JP6955442B2 - 内燃機用燃料油組成物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機用燃料油組成物及びその製造方法に関する。
A重油(JIS K2205:2006の1種重油)は、灯油、軽油等と比べて単位体積当たりの発熱量が高く、燃料油使用量(体積)を低減することができ、またC重油(JIS K2205:2006の3種重油)と比べて硫黄分、窒素分、残留炭素分が少ないことから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油として、また発電用ボイラ等の外燃機の燃料油として広く使用されている。
また、船舶用の燃料油としては、ISO8217「Petroleum products−Fuels(class F)−Specification of marine fuels」を満足する燃料油等が知られている。この船舶用の燃料油は、燃料油フィルタの閉塞を生じる場合があるため、該フィルタの閉塞頻度を低減する手法として、潜在セジメント(Total sediment aged、ISO 10307−2)を0.10質量%以下とする手法、Total sediment by hot filtration(ISO 10307−1)を0.10質量%以下とする手法等が知られている。
更に、内燃機用A重油について、燃料油フィルタの通油性を改善する方法として、例えば、特許文献1〜4に記載される手法も知られている。
特許第3825876号 特許第4084619号 特許第4577925号 特許第4728856号
しかしながら、上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物を用いても、とりわけ大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンに内燃機用燃料油組成物を用いる場合、燃料油フィルタの閉塞頻度が高くなるという問題が発生する傾向にある。そのため、燃料油組成物として本来求められる、着火遅れ等がない着火性能及び安定した燃焼性能(これらをあわせて「燃焼性能」と称することがある。)等の性能に加えて、より優れた閉塞防止性能(以下、「ろ過性能」と称することもある。)が求められるようになっている。
ところで、内燃機に用いられる燃料油組成物には、より高い総発熱量とすることで、その使用量を低減し、また排ガス中の硫黄酸化物濃度を低減することで環境負荷を低減し得る環境性能、更には、様々な使用環境下において安定した性状を有し、例えば低温環境下で流動性が著しく低下して配管内に滞留してしまうといった、温度等の環境の変化に対して顕著な挙動を発現しない取扱容易性能も求められるようになっている。
しかしながら、従来のA重油やC重油、また上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物は、ろ過性能とともに、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能の全てを十分に満足するものとはいえないものであり、これらの性能を同時に満足し得る内燃機用燃料油組成物の開発が望まれている。
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供するものである。
[1]下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(1)ろ過時間の傾きが0.28以下
(2)15℃における密度が0.925g/cm以下
(3)総発熱量が40,000(J/mL)以上
(4)50℃における動粘度が3.7mm/s以上9.9mm/s以下
(5)流動点が5.0℃以下
(6)組成物全量基準の硫黄分含有量が0.5質量%以下
(7)CCAIが850以下
[2]直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分と、
C重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油及び分解重油から選ばれる少なくとも一種の重油留分と、
を混合する、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(1)ろ過時間の傾きが0.28以下
(2)15℃における密度が0.925g/cm以下
(3)総発熱量が40,000(J/mL)以上
(4)50℃における動粘度が3.7mm/s以上9.9mm/s以下
(5)流動点が5℃以下
(6)組成物全量基準の硫黄分含有量が0.5質量%以下
(7)CCAIが850以下
本発明によれば、ろ過性能とともに、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能に優れる内燃機用燃料油組成物、及びその製造方法を提供することができる。
各実施例及び比較例の燃料油組成物のろ過性能評価に使用したろ過性能評価システムの概略図である。
[内燃機用燃料油組成物]
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る内燃機用燃料油組成物、及びその製造方法をさらに具体的に説明する。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(1)〜(7)、すなわち(1)ろ過時間の傾きが0.28以下、(2)15℃における密度が0.925g/cm以下、(3)総発熱量が40,000(J/mL)以上、(4)50℃における動粘度が3.7mm/s以上9.9mm/s以下、(5)流動点が5℃以下、(6)組成物全量基準の硫黄分含有量が0.5質量%以下及び(7)CCAIが850以下をいずれも満足する燃料油組成物である。
(組成及び性状)
まず、上記(1)〜(7)の本実施形態に係る内燃機用燃料油組成物の組成及び性状について説明する。
(1)ろ過時間の傾き
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のろ過時間の傾きは、燃料油フィルタの閉塞の頻度を効果的に低減できるという観点から、0.28以下であることを要する。ろ過時間の傾きが0.28より大きいと、燃料油フィルタの閉塞が生じやすくなり、優れたろ過性能は得られない。優れたろ過性能を得る観点から、ろ過時間の傾きは、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.10以下であり、更に好ましくは0.07以下である。
内燃機用燃料油組成物中のセジメント等が原因で燃料油フィルタが閉塞した場合、燃料油フィルタの洗浄が必要となる。よって、燃料油フィルタの閉塞の頻度が低ければ、燃料油フィルタが再び閉塞するまで長期間要することになるが、燃料油フィルタの閉塞の頻度が高いと、燃料油フィルタを洗浄した後、短い期間で燃料油フィルタは再び閉塞するため、該フィルタの洗浄の回数が増加する。
ろ過時間の傾きが0.28以下であると、燃料油フィルタの洗浄間隔は少なくとも24時間程度であると見積もられる。すなわち、ろ過時間の傾きが0.28以下であれば、少なくとも24時間は燃料油フィルタを洗浄する必要がなく、ディーゼルエンジンの連続的な使用時間をより長くすることになる。一方、ろ過時間の傾きが0.28より大きくなると、燃料油フィルタの洗浄間隔が短くなってしまう。そのため、ディーゼルエンジンの連続的な使用を可能とするには、燃料油フィルタの設置台数を増加させる、あるいは燃料油フィルタの洗浄中は燃料油フィルタを通過させずに燃料油組成物をエンジンで燃焼させることになるため、設備費の増加、エンジンの安定運転に悪影響を与えることにつながる。
よって、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、ろ過時間の傾きが上記範囲内であるという、優れたろ過性能を有するため、結果として設備費の増加を抑え、エンジンの安定運転に寄与することができる。
ろ過時間の傾きは以下の算出方法により算出される数値である。
ろ過時間の傾きは、内燃機用燃料油組成物による燃料油フィルタの閉塞性を評価する試験方法によって算出することができる。燃料油フィルタの閉塞性を評価する試験方法は、具体的には、内燃機用燃料油組成物を遠心分離する工程A、遠心分離した内燃機用燃料油組成物の上澄み液を採取する工程B、採取した上澄み液を加熱する工程C、及び加熱した上澄み液の一部をろ紙を用いて吸引ろ過し、ろ過に要した時間を測定する工程Dを含む。
(工程A)
工程Aは、内燃機用燃料油組成物を遠心分離する工程である。例えば、測定試料を「JIS K2601:1998−原油試験方法− 14.水でい分試験方法 14.2水でい分試験器」(以下、単に「水でい分試験器」と称する。)で使用される目盛試験管3本に、各々100mLの標線まで採取する。その後、水でい分試験器で使用される遠心分離器を用い、常温(10〜20℃)、相対遠心力600の条件で55分間遠心分離を行う。
(工程B)
工程Bは、上記A工程により遠心分離した内燃機用燃料油組成物の上澄み液を採取する工程である。例えば、50mLビーカーを3個用意し、遠心分離をかけた目盛試験管3本の試料の上部50mLを、各50mLビーカーに分取する。分取後のビーカーを0.1mg単位で秤量し、秤量した質量をM(g)とする。
(工程C)
工程Cは、採取した上澄み液を加熱する工程である。具体的には、30±1℃に保った恒温槽で、工程Bで採取した試料を15分間加熱する。
(工程D)
工程Dは、加熱した上澄み液の一部をろ紙を用いて吸引ろ過し、ろ過に要した時間を測定する工程である。具体的には、JPI−5S−60−2000の実在セジメント試験方法に定めるろ過装置(以下、単に「ろ過装置」と称する。)に、細孔20〜25μmのろ紙(Whatman No.4(55mmφ))を置く。ろ紙は、110℃の乾燥機で20分間、予め乾燥させておく。さらに上部漏斗を重ね、試料の漏れ込みがないよう固定する。この際、直径28mmの孔を開けたパッキンを重ねるなどの方法で、ろ過面の直径を28mmに調節する。その後、減圧瓶の他端には、排気速度12L/分で吸引できる真空ポンプを取り付ける。上部漏斗も試料と同様に30±1℃となるように加熱する。
次に、加熱した試料のうち1つ目を、漏斗内壁に試料がつかないようにろ紙中央に注ぎ込み、ろ紙に注ぎ始めてから1分後に真空ポンプを起動させ、ろ過を開始する。この場合、ろ過開始時から、試料がろ過されろ紙が全面露出(内径28mmのろ過面部のみでよい)までに要した時間を測定し、測定したろ過に要する時間をt(秒)とする。また、使用後のビーカーを秤量し、秤量した質量をM(g)とする。
同じろ紙を用いて工程Dを複数回繰り返す。真空ポンプ停止後、2つ目、3つ目の試料に対し、工程Dの操作を繰り返し実施する。この間は、試験機取り外し、機器洗浄等の測定条件が変わる動作をしないことが好ましい。また、ろ紙の閉塞によって試料がろ過されなくなった場合は、ろ過作業を終了し次工程に進んでもよい。例えば、ろ過を開始してから6分経過してもろ過が完了しない場合、ろ過作業を終了してもよい。なお、ろ紙が閉塞した場合は、残試料をトルエンで溶解しピペット等で取り除くことが好ましい。
漏斗及びろ紙をn−ヘプタンで洗浄後、上部漏斗を取り外し、ろ紙の縁を確認する。ろ紙の縁まで着色していたら、試料が漏れているため、再試験を行う。
下記式(1)より、複数回繰り返した工程Dで測定したろ過に要した時間のそれぞれを用いて、それぞれの測定回数の内燃機用燃料油組成物の単位体積当たりのろ過時間を算出する。
=t/(M/d) (1)
上記式(1)において、nは測定回数であり、3回以上である。Tはn回目の測定のろ過に要した時間から算出した内燃機用燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間(秒/cm)、tはn回目の測定のろ過に要した時間(秒)、Mはろ過した内燃機用燃料油組成物の質量(M−M)(g)、dは15℃における内燃機用燃料油組成物の密度(g/cm)である。なお、ろ紙の閉塞によりろ過できなかった場合は、「計算不可」としてもよい。
縦軸を内燃機用燃料油組成物の単位体積当たりのろ過時間とし、横軸をろ過に要した時間の測定回数としてプロットした点から、最小二乗法で算出した近似直線の傾きが、ろ過時間の傾きである。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のろ過時間の傾きは、上記の通り0.28以下であることを要し、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.07以下という性状を有する。このような本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、燃料油フィルタの閉塞の頻度を効果的に低減でき、結果として設備費の増加を抑え、エンジンの安定運転に寄与することができるものである。よって、ろ過時間の傾きから、内燃機用燃料油組成物における燃料油フィルタの閉塞性を評価することができる、ともいえる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のろ過時間の傾きは、従来から知られているフィルタ閉塞物の量を少なくするだけではなく、フィルタ閉塞物の密度を高く、粒径を大きくすること等によっても制御することができる。例えば、加温状態での保管により閉塞物を凝集させる方法等によっても、ろ過時間の傾きを制御することができる。また、例えば、ろ過時間の傾きが異なる基材を配合することによっても、ろ過時間の傾きを制御することができる。
(2)15℃における密度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、0.925g/cm以下であることを要する。15℃における密度が0.925g/cmより大きいと、例えば、貯蔵タンクに保管中にワキシースラッジが分離発生し、燃料油フィルタが閉塞する、また大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンの前に付設されている遠心分離器によるスラッジの分離性能が低減する等の理由より、エンジンの安定運転が困難となる。スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞を抑制し、また遠心分離器によるスラッジの分離性能の低減を抑制する観点から、15℃における密度は好ましくは0.920g/cm以下、より好ましくは0.918g/cm以下である。また、下限については特に制限はないが、通常0.880g/cm以上、好ましくは0.900g/cm以上、より好ましくは0.910g/cm以上である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、JIS K 2249−1:2011(原油及び石油製品−密度の求め方−、第1部:振動法)に準じて測定することができる。
(3)総発熱量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量は、40,000(J/mL)以上であることを要する。総発熱量が40,000(J/mL)未満であると、燃料油組成物の使用量の低減効果が得られず、優れた環境性能が得られない。優れた環境性能を得る観点から、総発熱量は好ましくは40,200(J/mL)以上、より好ましくは40,500(J/mL)以上である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量は、JIS K2279:2003(原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法−)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるA重油の場合の計算式により推定)することができる。
(4)50℃における動粘度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、3.70mm/s以上9.90mm/s以下であることを要する。50℃における動粘度が9.90mm/sより大きいと、ろ過性能とともに取扱容易性能が得られない。また、50℃における動粘度が3.70mm/s未満であると、既存の設備(ポンプ、流量計)等がそのまま使用できずに設備投資が必要となってしまい、また適度な潤滑性が得られず、エンジンの安定運転が困難となる。50℃における動粘度は、ろ過性能及び取扱容易性能の観点、適度な潤滑性を得るという観点から、好ましくは4.20mm/s以上、より好ましくは4.70mm/s以上であり、上限として好ましくは8.90mm/s以下、より好ましくは7.90mm/s以下である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定することができる。
(5)流動点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点は、5.0℃以下であることを要する。流動点が5.0℃よりも高くなると、優れた取扱容易性能が得られなくなる。流動点は、より優れた取扱容易性能を得る観点から、好ましくは2.5℃以下、より好ましくは0.0℃以下である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定することができる。ここで、測定に用いる試料としては、燃料油組成物500mLを常温(10〜20℃)で168時間(7日間)放置した後、45℃に加熱する予備処理を行わなかったものを用いることとする。
(6)硫黄分含有量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量は、組成物全量基準で0.5質量%以下であることを要する。硫黄分含有量が0.5質量%より大きいと、排ガス中の硫黄酸化物による環境負荷を低減できないため優れた環境性能が得られず、また排ガスの酸露点低下による煙道腐食が生じやすくなり、エンジンの安定運転が困難となる。優れた環境性能、エンジンの安定運転の観点から、硫黄分含有量は好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、更に好ましくは0.35質量%以下である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量は、JIS K 2541−4:2003(原油及び石油製品−硫黄分試験方法− 第4部:放射線式励起法)に準じて測定することができる。
(7)CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIは、850以下であることを要する。CCAIが850を超えると、本来燃料油組成物として求められる、燃焼性能(着火遅れ等がない着火性能及び内燃機内において安定して燃焼する燃焼性能)が得られない。より優れた燃焼性能を得る観点から、CCAIは好ましくは848以下である。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIは、ISO 8217−2012のAnnex F記載の計算式より算出される値である。
(その他の性状)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)〜(7)をいずれも満足するものであることから、優れたろ過性能とともに、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能を有する燃料油組成物である。また、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)〜(7)の性状の他、以下の(8)〜(16)のその他の性状を有していることが好ましい。
(8)反応試験
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、JIS K 2252:1998による石油製品−反応試験の結果が中性であることが好ましい。中性であることにより、燃料油タンク、配管、ディーゼルエンジン、及び装備しているポンプ等の補機の腐食を防止でき、エンジンの安定運転が容易となる。
(9)引火点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上である。引火点が上記範囲のように高くなるほど、取扱い上の安全性が向上し、より優れた取扱容易性能が得られる。また、エンジンの安定運転がより容易となる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点は、JIS K 2265−3:2007(原油及び石油製品−引火点の求め方− 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定することができる。
(10)残留炭素分
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分は、組成物全量基準で、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.6質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下である。残留炭素分が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の燃焼性能の維持が容易となり、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、エンジンの安定運転がより容易となる。残留炭素分の下限値としては、税法上の観点から、10%残油の残留炭素分として0.2質量%超であることが好ましい。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分は、JIS K 2270−1:2009(原油及び石油製品−残留炭素分の求め方− 第1部:コンラドソン法)に準じて測定することができる。
(11)水分含有率
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率は、組成物全量基準で、好ましくは0.30容量%以下、より好ましくは0.10容量%以下、更に好ましくは0.05容量%以下、特に好ましくは0.01容量%以下である。水分含有率が上記範囲内であると、貯蔵安定性の低下(アスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジ生成)を抑制し、スラッジによる閉塞を防止することができるので、より優れた取扱容易性能が得られる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率は、JIS K 2275−3:2015(原油及び石油製品−水分の求め方− 第3部:カールフィッシャー式電量滴定方)に準じて測定することができる。
(12)灰分量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量は、組成物全量基準で、好ましくは0.050質量%以下、より好ましくは0.030質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。灰分量が上記範囲内であると、優れたディーゼルエンジンのシリンダー等の摩耗の抑制性能が得られ、エンジンの安定運転が容易となる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量は、JIS K 2272:1998(原油及び石油製品−灰分及び硫酸灰分試験方法−)に準じて測定することができる。
(13)銅板腐食
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の銅板腐食は、1以下であることが好ましい。銅板腐食が1以下であれば、燃料油タンク、配管、ディーゼルエンジン、及び装備しているポンプ等の補機の腐食を防止でき、エンジンの安定運転が容易となる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の銅板腐食は、JIS K 2513:2000(石油製品−銅板腐食試験法−)に準じて測定することができる。
(14)アルミニウム含有量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のアルミニウム含有量は、組成物全量基準で、好ましくは5.0質量ppm以下、より好ましくは3.0質量ppm以下、更に好ましくは2.0質量ppm以下である。アルミニウム含有量が上記範囲内であると、ディーゼルエンジンのシリンダー等の摩耗、ディーゼルエンジンの燃焼室内及び伝熱面へのアルミニウムの付着による伝熱不良が抑制され、エンジンの安定運転がより容易となる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のアルミニウム含有量は、JPI−5S−62−2011(石油製品−金属分試験方法−)に準じて測定することができる。
(15)潜在セジメント
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントは、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。潜在セジメントが上記範囲内であると、燃料油貯蔵後の燃料油フィルタの通油性が確保され、より優れたろ過性能及び取扱容易性能が得られる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントは、JPI−5S−60−2000(原油及び石油製品−セジメント試験方法−)に準じて測定することができる。
(16)実在セジメント
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の実在セジメントは、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.03質量%以下である。実在セジメントが上記範囲内であると、燃料油貯蔵後の燃料油フィルタの通油性が確保され、優れたろ過性能及び取扱容易性能が得られる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の実在セジメントは、JPI−5S−60−2000(原油及び石油製品−セジメント試験方法−)に準じて測定することができる。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、優れたろ過性能とともに、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能の観点から、上記のその他の性状のうち、(9)引火点が60℃以上、(10)残留炭素分が3.0質量%以下、(15)潜在セジメントが0.10質量%以下及び(16)実在セジメントが0.10質量%以下の性状を有することが好ましい。
(基材)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、以下の各種軽油留分、重油留分を基材として含有することができる。
(軽油留分)
軽油留分としては、例えば、以下の直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分が好ましく挙げられる。これらの留分を用いることにより、上記(1)〜(7)、更には(8)〜(16)の性状、組成が得られやすく、またろ過性能、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能を向上させることができる。これと同様の観点から、分解軽油留分、直脱軽油留分がより好ましく、分解軽油留分が更に好ましい。軽油留分としては、以下の留分を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
・直留軽油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる軽油留分)
・減圧軽油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる軽油留分)
・脱硫軽油留分(直留軽油留分及び/又は減圧軽油留分を脱硫して得られる軽油留分
・分解軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を流動接触分解して得られる軽油留分)
・脱硫分解軽油留分(分解軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・直脱軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫処理して得られる軽油留分)
軽油留分が有する性状について、15℃における密度は、0.800g/cm以上が好ましく、0.840g/cm以上がより好ましく、0.900g/cm以上が更に好ましく、また上限としては0.925g/cm以下が好ましい。15℃における密度が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を0.925g/cm以下としやすく、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞をより抑制し、また遠心分離器によるスラッジの分離性能の低減をより抑制することができる。
50℃における動粘度は、2.70mm/s以下が好ましく、2.30mm/s以下がより好ましく、2.00mm/s以下が更に好ましい。50℃における動粘度が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を3.70mm/s以上9.90mm/s以下としやすく、より優れたろ過性能及び取扱容易性能が得られ、また適度な潤滑性も得られる。
硫黄分含有量は、0.40質量%以下が好ましく、軽油留分が分解軽油留分の場合は0.30質量%以下が好ましく、また直脱軽油留分の場合は0.02質量%以下であることが好ましい。硫黄分含有量が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を0.5質量%以下としやすく、より優れた環境性能が得られ、またエンジンのより安定した運転が可能となる。ここで、軽油留分の硫黄分含有量は、JIS K2541−7:2003(原油及び石油製品−硫黄分試験方法− 第7部:波長分散傾向X線法(検量線法))に準じて測定することができる。
また、流動点は、−5.0℃以下が好ましく、−10.0℃以下がより好ましく、−15.0℃以下が更に好ましい。流動点が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点を5.0℃以下としやすく、より優れた取扱容易性能が得られる。
なお、軽油留分の15℃における密度、50℃における動粘度及び流動点の各性状は、上記本実施形態の内燃機用燃料油組成物における測定方法と同じである。
(重油留分)
重油留分としては、例えば、以下のC重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油及び分解重油が好ましく挙げられる。これらの留分を用いることにより、上記(1)〜(7)、更には(8)〜(16)の性状、組成が得られやすく、またろ過性能、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能を向上させることができる。これと同様の観点から、直脱重油、分解重油がより好ましく、直脱重油が更に好ましい。重油留分としては、以下の留分を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
・C重油
・常圧蒸留残渣油(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる残渣油)
・減圧蒸留残渣油(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる残渣油)
・直脱重油(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる重油)
・分解重油(直脱重油を流動接触分解して得られる重油分)
重油留分が有する性状について、15℃における密度は、0.850g/cm以上が好ましく、0.900g/cm以上がより好ましく、また上限としては1.100g/cm以下が好ましい。15℃における密度が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を0.925g/cm以下としやすく、また、総発熱量を40,000(J/mL)以上としやすくなる。
50℃における動粘度は、190mm/s以下が好ましく、160mm/s以下がより好ましく、また下限としては30.0mm/s以上程度であればよい。50℃における動粘度が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を3.70mm/s以上9.90mm/s以下としやすく、より優れた取扱容易性能が得られる。
硫黄分含有量は、1.20質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましく、0.70質量%以下が更に好ましい。硫黄分含有量が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を0.5質量%以下としやすく、より優れた環境性能が得られる。
また、流動点は、40.0℃以下が好ましく、30.0℃以下がより好ましく、25.0℃以下が更に好ましい。流動点が上記範囲内であると、特に本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点を5.0℃以下としやすく、より優れた取扱容易性能が得られる。
なお、重油留分の15℃における密度、50℃における動粘度、硫黄分含有量及び流動点の各性状は、上記本実施形態の内燃機用燃料油組成物における測定方法と同じである。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)〜(7)、更には(8)〜(16)の組成及び性状を満足するように、上記軽油留分及び重油留分を、任意の含有量で含有させて調製することができる。この場合、軽油留分として上記の直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、また重油留分として上記のC重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油及び分解重油から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。また、これらの軽油留分と重油留分とを組み合わせて用いることが、上記上記(1)〜(7)、更には(8)〜(16)の組成及び性状を満足させやすいため好ましい。
軽油留分と重油留分とを混合する場合、その混合比は、軽油留分と重油留分との合計に対する重油留分の含有量として好ましくは20容量%以上、より好ましくは31容量%以上、更に好ましくは33容量%以上であり、上限としては好ましくは45容量%以下、より好ましくは40容量%以下、更に好ましくは37容量%以下である。軽油留分と重油留分との混合比が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の組成及び性状として、上記(1)〜(7)、更には上記(8)〜(16)の組成及び性状が得られやすくなる。
(その他の添加剤)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物には、上述の諸性状を維持しうる範囲で、必要に応じ、流動点降下剤、燃焼促進剤、清浄剤、スラッジ分散剤等の各種添加剤を適宜選択して配合することができる。
[内燃機用燃料油組成物の製造方法]
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の製造方法は、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分と、C重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油及び分解重油から選ばれる少なくとも一種の重油留分と、を混合する、上記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物を製造する方法である。本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、例えば、上記の本実施形態の内燃機用燃料油組成物の製造方法によって製造することができる。
本実施形態の製造方法において、各軽油留分、各重油留分、及び(1)〜(7)の組成及び性状は、上記内燃機用燃料油組成物について説明したものと同じである。
本実施形態の製造方法において、軽油留分と重油留分との混合比は、軽油留分と重油留分との合計に対する重油留分の含有量として好ましくは20容量%以上、より好ましくは31容量%以上、更に好ましくは33容量%以上であり、上限としては好ましくは45容量%以下、より好ましくは40容量%以下、更に好ましくは37容量%以下である。軽油留分及び重油留分を上記例示のものから選択し、またこれらの混合比を上記範囲内とすると、内燃機用燃料油組成物の組成及び性状として、上記(1)〜(7)、更には(8)〜(16)の組成及び性状が得られやすくなる。
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
(燃料油組成物及び基材の性状と組成の評価)
各実施例及び比較例で用いた基材、及び各実施例及び比較例の燃料油組成物の性状と組成の評価を、以下の方法により行った。
(1)ろ過時間の傾き
各実施例及び比較例の油組成物について、測定試料を「JIS K2601:1998−原油試験方法− 14.水でい分試験方法 14.2水でい分試験器」(以下、水でい分試験器)で使用される目盛試験管3本に、各々100mLの標線まで採取した。その後、水でい分試験器で使用される遠心分離機((株)コクサン製、型番:H−215−H−8特)を用い、常温(10〜20℃)、相対遠心力600の条件で55分間遠心分離を行った。次に、50mLビーカーを3個用意し、遠心分離をかけた目盛試験管3本の試料の上部50mLを、各50mLビーカーに分取した。分取後のビーカーを0.1mg単位で秤量し、秤量した質量をM(g)とした。そして、30±1℃に保った恒温槽で、分取した試料を15分間加熱した。
JPI−5S−60−2000の実在セジメント試験方法に定めるろ過装置(以下、ろ過装置)に、細孔20〜25μmのろ紙(Whatman No.4(55mmφ))を置いた。ろ紙は、110℃の乾燥機で20分間、予め乾燥させておいた。さらに上部漏斗を重ね、試料の漏れ込みが無いよう固定した。この際、直径28mmの孔を開けたパッキンを重ね、ろ過面の直径を28mmに調節した。その後、減圧瓶の他端には、排気速度12L/分で吸引できる真空ポンプを取り付けた。上部漏斗も試料と同様に30±1℃となるよう加熱した。
次に、加熱した試料のうち1つ目を、漏斗内壁に試料がつかないようにろ紙中央に注ぎ込んだ。ろ紙を注ぎ始めてから1分後に真空ポンプを起動させ、ろ過を開始した。ろ過開始時から、試料がろ過されろ紙が全面露出(内径28mmのろ過面部のみでよい)までに要した時間を測定し、測定したろ過に要した時間をt(秒)とした。また、使用後のビーカーを秤量し、秤量した質量をM(g)とした。
次に、真空ポンプ停止後、2つ目、3つ目の試料に対し、工程Dの操作を繰り返し実施した。この間は、試験機取り外しや機器洗浄など、測定条件が変わる動作をしなかった。また、ろ紙の閉塞によって試料がろ過されなくなった場合は、ろ過作業を終了し次工程に進んだ。具体的には、ろ過を開始してから6分経過してもろ過が完了しない場合、ろ過作業を終了した。ろ紙が閉塞した場合は、残試料をトルエンで溶解しピペット等で取り除いた。そして、漏斗及びろ紙をn−ヘプタンで洗浄後、上部漏斗を取り外し、ろ紙の縁を確認した。ろ紙の縁まで着色していたら、試料が漏れているため、再試験を行った。
下記式(1)より、それぞれの測定回数の内燃機用燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間を算出した。
=t/(M/d) (1)
上記式(1)において、nは測定回数であり、3回以上である。また、Tはn回目の測定のろ過に要した時間から算出した内燃機用燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間(秒/cm)、tはn回目の測定のろ過に要した時間(秒)、Mはろ過した内燃機用燃料油組成物の質量(M−M)(g)、dは15℃における内燃機用燃料油組成物の密度(g/cm)である。なお、ろ紙の閉塞によりろ過できなかった場合は、「計算不可」とした。そして、縦軸を内燃機用燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間とし、横軸をろ過に要した時間の測定回数としてプロットした点から、最小二乗法で近似直線の傾きを算出し、ろ過時間の傾きを算出した。
(2)15℃における密度:JIS K 2249−1:2011に準じて測定した。
(3)総発熱量:JIS K2279:2003に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるA重油の場合の計算式により推定)した。
(4)50℃における動粘度:JIS K 2283:2000に準じて測定した。
(5)流動点:JIS K 2269:1987に準じて測定した。
(6)硫黄分含有量:JIS K 2541−4:2003に準じて測定した。
(7)CCAI:ISO 8217−2012のAnnex F記載の計算式より算出した。
(8)反応試験:JIS K 2252:1998による石油製品−反応試験により測定した。
(9)引火点:JIS K 2265−3:2007に準じて測定した。
(10)残留炭素分:JIS K 2270−1:2009に準じて測定した。
(11)水分含有率:JIS K 2275:1996に準じて測定した。
(12)灰分量:JIS K 2272:1998に準じて測定した。
(13)銅板腐食:JIS K 2513:2000に準じて測定した。
(14)アルミニウム含有量:JPI−5S−62−2011に準じて測定した。
(15)潜在セジメント:JPI−5S−60−2000に準じて測定した。
(16)実在セジメント:JPI−5S−60−2000に準じて測定した。
(内燃機用燃料油組成物の性能評価)
各実施例及び比較例の内燃機用燃料油組成物について、以下の方法に基づき性能評価を行った。
(ろ過性能の評価)
各実施例及び比較例の内燃機用燃料油組成物に対し、ディーゼルエンジンでの使用を想定して内燃機用燃料油組成物を評価するため、ろ過性能評価の前処理として、遠心分離機により前処理を行った。遠心分離処理には、遠心分離機(三菱化工機(株)製、型番:SELFJECTOR MODEL SJ700)を使用し、処理温度を常温(10〜20℃)にし、燃料油流量(実容量)を680L/時間とした。
遠心分離処理を行った内燃機用燃料油組成物に対して、図1に示すろ過性能評価システムにより、内燃機用燃料油組成物のろ過性能を評価した。評価システム1は、燃料タンク11、ポンプ12、流量計14、フィルタ15及び差圧計16を含む。燃料油タンク11は内燃機用燃料油組成物を常温(10〜20℃)にて貯蔵した。燃料タンク11に貯蔵されている内燃機用燃料油組成物はポンプ12、及び流量計14を経由してフィルタ15に輸送された。フィルタ15には、(株)コンヒラ社製エレメント(表面積:390cm、目開き:20μm)を使用した。フィルタ15における内燃機用燃料油組成物の流量は1950L/時間であった。フィルタ15の上流側と下流側とで接続している差圧計16は、フィルタ15の入口と出口との間の差圧を測定した。
差圧計16により測定されるフィルタ15の入口と出口との間の差圧が0.05MPaに達するまでの時間を測定した。フィルタ15の入口と出口との間の差圧が0.05MPaに達するまでの時間が短い場合、フィルタ15を通過している内燃機用燃料油組成物はフィルタ15に詰まりやすい内燃機用燃料油組成物であるといえ、ろ過性能の低い内燃機用燃料油組成物であると評価できる。一方、フィルタ15の入口と出口との間の差圧が0.05MPaに達するまでの時間が長い場合、フィルタ15を通過している内燃機用燃料油組成物はフィルタ15に詰まりにくい内燃機用燃料油組成物であるといえ、ろ過性能の高い内燃機用燃料油組成物と評価できる。内燃機用燃料油組成物のろ過性能を以下の評価基準により判断した。なお、差圧が0.05MPaに達するまでの時間が1時間であることが、大型船舶等の実機に装備されている燃料油フィルタの洗浄の間隔が24時間であることに相当する。本実施形態においては、C評価以上であれば合格である。
A;差圧が0.05MPaに達するまでの時間が4時間以上
B;差圧が0.05MPaに達するまでの時間が2時間以上4時間未満
C;差圧が0.05MPaに達するまでの時間が1時間以上2時間未満
D;差圧が0.05MPaに達するまでの時間が1時間未満
(取扱容易性能)
各実施例及び比較例の内燃機用燃料油組成物に対し、上記の方法で50℃における動粘度及び流動点を測定した際の50℃における動粘度の基準(a〜a)及び流動点の基準(b〜b)に基づく、以下の基準により取扱容易性能を評価した。本実施形態においては、C評価以上であれば合格である。
S;aかつbを満足した。
A;aかつb、又はaかつbを満足した。
B;aかつb、aかつb、又はaかつbを満足した。
C;aかつb、又はaかつbを満足した。
D;上記S〜C以外となった。
なお、50℃における動粘度の基準(a〜a)及び流動点の基準(b〜b)は以下の通りである。
(50℃における動粘度の基準(a〜a))
;50℃における動粘度が4.70mm/s以上7.90mm/s以下であった。
;50℃における動粘度が4.20mm/s以上4.70mm/s未満、又は7.90mm/s超8.90mm/s以下であった。
;50℃における動粘度が3.70mm/s以上4.20mm/s未満、又は8.90mm/s超9.90mm/s未満であった。
(流動点の基準(b〜b))
;流動点が0.0℃以下であった。
;流動点が0.0℃超2.5℃以下であった。
;流動点が2.5℃超5.0℃以下であった。
(環境性能)
各実施例及び比較例の内燃機用燃料油組成物に対し、上記の方法で総発熱量を測定し、以下の基準で評価した。本実施形態においては、C評価以上であれば合格である。
A;総発熱量が40,500J/mL以上であった。
B;総発熱量が40,200J/mL以上40,500J/mL未満であった。
C;総発熱量が40,000J/mL以上40,200J/mL未満であった。
D:総発熱量が40,000J/mL未満であった。
(燃焼性能)
各実施例及び比較例の内燃機用燃料油組成物に対し、上記の方法でCCAIを測定し、以下の基準で評価した。本実施形態においては、A評価以上であれば合格である。
S;CCAIが848以下であった。
A;CCAIが848超850以下であった。
B;CCAIが850超であった。
(総合評価)
上記ろ過性能、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能の各評価において、最も低い評価を総合評価とした。各評価の性能について、全て合格評価であれば合格とする。
(実施例1〜5、比較例1〜5の燃料油組成物の製造)
下記表1及び2に示す性状、組成を有する基材(重油留分及び軽油留分)を表3に示す混合比で混合し、表3に示す性状及び組成の内燃機用燃料油組成物を作製した。得られた各内燃機用燃料油組成物について、上記方法による各性能の評価結果を表3に示す。
Figure 0006955442
Figure 0006955442
Figure 0006955442
表3の結果から、本実施形態の燃料油組成物は、いずれもろ過性能、取扱容易性能、環境性能及び燃焼性能が良好であった。
一方、ろ過時間の傾きが0.28よりも大きい比較例1及び3の燃料油組成物は、ろ過性能が劣るものであることが確認された。また、密度が0.925g/cmよりも大きく、かつCCAIが850よりも大きい比較例2の燃料油組成物は燃焼性能が劣るものであり、総発熱量が40,000J/mL未満である比較例4及び5の燃料油組成物はいずれも環境性能が劣るものであることが確認された。
1.評価システム
11.燃料タンク
12.ポンプ
14.流量計
15.フィルタ
16.差圧計

Claims (3)

  1. 軽油留分と、重油留分とを含有し、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物であって、
    前記軽油留分が、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分であり、
    当該軽油留分の15℃における密度が0.840g/cm以上0.925g/cm以下、50℃における動粘度は2.00mm/s以下、硫黄分含有量は0.30質量%以下、流動点は−15.0℃以下であり、
    前記重油留分が、直脱重油及び分解重油から選ばれる少なくとも一種の重油留分であり、
    当該重油留分の15℃における密度が0.900g/cm以上1.100g/cm以下、50℃における動粘度は30.0mm/s以上190mm/s以下、硫黄分含有量は1.20質量%以下、流動点は30.0℃以下である、内燃機用燃料油組成物。
    (1)ろ過時間の傾きが0.28以下
    (2)15℃における密度が0.925g/cm以下
    (3)総発熱量が40,000(J/mL)以上
    (4)50℃における動粘度が3.7mm/s以上9.9mm/s以下
    (5)流動点が5.0℃以下
    (6)組成物全量基準の硫黄分含有量が0.5質量%以下
    (7)CCAIが850以下
  2. 遠心分離装置を含む前処理装置を有するディーゼルエンジンに用いられる請求項1に記載の内燃機用燃料油組成物。
  3. 直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分と、
    直脱重油及び分解重油から選ばれる少なくとも一種の重油留分と、
    を混合する、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法であって、
    前記少なくとも一種の軽油留分の15℃における密度が0.840g/cm以上0.925g/cm以下、50℃における動粘度は2.00mm/s以下、硫黄分含有量は0.30質量%以下、流動点は−15.0℃以下であり、
    前記少なくとも一種の重油留分の15℃における密度が0.900g/cm以上1.100g/cm以下、50℃における動粘度は30.0mm/s以上190mm/s以下、硫黄分含有量は1.20質量%以下、流動点は30.0℃以下である、内燃機用燃料油組成物の製造方法。
    (1)ろ過時間の傾きが0.28以下
    (2)15℃における密度が0.925g/cm以下
    (3)総発熱量が40,000(J/mL)以上
    (4)50℃における動粘度が3.7mm/s以上9.9mm/s以下
    (5)流動点が5℃以下
    (6)組成物全量基準の硫黄分含有量が0.5質量%以下
    (7)CCAIが850以下
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