JP6965986B2 - α+β型チタン合金線材及びα+β型チタン合金線材の製造方法 - Google Patents
α+β型チタン合金線材及びα+β型チタン合金線材の製造方法 Download PDFInfo
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Description
[1]質量%で、Al:4.50〜6.75%、Si:0〜0.50%、C:0.080%以下、N:0.050%以下、H:0.016%以下、O:0.25%以下、Mo:0〜5.5%、V:0〜4.50%、Nb:0〜3.0%、Fe:0〜2.10%、Cr:0〜0.25%未満、Ni:0〜0.15%未満、Mn:0〜0.25%未満を含有し、残部がTi及び不純物からなり、更に、Al、Mo、V、Nb、Fe、Cr、Ni及びMnの含有量が下記式(1)を満足し、α結晶粒の平均アスペクト比が、1.0〜3.0であり、α結晶粒の最大結晶粒径が、30.0μm以下であり、α結晶粒の平均結晶粒径が、1.0μm〜15.0μmであり、線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、前記長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率が、5.0%以下であり、単位面積あたりの内部欠陥の個数が、0個/mm 2 〜13個/mm 2 である、α+β型チタン合金線材。
−4.0≦[Mo]+0.67[V]+0.28[Nb]+2.9[Fe]+1.6[Cr]+1.1[Ni]+1.6[Mn]−[Al]≦2.0 ・・・(1)
ここで、上記式(1)において、[元素記号]の表記は、対応する元素記号の含有量(質量%)を表し、含有しない元素記号については、0を代入するものとする。
[2]質量%で、Al:5.50〜6.75%、V:3.50〜4.50%、Fe:0.40%以下を含有する、[1]に記載のα+β型チタン合金線材。
[3]質量%で、Al:4.50〜6.40%、Fe:0.50〜2.10%を含有する、[1]に記載のα+β型チタン合金線材。
[4][1]〜[3]の何れか1つに記載のα+β型チタン合金線材を製造する方法であって、[1]〜[3]の何れか1つに記載の化学成分を有するチタン合金材を、0℃〜500℃の範囲の加工温度において、1回又は2回以上の加工を行う工程であり、1回あたりの加工時の減面率を10〜50%とし、合計減面率を50%以上とする第1の工程と、前記第1の工程後のチタン合金材に対して、熱処理温度Tを700℃〜950℃の範囲とし、熱処理時間tを下記式(2)を満足する熱処理時間とする最終熱処理を施す第2の工程と、を含む、α+β型チタン合金線材の製造方法。
21000<(T+273.15)×(log10(t)+20)<24000
・・・(2)
ここで、上記式(2)において、T:前記第2の工程における熱処理温度(℃)、t:前記第2の工程における熱処理時間(hr)である。
[5]前記第1の工程において、前記加工を複数回行う場合、各加工の間で中間焼鈍を施す、[4]に記載のα+β型チタン合金線材の製造方法。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行い、以下で詳述する本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材とその製造方法を完成するに至った。以下では、まず、本発明者らが行った検討について、その概略を簡単に説明する。
本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、質量%で、Al:4.50〜6.75%、Si:0〜0.50%、C:0.080%以下、N:0.050%以下、H:0.016%以下、O:0.25%以下、Mo:0〜5.5%、V:0〜4.50%、Nb:0〜3.0%、Fe:0〜2.10%、Cr:0〜0.25%未満、Ni:0〜0.15%未満、Mn:0〜0.25%未満を含有し、残部がTi及び不純物からなり、更に、Al、Mo、V、Nb、Fe、Cr、Ni及びMnの含有量が下記式(1)を満足し、α結晶粒の平均アスペクト比が、1.0〜3.0であり、α結晶粒の最大結晶粒径が、30.0μm以下であり、α結晶粒の平均結晶粒径が、1.0μm〜15.0μmであり、線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、前記長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率が、5.0%以下である。
まず、本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材の化学成分について、説明する。以下の説明では、「質量」%を、単に「%」と略記する。また、「A〜B」(A及びBは、含有量、粒径、温度等の数値)は、A以上、B以下を意味する。
アルミニウム(Al)は、固溶強化能の高い元素であり、含有量を増やすと室温での引張強度が高くなる。所望の引張強度を得るとともに、得られる集合組織の結晶方位を所望の範囲内に制御するために、Alの含有量の下限を、4.50%とする。Alの含有量は、4.60%以上であることが好ましい。一方、Alを6.75%を超えて含有させると、引張強度への寄与度が飽和する上に、熱間加工性及び冷間加工性を低下させる。そのため、Alの含有量の上限を、6.75%とする。Alの含有量は、6.50%以下であることが好ましい。
シリコン(Si)は、β安定化元素であるが、α相中にも固溶して高い固溶強化能を示す。そのため、本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、必要に応じて、Siの固溶強化により高強度化してもよい。Siは、任意添加元素であることから、含有量の下限は、0%であってもよい。また、Siは、適正量のSiをOと複合含有させることにより、高い疲労強度と引張強度を両立することが期待できる。このような効果は、Siの含有量を0.05%以上とすることで、確実に発現させることが可能であるため、Siを含有させる場合、Siの含有量は0.05%以上とすることが好ましい。Siの含有量は、より好ましくは0.10%以上である。一方で、Siを含有させ過ぎると、シリサイドと称する金属間加工物を形成し、疲労強度が低下する。0.50%を超えるSiを含有させると、製造過程で粗大なシリサイドが生成し疲労強度が低下する。そのため、Siの含有量の上限は、0.50%とする。Siの含有量は、0.45%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましい。
モリブデン(Mo)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は、0%であってもよい。また、Moは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Moが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、偏析が生じ疲労特性が低下する。したがって、Mo含有量の上限は、5.5%とする。上記効果をより有効に高めるためのMo含有量の好ましい下限は、2.00%であり、より好ましくは2.50%である。Mo含有量の好ましい上限は、3.7%であり、より好ましくは3.5%である。
バナジウム(V)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は、0%であってもよい。また、Vは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Vが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、強度が上がりすぎて冷間及び温間加工性が低下する。したがって、V含有量の上限は4.50%とする。上記効果をより有効に高めるためのV含有量の好ましい下限は、2.00%であり、より好ましくは2.50%である。V含有量の好ましい上限は、4.40%であり、より好ましくは4.30%である。
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は、0%であってもよい。また、Nbは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Nbが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、偏析が生じ疲労特性が低下する。したがって、Nb含有量の上限は、3.0%とする。上記効果をより有効に高めるためのNb含有量の好ましい下限は、0.5であり、より好ましくは0.7%である。Nb含有量の好ましい上限は、2.7%であり、より好ましくは2.5%である。
鉄(Fe)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Fe含有量は、0%であってもよい。また、Feは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Feが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Fe含有量が高すぎれば、偏析が生じ疲労特性が低下する。したがって、Fe含有量の上限は、2.10%とする。上記効果をより有効に高めるためのFe含有量の好ましい下限は0.10%であり、より好ましくは0.80%である。Fe含有量の好ましい上限は2.00%である。
クロム(Cr)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は、0%であってもよい。また、Crは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Crが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、平衡相である金属間化合物(TiCr2)が生成し、疲労強度及び室温延性が劣化する。したがって、Cr含有量は、0.25%未満とする。上記効果をより有効に高めるためのCr含有量の好ましい下限は、0.05%であり、より好ましくは0.07%である。Cr含有量の好ましい上限は、0.20%であり、より好ましくは0.15%である。
ニッケル(Ni)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は、0%であってもよい。また、Niは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Niが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、平衡相である金属間化合物(Ti2Ni)が生成し、疲労強度及び室温延性が劣化する。したがって、Ni含有量は、0.15%未満とする。上記効果をより有効に高めるためのNi含有量の好ましい下限は、0.05%であり、より好ましくは0.07%である。Ni含有量の好ましい上限は、0.13%であり、より好ましくは0.11%である。
マンガン(Mn)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mn含有量は、0%であってもよい。また、Mnは、式(1)を満たすことを前提として、含有できる。Mnが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が高すぎれば、平衡相である金属間化合物(TiMn)が生成し、疲労強度及び室温延性が劣化する。したがって、Mn含有量は、0.25%未満とする。上記効果をより有効に高めるためのMn含有量の好ましい下限は、0.05%であり、より好ましくは0.07%である。Mn含有量の好ましい上限は、0.20%であり、より好ましくは0.15%である。
本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材の化学成分においては、更に、Al、Mo、V、Nb、Fe、Cr、Ni及びMnの含有量が、下記式(1)を満たす。
−4.0≦[Mo]+0.67[V]+0.28[Nb]+2.9[Fe]+1.6[Cr]+1.1[Ni]+1.6[Mn]−[Al]≦2.0 ・・・(1)
A=[Mo]+0.67[V]+0.28[Nb]+2.9[Fe]+1.6[Cr]+1.1[Ni]+1.6[Mn]−[Al]
本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、上記式(1)で表されるMo当量Aの値が−4.0以上2.0以下の範囲内となるように、Mo、V、Nb、Fe、Cr、Ni、及び、Mnからなる群より選択される少なくとも何れか1つ以上の元素を含有する。上記Mo当量Aの値が−4.0未満である場合には、α相の面積率が高くなりすぎて加工性が低下する。Mo当量Aの下限は、好ましくは−3.5であり、より好ましくは−3.0である。一方、Mo当量Aの値が2.0を超える場合には、β相が硬くなりすぎて加工性が低下する。Mo当量Aの上限は、好ましくは1.8、より好ましくは1.1である。
[N:0.050%以下]
[H:0.016%以下]
[O:0.25%以下]
炭素(C)、窒素(N)、水素(H)、酸素(O)は、いずれも多量に含有すると、延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Cの含有量は、0.080%以下、Nの含有量は、0.050%以下、Hの含有量は、0.016%以下、Oの含有量は0.25%以下にそれぞれ制限する。なお、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるため、その含有量はそれぞれ低ければ低いほど好ましい。また、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるが故に、含有が避けられないことから、実質的な含有量の下限は、通常、Cで0.0005%、Nで0.0001%、Hで0.0005%、Oで0.01%である。
本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材の金属組織は、α相が主体であり、α相中に少量のβ相が存在したものとなっている。ここで、α相が「主体」とは、α相の面積率が80%以上であることを意味する。本発明の各実施形態において、β相の面積率は、おおよそ5%〜20%程度となる。なお、本発明の各実施形態で着目するチタン合金線材では、β相の面積率の測定が難しく、許容される測定誤差は±5%である。
疲労強度は、ミクロ組織や結晶粒径に大きく依存する。金属材料では、針状組織に比べ等軸晶組織の方が、疲労強度が高い。そのため、疲労特性向上のためには、等軸晶組織を有することが重要である。等軸晶組織であるかどうかは、α結晶粒の平均アスペクト比(長軸方向長さ/短軸方向長さ)に基づき評価することができる。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下であれば、等軸晶組織であると判断できる。α結晶粒の平均アスペクト比が3.0を超えると、いわゆる針状組織となるため、α結晶粒の平均アスペクト比は3.0以下とする。α結晶粒の平均アスペクト比は、好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。
次にα結晶粒の平均結晶粒径について説明する。
金属材料では、結晶粒径が細かいほど、繰り返し応力下での有効Slip長さが減少し、すべり変形が均一化する。これにより、き裂発生抵抗が著しく向上し、疲労特性が向上する。従来のα+β二相域での圧延では、旧β結晶粒内の組織は、変態と加工で比較的微細になるものの、初析α相部が残存して、粗大な結晶粒が残存する。そのため、き裂発生抵抗の低減に対しては(1)平均結晶粒径を微細にする、こと以外に、(2)混粒にならないよう均一組織にする、ことが重要である。
一方、金属材料の疲労は、部材の最も弱い部分で生じるため、一部分の疲労強度が強くとも疲労強度は向上せず、逆に低下してしまう。そのため、上記の通り、α結晶粒の平均結晶粒径を微細にするだけでなく、組織全体が均一組織であることが重要である。すなわち、最大の結晶粒径が粗大過ぎると、粗大な結晶粒が起点となり破断に至る。最大結晶粒径が30.0μm以下であれば疲労強度低下に大きく影響しないことから、本発明の各実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の最大結晶粒径を30.0μm以下とする。α結晶粒の最大結晶粒径は25.0μm以下であることが好ましく、20.0μm以下であることがより好ましい。
β相の面積率は、後述する熱処理後のチタン合金棒線部材より切断したL断面を、電解研磨もしくはコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、電子マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定する。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜2μmで、加速電圧10kV、電流50〜100nAで2〜10視野程度測定する。固溶しているβ安定化元素が周りと比較して5倍以上濃化している領域を、β相と見做し、定義されたβ相領域の面積と、500μm×500μmの全面積とから、β相の面積率を算出する。
α結晶粒の平均アスペクト比は、後述する熱処理後のチタン合金棒線部材より切断したL断面を、電解研磨もしくはコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Back Scattering Diffraction Pattern)を用いて測定する。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定する。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界と見做し、各結晶粒の長軸方向と長軸に直交する方向の最大長さの比(長軸/短軸)、すなわちアスペクト比を算出し、全てのα結晶粒の平均値(平均アスペクト比)を算出する。
α結晶粒径は、平均アスペクト比の測定方法と同様にして、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定する。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界と見做し、結晶粒面積Aより円相当粒径Dを求める(結晶粒面積A=π×(D/2)2)。平均結晶粒径は、測定範囲内の全てのα結晶粒径の平均値とする。また、最大結晶粒径は、測定範囲内におけるα結晶粒径の最大値とする。
α+β型チタン合金線材における疲労による破断は、ファセットと呼ばれる部分からき裂が発生し、このき裂が進展して破断に至る。特に高サイクル疲労では、この傾向が顕著となる。ファセットは、α相の結晶構造である稠密六方構造(hcp)の(0001)面に対し、ほぼ平行に形成する。疲労の場合、ファセットが、応力負荷方向に対し15°〜40°の角度に傾くと、ファセットとなる(0001)面のシュミット因子が高くなり、高度にファセットを形成する。そのため、ファセットを形成し難くすることが、疲労特性向上に有効である。
上記の集合組織は、次のようにして観察ことができる。
上記の結晶粒径の測定方法と同様に、後述する熱処理後のα+β型チタン合金線材より切断したL断面(棒線部材の長軸方向の直交断面)を、電解研磨もしくはコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Back Scattering Diffraction Pattern)を用いて測定する。具体的には、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで2〜10視野程度測定し、各視野における稠密六方結晶(hcp)のc軸とα+β型チタン合金棒線部材の長軸方向との成す角度が15°以上40°以下であるα結晶粒の面積率を求める。その後、各視野において得られたα結晶粒の面積率の平均を算出する。計算された面積率は、L断面全面に対する面積率である。
上記のように、等軸α組織であっても、α結晶粒のc軸の方向と長軸方向Lとのなす角が15°〜40°の範囲内となると、疲労特性が低下する。α相は、伸線を繰り返すことで、c軸の方向と長軸方向Lとのなす角は0°に集積していく。しかしながら、従来のようにα+β二相高温域で熱間加工を行った場合、冷却の過程で、β相からα相が無作為方向に析出する。この影響で、α結晶粒のc軸の方向と長軸方向Lとのなす角が15°〜40°の範囲内となるα相の割合が多くなってしまう。
以下では、本発明の第1の実施形態であるα+β型チタン合金線材及びその製造方法について、詳細に説明する。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、上記のようなMo当量Aを用いて化学成分が規定されるチタン合金線材のうち、V及びFeを含有するチタン合金線材である。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、質量%で、Al:5.50〜6.75%、V:3.50〜4.50%、Fe:0.40%以下、C:0.080%以下、N:0.050%以下、H:0.016%以下、O:0.25%以下を含有し、残部がTi及び不純物からなり、α結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜3.0であり、α結晶粒の最大結晶粒径が20.0μm以下であり、α結晶粒の平均結晶粒径が1.0〜10.0μmであり、線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率が5.0%以下である。
Alは、固溶強化能の高い元素であり、含有量を増やすと室温での引張強度が高くなる。より確実に所望の引張強度を得るとともに、得られる集合組織の結晶方位をより確実に所望の範囲内に制御するために、Alの含有量を5.50%以上とすることが好ましく、5.70%以上とすることがより好ましい。一方、Alを6.75%を超えて含有させると、引張強度への寄与度が飽和する上に、熱間加工性及び冷間加工性を低下させる。そのため、Alの含有量の上限を、6.75%とする。Alの含有量は、6.50%以下であることが好ましい。
Vは、固溶強化能の高い元素であり、含有量が高くなると室温での引張強度が高くなる。また、室温で加工性の良好なβ相を維持する必要がある。そのため、Vの含有量は、3.50%以上とすることが好ましく、3.60%以上であることがより好ましい。一方、Vを4.50%を超えて含有させると、強度が高くなりすぎ、冷間及び温間加工性を低下させる。そのため、Vの含有量は、4.50%以下とすることが好ましい。Vの含有量は、4.30%以下であることがより好ましい。
Feは、偏析を生じさせて均質性を低下させる場合があるため、含有量を0.40%以下に制限することが好ましく、0.25%以下に制限することがより好ましい。Feは、固溶強化能があり、室温での強度向上に寄与する効果があるため、0.10%以上含有させることが好ましい。
C、N、H、Oは、いずれも多量に含有すると、延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Cの含有量は、0.080%以下、Nの含有量は、0.050%以下、Hの含有量は、0.016%以下、Oの含有量は0.25%以下にそれぞれ制限することが好ましい。なお、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるため、その含有量はそれぞれ低ければ低いほど好ましい。また、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるが故に、含有が避けられないことから、実質的な含有量の下限は、通常、Cで0.0005%、Nで0.0001%、Hで0.0005%、Oで0.01%である。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の金属組織についても、α相が主体であり、α相中に少量のβ相が存在したものとなっている。本実施形態において、α相の面積率は80%以上であり、おおよそ80〜97%程度である。本実施形態において、β相の面積率は、おおよそ3〜20%程度となる。
先だって言及したように、疲労特性向上のためには、等軸晶組織であることが重要である。そのため、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下とすることが好ましい。α結晶粒の平均アスペクト比は、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。
また、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、き裂発生低減効果をより確実に得るために、α+β型チタン合金線材におけるα結晶粒の平均結晶粒径を、上記の通り15.0μm以下とすることが好ましい。本実施形態において、α結晶粒の平均結晶粒径は、より好ましくは12.0μm以下であり、更に好ましくは10.0μm以下である。
また、疲労強度の低下をより確実に抑制するために、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の最大結晶粒径を、上記の通り30.0μm以下とすることが好ましい。α結晶粒の最大結晶粒径は、25.0μm以下であることがより好ましく、20.0μm以下であることが更に好ましい。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材においても、線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率は、5.0%以下とすることが好ましい。長軸方向Lとのなす角が15°〜40°の範囲(境界面Bと境界面Aの間の範囲)にあるα結晶粒の面積率は、より好ましくは4.0%以下であり、更に好ましくは3.0%以下である。稠密六方結晶(hcp)のc軸と、α+β型チタン合金線材の長軸方向とのなす角度が、15°以上40°以下であるα結晶粒の面積率は、低い分には問題ないため、下限は0%であることが好ましい。なお、集合組織の測定方法は、先だって説明した測定方法を用いればよいため、以下では詳細な説明は省略する。
上述したようにTi−6Al−4Vに代表される高強度なα+β型チタン合金は、室温〜温間での加工性に乏しく、変形加工時に内部欠陥が発生し易い。ここで内部欠陥とはボイドまたはクラックを指す。一方で、後述の疲労特性は、内部欠陥が多量に存在すると劣化する可能性がある。
内部欠陥の発生量は、後述する熱処理後のチタン合金棒線部材より切断したC断面をエメリー紙及びバフ研磨により鏡面にした後、光学顕微鏡にて測定する。倍率を50〜500倍として、10〜20視野を撮影し、各視野中に存在するボイドやクラックなどの欠陥の数を測定し、観察面積で除して、単位面積あたりの内部欠陥の個数を求め、その平均値とする。なお、内部欠陥は、最大寸法が5μm以上のものとする。
後述するが、疲労強度は、引張特性の0.2%耐力や引張強度と相関がある。そのため、0.2%耐力や引張強度を高めた方が、疲労強度が高くなる。加えて、α+β型チタン合金は、高強度である特性を活用し様々な部材に用いられることから、0.2%耐力は、ある程度高い値を有していることが好ましい。本実施形態に係る化学成分系では、0.2%耐力が850MPa以上であれば、疲労強度と共に、部材として使用する際の強度を満足することができる。そのため、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材において、0.2%耐力は850MPa以上であることが好ましい。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、より好ましくは860MPa以上である。一方、0.2%耐力の上限は、特に定めるものではない。ただし、0.2%耐力が高くなり過ぎると、切欠き感受性が高くなり、疲労強度の低下を招く。1200MPa以上となると切欠き感受性が顕著となることから、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、1200MPa未満であることが好ましい。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、より好ましくは1100MPa以下である。
着目するα+β型チタン合金線材から、長手方向が圧延方向に対して平行であるASTMハーフサイズ引張試験片(平行部幅6.25mm、平行部長さ32mm、標点間距離25mm)を採取し、ひずみ速度を、ひずみ1.5%までを0.5%/min、その後破断までを30%/minで行う。このときの0.2%耐力を測定する。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、高疲労強度であることを特徴している。上述したように、組織形状や結晶粒径は疲労特性に大きく影響し、結晶形状の場合、針状組織では疲労特性が大幅に低下する。また、等軸晶組織であっても、組織が粗大である(すなわち、結晶粒径が大きい)と疲労特性は低下する。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の化学成分系では、下記に示す回転曲げ疲労において、450MPa以上であることが好ましく、470MPa以上であることがより好ましい。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の疲労特性は、回転曲げ疲労時の疲労特性を採用することとし、下記の方法で測定した際の疲労特性とする。
すなわち、製造した線材を用いて、平行部の表面粗さが研磨紙#600以上となるよう研磨された丸棒試験片を作製する。この丸棒試験片を用い、小野式回転曲げ試験により、応力比R=−1として、1×107回まで応力負荷を繰り返しても疲労破壊しない最大応力を求め、疲労強度とする。
続いて、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の製造方法について、詳細に説明する。
21000<(T+273.15)×(log10(t)+20)<24000
・・・(2)
第1の工程では、0〜500℃の範囲の加工温度において、1回又は2回以上の加工を行う。これにより、α+β型チタン合金線材の組織におけるα結晶粒の平均結晶粒径を小さくし、かつ、最大結晶粒径を小さくすることで、等軸結晶組織を形成する。なお、複数回の加工を行う場合は、加工の間で中間焼鈍を行ってもよい。かかる第1の工程は、冷間加工、又は、温間加工に区分される加工である。また、加工温度は、α+β型チタン合金線材の表面における温度とする。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の製造方法において、加工温度が500℃以下の範囲内となる室温〜中温域で加工を行うことで、上述の集合組織を形成し易くなる。また、室温〜中温域において圧延や伸線等の加工を加える(すなわち、冷間加工又は温間加工を行う)ことで、粗大な初析α相の形成を防ぎつつ、かつ、転位の蓄積、及び、下記の熱処理(中間焼鈍及び最終焼鈍)時の再結晶により、微細かつ均一な等軸粒を得ることができる。これらのことから、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の製造方法における第1の工程では、加工温度を0℃以上とする。加工温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは200℃以上である。一方、加工温度が高くなりすぎると、転位の蓄積が困難となる可能性があるため、加工温度は、拡散しにくく転位が蓄積できる500℃以下とする。
本実施形態では、上記のように、0℃以上500℃以下の温度で加工することとしている。加工の種類としては、例えば、カリバー圧延加工、ローラーダイス伸線加工、孔ダイス伸線加工等が挙げられる。加工量については、高いほど転位の集合組織が発達し易く、また再結晶により組織が微細化し易い。ただし、0℃以上500℃以下の温度域では加工性が劣るため、加工し過ぎるとボイド等の内部欠陥を形成し、疲労特性の低下を招く。一回あたりの減面率(加工率)が10%以上であれば、集合組織の発達及び再結晶に有効である。そのため、本実施形態に係る第1の工程において、1回あたりの加工時の減面率を10%以上とする。更なる効果を得るために、第1の工程における1回あたりの加工時の減面率は、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。一方、1回あたり50%を超える加工を行うと、ボイド等の内部欠陥が形成されてしまう。そのため、第1の工程における1回あたりの加工時の減面率は、50%以下とする。
本実施形態では、前述の中間焼鈍、及び、最終熱処理を、700℃以上950℃以下の温度範囲内で行うこととする。熱処理温度Tが700℃未満である場合には、ひずみが十分に回復しなかったり、最終焼鈍時の再結晶が不十分となって、図5Aに模式的に示したように、延伸粒や針状組織が残存したりする。一方、熱処理温度Tが950℃を超える場合には、高温過ぎるために組織が粗大化したり、熱処理時のβ相が不安定になって、冷却時にβ相内に針状組織が形成されたりする結果、図5Bに模式的に示したような、針状組織と等軸組織とが混在する組織であるバイモーダル組織が形成される。また、温度を上記範囲にしたとしても、温度に合わせた保持時間を確保しないと、十分なひずみ除去や再結晶をさせることができない。
21000<(T+273.15)×(log10(t)+20)<24000
・・・(2)
なお、中間焼鈍及び最終熱処理における、熱処理温度Tまでの昇温速度は、速ければ速いほど、上記熱処理温度Tでの保持時間が長くなり、また、安定したひずみ除去及び再結晶が可能となる。具体的な昇温温度は、特に規定するものではないが、昇温速度が1.0℃/s以上であれば、十分な保持時間が確保可能であり、好ましい。昇温速度は、より好ましくは、2.0℃/s以上である。
以下では、本発明の第2の実施形態に係るα+β型チタン合金線材及びその製造方法について、詳細に説明する。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、上記のようなMo当量Aを用いて化学成分が規定されるチタン合金線材のうち、Fe及びSiを含有するチタン合金線材である。かかるα+β型チタン合金線材は、冷間伸線性に優れ、第1の実施形態に係るα+β型チタン合金線材のようにVを含有しないため安価であり、かつ、切削・切断が容易である。
Alは、固溶強化能の高い元素であり、含有量を増やすと室温での引張強度が高くなる。より確実に所望の引張強度を得るとともに、得られる集合組織の結晶方位をより確実に所望の範囲内に制御するために、Alの含有量を4.50%以上とすることが好ましい。Alの含有量は、4.80%以上であることがより好ましく、5.00%以上であることが更に好ましい。一方、Alを6.40%を超えて含有させると、変形抵抗の増大により加工性の低下をもたらすとともに、凝固偏析などによりα相を過度に固溶強化して局所的に硬い領域が生成され、疲労強度の低下をもたらし、更には、衝撃靱性の低下をももたらす可能性がある。そのため、Alの含有量は、6.40%以下とすることが好ましい。Alの含有量は、5.90%以下であることがより好ましく、5.50%以下であることが更に好ましい。
Feは、β安定化元素の中でも安価な添加元素であり、更に、固溶強化能の高い元素である。また、含有量を増やすと室温での引張強度が高くなる。必要な強度を得ることと、室温で加工性の良いβ相を維持するために、本実施形態においてFeの含有量は、0.50%以上であることが好ましい。本実施形態においてFeの含有量は、より好ましくは0.70%以上であり、更に好ましくは0.80%以上である。一方、Feは非常に凝固偏析し易い添加元素であるため、含有させ過ぎると性能のばらつきが大きくなり、場所によっては疲労強度の低下が低下する可能性がある。そのため、本実施形態においてFeの含有量は、2.10%以下であることが好ましい。本実施形態においてFeの含有量は、より好ましくは1.80%以下であり、更に好ましくは1.50%以下である。
Siは、β安定化元素であるが、α相中にも固溶して高い固溶強化能を示す。上記のように、Feは、偏析という観点から2.10%を超えて含有させないことが好ましいことから、必要に応じて、Siの固溶強化により高強度化してもよい。そのため、Siは、任意添加元素であり、その含有量は、0%を下限とする。また、Siは、下記のOと逆の偏析傾向にあり、更に、Oほどには凝固偏析し難いことから、適正量のSiをOと複合含有させることにより、高い疲労強度と引張強度を両立することが期待できる。このような効果は、Siの含有量を0.05%以上とすることで、確実に発現させることが可能であるため、Siを含有させる場合、Siの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることが好ましい。ただし、先だって言及したように、Siを含有させ過ぎると、シリサイドと称する金属間加工物を形成し、疲労強度が低下する。そのため、本実施形態では、Siの含有量を0.50%以下とすることが好ましい。本実施形態において、Siの含有量は、より好ましくは0.45%以下であり、更に好ましくは0.40%以下である。
C、N、H、Oは、いずれも多量に含有すると、延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Cの含有量は、0.010%未満、Nの含有量は、0.050%以下、Hの含有量は、0.016%以下、Oの含有量は0.25%以下にそれぞれ制限することが好ましい。なお、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるため、その含有量はそれぞれ低ければ低いほど好ましい。また、C、N、H、Oは、不可避的に混入する不純物であるが故に、含有が避けられないことから、実質的な含有量は、通常、Cで0.0005%、Nで0.0001%、Hで0.0005%、Oで0.01%である。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、必要に応じて、残部のTiの一部に換えて、0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnのうちの1種又は2種以上含有しても良い。ここで、Ni、Cr、Mnの含有量を、それぞれ、0.15%未満、0.25%未満、0.25%未満としたのは、これらの元素は、上記上限を超えて含有させると、平衡相である金属間化合物(Ti2Ni、TiCr2、TiMn)が生成し、疲労強度及び室温延性が劣化するためである。Niの含有量は、より好ましくは0.13%以下であり、更に好ましくは0.11%以下である。Cr及びMnの含有量は、より好ましくは0.20%以下であり、更に好ましくは0.15%以下である。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の金属組織についても、α相が主体であり、α相中に少量のβ相が存在したものとなっている。本実施形態において、α相の面積率は85%以上であり、おおそよ85〜99%程度である。本実施形態において、β相の面積率は、おおよそ1〜15%程度となる。
先だって言及したように、疲労特性向上のためには、等軸晶組織であることが重要である。そのため、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下とすることが好ましい。α結晶粒の平均アスペクト比は、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。
また、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、き裂発生低減効果をより確実に得るために、α+β型チタン合金線材におけるα結晶粒の平均結晶粒径を、上記の通り15.0μm以下とすることが好ましい。本実施形態において、α結晶粒の平均結晶粒径は、より好ましくは12μm以下であり、更に好ましくは10μmm以下である。
また、疲労強度の低下を抑制するために、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材では、α結晶粒の最大結晶粒径を、上記の通り30.0μm以下とすることが好ましい。α結晶粒の最大結晶粒径は、25.0μm以下であることがより好ましく、20.0μm以下であることが更に好ましい。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材においても、線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率は、5.0%以下とすることが好ましい。長軸方向Lとのなす角が15°〜40°の範囲(境界面Bと境界面Aの間の範囲)にあるα結晶粒の面積率は、より好ましくは4.0%以下であり、更に好ましくは3.0%以下である。稠密六方結晶(hcp)のc軸と、α+β型チタン合金線材の長軸方向とのなす角度が、15°以上40°以下であるα結晶粒の面積率は、低い分には問題ないため、下限は0%であることが好ましい。なお、集合組織の測定方法は、先だって説明した測定方法を用いればよいため、以下では詳細な説明は省略する。
上述したようにTi−6Al−4Vに代表される高強度なα+β型チタン合金は、室温〜温間での加工性に乏しく、変形加工時に内部欠陥が発生し易い。ここで内部欠陥とはボイドまたはクラックを指す。一方で、後述の疲労特性は、内部欠陥が多量に存在すると劣化する可能性がある。
先だって言及しているように、疲労強度は、引張特性の0.2%耐力や引張強度と相関がある。そのため、0.2%耐力や引張強度を高めた方が、疲労強度が高くなる。加えて、α+β型チタン合金は、高強度である特性を活用し様々な部材に用いられることから、0.2%耐力は、ある程度高い値を有していることが好ましい。本実施形態に係る化学成分系では、0.2%耐力が700MPa以上あれば、疲労強度と共に、部材として使用する際の強度を満足することができる。そのため、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材において、0.2%耐力は700MPa以上であることが好ましい。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、より好ましくは720MPa以上である。一方、0.2%耐力の上限は、特に定めるものではない。ただし、0.2%耐力が高くなり過ぎると、切欠き感受性が高くなり、疲労強度の低下を招く。1200MPa以上となると切欠き感受性が顕著となることから、本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、1150MPa未満であることが好ましい。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の0.2%耐力は、より好ましくは1050MPa以下である。
本実施形態に係るα+β型チタン合金線材は、高疲労強度であることを特徴している。上述したように、組織形状や結晶粒径は疲労特性に大きく影響し、結晶形状の場合、針状組織では疲労特性が大幅に低下する。また、等軸晶組織であっても、組織が粗大である(すなわち、結晶粒径が大きい)と疲労特性は低下する。本実施形態に係るα+β型チタン合金線材の化学成分系では、下記に示す回転曲げ疲労において、400MPa以上であることが好ましく、420MPa以上であることがより好ましい。なお、疲労強度の測定方法は、先だって第1の実施形態で説明した測定方法を用いればよいため、以下では詳細な説明は省略する。
なお、上述してきたα+β型チタン合金線材の製造方法であるが、製造に用いるチタン合金材を上述の第2の実施形態に係る化学成分とする以外は、第1の実施形態に係るα+β型チタン合金線材の製造方法と同様にして、実施することが可能である。そのため、以下では、詳細な説明は省略する。
以下に示す試験例1では、主に、本発明の第1の実施形態に係るα+β型チタン合金線材及びその製造方法に着目し、より具体的に説明する。
α+β型チタン合金線材より切断したL断面(線材の長軸方向の直交断面)を、電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定した。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界とみなし、各結晶粒の長軸方向と長軸に直交する方向の最大長さの比(長軸/短軸)、すなわちアスペクト比を算出し、全ての結晶粒の平均値(平均アスペクト比)を算出した。
結晶粒径は、得られた試験片のL断面を電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定した。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界とみなし、結晶粒面積Aより結晶粒毎の円相当粒径Dを求めた(結晶粒面積A=π×(D/2)2)。平均結晶粒径は、測定範囲内の全ての結晶粒径の平均値とした。また、最大結晶粒径は、測定範囲内における最大値とした。なお、α結晶粒とβ結晶粒等の他の結晶粒とは、EBSD上で技術的に容易に識別することが可能であった。
上記の結晶粒径の測定方法と同様に、得られた試験片のL断面を電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定し、各視野における稠密六方結晶(hcp)のc軸とα+β型チタン合金線材の長軸方向との成す角度が15°以上40°以下であるα結晶粒の面積率を求めた。その後、各視野から得られた面積率の平均を算出した。
内部欠陥は、α+β型チタン合金線材より切断したC断面をエメリー紙及びバフ研磨により鏡面にした後、光学顕微鏡にて測定した。倍率を50〜500倍として、10〜20視野を撮影し、各視野に存在するボイドやクラックなどの欠陥の数を測定し、観察面積で除して、単位面積あたりの内部欠陥の個数を求め、その平均値を内部欠陥数とした。なお、内部欠陥は最大寸法が5μm以上のものとした。
得られたα+β型チタン合金線材から、長手方向が圧延方向に対して平行であるASTMハーフサイズ引張試験片(平行部幅6.25mm、平行部長さ32mm、標点間距離25mm)を採取し、ひずみ速度を、ひずみ1.5%までを0.5%/min、その後破断までを30%/minで行った。このときの0.2%耐力を測定した。本試験例では、得られた0.2%耐力が850MPa以上1200MPa未満である場合を、合格とした。
疲労特性は、回転曲げ疲労時の疲労特性を採用することとし、下記の方法で測定した際の特性とした。得られたα+β型チタン合金線材から、平行部の表面粗さが研磨紙#600以上となるよう研磨された丸棒試験片を作製した。この丸棒試験片を、小野式回転曲げ試験により、応力比R=−1として、1×107回まで応力負荷を繰り返しても疲労破壊しない最大応力を、疲労強度とした。本試験例では、得られた疲労強度が450MPa以上である場合を、合格とした。
以下に示す試験例2では、主に、本発明の第2の実施形態に係るα+β型チタン合金線材及びその製造方法に着目し、より具体的に説明する。
α+β型チタン合金線材より切断したL断面(線材の長軸方向の直交断面)を、電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定した。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界とみなし、各結晶粒の長軸方向と長軸に直交する方向の最大長さの比(長軸/短軸)、すなわちアスペクト比を算出し、全ての結晶粒の平均値(平均アスペクト比)を算出した。
結晶粒径は、得られた試験片のL断面を電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、鏡面化後のL断面において、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定した。その後、5°以上の方位差を生じる場合を粒界とみなし、結晶粒面積Aより結晶粒毎の円相当粒径Dを求めた(結晶粒面積A=π×(D/2)2)。平均結晶粒径は、測定範囲内の全ての結晶粒径の平均値とした。また、最大結晶粒径は、測定範囲内における最大値とした。なお、α結晶粒とβ結晶粒等の他の結晶粒とは、EBSD上で技術的に容易に識別することが可能であった。
上記の結晶粒径の測定方法と同様に、得られた試験片のL断面を電解研磨又はコロイダルシリカ研磨により鏡面にした後、EBSD(TSLソリューションズ製のOIM Analysisソフトウェア)を用いて測定した。具体的には、大きさ500μm×500μmの領域を、ステップ0.5〜1μmで、2〜10視野程度測定し、各視野における稠密六方結晶(hcp)のc軸とα+β型チタン合金線材の長軸方向との成す角度が15°以上40°以下であるα結晶粒の面積率を求めた。その後、各視野から得られた面積率の平均を算出した。
内部欠陥は、α+β型チタン合金線材より切断したC断面をエメリー紙及びバフ研磨により鏡面にした後、光学顕微鏡にて測定した。倍率を50〜500倍として、10〜20視野を撮影し、各視野に存在するボイドやクラックなどの欠陥の数を測定し、観察面積で除して、単位面積あたりの内部欠陥の個数を求め、その平均値を内部欠陥数とした。なお、内部欠陥は最大寸法が5μm以上のものとした。
得られたα+β型チタン合金線材から、長手方向が圧延方向に対して平行であるASTMハーフサイズ引張試験片(平行部幅6.25mm、平行部長さ32mm、標点間距離25mm)を採取し、ひずみ速度を、ひずみ1.5%までを0.5%/min、その後破断までを30%/minで行った。このときの0.2%耐力を測定した。本試験例では、得られた0.2%耐力が700MPa以上1200MPa未満である場合を、合格とした。
疲労特性は、回転曲げ疲労時の疲労特性を採用することとし、下記の方法で測定した際の特性とした。得られたα+β型チタン合金線材から、平行部の表面粗さが研磨紙#600以上となるよう研磨された丸棒試験片を作製した。この丸棒試験片を、小野式回転曲げ試験により、応力比R=−1として、1×107回まで応力負荷を繰り返しても疲労破壊しない最大応力を、疲労強度とした。本試験例では、得られた疲労強度が400MPa以上である場合を、合格とした。
L 長軸方向
Claims (5)
- 質量%で、
Al:4.50〜6.75%
Si:0〜0.50%
C:0.080%以下
N:0.050%以下
H:0.016%以下
O:0.25%以下、
Mo:0〜5.5%
V:0〜4.50%
Nb:0〜3.0%
Fe:0〜2.10%
Cr:0〜0.25%未満
Ni:0〜0.15%未満
Mn:0〜0.25%未満
を含有し、残部がTi及び不純物からなり、更に、Al、Mo、V、Nb、Fe、Cr、Ni及びMnの含有量が下記式(1)を満足し、
α結晶粒の平均アスペクト比が、1.0〜3.0であり、
α結晶粒の最大結晶粒径が、30.0μm以下であり、
α結晶粒の平均結晶粒径が、1.0μm〜15.0μmであり、
線材の長軸方向の直交断面におけるα結晶粒のうち、前記長軸方向に対してα結晶粒を構成する稠密六方結晶のc軸方向の傾斜角度が15°〜40°の範囲にあるα結晶粒の面積率が、5.0%以下であり、
単位面積あたりの内部欠陥の個数が、0個/mm 2 〜13個/mm 2 である、α+β型チタン合金線材。
−4.0≦[Mo]+0.67[V]+0.28[Nb]+2.9[Fe]+1.6[Cr]+1.1[Ni]+1.6[Mn]−[Al]≦2.0 ・・・(1)
ここで、上記式(1)において、[元素記号]の表記は、対応する元素記号の含有量(質量%)を表し、含有しない元素記号については、0を代入するものとする。
- 質量%で、
Al:5.50〜6.75%
V:3.50〜4.50%
Fe:0.40%以下
を含有する、請求項1に記載のα+β型チタン合金線材。 - 質量%で、
Al:4.50〜6.40%
Fe:0.50〜2.10%
を含有する、請求項1に記載のα+β型チタン合金線材。 - 請求項1〜3の何れか1項に記載のα+β型チタン合金線材を製造する方法であって、
請求項1〜3の何れか1項に記載の化学成分を有するチタン合金材を、0℃〜500℃の範囲の加工温度において、1回又は2回以上の加工を行う工程であり、1回あたりの加工時の減面率を10〜50%とし、合計減面率を50%以上とする第1の工程と、
前記第1の工程後のチタン合金材に対して、熱処理温度Tを700℃〜950℃の範囲とし、熱処理時間tを下記式(2)を満足する熱処理時間とする最終熱処理を施す第2の工程と、
を含む、α+β型チタン合金線材の製造方法。
21000<(T+273.15)×(log10(t)+20)<24000
・・・(2)
ここで、上記式(2)において、
T:前記第2の工程における熱処理温度(℃)
t:前記第2の工程における熱処理時間(hr)
である。 - 前記第1の工程において、前記加工を複数回行う場合、各加工の間で中間焼鈍を施す、請求項4に記載のα+β型チタン合金線材の製造方法。
Applications Claiming Priority (5)
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