JP6860366B2 - アルミニウム用熱間圧延油、アルミニウム用熱間圧延クーラント及びアルミニウム圧延板の製造方法 - Google Patents

アルミニウム用熱間圧延油、アルミニウム用熱間圧延クーラント及びアルミニウム圧延板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム用熱間圧延油、アルミニウム用熱間圧延クーラント及びアルミニウム圧延板の製造方法に関する。
アルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)の熱間圧延においては、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性の確保や、圧延ロール及びアルミニウム材の冷却等を目的として、アルミニウム用熱間圧延クーラントが使用されている。この種のクーラントは、通常、アルミニウム用熱間圧延油が水中に分散された、水中油滴型のエマルションである。
熱間圧延後の圧延板の平滑性を向上させるためには、熱間圧延油の動粘度を高くして圧延ロールとアルミニウム材との間の潤滑性を高め、両者の摩擦を低減することが有効である。しかし、熱間圧延油の動粘度が高くなると、一対の圧延ロールの間にアルミニウム材を導入する際に、アルミニウム材の先端が一対のロールの間に噛み込まれにくくなる。従来は、40℃における熱間圧延油の動粘度を100mm2/s程度とすることにより、噛み込み不良の抑制と圧延板の平滑性の向上との両立を図っている(例えば、特許文献1)。
また、圧延板の生産性を向上させる観点からは、1パス当たりの圧下率を大きくしてアルミニウム材の板厚を効率よく減少させることが好ましい。しかし、圧下率を大きくすると、アルミニウム材の噛み込み不良がより発生しやすくなる。
そこで、従来の熱間圧延油と同等以上の潤滑性を確保しつつ、噛み込み不良をより効果的に抑制するために、熱間圧延油中にポリブテンを添加する技術が提案されている(特許文献2)。
特開平8−183987号公報 特開平10−176180号公報
しかし、ポリブテンは加熱により酸化されやすいため、ポリブテンが添加された熱間圧延油を用いて熱間圧延を行うと、最終的に得られる圧延板表面が黄変し、意匠性の悪化を招くおそれがある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、噛み込み不良を抑制することができるとともに、優れた表面品質を有する圧延板を製造可能なアルミニウム用熱間圧延油、この熱間圧延油を含むアルミニウム用熱間圧延クーラント及びこのクーラントを用いて行うアルミニウム圧延板の製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、3.0〜10質量%の脂肪酸と、
10〜30質量%の合成エステルと、
1.0〜5.0質量%のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤と、
0.010〜2.0質量%のアルカノールアミンとを含有し、
残部が2種以上の精製鉱油からなり、
40℃における動粘度が25〜75mm2/sであり、
100℃における動粘度が40℃における動粘度の0.10〜0.30倍であり、
350℃における加熱残分が5.0〜25質量%であり、
上記合成エステルにおける、カルボン酸に由来する構成単位の平均炭素数が10以上18以下である、アルミニウム用熱間圧延油にある。
本発明の他の態様は、上記の態様のアルミニウム用熱間圧延油が水中に分散しているアルミニウム用熱間圧延クーラントであって、
1〜10体積%の上記アルミニウム用熱間圧延油を含有しており、
上記アルミニウム用熱間圧延油の油滴は、1〜7μmの体積平均粒径を有している、アルミニウム用熱間圧延クーラントにある。
本発明の更に他の態様は、上記の態様のアルミニウム用熱間圧延クーラントを用いてアルミニウム鋳塊の熱間圧延を行う、アルミニウム圧延板の製造方法にある。
上記アルミニウム用熱間圧延油(以下、単に「熱間圧延油」という。)は、上記脂肪酸、上記合成エステル、上記非イオン界面活性剤、上記アルカノールアミン及び上記精製鉱油を上記特定の比率で含有している。上記熱間圧延油は、少なくとも上記特定の組成を有することにより、40℃における動粘度、100℃における動粘度及び350℃における加熱残分を上記特定の範囲内とすることができる。
また、上記熱間圧延油の40℃における動粘度、100℃における動粘度及び350℃における加熱残分は上記特定の範囲内である。上記熱間圧延油は、動粘度及び加熱残分を上記特定の範囲とすることにより、一対の圧延ロールの間にアルミニウム材を導入する際の噛み込み不良の発生を従来の熱間圧延油よりも効果的に抑制することができる。
また、上記熱間圧延油は、動粘度及び加熱残分を上記特定の範囲とすることにより、アルミニウム材の噛み込み不良の発生を抑制しつつ、圧延中における圧延ロールとアルミニウム材との摩擦を十分に低減することができる。それ故、上記熱間圧延油を用いて熱間圧延を行うことにより、圧延板の表面粗さの増大を回避することができる。
また、上記熱間圧延油は、ポリブテンを用いることなく、上記特定の範囲の動粘度及び加熱残分を実現している。それ故、圧延板表面の黄変を回避することができる。
このように、上記熱間圧延油によれば、従来の熱間圧延油に比べてアルミニウム板の噛み込み不良を効果的に抑制することができるとともに、圧延板の表面粗さの増大や表面の黄変等の表面品質の低下を回避し、優れた表面品質を有する圧延板を製造することができる。また、上記熱間圧延油は、従来の熱間圧延油に比べてアルミニウム板の噛み込み不良を効果的に抑制できるため、1パス当たりの圧下率を従来よりも大きくすることができる。それ故、上記熱間圧延油を使用することにより、熱間圧延のパス数を低減し、圧延板の生産性を向上させる効果を期待することもできる。
上記アルミニウム用熱間圧延クーラント(以下、単に「クーラント」という。)は、上記熱間圧延油が水中に分散されたエマルションである。上記クーラント中の上記熱間圧延油の含有量及び上記熱間圧延油の油滴の体積平均粒径は、それぞれ、上記特定の範囲内にある。上記クーラントは、かかる構成を有することにより、アルミニウムの熱間圧延用として好適なものとなる。
実施例における、潤滑性評価のために実施した熱間圧延の要部を示す側面図である。
上記熱間圧延油における、動粘度、加熱残分及び各成分の含有量の限定理由について説明する。
・40℃における動粘度:25〜75mm2/s
上記熱間圧延油の40℃における動粘度を上記特定の範囲とすることにより、熱間圧延中に、圧延ロールとアルミニウム材との間に上記熱間圧延油の油膜を容易に形成することができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、圧延板の平滑性を向上させることができる。
40℃における動粘度が25mm2/s未満の場合には、上記熱間圧延油の粘度が低すぎるため、圧延ロールとアルミニウム材との間に油膜が形成されにくい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。かかる問題をより確実に回避する観点からは、40℃における動粘度を36mm2/s以上とすることが好ましく、44mm2/s以上とすることがより好ましい。
40℃における動粘度が75mm2/sを超える場合には、熱間圧延中の上記熱間圧延油の蒸発量が少なくなり、圧延ロールとアルミニウム材との間に供給される上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。かかる問題をより確実に回避する観点からは、40℃における動粘度を63mm2/s以下とすることが好ましく、54mm2/s以下とすることがより好ましい。
・100℃における動粘度:40℃における動粘度の0.10〜0.30倍
上記熱間圧延油の100℃における動粘度を上記特定の範囲とすることにより、熱間圧延中に、圧延ロールとアルミニウム材との間に上記熱間圧延油の油膜を容易に形成することができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、圧延板の平滑性を向上させることができる。
100℃における動粘度が40℃における動粘度の0.10倍未満の場合には、上記熱間圧延油の粘度が高温において過度に低下するため、圧延ロールとアルミニウム材との間に油膜が形成されにくい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。かかる問題をより確実に回避する観点からは、100℃における動粘度を40℃における動粘度の0.18倍以上とすることが好ましい。
100℃における動粘度が40℃における動粘度の0.30倍を超える場合には、上記熱間圧延油の粘度が高温において過度に高くなるため、圧延ロールとアルミニウム材との間に供給される上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。かかる問題をより確実に回避する観点からは、100℃における動粘度を40℃における動粘度の0.25倍以下とすることが好ましく、0.23倍以下とすることがより好ましい。
40℃における動粘度に対する100℃における動粘度の比率を上記特定の範囲内に調節するためには、例えば、熱間圧延油中に含まれる精製鉱油の種類や配合比率を変更する等の手法を採用することができる。なお、精製鉱油の種類については後述する。
・350℃における加熱残分:5.0〜25質量%
上記熱間圧延油の350℃における加熱残分を上記特定の範囲とすることにより、熱間圧延中に、圧延ロールとアルミニウム材との間に上記熱間圧延油の油膜を容易に形成することができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、圧延板の平滑性を向上させることができる。
上記加熱残分が5.0質量%未満の場合には、熱間圧延中の上記熱間圧延油の蒸発量が多くなるため、圧延ロールとアルミニウム材との間に油膜が形成されにくい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。かかる問題をより確実に回避する観点からは、加熱残分を10質量%以上とすることが好ましく、12.5質量%以上とすることがより好ましい。
上記加熱残分が25質量%を超える場合には、熱間圧延中の上記熱間圧延油の蒸発量が少なくなり、圧延ロールとアルミニウム材との間に供給される上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。かかる問題をより確実に回避する観点からは、加熱残分を20質量%以下とすることが好ましい。
・脂肪酸:3.0〜10質量%
・合成エステル:10〜30質量%
脂肪酸及び合成エステルは、圧延ロールとアルミニウム材との摩擦を低減する油性剤である。これらの油性剤の含有量をそれぞれ上記特定の範囲とすることにより、圧延ロールの表面に脂肪酸や合成エステルを吸着させ、これらの油性剤を含む潤滑膜を容易に形成することができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、圧延板の平滑性を向上させることができる。
噛み込み不良の発生をより効果的に抑制するとともに、最終的に得られる圧延板の平滑性をより向上させる観点からは、脂肪酸の含有量は、5.0〜7.0質量%であることが好ましい。同様に、合成エステルの含有量は、15〜25質量%であることが好ましい。
脂肪酸の含有量が3.0質量%未満の場合、または、合成エステルの含有量が10質量%未満の場合には、圧延ロールの表面に吸着する油性剤の量が少なくなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。
脂肪酸の含有量が10質量%を超える場合、または、合成エステルの含有量が30質量%を超える場合には、圧延ロールの表面に吸着する油性剤の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。
脂肪酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物を採用することができる。これらの化合物における炭化水素鎖の構造は、直鎖構造、分岐鎖構造または環状構造のいずれであってもよい。
上記合成エステルは、カルボン酸とアルコールとのエステルである。合成エステルは、単一の化合物であってもよいが、通常は、カルボン酸に由来する構成単位等の構造が異なる2種以上の化合物の混合物である。
カルボン酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物を採用することができる。これらの化合物における炭化水素鎖の構造は、直鎖構造、分岐鎖構造または環状構造のいずれであってもよい。
アルコールとしては、1価アルコールを用いてもよく、多価アルコールを用いてもよい。多価アルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる1種または2種以上を採用することができる。これらの多価アルコールは、その分子構造中に熱安定性の低い3級C−H(炭素−水素)結合を有しない。そのため、熱間圧延中に、上記多価アルコールに由来する構成単位が熱分解すること等を抑制することができる。
アルコールとして多価アルコールを用いる場合、合成エステルは、多価アルコールの全ての水酸基がエステル化されたフルエステルであってもよく、多価アルコールの一部の水酸基がエステル化された部分エステルであってもよい。熱間圧延時の潤滑性の観点からは、合成エステル中のフルエステルの比率を高くすることが好ましい。
合成エステルにおける、カルボン酸に由来する構成単位の平均炭素数は10以上18以下である。この平均炭素数を上記特定の範囲とすることにより、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、最終的に得られる圧延板の平滑性を向上させることができる。
上記平均炭素数が10未満の場合には、圧延ロールの表面に形成される合成エステルの潤滑膜の強度が低くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。
上記平均炭素数が18を超える場合には、圧延ロールの表面に形成される合成エステルの潤滑膜の強度が高くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。
・ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤:1.0〜5.0質量%
・アルカノールアミン:0.010〜2.0質量%
上記非イオン界面活性剤及びアルカノールアミンは、上記クーラント中に上記熱間圧延油の油滴を形成するための乳化剤である。これらの乳化剤の含有量をそれぞれ上記特定の範囲とすることにより、圧延ロールに付着する上記熱間圧延油の量を適正な範囲に調整することができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生を抑制するとともに、圧延板の平滑性を向上させることができる。
上記非イオン界面活性剤の含有量が1.0質量%未満の場合、または、上記アルカノールアミンの含有量が0.010質量%未満の場合には、上記クーラント中において上記熱間圧延油と水とが分離しやすくなる。そのため、圧延ロールに接触した熱間圧延油の油滴が容易に圧延ロール表面に付着し、圧延ロールに付着する上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。
上記非イオン界面活性剤の含有量が5.0質量%を超える場合、または、上記アルカノールアミンの含有量が2.0質量%を超える場合には、上記熱間圧延油が容易に乳化される。そのため、圧延ロールに付着している熱間圧延油が乳化により表面から脱離し、圧延ロールに付着する上記熱間圧延油の量が少なくなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に低くなり、圧延板の表面粗さが増大する等の、表面品質の悪化を招くおそれがある。
ポリエチレングリコール系非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの化合物のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は8以上12以下であることが好ましい。
アルカノールアミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
・精製鉱油
精製鉱油としては、ナフテン系精製鉱油、パラフィン系精製鉱油及び芳香族系精製鉱油等を使用することができる。前記熱間圧延油には、これらの鉱油のうち2種以上が併用されている。アルミニウム材の噛み込み不良を抑制する観点からは、精製鉱油中のナフテン系精製鉱油の比率が多いほど好ましい。
ナフテン系精製鉱油としては、例えば、クリセフオイル(登録商標)H22、クリセフオイルH46(以上、JXエネルギー株式会社製);ダイナフレシア(登録商標)N28、ダイナフレシアN90、ダイナフレシアN430(以上、出光興産株式会社製);SUN100N、SUN500N(以上、日本サン石油株式会社)等を使用することができる。熱間圧延油中のナフテン系精製鉱油の量を多くすることにより、上述した40℃における動粘度に対する100℃における動粘度の比率の値を小さくすることができる。
パラフィン系精製鉱油としては、スーパーオイルN22、スーパーオイルN46(以上、JXエネルギー株式会社製);ダイナフレシアP32、ダイナフレシアP90、ダイナフレシアP430(以上、出光興産株式会社製);SN150BS(日本サン石油株式会社)等を使用することができる。熱間圧延油中のパラフィン系精製鉱油の量を多くすることにより、上述した40℃における動粘度に対する100℃における動粘度の比率の値を大きくすることができる。
芳香族系精製鉱油としては、ダイアナ(登録商標)プロセスオイルAC460(出光興産株式会社製)等を使用することができる。熱間圧延油中の芳香族系精製鉱油の量を多くすることにより、上述した40℃における動粘度に対する100℃における動粘度の比率の値を小さくすることができる。
精製鉱油中のナフテン系精製鉱油の割合は50質量%以上であることが好ましい。この場合には、上記熱間圧延油の350℃における加熱残分をより容易に25質量%以下とすることができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に上記熱間圧延油が過剰に供給されることをより確実に回避し、噛み込み不良の発生をより効果的に抑制することができる。
上記クーラントにおける上記熱間圧延油の含有量は、1〜10体積%である。これにより、熱間圧延時における圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性を適正な範囲に保つことができる。熱間圧延油の含有量が1体積%未満の場合には、圧延ロール表面に付着する熱間圧延油の量が少なくなりやすい。それ故、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が低下し、圧延板の表面粗さが増大する等の表面品質の悪化を招くおそれがある。
熱間圧延油の含有量が10体積%を超える場合には、圧延ロールとアルミニウム材との間に供給される上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。
また、上記クーラント中に存在する熱間圧延油の油滴は、1〜7μmの体積平均粒径を有している。これにより、熱間圧延時における圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性を適正な範囲に保つことができる。上記油滴の体積平均粒径が1μm未満の場合には、圧延ロール表面に付着する熱間圧延油の量が少なくなりやすい。それ故、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が低下し、圧延板の圧延板の表面粗さが増大する等の表面品質の悪化を招くおそれがある。
上記油滴の体積平均粒径が7μmを超える場合には、圧延ロールとアルミニウム材との間に供給される上記熱間圧延油の量が多くなりやすい。それ故、この場合には、圧延ロールとアルミニウム材との潤滑性が過度に高くなり、アルミニウム材の噛み込み不良が発生しやすくなる。さらに、この場合には、圧延板表面に残留する熱間圧延油の量が過度に多くなり、表面品質の低下を招くおそれがある。
上述した油滴の体積平均粒径は、レーザー回折法により得られた粒度分布に基づいて算出することができる。具体的には、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用い、装置検出部にクーラントを所定量滴下することで粒度分布を測定することができる。これにより得られた粒度分布のメジアン径(累積50%粒子径)を体積平均粒径とする。
また、上記クーラントは、上記アルカノールアミンと低級脂肪酸との塩を10〜1000ppm含有していることが好ましい。上記塩の含有量を10ppm以上とすることにより、上記クーラントの表面張力が小さくなり、圧延ロールに上記熱間圧延油がより接触しやすくなる。それ故、この場合には、圧延ロールに付着する上記熱間圧延油の量を容易に多くすることができる。その結果、圧延ロールとアルミニウム材との間に適度な潤滑性を付与し、噛み込み不良の発生をより効果的に抑制することができる。
一方、上記塩の含有量が過度に多くなると、上記クーラントの表面張力が小さくなりすぎるため、圧延板表面に残留するクーラントの量が多くなりやすい。そして、圧延板表面に残留するクーラントの量が過度に多い場合には、圧延板の表面が黄変する等の表面品質の低下を招くおそれがある。上記塩の含有量を1000ppm以下とすることにより、かかる問題を容易に回避することができる。
なお、上記塩は、クーラント中に積極的に添加してもよいが、クーラントの使用中に自然に形成されるものであってもよい。即ち、クーラントは、通常、熱間圧延時に減少した分を補充しつつ、複数回に亘って再生利用される。そして、熱間圧延を繰り返し行うと、クーラント中に、基油や油性剤等の酸化によって生じた低級脂肪酸が蓄積される。この低級脂肪酸が上記アルカノールアミンと反応することにより、上記塩が自然に形成される。上述のようにクーラントを再生利用する場合には、例えば、再生時に過剰の上記塩を除去する、あるいは、補充するクーラント中に上記塩を添加する等の方法により、上記塩の含有量を上述した範囲に調整することができる。
上記熱間圧延油の実施例について説明する。なお、本発明に係る熱間圧延油は以下の態様に限定されるものではなく、その要旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
本例において使用した化合物の略称は以下の通りである。
・合成エステル
NPG−C14 :ネオペンチルグリコールミリスチン酸ジエステル
NPG−C16 :ネオペンチルグリコールパルミチン酸ジエステル
TMP−C12 :トリメチロールプロパンラウリン酸トリエステル
TMP−C18F1:トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル
TMP−C20 :トリメチロールプロパンアラキジン酸トリエステル
PE−C10 :ペンタエリスリトールカプリン酸テトラエステル
PE−C8 :ペンタエリスリトールカプリル酸テトラエステル
・非イオン系界面活性剤
PEG−C18F1:ポリオキシエチレンオレイン酸エステル
PEG−C12 :ポリオキシエチレンラウリルエーテル
(実施例)
精製鉱油、脂肪酸、合成エステル、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、アルカノールアミンを表1〜表3に示す比率で混合し、熱間圧延油(試料1〜29)を調製した。表1〜表3に示すとおり、本例において用いた合成エステルは、多価アルコールと、炭素数10〜18のカルボン酸とのエステルである。それ故、合成エステルにおける、カルボン酸に由来する構成単位の平均炭素数は10以上18以下である。なお、精製鉱油については、その組成及びISO粘度グレードを表中に記載した。非イオン系界面活性剤については、化合物名及びHLB値を表中に記載した。
JIS K2283に準拠した方法により、キャノン−フェンスケ粘度計を用いてこれらの熱間圧延油の40℃における動粘度及び100℃における動粘度を測定した。その結果を表1〜表3に記載した。なお、100℃における動粘度は、40℃における動粘度を1倍としたときの倍率により表示した。
また、熱重量測定装置を用いて熱間圧延油の350℃における加熱残分を測定し、その結果を表1〜表3に記載した。熱重量測定装置の測定条件は、試料の質量:20g、昇温速度:20℃/分とし、空気雰囲気下において室温から350℃まで熱間圧延油を加熱したときの残渣の質量を測定した。そして、残渣の質量を加熱前の質量で除した値を加熱残分(質量%)とした。
次に、上記熱間圧延油を表1〜表3に示す濃度で水中に分散させ、クーラントを調製した。これらのクーラント中に存在する熱間圧延油の油滴の粒度分布をレーザー回折法により取得した。そして、得られた粒度分布のメジアン径(累積50%粒子径)を算出し、この値を油滴の体積平均粒径として表1〜表3に記載した。
また、クーラントを調製した直後にクーラント中に存在している、アルカノールアミンと低級脂肪酸との塩の含有量を測定し、その値を表1〜表3に記載した。
上記クーラントを用いて以下の条件によりアルミニウム材の熱間圧延を行い、噛み込み性、潤滑性及び圧延板の色調の評価を行った。
<熱間圧延条件>
・アルミニウム材の材質:JIS A5182
・アルミニウム材の寸法:40mm幅×500mm長×5.0mm厚
・圧延ロールの表面粗さ:板幅方向に測定したときの算術平均粗さRa=0.3〜0.4μm、最大高さRz=3.5〜4.0μm
・圧延開始時の板温度:450℃
・圧延速度:40m/min
・圧下率:60%
なお、圧延ロールについては、研磨紙を用いてロール表面を圧延方向に研磨することにより、上記の表面粗さに調整した。また、熱間圧延を行う前に、予め、上記アルミニウム材を圧下率20%で圧延した。
<噛み込み性>
まず、一対の圧延ロールの間隙を、圧延ロール間にアルミニウム材が噛み込まれない程度に狭く設定した。この状態において熱間圧延を試み、アルミニウム材が噛み込まれなかった場合には、圧延ロールの間隙を段階的に大きくして再度熱間圧延を試みた。この操作を繰り返し、圧延ロール間にアルミニウム材が噛み込まれた際の噛み込み角を、表1〜表3の「最大噛み込み角」の欄に記載した。
最大噛み込み角が大きいほど、アルミニウム材が圧延ロール間に噛み込まれやすく、熱間圧延において板厚を効率よく低減できることを示している。同表中の「評価」の欄には、最大噛み込み角が13°以上の場合には、噛み込み性に優れているとして記号Aを、最大噛み込み角が11°以上13°未満の場合には、噛み込み性が良好であるとして記号Bを、最大噛み込み角が11°未満の場合には、噛み込み性に劣るとして記号Cを記載した。そして、最大噛み込み角が11°以上の場合を、アルミニウム材の噛み込み不良を十分に抑制できるため合格であると判断した。
<潤滑性>
潤滑性の評価では、図1に示すように、一対の圧延ロール2(2a、2b)のうち一方の圧延ロール2aの側面に複数のポンチ21を取り付けた状態で熱間圧延を行った。そして、圧延ロール2aの周方向におけるポンチ21同士の距離L1[mm]と、アルミニウム材1に転写されたポンチ痕11同士の距離L2とを測定し、下記式(1)に基づいて先進率δを算出した。
δ=(L1−L2)/L1 ・・・(1)
これとは別に、圧延ロール2のロール径R[mm]、圧延ロール2のポアソン比ν、圧延ロール2のヤング率E[kgf/mm2]、圧延荷重P[kgf/mm2]、圧延前のアルミニウム材1の板厚h1[mm]、圧延後のアルミニウム材1の板厚h2[mm]、アルミニウム材1の板幅b[mm]の値を使用し、下記式(2)に基づいて圧延ロール2の扁平ロール径R2[mm]を算出した。
2=R×{1+16×(1−ν2)×P/[π×E×b×(h1−h2)]} ・・・(2)
そして、上記式(1)〜(2)の結果と圧下率rの値とを使用し、下記式(3)に基づいて圧延ロール2とアルミニウム材1との摩擦係数μを算出した。
μ=0.5×[(h1−h2)/R20.5/{1−2×[(1−r)×δ/r]0.5} ・・・(3)
以上により得られた摩擦係数μの値を、表1〜表3の「圧延時の摩擦係数」の欄に記載した。なお、上記式(1)〜(3)において、アルミニウム材1の圧延前の板厚h1は5.0[mm]、圧延後の板厚h2は2.0[mm]、圧下率rは0.6、板幅bは40[mm]とした。また、圧延ロール2のロール径Rは80[mm]、ポアソン比νは0.33、ヤング率Eは21000[kgf/mm2]とした。なお、ポアソン比ν及びヤング率Eは、圧延ロール用鋼の典型的な値である。
圧延時の摩擦係数が小さいほど、アルミニウム材と圧延ロールとの潤滑性が高く、圧延板の表面を容易に平滑化することができることを示している。同表中の「評価」の欄には、摩擦係数が0.30以下の場合には、潤滑性に優れているとして記号Aを、摩擦係数が0.30超え0.35以下の場合には、潤滑性が良好であるとして記号Bを、摩擦係数が0.35を超える場合には、潤滑性に劣るとして記号Cを記載した。そして、摩擦係数が0.35以下の場合を、圧延板の表面粗さの増大を十分に抑制できるため合格であると判断した。
<圧延板の色調>
熱間圧延後の圧延板の色調を目視観察した。その結果、表面に黄変がない場合には表1〜3中の「圧延板の色調」の欄に記号Aを、表面がわずかに黄変した場合には記号Bを、顕著に黄変した場合には記号Cを記載した。そして、記号A及び記号Bの場合を、圧延板表面の黄変を十分に抑制できているため合格と判定した。
Figure 0006860366
Figure 0006860366
Figure 0006860366
表1〜表3に示したように、試料1〜29は、いずれも、上記脂肪酸、上記合成エステル、上記非イオン界面活性剤、上記アルカノールアミン及び上記精製鉱油を上記特定の比率で含有している。また、上記熱間圧延油の40℃における動粘度、100℃における動粘度及び350℃における加熱残分は上記特定の範囲内である。さらに、上述したように、合成エステルにおける、カルボン酸に由来する構成単位の平均炭素数が10以上18以下である。
表1〜表3によれば、試料1〜29は、上記特定の組成及び物性を有しているため、アルミニウム板の噛み込み不良を抑制することができるとともに、圧延板の表面粗さの増大や表面の黄変等の表面品質の低下を回避し、優れた表面品質を有する圧延板を製造することができることが容易に理解できる。
(比較例)
本例においては、表4及び表5に示す比率で各成分を含有する熱間圧延油(試料30〜50)を調製し、これらの試料を用いて実施例と同様の評価を行った。
Figure 0006860366
Figure 0006860366
表4に示したように、試料30〜35は、熱間熱延油の40℃における動粘度、100℃における動粘度及び350℃における加熱残分のいずれかが上記特定の範囲から外れている。
表4及び表5に示したように、試料36〜43は、脂肪酸、合成エステル、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤及びアルカノールアミンのいずれかの含有量が上記特定の範囲から外れている。
表5に示したように、試料44及び45は、多価アルコールと、炭素数8のカルボン酸または炭素数20のカルボン酸とのエステルである。それ故、これらの試料は、合成エステルの平均炭素数が上記特定の範囲から外れている。
試料46〜49は、クーラント中の熱間圧延油の含有量または油滴の体積平均粒径が上記特定の範囲から外れている。
以上のように、試料30〜49は、各成分の含有量、熱間圧延油の物性またはクーラントの物性が上記特定の範囲から外れている。それ故、これらの試料は、噛み込み性、潤滑性または圧延板の色調のうち少なくとも1項目が不合格となった。
試料50には、ポリブテンが添加されている。それ故、試料50は、圧延板の色調が不合格となった。

Claims (7)

  1. 3.0〜10質量%の脂肪酸と、
    10〜30質量%の合成エステルと、
    1.0〜5.0質量%のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤と、
    0.010〜2.0質量%のアルカノールアミンとを含有し、
    残部が2種以上の精製鉱油からなり、
    40℃における動粘度が25〜75mm2/s以下であり、
    100℃における動粘度が40℃における動粘度の0.10〜0.30倍であり、
    350℃における加熱残分が5.0〜25質量%であり、
    上記合成エステルにおける、カルボン酸に由来する構成単位の平均炭素数が10以上18以下である、アルミニウム用熱間圧延油。
  2. 上記脂肪酸の含有量が5.0〜7.0質量%である、請求項1に記載のアルミニウム用熱間圧延油。
  3. 上記合成エステルの含有量が15〜25質量%である、請求項1または2に記載のアルミニウム用熱間圧延油。
  4. 上記精製鉱油中のナフテン系精製鉱油の割合が50質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム用熱間圧延油。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム用熱間圧延油が水中に分散しているアルミニウム用熱間圧延クーラントであって、
    1〜10体積%の上記アルミニウム用熱間圧延油を含有しており、
    上記アルミニウム用熱間圧延油の油滴は、1〜7μmの体積平均粒径を有している、アルミニウム用熱間圧延クーラント。
  6. 上記アルミニウム用熱間圧延クーラントは、上記アルカノールアミンと低級脂肪酸との塩を10〜1000ppm含有している、請求項5に記載のアルミニウム用熱間圧延クーラント。
  7. 請求項5または6に記載のアルミニウム用熱間圧延クーラントを用いてアルミニウム鋳塊の熱間圧延を行う、アルミニウム圧延板の製造方法。
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