以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両用電子キーシステムの概略的な構成の一例を示す図である。図1に示すように車両用電子キーシステムは、車両Vに搭載されている車載システム100と、車両Vのユーザに携帯される携帯機200と、を備える。携帯機200は、車載システム100と対応付けられてあって、車両Vに対する固有のキーとしての機能を備えている。
本実施形態では一例として車両Vを、動力源としてエンジンのみを備えるエンジン車とするが、これに限らない。車両Vは、動力源としてエンジンとモータを備える、いわゆるハイブリッド車であってもよいし、モータのみを動力源として備える電気自動車であってもよい。
<車両用電子キーシステムの概要>
車載システム100と携帯機200はそれぞれ、リモートキーレスエントリー(以降、RKE:Remote Keyless Entry)システムを実現するための機能を有している。具体的には、携帯機200はユーザによって操作される複数のスイッチ230を備えており、ユーザによって操作されたスイッチ230に応じたコマンド信号を車載システム100に送信する。
車載システム100は携帯機200から送信されたコマンド信号を受信すると、その受信したコマンド信号に応じた車両制御を実行する。例えば、車載システム100は、携帯機200から送信されてきたコマンド信号に基づいて、車両ドアの施錠状態(つまり、施錠/開錠)を制御する。
また、車載システム100と携帯機200はそれぞれ、互いに所定の周波数帯の電波を用いた無線通信を実施することで車載システム100が携帯機200を認証し、所定の車両制御を実施するシステム(いわゆるスマートエントリーシステム)を実現するための機能を有している。
具体的には、車載システム100は車室内及び車両周辺の所定範囲に向けてLF(Low Frequency)帯に属する所定の周波数の信号を送信する機能と、携帯機200から送信されるUHF(Radio Frequency)帯の信号を受信する機能を有する。携帯機200は、車載システム100から送信されるLF帯の信号を受信する機能と、車載システム100に対してUHF帯に属する所定の周波数の信号を返送する機能を有する。なお、ここでのLF帯は30kHz〜300kHzを指し、UHF帯は300MHz〜3GHzを指す。
車両用電子キーシステムにおいて車載システム100から携帯機200への信号送信に使用されるLF帯の周波数とは、例えば125kHzや134kHzである。また、携帯機200から車載システム100への信号送信に使用されるUHF帯の周波数とは、例えば、315MHzや、920MHzなどである。
ここでは一例として、車載システム100から携帯機200への信号送信に使用される周波数としては134kHzが採用されており、かつ、携帯機200から車載システム100への信号送信に使用される周波数としては315MHzが採用されている場合を例にとり、各部の構成について説明する。なお、車載システム100から携帯機200への信号送信に使用される周波数が請求項に記載の第1周波数に相当し、携帯機200から車載システム100への信号送信に使用される周波数が請求項に記載の第2周波数に相当する。
第1周波数は、1MHz以下の周波数に設定されていればよく、必ずしもLF帯に属している必要はない。なお、別途後述する送信エリアの形成のしやすさの観点から、第1周波数は20kHzから200kHzまでの周波数帯に属する周波数に設定されていることが好ましい。また、第2周波数は、上述した以外の周波数に設定されていても良い。例えば、第2周波数は、近距離無線通信で使用される周波数であってもよい。ここでの近距離無線通信とは、通信範囲が例えば最大でも数十メートル程度となる所定の近距離無線通信規格に準拠した無線通信である。近距離無線通信規格としては、例えばBluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi−Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等を採用することができる。近距離無線通信で使用される周波数とは、例えば、2400MHzから2480MHzまでの帯域(以降、2.4GHz帯)に属する周波数である。
本実施形態の車載システム100は一例として、車両Vから5メートル以内となる範囲が車両通信エリアとなるように構成されている。車両通信エリアは、車載システム100が送信したLF帯の信号(以降、LF信号)に対して携帯機200が応答信号を返送しうる範囲に相当する。車両通信エリアの大きさは車両VでのLF信号の送信電力や、携帯機200での受信感度などによって調整可能である。例えば車両通信エリアは、車載システム100が送信するLF信号が、所定の信号強度を保って伝搬する範囲とすることができる。車両通信エリアを定義するLF信号の信号強度は、例えば携帯機200が復号可能な強度とする。車両通信エリアの大きさは適宜設計されればよい。
上記構成において車載システム100は定期的にポーリング信号としてのLF信号を送信し、ポーリング信号に対する携帯機200からの応答が得られたことに基づいて、携帯機200と無線通信による認証処理を実施する。ポーリング信号は、携帯機200に対して所定の応答信号の返送を要求するLF信号である。なお、携帯機200から車載システム100への応答には、前述の通りUHF帯の(より具体的には第2周波数の)電波が用いられる。つまり、携帯機200が返送する応答信号はUHF帯の無線信号である。
そして、車載システム100による携帯機200の認証が成立したことに基づいて、車載システム100はドアの施開錠やエンジン始動等を実施するための種々の制御を実行する。ここでの認証処理とは、車載システム100が、自分自身と無線通信を実施している通信端末(以降、通信対象)が、当該車載システム100と対応付けられている携帯機200(つまり、正規の携帯機200)であることを確認する処理である。認証が成立したということは、正規の携帯機200であると判定したことに相当する。
車載システム100による携帯機200の認証は、周知のチャレンジ−レスポンス方式によって実施されればよい。認証処理の詳細は別途後述する。なお、認証処理の準備として、携帯機200と車載システム100のそれぞれには、認証処理に用いられる共通の暗号鍵が保存されている。また、携帯機200には固有の識別番号(以降、携帯機ID)が割り当てられており、車載システム100には、当該携帯機IDが登録されている。携帯機IDが前述の暗号鍵として利用されてもよい。
車載システム100が無線通信によって携帯機200を認証することにより、携帯機200を携帯したユーザは、キーとしての携帯機200を操作すること無く、ドアの施錠/開錠、エンジンの始動/停止などを実現することができる。
<車載システム100の構成>
次に、車載システム100の構成について述べる。車載システム100は、図2に示すように認証ECU110、車両側送信アンテナ120、タッチセンサ130、スタートボタン140、施錠ボタン150、ボディECU160、及びエンジンECU170を備える。
認証ECU110は、上述したスマートエントリーシステムやRKEシステム(以降、キーレスエントリーシステム等)を実現するための種々の処理を実行するECU(ECU:Electronic Control Unit)である。認証ECU110が請求項に記載の車載器に相当する。認証ECU110は、車両側送信アンテナ120と電気的に接続されている。また、認証ECU110は、タッチセンサ130、スタートボタン140、施錠ボタン150、ボディECU160、及びエンジンECU170のそれぞれと、車両内に構築されている通信ネットワークを介して、相互通信可能に接続されている。
この認証ECU110は、より細かい構成要素として、車両側制御部111、車両側受信アンテナ112、車両側受信部113、及び、送信制御部114を備える。車両側制御部111は、CPU、RAM、ROM、I/O、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えた、通常のコンピュータとして構成されている。ROMには、通常のコンピュータを車両側制御部111として機能させるためのプログラム(以降、車両用プログラム)等が格納されている。車両側制御部111は、CPUが車両用プログラムを実行することによって、スマートエントリーシステムを実現するための車両側の処理を実行する。この車両側制御部111についての詳細は別途後する。
車両側受信アンテナ112は、UHF帯の電波を受信するためのアンテナである。車両側受信アンテナ112は、受信した電波を電気信号に変換して車両側受信部113に提供する。車両側受信部113は、車両側受信アンテナ112から入力される信号に対して、アナログデジタル変換や、復調、復号などといった、所定の処理を施すことで、受信信号に含まれるデータを抽出する。そして、その抽出したデータを車両側制御部111に提供する。車両側受信部113が請求項に記載の車載器側受信部に相当する。
送信制御部114は、車両側制御部111から入力されたデータに対して符号化、変調、デジタルアナログ変換等といった所定の処理を施すことで、搬送波信号に変換する。そして、その搬送波信号を車両側送信アンテナ120に出力し、電波として放射させる。送信制御部114が請求項に記載の車載器側送信部に相当する。
車両側送信アンテナ120は、認証ECU110(より具体的には送信制御部114)から入力された搬送波信号をLF帯の電波に変換して空間へ放射するアンテナである。車両側送信アンテナ120が請求項に記載の車載アンテナに相当する。車両側送信アンテナ120は、所定の車両通信エリアを形成するように1つ又は複数設けられている。本実施形態では一例として、車両Vには車両側送信アンテナ120として、図3に示すように、1つの車室内アンテナ120Aと、複数の車室外アンテナ120Bを備えるものとする。
車室内アンテナ120Aは、車室内を送信エリアとするように車室内に配置された車両側送信アンテナ120である。車室内アンテナ120Aは、少なくとも運転席周辺を送信エリアに含むように設置されている。例えば車室内アンテナ120Aは、インストゥルメントパネルの車幅方向中央部や、センターコンソールボックス付近に設けられればよい。なお、他の態様として、複数の車室内アンテナ120Aが設けられていてもよい。
車室外アンテナ120Bは、車室外の所定範囲を送信エリアに含むように設置された車両側送信アンテナ120である。車室外アンテナ120Bは、例えば、車両Vに設けられた各ドアのハンドル付近(ハンドル内部も含む)に設けられればよい。ここでは一例として各車室外アンテナ120Bは、車室外においてアンテナ設置位置から5m以内となるエリアが送信エリアとなるように設計されている。
或る車両側送信アンテナ120の送信エリアとは、その車両側送信アンテナ120から送信された信号を携帯機200が受信可能な(換言すれば復号可能な)信号レベルを保って到達するエリアとする。車両通信エリアは、各車両側送信アンテナ120が形成する送信エリアが組み合わさってなるエリアに相当する。換言すれば、各車両側送信アンテナ120の送信エリアの集合が、車両Vにとっての車両通信エリアに相当する。
なお、車両に搭載される車両側送信アンテナ120の設置位置や送信エリアは上述した態様に限らない。車両側送信アンテナ120の設置位置等は、全体として所望の車両通信エリアを形成するように適宜設計されればよい。また、車両には、上述したLF以外にも、トランク内部を送信エリアとする車両側送信アンテナ120や、トランクドア付近を送信エリアとする車両側送信アンテナ120が設けられていてもよい。
また、本実施形態では一例として、車両側送信アンテナ120から送信された信号が、携帯機200にとって復号可能な信号レベルを保って到達する範囲を、その車両側送信アンテナ120の送信エリアとして採用しているが、これに限らない。他の態様として送信エリアは、携帯機200での受信強度が所定のエリア判定閾値以上となる信号レベルで伝搬する範囲と定義してもよい。ここで用いるエリア判定閾値は、復号可能な信号レベルの下限値(つまり復号限界値)よりも大きい値のうち、設計者によって適宜設計された値である。そのような態様においては、携帯機200は、車載システム100からの信号を復号可能な受信強度で受信した場合であっても、その受信強度がエリア判定閾値以下となっている場合には送信エリア外に存在すると判定し、応答を返さないものとする。車両側送信アンテナ120での信号の送信電力は、携帯機200が車両側送信アンテナ120から所定距離以上離れている場合には応答信号を返送しないレベルに設定されていればよい。
タッチセンサ130は、車両Vの各ドアハンドルに装備されて、ユーザがそのドアハンドルを触れていることを検出する。各タッチセンサ130の検出結果は、認証ECU110に逐次出力される。スタートボタン140は、ユーザがエンジンを始動させるためのプッシュスイッチである。スタートボタン140は、ユーザによってプッシュ操作がされると、その旨を示す制御信号を車両側制御部111に出力する。施錠ボタン150は、ユーザが車両Vのドアを施錠するためのボタンである。施錠ボタン150は、車両Vの各ドアハンドルに設けられればよい。施錠ボタン150は、ユーザによって押下されると、その旨を示す制御信号を、認証ECU110に出力する。
ボディECU160は、車両に搭載された種々のアクチュエータを制御するECUである。例えばボディECU160は、認証ECU110からの指示に基づき、車両に設けられたドアの施開錠を制御するための駆動信号を各車両ドアに設けられたドアロックモータに出力し、各ドアの施開錠を行う。また、ボディECU160は、車両に設けられた各ドアの開閉状態や、各ドアの施錠/開錠状態などを示す情報を取得する。なお、ドアの開閉状態は、カーテシスイッチによって検出されれば良い。
エンジンECU170は、エンジンの動作を制御するECUである。例えばエンジンECU170は、認証ECU110からエンジンの始動を指示する始動指示信号を取得すると、エンジンを始動させる。
<車両側制御部111の機能について>
車両側制御部111は、CPUが上述の車両用プログラムを実行することで実現する機能ブロックとして、図4に示すように車両情報取得部F1、車両状態判定部F2、認証処理部F3、及びRKE処理部F4を備える。なお、車両側制御部111が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。
車両情報取得部F1は、タッチセンサ130などの車両に搭載されたセンサやECUから、車両Vの状態を示す種々の情報(つまり車両情報)を取得する。車両情報としては、例えば、ドアハンドルにユーザが触れているか否か、ドアの開閉状態、ブレーキペダルが踏み込まれているか否か、スタートボタン140が押下されているか否か、各ドアの施錠状態などが該当する。
ドアハンドルにユーザが触れているか否かは、タッチセンサ130から取得することができ、スタートボタン140が押下されているか否かはスタートボタン140から出力される信号から判定できる。ドアの開閉状態や、各ドアの施錠/開錠状態などは、例えばボディECU160から取得できる。なお、ドアの開閉状態は、カーテシスイッチによって検出されれば良い。ブレーキペダルが踏み込まれているか否かは、ユーザがブレーキペダルを踏み込みこんでいる量を検出するブレーキペダルセンサによって検出されればよい。車両情報に含まれる情報は、上述したものに限らない。図示しないシフトポジションセンサが検出するシフトポジションや、パーキングブレーキの作動状態等も車両情報に含まれる。
車両状態判定部F2は、車両情報取得部F1が取得する車両情報に基づいて、車両Vの状態を判定する構成である。車両状態判定部F2は、より細かい機能ブロックとして、駐車判定部F21を備える。駐車判定部F21は、車両情報取得部F1が取得する車両情報に基づいて、車両Vが駐車されているか否かを判定する。例えば駐車判定部F21は、エンジンがオフであり、全てのドアが閉じられ、かつ、施錠されている場合に、駐車されていると判定する。もちろん、駐車されているか否かの判定アルゴリズムとしては周知のものを採用することができる。
認証処理部F3は、送信制御部114と協働し、携帯機200との無線通信による認証処理を実施する。認証処理部F3が認証処理を実施する条件は、認証処理が成功した場合に実施する車両制御の内容に合わせて適宜設計されれば良い。認証処理部F3は、大きくは、携帯機200が車室外に存在する状態を想定して実施する車室外認証処理と、携帯機200が車室内に存在することを確認するための車室内認証の、2種類の異なる場面を想定した認証処理を実施する。車室外認証には、例えば、ユーザが駐車されている車両に搭乗するための認証(以降、搭乗用認証)や、車両を施錠するための認証(以降、施錠用認証)などが含まれる。搭乗用認証は、車両ドアのロックを開錠/開錠準備状態に設定するための認証に相当する。開錠準備状態は、ユーザがドアのタッチセンサ130に触れるだけでドアを開錠することができる状態である。また、車室内認証には、例えば、スタートボタン140のプッシュ操作に基づいてエンジンを始動させるための認証(以降、始動用認証)が含まれる。
例えば認証処理部F3は、車両Vが駐車されている場合、搭乗用認証を実施するための準備処理として、送信制御部114と協働し、ポーリング信号を所定の周期(例えば200ミリ秒)で車両側送信アンテナ120から送信する。このポーリング信号は、携帯機200に対して応答を要求する信号である。認証処理部F3は、ポーリング信号に対する応答信号を受信することによって、携帯機200である可能性がある通信端末が、車両通信エリア内に存在することを検出することができる。
認証処理部F3は、ポーリング信号に対する応答信号を受信した場合に、携帯機200を認証するための信号(つまり認証用信号)を送信制御部114に送信させる。認証用信号には、チャレンジコードが含まれている。チャレンジコードは、携帯機200を認証するためのコードである。チャレンジコードは、乱数表など用いて生成された乱数とすればよい。携帯機200はチャレンジコードを受信した場合、予め登録されている暗号鍵で当該チャレンジコードを暗号化し、その暗号化したコード(以降、レスポンスコード)を含む信号(以降、レスポンス信号)を返送する。つまり、認証用信号は、携帯機200に対してレスポンス信号の返送を要求する信号として機能する。
また、認証処理部F3は、認証用信号を送信するとともに、自分自身が保持する暗号鍵を用いてチャレンジコードを暗号化したコード(以降、照合用コード)を生成する。そして、返送されてきたレスポンスコードが、照合用コードと一致する場合に、通信相手が正規の携帯機200であると判定する(つまり認証成功と判定する)。
なお、本実施形態では一例としてポーリング信号に対する応答信号を受信した場合に、認証用信号を送信する態様とするが、これに限らない。認証用信号をポーリング信号として定期送信してもよい。換言すれば、ポーリング信号にチャレンジコードを含ませることで、ポーリング信号を認証用信号として機能させても良い。認証用信号の送信からコードの照合までが認証処理に相当する。
もちろん、認証処理部F3が認証処理を実行するタイミングは、車両Vが駐車されている場合に限らない。スタートボタン140が押下された時や、及び、施錠操作が実行された時のそれぞれのタイミングで認証処理を実行するものとする。ここに列挙したイベントの発生は、車両状態判定部F2によって検出されればよい。
認証処理が成功した場合に認証処理部F3が実施する制御処理の内容は、認証処理が成功したときの場面(換言すれば車両Vの状態)に対応する内容となっている。例えば、駐車されている状態において認証が成功した場合、認証処理部F3はドアを開錠準備状態する。そして、タッチセンサ130からユーザによってタッチされていることを示す信号が入力された場合に、ボディECU160と協働してドアの鍵を開錠する。
RKE処理部F4は、上述のRKEシステムを実現するための車両側の処理を実施する。具体的には、携帯機200から送信されたコマンド信号の内容を解析し、当該コマンド信号に対応する車両制御を、ボディECU160等と協働して実施する。コマンド信号に対応する車両制御とは、例えば、ドアの施開錠や、照明の点灯、車両に搭載されている空調システムの始動などである。
<携帯機200の構成>
次に、携帯機200の構成について述べる。携帯機200は、図5に示すように、携帯機側受信アンテナ210、携帯機側受信部220、スイッチ230、携帯機側制御部240、携帯機側送信部250、出力調整部260、及び、携帯機側送信アンテナ270を備える。携帯機側制御部240は、携帯機側受信部220、スイッチ230、携帯機側送信部250、及び出力調整部260のそれぞれと通信可能に接続されている。
携帯機側受信アンテナ210は、LF帯の電波を受信するためのアンテナである。携帯機側受信アンテナ210は携帯機側受信部220と接続されており、受信した電波を電気信号に変換して携帯機側受信部220に出力する。
携帯機側受信部220は、携帯機側受信アンテナ210から入力される信号に対して、アナログデジタル変換や、復調、復号などといった、所定の処理を施すことで、受信信号に含まれるデータを抽出する。そして、その抽出したデータを携帯機側制御部240に提供する。携帯機側受信部220が請求項に記載の携帯機側受信部に相当する。
携帯機側受信部220は、携帯機側受信アンテナ210で受信したLF信号の強度である受信強度(いわゆるRSSI:Received Signal Strength Indication)を検出する受信強度検出部221を備える。受信強度検出部221は、周知の回路構成を用いて実現されれば良い。受信強度検出部221が検出した受信強度は、携帯機側制御部240に提供される。なお、受信強度検出部221が検出する受信強度のことを以降では受信強度とも記載する。
なお、受信強度検出部221は携帯機側受信部220の外部に設けられていても良い。また、携帯機側受信アンテナ210と携帯機側受信部220との間には、増幅器や、復調回路など、携帯機側受信部220が備える機能の一部を代替するアナログ回路等が設けられていても良い。
スイッチ230は、ユーザがRKEシステムとしての機能を利用するためのスイッチである。携帯機200は、例えばスイッチ230として、車両Vの全ドアを施錠するためのスイッチ230や、全ドアを開錠するためのスイッチ230を備える。種々のスイッチ230は、ユーザによって押下された場合に、そのスイッチ230が押下されたことを示す制御信号を携帯機側制御部240に出力する。
スイッチ230から入力される制御信号によって、携帯機側制御部240は、携帯機側制御部240は、車両に設けられている種々のドアの施錠/開錠といった施錠状態を制御するためのユーザ操作が実行されたことを検出するとともに、その指示内容を特定できる。なお、図5においては、便宜上、スイッチ230を2つしか図示していないが、スイッチ230の数は2つに限らない。例えば、トランクドアのみの開錠を指示するスイッチ230を備えていても良い。
携帯機側制御部240は、CPU、RAM、ROM、I/O等を備えるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ROMには通常のマイクロコンピュータを、携帯機側制御部240として機能させるためのプログラム(以降、携帯機側制御プログラム)が格納されている。
携帯機側制御部240は、CPUがROMに格納されている携帯機側制御プログラムを実行することによって、スマートエントリーシステム等を実現するための携帯機側の処理を実行する。なお、ROMには上記プログラムの他、携帯機ID等が格納されている。携帯機側制御部240の詳細な機能については別途後述する。
携帯機側送信部250は、携帯機側制御部240から入力されたベースバンド信号に対して符号化、変調、デジタルアナログ変換等といった所定の処理を施すことで、ベースバンド信号を搬送波信号に変換する。そして、その生成した搬送波信号を、出力調整部260に出力する。携帯機側送信部250が請求項に記載の携帯機側送信部に相当する。
出力調整部260は、携帯機側制御部240、携帯機側送信部250、及び携帯機側送信アンテナ270と電気的に接続されている。出力調整部260は、携帯機側送信部250から入力された電気信号の電力を、携帯機側制御部240によって指示されているレベルに調整して、携帯機側送信アンテナ270に出力する構成である。出力調整部260は、信号を減衰させるアッテネータや、増幅度合いを調整可能な可変利得アンプを用いて実現すればよい。例えば、スイッチを用いて、減衰レベルの異なる複数のアッテネータを搬送波信号の伝達経路に接続したり切り離したりすることで、出力レベルを調整する構成とすればよい。
携帯機200が出力調整部260を備えることにより、携帯機側制御部240は、車載システム100に送信する信号の出力レベル(換言すれば送信電力)を、出力調整部260が設定可能な範囲内において、任意のレベルに調整することができる。なお、出力調整部260は、出力レベルを線形的に変更可能に構成されていてもよいし、段階的に変更可能に構成されていてもよい。本実施形態の出力調整部260は一例として、出力レベルを後述する近接応答レベルPs1、近距離応答レベルPs2、中距離応答レベルPs3、及び遠隔操作用レベルPsxの4段階に調整できるように構成されているものとする。
以降では、近接応答レベルPs1、近距離応答レベルPs2、及び中距離応答レベルPs3を区別しない場合にはこれらを応答用レベルとも称する。携帯機側送信アンテナ270は、UHF帯の電波を放射するためのアンテナである。携帯機側送信アンテナ270は、出力調整部260から入力された信号をUHF帯の電波に変換して空間へ放射する。
<携帯機側制御部240の機能について>
携帯機側制御部240は、上述の携帯機側制御プログラムを実行することで実現する機能ブロックとして、図6に示すように、送信信号生成部G1、受信強度取得部G2、応答制御部G3及び出力レベル決定部G4を備える。なお、携帯機側制御部240が備える機能ブロックの一部又は全部は、1つ又は複数のICなどを用いてハードウェアとして実現されても良い。
送信信号生成部G1は、車載システム100に送信する信号を生成し、携帯機側送信部250に出力する。例えば送信信号生成部G1は、車載システム100が送信したLF信号を携帯機側受信部220が受信した場合には、当該受信信号に対する応答として送信するべき所定の信号を生成し、携帯機側送信部250に出力する。例えば携帯機側受信部220がチャレンジ信号を受信した場合には、携帯機IDを用いて生成したレスポンスコードを含むレスポンス信号を生成する。
また、送信信号生成部G1は、或るスイッチ230から、ユーザによって押下されたことを示す制御信号が入力された場合には、その制御信号を出力したスイッチ230に対応する車両制御を実行するように指示するコマンド信号を生成する。例えば、全ドアを開錠するためのスイッチ230が押下された場合には、全ドアを開錠するように指示するコマンド信号を生成して、携帯機側送信部250に出力する。
受信強度取得部G2は、受信強度検出部221が検出した受信強度を逐次取得する。受信強度取得部G2が取得した受信強度は、RAMに一定時間保持される。これにより、受信したポーリング信号やチャレンジ信号の受信強度を特定することができる。応答制御部G3は、受信強度取得部G2が取得した受信強度に基づいて、応答信号を返送するべきであるか否かを判定する構成である。この応答制御部G3については別途後述する。
出力レベル決定部G4は、これから携帯機200が送信しようとしている信号(以降、次送信信号)の種類に基づいて出力レベルの目標値(以降、目標出力レベル)Psを決定し、出力調整部260に出力する。出力調整部260は、出力レベル決定部G4から入力される目標出力レベルPsに基づいて信号の減衰度合いや増幅度合いを変更し、携帯機側送信アンテナ270から放射される信号のレベルを目標出力レベルPsに一致させる。つまり、出力レベル決定部G4は、出力調整部260と協働し、携帯機200が車載システム100に送信するUHF信号の出力レベルを、これから携帯機200が送信しようとしている信号の種類等に応じたレベルに調整する構成である。
具体的には、出力レベル決定部G4は、次送信信号がコマンド信号である場合には目標出力レベルPsを遠隔操作用レベルPsxに設定し、出力調整部260に出力する。これにより、コマンド信号は、遠隔操作用レベルPsxの送信電力で送信される。遠隔操作用レベルPsxはコマンド信号を送信する場合に採用する出力レベルであるため、電波法等などの制約が許容する範囲において、できるだけ大きいことが好ましい。
ここでは一例として遠隔操作用レベルPsxは、見通し内における信号の到達距離が30メートル程度となるレベルに設定されている。ここでの見通し内における信号の到達距離とは、携帯機200と車両Vとの間に電波の伝搬を阻害する他の物体がない環境において、携帯機200が送信した信号を車両V(より具体的には車両側受信部113)が受信できる距離の上限値に相当する。つまり、遠隔操作用レベルPsxは、車両Vと携帯機200との距離が30m以内となっている場合、車両側受信部113が携帯機200からの信号を受信可能なレベルに設定されている。遠隔操作用レベルPsxは、送信信号の到達距離が所定の遠隔操作最大値となるように調整されれば良い。遠隔操作最大値は、ユーザが携帯機200のスイッチ230を操作することで車両Vの施開錠等を遠隔操作可能な距離の最大値であって、適宜設計されるべきパラメータである。
ここでは遠隔操作最大値は30mに設定されているものとするが、これに限らない。遠隔操作最大値は、20mや40mなどであってもよい。また、遠隔操作最大値は遠隔操作の内容によって変更されても良い。例えば車両ドアの施錠操作についての遠隔操作最大値は30mとする一方、車両ドアの開錠操作についての遠隔操作最大値は15mなどに設定されていても良い。これに伴い、遠隔操作用レベルPsxも、遠隔操作の内容に応じたレベルを設定可能なように、複数段階用意されていても良い。
また、出力レベル決定部G4は、次送信信号が、車両VからのLF信号に対する応答信号である場合には目標出力レベルPsを、受信強度Prに応じた値に設定し、出力調整部260に出力する。次送信信号が、車両VからのLF信号に対する応答信号である場合の出力レベル決定部G4の作動については別途後述する。
<応答信号返送処理>
次に図7に示すフローチャートを用いて、携帯機200が車両VからのLF信号に対する応答信号を返送する際に実施する応答信号返送処理について説明する。本実施形態における応答信号返送処理はステップS101〜S107を備える。図7に示すフローチャートは、車両VからのLF信号を受信した場合に実行されれば良い。
まずステップS101では送信信号生成部G1が、受信信号を解析し、応答信号としての送信信号を生成する。ステップS101での処理が完了するとステップS102を実行する。ステップS102では受信強度取得部G2が、当該フローの実行トリガである、今回受信したLF信号の受信強度Prを受信強度検出部221から取得する。ステップS102での処理が完了すると、ステップS103を実行する。ステップS103では応答制御部G3が、ステップS102で取得した受信強度Prが、所定の応答禁止レベルPd以上であるか否かを判定する。ステップS102で取得した受信強度Prが応答禁止レベルPd未満である場合にはステップS103を否定判定してステップS104を実行する。一方、ステップS102で取得した受信強度Prが所定の応答禁止レベルPd以上である場合には、ステップS107として応答信号の返送を中止して本フローを終了する。
応答禁止レベルPdは、携帯機200による応答信号の返送を中止するためのパラメータである。応答禁止レベルPdは、車載システム100によるLF信号の送信電力に応じて定まる。ここでは一例として応答禁止レベルPdは、車両Vから送信されたLF信号について携帯機200で観測されうる受信強度の最大値に設定されている。応答禁止レベルPdは、例えば、車両側送信アンテナ120のすぐ近く(例えば5cm以内)に携帯機200を配置した状態で観測される複数の受信強度をもとに統計的に決定されればよい。例えば、応答禁止レベルPdは、複数の受信強度の観測値の最大値とすれば良い。
受信強度Prが、車両Vから送信されたLF信号として観測されうるレベルを超えている場合、携帯機200が受信したLF信号は、中継機によって中継されたLF信号である可能性がある。よって本実施形態では、受信強度Prが応答禁止レベルPd以上となっている場合には、携帯機200による応答信号の返送を中止する。
ステップS104では出力レベル決定部G4が、応答レベル決定処理を実施する。応答レベル決定処理は今回受信したLF信号の受信強度Prに基づいて応答信号の目標出力レベルPsを決定する処理である。この応答レベル決定処理については図8に示すフローチャートを用いて説明する。図8に示すフローチャートは図7のステップS104において実行される。つまり、LF信号の受信や応答信号の生成などをトリガとして実行される。応答レベル決定処理はステップS201〜S205を備える。
まずステップS201では、車両Vからの応答要求信号の受信強度Prが、所定の第1受信強度Pr1未満であるか否かを判定する。受信強度Prが第1受信強度Pr1未満である場合にはステップS202を実行する。一方、受信強度Prが第1受信強度Pr1以上である場合にはステップS203を実行する。ステップS202では目標出力レベルPsを中距離応答レベルPs3に設定する。ステップS202での処理が完了すると本フローを終了して図7のステップS105を実行する。
ステップS203では受信強度Prが、第1受信強度Pr1以上であり、且つ、第1受信強度Pr1よりも大きい所定の第2受信強度Pr2未満であるか否かを判定する。受信強度Prが第1受信強度Pr1以上、且つ、第2受信強度Pr2未満である場合にはステップS204を実行する。一方、受信強度Prが第2受信強度Pr2以上である場合にはステップS205を実行する。ステップS204では目標出力レベルPsを近距離応答レベルPs2に設定する。ステップS204での処理が完了すると本フローを終了し、図7のステップS105を実行する。ステップS205では目標出力レベルPsを近接応答レベルPs1に設定する。ステップS205での処理が完了すると本フローを終了し、図7のステップS105を実行する。
ステップS105では以上の処理によって決定した目標出力レベルPsを出力調整部260に出力しステップS106に移る。ステップS106では次送信信号としての応答信号を、携帯機側送信部250に出力し、送信させる。
ステップS104〜S106を実行することにより、次送信信号としての応答信号はステップS104で決定した目標出力レベルPsで携帯機側送信アンテナ270から送信される。その結果、車両VからのLF信号に対する応答信号は、受信強度Prに応じたレベルで送信される。
以上の出力レベル決定処理で用いられる第1受信強度Pr1及び第2受信強度Pr2は、UHF信号の出力レベルを、携帯機200と車両Vとの距離に応じたレベルに設定するためのパラメータである。通常、無線信号は、空間中を伝搬するにつれて減衰していく。特にLF信号は、高周波数の信号に比べてその傾向が顕著である。そのため、車両V(より具体的には車両側送信アンテナ120)と携帯機200とが離れているほど、図9に示すように携帯機200における受信強度Prは小さくなる。つまり、受信強度Prは携帯機200と車両Vとの距離を示す指標として機能する。
第1受信強度Pr1や第2受信強度Pr2の具体的な値は、適宜設計されれば良い。ここでは一例として第1受信強度Pr1は、携帯機200が車両側送信アンテナ120から3m離れている場合に観測される受信強度の想定値に設定されている。また、第2受信強度Pr2は、携帯機200が車両側送信アンテナ120から1.5m離れている場合に観測される受信強度の想定値に設定されている。携帯機200が車両側送信アンテナ120から3m離れている場合に観測される受信強度の想定値とは、携帯機200を車両側送信アンテナ120から3m離れた位置に配置したときの受信強度を複数回測定した結果をもとに統計的に決定されればよい。例えば距離毎の受信強度の想定値は、複数の測定値の平均値や中央値などとすればよい。
上記の設定によれば、受信強度Prが第1受信強度Pr1よりも小さいということは、携帯機200が車両側送信アンテナ120(換言すれば車両V)から3m以上離れていることを意味する。ただし、携帯機200が車両VからのLF信号を受信していることから、携帯機200は車両通信エリア内に存在していることが期待される。つまり、ステップS201を肯定判定して目標出力レベルPsを中距離応答レベルPs3に設定する場合とは、車両Vから3〜5m程度離れたエリアに携帯機200が存在している状況に対応する。
また、受信強度Prが第1受信強度Pr1以上且つ第2受信強度Pr2未満であるということは、携帯機200と車両Vとの距離が1.5m〜3mであることを意味する。つまり、ステップS203を肯定判定して目標出力レベルPsを近距離応答レベルPs2に設定する場合とは、車両Vの近く(ここでは3m以内となるエリア)に携帯機200が存在している状況に対応する。
さらに、受信強度Prが第2受信強度Pr2以上であるということは、携帯機200と車両Vとの距離が1.5m以下であることを意味する。つまり、ステップS203を否定判定して目標出力レベルPsを近接応答レベルPs1に設定する場合とは、車両Vのすぐ近く(ここでは1.5m以内となるエリア)に携帯機200が存在している状況に対応する。
また、例えば近接応答レベルPs1などの、受信強度Prに応じて設定される種々の応答用レベルは、見通し内における携帯機200の送信信号の到達距離が、受信強度Prが示唆する携帯機200の車両Vとの距離に、余裕としての所定量(例えば2m)を加えた距離となるレベルに設定されている。
例えば中距離応答レベルPs3は、見通し内における携帯機200の送信信号の到達距離が7メートルとなるように設定されており、近距離応答レベルPs2は、見通し内における携帯機200の送信信号の到達距離が4メートルとなるように設定されている。さらに、近距離応答レベルPs2は、携帯機200が送信したUHF信号の見通し内における信号の到達距離が4メートルとなるように設定されている。
図10は、携帯機200が送信するUHF信号の出力レベル毎の到達距離を概念的に表した図である。図10において、携帯機200を所持しているユーザから見て最も外側に配置している長破線で囲む範囲が遠隔操作用レベルPsxで送信した信号の到達範囲を概念的に表しており、一点鎖線で囲む範囲は中距離応答レベルPs3で送信した信号の到達範囲を概念的に表している。また、二点鎖線で囲む範囲が近距離応答レベルPs2で送信した信号の到達範囲を、最も内側に配置している単破線が囲む範囲は近接応答レベルPs1で送信した信号の到達範囲をそれぞれ概念的に表している。図11は、受信強度Prと目標出力レベルPsとの対応関係をまとめたものである。
図10、図11に示すように、次送信信号が車両VからのLF信号に対する応答信号である場合には、目標出力レベルPsは、遠隔操作用レベルPsxに対して相対的に小さい値に設定される。また、応答用レベルは、受信強度Prが大きいほど、換言すれば、車両Vとの距離が短いほど、目標出力レベルPsを小さい値に設定する。
このような設定によれば携帯機200が、車両通信エリアの大きさに対して過剰な(換言すれば不必要な)強さで応答信号を返送することを抑制できる。また、LF信号の中継に使用される中継器300は、車両Vからの信号を、車両Vが送信しないような強い電力に増幅して再送するように構成されている事が多い。故に、中継器300で中継されたLF信号は相対的に強い受信強度となりやすい。このような傾向に対して、本実施形態の携帯機200は、LF信号の受信強度が高いほど応答信号の送信電力(換言すれば出力レベル)を弱くする。
そのため、本実施形態の構成によれば、図12に示すように第3者が中継器300を用いて車両Vから送信されたLF信号を中継し、携帯機200に受信させたとしても、携帯機200からの応答信号が車両Vまで伝搬することを抑制できる。当然、携帯機200からの応答信号が車両Vで受信されないと認証処理は成功しない。つまり、上記の設定によれば、正規のユーザが意図しないにも関わらず、携帯機200の認証処理が成功してしまうことを抑制することができる。
また、車両VからのLF信号に対する応答信号である場合に設定される目標出力レベルPsは、車両Vと携帯機200とが直接的に無線通信できるように、受信強度Prが示す車両Vと携帯機200との距離よりも長く設定される。具体的には、携帯機200が送信したUHF信号の到達距離が、受信強度Prが示唆する携帯機200の車両Vとの距離に、所定の余裕量を加えた距離となるレベルに設定されている。そのため、車両Vと携帯機200との直接的な無線通信は支障なく実行可能である。よって、スマートエントリーシステムにおけるユーザの利便性が損なわれる恐れも低減できる。
また、次送信信号がコマンド信号である場合には、目標出力レベルPsは相対的に大きい値に設定されるため、ユーザは車両Vからある程度(例えば10m以上)離れた位置からも車両Vを遠隔操作することができる。つまり、ユーザの利便性を維持することができる。つまり、上記の設定によれば、ユーザの利便性を確保しつつ、車両Vのセキュリティを高めることができる。
なお、他の態様として、携帯機200がスマートエントリーシステムを実現するために送信する信号のうち、車両Vの防犯性に関わらない信号については、遠隔操作用レベルPsxで送信してもよい。車両Vの防犯性に関わらない信号とは、例えば認証用の情報(つまりレスポンスコード)を含まない応答信号などである。
また、上述した実施形態では、目標出力レベルPsを、予め用意されている3つの応答用レベルのなかから選択的に決定する態様を開示したが、これに限らない。目標出力レベルPsは、受信強度Prに応じて決定されればよい。仮に出力調整部260が出力レベルを連続的に変更可能に構成されている場合には、図13に例示する受信強度Prと目標出力レベルPsとの対応関係を示すマップ等に基づいて定まる値に設定されればよい。
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
[変形例1]
上述した実施形態では、出力レベル決定部G4は、受信強度Prから直接的に応答信号の出力レベルを決定する態様を開示したが、これに限らない。携帯機側制御部240は、受信強度Prに基づいて車両Vまでの距離を推定し、当該推定距離に基づいて応答信号の出力レベルを決定しても良い。以下、そのような技術的思想に基づく態様の一例を変形例1として説明する。
変形例1における携帯機側制御部240は図14に示すように出力レベル決定部G4は、より細かい機能(換言すればサブ機能)として、受信強度取得部G2が取得した受信強度に基づいて車両Vまでの距離を推定する距離推定部G41を備える。距離推定部G41はここではソフトウェアとして実現されているものとするが、その他、ハードウェアとして実現されていてもよい。距離推定部G41による距離の推定は、例えば車両Vと携帯機200との距離とLF信号強度との対応関係を示すデータである距離−受信強度マップを用いて実施されれば良い。距離−受信強度マップは、実試験やシミュレーション等に基づいて作成されればよい。
また、変形例1における出力レベル決定部G4は、次送信信号が応答信号である場合には、距離推定部G41が推定した距離に基づいて、目標出力レベルPsを決定する。出力レベル決定部G4は、応答レベル決定処理として、図15に示すように推定距離が短いほど目標出力レベルPsを小さい値に設定するものとする。このような変形例1の構成によっても上述した実施形態と同様の効果を奏する。
[変形例2]
上述した応答禁止レベルPdは、車両Vの防犯性の観点からはできるだけ小さい値に設定することが好ましい。しかしながら、発明者らは種々の車両モデルにおける応答禁止レベルPdの特定を試みたところ、応答禁止レベルPdは車両モデルによって異なり、そのばらつきが大きいことが分かった。
故に、応答禁止レベルPdを、多様な車両モデルで共通的に適用可能な1つの値にしようとすると、応答禁止レベルが相対的に大きい値となってしまう。また、車両Vの防犯性を優先し、応答禁止レベルPdを相対的に小さい値に設定すると、携帯機200が車両VからのLF信号を直接受信しているにも関わらず、携帯機200が応答信号を返送しない場合が生じうる。当然、携帯機200が応答信号を返送しなければユーザはスマートエントリーシステムが提供する機能を利用できないため利便性が低下してしまう。
加えて、或る車両モデルに絞って応答禁止レベルPdを設定する場合においても、応答禁止レベルPdを物理的に観測し得ないレベル(以降、不観測レベル)Pfに設定すると、通常の使用態様で観測されうるレベル(以降、可観測レベル)Peから乖離した大きい値になってしまう。不観測レベルPfとは、例えば、車両側送信アンテナ120のすぐそば(例えば5cm以内)に携帯機200を配置した状態で観測される受信強度に所定の余裕を加えたレベルである。
一方、一般的に携帯機200は、ユーザの鞄や衣服のポケットに収容された状態で携帯されることが多い。可観測レベルPeとは、そのような一般的な所持形態(以降、通常所持形態)において観測されうる受信強度の最大値である。通常所持形態では、携帯機200は車両側送信アンテナ120からある程度離れた状態となるため、図16に示すように可観測レベルPeは、不観測レベルPfよりも十分に低い値となりうる。なお、図16は、通常所持形態で携帯機200を所持しているユーザが車両ドアのまえに立っている状態において観測される受信強度の確率分布と、不観測レベルとの関係を表す概念図である。横軸は受信強度を、横軸が観測確率を表している。
このような可観測レベルPeを応答禁止レベルPdとして採用した場合、応答禁止レベルPdを相対的に小さいレベルに設定したことになるため、車両Vの防犯性を高めることができる。しかしながら、観測されうる受信強度の分布はユーザによる携帯機200の所持形態によって変化するため、受信強度が可観測レベルPeよりも大きい値をとることは生じうる。つまり、応答禁止レベルPdとして可観測レベルPeを採用すると、携帯機200が車両VからのLF信号を直接受信しているにも関わらず、携帯機200が応答信号を返送しない場合が生じうる。その結果、ユーザの利便性が損なわれてしまう。つまり、防犯性の向上とユーザの利便性はトレードオフの関係にある。
上述の通り、発明者らは種々の実施態様を検討したところ、応答禁止レベルを一意の値に設定することが困難であるという知見を得た。以下、当該知見に基づいて発明者らが創出した車両用電子キーシステムの構成の一例を変形例2として述べる。なお、以降では可観測レベルPe以上、不観測レベルPf未満となる受信強度Prの範囲をグレーゾーンとも称する。グレーゾーンは、中継器300で中継されたLF信号を受信している可能性と、車両Vから送信されたLF信号を直接(つまり中継されずに)受信している可能性が混在している領域である。可観測レベルPeが請求項に記載の応答保留レベルに相当する。また、不観測レベルPfは応答禁止レベルPdに相当する。
変形例2における認証ECU110の送信制御部114は、より細かい機能として図17に示すように、搬送波信号の送信電力(換言すれば送信信号の強度)を調整する電力調整部1141を備える。車両側制御部111は、この電力調整部1141と連携して、携帯機200に送信する信号の送信電力を任意のレベルに変更して送信する。少なくとも本変形例における電力調整部1141は、デフォルトレベルと、抑制レベルの2段階に出力レベルを調整できるように構成されていれば良い。換言すれば送信制御部114は、デフォルトレベルと、抑制レベルの2種類の送信電力でLF信号を送信可能に構成されている。
デフォルト電力は、前述の送信エリア(ひいては車両通信エリア)を形成するための送信電力とする。抑制レベルは、デフォルト電力よりも所定量、小さい値に設定されている。抑制レベルは例えば、抑制レベルで送信した信号の不観測レベルが、デフォルトレベルで送信した信号の可観測レベルを下回るように設定されていればよい。なお、電力調整部1141は、信号を減衰させるアッテネータや、増幅度合いを調整可能な可変利得アンプを用いて実現すればよい。例えば、スイッチを用いて、アッテネータを信号伝搬系統に接続したり切り離したりすることで、送信電力を調整する構成とすればよい。
このような構成において、認証処理部F3は、デフォルトレベルで送信したLF送信(例えばポーリング信号やチャレンジ信号)に対して応答信号を受信できなかった場合には、抑制レベルで同一のLF信号を送信する。或るLF信号をデフォルトレベルで送信してから抑制レベルで再送するまでの時間を再送待機時間と称する。再送待機時間は適宜設計されれば良い。例えば数十ミリ秒や50ミリ秒とすればよい。
一方、変形例2における携帯機側制御部240は、応答信号返送処理として、図18に示すフローチャートに示す処理を実行する。変形例2の応答信号返送処理は、S301〜S313を備える。なお、変形例2の携帯機側制御部240は、車載システム100はデフォルトレベルで送信したLF信号に対して携帯機200からの応答が得られなかった場合、デフォルトレベルでのLF信号の送信時点から再送待機時間経過したタイミングで、同一の信号を抑制レベルで採用することを前提として作動するものである。これに伴い応答信号返送処理も、初回のLF信号に返送しなかった場合の処理を含む構成となっている。以降における初回のLF信号とはデフォルトレベルで送信されたLF信号を指す。また、2回目のLF信号とは、抑制レベルで再送されたLF信号を指す。
まずステップS300では応答制御部G3が、処理上のフラグである禁止フラグがオンに設定されているか否かを判定する。禁止フラグは、応答信号の返送を禁止している状態であることを示すフラグである。禁止フラグがオンになっている場合には本フローを終了する。一方、禁止フラグがオフである場合にはステップS301を実行する。禁止フラグがオンに設定される場合とは、後述するステップS306が実行された場合である。禁止フラグはオンとなってから所定の解除時間経過した場合にもオフに設定される。解除時間は、再送待機時間と同等か、再送待機時間よりも少し(例えば20ミリ秒程度)長い値に設定されていればよい。
ステップS301では送信信号生成部G1が、受信信号に基づき、応答信号としての送信信号を生成する。ステップS301での処理が完了するとステップS302を実行する。ステップS302では受信強度取得部G2が今回受信したLF信号の受信強度Prを受信強度検出部221から取得する。ステップS302での処理が完了すると、ステップS303を実行する。ステップS303では応答制御部G3が、今回受信したLF信号の受信強度Prが可観測レベルPe以上であるか否かを判定する。今回受信したLF信号の受信強度Prが可観測レベルPe未満である場合にはステップS303を否定判定してステップS309を実行する。一方、今回受信したLF信号の受信強度Prが可観測レベルPe以上である場合には、ステップS304を実行する。
ステップS304では応答制御部G3が、今回受信したLF信号の受信強度Prが、不観測レベルPf未満であるか否かを判定する。今回受信したLF信号の受信強度Prが不観測レベルPf未満である場合にはステップS304を肯定判定してステップS307を実行する。一方、ステップS302で取得した受信強度Prが不観測レベルPf以上である場合にはステップS304を否定判定して、ステップS305を実行する。ステップS305では応答信号の返送を中止し、ステップS306を実行する。ステップS306では禁止フラグをオンに設定して本フローを終了する。
ステップS307では応答制御部G3が、応答信号の返送を保留にし、今回受信したLF信号の受信強度Prを前回受信強度としてRAM等に一時保存してステップS308に移る。ステップS308では応答制御部G3が保留フラグをオンに設定して本フローを終了する。保留フラグは、応答信号の返送を保留にしている状態であることを示すフラグである。
保留フラグは、応答信号を返送した場合にオフに設定される。また、保留フラグはオンとなってから所定のリセット時間経過した場合にもオフに設定される。リセット時間は、再送待機時間と同等か、再送待機時間よりも少し(例えば20ミリ秒程度)長い値に設定されていればよい。リセット時間は、車載システム100から2回目に送信されるLF信号の受信を待機する時間に相当する。また、リセット時間は、別の観点によれば応答信号の返送を保留する時間に相当する。
このような設定により、保留フラグがオンとなっている場合とは、初回のLF信号の受信強度Prがグレーゾーンに該当し、且つ、そのLF信号を受信してからリセット時間経過するまでの期間のみとなる。よって、或るLF信号を受信した時点において、保留フラグがオンとなっている場合、今回受信したLF信号は抑制レベルで送信されたLF信号であることを意味する。また、或るLF信号を受信した時点において、保留フラグがオフであるということは、今回受信したLF信号は初回のLF信号であることを意味する。
ステップS309では、保留フラグがオンに設定されているか否かを判定する。保留フラグがオフである場合にはステップS309を否定判定してステップS310を実行する。一方、保留フラグがオンである場合にはステップS309を肯定判定してステップS311を実行する。
ステップS310では今回受信したLF信号の受信強度Prを用いて応答レベル決定処理を実行する。ステップS311では、前回受信強度として記録されている、前回受信したLF信号の受信強度Prを用いて応答レベル決定処理を実施する。応答レベル決定処理の内容は前述の実施形態等と同様のものとすれば良い。ステップS310又はステップS311での処理が完了するとステップS312を実行する。なお、前回受信強度として保存されているデフォルトレベルで送信されたLF信号の受信強度Prを用いて応答信号の出力レベルを設定することにより、応答信号を、実際の携帯機200と車両Vとの距離に応じた出力レベルで送信することができる。
ステップS312では、以上の処理によって決定した目標出力レベルPsを出力調整部260に出力しステップS313に移る。ステップS313では次送信信号としての応答信号を、携帯機側送信部250に出力し、送信させる。
以上の構成における携帯機200は、応答禁止レベルPdに相当する一定の幅を有するグレーゾーンを用いて、携帯機200が応答信号を返送するか否かを制御する。すなわち、受信強度Prがグレーゾーンに該当する場合には応答信号の返送を保留にして、次に送信されてくる信号に応じて、応答信号を返送するか否かを決定する。
具体的には、初回のLF信号の受信強度Prがグレーゾーンであったとしても、次に送信されてきたLF信号の受信強度Prが可観測レベルPe未満である場合には、初回のLF信号の受信強度Prに応じた出力レベルで応答信号を返送する。一方、初回のLF信号が不観測レベルPfである場合や、2回目のLF信号の受信強度Prも可観測レベルPe以上である場合には応答信号を返送しない。以上の構成により、車両Vから送信されたLF信号を直接受信しているにも関わらず、携帯機200が応答信号を返送しない事象が発生する確率を抑制しつつ、車両Vの防犯性を高めることができる。つまり、ユーザの利便性と防犯性を両立させることができる。
なお、以上では請求項に記載の応答保留レベルとして可観測レベルPeに設定するとともに、請求項に記載の応答禁止レベルとして不観測レベルを採用した態様を開示したがこれに限らない。応答保留レベルは、車両モデル毎の不観測レベルのうちの最小値とし、応答禁止レベルは車両モデル毎の不観測レベルの最大値に設定してもよい。このような設定によれば、車両モデル毎のばらつきを吸収することができる。つまり、本明細書で開示の車両用電子キーシステムを複数種類の車両モデルに適用しやすくなる。
[変形例3]
上述した変形例2の車載システム100は、携帯機200からの応答が得られなかった場合には自発的に抑制レベルでLF信号を再送信するものとしたが、これに限らない。携帯機200からの要求に基づいて、デフォルトレベルで送信したLF信号を、抑制レベルで再送信するように構成されていてもよい。以下、そのような構成を変形例3として開示する。
変形例3における車載システム100は、携帯機200からの再送要求信号を受信していない場合、すなわち通常時にはデフォルトレベルでLF信号を送信する。また、携帯機側制御部240は、受信したLF信号の受信強度Prがグレーゾーンに該当する場合、車載システム100に対して、抑制レベルでLF信号を再送するように要求するUHF信号(以降、再送要求信号)を送信する。再送要求信号の送信は、送信信号生成部G1が携帯機側送信部250と協働して実施すれば良い。なお、再送要求信号の出力レベルは、再送要求信号が車載システム100で受信されるように適宜設計されればよい。例えば中距離応答レベルPs3などとすればよい。
そして、車載システム100は、携帯機200からの再送要求信号を受信した場合には、前回デフォルトレベルで送信したLF信号と同一内容のLF信号を、抑制レベルで送信する。このような構成によっても変形例2と同様の効果を奏する。なお、同一内容のLF信号の再送回数は1回などに制限されればよい。そのような構成によれば、LF信号の再送が繰り返されることによって携帯機200及び車載システム100での電力消費が増大することを抑制することができる。
[変形例4]
上述した実施形態等では、携帯機200は受信強度Prが小さいほど、応答信号の出力レベルPsを小さくする。当然、信号レベルを小さくすれば、SN比が劣化し、ノイズ等の影響を受けやすくなる。そのため、携帯機200が応答信号を送信したにも関わらず、当該応答信号の車両Vでの受信が失敗することが発生しうる。
そこで、携帯機側制御部240は、応答信号の出力レベルPsに応じて、当該応答信号の送信回数を変更してもよい。例えば中距離応答レベルPs3での応答信号は1回とする一方、近距離応答レベルPs2で応答信号を送信する場合には、当該応答信号を2回連続して送信する。つまり、近距離応答レベルPs2での応答信号の送信回数は2回とする。また、近接応答レベルPs1での応答信号の送信回数は3回とする。このような構成によれば、受信強度Prが高いほど応答信号の出力レベルPsを小さくする構成において、携帯機200が送信した応答信号が車両Vで受信されない恐れを低減することができる。これにより、ユーザの利便性が損なわれる恐れを低減できる。
なお、出力レベルPsに応じた応答信号の送信回数は適宜設計されればよい。出力レベル決定部G4が決定した出力レベルPsが所定のレベル(例えば近距離応答レベルPs2)以下である場合には、応答信号を複数回送信するように構成されていればよい。なお、出力レベルPsが小さいほど応答信号の送信回数が多くなるように設定されていることが好ましい。応答信号を連続して送信する態様には、数ミリ〜数十ミリ秒程度の微小な間隔をおいて間欠的に送信する態様も含まれる。