JP7066972B2 - 定着部材、画像形成装置、定着方法および画像形成方法 - Google Patents

定着部材、画像形成装置、定着方法および画像形成方法 Download PDF

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Description

本発明は、定着部材、それを有する画像形成装置、当該定着部材を用いる定着方法および画像形成方法に関する。
電子写真方式の画像形成装置では、定着装置において、加熱された定着部材とトナーが載った記録媒体(メディア)とが圧着されることによって、メディアへのトナーの定着は行われる。たとえば、定着部材とメディアとの密着性に加えて耐久性を高めるための技術には、芯金上に弾性シリコーンゴムを有し、該ゴム上に体積空隙率が20%以上の多孔質フッ素樹脂を巻き付けて定着部材としての熱圧力ローラを構成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記画像形成装置では、上記の圧着後に、定着部材とトナーが定着されたメディアとを分離する必要がある。この定着部材とメディアとの分離性を確保するために、定着部材の表層としてテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂層が現在広く用いられており、また分離爪やメディアの吸引、メディア先端部へのエア吹き付けなどの分離を補助する装置が上記定着装置に加えられている。上記分離性を高めるための技術には、基材上に幾何学模様のセルを形成することによって、定着ベルトの表面に凹状のセルを形成し、上記分離性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
特開平7-191567号公報 特開2007-316529号公報
前述の熱圧力ローラは、その表層に多孔質構造を有するが、この多孔質構造による上記分離性への関連は、上記特許文献1には記載されておらず、また知られていない。また、前述の表面に凹状のセルが形成された定着ベルトは、上記分離性を向上させる効果を奏するものの、当該効果は定着ベルトの表面の形状に依っている。このため、上記セルを有する定着ベルトでは、上記の分離性向上効果は、定着ベルトの使用に伴って上記表層が摩耗することにより失われる。
上記分離性の不足は、電子写真方式の画像形成方法において、種々の問題をもたらすことがある。たとえば、上記分離性が不足すると、メディアの定着部材への巻きつきが生じやすい。このため、上記画像形成方法において薄紙などのコシのない(例えば剛度が低い)メディアを使用できないことがある。また、上記画像形成方法では、出力(画像の形成)の高速化が進んでいる。出力の高速化は一般に分離性の低下をもたらすため、上記画像形成方法では、上記のコシのないメディアに対しては、分離性の不足がより顕著となる傾向がある。
このように、電子写真方式の画像形成方法に用いられる定着部材には、定着直後における定着部材とメディアとの分離性を高める観点から、検討の余地が残されている。
本発明は、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着において、薄紙などのコシのないメディアに対しても高い分離性を長期にわたって発現可能な技術を提供することを課題とする。
本発明は、上記の課題を解決するための一手段として、基材、弾性層および表層が厚さ方向においてこの順で重なるように配置されている定着部材において、上記表層が複数の細孔によって形成される多孔質の構造を有し、上記細孔の孔径が1μm未満であり、上記表層は中空粒子を含み、上記粒子はC-F構造を含む架橋性の含フッ素樹脂製である定着部材、を提供する。
また、本発明は、上記の課題を解決するための他の手段として、基材、弾性層および表層が厚さ方向においてこの順で重なるように配置されている定着部材において、上記表層は、複数の細孔によって形成される多孔質の構造を有し、上記細孔の孔径は、1μm未満であり、上記表層はナノファイバーを含み、上記表層の空隙率は20~80%である定着部材、未定着のトナー画像を担持する記録媒体に上記の定着部材を介して上記トナー画像を加熱加圧により定着させる定着装置を有する電子写真方式の画像形成装置、電子写真方式の画像形成方法において、電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、上記定着部材を介して加熱加圧して定着させる定着方法、および、電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、上記定着部材を介して加熱加圧して定着させる定着工程を含む画像形成方法、を提供する。
本発明によれば、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着において、薄紙などのコシのないメディアに対しても高い分離性を長期にわたって発現することができる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の構成を模式的に示す図である。 図2は、上記実施の形態における定着装置の構成を模式的に示す図である。 図3Aは、上記実施形態に係る定着ベルトの一例を模式的に示す図であり、図3Bは、図3Aに示される領域Aを拡大して模式的に示す図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る定着方法、画像形成装置および画像形成方法は、いずれも、その定着部材として本発明に係る定着部材を用いる以外は、公知の方法と同様に実施することができ、また公知の装置と同様に構成することが可能である。
本発明の一実施の形態に係る定着部材は、基層、弾性層および表層を有する。当該基層、弾性層および表層は、この順で重なるように配置されている。上記定着部材は、その表層が後述の表層である以外は、基層、弾性層および表層がこの順で重なるように配置されている公知の定着部材と同様に構成することができる。定着部材は、金属製の円筒の外周面に上記の三層が担持されてなる定着スリーブであってもよいし、上記の三層を含む無端状の定着ベルトであってもよい。
上記基層は、例えば、耐熱性を有する樹脂(耐熱性樹脂)で構成される。「耐熱性」とは、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の記録媒体への定着に上記定着部材を用いる際の温度(例えば150~220℃)において十分に安定しており所期の物性を発現することを意味する。
上記耐熱性樹脂は、定着部材の上記の使用温度において実質的な変性および変形を生じない樹脂から適宜に選ばれ、一種でもそれ以上でもよい。上記耐熱性樹脂の例には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。中でも、耐熱性の点から、ポリイミドが好ましい。
ポリイミドは、例えば、その前駆体であるポリアミド酸の、200℃以上の加熱による、または触媒を用いることによる、脱水、環化(イミド化)反応を進めることによって得ることができる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを溶媒に溶解し、混合、加熱による重縮合反応によって製造してもよいし、市販品を用いてもよい。上記ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の例には、特開2013-25120号公報の段落0123~0130に記載の化合物が含まれる。
上記耐熱性樹脂は、上記基層を構成する主な材料であり、その含有量は、上記基層を形成するのに十分な量であればよい。たとえば、上記基層における上記耐熱性樹脂の含有量は、基層作製時における成形性の観点から、40~100体積%であることが好ましい。
上記基層は、本実施形態の効果が得られる範囲において、耐熱性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記基層は、フィラーをさらに含有していてもよい。上記フィラーは、例えば、基層の硬さ、伝熱性および導電性の少なくともいずれかの向上に寄与する成分である。当該フィラーは、一種でもそれ以上でもよく、その例には、カーボンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボンおよび黒鉛が含まれる。
上記基層における上記フィラーの含有量は、多すぎると、基層の靱性が低くなって定着部材の定着性および分離性が低くなることがあり、また、少なすぎると、例えば適度な導電性の付与などのフィラーによる所期の効果が不十分となることがある。このような観点から、上記基層における上記フィラーの含有量は、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、上記基層における上記フィラーの含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
上記弾性層は、定着ニップ部における定着部材の表面と、未定着のトナー画像を担持する記録媒体との接触性の向上に寄与する弾性を有する層であり、例えば、弾性材料で構成される。当該弾性材料の例には、弾性樹脂材料が含まれ、その例には、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマーおよびゴム材料が含まれる。中でも、上記弾性材料は、所期の弾性の他に耐熱性の観点から、シリコーンゴムであることが好ましい。
上記シリコーンゴムは、一種でもそれ以上でもよい。上記シリコーンゴムの例には、ポリオルガノシロキサンまたはその加熱硬化物、および、特開2009-122317号公報に記載の付加反応型シリコーンゴム、が含まれる。当該ポリオルガノシロキサンの例には、特開2008-255283号公報に記載の、両末端がトリメチルシロキサン基で封鎖され、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン、が含まれる。
当該弾性層の厚さは、例えば、伝熱性および弾性を十分に発現させる観点から、5~300μmであることが好ましく、50~250μmであることがより好ましい。
上記弾性層は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上記の弾性樹脂材料以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記弾性材料は、弾性層の伝熱性を高めるための伝熱性のフィラーをさらに含んでいてもよい。当該フィラーの材料の例には、シリカ、金属シリカ、アルミナ、亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンおよび黒鉛が含まれる。上記フィラーの形態は、限定されず、例えば、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末または繊維である。
上記弾性材料における上記弾性樹脂材料の含有量は、伝熱性と弾性とを両立させる観点から、例えば60~100体積%であることが好ましく、75~100体積%であることがより好ましく、80~100体積%であることがさらに好ましい。
上記表層は、複数の細孔によって形成される多孔質の構造を有する。当該細孔については、個々の細孔が独立していてもよいし、一部または全部の細孔が連続していてもよい。上記表層の空隙率は、定着時における定着部材と記録媒体との分離性を高める観点からは、高いほど有利であり、高すぎると定着部材の強度が不十分になることがある。このような観点から、上記表層の空隙率は、10~90%であることが好ましく、20~80%であることがより好ましい。
トナー粒子が上記表層の表面に露出した細孔に嵌まると、定着時における定着部材への記録媒体の付着力が増大することがあり、また定着部材を汚染することがある。このため、上記細孔の孔径は、定着時に記録媒体上の未定着のトナー粒子が上記細孔に嵌まり込むことを防止する観点から、定着時(電子写真方式の画像形成)に用いられるトナー粒子の平均粒径の半分以下であることが望ましい。たとえば、上記細孔の孔径は、1μm未満とすることができる。上記孔径は、上記細孔のサイズを代表する値であればよく、例えば平均値であってもよいし、最大値であってもよい。
上記孔径の下限についての理論的な限界はないが、上記細孔を形成する手段の観点から上記孔径の下限値を決めることが可能である。たとえば、上記の多孔質構造がナノファイバーで構築されている場合には、上記孔径は、ナノファイバーの繊維径によって実質的に制限され、中空粒子で構築される場合には、その中空粒子が有する後述する中空径によって実質的に制限される。このような観点から、上記孔径の下限値は、1nmとすることができる。
さらに、上記細孔へのトナー粒子以外の異物、例えば直径が100nmを超える大粒径の、トナー母体粒子から脱落しやすい外添剤、を上記細孔へ嵌まりにくくする観点から、上記孔径は、100nm以下であることが好ましい。さらに、記録媒体に定着されたトナー画像の表面の凹凸によるトナー画像の外観への影響(光沢の低減)を抑制する観点から、上記孔径は、50nm以下であることが好ましい。
上記表層における多孔質構造および上記細孔の孔径、ならびにトナー粒子の平均粒径は、公知の方法によって測定することが可能であり、例えば、レーザー顕微鏡や電子顕微鏡などで計測することが可能である。具体的には、多孔質構造は、上記表層の部分の割断面、または、紫外線硬化樹脂で上記表層の部分を包埋したサンプルの割断面、の走査型電子顕微鏡(SEM)観察や、切り出した薄片の透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって確認することができる。上記孔径および上記平均粒径は、必要な倍率が得られる装置、例えばレーザー顕微鏡やSEMを用いて、ランダムに20個の細孔またはトナー粒子のサイズ測定し、必要に応じて算術平均値を計算することにより求められる。なお、細孔の開口形状またはトナー粒子の画像上の粒子形状が円形でない場合は、上記細孔または粒径として短径を測定する。
上記多孔質構造は、層中に多孔質構造を形成する公知の方法を利用して構築することができる。たとえば、上記多孔質構造は、層中の発泡性粒子を発泡させる方法や、可溶性または昇華性成分を含有する層から当該成分を除く方法などによって実現可能である。当該多孔質構造を有する上記表層は、上記細孔の所期の孔径または空隙度を実現させる観点から、中空粒子を含むマトリクス、あるいはナノファイバーの集成物であることが好ましい。
上記中空粒子を含む上記表層は、例えば、上記中空粒子と、それらを結着するマトリクスとによって構成することが可能である。上記表層中における上記中空粒子の含有量は、例えば、上記表層の所期の空隙率を実現する範囲において決めることができる。なお、空隙率は、前述の多孔質構造の測定方法以外にも、上記表層のサンプルを別途作製し、その膜厚と単位面積あたりの質量とから求めることが可能である。
上記中空粒子は、独立するまたは連続する中空部を内部に有する粒子である。上記中空粒子は、上記表層の表面に中空粒子そのものまたはその破断面が露出することにより上記細孔を形成する。この場合の上記細孔は、中空粒子が有する中空部であってよい。この他にも、上記細孔は、上記中空粒子が上記マトリクスから脱落することによって上記表層の表面に形成される空孔であってもよい。
上記中空粒子は、硬すぎると、上記表層に上記細孔が露出し難いため、無機材料製ではなく樹脂製であることが好ましい。当該樹脂は、定着温度に対する耐性を必要とすることから、架橋性樹脂であることが好ましい。また、トナー粒子は、一般に油性物質で構成されていることから、上記樹脂は、このような油性物質製のトナー粒子との付着力が低い、C-F構造を含む架橋性の含フッ素樹脂であることが好ましい。
上記樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アルコール可溶性ナイロン、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノール、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリホスファゼン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラバン酸、ポリアリルフェノール、フッ素樹脂、ポリ尿素、アイオノマー、シリコーン、および、これらの混合物または共重合体、が含まれる。
また、上記C-F構造を含む架橋性の含フッ素樹脂の例には、重合性官能基を含む含フッ素化合物が含まれる。当該フッ素化合物の例には、(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基およびメタクリロイル基の一方または両方)や、ケイ素原子に結合するアルコキシ基などの加水分解性の基、などの重合性官能基と、パーフルオロカーボン構造やパーフルオロポリエーテル構造などの含フッ素構造と、を有する化合物を、上記重合性官能基に応じて、ラジカル発生剤や水、熱、光などを用いて重合させた構造を有する化合物、が含まれる。
上記中空粒子の粒径は、上記空孔が上記細孔になり得る観点から、用いられるトナー粒子の粒径の半分以下であることが好ましく、例えば1μm未満であることが好ましい。
また、上記中空粒子の中空部の径(中空径)は、前述した細孔と同じ理由から、1μm未満であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
なお、国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、2~50nm径の孔をメソ孔と定義している。上記中空粒子は、上記の好ましい中空径を実現する観点から、メソポーラス樹脂粒子であることが好ましい。メソポーラス樹脂粒子は、メソ孔による多孔質構造を有する樹脂粒子である。メソポーラス樹脂粒子におけるメソ孔の孔径は、一定であってもよいし、メソ孔の上記の範囲内においてばらつきを有していてもよい。上記中空径およびメソ孔も、前述の細孔と同様の方法によって確認することが可能である。なお、上記中空径の下限もまた、上記孔径のそれと同様に、理論的な限界はなく、例えば生産性などの他の観点から適宜に決めることができる。
上記マトリクスも、上記中空粒子と同様に、定着温度に対する耐性を必要とすることから、架橋性樹脂製であることが好ましい。また、中空粒子を構成する樹脂と同様の理由で、上記マトリクスを構成する樹脂も、C-F構造を含む架橋性の含フッ素樹脂であることが好ましい。
上記マトリクスを構成する樹脂の例には、中空粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を例示することができる。上記中空粒子を構成する樹脂と、上記マトリクスを構成する樹脂とは、同じ種類の樹脂であってもよいし、異なる種類の樹脂であってもよい。
上記表層における上記マトリクスの含有量は、表層に求める諸特性を考慮して決めることが可能であり、例えば伝熱性および柔軟性の観点から、30~90体積%であることが好ましい。
上記中空粒子を含有する上記表層は、例えば、含フッ素有機基を有するラジカル重合性モノマーと中空粒子とを含有する塗料を弾性層に塗布し、形成された塗膜中の当該モノマーをラジカル重合させ、得られた硬化膜の表面を、必要に応じて上記細孔(中空部)が露出するように摩耗させることによって製造することが可能である。
上記ナノファイバーを含む上記表層は、ナノファイバーの集成物で構成することが可能である。ナノファイバーは、ナノオーダの繊維径を有する繊維である。ナノファイバーは、電界紡糸法などの公知の方法による人工繊維であってもよいが、コストの観点および後述する表面の撥油化処理を容易に行う観点から、セルロースナノファイバーであることが好ましい。
上記ナノファイバーの繊維径は、細いほど、上記表層に形成される細孔への異物、例えばトナー母体粒子から脱落した外添剤粒子、の嵌まり込みを抑制することが可能であることから、主に50nm以下であることが好ましい。上記ナノファイバーを含む上記表層の空隙率は、ナノファイバーの繊維径や他の粒子または繊維との併用によって調整することが可能である。たとえば、ナノファイバーを含む表層の空隙率は、上記ナノファイバーの繊維径、適当な粒径の微粒子の混合、あるいは、解砕度の低い(例えば繊維径が太く、一部に分岐が見られるような嵩高い)ファイバーの混合によって高めることが可能である。
上記表層を構成しているナノファイバーは、その表面が撥油化処理されていることが、トナー粒子の細孔への嵌まり込みを抑制する観点、および、定着時における定着部材への記録媒体への付着力を低減させる観点から好ましい。当該撥油化処理は、前述した油性成分への付着性を低減させる処理であり、たとえば、ナノファイバーの表面を含フッ素有機基で修飾することによって行うことが可能である。このように、当該撥油化処理は、繊維の表面を官能基で修飾する公知の飾方法を利用して行うことが可能である。
上記ナノファイバーを含む上記表層は、例えば、セルロースナノファイバーの水分散液を弾性層の表面に塗布、乾燥させてセルロースナノファイバーの層状の集成物を形成することによって製造することが可能である。また、上記撥油化処理は、含フッ素有機基を有する化合物、例えばパーフルオロポリエーテル構造を有するシランアルコキシドなどの含フッ素金属アルコキシドを、当該集成物のセルロースナノファイバーの表面に塗布して、上記含フッ素金属アルコキシドのアルコキシ基と上記表面の水酸基とを反応させることによって行うことが可能である。
上記表層の厚さは、その所期の性能が発現される範囲から適宜に決めることができ、例えば、熱の伝達、弾性層の変形への追従および離型性の発現の観点から、5~40μmであることが好ましく、10~35μmであることがより好ましく、15~30μmであることがさらに好ましい。
上記定着部材は、基層および弾性層の積層体における弾性層上に前述の表層を作製する工程を含む方法によって製造することが可能である。上記の基層および弾性層(上記積層体)の作製は、これらを作製可能な公知の方法によって行うことが可能である。上記表層は、例えば先に例示した方法によって製造することが可能である。
上記定着部材は、電子写真方式の画像形成装置における定着装置に適用される。上記定着部材を有する画像形成装置は、上記の定着部材を有する以外は、記録媒体上の未定着のトナー画像を、定着部材を用いる加熱および加圧によって上記記録媒体に定着させるための定着装置を有する公知の画像形成装置と同様に構成することができる。当該画像形成装置において、上記定着部材は、公知の電子写真方式の画像形成方法における定着工程に供される。
上記定着部材の形態は、前述したように、定着スリーブであってもよいし、無端状の定着ベルトであってもよいが、定着時における排紙角を大きくしやすく上記分離性に有利な観点から、無端ベルト状であることが好ましい。なお、「排紙角」とは、定着ニップ部における記録媒体の搬送方向の下流端において、定着ニップ部を構成する二つのローラの軸を結ぶ直線に平行な直線(図2中のL1)に対する、上記定着ベルトの接線(図2中のL2)がなす角度(図2中のθ)である。
上記定着装置は、定着部材の形態に応じた構成を有する公知の定着装置と同様に構成することができる。たとえば、定着部材が上記定着ベルトである場合では、定着装置は、それを用いる構成、つまり二軸張架ベルト定着やパッド押圧ベルト定着、IHベルト定着などを実現する公知の構成を有することが好ましい。
上記定着部材を用いる定着方法および画像形成方法において、トナーおよび記録媒体には、公知のものを適宜に採用することが可能である。トナーは、トナー粒子からなる一成分現像剤であってもよいし、当該トナー粒子およびキャリア粒子で構成される二成分現像剤であってもよい。上記トナー粒子は、トナー母体粒子およびその表面に付着する外添剤で構成される粒子である。上記トナー母体粒子は、例えば、結着樹脂および着色剤を含有する樹脂製の粒子であり、上記外添剤は、例えば、シリカや酸化スズなどの無機酸化物粒子である。
上記トナーには、定着部材の上記表層における細孔へトナー粒子が嵌まり込むのを防止する観点から、上記細孔の孔径の倍以上のトナー粒径を有するトナーを用いることが好ましい。当該トナー粒径は、トナー母体粒子のサイズを代表する値であればよく、トナー母体粒子の平均粒径であってよく、当該平均粒径は、個数平均粒径であってもよいし、体積平均粒径であってもよい。また、当該トナー粒径は、通常は実質的には同一であることから、トナー粒子の粒径であってもよい。
上記記録媒体には、電子写真方式の画像形成方法に用いられる公知の記録媒体を用いることができる。上記記録媒体の例には、普通紙、フォト紙などのコート紙、はがきや名刺などの厚紙、OHPフィルムなどの樹脂シート、および、包装用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリプロピレン(PP)フィルムなどの包装用の樹脂フィルム、が含まれる。
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1に示されるように、画像形成装置10は、画像読み取り部20と、画像形成部30と、中間転写部40と、定着装置60と、用紙搬送部80と、を有する。
画像読み取り部20は、原稿Dから画像を読み取り、静電潜像を形成するための画像データを得る。画像読み取り部20は、給紙装置21と、スキャナー22と、CCDセンサー23と、画像処理部24とを有する。
画像形成部30は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色に対応する四つの画像形成ユニット31を含む。画像形成ユニット31は、異なる色のトナーを収容している以外は、いずれも同じ構成を有しており、感光体ドラム32と、帯電装置33と、露光装置34と、現像装置35と、クリーニング装置36とを有する。
感光体ドラム32は、静電潜像およびそれに対応するトナー画像を担持するための像担持体であり、例えば、光導電性を有する負帯電型の有機感光体である。帯電装置33は、感光体ドラム32を帯電させるための装置であり、例えば、非接触で感光体ドラム32を帯電させるコロナ帯電器である。帯電装置33は、帯電ローラや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム32に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置34は、帯電した感光体ドラム32に光を照射して静電潜像を形成するための装置であり、例えば、半導体レーザーである。
現像装置35は、静電潜像が形成された感光体ドラム32にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成するための装置であり、例えば、トナーを収容する現像容器と、当該現像容器の開口部に配置されている現像ローラと、現像容器内のトナーを撹拌しながら現像ローラに向けて移動させるための撹拌ローラおよび搬送ローラと、現像ローラ上に担持されているトナー粒子の層厚を規制するための現像ブレードとを有する。トナーは、例えば、前述した二成分現像剤である。
トナー粒径は、例えばトナー母体粒子の平均粒径であり、6~7μm程度(例えば6.5μm)である。また、「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
クリーニング装置36は、感光体ドラム32上の転写残トナーを除去するための装置であり、例えば、感光体ドラム32に当接可能な弾性ブレード(クリーニングブレード)と、当該弾性ブレードによって除去された転写残トナーを収容するためのクリーニング容器とを有している。
中間転写部40は、一次転写ユニット41と、二次転写ユニット42とを含む。一次転写ユニット41は、中間転写ベルト43と、一次転写ローラ44と、バックアップローラ45と、複数の第1支持ローラ46と、クリーニング装置47とを有する。
中間転写ベルト43は、無端状のベルトである。中間転写ベルト43は、バックアップローラ45および第1支持ローラ46によって張った状態で無端軌道上に支持されている。
二次転写ユニット42は、二次転写ベルト48と、二次転写ローラ49と、複数の第2支持ローラ50とを有する。二次転写ベルト48も、無端状のベルトである。二次転写ベルト48も、中間転写ベルト43と同様に、二次転写ローラ49および第2支持ローラ50によって張った状態で無端軌道上に支持されている。
クリーニング装置47は、二次転写後に中間転写ベルト43に残留するトナーを除去するための装置であり、例えば、中間転写ベルト43に当接可能な弾性ブレード(クリーニングブレード)と、当該弾性ブレードによって除去されたトナーを収容するためのクリーニング容器とを有している。
定着装置60は、図2に示されるように、定着ベルト61と、定着ベルト61を支持する加熱ローラ62および第1加圧ローラ63と、第1加圧ローラ63に対向するともに定着ベルト61を介して第1加圧ローラ63を押圧する位置に配置可能な第2加圧ローラ64と、定着ベルト61の表面温度を検出するための第1温度センサー67と、第2加圧ローラ64の表面温度を検出するための第2温度センサー68と、用紙Sの搬送方向における定着ニップ部の下流端に向けて定着ベルト61側から気流を送り、用紙Sの定着ベルト61材からの分離を補助するための気流分離装置69と、定着前後に用紙Sを定着ニップ部または定着後における搬送方向へ案内するための案内板70および案内ローラ71とを有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
定着ベルト61は、図3Aおよび図3Bに示されるように、基層61a、弾性層61bおよび表層61cをこの順で積層してなる無端状のベルトである。基層61a、弾性層61bおよび表層61cは、前述した基層、弾性層および表層に相当している。また、定着ベルト61は、前述した定着部材に相当している。
加熱ローラ62は、回転自在なアルミニウム製のスリーブと、その内部に配置されたヒータ65とを有する。第1加圧ローラ63は、例えば、回転自在な芯金と、その外周面上に配置された弾性層とを有する。第2加圧ローラ64は、例えば、回転自在なアルミニウム製のスリーブと、当該スリーブ内に配置されるヒータ66とを有する。第2加圧ローラ64は、第1加圧ローラ63に対して接近、離間自在に配置されている。ヒータ65、66は、それぞれ、例えばハロゲンランプや抵抗発熱体、電磁誘導加熱(IH:Induction Heating)方式の加熱装置などである。
用紙搬送部80は、図1に示されるように、三つの給紙トレイユニット81、複数のレジストローラ対82、および搬出ローラ83を有する。給紙トレイユニット81には、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙(例えば普通紙など)Sが予め設定された種類ごとに収容されている。レジストローラ対82は、所期の搬送経路を形成するように配置されている。搬出ローラ83は、定着装置60から排出された用紙Sを機外に搬出する位置に配置されている。
次に、画像形成装置10による画像の作製を説明する。
画像読み取り部20では、給紙装置21は、原稿トレイに載置された原稿Dをスキャナー22へ送り出す。スキャナー22は、原稿Dを光学的に走査し、原稿Dからの反射光をCCDセンサー23の受光面上に結像させ、原稿Dの画像を読み取る。得られた画像データには、画像処理部24において必要に応じて所定の画像処理が施される。
画像形成部30では、感光体ドラム32は、一定の周速度で回転する。帯電装置33は、感光体ドラム32の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置34は、感光体ドラム32に対して各色成分の画像に対応するレーザー光を照射し、それぞれの感光体ドラム32の表面に各色成分の静電潜像を形成する。現像装置35は、感光体ドラム32の表面に各色成分のトナーを付着させることにより静電潜像を可視化してトナー画像を形成する。
一方、中間転写ベルト43は、例えば第1支持ローラ46の回転駆動により、図1の紙面に対して時計回りの方向に一定速度で走行する。一次転写ローラ44によって中間転写ベルト43が感光体ドラム32に圧接されることにより、一次転写ニップ部が形成され、感光体ドラム32上の各色のトナー画像は、中間転写ベルト43に各色トナー画像が順次重なるように一次転写される。感光体ドラム32の表面に残存する転写残トナーは、クリーニング装置36における上記弾性ブレードによって一次転写後に当該表面から除去される。
他方、中間転写ベルト43を介して、二次転写ローラ49がバックアップローラ45に圧接されることにより、二次転写ニップ部が形成される。また、給紙トレイユニット81から給紙された用紙Sは、二次ニップ転写部に搬送される。用紙Sの傾きおよび幅方向の位置(片寄り)は、レジストローラ対82により搬送される過程で補正される。
二次転写ニップ部を用紙Sが通過する際、中間転写ベルト43に担持されているトナー画像が用紙Sに二次転写される。転写されたトナー画像を担持する用紙Sは、定着装置60に向けて搬送される。二次転写後に中間転写ベルト43の表面に残存する転写残トナーは、クリーニング装置47における上記弾性ブレードによって当該表面から除去される。
定着装置60は、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー画像を定着させる。定着ベルト61、例えば第1加圧ローラ63の回転駆動によって無端軌道上を移動し、加熱ローラ62のヒータ65によって所期の温度(例えば170℃)に加熱される。定着ベルト61の温度は、第1温度センサー67による温度の検出値に基づくフィードバック制御によって所望の温度範囲に維持される。同様に、第2加圧ローラ64も回転駆動し、ヒータ66によって、第2温度センサー68の検出値に基づいて所望の温度範囲を維持するように加熱される。
第2加圧ローラ64は、用紙Sの搬送に合わせて、第1加圧ローラ63に対して接近して定着ベルト61を介して第1加圧ローラ63の弾性層を押圧し、定着ベルト61との接触部(定着ニップ部)を形成する。用紙Sは、定着ニップ部を通過する際に加熱加圧される。それにより、トナー画像を構成するトナー粒子が溶融し、用紙Sに付着する。こうして、用紙Sに上記トナー画像が定着した定着画像が形成される。
定着ニップ部から搬出される用紙Sの先端には、気流分離装置69からの気流が吹き付けられ、用紙Sは、定着ベルト61から離れる方向へ案内されて分離し、案内ローラ71によって定着装置60の外へ案内され、搬出ローラ83によって画像形成装置の外へ案内される。こうして、画像形成装置10において定着したトナー画像が作製される。
定着ベルト61は、電子写真方式の画像形成において、定着時に、用紙Sに対する優れた分離性を長期にわたって発現する。その理由は、以下のように考えられる。
一般に、電子写真方式の画像形成方法における定着工程では、通常、加熱された定着部材の表面と、それによって記録媒体(メディア)へ加熱定着されるトナー粒子の表面との間には付着力が生じ、この付着力が、定着部材とメディアの分離を阻害する。当該付着力は、接触面積に比例する。
しかしながら、本実施の形態の定着部材(定着ベルト61)の表層は、前述したように多孔質構造を有する。そして、この多孔質構造における細孔の孔径は、1μm未満である。このように、定着部材の表面は、トナー粒径に対して十分に小さい細孔による多孔質構造を有している。
このため、上記表層の表面に露出した細孔の分だけ上記接触面積が減り、付着力が減少する。また、定着部材の使用に伴って表層は摩耗するが、表層が多孔質構造を有するため、摩耗によって新たな細孔が現れ続ける。よって、上記の分離性向上効果が長期にわたって維持される。
さらに、上記細孔の孔径は、トナー粒子の粒径の半分以下である。このため、未定着のトナー粒子が上記細孔に嵌まることが防止されるため、上記付着力の低減効果も長期にわたって維持される。
さらに、上記表層が含フッ素有機成分で構成されていると、定着時に溶融したトナー成分の上記表層への付着が抑制される。よって、上記付着力の低減効果の観点から好適である。
このように、上記実施形態では、定着部材単独で記録媒体に対する分離性が高められることから、上記実施形態は、上記分離性に乏しい条件での画像形成を改善することが可能である。たとえば、上記実施形態によれば、コシのない(より柔軟な、剛度のより小さい)メディアを適用することが可能であり、あるいは画像形成のプロセススピードをより高めることが可能である。
また、上記実施形態によれば、気流分離装置のような分離補助装置を外すことが可能となる。この場合、定着装置の構成の簡略化および小型化が可能となり、また、気流分離装置からの気流によって定着部材から奪われる熱量が低減することから、定着装置における省力化が可能となる。上記実施形態では、これらの利点のうちの一つを、または複数の組み合わせを実現することが可能である。
以上の説明から明らかように、本実施の形態の定着部材は、基材、弾性層および表層が厚さ方向においてこの順で重なるように配置されており、上記表層は複数の細孔によって形成される多孔質の構造を有し、上記細孔の孔径は1μm未満である。
また、本実施の形態の画像形成装置は、未定着のトナー画像を担持する記録媒体に、上記定着部材を介して上記トナー画像を加熱加圧により定着させる定着装置を有し、本実施の形態の定着方法は、電子写真方式の画像形成方法において、電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、上記定着部材を介して加熱加圧して定着させ、本実施の形態の画像形成方法は、電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、上記定着部材を介して加熱加圧して定着させる定着工程を含む。
よって、本実施形態によれば、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着において、薄紙などのコシのないメディアに対しても高い分離性を長期にわたって発現することができる。
また、上記表層が中空粒子を含むことは、上記表層の空隙率および細孔の孔径を容易に制御する観点からより一層効果的であり、上記中空粒子がメソポーラス樹脂粒子であることは、定着時における定着部材への記録媒体の付着力を低減させる観点からより一層効果的である。
また、上記表層がナノファイバーを含むことは、上記表層の空隙率を高める観点からより一層効果的であり、上記ナノファイバーがセルロースナノファイバーであることは、生産性を高めるとともに上記付着力を低減させる観点からより一層効果的である。
また、上記定着部材の形状が無端ベルト状であることは、上記分離性を高める観点からより一層効果的である。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。以下、特記しない限り、各操作は、室温(20℃)で行った。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
[中空粒子Aの作製]
下記成分を下記の量で容器に収容し、油溶性重合開始剤「V-65」(和光純薬工業社製)0.75質量部を加えて溶解させた。下記「Fomblin MT70」は、Solvay社の製品であり、パーフルオロポリエーテル構造を有するテトラメタクリレートの2-ブタノン溶液である。なお、「FOMBLIN」は同社の登録商標である。
スチレン 37質量部
ジビニルベンゼン 48質量部
Fomblin MT70 15質量部
2-ブタノン 150質量部
得られた溶液に、0.12質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液720質量部と水溶性重合開始剤「VA-57」(和光純薬工業株式会社製)1.03質量部とを加え、これを乳化分散機「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)にて10000rpmにて6分間分散することにより、乳化分散液を調製した。
この乳化分散液を、撹拌装置と水冷還流管と窒素導入管とをセットしたセパラブルフラスコに入れ、撹拌下、窒素気流を導入し、次いで昇温し、重合温度60℃を維持して8時間加熱撹拌して重合反応を行って中空粒子を生成させた。
その後、生成された中空粒子を吸引濾過によって濾取し、イオン交換水にて洗浄した後、バットに広げて40℃で乾燥する工程を経て白色の中空粒子Aを収率96%で得た。
中空粒子Aの体積基準のメジアン径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA-750」(堀場製作所社製)を用いて測定したところ、0.81μmであった。
中空粒子Aを含む50nm厚の切片を作製し、当該切片をTEMで観察したところ、中空粒子Aの内部が多孔質であり、多孔質構造の細孔の孔径が15nmであることが確認された。なお、上記孔径は、TEMで撮影された画像で黒く写される部分を細孔として当該画像から20点ランダムに抽出したときのそれらの細孔の短径の平均値である。
また、中空粒子Aについて、中空率を測定したところ、中空率は51体積%であった。その測定方法は、以下の通りである。
中空粒子A10.0gを、水性ウレタンエマルジョン「WBR-016U」(大成ファインケミカル株式会社製)2.4g(固形分換算)および純水2.0gの混合物に添加し、自転公転型ミキサー「ARE310」(株式会社シンキー製)にて分散させて分散液を得る。この分散液を、幅80mm×長さ120mm×厚み2mmの型枠に充填し、常温乾燥、次いで、加熱乾燥させて固化させた後、型より取り出すことによって試料板を作製する。そして、この試料板の体積および質量を比重計「DME-220H」(新光電子株式会社製)によって測定することにより、下記式(1)に従って中空粒子Aの中空率Hrを算出する。
Hr(体積%)=V1/V2×100 (1)
上記式(1)中、V1は、中空粒子Aの内部空間の体積であり、上記試料板における空隙の体積である。また、V2は、中空粒子Aの全体積であり、上記試料板における空隙の体積と中空粒子Aを構成する樹脂部分の体積との和である。
上記「試料板における空隙の体積(すなわちV1)」は、以下の式(2)より求めることができる。
V1=VSB-VBR+VPR+VW (2)
上記式(2)中、VSBは、試料板の体積を表し、VBRは、試料板におけるバインダー樹脂(ポリウレタン)の部分の体積を表し、VPRは、中空粒子Aを構成する樹脂部分の体積を表し、VWは、粒子間の空隙に浸入した水の体積を表す。
バインダー樹脂部分の体積VBRは、下記式(3)より求めることができ、中空粒子Aを構成する樹脂部分VPRは、下記式(4)より求めることができる。
VBR=WBR/DBR (3)
VPR=WHP/DPR (4)
上記式(3)中、WBRは、試料板におけるバインダー樹脂の質量を表し、DBRは、バインダー樹脂の密度を表し、上記の場合では1.07である。また、上記式(4)中、WHPは、試料板における中空粒子の質量を表し、DPRは、中空粒子Aを構成する樹脂の部分の密度を表し、上記の場合では1.05と仮定している。
試料板におけるバインダー樹脂の質量WBRは、下記式(5)より求めることができる。式(5)中、WSBは、試料板の質量を表し、係数「0.1935」は、上記分散液中の固形分に対する中空粒子Aの質量比({2.4/(10.0+2.4)})である。また、試料板における中空粒子の質量WHPは、下記式(6)より求めることができる。式(6)中、WSBは、試料板の質量を表す。係数「0.8065」は、上記分散液中の固形分以外の部分の割合(すなわち空隙の部分の割合(1-0.1935))である。
WBR=WSB×0.1935 (5)
WHP=WSB×0.8065 (6)
[実施例1]
内径99mm、長さ360mm、厚み70μmの熱硬化性ポリイミド樹脂からなるベルト基材の内側に、外径99mmのステンレス製の円筒状の芯金を密着させた。次いで、当該ベルト基材の外側に円筒金型を被せ、このようにして芯金と円筒金型を同軸で保持するとともに、両者の間にキャビティを形成した。次いで、キャビティにシリコーンゴム材料Aを注入し、加熱硬化して、厚さ200μmのシリコーンゴムAによる弾性層を作製した。なお、シリコーンゴム材料Aは、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン100質量部と、シリカ15質量部とを混合した組成物である。
次に、上記のようにして作製した基材と弾性層の無端状の積層体を、スパイラル塗布装置に張架して回転させ、コロナ処理を行った。
一方で、表層用の塗料1を調製した。塗料1は、中空粒子Aを10質量部、「Fluorolink MD700」を40質量部、2-ブタノンを300質量部混合し、超音波ホモジナイザーを用いて分散し、重合開始剤としてIRGACURE 184(BASFジャパン社製)を2質量部加えて溶解させることによって調製した。「Fluorolink MD700」は、Solvay社の製品であり、パーフルオロポリエーテル構造を有するジメタクリレートである。「FLUOROLINK」は同社の登録商標である。また、「IRGACURE」は、BASF社の登録商標である。
上記無端状の積層体の外周面に、塗料1をスパイラル塗布法にて塗布し、塗料1の塗膜を形成した。次いで、60℃10分間で上記塗膜を熱乾燥した後、紫外線強度1kw/cmの水銀灯で、600mJ/cmの積算光量にて上記塗膜中のジメタクリレートをラジカル重合させて当該塗膜を硬化させ、膜厚15μmの表層を作製した。
そして、得られた無端状の三層ベルトを再びスパイラル塗布装置に張架して回転させ、ラッピングフィルムシート(3M社製)の#600、次いで#4000を、荷重40gf/cm(0.39N/cm)でそれぞれ10回転相当になるように上記三層ベルトの表層の表面に押し当てて、当該表層の最表面を研磨した。そして、上記表層に含有させた中空粒子の断面が上記表層の表面に現れたことをレーザー顕微鏡で確認した。このようにして、基材、弾性層および表層をこの順で重ねてなる定着ベルト1を作製した。
定着ベルト1の表面および断面のSEM写真から定着ベルト1の表層の空隙率およびその多孔質構造における孔径を求めたところ、上記空隙率は21%であり、上記孔径は、15nmであった。
[実施例2]
表層用の塗料2を調製した。塗料2は、繊維幅が10nm未満のセルロースナノファイバーの2質量%水分散液(「レオクリスタI-2SP」(第一工業製薬株式会社製、「レオクリスタ」は同社の登録商標)を、セルロースナノファイバーの濃度0.35質量%に希釈することにより調製した。
コロナ処理を施した無端状の上記積層体の外周面に、表層用の塗料2を塗布し、スパイラル塗布法にて塗布し、塗料2の塗膜を形成した。次いで、60℃20分間、次いで100℃60分間の熱乾燥を行い、上記外周面上に膜厚15μmのナノファイバー集積層を形成した。
こうして得られた、基層、弾性層およびナノファイバー集積層の三層ベルトを、含フッ素シランカップリング剤溶液にディップ塗布した。当該含フッ素シランカップリング剤溶液は、「Fluorolink S10」(Solvay社製)を2-ブタノンで50倍に希釈した液であり、「Fluorolink S10」は、エトキシシラン末端基を持つパーフルオロポリエーテルである。次いで、20℃60分間、次いで120℃60分間の熱乾燥を行うことにより上記ナノファイバー集積層を撥油化処理し、こうして基材、弾性層および撥油化処理されたナノファイバー層をこの順で重ねてなる定着ベルト2を作製した。定着ベルト2の表層における空隙率は55%であり、孔径は8nmであった。
[比較例1]
上記ベルト基材の内側に上記芯金を密着させ、当該ベルト基材の外側に、厚さ30μmのPFAチューブを内周面上に保持する円筒金型を被せ、芯金と円筒金型を同軸で保持して両者の間にキャビティを形成し、当該キャビティにシリコーンゴム材料Aを注入し、加熱硬化して、厚さ200μmのシリコーンゴムAによる弾性層を作製した。このようにして、基材、弾性層およびPFA層をこの順で重ねてなる定着ベルト3を作製した。
[評価]
定着ベルト1~3のそれぞれを、フルカラー複写機「bizhub PRESS C1070」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)に装着した。記録媒体には、「npi上質 64g/m」を使用した。また、定着ベルトの表面温度は、180℃とした。また、トナーには二成分現像剤を用い、そのトナー母体粒子の体積平均粒径は、6.5μmである。
まず、用紙の先端に1mm刻みで任意の余白を有し、当該余白以外の領域にシアン、マゼンタ2層(red)で作製した未定着状態の全面ベタ画像(付着量8.0g/m)を用意した。
そして、印字率5%相当の黒文字をほぼ均等に配置したA4プリントを10000枚作製する耐久試験の前後に、上記全面ベタ画像の記録媒体を、当該記録媒体のベタ画像側の面を定着ベルトに向けて60枚/分の速度で用紙幅広方向に通紙し、定着装置における定着ベルトに対する、上記全面ベタ画像を有する記録媒体の分離性能を、以下の基準により評価した。
○:先端余白が0mm以上4mm未満のときに、定着ベルトと上記全面ベタ画像を有する記録媒体とが分離する。
×:先端余白が4mm以上のときに、定着ベルトと上記全面ベタ画像を有する記録媒体とが分離する。
結果を表1に示す。
Figure 0007066972000001
表1から明らかなように、多孔質の表層を有する定着ベルト1、2は、共に、耐久試験の前後のいずれにおいても良好な分離性を示す。その理由としては、定着ベルト1、2の表層はいずれも微細な細孔による多孔質構造を有するため、多孔質でない定着ベルト(定着ベルト3)に比べてトナー画像との接触面積がより小さいことから、定着時の定着ニップ部において、記録媒体の定着ベルトへの付着力よりも記録媒体の剛度による反発力が勝るため、と考えられる。また、上記理由としては、上記細孔が十分に小さいので耐久試験時に未定着のトナー粒子が入らず、耐久試験後にも上記接触面積が十分に小さいため、と考えられる。
これに対して、定着ベルト3は、定着ベルト1、2に比べると、通紙方向における前方により長い余白部を要することがわかる。これは、定着ベルト3の表面がトナー画像と密着するため、定着時の定着ニップ部において、記録媒体の定着ベルトへの付着力が記録媒体の剛度による反発力に勝り、このため、記録媒体が定着ベルト3から分離するためには上記通紙方向の前方にある程度の自由端(密着しない部分)を要するため、と考えられる。
本発明によれば、電子写真方式の画像形成において、定着部材単独で、定着時における定着部材と記録媒体との分離性を長期にわたって高めることが可能である。よって、本発明によれば、電子写真方式の画像形成装置におけるさらなる高速化、高性能化、省力化および記録媒体の多様化が期待され、当該画像形成装置のさらなる普及が期待される。
10 画像形成装置
20 画像読み取り部
21 給紙装置
22 スキャナー
23 CCDセンサー
24 画像処理部
30 画像形成部
31 画像形成ユニット
32 感光体ドラム
33 帯電装置
34 露光装置
35 現像装置
36、47 クリーニング装置
40 中間転写部
41 一次転写ユニット
42 二次転写ユニット
43 中間転写ベルト
44 一次転写ローラ
45 バックアップローラ
46 第1支持ローラ
48 二次転写ベルト
49 二次転写ローラ
50 第2支持ローラ
60 定着装置
61 定着ベルト
62 加熱ローラ
63 第1加圧ローラ
64 第2加圧ローラ
65、66 ヒータ
67 第1温度センサー
68 第2温度センサー
69 気流分離装置
70 案内板
71 案内ローラ
80 用紙搬送部
81 給紙トレイユニット
82 レジストローラ対
83 搬出ローラ
D 原稿
S 用紙(記録媒体)

Claims (6)

  1. 基材、弾性層および表層が厚さ方向においてこの順で重なるように配置されている定着部材において、
    前記表層は、複数の細孔によって形成される多孔質の構造を有し、前記細孔の孔径は、1μm未満であり、
    前記表層は中空粒子と、前記中空粒子を前記表層に保持させるためのマトリクスとを含み、
    前記中空粒子はC-F構造を含む架橋性の含フッ素樹脂製である、定着部材。
  2. 前記中空粒子は、メソポーラス樹脂粒子である、請求項1に記載の定着部材。
  3. 前記定着部材の形状は、無端ベルト状である、請求項1または2のいずれか一項に記載の定着部材。
  4. 未定着のトナー画像を担持する記録媒体に、定着部材を介して前記トナー画像を加熱加圧により定着させる定着装置を有する電子写真方式の画像形成装置において、
    前記定着部材は、請求項1~のいずれか一項に記載の定着部材である、画像形成装置。
  5. 電子写真方式の画像形成方法において、電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、定着部材を介して加熱加圧して定着させる定着方法において、
    前記定着部材に、請求項1~のいずれか一項に記載の定着部材を用いる、定着方法。
  6. 電子写真方式で形成された未定着のトナー画像を、それを担持する記録媒体に、定着部材を介して加熱加圧して定着させる定着工程を含む画像形成方法において、
    前記定着部材に、請求項1~のいずれか一項に記載の定着部材を用いる、画像形成方法。
JP2017016700A 2017-02-01 2017-02-01 定着部材、画像形成装置、定着方法および画像形成方法 Active JP7066972B2 (ja)

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