JP7049882B2 - アルミニウム圧延板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム圧延板及びその製造方法に関する。
高強度かつ厚さ5mm以上のアルミニウム圧延板は、アルミニウム合金の地金を鋳造後に熱間圧延処理をしたのち、冷間圧延工程や表面処理工程を経ずに出荷され、一次製品となる。このため、熱間圧延処理後のアルミニウム圧延板には特に良好な板面品質が求められる。しかし、高強度のアルミニウム合金材の熱間圧延は、純アルミニウム材と比較して高温かつ変形抵抗の大きい過酷な条件下でおこなわれるため、熱間圧延後の表面品質に優れた製品を生産することが難しい。
アルミニウム合金材の熱間圧延では、通常、70~120℃の圧延ロールで300~550℃の高温のアルミニウム合金材が圧延される。この際、アルミニウム合金材そのものの温度に加えて、圧延ロールとアルミニウム合金材表面との摺動による摩擦発熱によってアルミニウム合金材表面が瞬間的に非常な高温となる。このような高温環境では、熱間圧延油の動粘度が著しく低下し、また、熱による熱間圧延油の蒸発を伴うため、圧延ロールとアルミニウム合金材との間にある油膜が薄くなる。その結果、アルミニウム合金材表面と圧延ロールとが著しく凝着したことによる表面欠陥が発生する。
かかる問題は、アルミニウム合金材の温度を低下させることや圧延する際の圧下量を小さくすることで回避することができる。しかし、アルミニウム合金材の温度低下はアルミニウム合金材の変形を困難にし、圧延ロールの回転時に圧延ロールに過負荷がかかる。一方、圧下量を小さくすると、所定の厚さまで延ばすのに必要な時間が長くなり、生産性を損なう。したがって、このような熱間圧延条件の調整による回避策を採用できないことが多くある。
前記の理由から、熱間圧延条件の調整以外に、熱間圧延油の改良が検討されている。例えば、熱間圧延油に用いる鉱油の動粘度を高くし、圧延ロールとアルミニウム合金材との間に導入される熱間圧延油量を増加させる対策がとられている。また、ごく薄い油膜でも潤滑性を向上させ、かつ、アルミニウム合金材表面と圧延ロールとの凝着を抑制するために、熱間圧延油中に、天然油脂及び合成エステルのような油性剤や、脂肪酸、金属脂肪酸を添加することにより、アルミニウム合金材表面に油膜を形成させる対策がとられている。
具体的には、特許文献1には、高温かつ変形抵抗の大きいアルミニウム合金材の潤滑性を向上させるため、圧延油中に規定量の高級脂肪酸アルミニウムを溶解させ、さらに規定量のアルミニウム微粒子を分散することで油膜厚みと油膜強度を高く保持する技術が開発されている。
特開特開2007-009005号公報
しかしながら、特許文献1では、熱間圧延後の圧延板の表面の美観や洗浄性については検討されていない。すなわち、特許文献1のように油膜厚みや油膜強度を高くすると、洗浄により圧延後の板面から油膜を除去することが困難になる。一方、洗浄性を高めるために油膜厚みや油膜強度を低くすると圧延時の潤滑性が不十分になり、板表面の色調が例えば黄変して光沢性などの美観を損ねる。
アルミニウム圧延板のようなアルミニウム合金製品は、軽量であり、機械加工性が良く、耐食性表面処理が可能であり、材料表面からの内包ガスの放出が少ない、などの優れた特徴を有する。このため、アルミニウム圧延板は、半導体製造装置用の大型真空チャンバーなどに使用される。したがって、アルミニウム圧延板には、陽極酸化などの表面処理時の表面清浄度が重要視されることから、表面外観だけでなく洗浄性にも優れたものであることが望まれる。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、表面の美観に優れると共に油膜の洗浄性に優れた、高変形抵抗のアルミニウム合金からなるアルミニウム圧延板、及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一参考態様は、アルミニウム合金板と、
該アルミニウム合金板の表面に吸着する油膜及びアルミニウム粒子と、を有し、
前記油膜は、少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有し、
前記油膜の赤外全反射分光法によって測定される、前記油膜中の前記高級脂肪酸アルミニウムのカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν1と、前記油膜の炭素-水素単結合由来の伸縮振動のピーク強度ν2とが1.0≦ν1/ν2≦2.0の関係を満足し、
前記アルミニウム合金板の表面における前記アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量が0.5~5.0mg/m2であり、
前記アルミニウム合金板の室温下における0.2%耐力が90N/mm2以上である、アルミニウム圧延板にある。
本発明の他の態様は、アルミニウム合金板と、
該アルミニウム合金板の表面に吸着する油膜及びアルミニウム粒子と、を有し、
前記油膜は、少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有し、
前記油膜の赤外全反射分光法によって測定される、前記油膜中の前記高級脂肪酸アルミニウムのカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν 1 と、前記油膜の炭素-水素単結合由来の伸縮振動のピーク強度ν 2 とが1.0≦ν 1 /ν 2 ≦2.0の関係を満足し、
前記アルミニウム合金板の表面における前記アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量が0.5~5.0mg/m 2 であり、
前記アルミニウム合金板の室温下における0.2%耐力が90N/mm 2 以上である、アルミニウム圧延板を製造する方法であって、
水と、基油を主成分とすると共に少なくとも前記高級脂肪酸アルミニウムを含有し、該水中に分散された熱間圧延油と、アルミニウム粒子とを含有するエマルション状の熱間圧延用クーラントを用いてアルミニウム合金材の熱間圧延処理を行う圧延工程と、
前記熱間圧延処理時に発生したアルミニウム粉を含む熱間圧延用クーラントを回収する回収工程と、
前記回収工程において回収された熱間圧延用クーラントの一部を廃棄するとともに新たに作製した前記熱間圧延用クーラントを補給する濃度調整工程と、
前記濃度調整工程が完了した後の熱間圧延用クーラントを前記熱間圧延処理に用いられる圧延ロールに供給する供給工程と、を有し、
前記濃度調整工程において、前記熱間圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量W(単位:kg)と、前記濃度調整工程において補給される熱間圧延用クーラントの重量V(単位:kg)とが下記式3の関係を満足するよう前記熱間圧延用クーラントを補給することにより、前記熱間圧延油100質量部に対する前記アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量0.08~1.2質量%の範囲に調整するとともに前記熱間圧延油100質量部に対する前記高級脂肪酸アルミニウム量を0.5~2.0質量%の範囲に調整する、アルミニウム圧延板の製造方法にある。
0.08≦100×W/cV 0 ×(1-V/V 0 )≦1.2 ・・・(3)
(ただし、前記式3におけるV 0 は熱間圧延用クーラントの全重量(単位:kg)であり、cは熱間圧延用クーラントの油分濃度(単位:質量%)である。)
本発明のさらに他の参考態様は、水と、該水中に分散された熱間圧延油と、アルミニウム粒子とを含有するエマルション状の熱間圧延用クーラントを用いてアルミニウム合金材の熱間圧延処理を行うことにより前記アルミニウム圧延板を製造する方法において、
前記熱間圧延油は、基油を主成分とすると共に少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有し、
前記熱間圧延油100質量部に対する前記高級脂肪酸アルミニウム量が0.5~2.0質量%となるように前記熱間圧延処理を行う、アルミニウム圧延板の製造方法にある。
以下の説明においては、アルミニウム圧延板のことを「圧延板」という。前記圧延板は、アルミニウム合金板と、その表面に吸着する油膜及びアルミニウム粒子とを有する。さらに、油膜の赤外全反射分光法によって測定されるピーク強度ν2に対するピーク強度ν1の比ν1/ν2、及びアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量が0.5~5.0mg/m2である。このような表面構成を有しているため、アルミニウム合金板の0.2%耐力が高く、高変形抵抗でありながらも、圧延板は、表面の光沢性等の美観に優れる。さらに、油膜は洗浄により容易に除去可能であり、洗浄性に優れる。したがって、アルミニウム圧延板は、例えば表面清浄度が要求される用途に好適である。
前記アルミニウム合金板は、熱間圧延用クーラントを用いたアルミニウム合金材の熱間圧延処理を行うことにより製造される。熱間圧延用クーラントは、水と、該水中に分散された熱間圧延油と、アルミニウム粒子とを含有し、エマルション状である。熱間圧延処理は、熱間圧延油100質量部に対するアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量を前記範囲内に調整するか、あるいは、熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量を前記範囲内に調整して行われる。
つまり、本発明者は、操業により発生したアルミニウム粒子と高級脂肪酸アルミニウムとを規定量で熱間圧延油中に分散させることにより、熱間圧延時に、アルミニウム板材と圧延ロールとのトライボロジー界面に、優れた潤滑性を示す油膜を介在させることが可能となり、圧延後の板面を汚すことを防止して圧延板の美観を優れたものにしつつ、圧延板の油膜の洗浄性を優れたものにすることを見出した。
以上のように、本発明によれば、表面の美観に優れると共に油膜の洗浄性に優れた、高変形抵抗のアルミニウム合金からなるアルミニウム圧延板、及びその製造方法を提供することができる。
実施例における圧延板の断面図である。 実施例における熱間圧延油中のオレイン酸アルミニウムの含有量と、圧延後の圧延板の表面に吸着したアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量との関係図である。 実施例における熱間圧延油中のオレイン酸アルミニウムの含有量と、圧延後の圧延板の表面の油膜のピーク強度比ν1/ν2との関係図である。
次に、圧延板の実施形態について説明する。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。なお、以降の説明において、「アルミニウム」は、特に断らない限り、「アルミニウム合金」を示す。
圧延板は、アルミニウム地金を鋳造後に得られたアルミニウム鋳塊に対して熱間圧延処理を行うことにより得られる。熱間圧延処理には、熱間圧延用クーラントが用いられる。
[熱間圧延用クーラント]
熱間圧延用クーラントは、水と、熱間圧延油と、アルミニウム粒子とを含有する。
熱間圧延油は水中で分散して多数の油滴を形成している。つまり、熱間圧延用クーラントは、水中油滴型のエマルションである。熱間圧延用クーラントにおける熱間圧延油の含有量は1.0~15.0vol%であることが好ましい。また、熱間圧延用クーラントには、多数のアルミニウム粒子が分散されている。アルミニウム粒子は、エマルション状の熱間圧延用クーラントにおいて、熱間圧延油からなる油滴、及び水のいずれに分散されていてもよく、両方に分散されていてもよい。
<熱間圧延油>
熱間圧延油は、少なくとも、基油と高級脂肪酸アルミニウムとを含有する。高級脂肪酸アルミニウムは、例えば、高級脂肪酸とアルミニウム粒子との反応生成物である。したがって、熱間圧延油は、例えば基油と、高級脂肪酸と、高級脂肪酸アルミニウムと、アルミニウム粒子をと含有する。高級脂肪酸アルミニウムのことを、金属石鹸ということもできる。
(基油)
基油は、特に限定されるものではなく、各種鉱油を用いることができる。熱間圧延油は基油を主成分とする。基油としては、例えば鉱油、アロマ系鉱油、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、ノンアロマ鉱油等がある。基油としては、1種以上を用いることができる。好ましくは、精製鉱油がよい。精製鉱油は未精製の鉱油に比べて流動点が低く、低温環境において固化しにくい。そのため、例えば熱間圧延油を冬季の屋外タンク等の低温環境で貯蔵する場合に、タンク内での熱間圧延油の凍結を抑制し、熱間圧延油の取り扱い性をより向上させることができる。
より具体的には、精製鉱油としては、例えば、SUN40N、SUN100N、SUN500N、SUN2300N、SUNPAR(登録商標)110、SUNPAR115、SUNPAR150(以上、日本サン石油株式会社);SNH-95、SNH-220(以上、三共油化工業株式会社)、NCL-100、NCL-210(以上、谷口石油株式会社);E.P.X-1(富士興産株式会社)等を使用することができる。
(油性剤)
・高級脂肪酸
高級脂肪酸としては、飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよい。例えばカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、デミスリチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の直鎖飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸がある。これらの中でも好ましくは、オレイン酸、ラウリン酸がよい。高級脂肪酸としては、1種以上を用いることができる。
熱間圧延油においては、高級脂肪酸の少なくとも一部が、アルミニウム粒子等のアルミニウムと反応することにより、上述の高級脂肪酸アルミニウムが生成される。熱間圧延油は、高級脂肪酸アルミニウムの他に、アルミニウム合金と反応していない高級脂肪酸を含有することができる。
・合成エステル
熱間圧延油は、油性剤としてさらに合成エステルを含有することができる。合成エステルとしては、例えばネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル及びペンタエリスリトールエステル等がある。合成エステルとしては、1種以上を用いることができる。
ネオペンチルグリコールエステルとしては、具体的には、例えばネオペンチルグリコールカプリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールカプリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸ジエステルネオペンチルグリコールエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸ジエステルネオペンチルグリコールエステル、ネオペンチルグリコール2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸2モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、牛脂脂肪酸のエステルがよい。
また、トリメチロールプロパンエステルとしては、例えばトリメチロールプロパンカプリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸モノエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸ジエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸トリエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸モノエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸ジエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸4モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、牛脂脂肪酸のエステルがよい。
また、ペンタエリスリトールエステルとしては、例えばペンタエリスリトールカプリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸モノエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸ジエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸トリエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸モノエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸ジエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸トリエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸テトラエステル、トリメチロールプロパン2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸6モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、牛脂脂肪酸のエステルがよい。
・天然油脂
熱間圧延油は、油性剤としてさらに天然油脂を含有することができる。天然油脂としては、例えばパーム油、大豆油、なたね油、やし油、豚脂、牛脂等がある。天然油脂としては、1種以上を用いることができる。
・アミン誘導体
熱間圧延油は、油性剤としてさらにアミン誘導体を用いることができる。アミン誘導体としては、脂肪族アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、それらのアルキレンオキシド付加物等がある。アミン誘導体としては1種以上を用いることができる。
アミン誘導体の具体例としては、例えば次のようなものがある。即ち、脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジオクチルアミン、ブチルオクチルアミン、ジステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベへニルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリオクチルアミン等がある。
アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-イソプロピルエタノールアミン、N,N-ジイソプロピルエタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N-エチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、N-イソプロピルイソプロパノールアミン、N,N-ジイソプロピルイソプロパノールアミン、モノn-プロパノールアミン、ジn-プロパノールアミン、トリn-プロパノールアミン、N-メチルn-プロパノールアミン、N,N-ジメチルn-プロパノールアミン、N-エチルn-プロパノールアミン、N,N-ジエチルn-プロパノールアミン、N-イソプロピルn-プロパノールアミン、N,N-ジイソプロピルn-プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N-メチルブタノールアミン、N,N-ジメチルブタノールアミン、N-エチルブタノールアミン、N,N-ジエチルブタノールアミン、N-イソプロピルブタノールアミン、N,N-ジイソプロピルブタノールアミン等がある。
脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンジアミン、硬化牛脂プロピレンジアミン等がある。
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等がある。
脂環式アミンとしては、例えば、N-シクロヘキシルアミン、N,N-ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチル-シクロヘキシルアミン、N,N-ジエチル-シクロヘキシルアミン、N,N-ジ(3-メチル-シクロヘキシル)アミン、N,N-ジ(2-メトキシ-シクロヘキシル)アミン、N,N-ジ(4-ブロモ-シクロヘキシル)アミン等がある。
複素環アミンとしては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、2-ピペコリン、3-ピペコリン、4-ピペコリン、2,4-ルペチジン、2,6-ルペチジン、3,5-ルペチジン、ピペラジン、ホモピペラジン、N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、N-プロピルピペラジン、N-メチルホモピペラジン、N-アセチルピペラジン、1-(クロロフェニル)ピペラジン、N-アミノエチルピペリジン、N-アミノプロピルピペリジン、N-アミノエチルピペラジン、N-アミノプロピルピペラジン、N-アミノエチルモルホリン、N-アミノプロピルモルホリン、N-アミノプロピル-2-ピペコリン、N-アミノプロピル-4-ピペコリン、1,4-ビス(アミノプロピル)ピペラジン等がある。
(ノニオン性乳化剤)
熱間圧延油は、さらにノニオン性乳化剤を含有することができる。ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(その他の添加剤)
熱間圧延油中には、更に、熱間圧延油の酸化を抑制するための酸化防止剤、熱間圧延油の腐敗を抑制するための防腐剤、圧延時の潤滑性を向上するための極圧剤等が含まれていてもよい。酸化防止剤としては、例えば、アルキルフェノール類、芳香族アミン類、硫化油脂及び硫化オレフィン等の硫黄化合物等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、フェノール系化合物、ホルムアルデヒド供与体化合物、サルチルアニリド系化合物等を用いることができる。極圧剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート及びジラウリル水素化ホスファイト等のリン化合物、硫化油脂及び硫化オレフィン等の硫黄化合物等を用いることができる。
<アルミニウム粒子>
熱間圧延用クーラントは、アルミニウム粒子を含有する。アルミニウム粒子は、熱間圧延用クーラントや熱間圧延油に添加してもよいし、熱間圧延中にアルミニウム合金板材等から熱間圧延用クーラント内に発生する微粒子状のアルミニウム合金を用いることも可能である。アルミニウム粒子の平均粒子径は、例えば0.1μm~10μmである。このような微小な平均粒子径を有することから、アルミニウム粒子のことをアルミニウム微粒子ということができる。なお、平均粒子径は、レーザ回折/散乱法により得られた体積基準での粒度分布における累積中位径である。
[アルミニウム合金材の圧延]
圧延中の変形抵抗は一般に降伏応力の2/√3倍となることが知られている。アルミニウムは通常明確な降伏を示さないので、0.2%耐力で代替される。0.2%耐力は、相当歪や歪速度及び温度の関数で与えられる。室温下で0.2%耐力が高い材料は、熱間圧延温度においても高い値を示す。
室温での0.2%耐力が90MPa以上のアルミニウム合金材としては、例えばJIS A5182がある。一方、室温での0.2%耐力が90MPa未満のアルミニウム合金材としては、JIS A3104、A1050等がある。JIS A5182とJIS A3104、JIS A5182とJIS A1050とは、いずれも、材料温度400℃、圧下率50%で圧延するときの圧延荷重において300MPa以上の差を生じうる。
圧延荷重が高い場合、熱間圧延の圧延ロールとアルミニウム合金材の摺動部に導入される熱間圧延油量が減少し、潤滑条件が過酷となる。そのため、加工中の摩擦係数や先進率が高い値を取りやすくなる。このため、先進率で計算される圧延ロールとアルミニウム合金材との間の滑り速度、圧延中の動摩擦係数と圧延荷重との積から計算される圧延ロールとアルミニウム合金材との摺動部の摩擦発熱が大きくなる(式(1)参照)。
Figure 0007049882000001
実際に、理論式(式(2)参照)で計算した摩擦発熱によるアルミニウム合金材表面温度上昇を比較すると、0.2%耐力が90MPa以上であるJIS A5182は、0.2%耐力が90MPa未満のJIS A3104やA1050と比べて30℃以上高温となり、非常に過酷な圧延条件となる。
Figure 0007049882000002
熱間圧延時のアルミニウム合金材の表面温度上昇はアルミニウム合金材表面に吸着していた油性剤を脱着させ、潤滑性の低下、ひいてはアルミニウム合金材の表面欠陥発生等の原因となる。熱間圧延油中の高級脂肪酸アルミニウムおよびアルミニウム粒子は、圧延ロールとアルミニウム合金材との間に、熱間圧延中に十分に保持可能な程度の強固な油膜を形成することができる。したがって、アルミニウム合金材と圧延ロールとの直接接触を防ぎ、熱間圧延時の潤滑性が向上する。その結果、圧延後の圧延板表面の明度を十分に高く確保することができる。
0.2%耐力が90MPa以上のアルミニウム合金材表面での局所的な高温下において、圧延ロールとアルミニウム合金材との間に熱間圧延油の油膜を保つためには、圧延ロールとアルミニウム合金材との摺動部に導入される油分には、高温下で蒸発し難い性質を有することが必要となる。熱間圧延油100質量部に対して、アルミニウムイオンと、アルミニウム粒子との合計量が0.08~1.2質量%となるように熱間圧延処理を行うことにより、熱間圧延時にも油膜が破断しない強固な油膜を形成して潤滑性を向上させつつ、板面が残渣で汚れることを防止することができる。さらに、圧延後には、洗浄による除去性に優れた油膜が残る。その結果、表面の美観に優れ、油膜の洗浄性に優れた圧延板の製造が可能になる。また、熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量が0.5~2.0質量%となるように熱間圧延処理を行うことによっても同様の効果が得られる。なお、アルミニウムイオンと、アルミニウム粒子との合計量が0.08~1.2質量%となるような熱間圧延処理や、高級脂肪酸アルミニウム量が0.5~2.0質量%となるような熱間圧延処理は、例えば、各範囲の量でアルミニウムイオンとアルミニウム粒子、又は高級脂肪酸アルミニウムを含有する熱間圧延用クーラントを用いた熱間圧延処理により実現することができる。
アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量が0.08質量%未満の場合や高級脂肪酸アルミニウム量が0.5質量%未満の場合には、アルミニウム合金板材と圧延ロールとの境界へ十分に高級脂肪酸アルミニウムを供給することができなくなる。したがって、潤滑不足による板面の焼付きが発生し、十分な板面光沢を得ることができなくなる。一方、アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量が1.2質量%を超える場合や、高級脂肪酸アルミニウム量が2.0質量%を超える場合には、十分な潤滑性を得られるものの、アルミニウム粒子が板面に付着することにより、圧延板表面が黒っぽい外観となり、板面光沢を得ることができない。また、この場合には、圧延後の油膜の洗浄性が低下する。これは、圧延板に残存する粘稠な高級脂肪酸アルミニウムの付着量が過剰になり、容易に脱脂、洗浄されないためであると考えられる。
熱間圧延油100質量部に対するアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量や高級脂肪酸アルミニウム量は、例えば熱間圧延処理の操業によってアルミニウム粒子や高級脂肪酸アルミニウムが発生した熱間圧延用クーラントから一部を取り除き、新たに熱間圧延油や水などを追加することにより調整することができる。
[圧延板]
圧延板は、アルミニウム合金板と油膜とアルミニウム粒子とを有する。油膜及びアルミニウム粒子はアルミニウム合金板の表面に吸着している。吸着の形態は特に限定されないが、結合している状態であればよい。結合は、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、金属結合など、いずれの結合であってもよい。油膜中の高級脂肪酸アルミニウムは、イオン結合での吸着が好ましく、アルミニウム粒子は、ファンデルワールス結合での吸着が好ましい。
高級脂肪酸アルミニウムにおける高級脂肪酸は、上述の例示の通りである。高級脂肪酸アルミニウムは、オレイン酸アルミニウム及びラウリン酸アルミニウムの少なくとも一方であることが好ましく、オレイン酸アルミニウムがより好ましい。この場合には、光沢性及び洗浄性をより高いレベルで兼ね備えた圧延板の実現が可能になる。
<アルミニウム合金板>
アルミニウム合金板は、室温での0.2%耐力が90MPa以上である。つまり、圧延板は、変形抵抗の大きな高強度合金からなるアルミニウム合金の熱間圧延により得られたものである。この場合においても、圧延板は、表面の美観に優れ、洗浄性に優れたものとなる。室温は例えば10~30℃である。
<油膜>
油膜は、少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有する。油膜は、さらに熱間圧延油に含有される鉱油、油性剤など成分を含有することができる。
油膜の赤外全反射分光法(つまり、FT-IR-ATR法)によって得られる吸収スペクトルにおいて、ピーク強度ν1とピーク強度ν2とが1.0≦ν1/ν2≦2.0の関係を満足する。ピーク強度ν1は、高級脂肪酸アルミニウムのカルボン酸アニオンに由来する逆対称伸縮振動のピークである。カルボン酸アニオンは高級脂肪酸アルミニウム中の高級脂肪酸アニオンを指す。ピーク強度ν2は、油膜中に含まれる有機成分の炭素-水素の単結合に由来する伸縮振動のピークである。なお、ピーク強度はピークトップ(つまり、極大値)における強度を示す。
油膜におけるカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν1は、油膜における炭素-水素単結合の伸縮振動のピーク強度ν2で除すことにより規格化される。カルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピークは、脂肪酸アルミニウムの脂肪酸とアルミニウムとの化学量論比により若干前後にシフトする可能性はあるが、波数1590cm-1付近に現れ、例えばピークを形成する波形の一部が1590cm-1の位置を含むような波数領域に現れる。炭素-水素単結合(C-H)の伸縮振動のピークは、3000~2800cm-1の波数領域に現れる。各波数領域に存在する該当するピークの極大値をν及びν2の値としてν1/ν2を算出する。
板面光沢及び洗浄性を十分満足するν1/ν2の規定範囲は、1.0≦ν1/ν2≦2.0である。ν1/ν2が1.0未満の場合、潤滑不足による板面の焼付きにより、十分な板面光沢を得ることができない。ν1/ν2が2.0を超える場合、十分な潤滑性を得られるものの、高級脂肪酸アルミニウムが過剰に板面に付着した状態となり、結局は板面光沢を得ることができない。また、例えば苛性液による洗浄後に、板面に圧延油成分(つまり油膜)が残り、洗浄性が不十分になる。その結果、洗浄後における圧延板の表面清浄性が劣る。圧延板の板面光沢をより高める観点や洗浄性をより高める観点から、1.2≦ν1/ν2≦1.8であることが好ましい。
<アルミニウム粒子及びアルミニウムイオン>
油膜中に含まれる高級脂肪酸アルミニウムのアルミニウムイオンと、アルミニウム粒子との合計量は0.5~5.0mg/m2である。この合計量が0.5mg/m2未満の場合、圧延時に潤滑不足により板面の焼付きが発生することとなり、十分な板面光沢を得ることができない。一方、5.0mg/m2を超える場合、十分な潤滑性を得られるものの、アルミニウム粒子が板面に付着することにより、圧延板表面が黒っぽい外観となり、板面光沢を得ることができない。また、この場合には圧延後の油膜の洗浄性が低下する。これは油膜が強固になりすぎるためであると考えられる。板面光沢性をより向上させるという観点や、洗浄性をより向上させるという観点から、アルミニウムイオンと、アルミニウム粒子との合計量は0.6~4.5mg/m2であることが好ましい。
<アルミニウム粒子及びアルミニウムイオン濃度の調整方法>
アルミニウム材の熱間圧延処理においては、一般に、熱間圧延油はこの熱間圧延油を水に分散させた熱間圧延用クーラントの形態で圧延ロールにスプレーされる。この熱間圧延用クーラントは熱間圧延時に発生したアルミニウム粉を含んだ状態でタンクに回収され、再び圧延ロールへ供給される。このような圧延、回収、供給の工程を経ることにより、熱間圧延油中にはアルミニウム粒子及びアルミニウムイオンが蓄積される。熱間圧延油中のアルミニウム粒子及びアルミニウムイオン濃度は、蓄積したアルミニウム粒子及びアルミニウムイオンと共に熱間圧延用クーラントの一部を廃棄し、新たに作製した熱間圧延用クーラントを廃棄した熱間圧延用クーラントと同体積量で補給することにより調整することができる。このとき、熱間圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量W(単位:kg)と、補給する熱間圧延用クーラントの重量V(単位:kg)とが、式3の関係を満足するように調整することによって、熱間圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計濃度を調整することができる。式3において、V0は熱間圧延用クーラントの全重量(単位:kg)、cは熱間圧延用クーラントの油分濃度(単位:質量%)である。
0.08≦100×W/cV0×(1-V/V0)≦1.2 ・・・(3)
<熱間圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量と、高級脂肪酸アルミニウム量との関係>
高級脂肪酸を含有する熱間圧延油中には、前記のようにアルミニウム粒子またはアルミニウムイオンが存在する。熱間圧延油は、熱間圧延処理において熱間圧延用クーラントとして用いられる際に、通常、例えば50℃以上の温度で10日間使用されることが想定される。この使用過程において圧延油中の高級脂肪酸とアルミニウム粒子又はアルミニウムイオンとが反応し、その反応生成物である高級脂肪酸アルミニウムが平衡濃度に達する。例えば、1日あたりに廃棄し、補給する熱間圧延用クーラントの割合を、熱間圧延用クーラント全量に対してそれぞれ10質量%以下とすることできる。これにより、熱間圧延処理中における熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量を0.5~2.0質量%の範囲に容易に調整することができる。熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量を0.5~2.0質量%ときには、化学平衡の観点から、熱間圧延油100質量部に対するアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量は0.08~1.2質量%となる。
<油膜と圧延油との関係>
前記のように、熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量が0.5~2.0質量%となるように熱間圧延処理を行うことにより、後述の実施例において示すように、圧延後の圧延板の油膜中に含まれるアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量を0.5~5.0mg/m2の範囲に調整することができる。
一方、熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量が0.5~2.0質量%となるように熱間圧延処理を行うことにより、赤外全反射分光法によって測定される油膜中の高級脂肪酸アルミニウムのカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν1と、油膜の炭素-水素単結合由来の伸縮振動のピーク強度ν2とが1.0≦ν1/ν2≦2.0の関係を満足することができる。具体的には実施例において後述する。
(実施例1)
圧延板の実施例について説明する。なお、本発明に係る圧延板及びその製造方法は、以下の実施例の形態に限定されるものではなく、その要旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
本例では、表1に示す試料1~16の16種類の圧延板を製造する。試料7~10が実施例であり、試料1~6及び試料11~16は比較例である。
各試料の製造に用いた熱間圧延油の組成は次の通りである。熱間圧延油は、鉱油を71質量部、高級脂肪酸を5質量部、天然油脂を20質量部、アルカノールアミンを1質量部、ノニオン性界面活性剤を質量部含有する。鉱油としては、SUN100Nを30質量部、SUN500Nを41質量部用いた。高級脂肪酸としては、オレイン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数18)を用いた。天然油脂としては、精製パーム油を用いた。アルカノールアミンとしては、トリエタノールアミンを用いた。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル(HLB値:9)を用いた。
次いで、イオン交換樹脂を用いて水道水に脱イオン処理を施し、25℃における導電率が10μS/cmである脱イオン水を作製した。このようにして得られた脱イオン水と、熱間圧延油とを、熱間圧延油の濃度が6質量%となるように混合した。このようにして熱間圧延用クーラントを作製した。そして、この熱間圧延用クーラントを用いてJIS A5083合金からなる板材の圧延を行うことにより、熱間圧延用クーラント中にアルミニウム粒子を発生させた。
次に、アルミニウム粒子を含有させた熱間圧延用クーラントにオレイン酸アルミニウムを発生させ、オレイン酸アルミニウムを含有する熱間圧延用クーラントを得るために、クーラントを60℃雰囲気下で10日間撹拌させながら保管した。一方で、オレイン酸アルミニウムを含まない熱間圧延用クーラントを作製するために、前述のアルミニウム粒子を含有させた熱間圧延用クーラントを10℃雰囲気下で1日間撹拌させながら保持した。
次に、アルミニウム粒子やオレイン酸アルミニウムの含有量が異なる複数の熱間圧延用クーラントを用いて熱間圧延処理を行うことにより、16種類の圧延板(つまり、試料1~試料16)を製造した。なお、各熱間圧延用クーラントは、アルミニウム粒子及びオレイン酸アルミニウムを十分に含むクーラントと、これらを含まないクーラントとを配合することにより調整した。
熱間圧延には、JIS A5083合金からなる幅40mm、長さ500mm、厚さ5.0mmの板材を用いた。圧延条件は次の通りである。圧下率:50%、材料温度:400℃、ロール温度:100℃、圧延速度:40m/min、板幅方向に測定したときのロールの算術平均粗さRa:0.3~0.4μm。このようにして、図1に例示されるように、アルミニウム合金板2と油膜3とアルミニウム粒子4とを有するアルミニウム圧延板1を得た。圧延板1において、油膜3とアルミニウム粒子4とは、アルミニウム合金板2の表面に吸着している。油膜3は少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有し、圧延油を構成する成分を含有する。試料1~16の圧延板について以下の評価を行った。その結果を後述の表1に示す。
(1)板表面に含有される高級脂肪酸アルミニウムの同定
各試料の圧延板を10×10cm2のサイズの正方形に切り出し、試験片を作製した。ステンレスバット内の剥離液(ネオリバーS-801、三彩化工株式会社製)中へ試験片を浸漬し、10分間超音波洗浄を行った。その後、試験片を剥離液から引き揚げ、3日間常温乾燥した。剥離液の残渣が付着した状態の試験片の表面(つまり板面)から剥離液の残渣をスパチュラで回収した。この残渣は柔らかくなった油膜からなる。次に、FT-IR(Horiba社製のFT-720)により、カルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν(具体的には1590cm-1付近のピーク強度ν)および炭素-水素単結合(C-H)の伸縮振動のピーク強度ν2(具体的には、3000~2800cm-1の波数領域のピーク強度ν)測定した。そして、ピーク強度比ν1/ν2を算出した。
(2)板表面におけるアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量
各試料の圧延板の表面における10×10cm2の領域を、ヘキサンに浸漬したベムコットンにて5回拭き取った。その後、ベムコットンを王水50ccに浸漬させ、王中に金属成分を溶解させた。その後、王水溶液中のアルミニウム量をICP(誘導結合プラズマ)発光分光測定法により測定した。面積当たりのアルミニウム微粒子の量は重量を拭き取り面積で除することで算出した。その結果をAl量として表1に示す。
(3)明度L*
明度L*は、市販の色差計、例えば、コニカミノルタ製CR-400を用いて測定することができる。JIS Z 8722に準拠し、圧延板に対して拡散光を入射し、圧延板面に対して垂直に反射した光を受光することで明度を測定することができる。明度L*の測定方法は上記方法に限定されるものでなく、他の明度測定方法を採ってもよい。明度差ΔL*が65以上の場合を光沢性が「○」、すなわち表面の美観が優れていると評価した。一方、明度差ΔL*が65未満の場合を光沢性が「×」、すなわち表面の美観が劣っていると評価した。なお、熱間圧延油を用いた熱間圧延により得られるアルミニウム圧延板においては、明度差Δ*Lはおおむね70以下となる。
(4)洗浄前後の炭素密度
(4-1)洗浄方法
60℃に加温したEC781A(日本ペイント製)1質量%水溶液に各試料の圧延板を10秒間浸漬した。次いで、圧延板に純水をかけ流して洗浄した。その後、デシケーター中で圧延板を常温乾燥した。
(4-2)洗浄前後における板面残油量
洗浄前および洗浄後のアルミニウム板から直径50mmの円板状試験片を切り出した。この円板状試験片の表面を蛍光X線装置(RIGAKU Rix3100)により分析し、炭素由来のピーク強度を測定した。また、定量済みの黒鉛粉末を清浄なアルミ板上に付着させた複数の対照試料を作製した。これらの対照試料についても蛍光X線装置による分析を行い炭素由来のピーク強度を測定した。その結果、単位面積あたりの炭素量(mg/m2)の検量線を作製した。この検量線と円板状試験片の蛍光X線分析結果との対比により、洗浄前および洗浄後の円板状試験片の表面の炭素量を算出した。洗浄後の炭素密度が0.40mg/m2以下の場合を洗浄性が「○」、すなわち油膜の洗浄性が優れていると評価した。一方、洗浄後の炭素密度が0.40mg/m2を超える場合を洗浄性が「×」、すなわち油膜の洗浄性が劣っていると評価した。
なお、圧延板については、光沢性と洗浄性とのいずれもが「○」となった場合を総合評価が「○」、つまり良品と評価した。一方、光沢性及び洗浄性の少なくとも一方が「×」となった場合を総合評価が「×」、つまり、不良品と評価した。
また、各試料の圧延板の製造に用いた圧延油のうち代表的な8種類の油について、熱間圧延油中に含まれるオレイン酸アルミニウムの含有量(つまり、濃度)と、これらの圧延油を用いて熱間圧延を行ったときの圧延板に吸着したアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量(つまり、Al量)との関係を調べた。なお、板表面に吸着したアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量の測定方法は前述の通りである。
(5)熱間圧延油中に含まれるオレイン酸アルミニウムの含有量
所定量のオレイン酸アルミニウムを鉱油に溶解させた既知濃度の供試油を複数作製し、各供試油のカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動ピークを測定することに検量線を作成した。熱間圧延油中に含まれるオレイン酸アルミニウム濃度は、前記検量線を用いて、赤外吸収スペクトルのカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度から算出した。
圧延油中に含まれるオレイン酸アルミニウムの含有量と、圧延板の表面におけるAl量との関係を図2に示す。なお、図示を省略するが、圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計含有量と、圧延板の表面におけるAl量との関係においても図2と同様の傾向が確認された。つまり、圧延油中の高級脂肪酸アルミニウムの含有量と、アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計含有量とには相関関係があり、圧延油中のアルミニウム粒子が多くなると高級脂肪酸アルミニウムも多くなる。圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計含有量の測定は、次のようにして行うことができる。
(6)圧延油中に含まれるアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量
熱間圧延油100ccに対して王水10ccを混合し、固体成分を溶解させて溶液を得る。この溶液中のアルミニウム量(つまり、アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量)をICP(誘導結合プラズマ)発光分光測定法により測定した。また、熱間圧延油中に直接に王水を混合するのではなく、ロータリーエバポレーターによって熱間圧延油中の水分を蒸発させてニート油を得た後、ニート油をメンブレンフィルター(0.1μm)でろ過することによって、固形分(つまり、アルミニウム粒子)を得ることも可能である。得られた固形分を塩酸で溶解することで、粒子状のAl量を定量することができるが、この量は前記の直接混合による方法と有意な違いがなく、熱間圧延油中の水相にイオンとして存在するアルミ量は少なく無視できた。
Figure 0007049882000003
表1より知られるように、1.0≦ν1/ν2≦2.0を満足し、表面におけるアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量が0.5~5.0mg/m2の範囲内にある試料7~10においては、0.2%耐力の高い高変形抵抗のアルミニウム合金材を圧延したにもかかわらず、圧延板の表面光沢性に優れ、さらに油膜の洗浄性にも優れていた。これに対し、試料1~6及び試料11~16は、光沢性及び洗浄性の少なくとも一方が不十分であった。これは、1.0≦ν1/ν2≦2.0を満足しないか、あるいは、アルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量が0.5~5.0mg/m2の範囲を外れるためである。
図2より知られるように、熱間圧延油100質量部に対するオレイン酸アルミニウム等の高級脂肪酸アルミニウムの含有量を0.5~2.0質量%の範囲に調整することにより、圧延後の圧延板の表面におけるAl量を、前述のように光沢性、洗浄性の優れた効果が確認された0.5~5.0mg/m2の範囲に調整することが可能になる。熱間圧延油100質量部に対するアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量を0.08~1.2質量%の範囲に調整することによっても、同様の結果が得られることを確認している。
また、図3には、オレイン酸アルミニウムの含有量と、圧延後の圧延板の表面の油膜のピーク強度比ν1/ν2との関係を示す。図3より知られるように、発明者らは、熱間圧延油中の高級脂肪酸アルミニウム量と油膜中のピーク強度比ν/νとの間に正の相関があることを見出した。そして、熱間圧延油100質量部に対する高級脂肪酸アルミニウム量の含有量を0.5~2.0質量%の範囲に調整することにより、圧延後の圧延板の表面に付着する油膜のピーク強度比ν/νを、前述のように光沢性、洗浄性の優れた効果が確認された1.0≦ν1/ν2≦2.0の範囲内にすることができる。なお、熱間圧延油100質量部に対するアルミニウムイオンとアルミニウム粒子との合計量が0.08~1.2質量%の場合も同様である。
熱間圧延油中の高級脂肪酸アルミニウムの量を上記範囲に調整することにより、油膜のピーク強度比を上記範囲に調整できる理由は次の通りであると考えられる。つまり、高級脂肪酸アルミニウムは、鉱油、高級脂肪酸、天然油脂、合成エステル及び乳化剤等の熱間圧延油中の他の成分と比べて蒸発し難い成分であるため、熱間圧延後の圧延板上に油膜として残存しやすい。したがって、熱間圧延油中の高級脂肪酸アルミニウムの濃度が0.5~2.0質量%であっても、濃縮されるため油膜中のピーク強度比ν/νが1以上2以下となる。
1 アルミニウム圧延板
2 アルミニウム合金板
3 油膜
4 アルミニウム粒子

Claims (1)

  1. アルミニウム合金板と、
    該アルミニウム合金板の表面に吸着する油膜及びアルミニウム粒子と、を有し、
    前記油膜は、少なくとも高級脂肪酸アルミニウムを含有し、
    前記油膜の赤外全反射分光法によって測定される、前記油膜中の前記高級脂肪酸アルミニウムのカルボン酸アニオン由来の逆対称伸縮振動のピーク強度ν1と、前記油膜の炭素-水素単結合由来の伸縮振動のピーク強度ν2とが1.0≦ν1/ν2≦2.0の関係を満足し、
    前記アルミニウム合金板の表面における前記アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量が0.5~5.0mg/m2であり、
    前記アルミニウム合金板の室温下における0.2%耐力が90N/mm2以上である、アルミニウム圧延板を製造する方法であって、
    水と、基油を主成分とすると共に少なくとも前記高級脂肪酸アルミニウムを含有し、該水中に分散された熱間圧延油と、アルミニウム粒子とを含有するエマルション状の熱間圧延用クーラントを用いてアルミニウム合金材の熱間圧延処理を行う圧延工程と、
    前記熱間圧延処理時に発生したアルミニウム粉を含む熱間圧延用クーラントを回収する回収工程と、
    前記回収工程において回収された熱間圧延用クーラントの一部を廃棄するとともに新たに作製した前記熱間圧延用クーラントを補給する濃度調整工程と、
    前記濃度調整工程が完了した後の熱間圧延用クーラントを前記熱間圧延処理に用いられる圧延ロールに供給する供給工程と、を有し、
    前記濃度調整工程において、前記熱間圧延油中のアルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量W(単位:kg)と、前記濃度調整工程において補給される熱間圧延用クーラントの重量V(単位:kg)とが下記式3の関係を満足するよう前記熱間圧延用クーラントを補給することにより、前記熱間圧延油100質量部に対する前記アルミニウム粒子とアルミニウムイオンとの合計量を0.08~1.2質量%の範囲に調整するとともに前記熱間圧延油100質量部に対する前記高級脂肪酸アルミニウム量を0.5~2.0質量%の範囲に調整する、アルミニウム圧延板の製造方法。
    0.08≦100×W/cV 0 ×(1-V/V 0 )≦1.2 ・・・(3)
    (ただし、前記式3におけるV 0 は熱間圧延用クーラントの全重量(単位:kg)であり、cは熱間圧延用クーラントの油分濃度(単位:質量%)である。)
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