JP2013167528A - フッ素含有ポリマーコーティングが施された機能性粒子 - Google Patents

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Abstract

【課題】標的物質の分離、分析等に際して粒子への標的物質の結合量が大きく、かつ、く、かつ、磁気分離速度も速い磁性粒子を提供すること。
【解決手段】標的物質が結合できる磁性粒子であって、磁性を帯びたコア粒子、および、そのコア粒子の表面に設けられたポリマーコート層を有して成り、標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が、コア粒子および/またはポリマーコート層に固定化されてなり、また、ポリマーコート層がフッ素元素を含んで成ることを特徴とする、磁性粒子が提供される。
【選択図】なし

Description

本発明は、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製、反応などに適した機能性粒子に関する。特に、本発明は、フッ素含有ポリマーコーティングが施された磁性粒子に関する。
細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製および分析等の生化学用途に利用される機能材として、特定の標的物質と特異的に結合または反応する複合粒子が従来より知られている(特許文献1および2参照)。かかる複合粒子は、磁性を帯びており、例えば非磁性のビーズ中に磁性体材料を含ませることによって形成される。標的物質の分離に際しては、まず、標的物質が含まれる試料中に複合粒子を供し、複合粒子の表面に標的物質を結合させる。次いで、磁場の印加により複合粒子を移動させて集合・凝集させ、その後、集合・凝集した複合粒子を回収することによって、複合粒子に結合した標的物質を回収している。このような磁場または磁気を用いた手法(以下では「磁気分離法」または単に「磁気分離」とも呼ぶ)は、遠心分離法、カラム分離法または電気泳動法などの手法に比べて、少量の試料に対しても実施でき、また、標的物質を変性させずに短時間で実施できる特徴を有している。
特に標的物質の分析を目的とする粒子について言えば、ラテックス凝集免疫比濁法に用いられるポリマー粒子が存在している。
そのような生化学用途に用いられる磁性粒子(特許文献1)は、通常、ナノメートルからマイクロメートルの範囲の粒子径を持ち、粒子構造が多孔質ポリマー粒子内に数nm〜数十nmの超常磁性粒子を析出させた構造となっている。多孔質ポリマーを用いているため、粒子の比表面積が大きく標的物質の結合量は多いものの、ポリマー中に含まれる磁性体の割合が小さいので磁気分離の速度が遅くなる場合があった。
特表昭59−500691号公報 特表平04−501956号公報
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題の1つは、標的物質の分離、分析等に際して粒子への標的物質の結合量が多きく、かつ、磁気分離速度も速い粒子を提供することである。本発明の別の課題は、特に、水中での分散性が高く、かつ、粒径がサブミクロンと小さいながら、磁気分離速度も速い粒子を提供することである。更に別の本発明の課題は、水系媒体中にて粒径分布の均一性が高く、それぞれの粒子において標的物質の反応性がより均質化した磁性粒子を提供することでもある。
上記課題を解決するため、本発明では、標的物質が結合できる磁性粒子であって、
磁性を帯びたコア粒子、および、そのコア粒子の表面に設けられたポリマーコート層を有して成り、
標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が、コア粒子および/またはポリマーコート層に固定化されてなり、また
ポリマーコート層はフッ素元素を含んで成ることを特徴とする、磁性粒子が提供される。
本発明の磁性粒子は、コア粒子の表面に設けられたポリマーコート層がフッ素成分(フッ素原子)を含んでいることを特徴の1つとしている。特に好ましくは、ポリマーコート層の少なくとも表面部にフッ素成分(フッ素原子)が含まれている。ここで「ポリマーコート層の少なくとも表面部にフッ素元素が含まれている」といった表現は、ポリマーコート層の表面部にのみフッ素成分(フッ素原子)が含まれているだけでなく、その表面部以外のポリマーコート層内部にもフッ素成分(フッ素原子)が含まれ得ることを実質的に意味している。
本明細書において「表面部」とは、ポリマーコート層の最表面から2〜7nmまでの深さ範囲に相当する部分を実質的に指している。それゆえ、本発明の磁性粒子では、少なくとも「ポリマーコート層の最表面から2〜7nmまでの深さ範囲」においてフッ素元素が含まれている。
本発明のある好ましい態様では、ポリマーコート層の表面部に含まれるフッ素元素および炭素元素につき、炭素元素に対するフッ素元素の割合を示すF/C比(C元素の原子数に対するF元素の原子数の割合)が0.005〜0.1となっている。
別のある好ましい態様では、磁性粒子の重量(g)に対するフッ素元素の含量(μg)は5〜2500μg/gである。
本発明のある好ましい態様では、ポリマーコート層が、コア粒子の表面に粗面コーティングされたポリマーシェル部を有して成り、磁性粒子がポリマーシェル部の有する表面粗さによって粗面化されて成り、磁性粒子の比表面積の値(m/g)が、コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合のコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.5倍〜500倍となっている。かかる態様においては本発明の粒子がポリマー粗面化により構成されている。換言すれば、磁性粒子は、コア部分が磁性を帯びた粒子を成し、その表面がポリマーの粗面コーティングによって凹凸状を成したコアシェル構造を有している。フッ素元素は、かかるポリマーシェル部に対して含まれていてよい。
本発明のある好ましい態様では、ポリマーシェル部は、コア粒子との化学的結合に起因してコア粒子表面に設けられており、それゆえ、ポリマーシェル部がコア粒子の表面の少なくとも一部を連続的に被覆している。即ち、連続的な形態を有するポリマーシェル部がコア粒子表面の全部または一部に設けられている。本明細書において「連続的」とは、コア粒子表面の一部または全部に設けられたポリマーシェル部が途中で部分的に途切れることなく形成されている態様、即ち、ポリマーシェル部のボディーが空隙部(特にコア粒子表面を露出させる空隙部)を有することなく形成されている態様を実質的に意味している。
本発明のある好ましい態様では、ポリマーシェル部はコア粒子の表面を露出させないようにコア粒子を全体的に包囲している。つまり、凹凸状のポリマーシェル部がコア粒子の表面を露出させない厚みでコア粒子を全体的に包囲している。
ここで、本明細書において「粗面化」とは、コア粒子表面にコーティングされた被着ポリマーの有する面粗さによって粒子全体の表面積が増加している態様を実質的に意味している。それゆえ、本明細書において「粗面コーティング」とは、形成されるポリマー部の有する面粗さによって対象粒子の表面積が増加するようにポリマーをコーティングするといった態様を実質的に意味している。
ポリマーシェル部を有する場合、“被着ポリマーの面粗さによる粗面化”に起因して、磁性粒子の比表面積の値(m/g)が、コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合におけるコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.5倍〜500倍となっている。ここで、“平滑な完全球体”とは、幾何学的な形状が真球となった球体のことを実質的に意味している。「真球」とは、中心を通る球直径が実質的に全て同一となっている球のことである。従って、『磁性粒子の比表面積の値(m/g)が、コア粒子を“平滑な完全球体”とみなした場合におけるコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.5倍〜500倍』とは、本発明の磁性粒子の比表面積の値(m/g)が、コア粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の表面の比表面積の1.5倍〜500倍となっていることを実質的に意味している。例えば、「コア粒子を“平滑な完全球体”とみなした場合におけるコア粒子の比表面積」は、コア粒子の電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて、ピクセル個数等から求めた該コア粒子の面積と等しい面積を有する真円の直径から算出してよい。但し、比表面積は多数個の粒子の平均値として通常求められるため、上記のような写真に基づいて例えば300個の粒子の粒径を測定し、その数平均として算出した平均粒径を用いるのが適している場合が多い。以上のような写真からの(平均)粒径の測定には、画像処理ソフトウェア(例えば「Image-Pro Plus (Media Cybernetics, Inc.製)」)等を用いることができる。以上に鑑みて纏めると、本明細書における「コア粒子を“平滑な完全球体”とみなした場合におけるコア粒子の比表面積の値(m/g)」とは、コア粒子写真の面積と同一面積の真円の直径の平均値Lに相当する直径Dを有する真球(かかる真球の密度はコア粒子の密度と同一)の比表面積の値(m/g)を実質的に意味している。
本発明の磁性粒子は、その表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されている。換言すれば、「標的物質と結合する物質または官能基」がポリマーコート層および/またはコア粒子に固定化されている。従って、標的物質と本発明の磁性粒子とを共存させると、標的物質が磁性粒子に結合することができるので、標的物質の分離、精製または抽出などの種々の用途に対して本発明の磁性粒子を用いることができるだけでなく、更にはテーラーメード医療技術の用途に対しても本発明の磁性粒子を好適に用いることができる。ここで、「標的物質」とは、分離のみならず、抽出、定量、精製または分析などの種々の対象になり得る物質を実質的に意味しており、粒子に直接的または間接的に結合できるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。具体的な標的物質として例えば、核酸、蛋白質(例えばアビジンおよびビオチン化HRPなども含む)、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等を挙げることができる。本発明の粒子は、このように種々の標的物質の分離、精製、抽出もしくは分析などに用いることができる点で、種々の機能を奏するものといえる。従って、本発明の粒子は「機能性粒子」と呼ぶこともできる。
ある好適な態様では、ポリマーシェル部が芳香族ビニル骨格を含んで成る。特にかかる芳香族ビニル骨格は、ジビニルベンゼン骨格および/またはジビニルベンゼン誘導体骨格であることが好ましい。更なる好適な態様では、ポリマーシェル部は、その分子にジビニルベンゼン骨格、ジビニルベンゼン誘導体骨格、カルボキシル基、ポリエチレングリコール基、スチレン、スチレン誘導体骨格、スルホン酸基、硫酸エステル基、コリンのリン酸エステル基、および、アミノ基を含む骨格ならびに官能基から成る群から選択される少なくとも1種以上の骨格または官能基を有している。
ある好適な態様では、コア粒子が5nm〜3μmの粒径を有している。つまり、本発明の磁性粒子のコアとなる磁性部分が5nm〜3μmの粒径を有し得る。
別のある好適な態様では、ポリマーコート層が、親水性を呈する親水ポリマーコート部(親水ポリマー部)を有して成る。かかる場合、フッ素元素は親水ポリマーコート部に対して含まれていることが好ましい。
更に別のある好適な態様では、ポリマーコート層が、ポリマーシェル部に加えて、親水ポリマーコート部(親水ポリマー部)を更に有して成る。かかる場合、ポリマーコート層では、例えば、粗面ポリマーシェル部の外側に親水ポリマーコート部(親水ポリマー部)が設けられていてよい。かかる場合、フッ素元素はポリマーシェル部および親水ポリマーコート部の少なくとも一方に含まれていることが好ましい。
本発明のある好適な態様では、コア粒子が球形状を有している。特に、コア粒子の長短半径比が1.0〜1.3の範囲となった球形状を有している。球形状のコア粒子の場合、そのコア粒子の粒径分布を示すCV値は好ましくは18%以下となっている。ここでCV値とは、変動係数(Coefficient of Variation)のことを指している。より具体的には、本明細書における「CV値」は、粒子サイズ測定(特にコア粒子のサイズ測定)により得られた全データを統計処理して算出される係数であって、以下の式1により定義される。
[式1]

好ましくは、本発明の磁性粒子の飽和磁化は2A・m2/kg〜100A・m2/kgとなっている。例えば、飽和磁化が20A・m2/kg〜100A・m2/kgとなっている。また、好ましくは、本発明の磁性粒子の保磁力は0.3kA/m〜15.93kA/m(3.8〜200エルステッド)となっている。例えば保磁力が0.79kA/m〜15.93kA/m(10〜200エルステッド)となっていたり、あるいは特に球形コア粒子から成る場合では、磁性粒子の保磁力が0.3kA/m〜6.5kA/m(3.8〜81.7エルステッド)となっていたり、更には0.399kA/m〜6.38kA/m(5〜80エルステッド)となっていたりする。
本発明の磁性粒子では、「標的物質を結合させることが可能な物質」が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、プロテインAおよびプロテインGから成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であってよい。同様に、「標的物質を結合させることが可能な官能基」は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基、ジスルフィド基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、および、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であってよい。
本発明においては、「ポリマーコート層にフッ素元素が含まれる磁性粒子」についての製造方法も提供される。かかる製造方法は、標的物質が結合できる磁性粒子を製造する方法であって、
磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子と、原料モノマーと、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、原料モノマーから得られるポリマー成分を前駆体粒子に化学的に結合させてポリマーコート層を形成する工程を含んでなり、
前記工程においては、原料モノマーとしてフッ素含有モノマーが少なくとも含まれることを特徴としている。
尚、本明細書において「化学的結合(または“化学的に結合”)」とは、いわゆる一般的な技術的意味の“化学結合”のことを意味しており、例えば「化学大事典2」(共立出版株式会社、化学大事典編委員会、第299頁)に記載されているような化学結合のことである。特に本発明でいう「化学的結合」は“物理的吸着”や“磁気的吸着”に相反する態様を指すものとして使用している。
ある好適な態様では、フッ素含有モノマーが、原料モノマー基準で2モル%〜40モル%の割合で原料モノマーとして使用される。
本発明の製造方法は、「ポリマーコート層がコア粒子の表面に粗面コーティングされたポリマーシェル部を有して成る磁性粒子」の製造にとって特に好適なものであってもよい。かかる場合、化学的に結合したポリマー成分から構成される磁性粒子のポリマーシェル部をコア粒子の表面の少なくとも一部に連続的に形成し、そのポリマーシェル部の有する表面粗さによって磁性粒子を粗面化することが好ましい。かかる場合、原料モノマーに芳香族ビニルモノマーが含まれており、それによって、芳香族ビニル骨格(例えばジビニルベンゼン骨格および/またはジビニルベンゼン誘導体骨格)を含んで成るポリマーシェル部を形成することも好ましい。
更に、本発明の製造方法は、「ポリマーコート層が親水ポリマーコート部を有して成る磁性粒子」の製造にとって好適なものであってもよい。かかる場合、原料モノマーに、親水性モノマーが更に含まれており、それによって、前駆体粒子に親水ポリマーコーティング処理を施して親水ポリマーコート部を形成することが好ましい。更にいえば、本発明の製造方法は、「ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマーコート部の双方を有して成る磁性粒子」の製造にとって特に好適なものであってもよい。かかる場合の製造方法では、
標的物質が結合できる磁性粒子を製造する方法であって、
(i)磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子に対して粗面ポリマーコーティング処理を施し、前駆体の表面にポリマーシェル部を形成する工程(即ち、前駆体粒子を粗面化させる工程)、および
(ii)粗面ポリマーコーティング処理が施された前駆体粒子(即ち、粗面化された前駆体粒子)に対して親水ポリマーコーティング処理を施し、その前駆体粒子に親水ポリマーコート部を形成する工程
を含んで成り、
工程(i)粗面ポリマーコーティング処理および/または工程(ii)の親水ポリマーコーティング処理に用いる原料モノマーにはフッ素含有モノマーが少なくとも含まれることを特徴としている。
かかる製造方法では、「工程(i)の粗面ポリマーコーティング処理」と「工程(ii)の親水ポリマーコーティング処理」との間で前駆体粒子を物理的分散処理に付すことが好ましい。尚、ここでいう「物理的分散処理」とは、前駆体粒子に対して外力を加える操作のことを意味しており、特に、凝集状態にある前駆体粒子に対して外力を与えてその凝集状態を減じる操作のことを実質的に意味している。ここで「物理的分散処理」にいう「物理的・・処理」という用語は、“粗面ポリマーコーティング処理”や“親水ポリマーコーティング処理”などの「化学的処理」に相反する態様を指すものとして使用している。
ある好適な態様では、物理的分散処理に際して前駆体粒子に剪断力を作用させる。特に、媒体中で凝集状態にある前駆体粒子に対して外力を加えて、それによって前駆体粒子に剪断作用を及ぼし、その凝集状態を減じる。例えば、前駆体粒子(特に複数の前駆体粒子を含有した液体物)がスリット部を通過するように、加圧下において前駆体粒子を当該スリット部へと供することによって、前駆体粒子の凝集状態を減じてよい。
かかる本発明の製造方法における工程(i)は、上述した態様で実施してもよい。つまり、粗面ポリマーコーティングに際して、前駆体粒子と、原料モノマー(例えばフッ素含有モノマーおよび芳香族ビニルモノマー)と、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、原料モノマー由来のポリマー成分を前駆体粒子に化学的に結合させる処理を行う。そして、特にその処理においては、“化学的に結合したポリマー成分”から構成されるポリマーシェル部をコア粒子の表面の少なくとも一部に連続的に形成し、ポリマーシェル部の有する表面粗さによって磁性粒子を粗面化する。
本発明の製造方法は、「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」を粒子に固定化する処理を更に含んで成る。つまり、「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」をポリマーコート層および/またはコア粒子に固定化する処理を含んでいる。
尚、球形のコア磁性粒子についていえば、以下の工程(I)および(II)を含んで成る方法によって調製することができる:
(I)鉄イオンを含んで成る溶液とアルカリ溶液とを混合し、得られる混合溶液中で「鉄元素を含んで成る水酸化物」を析出させる工程、および
(II)混合溶液を加熱処理に付し、水酸化物から磁性粒子を形成する工程。
コア磁性粒子の調製のある好適な態様では、工程(II)において、水とグリセリンとを含んで成る混合溶液中で水酸化物をソルボサーマル反応に付す。また、別のある好適な態様では、工程(II)において、加熱処理に際して、混合溶液にマイクロ波を照射する。即ち、加熱源としてマイクロ波を用いる。
本発明では、磁性粒子のポリマーコート層にフッ素元素が含まれており、それに起因して、標的物質の結合量は多くなる。つまり、標的物質の分離、分析等に際して本発明の磁性粒子を用いた場合、試料中の標的物質がより多く磁性粒子に結合することになる。より具体的には、本発明の磁性粒子は、粒子の単位重量・単位体積あたりで従来の粒子よりも多く「標的物質を結合させることができる物質または官能基」が固定化された粒子とすることが可能であり、その結果、標的物質の結合量は多くなる。このように、標的物質の結合量が多いことは、1粒子あたり結合できる標的物質の量を多くできることを実質的に意味している。1粒子あたりに結合できる標的物質の量が多くなると、標的物質の分離回収の効率が高くなると共に、標的物質を検出する際の粒子体積あたりの検出感度が高くなる。
「標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量の増大効果」のメカニズムは正確には解明されていない。それゆえ、あくまでも推定の域を出ないが、ポリマーコート層にフッ素が含まれることによって、例えば「磁性粒子同士の凝集の低減が促進される、即ち、分散性が向上する」などが要因の1つとして考えられる。あるいは、ポリマーコート層にフッ素が含まれることによって、「標的物質結合可能な物質・官能基の固定化に対してポリマーコート層が化学的に有用な作用を発揮する」なども要因として考えられ得る。いずれにせよ、本発明では、コア粒子表面のポリマーコート層にフッ素元素が含まれることによって、標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量が増大し、ひいては、使用に際して標的物質の結合量は多くなる効果が奏される。
ポリマーコート層がポリマーシェル部を有している場合では、かかるポリマーシェル部自体が有する面粗さによって磁性粒子の表面積が増加する(以下では「ポリマーシェル部」のことを「粗面ポリマーシェル部」とも称する)。これは、コア粒子自体の凹凸により磁性粒子の粗面化がなされているのではなく、そのコア粒子の表面に設けられたポリマーシェル部が有する凹凸によって粗面化がなされていることを意味している。特に、本発明では、ポリマーシェル部がコア粒子の表面の全部または一部を連続的に被覆しており、そのポリマーシェル部の外表領域が凹凸を成している。従って、ポリマーコート層に凹凸がない滑面ポリマーコートの粒子と比べて、1粒子あたりの比表面積が大きくなっている。その結果、本発明の磁性粒子は、その表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」をより多く固定化させることができ、1粒子あたりに結合できる標的物質の量を多くすることができる。つまり、ポリマーシェル部の場合では、“フッ素元素含有”に起因するだけでなく、“ポリマーコート層の凹凸”にも起因して、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が更に多くなり得る。
本発明の磁性粒子は、粒子の大部分を占めるコア部分が磁性を帯びている。つまり、「従来の多孔質ポリマー粒子内に数nm〜数十nmの超常磁性粒子を析出させた構造を持つ磁性粒子」と比べた場合、本発明では、粒子表面のポリマーコート層に起因して粒子の全体積に占める磁性材料の割合が大きくなっている。つまり、磁化を持たないポリマー部分による磁化低下が低減されており、粒子全体として磁化量が比較的大きくなっている。従って、本発明の磁性粒子を用いると、磁気分離速度を速くすることができ、短時間で標的物質の結合、分離や精製、定量などを実施できる。特に本発明においては、粒子表面のポリマーコート層の厚さを調整することによって粒子全体積を占める磁性材料の割合を適宜調整することができる(例えば、ポリマーコート層の厚さを薄くすることによって粒子全体積を占める磁性材料の割合を大きくすることができる)といった点でも有利な効果が奏され得る。
また、ポリマーコート層が親水ポリマーコート部を有して成る場合では、本発明の磁性粒子は、特に界面活性剤を用いなくても緩衝液や超純水等の水系媒体中で更に優れた分散性および分散安定性を呈するものとなる。かかる優れた分散性および分散安定性は、粗面ポリマーコーティング処理後に再分散処理して親水ポリマーコーティング処理を行った場合には特に有利に発揮され得る。分散安定性が高いと、その用途において、磁性粒子と標的物質との反応速度の向上や磁性粒子が沈降しにくいため、標的物質との安定的な反応時間の確保という効果が奏
され得る。
更に、球形状のコア粒子から構成される本発明の磁性粒子では、構造磁気異方性が低下し、保磁力が低下し得る。従って、このような本発明の磁性粒子は、磁気捕集後の再分散性が優れ、同一用途または別の用途において再度使用することが可能となり、その再使用において生体物質への結合能が大きく低下しない、といった効果が奏され得る。特に狭い粒径分布を有する球形コア粒子から成る場合では、バルク粒子中のそれぞれの粒子の分散性および沈降性などが均一となり、その結果、バルク粒子中のいずれの部分の粒子を用いても、それぞれの粒子が標的物質に対して同等の反応性ないしは結合性を有し得る。
図1は、実施例1における「被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1」の電顕写真である。 図2は、実施例1および比較例1におけるコア粒子r1の電顕写真である。 図3は、比較例1における「ポリマー被着化された磁性粒子R1」の電顕写真である。 図4は、磁気捕集性の評価試験の測定結果である。 図5は、粒子P1’の粒子表面のSEM画像である。 図6は、粒子P2’の粒子表面のSEM画像である。 図7は、粒子r1’の粒子表面のSEM画像である。 図8は、粒子r2’の粒子表面のSEM画像である。 図9は、粒子R2’の粒子表面のSEM画像である。 図10は、本発明に係る磁性粒子のTEM写真である。 図11は、磁気捕集性の評価試験の測定結果である。 図12は、分散安定性の評価試験の結果を表す写真図である(左:磁性粒子P2’、右:磁性粒子P1’)。
以下にて、本発明の磁性粒子を詳細に説明する。
(本発明の磁性粒子の構成)
本発明の磁性粒子は、「磁性を帯びたコア粒子」および「コア粒子の表面に設けられたポリマーコート層」を有して成る。本発明では、ポリマーコート層がフッ素元素(F)を含んでいる。つまり、本発明の磁性粒子のポリマーコーティング層においてはフッ素元素(F)が少なくとも含まれている。かかるフッ素元素(即ち、フッ素原子)は、ポリマーコート層におけるポリマーの骨格部位あるいは官能基部位のいずれに含まれていてもよい。
特にXPS(X線光電子分光分析)の結果に基づくと、本発明の磁性粒子は、ポリマーコート層の“少なくとも表面部”にフッ素原子を含んで成る。ここでいう「表面部」とは、XPSの分析深さに鑑みて使用しているものであり、例えば、ポリマーコート層の最外表面から2〜7nmまでの深さ範囲に相当する部分を実質的に意味している。それゆえ、本発明の磁性粒子においては、少なくとも「ポリマーコート層の最外表面から2〜7nmまでの深さ範囲」においてフッ素元素が含まれているといえる。
ポリマーコート層の表面部に含まれるフッ素原子および炭素原子についていえば、炭素原子に対するフッ素原子の割合を示すF/C比(C元素の原子数に対するF元素の原子数の割合)が0.005〜0.1となっていることが好ましい。換言すれば、含有フッ素元素の原子数比率につき、XPSによるポリマーコート層の表面部測定に基づきC:F=1:0.005〜1:0.1となっていることが好ましい。このように極微量のF元素がポリマーコート層の表面部に含まれているだけでも、本発明では「フッ素元素に起因した“標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量の増大効果”」が奏される。炭素原子に対するフッ素原子の割合を示すF/C比(C元素の原子数に対するF元素の原子数の割合)は、更に小さい数値範囲に相当するものであってもよく、例えば、0.005〜0.07、0.005〜0.05、0.005〜0.03(例えば0.008〜0.03)などとなっている。
また、極微量のF元素がポリマーコート層の表面部に含まれているだけでも本発明の効果は奏され得るということは、逆にいえばF元素がポリマーコート層の表面部にある程度多く含まれていてもよいことを意味している。例えば、炭素原子に対するフッ素原子の割合を示すF/C比(C元素の原子数に対するF元素の原子数の割合)が0.1〜1.0あるいは0.1〜2.0程度になっていてもよい。
尚、本発明では上記XPS測定に関する値は、以下の条件で測定された値に相当し得ることに留意されたい。

・測定装置:アルバック・ファイ株式会社製(型式ESCA5500MC)のX線光電子分光分析装置
・分析アパーチャー径:φ800μm
・X線源:MgKα400W(15kV)
・光電子取出角:45°
IC(イオンクロマトグラフィー)の結果に基づくと、磁性粒子の重量(g)に対するフッ素含量(μg)は好ましくは5〜2500μg/gとなっている。上述したように、極微量のF元素がポリマーコート層に含まれているだけでも、「フッ素元素に起因した“標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量の増大効果”」が奏される。それゆえに、フッ素含量の下限数値は、約5μg/gと非常に少ない数値となり得る。
フッ素含量が少ない態様に特化して考えると、磁性粒子の重量(g)に対するフッ素元素の含量(μg)は好ましくは5〜50μg/g、より好ましくは5〜30μg/g、更に好ましくは5〜15μg/g(例えば、5〜9μg/g)であり得る。一方、フッ素含量が多い態様に特化して考えると、磁性粒子の重量(g)に対するフッ素元素の含量(μg)が好ましくは100〜3000μg/g、より好ましくは500〜2500μg/g、更に好ましくは1000〜2300μg/g(例えば、1500〜2300μg/g)であり得る。
尚、本発明では上記IC測定に関する値は、以下の条件で測定された値に相当し得ることに留意されたい。

・測定装置:DIONEX製(型式DX−320)イオンクロマトグラフィー装置
分離カラム:Ion Pac AS15(4mm×250mm)
ガードカラム:Ion Pac AG15(4mm×50mm)
除去システム:ASRS−300(エクスターナルモード)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:KOH水溶液(溶離液ジェネレーターEG40を使用)
溶離液流量:1.2mL/min
試料注入量:250μL
・自動試料燃焼装置:三菱化学アナリテック製 AQF−100
温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス流量:O 400mL/min,Ar/O 200mL/min、
Ar(送液ユニット:目盛2)150mL/min
燃焼プログラム;下表参照
本発明では、ポリマーコート層のフッ素元素に起因して、標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量が増大し、ひいては、使用に際して標的物質の結合量は多くなるといった効果が奏される。“標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量の増大効果”の点でいえば、一般的にはフッ素含量が多い方が、その効果が大きくなり得る。しかしながら、“熱安定性”の点まで踏まえると、むしろフッ素含量が少ない方が望ましいといえる場合がある。あくまでも一例にすぎないが、比較的高温な環境下で長期に保存する場合(例えば37℃程度の比較的高い温度で数週間(例えば2週間程度)静置して磁性粒子が保存される場合など)では、フッ素含量が少ない磁性粒子(例えばフッ素含量が上記“5〜9μg/g”程度)の方が、“標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量”に大きな変動が生じることなく保存できる。つまり、フッ素含量が少ない場合にあっては、室温下ないしは冷蔵庫内のような低温環境下でなくても、長期安定性に優れた粒子となり得る。このように本発明の磁性粒子では、ポリマーコート層のフッ素含量が極僅かなものであっても、従来には見られない非常に特異な有利な効果が奏され得るといえる。
ある好適な態様では、ポリマーコート層が、コア粒子の表面に粗面コーティングされたポリマーシェル部を有して成して成る。また、ポリマーコート層は、親水性の親水ポリマーコート部を有する場合もある。更には、ポリマーコート層が、ポリマーシェル部に加えて、親水ポリマーコート部を有する場合もある。本発明では、いずれの場合であっても、ポリマーコート層にフッ素元素が含まれている。具体的には、ポリマーシェル部にフッ素元素が含まれていたり、親水ポリマーコート部にフッ素元素が含まれていたりする。尚、ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマーコート部の双方を有する場合、少なくとも親水ポリマーコート部にフッ素原子が含有されてあればよく、ポリマーシェル部にはフッ素原子が含有されていても、含有されていなくても、いずれであってもかまわない。
これらのポリマーコート層の態様について詳述しておく。
ポリマーコート層がコア粒子の表面に粗面コーティングされたポリマーシェル部を含んでいる場合、本発明の粒子は、コア部分が磁性の微粒子を成し、その微粒子表面がポリマーで粗面コーティングされて成る凹凸状のコアシェル構造を有している(特に好ましくは、微粒子表面を全体的にポリマーが覆っており、そのように覆っているポリマー層の表面が連続的な房状の凹凸面を成している)。そして、かかるポリマーシェル部のポリマーの骨格部位および/または官能基部位にフッ素元素が含まれている。
粗面コーティングに起因して、磁性粒子の比表面積は大きなものとなっている。つまり、コア粒子の表面に設けられたポリマーシェル部の有する凹凸によって粗面化が実現されているので、磁性粒子の比表面積は大きなものとなっている。具体的には、磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)が、そのコア粒子部分を“平滑な完全球体”とみなした場合の該完全球体の比表面積の計算値(m/g)の1.5倍〜500倍となっている。つまり、ポリマーコーティング後の磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)が、ポリマーコーティング前のコア部分の粒子の平均直径の測定値をもとにコア部分の粒子が平滑な完全球体として算出した比表面積の計算値(m/g)の1.5倍〜500倍の値となっている。
即ち、ポリマーシェル部を有する磁性粒子は、ポリマーシェル部によって粗面化されており、粒子の比表面積が、コア粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の平滑表面の比表面積の1.5倍〜500倍となっている。これは、粒径aのコア粒子部分を有する本発明の粒子の各々の比表面積が、粒径aを有する真球粒子(コア粒子と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.5倍〜500倍となっていることを意味しているか、あるいは、平均粒径aのコア粒子部分を有する複数の本発明の磁性粒子(即ち、複数個の粒子から成る粉末状の粒子群)の比表面積の平均値が、粒径aを有する真球粒子(コア粒子と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.5倍〜500倍となっていることを意味している。
つまり、本発明の粒子の比表面積の値をSP粒子(m/g)とし、コア粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の値をSPコア真球(m/g)とすると、SP粒子=1.5×SPコア真球〜500×SPコア真球となっている。ここで、SP粒子<1.5×SPコア真球となると、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が減少し、標的物質の全体的な検出量が減少してしまう一方、SP粒子>500×SPコア真球となると、標的物質以外の物質が粒子本体に結合する「非特異結合」が必要以上に増加し得るので実用上好ましくない。尚、SP粒子の下限値は、好ましくは1.6×SPコア真球、より好ましくは1.7×SPコア真球、更に好ましくは1.8×SPコア真球である。一方、SP粒子の上限値は、好ましくは100×SPコア真球、より好ましくは20×SPコア真球、更に好ましくは10×SPコア真球である。尚、粗面コーティングの処理条件および/またはポリマーシェル部やコア粒子の材質などの諸条件によっては、SP粒子の下限値が「1.5×SPコア真球」未満となったり、SP粒子の上限値が「500×SPコア真球」よりも大きくなったりする場合もあり得る。
ポリマーコート層が“親水性の親水ポリマーコート部”を有する場合、親水ポリマーコート部には、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、水酸基、エーテル基、アミノ基、ベタイン基およびホスホリルコリン基から成る群から選択される少なくとも1種以上の親水基が含まれていることが好ましい。親水ポリマーコート部を有する場合、かかるポリマーシェル部のポリマーの骨格部位および/または官能基部位にフッ素元素が含まれていることが好ましい。つまり、好ましくは親水ポリマーコート部は親水基とフッ素原子との双方を含んでいる。
ポリマーコート層が、ポリマーシェル部に加えて親水ポリマーコート部を有する場合では、本発明の磁性粒子は、「磁性を帯びたコア粒子」および「コア粒子の表面に粗面コーティング処理して得られる第1層目の粗面ポリマーシェル部」および「粗面ポリマーシェル部を備えたコア粒子に親水コーティング処理して得られる第2層目の親水ポリマーコート部」を有して成ることが好ましい。かかる親水ポリマーコート部においても、そのポリマーの骨格部位および/または官能基部位にフッ素元素が含まれていることが好ましい。上述したように、親水ポリマーコート部にフッ素が含まれていれば、ポリマーシェル部にはフッ素が含有されていても、含有されていなくても、いずれであってもかまわない。
このようにポリマーシェル部と親水ポリマーコート部とを有する場合では、第1層目の粗面ポリマーシェル部は、磁性粒子において厚みを持ったシェル部を構成しており、かかるポリマーシェル部によって表面粗面化が実現されている。換言すれば、コア部分が磁性の微粒子本体を成し、その微粒子本体の表面がポリマーで粗面コーティングされて成る凹凸状のコアシェル構造を有しており、第2層目を成す親水ポリマーコート層が設けられているといえども第1層目の粗面ポリマーシェル部に起因する凹凸の粗面化構造を保っている。
ポリマーシェル部に加えて親水ポリマーコート部が設けられている場合であっても、本発明の磁性粒子の比表面積は大きなものとなっている。つまり、第1層目の粗面ポリマーシェル部に起因して、第2層目に親水ポリマーコート部を備えた本発明の磁性粒子の比表面積は大きなものとなっている。具体的には、磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)が、そのコア粒子部分を“平滑な完全球体”とみなした場合の該完全球体の比表面積の計算値(m/g)の1.5倍〜500倍となっている。つまり、親水ポリマーコーティング後の磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)が、粗面ポリマーコーティング前のコア部分の粒子の平均直径の測定値をもとにコア部分の粒子が平滑な完全球体として算出した比表面積の計算値(m/g)の1.5倍〜500倍の値となっている。
即ち、ポリマーシェル部と親水ポリマーコート部との双方を有する磁性粒子は、第1層目の粗面ポリマーコート層によって粗面化されており、第2層目として親水ポリマーコート層を備えている場合であっても、粒子の比表面積が、コア粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の平滑表面の比表面積の1.5倍〜500倍となっている。これは、粒径aのコア粒子部分を有する本発明の粒子の各々の比表面積が、粒径aを有する真球粒子(コア粒子と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.5倍〜500倍となっていることを意味しているか、あるいは、平均粒径aのコア粒子部分を有する複数の本発明の磁性粒子(即ち、複数個の粒子から成る粉末状の粒子群)の比表面積の平均値が、粒径aを有する真球粒子(コア粒子と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.5倍〜500倍となっていることを意味している。つまり、コア粒子上に粗面ポリマーシェル部および親水ポリマーコート部を備えた本発明の磁性粒子の比表面積の値をSP粒子(m/g)とし、コア粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の値をSPコア真球(m/g)とすると、SP粒子=1.5×SPコア真球〜500×SPコア真球となっている。ここで、上述したように、SP粒子<1.5×SPコア真球となると、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が減少し、標的物質の全体的な検出量が減少してしまう一方、SP粒子>500×SPコア真球となると、標的物質以外の物質が粒子本体に結合する「非特異結合」が必要以上に増加し得るので実用上好ましくない。尚、SP粒子の下限値は、好ましくは1.6×SPコア真球、より好ましくは1.7×SPコア真球、更に好ましくは1.8×SPコア真球である。一方、SP粒子の上限値は、好ましくは100×SPコア真球、より好ましくは20×SPコア真球、更に好ましくは10×SPコア真球である。尚、粗面ポリマーコーティングの処理条件、親水ポリマーコーティングの処理条件、および/またはそれらポリマーコート層やコア粒子の材質などの諸条件によっては、SP粒子の下限値が「1.5×SPコア真球」未満となったり、SP粒子の上限値が「500×SPコア真球」よりも大きくなったりする場合もあり得る。
ここで、本発明の「磁性粒子の比表面積の測定値」(即ち、粗面ポリマーシェル部のみ若しくは親水ポリマーコート部のみを備えた磁性粒子またはそれら双方を備えた磁性粒子の比表面積の測定値)とは、比表面積細孔分布測定装置BELSORP−Mini(日本ベル社製)を用いて測定された値(特にBET法により測定された値)のことを指している。より厳密にいえば、「磁性粒子の比表面積の測定値」は、「標的物質を結合させることが可能な物質」または「標的物質を結合させることが可能な官能基」を固定化処理する前の状態の被着ポリマー粗面化された磁性粒子を上記BELSORP−Miniを用いて測定された値であるものの、便宜的に、上記固定化処理後の磁性粒子を上記BELSORP−Miniを用いて測定した値であってもかまわない。
本発明の磁性粒子(ポリマーコート層にフッ素元素を含む磁性粒子)は、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野の磁気分離用粒子または磁気プローブとして好適な磁気特性を有している。具体的には、ポリマーコート層を含む本発明の磁性粒子の飽和磁化は好ましくは2A・m2/kg(emu/g)〜100A・m2/kg(emu/g)であり、より好ましくは20A・m2/kg(emu/g)〜100A・m2/kg(emu/g)であり、更に好ましくは40A・m/kg(emu/g)〜90A・m/kg(emu/g)となっている(球形状コア粒子から構成された磁性粒子についてのみいえば、飽和磁化は好ましくは4A・m2/kg(emu/g)〜90A・m2/kg(emu/g)程度となっている)。磁性粒子の飽和磁化が上記の下限値を下回ると、粒子の磁界に対する感応性が低くなり、磁気応答性が低下してしまう傾向にある。その一方で、磁性粒子の飽和磁化が上記の上限値を上回ると、粒子が磁気的に必要以上に凝集して、その分散性が低下し得る。尚、本明細書における飽和磁化の数値は、例えば振動試料型磁力計(東英工業(株)製)を用いて、796.5kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加したときの磁化量を測定することにより得られる数値である。
一方、本発明の磁性粒子(ポリマーコート層にフッ素元素を含む磁性粒子)の保磁力は、好ましくは0.3kA/m〜15.93kA/m(3.8〜200エルステッド)であり、より好ましくは0.79kA/m〜15.93kA/m(10〜200エルステッド)であり、更に好ましくは1.59kA/m〜11.94kA/m(20〜150エルステッド)である。尚、球形状コア粒子から構成された磁性粒子についてのみいえば、保磁力は、好ましくは0.399kA/m〜6.38kA/m(5〜80エルステッド)であり、より好ましくは0.399kA/m〜4.79kA/m(5〜60エルステッド)である。磁性粒子は、捕集するときに印加された磁界・磁場によってある程度磁化され得るが、保磁力が上記の上限値を上回ると粒子間の凝集力が必要以上に大きくなり、その分散性が低下し得る。その一方で、上記の下限値を下回る保磁力を得る場合では、使用するコア粒子の種類や、さらにはコア粒子の合成方法までもが制約を受けることになってしまう。尚、本明細書における保磁力の数値は、例えば振動試料型磁力計(東英工業(株)製)を用いて、796.5kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加して飽和磁化させた後、磁界をゼロに戻し、さらに逆方向に磁界を徐々に増加させながら印加して、磁化の値がゼロになる印加磁界の強さから得られる数値である。
上記のような磁気特性が供される限り、本発明の磁性粒子における“コア粒子”はいずれの粒子であってもよい。例えば、コア粒子は、超常磁性粒子でなく強磁性粒子となっていることが好ましく、例えば強磁性酸化物粒子となっている。ここでいう「強磁性」とは、磁場に応答して実質的に永久磁化され得るものを意味している。また、「強磁性酸化物粒子」は、金属酸化物粒子であって、磁気応答性(磁界に対する感応性)を有する粒状物を指している(「磁気応答性を有する」とは、磁石等による外部磁界・外部磁場が存在するとき、磁界・磁場により磁化する、あるいは磁石に吸着するなど、磁界・磁場に対して感応性を示すことを意味している)。具体的な強磁性酸化物としては、特に制限はなく、鉄、コバルト、ニッケルなどの公知の金属、ならびにそれらの合金および酸化物が挙げられる。特に磁界・磁場に対する感応性に優れることから、強磁性酸化物粒子は強磁性酸化鉄であることが好ましい。かかる粒子の強磁性酸化鉄としては、公知の種々の強磁性酸化鉄を使用することができる。特に、化学的安定性に優れることから、強磁性酸化鉄は、マグヘマイト(γ−F e)、マグネタイト(Fe)、ニッケル亜鉛フェライト(Ni1−XZnFe)およびマンガン亜鉛フェライト(Mn1−xZnFe)から成る群から選択される少なくとも1種のフェライトであることが好ましい。これらの中でも大きな磁化量を有しており、磁界・磁場に対する感応性に優れるマグネタイト(Fe)が特に好ましい。尚、用途や表面処理によっては、鉄やニッケル等の磁性金属または合金も使用することが可能である。
ちなみに、バイオなどの技術分野でよく用いられる磁性粒子は超常磁性を持つものが極めて多い。“超常磁性”が多い理由は、超常磁性粒子では残留磁化、保磁力が極めて小さいため、特段の処理をしなくても、磁気捕集後の再分散に影響を及ぼさないからである。一方、保磁力のある強磁性を持つ粒子を用いると、特段の処理を施さなければ、磁気凝集の問題が発生し、使いにくいものとなる。一般にマグネタイトなどの酸化鉄が超常磁性を示す一次粒径は20nmよりも小さいとされ、それ以上の粒径では、強磁性を示すことになる。
本発明の磁性粒子におけるコア粒子の粒径(または平均粒径)は、好ましくは約5nm〜約3μm、より好ましくは約5nm〜約1μm、更に好ましくは約20nm〜約500nm、例えば約20nm〜約400nm程度となっている。コア粒子の粒径が上記の下限値を下回ると所望の磁気特性を保持できなくなってしまう一方、粒径が上記の上限値を上回ると、水や緩衝溶液に分散させた際に高い分散安定性を確保できなくなってしまう。尚、本明細書にいう「粒径」とは、粒子画像の重心を通る径の測定値の平均(例えば最小値と最大値との平均)を実質的に意味している。そして、本明細書でいう「平均粒径」とは、粒子の透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個の粒子の粒径サイズを測定し、その数平均として算出した粒子サイズを実質的に意味している。
ある好適な態様では、本発明の磁性粒子のコア粒子の形状は、球状となっている。即ち、磁性粒子の全体形状が球形状をなしており、粒子の重心を通る種々の方向で測定した場合の重心から外周までの最長の長さ(長半径)と最小の長さ(短半径)との比である長短半径比が1.0〜1.3の範囲、好ましくは1.0〜1.25の範囲、より好ましくは1.0〜1.2の範囲となっている。このような長短半径比を有していることによって、粒子形状に起因する構造磁気異方性が低下し、保磁力の低い磁性粒子が実現される。換言すれば、かかる本発明の磁性粒子では、構造磁気異方性に起因して、実用上十分な分散性と磁気捕集性とを兼ね備えた粒子が実現され得る。なお、実際には上記長短径比は立体として測定することは困難なため、撮影した電子顕微鏡写真より計測する。長短半径比を簡単に求めることができる解析ソフトウェアとして、Image-Pro Plus(日本ローパー社)があり、「半径比」として求められる値が上記長短半径比に相当する。
球形状のコア粒子の場合、その粒径に関してのCV値(変動係数)は、0.01%〜19%であり、好ましくは0.1%〜18%であり、更に好ましくは0.1%〜17%である(例えば、ある場合では、CV値は10%〜18%ないしは10%〜17%となる)。この値が大きいと、粒径のばらつきは大きくなり、標的物質分析用として使用した際の結果のばらつきの原因となるため、好ましくない。粒子の透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個の粒子のサイズを測定し、それの統計処理を行うことで粒径に関しての変動係数を求めることができる。
ちなみに、小さな粒径分布を持った球形のコア粒子から成る磁性粒子では、バルク粒子中のそれぞれの粒子の分散性および沈降性が特に均一化することになる。その結果、バルク粒子中のいずれの部分の粒子を用いても、それぞれの粒子が標的物質に対して同等の反応性または結合性を有し得る。また、保磁力の原因として、磁気異方性があるが、球形のコア粒子から成る磁性粒子においては、構造磁気異方性が低下し得るので、保磁力が低下し、生化学用途のポリマーコート磁性粒子に特に必要な特性の一つである磁気捕集後の再分散性の向上に寄与しうる。
本発明では、コア粒子の表面にフッ素含有ポリマーが被着または結合している。即ち、本発明の磁性粒子では、コアとなる磁性粒子部分の表面にポリマーコート層(即ち、「ポリマーシェル部を有するポリマーコート層」、「親水ポリマーコート部を有するポリマーコート層」又は「ポリマーシェル部と親水ポリマーコート部との双方を有するポリマーコート層」)が存在している。かかるポリマーコート層は、コア粒子との化学的結合を通じてコア粒子表面に設けられている。ポリマーコート層とコア粒子との相互の“化学的な結合”に起因して、ポリマーコート層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を連続的に被覆している。つまり、コア粒子上に設けられたポリマーコート層(例えばポリマーシェル部)自体が、“コア粒子表面を露出させる空隙”を有することなく、連続的に設けられている。換言すれば、本発明においては、コア粒子表面に他の物質が物理的結合(例えば物理的吸着や磁気的吸着)した場合に得られるような空隙部(コア粒子表面を局所的に露出させる空隙部)は存在していないといえる。特に好ましくは、ポリマーコート層はコア粒子を内包するようにコア粒子表面全体に存在している。
好ましい態様では、フッ素含有ポリマーコート層とコア粒子との“化学的結合”に起因して、磁性粒子におけるポリマーの被着量は比較的減じられている。具体的にいえば、磁性粒子におけるポリマーコート層のポリマー被着量・含有量は、使用されるポリマー原料の種類などに依存し得るものの、好ましくは磁性粒子の全重量基準で、0.5〜50重量%であり、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%程度、更に好ましくは3〜25重量%程度、例えば5〜20重量%程度である。ポリマーコート層の被着量・含有量が上記の上限値を上回ると、1つのコア粒子表面だけでなく、複数のコア粒子が一塊となるようにポリマーが存在し得る傾向が大きくなる一方、ポリマーコート層の被着量・含有量が上記の下限値を下回ると、ポリマーに起因する分散能が低下することになり、複数のコア粒子同士が凝集する傾向が大きくなる。このようなポリマー被着量・含有量は、水や緩衝溶液中における分散性および分散安定性に有効に寄与し得るものである。
上述で触れたように、ポリマーコート層がポリマーシェル部を有する場合、磁性粒子(特に磁性粒子の表面領域)が粗面化されている。つまり、ポリマーシェル部を有する磁性粒子は、その表面のシェル部のポリマー自体が有する面粗さに起因して(即ち、粗面コーティングされたポリマーに起因して)凹凸状のコアシェル構造を有している。あくまでも“被着ポリマーによる粗面化”であって、コア粒子自体が粗面化された粒子となっているものではない点に留意されたい。
本発明においては、“粗面化の程度”を示すために、コア粒子の比表面積(特にそのコア粒子を平滑な完全球体とみなした場合の比表面積)の値を尺度基準として用いている。具体的には、コア粒子を“平滑な完全球体”とみなした場合におけるコア粒子の比表面積の値(m/g)と比べることによって、磁性粒子の“粗面化の程度”を表している。このような尺度基準に基づいて評価すると、磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)は、コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合のコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.5倍〜500倍となっており、例えば1.6倍〜100倍、場合によっては1.7倍〜20倍となっている。1つ例示すると、ポリマーコート層がポリマーシェル部のみを有する場合では、磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)は、コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合のコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.7倍〜7倍程度となっている。また、同様に1つ例示すると、ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマー部を有する場合では、磁性粒子の比表面積の測定値(m/g)は、コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合のコア粒子の比表面積の値(m/g)の1.7倍〜4倍程度となっている。
本発明の磁性粒子においては、ポリマーシェル部の分子構造中には、フッ素原子の他に、芳香族ビニル骨格が含まれ得る。これは、後述するポリマーコート処理の原料、特に、粗面コーティング処理の原料として“芳香族ビニルモノマー”が用いられることに起因している。特定の理論に拘束されるわけではないが、ポリマーシェル部の分子構造中に芳香族ビニル骨格が含まれているものであるからこそ、ポリマーシェル部によって磁性粒子の表面の粗面化が好適に実現されていると考えられる。芳香族ビニル骨格としては、例えば、ジビニルベンゼン骨格および/またはジビニルベンゼン誘導体骨格を挙げることができる。
特に好ましくは、ポリマーシェル部はコア粒子の表面を全体的に覆っており(即ちコア粒子の外表面の露出はなく)、そのように覆っているポリマー層の表面が凹凸面を成している。これは、ポリマーシェル部がコア粒子の表面を露出させない厚みでコア粒子を包囲していることを意味している。尚、ポリマー層の表面の凹凸面は、例えば房形状(好ましくは連続的な房形状)の形態を有している(後述の[実施例]において説明する図1も併せて参照のこと)。場合によっては、コア粒子表面にて連鎖体や網目状またはスポンジ状の集まりの形態を有するようにポリマーシェル部が全体として分布している。
ポリマーコート層が親水ポリマーコート部を有する場合、親水ポリマーコート部には、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、水酸基、エーテル基、アミノ基、ベタイン基およびホスホリルコリン基から成る群から選択される少なくとも1種以上の親水基が含まれていることが好ましい。このように親水基が含まれていると、磁性粒子に親水性が付与されることになる。磁性粒子における親水ポリマーコート部のポリマー被着量・含有量は、ポリマー原料の種類などに依存し得るものの、好ましくは磁性粒子の全重量基準で、0.1〜15重量%であり、好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%程度である。このように親水ポリマーの含有量は、粗面ポリマーの含有量に比べて極めて少なくなっているので、ポリマーコート層がポリマーシェル部と親水ポリマーコート部とを有する場合、ポリマーコート層が実質的にポリマーシェル部から構成されていると捉えることができ、そのポリマーシェル部によって磁性粒子が粗面化されている。
ポリマーコート層の厚さTは、例えば、好ましくは約2nm〜約500nmの厚さ、より好ましくは約10nm〜約100nmの厚さを有している。尚、ポリマーシェル部を有する磁性粒子は、上述したように、凹凸状のコアシェル構造を有しているが、凹凸を成すポリマーコート層(特にポリマーシェル部)の厚さTpolmerは、平均すると(凹凸を平均して考えると)、好ましくは約2nm〜約500nmの厚さ、より好ましくは約10nm〜約100nmの厚さを有している。即ち、ポリマーコート層(特にポリマーシェル部)が好ましくは約2nm〜約500nmの平均厚さ、より好ましくは約10nm〜約100nmの平均厚さでもってコア粒子を連続的に包囲しているといえる。ちなみに、コア粒子の粒径Dコア粒子(平均粒径)が好ましくは約5nm〜約3μm、より好ましくは約5nm〜約1μm、更に好ましくは約20nm〜約500nm程度であることに鑑みると、ポリマーコート層を含んだ本発明の磁性粒子の粒径D磁性粒子(平均粒径)は、好ましくは約9nm〜約4μm、より好ましくは約20nm〜約1.2μm、更に好ましくは約40nm〜約800nm程度となる。
本発明の磁性粒子は、コア粒子および/またはポリマーコート層の表面に「標的物質結合性物質」および/または「標的物質結合性官能基」が固定化されて成るものである。「標的物質結合性物質」は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、プロテインAおよびプロテインGから成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。また、「標的物質結合性官能基」は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基およびジスルフィド基などの硫化物官能基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、ならびに、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることが好ましい(これらの官能基の誘導体であってもかまわない)。例えば、「標的物質結合性物質」および/または「標的物質結合性官能基」はポリマーコート層のカルボキシル基やアミノ基を介して、表面に付加的に形成され得るものであってもよい。
ここで、上記における「固定化」とは、一般的に、コア粒子および/またはポリマーコート層の表面付近に「標的物質結合性物質」または「標的物質結合性官能基」が存在している態様を実質的に意味しており、必ずしも「標的物質結合性物質」または「標的物質結合性官能基」がコア粒子および/またはポリマーコート層の表面に直接取り付けられている態様のみを意味するものではない。また、「固定化」とは、それらの表面の少なくとも一部に「標的物質結合性の物質または官能基」が固定化されている態様を実質的に意味しており、「標的物質結合性の物質または官能基」が必ずしも表面全体にわたって固定化されていなくてもよい。
本発明の粒子には「標的物質結合性の物質または官能基」が固定化されているので、かかる物質または官能基を介して標的物質(即ち、目的とする対象物質)が粒子に結合することができる。つまり、本発明の粒子は磁気分離用粒子または磁気プローブとして好適に用いることができる。尚、本明細書において「標的物質が結合」という用語は、粒子に対して標的物質が「化学吸着」した態様のみならず、「物理吸着」または「吸収」される態様をも包含している。
好ましくは、本発明の粒子は、標的物質の分離などに好適な密度を有している。即ち、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、粘膜、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等の試料に粒子を分散させた際に粒子の沈降速度が比較的大きくなるような密度を粒子は有している。具体的には、本発明の磁性粒子の密度(ポリマーコート層を含む)は、好ましくは1〜9g/cmであり、より好ましくは1〜6g/cmである。粒子の密度が1g/cmよりも小さくなると、自然沈降のみによる粒子の移動速度が実用上好ましくない一方、粒子の密度が9g/cmよりも大きくなると、標的物質を結合させる際に行う攪拌にとって好ましくない。従って、本発明の磁性粒子の密度は、1g/cm〜9g/cmであり、より好ましくは1g/cm〜6g/cmであり、更に好ましくは3.5g/cm〜7.0g/cm(例えば、1.5g/cm〜6g/cm)である。ここで、本明細書にいう「密度」とは、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする真密度を意味しており、真密度測定装置ウルトラピクノメーター1000(ユアサアイオニクス社製)を使用することによって求めることができる値である。
(本発明の製造方法)
次に、本発明の磁性粒子の製造方法について説明する。かかる製造方法は、磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子と、原料モノマーと、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、原料モノマーから得られるポリマー成分を前駆体粒子に化学的に結合させてポリマーコート層を形成する工程を含んでおり、かかる工程においては、原料モノマーとしてフッ素含有モノマー(即ち、フッ素原子含有モノマー)が少なくとも含まれている。
フッ素含有モノマーは、モノマー中にフッ素原子を有しているものであればよく、共重合させるフッ素原子非含有モノマーとの重合性や、用いる溶媒との溶解性等に合わせて適宜選択すれば良い。利用することができる「フッ素含有モノマー」としては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート等を挙げることができる。また、反応性官能基を有するフッ素原子含有化合物を、重合前にモノマー中の反応性官能基と結合させてもよく、あるいは、重合後にポリマー中の反応性官能基と結合させてもよい。
コア粒子は、超常磁性粒子でなく強磁性粒子となっていることが好ましく、例えば強磁性酸化物粒子となっている。
溶媒は、特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノールおよびテトラヒドロフランから成る群から選択される少なくとも1種を用いることができる。更に、必要に応じて用いられる重合開始剤は、用いる溶媒の種類に合わせて適宜選択することができ、溶媒が水またはアルコール系の場合、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩および/または水溶性アゾ重合開始剤(和光純薬製のVA−044またはVA−061)などを用いることができる。その他の開始剤については、使用する溶媒の親水性、疎水性などの条件を考慮し、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジオクタノイル等の熱開始剤を適宜使用すればよく、また、光開始剤を用いてもかまわない。
本発明の製造方法では、フッ素含有モノマーが、原料モノマー基準で2モル%〜40モル%程度の割合となるように使用されることが好ましい。例えば、ポリマーシェル部や親水ポリマーコート部を有するポリマーコート層を形成する場合ではポリマー粗面化モノマーや親水化モノマーなどが使用されるが、それらのモノマーと合わせた原料モノマーにおいて、フッ素含有モノマーが2モル%〜40モル%の割合で使用されることが好ましい。1つ例示しておくと、原料モノマーとして例えばアクリル酸モノマーとフッ素含有モノマーとを使用する場合、それらを合わせた原料モノマーの2モル%〜40モル%がフッ素含有モノマーとなっていてよい(尚、かかる場合、僅かな量であるが、PEGやスルホン酸モノマーなどが含まれていてもよい)。
フッ素含有モノマーが2モル%〜40モル%の割合で使用される場合、上述したように、ポリマーコート層の表面部に含まれるフッ素原子および炭素原子につき、炭素原子に対するフッ素原子の割合を示すF/C比(XPS測定結果)は0.005〜0.1となり得たり、あるいは、磁性粒子の重量に対するフッ素元素の含量(IC測定結果)が5〜2500μg/gとなり得たりする。
以下では、ポリマーコート層が親水ポリマーコート部および/またはポリマーシェル部を有する場合の磁性粒子の製造について詳述する。
(ポリマーコート層のフッ素含有親水ポリマーコート部のみを有する磁性粒子の製造方法の態様)
かかる態様では、磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子と、フッ素原子含有モノマー、親水化モノマー、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、原料モノマー由来のポリマー成分を前駆体粒子に化学的に結合させてポリマーコート層を形成する。
前駆体粒子(コア粒子)としては市販の粒子を用いることができる。例えば、戸田工業製マグネタイトTM−023(一次粒径:約230nm)を用いることができる。
まず、コア粒子表面においてフッ素含有親水ポリマーコート部の形成が助力されることになるように、コア粒子に対してシランカップリング剤処理を行うことが好ましい。シランカップリング剤処理を行うことによって、ポリマーをコア粒子表面に好適に結合させることができ、「二重結合などの重合可能な反応基」をコア粒子に設けることができるからである。用いるシランカップリング剤としては、アクリル基やメタクリル基を末端に有するシランカップリング剤を挙げることができる。また、シランカップリング剤処理に用いる溶媒についていえば、コア粒子が分散し、シランカップリング剤が溶解するものであれば、特に制限はない。しかしながら、シランカップリング剤を加水分解させる必要があり、その点で水が微量ながら必要である。従って、その観点でいえばシランカップリング剤処理に用いる溶媒として、水が溶けやすい溶媒が好ましいといえる。具体的にはメタノール、エタノール、テトラヒドロフランおよび水から成る群から選択される少なくとも1種以上を溶媒として用いることが好ましい。更には、シランカップリング剤の加水分解をより進行させるために、酸もしくはアルカリを触媒として加えてもよい。触媒としての酸は例えば酢酸であってよく、触媒としてのアルカリは例えばアンモニア水であってよい。シランカップリング剤とコア粒子との反応を行う際の温度は、用いる溶剤の融点以下かつ沸点以上でなければ、任意に設定することが可能である。反応時間も、任意に設定可能であり、反応温度との兼ね合いで選択することが好ましい。
シランカップリング剤処理の後、好ましくは、洗浄を実施することによって未反応のシランカップリング剤を除去する。かかる洗浄方法も特に制限はないが、遠心分離法を用いる手法が簡易であるので適当である。洗浄後は、コア粒子を乾燥に付してもよい。乾燥に付すことによって、コア粒子表面とシランカップリング剤との間に化学結合が生じやすくなる。かかる乾燥方法も特に制限はなく、任意の温度で乾燥を行ってもよい。しかしながら、乾燥時の粒子凝集を防ぐ点でいえば凍結乾燥を行うことが好ましい。乾燥を実施した場合、再分散させる必要があるが、かかる再分散に関しても特に制限はない。
次いで、シランカップリング剤処理が施されたコア粒子表面に対してフッ素含有親水ポリマーコーティング処理を実施する。具体的な処理操作としては、「磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子」、フッ素原子含有モノマー、親水化モノマー、溶媒および必要に応じて用いられる重合開始剤を混ぜ合わせる。このような原料を用いることによって、粒子を親水化することができる。親水化モノマーとしては、ホスホリルコリン基を有するモノマー、メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン等のベタインモノマー、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルヘキサヒドロフタル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸イソシアナートアルキル、p−スチレンスルホン酸(塩)、ジメチロールプロパン酸、N−アルキルジエタノールアミン、(アミノエチルアミノ)エタノールまたはリジン、「両末端または片末端に重合可能な部位を有するポリエチレングリコール鎖の化合物(例えば、共栄社化学より市販されているライトアクリレート)」および/または「スルホン酸基または硫酸エステル基と末端に重合可能な部位とを有する化合物(例えば、スチレンスルホン酸または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のモノマー)等を単独または複数組み合わせて用いても良い。
形成されたフッ素含有親水ポリマーコート部(親水ポリマー部)および/またはコア粒子の表面に対しては「標的物質結合性物質」または「標的物質結合性官能基」を固定化させる処理を施すことになる。かかる固定化処理は、フッ素含有親水ポリマーコーティングの前、フッ素含有親水ポリマーコーティングに際して又はフッ素含有親水ポリマーコーティングの後のいずれで行ってもよい。
例えば、フッ素含有親水ポリマーコーティングの後に「標的物質結合性官能基」を固定化させる場合では、磁性粒子を溶媒中に分散させ、加温状態で、反応触媒と「固定化すべき官能基を持つ化合物」とを添加し、数時間反応させる。かかる反応によって、「標的物質結合性官能基」がフッ素含有親水ポリマーコート部および/またはコア粒子の表面に固定化されることになる。
また、「標的物質結合性官能基」の固定化をフッ素含有親水ポリマーコーティングに際して実施する場合では、フッ素含有親水ポリマーコーティング時に「標的物質結合性官能基」を有するモノマーを重合または共重合させてよい。かかる場合、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルヘキサヒドロフタル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸イソシアナートアルキル、p−スチレンスルホン酸(塩)、ジメチロールプロパン酸、N−アルキルジエタノールアミン、(アミノエチルアミノ)エタノールまたはリジン等を用いることができる。
ちなみに、「標的物質結合性物質」を固定化させる場合についていえば、「標的物質結合性物質」と結合性を有する官能基を粒子本体表面または被着ポリマー表面に予め導入することによって、その官能基を介して「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。
(ポリマーコート層がフッ素含有ポリマーシェル部のみを有する磁性粒子の製造方法の態様)
かかる態様では、磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子と、粗面コート形成モノマー、フッ素原子含有モノマーと、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、原料モノマー由来のポリマー成分を前駆体粒子に化学的に結合させる工程を好ましくは含んでいる。特に、かかる工程においては、“化学的に結合したポリマー成分”から構成される磁性粒子のフッ素含有ポリマーシェル部をコア粒子の表面の少なくとも一部に連続的に形成し、フッ素含有ポリマーシェル部の有する表面粗さによって磁性粒子を粗面化する。具体的な処理法について説明すると次のようになる。
前駆体粒子(コア粒子)としては市販の粒子を用いることができる。例えば、戸田工業製マグネタイトTM−023(一次粒径:約230nm)を用いることができる。
上記と同様、まず、コア粒子表面においてフッ素含有ポリマーシェル部の形成が助力されることになるように、コア粒子に対してシランカップリング剤処理を行うことが好ましい。次いで、シランカップリング剤処理が施されたコア粒子表面に対してはフッ素含有ポリマーコート処理、即ち、フッ素含有粗面コーティング処理を実施する。具体的な処理操作としては、コア粒子、粗面コート形成モノマー、フッ素原子含有モノマー、溶媒および必要に応じて用いられる重合開始剤を混ぜ合わせる。このような処理を行うことによって、コア粒子の表面にフッ素含有ポリマーシェル部を形成することができる(好ましくは、コア粒子との化学的結合を通じてコア粒子表面にポリマーシェル部を連続的に設けることができる)。モノマーとしては、「フッ素原子含有モノマー」と「2個以上の重合性二重結合を有する低分子モノマー」及び「被覆を形成することが可能なモノマー」を用いることが好ましい。必要に応じて、「両末端または片末端に重合可能な部位を有するポリエチレングリコール鎖の化合物(例えば、共栄社化学より市販されているライトアクリレート)」および/または「スルホン酸基または硫酸エステル基と末端に重合可能な部位とを有する化合物(例えば、スチレンスルホン酸または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のモノマー)」などを併せて用いてもよい。
特定の理論に拘束されるわけではないが、ポリマーシェル部の形成に用いるモノマーとして「2個以上の重合性二重結合を有する低分子モノマー」が含まれていることに起因して、ポリマー粗面化が好適に実現されることになると考えられる。かかる「2個以上の重合性二重結合を有する低分子モノマー」としては、芳香族ビニルモノマーが好ましく、例えばジビニルベンゼンおよび/またはジビニルベンゼン誘導体のモノマーを挙げることができる。一方、「被覆を形成することが可能なモノマー」としては、例えばスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン、標的物質結合性の官能基を有するモノマー等を挙げることができる。
粗面コーティング処理は、酸素ができる限り存在しない条件下で行うことが好ましい。従って、各種原料などが仕込まれた反応容器内に窒素やアルゴンガスなどを満たして粗面コーティング処理を実施することが好ましい。また、粗面コーティング処理を行う際の温度(反応温度)は用いる反応開始剤の分解速度によって適宜設定してよい。粗面コーティング処理を実施する時間(反応時間)も特に制限はない。
このようなフッ素含有粗面コーティング処理によって、コア粒子表面にフッ素含有ポリマーが被着した磁性粒子を得ることができ、好ましくは、連続的に形成されたフッ素含有ポリマーシェル部がコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、フッ素含有ポリマーシェル部の有する表面粗さによって粗面化されて成る磁性粒子を得ることができる。
フッ素含有粗面コーティング処理後においては、洗浄を行い、未反応の原料モノマーや粒子に結合しなかったポリマーを除去する。かかる洗浄方法も特に制限はないが、簡易であるので遠心分離法や磁気分離を用いた洗浄が好ましい。
ポリマーシェル部および/またはコア粒子の表面に対して「標的物質結合性物質」または「標的物質結合性官能基」を固定化させる処理は、フッ素含有粗面コーティングの前、フッ素含有粗面コーティングに際して又はフッ素含有粗面コーティングの後のいずれで行ってもよい。
例えば、フッ素含有粗面コーティングの後に「標的物質結合性官能基」を固定化させる場合では、磁性粒子を溶媒中に分散させ、加温状態で、反応触媒と「固定化すべき官能基を持つ化合物」とを添加し、数時間反応させる。かかる反応によって、「標的物質結合性官能基」がポリマーシェル部および/またはコア粒子の表面に固定化されることになる。
また、「標的物質結合性官能基」の固定化をフッ素含有粗面コーティングに際して実施する場合では、フッ素原子含有粗面コーティング時に「標的物質結合性官能基」を有するモノマーを重合または共重合させてよい。かかる場合、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシアルキルヘキサヒドロフタル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸イソシアナートアルキル、p−スチレンスルホン酸(塩)、ジメチロールプロパン酸、N−アルキルジエタノールアミン、(アミノエチルアミノ)エタノールまたはリジン等を用いることができる。
ちなみに、「標的物質結合性物質」を固定化させる場合についていえば、「標的物質結合性物質」と結合性を有する官能基を粒子本体表面または被着ポリマー表面に予め導入することによって、その官能基を介して「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。
(ポリマーコート層が“フッ素含有またはフッ素非含有ポリマーシェル部”と“フッ素含有親水ポリマーコート部”とを有する磁性粒子の製造方法の態様)
かかる態様では、まず、本発明の製造方法の工程(i)を実施する。つまり、製造されることになる磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子に対して粗面ポリマーコーティング処理を施し、それによって、前駆体粒子の表面にポリマーシェル部を形成して粒子の粗面化を行う。「粗面ポリマーコーティング処理」とは、ポリマーを用いて粒子にコーティングを施し、そのコーティングされるポリマーの有する表面粗さによって粒子を粗面化させる処理のことを実質的に意味しており、上記「ポリマーコート層がポリマーシェル部のみを有する磁性粒子の製造方法」で説明した処理である。
フッ素含有または非含有の粗面ポリマーコーティング処理において用いられるモノマーであるジビニルベンゼン等の芳香族ビニルモノマーは疎水性を有するため、かかる粗面化コーティング処理後の粒子は水溶液中で凝集性が高くなる。また、1つのコア粒子表面だけでなく、複数のコア粒子が一塊となるようにポリマーによって化学結合した粒子となり、粒子径が大きくなり、水溶液中で沈降しやすい粒子が形成されうる。また、分散性を向上させるために、親水性のモノマーをジビニルベンゼン等の芳香族ビニルモノマーと併せて用いた場合には、水溶液中である一定の分散性は得られるが限界が生じる。親水性のモノマーの投入比率を増化させると、粗面性が生じにくくなるというトレードオフの関係になる。
なお、ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマーコート部を有する磁性粒子の製造方法においては、親水ポリマーコート部がフッ素含有ポリマーであればよく、ポリマーシェル部はフッ素含有ポリマーでもフッ素非含有ポリマーであっても、いずれでもかまわない。
粒子の粗面性を保ちつつ、親水性を効果的に粒子へと付与するために、工程(i)の粗面ポリマーコーティング処理後に粒子の再分散処理、特に物理的分散処理を行うことが好ましい。かかる物理的分散処理では、「コア粒子が破壊されない程度であって、かつ、粗面ポリマーシェル部が多く剥がれない程度の外力」を粒子に対して付与することが好ましい。かかる外力は、機械的剪断力(例えば高速剪断力)、摩擦力、圧縮力、超音波および/または衝撃波などに起因した外力であることが好ましい。
第1層目の粗面ポリマーコーティング処理後の粒子の単分散性が促進されれば、いずれの物理的分散処理法を用いてもかまわない。例えば、物理的分散処理は、ジルコニアビーズ等の硬質ビーズとのメカニカルスターラーによる共撹拌処理を挙げることができる他、バス型超音波、プローブ型超音波、ホモジナイザー、ジェットミル、ペイントシェイカー、ピコミル、遊星ボールミル等を用いた処理を挙げることができる。ここでいう「ホモジナイザー」は、化学工学辞典(編者:社団法人化学工学会、発行者:鈴木信夫、発行所:丸善株式会社、改訂3版)の第525頁に定義されるようなホモジナイザー(homogenizer)のことである。即ち、本明細書で用いる「ホモジナイザー」という用語は、狭い間隙を高圧で流体を流し、そのときに働く剪断力を利用して粒子の分散処理手段のことを意味しているだけでなく(例えば、高速の回転による衝撃と渦流による剪断作用を利用する手段であってもよい)、常套的な粉砕機(コロイドミル、振動ボールミル、攪拌ミル)などの機械的分散手段をも意味するものとして用いている。ちなみに、上記例示した手段に鑑みると、本発明にいう「物理的分散処理」は、“物理的解砕処理”とも称すことができるものである(即ち、砕力に相当する外力を粒子に対して及ぼしつつ、その凝集状態を解き離す処理態様も含んでいる)。
あくまでも例示にすぎないが、粗面ポリマーコーティング処理後の粒子を含んだ流体(媒体としては、例えば水、超純水や緩衝液等の水系媒体)を狭い間隙(スリット部)に高圧で流し、そのときに働く剪断力によって粒子の分散処理を行ってよい。かかるスリット部(細い間隙)は、「流路に設けられた狭窄部」や「流路途中に設けられたディスクに形成された微小開口部」などであってよい。このようなスリット部の寸法(間隙寸法)は、ミクロンオーダーであることが好ましく、例えば、好ましくは1μm〜2mmの範囲、より好ましくは20μm〜600μmの範囲、更に好ましくは30μm〜400μmの範囲であってよい。また、「高圧」は、粒子を含んだ流体がスリット部を通ることを可能にする圧力であってよく、例えば大気圧(約0.1MPa)〜250MPaの範囲(より好ましくは100MPa〜230MPaの範囲)である。例えば、プランジャーポンプなどのポンプを用いて粒子含有流体を圧送すると、高圧・加圧条件を形成することができる。スリット部に流す際の流速は、例えば、50m/s〜400m/sの範囲(より好ましくは100m/s〜200m/sの範囲)であってよい。必要に応じて、処理すべき粒子含有流体を分割し、その分割したサブ流体同士をスリット部内において相互に衝突させてもよい。
物理的分散処理に引き続いて、工程(ii)を実施する。つまり、フッ素含有または非含有の粗面ポリマーコーティング処理が施された前駆体粒子に対してフッ素含有の親水ポリマーコーティング処理を施し、その前駆体粒子においてフッ素含有の親水ポリマーコート部を形成する。
「フッ素含有親水ポリマーコーティング処理」とは、ポリマーを用いて粒子にコーティングを施し、そのコーティングされるポリマーによって粒子を親水化させる処理のことを実質的に意味している。
具体的な処理操作としては、「フッ素含有または非含有の粗面ポリマーシェル部を備えたコア粒子」、フッ素原子含有モノマー、親水化モノマー、溶媒および必要に応じて用いられる重合開始剤を混ぜ合わせる。このような原料を用いることによって、粒子を親水化することができる。
次に、球形状のコア粒子の製造方法について説明しておく。まず、工程(I)として、鉄イオンを含んで成る溶液とアルカリ溶液とを混合し、得られる混合溶液中で鉄元素を含んで成る水酸化物を析出させる。例えば、鉄イオンを含んで成る溶液に対してアルカリ溶液を加える。これにより、鉄イオンとアルカリイオンとが相互に反応し、鉄元素を含んで成る水酸化物が混合溶液中に析出してくる(析出物は「沈殿物」または「共沈物」とも称すことができる)。
工程(I)で用いる「鉄イオンを含んで成る溶液」は、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、アセチルアセトナト鉄などの鉄化合物を鉄化合物が可溶な溶媒に溶解させることによって得られる溶液である。この場合、鉄イオンは、溶液中に一般に存在することになる。塩化鉄としては塩化第一鉄(FeCl・4HO)および塩化第二鉄(FeCl・6HO)を挙げることができ、硫酸鉄としては硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を挙げることができ、また、アセチルアセトナト鉄としてはアセチルアセトナト鉄(II)(Fe(CHCOCH=C(O)CHを挙げることができる。これらをそれらが可溶な溶媒に溶解させることによって、鉄イオンを生じさせる。一度溶解しやすい溶媒に溶解させた上で、溶解しにくい溶媒と混合させて反応に用いることも可能である。たとえば、硫酸鉄を少量の水に溶解させた上で、グリセリンなどの多価アルコール溶媒と混合させるということも可能である。グリセリンを含めることによって、結晶成長が等方的に進む(結晶形状が球状化する)という効果が奏され得る。溶液中の鉄イオンの濃度は、好ましくは0.03〜6mol/l、より好ましくは0.06〜3mol/lである。所望の磁気特性を得るべく、コバルトイオン、白金イオンおよび/またはマグネシウムイオンを必要に応じて含ませてもよい。
一方、工程(I)で用いるアルカリ溶液は、NaOH、KOH、NHやテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(N(CHOH)等のアルカリをそれらが可溶な溶媒に溶解させることによって得られる溶液である。従って、アルカリ溶液中では、アルカリはイオンの形態で一般に存在する。アルカリ溶液のアルカリ濃度は、好ましくは0.03〜20mol/l、より好ましくは0.06〜10mol/lである。ここで、アルカリ水溶液には、鉄のイオン価数に応じた量のアルカリイオンが含まれていることが好ましく、鉄イオンの価数以上のアルカリイオンが存在していることが特に好ましい。尚、アルカリ溶液中にアルカリイオンが必要以上に多く存在すると、得られる強磁性粒子の水洗回数が多くなり水洗処理が非効率となってしまう。
鉄イオンを含んで成る溶液とアルカリ溶液とを混合する際の温度条件は、特に制限はなく、好ましくは10〜90℃程度(例えば常温)であってよい。また、好気下、嫌気下どちらの条件でも行うことができる。好気下のほうが、簡便性の点から好ましい。さらに、混合する際の圧力条件も特に制限はなく、大気圧下で行うことができる。マグネティックスターラーやスリーワンモータなどの攪拌機を用いて「鉄イオンを含んで成る溶液」を攪拌しながら、その水溶液に対して、等速滴下が可能な滴下ポンプ等でアルカリ溶液を滴下供給し、「鉄イオンを含んで成る溶液」と「アルカリ溶液」とを混合することが好ましい。
工程(I)の別法として、次の方法も可能である。「鉄イオンを含んで成る溶液」を水溶液とし、球状化をもたらす添加剤として、グリセリンでなく、ポリビニルアルコールおよび/またはmyo−イノシトールなどのOH基を多く持つ化合物を加える。その後、アルカリ溶液を加え、さらに酸化剤であるNaNOを添加したのち、加熱を行う。このような手法によっても、“球状化”を好適に促進させることができる。尚、かかる場合、「鉄イオンを含んで成る溶液」およびアルカリ溶液については前述の通りである。OH基を多く持つ化合物の濃度は、好ましくは0.03〜6mol/l、より好ましくは0.06〜3mol/lである。また、酸化剤についていえば、NaNO、KNOなど酸化能を持つものであれば、いずれの種類の酸化剤を使用してもよい。酸化剤の濃度は好ましくは0.03〜4mol/l、より好ましくは0.06〜1mol/lである。
工程(I)に引き続いて工程(II)を実施する。工程(II)では、工程(I)で得られた混合水溶液を加熱処理に付す。必要に応じてエアーポンプなどを用いて混合水溶液に空気を吹き込みながら加熱処理を行ってよい。加熱温度は、70〜300℃であることが好ましい。加熱処理の圧力条件は、特に制限はなく、大気圧下で行ってよいし、水熱反応(ソルボサーマル反応)と呼ばれる、圧力容器中で溶媒の沸点以上に加熱した高圧反応も可能である。加熱時間も、特に制限はなく、例えば5時間〜30時間程度である(好ましくは、加熱時間は8時間〜25時間程度である)。また、加熱の方法も、特に制限もなく、オイルバス、マントルヒーター、乾燥機といったものや、マイクロ波を用いた加熱装置を用いることも可能である。マイクロ波に関しては、マイクロ波の照射により加熱できる溶媒は制限されるが、溶媒自体が加熱されるため、内部から均一に加熱できるという特徴がある。このような、マイクロ波を用いた加熱装置としては、マイルストーンゼネラル社製MicroSYNTHをあげることができる。
工程(II)の加熱処理が行われることによって、水酸化物が溶解して好ましくはスピネル型構造の強磁性酸化鉄粒子が形成される。スピネル型構造の酸化鉄粒子としては、特に限定されるものではないが、マグネタイト(Fe )、マグヘマイト(γ−Fe )粒子、マグネタイト−マグヘマイト中間体を挙げることができる。また、加熱処理に付す混合溶液に含まれているイオンによっては、上記酸化鉄にコバルト(Co)、白金(Pt)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)および/またはニッケル(Ni)などが更に含まれた粒子を得ることができる(コバルト、白金、マグネシウム、亜鉛またはニッケルなどは、保磁力を調整するために有効である)。マグネタイト粒子への“コバルト添加”は保磁力を増大させるために有効であり、“マグネシウム添加”は保磁力を低減させるために有効である。
工程(II)で形成または合成されたコア粒子は、洗浄、濾過および乾燥に付すことが好ましい。得られたコア粒子を洗浄することによって、粒子表面から不純物を除去できる。洗浄は、水を用いた水洗が好ましいものの、水以外にもエタノール、メタノールといったアルコール系をはじめとする水に可溶な溶媒を用いてコア粒子を洗浄してもよい。濾過は、洗浄に際して行ってよく、洗浄液などをコア粒子から除去できる。コア粒子の乾燥は必須ではなく、必要に応じて有無を選択できる。乾燥する場合は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは40〜90℃の温度条件下で行うことが好ましい。乾燥機を用いてコア粒子を乾燥させてよいものの、自然乾燥によりコア粒子を乾燥させてもかまわない。
尚、工程(I)、(II)ともに、嫌気下、好気下条件のいずれでも実施可能である。嫌気下条件で反応する場合は、工程で用いる溶媒や工程での容器中を嫌気性ガスで置換する必要がある。嫌気性ガスとしては、酸素以外の不活性ガスであれば、窒素、アルゴンなど各種ガスが使用可能である。好気下条件で反応させる場合は、大気下で反応を行えばよい。
以上のような製造プロセスを通じて、球形状の磁性を帯びた粒子を得ることができる。より具体的にいえば、アルカリ濃度が球形形成に一番寄与するので、この条件を最適化することで、球形状のコア粒子を好適に得ることができる。このように、上記プロセスを経ることによって球状粒子が得られることになるので、それを、本発明の磁性粒子の製造に好適に用いることができる。
(磁気捕集性)
次に、本発明の磁性粒子の特徴の1つである「水中における優れた磁気捕集性」について説明する。
水中に含まれる磁性粒子の磁気捕集性は、“粒子の水分散液の吸光度の変化”を指標にすることができる。これは、粒子の水分散液に対して分光光度計による吸光度測定を行って磁気捕集性を把握するものである。かかる指標に基づく磁気捕集性について詳述する。
本発明の磁性粒子が含まれた水分散液では、水中に磁性粒子が分散しており、磁性粒子の色がついた分散液となっている。この分散液に対して外側から磁石を用いて磁性粒子を捕集すると、磁石の近傍に磁性体が集まることになるので、分散液が全体的に無色透明となる。従って、分光光度計による吸光度測定を行うと、分散状態である初期状態では、吸光度は高いものの、磁気捕集が進行するにつれ、徐々に吸光度が下がっていくことになる。このような吸光度が低下する割合から、磁性粒子の磁気捕集性を把握することができる。
ここで、本発明の磁性粒子は、十分な磁気捕集性を呈し得るが、それを定量的に説明すれば次のようになる。ポリマーシェル部のみを有する本発明の磁性粒子を含んで成る水分散液(磁性粒子の濃度は例えば約0.1〜0.2mg/mLである)について0.36Tの磁場の影響下において緩衝溶液中の磁性粒子を磁気捕集すると、緩衝溶液の相対吸光度が約0.1〜0.2(磁気捕集操作前の初期値は1)になるまでの時間が約60秒以内となる。これにつき一例を挙げると、磁性粒子の濃度が例えば約0.2mg/mLである水分散液に対して0.36Tの磁場を作用させる場合では、磁気捕集を開始してから約60秒程度で水分散液の相対吸光度(約550nmの光の吸光度)が初期の“1”から約0.04にまで低下し得る。また、ポリマーシェル部および親水ポリマーコート部を有する磁性粒子を含んで成る水分散液(磁性粒子の濃度は例えば約0.1〜0.2mg/mLである)について0.36Tの磁場の影響下において緩衝溶液中の磁性粒子を磁気捕集すると、緩衝溶液の相対吸光度が約0.1〜0.2(磁気捕集操作前の初期値は1)になるまでの時間は約3分以内となる。これにつき一例を挙げると、磁性粒子(球形コア粒子)の濃度が例えば約0.2mg/mLである緩衝溶液分散液に対して0.36Tの磁場を作用させる場合では、磁気捕集を開始してから約2分程度で緩衝溶液分散液の相対吸光度(約550nmの光の吸光度)が初期の“1”から約0.07にまで低下し得る。
尚、本明細書において「緩衝溶液」とは、酸または塩基が加えられた際にpHの変化を打ち消そうとする緩衝作用を有する流体を意味しており、特には、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において用いられる「pHが略一定に保たれる液体」を指している(例えば緩衝溶液はリン酸バッファー生理食塩水(PBS)pH7.2である)。
本発明における吸光度の値は、例えば、日立ハイテクノロジー社製のバイオ光度計U−0080Dを用いて得られものである。また、磁気捕集時の磁場を供するものとしては、磁石を用いてよく、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石、アルニコ磁石など磁石であればどれでも使用できる。更に、本発明における磁場の値“0.36T”は、例えば、マイテック(株)製の「ハンディテスラメータ エルル DTM6100」を用いて測定した値である。かかる装置を用いて磁場の強さを測定する際、測定セルに磁石を貼り付けたのち、測定セル内壁部側面に接触させるようにセンサー部を配置する。また、センサー部の先端はセル内壁下部に接触させておく。このようにして、分散液に供される磁場の値を測定することができる。
ちなみに、実際の用途において磁気捕集を行う場合では、磁気捕集速度を速めて測定する用途に対しては強力磁石であるネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などを用いてよい。その一方、磁気捕集速度を遅くして測定する用途に対してはフェライト磁石などを使用してもよい。また、別の考え方では素材ではなく、磁石の表面磁束密度を目安にすることも可能である。この場合は、表面磁束密度の値が大きい程、磁気捕集速度は速くなり、逆に表面磁束密度の値が低ければ、磁気捕集速度が遅くなる。このような値は、使用者が用途に応じて自由に決めることが可能である。尚、実用上では、測定セル内部の磁場の強さを実測するほうが分かりやすい。これについても同様に、磁場が強いと磁気捕集速度は速くなり、磁場が弱いと磁気捕集速度は遅くなるので、使用者が用途に応じて自由に決めることができる。
(分散性・沈降速度について)
ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマーコート部を有する場合の磁性粒子の分散性・沈降速度について説明しておく。第2層形成の親水ポリマーコーティング後と第1層形成の粗面ポリマーコーティング後の分散性の比較は、例えば、独国L.U.M.GmbH社製の分散安定性評価装置LUMiFugeを用いて行うことができる。これを例示すると、測定は1mg/mlの粒子分散体0.5mlを用いて所望の回転速度で行い、水中やPBS緩衝液(10mM リン酸、150mM NaCl、pH7.2)等の水溶液中で行う。また、サンプルチューブ中で静置することによる目視での評価も、もちろん可能である。本発明では、第2層形成の親水ポリマーコーティング後の粒子は第1層形成の粗粗面ポリマーコーティング後の粒子に比べて、明らかに分散性が優れ、沈降速度が遅くなる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型的な態様について説明したにすぎない。従って、本発明は上記説明の実施態様に限定されず、種々の改変を行ってよいことを当業者は理解されよう。例えば、上記においては、本発明の磁性粒子を「フッ素含有モノマー」を用いて製造する態様について説明したものの、本発明は必ずしもかかる態様に限定されない。例えば、適当なフッ素雰囲気下に“コア粒子となる前駆体粒子”を供すことによって磁性粒子の製造を行ってよいし、あるいは、予めフッ素を含有したポリマーを“コア粒子となる前駆体粒子”にコーティングすることによって磁性粒子の製造を行ってもよい。
《フッ素含有のポリマーコート層を備えた磁性粒子の製造》
フッ素含有のポリマーコート層を備えた磁性粒子として、コア粒子上に“フッ素非含有粗面ポリマーコート層”と“フッ素含有親水ポリマーコート層”とを備えた磁性粒子を製造した。
(シランカップリング剤処理)
磁性を帯びたコア粒子rとして戸田工業製マグネタイトHM−305(一次粒径:210nm)を用いた。かかるコア粒子rの10g/100mlのメタノール分散ストック溶液を予備分散した後、このストック溶液36ml(コア粒子3.6g分)にメタノールを加えて854mlとし、さらに予備分散を行った。得られた分散液に対して3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)45.9mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。攪拌後、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換することによって、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子を得た。
(粗面化ポリマーコーティング処理)
水292mlに対して「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子の溶液(47.84mg/ml)」を58.53ml(「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子」2.8g分)加えた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)5.25ml、スチレン(和光純薬製)1.75ml、ライトアクリレート4EG−A(共栄社化学製)1.75ml、さらには、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25g/mlの水懸濁液5ml(和光純薬製)、および、メタノール14mlを加えた。しばらく撹拌した後、過硫酸カリウム142mgを水7mlに溶かして加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行うことによって、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子Pを得た。
(フッ素含有の親水ポリマーコーティング処理)
41.38mg/mlの粗面化ポリマーコートされた磁性粒子Pの分散液200ml(粗面化ポリマーコート磁性粒子Pとして8276mg分)を水200mlに加えて物理的分散処理に付した。より具体的には、「水が加えられた分散液」を加圧下にてスリット部(細い隙間)に通過させ、それによって、磁性粒子に剪断力を与えて分散させた。次いで、得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)1.3ml、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート(ビスコート3F、大阪有機化学工業製)0.709ml、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)70μlを加え、さらに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸70mgを水5mlに溶かして加えた。しばらく撹拌した後、2.8mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を水5mlに溶かして加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行った。これにより、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子Pを得た。即ち、コア粒子上に“フッ素非含有粗面ポリマーコート層”と“フッ素含有親水ポリマーコート層”とを備えた粒子Pを得た。
《XPSによるポリマーコート磁性粒子の表面分析》
ポリマーコート層の表面部のフッ素元素の含有比率を分析するために、以下に示す試験を行った。

(測定試料)
サンプル1:ポリマーコート品A(原料モノマーとしてフッ素含有モノマーは使用せず)
サンプル2:ポリマーコート品B(原料モノマーとしてフッ素含有モノマー有り/フッ素含有モノマーの使用割合:原料モノマーを基準として30モル%)
サンプル3:ポリマーコート品C(原料モノマーとしてフッ素含有モノマーは使用せず)
サンプル4:ポリマーコート品D(原料モノマーとしてフッ素含有モノマー有り/フッ素含有モノマーの使用割合:原料モノマーを基準として30モル%)

(分析試料の作製)
上記サンプルを、真空用両面カーボンテープに密に付着させ、試料台に貼り付けた。

(測定装置および条件)
・測定装置:アルバック・ファイ株式会社製(型式ESCA5500MC)のX線光電子分光分析装置
・分析アパーチャー径:φ800μm
・X線源:MgKα400W(15kV)
・光電子取出角:45°
測定結果を以下の表1に示す。表1から分かるように、ポリマーコート層の少なくとも表面部にはフッ素元素が含まれていることが分かった。
《ICによるポリマーコート磁性粒子の表面分析》
IC(イオンクロマトグラフィー)によって、磁性粒子の重量に対するフッ素元素の含量を確認する試験を行った。具体的には、以下のサンプルおよび条件でIC分析を行った。

サンプルとしては、上記サンプル2(ポリマーコート品B)およびサンプル4(ポリマーコート品D)に加えて、以下のサンプル5を用いた。

サンプル5:ポリマーコート品E(原料モノマーとしてフッ素含有モノマー有り/フッ素含有モノマーの使用割合:原料モノマーを基準として5モル%)

・測定装置:DIONEX製(型式DX−320)イオンクロマトグラフィー装置
分離カラム:Ion Pac AS15(4mm×250mm)
ガードカラム:Ion Pac AG15(4mm×50mm)
除去システム:ASRS−300(エクスターナルモード)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:KOH水溶液(溶離液ジェネレーターEG40を使用)
溶離液流量:1.2mL/min
試料注入量:250μL
・自動試料燃焼装置:三菱化学アナリテック製 AQF−100
温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス流量:O 400mL/min,Ar/O 200mL/min、
Ar(送液ユニット:目盛2)150mL/min
燃焼プログラム;下表参照

試料を一晩減圧乾燥させた後、サンプル5は約30mg、サンプル2、4は約3mg採取して秤量した。次に、自動試料燃焼装置を用いて燃焼させ、発生したガスを吸収液10mLに捕集した。燃焼後、その吸収液についてイオンクロマトグラフィーによる定量分析を行った。
測定結果を以下の表2に示す。表2から分かるように、磁性粒子の重量(g)に対するフッ素元素の含量(μg)は5〜2500μg/g程度となっていることが分かった。

《発光強度の比較評価試験》
ポリマーコート層にフッ素が含まれることによる「標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量」の相違を把握するために確認試験を行った。具体的には、ポリマーコート層にフッ素が含まれる場合と、そうでない場合とで、発光強度を比較した。
具体的には以下に説明する手法に従って発光強度を測定した:
● ストレプトアビジンの磁性ビーズへの結合は反応液の量とビーズと縮合剤、ストレプトアビジンの比率を変えた以下に示す3種類の組み合わせのいずれかで行った。
パターン1(磁性ビーズ100mg: ストレプトアビジン10mg: 縮合剤(DMT-MM)250mg: 液量: 10ml)・・・(1)
パターン2(磁性ビーズ10mg: ストレプトアビジン10mg: 縮合剤(DMT-MM)25mg: 液量: 10ml)・・・(2)
パターン3(磁性ビーズ10mg: ストレプトアビジン1mg: 縮合剤(DMT-MM)25mg: 液量: 1ml)・・・(3)

それぞれのパターンの磁性ビーズへのストレプトアビジン固定化方法を以下で説明する。
((1)100mg、(2)10mg、(3)1mg)分の磁性ビーズ(COOH)の水分散液について磁気分離により、上澄みの水を除き、10mMリン酸緩衝液pH7.2を加えて((1)5ml、(2)5ml、(3)0.5ml)に合わせた。DMT-MM ((1)50mg/ml、(2)5mg/ml、(3)50mg/ml)を((1)5ml、(2)5ml、(3)0.5ml)加え、バス型超音波を5分加え、さらにシェーカー(水平回転型)で1000rpm、室温で25分撹拌した。磁気分離により、上澄みを除き、10mMリン酸緩衝液pH7.2、((1)5ml、(2)5ml、(3)1ml)を加え、ピペッティング後、磁気分離で上澄みを除いた。10mMリン酸緩衝液pH7.2を加えて((1)5ml、(2)5ml、(3)0.5ml)に合わせカルボキシル基活性化ビーズを得た。
次にストレプトアビジン((1)10mg、(2)10mg、(3)1mg)を10mMリン酸緩衝液pH7.2に溶かして((1)5ml、(2)5ml、(3)0.5ml)にしたストレプトアビジン溶液((1)10mg/5ml、(2)10mg/5ml、(3)1mg/0.5ml))をシェーカー(水平回転型)で1000rpmで撹拌しながら、上記カルボキシル基活性化磁性ビーズ((1)100mg/5ml、(2)10mg/5ml、(3)1mg/0.5ml))をピペットでストレプトアビジン溶液中に滴下した。
容器をバス型超音波槽に移し、冷やしながら、1時間、超音波を加えた。さらに、ローテーターで一晩、25℃で転倒撹拌させながら反応させた。反応終了後、磁気分離し、上澄みを除いた。10mMリン酸緩衝液pH7.2、((1)10ml、(2)10ml、(3)1ml)を加え、ピペッティング後、超音波を1分加え、磁気分離で上澄みを除いた。
未反応の活性基を不活化するために、0.2M Tris-HCl pH7.4を((1)10ml、(2)10ml、(3)1ml)加え、軽く超音波を加えた後、ローテーターで25℃、2時間撹拌した。磁気分離で上澄みを除き、10mMリン酸緩衝液pH7.2を((1)10ml、(2)10ml、(3)1ml)加え、超音波1分を3回繰り返し洗浄し、最後に10mMリン酸緩衝液pH7.2で((1)10ml、(2)10ml、(3)1ml)に合わせ、ストレプトアビジン固定化磁性ビーズを得た。
● 発光評価では、カルボキシル基固定化磁性ビーズへのストレプトアビジン結合を確認するために、ストレプトアビジン固定化磁性ビーズとのアビジン−ビオチン結合を介した特異的な結合性の評価はビオチン化アルカリフォスファターゼ(Biotin, AP Conjugated)との結合性を評価することにより行った。一方、磁性ビーズの性能の中でも、目的の特異的な結合以外の吸着成分は非特異的結合と称され、ノイズ成分となる。そのため、特性の一つとして、非特異結合が起りにくいビーズが求められる。非特異結合の度合いも合わせ評価した。非特異的な結合を起こす成分は蛋白質や脂質等、種々存在するが、模擬的に、ビオチンを結合させていない、非標識のアルカリフォスファターゼ(アルカリフォスファターゼ溶液、仔ウシ腸由来)との吸着性を評価した。
磁性ビーズへのストレプトアビジン固定化処理で得られたストレプトアビジン固定化磁性ビーズを0.05% Tween20入りPBSバッファー(リン酸緩衝生理食塩水) (PBST)で希釈し、1mg/mlのストック溶液を調製した。溶液の濃度は上記磁性ビーズへのストレプトアビジン固定化処理において用いたカルボキシル基固定化磁性ビーズの仕込み重量の値を使用した。体積あたりを基準にして希釈系列を調整する際、ストレプトアビジン固定化磁性ビーズの比重は全てd=5 とした。比較として使用したダイナビーズMyOneTM Streptavidin C1の比重はd=1.8とした。
1mg/mlのストレプトアビジン固定化磁性ビーズをさらにPBSTで希釈し、0.392×10-6cm3/ml(1.96μg/ml)、0.84×10-6cm3/ml(4.2μg/ml)、1.39×10-6cm3/ml(6.95μg/ml)、2.78×10-6cm3/ml(13.9μg/ml)、3.92×10-6cm3/ml(19.6μg/ml)、5.6×10-6cm3/ml(28.0μg/ml)の希釈系列を調製した。ここから、96穴白色ウェルプレートに100μlずつ加えた。ダイナビーズMyOneTM Streptavidin C1については、PBSTで希釈し、0.392×10-6cm3/ml(0.70μg/ml)、0.84×10-6cm3/ml(1.50μg/ml)、1.39×10-6cm3/ml(2.50μg/ml)、2.78×10-6cm3/ml(5.00μg/ml)、3.92×10-6cm3/ml(7.00μg/ml)、5.6×10-6cm3/ml(10.0μg/ml)の希釈系列を調製し、同様に96穴白色ウェルプレートに100μlずつ加えた。
特異結合評価の際は、PBSTで希釈した0.5μg/mlのビオチン化アルカリフォスファターゼ(Biotin, AP Conjugated)を100μl加え、非特異結合評価は0.5μg/mlのアルカリフォスファターゼ(アルカリフォスファターゼ溶液、仔ウシ腸由来)を同様に加え、室温、700rpm(水平振動回転型)で30分撹拌し、ビーズに結合させた。反応後、96穴磁気分離マグネット上に96穴白色ウェルプレートを載せ、5〜10分、磁気分離を行い、上澄み180μlを除いた。次に180μlのPBSTをそれぞれのウェルに加え、室温、700rpm(水平振動回転型)で1分撹拌し、同様に磁気分離で上澄み180μlを除いた。この操作をさらに2回繰り返し、磁気分離されたアルカリフォスファターゼ結合磁性ビーズを約20μl得た。ブランク測定用には空いているウェルにPBSTを20μl加えた。次に、それぞれのウェルにCDP-Star Detection Reagent(発光試薬)を30μlずつ加え、室温、700rpm(水平振動回転型)で5分撹拌し、化学発光をプレートリーダーで評価した。
このような手法に基づいて行われた発光量測定の結果の一部を以下の表3および表4に示す。表3および4から分かるように、ポリマーコート層にフッ素元素を含んでいる場合では、そうでない場合よりも発光強度が高くなることが分かった。発光強度が高いということは、「標的物質結合可能な物質・官能基の固定化量」がより多いことを意味しているので、本発明の磁性粒子は、粒子の単位重量・単位体積あたり従来粒子(ポリマーコート層にフッ素を含んでいない粒子)よりも多く標的物質が結合し得ることを把握することができた。
以下に記載する実施例は、ポリマーシェル部、親水ポリマーコート部および球形状コア粒子についての効果を確認するために行ったものである。
以下では『ポリマーコート層がポリマーシェル部のみを有する磁性粒子に特化したケースA』、『ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマー部を有する磁性粒子に特化したケースB』および『球形状のコア粒子から構成された磁性粒子に特化したケースC』について、それぞれ分けて説明する。まず、『ポリマーコート層がポリマーシェル部のみを有する磁性粒子に特化したケースA』について先に説明し、その後、『ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマー部を有する磁性粒子に特化したケースB』、そして、『球形状のコア粒子から構成された磁性粒子に特化したケースC』について説明する。
『ポリマーコート層がポリマーシェル部のみを有する磁性粒子に特化したケースA』
《粒子の調製》
実施例1および比較例1において磁性粒子を以下のように調製した。
実施例1
(シランカップリング剤処理)
磁性を帯びたコア粒子r1として戸田工業製マグネタイトTM−023(一次粒径:230nm)を用いた。かかるコア粒子r1の1.7gをメタノール475ml中に分散させた。得られた分散液に対して3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)25.5mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。攪拌後、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換することによって、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子を得た。
(被着ポリマー粗面化)
水38mlに対して「シランカップリング剤を固定化した磁性粒子の溶液(40mg/ml)」を10ml加えた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)2ml、スチレン(和光純薬製)0.5ml、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25mg/mlの水懸濁液1.6ml(和光純薬製)、および、メタノール2mlを加えた。しばらく撹拌した後、40mgの過硫酸カリウムを加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行い、被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1を得た。
比較例1
実施例1で得られた「シランカップリング剤を固定化した40mg/mlの磁性粒子の溶液」の5mlを水43mlに対して分散させた。得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)0.7ml、および、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)35μlを加えた。しばらく撹拌した後、1.4mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、遠心分離法によって洗浄を行った。これにより、ポリマー被着化された磁性粒子R1を得た。
《比表面積の測定》
比表面積細孔分布測定装置BELSORP−Mini(日本ベル社製)を用いてBET法により実施例1のP1の比表面積を測定した。かかる測定の結果、実施例1の磁性粒子P1の比表面積は18.8m/gであることが分かった。その一方、同じくBET法により比較例1の磁性粒子R1の比表面積を測定したところ、その比表面積は6.0m/gであった。
BET法で測定したコア粒子r1(戸田工業製マグネタイトTM−023)の比表面積が7.4m/gであったことに鑑みると、本発明の実施例1においては被着ポリマー粗面化によって比表面積が「7.4→18.8m/g」と増加しており、ポリマーコート層によって確実に粗面化した粒子が得られていることが分かった(これに対して、比較例1では比表面積の増加は見られなかった)。つまり、実施例1のようにジビニルベンゼンを用いた被着ポリマー化を実施すると、コア粒子表面にコーティングされたポリマーシェル部によって粒子全体における表面積が効果的に増加することが把握できた。
ここで、コア粒子r1を粒径230nmの平滑な完全球体と仮定して、その比表面積を計算すると5.2m/gとなる。従って、実施例1のポリマー粗面化された磁性粒子P1の比表面積18.8m/gは、かかる5.2m/gの“3.6倍”となっている(これに対して、比較例1の磁性粒子R1の比表面積6.0m/gは、5.2m/gの“1.2倍”にすぎなかった)。
《SEM観察》
実施例1の磁性粒子P1、コア粒子r1および比較例1の磁性粒子R1の表面観察を行った。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて磁性粒子P1、コア粒子r1および磁性粒子R1の表面を観察した。P1、r1およびR1の粒子表面のSEM画像をそれぞれ図1、図2および図3に示す。
図1〜図3を参照すると分かるように、被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1の粒子表面状態(図1)は、コア粒子r1の粒子表面状態(図2)およびポリマー被着化された磁性粒子R1の粒子表面状態(図3)とは明らかに異なり、粒子表面に連続的房形状の粗面コーティングが見られた。
《熱重量の測定》
被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1およびポリマー被着化された磁性粒子R1に対して熱重量測定(Thermogravimetry、TG)を実施した。その結果、実施例1の磁性粒子P1のポリマー含率は15.4重量%(粒子の全重量基準)であって、比較例1の磁性粒子R1のポリマー含率は2重量%(粒子の全重量基準)であった。
以上の《比表面積の測定》、《SEM観察》および《熱重量の測定》の結果を参酌すると、実施例1の磁性粒子P1においては、粒子表面にコーティングされたポリマーシェル部によって房形状に粗面化が施され、その結果、粒子の比表面積が増大していることが理解できるであろう。
《生体物質結合性物質の固定化試験》
被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1およびポリマー被着化された磁性粒子R1に対してストレプトアビジンを固定化した。磁性粒子P1およびR1にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P1を例に挙げて説明する。
まず、磁性粒子P1(2mg)を10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1mlに溶かして磁性粒子液1mlを得た。次いで、かかる磁性粒子液に対して、5mgのDMT−MM(カップリング剤、和光純薬製)を1mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かした溶液1mlを加え、2mlとし、超音波を5分間加えた後、さらに25分間、1000rpmで撹拌を行った。磁気分離後、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。このような超音波洗浄、磁気分離をもう一度繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて、1mlに調製し、カルボキシル基活性化磁性粒子液を得た。
次いで、1mgストレプトアビジン(和光純薬製)を0.5mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かし、カルボキシル基活性化磁性粒子液0.5mlを加えて、1時間超音波を加えた。その後、一晩、ローテーターで撹拌し、カルボキシル基へのストレプトアビジンの結合反応を促進させた。反応終了後、磁気分離を実施して上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。そして、0.2M Tris−HClを1ml加え、超音波を1分間加えた後、ローテーターで2時間撹拌することによって、未反応の活性化カルボキシル基のヒドロキシル化を行った。反応終了後、磁気分離し、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた、このような洗浄操作をさらに2回繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて1mlに調製することによって、最終的にストレプトアビジンが固定化された磁性粒子液を得ることができた。
《特異結合能の評価試験》
ストレプトアビジン固定化磁性粒子とビオチンとの特異結合能を評価するため、ビオチン化HRPを用いて、ストレプトアビジン固定化磁性粒子のビオチン結合量を評価した。上記の《生体物質結合性物質の固定化試験》と同様、磁性粒子P1およびR1にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P1を例に挙げて説明する。
まず、ストレプトアビジン固定化磁性粒子P1の0.05mg/mlに対してPBS緩衝液で希釈すべく、1.5mlチューブにPBS緩衝液0.25ml加えた。磁気分離で上澄みを除き、濃度100ng/mlのビオチン化HRPを100μl加え、ボルテックスミキサーで30分間攪拌し、ビオチン化HRPをストレプトアビジン固定化磁性粒子P1に結合させた。10mM PBS緩衝液(pH7.2)400μlを用いてチューブ内の粒子を洗浄して磁気分離した。このような洗浄操作を計4回行った。その後、PBS緩衝液を除去した後、粒子が含まれるチューブに200μlのTMB(テトラメチルベンジジン)を加えて30分間静置させることによって、粒子溶液を発色させた。次いで、1N硫酸を200μl加えて、反応を停止させた。この反応停止液を1N硫酸で5倍希釈し、100μlをウェルプレートへと分注した。TECAN社製プレートリーダーInfinite200で吸光度(450nm)を測定し、チューブに仕込まれた粒子の発色量を求めた。結果を表5に示す。
表5に示す結果から、実施例1の磁性粒子P1は比較例1の磁性粒子R1と比べて、単位重量あたりでより多くのビオチン結合能を有することを確認することができた。
以上の結果に鑑みると、被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1は、標的物質をより多く結合させることができ、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野で用いる磁性粒子として好適に利用できるものであることが理解できるであろう。
《磁気捕集性の評価》
実施例1の磁性粒子P1および比較例2として用いたInvirogen社製ダイナビーズ(MyOne Carboxylic acid)R2に対して水中で磁気捕集速度の測定を行った。磁性粒子P1およびR2にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P1を例に挙げて説明する。尚、実施例1における磁性粒子P1の飽和磁化は70.8A・m2/kgであって、その保磁力は5.0kA/mであった。
磁気捕集性評価の測定装置としては日立ハイテクノロジー社製バイオ光度計U−0080Dを用いた。具体的な測定としては、0.2mg/mLの磁性粒子分散液を1cm角の分光セルに仕込んで分光光度計にセットし、ピペッティングにより十分に粒子を分散させた後、二六製作所製ネオジム磁石NK037(大きさ:40mm×20mm×1mm、表面磁束密度:134mT)をセル外部に近接させ、550nmの光の吸光度の時間変化を測定した。この際のセル内部の磁場は前述した方法で測定すると0.36Tであった。
図4に測定結果のグラフを示す。図4のグラフから分かるように、磁性粒子P1は吸光度が短時間で低下している。具体的には、磁場を作用させてから約60秒程度で緩衝溶液の相対吸光度が初期の“1”から約0.04にまで低下した。これに対して、Invirogen社製ダイナビーズR2は同様の相対吸光度の低下に際して約3分要した。
図4の結果に鑑みると、被着ポリマー粗面化された磁性粒子P1を含んだ水分散液では、より短い時間で効果的に粒子を磁気捕集できることが理解できるであろう。
『ポリマーコート層がポリマーシェル部および親水ポリマー部を有する磁性粒子に特化したケースB』
《粒子の調製》
実施例1’および比較例1’、2’において磁性粒子を以下のように調製した。
実施例1’
本実施例1’においては、コア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を備えた磁性粒子を調製した。
(シランカップリング剤処理)
磁性を帯びたコア粒子r1’として戸田工業製マグネタイトHM−305(一次粒径:210nm)を用いた。かかるコア粒子r1’の10g/100mlのメタノール分散ストック溶液を予備分散した後、このストック溶液18ml(コア粒子1.8g分)にメタノールを加えて427mlとし、さらに予備分散を行った。得られた分散液に対して3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)22.95mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。攪拌後、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換することによって、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子を得た。
(粗面化ポリマーコーティング処理)
水290mlに対して「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子の溶液(46.7mg/ml)」を59.96ml(「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子」2.8g分)加えた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)5.25ml、スチレン(和光純薬製)1.75ml、ライトアクリレート4EG−A(共栄社化学製)1.75ml、さらには、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25g/mlの水懸濁液5ml(和光純薬製)、および、メタノール14mlを加えた。しばらく撹拌した後、過硫酸カリウム142mgを水7mlに溶かして加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行うことによって、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’を得た。
(物理的分散処理および親水ポリマーコーティング処理)
21.32mg/mlの粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’の分散液17.8ml(粗面化ポリマーコート磁性粒子P1’として380mg分)を水75mlに加えて物理的分散処理に付した。より具体的には、「水が加えられた分散液」を加圧下にてスリット部(細い隙間)に通過させ、それによって、磁性粒子に剪断力を与えて分散させた。次いで、得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)1.235ml、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)66.5μlを加え、さらに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸66.5mgを水5mlに溶かして加えた。しばらく撹拌した後、2.66mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を水5mlに溶かして加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行った。これにより、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’を得た。即ち、コア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を備えた粒子P2’を得た。
比較例1’
本比較例1’においては、コア粒子上に粗面ポリマーコート層を備えた磁性粒子を調製した。即ち、粗面ポリマーコーティング処理が施されているものの、親水ポリマーコーティング処理が施されていない磁性粒子を調製した。
(シランカップリング剤処理)
磁性を帯びたコア粒子r2’として戸田工業製マグネタイトTM−023(一次粒径:230nm)を用いた。かかるコア粒子r2’の1.7gをメタノール475ml中に分散させた。得られた分散液に対して3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)25.5mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。攪拌後、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換することによって、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子を得た。
(粗面化ポリマーコーティング処理)
水38mlに対して「シランカップリング剤を固定化した磁性粒子の溶液(40mg/ml)」を10ml加えた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)2ml、スチレン(和光純薬製)0.5ml、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25mg/mlの水懸濁液1.6ml(和光純薬製)、および、メタノール2mlを加えた。しばらく撹拌した後、40mgの過硫酸カリウムを加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行い、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子R1’を得た。即ち、粗面ポリマーコート層を有するものの親水ポリマーコート層を有していない磁性粒子R1’を得た。
比較例2’
本比較例2’においては、コア粒子上に親水ポリマーコート層を備えた磁性粒子を調製した。即ち、親水コーティング処理が施されているものの、粗面ポリマーコーティング処理が施されていない磁性粒子を調製した。
(親水ポリマーコーティング処理)
上記比較例1’で得られた「シランカップリング剤を固定化した40mg/mlの磁性粒子の溶液」の5mlを水43mlに対して分散させた。得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)0.7ml、および、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)35μlを加えた。しばらく撹拌した後、1.4mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、遠心分離法によって洗浄を行った。これにより、親水ポリマーコートされた磁性粒子R2’を得た。即ち、親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない磁性粒子R2’を得た。
《比表面積の測定》
比表面積細孔分布測定装置BELSORP−Mini(日本ベル社製)を用いてBET法により実施例1’のP1’、P2’の比表面積を測定した。かかる測定の結果、実施例1’の磁性粒子P1’、P2’の比表面積はそれぞれ、28.7m/g、15.9m/gであることが分かった。その一方、同じくBET法により比較例2’の磁性粒子R2’の比表面積を測定したところ、その比表面積は6.0m/gであった。なお、r1’、r2’、R1’の比表面積はそれぞれ、5.6m/g、7.4m/g、18.8m/gであった。
BET法で測定したコア粒子r1’(戸田工業製マグネタイトHM−305)の比表面積が5.6m/gであったことに鑑みると、本発明の実施例1’においては粗面化ポリマーコートによって比表面積が「5.6→28.7m/g」と増加しており、ポリマーコート層によって確実に粗面化した粒子が得られていることが分かった
親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’の比表面積は15.9m/gであった。比表面積はP1’の28.7m/gからP2’の15.9m/gに減少している。この減少は粗面化ポリマーコート層の剥がれに起因していると考えられる。しかし、比表面積はコア粒子r1’の5.6m/gより大きいので、剥がれは一部にとどまっており、表面の粗面性は実質的に維持されている。
ここで、コア粒子r1’を粒径210nmの平滑な完全球体と仮定して、その比表面積を計算すると5.7m/gとなる。従って、実施例1’の親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’の比表面積15.9m/gは、かかる5.7m/gの“2.8倍”となっている(これに対して、比較例2’のポリマーコートされた磁性粒子R2’の比表面積6.0m/gは、コア粒子r2’の5.2m/gの“1.2倍”にすぎなかった)。
《SEM観察》
実施例1’の磁性粒子P1’、P2’、コア粒子r1’、比較例1’のコア粒子r2’および比較例2’の磁性粒子R2’の表面観察を行った。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて磁性粒子P1’、P2’、コア粒子r1’、r2’および磁性粒子R2’の表面を観察した。P1’、P2’、r1’、r2’およびR2’の粒子表面のSEM画像をそれぞれ図5、図6、図7、図8および図9に示す。
図5〜図9を参照すると分かるように、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’の粒子表面状態(図5)は、コア粒子r1’の粒子表面状態(図7)および比較例2’のポリマーコートされた磁性粒子R2’の粒子表面状態(図9)とは明らかに異なり、粒子表面に房形状の粗面コーティングが見られた。さらに、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子でも粒子表面は粗面性を有することが分かった(図6)。
《TEM観察》
実施例1’と同様に調製して得られた磁性粒子のTEM写真を図10(a)および(b)に示す。かかるTEM写真から理解できるように、本発明の磁性粒子では、ポリマーコート層(特にポリマーシェル部)が、コア粒子の表面の少なくとも一部を連続的に被覆していることが分かった。つまり、コア粒子上に設けられたポリマーコート層(特にポリマーシェル部)自体が、“コア粒子表面を局所的に露出させるような空隙”を有することなく、連続的に設けられていることが分かった。これは、特定の理論に拘束されるわけではないが、ポリマーコート層(特にポリマーシェル部)がコア粒子との化学的結合に起因してその表面に設けられていることが要因として考えられる。
《熱重量の測定》
粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’,親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’およびポリマーコートされた磁性粒子R1’、R2’に対して熱重量測定(Thermogravimetry、TG)を実施した。その結果、実施例1’の磁性粒子P1’、P2’のポリマー含率は44.2重量%、17.6重量%(粒子の全重量基準)であって、比較例1’の磁性粒子R1’のポリマー含率は15.4重量%(粒子の全重量基準)、比較例2’の磁性粒子R2’のポリマー含率は2重量%(粒子の全重量基準)であった。
以上の《比表面積の測定》、《SEM観察》、《熱重量の測定》および《TEM観察》の結果を参酌すると、実施例1’の磁性粒子P1’および比較例1’の磁性粒子R1’においては、粒子表面にコーティングされたポリマーシェル部(特に連続的な形態を有するポリマーシェル部)によって房形状に粗面化が施され、その結果、粒子の比表面積が増大していることが理解できるであろう。さらに、実施例1’の磁性粒子P2’においては、粗面化ポリマーコートした磁性粒子をさらに親水化ポリマーコートした磁性粒子が同様にポリマーシェル部に房形状の粗面性を保持し、その結果、粒子の比表面積は磁性コア粒子に比べて、増大したまま維持されていることが理解できるであろう。
《生体物質結合性物質の固定化試験》
粗面化ポリマーコート磁性粒子P1’、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’およびポリマーコートされた磁性粒子R2’に対してストレプトアビジンを固定化した。磁性粒子P1’、P2’およびR2’にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P1’を例に挙げて説明する。
まず、磁性粒子P1’(2mg)を10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1mlに溶かして磁性粒子液1mlを得た。次いで、かかる磁性粒子液に対して、5mgのDMT−MM(カップリング剤、和光純薬製)を1mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かした溶液1mlを加え、2mlとし、超音波を5分間加えた後、さらに25分間、1000rpmで撹拌を行った。磁気分離後、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。このような超音波洗浄、磁気分離をもう一度繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて、1mlに調製し、カルボキシル基活性化磁性粒子液を得た。
次いで、1mgストレプトアビジン(和光純薬製)を0.5mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かし、カルボキシル基活性化磁性粒子液0.5mlを加えて、1時間超音波を加えた。その後、一晩、ローテーターで撹拌し、カルボキシル基へのストレプトアビジンの結合反応を促進させた。反応終了後、磁気分離を実施して上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。そして、0.2M Tris−HClを1ml加え、超音波を1分間加えた後、ローテーターで2時間撹拌することによって、未反応の活性化カルボキシル基のヒドロキシル化を行った。反応終了後、磁気分離し、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた、このような洗浄操作をさらに2回繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて1mlに調製することによって、最終的にストレプトアビジンが固定化された磁性粒子液を得ることができた。
《特異結合能の評価試験》
ストレプトアビジン固定化磁性粒子とビオチンとの特異結合能を評価するため、ビオチン化HRPを用いて、ストレプトアビジン固定化磁性粒子のビオチン結合量を評価した。上記の《生体物質結合性物質の固定化試験》と同様、磁性粒子P1’、P2’およびR2’にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P1’を例に挙げて説明する。
まず、ストレプトアビジン固定化磁性粒子P1’の0.05mg/mlに対してPBS緩衝液で希釈すべく、1.5mlチューブにPBS緩衝液0.25ml加えた。磁気分離で上澄みを除き、濃度100ng/mlのビオチン化HRPを100μl加え、ボルテックスミキサーで30分間攪拌し、ビオチン化HRPをストレプトアビジン固定化磁性粒子P1’に結合させた。10mM PBS緩衝液(pH7.2)400μlを用いてチューブ内の粒子を洗浄して磁気分離した。このような洗浄操作を計4回行った。その後、PBS緩衝液を除去した後、粒子が含まれるチューブに200μlのTMB(テトラメチルベンジジン)を加えて30分間静置させることによって、粒子溶液を発色させた。次いで、1N硫酸を200μl加えて、反応を停止させた。この反応停止液を1N硫酸で5倍希釈し、100μlをウェルプレートへと分注した。TECAN社製プレートリーダーInfinite200で吸光度(450nm)を測定し、チューブに仕込まれた粒子の発色量を求めた。結果を表6に示す。なお、吸光度の値については、標準粒子をもとに規格化した。
表6に示す結果から、実施例1’の磁性粒子P2’は比較例2’の磁性粒子R2’と比べて、単位重量あたりでより多くのビオチン結合能を有することを確認することができた。
以上の結果に鑑みると、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’は、標的物質をより多く結合させることができ、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野で用いる磁性粒子として好適に利用できるものであることが理解できるであろう。
《磁気捕集性の評価》
実施例1’の磁性粒子P2’および比較例3’として用いたInvirogen社製ダイナビーズ(MyOne Carboxylic acid)R3’に対して水中で磁気捕集速度の測定を行った。磁性粒子P2’およびR3’にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P2’を例に挙げて説明する。尚、実施例1’における磁性粒子P2’の飽和磁化は69.5A・m2/kgであって、その保磁力は5.0kA/mであった。
磁気捕集性評価の測定装置としては日立ハイテクノロジー社製バイオ光度計U−0080Dを用いた。具体的な測定としては、0.2mg/mLの磁性粒子分散液を1cm角の分光セルに仕込んで分光光度計にセットし、ピペッティングにより十分に粒子を分散させた後、二六製作所製ネオジム磁石NK037(大きさ:40mm×20mm×1mm、表面磁束密度:134mT)をセル外部に近接させ、550nmの光の吸光度の時間変化を測定した。この際のセル内部の磁場は前述した方法で測定すると0.36Tであった。
図11に測定結果のグラフを示す。図11のグラフから分かるように、親水化された粗面コート磁性粒子P2’に磁場を作用させてから約2分程度で緩衝溶液の相対吸光度が初期の“1”から約0.07にまで低下した。これに対して、Invirogen社製ダイナビーズR3’も、同様の速度で低下した。
図11の結果に鑑みると、磁性粒子の水分散液中での磁気分離速度は分散粒径が小さくなるほど、遅くなる傾向にあるが、本磁性粒子のコア粒子径は210nmで、DLS測定での分散粒径も約500nmと小粒径であるにも拘わらず、磁気分離能を維持していることが理解できるであろう。
《分散安定性の評価》
粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’と親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’の水中での分散性を比較した。それぞれの粒子の1mg/mlの水分散体1mlを調製し、自然沈降の速さを目視で確認した。図12に示すように例えば、1時間後では粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1’(右側)は粒子がほとんど沈降しているのに対し、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’(左側)は沈降がほとんど見られなかった。このことから、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2’は粗面性を有し、優れた磁気分離を維持しながらも、高い分散性を有した粒子で、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野で用いる磁性粒子として好適に利用できるものであることが理解できるであろう。
『球形状のコア粒子から構成された磁性粒子に特化したケースC』
《粒子の調製》
実施例1”において球形のコア磁性体を有する親水性の粗面化磁性粒子、比較例1”において球形ではないコア磁性体を有する親水性の粗面化磁性粒子、比較例2”において親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない球形コアの磁性粒子を以下のように調製した。
実施例1”
本実施例1”においては、球形のコア粒子を合成し、得られた球形のコア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を形成することによって磁性粒子の調製を行った。
<マグネタイト粒子の合成>
反応系として嫌気下条件を用いた。溶媒としての水およびグリセリンは、窒素ガスを用いて脱気したものを使用した。また、反応中も容器内を窒素ガスで置換し、酸素を含まない条件にした。窒素ガスの純度は99.998%のものを用いた。
コア粒子となるマグネタイト粒子を、以下の方法により合成した。まず、1.1gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を4ccの純水に溶解させ、硫酸第一鉄水溶液を調製した。この硫酸第一鉄をグリセリン120ccと混合し均一な溶液とした。また、これとは別に、112gの水酸化ナトリウムを100ccの純水に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。次いで、硫酸第一鉄溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液14.7ccを滴下し、水酸化第一鉄の沈殿物を生成させた。最終的な液量が145ccになるように水を滴下した。滴下終了後、攪拌しながら、30分撹拌した。この溶液を、耐圧容器に入れ、乾燥機で180℃、20時間反応させた。得られた粒子を洗浄し、乾燥させないまま、次の反応に用いた。かかるマグネタイト粒子r1”は、長短半径比が1.14の球形で、一次粒径が250nmであった(マグネタイト粒子の長短半径比と一次粒径は、透過型電子顕微鏡写真上で、画像解析ソフトImage-Pro Plus(日本ローパー製)を用いて、300個の粒子サイズを測定し、その数平均として求めた)。また、飽和磁化量は77.6A・m2/kg(emu/g)、保磁力は3.10kA/m(38.9エルステッド)であった。
(シランカップリング剤処理)
先の反応で得られたマグネタイト粒子r1”の200mgをメタノール50ml中に分散させた。この溶液に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)3mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。次いで、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換して、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子Q1”を得た。
(粗面化ポリマーコーティング処理)
シランカップリング剤を固定化した磁性粒子200mgを水50mlに分散させた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)0.375ml、スチレン(和光純薬製)0.125ml、ライトアクリレート4EG−A(共栄社化学製)0.125ml、さらには、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25g/mlの水懸濁液0.35ml(和光純薬製)、および、メタノール2mlを加えた。しばらく撹拌した後、過硫酸カリウム10mgを水1mlに溶かして加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行うことによって、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1”を得た。
(物理的分散処理および親水ポリマーコーティング処理)
25mg/mlの粗面化ポリマーコートされた磁性粒子P1”の分散液10ml(粗面化ポリマーコート磁性粒子P1”として250mg分)を物理的分散処理に付した。より具体的には、分散液を加圧下にてスリット部(細い隙間)に通過させ、それによって、磁性粒子に剪断力を与えて分散させた。磁気分離で洗浄後、得られた溶液に水を加えて50mlとし、撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)0.65ml、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)35μlを加え、さらに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸35mgを水1mlに溶かして加えた。しばらく撹拌した後、1.4mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を水1mlに溶かして加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行った。これにより、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”を得た。即ち、コア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を備えた粒子P2”を得た。
比較例1”
本比較例1”においては、球形でないコア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を備えた磁性粒子を調製した。
(シランカップリング剤処理)
磁性を帯びたコア粒子r2”として戸田工業製マグネタイトHM−305(一次粒径:210nm)を用いた。かかるコア粒子r2”の10g/100mlのメタノール分散ストック溶液を予備分散した後、このストック溶液18ml(コア粒子1.8g分)にメタノールを加えて427mlとし、さらに予備分散を行った。得られた分散液に対して3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(LS−3360、信越化学製)22.95mlを加えて、40℃で4時間撹拌した。攪拌後、遠心分離に付して洗浄を行った後、溶媒を水に置換することによって、シランカップリング剤を固定化した磁性粒子Q2”を得た。
水290mlに対して「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子の溶液(46.7mg/ml)」を59.96ml(「予備分散したシランカップリング剤を固定化した磁性粒子」2.8g分)加えた。得られた分散液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、ジビニルベンゼン(和光純薬製)5.25ml、スチレン(和光純薬製)1.75ml、ライトアクリレート4EG−A(共栄社化学製)1.75ml、さらには、HOA−MS(2−アクリロイロキシエチルコハク酸、共栄社化学製)

の0.25g/mlの水懸濁液5ml(和光純薬製)、および、メタノール14mlを加えた。しばらく撹拌した後、過硫酸カリウム142mgを水7mlに溶かして加え、80℃の窒素雰囲気下で5時間反応を進行させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行うことによって、粗面化ポリマーコートされた磁性粒子R1”を得た。
(物理的分散処理および親水ポリマーコーティング処理)
21.32mg/mlの粗面化ポリマーコートされた磁性粒子R1”の分散液17.8ml(粗面化ポリマーコート磁性粒子R1”として380mg分)を水75mlに加えて物理的分散処理に付した。より具体的には、「水が加えられた分散液」を加圧下にてスリット部(細い隙間)に通過させ、それによって、磁性粒子に剪断力を与えて分散させた。次いで、得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)1.235ml、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)66.5μlを加え、さらに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸66.5mgを水5mlに溶かして加えた。しばらく撹拌した後、2.66mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を水5mlに溶かして加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、磁気分離法によって洗浄を行った。これにより、親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子R2”を得た。即ち、コア粒子上に粗面ポリマーコート層および親水ポリマーコート層を備えた粒子R2”を得た。
比較例2”
本比較例2”においては、球形のコア粒子上に親水ポリマーコート層を備えた磁性粒子を調製した。即ち、親水コーティング処理が施されているものの、粗面ポリマーコーティング処理が施されていない球形のコア粒子を有する磁性粒子を調製した。
(親水ポリマーコーティング処理)
上記実施例1”で合成した球形の磁性粒子r1”に「シランカップリング剤を固定化した40mg/mlの磁性粒子Q1”の溶液」の5mlを水43mlに対して分散させた。得られた溶液を撹拌しながら、窒素ガスを流し、窒素雰囲気下にした。その後、アクリル酸(和光純薬製)0.7ml、および、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学製)35μlを加えた。しばらく撹拌した後、1.4mgの2,2'−アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製)を加え、70℃の窒素雰囲気下で5時間反応させた。その後、遠心分離法によって洗浄を行った。これにより、親水ポリマーコートされた磁性粒子R3”を得た。即ち、親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない球形コアの磁性粒子R3”を得た。
《生体物質結合性物質の固定化試験》
球形のコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”、球形ではないコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子R2”および、親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない球形コアの磁性粒子R3”に対してストレプトアビジンを固定化した。磁性粒子P2”、R2”およびR3”はそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P2”を例に挙げて説明する。
まず、磁性粒子P2”(2mg)を10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1mlに溶かして磁性粒子液1mlを得た。次いで、かかる磁性粒子液に対して、5mgのDMT−MM(カップリング剤、和光純薬製)を1mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かした溶液1mlを加え、2mlとし、超音波を5分間加えた後、さらに25分間、1000rpmで撹拌を行った。磁気分離後、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。このような超音波洗浄、磁気分離をもう一度繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて、1mlに調製し、カルボキシル基活性化磁性粒子液を得た。
次いで、1mgストレプトアビジン(和光純薬製)を0.5mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.2)に溶かし、カルボキシル基活性化磁性粒子液0.5mlを加えて、1時間超音波を加えた。その後、一晩、ローテーターで撹拌し、カルボキシル基へのストレプトアビジンの結合反応を促進させた。反応終了後、磁気分離を実施して上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた。そして、0.2M Tris−HClを1ml加え、超音波を1分間加えた後、ローテーターで2時間撹拌することによって、未反応の活性化カルボキシル基のヒドロキシル化を行った。反応終了後、磁気分離し、上澄みを除き、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)1ml加えてピペッティング後、1分間超音波洗浄し、磁気分離で上澄みを除いた、このような洗浄操作をさらに2回繰り返した後、10mM リン酸緩衝液(pH7.2)を加えて1mlに調製することによって、最終的にストレプトアビジンが固定化された磁性粒子液を得ることができた。
《特異結合能の評価試験》
ストレプトアビジン固定化磁性粒子とビオチンとの特異結合能を評価するため、ビオチン化HRPを用いて、ストレプトアビジン固定化磁性粒子のビオチン結合量を評価した。上記の《生体物質結合性物質の固定化試験》と同様、磁性粒子P2”、R2”およびR3”にはそれぞれ同様の処理を行った。磁性粒子P2”を例に挙げて説明する。
まず、ストレプトアビジン固定化磁性粒子P2”の0.05mg/mlに対してPBS緩衝液で希釈すべく、1.5mlチューブにPBS緩衝液0.25ml加えた。磁気分離で上澄みを除き、濃度100ng/mlのビオチン化HRPを100μl加え、ボルテックスミキサーで30分間攪拌し、ビオチン化HRPをストレプトアビジン固定化磁性粒子P1”に結合させた。10mM PBS緩衝液(pH7.2)400μlを用いてチューブ内の粒子を洗浄して磁気分離した。このような洗浄操作を計4回行った。その後、PBS緩衝液を除去した後、粒子が含まれるチューブに200μlのTMB(テトラメチルベンジジン)を加えて30分間静置させることによって、粒子溶液を発色させた。次いで、1N硫酸を200μl加えて、反応を停止させた。この反応停止液を1N硫酸で5倍希釈し、100μlをウェルプレートへと分注した。TECAN社製プレートリーダーInfinite200で吸光度(450nm)を測定し、チューブに仕込まれた粒子の発色量を求めた。結果を表7に示す。なお、吸光度の値については、標準粒子をもとに規格化した。
表7に示す結果から、実施例1”の磁性粒子P2”は、比較例1”の磁性粒子R2”および比較例2”の磁性粒子R3”と比べて、単位重量あたりで同等以上のビオチン結合能を有することを確認することができた。
以上の結果に鑑みると、球形のコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”は、標的物質をより多く結合させることができ、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野で用いる磁性粒子として好適に利用できるものであることが理解できるであろう。
《分散安定性の評価》
球形のコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”、球形ではないコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子R2”および親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない球形コアの磁性粒子R3”の水中での分散性を比較した。それぞれの粒子の1mg/mlの水分散体1mlを調製し、自然沈降の速さを目視で確認した。2時間後では、球形ではないコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子R2”、親水ポリマーコート層を有するものの粗面ポリマーコート層を有していない球形コアの磁性粒子R3”には、若干の沈降が見られたのに対して、球形のコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”にはほとんど沈降が見られなかった。このことから、球形のコア磁性粒子を有する親水化された粗面化ポリマーコート磁性粒子P2”は粗面性を有し、優れた磁気分離を維持しながらも、高い分散性を有した粒子で、バイオテクノロジー分野またはライフサイエンス分野で用いる磁性粒子として好適に利用できるものであることが理解できるであろう。
本発明の磁性粒子は、細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製および分析等に利用できる。例えば、本発明の磁性粒子は、DNA等の核酸を結合させることができ、結果的にDNAの塩基配列の解析に用いることができるので、テーラーメード医療技術に資するものである。
また、本発明の磁性粒子は、例えば、ある特定の生体物質と特異的に結合する物質を粒子表面につけると、サンプル溶液と混合して粒子だけを回収することで、必要な生体物質だけを取り出すことができる。従って、本発明の磁性粒子は、体外診断などの検査薬の用途のみならず、医療、研究分野でのDNAやタンパクなど生体物質の回収や検査の用途、また、ドラッグデリバリーシステム(DDS)等の用途にも用いることができる。

Claims (22)

  1. 標的物質が結合できる磁性粒子であって、
    磁性を帯びたコア粒子および該コア粒子の表面に設けられたポリマーコート層を有して成り、
    前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が、前記コア粒子および/または前記ポリマーコート層に固定化されてなり、また
    前記ポリマーコート層がフッ素元素を含んで成ることを特徴とする、磁性粒子。
  2. 前記ポリマーコート層の少なくとも表面部に前記フッ素元素が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の磁性粒子。
  3. 前記表面部に含まれる前記フッ素元素および炭素元素につき、該炭素元素に対する該フッ素元素の原子数割合を示すF/C比が、0.005〜0.1であることを特徴とする、請求項2に記載の磁性粒子。
  4. 前記磁性粒子の重量(g)に対する前記フッ素元素の含量(μg)が5〜2500μg/gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粒子。
  5. 前記ポリマーコート層が、前記コア粒子の表面に粗面コーティングされたポリマーシェル部を有して成り、
    前記磁性粒子が前記ポリマーシェル部の有する表面粗さによって粗面化されて成り、該磁性粒子の比表面積の値(m/g)が、前記コア粒子を平滑な完全球体とみなした場合の該コア粒子の比表面積の値(m/g)の1.5倍〜500倍となっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性粒子。
  6. 前記ポリマーシェル部は、前記コア粒子との化学的結合に起因して該コア粒子の表面に設けられており、該ポリマーシェル部が該コア粒子の表面の少なくとも一部を連続的に被覆していることを特徴とする、請求項5に記載の磁性粒子。
  7. 前記ポリマーシェル部は、芳香族ビニル骨格を含んで成ることを特徴とする、請求項5または6に記載の磁性粒子。
  8. 前記芳香族ビニル骨格が、ジビニルベンゼン骨格および/またはジビニルベンゼン誘導体骨格であることを特徴とする、請求項7に記載の磁性粒子。
  9. 前記ポリマーコート層が親水ポリマーコート部を有して成ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性粒子。
  10. 前記ポリマーコート層が、前記ポリマーシェル部に加えて、親水ポリマーコート部を更に有して成ることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに従属する請求項9に記載の磁性粒子。
  11. 前記ポリマーコート層では、前記ポリマーシェル部の外側に前記親水ポリマーコート部が形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の磁性粒子。
  12. 前記コア粒子が5nm〜3μmの粒径を有していることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の磁性粒子。
  13. 前記コア粒子の長短半径比が1.0〜1.3の範囲となった球形状を有していることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の磁性粒子。
  14. 前記球形状の前記コア粒子につき、粒径分布を示すCV値が18%以下であることを特徴とする、請求項13に記載の磁性粒子。
  15. 請求項1〜14のいずれかに記載の標的物質が結合できる磁性粒子を製造する方法であって、
    前記磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子と、原料モノマーと、溶媒とを混ぜ合わせ、それによって、該原料モノマーから得られるポリマー成分を前記前駆体粒子に化学的に結合させてポリマーコート層を形成する工程を含んでなり、
    前記工程で用いる前記原料モノマーにはフッ素含有モノマーが少なくとも含まれることを特徴とする方法。
  16. 前記フッ素含有モノマーが、前記原料モノマー基準で2モル%〜40モル%の割合で該原料モノマーに含まれることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
  17. 前記原料モノマーに芳香族ビニルモノマーが更に含まれており、それによって、前記前駆体粒子に粗面ポリマーコーティング処理を施して前記ポリマーシェル部を形成することを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに従属する請求項15または16に記載の方法。
  18. 前記工程においては、前記原料モノマーに、親水性モノマーが更に含まれており、それによって、前記前駆体粒子に親水ポリマーコーティング処理を施して前記親水ポリマーコート部を形成することを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに従属する請求項15または16に記載の方法。
  19. 請求項10または11に記載の標的物質が結合できる磁性粒子を製造する方法であって、
    (i)前記磁性粒子のコア粒子となる前駆体粒子に対して粗面ポリマーコーティング処理を施し、該前駆体粒子の表面にポリマーシェル部を形成する工程、および
    (ii)前記粗面ポリマーコーティング処理が施された前記前駆体粒子に対して親水ポリマーコーティング処理を施し、該前駆体粒子に親水ポリマーコート部を形成する工程
    を含んで成り、
    前記工程(i)粗面ポリマーコーティング処理および/または前記工程(ii)の親水ポリマーコーティング処理に用いる原料モノマーにはフッ素含有モノマーが少なくとも含まれることを特徴とする方法。
  20. 前記工程(i)と前記工程(ii)との間で前記前駆体粒子を物理的分散処理に付すことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
  21. 前記物理的分散処理に際しては、前記前駆体粒子に剪断力を与えることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
  22. 前記物理的分散処理に際しては、加圧下にて前記前駆体粒子をスリット部に通過させることを特徴とする、請求項20または21に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2018194681A (ja) * 2017-05-17 2018-12-06 コニカミノルタ株式会社 定着部材、定着装置および異形粒子
EP3951391A4 (en) * 2019-03-26 2023-04-12 Sekisui Medical Co., Ltd. MAGNETIC SENSITIVE PARTICLE AND METHOD FOR IMMUNOLOGICAL ASSAY USING THE SAME, REAGENT FOR IMMUNOLOGICAL ASSAY

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