JP7073859B2 - リチウム二次電池及びリチウム二次電池の製造方法 - Google Patents

リチウム二次電池及びリチウム二次電池の製造方法 Download PDF

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Description

本明細書では、リチウム二次電池を開示する。
従来、リチウム二次電池としては、正極と、負極と、過充電添加剤とジフルオロリン酸塩とを含有する非水系電解液とを備え、所定の最低SOCまでの放電と、過充電添加剤由来の導電性被膜を形成可能な所定の最高SOCまでの充電とを少なくとも一回以上行うコンディショニング工程を経て得られたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリチウム二次電池では、優れた耐久性(例えばサイクル特性)と高い信頼性(例えば安全性)を両立することができるとしている。
特開2015-191853号公報
ところで、リチウム二次電池では、高い電池特性と共に高エネルギー密度を有するものの開発が所望されている。このようなリチウム二次電池としては、満充電状態の正極電位が金属リチウム基準で4.5V以上であるもの(以下、高電位電池とも称する)が開発されている。このような高電位電池は、電池の高エネルギー密度化を達成できるが、正極電位が高いため、電解液の分解などが起きやすく、充放電サイクルでの容量低下などが問題となっていた。しかしながら、上述の特許文献1のリチウム二次電池では、このような高電位な正極についての検討はまだ十分でなく、充放電特性をより向上することが求められていた。
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、高電位な正極活物質を用いたものにおいて、充放電特性をより向上することができるリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リチウム基準電位で4.5V以上と高電位な正極活物質を用いたリチウム二次電池において、無水コハク酸を非水系電解液へ添加すると、充放電特性をより向上する新規なリチウム二次電池を提供することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
即ち、本明細書で開示するリチウム二次電池は、
リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を含む負極と、
リチウム基準電位で4.5V以上の電位領域において充放電可能な正極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを伝導する非水系電解液と、を備え、
前記リチウム二次電池の充放電後の前記負極を重水中に抽出させた成分の1H-NMR測定を行い、3.48ppm以上3.55ppm以下の範囲に出現するピーク面積をS1、前記ピーク面積S1のうち[-OCH2CH2O-]成分に由来するピーク面積をSp、3.22ppmに出現するピーク面積をS2、1.04ppmに出現するピーク面積をS3、ピーク面積S1~S3の総和をピーク面積Saとしたとき、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲であるものである。
このリチウム二次電池では、リチウム基準電位で4.5V以上などの高電位な正極活物質を用いたものにおいて充放電特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。ピーク面積比Sp/Saが0.10以上では、充放電サイクル中に電解質由来の被膜成分の割合が増大して容量が減少してしまうことを抑制することができると考えられる。また、ピーク面積比Sp/Saが0.43以下では、[-OCH2CH2O-]成分が過剰となることを抑制し、高抵抗な被膜構造への変化をより抑制することができると考えられる。そして、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲では、好適な被膜が生成されており、例えば、充放電サイクルでの容量維持率など、充放電特性をより向上することができるものと推察される。
リチウム二次電池20の構成の一例を示す模式図。 重水により抽出された被膜成分の1H-NMR測定結果。
本実施形態で説明するリチウム二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水系電解液とを備えている。
この正極は、リチウム基準電位で4.5V以上の電位領域において充放電可能な正極活物質を含む。この正極活物質は、リチウム基準電位で4.5V以上の電位領域において正極活物質重量あたり50mAh/gを上回る放電容量を示すものが「充放電可能」なものとして好ましい。この正極活物質は、リチウム基準電位で5V以上であるものとしてもよい。正極活物質の電位が高いほど、本開示の発明を適用する意義が高い。この正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。正極活物質は、リチウム基準電位で4.5V以上であればよく、例えば、リチウム、ニッケル及びマンガンを含有するスピネル型酸化物であるものとしてもよい。具体的には、基本組成式をLi(1-x)NiaMnb4(a+b=2)とするスピネル型のリチウムニッケルマンガン複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物としては、基本組成式をLiNi0.5Mn1.54とするものなどが挙げられる。なお、「基本組成式」とは、他の添加元素(例えば、MgやAlなど)を含んでもよい趣旨である。
導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
このリチウム二次電池の負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は正極と同様のものを用いることができる。
このリチウム二次電池の非水系電解液としては、有機溶媒に支持塩を含むものなどを用いることができる。有機溶媒としては、炭酸エステルや、フッ素含有炭酸エステルなどが挙げられる。炭酸エステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類などが挙げられる。この非水系電解液は、エチレンカーボネートを含むことが好ましい。エチレンカーボネートは、充放電によって分解し、被膜成分である[-OCH2CH2O-]成分となるためである。フッ素含有炭酸エステルとしては、例えば、フッ素化環状カーボネートやフッ素化鎖状カーボネートなど、上述した炭酸エステルの1以上の水素をフッ素に置換したものとしてもよい。具体的には、モノフルオロエチレンカーボネートや、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネートなどが挙げられる。なお、この非水系電解液には、炭酸エステルのほかに、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などのうち1以上の他の溶媒が添加されてもよい。この他の溶媒は、電解液に含まれないものとしてもよく、電解液の性状が変更されない程度、少ない量(例えば、10体積%以下)で添加されるものとしてもよい。
この非水系電解液に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。
この非水系電解液は、添加剤としての無水コハク酸(式1)を含むものとしてもよい。無水コハク酸は、非水系電解液の有機溶媒などの分解を抑制し、より好ましい被膜を生成するものと推察される。非水系電解液は、無水コハク酸を0.6質量%以上2.0質量%以下の範囲で含むことが好ましい。無水コハク酸を0.6質量%以上含むものとすると、有機溶媒の分解抑制効果を十分発揮することができる。また、無水コハク酸を2.0質量%以下含むものとすると、有機溶媒の分解抑制効果が過剰とならず好ましい。即ち、この添加量が0.6質量%以上2.0質量%以下の範囲では、添加効果を顕著に発揮することができ好ましい。また、この非水系電解液は、更に添加剤としてのLiBC48を含むことが好ましい。LiBC48を含むものとすると、無水コハク酸の添加効果に相乗してさらに好ましい被膜を生成するものと推察される。この非水系電解液は、LiBC48を0.4質量%以上1.2質量%以下の範囲で含むことが好ましい。LiBC48をこの範囲で含むものとすると、LiBC48の添加効果を十分発揮することができる。
Figure 0007073859000001
このリチウム二次電池は、充放電後の負極を重水中に抽出させた成分の1H-NMR測定を行い、3.48ppm以上3.55ppm以下の範囲に出現するピーク面積をS1、ピーク面積S1のうち[-OCH2CH2O-]成分に由来するピーク面積をSp、3.22ppmに出現するピーク面積をS2、1.04ppmに出現するピーク面積をS3、ピーク面積S1~S3の総和をピーク面積Saとしたとき、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲である。ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲では、好適な被膜が生成されるものと推察される。このピーク面積比Sp/Saは、0.12以上0.26以下の範囲であることがより好ましい。より好適な被膜が生成されるためである。ここで、1H-NMR測定について説明する。この測定は、以下の方法により行うものとする。まず、リチウム二次電池は、充放電を行い、負極上に被膜が形成されている状態のものを用いる。例えば、リチウム二次電池は、少なくとも1回の充放電を行ったものを用いる。次に、Arガスのグローブボックス中で電池を解体し、電池から取り出した負極を切り出し、切り出した負極をジメチルカーボネートで洗浄し、無水アセトニトリルで洗浄、乾燥させる処理を3回繰り返す。その後、25℃の重水に一晩浸漬させ、溶液をろ過して不純物を取り除いたろ液を試料として1H-NMR測定を行う。負極は、ジメチルカーボネートによる洗浄によって電解液中に含まれるリン成分が除去され、さらに、無水アセトニトリルによる洗浄によって負極中に含まれる溶媒が除去される。また、重水中に浸漬させることで負極上に生成した被膜成分を抽出することができる。このろ液に含まれる被膜成分は、1H-NMRでの測定により、3.48~3.55ppmの範囲には[-OCH2CH2O-]成分および[-OCH2CH3]成分のピークが出現する。このピーク面積をS1とする。また、3.22ppm近傍には[-OCH3]成分のピークが出現し、このピーク面積をS2とする。また、1.04ppm近傍には[-OCH2CH3]成分のピークが出現し、このピーク面積をS3とする。[-OCH2CH2O-]成分のピーク面積をSpとし、ピーク面積S1に含まれる[-OCH2CH3]成分の面積を1.04ppmのピーク面積S3に基づいて差し引き、このピーク面積Spを求める。そして、ピーク面積S1~S3の総和をピーク面積Saとしピーク面積Spを除算してピーク面積比Sp/Saを求めるものとする。
このリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
このリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、リチウム二次電池20の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池20は、集電体21に正極合材層22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材層27を形成した負極シート28と、正極シート23と負極シート28との間に設けられたセパレータ29と、正極シート23と負極シート28との間を満たす非水系電解液30と、を備えたものである。このリチウム二次電池20では、正極シート23と負極シート28との間にセパレータ29を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート28に接続された負極端子36とを配設して形成されている。このリチウム二次電池20は、上記ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲であるものである。また、非水系電解液30には、添加剤としての無水コハク酸が含まれるものとしてもよい。
以上詳述したリチウム二次電池では、リチウム基準電位で4.5V以上など、高電位な正極活物質を用いたものにおいて、充放電特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲では、好適な被膜が生成されており、例えば、充放電サイクルでの容量維持率など、充放電特性をより向上することができるものと推察される。例えば、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上では、充放電サイクル中に電解質由来の被膜成分の割合が増大して容量が減少してしまうことを抑制することができると考えられる。また、ピーク面積比Sp/Saが0.43以下では、[-OCH2CH2O-]成分が過剰となることを抑制し、高抵抗な被膜構造への変化をより抑制することができると考えられる。更に、ニッケル、マンガンを含む高電位スピネル型酸化物を正極活物質に用いた場合に、正極からのマンガン溶出が上記影響を促進することも考えられる。一方、4V系LiMn24スピネル型酸化物ではマンガン溶出が過剰となることにより性能向上効果が得られないことが考えられる。また、非水系電解液の添加剤として更にLiBC48を含むことにより、[-OCH2CH2O-]成分からなる被膜の構造が最適化され、充放電サイクル後の容量減少抑制効果が顕著に現れると考えられる。
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
以下には、リチウム二次電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例2~4、6が実施例に相当し、実験例1、5、7~10が比較例に相当する。
[実験例1]
(評価セルの作製)
正極活物質としてスピネル型酸化物であるLiNi0.5Mn1.54を用い、活物質を85質量%、導電材としてカーボンブラックを10質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量%混合し、分散材としてN-メチル-2-ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状の正極合材とした。この正極合材を15μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後塗布シートをロールプレスに通して高密度化させ120mm幅×100mm長の形状に切り出して正極電極とした。負極活物質として天然黒鉛を用い、活物質を95質量%、結着剤としてPVdFを5質量%混合し、正極と同様にスラリー状の負極合材とした。この負極合材を10μm厚の銅箔集電体の両面に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートをロールプレスに通して高密度化させ、122mm幅×102mm長の形状に切り出して負極電極とした。上記の正極シートと負極シートを25μm厚のポリエチレン製セパレータを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネート型袋に封入し、非水系電解液を含浸させた後に密閉してリチウム二次電池を作製した。非水系電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30:40:30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
作製した評価セルのコンディショニング処理およびエージング処理を実施した。コンディショニング処理は、25℃の温度下、電流密度0.2mA/cm2の定電流で電池電圧4.9Vまで充電を行い、さらにその電池電圧で10分、定電圧充電を行った。次に、電流密度0.2mA/cm2の定電流で電池電圧3.0Vまで放電を行った。この充放電を1サイクルとして合計3サイクル行った。コンディショニング処理後の評価セルを電流密度0.2mA/cm2の定電流で4.9Vまで充電し、この充電状態の電池を端子から外して40℃の環境下で3時間放置するエージング処理を施した。エージング処理後、電池を0.2mA/cm2の定電流で電池電圧3.0Vまで放電し、下記評価を行う供試電池とした。
[実験例2~5]
非水系電解液に添加剤としての無水コハク酸(式(1))を0.6質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例2とした。また、非水系電解液に無水コハク酸を1.2質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例3とした。また、非水系電解液に無水コハク酸を1.9質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例4とした。また、非水系電解液に無水コハク酸を2.1質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例5とした。
[実験例6]
非水系電解液にさらにLiBC48を0.5質量%添加した以外は実験例3と同様に作製したものを実験例6とした。
[実験例7、8]
正極活物質にLiAl0.1Mn1.94を用いた以外は、実験例1と同様に作製したものを実験例7とした。また、非水系電解液に無水コハク酸を0.8質量%添加した以外は、実験例7と同様に作製したものを実験例8とした。
実験例7、8の評価セルのコンディショニング処理およびエージング処理を実施した。コンディショニング処理は、25℃の温度下、電流密度0.2mA/cm2の定電流で電池電圧4.1Vまで充電を行い、さらにその電池電圧で10分、定電圧充電を行った。次に、電流密度0.2mA/cm2の定電流で電池電圧3.0Vまで放電を行った。この充放電を1サイクルとして合計3サイクル行った。コンディショニング処理後の評価セルを電流密度0.2mA/cm2の定電流で4.1Vまで充電し、この充電状態の電池を端子から外して40℃の環境下で3時間放置するエージング処理を施した。エージング処理後、電池を0.2mA/cm2の定電流で電池電圧3.0Vまで放電し、下記評価を行う供試電池とした。
[実験例9、10]
非水系電解液に添加剤としての無水マレイン酸(式(2))を0.6質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例9とした。また、非水系電解液に無水マレイン酸を3.0質量%添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例10とした。
Figure 0007073859000002
(負極被膜の1H-NMR測定)
上述したコンディショニング処理及びエージング処理を行ったあとの評価セルを用いて負極被膜の1H-NMR測定を行った。負極被膜の評価は、以下に説明する方法により行った。Arガスのグローブボックス中で評価セルを解体し、電池から取り出した負極を40mm×40mmの大きさに切り出した。切り出した負極をジメチルカーボネートで洗浄し、無水アセトニトリルで洗浄、乾燥させる処理を3回繰り返した。その後、25℃の重水に洗浄後の負極を一晩浸漬させ、溶液をろ過して不純物を取り除いたろ液を試料として1H-NMR測定を行った。1H-NMR測定は、核磁気共鳴装置(日本電子製JNM-ECA500)を用いて行った。図2は、重水により抽出された被膜成分の1H-NMR測定結果である。図2に示すように、このろ液に含まれる被膜成分は、1H-NMRでの測定により、3.48~3.55ppmの範囲には[-OCH2CH2O-]成分および[-OCH2CH3]成分のうちの[CH2]のピークが出現した。このピーク面積をS1とした。また、3.22ppm近傍には[-OCH3]成分のピークが出現し、このピーク面積をS2とした。また、1.04ppm近傍には[-OCH2CH3]成分のうちの[CH3]のピークが出現し、このピーク面積をS3とした。[-OCH2CH2O-]成分のピーク面積をSpとし、ピーク面積S1に含まれる[-OCH2CH3]成分の面積を1.04ppmのピーク面積S3に基づいて差し引き、このピーク面積Spを求めた。そして、ピーク面積S1~S3の総和をピーク面積Saとしピーク面積Spを除算してピーク面積比Sp/Saを求めた。
(充放電サイクル試験)
充放電サイクル試験は、25℃の温度条件下で、電流密度2mA/cm2の定電流で充電上限電圧4.9Vまで充電を行い、次いで電流密度2mA/cm2の定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計200サイクル行った。サイクルごとに、放電容量を測定した。また、充放電サイクル試験は、正極活物質が4V級である実験例7、8に対しては、25℃の温度条件下で、電流密度2mA/cm2の定電流で充電上限電圧4.1Vまで充電を行い、次いで電流密度2mA/cm2の定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計200サイクル行った。また、容量維持率%は、(200サイクル後の容量)/初期容量×100%という式を用いて計算し、添加剤を添加しない実験例(実験例1,7)を100として規格化した値を示した。
(結果と考察)
表1~3に各実験例の添加剤の添加量(質量%)、ピーク面積比Sp/Sa、充電電圧(V)、充放電サイクル試験後の容量維持率(規格値)をまとめて示す。表1に示すように、実験例1~5の結果より、添加剤としての無水コハク酸の添加量が0.6質量%~2.0質量%の範囲では、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲となり、このとき添加剤を添加しない実験例1の結果に比べてサイクル容量維持率が向上することがわかった。また、実験例5のように無水コハク酸の添加量が2.1質量%のときはSp/Saが0.08であり、このとき容量維持率向上効果は小さかった。また、実験例6に示すように電解液に更にLiBC48を加えた場合に容量維持率向上効果がさらに顕著に現れることが分かった。このLiBC48は、例えば非水電解液に0.4質量%以上1.2質量%以下の範囲で含むことが好ましいと推察された。
また、表2に示すように、実験例7、8の結果より、正極活物質に4V系LiMn24の類縁スピネル型酸化物であるLiAl0.1Mn1.94を用いた場合には、充放電サイクルの容量維持率の性能向上効果は認められないことが分かった。この性能向上は、LiNi0.5Mn1.54に代表されるリチウム、ニッケル、マンガンを含有する5V系の高電位スピネル型酸化物を正極活物質に用いた電池固有の効果であることが分かった。
また、表3に示すように、無水コハク酸の代わりに無水マレイン酸を用いた実験例9、10では、上述した無水コハク酸を添加したような効果は得られなかった。このように、無水コハク酸は、負極の被膜形成において[-OCH2CH2O-]成分の調整に特異的に効果があることが明らかになった。
Figure 0007073859000003
Figure 0007073859000004
Figure 0007073859000005
なお、本明細書で開示するリチウム二次電池は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
本明細書で開示したリチウム二次電池は、二次電池の技術分野に利用可能である。
20 リチウム二次電池、21 集電体、22 正極合材層、23 正極シート、24 集電体、27 負極合材層、28 負極シート、29 セパレータ、30 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。

Claims (8)

  1. リチウム二次電池であって、
    リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を含む負極と、
    リチウム基準電位で4.5V以上の電位領域において充放電可能な正極活物質を含む正極と、
    無水コハク酸と、炭酸エステル及び/又はフッ素含有炭酸エステルの有機溶媒と、を含みリチウムイオンを伝導する非水系電解液と、を備え、
    前記リチウム二次電池の充放電後の前記負極を重水中に抽出させた成分の1H-NMR測定を行い、3.48ppm以上3.55ppm以下の範囲に出現するピーク面積をS1、前記ピーク面積S1のうち無水コハク酸及び前記有機溶媒に起因する[-OCH2CH2O-]成分に由来するピーク面積をSp、3.22ppmに出現するピーク面積をS2、1.04ppmに出現するピーク面積をS3、ピーク面積S1~S3の総和をピーク面積Saとしたとき、ピーク面積比Sp/Saが0.10以上0.43以下の範囲である、リチウム二次電池。
  2. 前記ピーク面積比Sp/Saが、0.12以上0.26以下の範囲である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
  3. 前記正極は、リチウム、ニッケル及びマンガンを含有するスピネル型酸化物を前記正極活物質として含む、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
  4. 前記非水系電解液は、無水コハク酸を0.6質量%以上2.0質量%以下の範囲で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
  5. 前記非水系電解液は、LiBC48を0.4質量%以上1.2質量%以下の範囲で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
  6. 前記非水系電解液は、エチレンカーボネートを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
  7. 前記負極は、炭素質材料の前記負極活物質を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の製造方法であって、
    前記非水系電解液に前記無水コハク酸を0.6質量%以上2.0質量%以下の範囲で含む状態で1回以上充放電する処理を実行する、
    リチウム二次電池の製造方法。
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