本発明の一実施の形態に係る定着部材は、最表層として離型層を有する。
(離型層)
離型層は、トナー画像が担持された記録媒体の一方の面に直接に接触する。離型層は、定着部材の外表面を構成し、トナー成分に対する適度な離型性を有する。
離型層は、樹脂粒子と、硬化性フッ素樹脂とを含有するラジカル重合性組成物の重合硬化物である。
樹脂粒子は、離型層中に分散しており、離型層に適度な硬さを付与する。樹脂粒子の粒子径は、0.2〜3.0μmである。樹脂粒子の粒子径が0.2μm未満の場合、樹脂粒子が離型層中において凝集してしまう。一方、樹脂粒子の粒子径が3.0μm超の場合、離型層の表面の凹凸が大きくなってしまい、記録媒体上のトナー画像にその凹凸が転写されてしまう。
樹脂粒子の形状は、特に限定されない。樹脂粒子の形状は、不定形状でもよく、角形状でもよく、球形状でもよい。樹脂粒子の形状は、離型層に対する分散性の観点から、真球形状が好ましい。
樹脂粒子の粒子径を測定する方法の例には、「球相当径」、「沈降法」および「レーザ回折・散乱法」が含まれる。樹脂粒子の形状が真球状であれば、その樹脂粒子の直径が粒子径である。しかし、樹脂粒子の形状が真球状でない場合には、上述したいずれかの方法で、その樹脂粒子が真球状であると想定して測定できる。ここで、「球相当径」とは、特定の粒子を測定した場合、同じ結果を示す球体の直径をもって、その被測定粒子の粒子径とする方法である。「沈降法」とは、被測定粒子と同じ物質の直径1μmの球と同じ沈降速度をもった被測定粒子の粒子径を1μmとする方法である。「レーザ回折・散乱法」とは、直径1μmの球と同じ回折・散乱光のパターンを示す被測定粒子の粒子径は、その形状に関わらず1μmとする方法である。
本実施の形態に係る離型層に含まれる樹脂粒子の粒子径は、例えば、以下の方法で測定できる。樹脂粒子の粒子径は、レーザ回折・散乱式粒径分布測定装置「マイクロトラック UPA150」(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて体積基準のメジアン径を測定した。
樹脂粒子の種類は、その粒子径が前述の範囲内であれば特に限定されない。樹脂粒子の例には、シリコーン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリアミド樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、フッ素樹脂粒子が含まれる。樹脂粒子は、低表面エネルギー性および滑り性の観点から、シリコーン樹脂粒子が好ましい。
離型層における樹脂粒子の含有量は、30〜50体積%が好ましい。樹脂粒子が30体積%未満の場合、離型層における離型性の効果が不十分となるおそれがある。一方、樹脂粒子の含有量が50体積%超の場合、離形層の機械的強度が損なわれやすく、定着部材の耐久性が不十分となるおそれがある。
樹脂粒子は、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の造粒重合法により作製してもよいし、市販品を購入してもよい。市販されているシリコーン樹脂粒子の例には、XC99−A8808、トスパール120、トスパール130、トスパール240(いずれもモメンティブ・パーフォマンス・マテリアルズ社製、「トスパール」は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社の登録商標である)が含まれる。市販されているテフロン樹脂粒子の例には、マイクロディスパース200、マイクロディスパース3000(いずれもポリサイエンス社製)、ルブロンL−2(ダイキン工業株式会社製、「ルブロン」は同社の登録商標である)が含まれる。市販されているアクリル樹脂粒子の例には、MX−150(綜研化学株式会社製)が含まれる。
ラジカル重合性組成物の重合硬化物は、硬化性フッ素樹脂を含有する。「硬化性フッ素樹脂」とは、分子内の炭化水素基の水素原子をフッ素原子に置換した基本構造を有し、熱または活性エネルギー線により化学結合を形成できる反応性基を分子内に含む樹脂を意味する。炭化水素基の水素原子をフッ素原子に置換した基本構造の例には、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキレンエーテル基が含まれる。パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキレンエーテル基は、樹脂中の主鎖に存在してもよく、側鎖に存在してもよい。
炭化水素基の水素原子からフッ素原子への置換は、分子内の全ての水素原子に対して行われていなくてもよい。水素原子からフッ素原子への置換が多いほど、フッ素樹脂の特性が発現されやすいため、水素原子からフッ素原子への置換は、大部分の水素原子に対して行われていることが好ましい。
熱または活性エネルギー線により化学結合を形成することのできる反応性基の例には、ラジカルにより重合反応を起こすことができる(メタ)アクリル基、スチレン基などのビニル基;加水分解して重合性のシラノール基を生成することのできるアルコキシシラン基;ウレタン結合やエステル結合を生じて重合することのできる水酸基、カルボン酸基、イソシアネート基が含まれる。反応性基は、(メタ)アクリル基が好ましい。
反応性基として分子内に(メタ)アクリル基を有する硬化性フッ素樹脂の例には、ビニル基を有するパーフルオロポリエーテル化合物(以下、「PFPE」ともいう)が含まれる。「パーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)」とは、パーフルオロアルキレンエーテルを繰り返し単位として有するオリゴマーまたはポリマーを意味する。パーフルオロアルキレンエーテルの繰り返し単位の構造の例には、パーフルオロメチレンエーテル、パーフルオロエチレンエーテル、パーフルオロプロピレンエーテルの繰り返し単位の構造が含まれる。パーフルオロポリエーテルは、下記式(a)で示される繰り返し構造単位、または、下記式(b)で示される繰り返し構造単位を有することが好ましい。
PFPEが繰り返し構造単位(a)または繰り返し構造単位(b)を有する場合、繰り返し構造単位(a)の繰り返し数mおよび繰り返し構造単位(b)の繰り返し数nは、それぞれ0以上の整数であり、かつ、m+n≧1である。また、繰り返し構造単位(a)と、繰り返し構造単位(b)との両方を有する場合、繰り返し構造単位(a)と繰り返し構造単位(b)とは、ブロック共重合体構造を形成していてもよく、ランダム共重合体構造を形成していてもよい。
PFPEの重量平均分子量Mwは、100以上8,000以下が好ましく、500以上5,000以下がより好ましい。
PFPEが有するビニル基の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。ここで、ビニル基を有するPFPEがビニル基を2以上有する場合には、PFPEにおけるビニル基の位置は、片方の末端に結合していてもよいし、両方の末端に結合していてもよい。また、2つ以上のビニル基が片方の末端に結合していてもよいし、両方の末端に結合していてもよい。
ビニル基は、炭素−炭素の2重結合を有するラジカル重合可能な基である。ここで、PFPEが有する複数のビニル基は、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。PFPEが有するビニル基は、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。
アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するPFPEの例には、フルオロリンクAD1700、MD500、MD700、5101X、5113X、フォンブリン MT70(いずれもソルベイスペシャルティポリマーズ社製、「フルオロリンク」および「フォンブリン」は同社の登録商標である)、オプツールDAC(ダイキン工業株式会社製、「オプツール」は同社の登録商標である)、KY−1203(信越化学工業株式会社製)が含まれる。
硬化性フッ素樹脂には、樹脂の強度および靱性の改善の観点から、上述のPFPE以外にその他の反応性基を有するモノマーを加えてもよい。その他の反応性基含有モノマーは、PFPEと重合反応することができるビニル基またはアクリル基を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。
その他の反応性基含有モノマーの例には、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン系化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート系化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンのエチレンオキシド付加物のモノ・ジ・トリ(メタ)アクリレート、(ジ)ペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタシクロペンタデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリル酸付加物、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジメタノールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−1,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−2,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−3,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、ビシクロ[2.2.2]−オクタン−1−メチル−4−イソプロピル−5,6−ジメチロールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート系化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の(メタ)アクリレート化合物が含まれる。
その他の反応性基含有モノマーは、2官能および3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。その他の反応性基含有モノマーとして、2官能および3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を加えることで架橋密度が高くなるため、樹脂の硬さを向上できるとともに靱性を強くできる。よって、離型層の耐久性を高めることができる。
その他の反応性基含有モノマーの配合量は、PFPEの特性を損なわない範囲であれば、特に限定されない。その他の反応性基含有モノマーの配合量は、樹脂組成物の総量に対して、0〜90質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
(重合開始剤)
PFPEは、重合開始剤と、光などの活性エネルギー線によって重合する硬化性フッ素樹脂である。
重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマーなどのアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;ベンゾフェノン、O−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドなどのベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリドなどのチオキサントン類が含まれる。重合開始剤は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アシルホスフィンオキシド類が好ましく、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンがより好ましい。重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤の配合量は、ラジカル重合性組成物の総量に対して、0.05〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.2〜10質量%がさらに好ましい。ここで、重合開始剤の配合量が0.05質量%未満の場合、十分に重合反応が進行せず、完全に硬化した重合硬化物を得られないことがある。また、重合開始剤の配合量が20質量%超の場合、重合硬化物の物性がさらに向上することはなく、むしろ悪影響を及ぼす上、経済性を損なうことがある。
離型層の厚さは、例えば、耐久性および記録媒体の表面の凹凸に対する追従性の観点から、2.0〜100μmが好ましく、5.0〜30.0μmがより好ましい。離型層の厚さが2.0μm未満の場合、耐久性が低くなることがある。一方、離型層の厚さが100μm超の場合、記録媒体の表面の凹凸に対する追従性が不十分となることがある。
定着部材は、前述した離型層に加え、基材層と、弾性層とを有してもよい。
(基材層)
基材層は、画像形成装置に搭載しようとする定着装置の仕様などに応じて公知のものを使用できる。基材層は、省エネルギーの観点から、その熱容量が小さいことが好ましい。基材層は、耐熱性樹脂製である。「耐熱性樹脂製」とは、基材層を構成する主な材料が耐熱性樹脂を意味する。「耐熱性」とは、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の記録媒体への定着に定着部材を用いる際の温度(例えば、150〜220℃)において十分に安定しており所期の物性を発現することを意味する。
耐熱性樹脂は、その熱容量が小さく、定着部材の使用温度において実質的な変性および変形を生じなければ特に限定されない。耐熱性樹脂の例には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。耐熱性樹脂は、強度および耐久性に優れる観点から、ポリイミドが好ましい。耐熱性樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸の、200℃以上の加熱による、または触媒を用いることによる、脱水、環化(イミド化)反応で得られる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを溶媒に溶解し、混合および加熱による重縮合反応によって製造してもよいし、市販品を購入してもよい。ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の例には、特開2013−25120号公報の段落0123〜0130に記載の化合物が含まれる。
基材層における耐熱性樹脂の含有量は、基材層を形成するのに十分な量であればよく、例えば、50質量%以上が好ましく、60〜75質量%がより好ましく、76〜90質量%がさらに好ましい。
基材層は、耐熱性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、基材層はフィラーをさらに含有していてもよい。フィラーは、例えば、基材層の硬さ、伝熱性および導電性の少なくともいずれかの向上に寄与する成分である。フィラーの材料の例には、カーボンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボンおよび黒鉛が含まれる。フィラーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
基材層の厚みは、適宜設定できる。基材層の厚みは、50.0〜100μmが好ましい。
(弾性層)
弾性層は、定着ニップ部における定着部材の表面と、未定着のトナー画像を担持する記録媒体との接触性の向上に寄与する弾性を有する層である。弾性層は、耐熱性のある弾性体である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
弾性層の材料は、耐熱性ゴムが好ましい。耐熱性ゴムの例には、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、フッ素ゴム、液状フッ素エラストマーが含まれる。耐熱性ゴムは、耐熱性の観点から、シロキサン結合を主鎖とする弾性ゴムが好ましく、シリコーンゴムが好ましい。耐熱性ゴムは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
弾性層の厚さは、例えば、記録媒体に対する追従性および伝熱性を十分に発現させる観点から、50〜500μmが好ましい。弾性層の厚さが50μm未満の場合、紙の凹凸に対する追従性が不十分となることがある。一方、弾性層の厚さが500μm超の場合、トナー画像の定着に必要な熱量を蓄積するための時間が必要となるため、伝熱性が悪くなることがある。
弾性層は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、弾性樹脂材料以外の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、弾性材料は、弾性層の伝熱性を高めるための伝熱性のフィラーをさらに含んでいてもよい。伝熱性のフィラーの例には、シリカ、金属シリカ、アルミナ、亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンおよび黒鉛が含まれる。伝熱性のフィラーの形態は、特に限定はされないが、例えば、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末または繊維が好ましい。
弾性材料における弾性樹脂材料の含有量は、伝熱性と弾性とを両立させる観点から、例えば、60〜100体積%が好ましく、75〜100体積%がより好ましく、80〜100体積%がさらに好ましい。
(離型層の作製)
ここで、本発明の主たる特徴である離型層の製造方法について説明する。離型層は、例えば、前述した樹脂粒子と、熱または活性エネルギー線によって重合する硬化性フッ素樹脂とを含有するラジカル重合性組成物を、弾性層上に塗布し、熱または活性エネルギー線によってラジカル重合させることにより形成される。
ラジカル重合性組成物は、0.2〜3.0μmの粒子径を有する前述した樹脂粒子と、前述した硬化性フッ素樹脂とを湿式メディア分散型装置などの分散装置で分散し、必要に応じて溶剤を添加し、さらに分散させる。次いで、当該分散液に重合開始剤をさらに添加し、溶解させることでラジカル重合性組成物を調製できる。
ラジカル重合性組成物は、塗布性(作業性)が良好となるという観点から、溶剤を含有することが好ましい。使用可能な溶剤の例には、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、3−ペンタノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類およびエステル類;パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロシクロヘプタンなどの含フッ素炭化水素類が含まれる。
湿式メディア分散型装置は、容器内にボール、ビーズなどの粉砕媒体(メディア)を充填し、さらに回転軸と垂直に取り付けられた撹拌ディスクを高速回転させることにより、容器に充填されている内容物を衝撃圧壊、摩擦、専断、ズリ応力などにより微粉砕、分散するための装置である。湿式メディア分散型装置の様式の例には、縦型、横型、連続式および回分式が含まれる。湿式メディア分散型装置の例には、サンドミル、ウルトラビスコミル、パールミル、グレンミル、ダイノミル、アジテータミルおよびダイナミックミルが含まれる。
湿式メディア分散型装置で使用するビーズの例には、ガラス、アルミナ、ジルコン、ジルコニア、スチール、フリント石などを原材料としたビーズが含まれる。ビーズは、強度、靭性および耐摩耗性の観点から、ジルコン製およびジルコニア製のビーズが好ましい。
ビーズの大きさは、通常、直径1〜2mm程度であるが、本実施の形態では0.3〜1.0mm程度が好ましい。湿式メディア分散型装置に使用するディスクや容器内壁の例には、ステンレス製、ナイロン製、セラミック製が含まれる。本実施の形態では、ディスクや容器内壁は、ジルコニアまたはシリコンカーバイドなどのセラミック製が好ましい。
ラジカル重合性組成物の塗布方法には、公知の様々な塗布方法を採用できる。ラジカル重合性組成物の塗布法の例には、スパイラル塗布法、浸漬塗布法およびスプレー塗布法が含まれる。本実施の形態では、ラジカル重合性組成物の塗布方法は、スパイラル塗布法が好ましい。スパイラル塗布法には、基体(定着部材が基材層および弾性層を有する場合には、基材層および弾性層の積層体)を回転させながら支持する支持装置と、回転する基体の軸方向に移動可能なノズルから塗布液(ラジカル重合性組成物)を塗布する塗布装置とを有する公知の塗布装置を使用できる。スパイラル塗布法は、塗布液を吐出するノズルを回転する基体の軸方向に、基体に対して相対的に移動させながら、塗布液をノズルから吐出する塗布方法である。ここで、ノズルから吐出された塗布液は、基体の周面にらせん状に付着し、基体の軸方向に沿って拡散し、一体化して塗膜を構成する。
塗布液を基体上に塗布し、塗膜を形成した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。これにより溶剤を除去できる。塗膜の乾燥は、重合性成分の重合の前後、およびその重合中のいずれにおいて行われてもよく、これらを組み合わせて適宜選択できる。具体的には、塗膜の流動性がなくなる程度まで一次乾燥した後、重合性成分の重合を行うことが好ましい。塗膜の乾燥方法は、溶剤の種類、形成すべき表面層の層厚などよって適宜選択できるが、乾燥温度は、例えば、40〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。塗膜の乾燥時間は、例えば、1〜10分間が好ましい。
乾燥させた塗膜に、熱または活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させる。離型層の硬化方法の例には、可視光線を照射すること、紫外線を照射すること、電子線を照射することが含まれる。離型層の硬化方法は、取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られる観点から、紫外線を照射することが好ましい。
紫外線の光源は、紫外線を発生する光源であれば特に限定されない。紫外線を発生する光源の例には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプが含まれる。照射条件は、それぞれの光源によって異なる。照射光量は、硬化ムラ、硬度、硬化時間および硬化速度などを考慮して、5J/cm2以上が好ましく、7〜20J/cm2がより好ましく、10〜12J/cm2がさらに好ましい。活性エネルギーの照射時間は、10秒間〜8分間が好ましく、硬化効率、作業効率などの観点から、30秒間〜5分間がより好ましい。光照射するときの雰囲気の条件は、空気雰囲気下でも問題なく硬化できるが、硬化ムラおよび硬化時間などを考慮すると、雰囲気中の酸素濃度は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。また、光照射時の雰囲気には、窒素ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
前述した定着部材は、電子写真方式の画像形成装置における定着装置に適用される。定着部材の形態は、画像形成装置に搭載しようとする定着装置の仕様などに応じて、公知の形態から適宜選択することができる。たとえば、アルミニウムなどの金属製のスリーブの外周面上に弾性層および離型層が配置されているローラ状の定着ドラムであってもよいし、シームレス状の基材層の外周面上に弾性層および離型層が配置されているシームレス状の定着部材であってもよい。
また、本発明においては、必要に応じてその他の層、例えば、弾性層と離型層の間に接着の機能を有する接着層を設けてもよい。
(記録媒体)
定着部材は、定着時における記録媒体への追従性と分離性との両方に優れた性能を発揮する。記録媒体は、普通紙などの通常の記録媒体であってよいが、追従性や分離性について高い性能を要する特定の記録媒体であってもよい。このような特定の記録媒体の例には、凹凸紙および薄紙が含まれる。
凹凸紙は、例えば、表面に文字や模様の浮き上がりを有するエンボス紙であり、オス(凸)とメス(凹)の金型ではさみ加圧することにより、凹凸感を出している紙である。坪量で100〜300g/m2で表され、溝の深さで10〜100μmで表される紙製の記録媒体である。また、薄紙は、例えば、坪量で40〜64g/m2で表され、または曲げ剛度で2〜10で表される紙製の記録媒体である。
(定着装置)
定着装置は、例えば、シームレスベルト状の定着部材と、定着部材を支持するための二以上のローラと、ローラに支持されている定着部材を加熱するための加熱装置と、二以上のローラのうちの一つのローラに向けて相対的に付勢されるように配置されている加圧ローラとによって構成される。定着装置は、シームレスベルト状の定着部材として本実施の形態の定着部材を有する以外は、公知のいわゆる二軸ベルト式定着装置と同様に構成できる。
二以上のローラは、その少なくとも一つに加熱装置を内蔵していてもよく、例えば、定着部材を加熱するための加熱ローラを含んでいてもよい。当該加熱ローラは、例えば、アルミニウム製などの伝熱性のスリーブと、当該スリーブの内側に配置されるハロゲンヒータなどの加熱源とを有する。当該スリーブの外周面は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂製の層によって被覆されていてもよい。
なお、加熱装置は、ローラ外に配置される加熱装置、すなわち、支持されている定着部材が形成する無端軌道の内周側または外周側に当該無端軌道に向けて配置される加熱装置であってもよいし、ローラに内蔵される加熱装置とローラ外に配置される加熱装置との両方を含んでいてもよい。
二以上のローラのうちの加熱ローラ以外のローラは、一以上あればよく、所望の他の機能に応じて適宜に構成できる。
(画像形成装置)
定着部材を有する画像形成装置は、定着部材を有する以外は、記録媒体上の未定着のトナー画像を、定着部材を用いる加熱および加圧によって記録媒体に定着させるための定着装置を有する公知の画像形成装置と同様に構成することができる。定着部材は、電子写真方式の画像形成に用いることができる。
定着部材を用いる電子写真方式の画像形成では、トナーは限定されず、例えば、公知のトナーを用いることができる。当該トナーは、トナー母体粒子とその表面に付着している外添剤とによって構成されているトナー粒子である一成分現像剤であってもよいし、トナー粒子とこれを担持するキャリア粒子とを有する二成分現像剤であってもよい。
図1は、画像形成装置の構成の一例を模式的に示す図である。図1に示されるように、画像読取部10、操作表示部20、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着部60および制御部100を備える。
制御部100は、展開したプログラムと協働して画像形成装置1の各ブロックの動作を集中制御するための装置であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を備える。
画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)を有する。操作表示部20は、例えばタッチパネル付の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)で構成され、表示部および操作部として機能する。画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定またはユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路を有する。
画像形成部40は、入力画像データに基づいて、Y成分、M成分、C成分、K成分の各有色トナーによる画像を形成するための画像形成ユニット41、中間転写ユニット42、および二次転写ユニット43を有する。
画像形成ユニット41は、Y成分、M成分、C成分、K成分用の4つの画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kで構成される。画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kは、同様の構成を有するので、図示および説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY、M、C、またはKを添えて示す。図1では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号を付し、その他の画像形成ユニット41M、41C、41Kの構成要素については符号を省略した。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。
感光体ドラム413は、例えばアルミニウム製の導電性円筒体(アルミ素管)の周面に、アンダーコート層(UCL:Under Coat Layer)、電荷発生層(CGL:Charge Generation Layer)、電荷輸送層(CTL:Charge Transport Layer)を順次積層した負帯電型の有機感光体(OPC:Organic Photo−conductor)である。
帯電装置414は、例えば、コロナ放電を用いる非接触式の帯電装置である。帯電装置414は、感光体ドラム413に接触して帯電させる接触式の帯電装置でもよい。露光装置411は、例えば半導体レーザである。現像装置412は、二成分現像剤用の現像装置であり、各色成分の現像剤(例えば、小粒径のトナーと磁性体とからなる二成分現像剤)を収容している。ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413の表面に摺接可能に配置されている弾性ブレードなどのドラムクリーニングブレードを有している。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、一次転写ローラ422、バックアップローラ423Aを含む複数の支持ローラ423、およびベルトクリーニング装置426を有する。
中間転写ベルト421は、無端状ベルトで構成され、複数の支持ローラ423にループ状に張架される。複数の支持ローラ423のうちの少なくとも一つは駆動ローラであり、その他は従動ローラである。ベルトクリーニング装置426は、中間転写ベルト421の表面に摺接可能に配置されている弾性ブレードなどのベルトクリーニングブレードを有する。
二次転写ユニット43は、例えば二次転写ローラ431を有する。二次転写ユニット43は、二次転写ローラを含む複数の支持ローラに、二次転写ベルトがループ状に張架されてもよい。
定着部60は、定着器F内にユニットとして配置される。定着部60は、シームレスベルト状の定着ベルト61と、定着ベルト61を支持するための二本のローラ64、65と、ローラ64、65に支持されている定着ベルト61を加熱するための加熱装置63と、ローラ64に対して相対的に付勢されるように配置されている加圧ローラ62とを有する。定着部60は、本実施の形態における定着装置に該当し、定着ベルト61は、本実施の形態における定着部材に該当する。
ローラ64は、定着ベルト61を介して加圧ローラ62に対向して配置されており、そのローラ径は、50mm以上である。ローラ64、65は、定着ベルト61を45Nの張力で無端軌道上に支持している。たとえば、ローラ64は駆動ローラであり、ローラ65は従動ローラである。加熱装置63は、例えば、ハロゲンランプや抵抗発熱体などであり、ローラ65に内蔵されている。加圧ローラ62は、ローラ64に対して接近離脱自在に配置されている。ローラ64に支持されている定着ベルト61に加圧ローラ62が圧接することにより、用紙Sを狭持して搬送する定着ニップ部が形成される。用紙Sは、記録媒体に相当し、例えば規格用紙、特殊用紙などである。
なお、加熱装置63には、電磁誘導加熱(IH:Induction Heating)方式の加熱装置を採用してもよい。また、定着器F内には、エアを吹き付けることにより、定着ベルト61または加圧ローラ62から用紙Sを分離させるエア分離ユニットがさらに配置されていてもよい。定着部60は、上記の定着装置に相当する。
定着ベルト61は、図2Aに示されるように、シームレスベルト状であり、図2Bに示されるように、基材層611、弾性層612および離型層613がこの順で積み重ねられて構成されている。基材層611はポリイミド製のベルトであり、基材層611中にはカーボンブラックが分散されている。弾性層612は、例えばシリコーンゴム製の弾性を有する層である。
離型層613は、図2Cに示されるように、弾性層612の表面に配置されており、離型層中に分散している樹脂粒子614を有する。
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、第1の搬送部53、および第2の搬送部57を有する。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙Sが予め設定された種類ごとに収容される。第1の搬送部53は、中間搬送ローラ部54、ループローラ部55、およびレジストローラ部56を含む複数の搬送ローラ部を有する。第2の搬送部57は、複数の搬送ローラ部が配置されたスイッチバック経路58および裏面用搬送路59を有する。
画像形成装置1において、自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Dを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることができる。原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサー12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データを生成する。この入力画像データには、画像処理部30において必要に応じて所定の画像処理が施される。
制御部100は、感光体ドラム413を回転させる駆動用モーター(図示省略)に供給される駆動電流を制御する。それにより、感光体ドラム413は、一定の周速度で回転する。帯電装置414は、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザ光を照射し、感光体ドラム413の表面には、周囲との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。現像装置412は、感光体ドラム413の表面に各色成分のトナーを付着させることにより静電潜像を可視化してトナー画像を形成する。
一方、中間転写ベルト421は、駆動ローラとなる支持ローラ423が回転することにより、矢印A方向に一定速度で走行する。一次転写ローラ422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接されることにより、一次転写ニップ部が形成され、感光体ドラム413上の各色のトナー画像は、中間転写ベルト421に各色トナー画像が順次重なるように一次転写される。感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、ドラムクリーニング装置415における、感光体ドラム413の表面に当接する弾性ブレードによって一次転写後に当該表面から除去される。
他方、中間転写ベルト421を介して、二次転写ローラ431がバックアップローラ423Aに圧接されることにより、二次転写ニップ部が形成される。給紙部51または第2の搬送部57から給紙された用紙Sは、二次ニップ転写部に搬送される。用紙Sの傾きおよび幅方向の位置(片寄り)は、第1の搬送部53により搬送される過程で補正される。
二次転写ニップ部を用紙Sが通過する際、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに二次転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、定着部60に向けて搬送される。二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、ベルトクリーニング装置426における、中間転写ベルト421の表面に当接する弾性ブレードによって当該表面から除去される。
定着部60は、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー画像を定着させる。定着ベルト61、加圧ローラ62および加熱装置63などの駆動制御は、制御部100によって行われる。
加熱装置63によって定着ベルト61が加熱され、その結果、定着ベルト61が幅方向にわたって所定の定着温度(例えば170℃)で均一となる。定着温度とは、用紙S上のトナーを溶融するのに必要な熱エネルギーを供給し得る温度であり、画像形成される用紙Sの紙種などによって異なる。
両面印刷の場合では、第2の搬送部57は、用紙Sをスイッチバック経路58に一旦搬送した後、スイッチバックさせて裏面用搬送路59に搬送することにより用紙Sを反転させ、第1の搬送部53(ループローラ部55の上流)に供給する。そして、再度、二次転写ニップ部に用紙Sを供給して所望のトナー画像を用紙Sに転写させ、次いで定着部60において当該トナー画像を用紙Sに定着させる。
こうして所望の画像が形成された用紙Sは、排紙ローラ52aを備えた排紙部52により画像形成装置1の機外に排紙される。
定着ベルト61は、用紙Sに凹凸紙や薄紙を用いた場合でも、トナー画像の用紙Sへの定着性と、定着ニップ部における用紙Sの分離性とに優れる。その理由は、主に以下のように考えられる。
樹脂粒子614は、真球状の形状を保ったまま離型層613中に存在している。樹脂粒子614は、離型層613を構成する硬化性フッ素樹脂の硬さおよび弾性と近い物性を有する樹脂材料を選択しているが、両者の物性は完全に一致しない。このことから、離型層613中に存在する樹脂粒子614により、離型層613の表面は、柔らかい部分と硬い部分の両方を有しているため、用紙Sの表面の凹凸に追従しやすくなっていると考えられる。
また、離型層613に樹脂粒子614が分散されていることにより、弾性層612の優れた柔軟性を用紙Sの凹凸に追従して伝えることができ、このため、用紙Sの凹部においてもトナーの定着性が損なわれない。よって、用紙Sの表面における凹凸に関わらず、トナーを十分に溶融状態に至らしめて高光沢で高画質の画像を形成できると考えられる。
なお、普通紙などの一般に平滑かつ適度な剛度を有する記録媒体を用いる画像形成方法では、定着ベルト61は、前述の三層構造による定着性の向上効果、および離型層の材料による分離性の向上効果を十分に発現する。よって、画像形成装置1は、上記のような通常の記録媒体を用いる画像形成においても、良好な画像を形成することができる。
このように、画像形成装置1は、定着時における定着部材の記録媒体に対する離型性に優れていて、トナーオフセットによる画像異常を発生せず、斤量の小さい薄紙などの剛性の低い用紙へトナー画像を定着させても、定着部材に用紙が巻き付くことを長期に亘って継続して防止できる。また、凹凸度の大きいエンボス紙にトナー画像を定着させても、定着部材が紙の凹凸に対して十分な追従性を有し、その結果、高光沢で高画質の画像を長期に亘って継続して得ることができる。
以上の説明から明らかように、本実施の形態の定着部材は、樹脂粒子と、熱または活性エネルギー線によって重合する硬化性フッ素樹脂とを含有するラジカル重合性組成物の重合硬化物である離型層を最表層として有する。また、本実施の形態の定着装置は、本実施の形態の定着部材を有し、未定着のトナー画像を担持する記録媒体にトナー画像を加熱加圧によって定着させるための定着装置である。よって、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着において、記録媒体の表面の凹凸に関わらずにトナー画像の定着と記録媒体の分離の両方に優れる定着を実現することができる。
また、弾性層がシリコーンゴムで構成されていることは、定着部材の耐熱性を高める観点からより一層効果的である。
本発明を、以下の実験を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験に限定されない。
[実験1]
(離型層の塗布液の調製)
フッ素樹脂であるフルオロリンク MD700(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)75質量部と、多官能メタアクリレートであるトリメチロールプロパントリメタアクリレート「A−TMPT(新中村化学工業株式会社製)」25質量部とを混合して硬化性樹脂組成物(X)を得た。
得られた硬化性樹脂組成物(X)の固形分濃度が30質量%になるように溶媒であるメチルイソブチルケトンに溶解した。
樹脂粒子(A)の配合比を30%に、硬化性樹脂組成物(X)の配合比を70%になるように、硬化性樹脂組成物(X)が溶解したメチルイソブチルケトンと、樹脂粒子(A)とを混合して樹脂混合物(ラジカル重合性組成物)を得た。樹脂粒子として、粒子径が0.7μmのシリコーン樹脂粒子「XC99−A8808(モメンティブ・パーフォマンス・マテリアルズ社製)」を使用した。
充填率が80%になるように、5mmφのジルコニアビーズを充填した横型循環分散機に樹脂混合物を投入し、1000rpmで30分間、分散処理を行い、樹脂混合物の分散液を得た。分散機には、横型循環分散機「ディスパーマットSL−C12(英弘精機株式会社製)」を使用した。溶解混合には、撹拌機「トルネード(アズワン株式会社製)」を使用した。
最後に、分散液に重合開始剤を、硬化性樹脂組成物および樹脂粒子の総量に対して5質量%になるように添加して、25℃で10分間、溶解混合し、離型層の塗布液を調製した。重合開始剤として、光重合開始剤であるイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア」は、BASF社の登録商標である)を使用した。
(定着部材の製造方法)
内径99mm、長さ360mm、厚み70μmのポリイミド製のシームレスベルト状の基材の内側に、外径99mmのステンレス製の円筒状の芯金を密着させた。次いで、当該ベルト基材の外側に円筒金型を被せ、芯金と円筒金型を同軸で保持するとともに、両者の間にキャビティを形成した。次いで、キャビティにシリコーンゴム材料Aを注入し、加熱硬化して、厚さ200μmのシリコーンゴムAによる弾性層(ゴム硬度30)を作製した。
なお、シリコーンゴム材料Aは、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン100質量部と、シリカ15質量部とを混合したシリコーンゴム前駆体組成物である。
次に、作製した基材および弾性層のシームレスベルト状の積層体を、スパイラル塗布装置に張架して回転させ、コロナ処理(365kJ/m2)を行った。次に、弾性層の上に塗布液をスパイラル塗布法にて塗布した。塗布後、60℃で10分間で、塗布液の塗膜を熱乾燥し、紫外線強度1kw/cm2の水銀灯で、600mJ/cm2の積算光量にて当該塗膜を光硬化させ、弾性層上に膜厚15μmの離型層を作製して、定着部材1を得た。
[実験2]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)の配合比を40%に変更し、硬化性樹脂組成物(X)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材2を得た。
[実験3]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)の配合比を50%に変更し、硬化性樹脂組成物(X)の配合比を50%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材3を得た。
[実験4]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)の配合比を30%に変更した。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を70%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材4を得た。硬化性樹脂組成物(Y)は、フォンブリン MT70(95質量部)と、トリメチロールプロパントリメタアクリレート(5質量部)との混合物である。
[実験5]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)の配合比を40%に変更した。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Z)に変更し、硬化性樹脂組成物(Z)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材5を得た。硬化性樹脂組成物(Z)は、硬化性樹脂組成物をオプツールDAC(80質量部)(ダイキン工業株式会社製)と、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート(20質量部)との混合物である。
[実験6]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(B)に変更し、樹脂粒子(B)の配合比を35%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)の配合比を65%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材6を得た。樹脂粒子(B)は、粒子径が2.0μmのシリコーン樹脂「トスパール120(モメンティブ・パーフォマンス・マテリアルズ社製)」である。
[実験7]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(B)に変更し、樹脂粒子(B)の配合比を30%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を70%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材7を得た。
[実験8]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(C)に変更し、樹脂粒子(C)の配合比を35%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を65%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材8を得た。樹脂粒子(C)は、粒子径が0.2μmのテフロン樹脂「マイクロディスパース200(ポリサイエンス社製)」である。
[実験9]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(D)に変更し、樹脂粒子(D)の配合比を40%とした。硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材9を得た。樹脂粒子(D)は、粒子径が1.5μmのアクリル樹脂粒子「MX−150(綜研化学株式会社製)」である。
[実験10]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(E)に変更し、樹脂粒子(E)の配合比を40%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材10を得た。樹脂粒子(E)は、粒子径が3.0μmのシリコーン樹脂粒子「トスパール130(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)」である。
[実験11]
樹脂粒子(A)を含まない以外は、実施例1と同様にして、定着部材11を得た。
[実験12]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(F)に変更し、樹脂粒子(F)の配合比を40%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(Y)に変更し、硬化性樹脂組成物(Y)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様にして、定着部材12を得た。樹脂粒子(F)は、粒子径が4.0μmのシリコーン樹脂粒子「トスパール240(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)」である。
[実験13]
実験1の離型層を構成する樹脂粒子(A)を樹脂粒子(C)に変更し、樹脂粒子(C)の配合比を40%とした。また、硬化性樹脂組成物(X)を硬化性樹脂組成物(PFA)に変更し、硬化性樹脂組成物(PFA)の配合比を60%とした以外は、実験1と同様である。硬化性樹脂組成物(PFA)は、テフロン樹脂粒子を分散させたPFAディスパージョン「PFA−950HP Plus(三井・デュポンフロロケミカル社製)」である。当該塗布液を基材および弾性層のシームレス状の積層体上にスプレーコートし、340℃で30分間焼成し、膜厚15μmの離型層を有する定着部材13を得た。
離型層の構成要素と、組成比とを表1に示す。
得られた定着部材1〜13の定着性の評価および分離性の評価を下記条件で行った。
(評価方法)
定着部材を、フルカラー複写機「bizhub PRESS C1070」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)の定着ベルトとして当該フルカラー複写機に装着し、印字率5%、25%、50%、100%のフルカラー画像をそれぞれ10000枚ずつ出力する実写耐久試験を定着ベルトごとに行った。この耐久試験の後に、凹凸紙定着性と薄紙通紙巻き付き性を下記のように評価した。
(1)凹凸紙への定着性
凹凸紙への定着性の評価は、凹凸のあるエンボス紙(レザック紙 坪量300g/m2)を用いて、フルカラーのベタ画像を出力し、画像の光沢度(凹凸の追従性)を測定して、以下の基準で評価した。ベタ画像内での光沢度の差が小さいほど、凹凸紙への定着性に優れる。
○:ベタ画像内にて凹部凸部に係らず光沢度に、目視で確認される程の差がない
△:ベタ画像内にて光沢度に、目視で確認される僅かな差はあるが、実用上問題ない
×:ベタ画像内にて凹部に光沢度が凸部のそれに対して目視でわかるほど低く、実用上問題である
(2)薄紙の通紙時の巻き付き性
薄紙の通紙時の巻き付き性の評価は、薄紙(NPI上質紙 坪量64g/m2)を用いて、画像の先端に1mm刻みで任意の余白を有したシアン、マゼンタ2層のベタ画像(red)を出力し、巻き付きを起こすことなく通紙できる最も少ない先端余白幅を測定して、以下の基準で評価した。先端余白幅が小さいほど、巻き付き防止性能に優れる。
○:先端余白2mm以下でベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能
△:先端余白2mm超4mm以下でベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能(実用上問題ない)
×:先端余白4mm超でベタ画像の巻き付きなく薄紙の通紙が可能(実用上問題あり)
定着部材の定着性および分離性の評価結果を表2に示す。
表2に示されるように、0.2〜3.0μmの粒子径を有する樹脂粒子(アクリル樹脂、シリコーン樹脂粒子またはテフロン樹脂粒子)を含む定着部材1〜10では、定着性および分離性が十分であった。一方、4.0μmの粒子径を有する樹脂粒子を含む定着部材12では、定着性および分離性ともに評価結果が悪くなることがわかった。これは、粒子径が3.0μm超の場合、離型層の表面に樹脂粒子による凹凸が形成されてしまい、記録媒体との接触面積が減少するためと考えられる。また、粒子径が0.2μm未満の場合、樹脂粒子が凝集しやすいため所望する性能を有する離型層を得ることは難しくなる。したがって、粒子径が0.2〜3.0μmの樹脂粒子を含有することにより、定着性および分離性の良好な定着部材を得ることができる。
また、フッ素樹脂と多官能メタアクリレートとの樹脂混合物(ラジカル重合性組成物)で作製した定着部材1〜10は、PFAを単独で作製した定着部材13よりも良好な結果を得た。このことから、フッ素樹脂のビニル基に多官能メタアクリレートを付加させることにより、フッ素樹脂単独の架橋構造よりも柔軟性が付与され、硬さと柔らかさの両方を備えた離形層を形成できることがわかる。
さらに、樹脂粒子を含む定着部材1〜10は、樹脂粒子を含まない定着部材11よりも定着性および分離性が向上していることがわかる。これは、樹脂粒子は、真球状の形状を保ったまま離型層に分散して存在している。樹脂粒子は、離型層を構成する硬化性フッ素樹脂の硬さおよび弾性と近い物性を有する樹脂材料を選択しているが、両者の物性は完全に一致しない。これにより、離型層中に存在する樹脂粒子により、離型層の表面は、柔らかい部分と硬い部分の両方を有することになるので、記録媒体の表面の凹凸に追従しやすくなるからであると考えられる。
また、樹脂粒子の粒径を制御することにより離型層表面が適度に疑似フラクタルな表面を形成することになり、平滑な面に比べて撥水、撥油性が向上して、トナーに対する離型性が向上させることができると考えられる。
さらに、離型層に樹脂粒子が分散されていることにより、弾性層の優れた柔軟性を用紙の凹凸に追従して伝えることができ、このため、用紙の凹部においてもトナーの定着性が損なわれない。したがって、用紙の表面における凹凸に関わらず、トナーを十分に溶融状態にさせることで高光沢、かつ、高画質の画像を形成することができると考えられる。