以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがないかぎり、前後左右上下等の方向および向きを表す語句は、車両に関する方向および向きを表す。また、車両の左右方向(車幅方向)において車両の前後方向に延びる中心線に近い側を車幅方向内側、中心線に向かう向きを車幅方向内方、そして遠い側を車幅方向外側、中心線から離れる向きを車幅方向外方と記す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方、矢印OUTの向きが車幅方向外方である。
図1および図2は、車両10の前部を模式的に示す図であり、図1は平面図、図2は側面図である。乗用車などの車両においては、一般的に乗員室12の前方部分に、ダッシュパネル14により隔てられた内燃機関等の動力装置を搭載するための空間、いわゆるエンジン室16が設けられている。エンジン室16を形成する構造を前部車体構造18と記す。なお、動力装置が車両の後部など、前部以外の部分に設けられている場合は、前部車体構造18には、荷室が設けられる場合がある。前部車体構造18は、車両前部の左右を前後方向に延びる1対のフロントサイドメンバ20を有する。また、1対のフロントサイドメンバ20は、ダッシュパネル14から前方に向けて延びており、それらの前端にはクラッシュボックス22を介して、バンパリインホースメント24が架け渡すように結合されている。クラッシュボックス22は、前方衝突の際につぶれて衝突エネルギを吸収する。さらに、フロントサイドメンバ20の前端とフロントピラー26をつなぐようにフロントアッパーメンバ28が設けられている。図2の側面図に示されるように、フロントアッパーメンバ28は、ホイールハウスの上縁に沿うアーチ形状を有しており、また図1の平面図に示されるように、フロントサイドメンバ20より車幅方向外側に位置している。フロントサイドメンバ20とフロントアッパーメンバ28の間には、サスペンションタワー30が位置している。
フロントサイドメンバ20の前端部の車幅方向外側の側面の少なくとも一部に重ねて補強板32が配置されている。補強板32は、フロントサイドメンバ20に接合され、接合された部分の剛性および強度を高めている。補強板32は、例えば、微小ラップ衝突の際、バンパリインホースメント24の端部に入力した衝突荷重をフロントサイドメンバ20の車幅方向外側の側面に効率良く伝達することに貢献する。
図3および図4は、左側のフロントサイドメンバ20およびその周辺の部材を示す図であり、図3は斜視図、図4は側面図である。右側のフロントサイドメンバ20は、左側のフロントサイドメンバ20と対称な形状である。また、図5は図4に示すA-A線による断面図、図6は図4に示すB-B線による断面図、図7は図4に示すC-C線による断面図である。
フロントサイドメンバ20は、閉断面構造の長尺部材である。断面形状は、例えば長方形とすることができる。図5-7に示されるように、フロントサイドメンバ20は、車幅方向外側に位置するアウタ部材34と内側に位置するインナ部材36を溶接、例えばスポット溶接により接合して形成される。アウタ部材34とインナ部材36は、プレス成形などにより鋼板を成形して形成される。アウタ部材34とインナ部材36は、フロントサイドメンバ20の断面において、車幅方向外側の上部の角と、下辺のほぼ中央に対応する部分において溶接される。フロントサイドメンバ20の閉断面構造部分の車幅方向外側の側面20aと上面20bによって形成される辺縁を外側上部辺縁20cと記す。
フロントサイドメンバ20のアウタ部材34およびインナ部材36のそれぞれに、外側上部辺縁20cに沿って溶接用フランジが設けられている。アウタ部材34の溶接用のフランジをアウタ上部フランジ38、インナ部材36の溶接用のフランジをインナ上部フランジ40と記す。アウタ上部フランジ38とインナ上部フランジ40は、溶接により接合されて、上部接合フランジ部41を形成する。上部接合フランジ部41は、フロントサイドメンバ20の外側上部辺縁20cを起点にしてここから離れる向きに延出している。
フロントサイドメンバ20の前部において、上部接合フランジ部41は、図5に示すように車幅方向に沿って外向きに延出している。一方、フロントサイドメンバ20の後部において、上部接合フランジ部41は、図7に示すように上下方向に沿って上方に向けて延出している。フロントサイドメンバ20の、上部接合フランジ部41が車幅方向外方に向けて延出している部分を前部セクション42と記す。また、フロントサイドメンバ20の、上部接合フランジ部41が上方に向けて延出している部分を後部セクション44と記す。前部セクション42と後部セクション44の間の部分では、上部接合フランジ部41は、図6に示すように、車幅方向かつ上下方向に、つまり斜めに延出している。この部分の上部接合フランジ部41の延出する向きは、前部セクション42の後縁から後部セクション44の前縁にかけて車幅方向外方から上方に滑らかに変化する。これにより、フロントサイドメンバ20の全体にわたって、上部接合フランジ部41が連続する。フロントサイドメンバ20の、前部セクション42と後部セクション44の間の部分を遷移セクション46と記す。
アウタ部材34およびインナ部材36の、フロントサイドメンバ20の下面20dの略中央に対応する部分に溶接用のフランジが設けられている(図5-7参照)。下面20dに配置されたアウタ部材34のフランジをアウタ下部フランジ48、インナ部材36のフランジをインナ下部フランジ50と記す。アウタ上部フランジ38とインナ上部フランジ40を溶接し、アウタ下部フランジ48とインナ下部フランジ50を溶接することにより、フロントサイドメンバ20は、略長方形の閉断面構造に形成される。
前部セクション42において、上部接合フランジ部41は、前後方向と左右方向により規定される面(以下、水平面と記す。)内に配置されるため、フロントサイドメンバ20の水平面内の曲げに対する剛性および強度に寄与する。後部セクション44において、上部接合フランジ部41は、サスペンションタワー30を形成する鋼板と並ぶように配置され、この鋼板と溶接される。
補強板32は、前部セクション42において、フロントサイドメンバ20の車幅方向外側の側面20aに重ねて配置され、さらに側面20aに溶接される。補強板32は、アウタ上部フランジ38およびインナ上部フランジ40と重なる補強板上部フランジ52を有する。これらの上部フランジ38,40,52は、同時に溶接されてよい。さらに、補強板32は、アウタ下部フランジ48およびインナ下部フランジ50と重なる補強板下部フランジ54を有する。これらの下部フランジ48,50,54は、同時に溶接されてよい。
補強板32は、フロントサイドメンバ20の前端から少なくとも前部セクション42の後縁まで延びている。補強板32は、前部セクション42の後縁を越えて更に後方に延びてよく、補強板32の後縁32aは遷移セクション46内に位置してよい。補強板上部フランジ52および補強板下部フランジ54も少なくとも前部セクション42の後縁まで延び、さらに遷移セクション46へと延びてよい。
さらに、補強板32は、フランジ部分だけでなく、フロントサイドメンバの側面20aと溶接されてよい。補強板32には、前後方向に延びる畝状の隆起56が形成されてよい。図示する例では、隆起56が2本設けられているが、1本、また3本以上が設けられてもよい。
図8は、左側のフロントサイドメンバ20が前方衝突によって想定どおりに変形した状態を模式的に示す平面図である。フロントサイドメンバ20に前方から衝突荷重Fが加わると、遷移セクション46またはこの付近で車幅方向内側に折れ曲がる内折れが生じる。また、後部セクション44のほぼ中央において車幅方向外側に折れ曲がる外折れが生じる。
アウタ部材34とインナ部材36の接合部分が破断し、閉断面構造が維持されなくなると、図8に示す想定された位置で屈曲せず、想定外の部分で折れ曲がりが発生する。前部セクション42においては、アウタ上部フランジ38およびインナ上部フランジ40の板材は水平面内に配置されているため、水平面内の曲げモーメントが作用すると、これらのフランジ38,40は互いに離れるように変形する。これにより接合部分がはがれ、フランジ部分が開いて閉断面構造が崩れる場合がある。特に、スポット溶接により接合されている場合、溶接点付近に応力が集中して、溶接点周囲の部材に破断が発生し、ここを起点にフランジ部分が開く。
フランジ部分が開き易い、フロントサイドメンバ20の前部セクション42において、変形を抑制するために、補強板32が配置されている。補強板32は、前部セクション42の変形を抑制する。特に、補強板上部フランジ52は、アウタ上部フランジ38およびインナ上部フランジ40を補強してこれらの変形を抑制する。これにより、前部セクション42の閉断面構造が崩れることが抑えられて、フロントサイドメンバ20が想定どおりに屈曲するようになる。
前部セクション42の変形を抑えるためには、アウタ上部フランジ38およびインナ上部フランジ40およびこれらの周辺の変形を抑制することが効果的であり、補強板32は、これらのフランジ38,40が設けられた外側上部辺縁20cの側において、前部セクション42の後縁まで、またはこの後縁を越えて遷移セクション46まで延びている。閉断面構造が維持できるのであれば、補強板32は、外側上部辺縁20cの反対側である下部や、中央部において、前部セクション42の後縁に達していなくてもよい。また、補強板上部フランジ52の前端は、前部セクション42の前端に達していなくてもよい。
上述の実施形態では、フロントサイドメンバ20の前部セクション42の外側上部辺縁20cに溶接用のフランジ38,40を設けたが、これに代えて、またはこれに加えて外側下部辺縁に溶接用のフランジを設けてもよい。補強板は、溶接用のフランジが設けられた側において、前部セクション42の後縁または遷移セクション46まで延びている。