JP7066401B2 - 平板瓦 - Google Patents

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Description

本発明は、強い風雨下でも漏水しにくく緩勾配にも対応できる平板瓦に関するものである。なお、本明細書において、瓦の流れ方向の上流側を尻側といい、下流側を頭側ということがある。
屋根の最近の市況として、緩勾配の片流屋根が増えている。これは、太陽光パネルの搭載が関係している。太陽光パネルを搭載する場合、当初は、切妻屋根や寄棟屋根よりも、自由な角度で太陽光パネルを設置できる陸屋根が売れていたが、陸屋根には、雨漏りや積雪しやすい等の懸念がある。そこで、近年は、これらの懸念が少なく、南向き一枚とすれば多くの太陽光パネルを搭載できる片流屋根にシフトしてきた。若い世代が、片流屋根のデザインを好むことも増加に影響している。
しかし、片流屋根には、屋根流れ長さが大きくなり雨をうける量が増える、屋根が高くなり強風の影響を受けやすい、屋根が高くなり北側斜線の制限を受けやすい、屋根面積・壁面積や小屋裏が大きくなり施工費用が増える、等の問題がある。
そこで、最近は、片流屋根を緩勾配することが増えている。屋根勾配は、水平距離10寸あたりの高さで表され、3.5寸勾配(19.3度)以下が緩勾配、5.5寸勾配(28.8度)以上が急勾配、その間が普通勾配と言われている。緩勾配には、屋根流れ長さが小さく雨をうける量が減る、屋根が低く強風の影響を受けにくい、屋根が低く北側斜線の制限を受けにくい、屋根面積・壁面積や小屋裏が小さくなり施工費用を抑えられる、屋根足場が不要になる等の利点がある。
但し、瓦を用いた屋根の場合、緩勾配にするほど、吹き上がる風が、降雨と共に、また、緩勾配で流れが遅くなった瓦上の雨水を押し上げながら、下段の瓦と上段の瓦との間に浸入し、さらに下段の瓦の尻部の水返しを越えて漏水し、野地板等の屋根下地及びその他の建築用材の腐食を促進し、建築物の寿命を短くするおそれがある。そのため、緩勾配としては3寸勾配(16.7度)が事実上の下限であった。
しかし、最近は、瓦屋根にも2.5寸勾配(14.0度)あるいはそれより緩い勾配が要望されることがある。このような緩勾配に対応するには、従来の瓦では困難であり、吹き上がる風雨が浸入しにくく、風雨が浸入しても漏水しにくい工夫がされた、新たな瓦が要求される。
現在の住宅用瓦の主流である平板瓦は、表面が実質的に平らな四角板状の瓦本体と、瓦本体の一側方のオーバーラップと、瓦本体の他側方のアンダーラップと、瓦本体の尻側の尻嵩上げ部と、瓦本体の頭端の頭見付けとを備えている。この平板瓦にも種々のタイプがある。
瓦本体とオーバーラップの表面が面一である、いわゆるフルフラットタイプの平板瓦については、緩勾配対応策として、本出願人は先に特許文献1等を提案している。
図13に示すように、瓦本体82よりも高い段丘状オーバーラップ83とアンダーラップ近傍突堤85と尻嵩上げ部86を備え、頭見付け87の幅方向中央部に跨ぎ部89が山形状に凹設された、いわゆるUタイプの平板瓦81について、本出願人は特許文献2,3等を提案しているが、後述するように緩勾配対応策は未だ不十分であった。
特許文献4には、段丘状オーバーラップの表面の尻寄りに突条が図示されているが、その説明はない。
特許文献5には、瓦本体の葺設時に頭垂れの下端が当接される位置に第一突条を形成したものが記載されている。
特開2017-8557号公報 特開平9-170296号公報 特開2001-40821号公報 特開2017-128937号公報 特開平4-309646号公報
特許文献2~5のように、Uタイプ平板瓦は千鳥葺きされ、段丘状オーバーラップは同段の隣瓦のアンダーラップの上方に重なり、頭見付けの下端は下段瓦の基準平面部に当接し、跨ぎ部は隣合う段丘状オーバーラップ及びアンダーラップ近傍突堤(以下まとめて「桟山」ということがある。)を跨ぐ。跨ぎ部は、桟山の上部に対しても両側部に対しても、次の3つの理由から、例えば3mm程度の隙間が生じるように大きめに設計する必要がある。第1に、製造時に余裕をもたせるためである。第2に、施工時の左右位置の微調整に利用するためである。第3に、葺設後に後付け雪止金具を取付ける場合に、同金具の一部を差し込みやすくするためである。よって、瓦上を吹き上がる風雨が、跨ぎ部と桟山との間の隙間から尻側に浸入する。
(a)跨ぎ部の中央上辺と桟山の上面との間の隙間から浸入した風雨は、普通勾配の場合には、段丘状オーバーラップの尻端に設けられた尻端水返し(1本しかなく低い)でせき止められるが、緩勾配の場合には、緩勾配で流れが遅くなった瓦上の雨水を押し上げながら、尻端水返しを越えて尻から漏水しやすい。
(b)跨ぎ部の両横辺と桟山の両横面との間の隙間から浸入した風雨は、普通勾配の場合、尻嵩上げ部の水返し面でせき止められるが、緩勾配の場合、緩勾配で流れが遅くなった瓦上の雨水を押し上げながら、尻嵩上げ部の水返し面を上り切り、さらに尻嵩上げ部の上面を越えて尻から漏水しやすい。
なお、尻嵩上げ部の上面の奥行が例えば30mm以上と大きいと、その上面を雨水が越えることは難しくなるが、その上面のうち当該隙間の丁度尻側の部位には尻剣係入凹部(瓦を積み重ねて保管する際に上の瓦の尻剣を係入させるための凹部)があって奥行が20mm以下になっている場合が多いため、その上面の部位を雨水が越えやすい。
次に、葺設後の瓦本体と上段瓦のアンダーラップの頭端部との間には、粘土瓦の精度の限界や焼成時の不可避的な変形等により、隙間が生じる。また、図13(特許文献2)のように、オーバーラップ83側の頭見付け87の下部に切欠部90を形成し、アンダーラップ84の頭端部に隣瓦の切欠部90に嵌り込むベロ状の突片91を設けたものでも、葺設後の瓦本体52と上段瓦の突片91との間に、隙間が生じる。よって、瓦上を吹き上がる風雨が、これらのアンダーラップ頭端下隙間から尻側に浸入する。
(c)アンダーラップ頭端下隙間から浸入した風雨は、真直ぐ尻側へ流れるほか、斜め外側方に逸れて尻側へ流れる。真直ぐ尻側へ流れる風雨は、普通勾配の場合、尻嵩上げ部の水返し面を上る途中でせき止められるが、緩勾配の場合、緩勾配で流れが遅くなった瓦上の雨水を押し上げながら、尻嵩上げ部の水返し面を上り切り、さらに尻嵩上げ部の上面を越えて尻から漏水しやすい。また、斜め外側方に逸れて尻側へ流れる風雨は、普通勾配の場合、尻嵩上げ部の水返し面を斜めに上る途中でせき止められるが、緩勾配の場合、尻嵩上げ部の水返し面を斜めに上り切り、さらに尻嵩上げ部の上面を越えて尻から漏水しやすい。
上記の問題(a)~(c)があるため、現行のUタイプの平板瓦の防水性能は、3.5寸勾配(雨量4L/m・min)の防水試験合格にとどまっており、それより緩い勾配で葺設すると漏水しやすかった。
そこで、本発明の目的は、特に上記の問題(a)に対処し、吹き上がる風雨が桟山の上面と上段瓦の跨ぎ部との間の隙間から浸入しても、漏水しにくく、もって緩勾配に対応できる平板瓦を提供することにある。
本発明は、表面が実質的に平らな四角板状の瓦本体と、瓦本体の一側方の瓦本体よりも高い段丘状オーバーラップと、瓦本体の他側方の瓦本体よりも低いアンダーラップと、瓦本体とアンダーラップとの間の瓦本体よりも高いアンダーラップ近傍突堤と、瓦本体の尻側の瓦本体よりも高い尻嵩上げ部と、瓦本体の頭端の下方へ突出した頭見付けとを備え、頭見付けの幅方向中央部に、葺設時に下段瓦の隣合う段丘状オーバーラップ及びアンダーラップ近傍突堤(以下まとめて「桟山」ということがある。)を跨ぐ跨ぎ部が凹設された平板瓦において、次の手段[1]を採ったことを特徴とする。
また、手段[1]に加えて、次の手段[2]~[7]のいずれか一又は複数を採ることができる。
[1]桟山の少なくとも段丘状オーバーラップの上面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部よりも尻側となる箇所に、頭側から尻側に向けて順に、左右方向に延びる第1水返しと左右方向に延びる第3水返しとを距離をおいて設け、瓦本体の裏面のうち標準働き長さ時に下段瓦の第1水返しと第3水返しとの間となる箇所に、左右方向に延びる第2水返しを設けた。
図6に示すように、標準働き長さ時とは、働き長さを設計上の標準値にして葺設した時をいう。瓦の働き長さを標準働き長さから増減調整(以下単に「働き長さ調整」ということがある。)して葺設した時に、第2水返しが、下段瓦の第1水返しよりも頭側となってもよいし、下段瓦の第3水返しよりも尻側となってもよい。
この構成がないと、上記問題(a)のとおり、緩勾配の場合、跨ぎ部の中央上辺と桟山の上面との間の隙間(以下「跨ぎ中央隙間」ということがある。)から浸入した風雨が尻から漏水しやすい。
この構成があると、緩勾配の場合でも、跨ぎ中央隙間から浸入した風雨は、まず第1水返しでせき止められるとともに流れが斜め上向きに転向され、次に第2水返しでせき止められるとともに流れが斜め下向きに転向され、次に第3水返しでせき止められる。このように、第1~第3水返しにより、風雨が上下に蛇行するようにコントロールされてせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。
さらに、桟山の少なくとも段丘状オーバーラップの上面の第3水返しよりも尻側に距離をおいて左右方向に延びる第4水返しを設けてもよい。万が一、第3水返しを乗り越える雨水があっても、第4水返しによってせき止められる。
第1~第4水返しの左右長さ(段丘状オーバーラップの上面とアンダーラップ近傍突堤の上面の両方に設けられた場合は合計長さ)は、特に限定されないが、跨ぎ部の中央上辺の左右幅の50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。特に第1~第2水返しの左右幅は、跨ぎ部の中央上辺の左右長さの80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
第1~第4水返しの裾における幅は、特に限定されないが、4~10mmが好ましく、6~10mmがより好ましい。4mm未満だと雨水が乗り越えやすく、10mmを超えても雨水が乗り越えにくい効果に変わりはない。
段丘状オーバーラップの第1水返しと第3水返しとは、段丘状オーバーラップの側縁の連結突条で連結していることが好ましい。
段丘状オーバーラップの第3水返しと第4水返しとの間の排水溝は、段丘状オーバーラップの側縁に向けて下り傾斜し、該側縁で外側へ開放していることが好ましい。
第1~第3水返しの高さは、特に限定されないが、図6(d)に示すように、桟山の上面と上段瓦の瓦本体の裏面との間の空間の高さ(以下「段丘上空間高さ」ということがある。)をM、第1水返しの(桟山の上面からの)高さをm1、第2水返しの高さ(瓦本体の裏面からの突出寸法)をm2として、m1+m2はMの60~100%が好ましく、70~95%がより好ましい。この比率が60%未満であると、風雨の流れのコントロールが弱くなる。この比率が100%を超えると、第1水返しと第2水返しとが干渉するところでは働き長さ調整が制限される。
また、第3水返しの(桟山の上面からの)高さをm3として、
・m1≦m3であることが好ましく、m1<m3であることがより好ましい。第1水返しと第2水返しで流れをコントロールした風雨を、第3水返しでしっかりせき止めるためである。
この場合、m2≦m1≦m3であることが好ましく、m2<m1<m3であることがより好ましい。第1水返しは風雨のせき止めと流れのコントロールの両方を担い、第2水返しは主に風雨の流れのコントロールを担い、第3水返しは主に風雨のせき止めを担うからである。
但し、m1<m2<m3であってもよい。
・m1はMの40~80%、m2はMの15~60%、m3はMの60~100%が好ましい。
・m1はMの50~80%、m2はMの15~40%、m3はMの80~95%がより好ましい。
第4水返しの(桟山の上面からの)高さは、特に限定されないが、第4水返しの高さをm4として、m4はMの40~100%が好ましく、60~95%がより好ましい。
図6(e)に示すように、標準葺設時に、頭見付けの裏面Kから第1水返しの頭側裾Fまでの距離は、特に限定されないが、3~20mmが好ましく、5~15mmがより好ましい。3mm未満では、働き長さを大きくする際の調整幅が小さくなる。20mmを超えると、第1水返しが風雨をせき止める効果が小さくなる。
第1水返しの尻側裾Iにから第3水返しの頭側裾Jまでの距離は、特に限定されないが、10~35mmが好ましく、15~30mmがより好ましい。10mm未満でも35mmを超えても、風雨の蛇行のコントロールが弱くなる。
標準葺設時に、第2水返しの頭側裾Dと尻側裾Eは、
・第1水返しの頭側裾Fから第3水返しの頭側裾Jまでの範囲L1にあることが好ましく、
・第1水返しの頭側裾Fと尻側裾Iとの中間点Gから第3水返しの頭側裾Jまでの範囲L2にあることがより好ましく、
・第1水返しの頭側裾Fと尻側裾Iとの尻側裾寄りの2/3点Hから第3水返しの頭側裾Jまでの範囲L3にあることがより好ましい。
DとEが範囲L1よりも尻側であっても頭側であっても、前記風雨の流れのコントロールが弱くなる。
・桟山の各横面に、瓦本体の表面から上下方向に延びて第1水返しと連続する横水返しを設けることが好ましい。跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止めることができるからである。
横水返しは、桟山の各横面の下端から横へ10~50mm(より好ましくは20~40mm、最も好ましくは25~35mm)離れた瓦本体の表面まで横方向に延びることが好ましい。横水返しの横方向への延びが小さいと、跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止める効果が小さくなる。横水返しの横方向への延びが大きすぎても、跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止める効果は頭打ちとなり、また、瓦に先付け雪止金具を取り付ける場合には、同金具と干渉しやすくなる。
横水返しの態様については、次の[2]における説明を援用する。
[2]桟山の各横面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部よりも尻側となる箇所に、上下方向に延びる横水返しを設けた。
この構成がないと、上記問題(b)のとおり、緩勾配の場合、跨ぎ部の両横辺と桟山の両横面との間の隙間(以下「跨ぎ横隙間」ということがある。)から浸入した風雨が尻から漏水しやすい。
この構成があると、緩勾配の場合でも、跨ぎ横隙間から浸入した風雨は、横水返しでせき止められ、たとえ一部乗り越えても尻嵩上げ部の水返し面でせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。
横水返しは、瓦本体の表面から少なくとも桟山の各横面の上端まで延びるものが好ましい。
また、横水返しは、桟山の各横面の下端から横へ10~50mm(より好ましくは20~40mm、最も好ましくは25~35mm)離れた瓦本体の表面まで横方向に延びることが好ましい。横水返しの横方向への延びが小さいと、跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止める効果が小さくなる。横水返しの横方向への延びが大きすぎても、跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止める効果は頭打ちとなり、また、瓦に先付け雪止金具を取り付ける場合には、同金具と干渉しやすくなる。
このように横方向へも延びた横水返しの正面視形状は、特に限定されず、図5、図7等に示すような台形、図8(a)~(d)に示すような円弧形、長方形、三角形、上縁が凹凸状となった台形等を例示できる。
但し、横水返しの正面視形状は、横方向に延びた横端の高さが桟山の各横面に接した基端の高さよりも低い形状(台形、三角形、円弧形等)が、損傷しにくい点で好ましい。
段丘状オーバーラップ側の横水返しの正面視形状と、アンダーラップ近傍突堤側の横水返しの正面視形状とは、桟山を挟んで実質的に左右対称であることがデザイン的に好ましい。
また、図8(e)に示すように、横水返しはその横端部又は全部が頭側へ傾斜していてもよい。
また、図8(f)に示すように、横水返しの横端部の直ぐ頭側に隣接する瓦本体の表面に、横水返しの横端部を跨いで左右方向に延びる釉薬分散溝39を設けてもよい。
釉薬分散溝39は、瓦製造時の施釉工程(瓦表面に釉薬を流し掛けする)において、横水返しの尻側(または斜め水返しの尻側)に施釉された釉薬が、横水返しの横端部(または該横端部と斜め水返しの横端部との間の切れ目)より集中して頭側に流れる際に、その流れを左右に分散させて色むらとなることを防止する。また、釉薬分散溝39は、横水返しの有効高さを実質的に高くして、横水返しの防水性能をより高める。
釉薬分散溝39の長さは、特に限定されないが、15~60mmが好ましく、20~50mmがより好ましい。10mm未満だと上記の効果が弱くなる。60mmを超えても上記の効果に変わりはない。釉薬分散溝39の深さは、特に限定されないが、1~3mmが好ましく、2~3mmがより好ましい。1mm未満だと上記の効果が弱くなる。3mmを超えると溝下の肉厚が薄くなり、自立焼成工程においてゆがみやすくなる。
図5(b)に示すように、瓦本体の表面と上段瓦の瓦本体の裏面との間の空間の高さをNとして、横水返しの高さnの最も高いところはNの80~100%が好ましく、92~98%がより好ましい。この比率が80%未満であると、跨ぎ横隙間から浸入する風雨をせき止める効果は小さくなる。この比率が100%を超えると、横水返しと上段瓦の裏面とが干渉し、上段瓦が持ち上がってしまう(すると、頭見付けに隙間が発生して雨水が浸入しやすくなり、また施工後の美観が損なわれる。)。
横水返しの頭側裾から尻側裾までの幅は、特に限定されないが、4~10mmが好ましく、6~10mmがより好ましい。4mm未満だと雨水が乗り越えやすく、10mmを超えても雨水が乗り越えにくい効果に変わりはない。
桟山の上面に、前記横水返しの上端から連続して左右方向に延びる(第1)水返しを設けることが好ましい。跨ぎ中央隙間から浸入する風雨をせき止めることができるからである。また、この(第1)水返しを設けることにより、段丘状オーバーラップ側の横水返しと、(第1)水返しと、アンダーラップ近傍突堤側の横水返しとが、葺設時に横に並んで一体的な防水壁を構成する。そして、(第1)水返しにせき止められた風雨が横へ迂回して尻側へ回り込もうとしても、横水返しによりせき止めることができる。
標準葺設時に、頭見付けの裏面から横水返しの頭側裾までの距離は3~20mmが好ましく、5~10mmがより好ましい。この距離はできるだけ小さい方が方が風雨の浸入防止に効くが、3mm未満では、働き長さを大きくする際の調整幅が小さくなる。20mmを超えると、横水返しが尻嵩上げ部の水返し面に近付きすぎて、その間の排水空間を十分に確保できない。
[3]尻嵩上げ部の水返し面の瓦本体の表面に対する立ち上がり角度(図9(c)の角度α)を50~87度とし、葺設後の上段瓦のアンダーラップの外側方に位置する尻嵩上げ部の水返し面から瓦本体の表面にかけて斜め水返しを設けた。
この構成がないと、上記問題(c)のとおり、緩勾配の場合、葺設後の瓦本体と上段瓦のアンダーラップの頭端部(又は後述する突片)との間の隙間(以下「アンダーラップ頭端下隙間」ということがある。)から浸入した風雨が尻から漏水しやすい。
この構成があると、緩勾配の場合でも、アンダーラップ頭端下隙間から浸入して真直ぐ尻側へ流れる風雨は、尻嵩上げ部の水返し面を上る途中でせき止められ、また、アンダーラップ頭端下隙間から浸入して斜め外側方に逸れて尻側へ流れる風雨は、尻嵩上げ部の水返し面を斜めに上る途中で斜め水返しでせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。また、斜め水返しでせき止められた風雨は、斜め水返しで頭側へ返されるので、尻嵩上げ部とアンダーラップ近傍突堤とのコーナー部に集まらず、スムーズに排水できる。
尻嵩上げ部の水返し面の瓦本体の表面に対する立ち上がり角度が50度未満では風雨をせき止める効果が小さくなり、87度を超えると瓦製造時に粘土成形品が金型から抜けにくくなる。この立ち上がり角度は、60~85度が好ましい。
斜め水返しの頭側裾のうち上段瓦のアンダーラップの側縁から最も近い箇所の該側縁からの距離は、特に限定されないが、20~40mmが好ましく、25~30mmがより好ましい。20mm未満でも40mmを超えても、斜め水返しが風雨をせき止める効果が小さくなる。
斜め水返しの頭側裾の左右方向に対する角度(図3(b)、図9(b)の角度β)は、特に限定されないが、平面視で90~160度が好ましく、120~150度がより好ましい。90度未満だと、斜め水返しが風雨をせき止める効果が小さくなる。160度を超えると、斜め水返しが風雨を頭側へ返す効果が小さくなる。
斜め水返しの上面の幅は、4~10mmが好ましく、6~10mmがより好ましい。4mm未満だと雨水が乗り越えやすく、10mmを超えても雨水が乗り越えない効果に変わりはない。
オーバーラップ側の頭見付けの下部に切欠部を形成し、アンダーラップの頭端部に切欠部に嵌り込む突片を設け、突片の下面を側端側ほど上がる斜状にすることが好ましい。突片により、特許文献2,3のように、アンダーラップを流れる雨水をよりスムーズに瓦外へ排水することができる。但し、突片は他部よりも薄いため割れやすい。そこで、作業者が瓦の上を歩いたときに、突片が下段瓦に強圧して割れないように、また万が一割れても発見しやすいように、突片の下面を側端側ほど上がる斜状にして下段瓦から逃がすことが好ましい。すると、葺設後の瓦本体と上段瓦の突片との間には、側端側ほど大きくなる隙間(前記アンダーラップ頭端下隙間の一態様)が生じ、前記の斜め外側方に逸れて尻側へ流れる風雨が多くなる。
[4]アンダーラップの上面の側縁部に外側水返しを設け、外側水返しの頭側寄り部位を屈曲させて瓦本体側へ斜めに延びる上流側斜め部と流れ方向に延びる差込横部と側縁側へ斜めに延びる下流側斜め部とを含む構成とし、差込横部の横のアンダーラップ側縁部に下段瓦の係合凸部を係合させるための係合差込部を形成し、差込横部の高さを6~8mmとし、アンダーラップの頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部とし、下流側斜め部から続いて流れ方向に延びる外側水返し延長部を傾斜部に設け、同段隣瓦の瓦本体の裏面に、外側水返し延長部を乗り越えた風雨を頭側へ返すための返し突条を設けた。
この構成がないと、アンダーラップの尻側からの排水が、頭側からの風雨の吹き込みにより阻害され、外側水返しの差込横部あたりでぶつかり合う。そのため、このぶつかり合った雨水が差込横部(従来の高さは5mm程度)を乗り越えてオーバーフローする。
また、アンダーラップの頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部にすると、傾斜部では流れが急であるうえに、傾斜部に従来は水返しが設けられていないため、頭側からの風雨の吹き込みが傾斜部の上から斜め外方尻側へオーバーフローする。オーバーフローした吹き込みは、同段隣瓦の瓦本体の裏面に沿って下地に漏水する。
この構成があると、アンダーラップの尻側からの排水と、頭側からの風雨の吹き込みとが、外側水返しの差込横部あたりでぶつかり合っても、このぶつかり合った雨水は差込横部(高さ6~8mm)を乗り越えない。
また、アンダーラップの頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部にすると、傾斜部では流れが急になるが、頭側からの風雨の吹き込みは、傾斜部に設けた外側水返し延長部でせき止められ、たとえ外側水返し延長部を乗り越えて斜め外方尻側へオーバーフローしたとしても、オーバーフローした吹き込みは、同段隣瓦の瓦本体の裏面に設けた返し突条により頭側へ返されるため、下地に漏水しない。
外側水返しの差込横部の高さが6mm未満だと、アンダーラップ内の排水と吹き込みがぶつかり合ってオーバーフローしやすく、8mmを超えると、上段瓦の裏面と干渉し、上段瓦が持ち上がる(上段瓦の頭見付に隙間が発生し、雨水の浸入や施工後の美観が損なわれる。)。差込横部の高さは、7~8mmがより好ましい。
外側水返し延長部の先端は、傾斜部を含むアンダーラップの頭端から0~15mmにあることが好ましく、頭側から0~10mmがより好ましい。アンダーラップの頭端から突出すると欠けやすく、15mmを超えると風雨の吹き込みをせき止める効果が小さくなる。
返し突条の高さ(瓦本体の裏面からの突出寸法)は、1~4mmが好ましく、1~2mmがより好ましい。1mm未満だと風雨の吹き込みを返す効果が小さくなり、4mmを超えると下段瓦と干渉しやすくなる。
返し突条の長さは、100~180mmが好ましく、120~160mmがより好ましい。100mm未満だと風雨の吹き込みを返す効果が小さくなり、180mmを超えると同段隣瓦のアンダーラップや下段瓦の係合凸部と干渉しやすくなる。
[5]アンダーラップの上面の側縁部に外側水返しを設けるとともに内側部に内側水返しを設け、内側水返しの途中部に切り込みを入れ、外側水返しの頭側寄り部位を屈曲させて瓦本体側へ斜めに延びる上流側斜め部と流れ方向に延びる差込横部と側縁側へ斜めに延びる下流側斜め部とを含む構成とし、差込横部の横のアンダーラップ側縁部に下段瓦の係合凸部を係合させるための係合差込部を形成し、上流側斜め部の尻側裾のアンダーラップ側縁に対する斜角度(図3(b)の角度γ)を15~40度にした。
この構成がないと、アンダーラップの尻側からの排水は、途中部に切り込みのない内側水返しを外側へ越えると、オーバーフローのリスクが高い。また、従来の上流側斜め部の斜角度がきついことによっても、当該オーバーフローのリスクが高い。
この構成があると、アンダーラップの尻側からの排水は、内側水返しを外側へ越えても、内側水返しの切り込みから内側へ戻りやすいため、オーバーフローのリスクが低い。また、上流側斜め部の緩やかな斜角度によって、排水がスムーズになり、また、働き長さの調整幅を拡張できる。斜角度は25~35度がより好ましい。
[6]跨ぎ部の下面に左右方向に延びる乱流発生溝を設けた。
この構成がないと、跨ぎ部と桟山との間の隙間を、風雨が浸入しやすい。
この構成があると、跨ぎ部と桟山との間の隙間を、風雨が通過するときに、跨ぎ部の下面の乱流発生溝が風雨に乱流を発生させるため、風雨の浸入の勢いを抑えることができる。
乱流発生溝は、跨ぎ部の中央上辺のみに設けてもよいし、両横片のみに設けてもよいし、中央上辺と両横片に設けてもよい。さらに、跨ぎ部のみならず、頭見付けの下面に設けてもよい。
乱流発生溝の深さは、0.5~3mmが好ましく、1.5~3mmがより好ましい。0.5mm未満だと溝による前記乱流の発生が弱くなり、3mmを超えると成形が難しくなる(成形時に粘土が型に張り付きやすい)。
乱流発生溝の幅は、1~4mmが好ましく、3~4mmがより好ましい。1mm未満だと乱流発生が弱くなり、4mmを超えると跨ぎ部の強度が低下する。
乱流発生溝の断面形状としては、U字、V字、半円、半楕円等を例示できる。
[7]アンダーラップの側縁部に下段瓦の係合凸部を係合させるための係合差込部を形成し、係合凸部に下向きの湾曲凹面を設け、係合差込部に湾曲凹面に下から対峙する係合凸条を設けた。
この構成がないと、係合凸部の下向きの湾曲凹面の先端が、係合差込部の平らな上面に線当たりして、はずみで係合凸部が破損する懸念がある。また、瓦が斜めに浮き上がった際に、係合凸部と係合差込部との係合が外れる懸念がある。
この構成があると、係合凸部の下向きの湾曲凹面の(先端ではなく)途中部が、係合差込部の係合凸条に線当たり又は面当たりするため、係合凸部が破損しにくい。また、瓦が斜めに浮き上がった際にも、係合凸部と係合突条との係合が外れにくい。
係合凸条の幅は、2~4mmが好ましく、3~4mmがより好ましい。2mm未満だと成形がしにくく、4mmを超えると瓦の横ずれ時に係合凸部が湾曲凸条に係合しにくい。
係合凸条の高さは、0.3~1.5mmが好ましく、0.5~1.2mmがより好ましい。0.3mm未満だと係合凸部の先端当たりを解消しにくく、1.5mmを超えると成形しにくい。
係合凸条の断面形状としては、三角形、台形、半円、半楕円等を例示できるが、係合凸部の湾曲凹面と面接触する半円、半楕円等の曲面形状が好ましい。
係合差込部における湾曲凸条の位置(範囲)は、係合差込部の側縁から0~5mmが好ましく、1.5~4.5mmがより好ましい。5mmを超えると瓦の横ずれ時に係合凸部が湾曲凸条に係合しにくい。
本発明の平板瓦によれば、吹き上がる風雨が桟山の上面と上段瓦の跨ぎ部との間の隙間から浸入しても、漏水しにくく、もって緩勾配に対応できる優れた効果を奏する。
図1は実施例のUタイプの平板瓦の表面側の斜視図である。 図2は同平板瓦の裏面側の斜視図である。 図3は同平板瓦の(a)は背面図、(b)は平面図、(c)は正面図である。 図4は同平板瓦の(a)は右側面図、(b)は左側面図、(c)は底面図である。 図5は同平板瓦の(a)は葺設時を示す斜視図、(b)は(a)のB-B断面図である。 図6(a)~(c)は働き長さを変えた図5(a)のA-A断面図、(d)~(e)は(a)の拡大図である。 図7(a)は第1~第4水返しによる風雨の流れのコントロールとせき止め作用を示す斜視図、(b)は第1~第4水返しの変更例の拡大図、(c)は横水返しによる風雨のせき止め作用を示す斜視図である。 図8は横水返しの変更例の(a)~(d)は断面図、(e)~(f)は斜視図である。 図9(a)~(b)は斜め水返しによる風雨のせき止めと返しの作用を示す斜視図、(c)は(b)のC-C断面図である。 図10は差込横部と水返し延長部と返し突条による風雨のせき止め作用を示す(a)は斜視図、(b)は平面図である。 図11は乱流発生溝を設けた変更例とその作用を示す(a)は斜視図、(b)は断面図である。 図12(a)~(d)は係合凸条の作用を示す断面図である。 図13は従来例のUタイプの平板瓦の(a)は表面側の斜視図、(b)は平面図である。
表面が実質的に平らな四角板状の瓦本体2と、瓦本体2の一側方の瓦本体2よりも高い段丘状オーバーラップ3と、瓦本体2の他側方の瓦本体2よりも低いアンダーラップ4と、瓦本体2とアンダーラップ4との間の瓦本体2よりも高いアンダーラップ近傍突堤5と、瓦本体2の尻側の瓦本体2よりも高い尻嵩上げ部6と、瓦本体2の頭端の下方へ突出した頭見付け7とを備え、頭見付け7の幅方向中央部に、葺設時に下段瓦の隣合う段丘状オーバーラップ3及びアンダーラップ近傍突堤5(桟山8)を跨ぐ跨ぎ部9が凹設された平板瓦1において、
桟山8の少なくとも段丘状オーバーラップ3の上面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部9よりも尻側となる箇所に、頭側から尻側に向けて順に、左右方向に延びる第1水返し31と左右方向に延びる第3水返し33とを距離をおいて設け、瓦本体2の裏面のうち標準働き長さ時に下段瓦の第1水返し31と第3水返し33との間となる箇所に、左右方向に延びる第2水返し32を設けた。
図1~図12(但し、図7(b)、図8、図11は変更例)に示す実施例の平板瓦1は、粘土を成形し焼成してなる粘土瓦であって、四角板状の瓦本体2と、瓦本体2の一側方の瓦本体2よりも高い段丘状オーバーラップ3と、瓦本体2の他側方の瓦本体2よりも低いアンダーラップ4と、瓦本体2とアンダーラップ4との間の瓦本体2よりも高いアンダーラップ近傍突堤5と、瓦本体2の尻側の瓦本体2よりも高い尻嵩上げ部6と、瓦本体2の頭端の下方へ突出した頭見付け7とを備え、頭見付け7の幅方向中央部に、葺設時(千鳥葺き)に下段瓦の隣合う段丘状オーバーラップ3及びアンダーラップ近傍突堤5(以下まとめて「桟山8」ということがある。)を跨ぐ跨ぎ部9が凹設された、いわゆるUタイプの平板瓦1である。
葺設時に、段丘状オーバーラップ3はアンダーラップ4の上方に重なり、前記桟山8ができ、瓦本体2の表面には働き長さ調整のうえ上段瓦の頭見付け7(跨ぎ部9を除く部位)の下端が当接する。この当接により、アンダーラップ4の裏面は下段瓦の尻嵩上げ部6の上面に当接しないようになっている。跨ぎ部9の中央上辺と桟山8の上面との間の隙間(跨ぎ中央隙間)は約3mmである。跨ぎ部9の両横辺と桟山8の両横面との間の隙間(跨ぎ横隙間)も約3mmである。
瓦本体2の表面は実質的に平らであり、瓦本体2の裏面も(生産工程で瓦の捩れを防止するためのリブ10を除き)実質的に平らである。
段丘状オーバーラップ3の上面は(装飾溝11を除き)実質的に平らであるが、葺設時に上段瓦の跨ぎ部9よりも頭側となる部位が相対的に高く、上段瓦の跨ぎ部9よりも尻側となる部位が相対的に低くなっている。段丘状オーバーラップ3の内側の横面は傾斜面である。段丘状オーバーラップ3の裏面の側縁付近には側縁水返し12が設けられている。
アンダーラップ近傍突堤5の上面は実質的に平らで幅狭(7mm)であり、葺設時に上段瓦の跨ぎ部9よりも頭側となる部位が相対的に高く、上段瓦の跨ぎ部9よりも尻側となる部位が相対的に低くなっている。アンダーラップ近傍突堤5の内側の横面は傾斜面である。
アンダーラップ4の上面には、その側縁から瓦本体2側に向かう順に、流れ方向に延びる突条である外側水返し14と、流れ方向に延びる外側水路15と、流れ方向に延びる突条である内側水返し16と、流れ方向に延びる内側水路17とが設けられている。
外側水返し14の頭側寄り部位を、屈曲させ、瓦本体2側へ傾斜する上流側斜め部18と流れ方向に延びる差込横部19と側縁側へ傾斜する下流側斜め部20とを含む構成としている。差込横部19の横のアンダーラップ4側縁部に、下段瓦の係合凸部25を係合させるための係合差込部21が形成され、この係合により防災機能が果たされる。
また、係合差込部21の流れ方向の長さが係合凸部25の流れ方向の長さよりも長いため、係合差込部21と係合凸部25との係合位置をずらしながら、図6(a)~(c)に示すように、働き長さを加減調整して葺設することができる。
尻嵩上げ部6の頭側の起立面は水返し面22である。尻嵩上げ部6の裏面には、桟木に引っ掛けるための尻剣23が設けられている。尻嵩上げ部6の上面には、瓦を積み重ねる際に上位の瓦の尻剣23を係入させるための尻剣係入凹部24、後述する防災機能用の係合凸部25、野地面又は桟木へ釘打ちするための釘穴26等が設けられている。
段丘状オーバーラップ3と尻嵩上げ部6は連結され、アンダーラップ近傍突堤5と尻嵩上げ部6は連結され、それらの上面は近似した高さである。
以上は、本実施例のうち公知例と同様の構成を説明したものであり、以下に、漏水防止(緩勾配対応)のために設けた本実施例独自の構成を説明する。
[1]桟山8の少なくとも段丘状オーバーラップ3の上面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部9よりも尻側となる箇所に、頭側から尻側に向けて順に、左右方向に延びる第1水返し31と左右方向に延びる第3水返し33とを距離をおいて設け、瓦本体2の裏面のうち標準働き長さ時に下段瓦の第1水返し31と第3水返し33との間となる箇所に、左右方向に延びる第2水返し32を設けた。さらに、桟山8の少なくとも段丘状オーバーラップ3の上面の第3水返し33よりも尻側に、間隔をおいて左右方向に延びる第4水返し34を設けた。
この構成により、図6(a)(d)(e)(標準働き長さ280mm(JISA5208に定める形状「F形40」))に示すように、緩勾配の場合でも、跨ぎ中央隙間から浸入した風雨は、まず第1水返し31でせき止められるとともに流れが斜め上向きに転向され、次に第2水返し32でせき止められるとともに流れが斜め下向きに転向され、次に第3水返し33でせき止められる。このように、第1~第3水返し31~33により、風雨が上下に蛇行するようにコントロールされてせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。また、万が一、第3水返し33を乗り越える雨水があっても、第4水返し34によってせき止められる。
図6(b)~(c)に示すように、働き長さは285~260mmの調整範囲で調整して葺設することができる。この調整範囲は、後述する[5]の構成によって、従来よりも拡張されたものである。図6(c)のように働き長さが短い葺き縮め時には、第2水返し32が下段瓦の第1水返し31よりも頭側となり、風雨の流れが上記蛇行ではなくなるが、上下段瓦の重なりが長くなることにより防水機能が保たれる。
第1水返し31は、段丘状オーバーラップ3の上面に左右長さ47mm・裾における幅8mmのものが設けられ、アンダーラップ近傍突堤5の上面に左右長さ7mm・裾における幅8mmのものが設けられており、合計長さは54mm(跨ぎ部9の中央上辺の左右幅(57mm)の95%)である。第1水返し31には、それに連続して横水返し38が形成されている。横水返し38については次の[2]で詳述する。
第2水返し32は、瓦本体2の裏面にやや斜めに設けられており、それに連続して後述する返し突条45が形成されている。第2水返し32の左右長さは跨ぎ部9の中央上辺の左右幅(57mm)の100%以上であり、裾における幅は6mmである。
第3水返し33は、段丘状オーバーラップ3の上面に左右長さ52mm・裾における幅8mmのものが設けられ、アンダーラップ近傍突堤5の上面に尻嵩上げ部6と一体となったもの(前後幅27mm)が設けられている。
第4水返し34は、段丘状オーバーラップ3の上面に左右長さ38mm・裾における幅9mmのものが設けられている。
段丘状オーバーラップ3の第1水返し31と第3水返し33とは、段丘状オーバーラップ3の側縁の連結突条35で連結している。このため、図7(a)に示すように、第1水返し31を乗り越えた雨水は、連結突条35でせき止められ、瓦本体2の方へ排水される。
段丘状オーバーラップ3の第3水返し33と第4水返し34との間の排水溝36は、段丘状オーバーラップ3の側縁に向けて下り傾斜し、該側縁で外側へ開放している。このため、図7(a)に示すように、第3水返し33を乗り越えた雨水は、排水溝36を外側へ流れ、隣瓦との隙間から隣瓦のアンダーラップ4に排水される。
桟山8の上面と上段瓦の瓦本体2の裏面との間の空間の高さ(段丘上空間高さ)Mは5.5mmであり、第1水返し31の高さm1は3mm(Mの55%)、第2水返し32の高さm2は1mm(Mの18%)であるから、m1+m2はMの73%である。また、第3水返し33(段丘状オーバーラップ3)の高さm3は5mm(Mの91%)であるから、m2<m1<m3の関係にある。また、第4水返し34の高さm4は3mm(Mの55%)である。
図6(e)に示すように、標準葺設時に、頭見付け7の裏面Kから第1水返し31の頭側裾Fまでの距離は8mmである。
第1水返し31の尻側裾Iから第3水返し33の頭側裾Jまでの距離は25mmである。
第2水返し32はやや斜めに設けられているため、長さ方向で前後位置が変動するが、標準葺設時に、第2水返し32の頭側裾Dと尻側裾Eは、長さ方向のどこでも第1水返し31の頭側裾Fから第3水返し33の頭側裾Jまでの範囲L1にあり、長さ方向の中間位置ではDが第1水返し31の頭側裾Fと尻側裾Iとの尻側裾寄りの2/3点Hの位置にある(図6(e))。
なお、第1~第4水返し31~34の高さや位置関係は適宜変更できる。図7(b)は、高さをm1<m2<m3の関係とした例である。
[2]桟山8の各横面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部9よりも尻側となる箇所に、上下方向に延びる横水返し38を設けた。
この構成により、図7(c)に示すように、緩勾配の場合でも、跨ぎ横隙間から浸入した風雨は、横水返し38でせき止められ、たとえ一部乗り越えても尻嵩上げ部6の水返し面22でせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。
横水返し38は、瓦本体2の表面から少なくとも桟山8の各横面の上端まで延びている。また、横水返し38は、桟山8の各横面の下端から横へ30mm離れた瓦本体2の表面まで横方向に延びている。
このように横方向へも延びた横水返し38の正面視形状は、図5、図7等に示すように、横方向に延びた横端の高さ(実質的にゼロとなる)が桟山8の各横面に接した基端の高さよりも低い台形である。段丘状オーバーラップ3側の横水返し38の正面視形状と、アンダーラップ近傍突堤5側の横水返し38の正面視形状は、桟山8を挟んで実質的に左右対称である。
図5(b)に示すように、瓦本体2の表面と上段瓦の瓦本体2の裏面との間の空間の高さNは16.5mmであり、横水返し38の高さn(最も高いところ)は15mm(Nの91%)である。
本実施例では、桟山8の各横面の横水返し38の上端から連続して前記第1水返し31が設けられている。これにより、段丘状オーバーラップ3側の横水返し38と、第1水返し31と、アンダーラップ近傍突堤5側の横水返し38とが、葺設時に横に並んで一体的な防水壁を構成する。そして、第1水返し31にせき止められた風雨が横へ迂回して尻側へ回り込もうとしても、横水返し38によりせき止めることができる。
標準葺設時に、頭見付け7の裏面から横水返し38の頭側裾までの距離は8mmである(前記第1水返し31と同じ)。
[3]尻嵩上げ部6の水返し面22の瓦本体2の表面に対する立ち上がり角度(図9(c)の角度α)を70度とし、葺設後の上段瓦のアンダーラップ4の外側方に位置する尻嵩上げ部6の水返し面22から瓦本体2の表面にかけて斜め水返し40を設けた。
この構成により、図9に示すように、緩勾配の場合でも、アンダーラップ4頭端下隙間から浸入して真直ぐ尻側へ流れる風雨は、尻嵩上げ部6の水返し面22を上る途中でせき止められ、また、アンダーラップ4頭端下隙間から浸入して斜め外側方に逸れて尻側へ流れる風雨は、尻嵩上げ部6の水返し面22を斜めに上る途中で斜め水返し40でせき止められるので、尻からの漏水を防ぐことができる。また、斜め水返し40でせき止められた風雨は、斜め水返し40で頭側へ返されるので、尻嵩上げ部6とアンダーラップ近傍突堤5とのコーナー部に集まらず、スムーズに排水できる。
斜め水返し40の頭側裾のうち上段瓦のアンダーラップ4の側縁から最も近い箇所(上端部)の該側縁からの距離は25mmである。
斜め水返し40の頭側裾の左右方向に対する角度(図3(b)、図9(b)の角度β)は、平面視で140度である。
斜め水返し40の上面の幅は、下部で狭く上部で広く5~10mmである。
オーバーラップ側の頭見付け7の下部に切欠部43を形成し、アンダーラップ4の頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部41とし、さらに傾斜部41の先端に切欠部43に嵌り込む突片42を設け、突片42の下面を側端側ほど上がる斜状にすることが好ましい。突片42により、特許文献2,3のように、アンダーラップ4を流れる雨水をよりスムーズに瓦外へ排水することができる。
但し、突片42は他部よりも薄いため割れやすい。そこで、作業者が瓦の上を歩いたときに、突片42が下段瓦に強圧して割れないように、また万が一割れても発見しやすいように、突片42の下面を側端側ほど上がる斜状にして下段瓦から逃がすことが好ましい。すると、葺設後の瓦本体2と上段瓦の突片42との間には、側端側ほど大きくなる隙間(前記アンダーラップ4頭端下隙間の一態様)が生じ、前記の斜め外側方に逸れて尻側へ流れる風雨が多くなる。
[4]アンダーラップ4の上面の側縁部に外側水返し14を設け、外側水返し14の頭側寄り部位を屈曲させて瓦本体2側へ斜めに延びる上流側斜め部18と流れ方向に延びる差込横部19と側縁側へ斜めに延びる下流側斜め部20とを含む構成とし、差込横部19の横のアンダーラップ4側縁部に下段瓦の係合凸部25を係合させるための係合差込部21を形成し、差込横部19の高さを7mmとし、アンダーラップ4の頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部41とし、下流側斜め部20から続いて流れ方向に延びる水返し延長部44を傾斜部41に設け、同段隣瓦の瓦本体2の裏面に、外側水返し14延長部を乗り越えた風雨を頭側へ返すための返し突条45を設けた。
この構成により、図10に示すように、アンダーラップ4の尻側からの排水と、頭側からの風雨の吹き込みとが、外側水返し14の差込横部19あたりでぶつかり合っても、このぶつかり合った雨水は差込横部19を乗り越えない。
また、アンダーラップ4の頭端部を斜め下方へ傾斜する傾斜部41にすると、傾斜部41では流れが急になるが、頭側からの風雨の吹き込みは、傾斜部41に設けた水返し延長部44でせき止められ、たとえ水返し延長部44を乗り越えて斜め外方尻側へオーバーフローしたとしても、オーバーフローした吹き込みは、同段隣瓦の瓦本体2の裏面に設けた返し突条45により頭側へ返されるため、下地に漏水しない。
水返し延長部44の先端は、傾斜部41及び突片42を含むアンダーラップ4の頭端から7mmにある。
返し突条45の高さは2mmである。
返し突条45は前記第2突条と連続しており、第2突条も返し突条45の一部として機能する。第2突条も合わせた返し突条45の長さは135mmである。
[5]アンダーラップ4の上面の側縁部に外側水返し14を設けるとともに内側部に内側水返し16を設け、内側水返し16の途中部に切り込み47を入れ、外側水返し14の頭側寄り部位を屈曲させて瓦本体2側へ斜めに延びる上流側斜め部18と流れ方向に延びる差込横部19と側縁側へ斜めに延びる下流側斜め部20とを含む構成とし、差込横部19の横のアンダーラップ4側縁部に下段瓦の係合凸部25を係合させるための係合差込部21を形成し、上流側斜め部18の尻側裾のアンダーラップ4側縁に対する斜角度(図3(b)の角度γ)を23度にした。
この構成により、アンダーラップ4の尻側からの排水は、内側水返し16を外側へ越えても、内側水返し16の切り込み47から内側へ戻りやすいため、オーバーフローのリスクが低い。また、上流側斜め部18の緩やかな斜角度によって、排水がスムーズになり、また、働き長さの調整幅を拡張できる。
[6]跨ぎ部9の中央上辺の下面に左右方向に延びる乱流発生溝51を設けた。
この構成により、図11に示すように、跨ぎ部9と桟山8との間の隙間を、風雨が通過するときに、跨ぎ部9の下面の乱流発生溝51が風雨に乱流を発生させるため、風雨の浸入の勢いを抑えることができる。
乱流発生溝51の深さは1.5mmである。乱流発生溝51の幅は、3mmである。乱流発生溝51の断面形状はU字である。
[7]アンダーラップ4の側縁部に下段瓦の係合凸部25を係合させるための係合差込部21を形成し、係合凸部25に下向きの湾曲凹面53を設け、係合差込部21に湾曲凹面53に下から対峙する係合凸条54を設けた。
この構成により、図12に示すように、係合凸部25の下向きの湾曲凹面53の(先端ではなく)途中部が、係合差込部21の係合凸条54に線当たり又は面当たりするため、係合凸部25が破損しにくい。また、瓦が斜めに浮き上がった際にも、係合凸部25と係合突条との係合が外れにくい。
係合凸条54の幅は3mmである。係合凸条54の高さは1mmである。係合凸条54の断面形状は半円である。係合差込部21における湾曲凸条の位置(範囲)は、係合差込部21の側縁から1.5~4.5mmである。
以上のように構成された本実施例の平板瓦1は、防水性能試験(あいち産業科学技術総合センター 常滑窯業技術センター三河窯業試験場)で、1.5寸勾配(雨量4L/m・min)に合格した。
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
1 平板瓦
2 瓦本体
3 段丘状オーバーラップ
4 アンダーラップ
5 アンダーラップ近傍突堤
6 尻嵩上げ部
7 頭見付け
8 桟山
9 跨ぎ部
14 外側水返し
15 外側水路
16 内側水返し
17 内側水路
18 上流側斜め部
19 差込横部
20 下流側斜め部
21 係合差込部
22 水返し面
25 係合凸部
31 第1水返し
32 第2水返し
33 第3水返し
34 第4水返し
35 連結突条
36 排水溝
38 横水返し
40 斜め水返し
41 傾斜部
42 突片
43 切欠部
44 水返し延長部
45 返し突条
47 切り込み
51 乱流発生溝
53 湾曲凹面
54 係合凸条

Claims (6)

  1. 表面が実質的に平らな四角板状の瓦本体(1)と、瓦本体の一側方の瓦本体よりも高い段丘状オーバーラップ(3)と、瓦本体の他側方の瓦本体よりも低いアンダーラップ(4)と、瓦本体とアンダーラップとの間の瓦本体よりも高いアンダーラップ近傍突堤(5)と、瓦本体の尻側の瓦本体よりも高い尻嵩上げ部(6)と、瓦本体の頭端の下方へ突出した頭見付け(7)とを備え、頭見付けの幅方向中央部に、葺設時に下段瓦の隣合う段丘状オーバーラップ及びアンダーラップ近傍突堤(以下まとめて「桟山」という。)を跨ぐ跨ぎ部(9)が凹設された平板瓦(1)において、
    桟山(8)の少なくとも段丘状オーバーラップの上面のうち葺設時に上段瓦の跨ぎ部よりも尻側となる箇所に、頭側から尻側に向けて順に、左右方向に延びる第1水返し(31)と左右方向に延びる第3水返し(33)とを距離をおいて設け、瓦本体の裏面のうち標準働き長さ時に下段瓦の第1水返しと第3水返しとの間となる箇所に、左右方向に延びる第2水返し(32)を設けたことを特徴とする平板瓦。
  2. 第3水返しの高さ(m3)は、第1水返しの高さ(m1)以上である請求項1記載の平板瓦。
  3. 桟山の少なくとも段丘状オーバーラップの上面の第3水返しよりも尻側に距離をおいて左右方向に延びる第4水返し(34)を設けた請求項1又は2記載の平板瓦。
  4. 段丘状オーバーラップの第1水返しと第3水返しとは、段丘状オーバーラップの側縁の連結突条(35)で連結している請求項1、2又は3記載の平板瓦。
  5. 段丘状オーバーラップの第3水返しと第4水返しとの間の排水溝(36)は、段丘状オーバーラップの側縁に向けて下り傾斜し、該側縁で外側へ開放している請求項3又は4記載の平板瓦。
  6. 桟山の各横面に、瓦本体の表面から上下方向に延びて第1水返しと連続する横水返し(38)を設けた請求項1~5のいずれか一項に記載の平板瓦。
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