本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
<逆浸透膜を用いる水処理装置および水処理方法>
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
図1に示す水処理装置1は、アンモニアを含有する被処理水中のアンモニアを低減するアンモニア低減手段として、アンモニア低減装置10と、逆浸透膜処理手段として、逆浸透膜処理装置14とを備える。水処理装置1は、アンモニア低減水を貯留するためのアンモニア低減水槽12を備えてもよい。
水処理装置1において、アンモニア低減装置10の入口には、被処理水配管16が接続されている。アンモニア低減装置10の出口と、アンモニア低減水槽12の入口とは、アンモニア低減水配管18により接続されている。アンモニア低減水槽12の出口と、逆浸透膜処理装置14の入口とは、殺菌剤含有水配管20により接続されている。逆浸透膜処理装置14の透過水出口には、透過水配管22が接続され、濃縮水出口には、濃縮水配管24が接続されている。アンモニア低減水槽12には、殺菌剤添加配管26が接続されている。
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
水処理装置1において、アンモニア(アンモニウムイオン)を含有する被処理水は、被処理水配管16を通してアンモニア低減装置10に供給され、アンモニア低減装置10において、アンモニアが低減される(アンモニア低減工程)。
アンモニア低減装置10によりアンモニアが低減されたアンモニア低減水は、アンモニア低減水配管18を通して、必要に応じてアンモニア低減水槽12に送液され、貯留される。アンモニア低減水槽12において、アンモニア低減水中に臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤が添加され、殺菌剤を存在させる(殺菌剤添加工程)。殺菌剤は、アンモニア低減水配管18において添加されてもよいし、殺菌剤含有水配管20において添加されてもよい。
殺菌剤を存在させた殺菌剤含有水は、殺菌剤含有水配管20を通して、逆浸透膜処理装置14に供給され、逆浸透膜処理装置14において、逆浸透膜処理が行われる(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管22を通して排出され、濃縮水は濃縮水配管24を通して排出される。
本発明者らは検討を重ねた結果、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤の透過率が被処理水中のアンモニアの濃度に応じて上昇することを発見した。そこで、逆浸透膜処理の前処理として、被処理水中のアンモニア濃度を低減することによって、塩素系酸化剤または臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤の逆浸透膜の透過を抑制することができる。特に、アンモニア低減水中のアンモニア濃度が5mg/L以下では、アンモニア低減による殺菌剤透過率の低減効果が有効であった。
アンモニア低減装置10としては、被処理水中のアンモニア(アンモニウムイオン)の量を低減することができるものであればよく、特に制限はない。アンモニア低減装置10としては、例えば、アンモニアストリッピング処理を行うアンモニアストリッピング処理装置、酸化剤によるアンモニア分解処理を行うアンモニア分解処理装置、逆浸透膜による前処理等が挙げられる。これらのうち、スライムリスクの増加がほとんどないこと、酸化剤として後段に使用する殺菌剤と同じ薬品を使用することで使用する薬品の種類が増えないこと等の点から、アンモニアストリッピング処理を行うアンモニアストリッピング処理装置、酸化剤によるアンモニア分解処理を行うアンモニア分解処理装置が好ましい。
アンモニアストリッピング処理は、アンモニア含有水にアルカリ溶液を添加、加温後、充填物を充填した放散塔に通し、蒸気および空気に接触させることで、アンモニア含有水中のアンモニアをガス側に移動させる処理方法である。
アンモニアストリッピング処理装置は、例えば、蒸留塔の内部に多孔板や充填物等が設置されたものであり、アンモニア含有水が蒸留塔の上部から流入し、蒸気が下部から吹き込まれ、アンモニア含有水と蒸気とが接触されることにより、アンモニア含有水中の遊離アンモニアが蒸気側に追い出される。追い出されたアンモニアガスは、さらに分解処理されてもよい。このアンモニアガス分解処理としては、例えば、触媒を充填した触媒反応塔を通して無害な窒素に分解する方法、硫酸と反応させて硫酸アンモニウムにする方法等があり、アンモニア水として回収再利用することも可能である。
アンモニアストリッピング処理におけるpHは、10以上であることが好ましく、10.5以上であることがより好ましく、10.5~12の範囲がさらに好ましい。アンモニアストリッピング処理におけるpHが10未満であると、遊離アンモニア(NH3)の分率が低くなり、アンモニアの除去効率が低下する場合がある。アンモニアストリッピング処理におけるpHが12を超えると、アンモニアストリッピング処理での蒸留塔内部の多孔板や充填物の劣化の可能性があることや、アルカリ薬品のコストが高くなるといった問題が生じる場合がある。
アンモニアストリッピング処理は温度が高いほど効率的になるため、蒸気によって水温を40℃~100℃の範囲、好ましくは80℃~100℃の範囲に上昇させることが好ましい。
酸化剤によるアンモニア分解処理に用いられる酸化剤としては、塩素系酸化剤、臭素系酸化剤や、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物等が挙げられ、安定化次亜臭素酸組成物、安定化次亜塩素酸組成物が好ましい。塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、安定化次亜臭素酸組成物、安定化次亜塩素酸組成物としては、後述する塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、安定化次亜臭素酸組成物、安定化次亜塩素酸組成物と同様のものが挙げられる。アンモニア分解処理に用いられる酸化剤としては、アンモニア低減工程の後段においてアンモニア低減水中に存在させる殺菌剤と同じものであることが好ましい。アンモニア低減水中に存在させる殺菌剤と同じものを使用し、アンモニア分解に必要な量より多い量の酸化剤を用いれば、アンモニア分解処理で残存した酸化剤を後段の逆浸透膜処理装置における殺菌剤としても作用させることができる。
アンモニア分解処理において用いられる酸化剤の量は、被処理水中のアンモニア性窒素(NH4-N)のモル濃度に対する、有効塩素濃度換算の有効ハロゲンのモル濃度の比が、1.6以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。この比が大きくなればなるほど、アンモニアの低減効果が高くなる。被処理水中のアンモニア性窒素のモル濃度に対する、有効塩素濃度換算の有効ハロゲンのモル濃度の比が、2.0以上であることにより、アンモニア分解処理で残存した酸化剤を後段の逆浸透膜処理装置における殺菌剤としても作用させることができる。このモル濃度の比の上限は、例えば100以下である。
酸化剤によるアンモニア分解処理におけるpHは、例えば、3~10の範囲であり、4~9の範囲であることが好ましい。アンモニア分解処理におけるpHが3未満であると、アンモニア性窒素の分解効果が低下する場合があり、10を超えると、後段の逆浸透膜の阻止率向上のためpHを中性に調整する必要が生じる場合がある。
酸化剤によるアンモニア分解処理における温度は、例えば、0℃~100℃の範囲であり、0℃~40℃の範囲であることが好ましい。アンモニア分解処理における温度が0℃未満であると、処理水が凍結する場合があり、100℃を超えると、酸化剤もしくはアンモニアが揮発してアンモニア分解効率が低下する場合がある。
アンモニア低減工程における被処理水中のアンモニアの濃度は、例えば、0.1mg/L~500mg/Lの範囲であり、0.1mg/L~30mg/Lの範囲であることが好ましい。
本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減装置10によりアンモニアが低減されたアンモニア低減水中に、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤を存在させる。「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する殺菌剤であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する殺菌剤であってもよい。「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物を含有する殺菌剤であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物を含有する殺菌剤であってもよい。
すなわち、本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減水中に、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物、または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。これにより、アンモニア低減水中で、安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物が生成すると考えられる。
また、本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減水中に、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜臭素酸組成物、または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜塩素酸組成物を存在させる。
具体的には本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減水中に、「臭素」、「塩化臭素」、「次亜臭素酸」または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物」と、「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。または、アンモニア低減水中に、「次亜塩素酸」と、「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。
また、本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減水中に、例えば、「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、「塩化臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、「次亜臭素酸とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」である安定化次亜臭素酸組成物を存在させる。または、アンモニア低減水中に、「次亜塩素酸とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜塩素酸組成物を存在させる。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法において、安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物は次亜塩素酸等の塩素系酸化剤と同等以上のスライム抑制効果を発揮するにも関わらず、塩素系酸化剤と比較すると、逆浸透膜への劣化影響が低いため、逆浸透膜でのファウリングを抑制しながら、逆浸透膜の酸化劣化を抑制できる。このため、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法で用いられる安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物は、アンモニアを含有する被処理水を逆浸透膜で処理する水処理装置および方法で用いるスライム抑制剤としては好適である。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法のうち、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤」の場合、塩素系酸化剤が存在しないため、逆浸透膜への劣化影響がより低い。塩素系酸化剤を含む場合は、塩素酸の生成が懸念される。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法のうち、「臭素系酸化剤」が、臭素である場合、塩素系酸化剤が存在しないため、逆浸透膜への劣化影響が著しく低い。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、例えば、アンモニア低減水中に、「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを薬注ポンプ等により注入してもよい。「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とは別々にアンモニア低減水に添加してもよく、または、原液同士で混合させてからアンモニア低減水に添加してもよい。
また、例えば、アンモニア低減水中に、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を薬注ポンプ等により注入してもよい。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法において、「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比は、1以上であることが好ましく、1以上2以下の範囲であることがより好ましい。「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比が1未満であると、膜を劣化させる可能性があり、2を超えると、製造コストが増加する場合がある。
逆浸透膜に接触する全塩素濃度は有効塩素濃度換算で、0.01~100mg/Lであることが好ましい。0.01mg/L未満であると、十分なスライム抑制効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、逆浸透膜の劣化、配管等の腐食を引き起こす可能性がある。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法において、アンモニア低減水中のアンモニウムイオン濃度が、5mg/L以下であることが好ましく、1mg/L以下であることがより好ましい。アンモニア低減水中のアンモニウムイオン濃度が5mg/Lを超えると、殺菌剤が逆浸透膜を透過しやすくなる。
アンモニア低減水中の全塩素濃度に対するアンモニアの濃度の比(アンモニア濃度(mg/L)/殺菌剤濃度(全塩素濃度:mg/L))は、例えば、0.01~50の範囲である。アンモニア低減水中の全塩素濃度に対するアンモニアの濃度の比が0.01未満であると、殺菌剤が十分に逆浸透膜で阻止されるため、それ以上のアンモニア低減の効果がない場合があり、50を超えると、アンモニア濃度を低減しても殺菌剤透過率が十分に高く、透過率の低減効果が見られなくなる場合がある。
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭化物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。
これらのうち、臭素を用いた「臭素とスルファミン酸化合物(臭素とスルファミン酸化合物の混合物)」または「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」の製剤は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」の製剤および「塩化臭素とスルファミン酸」の製剤等に比べて、臭素酸の副生が少なく、逆浸透膜をより劣化させないため、逆浸透膜用殺菌剤としてはより好ましい。
すなわち、本発明の実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、アンモニア低減水中に、臭素と、スルファミン酸化合物とを存在させる(臭素とスルファミン酸化合物の混合物を存在させる)ことが好ましい。また、アンモニア低減水中に、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を存在させることが好ましい。
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
R2NSO3H (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。)
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6~10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法において、アンモニア低減水中に、さらにアルカリを存在させてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法は、逆浸透膜として昨今主流であるポリアミド系高分子膜に好適に適用することができる。ポリアミド系高分子膜は、酸化剤に対する耐性が比較的低く、遊離塩素等をポリアミド系高分子膜に連続的に接触させると、膜性能の著しい低下が起こる。しかしながら、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法ではポリアミド系高分子膜においても、このような著しい膜性能の低下はほとんど起こらない。
逆浸透膜には、中性膜、アニオン荷電膜、およびカチオン荷電膜がある。本明細書では、後述する実施例に記載したゼータ電位の測定方法により求めた、pH7.0におけるゼータ電位が-10mV以上5mV未満である膜を中性膜、5mV以上である膜をカチオン荷電膜、-10mV未満である膜をアニオン荷電膜と定義する。中性膜のゼータ電位は、-5mV以上であれば好ましく、-3.9mV以上であればより好ましく、-1.3mV以上であればさらに好ましい。カチオン荷電膜のゼータ電位の上限は特に制限はないが、例えば、20mV以下である。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理方法では、逆浸透的として好ましくは中性膜またはカチオン荷電膜を用いることにより、より好ましくは中性膜を用いることにより、アニオン荷電膜を用いた場合に比べて、塩素系酸化剤または臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤の逆浸透膜の透過を抑制することができる。
市販の中性膜としては、例えば、BW30XFR(ダウ・ケミカル社製)、LFC3(日東電工株式会社製)、TML20(東レ株式会社製)、OFR625(以上、オルガノ株式会社製)等が挙げられる。
市販のカチオン荷電膜としては、例えば、ES10C(日東電工株式会社製)等が挙げられる。
市販のアニオン荷電膜としては、例えば、ES15、ES20、CPA3、CPA5(以上、日東電工株式会社製)、RE-8040BLN(ウンジン社製)等が挙げられる。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法において、逆浸透膜を備える逆浸透膜処理装置へ給水されるアンモニア低減水のpHが5.5以上であることが好ましく、6.0以上であることがより好ましく、6.5以上であることがさらに好ましい。アンモニア低減水のpHが5.5未満であると、透過水量が低下する場合がある。また、アンモニア低減水のpHの上限値については、通常の逆浸透膜の適用上限pH(例えば、pH10)以下であれば特に制限はないが、カルシウム等の硬度成分のスケール析出を考慮すると、pHは例えば9.0以下で運転することが好ましい。本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法を用いる場合、アンモニア低減水のpHが5.5以上で運転することにより、逆浸透膜の劣化、処理水(透過水)の水質悪化を抑制し、十分なスライム抑制効果を発揮しつつ、十分な透過水量の確保も可能となる。
逆浸透膜処理装置において、アンモニア低減水のpH5.5以上でスケールが発生する場合には、スケール抑制のために分散剤を上記殺菌剤と併用してもよい。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸等が挙げられる。分散剤のアンモニア低減水への添加量は、例えば、RO濃縮水中の濃度として0.1~1,000mg/Lの範囲である。
また、分散剤を使用せずにスケールの発生を抑制するためには、例えば、RO濃縮水中のシリカ濃度を溶解度以下に、カルシウムスケールの指標であるランゲリア指数を0以下になるように、逆浸透膜処理装置の回収率等の運転条件を調整することが挙げられる。
逆浸透膜処理装置の用途としては、例えば、純水製造、海水淡水化、排水回収等が挙げられる。
本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法は、特に、排水回収への適用、例えば、電子産業排水の回収への適用が考えられる。電子産業排水には低分子有機物が含まれることが多く、排水回収するフローとして、例えば、図2に示すような、生物処理装置50と膜処理装置54とを備える生物処理システム56の後段に、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理方法を適用する、アンモニア低減装置10および逆浸透膜処理装置14を備える水処理装置1を有するフローが考えられる。
図2に示す水処理システム3は、生物処理手段として生物処理装置50と、生物処理水槽52と、膜処理手段として膜処理装置54と、膜処理水槽58と、上記水処理装置1とを備える。水処理システム3は、第2逆浸透膜処理手段として第2逆浸透膜処理装置60を備えてもよい。
水処理システム3において、原水として例えば電子産業排水が生物処理装置50に送液され、生物処理装置50において生物処理が行われる(生物処理工程)。生物処理された生物処理水は、必要に応じて生物処理水槽52に貯留された後、膜処理装置54に送液され、膜処理装置54において除濁膜により膜処理(除濁)が行われる(膜処理工程)。膜処理された膜処理水は、必要に応じて膜処理水槽58に貯留された後、被処理水として水処理装置1のアンモニア低減装置10に供給され、アンモニア低減装置10において、アンモニアが低減される(アンモニア低減工程)。
アンモニア低減装置10によりアンモニアが低減されたアンモニア低減水は、必要に応じてアンモニア低減水槽12に送液され、貯留される。アンモニア低減水槽12において、アンモニア低減水中に臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤が添加され、殺菌剤を存在させる(殺菌剤添加工程)。殺菌剤は、アンモニア低減水槽12の前後の配管において添加されてもよい。
殺菌剤を存在させた殺菌剤含有水は、逆浸透膜処理装置14に供給され、逆浸透膜処理装置14において、逆浸透膜処理が行われる(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管を通して排出され、濃縮水は濃縮水配管を通して排出される。逆浸透膜処理で得られた透過水は系外に排出される。濃縮水は系外に排出されてもよいし、必要に応じて第2逆浸透膜処理装置60に送液され、第2逆浸透膜処理装置60においてさらに逆浸透膜処理が行われてもよい(第2逆浸透膜処理工程)。第2逆浸透膜処理で得られた濃縮水は系外に排出される。透過水は系外に排出されてもよいし、必要に応じてアンモニア低減水槽12に送液され、循環されてもよい。
図2の水処理システム3では、生物処理装置50、生物処理水槽52、膜処理装置54を個別に備える生物処理システム56を例示したが、これらを1つのユニットにまとめた膜分離活性汚泥装置(MBR)を用いてもよい。
図2の水処理システム3では、原水に含まれる低分子有機物等を生物処理によって分解し、除濁膜等を備える膜処理装置54で生物代謝物等を阻止し、次にアンモニア低減装置10においてアンモニアが低減され、逆浸透膜処理装置14で各種イオンおよび残存する有機物等を阻止し、処理水(透過水)を得る。このような排水回収では、排水自体にアンモニアが含まれていたり、生物処理によってアンモニアが発生することが多い。例えば、有機物として水酸化テトラメチルアンモニウムを含む排水を生物処理するとアンモニアが発生しやすい。
このとき、生物処理により発生する生物代謝物や、生物処理後も残存する低分子の有機物により、後段の逆浸透膜のバイオファウリングが懸念される。殺菌力が高い次亜塩素酸を用いて対応することが考えられるが、次亜塩素酸は近年主流となっているポリアミド系の逆浸透膜を劣化させることがある。逆浸透膜の前段に活性炭塔や、還元剤の薬注点を設けることも考えられるが、いずれもイニシャルランニングコストの面が問題となる。そこで、水処理システム3では、アンモニア低減装置においてアンモニアを低減し、アンモニア低減水中に臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤を存在させることにより、殺菌能力が高いうえにポリアミド系の逆浸透膜を酸化劣化させにくく、逆浸透膜での阻止率も高く、後段の処理水(透過水)質に影響が少ないため有効である。
このように殺菌剤を添加した場合、殺菌剤が処理水側に透過すると、処理水質の悪化が問題となる。そのため、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水処理装置および方法では、逆浸透膜処理の前処理として、被処理水中のアンモニア濃度を低減することによって、透過水に殺菌剤が検出されることはほとんどなく、殺菌剤の逆浸透膜の透過が抑制される。
また、このとき、逆浸透膜処理装置14へ給水されるアンモニア低減水のpH、すなわち逆浸透膜処理装置14の運転pHを9以下とすることが好ましい。pH9を超えるアルカリ側では、逆浸透膜の脱塩率が低下する場合、および、殺菌剤の酸化力が低下する場合がある。逆浸透膜処理装置14へ給水されるアンモニア低減水のpHが9以下であれば、RO透過水の水質がより良好に保たれ、スライム発生がより抑制される。
水処理システム3のような排水回収のフローでは、水回収率を高めるために第2逆浸透膜処理装置60(ブラインRO)を設けることが一般的である。第2逆浸透膜処理装置60は、逆浸透膜処理装置14の濃縮水を原水とし、透過水をアンモニア低減水槽12に返送し、濃縮水を系外へ排出する。第2逆浸透膜処理装置60にもスライム発生リスクはあり、逆浸透膜処理装置14で殺菌剤の透過率が低いと、第2逆浸透膜処理装置60の原水に殺菌剤成分が残留することになる。第2逆浸透膜処理装置60の原水に殺菌剤成分が多く残存し、第2逆浸透膜処理装置60におけるスライム発生が抑制されることになる。
図2の水処理システム3では、逆浸透膜処理の前処理として生物処理を例として説明したが、逆浸透膜処理の前処理工程においては、生物処理、凝集処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過処理、膜分離処理、活性炭処理、オゾン処理、紫外線照射処理等の生物学的、物理的または化学的な前処理、およびこれらの前処理のうちの2つ以上の組み合わせが必要に応じて行われてもよい。
水処理装置1において、システム内に逆浸透膜の他に、ポンプ、安全フィルタ、流量測定装置、圧力測定装置、温度測定装置、酸化還元電位(ORP)測定装置、残留塩素測定装置、電気伝導度測定装置、pH測定装置、エネルギー回収装置等を必要に応じて備えてもよい。
水処理システム3において、必要に応じて、安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物以外のスケール抑制剤や、pH調整剤が、生物処理水槽52およびその前後の配管、膜処理水槽58およびその前後の配管、アンモニア低減水槽12およびその前後の配管のうちの少なくとも1つにおいて、生物処理水、膜処理水、アンモニア低減水のうちの少なくとも1つに添加されてもよい。
<殺菌剤>
本実施形態に係る殺菌剤は、「臭素系酸化剤または塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物を含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。
また、本実施形態に係る殺菌剤は、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物、または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物を含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。
臭素系酸化剤、臭素化合物、塩素系酸化剤およびスルファミン酸化合物については、上述した通りである。
塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物の市販品としては、例えば、栗田工業株式会社製の「クリバーターIK-110」が挙げられる。
本実施形態に係る殺菌剤としては、逆浸透膜をより劣化させないため、臭素と、スルファミン酸化合物とを含有するもの(臭素とスルファミン酸化合物の混合物を含有するもの)、例えば、臭素とスルファミン酸化合物とアルカリと水との混合物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有するもの、例えば、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物と、アルカリと、水との混合物が好ましい。
本実施形態に係る殺菌剤のうち、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する殺菌剤、特に臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する殺菌剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤(クロロスルファミン酸等)と比較すると、酸化力が高く、スライム抑制力、スライム剥離力が著しく高いにもかかわらず、同じく酸化力の高い次亜塩素酸のような著しい膜劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、膜劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、殺菌剤としては最適である。
本実施形態に係る殺菌剤は、次亜塩素酸とは異なり、逆浸透膜をほとんど透過しないため、処理水水質への影響がほとんどない。また、次亜塩素酸等と同様に現場で濃度を測定することができるため、より正確な濃度管理が可能である。
殺菌剤のpHは、例えば、13.0超であり、13.2超であることがより好ましい。殺菌剤のpHが13.0以下であると殺菌剤中の有効ハロゲンが不安定になる場合がある。
殺菌剤中の臭素酸濃度は、5mg/kg未満であることが好ましい。殺菌剤中の臭素酸濃度が5mg/kg以上であると、RO透過水の臭素酸イオンの濃度が高くなる場合がある。
<殺菌剤の製造方法>
本実施形態に係る殺菌剤は、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。
臭素と、スルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する殺菌剤の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程、または、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加する工程を含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる、または、不活性ガス雰囲気下で添加することにより、殺菌剤中の臭素酸イオン濃度が低くなり、RO透過水中の臭素酸イオン濃度が低くなる。
用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。
臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
臭素の添加率は、殺菌剤全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が殺菌剤全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、殺菌力が劣る場合がある。
臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)の調製]
窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)を調製した。安定化次亜臭素酸組成物のpHは14、全塩素濃度は7.5重量%であった。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0~15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO-02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。
なお、pHの測定は、以下の条件で行った。
電極タイプ:ガラス電極式
pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL-30型
電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った
測定温度:25℃
測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値
[安定化次亜塩素酸組成物(組成物2)の調製]
12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液:50重量%、スルファミン酸:12重量%、水酸化ナトリウム:8重量%、水:残分を混合して、安定化次亜塩素酸組成物(組成物2)を調製した。組成物2のpHは13.7、全塩素濃度は、6.2重量%であった。
[逆浸透膜のゼータ電位の測定]
逆浸透膜のゼータ電位は、大塚電子株式会社製、ゼータ電位・粒径測定システムELSZseriesを用いて、求めた。逆浸透膜のゼータ電位は、測定した電気浸透プロットより、下記森・岡本の式およびSmoluchowskiの式から計算した。
(森・岡本の式)
Uobs(z)=AU0(z/b)2+ΔU0(z/b)+(1-A)U0+Up
ここで、
z:セル中心位置からの距離
Uobs(z):セル中のz位置における見かけの移動度
A:1/[(2/3)-(0.420166/K)]
K=a/b: 2aと2bはセル断面の横と縦の長さ、a>b
Up:粒子の真の移動度
U0:セルの上面、下面における平均移動度
ΔU0:セルの上面、下面における移動度の差
(Smoluchowskiの式)
ζ=4πηU/ε
ここで、
U:電気移動度
ε:溶媒の誘電率
η:溶媒の粘度
測定液として10mM NaCl水溶液(pH約5.4)を使用した。この水溶液と試料のペアを各試料について2組用意し、一方はpHを酸性(pH2,3,4,5,6,7)に、他方はpHをアルカリ性(pH8,9)に調整して、各pHにおけるゼータ電位を測定した。溶媒の物性値は25℃における純水の値(屈折率:1.3328、粘度:0.8878、誘電率:78.3)を使用した。
<参考例1>
[試験条件および試験方法]
平膜試験にて殺菌剤の透過率を測定した。平膜セルは、日東電工社製のメンブレンマスターC70-Fフロー式平膜テストセルを用いた。平膜には、日東電工社製の逆浸透膜ES15、LFC3を用いた。日東電工社製ES15は、アニオン荷電膜(ゼータ電位:-35mV)、日東電工社製LFC3は、中性膜(ゼータ電位:-1.3mV)である。平膜は円形で、直径が75mmのものを用いた。フローを図3に示す。
平膜試験の試験水(被処理水)は、純水に500mg/Lの塩化ナトリウムを溶解させた水に殺菌剤(組成物1(参考例1-1)または組成物2(参考例1-2))を添加し、pHが7.0になるように塩酸または水酸化ナトリウムを用いて調整したものを使用した。殺菌剤の濃度は全塩素濃度で約3~10mg/Lとなるように添加した。水温は25±1℃となるようにチラーを用いて調節した。逆浸透膜の操作圧は0.75MPaとした。逆浸透膜への供給水は5L/minで通水した。
アンモニア濃度が0mg/L、1mg/L、5mg/L、10mg/Lとなるように塩化アンモニウムを添加し、3時間程度の通水の後、そのときの各殺菌剤の被処理水濃度(全塩素濃度)、透過水濃度(全塩素濃度)、透過率を測定した。測定結果を表1、殺菌剤透過率(%)とアンモニウムイオン濃度(mg/L)の相関を図4(組成物1(参考例1-1))、図5(組成物2(参考例1-2))に示す。
殺菌剤の透過率はアンモニアの濃度とともに上昇した。特にアンモニア濃度5mg/L以下では透過率の上昇の傾向が比較的大きく、アンモニア濃度を5mg/L以下にする前処理が望ましいと考えられる。
また、本システムにおける逆浸透膜の種類としては、アニオン荷電膜ES15よりも中性膜LFC3を用いた方が殺菌剤の透過率が低くなることがわかった。
<参考例2および実施例3、比較例2および3>
図6に示すパイロット装置を用いて試験を行った。原水(被処理水)には、純水に塩化ナトリウムを500mg/L溶かした水を、pH=7.0に調整したものを使用した。pH調整剤には、塩酸または水酸化ナトリウムを使用した。逆浸透膜には、日東電工社製LFC3またはES15を使用し、原水の処理水量は25m3/d、供給水温は25℃、供給圧力は0.75MPaとした。殺菌剤には、安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)を使用し、殺菌剤の濃度として全塩素濃度を測定した。
(参考例2、比較例2)
参考例2では、アンモニア低減手段としてアンモニアストリッピング装置を使用し、比較例2では、アンモニアストリッピング装置を使用しなかった。原水(被処理水)のアンモニア濃度が200mg/L、100mg/L、20mg/Lとなるように塩化アンモニウムを添加した。アンモニアストリッピングを行う液温は80℃とし、pHは10とした。このとき、被処理水および逆浸透膜入口水のアンモニア濃度、逆浸透膜入口水および処理水の殺菌剤濃度(全塩素)を測定し、各条件における殺菌剤透過率を算出した。結果を表2に示す。
参考例2では、比較例2に比べて、殺菌剤の透過率を低減することができた。また、被処理水のアンモニア濃度が100mg/L以下のとき、逆浸透膜入口におけるアンモニア濃度が5mg/L以下となり、比較例と比較して殺菌剤の透過率が0.069倍以下となり、特に効果的に透過率を低減することができた。
(実施例3、比較例3)
実施例3では、アンモニア低減手段として酸化剤を添加し、比較例3では酸化剤を添加しなかった。酸化剤としては、後段の逆浸透膜で添加される、安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)を添加した。原水(被処理水)のアンモニア濃度が20mg/L、15mg/L、3mg/Lとなるように塩化アンモニウムを添加した。添加した酸化剤の濃度は、全塩素で10mg/Lとし、pHは7.2とした。酸化分解の反応時間は30分とした。結果を表3に示す。
実施例3では、比較例3に比べて、殺菌剤の透過率を低減することができた。また、被処理水のアンモニア濃度が15mg/L以下のとき、逆浸透膜入口におけるアンモニア濃度が5mg/L以下となり、比較例と比較して殺菌剤の透過率が0.056倍以下となり、特に効果的に透過率を低減することができた。
<実施例4-1~4-5>
模擬排水として、活性炭で残留塩素を除去した相模原市水に、アンモニア性窒素(NH4-N)の濃度が7.8mg-N/L(0.56mmol/L)になるように塩化アンモニウムを溶解させた水溶液を調製した。調製した模擬排水のpHは7.2であった。調製した模擬排水に、安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)(実施例4-1~4-5)を、有効ハロゲンとして15mg/L asCl2(0.21mmol/L)(実施例4-1)、40mg/L asCl2(0.56mmol/L)(実施例4-1)、61mg/L asCl2(0.87mmol/L)(実施例4-3)、79mg/L asCl2(1.11mmol/L)(実施例4-4)、99mg/L asCl2(1.40mmol/L)(実施例4-5)になるように、添加した。試験液をデジタルスターラにより500rpmで撹拌しながら、アンモニア性窒素(NH4-N)濃度の経時変化(10分後、30分後)を測定した。30分後に、試験水の全塩素濃度を測定した。結果を表4に示す。
全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、全塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した値(mg/L asCl2)である。アンモニア性窒素(NH4-N)濃度(mg/L asN)は、株式会社共立理化学研究所のパックテスト(アンモニウム態窒素、型式WAK-NH4)により、JIS K 0102 42.2のインドフェノール青吸光光度法の発色原理を用いて測定した。
表4において、処理前の模擬排水中のアンモニア性窒素(NH4-N)のモル濃度(0.56mmol/L)に対する、有効塩素濃度換算の有効ハロゲンのモル濃度(安定化次亜臭素酸組成物の添加モル濃度)の比が大きくなればなるほど、アンモニア性窒素の低減効果も高くなることが明らかになった。特に、模擬排水中のアンモニア性窒素(NH4-N)のモル濃度に対する、有効塩素濃度換算の有効ハロゲンのモル濃度(安定化次亜臭素酸組成物の添加モル濃度)の比が1.6(実施例4-3)以上の場合に、アンモニア性窒素をほぼ完全に分解できることが明らかとなった。
以上の通り、実施例の方法により、アンモニアを含有する被処理水を逆浸透膜で処理する水処理方法において、塩素系酸化剤または臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤の逆浸透膜の透過を抑制することができた。