以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る定着部材は、弾性層とその上に配置されている離型層とを有する。上記定着部材は、その離型層が後述の特定の構成を有する以外は、弾性層および離型層がこの順で重なるように配置されている公知の定着部材と同様に構成することができる。
上記弾性層は、定着ニップ部における定着部材の表面と、未定着のトナー画像を担持する記録媒体との接触性の向上に寄与する弾性を有する層であり、弾性材料製である。「弾性材料製」とは、弾性層を構成する主な材料が弾性材料であることを意味し、「弾性」とは、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の記録媒体への定着において、定着部材が未定着トナー画像を有する記録媒体の表面に対して十分に接する変形を定着部材に付与することを意味する。
上記弾性材料は、一種でもそれ以上でもよく、例えば、20Hzでの損失正接tanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.1以下である材料であり、あるいは、ゴム硬度が30以上である材料である。当該弾性材料の例には、弾性樹脂材料が含まれ、当該弾性樹脂材料は、耐熱性ゴムであることが好ましい。当該耐熱性ゴムの例には、天然ゴム、SBR、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、フッ素ゴムおよび液状フッ素エラストマーが含まれる。これらの中でも、耐熱性の観点から、シロキサン結合を主鎖とする弾性ゴムが好ましく、シリコーンゴムが好ましい。
上記シリコーンゴムは、一種でもそれ以上でもよい。上記シリコーンゴムの例には、ポリオルガノシロキサンまたはその加熱硬化物、および、特開2009−122317号公報に記載の付加反応型シリコーンゴム、が含まれる。当該ポリオルガノシロキサンの例には、特開2008−255283号公報に記載の、両末端がトリメチルシロキサン基で封鎖され、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン、が含まれる。
当該弾性層の厚さは、例えば、凹凸紙に対する追従性および伝熱性を十分に発現させる観点から、50〜500μmであることが好ましい。弾性層の厚さが50μmより薄いと、紙の凹凸に対する追従性が不十分となることがあり、また弾性層の厚さが500μmより厚いと、定着に必要な熱量を蓄積するための時間がかかるため、伝熱性が不十分となることあり、利便性が不十分となることがある。
上記弾性層は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上記の弾性樹脂材料以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記弾性材料は、弾性層の伝熱性を高めるための伝熱性のフィラーをさらに含んでいてもよい。当該フィラーの材料の例には、シリカ、金属シリカ、アルミナ、亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンおよび黒鉛が含まれる。上記フィラーの形態は、限定されず、例えば、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末または繊維である。
上記弾性材料における上記弾性樹脂材料の含有量は、伝熱性と弾性とを両立させる観点から、例えば60〜100体積%であることが好ましく、75〜100体積%であることがより好ましく、80〜100体積%であることがさらに好ましい。
上記離型層は、定着時に記録媒体に当接する定着部材の外表面を構成し、トナー成分に対する適度な離型性を有する。
上記離型層の厚さは、例えば耐久性および上記追従性の観点から、2.0〜100μmであることが好ましく、5.0〜30.0μmであることがより好ましい。離型層の厚さが2.0μmより薄いと、耐久性が不十分となることがあり、耐久による減耗により不具合が生じる場合がある。また、離型層の厚さが100μmより厚いと、弾性層の弾性効果の発現が不十分になることがあり、記録媒体の表面の凹凸に対する追従性が不十分となることがある。
上記離型層は、結着樹脂で構成されている連続相と、上記連続相中に分散している異形粒子とを有する。
上記結着樹脂は、熱可塑性樹脂であってよいし、あるいは光の照射や加熱によって構築された架橋構造を有する硬化性樹脂であってよい。上記結着樹脂は、特には、表面エネルギーが小さく、撥水、撥油性に富むフッ素系樹脂であることが好ましい。また、上記結着樹脂は、主鎖にパーフルオロポリエーテル構造を含み、主鎖の末端に光や熱で架橋構造を形成できる(ラジカル重合反応により結合する)アクリル系官能基を有する硬化性樹脂(以下、「PFPE樹脂」とも記す)であることがより好ましい。
PFPE樹脂は、パーフルオロポリエーテル構造が撥水、撥油性を発現できることに加え、パーフルオロポリエーテル構造とアクリル系官能基の構造や架橋点数を調整することにより、離型層の靱性、硬度を設計することができ、削れや割れなどの不具合を起こすことなく離型層の強度を保つ観点から好ましい。PFPE樹脂は、市販の公知の材料であってよく、その例には、Fluorolink MD700およびFluorolink MT70(いずれもSolvay社製、「FLUOROLINK」は同社の登録商標)が含まれる。
上記離型層における上記異形粒子の含有量は、離型層の分離性および耐久性の観点から、20〜50体積%であることが好ましい。上記含有量が20体積%より少ないと、離型層における離型性の効果が不十分となることがある。また、上記含有量が50体積%より多いと、離形層の機械的強度が損なわれやすく、定着部材の耐久性が不十分となることがある。
上記異形粒子は、その表面に突起を有する。たとえば、上記異形粒子は、その表面に、突起状の凸部を有する毬栗形状を有する。上記突起は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって確認することができる。
上記突起は、異形粒子の表面から生じる凸部であって、異形粒子の表面全体に複数分布していればよく、異形粒子の粒子形状の典型例としては、例えば図1に示される粒子形状が示され得る。
上記突起の高さは、異形粒子の粒径の1/100〜1/10の範囲の高さを有することが好ましい。また、異形粒子一個当たりの上記突起の数は、40〜800の範囲であることが好ましい。これらの突起の大きさおよび数は、SEMによる観察により測定し、あるいは推定することができる。具体的には、電子顕微鏡の観察視野より任意に抽出した10個以上の異形粒子の突起構造を観察画像より求めることにより、その異形粒子の突起構造(突起の高さおよび突起の数)を推定することが可能である。
「突起の高さ」とは、例えば、異形粒子の表面に形成された凹凸における凹部の谷底から当該凹部に連続して連なる凸部の頂点までの、異形粒子の径方向における距離であり、例えば、観察した異形粒子から得られる測定値の平均値によって表される。また、異形粒子の表面における一つの「突起」の範囲は、例えば、一つの上記凸部の頂点を囲む実質的に一連の上記凹部で区切られる領域であり、例えば、視野内で確認される異形粒子の表面の部分中の突起の数と、視野内で確認される表面の部分の全表面積に対する(概算でもよい)割合とから求められる値またはその平均値で表される。
前記異形粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で0.5〜20.0μmであることが好ましく、1.0〜5.0μmであることがより好ましい。当該粒径は、公知の粒度分布装置を用いて求めることが可能である。
上記異形粒子の材料は、限定されない。当該材料の例には、樹脂および無機物が含まれ、上記樹脂の例には、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーンおよびフッ素樹脂が含まれる。また、上記無機物の例には、金属酸化物が含まれ、その例には、酸化ケイ素、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが含まれる。中でも、フッ素を構成元素に含むフッ素系樹脂またはケイ素を構成元素に含むシリコーンは、撥水、撥油性に富む材料であり、異形粒子の表面の表面エネルギーを小さくすることができることから好ましい。
上記異形粒子は、市販品であってもよいし、合成品であってもよい。市販品の例には、シリコーン系の異形粒子である「NH−KBN06」(日興リカ株式会社製)が含まれる。合成品の例には、フッ素樹脂で構成されている異形粒子が含まれる。異形粒子は、例えば次のような方法によって製造することが可能である。
たとえば、異形粒子は、シクロヘキサンなどの疎水性溶媒に、フッ素樹脂あるいはシリコーンの重合性単量体と、必要に応じてその他の重合性単量体と、油溶性重合開始剤とを溶解させた油相液を、分散剤を含む水系媒体中において分散させて油滴(エマルション)を形成させ、当該油滴中にて重合反応を行って製造することができる。
上記油溶性重合開始剤の例には、アゾ系重合開始剤および過酸化物系重合開始剤などの公知の重合開始剤が含まれる。アゾ系重合開始剤の例には、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)および2,2’−アゾビスイソブチロニトリルが含まれる。過酸化物系重合開始剤の例には、ベンゾイルパーオキサイドおよびジ−t−ブチルパーオキサイドが含まれる。
上記分散剤の例には、公知の非イオン性、陰イオン性、陽イオン性および両性の界面活性剤ならびに懸濁重合用の分散剤が含まれ、当該懸濁重合用の分散剤の例には、コロイダルシリカなどの無機分散剤、および、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子分散剤、が含まれる。
また、重合反応の際に、上記水系媒体中に水溶性重合開始剤を共存させてもよい。当該水溶性重合開始剤には、水溶性の公知の重合開始剤を使用することができ、その例には、過硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、および、過酸化水素、が含まれる。
上記フッ素樹脂の重合性単量体は、重合によって上記フッ素樹脂を構成する化合物であり、ラジカル重合性を有することが好ましい。当該フッ素樹脂の重合性単量体の例には、フッ素化アルキルアクリレートが含まれ、当該フッ素化アルキルアクリレートの例には、2,2,2,−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタアクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルメタアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタアクリレート及び、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロヘキサン−1,6−ジアクリレート、が含まれる。
上記シリコーンの重合性単量体は、重合によって上記シリコーンを構成する化合物である。当該シリコーンの重合性単量体の例には、2−(トリメチルシリルオキシ)エチルメタアクリレートが含まれる。
上記その他の重合性単量体は、上記フッ素樹脂およびシリコーンの重合性単量体以外の重合性単量体であり、例えば、重合性官能基を有する、通常の炭素、水素、酸素原子からなる脂肪族化合物や芳香族化合物である。当該その他の重合性単量体は、ラジカル重合性を有する重合性単量体であることが好ましく、その例には、スチレン系重合性単量体およびアクリル酸エステル系重合性単量体が含まれる。
上記スチレン系重合性単量体の例には、スチレン、α−メチルスチレンおよびジビニルベンゼンが含まれる。
上記アクリル酸エステル系重合性単量体の例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキシレングリコールジメタクリレート、ヘキシレングリコールジアクリレートおよびペンタエリスリトールが含まれる。
上記油相液中の全重合性単量体に対するフッ素樹脂またはシリコーンの重合性単量体の含有量は、重合による粒子の形成過程で表面の異形化が達成される範囲において適宜に決めることが可能であり、例えば、20〜100質量%の範囲から適宜に決めることが可能であり、より好ましくは30〜70質量%である。
また、上記油相液中に含まれる重合性単量体、すなわち、フッ素樹脂の重合性単量体またはシリコーンの重合性単量体、および必要に応じて上記その他の重合性単量体の少なくともいずれかは、架橋構造を構成することができる多官能重合性単量体とすることができる。上記油相液中の全重合性単量体に対する多官能重合性単量体の割合は、20〜80質量%の範囲が好ましく、より好ましくは40〜60質量%である。重合性単量体組成を上述のようにすることで定着部材における凹凸追従性と分離性とにより一層貢献する粒子表面の異形化を実現することができる。
次に、上記疎水性溶媒は、水への溶解性が極めて低く、したがって水系媒体中において油滴を形成することができ、さらに、沸点が外殻樹脂を形成するための重合性単量体の重合温度よりも高い溶媒であることが好ましく、例えばシクロヘキサン、シクロヘプタン、ヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、などの炭化水素系化合物であることが好ましい。これらは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。上記疎水性溶媒には、好ましくは飽和脂肪族炭化水素系が挙げられる、より好ましくは炭素数5〜8の飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
上記疎水性溶媒の使用量は、重合性単量体100質量部に対して疎水性溶媒30〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは疎水性溶媒50〜100質量部が好ましい。
上述のような上記疎水性溶媒を用いることで好適に、粒子内部に疎水性溶媒を内包することができて、粒子表面の異形化を実現することができる。
上記のような、疎水性溶媒を含んだフッ素樹脂またはシリコーンの重合性単量体の重合、あるいは、当該重合性単量体と上記その他の重合性単量体との共重合、によって上記異形粒子が形成される理由は、明らかではないが以下のように考えられる。すなわち、重合反応による粒子形成時に、重合性単量体は疎水性溶媒を内包した状態で重合体を形成して、内部に疎水性溶媒を内包した重合粒子を形成する。その際に疎水性溶媒、フッ素樹脂またはシリコーンの重合性単量体、および、必要に応じてその他の重合性単量体、との間で相溶性の低下から相分離状態を起こし、粒子の形成が均一ではなく相分離による異方性を生じることから、粒子形状が真球から外れて異形化する、と考えられる。
上記離型層は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上記結着樹脂および異形粒子以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記離型層は、上記異形粒子以外の潤滑材粒子をさらに含んでいてもよい。当該潤滑材粒子の例には、シリカ粒子が含まれる。
上記離型層は、その材料に上記異形粒子を含む以外は、公知の方法によって作製することが可能である。たとえば、上記離型層は、上記結着樹脂またはその単量体と上記異形粒子とを含有する離型層用の塗料を弾性層の表面に塗布し、形成された塗膜を固化または硬化させることによって作製することが可能である。上記塗膜の形成は、公知の塗布方法によって行うことができ、上記塗膜の固化は、例えば塗膜の乾燥によって行うことができ、上記塗膜の硬化は、当該塗膜中の単量体を、紫外線などの活性エネルギー線の照射または加熱によって重合させることによって行うことができる。
上記定着部材は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記の弾性層および離型層以外の他の構成をさらに有していてもよい。たとえば、上記定着部材は、弾性層を支持する基材層をさらに有していてもよいし、これらの層の間に、これらの層の接着性を高めるための接着層をさらに有していてもよい。
上記基材層は、例えば耐熱性樹脂で構成することができる。「耐熱性樹脂製」とは、基材層を構成する主な材料が耐熱性樹脂であることを意味し、「耐熱性」とは、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の記録媒体への定着に上記定着部材を用いる際の温度(例えば150〜220℃)において十分に安定しており所期の物性を発現することを意味する。
上記耐熱性樹脂は、定着部材の上記の使用温度において実質的な変性および変形を生じない樹脂から適宜に選ばれ、一種でもそれ以上でもよい。上記耐熱性樹脂の例には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。中でも、強度、耐久性に優れる観点から、ポリイミドが好ましい。
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸の、200℃以上の加熱による、または触媒を用いることによる、脱水、環化(イミド化)反応を進めることによって得ることができる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを溶媒に溶解し、混合・加熱による重縮合反応によって製造してもよいし、市販品を用いてもよい。上記ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の例には、特開2013−25120号公報の段落0123〜0130に記載の化合物が含まれる。
上記基材層における上記耐熱性樹脂の含有量は、上記基材層を形成するのに十分な量であればよく、例えば、50質量%以上であることが好ましく、60〜75質量%であることがより好ましく、76〜90質量%であることがさらに好ましい。
上記基材層は、耐熱性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記基材層は、前述したフィラーをさらに含有していてもよい。上記フィラーは、例えば、基材層の硬さ、伝熱性および導電性の少なくともいずれかの向上に寄与する成分である。当該フィラーは、一種でもそれ以上でもよく、その材料の例には、カーボンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボンおよび黒鉛が含まれる。
上記基材層における上記フィラーの含有量は、多すぎると基材層の靱性が低くなって定着部材の定着性および分離性が低くなることがあり、また、少なすぎると、例えば適度な導電性の付与などのフィラーによる所期の効果が不十分となることがある。このような観点から、上記基材層における上記フィラーの含有量は、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、上記基材層における上記フィラーの含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
上記定着部材は、電子写真方式の画像形成装置における定着装置に適用される。上記定着部材の形態は、画像形成装置に搭載しようとする定着装置の仕様などに応じて、公知の形態から適宜選択することができ、例えば、アルミニウムなどの金属製のスリーブの外周面上に弾性層および離型層が配置されている定着ドラムであってもよいし、無端ベルト状の基材層の外周面上に弾性層および離型層が配置されている定着ベルトであってもよい。上記定着部材は、省エネルギーの観点から、熱容量がより小さい定着ベルトであることが好ましい。
上記定着部材を有する画像形成装置は、上記の定着部材を有する以外は、記録媒体上の未定着のトナー画像を、定着部材を用いる加熱および加圧によって上記記録媒体に定着させるための定着装置を有する公知の画像形成装置と同様に構成することができる。上記定着部材は、電子写真方式の画像形成に用いることができる。
上記定着装置は、例えば、無端ベルト状の定着部材と、上記定着部材を無端状に支持するための二以上のローラと、上記ローラに支持されている上記定着部材を加熱するための加熱装置と、上記二以上のローラのうちのローラ一つに向けて相対的に付勢されるように配置されている加圧ローラとによって構成することができる。上記定着装置は、上記の無端ベルト状の定着部材として本実施の形態の上記定着部材を有する以外は、公知のいわゆる二軸ベルト式定着装置と同様に構成することができる。
上記二以上のローラは、その少なくとも一つに上記加熱装置を内蔵していてもよく、例えば上記定着部材を加熱するための加熱ローラを含んでいてもよい。当該加熱ローラは、例えば、アルミニウム製などの伝熱性のスリーブと、当該スリーブの内側に配置されるハロゲンヒータなどの加熱源とを有する。当該スリーブの外周面は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂製の層によって被覆されていてもよい。
なお、上記加熱装置は、ローラ外に配置される加熱装置、すなわち、支持されている当該定着部材が形成する無端軌道の内周側または外周側に当該無端軌道に向けて配置される加熱装置、であってもよいし、ローラに内蔵される加熱装置とローラ外に配置される加熱装置との両方を含んでいてもよい。
上記二以上のローラのうちの上記加熱ローラ以外のローラは、一以上あればよく、所望の他の機能に応じて適宜に構成することが可能である。
上記定着部材は、定着時における記録媒体への追従性と分離性との両方に優れた性能を発揮する。上記記録媒体は、普通紙などの通常の記録媒体であってよいが、上記追従性や分離性について高い性能を要する特定の記録媒体であってもよい。このような特定の記録媒体の例には、凹凸紙および薄紙が含まれる。
上記凹凸紙は、例えば、表面に文字や模様の浮き上がりをもたせたエンボス紙と称される紙種であり、オス(凸)とメス(凹)の金型で紙をはさみ加圧することにより、凹凸感を出している紙である。坪量で100〜300g/m2で表され、溝の深さで10〜100μmで表される紙製の記録媒体である。また、上記薄紙は、例えば、坪量で40〜64g/m2で表され、または曲げ剛度で2〜10で表される紙製の記録媒体である。
上記定着部材を用いる電子写真方式の画像形成では、トナーは限定されず、例えば公知のトナーを用いることができる。当該トナーは、トナー母体粒子とその表面に付着している外添剤とによって構成されているトナー粒子である一成分現像剤であってもよいし、トナー粒子とこれを担持するキャリア粒子とを有する二成分現像剤であってもよい。
以下、図面に基づいて本発明の実施形態をさらに説明する。画像形成装置1は、図2に示されるように、画像読取部10、操作表示部20、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着部60および制御部100を備える。
制御部100は、展開したプログラムと協働して画像形成装置1の各ブロックの動作を集中制御するための装置であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を備える。
画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)などを備えて構成される。操作表示部20は、例えばタッチパネル付の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)で構成され、表示部および操作部として機能する。画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定またはユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路などを備える。
画像形成部40は、入力画像データに基づいて、Y成分、M成分、C成分、K成分の各有色トナーによる画像を形成するための画像形成ユニット41、中間転写ユニット42、および二次転写ユニット43などを備える。
画像形成ユニット41は、Y成分、M成分、C成分、K成分用の4つの画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kで構成される。画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kは、同様の構成を有するので、図示および説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY、M、C、またはKを添えて示すこととする。図2では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号が付され、その他の画像形成ユニット41M、41C、41Kの構成要素については符号が省略されている。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415などを備える。
感光体ドラム413は、例えばアルミニウム製の導電性円筒体(アルミ素管)の周面に、アンダーコート層(UCL:Under Coat Layer)、電荷発生層(CGL:Charge Generation Layer)、電荷輸送層(CTL:Charge Transport Layer)を順次積層した負帯電型の有機感光体(OPC:Organic Photo−conductor)である。
帯電装置414は、例えばコロナ放電を用いる非接触式の帯電装置である。帯電装置414は、感光体ドラム413に接触して帯電させる接触式の帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば半導体レーザで構成されている。現像装置412は、二成分現像剤用の現像装置であり、各色成分の現像剤(例えば、小粒径のトナーと磁性体とからなる二成分現像剤)を収容している。ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413の表面に摺接可能に配置されている弾性ブレードなどのドラムクリーニングブレードを有している。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、一次転写ローラ422、バックアップローラ423Aを含む複数の支持ローラ423、およびベルトクリーニング装置426などを備える。
中間転写ベルト421は、無端状ベルトで構成され、複数の支持ローラ423にループ状に張架される。複数の支持ローラ423のうちの少なくとも一つは駆動ローラで構成され、その他は従動ローラで構成される。ベルトクリーニング装置426は、中間転写ベルト421の表面に摺接可能に配置されている弾性ブレードなどのベルトクリーニングブレードを有している。
二次転写ユニット43は、例えば二次転写ローラ431を備える。二次転写ユニット43は、二次転写ローラを含む複数の支持ローラに、二次転写ベルトがループ状に張架された構成であってもよい。
定着部60は、定着器F内にユニットとして配置される。定着部60は、無端状の定着ベルト61と、定着ベルト61を無端状に支持するための二本のローラ64、65と、ローラ64、65に支持されている定着ベルト61を加熱するための加熱装置63と、ローラ64に対して相対的に付勢されるように配置されている加圧ローラ62とを有する。定着部60は、本実施の形態における上記定着装置に該当し、定着ベルト61は、本実施の形態における上記定着部材に該当する。
ローラ64は、定着ベルト61を介して加圧ローラ62に対向して配置されており、そのローラ径は、50mm以上である。ローラ64、65は、定着ベルト61を45Nの張力で無端軌道上に支持している。たとえば、ローラ64は駆動ローラであり、ローラ65は従動ローラである。加熱装置63は、例えばハロゲンランプや抵抗発熱体などで構成されており、ローラ65に内蔵されている。加圧ローラ62は、ローラ64に対して接近離脱自在に配置されている。ローラ64に支持されている定着ベルト61に加圧ローラ62が圧接することにより、用紙Sを狭持して搬送する定着ニップ部が形成される。用紙Sは、記録媒体に相当し、例えば規格用紙、特殊用紙などである。
なお、加熱装置63には、電磁誘導加熱(IH:Induction Heating)方式の加熱装置を採用してもよい。また、定着器F内には、エアを吹き付けることにより、定着ベルト61または加圧ローラ62から用紙Sを分離させるエア分離ユニットがさらに配置されていてもよい。定着部60は、上記の定着装置に相当する。
定着ベルト61は、図3Aに示されるように、無端状のベルトであり、図3Bに示されるように、基材層611、弾性層612および離型層613がこの順で積み重ねられて構成されている。基材層611はポリイミド製のベルトであり、基材層611中にはカーボンブラックが分散されている。弾性層612は、例えばシリコーンゴム製の弾性を有する層である。
離型層613は、図3Cに示されるように、弾性層612の表面に配置されており、結着樹脂製の連続相614と、連続相614中に分散している異形粒子615とを有する。上記結着樹脂は、例えば、前述したPFPE樹脂であり、一体的な膜構造を構築している。
異形粒子615は、例えば、前述したようなフッ化アルキル基を有する(メタ)アクリレートを含む重合性単量体の乳化重合による粒子であり、表面に複数の凸部を有する。異形粒子615は、連続相614の平面方向および厚さ方向の両方において実質的に均一に分散しており、複数の異形粒子615の一部は、離型層613の表面から部分的に露出している。このように、離型層613の表面には、異形粒子615によって形成される大小の凹凸が形成されている。
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、第1の搬送部53、および第2の搬送部57などを備える。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙Sが予め設定された種類ごとに収容される。第1の搬送部53は、中間搬送ローラ部54、ループローラ部55、およびレジストローラ部56を含む複数の搬送ローラ部を備える。第2の搬送部57は、複数の搬送ローラ部が配置されたスイッチバック経路58および裏面用搬送路59を備える。
画像形成装置1において、自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Dを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることができる。原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサー12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データを生成する。この入力画像データには、画像処理部30において必要に応じて所定の画像処理が施される。
制御部100は、感光体ドラム413を回転させる駆動用モーター(図示略)に供給される駆動電流を制御する。それにより、感光体ドラム413は、一定の周速度で回転する。帯電装置414は、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザ光を照射し、感光体ドラム413の表面には、周囲との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。現像装置412は、感光体ドラム413の表面に各色成分のトナーを付着させることにより静電潜像を可視化してトナー画像を形成する。
一方、中間転写ベルト421は、駆動ローラとなる支持ローラ423が回転することにより、矢印A方向に一定速度で走行する。一次転写ローラ422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接されることにより、一次転写ニップ部が形成され、感光体ドラム413上の各色のトナー画像は、中間転写ベルト421に各色トナー画像が順次重なるように一次転写される。感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、ドラムクリーニング装置415における、感光体ドラム413の表面に当接する上記弾性ブレードによって一次転写後に当該表面から除去される。
他方、中間転写ベルト421を介して、二次転写ローラ431がバックアップローラ423Aに圧接されることにより、二次転写ニップ部が形成される。給紙部51または第2の搬送部57から給紙された用紙Sは、二次ニップ転写部に搬送される。用紙Sの傾きおよび幅方向の位置(片寄り)は、第1の搬送部53により搬送される過程で補正される。
二次転写ニップ部を用紙Sが通過する際、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに二次転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、定着部60に向けて搬送される。二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、ベルトクリーニング装置426における、中間転写ベルト421の表面に当接する上記弾性ブレードによって当該表面から除去される。
定着部60は、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー画像を定着させる。定着ベルト61、加圧ローラ62および加熱装置63などの駆動制御は、制御部100によって行われる。
加熱装置63によって定着ベルト61が加熱され、その結果、定着ベルト61が幅方向にわたって所定の定着温度(例えば170℃)で均一となる。定着温度とは、用紙S上のトナーを溶融するのに必要な熱エネルギーを供給し得る温度であり、画像形成される用紙Sの紙種などによって異なる。
両面印刷の場合では、第2の搬送部57は、用紙Sをスイッチバック経路58に一旦搬送した後、スイッチバックさせて裏面用搬送路59に搬送することにより用紙Sを反転させ、第1の搬送部53(ループローラ部55の上流)に供給する。そして、再度、二次転写ニップ部に用紙Sを供給して所望のトナー画像を用紙Sに転写させ、次いで定着部60において当該トナー画像を用紙Sに定着させる。
こうして所望の画像が形成された用紙Sは、排紙ローラ52aを備えた排紙部52により画像形成装置1の機外に排紙される。
定着ベルト61は、用紙Sに凹凸紙や薄紙を用いた場合でも、トナー画像の用紙Sへの定着性と、定着ニップ部における用紙Sの分離性とに優れる。その理由は、主に以下のように考えられる。
離型層613に表面には、突起を有する異形粒子615が部分的に露出し、離型層613の表面に、異形粒子615の表面形状が反映された、微視的に複雑に入り組んだフラクタル様な構造(擬似フラクタルな構造)が形成される。このため、離型層613に表面は、平滑な面に比べて撥水、撥油性が高く、トナーに対する離型性が向上する。よって、トナーオフセットや記録紙の巻き付きジャムを防止することができる、と考えられる。
また、離型層613に異形粒子615が分散されていることにより、離型層613が、弾性層612の優れた柔軟性を用紙Sの凹凸に追従して伝えることができ、このため、用紙Sの凹部においてもトナーの定着性が損なわれない。よって、用紙Sの表面における凹凸に関わらず、トナーを十分に溶融状態に至らしめて高光沢で高画質の画像を形成することができる、と考えられる。
なお、普通紙などの一般に平滑かつ適度な剛度を有する記録媒体を用いる画像形成方法では、定着ベルト61は、前述の三層構造による定着性の向上効果、および、離型層の材料による分離性の向上効果、を十分に発現する。よって、画像形成装置1は、上記のような通常の記録媒体を用いる画像形成においても、良好な画像を形成することが可能である。
このように、画像形成装置1は、定着時における定着部材の記録媒体に対する離型性に優れていて、トナーオフセットによる画像異常を発生せず、斤量の小さい薄紙などの剛性の低い用紙へトナー画像を定着させても、定着部材に用紙が巻き付くことを長期に亘って継続して防止することができる。また、凹凸度の大きいエンボス紙へトナー画像を定着させても、定着部材が紙の凹凸に対して十分な追従性を有し、その結果、高光沢で高画質の画像を長期に亘って継続して得ることができる。
以上の説明から明らかように、本実施の形態の定着部材は、弾性層とその上に配置されている離型層とを有し、上記離型層は、結着樹脂で構成されている連続相と、上記連続相中に分散している、その表面に突起を有する異形粒子とを有する。また、本実施の形態の定着装置は、本実施の形態の定着部材を有し、未定着のトナー画像を担持する記録媒体に上記トナー画像を加熱加圧によって定着させるための定着装置である。よって、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着において、記録媒体の表面の凹凸に関わらずにトナー画像の定着と記録媒体の分離の両方に優れる定着を実現することができる。
また、上記離型層における上記異形粒子の含有量が20〜50体積%であることは、離型層の分離性と耐久性とを高める観点からより一層効果的である。
また、上記異形粒子がフッ素樹脂またはシリコーンで構成されていることは、離型層の分離性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記結着樹脂がパーフルオロポリエーテル構造を含むアクリル系樹脂であり、上記アクリル系樹脂が上記連続相において互いに架橋していることは、離型層の分離性を高めるとともに離型層の機械的強度の設計を容易に行う観点からより一層効果的である。
また、上記弾性層がシリコーンゴムで構成されていることは、定着部材の耐熱性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記異形粒子一個当たりの上記表面における突起数が40〜800個であること、および、上記表面における突起の高さが上記異形粒子の粒径の1/100〜1/10であること、は、それぞれ、当該異形粒子が上記離型層に分散して配合されたときに離型層の分離性を高める観点からより一層効果的である。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例などに限定されない。
[実施例1 異形粒子Aの製造]
下記の成分を下記の量で含有する液体に、油溶性重合開始剤「V−65」(和光純薬工業社製)を重合性単量体(2,2,2,−トリフルオロエチルメタクリレートおよびジビニルベンゼン)に対して重合開始剤が0.5モル%となる量で加えて溶解させ、モノマー溶液Aを得た。このモノマー溶液Aに、0.5質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液800質量部を加え、これを乳化分散機「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製、同社の登録商標)にて分散することにより、乳化分散液Aを調製した。
2,2,2,−トリフルオロエチルメタクリレート 50質量部
ジビニルベンゼン 50質量部
シクロヘキサン 80質量部
この乳化分散液Aを、撹拌装置と水冷還流管と窒素導入管とをセットしたセパラブルフラスコに入れ、水溶性重合開始剤「VA−57」(和光純薬工業株式会社製)を重合性単量体に対して重合開始剤が0.5モル%加えて溶解させ、次いで、撹拌下、窒素気流を導入し、次いで乳化分散液Aを60℃まで加熱し、この温度を維持して8時間加熱撹拌して重合反応を行って異形粒子Aを生成させた。次いで、生成された異形粒子Aを吸引濾過によって濾取し、イオン交換水にて洗浄した後、バットに拡げて40℃で乾燥した。
異形粒子Aの体積基準のメジアン径D50をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−750」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定したところ、1.8μmであった。また、異形粒子AをSEMで観察したところ、表面に多数の突起を有する異形構造が観察された。異形粒子AのSEM写真を図1に示す。異形粒子Aの表面における突起の高さHpを、任意に抽出した10個の異形粒子Aの観察により求めたところ約0.1μm、突起の数Npは約130個/粒子と推定された。
[実施例2 異形粒子Bの製造]
重合性単量体の種類および量を、スチレン 50質量部、および、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロヘキサン−1,6−ジアクリレート 50質量部、に変更した以外は、異形粒子Aの製造と同様にして異形粒子Bを製造した。異形粒子BのD50は1.6μmであった。また、異形粒子BのHpは約0.1μm、Npは約420個/粒子と推定された。
[実施例3 異形粒子Cの製造]
ジビニルベンゼン 50質量部をネオペンチルグリコールジメタクリレート 50質量部に変更した以外は、異形粒子Aの製造と同様にして異形粒子Cを製造した。異形粒子CのD50は2.0μmであった。また、異形粒子CのHpは約0.2μm、Npは約50個/粒子と推定された。
[異形粒子Dの準備]
シリコーン系粒子「NH−KBN06」(日興リカ株式会社製)を異形粒子Dとして用意した。これは、ポリオルガノシロキサン構造からなる毬栗形状の凸部を表面に有する粒子である。異形粒子Aと同様にして測定したところ、異形粒子DのD50は5.0μmであり、異形粒子DのHpは約0.3μm、Npは約340個/粒子と推定される。
異形粒子A〜Dの性状を表1に示す。
[塗布液1の調製]
結着樹脂としてPFPE樹脂「Fluorolink MD700」(Solvay社製) 80体積部を2−ブタノン 300体積部に溶解し、この溶液に異形粒子A 20体積部を加えて混合し、超音波ホモジナイザーを用いて分散する。次いで、得られた分散液に重合開始剤としてIRGACURE 184(BASFジャパン株式会社製、「IRGACURE」はBASF社の登録商標)を2体積部加えて溶解させる。こうして塗布液1を調製した。
[塗布液2の調製]
異形粒子Aの量を20体積部から35体積部に、結着樹脂の量を80体積部から65体積部にそれぞれ変更した以外は、塗布液1の調製と同様にして塗布液2を調製した。
[塗布液3の調製]
異形粒子Aの量を20体積部から50体積部に、結着樹脂の量を80体積部から50体積部にそれぞれ変更した以外は、塗布液の調製1と同様にして塗布液3を調製した。
[塗布液4の調製]
異形粒子A 20体積部に代えて異形粒子B 30体積部を用い、結着樹脂の量を80体積部から70体積部に変更した以外は塗布液1の調製と同様にして塗布液4を調製した。
[塗布液5の調製]
異形粒子A 20体積部に代えて異形粒子C 40体積部を用い、「Fluorolink MD700」 80体積部に代えてPFPE樹脂「Fluorolink MT70(Solvay社製)」 60体積部を用いる以外は塗布液1の調製と同様にして塗布液5を調製した。
[塗布液6の調製]
異形粒子A 20体積部に代えて異形粒子D 35体積部を用い、「Fluorolink MD700」 80体積部に代えて「Fluorolink MT70」 65体積部を用いる以外は塗布液1の調製と同様にして塗布液6を調製した。
[実施例4 定着ベルト1の製造]
内径99mm、長さ360mm、厚み70μmのポリイミド製の無端状のベルト基材の内側に、外径99mmのステンレス製の円筒状の芯金を密着させる。次いで、当該ベルト基材の外側に円筒金型を被せ、芯金と円筒金型を同軸で保持するとともに、両者の間にキャビティを形成する。次いで、キャビティにシリコーンゴム材料Aを注入し、加熱硬化して、厚さ200μmのシリコーンゴムAによる弾性層(ゴム硬度30)を作製した。
なお、シリコーンゴム材料Aは、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン100質量部と、シリカ15質量部とを混合したシリコーンゴム前駆体組成物である。
次に、上記のようにして作製した基材/弾性層の無端ベルト状の積層体を、スパイラル塗布装置に張架して回転させ、コロナ処理を行った。次いで、上記弾性層の上に塗布液1をスパイラル塗布法にて塗布する。次いで、60℃10分間で塗布液1の塗膜を熱乾燥し、次いで紫外線強度1kw/cm2の水銀灯で、600mJ/cm2の積算光量にて上記塗膜を光硬化させ、上記弾性層上に膜厚15μmの離型層を作製する。こうして、定着ベルト1を製造した。
定着ベルト1の離型層の表面のヘキサデカン接触角を接触角計「PCA−11」(協和界面化学株式会社製;着滴量2μL)にて測定した結果、定着ベルト1のヘキサデカン接触角は64°であった。
[実施例5 定着ベルト2の製造]
塗布液1を塗布液2に変更した以外は定着ベルトの製造と同様にして定着ベルト2を製造した。定着ベルト2のヘキサデカン接触角は73°である。
[実施例6 定着ベルト3の製造]
塗布液1を塗布液3に変更した以外は定着ベルト1の製造と同様にして定着ベルト3を製造した。定着ベルト3のヘキサデカン接触角は80°である。
[実施例7 定着ベルト4の製造]
塗布液1を塗布液4に変更した以外は定着ベルト1の製造と同様にして定着ベルト4を製造した。定着ベルト4のヘキサデカン接触角は68°である。
[実施例8 定着ベルト5の製造]
塗布液1を塗布液5に変更した以外は定着ベルト1の製造と同様にして定着ベルト5を製造した。定着ベルト5のヘキサデカン接触角は71°である。
[実施例9 定着ベルト6の製造]
塗布液1を塗布液6に変更した以外は定着ベルト1の製造と同様にして定着ベルト6を製造した。定着ベルト6のヘキサデカン接触角は65°である。
[比較例1 定着ベルトC1の製造]
実施例4で作製した基材/弾性層の無端ベルト状の積層体の弾性層上に、PFAよりなる厚さ25μmの離型層を作製した。こうして、定着ベルトC1を製造した。定着ベルトC1のヘキサデカン接触角は58°である。
[比較例2 定着ベルトC2の製造]
実施例4で作製した基材/弾性層の無端ベルト状の積層体のゴム硬度を30から20に変更した以外は定着ベルトC1の製造と同様にして定着ベルトC2を製造した。定着ベルトC2のヘキサデカン接触角は58°である。
[評価]
定着ベルト1〜6、C1およびC2のそれぞれを、フルカラー複写機「bizhub PRESS C1070」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)の定着ベルトとして当該複写機に装着し、印字率5%、25%、50%、100%のフルカラー画像をそれぞれ10000枚ずつ出力する実写耐久試験を定着ベルトごとに行った。この耐久試験の後に、凹凸紙定着性と薄紙通紙巻き付き性を下記のようにして評価した。
(1)凹凸紙への定着性
凹凸のあるエンボス紙(レザック紙 坪量300g/m2)を用いて、フルカラーのベタ画像を出力し、画像の光沢度(凹凸の追従性)によって凹凸紙への定着性を以下の基準で評価した。ベタ画像内での光沢度の差が小さいほど、凹凸紙への定着性に優れる。
○ 上記ベタ画像内にて凹部凸部に係らず光沢度に、目視で確認される程の差がない
△ 上記ベタ画像内にて光沢度に、目視で確認される僅かな差はあるが、実用上問題ない
× 上記ベタ画像内にて凹部に光沢度が凸部のそれに対して目視でわかるほど低く、実用上問題である
(2)薄紙の通紙時の巻き付き性
薄紙(NPI上質紙 坪量64g/m2)を用いて、画像の先端に1mm刻みで任意の余白を有したシアン、マゼンタ2層のベタ画像(red)を出力し、巻き付きを起こすことなく通紙できる最も少ない先端余白幅を測定して、薄紙の通紙時の巻き付き性を以下の基準で評価した。先端余白幅が小さいほど、巻き付き防止性能に優れる。
○ 先端余白2mm以下で上記ベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能
△ 先端余白2mm超4mm以下で上記ベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能(実用上問題ない)
× 先端余白4mm超で上記ベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能(実用上問題あり)
定着ベルトの離型層の組成、ヘキサデカン接触角および上記評価試験の結果を表2に示す。表2中、「θHD」は、ヘキサデカン接触角を表す。
表2から明らかなように、定着ベルト1〜6は、いずれも、二軸ベルト式の定着装置を用いる画像形成装置において、凹凸紙への定着性および巻き付き防止性のいずれにも十分な性能を示している。これは、離型層の表面から適量の異形粒子が露出し、定着ベルトの表面に擬似フラクタル構造が形成され、凹凸面への追従性が向上するともに、定着時における記録媒体の分離性が向上するため、と考えられる。
これに対して定着ベルトC1は、凹凸紙への定着性が不十分であり、定着ベルトC2は、巻き付き防止性が不十分である。定着ベルトC1では、その弾性層のゴム硬度のために、凹凸面への表面の追従性が不十分であったため、と考えられる。また、定着ベルトC2では、ゴム硬度が低い分だけ凹凸面への表面の追従性が向上する一方で、表面の平滑性のために表面が記録媒体に密着しすぎ、定着時の記録媒体の分離性が不十分となったため、と考えられる。