第一の態様では、本発明は、ヒトPSMAに結合する抗体及びその抗原結合断片を提供する。本発明のこの態様に係る抗体は、特にPSMAを発現する細胞の標的に有用である。本発明は、ヒトPSMA及びヒトCD3と結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片も提供する。本発明のこの態様に従う二重特異性抗体は、特にCD3を発現するT細胞の標的、及び、例えば、PSMAを発現する細胞のT細胞媒介性殺傷が有益であるまたは望ましい状況下でのT細胞活性化の刺激に有用である。例えば、二重特異性抗体は、前立腺腫瘍細胞などの特定のPSMA発現細胞にCD3媒介性T細胞活性化を指向することができる。
例示的な本発明の抗PSMA抗体を、本明細書の表1及び2に列挙する。表1は、重鎖可変領域(HCVR)及び軽鎖可変領域(LCVR)のアミノ酸配列識別子、ならびに例示的な抗PSMA抗体の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、及び軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を示す。表2は、例示的な抗PSMA抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2 HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3をコードする核酸分子の配列識別子を示す。
本発明は、表1に列挙するHCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含むHCVRを含む、抗体、またはその抗原結合断片を提供する。
本発明は、表1に列挙するLCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含むLCVRを含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するLCVRアミノ酸配列のいずれかと対をなす表1に列挙するHCVRアミノ酸配列のいずれかを含むHCVR及びLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。ある特定の実施形態に従い、本発明は、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれか内に含有されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、抗体、またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号66/1642(例えば、H1H11810P2);及び122/130(例えば、H1H3465P)からなる群より選択される。
本発明は、表1に列挙するHCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するHCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するHCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するLCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するLCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するLCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。
本発明は、表1に列挙するLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対をなす表1に列挙するHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含むHCDR3及びLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。ある特定の実施形態に従い、本発明は、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれか内に含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む、抗体、またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号72/1648(例えば、H1H11810P2)及び128/136(例えば、H1H3465P)からなる群より選択される。
本発明は、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれか内に含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合断片も提供する。ある特定の実施形態では、HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号68−70−72−1644−1646−1648(例えば、H1H11810P2);及び124−126−128−132−134−136(例えば、H1H3465P)からなる群より選択される。
関連する実施形態では、本発明は、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれかにより定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合断片を提供する。例えば、本発明は、配列番号66/146(例えば、H1H11810P2);及び122/130(例えば、H1H3465P)からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有されるHCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3アミノ酸配列セットを含む、抗体、またはその抗原結合断片を含む。HCVR及びLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法及び技術は、当該分野で周知であり、本明細書に開示する指定のHCVR及び/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用することができる。CDRの境界を同定するために使用することができる例示的な従来法には、例えば、Kabat定義、Chothia定義、及びAbM定義が含まれる。一般論として、Kabat定義は、配列変動性に基づき、Chothia定義は、構造的ループ領域の位置に基づき、AbM定義は、Kabat及びChothiaアプローチ間の間をとるものである。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al−Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927−948(1997);及びMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268−9272(1989)を参照されたい。公開されているデータベースも、抗体内のCDR配列の同定のために利用可能である。
本発明は、抗PSMA抗体またはその一部をコードする核酸分子も提供する。例えば、本発明は、表1に列挙するHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するHCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するHCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するHCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するLCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するLCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、表1に列挙するLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するLCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。
本発明は、HCVRをコードする核酸分子も提供し、ここでHCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1−HCDR2−HCDR3)を含み、HCDR1−HCDR2−HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれかにより定義される通りである。
本発明は、LCVRをコードする核酸分子も提供し、ここでLCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含み、LCDR1−LCDR2−LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙する例示的な抗PSMA抗体のいずれかにより定義される通りである。
本発明は、HCVR及びLCVRの両方をコードする核酸分子も提供し、ここでHCVRは、表1に列挙するHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRは、表1に列挙するLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙するHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列、及び表2に列挙するLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を含む。本発明のこの態様に従うある特定の実施形態では、核酸分子はHCVR及びLCVRをコードし、ここでHCVR及びLCVRは両方とも表1に列挙する同じ抗PSMA抗体に由来する。
本発明は、抗PSMA抗体の重鎖または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組換え発現ベクターも提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子のいずれか、すなわち、表1に示すHCVR、LCVR、及び/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を含む組換え発現ベクターを含む。かかるベクターが導入されている宿主細胞、ならびに該宿主細胞を抗体または抗体断片の生成を可能にする条件下で培養することにより抗体またはその一部を生成する、そしてそのように生成した抗体及び抗体断片を回収する方法も本発明の範囲内に含まれる。
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗PSMA抗体を含む。いくつかの実施形態では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変、または例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるためにオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠いた抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照されたい)。他の用途では、ガラクトシル化の改変を、補体依存性細胞傷害(CDC)を改変するために行うことができる。
別の態様では、本発明は、PSMAと特異的に結合する組換えヒト抗体またはその断片及び薬学的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物を提供する。関連する態様では、本発明は、抗PSMA抗体及び第二の治療剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第二の治療剤は、抗PSMA抗体と有益に組み合わされる任意の薬剤である。本発明の抗PSMA抗体を必然的に含む追加の併用療法及び共製剤は、本明細書の他所に開示する。
別の態様では、本発明は、PSMAを発現する腫瘍細胞を、本発明の抗PSMA抗体を使用して標的とする/殺傷するための治療方法であって、本発明の抗PSMA抗体を含む治療有効量の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記治療方法を提供する。いくつかの場合では、抗PSMA抗体(またはその抗原結合断片)は、前立腺癌を処置するために使用することができる、または、Fcドメインを改変してADCCを増加させる(例えば、Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照されたい)、放射免疫療法(Akhtar,et al.,2012,Prostate−Specific Membrane Antigen−Based Therapeutics;Adv Urol.2012:973820)、抗体−薬物コンジュゲート(Olson,WC and Israel,RJ,2014,Front Biosci(Landmark Ed).19:12−33;DiPippo,et al.Feb 15,2015,The Prostate,75(3):303−313,first published on line Oct.18,2014)、もしくは腫瘍除去の有効性を増加させるための他の方法を含むがこれらに限定されない方法により、さらに細胞傷害性に改変されてよい。
本発明は、PSMA発現細胞に関連するまたはこれを原因とする疾患または障害の処置のための医薬品の製造における本発明の抗PSMA抗体の使用も含む。
なおも別の態様では、本発明は、診断用途、例えば、イメージング試薬などのための、単一特異性抗PSMA抗体を提供する。
なおも別の態様では、本発明は、抗CD3抗体または本発明の抗体の抗原結合部分を使用してT細胞活性化を刺激するための治療方法であって、抗体を含む治療有効量の医薬組成物を投与することを含む、前記治療方法を提供する。
別の態様では、本発明は、37℃にて表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定して、約80nM未満の結合解離平衡定数(KD)でヒト前立腺特異的膜抗原(PSMA)と結合する、単離抗体またはその抗原結合断片を提供する。なおも別の態様では、本発明は、37℃にて表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定して、約10分間より長い解離半減期(t1/2)でヒトPSMAと結合する単離抗体またはその抗原結合断片を提供する。
本発明は、ヒトPSMAへの結合に関して、表1に示すHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と競合する、抗体または抗原結合断片をさらに提供する。別の態様では、本発明は、ヒトPSMAへの結合に関して、配列番号2/1642;10/1642;18/1642;26/1642;34/1642;42/1642;50/1642;58/1642;66/1642;74/1642;82/1642;90/1642;98/1642;106/1642;114/1642;122/130;及び138/146からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と競合する、抗体または抗原結合断片を提供する。
本発明は、抗体または抗原結合断片であって、表1に示すHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と同じヒトPSMA上のエピトープに結合する、前記抗体または抗原結合断片をさらに提供する。別の態様では、抗体または抗原結合断片は、配列番号2/1642;10/1642;18/1642;26/1642;34/1642;42/1642;50/1642;58/1642;66/1642;74/1642;82/1642;90/1642;98/1642;106/1642;114/1642;122/130;及び138/146からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と同じヒトPSMA上のエピトープに結合する。
本発明は、ヒトPSMAと結合する単離抗体またはその抗原結合断片であって、表1に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR);及び表1に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRを含む、前記抗体または抗原結合断片をさらに提供する。別の態様では、単離抗体または抗原結合断片は、配列番号2/1642;10/1642;18/1642;26/1642;34/1642;42/1642;50/1642;58/1642;66/1642;74/1642;82/1642;90/1642;98/1642;106/1642;114/1642;122/130;及び138/146からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む。なおも別の態様では、単離抗体または抗原結合断片は、それぞれ、配列番号4−6−8−1644−1646−1648;12−14−16−1644−1646−1648;20−22−24−1644−1646−1648;28−30−32−1644−1646−1648;36−38−40−1644−1646−1648;44−46−48−1644−1646−1648;52−54−56−1644−1646−1648;60−62−64−1644−1646−1648;68−70−72−1644−1646−1648;76−78−80−1644−1646−1648;84−86−88−1644−1646−1648;92−94−96−1644−1646−1648;100−102−104−1644−1646−1648;108−110−112−1644−1646−1648;116−118−120−1644−1646−1648;124−126−128−132−134−136;及び140−142−144−148−150−152からなる群より選択されるHCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3ドメインを含む。
別の態様では、本発明は、ヒトPSMAと結合する単離抗体またはその抗原結合断片であって、(a)配列番号2、10、18、26、34、42、50、58、66、74、82、90、98、106、114、122、及び138からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR);ならびに(b)配列番号130及び146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、前記抗体または抗原結合断片を提供する。さらなる態様では、請求項10に記載の単離抗体または抗原結合断片であって、配列番号2/1642;10/1642;18/1642;26/1642;34/1642;42/1642;50/1642;58/1642;66/1642;74/1642;82/1642;90/1642;98/1642;106/1642;114/1642;122/130;及び138/146からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、前記抗体または抗原結合断片。
別の態様に従って、本発明は、PSMA及びCD3と結合する二重特異性抗原結合分子(例えば、抗体)を提供する。かかる二重特異性抗原結合分子は、本明細書にて「抗PSMA/抗CD3二重特異性分子」、「抗CD3/抗PSMA二重特異性分子」、または「PSMA×CD3 bsAb」とも称される。抗PSMA/抗CD3二重特異性分子の抗PSMA部分は、PSMAを発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)(例えば、前立腺腫瘍)を標的とすることに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞の活性化に有用である。腫瘍細胞上のPSMA及びT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞による標的腫瘍細胞の特異的殺傷(細胞溶解)を促進する。本発明の抗PSMA/抗CD3二重特異性分子は、それゆえ、特にPSMA発現腫瘍(例えば、前立腺癌)に関連するまたはこれを原因とする疾患及び障害の処置に有用である。
本発明のこの態様に従う二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む。本発明は、抗PSMA/抗CD3二重特異性分子(例えば、二重特異性抗体)を含み、ここで各抗原結合ドメインは、軽鎖可変領域(LCVR)と対をなす重鎖可変領域(HCVR)を含む。本発明のある特定の例示的な実施形態では、抗CD3抗原結合ドメイン及び抗PSMA抗原結合ドメインはそれぞれ、共通のLCVRと対をなす、異なる、別個のHCVRを含む。例えば、本明細書の実施例4に示すように、二重特異性抗体は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインと、ここで第一の抗原結合ドメインは、抗CD3抗体に由来するHCVR/LCVR対を含み;PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインと、ここで第二の抗原結合ドメインは、抗CD3抗体に由来するLCVR(例えば、抗CD3抗原結合ドメイン内に含まれるものと同じLCVR)と対をなす抗PSMA抗体に由来するHCVRを含む、を含んで構築される。言い換えると、本明細書に開示の例示的な分子では、抗PSMA抗体からのHCVRと抗CD3抗体からのLCVRの対合は、PSMAと特異的に結合する(しかし、CD3とは結合しない)抗原結合ドメインを作製する。かかる実施形態では、第一及び第二の抗原結合ドメインは、別個の抗CD3及び抗PSMA HCVRを含むが、共通の抗CD3 LCVRを共有する。他の実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、別個の抗CD3及び抗PSMA HCVRを含むが、共通のLCVRを共有する。このLCVRのアミノ酸配列は、例えば、配列番号1642において示され、対応するCDR(すなわち、LCDR1−LCDR2−LCDR3)のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1644、1646及び1648に示される。遺伝子改変したマウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖を伴う2つの異なる重鎖を含む完全ヒト二重特異性抗原結合分子を生成することができる。あるいは、可変重鎖は、1つの共通の軽鎖と対をなし、宿主細胞において組み換え発現されてよい。したがって、本発明の抗体は、単一の再編成された軽鎖を伴う免疫グロブリン重鎖を含むことができる。いくつかの実施形態では、軽鎖は、ヒトVK1−39遺伝子セグメントまたはVK3−20遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含む。他の実施形態では、軽鎖は、ヒトJK5またはヒトJK1遺伝子セグメントで再編成されたヒトVK1−39遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含む。
本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、米国公開第2014/0088295号に記載される、HCVRアミノ酸配列のいずれか、LCVRアミノ酸配列のいずれか、HCVR/LCVRアミノ酸配列対のいずれか、重鎖CDR1−CDR2−CDR3アミノ酸配列のいずれか、または軽鎖CDR1−CDR2−CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子を提供する。
加えて、本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、及び18に示すHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む抗CD3/抗PSMA二重特異性分子を提供する。CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、本明細書の表12、15、及び20に示すLCVRアミノ酸配列のいずれかも含んでよい。ある特定の実施形態に従い、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すHCVR/LCVRアミノ酸配列対のいずれかを含む。本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、及び18に示す重鎖CDR1−CDR2−CDR3アミノ酸配列のいずれか、ならびに/または本明細書の表12、15、及び20に示す軽鎖CDR1−CDR2−CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
ある特定の実施形態に従い、本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、及び18に示すアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子を提供する。
本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、15、及び20に示すアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、及び18に示すアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するそれに対して実質的に類似する配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;ならびに本明細書の表12、15、及び20に示すアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
ある特定の実施形態では、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
本発明は、CD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、本明細書の表12、14、及び18に示すアミノ酸、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン;表12、14、及び18に示すアミノ酸、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン;表12、14、及び18に示すアミノ酸、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;本明細書の表12、15、及び20に示すアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン;本明細書の表12、15、及び20に示すアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン、ならびに本明細書の表12、15、及び20に示すアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も提供する。
ある特定の非限定的な、本発明の例示的な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、それぞれ、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すアミノ酸配列を有する、HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3ドメインを含むCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインを含む。
本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、表12、表14、または表18に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)及び表12、表15、または表20に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含む、二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。
別の態様では、本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号922、154、1482、1490、1498、1506、1514、1522、1530、1538、1546、1554、1562、1570、1578、1586、1594、1602、1610、1618、及び1626からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、ならびに配列番号162、930及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。
本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A1−HCDR1、A1−HCDR2及びA1−HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1−LCDR1、A1−LCDR2及びA1−LCDR3)を含み、A1−HCDR1が、配列番号924、156;1484、1492、1500、1508、1516、1524、1532、1540、1548、1556、1564、1572、1580、1588、1596、1604、1612、1620、及び1628からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR2が、配列番号926、158、1486、1494、1502、1510、1518、1526、1534、1542、1550、1558、1566、1574、1582、1590、1598、1606、1614、1622、及び1630からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR3が、配列番号928、160、1488、1496、1504、1512、1520、1528、1536、1544、1552、1560、1568、1576、1584、1592、1600、1608、1616、1624、及び1632からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR1が、配列番号932、164、及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR2が、配列番号166、934及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR3が、配列番号168、936及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。
さらなる態様では、本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号922/930、154/162、1482/1642、1490/1642、1498/1642、1506/1642、1514/1642、1522/1642、1530/1642、1538/1642、1546/1642、1554/1642、1562/1642、1570/1642、1578/1642、1586/1642、1594/1642、1602/1642、1610/1642、1618/1642、及び1626/1642からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。
別の態様では、本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A1−HCDR1、A1−HCDR2及びA1−HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1−LCDR1、A1−LCDR2及びA1−LCDR3)を含み、ヒトPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A2−HCDR1、A2−HCDR2及びA2−HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A2−LCDR1、A2−LCDR2及びA2−LCDR3)を含み;A1−HCDR1が、配列番号924、156、1484、1492、1500、1508、1516、1524、1532、1540、1548、1556、1564、1572、1580、1588、1596、1604、1612、1620、及び1628からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR2が、配列番号926、158、1486、1494、1502、1510、1518、1526、1534、1542、1550、1558、1566、1574、1582、1590、1598、1606、1614、1622、及び1630からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR3が、配列番号928、160、1488、1496、1504、1512、1520、1528、1536、1544、1552、1560、1568、1576、1584、1592、1600、1608、1616、1624、及び1632からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR1が、配列番号164、932、及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR2が、配列番号166、934、及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR3が、配列番号168、936、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−HCDR1が、配列番号124及び68からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−HCDR2が、配列番号126及び70からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−HCDR3が、配列番号128及び72からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR1が、配列番号932、164、及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR2が、配列番号934、166、及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR3が、配列番号936、168、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。
ある特定の非限定的な、本発明の例示的な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、FR1(配列番号1654)、FR2(配列番号1656)、FR3(配列番号1657)、及びFR4(配列番号1658)から選択されるアミノ酸配列を有する可変ドメインフレームワーク領域を含む重鎖を含むCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインを含む。
さらなる実施形態では、本発明の例示的な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1659−1660−1661のアミノ酸配列を有するHCDR1−HCDR2−HCDR3を含むHCVRを含む、二重特異性抗原結合分子を含む。
本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号2、10、18、26、34、42、50、58、66、74、82、90、98、106、114、122、及び138からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号930、162、及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号122/930、122/162、及び66/1642からなる群より選択されるHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号8、16、24、32、40、48、56、64、72、80、88、96、104、112、120、128、及び144からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するそれに対して実質的に類似する配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;ならびに配列番号936、168、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子も提供する。
ある特定の実施形態では、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインは、配列番号128/936、128/168、及び72/1648からなる群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号4、12、20、28、36、44、52、60、68、76、84、92、100、108、116、124、及び140からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン;配列番号6、14、22、30、38、46、54、62、70、78、86、94、102、110、118、126及び142からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン;配列番号8、16、24、32、40、48、56、64、72、80、88、96、104、112、120、128、及び144からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;配列番号932、164、及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン;ならびに配列番号934、166、及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン;;ならびに配列番号936、168、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似する配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も提供する。
ある特定の非限定的な、本発明の例示的な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、それぞれ、配列番号124−126−128−932−934−936、124−126−128−164−166−168、及び68−70−72−1644−1646−1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3ドメインを含む、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む。
関連する実施形態では、本発明は、PSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号122/930、122/162、及び66/1642からなる群より選択される重鎖及び軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)配列内に含有される重鎖及び軽鎖CDRドメインを含む、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。
別の態様では、本発明は、ヒトCD3と結合する第一の抗原結合ドメイン及びヒトPSMAと結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子であって、第二の抗原結合ドメインが本発明の抗PSMA抗体のいずれか1つの抗体または抗原結合断片に由来する、前記二重特異性抗原結合分子を提供する。さらなる態様では、本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を提供する。
本発明は、ヒトCD3を発現するヒト細胞及びカニクイザルCD3を発現するカニクイザル細胞と結合する二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。別の態様では、二重特異性抗原結合分子は、ヒトPSMAを発現するヒト細胞及びカニクイザルPSMAを発現するカニクイザル細胞と結合する。
別の態様では、本発明は、ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する、二重特異性抗原結合分子を提供する。本発明は、ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する、二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。本発明は、ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を抑制する、二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。本発明は、ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を低下させる、二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。
別の態様では、本発明は、i)約40nMを超えるEC50値でエフェクター細胞と特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン及び、及びii)40nM未満のEC50値で標的ヒト前立腺腫瘍細胞と特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子であって、かかるEC50結合親和性値が、in vitro FACS結合アッセイにおいて測定される、前記二重特異性抗原結合分子を提供する。
例えば、二重特異性抗原結合分子は、約40nMを超える、または約100nMを超える、約200nMを超える、または約1μMを超えるEC50値でヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメインを含むことができる。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、約6nM未満のEC50値で標的前立腺腫瘍細胞と特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含むことができる。いくつかの場合では、第一の抗原結合ドメインは、約40nMを超える、約100nMを超える、約200nMを超える、または約1μMを超えるEC50値でヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれと特異的に結合する。いくつかの場合では、第一の抗原結合ドメインは、弱いまたは測定できない親和性でヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれと特異的に結合する。
いくつかの実施形態では、抗原結合分子は、in vitro T細胞媒介性腫瘍細胞殺傷アッセイにおいて測定して、約1.3nM未満のEC50値でT細胞媒介性腫瘍細胞殺傷を誘導し、例えば、ここで腫瘍細胞は、C4−2、22Rv1、及びTRAMPC2_PSMA細胞である。
いくつかの用途では、第一の抗原結合ドメインは、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定して、約11nMを超えるKD値でヒトCD3と結合する。いくつかの例では、第一の抗原結合ドメインは、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定して、約15nMを超える、約30nMを超える、約60nMを超える、約120nMを超える、または約300nMを超えるKD値で、ヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれと結合する。
ある特定の実施形態では、本発明の抗CD3抗体、抗原結合断片及びその二重特異性抗体は、生殖細胞系列配列及び親抗体配列間の差異に基づいて段階的様式で、親のアミノ酸残基を置き換えることにより作成した。
いくつかの実施形態では、本発明は、第二の抗原結合ドメインが、ヒトPSMAへの結合に関して、3つの重鎖相補性決定領域(A2−HCDR1、A2−HCDR2及びA2−HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A2−LCDR1、A2−LCDR2及びA2−LCDR3)を含む参照抗原結合タンパク質と競合し、A2−HCDR1が、配列番号124及び68からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−HCDR2が、配列番号126及び70からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−HCDR3が、配列番号128及び72からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR1が、配列番号164、932及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR2が、配列番号166、934及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A2−LCDR3が、配列番号168、936、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、第二の抗原結合ドメインが、ヒトPSMAへの結合に関して、配列番号122及び66からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、ならびに配列番号162、930及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と競合する、二重特異性抗原結合分子を提供する。
いくつかの実施形態では、本発明は、第一の抗原結合ドメインが、ヒトCD3への結合に関して、3つの重鎖相補性決定領域(A1−HCDR1、A1−HCDR2及びA1−HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1−LCDR1、A1−LCDR2及びA1−LCDR3)を含む参照抗原結合タンパク質と競合し、A1−HCDR1が、配列番号924、156、1484、1492、1500、1508、1516、1524、1532、1540、1548、1556、1564、1572、1580、1588、1596、1604、1612、1620、及び1628からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR2が、配列番号926、158、1486、1494、1502、1510、1518、1526、1534、1542、1550、1558、1566、1574、1582、1590、1598、1606、1614、1622、及び1630からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−HCDR3が、配列番号928、160、1488、1496、1504、1512、1520、1528、1536、1544、1552、1560、1568、1576、1584、1592、1600、1608、1616、1624、及び1632からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR1が、配列番号164、932、及び1644からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR2が、配列番号166、934、及び1646からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1−LCDR3が、配列番号168、936、及び1648からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、第一の抗原結合ドメインが、ヒトCD3への結合に関して、配列番号922、154、1482、1490、1498、1506、1514、1522、1530、1538、1546、1554、1562、1570、1578、1586、1594、1602、1610、1618、及び1626からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、ならびに配列番号930、162、及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と競合する、二重特異性抗原結合分子を提供する。
いくつかの実施形態では、本発明は、第一の抗原結合ドメインが、ヒトCD3への結合に関して、配列番号922、154、1482、1490、1498、1506、1514、1522、1530、1538、1546、1554、1562、1570、1578、1586、1594、1602、1610、1618、及び1626からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、ならびに配列番号930、162、及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と競合し;第二の抗原結合ドメインが、ヒトPSMAへの結合に関して、配列番号122及び66からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、ならびに配列番号930、162、及び1642からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と競合する、二重特異性抗原結合分子を提供する。
一態様では、本発明は、抗PSMA抗原結合分子または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子及び薬学的に許容され得るキャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物を提供する。本発明は、対象内の癌を処置するための方法であって、該対象に抗PSMA抗原結合分子または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子及び薬学的に許容され得るキャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物を投与することを含む、前記方法をさらに提供する。いくつかの実施形態では、癌は、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、及び胃癌からなる群より選択される。いくつかの場合では、癌は、前立腺癌である。いくつかの場合では、前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌である。
別の態様では、本発明は、本明細書に開示する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子のHCVR、LCVRまたはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、それには、本明細書の表2、13、15、17、19、及び21に示すポリヌクレオチド配列を含む核酸分子、ならびに任意の機能的な組み合わせまたはその編成における表2、13、15、17、19、及び21に示すポリヌクレオチドのうちの2つ以上を含む核酸分子が含まれる。本発明の核酸を有する組換え発現ベクター、及びかかるベクターが導入されている宿主細胞も、宿主細胞を抗体の生成を可能にする条件下で培養することにより抗体を生成する及び生成した抗体を回収する方法として本発明に包含される。
本発明は、CD3と特異的に結合する前述の抗原結合ドメインのいずれかが、PSMAと特異的に結合する前述の抗原結合ドメインのいずれかと、組み合わされる、接続される、またはそうでなければ会合して、CD3及びPSMAと結合する二重特異性抗原結合分子を形成する、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。いくつかの用途では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変、または例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるためにオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠いた抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照されたい)。他の用途では、ガラクトシル化の改変を、補体依存性細胞傷害(CDC)を改変するために行うことができる。
別の態様では、本発明は、本明細書に開示する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子及び薬学的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物を提供する。関連する態様では、本発明は、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子及び第二の治療剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第二の治療剤は、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と有益に組み合わされる任意の薬剤である。抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と有益に組み合わされ得る例示的な薬剤は、本明細書の他所に詳述する。
なおも別の態様では、本発明は、PSMAを発現する腫瘍細胞を、本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を使用して標的とする/殺傷するための治療方法であって、本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む治療有効量の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記治療方法を提供する。
本発明は、PSMA発現細胞に関連するまたはこれを原因とする疾患または傷害の処置のための医薬品の製造における本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の使用も含む。
他の実施形態は、後の発明を実施するための形態から明らかになるだろう。
本発明を説明する前に、本発明が記載される特定の方法及び実験条件に限定されず、このような方法及び条件が変更されてよいことを理解されたい。本明細書で使用する用語が、特定の実施形態を説明する目的のためにのみ使用され、限定を意図せず、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるだろうことも理解されたい。
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用するとき、「約」という用語は、特定の記載される数値に関して使用される際、その値が記載される値から1%以内で変動し得るということを意味する。例えば、本明細書で使用するとき、「約100」という表現は、99及び101ならびに間にある全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4、等)を含む。
本明細書に記載されるものと類似または同等な任意の方法及び物質を本発明の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法及び物質をここに記載する。本明細書中に言及する全ての特許、出願及び非特許刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
定義
「CD3」という表現は、本明細書で使用するとき、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上で発現され、4つの受容体鎖:CD3−イプシロン、CD3−デルタ、CD3−ゼータ、及びCD3−ガンマのうちの2つの会合から形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体からなる抗原を表す。ヒトCD3−イプシロンは、配列番号1649に示すアミノ酸配列を含み;ヒトCD3−デルタは、配列番号1650に示すアミノ酸配列を含む。本明細書内のタンパク質、ポリペプチド及びタンパク質断片への全ての言及は、非ヒト種由来であると明確に指定されない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチドまたはタンパク質断片のヒトバージョンを表すと意図される。ゆえに、「CD3」という表現は、非ヒト種由来、例えば、「マウスCD3」、「サルCD3」等であると指定されない限り、ヒトCD3を意味する。
本明細書で使用するとき、「CD3と結合する抗体」または「抗CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、イプシロン、デルタ、ガンマまたはゼータ)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合断片、ならびに2つのCD3サブユニットの二量体複合体(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合断片を含む。本発明の抗体及び抗原結合断片は、可溶性CD3及び/または細胞表面に発現されたCD3と結合し得る。可溶性CD3は、天然CD3タンパク質、ならびに、例えば、膜貫通ドメインを欠いているかまたはそうでなければ細胞膜と会合していない、単量体及び二量体CD3構築物などの組換えCD3タンパク質変異体を含む。
本明細書で使用するとき、「細胞表面で発現されるCD3」という表現は、in vitroまたはin vivoで細胞の表面上で発現され、その結果、CD3タンパク質の少なくとも一部が細胞膜の細胞外側に露出され、抗体の抗原結合部分に接触可能である1つまたは複数のCD3タンパク質を意味する。「細胞表面で発現されるCD3」は、細胞の膜における機能性T細胞受容体の文脈内に含有されるCD3タンパク質を含む。「細胞表面で発現されるCD3」という表現は、細胞表面上でホモ二量体またはヘテロ二量体(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)の一部として発現されるCD3タンパク質を含む。「細胞表面で発現されるCD3」という表現は、細胞表面上で、他の型のCD3鎖を伴わず、それ自体で発現されるCD3鎖(例えば、CD3−イプシロン、CD3−デルタまたはCD3−ガンマ)も含む。「細胞表面で発現されるCD3」は、CD3タンパク質を通常発現する細胞の表面上で発現されるCD3タンパク質を含むまたはこれからなることができる。あるいは、「細胞表面で発現されるCD3」は、通常はその表面上にヒトCD3を発現しないが、その表面上にCD3を発現するように人工的に操作された、細胞の表面上で発現されるCD3タンパク質を含むまたはこれからなることができる。
「PSMA」という表現は、本明細書で使用するとき、葉酸ヒドロラーゼ1(FOLH1)としても知られる前立腺特異的膜抗原を表す。PSMAは、前立腺上皮細胞において高く発現される、内在性非剥離膜糖タンパク質であり、前立腺癌に対する細胞表面マーカーである。ヒトPSMAのアミノ酸配列は、配列番号1651に示す。
本明細書で使用するとき、「PSMAと結合する抗体」または「抗PSMA抗体」は、PSMAを特異的に認識する抗体及びその抗原結合断片を含む。
「抗原結合分子」という用語は、例えば、二重特異性抗体を含む、抗体及び抗体の抗原結合断片を含む。
「抗体」という用語は、本明細書で使用するとき、特定の抗原(例えば、PSMAまたはCD3)に特異的に結合するまたはこれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメインであるCH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれ、より保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域に組み入れられた超可変性の領域にさらに細分することができる。各VH及びVLは3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施形態では、抗PSMA抗体または抗CD3抗体のFR(またはその抗原結合部分)は、ヒト生殖細胞系列配列と同じであり得るか、または天然もしくは人工的に改変されたものであってよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの対比分析(side−by−side analysis)に基づいて規定され得る。
「抗体」という用語は、本明細書で使用するとき、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などという用語は、本明細書で使用するとき、抗原と特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素により得られる、合成、もしくは遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、任意の好適な標準的技術、例えばタンパク質分解性消化または抗体の可変ドメイン及び場合により定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を必然的に含む組換え遺伝子操作技術を使用して完全抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは公知である、及び/または例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成することができる。DNAは、例えば、1つもしくは複数の可変及び/もしくは定常ドメインを好適な構成へと配置するため、またはコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を改変、付加もしくは欠失させる等のために、化学的に、または分子生物学技術を使用することにより配列決定及び操作され得る。
抗原結合断片の非限定的な例としては:(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;及び(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))、または拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチドが挙げられる。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインも本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現内に包含される。
抗体の抗原結合断片は、典型的には少なくとも1つの可変ドメインを含むだろう。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものでよく、一般的には、1つまたは複数のフレームワーク配列に隣接するかまたはそれらとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに付随してVHドメインを有する抗原結合断片において、VH及びVLドメインは、互いに対して任意の好適な配置で位置してよい。例えば、可変領域は二量体であってよく、VH−VH、VH−VLまたはVL−VL二量体を含有してよい。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体VHまたはVLドメインを含有してよい。
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合的に連結した少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合断片内に見出だされ得る可変及び定常ドメインの非限定的な、例示的な構成としては、以下が挙げられる(i)VH−CH1;(ii)VH−CH2;(iii)VH−CH3;(iv)VH−CH1−CH2;(v)VH−CH1−CH2−CH3;(vi)VH−CH2−CH3;(vii)VH−CL;(viii)VL−CH1;(ix)VL−CH2;(x)VL−CH3;(xi)VL−CH1−CH2;(xii)VL−CH1−CH2−CH3;(xiii)VL−CH2−CH3;及び(xiv)VL−CL。上に列挙した例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインのいずれかの構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されていても、完全もしくは部分的なヒンジまたはリンカー領域により連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変及び/または定常ドメイン間に可動性または半可動性の連結を生じる少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれ以上)のアミノ酸からなり得る。さらに、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いと、及び/または1つもしくは複数の単量体VHもしくはVLドメインと(例えば、ジスルフィド結合(複数可)により)非共有会合した、上に列挙された可変ドメイン及び定常ドメインの構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
完全抗体分子のように、抗原結合断片は、単一特異性または多重特異性(例えば二重特異性)であってよい。抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的には少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、ここで各可変ドメインは別々の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示の例示的な二重特異性抗体形式を含む、任意の多重特異性抗体形式が、当該分野で利用可能な通常の技術を使用する本発明の抗体の抗原結合断片の文脈における使用のために適合され得る。
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を通して機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下での本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を表す。「抗体依存性細胞媒介細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異性細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、それにより標的細胞の溶解をもたらす細胞媒介性反応を表す。CDC及びADCCは、当該分野で周知かつ利用可能なアッセイを使用して測定することができる。(例えば、米国特許第5,500,362号及び同第5,821,337号、ならびにClynes et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:652−656を参照されたい)。抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力において重要である。ゆえに、抗体のアイソタイプは、抗体が細胞傷害を媒介するために望ましいか否かに基づいて選択され得る。
本発明のある特定の実施形態では、本発明の抗PSMA単一特異性抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体はヒト抗体である。「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用するとき、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列由来の可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒト抗体は、例えばCDRにおいて、及び特にCDR3において、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダムもしくは部位特異的変異誘発により、またはin vivoで体細胞変異により導入される変異)を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用するとき、別の哺乳動物種、例えばマウスの生殖細胞系列由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上にグラフトされている抗体を含むことを意図しない。
本発明の抗体は、いくつかの実施形態では、組換えヒト抗体であってよい。「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用するとき、組換え手段により調製、発現、作製または単離される全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞へトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(以下でさらに記載する)、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(以下でさらに記載する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックな動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287−6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを必然的に含む任意の他の手段により調製、発現、作製もしくは単離された抗体を含むと意図される。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列由来の可変及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、このような組換えヒト抗体は、in vitro変異誘発(または、ヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物が使用されるときは、in vivo体細胞変異誘発)を施され、ゆえに、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列VH及びVL配列に由来しこれに関連するが、in vivoでヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内には天然に存在しない場合がある配列である。
ヒト抗体は、ヒンジ異質性を伴う2つの形態で存在することができる。一形態では、免疫グロブリン分子はおおよそ150〜160kDaの安定な4つの鎖の構築物を含み、ここで二量体は鎖間重鎖ジスルフィド結合により結合される。第二の形態では、二量体は鎖間ジスルフィド結合を介して連結されておらず、共有結合的にカップリングされた軽鎖及び重鎖(半抗体)から構成される約75〜80kDaの分子が形成される。これらの形態は、アフィニティー精製後であっても分離することが極めて困難である。
様々なインタクトなIgGアイソタイプにおける第二の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的差異に起因するがこれに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルまで、第二の形態の出現を有意に減少させることができる(Angal et al.(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、ヒンジ、CH2、またはCH3領域に1つまたは複数の変異を有する抗体を包含し、これは例えば、所望の抗体形態の収量を改善するために、生成において望ましい場合がある。
本発明の抗体は、単離抗体であってよい。「単離抗体」は、本明細書で使用するとき、同定されており、その天然環境の少なくとも1つの構成要素から分離されている及び/または回収されている抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの構成要素から、または抗体が天然に存在するかもしくは天然に生成される組織もしくは細胞から分離または除去されている抗体は、本発明の目的のための「単離抗体」である。単離抗体は、組換え細胞内のインサイチュの抗体も含む。単離抗体は、少なくとも1つの精製または単離工程を施されている抗体である。ある特定の実施形態に従い、単離抗体は、他の細胞物質及び/または化学物質を実質的に含まないものであってよい。
本発明は、PSMAと結合する1アーム抗体も含む。本明細書で使用するとき、「1アーム抗体」は、単一の抗体重鎖及び単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明の1アーム抗体は、表1に示すHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含んでよい。
本明細書に開示する抗PSMAまたは抗PSMA/抗CD3抗体は、抗体が由来した対応する生殖細胞系列配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域内に含んでよい。このような変異は、本明細書に開示するアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖細胞系列配列と比較することにより容易に確認することができる。本発明は、本明細書に開示するアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体及びその抗原結合断片を含み、ここで1つもしくは複数のフレームワーク及び/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸は、その抗体が由来した生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または別のヒト生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へと変異される(このような配列変化は本明細書で集合的に「生殖細胞系列変異」と称される)。当業者は、本明細書に開示する重鎖及び軽鎖可変領域配列から始めて、1つまたは複数の個々の生殖細胞系列変異またはそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合断片を容易に生成することができる。ある特定の実施形態では、VH及び/またはVLドメイン内のフレームワーク及び/またはCDR残基は全て、その抗体が由来した元の生殖細胞系列配列において見られる残基へと逆変異される。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8つのアミノ酸内もしくはFR4の最後の8つの残基内に見られる変異した残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内に見られる変異した残基のみが元の生殖細胞系列配列へと逆変異される。他の実施形態では、フレームワーク及び/またはCDR残基(複数可)の1つまたは複数は、異なる生殖細胞系列配列(すなわち、その抗体が元々由来した生殖細胞系列配列とは異なる生殖細胞系列配列)の対応する残基へと変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/またはCDR領域内の2つ以上の生殖細胞系列変異の任意の組み合わせを含有し得、例えば、ここである特定の個々の残基は特定の生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異され、一方で元の生殖細胞系列配列と異なるある特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異される。一度得られれば、1つまたは複数の生殖細胞系列変異を含む抗体及び抗原結合断片は、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善されたかまたは増強されたアンタゴニストまたはアゴニスト生物学的特性(場合による)、減少した免疫原性等の1つまたは複数の所望の特性について容易に検査することができる。この一般的な様式で得られる抗体及び抗原結合断片は、本発明内に包含される。
本発明は、1つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗PSMAまたは抗PSMA/抗CD3抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書の表1に示すまたは本明細書の表12、14、15、18、及び20に記載するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比べて、例えば、10以下、8以下、6以下、4以下、等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PSMAまたは抗PSMA/抗CD3抗体を含む。
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を表す。単一の抗原は1つより多くのエピトープを有する場合がある。ゆえに、異なる抗体は抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは立体構造的または線状のいずれであってもよい。立体構造的エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に近接したアミノ酸により生じる。線状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接したアミノ酸残基により生じるものである。ある特定の状況において、エピトープは抗原上に多糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
「実質的な同一性」または「実質的に同一の」という用語は、核酸またはその断片に言及する際、適切なヌクレオチド挿入または欠失を伴って別の核酸(またはその相補的鎖)と最適に整列した際に、以下に考察されるように、FASTA、BLASTまたはGapなどの配列同一性の任意の周知のアルゴリズムにより測定して、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子に対して実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の例では、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
ポリペプチドに適用されるとき、「実質的な類似性」または「実質的に類似する」という用語は、2つのペプチド配列が、例えば、デフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITにより最適に整列された際に、少なくとも95%配列同一性、さらに好ましくは少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した化学特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないだろう。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方調節されてよい。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307−331を参照されたい。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の基の例としては以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、及びアスパラギン−グルタミンである。あるいは、保存的置換は、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443−1445に開示するPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する任意の変化である。
ポリペプチドに関する配列類似性は、配列同一性とも称され、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似した配列を照合する。例えば、GCGソフトウェアは、異なる生物種由来の相同ポリペプチドなどの密接に関連したポリペプチド間、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定するためにデフォルトパラメータを用いて使用することができるGap及びBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルトまたは推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域のアライメント及びパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと本発明の配列を比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410及びAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−402を参照されたく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
生殖細胞系列変異
本明細書に開示する抗CD3抗体は、抗体が由来した対応する生殖細胞系列配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を重鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域内に含む。
本発明は、本明細書に開示するアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、及びその抗原結合断片も含み、ここで1つもしくはそれ以上のフレームワーク及び/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸は、その抗体が由来した生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または別のヒト生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へと変異され(このような配列変化は本明細書で集合的に「生殖細胞系列変異」と称される)、CD3抗原に対して弱いまたは検出可能でない結合を有する。CD3を認識するいくつかのかかる例示的な抗体は、本明細書の表12及び18に記載される。
さらには、本発明の抗体は、フレームワーク及び/またはCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系列変異の任意の組み合わせを含有してよく、例えば、ここである特定の個別の残基は、特定の生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異され、一方で、元々の生殖細胞系列配列とは異なるある特定の他の残基が維持されるまたは異なる生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異される。一度得られたら、1つまたは複数の生殖細胞系列変異を含有する抗体または抗原結合断片を、1つまたは複数の所望の特性、例えば、改善された結合特異性、弱いまたは低減した結合親和性、改善または向上した薬物動態特性、低下した免疫原性、等について検査することができる。本開示のガイダンスを考慮してこの一般的な様式で得られた抗体及び抗原結合断片は、本発明内に包含される。
本発明は、1つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示のHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗CD3抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比べて、例えば、10以下、8以下、6以下、4以下、等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗CD3抗体を含む。本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子は、CD3抗原に対する所望の弱〜検出可能ではない結合を維持または改善しつつ、個別の抗原結合ドメインが由来した対応する生殖細胞系列配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域内に含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない、すなわち、アミノ酸置換は、抗CD3結合分子の場合、所望の弱から検出可能でない結合親和性を維持または改善する。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の基の例としては以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、及びアスパラギン−グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443−1445に開示するPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する任意の変化である。
本発明は、CD3抗原に対する所望の弱い親和性を維持または改善しつつ、本明細書に開示のHCVR及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一のHCVR及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子も含む。「実質的な同一性」または「実質的に同一の」という用語は、アミノ酸配列に言及する場合、2つのアミノ酸配列が、例えばデフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITにより最適に整列された際に、少なくとも95%配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方調節されてよい。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307−331を参照されたい。
ポリペプチドに関する配列類似性は、配列同一性とも称され、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似した配列を照合する。例えば、GCGソフトウェアは、異なる生物種由来の相同ポリペプチドなどの密接に関連したポリペプチド間、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定するためにデフォルトパラメータを用いて使用することができるGap及びBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルトまたは推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域のアライメント及びパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと本発明の配列を比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410及びAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−402を参照されたい。
一度得られたら、1つまたは複数の生殖細胞系列変異を含有する抗原結合ドメインを、1つまたは複数のin vitroアッセイを活用して結合親和性の低減に関して検査した。特定の抗原を認識する抗体は、典型的には抗原に対する高い(すなわち強い)結合親和性に関して検査することによりそれらの目的に関してスクリーニングされるが、本発明の抗体は、弱い結合を呈するか、検出可能な結合を呈さない。この一般的な様式で得られた1つまたは複数の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子も、本発明内に包含され、結合力が誘導する腫瘍治療法として有意であると見いだされた。
予期しない利益、例えば、薬物動態特性の改善及び患者に対する毒性の低さが、本明細書に記載の方法から実現される可能性がある。
抗体の結合特性
本明細書で使用するとき、「結合」という用語は、抗体、免疫グロブリン、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質の、いずれか、例えば、細胞表面タンパク質またはその断片などの所定の抗原への結合の文脈において、典型的には、最小でも2つの実体または分子構造間の相互作用または会合、例えば抗体−抗原相互作用を表す。
例えば、結合親和性は、典型的には、例えば、抗原をリガンドとして、そして抗体、Ig、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質を分析対象(または抗リガンド)として使用してBIAcore 3000機器にて表面プラズモン共鳴(SPR)技法により決定されて、約10-7M以下、例えば、約10-8M以下、例えば、約10-9M以下のKD値に
対応する。セルベースの結合戦略、例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)結合アッセイも通常使用され、FACSデータは、他の方法、例えば、放射性リガンド競合結合及びSPRと十分に相関する(Benedict,CA,J Immunol Methods.1997,201(2):223−31;Geuijen,CA, et al.J Immunol Methods.2005,302(1−2):68−77)。
従って、本発明の抗体または抗原結合タンパク質は、非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対する結合に関するその親和性の少なくとも10分の1であるKD値に対応する親和性を有する所定の抗原または細胞表面分子(受容体)に結合する。本発明に従い、非特異的抗原の10分の1に等しいまたはそれより低いKD値に対応する抗体の親和性は、検出可能でない結合と考えられる可能性がある、しかしながら、このような抗体は、本発明の二重特異性抗体の生成のために第二の抗原結合アームと対となり得る。
「KD」(M)という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体または抗体結合断片の解離平衡定数を表す。KDと結合親和性との間には反比例関係があるため、KD値が小さいほど、親和性は高くなる、すなわち強くなる。ゆえに、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、相互作用を形成するためのより高い能力、それゆえより小さいKD値に関連し、逆に、「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、相互作用を形成するためのより低い能力、それゆえより大きなKD値に関連する。いくつかの状況では、特定の分子(例えば、抗体)のその相互作用パートナー分子(例えば、抗原X)に対する、その分子(例えば、抗体)の別の相互作用パートナー分子(例えば、抗原Y)に対する結合親和性と比較してより高い結合親和性(またはKD)は、より大きなKD値(より低い、または弱い親和性)をより小さいKD(高い、または強い親和性)で除することにより決定される結合比として表してよく、例えば、場合に応じて5倍または10倍大きい結合親和性と表される。
「kd」(sec−1または1/s)という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の解離速度定数を表す。前記値は、koff値とも称される。
「ka」(M−1×sec−1または1/M)という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の会合速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合速度定数を指す。
「KA」(M−1または1/M)という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の会合平衡定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kaをkdで除することによって得られる。
「EC50」または「EC50」という用語は、指定の曝露時間後のベースライン値と最大値との中間の応答を誘導する抗体の濃度を含む、半数効果濃度を表す。EC50は、その最大効果の50%が観察される抗体の濃度を本質的に表す。ある特定の実施形態では、EC50値は、例えば、FACS結合アッセイにより決定して、CD3または腫瘍関連抗原を発現する細胞への半最大結合を与える本発明の抗体の濃度に等しい。ゆえに、減少したまたはより弱い結合は、EC50、つまり半数効果濃度値の増加を伴って観察される。
一実施形態では、結合の低減は、半最大量の標的細胞への結合を可能にするEC50抗体濃度の増加として定義することができる。
別の実施形態では、EC50値は、T細胞細胞傷害活性による標的細胞の半最大枯渇を引き出す本発明の抗体の濃度を表す。ゆえに、細胞傷害活性(例えば、T細胞媒介性腫瘍細胞殺傷)の増加は、EC50、つまり半数効果濃度値の低減を伴って観察される。
二重特異性抗原結合分子
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であってよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってよい、または1つより多い標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含有してよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60−69;Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238−244を参照されたい。本発明の抗PSMA単一特異性抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、別の機能的分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質に連結またはこれと共発現されることができる。例えば、抗体またはその断片を、1つまたは複数の他の分子実体、例えば別の抗体または別の抗体断片に(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合による会合またはその他により)機能的に連結して、第二または追加の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を生成することができる。
「抗CD3抗体」または「抗PSMA抗体」という表現の本明細書での使用は、単一特異性抗CD3または抗PSMA抗体の両方、ならびにCD3結合アーム及びPSMA結合アームを含む二重特異性抗体を含むと意図される。ゆえに、本発明は、免疫グロブリンの一方のアームがヒトCD3と結合し、免疫グロブリンの他方のアームがヒトPSMAに対して特異的である、二重特異性抗体を含む。CD3結合アームは、本明細書の表12、14、15、18、及び20に示すHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。
ある特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。ある特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、二重特異性または多重特異性抗体の文脈で腫瘍関連抗原発現細胞殺傷を誘導する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒト及びカニクイザル(サル)CD3と弱く結合または会合するが、結合相互作用は当該分野で公知のin vitroアッセイによって検出可能ではない。PSMA結合アームは、本明細書の表1に示すHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。
ある特定の例示的な実施形態に従い、本発明は、CD3及びPSMAと特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。かかる分子は、本明細書で、例えば、「抗CD3/抗PSMA」、または「抗CD3×PSMA」もしくは「CD3×PSMA」二重特異性分子、または他の同様の用語(例えば、抗PSMA/抗CD3)と称してよい。
「PSMA」という用語は、本明細書で使用するとき、非ヒト種由来(例えば、「マウスPSMA」、「サルPSMA」等)であると指定されない限り、ヒトPSMAタンパク質を表す。ヒトPSMAタンパク質は、配列番号1651に示すアミノ酸配列を有する。
CD3及びPSMAと特異的に結合する前述の二重特異性抗原結合分子は、in vitro親和性結合アッセイによって測定して、約40nMを超えるKDを呈するような弱い結合親和性でCD3と結合する抗CD3抗原結合分子を含んでよい。
本明細書で使用するとき、「抗原結合分子」という表現は、単独で、または1つもしくは複数のさらなるCDR及び/もしくはフレームワーク領域(FR)と組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むかまたはこれからなるタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を意味する。ある特定の実施態様では、抗原結合分子は抗体または抗体の断片であり、それらの用語は本明細書の他所で定義される。
本明細書で使用するとき、「二重特異性抗原結合分子」という表現は、少なくとも第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインを含むタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、または1つもしくは複数のさらなるCDR及び/またはFRと組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのCDRを含む。本発明の文脈において、第一の抗原結合ドメインは第一の抗原(例えば、CD3)と特異的に結合し、第二の抗原結合ドメインは、第二の別個の抗原(例えば、PSMA)と特異的に結合する。
本発明のある特定の例示的な実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)及び軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第一及び第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)の文脈では、第一の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A1」で指定されてよく、第二の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A2」で指定されてよい。ゆえに、第一の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書でA1−HCDR1、A1−HCDR2、及びA1−HCDR3と称されてよく;第二の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書でA2−HCDR1、A2−HCDR2、及びA2−HCDR3と称されてよい。
第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインは、互いに直接または間接的に接続されて、本発明の二重特異性抗原結合分子を形成してよい。あるいは、第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインは、それぞれ別々の多量体化ドメインに接続されてよい。1つの多量体化ドメインと別の多量体化ドメインの会合は、2つの抗原結合ドメイン間の会合を容易にし、それにより二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書で使用するとき、「多量体化ドメイン」は、同じまたは同様の構造または構成の第二の多量体化ドメインと会合する能力を有する、任意の高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドまたはアミノ酸である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってよい。多量体化成分の非限定的な例は、免疫グロブリン(CH2−CH3ドメインを含む)のFc部分、例えば、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに各アイソタイプグループ内の任意のアロタイプである。
本発明の二重特異性抗原結合分子は、典型的には2つの多量体化ドメイン、例えば、それぞれが個々に別々の抗体重鎖の一部である2つのFcドメインを含むだろう。第一及び第二の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などの同じIgGアイソタイプのものであってよい。あるいは、第一及び第二の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4等のような異なるIgGアイソタイプのものであってよい。
ある特定の実施形態では、多量体化ドメインは、少なくとも1つのシステイン残基を含有する1〜約200アミノ酸長のFc断片またはアミノ酸配列である。他の実施形態では、多量体化ドメインは、システイン残基、または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインには、ロイシンジッパー、ヘリックス・ループ・モチーフ、またはコイルドコイル・モチーフを含むかまたはこれからなるペプチドまたはポリペプチドが含まれる。
任意の二重特異性抗体形式または技術を使用して、本発明の二重特異性抗原結合分子を作成してよい。例えば、第一の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片を、1つまたは複数の他の分子実体、例えば第二の抗原結合特異性を有する別の抗体または抗原断片に、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合による会合またはその他により)機能的に連結して、二重特異性抗原結合分子を生成することができる。本発明の文脈において使用することができる特定の例示的な二重特異性形式には、限定することなく、例えば、scFvベースの、またはダイアボディ二重特異性形式、IgG−scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)−Ig、クアドローマ、ノブ・イントゥ・ホール(knob−into−hole)、共通軽鎖(例えば、ノブ・イントゥ・ホールと共通の軽鎖、等)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)−IgG、及びMab2二重特異性形式が含まれる(前述の形式の概説については、例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1−11,及びそこに引用される参考文献を参照されたい)。
本発明の二重特異性抗原結合分子の文脈では、多量体化ドメイン、例えば、Fcドメインは、野生型の天然に存在するバージョンのFcドメインと比較して、1つまたは複数のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失または置換)を含み得る。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の改変された結合相互作用(例えば、増強されるかまたは減少される)を有する改変されたFcドメインを生じる、Fcドメインにおける1つまたは複数の改変を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子はCH2またはCH3領域に改変を含み、ここでこの改変は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5〜約6.0の範囲に及ぶエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。このようなFc改変の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、EまたはQ);250及び428(例えば、LまたはF);252(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254(例えば、SまたはT)、ならびに256(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)における改変;または位置428及び/もしくは433(例えば、L/R/S/P/QまたはK)及び/もしくは434(例えば、H/FまたはY)における改変;または位置250及び/もしくは428における改変;または位置307もしくは308(例えば、308F、V308F)、及び434における改変が挙げられる。一実施形態では、改変は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)改変;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)改変;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)改変;252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)改変;250Q及び428L改変(例えば、T250Q及びM428L);ならびに307及び/または308改変(例えば、308Fまたは308P)を含む。
本発明は、第一のCH3ドメイン及び第二のIg CH3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子も含み、ここで第一及び第二のIg CH3ドメインは互いに少なくとも1つのアミノ酸が異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差異が、アミノ酸差異を欠く二重特異性抗体と比較して、二重特異性抗体のプロテインAへの結合を減少させる。一実施形態では、第一のIg CH3ドメインはプロテインAと結合し、第二のIg CH3ドメインは、H95R(IMGTエクソン番号付けによる;EU番号付けではH435R)改変などのプロテインA結合を減少させるまたは消失させる変異を含有する。第二のCH3はY96F(IMGTによる;EUではY436F)改変をさらに含み得る。例えば、米国特許第8,586,713号を参照されたい。第二のCH3内に見出され得るさらなる改変としては:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによる;EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52N、及びV82I(IMGT;EUではN384S、K392N、及びV422I);ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、及びV82I(IMGTによる;EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、及びV422I)が挙げられる。
ある特定の実施形態では、Fcドメインは、1つより多くの免疫グロブリンアイソタイプに由来するFc配列を組み合わせたキメラであり得る。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4 CH2領域由来のCH2配列の一部または全て、及びヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4由来のCH3配列の一部または全てを含むことができる。キメラFcドメインは、キメラヒンジ領域も含有することができる。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域由来の「上部ヒンジ」配列を、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域由来の「下部ヒンジ」配列と組み合わせて含み得る。本明細書に示す抗原結合分子のいずれかに含まれることができるキメラFcドメインの特定の例は、N末端からC末端へ:[IgG4 CH1]−[IgG4上部ヒンジ]−[IgG2下部ヒンジ]−[IgG4 CH2]−[IgG4 CH3]を含む。本明細書に示す抗原結合分子のいずれかに含まれることができるキメラFcドメインの別の例は、N末端からC末端へ:[IgG1 CH1]−[IgG1上部ヒンジ]−[IgG2下部ヒンジ]−[IgG4 CH2]−[IgG1 CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれることができるキメラFcドメインのこれら及び他の例は、2014年8月28日に公開された米国公開2014/0243504に記載され、これはその全体が本明細書に組み込まれる。これらの一般的な構造配置を有するキメラFcドメイン、及びその変異体は、変更されたFc受容体結合を有することができ、今度はそれがFcエフェクター機能に影響を及ぼす。
ある特定の実施形態では、本発明は、抗体重鎖を提供し、ここで重鎖定常領域(CH)領域は、配列番号1663、配列番号1664、配列番号1665、配列番号1666、配列番号1667、配列番号1668、配列番号1669、配列番号1670配列番号1671または配列番号1672のいずれか1つに対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、重鎖定常領域(CH)領域は、配列番号1663、配列番号1664、配列番号1665、配列番号1666、配列番号1667、配列番号1668、配列番号1669、配列番号1670、配列番号1671及び配列番号1672からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
他の実施形態では、本発明は、抗体重鎖を提供し、ここでFcドメインは、配列番号1673、配列番号1674、配列番号1675、配列番号1676、配列番号1677、配列番号1678、配列番号1679、配列番号1680、配列番号1681または配列番号1682のいずれか1つに対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、Fcドメインは、配列番号1673、配列番号1674、配列番号1675、配列番号1676、配列番号1677、配列番号1678、配列番号1679、配列番号1680、配列番号1681及び配列番号1682からなる群より選択される(selected form the group consisting)アミノ酸配列を含む。
配列変異体
本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子は、個別の抗原結合ドメインが由来した対応する生殖細胞系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域内に1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を含んでよい。このような変異は、本明細書に開示のアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから入手可能な生殖細胞系列配列と比較することにより容易に確認することができる。本発明の抗原結合分子は、本明細書に開示の例示的なアミノ酸配列のいずれかに由来する抗原結合ドメインを含んでよく、ここで1つもしくは複数のフレームワーク及び/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸は、その抗体が由来した生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または別のヒト生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)、または対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へと変異する(このような配列変化は本明細書で集合的に「生殖細胞系列変異」と称される)。当業者は、本明細書に開示の重鎖及び軽鎖可変領域配列から始めて、1つまたは複数の個々の生殖細胞系列変異またはそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合断片を容易に生成することができる。ある特定の実施形態では、VH及び/またはVLドメイン内のフレームワーク及び/またはCDR残基は全て、その抗原結合ドメインが元々由来した元の生殖細胞系列配列において見られる残基へと逆変異される。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8つのアミノ酸内もしくはFR4の最後の8つのアミノ酸内に見られる変異した残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内に見られる変異した残基のみが元の生殖細胞系列配列へと逆変異される。他の実施形態では、フレームワーク及び/またはCDR残基(複数可)の1つまたは複数は、異なる生殖細胞系列配列(すなわち、その抗体結合ドメインが元々由来した生殖細胞系列配列とは異なる生殖細胞系列配列)の対応する残基(複数可)へと変異される。さらに、抗原結合ドメインは、フレームワーク及び/またはCDR領域内の2つ以上の生殖細胞系列変異の任意の組み合わせを含有し得、例えば、ここである特定の個々の残基は特定の生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異されるが、元の生殖細胞系列配列と異なるある特定の他の残基は維持されるかまたは異なる生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異される。一度得られれば、1つまたは複数の生殖細胞系列変異を含有する抗原結合ドメインは、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善されたまたは増強されたアンタゴニストまたはアゴニスト生物学的特性(場合による)、減少した免疫原性等の1つまたは複数の所望の特性について容易に検査することができる。この一般的な様式で得られる1つまたは複数の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、本発明内に包含される。
本発明は、1つまたは両方の抗原結合ドメインが1つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示のHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む、抗原結合分子も含む。例えば、本発明は、本明細書に開示のHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比べて、例えば、10以下、8以下、6以下、4以下、等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないだろう。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の基の例としては以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、及びアスパラギン−グルタミンである。あるいは、保存的置換は、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443−1445に開示するPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する任意の変化である。
本発明は、本明細書に開示のHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一であるHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子も含む。「実質的な同一性」または「実質的に同一の」という用語は、アミノ酸配列に言及する場合、2つのアミノ酸配列が、例えばデフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITにより最適に整列された際に、少なくとも95%配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方調節されてよい。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307−331を参照されたい。
ポリペプチドに関する配列類似性は、配列同一性とも称され、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似した配列を照合する。例えば、GCGソフトウェアは、異なる生物種由来の相同ポリペプチドなどの密接に関連したポリペプチド間、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定するためにデフォルトパラメータを用いて使用することができるGap及びBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルトまたは推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域のアライメント及びパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと本発明の配列を比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410及びAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−402を参照されたく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
pH依存性結合
本発明は、pH依存性結合特徴を有する、抗PSMA抗体、及び抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本発明の抗PSMA抗体は、中性pHと比較して酸性pHにて、PSMAへの減少した結合を呈し得る。あるいは、本発明の抗PSMA抗体は、中性pHと比較して酸性pHにて、PSMAに対する増強された結合を呈し得る。「酸性pH」という表現は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5、9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0以下のpH値を含む。本明細書で使用するとき、「中性pH」という表現は、約7.0〜約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、及び7.4のpH値を含む。
ある特定の例では、「中性pHと比較して、酸性pHにて...減少した結合」は、中性pHにてその抗原に結合する抗体のKD値に対する、酸性pHにてその抗原に結合する抗体のKD値の比で表される(または逆も同様)。例えば、抗体またはその抗原結合断片は、抗体またはその抗原結合断片が約3.0以上の酸性/中性KD比を呈する場合に、本発明の目的のために「中性pHと比較して酸性pHにて、PSMAへの減少した結合」を呈するとみなされ得る。ある特定の例示的な実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片に関する酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5
、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0.25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0またはそれ以上であることができる。
pH依存性結合特徴を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して酸性pHにて特定の抗原への減少した(または増強された)結合について抗体集団をスクリーニングすることにより得られ得る。加えて、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの改変により、pH依存性特徴を有する抗体が得られ得る。例えば、(例えばCDR内の)抗原結合ドメインの1つまたは複数のアミノ酸をヒスチジン残基と置換することにより、中性pHと比べて酸性pHにて減少した抗原結合を有する抗体が得られ得る。
Fc変異体を含む抗体
本発明のある特定の実施形態に従い、抗PSMA抗体、及び抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、例えば、中性pHと比較して酸性pHにて、FcRn受容体への抗体結合を増強するまたは減少させる1つまたは複数の変異を含むFcドメインを含んで提供される。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域に変異を含む抗体を含み、ここで該変異(複数可)は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5から約6.0の範囲に及ぶエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。このような変異は、動物に投与された際に、抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。このようなFc改変の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、EまたはQ);250及び428(例えば、LまたはF);252(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254(例えば、SまたはT)、及び256(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での改変;または位置428及び/もしくは433(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)及び/もしくは434(例えば、H/FまたはY)での改変;または位置250及び/もしくは428での改変;または位置307もしくは308(例えば、308F、V308F)、及び434での改変が挙げられる。一実施形態では、改変は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)改変;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)改変;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)改変;252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)改変;250Q及び428Lの改変(例えば、T250Q及びM428L);ならびに307及び/または308改変(例えば、308Fまたは308P)を含む。
例えば、本発明は、250Q及び248L(例えば、T250Q及びM248L);252Y、254T及び256E(例えば、M252Y、S254T及びT256E);428L及び434S(例えば、M428L及びN434S);ならびに433K及び434F(例えば、H433K及びN434F)からなる群より選択される変異の1つまたは複数の対または群を含むFcドメインを含む、抗PSMA抗体、及び抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。前述のFcドメイン変異、及び本明細書に開示の抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能性がある組み合わせは、本発明の範囲内にあると企図される。
抗体及び二重特異性抗原結合分子の生物学的特徴
本発明は、ヒトPSMAと、高親和性(例えば、ナノモル以下のKD値)で結合する抗体及びその抗原結合断片を含む。
ある特定の実施形態に従い、本発明は、ヒトPSMA(例えば、37℃で)と、例えば、本明細書の実施例3に定義するアッセイ形式を使用して、表面プラズモン共鳴により測定して、約80nM未満のKDで結合する抗体及び抗体の抗原結合断片を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、PSMAと、例えば、本明細書の実施例3に定義するアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似するアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により測定して、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約800pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約180pM未満、約160pM未満、約140pM未満、約120pM未満、約100pM未満、約80pM未満、約60pM未満、約40pM未満、約20pM未満、または約10pM未満のKDで結合する。
本発明は、PSMAに、本明細書の実施例3に定義するアッセイ形式、または実質的に類似するアッセイを使用して表面プラズモン共鳴により37℃で測定して、約1分間を超えるまたは約10分間を超える解離半減期(t1/2)で結合する、抗体及びその抗原結合断片も含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、PSMAと、例えば、本明細書の実施例3に定義するアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似するアッセイを使用して表面プラズモン共鳴により25℃または37℃で測定して、約20分間を超える、約30分間を超える、約40分間を超える、約50分間を超える、約60分間を超える、約70分間を超える、約80分間を超える、約90分間を超える、約100分間を超える、約200分間を超える、約300分間を超える、約400分間を超える、約500分間を超える、約600分間を超える、約700分間を超える、約800分間を超える、約900分間を超える、約1000分間を超える、または約1100分間を超えるt1/2で結合する。本発明は、ヒトCD3及びヒトPSMAに同時に結合することができる二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。ある特定の実施形態に従い、本発明の二重特異性抗原結合分子は、CD3及び/またはPSMAを発現する細胞と特異的に相互作用する。二重特異性抗原結合分子がCD3及び/またはPSMAを発現する細胞と結合する程度は、蛍光活性化細胞選別(FACS)により評価することができ、これは本明細書の実施例5に例示する通りである。例えば、本発明は、CD3を発現するヒトT細胞株(このような細胞株は、PSMAを発現しない、例えば、Jurkat)及び/またはPSMAを発現するヒト株(このような細胞株は、CD3を発現しない、例えば、B16F10.9/hPSMAまたは22RV1)と特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。本発明は、前述の細胞及び細胞株のいずれかに、実施例5に示すFACSアッセイまたは実質的に類似するアッセイを使用して決定して、約80nM、またはそれ未満のEC50値で結合する、二重特異性抗原結合分子を含む。
本発明は、CD3発現ヒトT細胞(例えば、Jurkat)及び/またはPSMA発現細胞に、1.0pM〜1000nMのEC50値で結合する、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も含む。ある特定の実施形態では、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、CD3発現ヒトT細胞に、1nM〜60nMのEC50値で結合する。例えば、本発明は、CD3発現ヒトT細胞(例えば、Jurkat)及び/またはPSMA発現細胞に、約1pM.約10pM、約100pM、約500pM、約1nM、約2nM、約5nM、約10nM、約20nM、約30nM、約40nM、約50nM約60nM、約70nM、約80nM、約90nM、約100nM、約200nM、約300nM、約500nM、約800nM、約1000nM、またはそれ以上のEC50値で結合する、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。
本発明は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の特徴を呈する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も含む:(a)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する;(b)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する;(c)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を抑制する;及び(d)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を低下させる(例えば、実施例8を参照されたい)。
本発明は、ヒトCD3と、高い親和性で結合する抗体及びその抗原結合断片を含む。本発明は、ヒトCD3と、望ましい治療的文脈及び特定の標的とする特性に応じて中程度または低い親和性で結合する抗体及びその抗原結合断片も含む。例えば、二重特異性抗原結合分子の文脈では、1アームがCD3と結合し、別のアームは標的抗原(例えば、PSMA)と結合する場合、標的抗原結合アームが標的抗原と高い親和性で結合し、一方で抗CD3アームがCD3と中程度または低い親和性でのみ結合することが望ましくあり得る。この様式では、標的抗原を発現する細胞に対する抗原結合分子の優先的な標的化が、全体的/標的としないCD3結合及びそれに伴い結果得られる有害な副作用を回避しつつ達成され得る。
本発明は、ヒトCD3及びヒトPSMAに同時に結合することができる二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。CD3を発現する細胞と相互作用する結合アームは、好適なin vitro結合アッセイにおいて測定して、弱から検出可能でない結合を有し得る。二重特異性抗原結合分子がCD3及び/またはPSMAを発現する細胞と結合する程度は、本明細書の実施例5に例示するように、蛍光活性化細胞選別(FACS)により評価することができる。
例えば、本発明は、CD3を発現するがPSMAを発現しないヒトT細胞株(例えば、Jurkat)、霊長類T細胞(例えば、カニクイザル末梢血単核細胞[PBMC])、及び/またはPSMA発現細胞と特異的に結合する抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。本発明は、前述のT細胞及びT細胞株のいずれかと、実施例5に示すFACS結合アッセイまたは実質的に類似するアッセイを使用して決定して、約1.8×10-8(18nM)〜約2.1×10-7(210nM)、もしくはそれ以上(すなわちより弱い親和性)のEC50値で、または検出可能でないEC50値で結合する二重特異性抗原結合分子を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体は、CD3と、例えば、本明細書の実施例5に定義するアッセイ形式、または実質的に類似するアッセイを使用してFACS結合により測定して、約30nMを超える、約40nMを超える、約45nMを超える、約50nMを超える、約55nMを超える、約60nMを超える、約65nMを超える、約70nMを超える、約75nMを超える、少なくとも80nM、約90nMを超える、約100nMを超える、約110nMを超える、少なくとも120nM、約130nMを超える、約140nMを超える、約150nMを超える、少なくとも160nM、約170nMを超える、約180nMを超える、約190nMを超える、約200nMを超える、約250nMを超える、約300nMを超える、約1μMを超える、約2μMを超える、もしくは約3μMを超えるEC50、または検出可能でない親和性で結合する。
本発明は、PSMA発現細胞及び細胞株に、実施例5に示すFACS結合アッセイまたは実質的に類似するアッセイを使用して決定して、5.6nM(5.6×10-9)以下のEC50値で結合する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体も含む。
本発明は、ヒトCD3と、弱い(すなわち低い)またさらには検出可能でない親和性で結合する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態に従い、本発明は、ヒトCD3と(例えば、37℃で)、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式を使用して表面プラズモン共鳴により測定して、約11nMを超えるKDで結合する、抗体及び抗体の抗原結合断片を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、CD3と、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似するアッセイを使用して表面プラズモン共鳴により測定して、約15nMを超える、約20nMを超える、約25nMを超える、約30nMを超える、約35nMを超える、約40nMを超える、約45nMを超える、約50nMを超える、約55nMを超える、約60nMを超える、約65nMを超える、約70nMを超える、約75nMを超える、少なくとも80nM、約90nMを超える、約100nMを超える、約110nMを超える、少なくとも120nM、約130nMを超える、約140nMを超える、約150nMを超える、少なくとも160nM、約170nMを超える、約180nMを超える、約190nMを超える、約200nMを超える、約250nMを超える、約300nMを超える、約1μMを超える、約2μMを超える、もしくは約3μMを超えるKD、または検出可能でない親和性で結合する。
本発明は、サル(すなわちカニクイザル)CD3と、弱い(すなわち低い)またさらには検出可能でない親和性で結合する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態に従い、本発明は、ヒトCD3と(例えば、37℃で)、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式を使用して表面プラズモン共鳴により測定して、約10nMを超えるKDで結合する抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、CD3と、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似するアッセイを使用して表面プラズモン共鳴により測定して、約15nMを超える、約20nMを超える、約25nMを超える、約30nMを超える、約35nMを超える、約40nMを超える、約45nMを超える、約50nMを超える、約55nMを超える、約60nMを超える、約65nMを超える、約70nMを超える、約75nMを超える、少なくとも80nM、約90nMを超える、約100nMを超える、約110nMを超える、少なくとも120nM、約130nMを超える、約140nMを超える、約150nMを超える、少なくとも160nM、約170nMを超える、約180nMを超える、約190nMを超える、約200nMを超える、約250nMを超える、約300nMを超える、約1μMを超える、約2μMを超える、もしくは約3μMを超えるKD、または検出可能でない親和性で結合する。
本発明は、ヒトCD3と結合し、T細胞活性化を誘導する抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。例えば、本発明は、ヒトT細胞活性化を、例えば、本明細書の実施例7に定義するアッセイ形式[例えば、抗CD3抗体の存在下で総T細胞(CD2+)のうち活性化された(CD69+)細胞の割合(%)を評価する]、またはその活性状態にあるT細胞を評価する実質的に類似するアッセイを使用して、in vitro T細胞活性化アッセイにより測定して、約113pM未満のEC50値で、誘導する抗CD3抗体を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、ヒトT細胞活性化[例えば、活性化(CD69+)T細胞率(%)]を、例えば、本明細書の実施例7に定義するアッセイ形式、または実質的に類似するアッセイを使用してin vitro T細胞活性化アッセイにより測定して、約100pM未満、約50pM未満、約20pM未満、約19pM未満、約18pM未満、約17pM未満、約16pM未満、約15pM未満、約14pM未満、約13pM未満、約12pM未満、約11pM未満、約10pM未満、約9pM未満、約8pM未満、約7pM未満、約6pM未満、約5pM未満、約4pM未満、約3pM未満、約2pM未満、または約1pM未満のEC50値で、誘導する。CD3に対して弱いまたは検出可能でない結合を有する抗CD3抗体は、CD3に対して弱いまたは検出可能でない結合親和性を有するにもかかわらず、高い効力(すなわちpM範囲)でT細胞活性化を誘導する能力を有し、これは本明細書の実施例7に例示する。
本発明は、ヒトCD3と結合し、腫瘍抗原発現細胞のT細胞媒介性殺傷を誘導する、抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体も含む。例えば、本発明は、腫瘍細胞のT細胞媒介性殺傷を、例えば、本明細書の実施例7に定義するアッセイ形式(例えば、抗CD3抗体の存在下でヒトPBMCによるPSMA発現細胞殺傷の程度を評価する)、または実質的に類似するアッセイを使用して、in vitro T細胞媒介性腫瘍細胞殺傷アッセイにおいて測定して、約1.3nM未満のEC50で、誘導する、抗CD3抗体を含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、T細胞媒介性腫瘍細胞殺傷(例えば、C4−2、22Rv1及びTRAMPC2_PSMA細胞のPBMC媒介性殺傷)を、例えば、本明細書の実施例7に定義するアッセイ形式、または実質的に類似するアッセイを使用して、in vitro T細胞媒介性腫瘍細胞殺傷アッセイにより測定して、約1nM未満、約400pM未満、約250pM未満、約100pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、約9pM未満、約8pM未満、約7pM未満、約6pM未満、約5pM未満、約4pM未満、約3pM未満、約2pM未満、または約1pM未満、のEC50値で誘導する。本発明は、ヒト及び/またはサル(すなわちカニクイザル)CD3と、弱い(すなわち低い)またさらには検出可能でない親和性(すなわち結合しないまたは検出可能な親和性を呈さない)で結合し、腫瘍抗原発現細胞のT細胞媒介性殺傷を誘導する、抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体も含む。
本発明は、CD3と、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式、または実質的に類似するアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により25℃または37℃で測定して、約10分未満の解離半減期(t1/2)で結合する、抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体も含む。ある特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、CD3と、例えば、本明細書の実施例6に定義するアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似するアッセイを使用して表面プラズモン共鳴により25℃または37℃で測定して、約9分未満の、約8分未満の、約7分未満の、約6分未満の、約5分未満の、約4分未満の、約3分未満の、約2分未満の、約1.9分未満の、もしくは約1.8分未満のt1/2で結合する、または非常に弱いもしくは検出可能でない結合を呈する。
本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の特徴をさらに呈し得る:(a)in vitroでPBMC増殖を誘導する;(b)T細胞を、ヒト全血においてIFN−ガンマ放出及びCD25上方制御を誘導することにより活性化する;ならびに(c)抗PSMA耐性細胞株上でT細胞媒介性細胞傷害を誘導する。
本発明は、対象における腫瘍抗原発現細胞を枯渇させることができる抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む(例えば、実施例8を参照されたい)。例えば、ある特定の実施形態に従い、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を提供し、ここで1μg、または10μg、または100μgの二重特異性抗原結合分子の、対象への(例えば、約0.1mg/kg、約0.08mg/kg、約0.06mg/kg約0.04mg/kg、約0.04mg/kg、約0.02mg/kg、約0.01mg/kg、またはそれ未満の用量での)単回投与が、対象におけるPSMA発現細胞の数を、検出可能レベルを下回るまで減少させる(例えば、対象における腫瘍成長が抑制されるまたは阻害される)。ある特定の実施形態では、約0.4mg/kgの用量での抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、対象への二重特異性抗原結合分子の投与の、約7日後、約6日後、約5日後、約4日後、約3日後、約2日後、または約1日後までに検出可能レベルを下回るまで対象における腫瘍成長の減少を引き起こす。ある特定の実施形態に従い、少なくとも約0.01mg/kgの用量での本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、PSMA発現腫瘍細胞の数を、投与後、少なくとも約7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間またはそれ以上まで、検出可能レベルを下回る状態に維持する。本明細書で使用するとき、「検出可能レベルを下回る」という表現は、標準的なキャリパー測定法、例えば本明細書の実施例8に示すものを使用して、対象において皮下で増殖していると直接的または間接的に検出することができる腫瘍細胞がないことを意味する。
本発明は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の特徴を呈する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も含む:(a)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する;(b)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて腫瘍成長を阻害する;(c)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を抑制する;及び(d)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいて確立した腫瘍の腫瘍成長を低下させる(例えば、実施例8を参照されたい)。本発明は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の特徴を呈する抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子も含む:(a)循環サイトカインにおける一過性の用量依存性増加を誘導する、(b)循環T細胞における一過性の増加を誘導する、及び(c)エフェクターT細胞細胞(例えば、CD4+T細胞、CD8+T細胞、及び制御性T細胞、すなわちTreg)を枯渇させない。
エピトープマッピング及び関連する技術
本発明の抗原結合分子が結合するCD3及び/またはPSMA上のエピトープは、CD3またはPSMAタンパク質の3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続した配列からなり得る。あるいは、エピトープは、CD3またはPSMAの複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなり得る。本発明の抗体は、単一のCD3鎖(例えば、CD3−イプシロン、CD3−デルタまたはCD3−ガンマ)内に含有されるアミノ酸と相互作用し得るか、または2つ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用し得る。「エピトープ」という用語は、本明細書で使用するとき、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域内の特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を表す。単一の抗原は、1つより多くのエピトープを有し得る。ゆえに、異なる抗体は、抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは立体構造的または線状のいずれでもよい。立体構造的エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に近接したアミノ酸により生じる。線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接したアミノ酸残基により生じるものである。ある特定の状況では、エピトープは抗原上に、多糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体の抗原結合ドメインがポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」か否かを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、通常のクロスブロッキングアッセイ、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.,NY)を記載のもの、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443−463)、及びペプチド切断分析が含まれる。加えて、抗原のエピトープ切り出し、エピトープ抽出及び化学修飾などの方法を使用することができる(Tomer,2000,Protein Science 9:487−496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。一般論としては、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質の重水素標識、その後の重水素で標識されたタンパク質への抗体の結合を必然的に含む。次に、タンパク質/抗体複合体を、水に移して、抗体により保護されている残基(これらは重水素標識されたままである)を除いて全ての残基における水素−重水素交換させる。抗体の解離後、標的タンパク質は、プロテアーゼ切断及び質量分析にかけられ、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識された残基が明らかとなる。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252−259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A−265Aを参照されたい。抗原/抗体複合体のX線結晶解析もエピトープマッピング目的で使用してよい。
本発明は、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれか(例えば、本明細書の表1に示すアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)と同じエピトープに結合する抗PSMA抗体をさらに含む。同様に、本発明は、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれか(例えば、本明細書の表1に示すアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)と、PSMAへの結合について競合する抗PSMA抗体も含む。
本発明は、ヒトCD3及び/またはカニクイザルCD3と低または検出可能な結合親和性で特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、ならびにヒトPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含み、第一の抗原結合ドメインが、本明細書に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じCD3上のエピトープに結合する、及び/または第二の抗原結合ドメインが、本明細書に記載の特定の例示的なPSMA特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じPSMA上のエピトープに結合する、二重特異性抗原結合分子も含む。
同様に、本発明は、ヒトCD3と特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含み、第一の抗原結合ドメインが、本明細書に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかとCD3への結合について競合する、及び/または第二の抗原結合ドメインが、本明細書に記載の特定の例示的なPSMA特異的抗原結合ドメインのいずれかと、PSMAへの結合について競合する、二重特異性抗原結合分子も含む。
特定の抗原結合分子(例えば、抗体)またはその抗原結合ドメインが、本発明の参照抗原結合分子と同じエピトープに結合するか否か、またはそれらと結合について競合するか否かは、当該分野で公知の通常の方法を使用することにより容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照二重特異性抗原結合分子と同じPSMA(またはCD3)上のエピトープに結合するか否かを決定するために、参照二重特異性分子を最初にPSMAタンパク質(またはCD3タンパク質)に結合させる。次に、PSMA(またはCD3)分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合の後に、PSMA(またはCD3)に結合する事ができる場合、試験抗体は参照二重特異性抗原結合分子と異なるPSMA(またはCD3)のエピトープに結合すると結論付けることができる。他方で試験抗体が、参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合の後に、PSMA(またはCD3)分子と結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照二重特異性分子により結合されるエピトープと同じPSMA(またはCD3)のエピトープに結合し得る。次いで、追加の通常の実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を実行して、試験抗体の観察された結合の欠如が、実際に参照二重特異性抗原結合分子と同じエピトープへの結合に起因するか否か、または立体的遮断(または別の現象)が観察された結合の欠如の原因なのか否かを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリーまたは当該分野で利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的な抗体結合アッセイを使用して行うことができる。本発明のある特定の実施形態に従い、2つの抗原結合タンパク質は、例えば、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の一方の抗原結合タンパク質が、競合結合アッセイ(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990:50:1495−1502を参照されたい)において測定して、他方の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%またさらには99%阻害する場合に、同じ(または重複する)エピトープに結合する。あるいは、2つの抗原結合タンパク質は、一方の抗原結合タンパク質の結合を低下させるまたは排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が他方の結合を低下させるまたは排除する場合に、同じエピトープに結合するとみなされる。2つの抗原結合タンパク質は、一方の抗原結合タンパク質の結合を低下させるまたは排除するアミノ酸変異のサブセットのみが他方の結合を低下させるまたは排除する場合、「重複エピトープ」を有するとみなされる。
抗体またはその抗原結合ドメインが参照抗原結合分子との結合について競合するか否かを決定するために、上記の結合方法論を2つの方向で行った:第一の方向では、参照抗原結合分子を、飽和条件下でPSMAタンパク質(またはCD3タンパク質)に結合させ、続いて試験抗体のPSMA(またはCD3)分子への結合を評価する。第二の方向では、試験抗体を飽和条件下でPSMA(またはCD3)分子に結合させ、続いて参照抗原結合分子のPSMA(またはCD3)分子への結合を評価する。両方の方向で、第一の(飽和している)抗原結合分子のみがPSMA(またはCD3)分子に結合することができる場合、試験抗体及び参照抗原結合分子は、PSMA(またはCD3)への結合について競合すると結論づけられる。当業者には当然のことであるだろうが、参照抗原結合分子と結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同じエピトープに結合せず、重複するまたは隣接するエピトープに結合することにより参照抗体の結合を立体的にブロックする可能性がある。
抗原結合ドメインの調製及び二重特異性分子の構築
特定の抗原に対して特異的な抗原結合ドメインは、当該分野で公知の任意の抗体生成技術により調製することができる。一度得られれば、2つの異なる抗原(例えば、CD3及びPSMA)に対して特異的な2つの異なる抗原結合ドメインを、互いに対して適切に配置して、通常の方法を使用して本発明の二重特異性抗原結合分子を生成することができる。(本発明の二重特異性抗原結合分子を構築するために使用することができる例示的な二重特異性抗体形式の考察は、本明細書の他所に提供される)。ある特定の実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子の個々の構成要素(例えば、重鎖及び軽鎖)の1つまたは複数は、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体から誘導される。このような抗体を作成する方法は当該分野で周知である。例えば、本発明の二重特異性抗原結合分子の重鎖及び/または軽鎖の1つまたは複数は、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製することができる。VELOCIMMUNE(商標)技術(または任意の他のヒト抗体生成技術)を使用して、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有する、特定の抗原(例えば、CD3またはPSMA)に対する高親和性キメラ抗体が、最初に単離される。抗体を特徴決定し、所望の特徴、例えば、親和性、選択性、エピトープ等について選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置き換えて、本発明の二重特異性抗原結合分子に組み込むことができる完全ヒト重鎖及び/または軽鎖を生成する。
遺伝子操作された動物を使用して、ヒト二重特異性抗原結合分子を作成してよい。例えば、内在性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再編成及び発現することができない遺伝子改変されたマウスを使用することができ、ここで該マウスは、内在性マウスカッパ遺伝子座にてマウスカッパ定常遺伝子に作動可能に連結されたヒト免疫グロブリン配列によりコードされる1つまたは2つのヒト軽鎖可変ドメインのみを発現する。このように遺伝子改変されたマウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖を伴う2つの異なる重鎖を含む完全ヒト二重特異性抗原結合分子を生成することができる。(このように操作されたマウス及び二重特異性抗原結合分子を生成するためのその使用の詳細な考察については、例えば、US2011/0195454を参照されたい)。
生物学的同等性
本発明は、本明細書に開示の例示的な分子のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するが、CD3及び/またはPSMAと結合する能力は保持する抗原結合分子を包含する。このような変異体分子は、親配列と比較した際に、アミノ酸の1つまたは複数の付加、欠失、または置換を含み得るが、記載される二重特異性抗原結合分子の生物学的活性と本質的に同等な生物学的活性を呈する。
本発明は、本明細書に示す例示的な抗原結合分子のいずれかと生物学的に同等な抗原結合分子を含む。2つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば、それらが、それらの吸収の速度及び程度が、同様の実験条件下で同じモル用量で、単回用量または複数回用量のいずれかで投与された際に有意な差異を示さない薬学的等価物または薬学的代替物である場合に、生物学的に同等とみなされる。いくつかの抗原結合タンパク質は、それらが、それらの吸収の程度において同等であるが、それらの吸収速度においては同等でない場合に、等価物または薬学的代替物であるとみなされるだろう。さらに、吸収速度におけるこのような差異が意図的であり、標識に反映されており、例えば、慢性使用での効果的な身体薬物濃度の達成に必須ではなく、そして研究されている特定の薬品に関して医学的に重要でないとみなされるため、なお生物学に同等であるとみなされ得る。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、及び効力において臨床的に意味のある差異がない場合に生物学的に同等である。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、切り替えなしに継続された治療と比較して、免疫原性における臨床的に有意な変化、または有効性の減少を含む、有害作用の危険性における予期せぬ増加を伴わずに、参照生成物と生物学的生成物との間で患者が1回または複数回切り替えられることができる場合に、生物学的に同等である。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらが両方とも、そのような機序が知られている程度まで、使用の条件(複数可)に対して共通の作用機序(複数可)により作用する場合に、生物学的に同等である。
生物学的同等性は、in vivo及びin vitroの方法により実証され得る。生物学的同等性の尺度としては、例えば、(a)抗体またはその代謝物の濃度が、血液、血漿、血清または他の生物学的流体において時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;(b)ヒトin vivoバイオアベイラビリティデータと相関しており、かつ合理的に予測されるin vitro試験;(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理作用が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;及び(d)抗原結合タンパク質の安全性、有効性もしくはバイオアベイラビリティまたは生物学的同等性を確立する十分に管理された臨床試験におけるものが含まれる。
本明細書に示す例示的な二重特異性抗原結合分子の生物学的に同等な変異体は、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うことにより、または生物学的活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を除去することにより構築され得る。例えば、生物学的活性に必須でないシステイン残基は、再生の際に不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために除去されるかまたは他のアミノ酸と置き換えられることができる。他の文脈では、生物学的に同等な抗原結合タンパク質は、分子のグリコシル化特徴を改変するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含む本明細書に示す例示的な二重特異性抗原結合分子の変異体を含み得る。
種選択性及び種交差反応性
本発明のある特定の実施形態に従い、ヒトCD3に結合するが他の種由来のCD3には結合しない抗原結合分子を提供する。ヒトPSMAに結合するが他の種由来のPSMAには結合しない抗原結合分子も提供する。本発明は、ヒトCD3及び1つもしくは複数の非ヒト種由来のCD3に結合する抗原結合分子;ならびに/またはヒトPSMA及び1つもしくは複数の非ヒト種由来のPSMAに結合する抗原結合分子を含む。
本発明のある特定の例示的な実施形態に従い、ヒトCD3及び/またはヒトPSMAに結合し、場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザルまたはチンパンジーCD3及び/またはPSMAの1つまたは複数に結合してもしなくてもよい抗原結合分子を提供する。例えば、本発明の特定の例示的な実施形態では、ヒトCD3及びカニクイザルCD3と結合する第一の抗原結合ドメイン、ならびにヒトPSMAと特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を提供する。
免疫複合体
本発明は、細胞毒、化学療法薬、免疫抑制剤または放射性同位体などの治療部分にコンジュゲートする抗原結合分子(「免疫複合体」)を包含する。細胞毒性剤は、細胞に対して有害な任意の薬剤を含む。免疫複合体を形成するために好適な細胞毒性剤及び化学療法剤の例は、当該分野で公知である(例えば、WO05/103081を参照されたい)。
治療製剤及び投与
本発明は、本発明の抗原結合分子を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、好適なキャリア、賦形剤、及び改善された輸送、送達、耐性等を提供するその他の薬剤と共に製剤化される。多数の適切な製剤が、全ての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAに見出すことができる。これらの製剤には、例えば、散剤、ペースト剤、軟膏、ゼリー、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(例えばLIPOFECTIN(商標)、Life Technologies,Carlsbad,CA)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油及び油中水乳剤、カーボワックス乳剤(emulsions carbowax)(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固形ゲル、及びカーボワックスを含有する半固形混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Techno l52:238−311も参照されたい。
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路等に依存して変動してよい。好ましい用量は、典型的には体重または体表面積に従って計算される。本発明の二重特異性抗原結合分子が成体患者において治療目的で使用される際、本発明の二重特異性抗原結合分子を、通常は約0.01〜約20mg/体重kg、より好ましくは約0.02〜約7、約0.03〜約5、または約0.05〜約3mg/体重kgの単回用量で静脈内投与することが有利であり得る。状態の重症度に依存して、処置の頻度及び期間を調整することができる。二重特異性抗原結合分子を投与するための有効な投与量及びスケジュールは、経験的に決定されてよい;例えば、患者の進行を、定期的な評価によりモニタリングし、それに従って用量を調整することができる。さらには、投与量の種間スケーリングは、当該分野で周知の方法(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)を使用して行うことができる。
様々な送達系が公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム封入、マイクロ粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429−4432を参照されたい)。導入方法には、限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が含まれる。組成物は、任意の好都合な経路、例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜、等)を通した吸収により投与されてよく、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与されてよい。投与は全身または局所であることができる。
本発明の医薬組成物は、標準的な針及びシリンジを用いて皮下または静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関しては、ペン型送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達において容易に有用性を有する。このようなペン型送達デバイスは再利用可能であるかまたは使い捨てであることができる。再利用可能なペン型送達デバイスは、一般的には、医薬組成物を含有する交換式カートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物が全て投与されてカートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新しいカートリッジに置き換えることができる。次いでペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換式カートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバ中に保持される医薬組成物で予め充填されている状態となる。リザーバから医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
多数の再利用可能なペン型自動注入送達デバイスが本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する。例としては、限定されないが、いくつかを挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,Bergdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I、II及びIII(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、及びOPTICLIK(商標)(sanofi−aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられる。本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する使い捨てペン型送達デバイスの例としては、限定されないが、いくつかを挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi−aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、及びKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注入器(Amgen,Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier,Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)、及びHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs,Abbott Park IL)が挙げられる。
ある特定の状況では、医薬組成物は制御放出系にて送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用してよい(Langer、上記;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。なおも別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的に近接して配置することができ、それゆえ、全身用量の一部しか必要としない(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release内、上記、vol.2,pp.115−138を参照されたい)。他の制御放出系は、Langer,1990,Science 249:1527−1533による概説において考察される。
注射用調製物は、静脈内、皮下、皮内及び筋内注射、点滴等のための投薬形態を含んでよい。これらの注射用調製物は、公知の方法により調製されてよい。例えば、注射用調製物は、例えば、上記の抗体またはその塩を、注射のために従来使用される滅菌水性媒体または油性媒体中に溶解、懸濁または乳化させることにより調製されてよい。注射のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース及び他の補助剤を含有する等張液、等があり、これらは適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO−50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加体)]等と組み合わせて使用してよい。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が使用され、これらは可溶化剤、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と組み合わせて使用してよい。このように調製された注射剤は、好ましくは適切なアンプル中に充填される。
有利には、上記の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適している単位用量で投薬形態へと調製される。単位用量でのこのような投薬形態としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤等が含まれる。含有される前記の抗体の量は、一般的には、単位用量で投薬形態あたり約5〜約500mgであり;特に注射剤の形態では、前記の抗体が約5〜約100mgで含有され、そして他の投薬形態については約10〜約250mgで含有されることが好ましい。
抗原結合分子の治療上の使用
本発明は、抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片(fragement)、またはCD3及びPSMAと特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む治療用組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を含む。治療用組成物は、本明細書に開示の抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれか、及び薬学的に許容され得るキャリアまたは希釈剤を含むことができる。本明細書で使用するとき、「それを必要とする対象」という表現は、癌の1つもしくは複数の症状もしくは兆候を呈する(例えば、腫瘍を発現しているまたは本明細書以下で述べる癌のいずれかに罹患している対象)、あるいはそうでなければPSMA活性の阻害もしくは減少またはPSMA+細胞(例えば、前立腺癌細胞)の枯渇から利益を受けることになるヒトまたは非ヒト動物を意味する。
本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子(及びそれらを含む治療用組成物)は、特に、免疫応答の刺激、活性化及び/または標的化が有益であるだろう任意の疾患または障害を処置するために有用である。特に、本発明の抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、PSMA発現もしくは活性またはPSMA+細胞の増殖を伴うかこれにより媒介される任意の疾患または傷害の処置、予防及び/または寛解のために使用してよい。本発明の治療方法が達成される作用機序は、例えば、CDC、アポトーシス、ADCC、食作用による、またはこれらの機序の2つ以上の組み合わせによる、エフェクター細胞の存在下でのPSMAを発現する細胞の殺傷を含む。本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して阻害または殺傷することができるPSMAを発現する細胞には、例えば、前立腺腫瘍細胞が含まれる。
本発明の抗原結合分子は、例えば、胃腸管、前立腺、腎臓、及び/または膀胱に生じる原発性及び/または転移性腫瘍を処置するために使用してよい。ある特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して、以下の癌の1つまたは複数を処置する:淡明細胞型腎細胞癌、嫌色素性腎細胞癌、(腎臓)オンコサイトーマ、(腎臓)移行上皮癌、前立腺癌、結腸直腸癌、胃癌、尿路上皮癌、(膀胱)腺癌、または(膀胱)小細胞癌。本発明のある特定の実施形態に従い、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、去勢抵抗性前立腺癌に罹患した患者の処置に有用である。本発明の他の関連する実施形態に従い、本明細書に開示する抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を、去勢抵抗性前立腺癌に罹患している患者に投与することを含む方法が提供される。当該分野で公知の分析/診断的方法、例えば、腫瘍スキャニング等を使用して、患者が去勢抵抗性である腫瘍を有するか否かを確認してよい。
本発明は、対象内に残存する癌を処置するための方法も含む。本明細書で使用するとき、「残存する癌」という用語は、抗癌治療を用いた処置後の、対象における1つまたは複数の癌性細胞の存在または残留を意味する。
ある特定の態様に従い、本発明は、PSMA発現に伴う疾患または障害(例えば、前立腺癌)を処置するための方法であって、本明細書の他所に記載される抗PSMAまたは二重特異性抗原結合分子の1つまたは複数を、対象が前立腺癌(例えば、去勢抵抗性前立腺癌)を有すると決定された後に、該対象に投与することを含む、前記方法を提供する。例えば、本発明は、前立腺癌を処置するための方法であって、抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を患者に、対象がホルモン療法(例えば、抗アンドロゲン療法)を受けた1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、1週間後、2週間後、3週間後または4週間後、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後、8ヶ月後、1年後、またはそれ以上後に投与することを含む、前記方法を含む。
併用療法及び製剤
本発明は、1つまたは複数の追加の治療剤と組み合わせて本明細書に記載の例示的な抗体及び二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。本発明の抗原結合分子と組み合わせてよい、または組み合わせて投与してよい例示的な追加の治療剤としては、例えば、EGFRアンタゴニスト(例えば、抗EGFR抗体[例えば、セツキシマブまたはパニツムマブ]またはEGFRの小分子阻害剤[例えば、ゲフィチニブまたはエルロチニブ])、Her2/ErbB2、ErbB3またはErbB4などの別のEGFRファミリーメンバーのアンタゴニスト(例えば、抗ErbB2、抗ErbB3もしくは抗ErbB4抗体、またはErbB2、ErbB3もしくはErbB4活性の小分子阻害剤)、EGFRvIIIのアンタゴニスト(例えば、EGFRvIIIと特異的に結合する抗体)、cMETアナゴニスト(anagonist)(例えば、抗cMET抗体)、IGF1Rアンタゴニスト(例えば、抗IGF1R抗体)、B−raf阻害剤(例えば、ベムラフェニブ、ソラフェニブ、GDC−0879、PLX−4720)、PDGFR−α阻害剤(例えば、抗PDGFR−α抗体)、PDGFR−β阻害剤(例えば、抗PDGFR−β抗体)、VEGFアンタゴニスト(例えば、VEGF−Trap、例えば、US7,087,411を参照されたい(本明細書では「VEGF阻害融合タンパク質」とも称される)、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)、VEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブまたはパゾパニブ))、DLL4アンタゴニスト(例えば、REGN421などの、US2009/0142354に開示される抗DLL4抗体)、Ang2アンタゴニスト(例えば、H1H685Pなどの、US2011/0027286に開示される抗Ang2抗体)、FOLH1(PSMA)アンタゴニスト、PRLRアンタゴニスト(例えば、抗PRLR抗体)、STEAP1またはSTEAP2アンタゴニスト(例えば、抗STEAP1抗体または抗STEAP2抗体)、TMPRSS2アンタゴニスト(例えば、抗TMPRSS2抗体)、MSLNアンタゴニスト(例えば、抗MSLN抗体)、CA9アンタゴニスト(例えば、抗CA9抗体)、ウロプラキンアンタゴニスト(例えば、抗ウロプラキン抗体)、等が挙げられる。本発明の抗原結合分子と組み合わせて有益に投与されてよい他の薬剤には、小分子サイトカイン阻害剤を含むサイトカイン阻害剤、及びIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−9、IL−11、IL−12、IL−13、IL−17、IL−18などのサイトカインまたはそれらのそれぞれの受容体に結合する抗体が含まれる。本発明の医薬組成物(例えば、本明細書に開示の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物)は、「ICE」:イホスファミド(例えば、Ifex(登録商標))、カルボプラチン(例えば、Paraplatin(登録商標))、エトポシド(例えば、Etopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePesid(登録商標)、VP−16);「DHAP」:デキサメタゾン(例えば、Decadron(登録商標))、シタラビン(例えば、Cytosar−U(登録商標)、シトシンアラビノシド、ara−C)、シスプラチン(例えば、Platinol(登録商標)−AQ);及び「ESHAP」:エトポシド(例えば、Etopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePesid(登録商標)、VP−16)、メチルプレドニゾロン(例えば、Medrol(登録商標))、高用量シタラビン、シスプラチン(例えば、Platinol(登録商標)−AQ)から選択される1つまたは複数の治療的組み合わせを含む治療レジメンの一部として投与されてもよい。
本発明は、本明細書に言及する抗原結合分子のいずれか、及びVEGF、Ang2、DLL4、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFRvIII、cMet、IGF1R、B−raf、PDGFR−α、PDGFR−β、FOLH1(PSMA)、PRLR、STEAP1、STEAP2、TMPRSS2、MSLN、CA9、ウロプラキン、または前述のサイトカインのいずれかの1つまたは複数の阻害剤を含む治療用組み合わせも含み、ここで阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ、ナノボディもしくは抗体断片(例えば、Fab断片;F(ab’)2断片;Fd断片;Fv断片;scFv;dAb断片;または他の操作された分子、例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ及び最小認識単位)である。本発明の抗原結合分子は、抗ウイルス薬、抗生物質、鎮痛薬、コルチコステロイド及び/またはNSAIDと組み合わせて投与及び/または同時処方されてもよい。本発明の抗原結合分子は、放射線処置及び/または従来の化学療法も含む処置レジメンの一部として投与されてもよい。
追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗原結合分子の投与の直前に、これと同時に、または直後に投与されてよい;(本開示の目的のために、このような投与レジメンは、追加の治療活性成分と「組み合わせた」抗原結合分子の投与とみなされる)。
本発明は、本明細書の他所に記載されるように、本発明の抗原結合分子が1つまたは複数の追加の治療活性成分(複数可)と同時処方されている医薬組成物を含む。
投与レジメン
本発明のある特定の実施形態に従い、複数回用量の抗原結合分子(例えば、抗PSMA抗体またはPSMA及びCD3と特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)は、規定された時間経過にわたって対象に投与されてよい。本発明のこの態様に従う方法は、複数回用量の本発明の抗原結合分子を対象に順次投与することを含む。本明細書で使用するとき、「順次投与すること」は、抗原結合分子の各用量が、対象に、異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、時間、日、週または月)離れた異なる日に投与されるということを意味する。本発明は、患者に、単回初回用量の抗原結合分子、続いて1つまたは複数の二次用量の抗原結合分子、場合により続いて1つまたは複数の三次用量の抗原結合分子を、順次投与することを含む方法を含む。
「初回用量」、「二次用量」、及び「三次用量」という用語は、本発明の抗原結合分子の投与の時系列を表す。ゆえに、「初回用量」は、処置レジメンの開始時に投与される用量であり(「ベースライン用量」とも称される);「二次用量」は、初回用量の後に投与される用量であり;「三次用量」は、二次用量の後に投与される用量である。初回、二次、及び三次用量は全て、同じ量の抗原結合分子を含有してよいが、一般的には投与頻度の点で互いに異なり得る。しかしながら、ある特定の実施形態では、初回、二次及び/または三次用量に含有される抗原結合分子の量は、処置の過程で互いに変動する(例えば、適宜上方または下方に調整される)。ある特定の実施形態では、2以上の(例えば、2、3、4、または5)用量が、処置レジメンの開始時に「負荷用量」として投与され、続いてより低い頻度で投与される後続用量(例えば、「維持量」)が投与される。
本発明の1つの例示的な実施形態では、二次用量及び/または三次用量はそれぞれ、直前の用量の1〜26週間後(例えば、1、11/2、2、21/2、3、31/2、4、41/2、5、51/2、6、61/2、7、71/2、8、81/2、9、91/2、10、101/2、11、111/2、12、121/2、13、131/2、14、141/2、15、151/2、16、161/2、17、171/2、18、181/2、19、191/2、20、201/2、21、211/2、22、221/2、23、231/2、24、241/2、25、251/2、26、261/2、週間またはそれ以上後)に投与される。「直前の用量」という語句は、本明細書で使用するとき、一連の複数回投与にて、間に投薬を介在させずに、その順番でまさに次の用量の投与の前に患者に投与される抗原結合分子の用量を意味する。
本発明のこの態様に従う方法は、患者に、任意の数の二次用量及び/または三次用量の抗原結合分子(例えば、抗PSMA抗体またはPSMA及びCD3と特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)を投与することを含んでよい。例えば、ある特定の実施形態では、単回二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、ある特定の実施形態では、単回の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上)の三次用量が患者に投与される。
複数回二次用量を必然的に含む実施形態では、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与されてよい。例えば、各二次用量は、患者に、直前の用量の1〜2週間後に投与されてよい。同様に、複数回三次用量を必然的に含む実施形態では、各三次用量は他の三次用量と同じ頻度で投与されてよい。例えば、各三次用量は、患者に、直前の用量の2〜4週間後に投与されてよい。あるいは、二次用量及び/または三次用量が患者に投与される頻度は、処置レジメンの経過にわたって変動することができる。投与頻度は、臨床検査後に個々の患者の必要性に応じて、医師により処置の過程の間に調整されてもよい。
抗体の診断上の使用
本発明の抗PSMA抗体を使用して、例えば診断目的のために、試料中のPSMA、またはPSMA発現細胞を検出及び/または測定してもよい。例えば、抗PSMA抗体、またはその断片を使用して、PSMAの異常な発現(例えば、過剰発現、過小発現、発現の欠如、等)を特徴とする状態または疾患を診断してよい。PSMAについての例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗PSMA抗体と接触させることを含んでよく、ここで抗PSMA抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識される。あるいは、標識していない抗PSMA抗体を、それ自体が検出可能に標識される二次抗体と組み合わせて診断用途において使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、放射性同位体、例えば3H、14C、32P、35S、もしくは125I;蛍光性もしくは化学発光性部分、例えばフルオレセインイソチオシアネート、もしくはローダミン;または酵素、例えばアルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼであることができる。本発明の抗PS
MA抗体の別の例示的な診断的使用には、対象における腫瘍細胞の非侵襲的同定及びトラッキングを目的とする89Zr標識された、例えば89Zr−−デスフェリオキサミン標識された、抗体を含む(例えば、ポジトロン断層法(PET)イメージング)。(例えば、Tavare,R.et al.Cancer Res.2016 Jan 1;76(1):73−82;及びAzad,BB.et al.Oncotarget.2016 Mar 15;7(11):12344−58を参照されたい)。試料中のPSMAを検出または測定するために使用することができる特定の例示的なアッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び蛍光活性化細胞選別(FACS)が含まれる。
本発明に従うPSMA診断アッセイにおいて使用することができる試料は、正常または病理的状態下で、検出可能な量のPSMAタンパク質、またはその断片を含有する患者から得ることができる任意の組織または流体試料を含む。一般に、健常患者(例えば、異常なPSMAレベルまたは活性を伴う疾患または状態に罹患していない患者)から得られた特定の試料中のPSMAのレベルを、最初にPSMAのベースライン、または標準的なレベルを確立するために測定することになる。次いでPSMAのこのベースラインレベルを、PSMA関連疾患(例えば、PSMA発現細胞を含有する腫瘍)または状態を有することが疑われる個体から得られた試料において測定されたPSMAレベルに対して比較することができる。
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物を作成及び使用する方法の完全な開示及び記載を当業者に提供するように示され、本発明者らが彼らの発明とみなすものの範囲を限定することは意図しない。使用される数(例えば、量、温度、等)に関する正確性を確実にするための努力がなされているが、いくらかの実験誤差及び偏差は考慮されるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
実施例1:抗PSMA抗体の生成
抗PSMA抗体を、ヒトPSMA抗原を用いて遺伝子改変されたマウスを免疫誘導することにより、またはヒトPSMA抗原を用いてヒト免疫グロブリン重鎖及びカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含む操作されたマウスを免疫誘導することにより得た。
マウスを、ヒトPSMA(配列番号1651;UniProtKB/Swiss−Prot番号Q04609)を発現するヒト前立腺癌細胞(LNCaP、ATTC(登録商標)、Manassas,Virginia,USA)を用いて免疫誘導した。免疫誘導後、脾細胞を各マウスから回収し、(1)マウス骨髄腫細胞と融合させてそれらの生存力を保存し、ハイブリドーマを形成し、PSMA特異性についてスクリーニングした、または(2)反応性抗体(抗原陽性B細胞)と結合及びこれを同定する選別試薬としてN末端6−Hisタグ(R&D、カタログ番号4234−ZN)を有するヒトPSMAを使用して、(US2007/0280945A1に記載のように)B細胞選別した。
ヒト可変領域及びマウス定常領域を有する、PSMAに対するキメラ抗体を、最初に単離した。抗体を特徴決定し、所望の特徴、例えば親和性、選択性、等に関して選択した。必要であれば、マウス定常領域を、所望のヒト定常領域、例えば野生型または改変されたIgG1またはIgG4と置き換えて、完全ヒト抗PSMA抗体を生成した。選択された定常領域が、特定の用途に従って変動し得る一方で、高親和性抗原結合及び標的特異性特徴は、可変領域に存在する。抗体名称、例えば、H1H11453N2及びH1M11900Nは、完全ヒト抗体「H1H」またはキメラヒト可変/マウス定常領域抗体「H1M」を示す。ハイブリドーマ法により同定された抗体は、「N」または「N2」で終わる抗体ID番号を伴って示される;B細胞選別法によって同定された抗体は、「P」または「P2」で終わる抗体ID番号を伴って示される。
本実施例の方法に従って生成された例示的な抗PSMA抗体のある特定の生物学的特性は、以下に示す実施例において詳述する。
実施例2:抗PSMA抗体の重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸及び核酸配列
表1は、選択された本発明の抗PSMA抗体の重鎖及び軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子は、表2に示す。
実施例3:表面プラズモン共鳴により導かれたヒトモノクローナル抗PSMA抗体の結合親和性及び動力学定数
本実施例では、抗PSMA抗体を、ヒトPSMAに結合するそれらの能力に関して評価した。可溶性ヒトPSMAタンパク質に対する抗PSMA抗体の結合親和性及び動力学定数は、抗体捕捉形式を使用して37℃にて表面プラズモン共鳴により決定した。結果を、表3及び4に示す。測定は、Biacore T−200機器(GE Healthcare)上で実施した。
簡潔には、CM5 Biacoreセンサー表面を、モノクローナルマウス抗ヒトFc抗体(GE,#BR−1008−39)またはモノクローナルヤギ抗マウスFc抗体(GE,#BR−1008−38)を用いたアミンカップリングを介して誘導体化して、精製した抗PSMA抗体を捕捉した。結合試験を、0.01M HEPES、0.15M NaCl、2mM Ca2+、2mM Mg2+、0.05%v/v界面活性剤P20から構成されるHBSP++バッファー、pH7.4において行った。HBSP++ランニングバッファー中で調製されたN末端ヘキサヒスチジンタグ(6h.hPSMA,R&D)を伴って発現される変動濃度のヒトPSMA(50〜0.78nMの範囲、4倍希釈)を、30μL/分の流速で抗PSMA抗体捕捉表面上に注射した。抗体−試薬会合を、2分間モニターし、一方でHBSP++ランニングバッファーにおける解離を、8分間モニターした。
動力学会合(ka)及び解離(kd)速度定数を、Scrubber 2.0cカーブフィッティングソフトウェアを使用して1:1結合モデルにリアルタイムセンサーグラムをあてはめることにより決定した。結合解離平衡定数(KD)及び解離半減期(t1/2)を動力学速度定数から:KD(M)=kd/ka;及びt1/2(分)=(ln2/(60*kd)として算出した。
表3及び4に示すように、本発明の抗PSMA抗体は、ヒトPSMAに抗体捕捉形式にて、変動する親和性及び19.9pMから75.6nMの範囲のKD値で結合した。いくつかの例示的な抗PSMA抗体、例えばH1H3465P及びH1H11810P2は、ヒトPSMAタンパク質に対して、ナノモル以下のKD値で、強い親和性を示した。
実施例4:前立腺特異的膜抗原(PSMA)及びCD3と結合する二重特異性抗体の生成
本発明は、CD3及び前立腺特異的膜抗原(PSMA)と結合する二重特異性抗原結合分子を提供する;このような二重特異性抗原結合分子は、本明細書にて「抗PSMA/抗CD3二重特異性分子」とも称される。抗PSMA/抗CD3二重特異性分子の抗PSMA部分は、PSMAを発現する腫瘍細胞を標的とすることに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞の活性化に有用である。腫瘍細胞上のPSMA及びT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞による標的とされる腫瘍細胞を対象とする殺傷(細胞溶解)を促進する。
抗PSMA特異的結合ドメイン及び抗CD3特異的結合ドメインを含む二重特異性抗体を、標準的な方法論を使用して構築し、ここで抗PSMA抗原結合ドメイン及び抗CD3抗原結合ドメインはそれぞれ、共通のLCVRと対をなす、異なる、別個のHCVRを含む。いくつかの例では、二重特異性抗体を、抗CD3抗体からの重鎖、抗PSMA抗体からの重鎖及び共通の軽鎖を使用して構築した。他の例では、二重特異性抗体を、抗CD3抗体からの重鎖、抗PSMA抗体からの重鎖及び抗CD3抗体からの軽鎖を使用して構築した。
以下の実施例で記載される二重特異性抗体は、ヒト可溶性ヘテロ二量体hCD3ε/δタンパク質(本明細書の実施例9〜13に記載する);及びヒトPSMA(上の実施例1〜3を参照されたい)に結合すると知られている結合アームからなる。例示する二重特異性抗体は、2014年8月28日に公開された米国特許出願公開番号US20140243504A1に示すような改変された(キメラ)IgG4 Fcドメインを有して製造された。
構築された様々な抗PSMA×CD3二重特異性抗体の抗原結合ドメインの構成要素の概要を、表5に示す。
抗PSMA重鎖可変領域PSMA−VH−3465は、表1からのH1H3465PのHCVR(配列番号122)である。抗PSMA重鎖可変領域PSMA−VH−11810は、表1からのH1H11810P2のHCVR(配列番号66)である。
抗CD3重鎖可変領域CD3−VH−Aは、表12からのH1H5778PのHCVR(配列番号922)である。抗CD3重鎖可変領域CD3−VH−Bは、表12からのH1H2712NのHCVR(配列番号154)である。抗CD3重鎖可変領域CD3−VH−G、CD3−VH−G2、CD3−VH−G3、CD3−VH−G4、CD3−VH−G5、CD3−VH−G8、CD3−VH−G9、CD3−VH−G10、CD3−VH−G11、CD3−VH−G12、CD3−VH−G13、CD3−VH−G14、CD3−VH−G15、CD3−VH−G16、CD3−VH−G17、CD3−VH−G18、CD3−VH−G19、CD3−VH−G20、及びCD3−VH−G21は、表18に記載する。
表5の軽鎖は、二重特異性抗体のCD3及びPSMAを標的とするアームの両方に共通であった。抗CD3軽鎖可変領域CD3−VL−Aは、表12からのH1H5778PのLCVR(配列番号930)である。抗CD3軽鎖可変領域CD3−VL−Bは、表12からのH1H2712NのLCVR(配列番号162)である。軽鎖可変領域VK 1−39 JK 5は、表20からの配列番号1642である。表1は、本実施例の二重特異性抗体の抗PSMAアームに関する、様々な重鎖可変領域、及びそれらの対応するCDRのアミノ酸配列識別子を示す。表2は、本実施例の二重特異性抗体の抗PSMA抗原結合ドメインに関する、重鎖可変領域、及びそれらの対応するCDRをコードするヌクレオチド配列の配列識別子を示す。
表12、14、15、18、及び20は、二重特異性抗体の抗CD3アームに関する、重鎖可変領域、及びそれらの対応するCDRのアミノ酸配列、ならびに本実施例の二重特異性抗体の両アームに共通する、軽鎖可変領域、及びそれらの対応するCDRに関するアミノ酸配列を記載する。表13、16、17、19、及び21は、本実施例の二重特異性抗体のこれらの特性に関する対応するヌクレオチド配列を記載する。
実施例5:FACS分析によって測定された、例示的な二重特異性抗体の結合親和性
本実施例では、FACSを介して、実施例4に記載した抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の、ヒトPSMA発現細胞株ならびにヒト及びカニクイザルCD3発現細胞株に結合する能力を、決定した。上述のように、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3 HC結合アームのパネル及び共通の軽鎖と対をなすPSMA特異的重鎖(HC)結合アームを活用した。二重特異性抗体におけるPSMA−HC結合アームは、以下で、表面プラズモン共鳴を介して、ヒトPSMAタンパク質に対する強い結合を実証した(実施例3)。本明細書の実施例6及び13に記載するように、CD3結合HCアームも、表面プラズモン共鳴を介して、ヒト可溶性ヘテロ二量体hCD3ε/δ.mFcタンパク質に対してある範囲の親和性を表した。
簡潔には、2×105個の細胞/ウェルのヒトCD3発現Jurkat、カニクイザルT、またはヒトPSMA特異的発現細胞を、段階希釈の二重特異性抗体と共に30分間4℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ヤギF(ab’)2抗ヒトFcγPE標識二次物(Jackson Immunolabs)を、細胞にさらに30分間加えた。次に、細胞を洗浄し、冷PBS+1%BSAに再懸濁し、フローサイトメトリーを介してBD FACS CantoII上で分析した。
FACS分析のために、細胞を、単一事象選択のために前方散乱高さ対前方散乱面積により、その後側方及び前方散乱によりゲーティングした。細胞結合滴定のためのEC50を、Prismソフトウェアを使用して決定した。値は、4パラメータ非線形回帰分析を使用して算出した。
表6に示すように、試験された抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、FACSを介して、ヒトPSMA発現B16F10.9/hPSMA及び22RV1細胞株への結合の特異性を実証した。FACS結合に関する検出限界は、1μM EC50である。
表6に示すように、各CD3×PSMA二重特異性抗体のCD3結合アームは、ある範囲の細胞結合親和性を、ヒトCD3発現Jurkat細胞に対して表した(15〜300nM EC50範囲)。重要なことに、表面プラズモン共鳴を介してヒトCD3ヘテロ二量体タンパク質に対して弱〜無結合を示したCD3アーム(本明細書下記の表7を参照されたい)はまた、Jurkat細胞上での弱〜観察可能でない結合と相関した(すなわちCD3−VH−G2、CD3−VH−G3、CD3−VH−G5)。いくつかのCD3結合アームは、カニクイザルT細胞に対する交差反応性も示した。全ての被験二重特異性抗体は、それぞれのPSMA発現細胞株上で同様の細胞結合を示し、このことにより、個々のCD3アームとの二重特異性対合がPSMA特異的結合に影響しないまたはこれを減少させないことが確認された(PSMA特異的結合は、検査した全ての例において5.6nM以下であった(高い親和性))。
ヒトCD3に対して弱〜検出可能でない結合を呈し、さらにカニクイザルCD3に対して弱〜無結合を呈する抗体は、本発明に従う結合活性により駆動される二重特異性対合にとって有利であると考えられ、これらを、細胞傷害についてin vitro及びin vivoアッセイにおいてさらに検査した。
実施例6:表面プラズモン共鳴結合アッセイにより測定された、例示的な抗体の結合親和性
可溶性ヘテロ二量体hCD3ε/δ.mFcタンパク質(hCD3ε=UniProtKB/Swiss−Prot:P07766.2;;配列番号1652;hCD3δ=UniProtKB/Swiss−Prot:P04234.1、配列番号1653)に対する抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体の結合親和性及び動力学定数を、抗原捕捉形式を使用して37℃にて表面プラズモン共鳴により決定した(表7)。測定は、Sierra Sensors MASS−1機器上で実行した。
抗原捕捉形式では、MASS−1高密度アミンセンサー表面を、ヤギ抗マウスIgG2aポリクローナル抗体(Southern Biotech)を用いて誘導体化した。可溶性ヘテロ二量体CD3タンパク質を捕捉し、それぞれの抗体を、捕捉抗原上に注射した。
動力学会合(ka)及び解離(kd)速度定数は、MASS−1 AnalyserR2カーブフィッティングソフトウェアを使用してデータを処理して1:1結合モデルにあてはめることにより決定した。結合解離平衡定数(KD)及び解離半減期(t1/2)を動力学速度定数から:KD(M)=kd/ka;及びt1/2(分)=(ln2/(60*kd)として算出した。
表7に示すように、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体はいずれも、可溶性CD3に対する非常に弱い結合を、表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて維持する、例えば、生殖細胞系列フレームワークから誘導される二重特異性抗CD3アーム、CD3−VH−Gのそれよりも弱い11nM超〜最大で334nMまでのKD値を有するか、またはいずれの検出可能な結合も呈さなかった。
このように、いくつかの二重特異性抗体は、50nMを超えるKD値を呈し、いくつかは、100nMを超え(すなわち、BSPSMA/CD3−900、BSPSMA/CD3−1000、BSPSMA/CD3−1900、BSPSMA/CD3−005)、さらには、アッセイの検出限界を超えた、すなわち可溶性ヒトCD3に対する検出可能な結合を示さなかった(すなわち、BSPSMA/CD3−200、BSPSMA/CD3−300、BSPSMA/CD3−400、BSPSMA/CD3−004及びBSPSMA/CD3−1800)。
実施例7:in vitroで測定された、本発明の二重特異性抗体により呈されたT細胞活性化及び腫瘍特異的細胞傷害
この実施例では、抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体の存在下でのPSMA発現標的細胞の特異的殺傷を、フローサイトメトリーを介してモニターした。以前に報告されている通り、二重特異性抗体は、CD3タンパク質及びCD3発現細胞株に対するある範囲の親和性(すなわち弱い、中程度及び強い結合)を表す。この同じパネルの二重特異性抗体を、ナイーブヒトT細胞に、標的発現細胞に対して殺傷を再指向させるように誘導する能力に関して検査した。
簡潔には、PSMA発現(C4−2、22Rv1及びTRAMPC2_PSMA)細胞株を、1μMの蛍光トラッキング色素Violet Cell Trackerで標識した。標識後、細胞を、一晩37℃で静置した。別に、ヒトPBMCを、補充RPMI培地中に1×106個の細胞/mLでプレーティングし、付着したマクロファージ、樹状細胞、及びいくつかの単球を枯渇させることによりリンパ球を富化させるために37℃にて一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、付着した細胞を枯渇させたナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞4:1比率)と段階希釈の関連する二重特異性抗体またはアイソタイプ対照(濃度範囲:66.7nM〜0.25pM)と共に48時間37℃でインキュベートした。細胞を、酵素不含細胞解離バッファーを使用して細胞培養プレートから除去し、FACSにより分析した。
FACS分析のために、細胞を、dead/live遠赤細胞トラッカー(dead/live far red cell tracker)(Invitrogen)で染色した。5×105計数のビーズを、各ウェルに、FACS分析の直前に加えた。1×104ビーズを、各試料について回収した。殺傷の特異性の評価のために、細胞を、生存Violet標識集団上でゲーティングした。生存集団の割合(%)を記録し、正規化生存の計算のために使用した。
T細胞活性化を、細胞をCD2及びCD69に直接コンジュゲートした抗体とインキュベートすることにより、ならびに、総T細胞(CD2+)のうちの活性化(CD69+)T細胞の割合(%)を報告することにより評価した。
表8の結果が示すように、PSMA発現細胞の枯渇が、抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体で観察された。被験二重特異性抗体の大半が、ヒトT細胞を活性化及び特異化して、ピコモル範囲のEC50で標的細胞を枯渇させた。加えて、観察された標的細胞溶解は、pM EC50で、CD2+T細胞上のCD69細胞の上方制御を伴った。
重要なことに、この実施例の結果は、CD3タンパク質またはCD3発現細胞に対して弱〜観察可能でない結合を表すCD3結合アーム(すなわちCD3−VH−G5)を活用するいくつかの二重特異性が、T細胞を活性化させる能力を依然として維持し、腫瘍抗原発現細胞の強力な細胞傷害を呈したことを実証する。
実施例8:抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、in vivoで強い抗腫瘍有効性を表す
例示的な抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を決定するために、ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫低下状態のマウスにおいて試験を行った。追加の試験を、ヒトPSMAを発現するように操作したマウス前立腺癌異種移植片を有する免疫応答性のマウスにおいても実行した。
ヒト腫瘍異種移植片モデルにおける抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
ヒト腫瘍異種移植片試験において抗PSMA/抗CD3二重特異性のin vivo有効性を評価するために、NOD scidガンマ(NSG)マウス(Jackson Laboratories,Bar Harbor,Maine)に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、内因的にPSMAを発現する22Rv1またはC4−2ヒト前立腺腫瘍細胞と共に共移植した。
簡潔には、4×106個の22Rv1または5×106個のC4−2細胞(MD Anderson,TX)細胞を、1×106個のヒトPBMC(ReachBio,LLC.,Seattle,WA)と、50:50混合のマトリゲルマトリックス(BD Biosciences)にて、皮下にて雄NSGマウスの右側腹へと共移植した。22Rv1試験では、マウスを、0、3及び7日目に1ugのBSPSMA/CD3−001またはアイソタイプ対照を用いて腹腔内処置した(図1)。C4−2試験では、マウスを、腫瘍移植後0、4、及び7日目に、0.1mg/kgのBSPSMA/CD3−001、BSPSMA/CD3−003またはBSPSMA/CD3−005を用いて腹腔内処置した。
追加の異種間モデルでは、抗PSMA/抗CD3二重特異性を、ヒト造血CD34+幹細胞を生着させたマウスにおいて検査した。簡潔には、新生SIRPα BALB/c−Rag2−IL2rγ−(BRG)児に、hCD34+胎児肝臓細胞を生着させた。3〜6か月後、hCD34を生着させたSIRPa BRGマウスに、次いでC4−2細胞(マトリゲル中5×106皮下)を移植した。8日後、マウスを、10ugのBSPSMA/CD3−004またはアイソタイプ対照抗体で処置し、その後、試験期間を通して2回/週用量で処置した。
全ての試験において、腫瘍サイズは2回/週、キャリパーを使用して測定し、腫瘍体積は、体積=(長さ×幅2)2として計算した。
表9の結果が示すように、上記の異種間モデルにおいて検査した二重特異性抗体は全て、アイソタイプ対照を用いた処置と比較して腫瘍成長の阻害に有効であった。
確立したヒト腫瘍異種移植片モデルにおける抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
次に、確立した腫瘍の成長の抑制における抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性を評価した。NSGマウスに、まず2.5×106個のヒトPBMCを腹腔内注射して、ヒトT細胞を生着させた。14日後、マウスに、上記のようにC4−2細胞及びPBMCを共移植した。20ugのBSPSMA/CD3−002またはアイソタイプ対照を、腫瘍移植の18日後に腹腔内投与し、2回/週を試験の期間にわたって継続した。追加のPBMCを、腫瘍移植の20日及び40日後に腹腔内に施した。
表9の結果が示すように、BSPSMA/CD3−002は、確立した腫瘍の成長の抑制において有効性を示し、腫瘍成長を95%低減させた。
免疫応答性腫瘍モデルにおける抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
加えて、抗PSMA/抗CD3二重特異性を、免疫応答性モデルにおける抗腫瘍活性について評価した。CD3の3つの鎖(δγε)ならびにPSMAに関してヒト化したマウスに、ヒトPSMAでトランスフェクトした変異マウス前立腺癌細胞株TRAMP−C2を移植した。
試験開始の前に、腫瘍原性細胞株である変異TRAMP−C2_hPSMAv#1を生成した。簡潔には、7.5×106個のTRAMP−C2_hPSMA細胞を、CD3及びPSMAに関してヒト化した雄マウスの右側腹へと皮下移植した。腫瘍を切除し、3mm断片へと切断し、その後新しい雄ヒト化マウスの右側腹へと移植した。移植した腫瘍断片から生じる腫瘍を、次いで回収し、単一の細胞懸濁液へと脱凝集させた。これらの細胞(TRAMP−C2_hPSMAv#1)を、次いでin vitroにてG418選択下で培養した。4.106個のこの変異細胞株の細胞を次いで、二重特異性抗体有効性試験のために、雄PSMA/CD3ヒト化マウスの右側腹へと移植した。
TRAMPC2_hPSMAv#1を移植したヒト化PSMA/CD3マウスに対し、100ugもしくは10ugの抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体BSPSMA/CD3−001もしくはBSPSMA/CD3−004またはアイソタイプ対照を用いた処置を2回/週で腫瘍移植の当日に開始した。注射4時間後の血清サイトカインレベル、ならびに脾臓T細胞レベルも検査した。試験は、27日目に終了した。
表10の結果が示すように、両方の抗PSMA/抗CD3二重特異性分子は、処置群にわたり、腫瘍成長の有意な遅延において有効性を示した。用量依存性サイトカイン放出が、BSPSMA/CD3−001を用いた処置後に観察された。最小サイトカイン放出は、BSPSMA/CD3−004の投与後に観察され、これはおそらく抗CD3の弱結合に起因する。BSPSMA/CD3−001は、脾臓中のT細胞を枯渇させることなく抗腫瘍有効性を示した。
免疫応答性モデルにおける確立した腫瘍に及ぼす抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
最後に、ヒト化PSMA/CD3マウスにおける確立した腫瘍の成長の減少に及ぼす、選択された抗PSMA/抗CD3二重特異性分子の有効性を評価した。TRAMP−C2_hPSMAv#1細胞を、上記のようにヒト化マウスへと移植し、100ugのBSPSMA/CD3−001またはアイソタイプ対照を、腫瘍移植の14日後、つまり腫瘍サイズが50mm3〜100mm3の範囲であるときに、2回/週で腹腔内投与した。表11の結果が示すように、BSPSMA/CD3−001は、この確立した腫瘍モデルにおいて有効であり、対照群と比較して腫瘍成長において84%低減を表した。
まとめると、本発明の抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、免疫低下状態及び免疫応答性腫瘍モデルの両方において強い抗腫瘍有効性を表した。加えて、いくつかの被験二重特異性抗体(BSPSMA/CD3−001及び002)は、確立した腫瘍の体積を減少させる強い能力を表した。
なお、PSMA発現腫瘍細胞の不在下では、T細胞活性化は見られなかった。
加えて、腫瘍を有さないマウスでは、血液試料を、PSMA×CD3二重特異性抗体処置の4時間後に採取し、血清サイトカインレベルを決定した。サイトカイン、すなわち、インターフェロン−ガンマ(IFN−g)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン−2(IL−2)、及びインターロイキン−6(IL−6)のレベルにおける一過性の増加を決定し、その一過性の増加は、用量依存性であった(図2A〜2D)。
該二重特異性抗体の特異性を確認するために、PSMA及びCD3の両方に関してヒト化したマウスまたはCD3のみに関してヒト化したマウスに、100μgのPSMA×CD3を投薬し、血清サイトカイン(投薬4時間後)及び血液からの一過性のT細胞喪失(投薬24時間後)について検査した。ヒト化T細胞マウスにおけるPSMA×CD3二重特異性抗体を用いた処置(100μg/マウス)は、サイトカイン(例えば、IFNg)における急性増加ならびに循環T細胞における一過性の低減を誘導した(図3A〜3B)。この所見は、腫瘍抗原×CD3二重特異性抗体を用いて処置されたヒト患者において観察されているサイトカイン及びT細胞変化を再現した。
PSMA×CD3二重特異性抗体は、図4A〜4Cに示すように、免疫応答性のマウスの脾臓中のエフェクターT細胞を枯渇させることなく、有効である。簡潔には、ヒト化PSMA及びCD3 Velocigene(登録商標)マウスに、hPSMA発現腫瘍を移植し、PSMA×CD3を用いて週2回処置した。T細胞は、最後の回収時に正常な数で存在した。脾臓を、CD4+T細胞、CD8+T細胞、及びTregについて、試験期間を通して週2回のPSMA×CD3二重特異性抗体を用いた処置後、実験の終了時に検査した。PSMA及びCD3に関してヒト化したマウスに、TRAMP−C2_hPSMA腫瘍を移植し、0日目から、100μgまたは10μgのPSMA×CD3を投薬した。脾臓中の細胞集団を、フローサイトメトリーにより分析した。データは、アイソタイプ対照群と比較して任意の有意な効果について分散分析(ANOVA)を使用して分析したが、有意差は見いだされなかった(図4A〜4C)。
実施例9:抗CD3抗体の生成
抗CD3抗体を、CD3を発現する細胞を用いてまたはCD3をコードするDNAを用いてヒト免疫グロブリン重鎖及びカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含む操作したマウスを免疫誘導することにより得た。抗体免疫反応を、CD3特異的イムノアッセイによりモニターした。所望の免疫反応が達成されたとき、脾細胞を回収し、マウス骨髄腫細胞と融合させて、それらの生存力を保存し、ハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株を、CD3特異的抗体を生成する細胞株を同定するためにスクリーニング及び選択した。この技術を使用して、いくつかの抗CD3キメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメイン及びマウス定常ドメインを有する抗体)を得た。加えて、US2007/0280945A1に記載のように、いくつかの完全ヒト抗CD3抗体を、抗原陽性B細胞から骨髄腫細胞に融合させることなく、直接単離した。
本実施例の方法に従って生成された例示的な抗CD3抗体のある特定の生物学的特性を、本明細書の実施例において詳述する。
実施例10:重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸及び核酸配列
表12は、選択された本発明の抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子を、表13に示す。本明細書に開示の抗CD3抗体を作成する方法は、米国公開2014/0088295においても見出すことができる。
抗体は、典型的には、本明細書において以下の命名に従って言及される:Fc接頭辞(例えば、「H1H」、「H1M」、「H2M」等)、続いて数値識別子(例えば、表1に示すような「2712」、「2692」等)、続いて「P」、「N」または「B」の接尾辞。ゆえに、この命名法に従い、抗体は本明細書において、例えば、「H1H2712N」、「H1M2692N」、「H2M2689N」等と称されてよい。本明細書で使用される抗体名称でのH1H、H1M及びH2Mの接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。例えば、「H1H」抗体はヒトIgG1 Fcを有し、「H1M」抗体はマウスIgG1 Fcを有し、そして「H2M」抗体はマウスIgG2 Fcを有する(全ての可変領域は、抗体名称において最初の「H」により示されるように完全にヒトである)。当業者には当然のことながら、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体へと変換することができる、等)が、いずれの事象においても、可変ドメイン(CDRを含む)−表1に示す数値識別子により示される−は同じままであり、Fcドメインの性質にかかわらず結合特性は同一であるか実質的に類似すると予想される。
表14及び15は、本発明の抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体において有用な追加の抗CD3 HCVR及びLCVRの重鎖可変領域(表14)及び軽鎖可変領域(表15)、ならびにそれらの対応するCDRのアミノ酸配列識別子を示す。
CD3−VH−F及びCD3−VL−Fの重鎖及び軽鎖可変領域は、WO2004/106380に示される「L2K」という名称の抗CD3抗体から誘導した。
加えて、表16及び17は、本発明の抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体において有用な追加の抗CD3 HCVR及びLCVRの、重鎖可変領域(表16)及び軽鎖可変領域(表17)、ならびにそれらの対応するCDRをコードするヌクレオチド配列の配列識別子を示す。
以下の実施例で使用される対照構築物
様々な対照構築物(抗CD3抗体)を、比較目的のために以下の実験に含んだ:「OKT−3」、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)からカタログ番号CRL−8001で入手可能なヒトT細胞表面抗原に対するマウスモノクローナル抗体;及び、ヒトTリンパ球上のT3複合体のイプシロン鎖に対して反応性の、例えば、Biolegend,SanDiego,CA(カタログ番号302914)またはBD Pharmagen,カタログ55052から得られる市販のマウスモノクローナル抗体である「SP34」。
実施例11:追加の抗CD3抗体の生成
以下の手順は、CD3(T細胞共受容体)を抗原として特異的に認識する抗体を同定することを目的とした。
抗CD3抗体のプールを、遺伝子改変されたマウスから誘導した。簡潔には、マウスを、CD3抗原を用いて免疫誘導し、多様なレパートリーの高親和性抗原特異的抗体を発現するために、多様なヒトVH再編成を含むB細胞を生成した。表18〜21に記載の抗体は、VK 1−39 JK 5の同じ軽鎖配列を有する(配列番号1642に示すLCVR)。
生成した抗体を、in vitro結合アッセイにおいてヒト及びカニクイザルCD3抗原に対する親和性に関して検査した。例えば、CD3−VH−Pと指名した1つのCD3抗体(配列番号1634に示すHCVR)を、なかでも、それぞれ、Jurkat細胞及びカニクイザルT細胞のFACS滴定において決定して1〜40nM親和性のEC50を有するヒト及びカニクイザルCD3の両方に結合すると見いだされたものを、同定した。例えば、実施例5に概説したFACS結合実験を参照されたい。
CD3−VH−Pの生殖細胞系列アミノ酸残基をその後同定し、「CD3−VH−G」と指名した抗体を生殖細胞系列フレームワークのみを含有するように操作した。他の抗体誘導体は、周知の分子クローニング技術により操作して、生殖細胞系列配列及びCD3−VH−P配列間の差異に基づいて段階様式でアミノ酸残基を置換した。各抗体誘導体に、「CD3−VH−G」番号名称を与えた。表18を参照されたい。
CD3−VH−G及びいくつかの他の操作した抗体が、FACSアッセイにて見られるようにそれらの結合親和性を保持した一方で、いくつかの抗CD3抗体は、in vitroで弱〜測定可能でない結合親和性、例えば、40nM EC50でヒトまたはcyno CD3に結合した。毒性及び薬物動態(pK)プロファイルを解明するための結合親和性、結合キネティクス、及び他の生物学的特性を、その後、本実施例の方法に従って生成された例示的な抗CD3抗体を含む二重特異性抗体に関して調査し、本明細書の実施例に詳述する。
実施例12:重鎖及び軽鎖可変領域(CDRのアミノ酸及び核酸配列)
表18は、選択された本発明の抗CD3抗体の重鎖可変領域及びCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子は、表19に示す。
アミノ酸及び核酸配列を、各抗体重鎖配列に関して決定した。生殖細胞系列配列(配列番号1662)から誘導した各抗体重鎖に、一貫した命名のために「G」番号名称を割り当てた。表2は、操作した本発明の抗CD3抗体の重鎖可変領域及びCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子は、表19に示す。また、軽鎖可変領域及びCDRのアミノ酸及び核酸配列識別子は、それぞれ表20及び21において下記に同定する。
「CD3−L2K」という名称の対照1抗体は、既知の抗CD3抗体(すなわち、WO2004/106380に示す抗CD3抗体「L2K」)に基づいて構築した。
本明細書の実施例にて言及するアイソタイプ対照抗体は、無関係な抗原、すなわちFelD1抗原と相互作用するアイソタイプに適合した(改変されたIgG4)抗体である。
実施例13:表面プラズモン共鳴により導かれたヒトモノクローナル抗CD3抗体の結合親和性及び動力学定数
ヒトモノクローナル抗CD3抗体の結合親和性及び動力学定数を、抗体捕捉形式(表22、24、及び26)または抗原捕捉形式(表23、25、及び27)のいずれかを使用して、25℃にて表面プラズモン共鳴により決定した。測定は、T200 Biacore機器上で実行した。
抗体捕捉形式では、Biacoreセンサー表面を、ハイブリドーマ捕捉のためにウサギ抗マウスFc(抗体接頭辞H1MまたはH2M)またはヒトIgG形式の抗体(抗体接頭辞H1H)のためにマウス抗ヒトFc表面で誘導体化した。ヒトFcタグ(hFcΔAdp/hFc;配列番号1683/1684)またはマウスFcタグ(mFcΔAdp/mFc;配列番号1685/1686)のいずれかを有する可溶性ヘテロ二量体CD3タンパク質(hCD3−イプシロン/hCD3−デルタ;配列番号1652/1653)を、抗体捕捉表面上に注射し、結合応答を記録した。ヘテロ二量体CD3タンパク質を、Davis et al.(US2010/0331527)に記載の方法を使用して精製した。
抗原捕捉形式では、ヘテロ二量体CD3タンパク質を、ウサギ抗マウスFcまたはマウス抗ヒトFcを使用して捕捉し、それぞれの抗体を捕捉された抗原上に注射した。
抗体を、それらの従来の二価形式(表22〜25)、または抗体からの第二のFabが除去され、Fc部分(CH2−CH3)のみが発現される一価1アーム構成(表26〜27)にて分析した。
動力学的会合(ka)及び解離(kd)速度定数を、Scrubber 2.0カーブフィッティングソフトウェアを使用してデータを処理して1:1結合モデルにあてはめることにより決定した。結合解離平衡定数(KD)及び解離半減期(t1/2)を動力学速度定数から:KD(M)=kd/ka;及びt1/2(分)=(ln2/(60*kd)として算出した。NT=検査せず;NB=結合が観察されない。
表22〜27に示すように、いくつかの本発明の抗CD3抗体は、抗体捕捉形式または抗原捕捉形式のいずれかで、高い親和性でCD3と結合する。
実施例14:抗CD3抗体は、ヒトT細胞と結合して、これを増殖させる
本発明の抗CD3抗体を、ヒトT細胞に結合してそれらの増殖を誘導するそれらの能力について検査した。結合を、Jurkat細胞(CD3+ヒトT細胞株)を使用して評価し、一方で末梢血単核細胞(PBMC)の増殖は、ATP触媒定量(CellTiter
Glo(登録商標))を使用して評価した。抗CD3抗体OKT3は陽性対照として作用し、無関係なアイソタイプに対応する抗体は陰性対照として機能した。
FACSデータを、以下のプロトコルを使用して得た:2×105個の細胞/ウェルを、段階希釈した抗体と共に30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション後に、細胞を洗浄し、二次抗体を加え、さらに30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、1%BSAを含有する冷PBSに再懸濁し、生存Jurkat細胞を側方及び前方散乱によりゲーティングしてフローサイトメトリーにより分析した。細胞結合滴定のためのEC50を、4パラメータ非線形回帰分析を使用して値を計算して、Prismソフトウェアを使用して決定した。
増殖データを、以下のプロトコルを使用して得た:ヒトPBMC(5×104/ウェル)を、3倍段階希釈の抗CD3及び固定濃度の市販の抗CD28抗体(200ng/ml)と共に96ウェルプレートにて72時間37℃でインキュベートした。インキュベーション後に、CellTiter Glo(登録商標)を加え、発光をVICTOR X5マルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して測定した。細胞生存能のEC50(ATP触媒定量)を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して算出した。
結合及び増殖実験の結果を表28〜30にまとめる。
表7〜9に示すように、本発明の抗CD3抗体の大部分は、ヒトT細胞と結合し、T細胞増殖を誘導した。
実施例15:抗CD3抗体は、サルT細胞と結合し、これを増殖させる
本発明の抗CD3抗体のサブセットを、サルT細胞に結合して増殖を誘導する能力について検査した。
FACSデータを、以下のプロトコルを使用して得た:2×105個の細胞/ウェルを、段階希釈した抗体と共に30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、二次抗体を加え、さらに30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、1%BSAを含有する冷PBSに再懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。CD4+サルT細胞を側方及び前方散乱により、CD2+CD4+CD20-集団上でゲーティングした。細胞結合滴定のためのEC50を、GraphPad Prismでの4パラメータ非線形回帰分析を使用して算出した。
増殖データを、以下のプロトコルを使用して得た:新たに単離したカニクイザル由来PBMC(5×104/ウェル)を、3倍段階希釈の抗CD3抗体及び固定濃度の市販の抗CD28抗体(500ng/ml)抗体と共に96ウェルプレートにて72時間37℃でインキュベートした。インキュベーション後、CellTiter Glo(登録商標)を加え、発光をVICTOR X5マルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して測定した。細胞生存能のEC50(ATP触媒定量)を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して算出した。
結合及び増殖実験の結果を表31及び32にまとめる。
表31及び32に示すように、いくつかの本発明の抗CD3抗体は、CD2+CD4+サルT細胞と結合し、それらの増殖を誘導した。OKT3は、サルPBMC増殖を誘発しなかったが、SP34は、サルPBMCに対して活性であった。
実施例16:抗CD3 mAbは、腫瘍細胞のT細胞媒介性殺傷を支持する
抗CD3抗体の、Fc/FcR相互作用を介してT細胞媒介性殺傷を再指向する能力を、カルセインに基づくU937殺傷アッセイを使用して検査した。簡潔には、ヒトPBMCをFicoll−Paque上で単離し、ヒトIL−2(30U/ml)及びT細胞活性化ビーズ(抗CD3/CD28)を含有する媒体を用いて数日間かけて活性化させた。U937細胞をカルセインで標識し、次いで活性化T細胞と共に10:1エフェクター:標的比で3倍段階希釈の抗体を使用して3時間かけて37℃でインキュベートした。インキュベーション後に、プレートを遠心分離し、上清を蛍光分析のために半透明黒色透明底プレートに移した。50%細胞傷害を誘導するCD3抗体のモル濃度として定義されるEC50値を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して算出した。ハイブリドーマ抗体、ヒトFc抗体、及び一価1アーム抗体を使用した結果を、それぞれ表33、34及び35に示す。
表33〜35に示すように、大半の抗CD3抗体、ならびにOKT3は、このアッセイ系において再指向されたT細胞媒介性殺傷を支持した。観察された殺傷は、隣接するT細胞上のCD3のクラスター形成をもたらすU937細胞上のFc受容体との抗体のFc係合に依存すると考えられており、非特異的ヒトIgGの付加により抑えられた(データは示さず)。
本発明は、本明細書に記載される特定の実施態様により範囲を限定されるべきではない。実際に、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な改変は、前述の記載から当業者に明らかとなるだろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれると意図される。