JP2023050227A - 偏光膜の製造方法 - Google Patents

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Kasane SANADA
秀作 ▲徳▼弘
Shusaku Tokuhiro
善則 南川
Yoshinori Minamikawa
真由美 森崎
Mayumi Morisaki
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Abstract

【課題】高い光学特性と優れた外観とを兼ね備えた偏光膜を提供する。【解決手段】本発明の実施形態による偏光膜の製造方法は、水を用いた処理を経て、第一膜厚(T1)を有する樹脂膜を得る工程と、前記樹脂膜の膜厚を前記第一膜厚(T1)から第二膜厚(T2)に減少させる調節工程と、前記第二膜厚(T2)を有する樹脂膜を乾燥する乾燥工程と、を含み、前記第一膜厚(T1)に対する前記第二膜厚(T2)の比(T2/T1)は1未満であり、前記乾燥により樹脂膜の膜厚を前記第二膜厚(T2)から第三膜厚(T3)に低下させ、前記第二膜厚(T2)に対する前記第三膜厚(T3)の比(T3/T2)は0.90以下であり、前記樹脂膜を湿度35%RH以上の環境下に置いて前記調節を行う。【選択図】図3

Description

本発明は、偏光膜の製造方法に関する。
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。また、薄型ディスプレイの普及と共に、有機エレクトロルミネセンス(EL)パネルを搭載したディスプレイ(OLED)や、量子ドットなどの無機発光材料を用いた表示パネルを用いたディスプレイ(QLED)が提案されている。これらのパネルは反射性の高い金属層を有しており、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、偏光膜とλ/4板とを有する円偏光板を視認側に設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。
しかし、厚みの薄い偏光膜は高い光学特性と良好な外観とを両立するのが容易ではないという問題がある。具体的には、光学特性が高いほど、外観の問題が生じやすい傾向にある。偏光膜の外観不良は画像表示装置の表示特性に影響を及ぼす場合がある。例えば、偏光膜のスジ状痕が発生していると、積層フィルム(例えば、円偏光板)の構成において外観不良(地合い)として視認される場合がある。
特開2001-343521号公報
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高い光学特性と優れた外観とを兼ね備えた偏光膜を提供することにある。
本発明の実施形態によれば、偏光膜の製造方法が提供される。この製造方法は、水を用いた処理を経て、第一膜厚(T1)を有する樹脂膜を得る工程と、前記樹脂膜の膜厚を前記第一膜厚(T1)から第二膜厚(T2)に減少させる調節工程と、前記第二膜厚(T2)を有する樹脂膜を乾燥する乾燥工程と、を含み、前記第一膜厚(T1)に対する前記第二膜厚(T2)の比(T2/T1)は1未満であり、前記乾燥により樹脂膜の膜厚を前記第二膜厚(T2)から第三膜厚(T3)に低下させ、前記第二膜厚(T2)に対する前記第三膜厚(T3)の比(T3/T2)は0.90以下であり、前記樹脂膜を湿度35%RH以上の環境下に置いて前記調節を行う。
1つの実施形態においては、上記樹脂膜を温度40℃未満の環境下に置いて上記調節を行う。
1つの実施形態においては、上記乾燥を行う温度と上記調節を行う温度との差は25℃以上である。
1つの実施形態においては、上記調節を行う湿度と上記乾燥を行う湿度との差は30%RH以上である。
1つの実施形態においては、上記樹脂膜を温度60℃以上および湿度10%RH以下の環境下に置いて上記乾燥を行う。
1つの実施形態においては、上記第一膜厚(T1)、上記第二膜厚(T2)および上記第三膜厚(T3)は、(T2/T1)/(T3/T2)≧1の関係を満足する。
1つの実施形態においては、上記第一膜厚(T1)は5μm以上である。
1つの実施形態においては、上記製造方法により、厚み7μm以下の偏光膜を得る。
本発明の実施形態によれば、高い光学特性と優れた外観とを兼ね備えた偏光膜を得ることができる。
本発明の1つの実施形態による積層体の概略の構成を示す模式的な断面図である。 水を用いた処理後の樹脂膜の膜厚と水分率との関係を示すグラフである。 偏光膜の製造工程の一例を示す概略図である。 乾燥ゾーンにおいて加熱ロールを用いた乾燥の一例を示す概略図である。 本発明の1つの実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。 比較例1の偏光板の観察写真である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、水を用いた処理を経て、第一膜厚(T1)を有する樹脂膜を得る工程と、樹脂膜の膜厚を第一膜厚(T1)から第二膜厚(T2)に減少させる調節工程と、第二膜厚(T2)を有する樹脂膜を乾燥する乾燥工程と、を含む。
A.樹脂膜
上記樹脂膜は、例えば、樹脂基材上に樹脂層(代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂層)を形成して積層体を作製し、この積層体を延伸およびヨウ素等の二色性物質で染色(例えば、ヨウ素の吸着により染色)することにより得ることができる。
A-1.積層体
図1は、本発明の1つの実施形態による積層体の概略の構成を示す模式的な断面図である。積層体1は、熱可塑性樹脂基材(例えば、長尺状の)2とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層3とを有する。好ましくは、積層体1は、熱可塑性樹脂基材2上に、PVA系樹脂とハロゲン化物とを含むPVA系樹脂層3を形成して作製される。具体的には、熱可塑性樹脂基材2上に、PVA系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層3を形成する。
上記熱可塑性樹脂基材の厚みは、好ましくは20μm~300μmであり、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、後述の水中延伸において、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。このような熱可塑性樹脂基材は、水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させ、高倍率に延伸し得る。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。このような吸水率によれば、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の品質が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に熱可塑性樹脂基材が破断したり、PVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、Tgは、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは90℃以下である。一方、熱可塑性樹脂基材のTgは、好ましくは60℃以上である。このようなTgによれば、上記塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、上記樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。熱可塑性樹脂基材のTgは、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸および/またはシクロヘキサンジカルボン酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコールをさらに含む共重合体が挙げられる。
別の実施形態においては、イソフタル酸ユニットを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。延伸性に極めて優れるとともに、延伸時の結晶化が抑制され得るからである。これは、イソフタル酸ユニットを導入することで、主鎖に大きな屈曲を与えることによるものと考えられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸ユニットおよびエチレングリコールユニットを有する。イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは1.0モル%以上である。延伸性に極めて優れた熱可塑性樹脂基材が得られるからである。一方、イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは20モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。後述の乾燥において結晶化度を良好に増加させ得るからである。
熱可塑性樹脂基材は、予め(例えば、PVA系樹脂層を形成する前に)、延伸されていてもよい。1つの実施形態においては、長尺状の熱可塑性樹脂基材の横方向に延伸されている。横方向は、好ましくは、後述の積層体の延伸方向に直交する方向である。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg-10℃~Tg+50℃である。熱可塑性樹脂基材の延伸倍率は、好ましくは1.5倍~3.0倍である。熱可塑性樹脂基材の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸でもよい。延伸方式は、乾式でもよいし、湿式でもよい。延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、上記延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
上記塗布液は、代表的には、PVA系樹脂とハロゲン化物とを溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。塗布液におけるPVA系樹脂の含有量は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような範囲によれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~20重量部である。
上記PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%であり、より好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。なお、ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
PVA系樹脂の平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500であり、より好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム等のヨウ化物、塩化ナトリウム等の塩化物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ハロゲン化物を用いることにより、高い光学特性を有する偏光膜を得ることができる。具体的には、後述の空中補助延伸後のPVA系樹脂の結晶化が促進され、その後の湿式処理(例えば、後述の染色、水中延伸)において、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れおよび配向性の低下が抑制され、高い光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
塗布液の調製において、PVA系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化物を5重量部~20重量部配合することが好ましく、より好ましくは10重量部~15重量部である。具体的には、得られるPVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。PVA系樹脂に対するハロゲン化物の量が多いと、例えば、ハロゲン化物がブリードアウトし、得られる偏光膜が白濁する場合がある。
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、例えば、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性を向上させる目的で使用される。
上記塗布液の塗布方法としては、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
上記PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは3μm~40μmであり、さらに好ましくは3μm~20μmである。
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
A-2.延伸
上記延伸は、上記積層体を、乾式延伸(空中補助延伸)した後に、水中延伸することにより行うことが好ましい。補助延伸により、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、ホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。また、熱可塑性樹脂基材を用いる場合、上記塗布温度が低く設定され得ることから、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなって十分な光学特性が得られないという問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂を用いる場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高め得る。また、PVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の湿式処理時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止し得る。こうして、高い光学特性を有する偏光膜が得られ得る。
空中補助延伸の方法は、固定端延伸(例えば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が採用される。例えば、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸が採用される。1つの実施形態においては、空中補助延伸は、熱空間(ゾーン)におけるゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されないが、例えば、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。別の実施形態においては、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して垂直方向)のテンターの距離は、好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定される。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率は、式:幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
空中補助延伸の延伸倍率は、好ましくは2.0倍~3.5倍である。空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、後述の水中延伸の延伸方向と略同一である。
空中補助延伸の延伸温度は、例えば、用いる熱可塑性樹脂基材、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定される。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、より好ましくはTg+10℃以上であり、さらに好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
上記水中延伸は、代表的には、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、高い光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
水中延伸の方法は、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が採用される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
水中延伸は、好ましくは、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、高い光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、さらに好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部であり、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、65℃以上であってもよい。このような温度であれば、高倍率に延伸することができ、高い光学特性を有する偏光膜を得ることができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。また、このような温度で延伸しても、後述の膜厚の調節を行うことにより、優れた外観を有する偏光膜を得ることができる。一方、延伸温度は、好ましくは75℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、65℃以下であってもよい。延伸温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、高い光学特性が得られないおそれがある。このような延伸温度によれば、より優れた外観を有する偏光膜を得ることができる。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上であり、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率(空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、より好ましくは5.5倍以上であり、さらに好ましくは6.0倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
A-3.染色
上記染色は、代表的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。ヨウ素の吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法が挙げられる。好ましくは、染色液(染色浴)に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着され得るからである。
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例としては、上述のとおりである。好ましくは、ヨウ化カリウムが用いられる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~10重量部であり、より好ましくは0.3重量部~5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分であり、より好ましくは30秒~90秒である。
染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、例えば、最終的に得られる偏光膜の単体透過率が42.0%以上であり、かつ、偏光度が99.98%以上となるように設定することができる。このような染色条件としては、例えば、染色液であるヨウ素水溶液において、ヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比を1:5~1:20とすることが好ましく、より好ましくは1:5~1:10である。
ホウ酸を含有する処理浴に積層体を浸漬させる処理(例えば、後述の不溶化処理)後に連続して染色を行う場合、ホウ酸が染色浴に混入して染色浴のホウ酸濃度が変化し、染色性が不安定になる場合がある。このような染色性の不安定化を抑制するために、染色浴のホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは4重量部以下、より好ましくは2重量部以下となるように調整される。一方で、染色浴のホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上であり、より好ましくは0.2重量部以上であり、さらに好ましくは0.5重量部以上である。1つの実施形態においては、予めホウ酸を含む染色浴を用いて染色する。このような形態によれば、ホウ酸が染色浴に混入した場合のホウ酸濃度の変化の割合を低減し得る。予め染色浴に配合するホウ酸の配合量(上記処理浴に由来しないホウ酸の含有量)は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~2重量部であり、より好ましくは0.5重量部~1.5重量部である。
A-4.その他の処理
必要に応じて、上記空中補助延伸の後、水中延伸および染色の前に、不溶化処理を行う。不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、水に浸漬した時のPVAの配向低下を防止することができる。不溶化処理におけるホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化処理の温度(ホウ酸水溶液の液温)は、好ましくは20℃~50℃である。
必要に応じて、染色の後、水中延伸の前に、架橋処理を行う。架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、後の水中延伸においてPVAの配向低下を防止することができる。架橋処理におけるホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ホウ酸水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。架橋処理の温度(ホウ酸水溶液の液温)、好ましくは20℃~50℃である。
好ましくは、水中延伸の後、洗浄を行う。洗浄は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
B.樹脂膜の膜厚
上記水を用いた処理を経た樹脂膜は第一膜厚(T1)を有し、このような樹脂膜に対して膜厚の調節を行う。樹脂膜の膜厚は、図2に示すように、樹脂膜の水分率と相関関係を有し得る。具体的には、樹脂膜は、吸水することによる面内方向の寸法変化が吸水性の低い樹脂基材によって拘束されており、樹脂膜は吸水量に応じて厚さ方向に膨張すると考えられる。したがって、水を用いた処理後(例えば、上記洗浄後)の樹脂膜の膜厚と樹脂膜の水分率との間に、相関関係があると考えられる。なお、図2のグラフは、下記表1に示す様々な延伸条件(具体的には、延伸浴のホウ酸濃度)で積層体を水中延伸したときの、水を用いた処理後の樹脂膜の膜厚と水分率のデータをプロットしたものである。グラフ中の近似曲線は、プロットデータから指数関数となるように最小二乗法で求めた近似曲線である。図2中の水分率は、乾燥重量法に基づき、以下の式により算出したものである。
樹脂膜の水分率=(水を用いた処理後の樹脂膜の重量-乾燥後の樹脂膜の重量)/乾燥後の樹脂膜の重量
Figure 2023050227000002
第一膜厚(T1)は、例えば4.0μm以上であり、好ましくは4.5μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、6μm以上であってもよく、7μm以上であってもよい。一方、第一膜厚(T1)は、例えば20μm以下であり、好ましくは12μm以下である。
図3は、偏光膜の製造工程の一例を示す概略図である。樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体1を、搬送ロールによってホウ酸水溶液の浴101中に浸漬した後(不溶化処理)、二色性物質(ヨウ素)およびヨウ化カリウムの水溶液の浴102中に浸漬する(染色処理)。次いで、ホウ酸およびヨウ化カリウムの水溶液の浴103中に浸漬する(架橋処理)。次いで、積層体1を、ホウ酸水溶液の延伸浴104中に浸漬しながら、速比の異なるロールで搬送方向に張力を付与して延伸する(水中延伸処理)。次いで、水中延伸した積層体1を、ヨウ化カリウム水溶液の浴105中に浸漬して洗浄する(洗浄処理)。なお、図示しないが、例えば、不溶化処理前に、積層体1は上記空中補助延伸が施されてもよい。
水を用いた処理の後の(水浴を通過した)積層体1は、調節ゾーン110に搬送され、次いで、乾燥ゾーン120に搬送される。
調節ゾーン110を通過することにより、積層体1の樹脂膜(PVA系樹脂層)は、その膜厚を上記第一膜厚(T1)から第二膜厚(T2)となるように調節され得る(調節工程)。具体的には、調節ゾーン110の入口において、樹脂膜は第一膜厚(T1)を有し、調節ゾーン110の出口(乾燥ゾーン120の入口)において、樹脂膜は第二膜厚(T2)を有する。
第二膜厚(T2)は、好ましくは3.5μm以上8.6μm以下であり、より好ましくは5.5μm以上8.3μm以下である。第一膜厚(T1)に対する第二膜厚(T2)の比(T2/T1)は、好ましくは0.85以上であり、より好ましくは0.86以上である。一方、T2/T1は、1未満であり、好ましくは0.95以下であり、より好ましくは0.93以下であり、さらに好ましくは0.90以下である。
調節ゾーン110における温度は、好ましくは40℃未満であり、より好ましくは35℃以下であり、30℃以下であってもよい。一方、調節ゾーン110における温度は、好ましくは20℃以上であり、22℃以上であってもよい。このような温度の環境下に樹脂膜を置くことにより、所定の時間をかけて上記第二膜厚(T2)を良好に達成し得る。調節ゾーン110における湿度は、好ましくは35%RH以上であり、より好ましくは40%RH以上である。一方、調節ゾーン110における湿度は、例えば65%RH以下である。このような湿度の環境下に樹脂膜を置くことにより、所定の時間をかけて上記第二膜厚(T2)を良好に達成し得る。
調節ゾーン110の通過時間は、例えば5秒~4分である。調節ゾーン110の通過時間は、例えば、所定の条件の環境下に樹脂膜を置く時間に対応する。なお、調節ゾーン110において、温度および湿度は常に一定でなくてもよいが、例えば、上記温度および湿度の範囲内に保たれていることが好ましい。
調節工程における膜厚の減少速度(R1)は、好ましくは3.6μm/分以下であり、より好ましくは3.2μm/分以下であり、さらに好ましくは3.0μm/分以下である。一方、R1は、例えば2.0μm/分以上である。
乾燥ゾーン120を通過することにより、樹脂膜は、その膜厚を第二膜厚(T2)から第三膜厚(T3)に低下させる(乾燥工程)。具体的には、乾燥ゾーン120の入口において、樹脂膜は第二膜厚(T2)を有し、乾燥ゾーン120の出口において、樹脂膜は第三膜厚(T3)を有する。
第三膜厚(T3)は、好ましくは3.0μm以上7.0μm以下であり、より好ましくは4.0μm以上6.5μm以下である。第二膜厚(T2)に対する第三膜厚(T3)の比(T3/T2)は、0.90以下であり、好ましくは0.85以下であり、より好ましくは0.80以下であり、さらに好ましくは0.75以下である。一方、T3/T2は、例えば0.70以上であり、好ましくは0.72以上である。(T3/T2)に対する上記(T2/T1)の比(T2/T1)/(T3/T2)は1以上であることが好ましい。また、第一膜厚(T1)に対する第三膜厚(T3)の比(T3/T1)は、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.75以下である。一方、T3/T1は、例えば0.50以上である。
乾燥工程における膜厚の減少速度(R2)は、好ましくは0.8μm/分以上であり、より好ましくは1.2μm/分以上であり、さらに好ましくは1.6μm/分以上である。一方、R2は、好ましくは3.0μm/分以下である。
乾燥は、任意の適切な方式で行い得る。例えば、乾燥ゾーン120全体を加熱すること(ゾーン加熱方式)により行ってもよいし、乾燥ゾーン120において搬送ロールを加熱すること(加熱ロール方式)により行ってもよい。好ましくは加熱ロール方式が採用され、より好ましくはその両方が採用される。加熱ロールを用いることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、品質に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥による樹脂膜の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。
乾燥により、積層体を幅方向に収縮させ、光学特性を向上させることができる。例えば、PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、さらに好ましくは4%~7%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
図4は、乾燥ゾーンにおいて加熱ロールを用いた乾燥の一例を示す概略図である。図示例では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体1を搬送しながら乾燥させる。図示例では、積層体1の樹脂膜の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールが配置されているが、例えば、積層体の一方の面(例えば、熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールを配置してもよい。
1つの実施形態においては、搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、より好ましくは65℃~100℃であり、さらに好ましくは70℃~90℃である。このような温度によれば、熱可塑性樹脂の結晶化度を増加させてカールを抑制し得るとともに、積層体に極めて優れた耐久性を付与し得る。また、上記樹脂膜の膜厚を良好に達成し得る。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1秒~20秒であり、さらに好ましくは1秒~10秒である。
加熱ロールが設けられてもよい乾燥ゾーン120は、加熱されていることが好ましい。例えば、乾燥ゾーン120は、加熱炉(例えば、オーブン)内の空間である。このような形態によれば、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。乾燥ゾーン120における温度は、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、特に好ましくは85℃以上である。一方、乾燥ゾーン120における温度は、例えば、シワの発生を抑制する観点から、好ましくは105℃以下であり、より好ましくは95℃以下である。乾燥ゾーン120における湿度は、好ましくは10%RH以下であり、より好ましくは5%RH以下である。一方、乾燥ゾーン120における湿度は、例えば1%RH以上である。加熱炉内は送風状態とされることが好ましい。この場合、熱風の風速は、例えば10m/s~30m/s程度である。なお、加熱炉内における風速は、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
乾燥ゾーン120における温度は、調節ゾーン110における温度よりも高いことが好ましい。乾燥ゾーン120における温度と調節ゾーン110における温度との差(乾燥を行う温度と調節を行う温度との差)は、好ましくは25℃以上70℃以下であり、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは50℃以上であり、特に好ましくは55℃以上である。調節ゾーン110における湿度は、乾燥ゾーン120における湿度よりも高いことが好ましい。調節ゾーン110における湿度と乾燥ゾーン120における湿度との差(調節を行う湿度と乾燥を行う湿度との差)は、好ましくは30%RH以上70%RH以下であり、より好ましくは35%RH以上である。
乾燥ゾーン120の通過時間は、例えば5秒~4分である。乾燥ゾーン120の通過時間は、例えば、所定の条件の環境下に樹脂膜を置く時間に対応する。なお、乾燥ゾーン120において、温度および湿度は常に一定でなくてもよいが、例えば、上記温度および湿度の範囲内に保たれていることが好ましい。
調節工程を経た樹脂膜に対して乾燥を行うことにより、高い光学特性と優れた外観とを兼ね備えた偏光膜を得ることができる。本発明者らは、例えば、乾燥前の樹脂膜の膜厚を管理することにより、トレードオフの関係にあると考えられる光学特性と外観とを両立させ得ることを見出した。
C.偏光膜
本発明の実施形態により得られる偏光膜は、ヨウ素等の二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムから構成される。偏光膜の厚みは、例えば10μm以下であり、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下である。本発明の実施形態によれば、このような厚みの偏光膜において、高い光学特性と優れた外観とを両立させることができる。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上である。
偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率(Ts)は、好ましくは41.0%以上であり、より好ましくは42.0%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。一方、偏光膜の単体透過率は、例えば44.2%以下である。偏光膜の偏光度(P)は、好ましくは99.95%以上であり、より好ましくは99.98%以上であり、さらに好ましくは99.99%以上である。一方、偏光膜の偏光度は、例えば99.996%以下である。
上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
偏光膜のホウ酸含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下である。このようなホウ酸含有量を有することにより、より高い光学特性を達成し得る。また、このようなホウ酸含有量においても、上記膜厚の調節により、優れた外観を達成し得る。偏光膜のホウ酸含有量は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは13%以上であり、さらに好ましくは16%以上である。このようなホウ酸含有量によれば、より外観に優れ得る。なお、偏光膜のホウ酸含有量は、例えば、上記水中延伸におけるホウ酸濃度を調整することにより調整される。
D.偏光板
本発明の1つの実施形態による偏光板は、上記偏光膜と、この偏光膜の少なくとも片側に配置される保護層または位相差層とを有する。
図5は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。偏光板100は、互いに対向する第一主面10aおよび第二主面10bを有する偏光膜10と、偏光膜10の第一主面10a側に配置された保護層20と、偏光膜10の第二主面10b側に配置された位相差層30および粘着剤層40を有する。本実施形態では、位相差層30は、偏光膜10の保護層として機能し得る。
保護層20は、偏光膜の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成され得る。このようなフィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系等のシクロオレフィン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂が挙げられる。なお、上記樹脂基材を偏光膜の保護層として用いてもよい。
偏光板100は、代表的には、画像表示装置の視認側に配置される。したがって、保護層20には、必要に応じて、ハードコート(HC)処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。保護層20の厚みは、好ましくは5μm~80μmであり、より好ましくは10μm~40μmであり、さらに好ましくは10μm~30μmである。なお、表面処理が施されている場合、保護層20の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
位相差層30としては、任意の適切な構成が採用され得る。1つの実施形態においては、位相差層30に、液晶化合物の配向固化層(液晶配向固化層)が用いられる。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための位相差層の厚みを格段に小さくすることができる。本明細書において「配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。なお、「配向固化層」は、液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。
位相差層30は、代表的には、屈折率特性がnx>ny=nzの関係を示す層を含む。なお、「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny>nzまたはny<nzとなる場合がある。位相差層のNz係数は、好ましくは0.9~1.5であり、より好ましくは0.9~1.3である。
粘着剤層40としては、任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ベース樹脂は、好ましくはアクリル樹脂である(具体的には、粘着剤層は、好ましくはアクリル系粘着剤で構成される)。粘着剤層の厚みは、例えば10μm~20μmである。
偏光板を構成する各部材は、任意の適切な接着層(図示せず)を介して積層され得る。接着層の具体例としては、接着剤層、粘着剤層が挙げられる。具体的には、位相差層30は、接着剤層を介して(好ましくは、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて)偏光膜10に貼り合わせられてもよいし、粘着剤層を介して偏光膜10に貼り合わせられてもよい。
図示しないが、粘着剤層40の表面には、実用的には、はく離ライナーが貼り合わせられる。はく離ライナーは、偏光板が使用に供されるまで仮着され得る。はく離ライナーを用いることにより、例えば、粘着剤層を保護するとともに、偏光板のロール形成が可能となる。
偏光板は、長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。本明細書において、「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状をいい、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状をいう。長尺状の偏光板は、ロール状に巻回可能である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、厚みは下記の測定方法により測定した値である。
(厚み)
10μm以下の厚みは、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JSM-7100F」)を用いて測定した。10μmを超える厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。
[実施例1]
(樹脂膜の作製)
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1の重量比で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に3.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が42.5%以上となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄)。
このようにして、樹脂基材上に樹脂膜を得た。
(膜厚の調節)
次いで、積層体を23.4℃および47%RHの環境下(調節ゾーン)に20秒間置き、樹脂膜の膜厚を減少させた。
(乾燥)
その後、積層体を90℃および2%RHに保たれたオーブン内(乾燥ゾーン)に1分間置いた。この間に、オーブン内に配置され、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒間接触させた。
こうして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を得た。なお、乾燥による積層体の幅方向の収縮率は6.1%であった。
なお、オーブン内(乾燥ゾーン)の温度および湿度、オーブンに入る前の膜厚の調節の際(調節ゾーン)の温度および湿度の測定は、温湿度データロガー(testo社製、製品名「175 H1」)を用いて行った。
(偏光板の作製)
上記樹脂基材と偏光膜との積層体の偏光膜側に、紫外線硬化型接着剤を介してHC-TACフィルム(厚み32μm)を貼り合わせた後、偏光膜から樹脂基材を剥離して偏光板を得た。HC-TACフィルムは、TACフィルム(厚み25μm)にハードコート(HC)層(厚み7μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光膜側となるようにして貼り合わせた。
[実施例2]
実施例1と同様の手順により、偏光膜および偏光板を得た。なお、調節ゾーンの温度は24.1℃で湿度は45%RHであった。
[実施例3]
積層体に含まれるPVA系樹脂層の厚みを15μmとしたこと、および、積層体を液温64℃のホウ酸水溶液に浸漬させて水中延伸したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。なお、調節ゾーンの温度は22.8℃で湿度は47%RHであった。
[実施例4]
積層体を液温64℃のホウ酸水溶液に浸漬させて水中延伸したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。なお、調節ゾーンの温度は23.1℃で湿度は44%RHであった。
[比較例1]
膜厚の調節に際し積層体を37.7℃および23%RHの環境下に20秒間置いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
[比較例2]
比較例1と同様の手順により、偏光膜および偏光板を得た。なお、調節ゾーンの温度は37.5℃で湿度は25%RHであった。
実施例および比較例について、下記の評価を行った。評価結果を表2にまとめる。
<評価>
1.樹脂膜の膜厚
分光干渉式膜厚計(オーシャンインサイト社製、分光器「USB2000+」、光源「HL-2000」、ファイバー「OCF-103995」)を用いて樹脂膜の膜厚を測定(インライン測定)した。測定は、調節ゾーンの入口、調節ゾーンの出口(乾燥ゾーンの入口)および乾燥ゾーンの出口において行い、膜厚T1、T2およびT3を求めた。なお、樹脂基材上に形成された樹脂膜の膜厚の測定に際し、膜厚計は樹脂基材側に配置させた。
2.ホウ酸含有量
フーリエ変換赤外分光分析装置(パーキンエルマー社製、型式「Frontier FT-IR」)を用いて、偏光膜のスペクトルを測定し、得られたスペクトル結果から偏光膜中に存在するホウ酸含有量を算出した。具体的には、(-CH-)結合に由来する2940cm-1およびホウ酸エステルに由来する665cm-1のピーク強度から算出した。なお、測定用サンプルは、乾燥ゾーン出口で採取した。
3.単体透過率および偏光度
実施例および比較例の偏光板について、紫外可視分光光度計(日本分光社製、V-7100)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
4.外観
実施例および比較例の偏光板の外観(スジ状痕の有無)を、目視により観察した。
(評価基準)
良好:スジ状痕は目視で確認されない
不良:スジ状痕が目視で確認される
Figure 2023050227000003
比較例1の偏光板は、図6に示すようなスジ状痕(偏光膜の延伸方向に沿った)が確認された。
本発明の実施形態による偏光膜は、例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、無機EL表示装置等の画像表示装置に好適に用いられる。
1 積層体
2 熱可塑性樹脂基材
3 樹脂層(樹脂膜)
10 偏光膜
20 保護層
100 偏光板

Claims (8)

  1. 水を用いた処理を経て、第一膜厚(T1)を有する樹脂膜を得る工程と、
    前記樹脂膜の膜厚を前記第一膜厚(T1)から第二膜厚(T2)に減少させる調節工程と、
    前記第二膜厚(T2)を有する樹脂膜を乾燥する乾燥工程と、を含み、
    前記第一膜厚(T1)に対する前記第二膜厚(T2)の比(T2/T1)は1未満であり、
    前記乾燥により樹脂膜の膜厚を前記第二膜厚(T2)から第三膜厚(T3)に低下させ、前記第二膜厚(T2)に対する前記第三膜厚(T3)の比(T3/T2)は0.90以下であり、
    前記樹脂膜を湿度35%RH以上の環境下に置いて前記調節を行う、
    偏光膜の製造方法。
  2. 前記樹脂膜を温度40℃未満の環境下に置いて前記調節を行う、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記乾燥を行う温度と前記調節を行う温度との差は25℃以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記調節を行う湿度と前記乾燥を行う湿度との差は30%RH以上である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記樹脂膜を温度60℃以上および湿度10%RH以下の環境下に置いて前記乾燥を行う、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 前記第一膜厚(T1)、前記第二膜厚(T2)および前記第三膜厚(T3)は、(T2/T1)/(T3/T2)≧1の関係を満足する、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
  7. 前記第一膜厚(T1)は5μm以上である、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 厚み7μm以下の偏光膜を得る、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
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