本発明者は、物品の製造において、部材の接着に際して接着剤および両面粘着テープのそれぞれが有する上述した課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、本発明者等は、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をそれぞれシート化した接着シートを用いることで、上述した接着剤および両面粘着テープの欠点を補いつつ、双方が持つ利点を活かした部材の接着が可能であることを知得した。
2液分別塗布型接着剤を用いた物品の製造方法では、例えば特許文献2および3で開示されるように、通常、2種類の液状材料を各部材の被着面に分別塗布した後、各部材の液状材料塗布面同士を接触させて常温硬化させることで、部材同士を貼り合せて行う。しかし、塗布接着法による物品の製造方法は、上述した問題を有する。
これに対し、本発明者等は、2液分別塗布型接着剤を用い、2種類の液状材料の一方から形成された接着層を有する接着シートと、他方から形成された接着層を有する接着シートとが対となった接着シートセットを開発した。そして、各接着シートを別々の部材にそれぞれ貼り、各部材の接着層同士を接触させたところ、塗布接着法と同様に常温硬化が進み、部材を強固に接着することが可能となることを見出した。また、上記接着シートセットを用いることで、塗布接着法よりも物品の製造が簡便となることを見出した。なお、特許文献2~5には、2液分別塗布型接着剤の各液状材料のシート化については、開示も示唆もされていない。
さらに、本発明者は、上記接着シートセットによれば、接着剤を比較的低い温度で硬化させることができることから、上記部材の反りや浮きの発生を抑制することができ、材質や膨張率差に因らず、様々な部材を組合せて貼り合わせることが可能であることを見出した。例えば、熱硬化型接着剤をシート状にした接着シートは、材質や膨張率の大きく異なる部材を貼り合わせると、接着剤の加熱硬化の際に部材の反りや浮きが生じるという問題があるため、貼合する部材の組合せが材質等により制限されてしまう。特に、金属部材とプラスチック部材とを貼り合せる場合に、上記の問題が顕著化する。これに対し、2液分別塗布型接着剤から得られる接着シートセットによれば、比較的低い温度での硬化が可能であるため、上述したような不具合の発生を抑えることができる。
さらに、本発明者は、上記接着シートセットを用いた接着方法について検討を行い、上記接着シートセットの各接着シートの各接着層の物性を異ならせる、とりわけ硬化後の各接着層の貯蔵弾性率、硬化後の各接着層のマルテンス硬さ、または硬化後の各接着層のビッカース硬さを異ならせることで、部材に対する適性を高めたり、接着層に機能を付与したりすることができることを見出した。
ここで、2液分別塗布型接着剤は、通常、2種類の液状材料をそれぞれ塗布後、すぐに互いを接触硬化させて用いられるため、接触時に液体の状態であり、流動性を有しており、各液状材料は混ざりやすいといえる。これに対し、上記接着シートセットの接着シートはシート化されているため、流動性が無い若しくは低く、2液分別塗布型接着剤を用いる塗布接着法と比較すると、接触時に各接着シートの各接着層中の成分は混ざりにくい。そのため、各接着層が接触硬化した後においても、各接着層の特性を維持することができる。したがって、上記接着シートセットを用いた接着方法では、各接着シートの各接着層の物性、とりわけ硬化後の各接着層の貯蔵弾性率、硬化後の各接着層のマルテンス硬さ、または硬化後の各接着層のビッカース硬さを異ならせることにより、各接着層を部材に適したものとすることができる。
本開示の接着シートセットおよび物品の製造方法は、上述したこれらの知見に基づく。以下、本開示の接着シートセットおよび物品の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書内において、第1接着層および第2接着層のことを、単に接着層と称する場合があり、第1接着シートおよび第2接着シートのことを、単に接着シートと称する場合がある。また、第1部材および第2部材のことを、単に部材と称する場合がある。さらに、第1接着シート付部材および第2接着シート付部材のことを、単に接着シート付部材と称する場合がある。
I.接着シートセット
まず、本開示の接着シートセットについて説明する。本開示の接着シートセットは、第1接着層を備える第1接着シートと、第2接着層を備える第2接着シートとを有する接着シートセットであって、上記第1接着シートおよび上記第2接着シートは、上記第1接着層および上記第2接着層が互いに接触することにより硬化して接着するように構成されている。また、本開示の接着シートセットは、3つの態様を有する。第1態様は、硬化後の上記第1接着層および上記第2接着層の23℃における貯蔵弾性率が異なる。第2態様は、硬化後の上記第1接着層および上記第2接着層のマルテンス硬さが異なる。第3態様は、硬化後の上記第1接着層および上記第2接着層のビッカース硬さが異なる。
図1(a)、(b)は、本開示の接着シートセットの一例を示す模式図である。接着シートセット50は、一対の第1接着シート11および第2接着シート12を有する。第1接着シート11は第1接着層22を備え、第2接着シート12は第2接着層24を備える。第1接着シート11および第2接着シート12は、第1接着層22および第2接着層24が互いに接触することにより硬化して、強い接着力を発現し、強固に接着可能となるように構成されている。また、第1接着層22および第2接着層24は、硬化後の23℃における貯蔵弾性率、硬化後のマルテンス硬さ、または硬化後のビッカース硬さが異なるものとなっている。第1接着シート11は、第1接着層22の少なくとも一方の面側に配置された第1セパレータ21を有していてもよく、図1(a)で示すように、第1接着層の片面に第1セパレータを有していてもよく、図1(b)で示すように、第1接着層の両面に第1セパレータを有していてもよい。同様に、第2接着シート12は、第2接着層24の少なくとも一方の面側に配置された第2セパレータ23を有していてもよく、図1(a)で示すように、第2接着層の片面に第2セパレータを有していてもよく、図1(b)で示すように、第2接着層の両面に第2セパレータを有していてもよい。
図2は、本開示の接着シートセットを用いた物品の製造方法の一実施形態の一例を示す工程図であり、図1(a)に示す接着シートセット50を用いる例である。まず、図2(a)に示すように、第1部材1に、第1接着シート11の第1接着層22の一方の面が貼り合されてなる、第1接着シート付部材20を準備する。また、別途、図2(b)に示すように、第2部材2に、第2接着シート12の第2接着層24の一方の面が貼り合されてなる、第2接着シート付部材30を準備する。続いて、図2(c)~(d)に示すように、第1接着シート付部材20の第1接着層22の他方の面と、第2接着シート付部材30の第2接着層24の他方の面とを、それぞれの第1セパレータ21および第2セパレータ23を剥離して、貼り合せる。このとき、第1接着層22および第2接着層24は、互いに接触することにより、第1接着層22中の成分と第2接着層24中の成分とが相互に拡散して、硬化反応が生じ、接着性が向上する。そして、硬化反応の完了により、第1接着層22および第2接着層24は、図2(d)に示すように、強い接着力を発現した硬化接着層3となり、硬化接着層3を介して第1部材1および第2部材2を強固に貼り合せることができる。これにより、物品10が得られる。
本開示の接着シートセットによれば、第1接着シートの第1接着層および第2接着シートの第2接着層は、互いが接触することより硬化することができ、硬化により発現される強い接着力をもって強固に接着することができる。
第1接着シートおよび第2接着シートで構成される接着シートセットは、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料の一方から形成された接着層と、他方から形成された接着層と、が各接着シートに分別されている。このように2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料を個々にシート化することで、以下の効果を有することができる。
通常、2液分別塗布型接着剤を用いて2つの部材を貼り合わせる場合、各液状材料をそれぞれの部材に塗布する必要があるところ、液状材料が予めシート化されていることで、使用の際に、液状材料の混合の必要が無く、塗布時の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出しを防ぐことができる。また、液状材料がシート化されていることで、厚みによる管理を行うことができ、接着シートを部材と貼り合わせることで、部材上に接着層を必然的に配置させることができる。このため、物品の製造時の品質管理の面からも優れている。さらに、上記2種類の液状材料は、互いに接触することで硬化反応が進むところ、上記液状材料が分別されてシート化されていることで、保管中に硬化反応が進まないため、接着シート単体での長期保管が可能である。このため、接着シートセットは、物品の製造のタイミングに応じて使用することが可能である。加えて接着シートは、被着面の大きさや形状に合せたサイズ調整が可能である。
第1態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率が異なる。ここで、貯蔵弾性率は、外力と歪みにより物体に生じたエネルギーのうち、物体の内部に保存する成分として定義され、硬化後の接着層の貯蔵弾性率は、硬化後の接着層の硬さの指標となる。硬化後の接着層は、貯蔵弾性率に応じた硬さを有し、貯蔵弾性率が高いと硬い層となり、貯蔵弾性率が低いと柔らかい層となる。
第2態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さが異なる。硬化後の接着層は、マルテンス硬さが高いと硬い層となり、マルテンス硬さが低いと柔らかい層となる。
第3態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さが異なる。硬化後の接着層は、ビッカース硬さが高いと硬い層となり、ビッカース硬さが低いと柔らかい層となる。
すなわち、本開示の接着シートセットは、硬化後の硬さの異なる接着層を組み合わせたものである。
本開示においては、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1接着層および第2接着層を貼り合わせる被着体の種類に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。例えば、硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが低い接着層は、柔らかい層であるため、被着体の被着面が平滑面である場合に、密着性を高くことができる。また、硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが高い接着層は、硬い層であるため、被着体の被着面が凹凸面や多孔質面である場合に、アンカー効果を発揮することができる。したがって、被着体に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することにより、被着体に対する適性を高めることができる。
また、本開示においては、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1接着層および第2接着層に要求される機能に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。例えば、後述の物品の製造方法の第4実施形態および第5実施形態に記載するように、第1部材上に第1接着層および第2接着層が積層される場合、第1部材側に配置される第1接着層には第1部材との接着性能が求められ、また最表面に配置される第2接着層には保護機能が求められる。この場合、最表面に配置される第2接着層の硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを、第1部材側に配置される第1接着層の硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さよりも高くすることにより、最表面に配置される第2接着層の硬化後の硬さを、第1部材側に配置される第1接着層の硬化後の硬さよりも硬くすることができ、最表面に配置される第2接着層にハードコート性を付与することができる。
また、本開示の接着シートセットは、異種部材を接着する場合に有利である。例えば、従来、異種部材を接着する場合には、各部材に応じて適した接着剤が異なるため、十分な接着強度が確保できない場合があった。これに対し、本開示においては、各部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することにより、接着強度を確保することが可能である。具体的には、金属と有機物のように材質や膨張率、伸び率が大きく異なる異種部材を接着する場合には、応力集中が起こりやすいが、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なることにより、一方の接着層の硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを低くし、柔らかい層とすることができるため、応力を緩和させやすくすることができ、十分な接着強度を得ることができる。また、成形品とフィルムのように形態が異なる異種部材を接着する場合も、応力集中が起こるため、上記の場合と同様に、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なることにより、応力を分散させやすくすることができ、良好な接着強度を得ることができる。さらに、有機物と木材、有機物と布や皮のように材質や表面性状が異なる異種部材を接着する場合には、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なることにより、一方の接着層の硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを低くし、柔らかい層とすることができるため、被着面が平滑面であっても高い密着性を保つことができ、接着強度を確保することができる。また、この場合、他方の接着層の硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを高くし、硬い層とすることができるため、被着面が凹凸面や多孔質面であれば、硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さをさらに高くすることで、アンカー効果を引き出すことができる。また、第1接着層および第2接着層を介して異種部材を接着する場合だけでなく、後述の物品の製造方法の第4実施形態および第5実施形態に記載するように、第1部材上に第1接着層および第2接着層が積層される場合であって、一方の接着層の中に他の部材を包含させる、あるいは第1接着層および第2接着層の界面に他の部材を配置することで、第1部材に他の部材を固定する、あるいは他の部材により第1部材を補修または補強する場合においても、第1部材および他の部材が異なる種類の部材である場合には、上記の場合と同様に、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なることにより、接着強度を確保することができる。
以下、本開示の接着シートセットの各構成について説明する。
A.第1接着層および第2接着層
第1接着層および第2接着層は、互いに接触することにより硬化して接着することができる。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、およびビッカース硬さの少なくとも1つが異なる。以下、第1接着層および第2接着層の物性、材料および性状について説明する。
1.物性
第1態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率が異なる。
硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率の差は、被着体の種類等に応じて適宜設定されるが、具体的には0.5×107Pa以上とすることができ、中でも0.5×107Pa以上10×107Pa以下の範囲内、特に1×107Pa以上5×107Pa以下の範囲内とすることができる。上記貯蔵弾性率の差が小さいと、上述したような貯蔵弾性率が異なることによる効果が十分に得られないおそれがある。また、上記貯蔵弾性率の差が大きいと、第1接着層および第2接着層の界面に応力が集中しすぎるおそれがある。
第1接着層および第2接着層のうち、貯蔵弾性率が低い接着層の硬化後の23℃における貯蔵弾性率は、0.1×107Pa以上9.5×107Pa以下の範囲内とすることができ、中でも0.3×107Pa以上5×107Pa以下の範囲内、特に0.5×107Pa以上3×107Pa以下の範囲内とすることができる。一方の接着層の硬化後の貯蔵弾性率が上記範囲内であれば、柔らかい層となるため、応力を緩和させやすくすることができ、接着強度を確保することが可能となるからである。
また、貯蔵弾性率が高い接着層の硬化後の23℃における貯蔵弾性率は、上記の貯蔵弾性率の差を満たしていれば特に限定されないが、1×107Pa以上10×107Pa以下の範囲内とすることができ、中でも2×107Pa以上9×107Pa以下の範囲内、特に3×107Pa以上8×107Pa以下の範囲内とすることができる。
硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率を測定するに際しては、まず、第1接着層と接触させる測定用第2接着層を調製し、次いで第1接着層および測定用第2接着層を硬化させる。測定用第2接着層は、第1接着層に含まれる硬化性有機化合物と同種の硬化性有機化合物を含み、さらに接着シートセットの第2接着層に含まれる成分のうち、硬化性有機化合物以外の成分を含むものである。ここで、同種とは、硬化性有機化合物の主たる構造が同一であることをいい、同一の硬化性有機化合物だけでなく、その誘導体も含む。また、硬化性有機化合物が重合体である場合には、分子量が異なるものや、重合体を構成する一部の単量体が異なっていても主たる単量体単位が同一であるものは、同種に含まれる。硬化条件としては、第1接着層と測定用第2接着層とを重ねて円筒形にしたのち、温度23℃、湿度50%で7日間静置養生させる。また、貯蔵弾性率は、JIS K7244-1に準拠した動的粘弾性測定法により測定することができる。例えば、測定装置としてティー・エイ・インスツルメント社製の固体粘弾性アナライザーRSA-IIIを用い、JIS K7244-1:1998(プラスチック-動的機械特性の試験方法-第1部:通則)に準拠した動的粘弾性測定法(アタッチメントモード:圧縮モード、周波数:1Hz、温度:-50℃~150℃、昇温温度:5℃/分、円柱型試験片)にて測定することができる。硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率については、上記の硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率と同様に測定することができる。
硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率は、各接着層に含有される成分の組成や配合比等に応じて適宜調整が可能である。
第1接着層および第2接着層は、いずれの貯蔵弾性率が高くてもよく、被着体の種類等に応じて適宜選択される。
例えば、被着体の被着面が平滑面である場合、第1接着層および第2接着層のうち、被着面が平滑面である被着体に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率を低くすることができる。硬化後の貯蔵弾性率が低い接着層は、柔らかい層であるため、被着体の被着面が平滑面である場合に、密着性を高くことができる。また例えば、被着体の被着面が凹凸面や多孔質面である場合、第1接着層および第2接着層のうち、被着面が凹凸面や多孔質面である被着体に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率を高くすることができる。硬化後の貯蔵弾性率が高い接着層は、硬い層であるため、被着体の被着面が凹凸面や多孔質面である場合に、アンカー効果を発揮することができる。
また例えば、後述の物品の製造方法の第4実施形態および第5実施形態に記載するように、第1部材上に第1接着層および第2接着層が積層される場合には、最表面に配置される第2接着層の硬化後の貯蔵弾性率を、第1部材側に配置される第1接着層の硬化後の貯蔵弾性率よりも高くすることができる。硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率が高いことにより、硬化後の第2接着層を硬くすることができ、ハードコート性を付与することができる。
また例えば、接着シートセットを用いて異種部材である第1部材および第2部材を接着する場合において、第1接着層が貼り合される第1部材が金属材料を含み、第2接着層が貼り合される第2部材が有機材料を含む場合、硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率を、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率よりも高くすることができる。金属材料を含む第1部材に貼り合される第1接着層の硬化後の貯蔵弾性率が低いことにより、効果的に応力を緩和することができる。また、有機材料を含む第2部材に貼り合される第2接着層の硬化後の貯蔵弾性率が高いことにより、硬化後の第2接着層の膜強度を保つことができる。したがって、接着強度を高めることが可能となる。また、第1部材が金属材料を含み、第2部材がコンクリート材料を含む場合、第1部材が金属材料を含み、第2部材がセラミック材料を含む場合、第1部材がセラミック材料を含み、第2部材が有機材料を含む場合、第1部材が木材を含み、第2部材が金属材料を含む場合、および、第1部材が木材を含み、第2部材が有機材料を含む場合も、上記の場合と同様に、硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率を、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率よりも高くすることで、接着強度を高めることができる。
第2態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さが異なる。硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さは、以下の方法で測定することができる。なお、両面側にセパレータが配置されていない接着シートは、離型フィルムであるセパレータ(例えば、ニッパ社製 PETセパレータPET28×IJ0)を貼り付けてから測定する。まず、接着層の両面にセパレータが設けられた接着シートを10cm角に裁断し、各接着シートの一方のセパレータを剥離して、露出させた接着層同士を手動ローラーを用いて貼り合わせ、23℃50%7日間静置して養生を行い、測定用硬化接着層を作製する。この測定用硬化接着層のセパレータを剥離し、第1接着層側の面および第2接着層側の面のそれぞれのマルテンス硬さを測定する。そして、測定用硬化接着層の第1接着層側の面のマルテンス硬さを、硬化後の第1接着層のマルテンス硬さとし、測定用硬化接着層の第2接着層側の面のマルテンス硬さを、硬化後の第2接着層のマルテンス硬さとする。マルテンス硬さは、ISO 14577準拠のインデンテーション試験法にて行い、超微小硬さ試験システム(商品名:ピコデンターHM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定することができる。この測定方法では、圧子は、ビッカース圧子、ダイヤモンド正四角錘形状、最大径400μmを用いることができる。また、圧子の押し込み条件は、下記の通りである。なお、厚みによる依存をなくすため、押し込み荷重を1mNと小さく設定し、押し込み深さをおおよそ1μmとなるように設定する。
(圧子の押し込み条件)
・押し込み荷重:1mN
・荷重時間 :20秒
・クリープ時間:5秒
・最大押し込み深さ:表面から厚み方向へおおよそ1μm
硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さは、各接着層に含有される成分の組成や配合比等に応じて適宜調整が可能である。
第1接着層および第2接着層は、いずれのマルテンス硬さが高くてもよく、被着体の種類等に応じて適宜選択される。なお、硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さと、被着体との関係については、上述の硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率と、被着体との関係と同様とすることができる。
第3態様においては、硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さが異なる。硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さは、以下の方法で測定することができる。まず、上述のマルテンス硬さの測定と同様に、測定用硬化接着層を作製する。この測定用硬化接着層のセパレータを剥離し、第1接着層側の面および第2接着層側の面のそれぞれのビッカース硬さを測定する。そして、測定用硬化接着層の第1接着層側の面のビッカース硬さを、硬化後の第1接着層のビッカース硬さとし、測定用硬化接着層の第2接着層側の面のビッカース硬さを、硬化後の第2接着層のビッカース硬さとする。ビッカース硬さは、JIS Z 2244に準拠する方法で測定することができる。具体的には、上述のマルテンス硬さと同様に、超微小硬さ試験システム(商品名:ピコデンターHM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定することができる。また、圧子およびその押し込み条件も、マルテンス硬さと同様とすることができる。
硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さは、各接着層に含有される成分の組成や配合比等に応じて適宜調整が可能である。
第1接着層および第2接着層は、いずれのビッカース硬さが高くてもよく、被着体の種類等に応じて適宜選択される。なお、硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さと、被着体との関係については、上述の硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率と、被着体との関係と同様とすることができる。
第1接着層および第2接着層は、硬化前に粘着性を有していてもよく、有さなくてもよいが、粘着性を有することができる。光硬化型や熱硬化型の接着剤は、硬化完了まで養生する必要であるため、上記接着剤を介して部材を貼り合わせてから所望の養生時間、押圧等によりその貼り合せ状態を保持しなければならず、貼合工程の作業が煩雑化してしまう。これに対し、第1接着層および第2接着層が粘着性を有することで、接触硬化が完了するまでの間、双方の接着層が有する粘着力により、部材や接着層同士の貼り合せ状態を保持しながら硬化養生することができる。なお、本明細書内において、「接着層の粘着性」とは、特段の事情が無い限り、接触前(硬化前)の接着層が有する粘着性をいう。
ここで、「粘着」とは「接着」に含まれる概念である。粘着は一時的な接着現象の意味として用いられるのに対し、接着は実質的に永久的な接着現象の意味として用いられる点で区別されることがある(岩波書店 理化学辞典第5版)。「粘着性」および「粘着力」とは、感圧により接着する性質およびそのときの接着力を指す。接着層が粘着性を有するとは、接触硬化前の接着層が、部材を仮固定できる程度の接着力(粘着力)を有することを意味する。すなわち、硬化前の接着層は、硬化後よりも弱い接着力を有する。接着層が示す具体的な粘着性については後述する。
接触前(硬化前)の第1接着層および第2接着層の粘着力は、各接着層の種類、被着体の種類および配置態様に応じて適宜設定することができる。第1接着層および第2接着層は、被着体に対する粘着力が、少なくとも0.05N/インチ以上、50N/インチ以下の範囲内とすることができ、中でも0.1N/インチ以上、40N/インチ以下の範囲内とすることができる。
接着層は、粘着力の大きさに応じて、さらに強粘着性、中粘着性、弱粘着性に分類することができる。具体的には、粘着力が5N/インチ以上、50N/インチ以下の範囲内を強粘着性、1N/インチ以上、5N/インチ未満の範囲内を中粘着性、0.05N/インチ以上、1N/インチ未満の範囲内を弱粘着性とすることができる。中粘着性は、用途や物性に応じて強粘着性または弱粘着性に含めることができる。接着層は、強粘着性とすることで、反応性を向上することができ、一方、弱粘着性とすることで、接着層の取り扱い性(作業性)およびリワーク性を向上することができる。また、接着層は、中粘着性とすることで、反応性、作業性、リワーク性のいずれも良好とするができる。第1接着層および第2接着層は、これらの粘着性の組合せにより所望の機能を発揮することが可能となる。また、接着層は、粘着力が強いほど凝集力が低く柔軟性を有する層となり、一方、粘着力が弱いほど凝集力が高く硬い層となる。接着層の粘着性は、厚みや、組成等を調整することで調整が可能である。
被着体に対する粘着力は、以下の方法で測定することができる。なお、両面側にセパレータが設けられていない接着シートは、離型フィルムであるセパレータ(例えば、ニッパ社製 PETセパレータPET28×IJ0)を貼り付けてから測定する。まず、接着層の両面にセパレータが設けられた接着シートを縦25.4mm、横150mmのサイズに裁断し、一方のセパレータを剥離して、露出させた接着層上にPETフィルム(東洋紡社製A4100)を手動ローラーを用いて貼り合わせる。その後、もう片方のセパレータを剥離し、露出させた接着層上にSUS板(304BA、被着面:研磨面、試料:縦25.4mm、横150mm)を、手動ローラーを用いて貼り合せる。その後、PETフィルム付きの接着層をSUS板から20mm程、手で剥離し、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製、型番:RTF-1150H)を用いて、JIS Z0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)および粘着力の試験法の方法1(温度23℃湿度50%、テープおよびシートをステンレス試験板に対して180°に引きはがす試験方法)に準拠した条件(引張速度:300mm/分、剥離距離:150mm、剥離角:180°)で、SUS板面に対する粘着力(N/インチ)を測定することができる。なお、1インチは25.4mmである。
ここで、上記「少なくとも」とは、最低限の範囲の粘着力を有していれば、接着層を被着体と貼り合わせたときに、その貼り合わせ状態を保持することができる粘着力である範囲を意味する。そして、接着層がこの範囲の粘着力を有する間は、被着体は接着層に対して好ましく貼り合わせることができる。
また、第1接着層および第2接着層は、接触硬化により硬化接着層となる。硬化接着層については後述する。
2.材料
第1接着層および第2接着層は、互いに接触することにより硬化して接着することができる。このような性質を有する第1接着層および第2接着層としては、第1接着剤成分を含む第1剤と第2接着剤成分を含む第2剤とに分別された2液分別塗布型接着剤のうち、第1接着剤成分を含有する一方の接着層を第1接着層とし、第2接着剤成分を含有する他方の接着層を第2接着層とすることができる。
ここで、接着剤成分とは、第1接着層および第2接着層の硬化反応に寄与する成分をいう。例えば、硬化性有機化合物、硬化性無機材料、硬化剤、触媒、開始剤、硬化促進剤、還元剤、酸又はアルカリ成分、酸発生剤、塩基発生剤、吸水剤等が挙げられる。
第1接着剤成分を含有する第1接着層と第2接着剤成分を含有する第2接着層とは、接触により硬化反応が開始し、各成分が相互に拡散するにつれて硬化反応が進むことで、実質的に均一な硬化が可能となる。
第1接着剤成分および第2接着剤成分の組合せは、特に限定されないが、例えば、硬化性有機化合物を第1接着剤成分とし、硬化剤を第2接着剤成分とする組合せ、硬化性有機化合物および潜在性硬化剤を第1接着剤成分とし、触媒や還元剤を第2接着剤成分とする組合せ、硬化性有機化合物および開始剤を第1接着剤成分とし、還元剤を第2接着剤成分とする組合せ、硬化性有機化合物および開始剤を第1接着剤成分とし、硬化性有機化合物および還元剤を第2接着剤成分とする組合せ、硬化性無機材料を第1接着剤成分とし、水分や触媒を第2接着剤成分とする組合せ、硬化性有機化合物およびph反応付与成分を第1接着剤成分とし、酸又はアルカリ成分を第2接着剤成分とする組合せ等が挙げられる。また、第1接着剤成分および第2接着剤成分の組合せは、これらの逆であってもよい。
第1接着層および第2接着層は、例えば、第1接着剤成分を含有する液状材料と、第2接着剤成分を含有する液状材料と、の2種類から構成される2液分別塗布型接着剤の各液状材料を用いて形成することができる。上記2液分別塗布型接着剤としては、従来公知の組成が挙げられる。具体的には、アクリル化合物およびラジカル重合開始剤を含有するA液と、レドックス重合触媒の還元剤を含有するB液と、から構成されるプライマー型のアクリル接着剤(SGA)、アクリル化合物およびラジカル重合開始剤を含有するA液と、アクリル化合物およびレドックス重合触媒の還元剤を含有するB液と、から構成される2液主剤型のアクリル接着剤(SGA)、ポリオール化合物を含有するA液と、ポリイソシアネート化合物を含有するB液と、から構成されるウレタン接着剤、エポキシ化合物を含有するA液と、ポリアミドやポリチオール、イミダゾール等の硬化剤を含有するB液と、から構成されるエポキシ接着剤、シリコーン低重合体等のシリコーン化合物を含有するA液と、白金触媒を含有するB液と、から構成されるシリコーン接着剤等が挙げられる。なお、2液分別塗布型接着剤はこれらに限定されず、被着体の材質等に応じて適宜選択することが可能である。また、2液分別塗布型接着剤に限らず、ポリマーセメント等の2液硬化型塗料等を用いることも可能である。
以下、第1接着層および第2接着層の材料について説明する。
(1)第1接着剤成分および第2接着剤成分
第1接着剤成分および第2接着剤成分は、少なくともいずれか一方が、硬化性有機化合物や硬化性無機材料等を含有する。以下、少なくとも第1接着剤成分が硬化性有機化合物や硬化性無機材料等を含有する場合について説明する。第1接着剤成分および第2接着剤成分は、通常、異なる組成を有する。
(a)第1接着剤成分
第1接着層に含まれる第1接着剤成分は、第2接着層に含まれる第2接着剤成分と硬化反応を生じるものであってもよく、第2接着剤成分の存在により、第1接着剤成分に含まれる成分同士が硬化反応を生じるものであってもよい。第1接着層および第2接着層に2液分別塗布型接着剤を用いる場合は、第1接着剤成分は、通常、2液分別塗布型接着剤における主剤成分を少なくとも含む。
上記第1接着剤成分としては、例えば、硬化性有機化合物、硬化性無機材料、これらと併用されるその他の材料等が挙げられる。上記第1接着剤成分は、硬化性有機化合物または硬化性無機材料の一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。
(i)硬化性有機化合物
上記硬化性有機化合物としては、公知の2液分別塗布型接着剤に用いられる硬化性有機化合物が挙げられ、例えば、エポキシ化合物、アクリル化合物、ポリオール化合物、シリコーン低重合体等のシリコーン化合物、メラミン化合物、フェノール化合物混合物、シリル化合物等が挙げられる。これらは、上記第1接着層と貼り合わせる被着体の材質に応じて適宜選択することが可能である。例えば、貼り合わせる被着体の材質が、木材、セラミック、コンクリート、金属であれば、硬化性有機化合物は、エポキシ化合物やポリオール化合物とすることができる。また、例えば、貼り合わせる被着体の材質が、ポリプロピレンやポリエチレン等の難接着材料であれば、硬化性有機化合物は、シリコーン化合物やアクリル化合物とすることができる。また、アクリル化合物は材料の自由度が高く、金属、木材、ABS等の有機物にも広く使用が可能である。
上記第1接着剤成分がエポキシ化合物を含む場合、上記エポキシ化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有することができ、一般にエポキシ接着剤に使用されるエポキシ化合物を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、グリコール系エポキシ化合物、ペンタエリスリトール系エポキシ化合物、芳香族系エポキシ化合物、ウレタン変性エポキシ化合物やゴム変性エポキシ化合物等の変性エポキシ化合物、その他特開2009-167251号公報で開示されるエポキシ化合物等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、単独で用いられていてもよく、2種以上用いられていてもよい。
上記第1接着剤成分に含まれるエポキシ化合物は、液状エポキシ化合物であってもよく、固形エポキシ化合物であってもよい。液状エポキシ化合物は、常温で液状のエポキシ化合物をいい、固形エポキシ化合物は常温で固形のエポキシ化合物をいう。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物であれば、主鎖のビスフェノール骨格が1以上3以下であれば、常温で液状とすることができ、主鎖のビスフェノール骨格が2以上10以下であれば、常温で固形とすることができる。
上記第1接着層には、液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物の少なくとも一方が含まれていればよいが、中でも両方が含まれていてもよい。上記第1接着層が液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物を含む場合は、それぞれの分子量および配合量を調整することで、硬化前の粘着性や硬化後の接着力を調整することができる。
上記液状エポキシ化合物の質量平均分子量およびエポキシ当量は、第1接着層と第2接着層との接触に際して要求される硬化速度に応じて適宜設定することができる。例えば、液状エポキシ化合物の質量平均分子量(Mw)は200以上900以下の範囲内とすることができる。また、このとき、エポキシ当量(g/eq.)は100以上500以下の範囲内とすることができる。上記の範囲とすることで、第1接着層と第2接着層とを接触させた際に、第1接着層に含まれる液状エポキシ化合物が他方の第2接着層側へ浸透しやすくなり、硬化速度を速めることができる。また、硬化後の接着層の耐久性、接着力を向上させることができる。
また、固形エポキシ化合物の質量平均分子量およびエポキシ当量は、接着層にかかるせん断応力の大小や応力のかかる方向に応じて適宜設定することができる。例えば、固形エポキシ化合物の質量平均分子量(Mw)は900以上6000以下の範囲内とすることができる。上記の範囲とすることで、接着層の耐久性、粘着力を向上させることができる。また、このとき、エポキシ当量(g/eq.)は450以上5000以下の範囲内とすることができる。上記の範囲とすることで、接着層の凝集力や製膜性が向上し、せん断応力に強くなるからである。また、硬化後の接着層の耐久性、接着力を向上させることができる。
質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の、ポリスチレン換算の値である。また、エポキシ当量は、JIS K7236:2009(エポキシ化合物のエポキシ当量の求め方)に準拠した方法により測定した1グラム当量のエポキシ基を含む化合物のグラム数である。
第1接着層がエポキシ化合物として液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物の両方を含む場合、液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物の配合比は、第1接着層に要求される粘着性および凝集力に応じて設定することができる。強粘着性もしくは低凝集力の第1接着層とするためには、第1接着層中の液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物の合計量(100質量%)に対して、上記液状エポキシ化合物の含有量は50質量%以上、中でも60質量%以上とすることができ、また、95質量%以下、中でも90質量%以下とすることができる。液状エポキシ化合物の含有量は、固形エポキシ化合物の含有量よりも多くすることができる。一方、弱粘着性もしくは高凝集力の第1接着層とするためには、第1接着層中の液状エポキシ化合物および固形エポキシ化合物の合計量(100質量%)に対して、上記液状エポキシ化合物の含有量は20質量%以上、中でも30質量%以上とすることができ、また、70質量%以下、中でも60質量%以下とすることができる。第1接着層中の液状エポキシ化合物の含有量は、固形エポキシ化合物の含有量以下とすることができる。
上記第1接着剤成分がアクリル化合物を含む場合、上記アクリル化合物は、アクリル単量体、アクリル重合体のいずれであってもよい。また、アクリル重合体は、アクリル低重合体、アクリル高重合体のいずれであってもよい。例えば特開2008-248111号公報や特開2016-175195号公報に開示されるアクリル化合物が挙げられる。
また、上記第1接着剤成分がポリオール化合物を含む場合、上記ポリオール化合物は、分子中に複数個の水酸基を有すればよく、例えば、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
上記第1接着剤成分がメラミン化合物、フェノール化合物混合物、またはシリル化合物を含む場合、これらの化合物については、一般的な2液分別塗布型接着剤に用いられる化合物と同様とすることができる。
中でも、上記第1接着剤成分はアクリル化合物を含むことができる。例えばアクリル化合物を適宜選択することにより、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを容易に調整することができるからである。そのため、異種部材を接着する場合に適している。また、アクリル化合物は、耐候性、透明性が良好であるという利点を有する。
また、上記第1接着剤成分はエポキシ化合物を含むことができる。硬化後の凝集力や接着力が高く、木材、コンクリート、セラミック等の広域な材質に対して高強度に接着することが可能であるからである。
(ii)硬化性無機材料
上記硬化性無機材料としては、例えば、水を触媒として硬化する水硬化性無機材料を用いることができる。上記水硬化性無機材料として具体的には、ポルトランドセメント、アルミナセメント、耐酸セメント、スラグセメント、ローマンセメント、マグネシアセメント等のセメント類、石膏、石灰、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
(iii)その他の成分
第1接着剤成分は、硬化性有機化合物や硬化性無機材料等の他に、例えば、硬化剤、触媒、開始剤、硬化促進剤、還元剤等を含むことができる。これらの材料は、通常、対となる第2接着層に含有される第2接着剤成分とは異なる材料とすることができ、硬化性有機化合物や硬化性無機材料の種類、第2接着層に含まれる第2接着剤成分の種類に応じて適宜選択することができる。
例えば、第1接着層が第1接着剤成分として硬化性有機化合物を含む場合であって、上記硬化性有機化合物がアクリル化合物である場合、第1接着剤成分は、アクリル化合物の他に、例えばラジカル重合開始剤を含むことができる。この場合、対となる第2接着層は、第2接着剤成分として、例えばレドックス重合触媒の還元剤を含む、あるいはアクリル化合物およびレドックス重合触媒の還元剤を含むことができる。具体的には、特開2008-308531号公報で開示される過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合開始剤が挙げられる。
また例えば、第1接着層が第1接着剤成分として硬化性有機化合物を含む場合であって、上記硬化性有機化合物がエポキシ化合物である場合、第1接着剤成分は、エポキシ化合物の他に、一般にエポキシ化合物に配合されるフェノール化合物、アミン化合物、チオール化合物等の硬化剤、ジシアンジアミド、マイクロカプセル型アミン類や包接触媒、ヒドラジド類等の潜在性硬化剤、カチオン触媒型硬化剤等の硬化剤を含むことができる。この場合、対となる第2接着層は、第2接着剤成分として、例えば脂肪族ジメチルウレア、芳香族ジメチルウレア等の硬化触媒、イミダゾール、リン系触媒、ポリアミン類等を含むことができる。
(b)第2接着剤成分
第2接着層に含有される第2接着剤成分は、第1接着層に含まれる第1接着剤成分と直接反応するものであってもよく、第1接着層に含まれる第1接着剤成分の硬化反応を誘発または促進させるものであってもよい。第2接着剤成分としては、第1接着剤成分の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、硬化剤、酸又はアルカリ成分、硬化促進剤、酸発生剤、塩基発生剤、触媒、吸水剤等が挙げられる。
第1接着剤成分がエポキシ化合物を含む場合の第2接着剤成分としては、例えば硬化剤が挙げられる。上記硬化剤として具体的には、イミダゾール化合物、フェノール化合物、アミン化合物、ポリアミド化合物、酸無水物、イソシアネート化合物、チオール化合物等が挙げられる。中でも、上記硬化剤はイミダゾール化合物とすることができる。イミダゾール化合物は、室温でのエポキシ化合物との反応性がよく、また、硬化後のガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性、耐久性に優れるとともに、分子量が小さい化合物が多い。このため、第1接着層と第2接着層とを接触させた際に、第2接着層に含まれる硬化剤がエポキシ化合物を含有する他方の第1接着層へと浸透しやすくなり、接触による硬化反応が起こり易くなるからである。
第1接着剤成分がアクリル化合物を含む場合の第2接着剤成分としては、例えば触媒、還元剤、開始剤等が挙げられる。具体的には、特開2008-308531号公報で開示される過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合開始剤、特開2008-81691号公報で開示されるレドックス重合触媒の還元剤が挙げられる。また、第2接着剤成分がアクリル化合物を含んでいてもよい。この場合、第1接着剤成分および第2接着剤成分に含まれるアクリル化合物は同じであってもよく、異なってもよい。第1接着剤成分および第2接着剤成分に含まれるアクリル化合物が異なる場合には、アクリル化合物を適宜選択することで、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを調整することができる。
第1接着剤成分がポリオール化合物を含む場合の第2接着剤成分としては、例えば硬化剤が挙げられる。具体的には、ポリイソシアネート化合物が挙げられ、中でも、ポリオール化合物との反応性に優れることから、MDI、粗製MDI、TDI等の芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
第1接着剤成分がシリコーン化合物を含む場合の第2接着剤成分としては、例えば白金触媒が挙げられる。
第1接着剤成分がメラミン化合物またはフェノール化合物混合物を含む場合の第2接着剤成分としては、例えば、硫酸水溶液含有ハイドロゲル、水酸化ナトリウム含有ハイドロゲル等の酸又はアルカリ成分が挙げられる。
第1接着剤成分がシリル化合物もしくは硬化性無機材料を含む場合の第2接着剤成分としては例えば、固体状液体分散コロイドが挙げられる。具体的には、ハイドロゲル、吸水性重合体、ゼラチン等が挙げられる。上記の第1接着剤成分は、これらに含まれる水分により硬化することができる。
中でも、第1接着剤成分および第2接着剤成分はアクリル化合物を含むことができる。例えばアクリル化合物を適宜選択することにより、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを容易に調整することができるからである。そのため、異種部材を接着する場合に適している。
上記第2接着剤成分の含有量は、第1接着層と第2接着層とが接触した際に、第1接着剤成分と十分に反応することが可能な量とすることができ、第1接着剤成分および第2接着剤成分の組合せや種類に応じて適宜設定が可能である。例えば、第1接着剤成分がエポキシ化合物を含み、上記第2接着剤成分が硬化剤としてイミダゾール化合物を含む場合、上記第2接着層中のイミダゾール化合物の含有量としては、エポキシ化合物のエポキシ当量にもよるが、例えば、エポキシ化合物100質量部に対し、0.1質量部以上30質量部以下の範囲内とすることができ、1質量部以上20質量部以下の範囲内とすることができる。上記第2接着層中のイミダゾール化合物の含有量が多すぎると、被着体との密着が弱くなる場合があり、一方、上記含有量が少なすぎると、硬化不良の要因となる場合があるからである。なお、第1接着剤成分に含有される硬化性有機化合物がエポキシ化合物以外の材料である場合、第2接着剤成分の含有量は、汎用の2液硬化型接着剤を使用する際の2液硬化時の一般的な配分から大きく外れることがなければ特段の問題はない。
以上、少なくとも第1接着剤成分が硬化性有機化合物や硬化性無機材料等を含有する場合について説明したが、少なくとも第2接着剤成分が硬化性有機化合物や硬化性無機材料等を含有する場合には、その逆とすることができる。
(2)第1相溶性重合体成分
第1接着層は、第1接着剤成分に対して相溶性を有する第1相溶性重合体成分をさらに含むことができる。その理由は以下の通りである。
2液分別塗布型接着剤は、通常、2種類の液状材料をそれぞれ塗布後、すぐに互いを接触硬化させて用いられるが、各液状材料は製膜性に劣るため、所望の厚みでそれぞれシート化し分別保存しようとすると、長期間シート形状を保持することが困難であるという問題がある。これに対し、各液状材料の成分に対して相溶性を有する相溶性重合体成分を含有させることで、製膜性を向上させることができ、長期間シート形状を保持することが可能となる。また、上記2種類の液状材料を別々に塗布して形成した各接着層においては、上記液状材料の成分は可塑剤として機能するため、各液状材料の成分を含む接着層に更に相溶性重合体成分を加えることで、接着層全体が可塑化され、相溶性重合体成分による粘着性や柔軟性が発揮される。これにより、硬化前の粘着性や被着体への密着性の向上を図ることが可能となり、また、硬化後の接着層の靭性が向上し且つ接着力をより高めることができる。
ここで、第1接着剤成分に対して相溶性を有するとは、上記第1接着剤成分、中でも、上記硬化性有機化合物との親和性がよく、上記第1接着剤成分と任意の割合で混合した場合に、相分離しないことをいう。第1接着層において、上記第1相溶性重合体成分が第1接着剤成分に対して相溶していることは、例えば、第1接着層の透明性が高いこと、第1接着層のヘイズ値が低いこと、走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)により第1接着層の表面もしくは断面を観察したときに、層内にミクロンサイズの島が発生していないこと、等から確認することができる。後述する第2接着層においても同様である。
特に、第1接着層または第2接着層が、第1接着剤成分または第2接着剤成分として、エポキシ化合物、アクリル化合物、およびポリオール化合物のいずれかの硬化性有機化合物を含む場合に、上記第1相溶性重合体成分による効果がより高く発揮され得る。例えば、第1接着層または第2接着層に含まれる硬化性有機化合物がアクリル化合物の場合、架橋密度が高くなる傾向にあるところ、第1相溶性重合体成分を含むことで、アクリル化合物の主鎖を長くすること、すなわち架橋密度を低くすることができ、第1接着層に柔軟性を付与することが可能となる。第1接着層または第2接着層に含まれる硬化性有機化合物がエポキシ化合物の場合の、上記第1相溶性重合体成分による効果の発現については、後で詳細に説明する。
また、上記第1相溶性重合体成分は、さらに第2接着層に含まれる第2接着剤成分に対して相溶性を有することができる。第2接着剤成分に対して相溶性を有するとは、上記第2接着剤成分との親和性がよく、第1接着層と第2接着層とが接触し、上記第2接着剤成分と任意の割合で混合した場合に相分離しないことをいう。
第1相溶性重合体成分は、第1接着剤成分との相溶性が良好な重合体を含むものであれば特に限定されない。上記重合体は、極性基を有していてもよい。極性基としては、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基、アミド基等が挙げられる。
中でも、上記第1相溶性重合体成分は、アクリル重合体を含む成分、すなわち相溶性アクリル重合体含有成分とすることができる。
上記相溶性アクリル重合体含有成分は、上記アクリル重合体がアクリル酸エステル単量体の単独重合体であり、上記単独重合体を2種以上含む混合成分であってもよく、上記アクリル重合体が2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体であり、共重合体を1以上含む成分であってもよい。また、上記相溶性アクリル重合体含有成分が、上記単独重合体と上記共重合体との混合成分であってもよい。アクリル酸エステル単量体の「アクリル酸」には、メタクリル酸の概念も含まれる。具体的には、上記相溶性アクリル重合体含有成分は、メタクリレートの重合体とアクリレートの重合体との混合物であってもよく、アクリレート-アクリレート、メタクリレート-メタクリレート、メタクリレート-アクリレート等で構成された(メタ)アクリル酸エステル共重合体であってもよい。中でも上記相溶性アクリル重合体含有成分は、2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体((メタ)アクリル酸エステル共重合体)を含むことができる。
(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する単量体成分としては、例えば、特開2014-065889号公報に記載の単量体成分が挙げられる。上記単量体成分は、上述した極性基を有していてもよい。エポキシ化合物との相溶性が向上し、粘着力および硬化後の接着力を高めることができるからである。上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチルアクリレート-ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、エチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体等を挙げることができる。なお、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等の「アクリル酸」には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の「メタクリル酸」を含む。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、ブロック共重合体を挙げることができ、さらにメタクリレート-アクリレートで構成されるアクリル系ブロック共重合体を挙げることができる。アクリル系ブロック共重合体を構成するアクリレートやメタクリレートは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジジル等が挙げられる。これらの「アクリル酸」には、メタクリル酸も含まれる。
メタクリレート-アクリレートの共重合体の具体例としては、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート(MMA-BA-MMA)共重合体等のアクリル系共重合体が挙げられる。MMA-BA-MMA共重合体には、ポリメチルメタクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレート(PMMA-BA-MMA)のブロック共重合体も含まれる。このようなアクリル系共重合体は、製膜性が向上し、被着面に対して十分な接着性を示すことができる。
上記アクリル重合体は、極性基を有していなくてもよく、また一部に上述した極性基を導入した変性物であってもよい。上記変性物は、エポキシ化合物との相溶性がさらに向上するため、接着強度がより向上する。
中でも、上記第1相溶性重合体成分は、ガラス転移温度(Tg)が10℃以下である第1重合体部分と、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上である第2重合体部分とを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体とすることができる。このような(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、柔らかいセグメントとなる第1重合体部分と、硬いセグメントとなる第2重合体部分とを有する。このような共重合体を添加することにより、第1接着層は、被着面に対する浮きや剥がれを有効に抑制することができ、また、硬化後の靭性が向上して接着力をより高めることができるからである。
上記の効果の発現は、以下のように推定できる。従来の接着剤では、靱性や柔軟性を付与するために、主剤となる硬化性有機化合物、例えばエポキシ化合物の他に、アクリル重合体を添加することが行われていたが、上記アクリル重合体の添加により接着剤自体の耐熱性が低下していた。これに対し、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体のような、柔らかいセグメントと、硬いセグメントとを併せ持つアクリル重合体を用いることで、硬いセグメントが耐熱性に寄与し、柔らかいセグメントが靱性ないし柔軟性に寄与するため、硬化後の第1接着層は、靱性を有しかつ優れた接着性を保持することができると考えられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第1重合体部分および第2重合体部分の少なくとも一方は、硬化性有機化合物に対して相溶性を有する。第1重合体部分が硬化性有機化合物に対して相溶性を有する場合には、柔軟性を高めることができる。また、第2重合体部分が硬化性有機化合物に対して相溶性を有する場合には、凝集性や靱性を高めることができる。
第1重合体部分または第2重合体部分の一方が硬化性有機化合物に対して相溶性を有さない場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、硬化性有機化合物に対して相溶性を有する重合体部分である相溶部位と、硬化性有機化合物に対して相溶性を有さない重合体部分である非相溶部位とを有することになる。この場合、硬化性有機化合物を含む接着剤組成物に、アクリル重合体として上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加すると、相溶部位が硬化性有機化合物と相溶し、非相溶部位が硬化性有機化合物と相溶しないため、相分離が起こる。その結果、硬化後の第1接着層では、海島構造が発現する。海島構造としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の種類、(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第1重合体部分および第2重合体部分の相溶性、極性基導入による変性の有無によって異なり、例えば、硬化性有機化合物の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、硬化性有機化合物の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、硬化性有機化合物の硬化物が島であるような海島構造が挙げられる。硬化後の第1接着層は、このような海島構造を有することで、応力を分散させやすくすることができるので、界面破壊を避けることができ、優れた接着性を維持することができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、中でもブロック共重合体とすることができ、特に、相溶部位を重合体ブロックA、非相溶部位を重合体ブロックBとするA-B-Aブロック共重合体とすることができる。さらには、第1重合体部位が非相溶部位、第2重合体部分が相溶部位であり、第1重合体部分を重合体ブロックB、第2重合体部分を重合体ブロックAとするA-B-Aブロック共重合体とすることができる。アクリル重合体としてこのようなA-B-Aブロック共重合体を用いることにより、硬化後の第1接着層内では、硬化性有機化合物の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造の場合には、島部分を小さくすることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、硬化性有機化合物の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造の場合や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、硬化性有機化合物の硬化物が島であるような海島構造の場合には、海部分を小さくすることができる。そのため、硬化後の接着層内では、見かけ上、硬化性有機化合物およびアクリル重合体が相溶した状態となる。このような見かけ上の相溶状態が発現されることにより、硬化後の第1接着層は、さらに応力を分散させやすくすることができるので、界面破壊を避けることができ、優れた接着性を維持することができる。
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、第1重合体部分または第2重合体部分の一部に上述の極性基を導入した変性物であってもよい。硬化後の第1接着層の耐熱性がより向上するとともに、硬化性有機化合物との相溶性も向上するため、接着性が向上する。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第1重合体部分のTgは、10℃以下であり、-150℃以上10℃以下の範囲内、中でも-130℃以上0℃以下の範囲内、特に-110℃以上-10℃以下の範囲内とすることができる。
なお、第1重合体部分のTgは、「POLYMERHANDBOOK第3版」(John Wiley & Sons,Ink.発行)に記載された各単独重合体のTg(K)を基にして、下記式で計算により求めることができる。
1/Tg(K)=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・・+Wn/Tgn
Wn;各単量体の質量分率
Tgn;各単量体の単独重合体のTg(K)であり、ポリマーハンドブック(3rd Ed.,J.Brandrup and E.H.Immergut,WILEY INTERSCIENCE)中の値など、一般に公開されている掲載値を用いればよい。後述の第2重合体部分のTgも同様である。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第1重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体とすることができる。第1重合体部分を構成する単量体成分および重合体成分は、Tgが所定の範囲である第1重合体部分を得ることができる単量体成分および重合体成分であればよく、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体、EVA等の共重合体が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第2重合体部分のTgは、20℃以上であり、20℃以上150℃以下の範囲内、中でも30℃以上150℃以下の範囲内、特に40℃以上150℃以下の範囲内とすることができる。
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第2重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体とすることができる。第2重合体部分を構成する単量体成分は、Tgが所定の範囲である第2重合体部分を得ることができる単量体成分であればよく、例えばメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、ウレタン、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリル等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体が挙げられる。
上記の第1重合体部分および第2重合体部分を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体の具体例としては、上記のMMA-BA-MMA共重合体等が挙げられる。
上記第1相溶性重合体成分の質量平均分子量は、第1接着層に要求される粘着性や凝集力に応じて適宜設定することができるが、上記第1接着剤成分の質量平均分子量、中でも硬化性有機化合物の質量平均分子量よりも大きくすることができる。第1相溶性重合体成分に製膜性を任せ、硬化性有機化合物は可塑成分として働く必要があるからである。また、第1相溶性重合体成分は第2接着層に含まれる第2接着剤成分と相溶することが望ましいからである。具体的には、上記第1相溶性重合体成分の質量平均分子量は、1万以上90万以下の範囲内とすることができ、中でも3万以上50万以下の範囲内とすることができる。第1相溶性重合体成分の質量平均分子量が小さすぎると、3次元架橋が支配的となり、靱性が低下する場合があり、一方、大きすぎると、相溶性が悪くなるため強度が低下する。上記第1相溶性重合体の質量平均分子量は、GPC(溶離液:THF、標準物質:PS、試料:20μL、流量:1mL/min、カラム温度:40℃)により測定することができる。
上記第1接着層中の第1相溶性重合体成分の含有量は、第1相溶性重合体成分の種類、第1接着剤成分の種類、第1接着層に要求される粘着性、凝集性、粘性等に応じて適宜調整することが可能である。例えば、第1接着層が、第1接着剤成分として、アクリル化合物、エポキシ化合物等の硬化性有機化合物を含み、第1相溶性重合体成分として上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む場合、硬化性有機化合物100質量部に対して(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量は4質量部以上100質量部以下の範囲内とすることができる。この割合で両者を配合すると、第1接着層は、接触硬化前の段階で、硬化性有機化合物中に、ナノオーダーレベルの微粒子状にアクリル重合体が分散した構造が発現し、見かけ上の相溶状態が発現される。そして、上記第1接着層は、第2接着層との接触により、見かけ上の相溶状態を維持しながら硬化することで、優れた接着強度を発揮することができる。また、第1接着層が上記の構造を有することで、被着体との界面からの水の侵入を抑制でき、さらに優れた接着保持特性を有することができる。
また例えば、第1接着層が、第1接着剤成分として、硬化性有機化合物や硬化性無機材料を含まない場合、第1接着層中の第1相溶性重合体成分の含有量は、第1接着層中の第1接着剤成分100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の範囲内とすることができ、中でも20質量部以上100質量部以下の範囲内とすることができる。第1相溶性重合体成分の分子量等に応じて好適な含有量は異なるが、おおよそ上記の範囲内とすることができる。第1相溶性重合体成分の含有量が少なすぎると、第1接着層の製膜性や接着性が不良となる場合があり、一方、上記含有量が多すぎると、第1接着層の強度低下の要因となる場合がある。
(3)第2相溶性重合体成分
第2接着層は、第2接着剤成分に対して相溶性を有する第2相溶性重合体成分をさらに含むことができる。また、上記第2相溶性重合体成分は、さらに第1接着層に含まれる第1接着剤成分に対して相溶性を有することができる。その理由および第2相溶性重合体成分の具体例、および第2相溶性重合体成分の含有量については、上述の第1相溶性重合体成分と同様であるため、ここでの説明は省略する。第1接着層または第2接着層が、第1接着剤成分または第2接着剤成分として、エポキシ化合物、アクリル化合物、およびポリオール化合物のいずれかの硬化性有機化合物を含む場合、上記第2相溶性重合体成分による効果がより高く発揮され得る。
第2相溶性重合体成分の質量平均分子量は、上記第2接着剤成分の質量平均分子量、中でも硬化性有機化合物の質量平均分子量よりも大きくすることができる。その理由、具体的な質量平均分子量の範囲、およびその測定方法については、上述した第1相溶性重合体成分と同様であるため、ここでの説明は省略する。
第2接着層に含まれる第2相溶性重合体成分と、第1接着層に含まれる第1相溶性重合体成分とは、同一の成分であってもよく、異なる成分であってもよい。第1相溶性重合体成分および第2相溶性重合体成分が同一の成分である場合には、同一の成分が最も相拡散がしやすいため、反応速度の点で有利だからである。また、コスト面でも有利である。第1相溶性重合体成分および第2相溶性重合体成分が同一の成分である場合、上記アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とすることができ、中でもアクリル系共重合体またはその変性物、特にMMA-BA-MMA共重合体またはその変性物とすることができる。また、上記アクリル重合体は、中でも所定の第1重合体部分および第2重合体部分を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体またはその変性物とすることができる。その理由については、上述の第1相溶性重合体成分の項で説明した理由と同様である。
また、第1相溶性重合体成分および第2相溶性重合体成分が異なる成分である場合には、第1相溶性重合体成分および第2相溶性重合体成分を適宜選択することで、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを調整することができる。
(4)その他の成分
第1接着層および第2接着層は他に、シリカやガラスビーズ等の無機粒子や、連鎖移動剤、難燃剤、増粘剤、放熱剤、絶縁剤、導電剤、強度向上のための繊維(特にチョップド繊維等)、シリコーン化合物等の粘着付与剤、酸化防止剤、反応抑制剤等の任意の成分を含んでいてもよい。
第1接着層および第2接着層は、着色剤を含んでいてもよい。一方の着色層が着色剤を含む場合には、一方の接着層を着色することで、他方の接着層を有する接着シートとの判別を容易にすることができ、施工時の作業ミスを防ぐことができる。また、両方の接着層が着色剤を含む場合には、接着シートの識別を容易とする観点から、一方の接着層に含まれる着色剤は、他方の着色層に含まれる着色剤と色が異なることができる。すなわち、第1接着層および第2接着層は、それぞれ異なる色を有することができる。また、後述の物品の製造方法の第4実施形態および第5実施形態に記載するように、第1部材上に第1接着層および第2接着層を積層する場合、第1接着層および第2接着層の少なくとも一方が着色剤を含むことにより、接着シートの視認性を高めることができ、接着シートを貼付した箇所の確認が容易になるとともに、接着シートを貼付する部材を保護することができる。着色剤としては、例えば、カーボンブラック等の顔料、染料等が挙げられる。中でも接着層は顔料を含むことができる。着色剤として顔料を含むことで、顔料に紫外線を吸収させて部材の紫外線劣化を防ぐことができるからである。
また、後述の物品の製造方法の第4実施形態および第5実施形態に記載するように、第1部材上に第1接着層および第2接着層を積層する場合、第1接着層および第2接着層の少なくとも一方は、例えば、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、赤外線反射剤等の耐候剤を含むことができる。これにより、部材を保護したり、硬化後の接着層の経時劣化を抑制したりすることができる。
3.性状
第1接着層および第2接着層は、透明であってもよく不透明であってもよいが、透明とすることができる。接着層に含まれる成分が十分に相溶し、粘着性等の所望の機能を発揮可能となるからである。
第1接着層および第2接着層の厚みは、被着体の種類等に応じて適宜設定することができ、第1接着層と第2接着層との接触による硬化反応に必要な量の各成分を含有することが可能であればよい。具体的には、第1接着層および第2接着層の厚みは、2μm以上、中でも5μm以上、特に10μm以上、さらには20μm以上とすることができる。また、上記厚みは、200μm以下、中でも150μm以下、特に100μm以下とすることができる。
また、第1接着層および第2接着層の厚みは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
また、被着体の被着面が粗面である場合は、第1接着層および第2接着層の厚みは大きくすることができ、具体的には、上記被着面の凹凸の高低差以上の厚みとすることができる。第1接着層および第2接着層が上記被着面の凹凸の高低差以上の厚みを有さない場合は、第1接着層および第2接着層が凹凸に追従できず、第1接着層および第2接着層と被着面との接着面積が少なくなるため、所望の期間、被着体を保持することができなくなるからである。
B.第1セパレータおよび第2セパレータ
第1接着シートは、第1接着層の少なくとも一方の面側に配置された第1セパレータを有していてもよい。また、第2接着シートは、第2接着層の少なくとも一方の面側に配置された第2セパレータを有していてもよい。
セパレータは、接着層から剥離可能であれば特に限定されず、接着層を保護することが可能な程度の強度を有することができる。このようなセパレータとしては、例えば、離型フィルム、セパレート紙、セパレートフィルム、セパ紙、剥離フィルム、剥離紙等の従来公知のものを用いることができる。具体的には、ポリプロピレンやポリエチレン、フッ素フィルム等が挙げられる。また、セパレータは、上記に例示した単層で離型性を有していてもよいが、上質紙、コート紙、含浸紙、プラスチックフィルム等の離型紙用基材の片面または両面に離型層を形成した積層体を用いてもよい。離型層としては、離型性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、シリコーン化合物、有機化合物変性シリコーン化合物、フッ素化合物、アミノアルキド化合物、メラミン化合物、アクリル化合物、ポリエステル化合物、長鎖アルキル化合物等がある。これらの化合物は、エマルジョン型、溶剤型または無溶剤型のいずれもが使用できる。
被着体の被着面が粗面である場合は、上記セパレータが柔軟性を有することができる。接着シートを被着体に貼り合わせる際に、接着層の伸びにセパレータも追従することが可能となるからである。このようなセパレータとしては、例えばPEフィルム等が挙げられる。
上記セパレータは、接着層に含有される材料の種類や被着体を貼り合わせる施工環境に応じて、遮光性を有していてもよい。貼合工程までの間に接着層が紫外線等の照射を受けて劣化するのを抑制することができるからである。遮光性を有するセパレータとしては、例えば、アルミ箔セパレータ、アルミ蒸着フィルムや紙セパレータ、着色セパレータ、紫外線吸収剤入りのフィルムセパレータ等が挙げられる。
また、上記セパレータは、接着層と接する面に易剥離処理が施されていてもよい。
第1接着シートにおける第1セパレータおよび第2接着シートにおける第2セパレータは、それぞれ同一色であってもよく、異なる色を有していてもよい。中でも、第1セパレータおよび第2セパレータは、それぞれ異なる色を有することができる。第1接着シートおよび第2接着シートの判別が容易になるからである。
被着体に貼り付ける前の接着シートは、接着層の両面にセパレータを有していてもよい。接着層の両面にセパレータを有する場合、各面に配置されるセパレータは同一であってもよく異なってもよいが、一方が軽剥離性を有し、他方が重剥離性を有することができる。
C.第1接着シートおよび第2接着シート
第1接着シートおよび第2接着シートは、例えば2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料、具体的には、第1接着剤成分を含む接着剤組成物および第2接着剤成分を含む接着剤組成物を、それぞれ別々のセパレータの片面に塗布し、乾燥することで形成することができる。上記接着剤組成物は必要に応じて溶剤を含むことができる。
接着剤組成物の塗布方法は特に限定されず、公知の印刷法やコーティング法を用いることができる。また、塗布層の乾燥条件は、塗布層中に含まれている溶剤を十分揮発させることができる程度の条件で行うことができ、組成に応じて適宜設定することができる。
上記接着シートは、接着剤組成物をセパレータの片面に塗布し乾燥して接着層を形成後、上記接着層上に他のセパレータを配置することで、接着層の両面にセパレータを有することも可能である。
第1接着シートおよび第2接着シートは、枚葉であってもよく、長尺であってもよい。
II.物品の製造方法
次に、本開示の物品の製造方法について説明する。本開示の物品の製造方法においては、上述の接着シートセットを用いることができる。なお、接着シートセットについては、上記の「I.接着シートセット」に詳述したので、ここで説明は省略する。
本開示の物品の製造方法は、5つの実施形態に大別される。以下、各実施形態に分けて説明する。
A.物品の製造方法の第1実施形態
物品の製造方法の第1実施形態は、互いに接触することにより硬化して接着することが可能な第1接着層および第2接着層を用い、第1部材および第2部材を貼り合せる物品の製造方法であって、上記第1部材に、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている、第1接着シート付部材を準備する第1準備工程と、上記第2部材に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面が貼り合されている、第2接着シート付部材を準備する第2準備工程と、上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面と、上記第2接着シート付部材の上記第2接着層の他方の面とを貼り合せる貼合工程と、を有する。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる。
図2は、物品の製造方法の第1実施形態の一例を示す工程図である。図2に例示するように、まず、第1接着シート付部材20を準備する(図2(a)、第1準備工程)。第1接着シート付部材20は、第1部材1に、第1接着層22を有する第1接着シート11の第1接着層22の一方の面が貼り合されて成る。図2(a)に示すように、第1接着シート11は、第1接着層22の少なくとも一方の面側に配置された第1セパレータ21を有していてもよい。また、別途、第2接着シート付部材30を準備する(図2(b)、第2準備工程)。第2接着シート付部材30は、第2部材2に、第2接着層24を有する第2接着シート12の第2接着層24の一方の面が貼り合されて成る。図2(b)に示すように、第2接着シート12は、第2接着層24の少なくとも一方の面側に配置された第2セパレータ23を有していてもよい。第1準備工程および第2準備工程は、順不同で行うことができる。続いて、第1接着シート付部材20の第1接着層22の他方の面と、第2接着シート付部材30の第2接着層24の他方の面とを貼り合せる(図2(c)~(d)、貼合工程)。第1接着シート付部材20や第2接着シート付部材30が、第1接着層22や第2接着層24の他方の面に第1セパレータ21や第2セパレータ23を有する場合は、それぞれのセパレータを剥離して貼合する。このとき、第1接着層22および第2接着層24は、互いに接触することにより、第1接着層22中の成分と第2接着層24中の成分とが拡散して硬化反応が生じ、接着性が向上する。そして硬化反応の完了により、第1接着層22および第2接着層24は、強い接着力を発現した硬化接着層3となり(図2(d))、硬化接着層3を介して第1部材1および第2部材を強固に貼り合せることができる。これにより、第1部材1、硬化接着層3、および第2部材2を有する物品10が得られる。
物品の製造方法の第1実施形態によれば、第1接着シート付部材が有する第1接着層と第2接着シート付部材が有する第2接着層とを貼り合せることで、接触により硬化反応が進み、硬化により発現される強い接着力をもって部材同士を貼り合わせることができる。また、各接着シート付部材は、部材に接着シートが貼り合わされているため、2液型接着剤のような2液の混合が不要であり、部材同士の貼り合わせを簡便に行うことが可能である。加えて、接着層の厚み管理が可能となり、接着剤の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出し等の不具合の発生を抑制することができる。さらにまた、第1接着層および第2接着層は、互いが接触するまでは硬化反応が進まないことから、貼合工程前までは、それぞれ接着シート付部材として長期間、分別保管することができ、貼り合わせるタイミングに応じて、各接着シート付き部材の接着層同士を接触させることができる。このように、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をシート化することで、塗布接着法よりも物品の製造を簡便化することができる。
また、本実施形態の物品の製造方法は、第1部材および第2部材の種類や、部材同士を貼り合せた際の被着面(接着面)の方向、第1接着層および第2接着層の粘着性の程度に応じた施工が可能である。以下、本実施形態の物品の製造方法を用いた施工例について、例を挙げて説明する。
本実施形態の物品の製造方法を用いた施工例の第1例は、第1部材および第2部材の被着面(接着面)が鉛直面または法線面となる施工例である。図3に示す例では、第2部材2の被着面が鉛直面となっている。なお、図3中の符号については、図2中の符号と同様である。
上記の例において、被着面は、鉛直面または法線面に対して、-45度以上+45度以下の範囲内、中でも-30度以上+30度以下の範囲内、特に-15度以上+15度以下の範囲内とすることができる。上記被着面の場合、貼合工程において第1部材の表面の第1接着層と第2部材の表面の第2接着層とを貼り合せると、鉛直方向または法線方向にせん断応力が掛かる。しかし、第1接着層および第2接着層がそれぞれ所望の粘着力および凝集力を有することで、第1接着層と第2接着層との接触による硬化反応が進み十分な接着力が発現されるまでの間、第1部材と第2部材との貼り合せ状態を保持することができ、せん断応力が掛ることによる部材の剥離を抑制することができる。また、経時により粘着力が低下しても、その間に硬化反応が進むことで発現した強い接着力により、第1部材と第2部材とを強固に接着保持することが可能となる。また、第1接着層および第2接着層間の粘着力を調整することで、第1接着層および第2接着層の硬化前であれば、貼合後に貼り直すことも可能となる。さらに、第1接着層および第2接着層間を高粘性または低粘性とすることで、貼り合せた状態で被着面に対して平行移動させることができ、位置調整が可能となる。
本実施形態の物品の製造方法を用いた施工例の第2例は、第1部材および第2部材の被着面(接着面)が水平面となる施工例である。図4に示す例では、第2部材2の被着面が水平面となっている。なお、図4中の符号については、図2中の符号と同様である。
上記の例において、被着面は、水平面に対して、-45度以上+45度以下の範囲内、中でも-30度以上+30度以下の範囲内、特に-15度以上+15度以下の範囲内とすることができる。上記被着面の場合、第1接着層および第2接着層がそれぞれ所望の粘着力および凝集力を有することで、第1接着層および第2接着層の接触による硬化反応が進むまでの間、第1部材と第2部材との貼り合せ状態を保持することができる。また、硬化後は第1部材と第2部材とが強固に接着されることから、水平方向にせん断応力を受けても第1部材と第2部材との位置ズレを生じにくくすることができる。また、第1接着層および第2接着層間の粘着力を調整することで、第1接着層および第2接着層の硬化前であれば、貼合後に貼り直すことも可能となる。さらに、第1接着層および第2接着層間を高粘性または低粘性とすることで、貼り合せた状態で被着面に対して平行移動させることができ、位置調整が可能となる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1部材および第2部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、例えば第1部材および第2部材の少なくとも一方が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合や、第1部材および第2部材が異種部材である場合に有用である。
以下、物品の製造方法の第1実施形態における各工程について説明する。
1.第1準備工程および第2準備工程
本実施形態の物品の製造方法における第1準備工程は、上記第1部材に、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている、第1接着シート付部材を準備する工程である。また、第2準備工程は、上記第2部材に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面が貼り合されている、第2接着シート付部材を準備する工程である。第1準備工程および第2準備工程は、順不同で行うことができる。
第1準備工程および第2準備工程では、部材に接着シートが予め貼合されている接着シート付部材を準備してもよい。既製の接着シート付部材を用いることで、物品の製造に際し、接着シート付部材を作製する必要がなく、時間の短縮を図ることができるからである。
また、第1準備工程および第2準備工程の少なくとも一方が、セパレータと上記セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた接着層とを有する接着シートを用い、上記接着層の上記セパレータが配置されていない面を部材に貼合する接着シート貼合工程を有していてもよい。
部材と接着シートとの貼合方法は、接着シートの形態に応じて適宜選択することができる。接着層の片面にセパレータが配置された接着シートを用いる場合であれば、例えば、ロール状に巻回された接着シートロールから必要量を巻き出して、接着層側を部材に配置した後切断して貼り合わせることができる。また、接着層の両面にセパレータが配置された接着シートを用いる場合であれば、枚葉の上記接着シートの一方の上記セパレータを剥離して上記接着層を露出させ、その上に部材を貼り合せることができる。
接着シート貼合工程において、接着シートは部材の被着面全域に貼り合せてもよく、部材の被着面の周縁に枠形状に貼り合せてもよい。接着シートを貼り合せる際は、スキージ等を用いて部材と接着シートの接着層との接着面に気泡が入らないようにすることができる。
接着シート貼合工程において、接着層が粘着性を有する場合は、アイロンなどを用いて加熱圧着して貼り合わせてもよく、軽く振動を与えながらローラーを用いて加圧して貼り合わせてもよい。接着層が部材の隙間に入り込みやすくなり、接着シートと部材との貼合強度を高めることができる。
さらに、上記接着シート貼合工程においては、接着シートが有する接着層(例えば、第1接着シートが有する第1接着層)が、所定の粘着力を有する場合、他方の接着シート付部材(例えば、第2接着シート付部材)の貼り合せ位置を決める位置決め工程を有することが可能である。接着層が所望の粘着力を示すことで、貼合工程を行う際に他方の接着シート付部材の貼り合せ位置が所望の位置となるように、準備工程において部材上で接着シートを貼り直すことが可能となるからである。例えば、第1接着シートの第1接着層が所望の粘着力を示せば、第1準備工程は、第1接着シート貼合工程と、第2接着シート付部材の貼り合せ位置を決める位置決め工程と、の両方を含むことができる。第2準備工程においても同様である。このとき、上記接着層を有する接着シートと貼り合せる部材は、固定部材とすることができる。
2.貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における貼合工程は、上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面と、上記第2接着シート付部材の上記第2接着層の他方の面とを貼り合せる工程である。本工程において、上記第1接着層および上記第2接着層は、互いに接触することにより硬化が進み、接触硬化により形成される硬化接着層が強い接着力を発現することができ、部材同士を接着することができる。
第1接着シート付部材および第2接着シート付部材において、上記第1接着層の第1部材側とは反対側に第1セパレータが配置されている、および/または、上記第2接着層の第2部材側とは反対側に第2セパレータが配置されている場合は、上記第1接着シート付部材の上記第1セパレータおよび/または上記第2接着シート付部材の上記第2セパレータを剥離し、露出した上記第1接着層の表面および上記第2接着層の表面を貼り合せる。
上記第1接着シート付部材上の上記第1接着層と上記第2接着シート付部材の上記第2接着層との貼り合せ方法としては、特に限定されず、例えば、第1接着シート付部材上の第1接着層と、第2接着シート付部材の第2接着層とを向かい合わせて、直上方向から貼り合せる方法を用いることができる。また、他の貼り合せ方法としては、第1接着シート付部材上の第1接着層と、第2接着シート付部材の第2接着層とを向かい合わせて、一方を他方の被着面に対して平行方向にスライド移動させて貼り合せることができる。上記の貼り合せ方法は、第1部材と第2部材との貼り合せ面が水平面となる場合に適している。
本工程は、第1接着層および第2接着層間の粘着力の強弱に応じて、上記第1接着シート付部材および第2接着シート付部材の貼合に際し、一方を貼り直して位置決めする位置決め工程を有していてもよい。
上記第1接着層および第2接着層は、接触により硬化反応を生じることができる。第1接着層および第2接着層の硬化温度は、常温を含むことができ、例えば5℃以上180℃以下の範囲内で設定することができる。なお、常温とは23℃をいう。硬化温度が常温を含むことで、加熱や冷却を行わなくてもよいようにできるため、物品の製造を簡便にすることができる。
また、上記第1接着層および第2接着層は、接触状態で加熱して硬化を促進させてもよい。加熱温度は、第1接着層および第2接着層の組成に応じて適宜設定することができるが、例えば、30℃以上120℃以下の範囲内とすることができ、中でも40℃以上80℃以下の範囲内とすることができる。加熱温度が高すぎると、接着層のフロー性が大きくなり、接着剤が被着面からはみ出してしまい、はみ出た状態で硬化が進むことで外観不良の原因となる場合があるからである。また、低分子の単量体成分等の接着層に含まれる成分によっては、高温下で臭気が発生する。一方、硬化温度が低すぎると、硬化促進効果があまり得られず、工程時間の短縮が図りにくい場合がある。
また、第1接着層および第2接着層は、貼り合せ後、所望の時間養生させることができる。第1接着層に含有される成分および第2接着層に含有される成分の拡散が進み、十分に硬化させることで強い接着力を発現することができるからである。養生時間は、第1接着層および第2接着層の組成に応じて適宜設定することができるが、例えば、0.5時間以上72時間以下の範囲内とすることができる。養生時間が短すぎても、貼り合わせのやり直しがきかず、一方、養生時間が長すぎても、工程時間が伸びてしまう。
第1接着層および第2接着層は、接触による硬化反応が完了すると、硬化接着層となる。硬化接着層は、第1接着層および第2接着層に含まれる第1接着剤成分および第2接着剤成分が反応して硬化してなる硬化物層である。硬化接着層は、単一層であってもよいし、第1接着層および第2接着層の接触界面が残存していてもよい。
上記硬化接着層は、その強い接着力をもって第1部材と第2部材とを強固に貼り合せることができ、その状態を長時間保持可能な接着力を有することができ、中でも、せん断強度を高くすることができる。経時でせん断応力が掛る場合であっても、第1部材と第2部材との固定を長期間保持することができ、部材の剥がれを抑制することができるからである。
3.第1部材および第2部材
第1部材および第2部材は、同じ種類の部材であってもよく、異なる種類の部材であってもよい。硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1部材および第2部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、第1部材および第2部材が異種部材である場合に有用である。また、第1部材および第2部材が同じ種類の部材である場合でも、例えば第1部材および第2部材の少なくとも一方が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合に有用である。
異なる種類の部材としては、例えば材料、性質、性状、機能、形態等が異なる部材を挙げることができる。第1部材および第2部材の材料が異なる場合、異種材料の組合せとしては、例えば金属材料と有機材料との組合せ、金属材料とコンクリート材料との組合せ、金属材料とセラミック材料との組合せ、コンクリート材料と有機材料との組合せ、セラミック材料と有機材料との組合せ、有機材料と木材との組合せ、有機材料と布や皮との組合せ、異種の金属材料の組合せ、異種の有機材料の組合せ等が挙げられる。また、第1部材および第2部材の形態が異なる場合、異種形態の組合せとしては、例えば成形品や板(ボード)とフィルムとの組合せが挙げられる。
中でも、第1部材および第2部材の材料を異ならせることができ、特に金属材料と有機材料との組合せが挙げられる。金属材料と有機材料とは、材質、膨張率、伸び率が大きく異なるため、硬化後の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる第1接着層および第2接着層を用いた接着法が有用である。具体的には、金属材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等が挙げられる。また、有機材料としては、ABS、ポリイミド、ポリプロピレン、炭素繊維強化複合材料(CFRP)やガラス繊維強化複合材料(GFRP)等の繊維強化複合材料(FRP)等が挙げられる。
金属材料と有機材料との組合せの場合、有機材料を含む部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率を、金属材料を含む部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率よりも高くすることができる。例えば、第1部材に第1接着層の一方の面が貼り合され、第2部材に第2接着層の一方の面が貼り合されており、第1部材の材料が金属材料であり、第2部材の材料が有機材料である場合、硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率を、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率よりも高くすることができる。金属材料を含む部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率が低いことにより、効果的に応力を緩和することができる。また、有機材料を含む部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率が高いことにより、硬化後の接着層の膜強度を保つことができる。したがって、接着強度を高めることが可能となる。
また、第1部材および第2部材のうち、一方の部材の被着面が凹凸面や多孔質面等の粗面であり、他方の部材の被着面が平滑面である場合、被着面が粗面である部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率を、被着面が平滑面である部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率よりも高くすることができる。被着面が粗面である部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率が高いことにより、アンカー効果を発揮することができる。また、被着面が平滑面である部材に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率が低いことにより、密着性を高くことができる。したがって、接着強度を高めることが可能となる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層のマルテンス硬さと、第1部材および第2部材との関係、ならびに、硬化後の第1接着層および第2接着層のビッカース硬さと、第1部材および第2部材との関係については、上述の硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率と、第1部材および第2部材との関係と同様とすることができる。
B.物品の製造方法の第2実施形態
物品の製造方法の第2実施形態は、互いに接触することにより硬化して接着することが可能な第1接着層および第2接着層を用い、第1部材および第2部材を貼り合せる物品の製造方法であって、上記第1部材に、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている、第1接着シート付部材を準備する準備工程と、上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる第2接着シート貼合工程と、上記第2接着シートの上記第2接着層の他方の面に、上記第2部材を貼り合せる第2部材貼合工程と、を有する。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる。
図5は、物品の製造方法の第2実施形態の一例を示す工程図である。図5に例示するように、まず、第1部材1の一方の面に、第1接着層22を有する第1接着シート11の第1接着層22の一方の面が貼り合されている、第1接着シート付部材20を準備する(図5(a)、準備工程)。図5(a)に示すように、第1接着シート11は、第1接着層22の他方の面(第1部材側と反対側の面)に第1セパレータ21が配置されていてもよい。
次に、第1接着シート付部材20の第1接着層22の他方の面に、第2接着層24を有する第2接着シート12の第2接着層24の一方の面を貼り合せる(図5(b)、第2接着シート貼合工程)。第1接着層22の他方の面に第1セパレータ21が配置されている場合は、第1セパレータ21を剥離して行う。図5(b)に示すように、第2接着シート12の第2接着層24は、第2セパレータ23の片面上に形成されていてもよい。第1接着層22および第2接着層24は、互いに接触することにより、硬化することができる。次に、第2接着シート12の第2接着層24の他方の面に、第2部材2を貼り合せる(図5(c)、第2部材貼合工程)。第2接着層24の他方の面に第2セパレータ23が配置されている場合は、第2セパレータ23を剥離して行う。第2部材貼合工程において、第1接着層22および第2接着層24は、接触による硬化反応が完了することで強い接着力を発現した硬化接着層3となり、硬化接着層3を介して第1部材1および第2部材2を強固に貼り合せることができる。これにより、第1部材1、硬化接着層3および第2部材2を有する物品10が得られる。なお、図5(c)中のPは、第1接着層22および第2接着層24の接触により硬化した領域(硬化領域)を示す。
物品の製造方法の第2実施形態によれば、第1部材上にて第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とを貼り合わせることで、接触により硬化反応が進み、硬化により発現される強い接着力をもって部材同士を貼り合わせることができる。また、第1部材上で、第1接着シートおよび第2接着シートがそれぞれ貼り合わせて積層されることから、2液型接着剤のような2液を混合する必要がなく、貼り合わせを簡便に行うことが可能である。加えて、接着シートを用いることから、接着層の厚み管理が可能となり、接着剤の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出し等の不具合の発生を抑制することができる。さらにまた、第2部材側には接着層が設けられていないことから、第2部材の取り扱いが容易となる。このように、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をシート化することで、塗布接着法よりも物品の製造を簡便化することができる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1部材および第2部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、例えば第1部材および第2部材の少なくとも一方が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合や、第1部材および第2部材が異種部材である場合に有用である。
第1部材および第2部材については、上述の物品の製造方法の第1実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。以下、本実施形態の物品の製造方法における各工程について説明する。
1.準備工程
本実施形態の物品の製造方法における準備工程は、上記第1部材に上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている第1接着シート付部材を準備する工程である。
本工程が後述する第1接着シート貼合工程を有する場合、上記第1接着層は、粘着力または凝集力を調整することで、第1部材上で第1接着シートを貼り直して位置調整を行うことが可能となる。このとき、第1部材は、固定された部材とすることができる。また、第1接着層を低粘性または高粘性とすることで、第1接着層上に第2接着シートの第2接着層を貼り合せる際に、第1接着層の被着面に対して平行方向に、第2接着シートをスライド移動させることが可能となる。
本工程においては、第1部材に第1接着シートが予め貼合されている第1接着シート付部材を準備してもよい。また、本工程は、第1セパレータと上記第1セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた第1接着層とを備えた第1接着シートを用い、上記第1接着層の上記第1セパレータが配置されていない面を第1部材に貼合する第1接着シート貼合工程を有していてもよい。第1接着シート貼合工程については、上述の「A.物品の製造方法の第1実施形態 1.第1準備工程および第2準備工程」の項で説明した接着シート貼合工程と同様であるため、ここでの説明は省略する。
2.第2接着シート貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における第2接着シート貼合工程は、上記第1接着シート付部材上記第1接着層の他方の面に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる工程である。本工程は、上記第1接着シート付部材の上記第1セパレータを剥離し、上記第1セパレータが剥離されて露出した上記第1接着層の表面に、第2セパレータと上記第2セパレータの片面上に形成された上記第2接着層とを有する第2接着シートの上記第2セパレータが配置されていない面を貼合する工程とすることができる。
上記第2接着層は、粘着力または凝集力を調整することで、第1接着シート付部材の第1接着層と貼合する際に、貼り直しが可能となり、また、後述する貼合工程において、第2部材の貼り直しも可能となる。また、上記第2接着層は低粘性または高粘性とすることで、後述する貼合工程において、第2接着層に第2部材を貼り合せる際に、第2接着層の被着面に対して第2部材を平行方向にスライド移動させて貼り合せることが可能となる。
上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる方法としては、特に限定されない。例えば、第2接着層の片面に第2セパレータが配置され、第2接着層を巻内面としてロール状に巻回された第2接着シートロールを用い、上記第2接着シートロールから必要量巻き出して、上記第2接着層と上記第1接着層上に貼合した後切断する方法を用いることができる。また、上記第2接着層の両面に第2セパレータが配置された枚葉の第2接着シートを用い、上記第2接着シートの一方の第2セパレータを剥離して、露出した第2接着層と上記第1接着層とを貼り合せる方法を用いることができる。
本工程において、第1接着層および第2接着層は、接触により硬化反応が進むが、後述する第2部材貼合工程前に硬化が完了しないようにすることができる。第2接着層に第2部材を貼り合せることが困難となるからである。
3.第2部材貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における第2部材貼合工程は、上記第2接着シートの上記第2接着層の他方の面に、上記第2部材を貼り合せる工程である。
上記第2接着層の他方の面と上記第2部材とを貼り合わせる方法としては、特に限定されない。例えば、第1部材上に配置された上記第2接着層の被着面に対して、直上方向から第2部材を貼り合せることができる。また、第2接着層が低粘性または高粘性を示す場合、第2接着層が配置された第1部材または第2部材のうち、一方の部材を固定し、他方の部材を固定された上記一方の部材の被着面に対して平行方向にスライド移動させて貼り合せることができる。このようなスライド移動による貼り合せ方法は、第1部材と第2部材との貼り合せ面が水平面となる場合に適している。
本工程は、第2接着シート貼合工程において第1接着層および第2接着層を貼り合せてから、養生時間内に行うことで、第1接着層および第2接着層の接触による硬化反応が完了するまでの間、第2接着層の粘着性により第2部材を固定することができる。また、上記硬化反応の完了により、第2部材を強固に固定することができる。さらに、養生の間、作業者が他の施工を行うことができる。中でも、本工程は、第1接着層および第2接着層が接触してから0.5時間以内に行うことができる。硬化が進むと第2部材に対する接着強度が低下する懸念があるからである。また、上記第2接着層の他方の面に上記第2部材を貼り合せた後、加熱して硬化反応を促進させてもよい。養生時間、硬化温度および加熱温度については、上述の「A.物品の製造方法の第1実施形態」の項で説明した内容と同様である。
本工程において、上記第1接着層および第2接着層の接触による硬化反応が完了すると、上記第1接着層および第2接着層が強固に接着して、第1部材と第2部材との間に硬化接着層が形成される。硬化接着層の詳細および本実施形態の物品の製造方法において説明しない内容については、上述の「A.物品の製造方法の第1実施形態」の項で説明した内容と同様である。
C.物品の製造方法の第3実施形態
物品の製造方法の第3実施形態は、互いに接触することにより硬化して接着することが可能な第1接着層および第2接着層を用い、第1部材および第2部材を貼り合せる物品の製造方法であって、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面と、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面と、が貼り合わされて成る多層接着シートを準備する準備工程と、上記多層接着シートの上記第1接着層の他方の面に、上記第1部材を貼り合せる第1貼合工程と、上記多層接着シートの上記第2接着層の他方の面に、上記第2部材を貼り合せる第2貼合工程と、を有する。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる。
図6は、物品の製造方法の第3実施形態の一例を示す工程図である。図6に例示するように、まず、第1接着層22を有する第1接着シート11の第1接着層22の一方の面と、第2接着層24を有する第2接着シート12の第2接着層24の一方の面と、が貼り合わされて成る多層接着シート40を準備する(図6(a)、準備工程)。図6(a)に示すように、第1接着シート11は、第1接着層22の少なくとも一方の面側に配置された第1セパレータ21を有していてもよく、この場合には、第1接着層22の他方の面(第2接着層24と貼り合わせる面と反対側の面)に第1セパレータ21が配置されていてもよい。また、第2接着シート12は、第2接着層24の少なくとも一方の面側に配置された第2セパレータ23を有していてもよく、この場合には、第2接着層24の他方の面(第1接着層22と貼り合わせる面と反対側の面)に第2セパレータ23が配置されていてもよい。さらに、多層接着シート40では、第1接着層22および第2接着層24の他方の面に、それぞれ第1セパレータ21および第2セパレータ23が配置されていてもよい。次に、多層接着シート40の第1接着層22の他方の面に、第1部材1を貼り合せる(図6(b)、第1貼合工程)。また、多層接着シート40の第2接着層24の他方の面に、第2部材2を貼り合せる(図6(c)第2貼合工程)。多層接着シート40の第1接着層22の他方の面に第1セパレータ21が配置されている場合、本工程は、第1セパレータ21を剥離して行う。同様に、多層接着シート40の第2接着層24の他方の面に第2セパレータ23が配置されている場合、本工程は、第2セパレータ23を剥離して行う。多層接着シート40において、第1接着層22および第2接着層24は、互いに接触しており、第1貼合工程および第2貼合工程中に、第1接着層22内の成分と第2接着層24中の成分とが拡散して、硬化反応が生じ、強い接着力を発現することができる。第1接着層22および第2接着層24は、硬化反応の完了により硬化接着層3となり(図6(c))、硬化接着層3を介して第1部材1および第2部材2を強固に貼り合せることができる。これにより、第1部材1、硬化接着層3、および第2部材2を有する物品10が得られる。なお、図6(b)、(c)中のPは、第1接着層22および第2接着層24の接触により硬化した領域(硬化領域)を示す。
図6(a)で例示した準備工程では、第1接着シート11と第2接着シート12とを貼り合せて多層接着シート40を形成する多層接着シート形成工程を含んでいる。多層接着シート形成工程については後述する。
物品の製造方法の第3実施形態によれば、予め、第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とが積層された多層接着シートを用い、上記多層接着シートに対して各部材を貼り合わせることで、部材同士の貼合時間の短縮を図ることができ、また、硬化により発現される強い接着力をもって部材同士を貼り合わせることができる。さらに、上記多層接着シートを用いるため、2液型接着剤のような2液の混合が不要であり、部材同士の貼り合わせを簡便に行うことが可能である。加えて、接着層の厚み管理が可能となり、接着剤の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出し等の不具合の発生を抑制することができる。このように、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をシート化することで、塗布接着法よりも物品の製造を簡便化することができる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、第1部材および第2部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、例えば第1部材および第2部材の少なくとも一方が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合や、第1部材および第2部材が異種部材である場合に有用である。
第1部材および第2部材については、上述の物品の製造方法の第1実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。以下、本実施形態の物品の製造方法の各工程について詳細に説明する。
1.準備工程
本実施形態の物品の製造方法における準備工程は、第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面と、第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面と、が貼り合わされて成る多層接着シートを準備する工程である。
多層接着シートは、第1接着層の第2接着層側とは反対側の面に第1セパレータを有していてもよく、第2接着層の第1接着層側とは反対側の面に第2セパレータを有していてもよい。したがって、上記多層接着シートは、第1セパレータおよび上記第1セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層と、第2セパレータおよび上記第2セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層と、が貼り合わされて成る多層体とすることができる。
上記多層接着シートは、上記第1接着層と上記第2接着層との接着界面において、硬化領域を有していてもよい。上記硬化領域とは、上記第1接着層および上記第2接着層のそれぞれに含有される成分が拡散して硬化した領域をいう。
本工程においては、別工程にて第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とが予め貼合された多層接着シートを準備してもよい。また、本工程は、第1セパレータおよび上記第1セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層と、第2セパレータおよび上記第2セパレータの少なくとも一方の面側に設けられた第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層とを貼り合せて多層接着シートを形成する多層接着シート形成工程を有していてもよい。
多層接着シート形成工程では、例えば、第1接着層の両面に第1セパレータが配置された第1接着シートと、第2接着層の両面に第2セパレータが配置された第2接着シートと、を準備し、上記第1接着シートの一方の上記第1セパレータ、および上記第2接着シートの一方の上記第2セパレータをそれぞれ剥離して、露出した上記第1接着層および上記第2接着層を貼合して、多層接着シートを準備することができる。
また、多層接着シート形成工程では、例えば、上記第1接着層の片面に第1セパレータが配置され、第1接着層を巻内面としてロール状に巻回された第1接着シートロールと、上記第2接着層の片面に第2セパレータが配置され、第2接着層を巻内面としてロール状に巻回された第2接着シートロールと、を準備し、それぞれ巻き出して、上記第1接着シートの上記第1接着層および上記第2接着シートの上記第2接着層を貼合し、所望の形状に切り出して、多層接着シートを準備することができる。
第1接着シートおよび第2接着シートの貼合は、作業者が手作業で行ってもよく、ロールラミネーター(例えば、フジプラ株式会社製 ラミパッカーLPP4513)等を使用して機械的、連続的に行ってもよい。上述した他の実施形態においても同様である。
多層接着シートを準備後、すぐに後述する貼合工程を行わない場合は、多層接着シートは、第1接着層および第2接着層の接触による硬化反応が進行しないように、低温環境下で保管することができる。上記低温環境下とは5℃以下の環境下をいい、多層接着シートは、中でもマイナス20℃以上5℃以下の冷蔵庫もしくは冷凍庫に保管することができる。
2.第1貼合工程および第2貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における第1貼合工程は、上記多層接着シートの上記第1接着層の他方の面に、上記第1部材を貼り合せる工程である。また、本実施形態の物品の製造方法における第2貼合工程は、上記多層接着シートの上記第2接着層の他方の面に、上記第2部材を貼り合せる工程である。第1貼合工程および第2貼合工程は順不同に行うことができる。
上記多層接着シートにおいて、上記第1接着層の他方の面に第1セパレータが配置されている場合は、上記第1セパレータを剥離して露出した上記第1接着層に、上記第1部材を貼合することができる。また、上記多層接着シートにおいて、上記第2接着層の他方の面に第2セパレータが配置されている場合は、上記第2セパレータを剥離して露出した上記第2接着層に、上記第2部材を貼合することができる。
第1貼合工程および第2貼合工程は、準備工程から第1接着層および第2接着層の接触による硬化反応が完了するまでの間に行うことができる。第1接着層および第2接着層の硬化が進むと、部材を貼り合わせることが困難になる場合があるからである。準備工程において、上記多層接着シートが低温環境下に保管されない場合は、第1接着層および第2接着層が接触してから0.5時間以内に行うことができる。また、準備工程において、上記多層接着シートが低温環境下に保管されている場合は、低温環境下から解放されてから養生時間の間に行うことができる。また、多層接着シートに第1部材および第2部材を貼り合せた後、加熱して硬化反応を促進させてもよい。養生時間、硬化温度および加熱温度については、上述の「A.物品の製造方法の第1実施形態」の項で説明した内容と同様とすることができる。
3.その他
その他、接着層の物性を利用した貼合方法や、上記第1接着層および第2接着層の接触硬化反応により形成される硬化接着層等、本実施態様の物品の製造方法において説明しない内容については、上述の「A.物品の製造方法の第1実施形態」および「B.物品の製造方法の第2実施形態」の項で説明した内容と同様とすることができる。
D.物品の製造方法の第4実施形態
物品の製造方法の第4実施形態は、互いに接触することにより硬化して接着することが可能な第1接着層および第2接着層を用いる物品の製造方法であって、第1部材に、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている、第1接着シート付部材を準備する準備工程と、上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる第2接着シート貼合工程と、を有する。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる。
図7は、物品の製造方法の第4実施形態の一例を示す工程図である。物品の製造方法の第4実施形態は、準備工程(図7(a))および第2接着シート貼合工程(図7(b))を有する。図7(a)および(b)は、上述した図5(a)および(b)と同様である。第1接着層22および第2接着層24は、硬化反応の完了により硬化接着層3となる(図7(c))。図7(c)で示すように、第2接着シート貼合工程後、硬化接着層3の第1部材1とは反対側の面に、第2接着シート12の第2セパレータ23が配置されている場合は、第2セパレータ23を剥離してもよい。これにより、第1部材1および硬化接着層3を少なくとも有する物品10が得られる。
物品の製造方法の第4実施形態によれば、第1部材上にて第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とを貼り合わせることで、接触により硬化反応が進み、硬化により発現される強い接着力をもって部材および接着層を貼り合わせることができる。また、第1部材上で、第1接着シートおよび第2接着シートがそれぞれ貼り合わせて積層されることから、2液型接着剤のような2液を混合する必要がなく、貼り合わせを簡便に行うことが可能である。加えて、接着シートを用いることから、接着層の厚み管理が可能となり、接着剤の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出し等の不具合の発生を抑制することができる。さらに、一方の接着層の中に他の部材を包含させる、または第1接着層および第2接着層の接触界面に他の部材を配置することで、硬化した接着層により上記他の部材を保持し、固定することができ、また、上記他の部材により第1部材の補修または補強等することができる。このように、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をシート化することで、塗布接着法よりも物品の製造を簡便化することができる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、例えば第1部材が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合に有用である。第1部材については、上述の物品の製造方法の第1実施形態と同様とすることができる。
また、本実施形態においては、硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さよりも高くすることができる。これにより、最表面に配置される第2接着層の硬化後の硬さを、第1部材側に配置される第1接着層の硬化後の硬さよりも硬くすることができ、第2接着層にハードコート性を付与することができる。
本実施形態の物品の製造方法は、第2部材貼合工程を行わないこと以外は、上述の「B.物品の製造方法の第2実施形態」の項で説明した内容と同様とすることができる。
1.準備工程
本実施形態の物品の製造方法における準備工程は、第1部材に上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面が貼り合されている第1接着シート付部材を準備する工程である。
第1部材は固定されていてもよい。
第1接着シートは、予め第1接着層の第1部材側の面またはその反対側の面に他の部材が配置されていてもよく、第1接着層中に他の部材が含浸されていてもよい。第2接着シート貼合工程において第1接着層と第2接着シートの第2接着層とが接触硬化することで、他の部材を硬化接着層中に包含することが可能となるからである。例えば、図8に示す物品10は、第1部材1および硬化接着層3を有し、硬化接着層3中に他の部材4が包含されている。
2.第2接着シート貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における第2接着シート貼合工程は、上記第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面に、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる工程である。
第2接着シートは、第2接着層の第1接着層側の面に他の部材が配置されていてもよく、第2接着層中に他の部材が含浸されていてもよい。その理由については、先に述べた通りである。
上記第2接着シートは、上記第2接着層の他方の面(第1接着層側と反対側の面)側に配置された第2セパレータを有し、上記第2セパレータの上記第2接着層側表面が賦形面であってもよい。第2セパレータの第2接着層側表面を賦形面とすることで、図7(b)、(c)で例示するように、第1接着層22および第2接着層24との接触硬化後、第2接着層24上に配置されていた第2セパレータ23を剥離することにより、硬化接着層3表面に第2セパレータ23の賦形面の形状が賦形された物品10を得ることができ、意匠性を付与することができるからである。
本工程は、第2接着シートの上記第2接着層の一方の面を貼り合せる前に、第1接着シート付部材の上記第1接着層の他方の面に、他の部材を配置する工程を有していてもよい。その理由については、先に述べた理由と同様である。
本実施形態の製造方法においては、上記第1接着シートおよび上記第2接着シートの少なくとも一方が、顔料を含んでいてもよい。物品の製造方法をインフラ構造物の製造方法に適用する場合において、補修した箇所がどこであるかを遠くからでも視認しやすくすることができ、また、顔料を含むことで、接着シートを貼付する下地を保護することができるからである。
E.物品の製造方法の第5実施形態
物品の製造方法の第5実施形態は、互いに接触することにより硬化して接着することが可能な第1接着層および第2接着層を用いる物品の製造方法であって、上記第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面と、上記第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面と、が貼り合わされて成る多層接着シートを準備する準備工程と、上記多層接着シートの上記第1接着層の他方の面に、上記第1部材を貼り合せる貼合工程と、を有する。また、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なる。
図9は、物品の製造方法の第5実施形態の一例を示す工程図である。物品の製造方法の第5実施形態は、準備工程(図9(a))および貼合工程(図9(b))を有する。図9(a)および(b)は、上述した図6(a)および(b)と同様である。第1接着層22および第2接着層24は、硬化反応の完了により硬化接着層3となる(図9(c))。図9(c)で示すように、貼合工程後、硬化接着層3の第1部材1とは反対側の面に、第2接着シート12の第2セパレータ23が配置されている場合は、第2セパレータ23を剥離してもよい。これにより、第1部材1および硬化接着層3を少なくとも有する物品10が得られる。なお、図9(b)中のPは、第1接着層22および第2接着層24の接触により硬化した領域(硬化領域)を示す。
物品の製造方法の第5実施形態によれば、予め、第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とが積層された多層接着シートを用い、上記多層接着シートに対して部材を貼り合わせることで、硬化により発現される強い接着力をもって部材および接着層を貼り合わせることができる。また、上記多層接着シートを用いるため、2液型接着剤のような2液の混合が不要であり、貼り合わせを簡便に行うことが可能である。加えて、接着層の厚み管理が可能となり、接着剤の塗布ムラや塗布忘れ、被着面からのはみ出し等の不具合の発生を抑制することができる。さらに、一方の接着層の中に他の部材を含浸させ、または第1接着層および第2接着層の接触界面に他の部材を配置することで、硬化した接着層により上記他の部材を保持し、固定することができ、また、上記他の部材により第1部材の補修または補強等することができる。このように、2液分別塗布型接着剤の2種類の液状材料をシート化することで、塗布接着法よりも物品の製造を簡便化することができる。
また、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さが異なるので、部材に応じて、硬化後の第1接着層および第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを適宜選択することができる。そのため、例えば第1部材が平滑面、凹凸面、多孔質面を有する場合に有用である。第1部材については、上述の物品の製造方法の第1実施形態と同様とすることができる。
また、本実施形態においては、硬化後の第2接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さを、硬化後の第1接着層の貯蔵弾性率、マルテンス硬さ、またはビッカース硬さよりも高くすることができる。これにより、最表面に配置される第2接着層の硬化後の硬さを、第1部材側に配置される第1接着層の硬化後の硬さよりも硬くすることができ、第2接着層にハードコート性を付与することができる。
本実施形態の物品の製造方法は、第2貼合工程を行わないこと以外は、上述の「C.物品の製造方法の第3実施形態」の項で説明した内容と同様とすることができる。
1.準備工程
本実施形態の物品の製造方法における準備工程は、第1接着層を有する第1接着シートの上記第1接着層の一方の面と、第2接着層を有する第2接着シートの上記第2接着層の一方の面と、が貼り合わされて成る多層接着シートを準備する工程である。
第1接着シートは、予め第1接着層の一方の面(第2接着層側の面)またはその反対側の面に他の部材が配置されていてもよく、第1接着層中に他の部材が含浸されていてもよい。同様に、第2接着シートは、予め第2接着層の一方の面(第1接着層側の面)に他の部材が配置されていてもよく、第2接着層中に他の部材が含浸されていてもよい。貼合工程後に、硬化接着層中に他の部材を包含することが可能となるからである。
また、第2接着シートは、第2接着層の他方の面(第1接着層側と反対側の面)側に配置された第2セパレータを有し、上記第2セパレータの上記第2接着層側表面が賦形面であってもよい。第2セパレータの第2接着層側表面を賦形面とすることで、貼合工程後、第2セパレータを剥離することにより、硬化接着層表面に第2セパレータの賦形面の形状が賦形された物品を得ることができ、意匠性を付与することができるからである。
2.貼合工程
本実施形態の物品の製造方法における貼合工程は、上記多層接着シートの上記第1接着層の他方の面に、上記第1部材を貼り合せる工程である。
第1部材は固定されていてもよい。
多層接着シートは、予め第1接着層の第1部材側の面に他の部材が配置されていてもよい。その理由については、先に述べた通りである。
また、本工程は、多層接着シートを第1部材に貼り合せる前に、多層接着シートの第1接着層の他方の面に、他の部材を配置する工程を有していてもよい。その理由については、先に述べた理由と同様である。
本実施形態の製造方法においては、上記第1接着シートおよび上記第2接着シートの少なくとも一方が、顔料を含んでいてもよい。その理由については、上記第4実施形態と同様である。
F.用途
物品の製造方法は、様々な分野の物品の製造方法に用いることができ、その用途は限定されないが、中でも、加熱や光照射が困難な物品の製造方法として用いることができる。具体的には、物品の製造方法は、建築物品、インフラ(インフラストラクチャー)構造物、自動車、電子部品に適用することができる。
1.建築物品
建築物品の製造方法には、第1実施形態から第3実施形態までのいずれかの物品の製造方法を用いることができる。
建築物品としては、例えば、家屋、ビル、建物、塔等の一般に建築業界で施工される建築構造物、これらに用いられる複合建材等が挙げられる。
第1部材および第2部材は、建築物品を構成する建材であり、その種類に応じて適宜選択される。上記建材は被着面を有すれば、その形態は特に限定されない。
上記建材は、例えば、無機材料、有機材料、またはこれらを組み合わせた複合材料、積層材料から構成されていても良い。第1部材および第2部材の材質は、同一であってもよく異なってもよく、使用環境や用途等に応じて、適宜選択して組み合わせることができる。
有機材料で形成された有機建材としては、例えば、木質板、有機物板等が挙げられる。木質板としては、例えば杉、檜、松、ラワン、チーク等の樹木で構成される木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等が挙げられる。また、無機材料で形成された無機建材としては、例えば、スレート板やケイカル板、石膏ボード、レンガ、コンクリート、セメントモルタル、金属材料、セラミック材料等が用いられる。
上記建材としては、建築施工において公知のものが挙げられる、具体的には、既存の建築構造物の柱、梁、天井、壁、床などの躯体、新たに建築構造物を施工する際に躯体を構成するのに用いられる床板、壁板、天井板等の建築部材、躯体や建築部材を下地としてその表面に貼り合せて用いる表装材等が挙げられる。表装材としては、例えば、ビニル壁紙、織物壁紙、紙壁紙、無機質壁紙、化粧フィルム、タイル、パネル、化粧板等の壁装材、タイル、リノリウム、フローリングブロック、フローリング、クッションフロアー、フローリングボード等の化粧床材が挙げられる。
第1部材および第2部材の組合せとしては、例えば、一方を表装材とし、他方を建築構造物の躯体とすることができる。具体的には、第1部材および第2部材の一方が壁装材であり、他方が建築構造物の壁であってもよく、一方が化粧床材であり、他方が建築構造物の床であってもよい。また、第1部材および第2部材の一方を建築構造物の躯体とし、他方を別の建築構造物の躯体とすることができる。2種類の躯体間を第1接着層および第2接着層を介して貼り合せることで、硬化接着層を溶接やボルト固定の代替とすることができる。
2.インフラ構造物
インフラ構造物には、上述した第1実施形態から第5実施形態までのいずれかの物品の製造方法を用いることができ、中でも第4実施形態および第5実施形態の物品の製造方法を用いることができる。
インフラ構造物としては、例えば、橋梁、橋脚、トンネル、法面、道路舗装、河川管理施設、砂防堰堤、砂防床固工、下水管梁、下水処理場、港湾施設、空港、公営住宅、集合住宅、一般住宅、都市公園、官庁施設、海岸堤防、航路標識、道路標識、信号機、架線、送信設備、送電設備等が挙げられる。
例えば、第2部材を貼り付けることにより第1部材が補修または補強されたインフラ構造物とすることができる。また、第2部材を用いず、第1接着シートまたは第2接着シートが有する接着層に補修または補強部材(以下、補修・補強部材と略する。)が含まれている、または、接着層表面に補修・補強部材が配置されていることで、補修・補強部材を内包した硬化接着層により、第1部材が補修または補強されたインフラ構造物とすることができる。また、例えば、インフラ構造物である第1部材に、第2部材としてセンサ装置を取り付けることができる。また、第2部材を用いず、第1接着シートまたは第2接着シートが有する接着層にセンサ装置が含まれている、または、接着層表面にセンサ装置が配置されていることで、センサ装置を内包した硬化接着層を、インフラ構造物である第1部材に取り付けることができる。
第1部材および第2部材は、インフラ用部材であればよく、被着面を有していれば、その形態は特に限定されない。インフラ用部材としては、例えば、補修または補強前のインフラ構造物あるいはセンサ装置の取付前のインフラ構造物(以下、対象インフラ構造物)や、補修・補強部材、センサ装置等が挙げられる。インフラ構造物の製造方法においては、インフラ用部材である第1部材および第2部材のうち、一方は対象インフラ構造物であり、対象インフラ構造物は、固定されていてもよい。
補修・補強部材としては、従来公知の部材を用いることができ、例えば、接着層中に含浸可能な部材が挙げられる。具体的には、補強用途では、アラミド繊維、炭素繊維、ビニロン繊維、PET繊維等を挙げることができる。また、機能を付与できる補修用途では、広告用看板、塗装フィルム、防水シート、吸水シート、耐紫外線シート、保水シート、着色シート等を挙げることができる。なお、補強には、ヒビを隠したり、凹凸を消したりする補修を含み、さらに強度向上、保水、表面保護、加飾等の機能を付与するものも含む。
センサ装置は、インフラ用部材に貼り付けて、インフラ用部材の状態変化を検知するものである。センサ装置としては、例えばセンサ部と、RFタグとを備えるものが挙げられる。センサ部には、例えば慣性力(加速度、角速度)、歪み、音響波、超音波、電磁波等の物理量を検知することができるものが用いられる。センサ部としては、貼り付けるインフラ用部材の種類や材質に応じて従来公知のセンサ部を使用することができ、例えば、加速度センサ、角速度センサ、音響センサ、表面弾性波センサ、超音波センサ、歪みセンサ、GPS(グローバルポジションシステム)センサ、距離センサ(測距センサ)等を用いることができる。具体的には、センサ部は、インフラ構造物の振動、剥落、ひび割れ、位置ずれ、傾き、歪み等の変化を検知することができる。例えば、特開2016-194441号公報に開示されるセンサ装置を使用することができる。
また、センサ装置は、例えばコンクリート製のインフラ用部材に貼り付けて、その表面の状態変化を検知するものであってもよい。例えばコンクリート表面のクラックの発生やその成長、コンクリート表面の水分濃度や塩分等のイオン濃度の変化等を検知するものが用いられる。具体的には、導電性線材、光ファイバー、繊維含浸プラスチックフィルム、市販のひび割れ検知センサ(東京測器研究所社製 KZCA-A)等の従来公知のセンサ装置を使用することができる。また、例えば、特開2015-087351号公報に開示されるコンクリート異常検知部材を使用することもできる。
3.自動車
自動車の製造方法には、上述した物品の製造方法の第1実施形態から第3実施形態までのいずれかを用いることができる。
自動車の製造方法においては、第1部材および第2部材を自動車用部材として、双方を第1接着層および第2接着層を介して貼り合わせることができる。
第1部材および第2部材は、自動車用部材であればよく、被着面を有していれば、その形態は特に限定されない。自動車用部材とは、自動車車体および上記自動車車体に取り付けられる自動車部品をいい、内装材、外装材の何れであってもよい。自動車部品は、一般に自動車に用いられる部品であれば特に限定されず、例えば、エンブレムなどの装飾部材、ピラー等の構造部材等が挙げられる。
上記自動車用部材の材料は、自動車の部位に応じて適宜選択することができ、例えば、無機材料、金属材料、セラミック材料、有機材料、またはこれらを組み合わせた複合材料や積層材料等が挙げられる。第1部材および第2部材の材質は、同一であってもよく異なってもよく、適宜選択して組み合わせることができる。第1部材および第2部材の材質の組合せとしては、例えば、ABSやCFRPなどの有機材料と金属類との組合せ、アルミとチタンとの組合せ等の異種金属の組合せ等が挙げられる。
4.電子部品
電子部品には、上述した物品の製造方法の第1実施形態から第3実施形態までのいずれかを用いることができる。
電子部品において、上述の物品の製造方法は、例えば、MEMS、チップ等の電子部品の固定や、基板同士の接合等に適用することができる。また、接着シートセットは、ダイボンディングフィルムとして利用することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に実施例および比較例を示して、本開示をさらに具体的に説明する。
[材料]
第1接着剤組成物および第2接着剤組成物において用いた各成分の詳細を下記表に示す。
[実施例1~6および比較例1~3]
(第1接着シートの作製)
片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム(膜厚:38μm、東セロ株式会社製、商品名:SP-PET-03、以下、第1セパレータAとする。)を用い、剥離処理面上に、上記表2に示す組成配合からなる第1接着剤組成物を塗工後の厚さが50μmとなるようにアプリケーターを用いてそれぞれ塗布し、乾燥オーブンにて80℃で2分間乾燥させて、第1接着層を形成した。
次に、片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム(膜厚:38μm、東セロ株式会社製、商品名:SP-PET-01、以下、第1セパレータBとする。)を用い、その剥離処理面を第1接着層と対向するように重ね合わせて2kgのローラーを用いて押圧した。これにより、第1接着層の両面に第1セパレータAおよびBがそれぞれ配置された第1接着シートを得た。
(第2接着シートの作製)
第2セパレータAとして、第1セパレータAと同じものを用い、その剥離処理面上に、上記表2に示す組成配合から成る第2接着剤組成物を塗工後の厚さが50μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、乾燥オーブンにて80℃で2分間乾燥させて第2接着層を形成した。次に、第2セパレータBとして、第1セパレータBと同じものを用い、その剥離処理面を第2接着層と対向するように重ね合わせて2kgのローラーを用いて押圧した。これにより、第2接着層の両面に第2セパレータAおよびBがそれぞれ配置された第2接着シートを得た。
[評価]
(1)貯蔵弾性率
得られた接着シートセットについて、硬化後の第1接着層および第2接着層の23℃における貯蔵弾性率を測定した。ここで、接着剤組成物1および接着剤組成物4は、同種の硬化性有機化合物を含むものである。同様に、接着剤組成物2および接着剤組成物5は、同種の硬化性有機化合物を含むものであり、接着剤組成物3および接着剤組成物6は、同種の硬化性有機化合物を含むものである。接着剤組成物1を用いた接着層および接着剤組成物4を用いた接着層の硬化後の貯蔵弾性率を測定するために、まず、接着剤組成物1を用いた接着層と接着剤組成物4を用いた接着層とを貼り合せたのち、円筒形にした。その後、23℃、50%で7日間養生を行い、測定用サンプルとした。また、接着剤組成物2を用いた接着層および接着剤組成物5を用いた接着層の硬化後の貯蔵弾性率、ならびに接着剤組成物3を用いた接着層および接着剤組成物6を用いた接着層の硬化後の貯蔵弾性率を測定するために、上記と同様に、測定用サンプルを作製した。次に、測定装置としてティー・エイ・インスツルメント社製の固体粘弾性アナライザーRSA-IIIを用い、JIS K7244-1:1998(プラスチック-動的機械特性の試験方法-第1部:通則)に準拠した動的粘弾性測定法(アタッチメントモード:圧縮モード、周波数:1Hz、温度:-50℃~150℃、昇温温度:5℃/分、円柱型試験片)にて貯蔵弾性率を測定した。
(2)マルテンス硬さ
作製した接着シートをそれぞれ10cm角にカットした。その後、各接着シートの第1セパレータBおよび第2セパレータBを剥離し、第1接着シートの第1接着層と第2接着シートの第2接着層とを手動ローラーにて貼り合わせ、23℃50%7日間静置して養生を行うことで、測定用硬化接着層を得た。測定用硬化接着層の第1セパレータAおよび第2セパレータAを剥離し、第1接着層側の面および第2接着層側の面のマルテンス硬さを測定した。マルテンス硬さは、ISO 14577準拠のインデンテーション試験法にて行い、超微小硬さ試験システム(商品名:ピコデンターHM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定した。また、圧子は、ビッカース圧子、ダイヤモンド正四角錘形状、最大径400μmを用いた。また、圧子の押し込み条件は下記の通りとした。なお、厚みによる依存をなくすため、押し込み荷重を1mNと小さく設定し、押し込み深さをおおよそ1μmとなるようにした。そのため、厚みによる影響は多くても5μm~10μm程度に抑えた。
(試験用圧子の押し込み条件)
・押し込み荷重:1mN
・荷重時間 :20秒
・クリープ時間:5秒
・最大押し込み深さ:表面から厚さ方向へおおよそ1μm
(3)ビッカース硬さ
上記のマルテンス硬さと同様に、測定用硬化接着層を作製した。測定用硬化接着層の第1セパレータAおよび第2セパレータAを剥離し、第1接着層側の面および第2接着層側の面のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、JIS Z 2244に準拠する方法で測定した。装置、圧子およびその押し込み条件は、上記のマルテンス硬さの測定と同様とした。
(4)接着強度(せん断強度)
第1部材および第2部材として、SUS板(長さ100mm、幅25mm、厚み2mm)およびABS板(長さ100mm、幅25mm、厚み2mm)を準備した。第1接着シートを、長さ25mm、幅12.5mmに裁断し、一方の第1セパレータを剥離して第1接着層を露出させ、第1部材(SUS板またはABS板)の先端部分に貼り付けて、第1接着シート付部材を作製した。また、第2接着シートを第1接着シートと同様のサイズに裁断し、一方の第2セパレータを剥離して第2接着層を露出させ、第2部材(SUS板またはABS板)の先端に貼りつけて、第2接着シート付部材を作製した。第1接着シート付部材および第2接着シート付部材の、他方の第1セパレータおよび第2セパレータをそれぞれ剥離して、第1接着層および第2接着層をそれぞれ露出させ、接着層同士を長さ25mm、幅12.5mmの接着面積になるように貼り合わせた。各接着シート付き部材の部材同士をクリップで固定した後、その仮固定部分上に0.05MPa程度の荷重をかけて23℃、50%雰囲気下で7日間養生を行い、物品を得た。
得られた物品の両端を、23℃、50%RHの環境下でテンシロン万能材料試験機(RTF-1350、株式会社エー・アンド・デイ製)に固定し、10mm/分で引っ張り、せん断強度を測定し、その値を接着強度とした(JIS K6850:1999(接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)準拠法)。
上記の結果より、SUS板およびABS板を貼り合せる場合、硬化後の接着層の貯蔵弾性率が異なり、さらにABS板に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率が、SUS板に貼り合せる接着層の硬化後の貯蔵弾性率よりも高い場合に、接着強度が高くなる傾向を示した。また、同様に、SUS板およびABS板を貼り合せる場合、硬化後の接着層のマルテンス硬さが異なり、さらにABS板に貼り合せる接着層の硬化後のマルテンス硬さが、SUS板に貼り合せる接着層の硬化後のマルテンス硬さよりも高い場合に、接着強度が高くなる傾向を示した。さらに、同様に、SUS板およびABS板を貼り合せる場合、硬化後の接着層のビッカース硬さが異なり、さらにABS板に貼り合せる接着層の硬化後のビッカース硬さが、SUS板に貼り合せる接着層の硬化後のビッカース硬さよりも高い場合に、接着強度が高くなる傾向を示した。