JP6892755B2 - イオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物 - Google Patents

イオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物 Download PDF

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Description

本発明はイオン徐放性を有する歯科用水硬性仮封材組成物に関する。より詳細には、初期硬化性に優れ、フッ化物イオンを含む各種イオンの徐放による予防的機能を兼備した歯科用水硬性仮封材組成物に関する。
う蝕等により、口腔内の歯質を部分的に削除することを余儀なくされた場合、一般的に歯科充填用コンポジットレジン等の充填材料を用いて歯質の削除部分を修復する直接修復や、歯冠形態を再現した補綴装置を作製し、それを歯科用セメントを用いて歯質の削除部位に合着する間接修復などが行われる。また、う蝕が象牙質の奥深くまで進行し、歯髄や根管内に細菌感染が認められる場合などは、抜髄処置や感染歯質の除去等の根管治療が行われる。これらの治療において、補綴装置を作製するまでの間や、抜髄や感染歯質を除去した後の経過観察期間や薬剤の適用期間において、窩洞や根管内への食物の混入や治療部位の細菌感染の防止、根管に填入した薬剤の封鎖などを目的として、窩洞や根管を歯科用仮封材と呼ばれる暫間的な充填材料を用いて一時的に封鎖する仮封が行われている。
このような背景から、歯科用仮封材には良好な封鎖性が求められる。また、治療後の咀嚼運動などによって、充填した仮封材が移動したり、変形してしまったりすると、封鎖性が損なわれるおそれがあるため、口腔内で早期に硬化することも重要な要件である。一方で、歯科用仮封材は治療過程において取り除くことを前提とした材料であるため、適用部位周辺の歯質にダメージを与えることなく、容易に除去できなければならない。
歯科用仮封材としては、熱可塑性樹脂からなるテンポラリーストッピング、ユージノールセメント、非ユージノールセメント、リン酸亜鉛セメントなどの歯科用セメント、重合性単量体と重合開始剤を含む歯科用レジン系仮封材、硫酸カルシウムを主成分とする水硬性仮封材などが挙げられる。
テンポラリーストッピングは使用時に加熱することで材料を軟化させ、窩洞に充填して用いるものであり、充填・除去がし易い反面、使用時には毎回加熱・軟化操作を必要とするため、煩雑な作業工程を伴うだけでなく、冷却・硬化時の収縮が大きいため窩洞の封鎖性が悪いという問題点がある。
歯科用セメントは粉材と液材とを練和してペースト状にしてから充填して用いるものであり、テンポラリーストッピングと比較して硬化時の寸法変化が少ないため、窩洞の封鎖性は良いものの、粉材と液材との練和は煩雑であるだけでなく、熟練を必要とする。また、硬化体が硬いため、除去が困難であるという問題もある。
歯科用レジン系仮封材は重合性単量体の重合反応により硬化するものであり、粉材と液材を混和することで重合・硬化する化学重合タイプと、特定の波長光で励起する光重合開始剤を含む組成物に光照射することによって重合・硬化する光重合タイプがある。これらは重合反応が開始すると急速に硬化するため、処置後早期に機能させることができるといった利点があるものの、硬化時に重合収縮を伴うため、封鎖性が悪いという欠点がある。
一方、水硬性仮封材はパテ状のペーストを窩洞に充填することで、口腔内の唾液などの水分と反応して硬化するため、加熱や練和(混和)、光照射の必要性がなく、操作性に優れている。また、主成分である硫酸カルシウムが硬化に伴って膨張する性質を有するため、窩洞の封鎖性にも優れている。
特公昭38−2628(特許文献1)には、酢酸ビニル、塩化ビニル、または両者の共重合体10〜35重量%、エチルアルコール1〜10重量%、酢酸グリコール1〜10重量%、硫酸亜鉛セメント5〜30重量%、焼石膏30〜65重量%の範囲よりなることを特徴とする水硬性仮封材が開示されている。この水硬性仮封材は窩洞に良く密着し、歯より取り除く際はエキスカベータなどで簡単に取り除くことができることが開示されている。しかしながら、窩洞に充填してから硬化するまでの時間が長いという欠点があり、特に充填直後の硬化性(初期硬化性)が緩慢であるため、患者は充填後1時間程度は水硬性仮封材を充填した箇所を強く噛まないように注意しなければならない。
特開2011−213608(特許文献2)には、A)硫酸カルシウム10〜90重量%、B)酢酸ビニル樹脂5〜40重量%、C)無機充填材1〜40重量%、D)沸点が110℃以上のアルコール類1〜30重量%、E)非イオン系界面活性剤0.001〜5重量%からなることを特徴とする水硬性仮封材が開示されている。この水硬性仮封材は適度な親水性を持った有機溶媒と非イオン系界面活性剤の親水作用により歯面の水分がペースト表面にはじかれることなく付着し、その効果によりペースト内部により早く安定して水分が浸透、拡散することで初期の硬化性を高めることができ、更にその親水性の効果は歯質との粘着性にも有効であることから口腔内における充填性が良好となり、それらの結果、封鎖性が向上することが開示されている。しかしながら、初期硬化性は依然として充分とは言えず、改善の余地があった。
また、歯科用仮封材は前述した通り、除去性が重要な要件であるため、何れも歯質に対する接着性は付与されていない。即ち、間接修復においては、補綴装置を装着する際に仮封材を除去する必要があり、根管治療においては、経過観察時に一旦仮封材を取り外して治癒の程度を確認したり、薬剤の追加適用を行うことがある。このため、仮封材が仮に歯質に対する接着性を有する場合、仮封材と歯質の接着界面を歯科用タービンなどによって削除しなければならず、本来削除する必要のない歯質までも同時に失うことになる。このことは、作業性の悪化だけでなく、補綴装置の適合性にも悪影響を与えたり、残存歯質の不必要な削除によって、歯の寿命を損なう可能性があるため、長期的な口腔保護の観点から見ると望ましくない。
以上に示した通り、歯科用仮封材は何れも除去性を重視して歯質に対する接着性が付与されていないため、完全な封鎖性は望めなかった。このため、歯質と仮封材の隙間からの食物の混入や細菌の侵入などが懸念され、更に、根管治療においては薬剤の漏洩が懸念される。このようなリスクが現実のものとなった場合、侵入した細菌による二次う蝕の発生、根管の再感染などを引き起こすおそれがある。
このように、仮封材には良好な除去性と歯質保護のための高い封鎖性という相反する特性が求められており、従来の仮封材はこれらの要求によるジレンマを抱えていた。
特公昭38−2628号公報 特開2011−213608号公報
従来の水硬性仮封材は初期硬化性が緩慢であったため、処置後早期に機能させることができないという欠点があり、更に、窩洞や根管内への細菌の侵入による二次う蝕の発生等が懸念されていた。そこで、本発明は高い初期硬化性を有しつつ、フッ化物イオンを含む各種イオンの徐放により、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる歯科用水硬性仮封材組成物を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために発明者らは鋭意検討の結果、水硬性無機粉末、有機溶媒、樹脂を含む水硬性組成物において、イオン徐放性ガラスを配合することでフッ化物イオンを含む各種イオンの徐放能を付与し、更に各成分を特定の割合で配合することで、優れた初期硬化性とフッ化物イオンを含む各種イオンの高い徐放性をバランスよく発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は
成分(1)水硬性無機粉末 65.0〜85.0質量%、
成分(2)有機溶媒 10.0〜25.0質量%、
成分(3)樹脂 3.0〜15.0質量%、および
成分(4)イオン徐放性ガラス 0.01〜10.0質量%
を含む歯科用水硬性仮封材組成物である。
また、成分(4)イオン徐放性ガラスが少なくともフッ化物イオンを徐放することが好ましく、フッ化物イオンを徐放し、更に2〜4価のイオンのうち一種類以上を徐放することがより好ましく、フッ化物イオンを徐放し、更にストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、及びホウ酸イオンのうちから一種類以上を徐放することが更に好ましく、少なくともフッ化物イオン、ストロンチウムイオン、及びホウ酸イオンを徐放することが最も好ましい。
また、成分(1)水硬性無機粉末が硫酸カルシウムであることが好ましい。
また、成分(2)有機溶媒がグリセリン、若しくはその誘導体であることが好ましい。
また、成分(3)樹脂が酢酸ビニル、又は塩化ビニルの単独重合体、又は共重合体のうち少なくとも一種からなることが好ましい。
本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物は口腔内に適用直後の初期硬化性が良好であるため、早期に機能させることができる。また、フッ化物イオンを含む各種イオンの徐放により歯質強化が期待でき、仮に封鎖性に不具合が生じた場合においても二次う蝕の発生を抑制することが期待できる。
実施例1〜3、及び比較例1の歯科用水硬性仮封材組成物の初期硬化性を示すグラフである。 実施例4〜7、及び比較例3の歯科用水硬性仮封材組成物の初期硬化性を示すグラフである。 実施例8及び9の歯科用水硬性仮封材組成物の初期硬化性を示すグラフである。 実施例10〜13、並びに比較例4および5の歯科用水硬性仮封材組成物の初期硬化性を示すグラフである。
本発明は成分(1)水硬性無機粉末65.0〜85.0質量%、成分(2)有機溶媒10.0〜25.0質量%、成分(3)樹脂3.0〜15.0質量%、成分(4)イオン徐放性ガラス0.01〜10.0質量%を含むイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物に関する。
成分(1)水硬性無機粉末は水の存在下で反応して硬化する無機粉末であって、本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物に硬化性を与える成分である。
成分(1)水硬性無機粉末は水の存在下で反応して硬化する無機粉末であれば特に制限はなく、公知の無機粉末を用いることができる。
成分(1)水硬性無機粉末を具体的に例示すると、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、水硬性アルミナ、ポルトランドセメントなどが挙げられ、その中でも硫酸カルシウムを用いることが好ましい。硫酸カルシウムとしてはα型半水石膏、β型半水石膏などが挙げられる。また、これらは2種類以上を組合せて使用してもよい。
成分(1)水硬性無機粉末の粒子径に特に制限はないものの、50%粒子径が0.01〜100μmの範囲であることが好ましく、0.1〜50μmの範囲であれば更に好ましい。また、成分(1)水硬性無機粉末の形状に特に制限はなく、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状などの任意の形状のものを用いることができる。
成分(1)水硬性無機粉末はイオン徐放性水硬性仮封材組成物全体に対して65.0〜85.0質量%であることが好ましく、70.0〜80.0質量%であればより好ましく、更により好ましくは、70.0〜76.0質量%、最も好ましくは、71.0〜76.0質量%含有する。成分(1)の含有量が65.0質量%未満になると初期硬化性が低下することがある。また、成分(1)の含有量が85.0質量%を超えると硬化前のペーストが非常に硬質となり、窩洞や根管へ充填する際の操作性が悪くなるだけでなく、本発明のイオン徐放性水硬性仮封材組成物をペースト状にできなくなることがある。
成分(2)有機溶媒は本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物をペースト化させるための成分である。
成分(2)有機溶媒は常温で液体であり、成分(1)水硬性無機粉末と反応しないものであれば特に制限はなく、公知の有機溶剤を用いることができる。但し、保存安定性の観点から、揮発性の低い有機溶媒を用いることが好ましい。
成分(2)有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール;
酢酸エチル、酢酸ブチル、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、グリセリンモノステアラート、グリセリンモノステアラートなどの脂肪酸エステル;
ブタン、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン;
ジエチルエーテルなどのエーテル;
ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル;
ジメチルポリシロキサン、ジビニルジメチルポリシロキサンなどのオルガノポリシロキサン、メチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられるが、グリセリン、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、グリセリンモノステアラート、グリセリンモノステアラートなどのグリセリン、若しくはその誘導体を用いることが好ましい。また、これらは2種類以上を組合せて使用してもよい。
成分(2)有機溶媒はイオン徐放性水硬性仮封材組成物全体に対して10.0〜25.0質量%であることが好ましく、13.0〜20.0質量%であればより好ましく、更により好ましくは、15.0〜20.0 質量%、最も好ましくは、16.0〜18.0 質量%含有する。成分(2)の含有量が10.0質量%未満になると、硬化前のペーストが非常に硬質となり、窩洞や根管へ充填する際の操作性が悪くなるだけでなく、本発明のイオン徐放性水硬性仮封材組成物をペースト状にできなくなることがある。また、成分(2)の含有量が25.0質量%を超えると、硬化前のペーストが柔くなってべたつきが増し、窩洞や根管へ充填する際の操作性が悪くなるだけでなく、初期硬化性が悪くなることがある。
成分(3)樹脂は本発明のイオン徐放性水硬性仮封材組成物に可塑性を与え、ペーストの操作性を調整するための成分である。
成分(3)は成分(2)有機溶媒に可溶であれば特に制限はなく、公知の樹脂を用いることができる。
成分(3)樹脂を具体的に例示すると、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸などの単独重合体、及び共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体などが挙げられるが、酢酸ビニル、又は塩化ビニルの単独重合体、又はそれらの共重合体を用いることが好ましい。また、これらは2種類以上を組合せて使用してもよい。
成分(3)樹脂はイオン徐放性水硬性仮封材組成物全体に対して3.0〜15.0質量%であることが好ましく、5.0〜10.0質量%であればより好ましく、更により好ましくは、5.0〜8.0質量% 、最も好ましくは、6.0〜8.0質量%含有する。成分(3)の含有量が3.0質量%未満になると、硬化前のペーストの可塑性が低下し、窩洞や根管へ充填する際の操作性が悪くなることがある。また、成分(3)の含有量が15.0質量%を超えると、硬化前のペーストが柔くなってべたつきが増し、窩洞や根管へ充填する際の操作性が悪くなるだけでなく、初期硬化性に悪影響を与えることがある。
成分(4)イオン徐放性ガラスはフッ化物イオンを含む各種イオンの徐放性を有するガラスであって、本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物にイオン徐放性を与える。特に、イオン徐放性を与えることで歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護を目的とした予防的機能を付与することができる。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスは、ガラス骨格を形成する1種類以上のガラス骨格形成元素とガラス骨格を修飾する1種類以上のガラス修飾元素を含んだガラスであれば何ら制限なく用いることができる。また、本発明においてはガラス組成によってガラス骨格形成元素又はガラス修飾元素に成り得る元素、いわゆるガラス両性元素はガラス骨格形成元素の範疇として含めるものである。イオン徐放性ガラスに含まれるガラス骨格形成元素を具体的に例示すると、シリカ、アルミニウム、ボロン、リンなどが挙げられるが、単独だけでなく複数を組合せて用いることができる。また、ガラス修飾元素を具体的に例示すると、フッ素、臭素、ヨウ素などのハロゲン類元素;ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属類元素;カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属類元素などが挙げられるが、単独だけでなく複数を組合せて用いることができる。これらの中でもガラス骨格形成元素としてシリカ、アルミニウム、ボロンを含み、且つガラス修飾元素としてフッ素、ナトリウム、ストロンチウムを含むことが好ましく、具体的にはストロンチウム、ナトリウムを含んだシリカガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フルオロボロシリケートガラス、フルオロアルミノボロシリケートガラスなどが挙げられる。更に、フッ化物イオン、ストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、ホウ酸イオンを徐放する観点から、より好ましくはナトリウム、ストロンチウムを含んだフルオロアルミノボロシリケートガラスであり、そのガラス組成範囲はSiOが15〜35質量%、Alが15〜30質量%、Bが5〜20質量%、SrOが20〜45質量%、Fが5〜15質量%、NaOが0〜10質量%となる。このガラス組成は元素分析、ラマンスペクトルおよび蛍光X線分析などの機器分析を用いることにより確認することができるが、いずれかの分析方法による実測値がこれらの組成範囲に合致していれば何ら問題はない。
これらのガラスの製造方法においては特に制限はなく、溶融法あるいはゾル−ゲル法などの製造方法で製造することができる。その中でも溶融炉を用いた溶融法で製造する方法が原料の選択も含めたガラス組成の設計のし易さから好ましい。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスは非晶質構造であるが、一部結晶質構造を含んでいても何ら問題はなく、更にそれらの非晶質構造を有するガラスと結晶質構造を有するガラスの混合物であっても何ら問題はない。ガラス構造が非晶質であるか否かの判断はX線回折分析や透過型電子顕微鏡などの分析機器を用いて行うことができる。その中でも本発明に用いるイオン徐放性ガラスは外部環境におけるイオン濃度との平衡関係により各種イオンを徐放することから、均質な構造である非晶質構造であることが好ましい。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスからの各種イオンの徐放は、ガラスの粒子径によって影響を受けるため湿式又は/及び乾式の粉砕、分級、篩い分け等の方法により粒子径を制御する必要がある。そのため本発明に用いるイオン徐放性ガラスの粒子径(50%)は0.01〜100μmの範囲であれば特に制限はないものの、好ましくは0.01〜50μmの範囲、より好ましくは0.1〜5μmの範囲、更により好ましくは0.3〜4.0μm の範囲である。また、ガラスの形状は球状、板状、破砕状、鱗片状などの任意の形状で良く、特に制限はないが、好ましくは球状あるいは破砕状である。
更にイオン徐放性ガラスからのイオン徐放性を高めるために、ガラス表面を表面処理することにより機能化してイオン徐放性を向上させることが好ましい態様である。表面処理に用いる表面処理材を具体的に例示すると界面活性剤、脂肪酸、有機酸、無機酸、モノマー、ポリマー、各種カップリング材、シラン化合物、金属アルコキシド化合物、及びその部分縮合物などが挙げられる。好ましくは酸性ポリマー、及びシラン化合物を表面処理材として用いることである。
この酸性ポリマー、及びシラン化合物を表面処理材として用いてイオン徐放性ガラスを表面処理する方法、具体的にはシラン化合物によりイオン徐放性ガラス表面を被覆した後に、酸性ポリマーにより表面処理する方法を以下に例示する。
粉砕などによって所望の平均粒径に微粉砕されたイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体中に、一般式(I):
Figure 0006892755
(式中、ZはRO−、Xはハロゲン、Yは−OH、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物を混合し、これを系中で加水分解または部分加水分解してシラノール化合物を経て、次いでこれを縮合させて、イオン徐放性ガラス表面を被覆する。
上記のポリシロキサン処理方法は、シラン化合物の加水分解、及び縮合とガラス表面へのポリシロキサン処理を同一系内で同時に行っているが、別法として、シラン化合物の加水分解、及び縮合を別の系で行って、低縮合シラン化合物(オリゴマー)を生成させ、それをイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体に混合する表面処理方法を行っても、効率よくイオン徐放性ガラス表面にポリシロキサン被膜を形成することが可能である。より好ましくは市販の低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用い、低縮合生成過程を経ずに混合するポリシロキサン処理方法である。この方法が好ましい理由としては、シラン化合物単量体を用いる場合はポリシロキサン処理工程で多量の水が存在することから、縮合が3次元的に起こり、自己縮合が優位に進行し、均一なポリシロキサン被膜をガラス表面に形成することができないと考えられるからである。
一方、低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用いる場合は、ある長さのポリシロキサン主鎖を有するユニット単位でガラス表面にポリシロキサン被膜を均一に形成することが可能と考えられる。また、この低縮合シラン化合物(オリゴマー)の形状は特に制限はないが3次元体のものよりも直鎖状の方が良く、またその重合度においても長いものほど縮合反応性が劣り、イオン徐放性ガラス表面上のポリシロキサン被膜の形成が悪くなることから、好ましい重合度は2〜20の範囲であり、より好ましくは2〜6である。
上記水性分散体中でのポリシロキサン処理は比較的低速の撹拌状態下で行われ、温度は室温〜100℃の範囲、より好ましくは室温〜50℃の範囲であり、撹拌時間は通常数分〜数十時間、より好ましくは30分〜4時間の範囲で行われる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、一般業界で通常に使用されている設備を使用して行うことができる。例えば、万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いればよい。撹拌温度は水性媒体が揮発しない温度、つまり水性媒体の沸点以下の温度であれば何ら問題はない。撹拌時間はシラン化合物または低縮合シラン化合物の種類または添加量、ガラスの種類、粒子径及びその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類及びその水性分散体中に占める割合などの影響により、ゲル化速度が変化するため、適宜調整する必要がある。但し、少なくともシラン化合物または低縮合シラン化合物の縮合によってゲルが形成されるまでは撹拌を続けなければならない。撹拌速度は速すぎるとゲル構造が崩れ、均一な被膜が形成されないため、低速で行う必要がある。
また、上記の水性媒体は水及びアルコールから構成される。アルコールを加えることにより乾燥工程においてイオン徐放性ガラスの凝集性を軽減させ、より解砕性を向上させる多大な効果がある。好ましいアルコールとしては炭素数2〜10のアルコール類である。炭素数が1のメチルアルコールの添加は、揮発性が高いことから、処理工程中において多量の媒体が揮発し、ガラス表面への均一なポリシロキサン被膜の形成が困難になることがあるため好ましくなく、また、炭素数が10を超えるアルコールの添加は沸点が高く溶媒を乾燥除去するために長時間を要する。具体的なアルコールとしてはエチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコールなどが挙げられ、より好ましくは炭素数2〜4のアルコール、例えば、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好適に使用される。上記アルコールの添加量は水100質量部に対して5〜100質量部、好ましくは5〜20質量部である。添加量が100質量部を超えると乾燥工程が複雑になるなどの問題が生じる。また、ガラスの含有量は水性媒体100質量部に対して25〜100質量部の範囲であり、好ましくは30〜75質量部の範囲である。含有量が100質量部を超える場合は縮合によるゲル化速度が速く、均一なポリシロキサン被膜層を形成しにくく、また、25質量部より少ない場合、撹拌状態下でガラスが沈降したり水性媒体中で相分離が発生したりする。また、シラン化合物の添加量はガラスの粒子径に依存するが、ガラス100質量部に対してSiO換算で0.1〜10質量部の範囲であり、好ましくは0.1〜4質量部である。添加量が0.1質量部より少ない場合は、ポリシロキサン被膜層形成の効果がなく、一次粒子まで解砕できず凝集したものになり、10質量部を超えると乾燥後の固化物が硬すぎて解砕することができない。
「ゲル」状態にある系を乾燥し、水性媒体を除去して固化させる。乾燥は熟成と焼成の2段階からなり、前者はゲル構造の生長と水性媒体の除去を、後者はゲル構造の強化を目的としている。乾燥はゲル構造にひずみを与えず、且つ水性媒体を除去することを目的としていることから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥機などの設備が好ましい。熟成温度は室温〜100℃の範囲で、より好ましくは40〜80℃の範囲である。熟成温度がこの範囲を下回る場合は水性媒体除去が不十分となり、逆にこの範囲を上回る場合は水性媒体が急激に揮発し、ゲル構造に欠陥が生じたり、ポリシロキサン被膜層がガラス表面から剥離したりするおそれがある。熟成時間は乾燥機などの能力にもよるため、水性媒体が充分除去できる時間であればなんら問題はない。
一方、焼成工程は昇温と係留の2段階に分かれ、前者の昇温段階は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な昇温はゲル分散体の熱伝導が悪いため、ゲル構造内にクラックが生じる可能性がある。後者の係留段階は一定温度での焼成である。焼成温度は100〜350℃の範囲であり、より好ましくは100〜200℃である。
以上のような乾燥によりゲルから水性媒体が除去され、収縮した固化物が得られる。固化物はイオン徐放性ガラスの凝集体ではあるが、単なるイオン徐放性ガラスの凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には縮合により形成されたポリシロキサンが介在している。従って、次の工程としてこの固化物をポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕すると、その表面がポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスが得られる。ここで「ポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕する」とは、ポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスを一次粒子に解砕することであり、元のイオン徐放性ガラスと異なる点は個々の微粒子がポリシロキサンで被覆されていることである。但し、問題ない程度であれば2次凝集物を含んでいてもよい。固化物の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、クロスロータリーミキサー、スーパーミキサーなどを用いて行うことができる。
一般式(I)で表されるシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)などが例示でき、より好ましくはテトラメトキシシラン、及びテトラエトキシシランである。また、一般式(I)で表されるシラン化合物の縮合体であることが好ましく、低縮合体であることがより好ましい。例えば、テトラメトキシシラン、及びテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合させた低縮合シラン化合物である。これらの化合物は単独、または組合せて使用することができる。
また、ポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部としてオルガノシラン化合物も添加することができる。具体的にオルガノシラン化合物を例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどが例示でき、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランである。これらの化合物は単独、または組合せて使用することができる。しかし、これらはポリシロキサン層内において有機基が存在するため、ポリシロキサン層形成時にひずみを受ける可能性があり、機械的強度に問題が生じることがある。このため、少量の添加にとどめておく必要がある。また、ポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部として、他の金属のアルコキシド化合物、ハロゲン化物、水和酸化物、硝酸塩、炭酸塩も添加することができる。
ポリシロキサン処理工程で得られたポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスは、酸性ポリマーと反応させる酸性ポリマー処理を施すことによって本発明の最も好ましい表面処理イオン徐放性ガラスを得ることができる。酸性ポリマー処理は乾式流動型の撹拌機であれば当該技術分野で一般に使用されている設備を用いて行うことができ、ヘンシルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサーなどが挙げられる。ポリシロキサン被膜が形成されたイオン徐放性ガラスと酸性ポリマーの反応は、酸性ポリマー溶液を含浸や噴霧などにより前記ガラスに接触させることによって行うことができる。例えば、ポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを乾式流動させ、その流動させた状態で上部から酸性ポリマー溶液を分散させ、充分撹拌するだけでよい。このとき、酸性ポリマー溶液の分散法は特に制限はないが、均一に分散できる滴下、またはスプレー方式がより好ましい。また、反応は室温付近で行うことが好ましく、温度が高くなると酸反応性元素と酸性ポリマーの反応が速くなり、酸性ポリマー層の形成が不均一になる。熱処理後、熱処理物の解砕はせん断力、または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては上記反応に用いた設備などで行うことができる。
反応に用いる酸性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒は酸性ポリマーが溶解する溶媒であれば何ら問題はなく、水、エタノール、アセトンなどが挙げられる。これらの中で特に好ましいのは水であり、水を用いると酸性ポリマーの酸性基が解離し、イオン徐放性ガラスの表面と均一に反応することができる。
酸性ポリマー溶液中に溶解したポリマーの重量平均分子量は2,000〜50,000の範囲であり、5,000〜40,000の範囲にあることが好ましい。2,000未満の重量平均分子量を有する酸性ポリマーで処理した表面処理イオン徐放性ガラスはイオン徐放性が低くなる傾向にある。50,000を超える重量平均分子量を有する酸性ポリマーを用いると酸性ポリマー溶液の粘性が上がり、酸性ポリマー処理を行うことが困難となる。また、酸性ポリマー溶液中に占める酸性ポリマー濃度は3〜25質量%の範囲が好ましく、より好ましくは8〜20質量%の範囲である。酸性ポリマー濃度が3質量%未満になると上記で述べた酸性ポリマー層が脆弱になる。また、酸性ポリマーの濃度が25質量%を超えるとポリシロキサン層(多孔質)に拡散しにくくなる反面、一旦イオン徐放性ガラスに接触すると酸−塩基反応が速く、反応中に硬化が始まり凝集が起こるなどの問題が生じる。また、ポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー溶液の添加量は6〜40質量部の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30質量である。この添加量で換算するとポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー量は1〜7質量部、また、水量は10〜25質量部の範囲が最適である。
上記の方法によりポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスの表面に酸性ポリマー反応層を形成するために用いることのできる酸性ポリマーは酸性基として、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基、スルホン酸残基などの酸性基を有する重合性単量体の共重合体、または単独重合体である。このような重合性単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−クロロアクリル酸、3−クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、グルタコン酸、シトラコン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2‘−ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、ピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェートなどが挙げられる。これらの重合体の中でも酸反応性元素との酸−塩基反応が比較的遅い、α,β不飽和カルボン酸の単独重合体、または共重合体が好ましい。より好ましくはアクリル酸重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−イタコン酸共重合体である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」から選ばれる少なくとも1種を示す。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはガラス組成に起因したイオン種を持続的に徐放することが特徴であり、金属フッ化物などの水への溶解によって一時的に多量を放出するものとは異なるものである。以下の手法によってイオン徐放性ガラスがイオン徐放性を有しているか否かを判断することができる。
蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラスを0.1g加え、1時間撹拌させたときの蒸留水中に徐放したイオン濃度または、Na、B、Al、Srのごとき、そのイオン種に起因した元素濃度のいずれかの濃度(F1)と、2時間撹拌したときの蒸留水中に徐放したイオン濃度またはそのイオン種に起因した元素濃度のF1に対応するいずれかの濃度(F2)が下式(1)の関係を満足する場合をイオン徐放とみなすことができる。
Figure 0006892755
また、イオン徐放性ガラスから徐放するイオンが複数ある場合は全てのイオン濃度、または元素濃度が式(1)を満足する必要はなく、少なくとも一つのイオン濃度、または元素濃度が式(1)を満足した場合をイオン徐放とみなすことができる。
成分(4)イオン徐放性ガラスは、イオン徐放性水硬性仮封材組成物全体に対して0.01〜10.0質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であればより好ましく、更により好ましくは、0.1〜4.0質量% 、最も好ましくは、0.1〜3.0質量%含有する。成分(4)イオン徐放性ガラスの含有量が0.01質量%未満になると、イオン徐放量が不足し、歯質強化や二次う蝕抑制などの効果が期待できなくなることがある。また、成分(4)の含有量が10.0質量%を超えると初期硬化性に悪影響を与えることがある。
更に、本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、顔料、染料、反応調整剤、充填材、賦形材、界面活性剤、抗菌剤などの添加剤を添加することができる。
従って、イオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物中に前記添加剤が添加される場合、前記成分(1)〜(4)の合計質量%は、100質量%未満となり得る。
本発明のイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物において、前述の特徴を発現させる好ましい各成分の含有量は、イオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物全体に対して、
成分(1)水硬性無機粉末 65.0〜85.0質量%、
成分(2)有機溶媒 10.0〜25.0質量%、
成分(3)樹脂 3.0〜15.0質量%、
成分(4)イオン徐放性ガラス 0.01〜10.0質量%
の範囲である。このような含有量範囲でイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物を構成することで、高い初期硬化性を有しつつ、フッ化物イオンを含む各種イオンの徐放により歯質強化が期待でき、仮に封鎖性に不具合が生じた場合においても二次う蝕の発生を抑制することが期待できる。
更に好ましい各成分の含有量は、イオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物全体に対して、
成分(1)水硬性無機粉末 70.0〜80.0質量%
成分(2)有機溶媒 13.0〜20.0質量%
成分(3)樹脂 5.0〜10.0質量%
成分(4)イオン徐放性ガラス 0.1〜5.0質量%
の範囲である。このような含有量範囲でイオン徐放性歯科用水硬性仮封材組成物を構成することで、より高い初期硬化性を有しつつ、操作性も良好であり、フッ化物イオンを含む各種イオンの徐放により歯質強化が期待でき、仮に封鎖性に不具合が生じた場合においても二次う蝕の発生を抑制することが期待できる。
以下に本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(歯科用水硬性仮封材組成物の調製に用いた成分の詳細)
実施例、及び比較例の歯科用水硬性仮封材組成物の調製に用いた成分(1)〜(4)を表1に示した。イオン徐放性ガラスの製造方法は以下の通りである。
(イオン徐放性ガラス1の製造方法)
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料をボールミルを用いて均一に混合し、原料混合品を調製した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。その融液を溶融炉から取り出し、冷鋼板上、ロール、または水中で冷却してガラス(ガラス組成:SiO 23.8質量%、Al 16.2質量%、B 10.5質量%、SrO 35.6質量%、NaO 2.3質量%、F 11.6質量%)を作製した。4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.2L)中に直径6mmのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラス500gを投入して40時間粉砕を行い、イオン徐放性ガラス1を得た。
(イオン徐放性ガラス2の製造方法)
以下に示すポリシロキサン処理及び酸性ポリマー処理を行い、表面処理したイオン徐放性ガラス2を得た。前述のイオン徐放性ガラス1 500gとシラン化合物(予めテトラメトキシシラン5g、水1,000g、及びエタノール100gを2時間室温で撹拌し、得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合撹拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラス500gをヘンシェルミキサー中で撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ)を噴霧した。その後、熱処理(100℃、3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス2を得た。
(イオン徐放性ガラス3の製造方法)
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料を混合後、1400℃にてその混合物を溶融してガラス(ガラス組成:SiO 19.8質量%、Al 19.8質量%、B 11.7質量%、SrO 35.0質量%、NaO 2.3質量%、F 11.4質量%)を得た。4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.2L)中に直径6mmのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラス500gを投入して10時間粉砕した。この粉砕後のガラス500gとシラン化合物(予めテトラメトキシシラン10g、水1,500g、エタノール100g、メタノール70g、及びイソプロパノール50gを2時間室温で撹拌し、得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合撹拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラス500gをヘンシェルミキサー中で撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ)を噴霧した。その後、熱処理(100℃、3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス3を得た。
Figure 0006892755
イオン徐放性ガラス1〜3について50%粒子径を測定した。また、イオン徐放性を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表2に示した。なお、50%粒子径、及びイオン徐放性は以下の方法にて測定した。
(イオン徐放性ガラスの50%粒子径)
日機装社製マイクロトラックMT3300を用いて測定した。
(イオン徐放性ガラスのイオン徐放性)
蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラスを0.1g加えて1時間撹拌後、分析用シリンジフィルター(クロマトディスク25A、ポアサイズ0.2μm:ジーエルサイエンス)でろ過した。この溶液中に徐放した各イオンに起因する元素濃度をF1とした。また、同様に蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラスを0.1g加えて2時間撹拌後、同じ操作を行い、溶液中に徐放した各イオンに起因する元素濃度をF2とした。フッ素はフッ素イオン複合電極(Model9609:オリオンリサーチ)、及びイオンメーター(Model720A:オリオンリサーチ)を用いてフッ化物イオンを測定し、その値を用いてフッ素元素濃度に換算した。なお、測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンサーチ)を0.5mL添加した。他の元素(Na、B、Al、Sr)に関しては誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICPS−8000:島津)を用いた測定から算出した。
Figure 0006892755
(歯科用水硬性仮封材組成物の調製)
表3〜6に示した配合に従い、各成分を計量し、混練機にて混練して各実施例、及び比較例の歯科用水硬性仮封材組成物を調製した。実施例、及び比較例に示す歯科用水硬性仮封材組成物の評価方法は次の通りである。
(歯科用水硬性仮封材組成物の初期硬化性)
実施例、及び比較例に示す歯科用水硬性仮封材組成物を内径15mm、高さ3mmの金属リングに満たし、試験片を作製した。これを37℃の恒温水槽に試験片の底面だけが水に接するように浸漬させ、5分、10分、15分、30分の各時間静置後、恒温水槽から試験片を取り出して水分を除去した。試験片天面から重さ100gf、直径1mmのビカー針を静かに下ろし、試験片底面からの硬化層の厚みを測定した。
(歯科用水硬性仮封材組成物のイオン徐放量)
実施例、及び比較例に示す歯科用水硬性仮封材組成物を内径12mm、高さ1mmの金属リングに満たし、試験片を作製した。作製した試験片をステンレス製金型ごと5mLの蒸留水中に浸漬させ、37℃にて1週間静置した。1週間後、試験片から蒸留水中に徐放したイオン量を測定した。フッ素はフッ素イオン複合電極(Mode196−09:オリオンリサーチ社)、及びイオンメーター(Mode1720A:オリオンリサーチ社)を用いてフッ化物イオンを測定し、その値を用いてフッ素元素濃度に換算した。なお、測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンサーチ社)を0.5mL添加した。フッ素徐放量は1ppm以上が好ましく、5ppm以上が更に好ましい。他の元素(Na、B、Al、Sr)に関しては誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICPS−8000:島津)を用いた測定から算出した。
(実施例1〜3、及び比較例1の評価結果)
実施例1〜3に示す歯科用水硬性仮封材組成物、及び比較例1として用いた市販の水硬性仮封材であるハイ−シール(松風)の評価結果を表3及び図1に示した。
実施例1では高い初期硬化性を示すことが認められた。更に、イオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたことから、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる。
実施例2は実施例1における成分(4)イオン徐放性ガラスの種類をイオン徐放性ガラス2として調製した組成物である。
実施例3は実施例1における成分(4)イオン徐放性ガラスの種類をイオン徐放性ガラス3として調製した組成物である。
実施例2、及び3では実施例1と同様に高い初期硬化性を示すことが認められた。更に、イオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたことから、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる。
比較例1には金属フッ化物が含まれるため、フッ素イオン、及びナトリウムイオンの徐放は認められるものの、その他のイオンは実施例と比較して少ない、若しくはほとんど認められず、実施例ほどの歯質保護効果は期待できない。また、初期硬化性も緩慢であった。
Figure 0006892755
(実施例4〜7、比較例2、及び3の評価結果)
実施例4〜7、比較例2、及び3に示す歯科用水硬性仮封材組成物の評価結果を表4及び図2に示した。
実施例4、5は、実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を少なくし、成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量を多くして調製した組成物である。
実施例6、7は、実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を多くし、成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量を少なくして調製した組成物である。
実施例4〜7では高い初期硬化性を示すことが認められた。更に、イオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたことから、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる。
比較例2は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を多くし、成分(2)有機溶剤、及び成分(3)樹脂の配合量を少なくして調製した組成物である。
比較例2では成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量に対する成分(1)水硬性無機粉末の配合量が過剰なため、組成物をペースト化することができなかった。
比較例3は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を少なくし、成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量を多くして調製した組成物である。
比較例3はイオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたものの、初期硬化性が緩慢であることが認められた。
Figure 0006892755
(実施例8、及び9の評価結果)
実施例8、及び9に示す歯科用水硬性仮封材組成物の評価結果を表5及び図3に示した。
実施例8は実施例4から成分(2)有機溶媒の配合量を多くし、成分(3)樹脂の配合量を少なくして調製した組成物である。
実施例9は実施例4から成分(2)有機溶媒の配合量を少なくし、成分(3)樹脂の配合量を多くして調製した組成物である。
実施例8、及び9では高い初期硬化性を示すことが認められた。更に、イオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたことから、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる。
Figure 0006892755
(実施例10〜13、比較例4、及び5の評価結果)
実施例10〜13、比較例4、及び5に示す歯科用水硬性仮封材組成物の評価結果を表6及び図4に示した。
実施例10、及び11は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を多くし、成分(4)イオン徐放性ガラスの配合量を少なくして調製した組成物である。
実施例12は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末の配合量を少なくし、成分(4)イオン徐放性ガラスの配合量を多くして調製した組成物である。
実施例13は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末、成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量を少なくし、成分(4)イオン徐放性ガラスの配合量を多くして調製した組成物である。
実施例10〜13では高い初期硬化性を示すことが認められた。更に、イオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたことから、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できる。
比較例4は実施例3における成分(4)イオン徐放性ガラスを含まない組成物である。比較例4では高い初期硬化性を示すことが認められたものの、フッ素イオンを含む各種イオンの徐放は認められなかったことから、歯質の保護は期待できない。
比較例5は実施例3における成分(1)水硬性無機粉末、成分(2)有機溶媒、及び成分(3)樹脂の配合量を少なくし、成分(4)イオン徐放性ガラスの配合量を多くして調製した組成物である。
比較例5はイオン徐放性ガラスの含有効果により、フッ化物イオンを含む各種イオンが徐放されていることが認められたものの、初期硬化性が緩慢であることが認められた。
Figure 0006892755
本発明によれば、高い初期硬化性を有しつつ、フッ化物イオンを含む各種イオンを徐放するイオン徐放性ガラスの効果によって、歯質強化や二次う蝕の抑制などの歯質の保護が期待できるイオン徐放性歯科用水硬性仮封材を提供することができる。

Claims (7)

  1. 成分(1)水硬性無機粉末 70.0〜85.0質量%、
    成分(2)有機溶媒 10.0〜25.0質量%、
    成分(3)樹脂 3.0〜15.0質量%、及び
    成分(4)イオン徐放性ガラス 0.01〜10.0質量%
    を含み、
    界面活性剤を含まないことを特徴とする歯科用水硬性仮封材組成物であって、
    成分(2)有機溶媒が、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート及びグリセリンモノステアラートの少なくとも1種である前記歯科用水硬性仮封材組成物
  2. 成分(4)イオン徐放性ガラスが少なくともフッ化物イオンを徐放することを特徴とする請求項1に記載の歯科用水硬性仮封材組成物。
  3. 成分(4)イオン徐放性ガラスがフッ化物イオンを徐放し、更に2〜4価のイオンのうち一種類以上を徐放することを特徴とする請求項1に記載の歯科用水硬性仮封材組成物。
  4. 成分(4)イオン徐放性ガラスがフッ化物イオンを徐放し、更にストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、及びホウ酸イオンのうちから一種類以上を徐放することを特徴とする請求項1に記載の歯科用水硬性仮封材組成物。
  5. 成分(4)イオン徐放性ガラスが少なくともフッ化物イオン、ストロンチウムイオン、及びホウ酸イオンを徐放することを特徴とする請求項1に記載の歯科用水硬性仮封材組成物。
  6. 成分(1)水硬性無機粉末が硫酸カルシウムである請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用水硬性仮封材組成物
  7. 成分(3)樹脂が酢酸ビニル、又は塩化ビニルの単独重合体、又はそれらの共重合体のうち少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の歯科用水硬性仮封材組成物。
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