次に、図面を参照して発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るトラクタ10を示す側面図である。図2は、トラクタ10の平面図である。図3は、運転座席32の前方に配置される操作具を示す斜視図である。
図1に示すトラクタ10は、農作業機(作業車両)であり、ロータリ、ローダ、プラウ、ハロー、ボックススクレーパー等の各種の作業機3を必要に応じて車体11に装着し、車体11に支持された作業機3により各種の作業を行うことができる。図1では、作業機3としてロータリ耕耘機を用いた例が示されている。なお、以下の説明では、単に「左側」「右側」等というときは、トラクタ10が前進する方向に向かって左側及び右側を意味するものとする。
図1に示すように、トラクタ10は、車体11と、左右1対の前輪12と、左右1対の後輪13と、を備える。車体11の前部にはボンネット14が配置されており、当該ボンネット14の内部にはエンジン(駆動源)15が配置されている。なお、エンジン15に加えて又は代えて走行用の電動モータ(駆動源)が設けられていてもよい。
左右1対の後輪13の間には、ミッションケース16が配置されている。エンジン15の出力は、このミッションケース16内に配置された油圧-機械式変速装置によって変速されて、後輪13へ伝達される。
ミッションケース16の後部には、ロワーリンク18が左右1対で配置されるとともに、1つのトップリンク19が配置されている。更に、ミッションケース16の後部からPTO軸20が突出して配置されている。作業機3は、ロワーリンク18及びトップリンク19に連結され、PTO軸20によって駆動される。
車体11の後部には、作業機昇降機構25と、作業機角度変更機構26と、が設けられている。
作業機昇降機構25は、左右1対のリフトアーム21と、油圧シリンダとして構成されるリフトシリンダ22と、を備える。左右一方のリフトアーム21の先端部は、リンク部材23を介して一方のロワーリンク18に連結され、他方のリフトアーム21の先端部は、後述のローリングシリンダ24を介して他方のロワーリンク18に連結されている。この構成で、リフトシリンダ22を駆動することにより、作業機3が車体11に支持される高さを変更することができる。
作業機角度変更機構26は、油圧シリンダとして構成されるローリングシリンダ(アクチュエータ)24を備える。ローリングシリンダ24は、左右1対のうち右側のリフトアーム21と、右側のロワーリンク18と、を連結するように配置される。この構成で、ローリングシリンダ24を駆動することにより、作業機3が車体11に対して支持される左右方向の傾斜姿勢を変更することができる。
ミッションケース16の上方であってボンネット14の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン31が配置されている。図3に示すように、キャビン31内には、走行速度、エンジン回転速度、作業機の状態、警告灯等を表示可能なメータパネル48が設けられている。なお、これらの情報は、キャビン31に配置されるサブディスプレイ49(図2)に表示してもよい。また、キャビン31の内部には運転座席32が設けられており、運転座席32の前方には、操舵を行うためのステアリングハンドル33が配置されている。また、運転座席32の近傍には各種の操作具が設けられている。以下、具体的に説明する。
キャビン31内には、オペレータが手で操作する操作具として、主変速レバー34と、副変速レバー35と、PTO切替ボタン36と、ブレーキ連結解除レバー37と、ブレーキ連結自動制御ボタン38と、が配置されている。
主変速レバー34は、トラクタ10の走行速度を多段階又は無段階で変更するための操作具である。副変速レバー35は、例えば2段階(低速側と高速側)の何れかを指示するための操作具である。オペレータは、副変速レバー35で大まかな速度を指定した後に、主変速レバー34を用いて細かい速度を指定する。なお、副変速は3段階以上に切替可能であってもよい。この場合、3以上の副変速段は、圃場作業用の変速段(低速側)と、路上走行用の変速段(高速側)と、の何れかに区分されることが好ましい(例えば3段の場合、低速1段、高速1段、及び高速2段等)。PTO切替ボタン36は、PTO軸20への動力の伝達/遮断を切換操作するための操作具である。即ち、PTO切替ボタン36がON状態であるときPTO軸20に動力が伝達されてPTO軸20が回転し、作業機3が駆動される一方、PTO切替ボタン36がOFF状態であるときPTO軸20への動力が遮断されてPTO軸20が回転せず、作業機3が停止される。ブレーキ連結解除レバー37及びブレーキ連結自動制御ボタン38は、後述の片ブレーキに関する操作具である。
また、図3に示すように、キャビン31内には、オペレータが足で操作する操作具として、アクセルペダル41と、クラッチペダル42と、ブレーキペダル43と、連結解除ペダル44と、が配置されている。
アクセルペダル41は、例えばエンジン回転速度を上昇させることで車速を上昇させるための操作具である。クラッチペダル42は、エンジン15の動力を後輪13に伝達するか否かを切り替えるための操作具である。ブレーキペダル43は、後輪13の回転を制動するための操作具である。ブレーキペダル43は、左の後輪13を制動するための左ブレーキペダル43aと、右の後輪13を制動するための右ブレーキペダル43bと、を備える。オペレータが左ブレーキペダル43aを踏み込む操作力は、図略の伝達機構を介して、左ブレーキリンク45に伝達される。左ブレーキリンク45を動作させることで、左ブレーキリンク45に連結されているブレーキパッドが、左の後輪13のブレーキディスクに押し付けられ、左の後輪13が制動される。同様に、オペレータが右ブレーキペダル43bに加えた操作力により、右ブレーキリンク46を介してブレーキパッドが動作し、右の後輪13が制動される。
このように、トラクタ10は左右の後輪13を個別に制動することができる。以下の説明では、トラクタ10の左右の何れかのみを制動することを片ブレーキと称することがある。例えば圃場での旋回時において、内側の後輪13のみを制動することで、トラクタ10の旋回半径を小さくすることができる。
路上での走行中では片ブレーキは不要であるため、以下で説明する連結機構60を動作させることで、左ブレーキペダル43aと右ブレーキペダル43bが連結される。以下、図4を参照して具体的に説明する。図4は、連結機構60の構造を示す背面図である。以下の説明では、左右のブレーキが連結されている状態を「連結状態」と称し、左右のブレーキの連結が解除されて片ブレーキが可能な状態を「連結解除状態」と称する。
ブレーキペダル43の近傍には、連結機構60が設けられている。連結機構60は、連結解除ワイヤ100を介して外部からの操作力が伝達されることで、連結状態と連結解除状態とを切替可能である。詳細は後述するが、連結解除ワイヤ100は連結解除ペダル44と連動しており、連結解除ペダル44が踏まれることで、連結解除ワイヤ100が図4の上方へ引っ張られる。
図4に示すように、連結機構60は、連結解除板61と、板回動軸部62と、ワイヤ取付部63と、連結部材64と、付勢部材65と、を備える。
連結解除板61には、板回動軸部62とワイヤ取付部63が取り付けられている。連結解除板61は、板回動軸部62の軸方向(板厚方向)を回動中心として回転可能に構成されている。また、ワイヤ取付部63には、連結解除ワイヤ100が取り付けられている。この構成により、連結解除ワイヤ100が引っ張られることで、連結解除板61が回動する。
図4では、連結解除ペダル44が踏み込まれていない状態(即ち、連結状態)での連結解除板61の位置を実線で示し、連結解除ペダル44が踏み込まれた状態(即ち、連結解除状態)での連結解除板61の位置を2点鎖線で示している。
また、左ブレーキペダル43aに接続された左ペダルアーム43cと、右ブレーキペダル43bに接続された右ペダルアーム43dには、それぞれ貫通孔が形成されている。連結状態では、これらの左ペダルアーム43cと右ペダルアーム43dの両方の貫通孔には、連結部材64が挿入される。これにより、左ペダルアーム43cと右ペダルアーム43dは連結部材64を介して一体的に動くため、片ブレーキが禁止される。
また、付勢部材65は、連結部材64がこれらの貫通孔に挿入された状態を維持するように、当該連結部材64に付勢力を加える。具体的には、付勢部材65は、連結部材64を左ペダルアーム43c側へ押圧している。これにより、連結解除ワイヤ100に操作力が与えられていない状態では、連結状態が維持される。
連結解除ワイヤ100に操作力が与えられることで、連結解除板61が付勢部材65の付勢力に抗して回動する。また、連結解除板61の端部に形成された接触部61aは、連結部材64に形成された溝部(切欠き部)に収容されている。この構成により、連結解除板61が回動することで、接触部61aが連結部材64をスライドさせるため、連結部材64が左ペダルアーム43cの貫通孔から抜ける。これにより、左右のブレーキの連結が解除され、左ペダルアーム43cと右ペダルアーム43dは個別に動くことができる(連結解除状態)。
次に、図5及び図6を参照して、連結解除状態を許可するための構造について説明する。図5は、連結解除機構50の構造を示す側面図である。図6は、連結解除機構50の構造を示す斜視図である。
ブレーキ連結解除レバー37の基部の近傍には、連結解除機構50が設けられている。連結解除機構50は、連結状態から連結解除状態に切り替わることを許可する状態と許可しない状態とを切替可能である。即ち、図6に示すように、ブレーキ連結解除レバー37は、レバースライド孔90に沿って移動可能に構成されている。レバースライド孔90は、スライド部91と固定部92を含んで構成されている。スライド部91は、ブレーキ連結解除レバー37をスライドさせるスライド領域を含む。固定部92は、スライド部91のスライド方向の一端の下方に形成されており、ブレーキ連結解除レバー37の位置を当該一端で固定するための領域である。本実施形態では、ブレーキ連結解除レバー37が固定部92に位置している間は、連結状態から連結解除状態への切替えが許可される。即ち、ブレーキ連結解除レバー37が固定部92に位置し、かつ、オペレータが連結解除ペダル44を踏み込むことで、連結状態から連結解除状態へ切り替わる。一方、ブレーキ連結解除レバー37が固定部92に位置していない場合、オペレータが連結解除ペダル44を踏み込んでも連結解除状態へ切り替わらない。従って、以下では固定部92を解除位置と称することがある。
図5及び図6に示すように、連結解除機構50は、第1レバー回動軸部51と、第2レバー回動軸部52と、第1ロック部53と、連結解除アーム54と、アーム回動軸部55と、付勢部材56と、第2ロック部57と、を備える。
ブレーキ連結解除レバー37は、第1レバー回動軸部51を回動中心として第1方向(水平方向)に回動可能であるとともに、第2レバー回動軸部52を中心として第2方向(上下方向)に回動可能である。また、ブレーキ連結解除レバー37は、付勢部材51aによって、ブレーキ連結解除レバー37が解除位置(固定部92)から離れる方向に付勢されている。従って、ブレーキ連結解除レバー37がスライド部91に位置している場合であって、オペレータの操作力が掛かっていないときは、ブレーキ連結解除レバー37は解除位置の反対側に位置する。
ブレーキ連結解除レバー37の基部の下方には、連結解除アーム54が配置されている。連結解除アーム54は、アーム回動軸部55を回動中心として第2方向(上下方向)に回動可能である。連結解除アーム54には、連結解除ワイヤ100が取り付けられている。また、連結解除アーム54は付勢部材56により上側に付勢されている。付勢部材56の付勢力に抗して連結解除アーム54を下側に回動させることで、連結解除ワイヤ100を引っ張ることができる。
また、ブレーキ連結解除レバー37の基部には、下方に延びるように形成された第1ロック部53が設けられている。ブレーキ連結解除レバー37と第1ロック部53は一体的に移動する。一方、アーム回動軸部55の上部には、上方に延びるように形成された第2ロック部57が設けられている。連結解除アーム54及び第2ロック部57は、アーム回動軸部55を介して一体的に回動する。ここで、図5及び図6に示す状態では、第1ロック部53と第2ロック部57が干渉するため、第2ロック部57を回動させることができない。一方、ブレーキ連結解除レバー37を解除位置に位置させることで、第1ロック部53が第2ロック部57と干渉しなくなるので、第2ロック部57を回動させることが可能となる。その結果、連結解除ワイヤ100を操作することが可能となり、連結状態から連結解除状態に切り替わることが許可される。
また、連結解除機構50の近傍には、ブレーキ連結解除レバー37のレバー位置を検出するための解除レバーセンサ87が設けられている。また、連結解除機構50は、ブレーキ連結解除レバー37と一体的に回動する突出部51bを備えている。突出部51bは、ブレーキ連結解除レバー37を解除位置に位置させることで、解除レバーセンサ87に近づくように構成されている。この構成により、ブレーキ連結解除レバー37を解除位置に位置させることで、突出部51bが、解除レバーセンサ87に設けられた接触片87aに接触する。その結果、解除レバーセンサ87の導通状態が変化する。以上により、解除レバーセンサ87は、ブレーキ連結解除レバー37が解除位置に位置しているか否かを検出できる。
次に、図7及び図8を参照して、連結解除アーム54を回動させて、連結状態から連結解除状態に切り替えるための構造について説明する。図7は、解除操作機構70の構造を示す側面図である。図8は、解除操作機構70の構造を示す背面図である。
本実施形態では、オペレータによる連結解除ペダル44の踏み込みだけでなく、トラクタ10が備えるアクチュエータの動力により、連結状態を自動的に解除可能に構成されている。以下、連結状態を解除するために連結解除アーム54を動作させる構成について説明する。
図7及び図8に示すように、解除操作機構70は、オペレータが手動で連結状態を解除するための構成として、解除ペダルアーム71と、解除操作板72と、解除ペダル回動軸部73と、第1リンク74と、付勢部材75と、を備える。また、図7では、連結解除ペダル44が踏み込まれていない状態を実線で示し、連結解除ペダル44が踏み込まれた状態を2点鎖線で示している。
解除ペダルアーム71は、連結解除ペダル44に固定されており、連結解除ペダル44と一体的に移動(回動)する。解除ペダルアーム71の基端部かつ後部には、解除操作板72が接続されている。また、解除操作板72は、解除ペダル回動軸部73に回動可能に接続されている。この構成により、連結解除ペダル44、解除ペダルアーム71、及び解除操作板72は、解除ペダル回動軸部73を回動中心として一体的に回動可能である。また、解除操作板72には、第1操作部72a、第2操作部72b、及び第3操作部72cが設けられている。
第1リンク74の一端(下端)は解除操作板72の第1操作部72aに回転可能に取り付けられている。第1リンク74の他端(上端)は、連結解除アーム54に回転可能に取り付けられている。この構成により、解除操作板72が下方に回動することで、連結解除アーム54も下方に回動する。その結果、ブレーキ連結解除レバー37が解除位置(固定部92)に位置している場合は、連結解除ワイヤ100が下方に引っ張られ、連結状態が解除される。また、第2操作部72bには、付勢部材75が取り付けられている。付勢部材75は、解除操作板72を上方(オペレータの操作力が掛かる方向と反対方向)に付勢している。従って、オペレータによる操作力が掛からなくなった場合、付勢部材75の付勢力により、連結解除ペダル44等は元の位置に戻る。
解除操作機構70は、自動で連結状態を解除できるように、更に、第2リンク76と、電動モータ77と、モータ操作部78と、を備える。
第2リンク76の一端(後端)は解除操作板72の第3操作部72cに回転可能に取り付けられている。第2リンク76の他端(前端)には長孔が形成されている。この長孔には、電動モータ77の動力によって回動するモータ操作部78が挿入されている。この構成により、電動モータ77がモータ操作部78を回動させることで、第2リンク76を介して解除操作板72を回動させることができる。その結果、オペレータが連結解除ペダル44を踏み込んだときと同様に、連結解除ワイヤ100が下方に引っ張られ、連結状態が解除される。なお、第2リンク76を長孔にすることで、オペレータが連結解除ペダル44を踏み込んだ際に、オペレータの操作力が電動モータ77側に伝達することを防止できる。
以上の構成により、解除操作機構70は、オペレータの操作力又は電動モータ77の動力により、連結解除アーム54を動作させて連結解除ワイヤ100を引っ張ることで、連結状態から連結解除状態に切り替えることができる。
次に、図9及び図10を参照して、連結状態と連結解除状態を自動的に切り替える処理について説明する。図9は、この処理を実現するための電気的な構成を示すブロック図である。図10は、この処理を示すフローチャートである。
従来のトラクタは、連結解除ペダルを踏んでいる間のみ連結解除状態となるため、片ブレーキを行うためには、例えば左足で連結解除ペダルを踏み込みつつ、右足で左右の何れかのブレーキペダルを踏む必要があった。従って、操作が煩雑であるとともに、オペレータの姿勢が不安定になることがあった。これに対し、本実施形態では、連結解除ペダル44を踏み込んだ場合だけでなく、一定条件下で電動モータ77を動作させることで、連結状態から連結解除状態へ自動的に切り替える。
図9に示すように、トラクタ10は、制御装置80と、車速センサ81と、回転速度センサ82と、舵角センサ83と、作業機高さセンサ84と、PTOセンサ85と、副変速センサ86と、解除レバーセンサ87と、ブレーキ連結自動制御ボタン38と、を備える。
制御装置80は、CPU等の演算部と、ROMやRAM等からなる記憶部と、を備えている。これらのハードウェアと、上記記憶部に記憶された作業機制御プログラムと、が協働することにより、連結状態から連結解除状態へ自動的に切り替える処理等が行われる。
車速センサ81は、トラクタ10の車速を検出する。車速センサ81は、車両の適宜の位置、例えば前輪12の車軸に配置されている。この車速センサ81は、例えば車軸の回転に応じたパルスを発生させるように構成されている。車速センサ81で得られた走行速度の情報は、制御装置80に出力される。
回転速度センサ82は、エンジン15のエンジン回転速度を検出する。回転速度センサ82は、例えばセンサとパルス発生器により構成され、エンジン15の出力軸であるクランク軸の回転に応じてパルスを発生する。回転速度センサ82で得られたエンジン回転速度の情報は、制御装置80に出力される。
舵角センサ83は、前輪12の舵角を検出する。舵角センサ83は、車両の適宜の位置、例えば前輪12の旋回軸である図略のキングピンに配置されている。舵角センサ83で得られた舵角の情報は、制御装置80へ出力される。
作業機高さセンサ84は、作業機3の高さを検出する。作業機高さセンサ84は、例えばリフトアーム21の回動角度を検出するポテンショメータである。作業機高さセンサ84で得られた作業機3の高さの情報は、制御装置80へ出力される。
PTOセンサ85は、PTO軸20が作業機3へ動力を伝達しているか検出する。PTOセンサ85は、PTO切替ボタン36が押圧されているか否かを検出してもよいし、PTO軸20が回転しているか否かを検出してもよい。PTOセンサ85で得られたPTO軸20の状態の情報は、制御装置80へ出力される。
副変速センサ86は、現在設定されている副変速が低速側か否かを検出するセンサである。副変速センサ86は、例えば、副変速レバー35のレバー位置を検出するセンサである。副変速センサ86で得られた副変速の情報は、制御装置80へ出力される。
解除レバーセンサ87は、上述したように、ブレーキ連結解除レバー37が解除位置(固定部92)に位置しているか(即ち、連結解除状態に切り替わることが許可されているか)を検出するセンサである。解除レバーセンサ87で得られたブレーキ連結解除レバー37のレバー位置の情報は、制御装置80へ出力される。なお、連結解除ペダル44による操作が有効か否かをオペレータが確認できるように、ブレーキ連結解除レバー37のレバー位置の情報をメータパネル48又はサブディスプレイ49等の表示装置に常に(又は一時的に)表示してもよい。
ブレーキ連結自動制御ボタン38は、電動モータ77が自動的に連結状態を解除することを許可するか否かを設定するためのボタンである。例えば、ブレーキ連結自動制御ボタン38を押圧する毎に、連結状態の自動切替が許可される状態と許可されない状態とが切り替わる。連結状態の自動切替が有効であるか否かの情報は、制御装置80へ出力される。なお、連結状態の自動切替が有効であるか否かをオペレータに確認させるために、メータパネル48又はサブディスプレイ49等の表示装置に、連結状態の自動切替が有効であるか否かを常に(又は一時的に)表示してもよい。
次に、制御装置80が行う具体的な制御について説明する。図10に示す処理は、トラクタ10が圃場に対する作業中か否かを判定し、圃場に対して作業中と判定した場合であって、更にオペレータによって許可されているときに、ブレーキの連結状態を自動で切り替える処理である。なお、本実施形態において「圃場に対して作業中」とは、作業機3を実際に作動させている状態だけでなく、作業機3を即座に作動させることが予定されている状態(例えば、作業箇所を変更するため等の理由で作業機3を上げて移動している状態)も含むものとする。
初めに、制御装置80は、ブレーキ連結解除レバー37(解除レバー)が解除位置に位置しているか否かを判定する(S101)。この判定は、解除レバーセンサ87の検出結果に基づいて行われる。ブレーキ連結解除レバー37が解除位置に位置していない場合は、連結解除アーム54を動かすことができないため(更に言えばオペレータの許可もないため)、連結状態を自動で切り替える処理を行わない。
ステップS101の条件を満たす場合、制御装置80は、連結状態の自動切替が有効か否かを判定する(S102)。この判定は、ブレーキ連結自動制御ボタン38の動作状態に基づいて行われる。連結状態の自動切替が有効でない場合、オペレータが望んでいないことになるため、連結状態を自動で切り替える処理を行わない。
ステップS102の条件を満たす場合、連結状態と連結解除状態を自動で切り替える制御が行われる。制御装置80は、副変速が低速側か否かを判定する(S103)。この判定は、副変速センサ86の検出結果に基づいて行われる。副変速が低速でない場合、例えば圃場の外部(路上)を走行する可能性があり、路上で片ブレーキは不要である。従って、制御装置80は、現在が連結解除状態であれば、電動モータ77を動作させてブレーキを連結する(S111)。
ステップS103の条件を満たす場合、制御装置80は、PTO軸20が伝達状態か否かを判定する(S104)。この判定は、PTOセンサ85の検出結果に基づいて行われる。PTO軸20が伝達状態でない場合、圃場で作業を行っていない可能性が高いため、片ブレーキは不要と考えられる。従って、制御装置80は、上述したステップS111の処理を行う。
ステップS104の条件を満たす場合、制御装置80は、車速が車速閾値以下か否かを判定する(S105)。この判定は、車速センサ81の検出結果に基づいて行われる。車速閾値は、圃場で作業を行う際に設定される車速の上限又はその近傍であり、例えば3km/hから10km/hの間であることが好ましく、5km/hであることが更に好ましい。車速が車速閾値を超える場合、圃場で作業を行っていない可能性が高いため、片ブレーキは不要と考えられる。従って、制御装置80は、上述したステップS111の処理を行う。
ステップS105の条件を満たす場合、制御装置80は、エンジン回転速度が回転速度閾値以上か否かを判定する(S106)。この判定は、回転速度センサ82の検出結果に基づいて行われる。回転速度閾値は、圃場で作業を行う際に設定されるエンジン回転速度の下限又はその近傍であり、例えば1000rpmから2000rpmの間であることが好ましく、1500rpmであることが更に好ましい。圃場で作業を行う場合は作業機3を駆動するためにエンジン回転速度を高くする必要がある。従って、エンジン回転速度が回転速度閾値を下回る場合、圃場で作業を行っていない可能性が高く、片ブレーキは不要と考えられる。従って、制御装置80は、上述したステップS111の処理を行う。
ステップS106の条件を満たす場合、制御装置80は、作業機高さが高さ閾値以下か否かを判定する(S107)。この判定は、作業機高さセンサ84の検出結果に基づいて行われる。作業機高さは、例えば作業を行うための作業状態と、作業機を上げて作業を行わずに例えば走行するための非作業状態と、の2つに分けることができる。高さ閾値は、作業状態と非作業状態の間の高さである。なお、作業機3の種類に応じて作業時の作業機高さは異なるため、作業機3の種類に応じて高さ閾値を異ならせてもよい。
ステップS103からステップS107の全ての条件(作業条件)を満たす場合、トラクタ10が圃場で作業中であると考えられる。従って、制御装置80は、現在が連結状態であれば、電動モータ77を動作させてブレーキの連結を解除する(S108)。このとき、ブレーキの連結が解除されたことを、表示装置への表示又は音声によりオペレータに知らせてもよい。なお、制御装置80は、現在が連結解除状態であれば、連結解除状態を維持して(即ち、特段の処理を行わずに)再びステップS101の処理を行う。
ここで、圃場での作業中において、作業が不要な領域を通過する等で、作業機3を一時的に上昇させることがある。作業機3の上昇中は、作業機3が圃場に対して実際に作業を行っていないが、上述のように本実施形態では「圃場に対して作業中」に該当する可能性がある。しかし、例えば、圃場に対する作業を終えて、圃場内を走行して圃場外へ向かう状況は、作業が即座に再開される訳ではないため「圃場に対して作業中」には該当しない。本実施形態では、これらを区別するために、「作業機高さが高さ閾値を超えてから経過した時間」を用いる。
具体的には、制御装置80は、「作業機高さが高さ閾値を超えてから経過した時間」が閾値時間内か否かを判定する(S109)。閾値時間は、上述した状況を区別するための時間であり、例えば10秒から20秒の間であることが好ましく、15秒であることが更に好ましい。制御装置80は、ステップS109の条件を満たす場合、上述したステップS108の処理を行う。
また、圃場での作業時では、例えばトラクタ10を直進させながら作業機3を用いて作業を行い、枕地等で旋回した後に、再びトラクタ10を直進させながら作業機3を用いて作業を行うことがある。このとき、作業機3の種類によっては、旋回中に作業機3を上昇させることがある。旋回の方法等によっては、作業機高さが高さ閾値を超えてから上記の閾値時間を超えることも考えられる。更に言えば、片ブレーキは旋回中に行うものである。
従って、ステップS109の条件を満たさない場合、制御装置80は、トラクタ10が旋回中か否かを判定する(S110)。この判定は、舵角センサ83の検出結果に基づいて行われる。具体的には、舵角センサ83が検出した舵角が閾値以上である場合は旋回中と判定される。なお、GNSS等によりトラクタ10の軌跡が特定できる場合は、この軌跡に基づいて旋回中か否かを判定してもよい。制御装置80は、ステップS110の条件を満たす場合、上述したステップS108の処理を行う。
このように、本実施形態では、ステップS109及びステップS110の何れか一方を満たす場合に、ステップS108の処理を行う。これに代えて、ステップS109及びステップS110の両方を満たす場合にのみ、ステップS108の処理を行ってもよい。
また、ステップS109及びステップS110の両方の条件を満たさない場合、「圃場に対して作業中」に該当しないと考えられるため、制御装置80は、上述したステップS111の処理を行う。制御装置80は、上述した処理を繰り返し行う。そのため、オペレータが連結状態の自動切替を許可している場合、「圃場に対して作業中」に該当すると判定されている間は自動で連結解除状態となり、「圃場に対して作業中」に該当しないと判定されている間は自動で連結状態となる。
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ10は、車体11と、車輪(前輪12、後輪13)と、ブレーキペダル43と、連結部材64と、電動モータ77と、制御装置80と、を備える。車体11は、エンジン15が設けられるとともに作業機3を取付可能である。車輪は、左右に配置され、エンジン15からの動力を受けて車体11を走行させる。ブレーキペダル43は、左右に配置され、左右の車輪を個別に制動するための操作を行うことが可能である。連結部材64は、左ブレーキペダル43aと右ブレーキペダル43bを連結する。電動モータ77は、連結部材64による連結を一時的に解除するための動力を発生させる。制御装置80は、圃場に対して作業中か否かを判定するための作業条件を満たすか判定し、作業条件を満たしたと判定した場合に、電動モータを制御して連結部材64による連結を一時的に解除する。
これにより、煩雑な操作をオペレータに強いることなく、かつ、片ブレーキが必要な状況のみにおいて、片ブレーキを有効にすることができる。
上記実施形態のトラクタ10は、作業機3に動力を伝達するPTO軸20を備える。作業条件には、PTO軸20が作業機3に動力を伝達する伝達状態であるという条件(S104)が含まれている。
これにより、PTO軸20を伝達状態にして圃場外を走行することは通常は想定されないので、圃場に対して作業中か否かを正確かつ簡単に判定できる。
上記実施形態のトラクタ10は、作業機3を昇降するリフトシリンダ22を備える。作業条件には、作業機高さが高さ閾値以下であるという条件(S107)が含まれている。
これにより、トラクタ10が作業機3を用いて実際に作業を行っているか否かを正確かつ簡単に判定できる。
上記実施形態のトラクタ10において、作業条件には、作業機高さが高さ閾値より高く、かつ、車体11が旋回中であるという条件(S107,S110)が含まれている。
これにより、基本的には片ブレーキは旋回中に行うため、必要なタイミングでのみ片ブレーキを有効にできる。
上記実施形態のトラクタ10において、作業条件には、作業機高さが高さ閾値より高く、かつ、作業機高さが高さ閾値より高くなってからの経過時間が時間閾値以下であるという条件(S107,S109)が含まれている。
これにより、例えば旋回等のために一時的に作業機3を上昇させた場合においても、片ブレーキを有効にすることができる。
上記実施形態のトラクタ10において、作業条件には、車速が車速閾値以下であるという条件(S105)と、エンジン回転速度が回転速度閾値以上であるという条件(S106)と、の少なくとも一方が含まれている。
これにより、圃場に対して作業中か否かを一層正確に判定できる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記実施形態で説明したフローチャートは一例であり、処理を省略したり、処理の順序を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。特に、このフローチャートに含まれる作業条件は適宜変更可能である。例えば、ステップS105で車速の判定を行うことを考慮して、ステップS103の処理を省略してもよい。また、これらの作業条件を判定するための方法についても適宜変更可能である。例えば、連結状態の自動切替が有効か否かをサブディスプレイ49を用いて設定する場合、ステップS102は、制御装置80に記憶されている設定状態に基づいて判定される。
上記実施形態では、走行部は車輪であるが、クローラであってもよい。
上記実施形態では、連結部材64は左ペダルアーム43cと右ペダルアーム43dを連結するが、左右の車輪が同時に制動されるのであれば、異なる箇所を連結してもよい。
上記実施形態では、連結部材64による連結を解除するアクチュエータは電動モータ77であるが、他のアクチュエータ(例えば電動シリンダ)であってもよい。また、上記実施形態では、電動モータ77が連結部材64による連結を解除する場合、連結解除ペダル44も連動して動くが、連結解除ペダル44が動かないようにしてもよい。
上記実施形態では、ブレーキ連結自動制御ボタン38はキャビンに設けられた物理的に操作可能な操作具である。これに代えて、例えば、サブモニタ等を操作して設定画面を表示させて、連結状態の自動切替の有効と無効を切り替える構成であってもよい。
本発明は、トラクタに限定されず、例えば田植機又はコンバイン等の他の作業車両に適用されても良い。田植機の場合は、植付部が作業機に相当し、コンバインの場合は、刈取部が作業機に相当する。