に保持することができる。
[7-2.他の実施の形態2]
また上述した実施の形態では、熱拡散部材45を断面コの字型にしてヒータ44の下面、前端面及び後端面を囲うように配置した。これに限らず、熱拡散部材45を、例えばヒータ44と同様、板状にして、ヒータ44の下面を覆うように配置してもよい。
[7-3.他の実施の形態3]
さらに上述した実施の形態では、定着ベルト12のニップ形成部Bpの内周面と熱拡散部材45の下面45sとの間に設ける潤滑剤である摺動グリスとして、混和ちょう度が265~295(NLGI No.2)のフッ素化グリスを使用した。これに限らず、フッ素化グリスと同様の特性(摺動性、耐熱性など)を持ち、混和ちょう度が265~295の潤滑剤が有れば、その潤滑剤を使用してもよい。
[7-4.他の実施の形態4]
さらに上述した各実施の形態では、定着ベルト12を加圧ローラ13に押し付ける構成の定着器11に本発明を適用した。これに限らず、加圧ローラ13を定着ベルト12に押し付ける構成の定着器に適用してもよい。すなわち、定着ベルトと加圧部材とを備え、定着ベルトと加圧部材とが当接する構成の定着装置であれば、上述した定着器11とは異なる構成の定着装置に本発明を適用してもよい。
[7-5.他の実施の形態5]
さらに上述した各実施の形態では、電子写真方式のカラープリンタである画像形成装置1に本発明を適用した。これに限らず、定着ベルトと加圧部材とが当接する構成の定着装置を有する画像形成装置であれば、上述した画像形成装置1とは異なる構成の画像形成装置に本発明を適用してもよい。例えば、モノクロプリンタである画像形成装置や、中間転写ベルトを備える構成の画像形成装置などに適用してもよく、また、プリンタに限らず、定着装置を有するコピー機、ファクシミリ、複合機などの画像形成装置に適用してもよい。
[7-6.他の実施の形態6]
さらに上述した各実施の形態では、加圧部材の具体例として加圧ローラ13を用いたが、これに限らず、加圧ローラ13とは異なる加圧部材を用いてもよい。例えば、ローラではなく、ベルトでなる加圧部材を用いてもよい。さらに、上述した各実施の形態では、内周面当接部材の具体例として熱拡散部材45又はヒータ44を用いたが、これに限らず、定着ベルトにおけるニップ部を形成する部分の内周面と当接する部材であれば、熱拡散部材45又はヒータ44以外の内周面当接部材を用いてもよい。
[7-7.他の実施の形態7]
さらに本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態の一部または全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。