<第1の実施の形態>
車両用制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部には、ピニオンシャフト13が設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、ピニオンシャフト13に対して交わる方向へ延びる転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。これらステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。すなわち、ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θtが変更される。
<クラッチ>
また、操舵装置10は、クラッチ21を有している。クラッチ21はステアリングシャフト12に設けられている。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。減速機構32は、ステアリングシャフト12におけるクラッチ21よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θaを検出する。反力モータ31の回転角θaは、舵角(操舵角)θsの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θaとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である舵角θsとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θaに基づき舵角θsを求めることができる。
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクThを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41(正確には、その回転軸)は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θbを検出する。
<制御装置>
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、転舵モータ41およびクラッチ21を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両に設けられて車両の走行速度である車速Vを検出する。
制御装置50は、クラッチ接続条件の成否に基づきクラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ接続条件としては、たとえば車両の電源スイッチがオフされていることなどがある。制御装置50は、クラッチ接続条件が成立しないとき、クラッチ21の励磁コイルに通電することによってクラッチ21を接続された状態から切断された状態へ切り替える。また、制御装置50は、クラッチ接続条件が成立するとき、クラッチ21の励磁コイルに対する通電を停止することによってクラッチ21を切断された状態から接続された状態へ切り替える。
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクThに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクThおよび車速Vのうち少なくとも操舵トルクThに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクThおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。制御装置50は、実際の舵角θsを目標操舵角に追従させるべく実行される舵角θsのフィードバック制御を通じて舵角補正量を演算し、この演算される舵角補正量を目標操舵反力に加算することにより操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。このピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θtを反映する値である。制御装置50は、前述した目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
<制御装置の詳細構成>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
<反力制御部>
反力制御部50aは、目標操舵反力演算部51、目標舵角演算部52、舵角演算部53、舵角フィードバック制御部54、加算器55、および通電制御部56を有している。
目標操舵反力演算部51は、操舵トルクThに基づき目標操舵反力T1 *を演算する。なお、目標操舵反力演算部51は、車速Vを加味して目標操舵反力T1 *を演算してもよい。
目標舵角演算部52は、目標操舵反力T1 *、操舵トルクThおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標舵角θ*を演算する。目標舵角演算部52は、目標操舵反力T1 *および操舵トルクThの総和を基本駆動トルク(入力トルク)とするとき、この基本駆動トルクに基づいて理想的な舵角を定める理想モデルを有している。この理想モデルは、基本駆動トルクに応じた理想的な転舵角に対応する舵角(操舵角)を予め実験などによりモデル化したものである。目標舵角演算部52は、目標操舵反力T1 *と操舵トルクThとを加算することにより基本駆動トルクを求め、この基本駆動トルクから理想モデルに基づいて目標舵角θ*(目標操舵角)を演算する。
舵角演算部53は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θaに基づきステアリングホイール11の実際の舵角θsを演算する。舵角フィードバック制御部54は、実際の舵角θsを目標舵角θ*に追従させるべく舵角θsのフィードバック制御を通じて舵角補正量T2 *を演算する。加算器55は、目標操舵反力T1 *に舵角補正量T2 *を加算することにより操舵反力指令値T*を算出する。
通電制御部56は、操舵反力指令値T*に応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部56は、操舵反力指令値T*に基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部56は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ57を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iaを検出する。この電流値Iaは、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部56は、電流指令値と実際の電流値Iaとの偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する(電流Iaのフィードバック制御)。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値T*に応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
<転舵制御部>
図2に示すように、転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、舵角比変更制御部62、微分ステアリング制御部63、ピニオン角フィードバック制御部64、および通電制御部65を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト13の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。前述したように、転舵モータ41とピニオンシャフト13とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。さらに、これも前述したように、ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θtを反映する値である。
舵角比変更制御部62は、車両の走行状態(たとえば車速V)に応じて舵角θsに対する転舵角θtの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角を演算する。舵角比変更制御部62は、車速Vが遅くなるほど舵角θsに対する転舵角θtがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど舵角θsに対する転舵角θtがより小さくなるように、目標ピニオン角θp *を演算する。舵角比変更制御部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、目標舵角θ*に対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を目標舵角θ*に加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θp *を演算する。
微分ステアリング制御部63は、目標ピニオン角θp *を微分することにより目標ピニオン角θp *の変化速度(転舵速度)を演算する。また、微分ステアリング制御部63は、目標ピニオン角θp *の変化速度にゲインを乗算することにより目標ピニオン角θp *に対する補正角度を演算する。微分ステアリング制御部63は、補正角度を目標ピニオン角θp *に加算することにより最終的な目標ピニオン角θp *を演算する。舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θp *の位相が進められることにより、転舵遅れが改善される。すなわち、転舵速度に応じて転舵応答性が確保される。
ピニオン角フィードバック制御部64は、実際のピニオン角θpを、微分ステアリング制御部63により演算される最終的な目標ピニオン角θp *に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御(PID制御)を通じてピニオン角指令値Tp *を演算する。
通電制御部65は、ピニオン角指令値Tp *に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部65は、ピニオン角指令値Tp *に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部65は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ66を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Ibを検出する。この電流値Ibは、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部65は、電流指令値と実際の電流値Ibとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流Ibのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値Tp *に応じた角度だけ回転する。
<目標舵角演算部>
つぎに、目標舵角演算部52について詳細に説明する。
前述したように、目標舵角演算部52は、目標操舵反力T1 *および操舵トルクThの総和である基本駆動トルクから理想モデルに基づいて目標舵角θ*を演算する。この理想モデルは、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての基本駆動トルクTin *が、次式(1)で表されることを利用したモデルである。
Tin *=Jθ*′′+Cθ*′+Kθ* …(1)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメント、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。
式(1)から分かるように、基本駆動トルクTin *は、目標舵角θ*の二階時間微分値θ*′′に慣性モーメントJを乗じた値、目標舵角θ*の一階時間微分値θ*′に粘性係数Cを乗じた値、および目標舵角θ*にばね係数Kを乗じた値を加算することによって得られる。目標舵角演算部52は、式(1)に基づく理想モデルに従って目標舵角θ*を演算する。
図3に示すように、式(1)に基づく理想モデルは、ステアリングモデル71、および車両モデル72に分けられる。
ステアリングモデル71は、ステアリングシャフト12および反力モータ31など、操舵装置10の各構成要素の特性に応じてチューニングされる。ステアリングモデル71は、加算器73、減算器74、慣性モデル75、第1の積分器76、第2の積分器77および粘性モデル78を有している。
加算器73は、目標操舵反力T1 *と操舵トルクThとを加算することにより基本駆動トルクTin *を演算する。
減算器74は、加算器73により算出される基本駆動トルクTin *から後述する粘性成分Tvi *およびばね成分Tsp *をそれぞれ減算することにより、最終的な基本駆動トルクTin *を演算する。
慣性モデル75は、式(1)の慣性項に対応する慣性制御演算部として機能する。慣性モデル75は、減算器74により算出される最終的な基本駆動トルクTin *に慣性モーメントJの逆数を乗ずることにより、舵角加速度α*を演算する。
第1の積分器76は、慣性モデル75により算出される舵角加速度α*を積分することにより、舵角速度ω*を演算する。
第2の積分器77は、第1の積分器76により算出される舵角速度ω*をさらに積分することにより、目標舵角θ*を演算する。目標舵角θ*は、ステアリングモデル71に基づくステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)の理想的な回転角である。
粘性モデル78は、式(1)の粘性項に対応する粘性制御演算部として機能する。粘性モデル78は、第1の積分器76により算出される舵角速度ω*に粘性係数Cを乗ずることにより、基本駆動トルクTin *の粘性成分Tvi *を演算する。
車両モデル72は、操舵装置10が搭載される車両の特性に応じてチューニングされる。操舵特性に影響を与える車両側の特性は、たとえばサスペンションおよびホイールアライメントの仕様、および転舵輪16,16のグリップ力(摩擦力)などにより決まる。車両モデル72は、式(1)のばね項に対応するばね特性制御演算部として機能する。車両モデル72は、第2の積分器77により算出される目標舵角θ*にばね係数Kを乗ずることにより、基本駆動トルクTin *のばね成分Tsp *(ばね反力トルク)を演算する。
なお、車両モデル72は、ばね成分Tsp *を演算するに際して、車速Vおよび電流センサ66を通じて検出される転舵モータ41の電流値Ibをそれぞれ加味する。また、車両モデル72は、ピニオン角速度ωpを取り込む。ピニオン角速度ωpは、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpが、制御装置50に設けられる微分器79により微分されることにより得られる。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θpの変化速度(ピニオン角速度ωp)と転舵シャフト14の移動速度(転舵速度)との間には相関関係がある。すなわち、ピニオン角速度ωpは、転舵輪16,16の転舵速度を反映する値である。ピニオン角速度ωpと転舵速度との相関関係を利用してピニオン角速度ωpから転舵速度を求めることも可能である。
このように構成した目標舵角演算部52によれば、ステアリングモデル71の慣性モーメントJおよび粘性係数C、ならびに車両モデル72のばね係数Kをそれぞれ調整することによって、基本駆動トルクTin *と目標舵角θ*との関係を直接的にチューニングすること、ひいては所望の操舵特性を実現することができる。
また、目標ピニオン角θp *は、基本駆動トルクTin *からステアリングモデル71および車両モデル72に基づき演算される目標舵角θ*が使用されて演算される。そして、実際のピニオン角θpが目標ピニオン角θp *に一致するようにフィードバック制御される。前述したように、ピニオン角θpと転舵輪16,16の転舵角θtとの間には相関関係がある。このため、基本駆動トルクTin *に応じた転舵輪16,16の転舵動作もステアリングモデル71および車両モデル72により定まる。すなわち、車両の操舵感がステアリングモデル71および車両モデル72により決まる。したがって、ステアリングモデル71および車両モデル72を調整することにより所望の操舵感を実現することが可能となる。
しかし、運転者の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)である操舵反力(ステアリングを通じて感じる手応え)は目標舵角θ*に応じたものにしかならない。すなわち、路面状態(路面の滑りやすさなど)によって操舵反力が変わらない。このため、運転者は操舵反力を通じて路面状態を把握しにくい。そこで本例では、こうした懸念を解消する観点に基づき、車両モデル72をつぎのように構成している。
<車両モデル>
図4に示すように、車両モデル72は推定軸力演算部80を有している。
推定軸力演算部80は、軸力演算部81、ヒステリシス切替わり判定部82、摩擦補償部83、効率補償部84、フィルタ85、勾配補償部86を有している。
軸力演算部81は、次式(2)に基づき、転舵シャフト14(転舵輪16,16)に作用する実際の軸力F1(路面反力)を演算する。ここで、転舵モータ41の電流値Ibは、路面状態(路面摩擦抵抗)に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θp *と実際のピニオン角θpとの間の差が発生することによって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流値Ibには、転舵輪16,16に作用する実際の路面反力が反映される。このため、転舵モータ41の電流値Ibに基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。
F1=Ib×G1 …(2)
ただし、「Ib」は転舵モータ41の電流値Ibである。「G1」はゲインであって、電流値を軸力(反力トルク)に変換する係数でもある。
図5に示すように、ヒステリシス切替わり判定部82は、2つのローパスフィルタ82a,82b、および判定値演算部82cを有している。ローパスフィルタ82aは、軸力演算部81により演算される軸力F1に含まれる雑音などの周波数成分を除去する。ローパスフィルタ82bは、微分器79により演算されるピニオン角速度ωpに含まれる雑音などの周波数成分を除去する。判定値演算部82cは、次式(3)に基づき、ヒステリシス切替わり判定値Ηdを演算する。
Ηd=F1a×ωpa…(3)
ただし、「F1a」は、ローパスフィルタ82aによりフィルタリング処理が施された後の推定軸力である。「ωpa」は、ローパスフィルタ82bによりフィルタリングされた後のピニオン角速度である。
ヒステリシス切替わり判定値Ηdは、操舵装置10の正作動時の正効率と逆作動時の逆効率との違いに起因する軸力の特性変化を判定するために使用される。
正効率とは、ピニオンシャフト44と転舵シャフト14との噛み合いを通じて、転舵モータ41の回転運動が転舵シャフト14の直線運動に変換される場合(以下、「正作動時」という。)の変換効率をいう。換言すれば、正効率は、転舵モータ41の駆動に伴う転舵シャフト14の移動方向と、転舵シャフト14に実際に作用する軸力の方向とが同じであるときの変換効率である。
逆効率とは、ピニオンシャフト44と転舵シャフト14との噛み合いを通じて、転舵シャフト14の直線運動が転舵モータ41の回転運動に変換される場合(以下、「逆作動時」という。)の変換効率をいう。換言すれば、逆効率は、転舵モータ41の駆動に伴う転舵シャフト14の移動方向と、転舵シャフト14に実際に作用する軸力の方向とが互いに反対であるときの変換効率である。ちなみに、逆作動する状況としては、たとえば車両の走行中において、路面の凹凸などに起因して転舵輪16,16が転舵されることにより転舵シャフト14に軸力が働く状況が想定される。
ここで、転舵モータ41に対して供給される同一の電流に対する転舵モータ41の出力トルクは、転舵モータ41が転舵輪16,16を路面反力に抗して動かそうとする正作動時と、転舵モータ41が転舵輪16,16からの反力によって動かされる逆作動時との間で異なる。このため、目標舵角θ*と実際の舵角θsとの制御偏差が正作動時と逆作動時との間で異なる。すなわち、正作動時と逆作動時との間において、転舵モータ41の追従性に違いが生じる。また、転舵モータ41の電流値Ib、ひいては転舵モータ41の電流値Ibに基づき演算される軸力F1についても、正作動時と逆作動時との間で違いが生じる。正作動と逆作動との間の切り替わりの影響を受けて、正作動時に演算される軸力F1と逆作動時に演算される軸力F1との間には、これら軸力の差に起因するヒステリシスが生じる。
たとえば図6のグラフに示すように、操舵装置10の正作動時(正効率)、軸力演算部81により演算される軸力F1の絶対値は実際の軸力に対して、より大きな値となる傾向にある。操舵装置10の逆作動時(逆効率)、軸力演算部81により演算される軸力F1の絶対値は実際の軸力に対してより小さな値となる傾向にある。
図7に示すように、摩擦補償部83は、摩擦補償量演算部83a、上下限ガード処理部83b、および減算器83cを有している。
摩擦補償量演算部83aは、摩擦補償マップを使用してフィルタ後の軸力F1aおよび車速Vに基づき摩擦補償量Ffを演算する。
図8に示すように、摩擦補償マップM1は、フィルタ後の軸力F1aと摩擦補償量Ffとの関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有する。すなわち、フィルタ後の軸力F1aが正の値であるとき、摩擦補償量Ffは正の値となる。フィルタ後の軸力F1aが負の値であるとき、摩擦補償量Ffは負の値となる。フィルタ後の軸力F1aが正の値である場合であって「0」の近傍値であるとき、軸力F1aの絶対値が大きくなるほど、摩擦補償量Ffは正の方向へ増大する。フィルタ後の軸力F1aが負の値である場合であって「0」の近傍値であるとき、軸力F1aの絶対値が大きくなるほど、摩擦補償量Ffは負の方向へ増大する。フィルタ後の軸力F1aの絶対値が所定値以上であるとき、摩擦補償量Ffの絶対値は軸力F1aには依存せず、一定の値となる。
また、摩擦補償量Ffと車速Vとの間にはつぎの関係がある。
図9に示すように、車速Vが「0」を基準とする所定値V1未満であるとき、車速Vが速くなるほど摩擦補償量Ffは、より小さな値になる。所定値V1以上であるとき、車速Vが速くなるほど摩擦補償量Ffは、より大きな値になる。
上下限ガード処理部83bは、制御装置50の記憶装置に格納された制限値(上限値および下限値)に基づき、摩擦補償量演算部83aにより演算される摩擦補償量Ffに対する制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部83bは、摩擦補償量Ffが上限値を超える場合には摩擦補償量Ffを上限値に制限し、下限値を下回る場合には摩擦補償量Ffを下限値に制限する。ただし、摩擦補償部83として、上下限ガード処理部83bを割愛した構成を採用してもよい。
減算器83cは、次式(4)に示されるように、軸力演算部81により演算される軸力Fから、上下限ガード処理部83bによる制限処理が施された摩擦補償量Ffを減算することによって、摩擦補償後の軸力F1bを演算する。
F1b=F1−Ff …(4)
図10に示すように、効率補償部84は、効率補償ゲイン演算部84a、上下限ガード処理部84b、および乗算器84cを有している。
効率補償ゲイン演算部84aは、効率補償マップを使用してヒステリシス切替わり判定値Ηdおよび車速Vに基づき効率補償ゲインGeを演算する。
図11に示すように、効率補償マップM2は、ヒステリシス切替わり判定値Ηdと効率補償ゲインGeとの関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有する。すなわち、効率補償ゲインGeはヒステリシス切替わり判定値Ηdの符号(正負)に関わらず常に正の値となる。ヒステリシス切替わり判定値Ηdが正の値であるとき、効率補償ゲインGeはヒステリシス切替わり判定値Ηdには依存せず、一定の値となる。ヒステリシス切替わり判定値Ηdが負の値である場合であって「0」の近傍値であるとき、ヒステリシス切替わり判定値Ηdの絶対値が増大するほど、効率補償ゲインGeはより大きな値となる。ヒステリシス切替わり判定値Ηdが負の値である場合であって、ヒステリシス切替わり判定値Ηdの絶対値が所定値以上であるとき、効率補償ゲインGeはヒステリシス切替わり判定値Ηdには依存せず、一定の値となる。
上下限ガード処理部84bは、制御装置50の記憶装置に格納された制限値(上限値および下限値)に基づき、効率補償ゲイン演算部84aにより演算される効率補償ゲインGeに対する制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部84bは、効率補償ゲインGeが上限値を超える場合には効率補償ゲインGeを上限値に制限し、下限値を下回る場合には効率補償ゲインGeを下限値に制限する。ただし、効率補償部84として、上下限ガード処理部84bを割愛した構成を採用してもよい。
乗算器84cは、次式(5)に示されるように、上下限ガード処理部84bによる制限処理が施された効率補償ゲインGeを摩擦補償後の軸力F1bに乗算することによって、効率補償後の軸力F1cを演算する。
F1c=F1b×Ge …(5)
フィルタ85は、効率補償後の軸力F1cに重畳する不要成分を除去する。ここで不要成分としては、操舵装置10(主に転舵モータ41)の動特性による影響を受けて発生するものを想定する。操舵装置10の動特性は、転舵モータ41の慣性および粘性などで表される。また、ここでは不要成分として、制御装置50(主に転舵制御部50b)の伝達特性の影響を受けて発生するものも想定する。
すなわち、軸力F1c(より正確には、軸力演算部81により演算される軸力F1)に重畳する不要成分には、転舵モータ41の粘性および慣性などに起因する成分、ならびに転舵制御部50bの伝達特性(伝達関数の周波数特性)に起因する成分が含まれる。これら不要成分を打ち消す観点に基づき、フィルタ85の伝達関数が設定される。
フィルタ85の伝達関数G(s)は、次式(6)で表される。
G(s)=Ts+1/(Ls+1)×(Js2+Cs+K) …(6)
式(6)は、次式(6−1),(6−2),(6−3)で表される微分ステアリング制御部63の逆伝達関数M1(s)、ピニオン角フィードバック制御部64の逆伝達関数M2(s)、および転舵モータ41の逆伝達関数M3(s)を乗算することにより得られる。なお、逆伝達関数とは伝達関数の逆数をいう。
M1(s)=1/(Ls+1) …(6−1)
M2(s)=Ts+1 …(6−2)
M3(s)=1/(Js2+Cs+K) …(6−3)
ただし、「L」は微分ステアリング制御定数からなる時定数である。「T」はピニオン角フィードバック制御定数からなる時定数である。また、「J」は慣性、「C」は粘性、「K」はばね性(弾性)である。
このため、効率補償後の軸力F1cに対してフィルタ85によりフィルタリング処理が施されることにより、効率補償後の軸力F1cに重畳する粘性、慣性および各制御部の伝達関数に起因する不要成分が打ち消される。すなわち、フィルタ85は、軸力演算部81により演算される軸力F1に対する操舵装置10の動特性による影響を補償する動特性補償部として機能する。
図12に示すように、勾配補償部86は、勾配補償ゲイン演算部86a、上下限ガード処理部86b、乗算器86c、および上下限ガード処理部86dを有している。
勾配補償ゲイン演算部86aは、勾配補償ゲインマップを使用して、フィルタ85によりフィルタリング処理が施された軸力F1dおよび車速Vに基づき勾配補償ゲインGcを演算する。
図13に示すように、勾配補償ゲインマップM3は、フィルタ85によりフィルタリング処理が施された軸力F1dと車速Vとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有する。車速Vが「0」を基準とする所定値V2未満であるとき、車速Vが速くなるほど勾配補償ゲインGcは、より小さな値になる。車速Vが所定値V2以上であるとき、車速Vが速くなるほど勾配補償ゲインVcは、より大きな値になる。ちなみに、所定値V2はいわゆる中速域の車速である。
上下限ガード処理部86bは、制御装置50の記憶装置に格納された制限値(上限値および下限値)に基づき、勾配補償ゲイン演算部86aにより演算される勾配補償ゲインGcに対する制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部86bは、勾配補償ゲインGcが上限値を超える場合には勾配補償ゲインGcを上限値に制限し、下限値を下回る場合には勾配補償ゲインGcを下限値に制限する。ただし、勾配補償部86として、上下限ガード処理部86bを割愛した構成を採用してもよい。
乗算器86cは、次式(7)に示されるように、フィルタ85によりフィルタリング処理が施された軸力F1dと、上下限ガード処理部86bによる制限処理が施された勾配補償ゲインGcとを乗算することによって、勾配補償後の軸力F1eを演算する。
F1e=F1d×Gc …(7)
上下限ガード処理部86dは、制御装置50の記憶装置に格納された制限値(上限値および下限値)に基づき、勾配補償後の軸力F1eに対する制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部86dは、勾配補償後の軸力F1eが上限値を超える場合には当該軸力F1eを上限値に制限し、下限値を下回る場合には当該軸力F1eを下限値に制限する。
ちなみに、摩擦補償部83、効率補償部84および勾配補償部86は、軸力演算部81により演算される軸力F1に対する操舵装置10(転舵ユニット)の静特性による影響を補償する静特性補償部として機能する。
車両モデル72は、上下限ガード処理部86dによる制限処理が施された軸力F1eをトルク(ばね反力トルク)に変換することにより、基本駆動トルクTin *のばね成分Tsp *を得る。
<推定軸力演算部の作用および効果>
つぎに、推定軸力演算部80の作用および効果を説明する。
図14のグラフに二点鎖線で示されるように、軸力演算部81により演算される軸力F1(推定軸力)と実際の軸力とが1対1で対応することが理想的である。すなわち、軸力演算部81により演算される軸力F1と実際の軸力との理想的な関係を示す特性線L1は、原点を通る傾きが「1」の直線となる。
しかし、推定演算される軸力F1には、操舵装置10の静特性(摩擦など)による影響を受けて生じる不要成分、および操舵装置10の動特性(慣性など)の影響を受けて生じる不要成分が重畳している。このため、軸力演算部81により演算される軸力F1と実際の軸力とは一致しない。すなわち、軸力演算部81により演算される軸力F1と実際の軸力との間には差が発生する。したがって、図14のグラフに実線で示されるように、軸力演算部81により演算される軸力F1と実際の軸力との関係を示すループ状の特性線L2は、理想的な特性線L1に対して、軸力演算部81により演算される軸力F1と実際の軸力との差に応じたヒステリシスを有する。
本例では、軸力演算部81により演算される軸力F1に対する各種の補償制御の実行を通じて、軸力F1と実際の軸力との差であるヒステリシスをより少なくすることにより、特性線L2を理想的な特性線L1に近づける。具体的にはつぎの通りである。
すなわちまず、摩擦補償部83による摩擦補償制御の実行を通じて、実際の軸力がステアリングホイール11の中立位置(直進位置)に対応する「0(原点)」を含む近傍値であるときのヒステリシス幅が狭められる。
図15のグラフに示されるように、理想的には、実際の軸力が「0」であるとき、摩擦補償後の推定軸力である軸力F1bも「0」となる。ただし、摩擦補償後の推定軸力である軸力F1bには、正効率と逆効率との違いによるヒステリシスが含まれている。この正効率と逆効率との違いに起因するヒステリシスは、軸力演算部81において、転舵モータ41の電流値Ibに基づき転舵シャフト14に作用する実際の軸力F1が演算されることによって生じる。
このため、特性線L2で示されるヒステリシス特性(ヒステリシスループの形状)は、たとえばステアリングホイール11の中立位置(直進位置)に対応する「0(原点)」でヒステリシス幅が「0」となる、いわゆる蝶型となる。摩擦補償後の軸力F1bのヒステリシス特性を示す特性線L2は、原点を通って傾きの異なる2つの特性線L3,L4を含む。ここでは、特性線L3の傾きは理想的な特性線L1よりも大きく、特性線L4の傾きは理想的な特性線L1よりも小さい。
つぎに、効率補償部84による効率補償制御の実行を通じて、摩擦補償後の軸力F1bに含まれるヒステリシスが除去される。これにより、図17(a)に実線で示されるように、効率補償後の軸力F1c(推定軸力)と実際の軸力との関係を示す特性線L5は、原点を通るたとえば傾き「0.8」〜「1.0」の直線となる。特性線L5の傾きは、車速Vによって若干異なるものの、理想的な特性線L1に対してほぼ一致する。
つぎに、フィルタ85によるフィルタリング処理を通じて、効率補償後の軸力F1cに含まれる不要成分が除去される。ここでの不要成分には、たとえば転舵モータ41の慣性などに起因する不要成分、および転舵制御にかかる各制御部(63,64)の伝達関数に起因する不要成分が含まれている。
フィルタ85の伝達関数G(s)は、次式(8−1),(8−2),(8−3)で表される微分ステアリング制御部63の伝達関数G1(s)、ピニオン角フィードバック制御部64の伝達関数G2(s)、および転舵モータ41の伝達関数G3(s)を打ち消す観点で設定されている。
G1(s)=Ls+1 …(8−1)
G2(s)=1/(Ts+1) …(8−2)
G3(s)=Js2+Cs+K …(8−3)
すなわち、フィルタ85の伝達関数は、先の式(6)で表されるように、微分ステアリング制御部63の逆伝達関数M1(s)、ピニオン角フィードバック制御部64の逆伝達関数M2(s)、および転舵モータ41の逆伝達関数M3(s)が乗算されてなる。
したがって、効率補償後の軸力F1cに対してフィルタ85によるフィルタリング処理が施されることにより、効率補償後の軸力F1cに重畳する転舵モータ41の粘性および慣性などに起因する不要成分、ならびに各制御部(63,64)の伝達関数の周波数特性に起因する不要成分が打ち消される。
ここで、ピニオン角θpと軸力との関係を説明する。
図16のグラフに示されるように、横軸にピニオン角θpを、縦軸に軸力をプロットしたとき、ピニオン角θpに対して軸力はヒステリシス特性を有する。図16のグラフにループ状の特性線L5で示されるように、ピニオン角θpと軸力との間の理想的な関係である場合、ピニオン角θpが転舵角θtの中立位置に対応する「0(原点)」であるときの軸力は一定範囲ΔHに収まる。また、ここではピニオン角θpと軸力との関係が理想的である場合、ピニオン角θpに対する軸力のヒステリシス幅は一定(ΔH)である。
しかし実際には、転舵モータ41の粘性および慣性などの影響を受けて、ピニオン角θpに対する軸力のヒステリシス特性は理想的なものにはならない。
図16のグラフに一点鎖線で示されるように、転舵モータ41の粘性は、ピニオン角θpに対する軸力を増大させる方向に作用する。ピニオン角θpが原点に近づくほど粘性の影響がより強く作用するため、軸力はより大きな値になる。
また、図16のグラフに二点鎖線で示されるように、転舵モータ41の慣性は、ピニオン角θpの増大に対する軸力の変化度合いをより減少させるように作用する。概念的に説明すると、慣性は理想的なループ状の特性線L5を、図16のグラフにおける原点を中心として回転させる方向に作用する。
効率補償後の軸力F1cには、転舵モータ41の慣性および粘性などに起因する不要成分が重畳されている。フィルタ85によるフィルタリングを通じて転舵モータ41の伝達関数G3(s)が打ち消される。これにより、転舵モータ41の慣性などに起因する不要成分が効率補償後の軸力F1cから除去される。このため、ピニオン角θpと軸力との関係において、ピニオン角θpに対する軸力F1cのヒステリシス特性は図16のグラフに示される理想的なヒステリシスループである特性線L5に近づく。
また、フィルタ85によるフィルタリングを通じて微分ステアリング制御部63の伝達関数G1(s)、およびピニオン角フィードバック制御部64の伝達関数G2(s)が打ち消される。これにより、これら伝達関数G1(s),G2(s)に起因する不要成分が効率補償後の軸力F1cから除去される。また、効率補償後の軸力F1cの位相(一次遅れ要素の伝達関数の周波数に対する位相のずれ)も補償される。このため、効率補償後の軸力F1cの位相が安定する。
ここで、フィルタ85によるフィルタリング処理を通じて、粘性補償、慣性補償、微分ステアリング制御補償、ピニオン角フィードバック制御補償、および位相補償が行われることにより得られるフィルタ後の軸力F1dは、理想的には実際の軸力と一致する。
しかし、車速Vなどの影響によって、フィルタ後の軸力F1dと実際の軸力とが一致しないこともある。たとえば、図17(b)の特性線L6で示されるように、推定軸力(ここではフィルタ後の軸力F1d)の絶対値が実際の軸力の絶対値よりも大きくなることがある。また、図17(b)の特性線L7で示されるように、推定軸力の絶対値が実際の軸力の絶対値よりも小さくなることもある。
そこで、勾配補償部86による勾配補償制御の実行を通じて、特性線L6,L7がさらに理想的な特性線L1に近づけられる。すなわち、図17(b)に矢印α1,α2で示されるように、特性線L6,L7の傾きは、より「1」に近づき、理想的には2つの特性線L6,L7は理想的な特性線L1にほぼ一致する。勾配補償部86による勾配補償制御の実行を通じて得られる軸力F1eは、実際の軸力に対してほぼ1対1で対応する。
したがって、本実施の形態によれば、つぎの効果を得ることができる。
軸力演算部81により演算される軸力F1に対する各種の補償制御およびフィルタ処理を通じて、軸力F1に重畳する不要成分(摩擦および効率などの静特性によるもの、ならびに粘性、慣性および制御の伝達関数によるもの)が除去される。このため、路面状態がより適切に反映された軸力F1eを演算することができる。この適切な軸力F1eが基本駆動トルクTin *のばね成分Tsp *として使用されることによって、目標舵角θ*、ひいては舵角フィードバック制御部54により演算される舵角補正量T2 *には、路面状態(路面摩擦抵抗など)がより適切に反映される。したがって、路面状態に応じたより適切な操舵反力がステアリングホイール11に付与される。運転者は、ステアリングホイール11に付与される操舵反力を手応えとして感じることにより、路面状態をより的確に把握することができる。また、ステアリングホイール11に対するコントローラビリティ(操作性)および操舵感触をより向上させることもできる。
なお、第1の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・図5に二点鎖線で示されるように、ヒステリシス切替り判定部82には、さらにローパスフィルタ82dを設けてもよい。ローパスフィルタ82dは、判定値演算部82cにより演算されるヒステリシス切替わり判定値Ηdに含まれる雑音などの周波数成分を除去する。
・本例では、摩擦補償部83は、操舵装置10の摩擦を補償するために、その摩擦分に相当する摩擦補償量Ffをフィルタ処理後の軸力F1aから減算した。しかし、あえて摩擦を付与すべく摩擦分に相当する摩擦補償量Ffをフィルタ処理後の軸力F1aに加算してもよい。この場合、減算器83cはそのままに、摩擦補償量Ffの符号(正負)を本来の符号と逆の符号にしてもよい。
・効率補償部84および勾配補償部86を統合してもよい。たとえば、効率補償部84に勾配補償部86を組み合わせたとき、乗算器84cは、効率補償ゲインGeおよび勾配補償ゲインGcを摩擦補償後の軸力F1bに乗算する。フィルタ85は、効率補償および勾配補償が施された軸力に対してフィルタリング処理を施す。フィルタ85によるフィルタリング処理後の軸力が基本駆動トルクTin *のばね成分Tsp *に換算される。
・勾配補償ゲイン演算部86aは、車速Vに応じて勾配補償ゲインGcを演算したが、勾配補償ゲインGcを定数としてもよい。この場合、勾配補償ゲインGcは、各補償部(83,84,85)を経た軸力F1を、より実際の軸力に近づける観点で設定してもよい。また、より大きな手応え(操舵反力)を得るために、あえてより大きな値の軸力F1を演算する観点に基づき、勾配補償ゲインGcをより大きな値に設定してもよい。逆に、操舵トルクTh(操舵力)をより小さくするために、あえてより小さな値の軸力F1を演算する観点に基づき、勾配補償ゲインGcをより小さな値に設定してもよい。
・推定軸力演算部80は、動特性補償部として機能するフィルタ85、ならびに静特性補償部として機能する摩擦補償部83、効率補償部84および勾配補償部86を有していたが、動特性補償部(85)および静特性補償部(83,84,86)のいずれか一を有していてもよい。このようにしても、軸力演算部81により演算される軸力F1に対する、操舵装置10(転舵ユニット)の動特性および静特性のいずれか一による影響が補償される。
・動特性補償部としてのフィルタ85は、軸力演算部81により演算される軸力F1に重畳する不要成分として、操舵装置10の粘性に起因する第1の成分、操舵装置10の慣性に起因する第2の成分、ならびに転舵制御部50bの伝達特性に起因する第3の成分のうち一または二を除去するようにしてもよい。
・推定軸力演算部80は、静特性補償部として、摩擦補償部83、効率補償部84および勾配補償部86を有していたが、推定軸力演算部80として、これら補償部のうちの一または二を有する構成を採用してもよい。
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第2の実施の形態を説明する。
図18に示すように、推定軸力演算部80は、第1の実施の形態と同様に、軸力演算部81,ヒステリシス切替わり判定部82、摩擦補償部83、効率補償部84、フィルタ85、および勾配補償部86を有している。
ただし、フィルタ85の伝達関数G(s)が第1の実施の形態と異なる。具体的には、フィルタ85の伝達関数G(s)では、先の式(8−1)で表される微分ステアリング制御部63の伝達関数G1(s)、および先の式(8−2)で表されるピニオン角フィードバック制御部64の伝達関数G2(s)を考慮せず、先の式(8−3)で表される転舵モータ41の伝達関数G3(s)を打ち消す観点に基づき設定されている。
したがって、フィルタ85の伝達関数G(s)は、次式(9)で表される。
G(s)=1/(Js2+Cs+K) …(9)
ただし、「J」は慣性、「C」は粘性、「K」はばね性(弾性)である。
このようにしても、効率補償後の軸力F1cに対してフィルタ85によるフィルタリング処理が施されることにより、効率補償後の軸力F1cに重畳する転舵モータ41の粘性および慣性などに起因する不要成分を打ち消すことができる。また、効率補償後の軸力F1cの位相を補償することもできる。
<第3の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第3の実施の形態を説明する。本例は推定軸力演算部の構成の点で第2の実施の形態と異なる。第2の実施の形態では、単一のフィルタ85により効率補償後の軸力F1cに対して粘性補償、慣性補償および位相補償を行うようにしたが、本例ではこれら3つの補償制御を個別に行う。
図19に示すように、推定軸力演算部80は、先のフィルタ85(図18参照)に代えて、粘性補償部85a、慣性補償部85b、位相補償部85cおよび微分器85dを有している。
粘性補償部85aは、転舵モータ41の粘性を補償する。粘性補償部85aは、効率補償後の軸力、微分器79(図3を参照)により演算されるピニオン角速度ωp、および車速Vを取り込む。粘性補償部85aは、ピニオン角速度ωpに粘性補償係数を乗算することにより粘性補償量を演算し、当該演算される粘性補償量を効率補償後の軸力F1cに加算することにより粘性補償後の軸力F1αを演算する。粘性摩擦係数は、車速Vに応じて変化する。
微分器85dは、微分器79(図3を参照)により演算されるピニオン角速度ωpを微分することによりピニオン角加速度αpを演算する。
慣性補償部85bは、転舵モータ41の慣性を補償する。慣性補償部85bは、粘性補償後の軸力F1α、微分器85dにより演算されるピニオン角加速度αp、および車速Vを取り込む。慣性補償部85bは、ピニオン角加速度αpに慣性補償係数を乗算することにより慣性補償量を演算し、当該演算される慣性補償量を粘性補償後の軸力F1αに加算することにより慣性補償後の軸力F1βを演算する。慣性補償係数は車速Vに応じて変化する。
位相補償部85cは、慣性補償後の軸力F1βの位相を補償する。位相補償部85cは、慣性補償後の軸力F1β、および車速Vを取り込む。位相補償部85cは、慣性補償後の軸力F1βに位相補償係数を乗算することにより位相補償量を演算し、当該演算される位相補償量を慣性補償後の軸力F1βに加算することにより位相補償後の軸力F1γを演算する。位相補償後の軸力F1γは、勾配補償部86において勾配補償が施される。
このようにしても、効率補償後の軸力F1cに重畳する転舵モータ41の粘性および慣性などに起因する不要成分を除去することができる。また、効率補償後の軸力F1cの位相を補償することもできる。
なお、推定軸力演算部80は、動特性補償部として、粘性補償部85a、慣性補償部85bおよび位相補償部85cを有していたが、推定軸力演算部80として、これら補償部のうちの一または二を有する構成を採用してもよい。
<第4の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第4の実施の形態を説明する。本例は推定軸力演算部の構成の点で第1の実施の形態と異なる。なお、本実施の形態は、先の第2の実施の形態、および第3の実施の形態に適用することも可能である。
図20に示すように、車両モデル72は、先の推定軸力演算部80に加えて、仮想ラックエンド軸力演算部91、理想軸力演算部92、推定軸力演算部93、推定軸力演算部94、および軸力配分演算部95を有している。
仮想ラックエンド軸力演算部91は、ステアリングホイール11の操作位置が物理的な操作範囲の限界位置に近づいたとき、ステアリングホイール11の操作範囲を本来の物理的な最大操舵範囲よりも狭い範囲に仮想的に制限するため、基本駆動トルクTin *に対する補正量として仮想ラックエンド軸力Fendを演算する。仮想ラックエンド軸力Fendは、反力モータ31に発生させる操舵方向と反対方向のトルク(操舵反力トルク)を急激に増大させる観点に基づき演算される。
ちなみに、ステアリングホイール11の物理的な操作範囲の限界位置とは、転舵シャフト14がその可動範囲の限界に達するときの位置でもある。転舵シャフト14がその可動範囲の限界に達するとき、転舵シャフト14の端部(ラックエンド)がハウジングに突き当たる、いわゆる「エンド当て」が生じ、ラック軸の移動範囲が物理的に規制される。これにより、ステアリングホイールの操作範囲も規制される。
仮想ラックエンド軸力演算部91は、目標舵角θ*および舵角比変更制御部62(図2を参照)により演算される目標ピニオン角θp *を取り込む。仮想ラックエンド軸力演算部91は、目標ピニオン角θp *に所定の換算係数を乗算することにより目標転舵角を演算する。仮想ラックエンド軸力演算部91は、目標転舵角と目標舵角θ*とを比較して、絶対値の大きい方を仮想ラックエンド角θendとして使用する。
仮想ラックエンド軸力演算部91は、仮想ラックエンド角θendがエンド判定しきい値に達したとき、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された仮想ラックエンドマップを使用して、仮想ラックエンド軸力Fendを演算する。エンド判定しきい値は、ステアリングホイール11の物理的な最大操舵範囲の近傍値、あるいは転舵シャフト14の最大可動範囲の近傍値に基づき設定される。仮想ラックエンド軸力Fendは、基本駆動トルクTin *に対する補正量であって、仮想ラックエンド角θendの符号(正負)と同符号に設定される。仮想ラックエンド角θendがエンド判定しきい値に達した以降、仮想ラックエンド軸力Fendは、仮想ラックエンド角θendの絶対値が増大するほど、より大きな値に設定される。
理想軸力演算部92は、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力Fiを演算する。理想軸力演算部92は、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された理想軸力マップを使用して理想軸力Fiを演算する。理想軸力Fiは、目標ピニオン角θp *に所定の換算係数を乗算することにより得られる目標転舵角の絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。なお、理想軸力Fiは車速Vを考慮せず、目標転舵角のみに基づき演算してもよい。
推定軸力演算部93は、車両に設けられる横加速度センサ502を通じて検出される横加速度LAに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力F2を推定演算する。軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを横加速度LAに乗算することにより求められる。横加速度LAには路面摩擦抵抗などの路面状態が反映される。このため、横加速度LAに基づき演算される軸力F2は実際の路面状態が反映されたものとなる。
推定軸力演算部94は、車両に設けられるヨーレートセンサ503を通じて検出されるヨーレートYRに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力F3を推定演算する。軸力F3は、ヨーレートYRを微分した値であるヨーレート微分値に、車速Vに応じた係数である車速ゲインを乗算することにより求められる。車速ゲインは、車速Vが速くなるほどより大きな値に設定される。ヨーレートYRには路面摩擦抵抗などの路面状態が反映される。このため、ヨーレートYRに基づき演算される軸力F3は実際の路面状態が反映されたものとなる。
ちなみに、軸力F3は、つぎのようにして演算してもよい。すなわち、推定軸力演算部94は、転舵角θtに応じた補正軸力、転舵速度に応じた補正軸力、および転舵角加速度に応じた補正軸力の少なくとも一を、ヨーレート微分値に車速ゲインを乗算して得られる値に加算することによって軸力F3を求める。ちなみに、転舵角θtはピニオン角θpに所定の換算係数を乗算することにより得られる。転舵速度は転舵角θtを微分することによって得てもよいし、ピニオン角速度ωpを換算することにより得てもよい。転舵角加速度は転舵速度を微分することにより得てもよいし、ピニオン角加速度αpを換算することによって得てもよい。
軸力配分演算部95は、仮想ラックエンド軸力Fend、理想軸力Fi、軸力F1e、軸力F2、および軸力F3を、車両の走行状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態量に基づく所定の配分比率で合算することにより、基本駆動トルクTin *に対するばね成分Tsp *の演算に使用される最終的な軸力Fspを演算する。車両モデル72は、この軸力Fspに基づき基本駆動トルクTin *に対するばね成分Tsp *を演算(換算)する。
つぎに、軸力配分演算部95について詳細に説明する。
図21に示すように、軸力配分演算部95は、第1の演算部95aおよび第2の演算部95bを有している。
第1の演算部95aは、推定軸力演算部80,93,94により推定演算される軸力F1e,F2,F3を所定の分配比率で合算することにより、より適切な推定軸力Feを演算する。
第1の演算部95aは、軸力F1e,F2,F3、ヨーレートYR、および横加速度差分値ΔLAを取り込む。横加速度差分値ΔLAは、車両モデル72に設けられる差分値演算部96により演算される。差分値演算部96は、次式(10)に基づき横加速度差分値ΔLAを演算する。
ΔLA=YR×V−LA …(10)
ただし、「YR」はヨーレートセンサ503を通じて検出されるヨーレートである。「V」は車速センサ501を通じて検出される車速である。「LA」は横加速度センサ502を通じて検出される横加速度である。
第1の演算部95aは、絶対値演算部97、分配比演算部98,99、乗算器101,103,105、加算器102,106および減算器104を有している。
絶対値演算部97は、差分値演算部96により演算される横加速度差分値ΔLAの絶対値│ΔLA│を演算する。分配比演算部98は、横加速度差分値ΔLAの絶対値│ΔLA│に応じて分配比率Daを演算する。分配比率Daは横加速度差分値ΔLAの絶対値│ΔLA│が増大するほど、また車速Vが速くなるほど、より大きな値に設定される。乗算器101は、分配比率Daを、ヨーレートYRに基づく軸力F3に乗算することにより、配分後の軸力Faを演算する。加算器102は、横加速度LAに基づく軸力F2と、乗算器101により演算される軸力Faとを加算することにより、軸力Fbを演算する。
分配比演算部99は、ヨーレートYRに応じて分配比率Dbを演算する。分配比率DbはヨーレートYRが増大するほど、また車速Vが速くなるほど、より大きな値に設定される。乗算器103は、分配比率Dbを、加算器102により演算される軸力Fbに乗算することにより軸力Fcを演算する。
減算器104は、制御装置50の記憶装置に格納された固定値である「1」から、分配比演算部99により演算される分配比率Dbを減算することにより分配比率Dcを演算する。乗算器105は、転舵モータ41の電流値Ibに基づく軸力F1eに分配比率Dcを乗算することにより軸力Fdを演算する。
加算器106は、乗算器105により演算される軸力Fdと、乗算器103により演算される軸力Fcとを加算することにより、最終的な推定軸力Feを演算する。
第2の演算部95bは、第1の演算部95aにより演算される推定軸力Fe、および理想軸力演算部92により演算される理想軸力Fiを、車両の走行状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態量に基づく所定の配分比率で合算することにより、基本駆動トルクTin *に対するばね成分Tsp *の演算に使用される最終的な軸力Fspを演算する。
第2の演算部95bは、減算器107,117、分配比演算部108〜114、乗算器115,118、加算器119,120を有している。
減算器107は、目標ピニオン角θp *に基づく理想軸力Fiから、第1の演算部95a(加算器106)により配分演算される推定軸力Feを減算することにより、軸力偏差ΔFを演算する。
分配比演算部108は、軸力偏差ΔFに応じて分配比率Dcを演算する。分配比率Dcは、軸力偏差ΔFが増大するほど、より大きな値に設定される。また、分配比演算部109は、仮想ラックエンド軸力Fendに応じて分配比率Ddを演算する。分配比演算部110は、ピニオン角速度ωp(転舵速度に換算してもよい。)に応じて分配比率Deを演算する。分配比演算部111は、舵角θsを微分することにより得られる操舵速度ωsに応じて分配比率Dfを演算する。分配比演算部112は、ピニオン角θpに応じて分配比率Dgを演算する。分配比演算部113は、舵角θsに応じて分配比率Dhを演算する。分配比演算部114は、車速Vに応じて分配比率Diを演算する。これら分配比率Dd,De,Df,Dg,Dh,Diは、各分配比演算部(109〜114)が取り込む各状態量(θend,ωp,ωs,θp,θs,V)が増大するほど、より小さな値に設定される。
乗算器115は、各分配比率Dc,Dd,De,Df,Dg,Dh,Diを乗算することにより、第1の演算部95aにより演算される最終的な推定軸力Feの分配比率Djを演算する。乗算器116は、第1の演算部95aにより演算される最終的な推定軸力Feに、各状態量に基づく分配比率Djを乗算することにより配分後の推定軸力Fgを演算する。
減算器117は、制御装置50の記憶装置に格納された固定値である「1」から、乗算器115により演算される分配比率Djを減算することにより理想軸力Fiの分配比率Dkを演算する。乗算器118は、理想軸力演算部92により演算される理想軸力Fiに、分配比率Dkを乗算することにより配分後の理想軸力Fhを演算する。
加算器119は、配分後の理想軸力Fhと配分後の推定軸力Fgとを合算することにより、軸力Fpreを演算する。加算器120は、加算器119により演算される軸力Fpreと仮想ラックエンド軸力Fendとを合算することにより、基本駆動トルクTin *に対するばね成分Tsp *の演算に使用される最終的な軸力Fspを演算する。仮想ラックエンド軸力Fendが演算されないとき、加算器119により演算される軸力Fpreが基本駆動トルクTin *に対するばね成分Tsp *の演算に使用される最終的な軸力Fspとして使用される。
したがって、本実施の形態によれば、複数種の状態量に基づき推定演算される軸力F1e,F2,F3、および目標ピニオン角θp *(目標転舵角)に基づき演算される理想軸力Fiを、各種の状態量に応じて配分することにより、路面状態がより細やかに反映された軸力F1pre(Fsp)が演算される。この軸力F1preが基本駆動トルクTin *に反映されることによって、路面状態に応じた、より細やかな操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
なお、第4の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本例において、車両モデル72として、2つの推定軸力演算部93,94のうち少なくとも一を割愛した構成を採用してもよい。すなわち、少なくとも推定軸力演算部80により推定演算される軸力F1e(推定軸力)、および理想軸力Fiを所定の配分比率で合算することにより軸力Fpreを演算してもよい。軸力Fpreと仮想ラックエンド軸力Fendとが合算されることにより、最終的な軸力Fspが演算される。
・また、第1の演算部95aにより演算される推定軸力Feの分配比率Djは、各分配比演算部(109〜114)により演算される各分配比率Dc,Dd,De,Df,Dg,Dh,Diの少なくとも一を使用して求めてもよい。各分配比率のいずれか一のみを使用する場合、当該一の分配比率がそのまま推定軸力Feの分配比率Djとして使用される。
<第5の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第5の実施の形態を説明する。本例は、ピニオン角フィードバック制御部64の周辺部分の構成が前記第1の実施の形態と異なる。なお、本例は、先の第2〜第4の実施の形態に適用することも可能である。
先の図4に示されるように、ピニオン角フィードバック制御部64ではピニオン角θpのフィードバック制御(PID制御)を通じてピニオン角指令値Tp *を演算するところ、つぎのことが懸念される。すなわち、タイヤの空気圧の影響により、ピニオン角θpのフィードバック制御性能が十分に発揮できない周波数帯がある。
図22のグラフに示すように、横軸に周波数fを、縦軸にゲインをそれぞれプロットしたとき、ピニオン角フィードバック制御部64の周波数に対する理想的な周波数特性(伝達特性)は、つぎの通りである。すなわち、周波数fが特定の周波数f1に達するまでは、ゲインGは一定値に維持される。ただし、周波数fが特定の周波数f1に達した以降、周波数fが増大するにつれてゲインGは徐々に減少する。
しかし、図23のグラフに実線で示されるように、タイヤの空気圧の影響によって、周波数fに対するゲインGの値が、図23に二点鎖線で示される本来値よりも小さくなる周波数領域Afが存在する。この周波数領域Afにおいては、ゲインGの値が本来値よりも小さい分だけ応答性が低下するため、ピニオン角θpのフィードバック制御性能が十分に発揮できないおそれがある。
そこで本例では、転舵制御部50bとして、つぎの構成を採用している。
図24(a)に示すように、転舵制御部50bは、バンドパスフィルタ(BPF)121、および加算器122を有している。
バンドパスフィルタ121の周波数特性は、先の図23に示されるようなピニオン角フィードバック制御部64における周波数fに対するゲインGの落ち込みを打ち消す観点に基づき設定される。
図25のグラフに実線で示されるように、バンドパスフィルタ121は、周波数領域Afにおいて、ピニオン角フィードバック制御部64と逆の周波数特性を有している。すなわち、周波数fに対するゲインGの値は、図25に二点鎖線で示される本来値よりも大きな値に設定されている。周波数領域Afにおいて、周波数fに対するゲインGの変化の度合いは、タイヤの空気圧などの影響によるゲインGの低下度合いに対応している。すなわち、バンドパスフィルタ121には、タイヤの空気圧の影響によるゲインGの低下度合い(変化傾向)を見越して、それを打ち消すような周波数特性が設定されている。
加算器122は、補正指令値Tcとピニオン角フィードバック制御部64により演算されるピニオン角指令値Tp *とを合算することにより、最終的なピニオン角指令値Tp *を演算する。
したがって、本実施の形態によれば、制御装置50(転舵制御部50b)に、フィードバック要素であるピニオン角フィードバック制御部64に対するフィードフォワード要素としてバンドパスフィルタ121を設けることにより、ピニオン角フィードバック制御部64およびバンドパスフィルタ121に対して目標ピニオン角θp *が入力されてから、加算器122を通じて最終的なピニオン角指令値Tp *が出力されるまでの伝達関数の周波数特性は、全体として先の図22のグラフに示される理想的な特性となる。すなわち、タイヤの空気圧に起因する、周波数fに対するゲインGの落ち込みが抑制される。このため、タイヤの空気圧の影響を受けながらも、ピニオン角θpのフィードバック制御性能、ひいては転舵制御性能が、より適切に発揮される。また、応答性が確保されるため、いわゆる転舵遅れも抑制される。
なお、第5の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本例では、ピニオン角フィードバック制御部64は、目標ピニオン角θp *に基づきピニオン角指令値Tp *を演算したが、図24(b)に示すように、ピニオン角指令値Tp *に基づき転舵モータ41に発生させるべきトルクの目標値であるトルク指令値Tτ *を演算するようにしてもよい。この場合、バンドパスフィルタ121と加算器122との間の演算経路に換算部123を設ける。換算部123は、バンドパスフィルタ121によりフィルタ処理が施された目標ピニオン角θp *にトルク換算係数Kτを乗算することによりトルク指令値Tτ *に対する補正指令値Tcを演算する。加算器122は、トルク指令値Tτ *と補正指令値Tcとを合算することにより、最終的なトルク指令値Tτ *を演算する。通電制御部65は、最終的なトルク指令値Tτ *に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。
・また、バンドパスフィルタ121の特性を決めるパラメータおよびゲインの少なくとも一をタイヤの空気圧Ptに応じて変更してもよい。タイヤの空気圧Ptによってピニオン角フィードバック制御部64における周波数fに対するゲインGの落ち込み度合いが変化するからである。この場合、タイヤの空気圧Ptの異常が検出されるとき、バンドパスフィルタ121のパラメータおよびゲイン、または空気圧Ptを定められた一定値に固定してもよい。タイヤの空気圧Ptは、たとえば各タイヤに設けられる空気圧センサにより検出される。
・また、バンドパスフィルタ121の特性を決めるパラメータ(R,L,C)およびゲインの少なくとも一を車速Vに応じて変更してもよい。車速Vによってもピニオン角フィードバック制御部64における周波数fに対するゲインGの落ち込み度合いが変化するからである。この場合、車速Vの異常が検出されるとき、バンドパスフィルタ121のパラメータおよびゲイン、または車速Vを定められた一定値に固定してもよい。
<第6の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第6の実施の形態を説明する。本例も、第5の実施の形態と同様に、タイヤの空気圧などに起因するピニオン角θpのフィードバック制御性能の低下を抑制することを目的としている。
本例では、転舵制御部50bとして、つぎの構成を採用している。
図26に示すように、ピニオン角フィードバック制御部64の前段、すなわち微分ステアリング制御部63とピニオン角フィードバック制御部64との間の演算経路には、バンドパスフィルタ131および加算器132が設けられている。
バンドパスフィルタ131の周波数特性は、先の図25のグラフに示されるバンドパスフィルタ121の周波数特性と同じである。加算器132は、微分ステアリング制御部63を経た目標ピニオン角θp *と、バンドパスフィルタ131によりフィルタ処理が施された目標ピニオン角θp *とを合算することにより、最終的な目標ピニオン角θp *を演算する。
ピニオン角フィードバック制御部64は、実際のピニオン角θpを加算器132により演算される最終的な目標ピニオン角θp *に追従させるべく、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値Tp *を演算する。
したがって、本実施の形態によれば、制御装置50(転舵制御部50b)にバンドパスフィルタ131を設けることにより、バンドパスフィルタ131および加算器132に対して目標ピニオン角θp *が入力されてから、ピニオン角フィードバック制御部64から最終的なピニオン角指令値Tp *が出力されるまでの伝達関数の周波数特性は、全体として先の図22のグラフに示される理想的な特性となる。このため、タイヤの空気圧などに起因する、周波数fに対するゲインGの落ち込みが抑制される。したがって、ピニオン角θpのフィードバック制御性能、ひいては転舵制御性能が、より適切に発揮される。
なお、前記第5の実施の形態と同様に、バンドパスフィルタ131の特性を決めるパラメータおよびゲインの少なくとも一をタイヤの空気圧Ptまたは車速V応じて変更してもよい。この場合、タイヤの空気圧Ptまたは車速Vに異常が検出されるとき、バンドパスフィルタ131のパラメータおよびゲイン、または空気圧Ptを定められた一定値に固定する。
<第7の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第7の実施の形態を説明する。本例も、第5の実施の形態と同様に、タイヤの空気圧などに起因するピニオン角θpのフィードバック制御性能の低下を抑制することを目的としている。
図27に示すように、ピニオン角フィードバック制御部64は、ピニオン角θp、目標ピニオン角θp *、タイヤの空気圧Pt、および車速Vを取り込む。ここで、ピニオン角θpは、ピニオン角演算部61により演算される。目標ピニオン角θp *は、微分ステアリング制御部63を経たものである。タイヤの空気圧Ptは、各タイヤに設けられる空気圧センサを通じて検出される。
図28に示すように、ピニオン角フィードバック制御部64は、減算器141、積分器142、微分器143、比例ゲイン乗算部144、積分ゲイン乗算部145、微分ゲイン乗算部146、および加算器147を有している。
減算器141は、目標ピニオン角θp *からピニオン角θpを減算することにより偏差εを演算する。積分器142は偏差εを積分する。微分器143は偏差εを微分する。比例ゲイン乗算部144は、偏差εに比例ゲインKpを乗算する。積分ゲイン乗算部145は、積分器142により演算される偏差εの積分値に積分ゲインKiを乗算する。微分ゲイン乗算部146は、微分器143により演算される偏差εの微分値に微分ゲインKdを乗算する。加算器147は、比例ゲイン乗算部144の演算結果(P−term)、積分ゲイン乗算部145の演算結果(I−term)、および微分ゲイン乗算部146の演算結果(D−term)を加算することにより、制御値としてピニオン角指令値Tp *を演算する。
ピニオン角フィードバック制御部64により実行されるPID制御の制御パラメータである比例ゲインKp、積分ゲインKi、および微分ゲインKdは、タイヤの空気圧Ptおよび車速Vに応じて変更される。具体的には、比例ゲイン乗算部144、積分ゲイン乗算部145、および微分ゲイン乗算部146は、それぞれパラメータマップを使用して制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)を設定する。
図29のグラフに示すように、第1のパラメータマップM4は、タイヤの空気圧Ptと制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)との関係を規定する二次元マップである。第1のパラメータマップM4は、先の図23に示されるような、ピニオン角フィードバック制御部64における周波数fに対するゲインGの落ち込みを打ち消す観点に基づき設定される。第1のパラメータマップM4は、つぎのような特性を有する。すなわち、タイヤの空気圧Ptが増加するほど制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)は、より小さな値に設定される。
図30のグラフに示すように、第2のパラメータマップM5は、車速Vと制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)との関係を規定する二次元マップである。第2のパラメータマップM5も、先の図23に示されるような、ピニオン角フィードバック制御部64における周波数fに対するゲインGの落ち込みを打ち消す観点に基づき設定される。第2のパラメータマップM5は、つぎのような特性を有する。すなわち、車速Vが「0」を基準とする所定値V3未満であるとき、車速Vが速くなるほど制御パラメータは、より小さな値に設定される。車速Vが所定値V3以上であるとき、車速Vが速くなるほど制御パラメータは、より大きな値に設定される。ちなみに、所定値V3はいわゆる中速域の車速である。
なお、タイヤの空気圧Ptおよび車速Vの少なくとも一方に異常が検出されるとき、制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)を定められた一定値に固定してもよい。また、タイヤの空気圧Ptおよび車速Vのうち異常が検出された少なくとも一方の値を、定められた一定値に固定してもよい。
また、比例ゲイン乗算部144、積分ゲイン乗算部145、および微分ゲイン乗算部146は、タイヤの空気圧Ptおよび車速Vのいずれか一方に応じて制御パラメータを変更するようにしてもよい。
したがって、本実施の形態によれば、ピニオン角フィードバック制御部64の制御パラメータ(Kp,Ki,Kd)が、タイヤの空気圧Ptおよび車速Vの少なくとも一方に応じて変更されることにより、タイヤの空気圧Ptなどに起因する、周波数fに対するゲインGの落ち込みが抑制される。このため、タイヤの空気圧Ptなどの影響を受けながらも、ピニオン角θpのフィードバック制御をより適切に実行することができる。すなわち、ピニオン角θpのフィードバック制御性能、ひいては転舵制御性能が、より適切に発揮される。
<第8の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」と略記する。)に適用した第8の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
図31に示すように、EPS150は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能するステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の往復直線運動は、転舵シャフト14の両端にそれぞれ連結されたタイロッド15を介して左右の転舵輪16,16に伝達される。
また、EPS150は、操舵補助力(アシスト力)を生成する構成として、アシストモータ151、減速機構152、トルクセンサ34、回転角センサ153および制御装置154を有している。回転角センサ153はアシストモータ151に設けられて、その回転角θmを検出する。
アシストモータ151は、操舵補助力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。アシストモータ151は、減速機構152を介してピニオンシャフト13に連結されている。アシストモータ151の回転は減速機構152によって減速されて、当該減速された回転力が操舵補助力としてピニオンシャフト13に伝達される。
制御装置154は、アシストモータ151に対する通電制御を通じて操舵トルクThに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置154は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTh、車速センサ501を通じて検出される車速V、回転角センサ153を通じて検出される回転角θmに基づき、アシストモータ151に対する給電を制御する。
図32に示すように、制御装置154は、ピニオン角演算部161、基本アシスト成分演算部162、目標ピニオン角演算部163、ピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)164、加算器165、および通電制御部166を備えている。
ピニオン角演算部161は、アシストモータ151の回転角θmを取り込み、この取り込まれる回転角θmに基づきピニオンシャフト13の回転角であるピニオン角θpを演算する。
基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を演算する。基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクThと基本アシスト成分Ta1 *との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、基本アシスト成分Ta1 *を演算する。基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本アシスト成分Ta1 *の絶対値をより大きな値に設定する。
目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分演算部162により演算される基本アシスト成分Ta1 *、および操舵トルクThを取り込む。目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 *および操舵トルクThの総和を基本駆動トルク(入力トルク)とするとき、基本駆動トルクに基づいて理想的なピニオン角を定める理想モデルを有している。理想モデルは、基本駆動トルクに応じた理想的な転舵角に対応するピニオン角を予め実験などによりモデル化したものである。目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 *と操舵トルクThとを加算して基本駆動トルクを求め、この求められる基本駆動トルクから理想モデルに基づいて目標ピニオン角θp *を演算する。なお、目標ピニオン角演算部163は、目標ピニオン角θp *を演算するに際しては車速V、およびアシストモータ151に対する給電経路に設けられた電流センサ167を通じて検出される電流値Imを加味する。この電流値Imは、アシストモータ151に供給される実際の電流の値である。
ピニオン角フィードバック制御部164は、目標ピニオン角演算部163により算出される目標ピニオン角θp *およびピニオン角演算部161により算出される実際のピニオン角θpをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部164は、実際のピニオン角θpが目標ピニオン角θp *に追従するように、ピニオン角のフィードバック制御としてPID(比例、積分、微分)制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部164は、目標ピニオン角θp *と実際のピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 *の補正成分Ta2 *を演算する。
加算器165は、基本アシスト成分Ta1 *に補正成分Ta2 *を加算することによりアシスト指令値Ta *を演算する。アシスト指令値Ta *は、アシストモータ151に発生させるべき回転力(アシストトルク)を示す指令値である。
通電制御部166は、アシスト指令値Ta *に応じた電力をアシストモータ151へ供給する。具体的には、通電制御部166は、アシスト指令値Ta *に基づきアシストモータ151に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部166は電流センサ167を通じて検出される電流値Imを取り込む。そして通電制御部166は、電流指令値と実際の電流値Imとの偏差を求め、当該偏差を無くすようにアシストモータ151に対する給電を制御する。これにより、アシストモータ151はアシスト指令値Ta *に応じたトルクを発生する。その結果、操舵状態に応じた操舵アシストが行われる。
このEPS150によれば、基本駆動トルク(基本アシスト成分Ta1 *および操舵トルクThの総和)から理想モデルに基づいて目標ピニオン角θp *が設定され、実際のピニオン角θpが目標ピニオン角θp *に一致するようにフィードバック制御される。前述したように、ピニオン角θpと転舵輪16,16の転舵角θtとの間には相関関係がある。このため、基本駆動トルクに応じた転舵輪16,16の転舵動作も理想モデルにより定まる。すなわち、車両の操舵感が理想モデルにより決まる。したがって、理想モデルの調整により所望の操舵感を実現することが可能となる。
また、実際の転舵角θtが、目標ピニオン角θp *に応じた転舵角θtに維持される。このため、路面状態あるいはブレーキングなどの外乱に起因して発生する逆入力振動の抑制効果も得られる。すなわち、転舵輪16,16を介してステアリングシャフト12などの操舵機構に振動が伝達される場合であれ、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp *となるように補正成分Ta2 *が調節される。このため、実際の転舵角θtは、理想モデルにより規定される目標ピニオン角θp *に応じた転舵角θtに維持される。結果的にみれば、逆入力振動を打ち消す方向へ操舵補助が行われることにより、逆入力振動がステアリングホイール11に伝わることが抑制される。
しかし、運転者の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)である操舵反力(ステアリングを通じて感じる手応え)は目標ピニオン角θp *に応じたものにしかならない。すなわち、たとえば乾燥路および低摩擦路などの路面状態によっては操舵反力が変わらないため、運転者は手応えとして路面状態を把握しにくい。
そこで本例では、たとえば先の第1の実施の形態における目標舵角演算部52の演算機能を目標ピニオン角演算部163に持たせている。
目標ピニオン角演算部163は、先の図3に示される目標舵角演算部52と同様の機能的な構成を有している。先の目標舵角演算部52が目標操舵反力T1 *を取り込むのに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 *を取り込む。また、先の目標舵角演算部52が転舵モータ41に供給される電流の電流値Ibを取り込むのに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は、アシストモータ151に供給される電流の電流値Imを取り込む。目標ピニオン角演算部163が操舵トルクThおよび車速Vを取り込むことについては、先の目標舵角演算部52と同じである。また、先の目標舵角演算部52が目標舵角θ*を演算することに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は目標ピニオン角θp *を演算する。取り込む信号の一部、および生成する信号が異なるだけであって、目標ピニオン角演算部163の内部的な演算処理の内容は、先の目標舵角演算部52と同じである。ただし、車両モデル72における推定軸力演算部80(図4を参照)は、軸力演算部81により演算される軸力F1に操舵トルクThを加算した値に対して各種の補償処理およびフィルタ処理を施す。
したがって、本実施の形態によれば、先の第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、軸力演算部81により演算される軸力F1に対する各種の補償処理(摩擦補償、効率補償、勾配補償)およびフィルタ85によるフィルタ処理を通じて、軸力F1に重畳する不要成分(摩擦、効率、粘性、慣性、制御の伝達関数)が除去される。このため、転舵輪16,16を介して路面状態がより適切に反映された軸力F1eを演算することができる。この適切な軸力F1eが基本駆動トルクTin *のばね成分Tsp *として使用されることによって、目標ピニオン角θp *、ひいてはピニオン角フィードバック制御部164により演算される補正成分Ta2 *は路面状態(路面摩擦抵抗など)をより反映したものとなる。したがって、路面状態に応じた、より適切な操舵反力がステアリングホイール11に付与される。運転者は、ステアリングホイール11に付与される操舵反力を手応えとして感じることにより、路面状態をより的確に把握することができる。
なお、第8の実施の形態はつぎのように変更して実施してもよい。
・本例では、基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を求めるようにしたが、操舵トルクThのみに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を求めるようにしてもよい。
・また、本例において、先の第2〜第4の実施の形態における目標舵角演算部52の演算機能を目標ピニオン角演算部163に持たせてもよい。このようにしても、第2〜第4の実施の形態に準じた効果を得ることができる。
・また、本例に対して先の第5〜第7の実施の形態を適用してもよい。この場合、図32に示されるピニオン角フィードバック制御部164の周辺構成は、先の図24(a),(b)、図26、図27および図28に示される構成に準じたものとなる。すなわち、図24(a),(b)、図26、図27および図28におけるピニオン角フィードバック制御部64を本例のピニオン角フィードバック制御部64に置き換えたうえで、図32に組み込めばよい。
このようにすれば、タイヤの空気圧または車速Vに起因する、ピニオン角フィードバック制御部164の周波数fに対するゲインGの落ち込みが抑制される。このため、タイヤの空気圧などの影響を受けながらも、ピニオン角θpのフィードバック制御がより適切に実行される。また、ステアリングホイール11の操作に対する応答性が確保されるため、いわゆるアシスト遅れも抑制される。
・さらに、本例では、転舵シャフト14に操舵補助力を付与するEPS(電動パワーステアリング装置)150を例に挙げたが、ステアリングシャフトに操舵補助力を付与するタイプのEPSであってもよい。具体的には、つぎの通りである。
図31に二点鎖線で示すように、アシストモータ151は、減速機構152を介して転舵シャフト14ではなくステアリングシャフト12に連結されている。ピニオンシャフト44は割愛することができる。この場合、制御装置154は、ピニオン角θpのフィードバック制御ではなく、舵角θsのフィードバック制御を実行する。
すなわち、図32に括弧書きで示されるように、ピニオン角演算部161は、アシストモータ151の電流値Imに基づき舵角θsを演算する舵角演算部として機能する。目標ピニオン角演算部163は、操舵トルクTh、車速V、基本アシスト成分Ta1 *および電流値Imに基づき舵角θsの目標値である目標舵角を演算する目標舵角演算部として機能する。目標舵角演算部は、先の図3に示される目標舵角演算部52と基本的には同様の構成を有している。ただし、制御装置154に設けられる微分器79は舵角θsを微分することにより操舵速度ωsを演算する。ピニオン角フィードバック制御部164は、目標舵角と実際の舵角θsとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 *の補正成分Ta2 *を演算する舵角フィードバック制御部として機能する。
・また、図31に二点鎖線で示されるように、ステアリングシャフト12に操舵補助力を付与するタイプのEPS150において、VGR機構(Variable-Gear-Ratio/可変ギヤ比機構)170が設けられることもある。VGR機構170は、操舵性の向上を目的として、ステアリングシャフト12(ステアリングホイール11とトルクセンサ34との間の部分)にVGRモータ171を設け、当該VGRモータ171を使用して舵角θsと転舵角θtとの比率(ギヤ比)を変化させる。VGRモータ171のステータ171aは、ステアリングシャフト12のステアリングホイール11側の部分である入力シャフト12aに連結されている。VGRモータ171のロータ171bは、ステアリングシャフト12におけるピニオンシャフト13側の部分である出力シャフト12bに連結されている。
ステアリングホイール11を回転させるとき、VGRモータ171のステータ171aはステアリングホイール11と同じ量だけ回転する。また、制御装置154は、ステアリングホイール11の回転および車速Vに応じてVGRモータ171のロータ171bを回転させる。このため、入力シャフト12aに対する出力シャフト12bの相対的な回転角θsgは、次式(11)で表される。
θsg=θs+θg …(11)
ただし、「θs」は操舵角、「θg」はVGRモータの回転角である。
したがって、VGRモータ171の回転角θgを制御することにより、任意のギヤ比を実現することができる。
図32に括弧書きで示されるように、目標舵角演算部としての目標ピニオン角演算部163は、舵角θsおよびVGRモータ171の回転角θgの合計値、すなわち入力シャフト12aに対する出力シャフト12bの相対的な回転角θsgの目標値を演算する。また、当該目標舵角演算部は、回転角θsgの目標値を演算するとき、操舵速度ωsおよびVGRモータ171の回転速度の合計値を使用する。舵角フィードバック制御部としてのピニオン角フィードバック制御部164は、回転角θsgの目標値と実際の回転角θsgとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 *の補正成分Ta2 *を演算する機能する。
<第9の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第9の実施の形態を説明する。本例は軸力配分演算部の構成の点で第4の実施の形態と異なる。
図33に示すように、軸力配分演算部95は、軸力増幅部181を有している。軸力増幅部181は、加算器119により演算される軸力FpreにゲインGfを乗算することにより、軸力Fpreを増幅する。ただし、ゲインGfは「1」よりも大きな値に設定される。軸力Fpreには路面状態が反映されるところ、増幅された軸力Fpreが基本駆動トルクTin *に反映されることによって、路面状態に応じた操舵反力が増幅されるかたちでステアリングホイール11に付与される。したがって、運転者に路面状態を操舵反力としてより適切に伝えることができる。
図34のグラフに一点鎖線で示すように、横軸を舵角θs(操舵角)、縦軸をステアリングシャフト12回りのトルクとするとき、操舵トルクThは舵角θs(絶対値)の増大に伴い緩やかに増大する。また、図34のグラフに二点鎖線で示すように、加算器119により演算される本来の軸力Fpreと舵角θsとは比例関係にある。すなわち、本来の軸力Fpreは、舵角θsが増大するほど、より大きな値となる。
操舵装置10は、操舵トルクThと反力モータ31による反力トルク(操舵方向と反対方向のトルク)との合算値が、転舵シャフト14に作用する軸力と釣り合いながら運動する。軸力が変化すると、操舵トルクThと反力トルクとの合算値も変化する。この合算値の変化が路面情報として運転者に伝わる。たとえば車両が低摩擦路を走行する場合、タイヤの路面グリップの低下に伴い軸力が減少する。この軸力の減少に応じて、操舵トルクThと反力トルクとの合算値も減少する。この路面状態(タイヤの路面グリップ)に応じた合算値の減少が、運転者に手応えとして伝わる。
本例では、軸力Fpre(Fsp)にゲインGfが乗算される。これにより、たとえば軸力Fpreは、図34のグラフに二点鎖線で示される本来の値から、図34のグラフに実線で示される値へ増幅される。また、ここでは、図34のグラフに一点鎖線で示されるように、舵角θs(操舵角)の変化に対する操舵トルクThの変化傾向は、軸力Fpreを増幅しない場合と同じである。このため、軸力Fpreを増幅する場合、軸力Fpreを増幅しないときよりも大きな値の反力トルクが必要とされる。反力トルクを軸力Fpreの増大に応じたより大きな値とすることにより、舵角θsの変化に対する操舵トルクThの変化傾向はそのままに、操舵トルクThと反力トルクとの合算値が仮想的に増大させた軸力Fpreと釣り合う。
つぎに、軸力の変化量と合算値(操舵トルクTh+反力トルク)の変化量との関係を説明する。ここでは、ゲインGfはたとえば「1.4」に設定されているものとする。
図34のグラフに二点鎖線で示されるように、加算器119により演算される軸力Fpreを増幅しない場合、舵角θs(絶対値)が舵角θ2から舵角θ1へ減少することに起因して、本来の軸力Fpreが1Nmだけ低下したとき、操舵トルクThと反力トルクとの合算値も1Nmだけ減少する。
これに対し、図34のグラフに実線で示されるように、加算器119により演算される軸力Fpreを増幅する場合、舵角θsが舵角θ2から舵角θ1へ減少することに起因して、本来の軸力Fpreが1Nmだけ低下したとき、増幅後の軸力Fpreは1,4Nmだけ低下する。このため、操舵トルクThと反力トルクとの合算値も1.4Nmだけ減少する。
このことは、車両が低摩擦路を走行している場合において、タイヤの路面グリップが低下することに起因する軸力Fpreの変化量と合算値(操舵トルクTh+反力トルク)の変化量との関係についても同じといえる。したがって、路面状態(タイヤの路面グリップの低下)に応じた合算値(操舵トルクTh+反力トルク)の減少が、より増幅されるかたちで運転者に手応えとして伝わる。
つぎに、タイヤの路面グリップが失われた状態(グリップロス)における舵角θsと操舵トルクThとの関係を図35のグラフに基づき説明する。ここでは、車両がたとえば一定の車速(たとえば40km/h)で走行しつつ、ステアリングホイール11を、中立位置を基準として角度θ3(たとえば200度)だけ切り込み操作を行った場合を想定する。
なお、舵角θsの変化に対する操舵トルクThの変化傾向は、全体としてみれば、軸力Fpreを増幅する場合と軸力Fpreを増幅しない場合とで、ほぼ同じである。図35のグラフでは軸力Fpreを増幅する場合における操舵トルクThの変化を実線で、軸力Fpreを増幅しない場合における操舵トルクThの変化傾向を一点鎖線で示す。
図35のグラフに示すように、切り込み操作の開始に伴い舵角θsが増大するにつれて操舵トルクThは増大する。さらに舵角θsが増大すると、今後は舵角θsの増大に対して操舵トルクThは減少に転じ、やがて舵角θsの増大に対して操舵トルクThがほぼ一定となる定常状態に至る。これは、タイヤの路面グリップの低下に起因すると考えられる。そして、この定常状態においては、軸力Fpreを増幅する場合における操舵トルクThの方が、軸力Fpreを増幅しない場合における操舵トルクThよりも小さな値になる。運転者は、操舵トルクThがより小さくなることによって、より軽い操舵感が得られる。これにより、運転者はタイヤの路面グリップが低下していることを、手応えとして、より明確に感じることができる。
なお、第9の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・軸力増幅部181を加算器119と加算器120との間の演算経路ではなく、図33に二点鎖線で示すように、たとえば軸力配分演算部95における理想軸力Fiおよび推定演算される軸力F1e,F2,F3を取り込む4つの経路にそれぞれ軸力増幅部181a,181b,181c,181dを設けてもよい。また、図36に示すように、車両モデル72における4つの軸力演算部(92,80,93,94)と軸力配分演算部95との間の演算経路にそれぞれ軸力増幅部181a,181b,181c,181dを設けてもよい。ただし、これら軸力増幅部181a〜181dで使用されるゲインGfは、すべて同じ値に設定することが好ましい。
・図37(a)に示すように、軸力配分演算部95として、加算器119により演算される軸力Fpreを車速Vに応じて補正する補正演算部182を有する構成を採用してもよい。補正演算部182は、加算器119により演算される軸力Fpreと、補正後の軸力Fpreとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、補正後の軸力Fpreを演算する。この場合、軸力増幅部181は補正演算部182と加算器120との間の演算経路に設けられる。
・また、図37(b)に示すように、軸力配分演算部95が補正演算部182を有する場合、補正後の軸力Fpreがすでに本来の補正後の軸力FpreのゲインGf倍された値となるように補正演算部182で使用するマップを設定してもよい。たとえば、図37(a)に示される補正演算部182により演算される補正後の軸力Fpreを軸力X1、図37(b)に示される補正演算部182により演算される補正後の軸力Fpreを軸力X2と置き換えるとき、これら軸力X1,X2の関係は次式(12)で表される。このようにすれば、軸力配分演算部95として、軸力増幅部181を割愛した構成を採用することができる。
X2=X1×Gf …(12)
・本実施の形態は、先の第1〜第3の実施の形態に適用してもよい。たとえば本実施の形態を第1の実施の形態に適用する場合、図38に示すように、推定軸力演算部80において、勾配補償部86により演算される勾配補償後の軸力F1eの出力経路に軸力増幅部181を設ける。本実施の形態を第2および第3の実施の形態に適用する場合についても同様である。
<第10の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置の第10の実施の形態を説明する。本例は軸力配分演算部の構成の点で第4の実施の形態と異なる。
図39に示すように、軸力配分演算部95は、ゲイン演算部191および乗算器192を有している。
ゲイン演算部191は、車速センサ501を通じて検出される車速V、および減算器107により演算される軸力偏差ΔFを取り込む。軸力偏差ΔFは、目標ピニオン角θp *に基づく理想軸力Fiと加算器106により演算される推定軸力Feとの差である。ゲイン演算部191は、軸力偏差ΔFとゲインGdとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、ゲインGdを演算する。ゲインGdは、軸力偏差ΔFが増大するほど、より小さな値に設定される。
乗算器192は、加算器119により演算される軸力Fpreに、ゲイン演算部191により演算されるゲインGdを乗算することにより、最終的な軸力Fpreを演算する。
ここで、たとえば車両がウェット路面あるいは積雪路などの低摩擦路を走行しているとき、理想軸力Fiと推定軸力Feとの軸力偏差ΔFが発生しやすい。これは、つぎの理由による。すなわち、理想軸力Fiは目標ピニオン角θp *に基づき演算されるものであるため、理想軸力Fiには路面状態が反映されにくい。これに対して、推定軸力Feは各種の状態量に基づき演算されるものであるため、推定軸力Feには路面状態が反映されやすい。このため、理想軸力Fiはタイヤのグリップ状態にかかわらず目標ピニオン角θp *に応じた値にしかならないのに対し、推定軸力Feは路面グリップの低下に応じて減少する。したがって、路面グリップが低下するほど、理想軸力Fiと推定軸力Feとの差は、より大きくなる。このように、軸力偏差ΔFには、路面状態が反映される。
したがって、本実施の形態によれば、つぎの効果を得ることができる。すなわち、理想軸力Fiと推定軸力Feとの軸力偏差ΔFに応じて軸力Fpreが仮想的に変更される。たとえば軸力偏差ΔFが大きくなるほど、配分演算される軸力Fpreは、より小さな値に変更される。この軸力偏差ΔFに応じて変更された軸力Fpreが基本駆動トルクTin *に反映されることによって、路面状態をより反映した操舵反力がステアリングホイール11に付与される。路面状態(路面情報)の伝達性能がより向上することにより、運転者に路面状態を操舵反力としてより適切に伝えることができる。
なお、第10の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、ゲイン演算部191は、理想軸力Fiと推定軸力Feとの軸力偏差ΔFを使用してゲインGdを演算するようにしたが、推定軸力Feに代えて、つぎの(A)〜(D)のいずれか一を使用してもよい。
(A)推定軸力演算部80により演算される勾配補償後の軸力F1e。この軸力F1eは、転舵モータ41の電流値Ibに基づくものである。
(B)推定軸力演算部93により推定演算される軸力F2。この軸力F2は、横加速度LAに基づくものである。
(C)推定軸力演算部94により推定演算される軸力F3。この軸力F3は、ヨーレートYRに基づくものである。
(D)乗算器103により演算される軸力Fc。この軸力Fcは、軸力F2,F3が所定の分配比率で合算されたものである。
この場合、図40に示すように、軸力配分演算部95には、さらに減算器193を設ける。そして、たとえば勾配補償後の軸力F1eを使用する場合、減算器193は、理想軸力Fiから勾配補償後の軸力F1eを減算することにより、軸力偏差ΔFを演算する。軸力F2、軸力F3、または軸力Fcを使用する場合についても同様である。
・製品仕様によっては、ゲイン演算部191で使用されるマップにおける軸力偏差ΔFに対するゲインGdの増減特性を逆にしてもよい。すなわち、ゲイン演算部191は、軸力偏差ΔFが増大するほど、より大きな値のゲインGdを演算する。
・製品仕様によっては、ゲイン演算部191で使用されるマップは、車速Vを考慮したものでなくてもよい。
・図37(a),(b)に示すように、軸力配分演算部95として、加算器119により演算される軸力Fpreを車速Vに応じて補正する補正演算部182を有する構成を採用してもよい。また、この構成を採用する場合、ゲイン演算部191で使用されるマップと補正演算部182で使用されるマップを統合してもよい。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1〜第8の実施の形態では、トルクセンサ34をステアリングシャフト12に設けたが、ピニオンシャフト13に設けてもよい。操舵トルクThが検出できるのであれば、トルクセンサ34の設置箇所は問わない。第9および第10の実施の形態についても同様である。
・第1〜第7の実施の形態において、ステアバイワイヤ方式の操舵装置10として、クラッチ21を割愛した構成を採用してもよい。第9および第10の実施の形態についても同様である。
・第1〜第4の実施の形態において、制御装置50として、微分ステアリング制御部63を割愛した構成を採用してもよい。この場合、ピニオン角フィードバック制御部64は、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θp *を取り込み、当該取り込まれる目標ピニオン角θp *に実際のピニオン角θpを追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を実行する。第9および第10の実施の形態についても同様である。
・第1〜第4の実施の形態において、制御装置50として、微分ステアリング制御部63および舵角比変更制御部62の双方を割愛した構成を採用してもよい。この場合、目標舵角演算部52により演算される目標舵角θ*がそのまま目標ピニオン角(θp *)として使用される。すなわち、ステアリングホイール11が操作された分だけ転舵輪16,16は転舵する。第9および第10の実施の形態についても同様である。