JP7042268B2 - 偏光膜、該偏光膜を含む偏光板、および該偏光板を含む車載用画像表示装置 - Google Patents

偏光膜、該偏光膜を含む偏光板、および該偏光板を含む車載用画像表示装置 Download PDF

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Description

本発明は、偏光膜、該偏光膜を含む偏光板、および該偏光板を含む車載用画像表示装置に関する。
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。このような薄型偏光膜においては、各種特性のさらなる改善および用途の拡大が模索されている。
特開2000-338329号公報
本発明の主たる目的は、光学特性に優れ、かつ、過酷な加熱環境下においても耐久性に優れた偏光膜を提供することにある。本発明はまた、このような偏光膜を用いた偏光板、および、このような偏光板を用いた車載用画像表示装置も提供する。
本発明の偏光膜は、厚みが8μm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムがヨウ素およびカリウムを含み、ヨウ素濃度が5.0重量%以上であり、および、ヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)が2.5以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、100℃で120時間置いた後の、下記式で表される単体透過率変化量ΔTsが0.0%以上である:
ΔTs(%)=Ts120-Ts
ここで、Tsは加熱前の単体透過率であり、Ts120は120時間加熱後の単体透過率である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、上記単体透過率Tsが43.0%以下である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に設けられた保護フィルムと、を有する。
1つの実施形態においては、上記保護フィルムは、上記偏光膜の一方の側のみに設けられている。
本発明のさらに別の局面によれば、車載用画像表示装置が提供される。この車載用画像表示装置は、上記の偏光板を含む。
本発明によれば、高濃度でヨウ素を含有する薄型の偏光膜においてヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)を最適化することにより、光学特性に優れ、かつ、過酷な加熱環境下においても耐久性に優れた偏光膜を得ることができる。このような偏光膜を用いた偏光板は、過酷な加熱環境下において耐久性が求められる用途(例えば、車載用画像表示装置)に好適に用いられ得る。
本発明の実施形態においてI/Kを最適化することによりポリエン化を抑制するメカニズムを説明するための、ヨウ素濃度とI/Kとの関係を示す領域図である。 本発明の実施形態においてI/Kを最適化することによりポリエン化を抑制するメカニズムを説明するための、偏光膜中のヨウ素の状態(波長と吸光度との関係)を厚型偏光子と薄型偏光膜とで比較して示すグラフである。 本発明の1つの実施形態による偏光板を説明するための概略断面図である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.偏光膜
本発明の偏光膜は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称する)フィルムから構成される。
上記PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~5000、さらに好ましくは1500~4500である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
偏光膜(PVA系樹脂フィルム)は、代表的にはヨウ素を含む。偏光膜は、実質的には、ヨウ素が吸着配向されたPVA系樹脂フィルムである。PVA系樹脂フィルム中のヨウ素濃度は5.0重量%以上であり、好ましくは5.0重量%~12.0重量%であり、より好ましくは5.5重量%~10.0重量%である。本発明によれば、後述するヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)を最適化することにより、このような高濃度でヨウ素を含む薄型の偏光膜の耐久性を顕著に向上させることができ、特に、過酷な加熱環境下における赤変を防止することができる。なお、本明細書において「ヨウ素濃度」とは、偏光膜(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光膜中においてヨウ素はI、I、I 等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素濃度は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の濃度を意味する。ヨウ素濃度は、後述するように、蛍光X線分析による蛍光X線強度とフィルム(偏光膜)厚みとから算出され得る。
偏光膜(PVA系樹脂フィルム)は、代表的にはカリウムをさらに含む。PVA系樹脂フィルム中のカリウム濃度は、好ましくは0.5重量%~2.0重量%であり、より好ましくは0.7重量%~1.5重量%である。カリウム濃度がこのような範囲であれば、後述するヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)を所望の範囲に制御することが容易となる。カリウム濃度もまた、蛍光X線分析による蛍光X線強度とフィルム(偏光膜)厚みとから算出され得る。なお、偏光膜中のカリウム濃度はヨウ素濃度と連動して変化するので、カリウム濃度およびヨウ素濃度の好適範囲をそれぞれ設定しただけでは本発明の効果は得られない。すなわち、本発明においてヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)を最適化することが技術的意義を有することとなる。
本発明の実施形態においては、偏光膜(PVA系樹脂フィルム)中のヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)は2.5以下であり、好ましくは1.5~2.5であり、より好ましくは1.7~2.5である。本発明によれば、I/Kを最適化することにより、上記のような高濃度でヨウ素を含む薄型の偏光膜の耐久性を顕著に向上させることができる。より詳細には、薄型の(例えば、厚みが8μm以下の)偏光膜は、分厚い(例えば、厚みが20μm以上の)偏光子に比べて、膜中のヨウ素濃度が顕著に高い。このような薄型の偏光膜において優れた光学特性(例えば、偏光度)を得ようとすると、PVA系樹脂フィルム(偏光膜)中のヨウ素濃度を非常に高くする必要がある。ヨウ素濃度が高くなると、ヨウ素とPVA系樹脂との相互作用によりポリエン化が進みやすくなるところ、I/Kを調整することによりポリエン化を抑制できる。
I/Kを最適化することによりポリエン化を抑制するメカニズムについて、図1および図2を参照してより詳細に説明する。ポリエン化とは、偏光膜を高温環境下に置いた時にPVA中に多数の2重結合(ポリエン)を生じる反応をいう。PVA(偏光膜)中に形成されるポリエンは、可視光領域に吸収域を有し、かつ、二色性を有さないため、本来高い値が所望される単体透過率の低下が顕著となる(すなわち、後述するΔTsが0.0%より下(負)となる)。さらに、ポリエンは短波長側の光を主に吸収するので、ポリエンが形成された偏光膜は色味が赤く変化する(偏光膜の赤変)。ポリエン化は、PVA中に存在するヨウ素と電荷移動錯体を形成することで促進されることが知られており、PVAとヨウ素が基礎組成である偏光膜にとっては大きな問題となっている。特に、ヨウ素密度が高くなる薄型偏光膜では顕著な問題となる。ここで、高い光学特性を有する薄型偏光膜を作製するためには、光学特性を左右する可視光領域の吸収を維持する必要がある。その結果、高い光学特性を有する薄型偏光膜においては380nm以下の紫外領域に吸収波長を有する、フリーI、フリーI と定義されるヨウ素が少なくなる(図2)。Iが少なくなると、カウンターカチオンであるKも同時に少なくなる。この場合、Kのほうが偏光膜中に含まれる総量が少ないため、減少率が相対的に大きくなり、I/Kは大きくなる。このように、ヨウ素濃度が高い薄型偏光膜で高い光学特性を達成しようとすると、I/Kは大きくなる。偏光膜中のヨウ素はPVA/I3-錯体、PVA/I5-錯体、錯体を形成しないヨウ素など複数の状態で存在しているところ、本発明者らは、I/Kが高くなるとそのバランスが崩れポリエン化が生じやすくなることを発見し、結果として、I/Kを最適化することによりポリエン化を抑制できることを発見した。以下、図1を参照して具体的に説明する。厚型偏光子(例えば、厚み20μm以上)では、ヨウ素濃度が薄型偏光膜ほど高くならないので、厚型偏光子で実現できるI/Kは小さい(図1の左下の領域A)。言い換えれば、厚型偏光子ではポリエン化の問題はそれほど重要ではない。なお、厚型偏光子では、所定値以上のI/K(図1の左上の領域B)は実質的に実現できない。また、領域Bに入る薄型偏光膜を作製しようとすると、偏光膜中のヨウ素濃度が低くなりすぎてしまい、単体透過率が大きくなりすぎて偏光膜として実質的に機能しなくなる。したがって、薄型偏光膜として所望の光学特性を実現しようとすれば、図1の右下の領域Cまたは右上の領域Dに入るものが必要となる。ここで、上記のとおり、I/Kが大きい領域Dの薄型偏光膜はポリエン化が顕著となり、単体透過率の低下および赤変という問題が生じ得る。したがって、高ヨウ素濃度かつI/Kが制御された領域Cに入る薄型偏光膜が、本発明の実施形態の偏光膜となる。このようなポリエン化抑制のメカニズムは、薄型偏光膜の高温環境下での単体透過率の低下および赤変という課題に接し、当該課題を解決するための試行錯誤により初めて得られた知見であり、予期せぬ優れた効果である。
上記のポリエン化は、100℃を超える高温で発生しやすく、そのような高温での耐久性が求められる用途(例えば、車載用途)では重要な課題となる。すなわち、上記のような効果は、薄型の偏光膜を過酷な加熱環境下において用いられ得る画像表示装置(例えば、車載用画像表示装置)に適用した場合に顕著であり得る。このような画像表示装置においては偏光板の反りが大きな問題となるところ、薄型の偏光膜(したがって、このような偏光膜を含む偏光板)は反りが小さいという特徴があるので、このような画像表示装置においては薄型の偏光膜のメリットが大きい。一方、上記のとおり、本発明者らは、I/Kを最適化することによりポリエン化を抑制し、そのことにより、薄型の偏光膜を過酷な加熱環境下において用いた場合の課題を解決できることを見出した。このように、I/Kを最適化することにより、反りが小さいという薄型の偏光膜に特有の効果を維持しつつ、過酷な加熱環境下における赤変という新たに認識された課題を解決することができる。この新たな課題を解決することにより、過酷な加熱環境下において用いられ得る画像表示装置(例えば、車載用画像表示装置)における薄型の偏光膜の商品価値を格段に向上させることができるので、当該課題を解決したことは、工業的に非常に優れた効果である。
フィルム中のI/K、ヨウ素濃度およびカリウム濃度は、下記の手順で求められる:まず、厚み(μm)、ヨウ素濃度(重量%)およびカリウム濃度(重量%)が既知の試料(例えば、一定量のKIを添加したPVA系樹脂フィルム)の蛍光X線強度(kcps)を測定し、検量線を作成する。ヨウ素濃度およびフィルム中のカリウム濃度の検量線は、それぞれ、以下の式で表される:
(ヨウ素濃度)=A×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
(カリウム濃度)=B×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
ここで、AおよびBはそれぞれ、測定装置ごとに異なる定数である。例えば、測定装置としてZSX100e(測定試料径:10mm)を用いる場合、Aは「18.2」であり、Bは「2.99」であり;測定装置としてZSX PRIMUS II(測定試料径:20mm)を用いる場合、Aは「20.5」であり、Bは「0.112」である。また、I/Kは以下の式から求められる:
(I/K)[モル比]=C×(I/K)[強度比]
ここで、Cは、測定装置ごとに異なる定数である。例えば、測定装置としてZSX100e(測定試料径:10mm)を用いる場合、Cは「1.91」であり;測定装置としてZSX PRIMUS II(測定試料径:20mm)を用いる場合、Cは「56.36」である。
PVA系樹脂フィルム中のホウ酸濃度は、好ましくは12重量%~21重量%であり、より好ましくは15重量%~20重量%であり、さらに好ましくは17重量%~20重量%である。ホウ酸濃度がこのような範囲であれば、上記ヨウ素濃度との相乗的な効果により、加熱時のクラックを顕著に抑制することができる。
PVA系樹脂フィルム(偏光膜)の厚みは8μm以下であり、好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下である。このような厚みのPVA系樹脂フィルムは、所定の光学特性(例えば、偏光度)を確保しようとするとヨウ素濃度が非常に高くなるので、I/Kを最適化することによる効果が顕著なものとなる。一方、PVA系樹脂フィルムの厚みは、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上である。
上記偏光膜は、100℃で120時間置いた後の単体透過率変化量ΔTsが、好ましくは0.0%以上である。ΔTsは下記式で表される:
ΔTs(%)=Ts120-Ts
ここで、Tsは加熱前の単体透過率であり、Ts120は120時間加熱後の単体透過率である。すなわち、本発明の実施形態による偏光膜は、100℃という過酷な加熱環境下に置いた場合であっても単体透過率が減少しない、または、むしろ増加するという特徴を有する。これは、過酷な加熱環境下において薄型偏光膜のポリエン化が抑制されていることを意味する。上記のようにI/Kを最適化することにより、このような特徴を実現することができる。ΔTsは、好ましくは0.0%~0.5%であり、より好ましくは0.0%~0.3%である。
上記偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率Tsは、好ましくは43.0%以下であり、より好ましくは40.0%~42.5%であり、さらに好ましくは41.0%~42.0%である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.9%以上であり、より好ましくは99.95%以上であり、さらに好ましくは99.98%以上である。単体透過率を低く設定し偏光度を高くすることにより、コントラストを高くすることができ、黒表示をより黒く表示できるので、優れた画質の画像表示装置を実現することができる。I/Kを最適化することにより、このような高い偏光度と優れた耐久性(過酷な加熱環境下における赤変防止)とを両立することができる。
B.偏光膜の製造方法
上記偏光膜の製造方法は、代表的には、樹脂基材の片側にPVA系樹脂層を形成すること、および、該樹脂基材と該PVA系樹脂層との積層体を延伸および染色して該ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光膜とすること、を含む。
B-1.PVA系樹脂層の形成
PVA系樹脂層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
上記樹脂基材の形成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
後述する延伸において水中延伸方式を採用する場合、上記樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも延伸性に優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。1つの実施形態においては、樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような樹脂基材を用いることにより、製造時に寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、樹脂基材の吸水率は、例えば、形成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、形成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm~300μm、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
PVA系樹脂層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
上記PVA系樹脂層(延伸前)の厚みは、好ましくは3μm~20μmである。
B-2.延伸
積層体の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸である。
積層体の延伸方向は、適宜、設定され得る。1つの実施形態においては、長尺状の積層体の長手方向に延伸する。この場合、代表的には、周速の異なるロール間に積層体を通して延伸する方法が採用される。別の実施形態においては、長尺状の積層体の幅方向に延伸する。この場合、代表的には、テンター延伸機を用いて延伸する方法が採用される。
延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。好ましくは、水中延伸方式である。水中延伸方式によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、例えば、上記自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよいし、上記水中延伸方式と空中延伸方式とを組み合わせてもよい。また、多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
積層体の延伸温度は、樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定され得る。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は60℃以上であり、好ましくは65℃~85℃であり、より好ましくは65℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が60℃を下回ると、水による樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。延伸浴への積層体の浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。本発明においては、ホウ酸濃度は3.5重量%以下であり、好ましくは2.0重量%~3.5重量%であり、より好ましくは2.5重量%~3.5重量%である。ホウ酸濃度がこのような範囲であれば、得られる偏光膜は、優れた光学特性と優れた耐久性および耐水性とを両立し得る。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
後述の染色により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。本発明の実施形態においては、ヨウ化物としてヨウ化カリウムを用い、延伸浴、染色浴(後述)、架橋浴(後述)および洗浄浴(後述)におけるヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中の所望のカリウム濃度(結果として、所望のI/K)を実現することができる。また、ヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中のヨウ素濃度も調整することができる。延伸浴中のヨウ化カリウムの濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
1つの実施形態においては、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸した後、上記ホウ酸水中延伸および後述の染色を行う。このような空中延伸は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。例えば、上記樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、破断したりする。そのため、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃~150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
B-3.染色
PVA系樹脂層の染色は、代表的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。上記のとおり、ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましい。本発明の実施形態においては、ヨウ化物としてヨウ化カリウムを用い、上記延伸浴、染色浴、架橋浴(後述)および洗浄浴(後述)におけるヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中の所望のカリウム濃度(結果として、所望のI/K)を実現することができる。また、ヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中のヨウ素濃度も調整することができる。染色浴中のヨウ化カリウムの配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部~20重量部、より好ましくは0.1重量部~10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が43.0%以下となるように、浸漬時間を設定する。いずれの実施形態においても、得られる偏光膜におけるヨウ素濃度およびカリウム濃度が所望の範囲となるように、染色液中のヨウ素濃度、ヨウ化カリウム濃度および浸漬時間が調整され得る。
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。
B-4.その他の処理
上記PVA系樹脂層(積層体)は、延伸および染色以外に、偏光膜とするための処理が、適宜施され得る。偏光膜とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。上記のとおり、ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましい。本発明の実施形態においては、ヨウ化物としてヨウ化カリウムを用い、上記延伸浴、上記染色浴、架橋浴および洗浄浴(後述)におけるヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中の所望のカリウム濃度(結果として、所望のI/K)を実現することができる。また、ヨウ化カリウム濃度を調整することにより、偏光膜中のヨウ素濃度も調整することができる。架橋浴中のヨウ化カリウムの配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~60℃である。好ましくは、架橋処理は上記水中延伸の前に行う。好ましい実施形態においては、空中延伸、染色処理および架橋処理をこの順で行う。
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃~100℃である。
以上のようにして、樹脂基材上に偏光膜が形成される。
C.偏光板
代表的には、偏光膜は、その片側または両側に保護フィルムが積層された状態で(すなわち、偏光板として)使用される。したがって、本発明は、偏光板も包含する。図3は、本発明の1つの実施形態による偏光板の断面図である。図示例の偏光板100は、偏光膜10と偏光膜の片側に設けられた保護フィルム20とを有する。実用的には、偏光板は、最外層として(図示例においては、偏光膜10の表面に)粘着剤層を有する。粘着剤層は、代表的には画像表示装置側の最外層となる。粘着剤層には、セパレーターが剥離可能に仮着され、実際の使用まで粘着剤層を保護するとともに、ロール形成を可能としている。
保護フィルム20としては、任意の適切な樹脂フィルムが用いられる。樹脂フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。また、上記B項に記載の樹脂基材を剥離せずにそのまま保護フィルムとして用いてもよい。
1つの実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が用いられる。グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂(以下、グルタルイミド樹脂とも称する)は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報、特開2009-161744号公報、特開2010-284840号公報に記載されている。これらの記載は、本明細書に参考として援用される。
保護フィルムの厚みは、好ましくは10μm~100μmである。保護フィルムは、代表的には、接着層(具体的には、接着剤層、粘着剤層)を介して偏光子に積層される。接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤や活性化エネルギー線硬化型接着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。
D.画像表示装置
偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明は、画像表示装置も包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置、量子ドット表示装置が挙げられる。本発明の実施形態による偏光膜および当該偏光膜を用いた偏光板は過酷な加熱環境下における効果が顕著であるので、画像表示装置は、好ましくは過酷な加熱環境下で使用され得る画像表示装置である。このような画像表示装置の代表例としては、車載用画像表示装置が挙げられる。画像表示装置は業界で周知の構成が採用されるので、詳細な説明は省略する。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
1.PVA系樹脂フィルム中のヨウ素濃度、カリウム濃度およびI/K
実施例および比較例で得られた偏光膜について、蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名「ZSX100E」、測定径:ψ10mm)を用いて蛍光X線強度(kcps)を測定した。一方、当該偏光膜の厚み(μm)を、分光膜厚計(大塚電子社製、商品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。得られた蛍光X線強度と厚みから下記式を用いてヨウ素濃度(重量%)およびカリウム濃度(重量%)を求めた。
(ヨウ素濃度)=18.2×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
(カリウム濃度)=2.99×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
また、下記式を用いてI/Kを求めた。
(I/K)[モル比]=1.91×(I/K)[強度比]
さらに、別の蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名「ZSX-PRIMUS II」、測定径:ψ20mm)を用いて、下記式を用いてヨウ素濃度(重量%)およびカリウム濃度(重量%)を求めた。
(ヨウ素濃度)=20.5×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
(カリウム濃度)=0.112×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
また、下記式を用いてI/Kを求めた。
(I/K)[モル比]=56.36×(I/K)[強度比]
本実施例ではZSX100Eの測定結果を採用した。なお、濃度を算出する際の係数は測定装置によって異なるが、当該係数は適切な検量線を用いて求めることができる。
2.単体透過率
実施例および比較例で得られた偏光板について、分光光度計(村上色彩技術研究所(株)製 製品名「DOT-3」)を用いて測定した。当該透過率は、JlS Z 8701-1982の2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値である。測定は、100℃および120時間の加熱試験の前後で行い、下記式によりΔTsを求めた。ここで、Tsは加熱前の単体透過率であり、Ts120は120時間加熱後の単体透過率である。
ΔTs(%)=Ts120-Ts
3.赤変
実施例および比較例で得られた偏光板を、粘着剤を介してガラス板に貼り付け、100℃、120時間の加熱試験を行い、加熱試験前後の外観を目視により観察した。以下の基準で評価した。
○:赤変が認められなかった
△:赤変が認められたが実用上問題ない程度であった
×:赤変が顕著で実用上問題があった
[実施例1]
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃で、非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m)を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)10重量部、ならびにヨウ化カリウム13重量部を含む水溶液を塗布し、60℃で乾燥して、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.3重量部配合し、ヨウ化カリウムを2.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度3.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、積層体を70℃に保たれたオーブン中で乾燥した(乾燥処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成した。
さらに、得られた偏光膜の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護基材(保護フィルム)としてシクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、ZF-12、厚み23μm)を、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、紫外線をシクロオレフィン系フィルム側から照射して接着剤を硬化させた。次いで、樹脂基材を剥離してシクロオレフィン系フィルム(保護基材)/偏光膜の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光膜について、上記のようにしてヨウ素濃度、ホウ酸濃度およびI/Kを求めた。さらに、得られた偏光板について、上記のようにしてΔTsを求め、赤変の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
洗浄浴におけるヨウ化カリウムの配合量を3重量部としたこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[実施例3]
水中延伸におけるホウ酸濃度を3.5重量%とし、Tsを42.6%としたこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[実施例4]
洗浄浴におけるヨウ化カリウムの配合量を2重量部としたこと以外は実施例3と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[実施例5]
保護基材としてアクリル系樹脂フィルムを用いたこと以外は実施例4と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[比較例1]
洗浄浴におけるヨウ化カリウムの配合量を2重量部としたこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[比較例2]
Tsを41.7%としたこと、および、洗浄浴におけるヨウ化カリウムの配合量を2重量部としたこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
[比較例3]
厚みが5μm、ヨウ素濃度が3重量%程度、I/Kが2.3程度の偏光膜を作製しようと試みた。しかし、単体透過率47%、偏光度92%という、偏光度がきわめて不十分な(すなわち、偏光膜として実質的に機能しない)フィルムしか作製できなかった。
[参考例1]
PVA系樹脂フィルム(クラレ社製、商品名「PS-7500」、厚み:75μm、平均重合度:2,400、ケン化度:99.9モル%)を30℃水浴中に1分間浸漬させつつ搬送方向に1.2倍に延伸した後、ヨウ素濃度0.04重量%、カリウム濃度0.3重量%の30℃水溶液中に浸漬して染色しながら、全く延伸していないフィルム(元長)を基準として2倍に延伸した。次いで、この延伸フィルムを、ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の30℃の水溶液中に浸漬しながら、元長基準で3倍までさらに延伸し、続いて、ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の60℃水溶液中に浸漬しながら、元長基準で6倍までさらに延伸し、70℃で2分間乾燥することにより、厚み27μmの偏光子を得た。偏光子のI/Kは1.6、ヨウ素濃度は2.2重量%、カリウム濃度は0.5重量%、単体透過率は42.4%であった。続いて、偏光子の両面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、シクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、Zeonor ZB12、厚さ:50μm)およびトリアセチルセルロースフィルム(コニカ社製、KC4UY、厚さ:40μm)をそれぞれの面に貼り合わせ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱して、偏光板を得た。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
Figure 0007042268000001
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光膜はΔTsが0.0%以上(ゼロまたは正)であり、薄型でありながら赤変が顕著に抑制されることがわかる。
本発明の偏光膜および偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置、量子ドット表示装置のような画像表示装置に好適に用いられ、特に、過酷な加熱環境下で使用され得る画像表示装置(例えば、車載用画像表示装置)に好適に用いられ得る。
10 偏光膜
20 保護フィルム
100 偏光板

Claims (5)

  1. 厚みが8μm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され、
    該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムがヨウ素およびカリウムを含み、
    単体透過率Ts40.0%以上42.6%以下であり、
    ヨウ素濃度が5.0重量%以上であり、および、ヨウ素濃度とカリウム濃度とのモル比(I/K)が1.5~2.5である、
    偏光膜。
  2. 100℃で120時間置いた後の、下記式で表される単体透過率変化量ΔTsが0.0%以上である、請求項1に記載の偏光膜:
    ΔTs(%)=Ts120-Ts
    ここで、Tsは加熱前の単体透過率であり、Ts120は120時間加熱後の単体透過率である。
  3. 請求項1または2に記載の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に設けられた保護フィルムと、を有する、偏光板。
  4. 前記保護フィルムが、前記偏光膜の一方の側のみに設けられている、請求項3に記載の偏光板。
  5. 請求項3または4に記載の偏光板を含む、車載用画像表示装置。

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