JP7275762B2 - 操舵制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、操舵制御装置に関する。
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を機械的に分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両が走行しているとき、操舵装置の制御装置は、反力モータを通じて操舵反力を発生させる反力制御を実行するとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する。
ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離されているため、転舵輪に作用する路面反力がステアリングホイールに伝わりにくい。したがって、運転者は路面状態を、ステアリングホイールを通じて手に感じる操舵反力(手応え)として感じにくい。
そこで、たとえば特許文献1に記載の制御装置は、車速および操舵角に基づきラック軸に発生している基準ラック軸力を推定演算するとともに、転舵モータの電流値に基づきラック軸に実際に発生している軸力である実ラック軸力を演算する。制御装置は、基準ラック軸力および実ラック軸力に基づき、走行時に転舵輪に発生するタイヤ横力の発生率を演算し、この演算されるタイヤ横力発生率の縮小に応じて操舵反力が減少するように反力モータを制御する。
制御装置は、転舵輪の転舵に伴い発生する車体の上下方向の変位による車体持ち上げトルク、転舵輪と路面との間に発生する摩擦によるねじりトルク、およびセルフアライニングトルクを操舵角に基づき演算し、これら3つのトルクを使用して基準ラック軸力を推定する。制御装置は、より精度の高い基準ラック軸力が得られるため、より適切な操舵反力の制御を行うことができる。運転者は、路面状態を操舵反力として感じることができる。
特開2013-43553号公報
運転者は、ステアリングホイールを通じて明確な路面情報が手応えとして伝わることにより、より速く正確に操舵することが可能となる。また、運転の安心感も高められる。このため、運転者に路面状態を操舵反力(手応え)としてより適切に伝えるためのさらなる改善が望まれている。ちなみに、このことは、車両の操舵機構に対してモータのトルクをアシスト力として付与するEPS(電動パワーステアリング装置)についても同様のことがいえる。
本発明の目的は、操舵機構に対してより適切な駆動力を付与できる操舵制御装置を提供することにある。
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する。この操舵制御装置は、前記転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角に基づき前記指令値に反映させるべき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力を演算する第1の軸力演算部と、前記第1の軸力を実際の軸力に近づけるために前記第1の軸力に反映させるべき第2の軸力をステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて演算する第2の軸力演算部と、を有している。
転舵シャフトに作用する実際の軸力は、ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかによって異なる。これに対し、第1の軸力演算部によって演算される第1の軸力は、転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角に基づき演算されるものであるため、当該シャフトの回転角に応じた値にしかならず、実際の軸力と異なるおそれがある。
この点、上記の操舵制御装置によれば、第1の軸力演算部により演算される第1の軸力に対して第2の軸力演算部により演算される第2の軸力が反映されることにより、最終的な第1の軸力は実際の軸力に近似したものとなる。これは、第2の軸力は、第1の軸力を実際の軸力に近づけるために第1の軸力に反映させるべき軸力として、ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて演算される軸力だからである。このため、実際の軸力に近似した値の第1の軸力が指令値に反映されることにより、実際の軸力に応じたより適切な駆動力が操舵機構に付与される。
上記の操舵制御装置において、前記第2の軸力演算部は、前記ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるとき、前記第1の軸力に反映させるべき前記第2の軸力として、前記転舵輪の転舵動作に伴い発生する車体持ち上げトルクに応じた軸力を演算することが好ましい。また、前記第2の軸力演算部は、前記ステアリングホイールが切り戻し操舵状態であるとき、前記車体持ち上げトルクに応じた軸力である前記第2の軸力を強制的に0に設定することが好ましい。
転舵シャフトに作用する実際の軸力は、ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるときと切り戻し操舵状態であるときとで異なる。これは、たとえばステアリングホイールが切り込み操舵状態であるとき、転舵輪の転舵に伴い発生する車体持ち上げトルクの影響が一因として考えられる。このため、ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるとき、第2の軸力演算部により演算される車体持ち上げトルクに応じた軸力が第1の軸力に加算されることにより、最終的な第1の軸力は実際の軸力に近似したものとなる。また、ステアリングホイールが切り戻し操舵状態であるとき、車体持ち上げトルクに応じた軸力である第2の軸力が強制的に0に設定されることにより、最終的な第1の軸力は実際の軸力に近似したものとなる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の軸力演算部は、前記転舵輪の転舵動作に応じて回転する前記シャフトの回転角速度と前記転舵シャフトに作用する軸力が反映される状態変数との積に基づき、前記ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかを判定することが可能である。
上記の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備え、前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータであってもよい。
上記の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記ステアリングホイールと前記転舵シャフトとの間の動力伝達経路として機能するシャフトを備え、前記モータは、前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータであってもよい。
本発明の操舵制御装置によれば、操舵機構に対してより適切な駆動力を付与できる。
操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。 操舵制御装置の第1の実施の形態の制御ブロック図。 第1の実施の形態における操舵反力指令値演算部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における軸力演算部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における理想軸力演算部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における車体持ち上げトルク演算部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における目標ピニオン角と軸力との関係を示すグラフ。 電動パワーステアリング装置に搭載される操舵制御装置の第2の実施の形態の制御ブロック図。
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は操舵機構を構成する。
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。減速機構32は、ステアリングシャフト12におけるクラッチ21よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、舵角(操舵角)θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき舵角θを求めることができる。
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41(正確には、その回転軸)は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14をハウジング(図示略)の内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる支持機構(図示略)によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
<制御装置>
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両に設けられて車両の走行速度である車速Vを検出する。
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。制御装置50は、実際の舵角θを目標操舵角に追従させるべく実行される舵角θのフィードバック制御を通じて舵角補正量を演算し、この演算される舵角補正量を目標操舵反力に加算することにより操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。制御装置50は、前述した目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
<制御装置の詳細構成>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
<反力制御部>
反力制御部50aは、舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の舵角θを演算する。
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクT、車速Vおよび舵角θに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。ちなみに、操舵反力指令値演算部52は、操舵反力指令値Tを演算する過程でステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
<転舵制御部>
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、ピニオン角フィードバック制御部62、通電制御部63を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
ピニオン角フィードバック制御部62は、操舵反力指令値演算部52により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、ピニオン角フィードバック制御部62は、ピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部62は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ (ここでは、目標舵角θに等しい。)に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御(PID制御)を通じてピニオン角指令値T を演算する。
通電制御部63は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部63は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部63は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ64を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部63は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流値Iのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
<操舵反力指令値演算部>
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図3に示すように、操舵反力指令値演算部52は、加算器70、目標操舵トルク演算部71、トルクフィードバック制御部72、軸力演算部73、目標舵角演算部74、舵角フィードバック制御部75、および加算器76を有している。
加算器70は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。
目標操舵トルク演算部71は、加算器70により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルクT とは、ステアリングホイール11に印加すべき操舵トルクTの目標値をいう。目標操舵トルク演算部71は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。
トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部71により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御(PID制御)を通じて第1の操舵反力指令値T を演算する。
軸力演算部73は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、軸力演算部73は、電流センサ64を通じて検出される転舵モータ41の電流値I、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。軸力演算部73は、目標ピニオン角θ 、転舵モータ41の電流値I、および車速Vに基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。軸力演算部73については、後に詳述する。
目標舵角演算部74は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、軸力演算部73により演算される軸力Fax、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。目標舵角演算部74は、これら取り込まれる操舵トルクT、第1の操舵反力指令値T 、軸力Faxおよび車速Vに基づき、ステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。具体的には、つぎの通りである。
目標舵角演算部74は、第1の操舵反力指令値T および操舵トルクTの総和である入力トルクTin から軸力Faxをトルクに換算したトルク換算値(軸力に応じた操舵反力)を減算することにより、ステアリングホイール11に対する最終的な入力トルクTin を求める。目標舵角演算部74は、最終的な入力トルクTin から次式(A)で表される理想モデルに基づいて目標舵角θ(目標操舵角)を演算する。この理想モデルは、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている操舵装置を前提として、入力トルクTin に応じた理想的な転舵角に対応するステアリングホイール11の舵角(操舵角)を予め実験などによりモデル化したものである。
in =Jθ*′′+Cθ*′+Kθ …(A)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメントに対応する慣性係数、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じた値となる。また、「θ*′′」は目標舵角θの二階時間微分値、「θ′」は目標舵角θの一階時間微分値である。
舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される舵角θ、および目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを取り込む。舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される実際の舵角θを目標舵角θに追従させるべく舵角θのフィードバック制御を通じて第2の操舵反力指令値T を演算する。
加算器76は、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、および舵角フィードバック制御部75により演算される第2の操舵反力指令値T を加算することにより操舵反力指令値Tを演算する。
<軸力演算部>
つぎに、軸力演算部73について詳細に説明する。
図4に示すように、軸力演算部73は、理想軸力演算部81、推定軸力演算部82、および配分演算部83を有している。
理想軸力演算部81は、目標ピニオン角θ に基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力F1を演算する。理想軸力F1は、目標ピニオン角θ (あるいは目標ピニオン角θ に所定の換算係数を乗算することにより得られる目標転舵角)の絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。ただし、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
推定軸力演算部82は、転舵モータ41の電流値Iに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F2を演算する。ここで、転舵モータ41の電流値Iは、路面状態(路面摩擦抵抗)に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間の差が発生することによって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流値Ibには、転舵輪16,16に作用する実際の路面反力が反映される。このため、転舵モータ41の電流値Iに基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。推定軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流値Ibに乗算することにより求められる。
配分演算部83は、理想軸力F1に対する配分比率(ゲイン)、および推定軸力F2に対する配分比率をそれぞれ個別に設定する。配分演算部83は、理想軸力F1および推定軸力F2に対してそれぞれ個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより、軸力Faxを演算する。配分比率は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて設定される。
<理想軸力演算部>
つぎに、理想軸力演算部81について詳細に説明する。
図5に示すように、理想軸力演算部81は、第1の演算部91、第2の演算部92、第3の演算部93および加算器94を有している。第1の演算部91、第2の演算部92および第3の演算部93は、それぞれ目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、第1の演算部91、第2の演算部92および第3の演算部93は、それぞれ車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。
第1の演算部91は、目標ピニオン角θ および車速Vに基づき、ばね反力トルクTを演算する。ばね反力トルクTは、車両のサスペンションあるいはホールアライメントの仕様、または転舵輪16,16のグリップ力(摩擦力)などによって決まるトルクである。第1の演算部91は、たとえば目標ピニオン角θ とばね反力トルクTとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、ばね反力トルクTを演算する。第1の演算部91は、目標ピニオン角θ の絶対値が増加するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値のばね反力トルクTを演算する。ただし、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
第2の演算部92は、目標ピニオン角θ および車速Vに基づき、粘性摩擦トルクTを演算する。粘性摩擦トルクTは、転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などによって決まるトルクである。粘性摩擦トルクTは、目標ピニオン角θ の変化に対してヒステリシス特性を有する。第2の演算部92は、たとえば目標ピニオン角θ と粘性摩擦トルクTとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、粘性摩擦トルクTを演算する。ただし、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
第3の演算部93は、目標ピニオン角θ および車速Vに基づき、車体持ち上げトルクTを演算する。車体持ち上げトルクTは、転舵輪16,16の転舵動作に伴う車体の上下方向の変位に基づくトルクである。第3の演算部93は、たとえば目標ピニオン角θ と車体持ち上げトルクTとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、車体持ち上げトルクTを演算する。ただし、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
加算器94は、第1の演算部91により演算されるばね反力トルクT、第2の演算部92により演算される粘性摩擦トルクT、および第3の演算部93により演算される車体持ち上げトルクTを合算し、この合算したトルクを軸力に変換した軸力変換値を理想軸力F1として演算する。
ちなみに、第1の演算部91として、目標ピニオン角θ に応じたばね反力トルクT分の軸力Fを演算する構成を採用してもよい。また、第2の演算部92として、目標ピニオン角θ に応じた粘性摩擦トルクT分の軸力Fを演算する構成を採用してもよい。また、第3の演算部93として、車体持ち上げトルクT分の軸力Fを演算する構成を採用してもよい。これらの構成が採用される場合、加算器94は、次式(B)で表されるように、また先の図5に括弧書きの符号で示されるように、3つの軸力F,F,Fを単純に合算することにより理想軸力F1を演算する。
F1=F+F+F …(B)
<第3の演算部>
つぎに、理想軸力演算部81の第3の演算部93について詳細に説明する。
図6に示すように、第3の演算部93は、車体持ち上げトルク演算部101、微分器102、乗算器103、ゲイン演算部104および乗算器105を有している。
車体持ち上げトルク演算部101は、目標ピニオン角θ および車速Vに基づき、車体持ち上げトルクTを演算する。車体持ち上げトルク演算部101は、たとえば目標ピニオン角θ と車体持ち上げトルクTとの関係を車速Vに応じて規定するマップを使用して、車体持ち上げトルクTを演算する。車体持ち上げトルク演算部101は、目標ピニオン角θ の絶対値が増加するほど、より大きな絶対値の車体持ち上げトルクTを演算する。ただし、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
微分器102は、目標ピニオン角θ を微分することにより目標ピニオン角速度ω を演算する。
乗算器103は、微分器102により演算される目標ピニオン角速度ω と、第1の演算部91により演算されるばね反力トルクTとを乗算することにより判定値Hを演算する。判定値Hは、ステアリングホイール11の操舵状態、すなわちステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるのか切り戻し操舵状態であるのかを示す値である。たとえば、判定値Hが正の値であるとき、ステアリングホイール11は切り込み操舵状態である。判定値Hが負の値であるとき、ステアリングホイール11は切り戻し操舵状態である。判定値Hが「0」であるとき、ステアリングホイール11は保舵された状態である。
ゲイン演算部104は、乗算器103により演算される判定値Hが正の値であるとき、判定値Hの値にかかわらず、ゲインGの値を「1」に設定する。ゲイン演算部104は、判定値Hが負の値であるとき、判定値Hの値にかかわらず、ゲインGの値を「0」に設定する。ただし、判定値Hが負の値である場合、判定値Hが「0」の近傍値に設定される設定値Hthに達するまでの期間、判定値Hが負の方向へ向けて増加するにつれて、ゲインGの値は「0」へ向けて徐々に小さくなる。
乗算器105は、車体持ち上げトルク演算部101により演算される車体持ち上げトルクTとゲイン演算部104により演算されるゲインGとを乗算することにより、最終的な車体持ち上げトルクTを演算する。ゲインGの値が「1」であるとき、すなわちステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるとき、車体持ち上げトルク演算部101により演算される車体持ち上げトルクTがそのまま最終的な車体持ち上げトルクTとして使用される。ゲインGの値が「0」であるとき、すなわちステアリングホイール11が切り戻し操舵状態であるとき、最終的な車体持ち上げトルクTとして「0」が使用される。
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、理想軸力演算部81として車体持ち上げトルクTを演算する第3の演算部93を有する構成を採用したことによる作用を説明する。
図7のグラフに示すように、横軸に目標ピニオン角θ を、縦軸に軸力Fをプロットしたとき、目標ピニオン角θ の変化に対して転舵シャフト14に作用する軸力Fはヒステリシス特性を有する。すなわち、図7のグラフに黒塗りの矢印で示されるように、転舵角θの中立位置に対応する「0(原点)」を基準とするステアリングホイール11の切り込み操舵時、軸力Fは目標ピニオン角θ と同方向へ向けて増加する。図7のグラフに白抜きの矢印で示されるように、転舵角θの中立位置に対応する「0(原点)」を基準とするステアリングホイール11の切り戻し操舵時、軸力Fは目標ピニオン角θ と反対方向へ向けて増加する。理想軸力演算部81により演算される理想軸力F1と転舵シャフト14に作用する実際の軸力Fとが一致することが理想的である。
ここではまず、理想軸力演算部81として第3の演算部93を割愛した構成を採用した比較例について検討する。
図7のグラフに二点鎖線で示される比較例の理想軸力Fは、転舵角θの中立位置に対応する「0(原点)」を基準とする目標ピニオン角θ の絶対値の変化(増減)に対してヒステリシス特性を有するところ、そのヒステリシス幅はたとえば目標ピニオン角θ の絶対値の変化に対して一定である。
これに対して、図7のグラフに実線で示される実際の軸力Fのヒステリシス特性は、つぎの通りである。すなわち、ステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるとき、実際の軸力Fは目標ピニオン角θ の絶対値が増加するほど、より大きな値となる。これは、ステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるとき、転舵輪16,16の転舵動作による転舵角θの増加に伴って車体持ち上げトルクが増加するところ、この車体持ち上げトルク分の軸力が実際の軸力Fに反映されることが一因として考えられる。また、ステアリングホイール11が切り戻し操舵状態であるとき、実際の軸力Fは目標ピニオン角θ の絶対値の変化に対して、ほぼ一定となる。これは、ステアリングホイール11が切り戻し操舵状態であるとき、車体持ち上げトルクは単に開放されていくにすぎないことが一因として考えられる。
このように、理想軸力演算部81として第3の演算部93を割愛した構成を採用した比較例においては、特にステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるとき、比較例の理想軸力Fのヒステリシス特性と、実際の軸力Fのヒステリシス特性とが互いに乖離するおそれがある。
この点、本実施の形態では、理想軸力演算部81として車体持ち上げトルクTを演算する第3の演算部93を有する構成を採用し、この第3の演算部93により演算される車体持ち上げトルクTを理想軸力F1に反映させている。すなわち、第3の演算部93では、第1の演算部91により演算されるばね反力トルクT、および第2の演算部92により演算される粘性摩擦トルクTのみならず、第3の演算部93により演算される車体持ち上げトルクTについても合算されて、この合算された値に基づき理想軸力F1が演算される。
ただし、第3の演算部93は、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて、車体持ち上げトルクTの値を目標ピニオン角θ に応じた値と「0」との間で切り替える。すなわち、第3の演算部93は、ステアリングホイール11が切り込み操舵状態である場合には目標ピニオン角θ に応じた値の車体持ち上げトルクTを演算する一方、ステアリングホイール11が切り戻し操舵状態である場合には車体持ち上げトルクTの値を強制的に「0」に設定する。
これにより、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であって実際に車体持ち上げトルクTが発生する場合においてのみ、目標ピニオン角θ に応じた車体持ち上げトルクTが理想軸力F1に反映される。概念的には、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態である場合、図7に二点鎖線で示される比較例の理想軸力Fに車体持ち上げトルクT分の軸力Fが付加される。また、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合、図7に二点鎖線で示される比較例の理想軸力Fに車体持ち上げトルクT分の軸力Fが付加されることはない。
その結果、目標ピニオン角θ と軸力Fとの関係において、図7に破線で示される目標ピニオン角θ に対する理想軸力F1のヒステリシス特性は、図7のグラフに実線で示される実際のヒステリシスループに近似したものとなる。
仮に、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合、図7に二点鎖線で示される比較例の理想軸力Fに対して目標ピニオン角θ に応じた車体持ち上げトルクT分の軸力Fが付加されるとき、理想軸力F1の絶対値が実際の軸力Fの絶対値よりも大きな値になるおそれがある。すなわち、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合において、図7のグラフに破線で示される理想軸力F1のヒステリシス特性が、図7のグラフに実線で示される実際のヒステリシスループに対して乖離したものとなることが懸念される。
本実施の形態では、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合、概念的には図7に二点鎖線で示される比較例の理想軸力Fに対して車体持ち上げトルクT分の軸力Fが付加されることがない。このため、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合においても、図7のグラフに破線で示される理想軸力F1のヒステリシス特性は、図7のグラフに実線で示される実際のヒステリシスループに対して近似したものとなる。したがって、目標ピニオン角θ のとり得る全範囲において、図7に破線で示される目標ピニオン角θ に対する理想軸力F1のヒステリシス特性は、図7のグラフに実線で示される実際のヒステリシスループに近似した理想的なものとなる。
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)転舵シャフト14に作用する実際の軸力Fは、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるときと、切り戻し操舵状態であるときとで異なる。これは、たとえば転舵輪16,16の転舵に伴い発生する車体持ち上げトルクの影響が一因として考えられる。このため、理想軸力演算部81は、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて、理想軸力F1に車体持ち上げトルクT分の軸力Fを反映させる。すなわち、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態である場合、理想軸力F1には車体持ち上げトルクTが反映される。これに対し、ステアリングホイール11の操舵状態が切り戻し操舵状態である場合、理想軸力F1には車体持ち上げトルクTが反映されない。これにより、実際の軸力Fに、より近似した値の理想軸力F1が得られる。また、実際の軸力Fに近似した、より精度の高い理想軸力F1が得られることにより、配分演算部83により演算される最終的な軸力Faxの精度も高められる。また、実際の軸力Fに近似した理想軸力F1が使用されて操舵反力指令値Tが演算されることによって、より自然で適切な操舵反力を操舵機構のステアリングシャフト12に付与することができる。
(2)ゲイン演算部104は、判定値Hが正の値であるとき、ゲインGの値を「1」に設定する。ゲイン演算部104は、判定値Hが負の値であるとき、ゲインGの値を「0」に設定する。ただし、判定値Hが負の値である場合、判定値Hが「0」の近傍値に設定される設定値Hthに達するまでの期間、判定値Hが負の方向へ向けて増加するにつれて、ゲインGの値は「0」へ向けて徐々に小さくなる。これにより、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態と切り戻し操舵状態との間で切り替わる際の軸力の急変を抑制することができる。また、ステアリングホイール11が中立位置を基準とする微操舵領域において操作されているとき、ゲインGの値が「1」と「0」との間で頻繁に切り替わることを抑えることができる。
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をEPS(電動パワーステアリング装置)の制御装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
EPSは、図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。また、EPSは、図1に示される反力モータ31および転舵モータ41のいずれか一方と同じ位置に設けられるアシストモータを有している。ただし、ここではアシストモータが図1に示される転舵モータ41と同じ位置に設けられているものとする。アシストモータは、操舵補助力(アシスト力)を発生する。
図8に示すように、EPS200の制御装置201は、アシストモータ202に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置201は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ501を通じて検出される車速V、アシストモータ202に設けられる回転角センサ203を通じて検出される回転角θに基づき、アシストモータ202に対する給電を制御する。
制御装置201は、ピニオン角演算部211、アシスト指令値演算部212、および通電制御部213を有している。ピニオン角演算部211は、アシストモータ202の回転角θを取り込み、この取り込まれる回転角θに基づきピニオンシャフト44の回転角であるピニオン角θを演算する。アシスト指令値演算部212は、操舵トルクTおよび車速Vに基づきアシスト指令値Tas を演算する。アシスト指令値Tas は、アシストモータ202に発生させるべき回転力であるアシストトルクを示す指令値である。通電制御部213は、アシスト指令値Tas に応じた電力をアシストモータ202へ供給する。アシストモータ202に対する給電経路には、電流センサ214が設けられている。電流センサ214は、アシストモータ202へ供給される実際の電流の値である電流値Iを検出する。
つぎに、アシスト指令値演算部212の構成を詳細に説明する。
アシスト指令値演算部212は、基本アシストトルク演算部221、軸力演算部222、目標ピニオン角演算部223、ピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)224、および加算器225を有している。
基本アシストトルク演算部221は、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて基本アシストトルクTas1 を演算する。基本アシストトルク演算部221は、加算器231、目標操舵トルク演算部232、およびトルクフィードバック制御部233を有している。加算器231は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部233により演算される基本アシストトルクTas1 とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。目標操舵トルク演算部232は、加算器231により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルク演算部232は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。トルクフィードバック制御部233は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部232により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部233は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御(PID制御)を通じて基本アシストトルクTas1 を演算する。
ちなみに、基本アシストトルク演算部221として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、基本アシストトルク演算部221は、操舵トルクTのフィードバック制御ではなく、操舵トルクTと基本アシストトルクTas1 との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、基本アシストトルクTas1 を演算する。基本アシストトルク演算部221は、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本アシストトルクTas1 の絶対値をより大きな値に設定する。
軸力演算部222は、先の図4に示される第1の実施の形態の軸力演算部73と同様の機能を有している。軸力演算部222は、電流センサ214を通じて検出されるアシストモータ202の電流値I、目標ピニオン角演算部223により演算される目標ピニオン角θ 、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。軸力演算部222は、これらアシストモータ202の電流値I、目標ピニオン角θ 、および車速Vに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。
目標ピニオン角演算部223は、先の図3に示される第1の実施の形態の目標舵角演算部74と同様の機能を有している。目標ピニオン角演算部223は、基本アシストトルク演算部221により演算される基本アシストトルクTas1 、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および軸力演算部222により演算される軸力Faxを使用して、先の式(A)で表される理想モデルに基づき目標ピニオン角θ を演算する。
ピニオン角フィードバック制御部224は、先の図3に示される第1の実施の形態の舵角フィードバック制御部75と同様の機能を有している。ピニオン角フィードバック制御部224は、目標ピニオン角演算部223により算出される目標ピニオン角θ およびピニオン角演算部211により算出される実際のピニオン角θをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部224は、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角θのフィードバック制御としてPID(比例、積分、微分)制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部224は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシストトルクTas1 に対する補正成分として補正アシストトルクTas2 を演算する。
加算器225は、基本アシストトルク演算部221により演算される基本アシストトルクTas1 と、ピニオン角フィードバック制御部224により演算される目標ピニオン角θ とを加算することにより、アシスト指令値Tas を演算する。
通電制御部213は、アシスト指令値Tas に基づきアシストモータ202に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部213は電流センサ214を通じて検出される電流値Iを取り込む。そして通電制御部213は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすようにアシストモータ202に対する給電を制御する。これにより、アシストモータ202はアシスト指令値Tas に応じたトルクを発生する。すなわち、操舵状態に応じた操舵アシストが行われる。
したがって、第2の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、軸力演算部222において、軸力Faxの演算に使用される理想軸力F1には、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて車体持ち上げトルクTが反映される。このため、実際の軸力Fに近似した、より精度の高い理想軸力F1が得られる。また、実際の軸力Fに近似した理想軸力F1を使用してアシスト指令値Tas が演算されることによって、より自然で適切な操舵補助力(アシスト力)を操舵機構のステアリングシャフト12に付与することができる。
<他の実施の形態>
なお、前記両実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、先の図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
・第1および第2の実施の形態において、軸力演算部73,222により演算される推定軸力として、推定軸力F2に加え、あるいは推定軸力F2に代えて、つぎの(a1)~(a4)のうち少なくとも一の軸力を使用してもよい。
(a1)横加速度およびヨーレートの少なくとも1つに基づき演算される推定軸力。
(a2)軸力センサを通じて検出される軸力。
(a3)タイヤ力センサを通じて検出されるタイヤ力、または当該タイヤ力に基づき演算されるタイヤ軸力。
(a4)推定軸力F2、推定軸力F3および推定軸力F4に対して個別に設定される所定の分配比率を乗算した値を合算することにより得られる推定軸力。
・第1および第2の実施の形態において、最終的な軸力Faxとして、理想軸力F1、推定軸力F2、および先の(a1)~(a4)の力のうちいずれか1つを使用してもよい。この場合、軸力演算部73,222として、配分演算部83を割愛した構成を採用することができる。
・第1および第2の実施の形態では、目標ピニオン角速度ω とばね反力トルクTとを乗算することにより判定値Hを演算するようにしたが、つぎの(b1)または(b2)のいずれか一方の演算式を使用して判定値Hを求めてもよい。
(b1)H=ω ・I
(b2)H=ω ・F2
ただし、演算式(b1),(b2)において、転舵モータ41の電流値Iに代えて、転舵モータ41の目標電流値を使用してもよい。また、第1および第2の実施の形態を含め、目標ピニオン角速度ω に代えて、目標ピニオン角θ 、目標舵角θ(ここでは、目標ピニオン角θ と同じ値。)、または舵角(操舵角)θを使用してもよい。
・第1および第2の実施の形態において、ゲイン演算部104に代えてスイッチを設けてもよい。このスイッチは、乗算器103により演算される判定値Hが正の値であるときには固定値である「1」を乗算器105へ供給する一方、判定値Hが負の値であるときには固定値である「0」を乗算器105へ供給する。
・第1および第2の実施の形態において、理想軸力演算部81として、先の図5に示される第2の演算部92(粘性摩擦項)を割愛した構成を採用してもよい。この場合、先の図7に示される目標ピニオン角θ の変化に対する軸力Fのヒステリシス特性は、原点を通る直線状となる。
・転舵モータ41の電流値Iには路面状態が反映される。このため、転舵モータ41の電流値Ibに基づき演算される推定軸力F2の目標ピニオン角θ に対するヒステリシス特性は、先の図7に実線で示される実際の軸力Fのヒステリシス特性に近似したものとなる。このため、推定軸力演算部82として車体持ち上げトルクTを推定軸力F2に反映させる構成(すなわち、車体持ち上げトルク項)を有している場合、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるとき、最終的な推定軸力F2の値が実際の軸力Fに対して車体持ち上げトルクT分の軸力Fの分だけ大きな値になるおそれがある。
そこで、第1および第2の実施の形態において、転舵モータ41の電流値Iに基づく推定軸力F2を演算する推定軸力演算部82に、先の図6に示される第3の演算部93と同様の構成を持たせてもよい。ただしこの場合、推定軸力演算部82として、次式(C)で示される演算を行う構成を採用する。
F2=Fpre-F …(C)
すなわち、推定軸力演算部82は、転舵モータ41の電流値Iに基づき演算される純粋な推定軸力と、車体持ち上げトルクT分の軸力Fとを単に加算することによって推定軸力F2preを演算する。このことを前提として、推定軸力演算部82は、推定軸力F2preから第3の演算部93に相当する構成により演算される車体持ち上げトルクT分の軸力Fを減算することにより最終的な推定軸力F2を演算する。このようにすれば、最終的に得られる推定軸力F2の目標ピニオン角θ に対するヒステリシス特性は、先の図7に実線で示される実際の軸力Fのヒステリシス特性に近似したものとなる。
また、制御装置50が自動操舵制御機能と手動操舵制御機能とを有している場合、自動運転制御の実行時と手動操舵制御の実行時とでモータ(31,202)の制御に使用する軸力を理想軸力F1と推定軸力F2との間で切り替えられることが考えられる。この点、推定軸力F2の目標ピニオン角θ に対するヒステリシス特性は、理想軸力F1の目標ピニオン角θ に対するヒステリシス特性に対して近似したものとなる。このため、自動運転制御の実行時と手動操舵制御の実行時とでモータ(31,202)の制御に使用する軸力が理想軸力F1と推定軸力F2との間で切り替えられる場合であれ、これら軸力(F1,F2)の目標ピニオン角θ に対するヒステリシス特性が同じであるため、モータ(31,202)の制御に使用される軸力の急変、ひいてはモータ(31,202)が発生するトルクの急変が抑制される。
・第1および第2の実施の形態では、ステアリングホイール11の操舵状態が切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて、軸力演算部73,222により演算される理想軸力F1に車体持ち上げトルクT分の軸力Fを反映させるようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、理想軸力F1を実際の軸力Fに近づけるために理想軸力F1に反映させるべき軸力として、車体持ち上げトルクT分の軸力F以外の他の軸力を採用してもよい。他の軸力としては、たとえば車両状態あるいは操舵状態に応じて変化する軸力であって、車体持ち上げトルクT分の軸力Fのように、ステアリングホイール11が切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて変化態様が異なる軸力を採用することが考えられる。この場合、他の軸力は、ばね反力トルクT分の軸力Fを第1の軸力とするとき、この第1の軸力を実際の軸力に近づけるために当該第1の軸力に反映(合算)させるべき第2の軸力に相当する。
10…操舵装置、11…操舵機構を構成するステアリングホイール、12…操舵機構を構成するステアリングシャフト(シャフト)、14…操舵機構を構成する転舵シャフト、16…転舵輪、31…反力モータ(モータ)、41…転舵モータ、44…ピニオンシャフト(シャフト)、50,200…制御装置(操舵制御装置)、81…理想軸力演算部、91…第1の演算部(第1の軸力演算部)、93…第3の演算部(第2の軸力演算部)、F…実際の軸力、F…車体持ち上げトルク分の軸力(第2の軸力)、H…判定値、F…ばね反力トルク分の軸力(第1の軸力)、T…ばね反力トルク、T…操舵反力指令値(指令値)、Tas …アシスト指令値(指令値)、T…車体持ち上げトルク、ω …目標ピニオン角速度(回転角速度)、θ…ピニオン角、θ …目標ピニオン角(状態変数)。

Claims (4)

  1. 転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する操舵制御装置であって、
    前記転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角に基づき前記指令値に反映させるべき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力を演算する第1の軸力演算部と、
    前記第1の軸力を実際の軸力に近づけるために前記第1の軸力に反映させるべき第2の軸力をステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかに応じて演算する第2の軸力演算部と、を有し
    前記第2の軸力演算部は、前記ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるとき、前記第2の軸力として、前記転舵輪の転舵動作に伴い発生する車体持ち上げトルクに応じた軸力を演算する一方、前記ステアリングホイールが切り戻し操舵状態であるとき、前記車体持ち上げトルクに応じた軸力である前記第2の軸力を強制的に0に設定する操舵制御装置。
  2. 前記第2の軸力演算部は、前記転舵輪の転舵動作に応じて回転する前記シャフトの回転角速度と前記転舵シャフトに作用する軸力が反映される状態変数との積に基づき、前記ステアリングホイールが切り込み操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかを判定する請求項1に記載の操舵制御装置。
  3. 前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備え、
    前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
  4. 前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記ステアリングホイールと前記転舵シャフトとの間の動力伝達経路として機能するシャフトを備え、
    前記モータは、前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
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