前記したように、本発明の無機凝集粒子は、2種の無機1次粒子のうち、一方が水中で負のゼータ電位を有し、他方が正のゼータ電位を有するにも係わらず、イオン性界面活性剤が含有されることにより、噴霧乾燥法で製造した際に、水懸濁液中で両粒子が引き合い、粘度が上昇することが良好に抑制される。この結果、前記ゼータ電位が相反する2種の無機1次粒子の組合せで初めて、実用的な粒度性状を有する無機凝集粒子を製造することができた。このゼータ電位が相反する2種粒子の引合を防止する効果は、界面活性剤の単なる分散性向上では説明がつかない顕著なものであり、例えば、イオン性でなくノニオン性の界面活性剤を用いても本発明ほどに優れた粘度上昇の抑制効果は発揮されない。
本発明において、このようにイオン性界面活性剤を含有させることにより、ゼータ電位が相反する2種の1次粒子の引き合いが抑制できる原因は必ずしも定かではないが、本発明者らは次のような機構を推定している。
すなわち、イオン性界面活性剤がアニオン系界面活性剤であれば、該アニオン系界面活性剤は、懸濁液中で、正のゼータ電位を有する無機1次粒子の表面に、そのアニオン性基側を向けて(即ち、疎水性基側を外に向けて)引き寄せられる。この結果、この粒子表面には、アニオン系界面活性剤が、その疎水性基側を外に向けて並列する。斯様にして粒子表面が、疎水性基を外に向けたアニオン系界面活性剤により覆われると、各疎水性基には、これに親和して、さらに残余のアニオン系界面活性剤が、今度は疎水性基を粒子側に向けて(アニオン性基を外側に向けて)並列していく。斯くして正のゼータ電位を有する無機1次粒子の表面には、アニオン系界面活性剤の二重被覆層が形成され、その外面にはアニオン性基が露呈した状態になる。そうなると、この表面にアニオン性基が露呈する粒子は、もう一方の負のゼータ電位を有する無機1次粒子に対して反発するようになり、3次構造は形成され難くなり、懸濁液の粘度上昇が生じなくなるのではないかと考えられる。
また、イオン性界面活性剤がカチオン系界面活性剤の場合もこの逆で、負のゼータ電位を有する無機1次粒子の表面には、カチオン系界面活性剤の二重被覆層が形成されており、その外面はカチオン系界面活性剤のカチオン性基が露呈するため、この改質粒子は、もう一方の、正のゼータ電位を有する無機1次粒子に対して反発するようになるのではないかと考えられる。
以下、本発明の無機凝集粒子を構成する各成分について、順次詳述する。
(無機凝集粒子)
本発明の無機凝集粒子は、水中で負のゼータ電位を示す第1の無機1次粒子(A)と、水中で正のゼータ電位を示す第2の無機1次粒子(B)との凝集体で、更にイオン性界面活性剤を含む。
本発明の無機凝集粒子は、第1の無機1次粒子(A)と、第2の無機1次粒子(B)とが多数凝集して凝集粒子を形成してなる。第1の無機1次粒子(A)と、第2の無機1次粒子(B)とは、細密充填に近い状態で充填されているのが好ましい。凝集は、1次粒子の大きな表面エネルギーに基づいており、接着剤等は含有されていない。
[第1の無機1次粒子(A)]
第1の無機1次粒子(A)は、水中で負のゼータ電位を示す。第1の無機1次粒子(A)は、後述するシリカ系フィラー等の表面に強い酸点を有するものが多く、上記ゼータ電位の負の程度も大きいことが多い。具体的には、水中でのゼータ電位が、−20mV以下であるのが好ましく、−40mV以下であることがより好ましい。ゼータ電位の下限は特に限定されるものではないが、一般的には−100mV以上である。
なお、本発明において無機1次粒子のゼータ電位は、光散乱電気泳動法により測定した値である。
水中で負のゼータ電位を示す第1の無機1次粒子(A)としては、該電荷性状を有する限り制限されるものではなく、従来の歯科用硬化性組成物にフィラーとして使用されている各種の材質のものを用いることができる。
具体的には非晶質シリカ、石英、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化タングステン等の金属酸化物;シリカ‐ジルコニア、シリカ‐チタニア、シリカ‐チタニア‐酸化バリウム、シリカ‐チタニア‐ジルコニア、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の複合酸化物等が例示される。
これらの材質は、緻密な材質にするために、高温で焼成されたものが好ましい。緻密化の効果を向上させるために、ナトリウム等の少量の周期律表第I族金属の酸化物を含有させることが好ましい。
上記材質の第1の無機1次粒子(A)の内、シリカまたはシリカと他の金属酸化物との複合酸化物粒子は、適度な屈折率を有し、その値の調整も容易である他、入手し易く好適である。更に、粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等を用いて表面改質が行い易いため、特に好ましい。
上記例示した、シリカ‐ジルコニア、シリカ‐チタニア、シリカ‐チタニア‐酸化バリウム、シリカ‐チタニア‐ジルコニア等の粒子は、比較的強いX線造影性を有している。更には、より耐摩耗性に優れた凝集体が得られるので、シリカ−ジルコニア粒子が最も好ましい。
これらの第1の無機1次粒子(A)は、公知の如何なる方法により製造される無機一次粒子であっても良い。例えば、無機酸化物一次粒子や複合酸化物一次粒子等であれば、湿式法、乾式法、ゾルゲル法のいずれの方法で製造されたものであっても良い。形状が球状で、単分散性に優れる微細粒子を工業的に製造する上で有利である点、さらには屈折率の調整や、X線造影性を付与することが容易である点を考慮すると、ゾルゲル法によって製造することが好ましい。
ゾルゲル法により球状のシリカ系複合酸化物粒子を製造する方法は、例えば特開昭58−110414号公報、特開昭58−151321号公報、特開昭58−156524号公報、特開昭58−156526号公報等に記載されており、公知である。
この方法においては、まず加水分解可能な有機ケイ素化合物、あるいはこれに更に加水分解可能な他の金属の有機化合物を加えた混合溶液を用意する。次に、これらの有機化合物は溶解するが、生成物である無機酸化物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に前記混合溶液を添加し、有機ケイ素化合物等を加水分解する。析出する無機酸化物を濾別した後、析出物を乾燥する事により、第1の無機1次粒子(A)が得られる。
この様な方法で得られる第1の無機1次粒子(A)は、表面安定性を付与する為に、乾燥後500〜1000℃の温度で焼成されても良い。焼成に際しては、第1の無機1次粒子(A)の一部が凝集する場合がある。この場合は、ジェットミル、振動ボールミル等のミルを用いて凝集粒子を一次粒子に解きほぐし、更に粒度を所定範囲に調整してから、使用することが好ましい。この様に処理することにより、歯科用硬化性組成物として使用する場合に、これを硬化させた硬化体の研磨性等が向上する。
第1の無機1次粒子(A)の平均1次粒子径は、10〜1000nmが好ましく、40〜800nmがより好ましく、50〜600nmが特に好ましい。第1の無機1次粒子(A)の平均粒子径が10nm未満の場合、後述する本発明の特徴的なミクロ孔容積を有するミクロ孔の形成が困難になる。更に、有機無機複合フィラーを製造するに際し、ミクロ孔の開口部が有機樹脂相で閉孔され易くなる。その結果、得られるフィラーは空気泡を内包し易くなる。有機無機複合フィラーが空気泡を内包する場合、この有機無機複合フィラーを配合する硬化性組成物の硬化体は、その透明性が低下する。
一方、平均粒子径が1000nmを超える第1の無機1次粒子(A)を含む有機無機複合フィラーを歯科用複合修復材料等に用いる場合は、得られる硬化体の研磨性が低下し、硬化体の表面は滑沢になり難い。
第1の無機1次粒子(A)の形状は、特に限定されず、球形状、略球形状あるいは不定形状の粒子を用いることができる。耐摩耗性、表面滑沢性に優れ、かつ有機無機複合フィラーが均一なミクロ孔を有し、ミクロ孔の開口部が有機樹脂相で閉孔されて空気泡が内包され難い点から、第1の無機1次粒子(A)の形状は、球形または略球形が好ましい。なお、本発明において、略球形とは、平均均斉度が0.6以上のものをいう。平均均斉度は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。
なお、本発明において、第1の無機1次粒子(A)の一次粒子径および平均均斉度は、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて測定される。具体的には、有機無機複合フィラーの撮影像を画像解析することにより、第1の無機1次粒子(A)の円相当径(対象粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)を求める。電子顕微鏡による撮影像としては、明暗が明瞭で、粒子の輪郭を判別できるものを使用する。
画像解析は、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な、画像解析ソフトウエアを用いて行う。無作為に選択した100個の第1の無機1次粒子(A)について上記の方法で一次粒子径(円相当径)、粒子の最大長、最小幅を求め、第1の無機1次粒子(A)の平均粒子径、平均均斉度を下記式によって算出する。
上記式において、粒子の数を(n)、i番目の粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交する方向の径を最小幅(Bi)と定義する。
第1の無機1次粒子(A)は、平均粒子径、材質、形状が異なる、複数の無機一次粒子の混合物であっても良い。
本発明において、これらの第1の無機1次粒子(A)は、水中で負のゼータ電位を示す性状が損なわれない範囲で、表面処理剤により表面改質されていても良い。こうした表面処理剤を例示すれば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルートリス(β―メトキシエトキシ)シラン、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、κ−メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などが挙げられる。
これら表面処理材の表面処理量は、一般的には、第1の無機1次粒子(A)100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、3〜15質量部が特に好ましい。
表面処理剤による処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用される。代表的な処理方法を例示すれば、無機粒子と疎水化剤とを、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合し、エバポレーターや風乾で乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法がある。更に、無機粒子及び表面処理剤をアルコール等の溶剤中で数時間程度加熱還留する方法がある。更に、粒子表面に表面処理剤をグラフト重合させる方法等がある。
こうした無機1次粒子の表面処理は、無機凝集粒子の製造前に、原料の無機1次粒子に行っても良いし、無機凝集粒子に行っても良い。後述する噴霧乾燥により無機凝集粒子を製造する場合は、この処理時に、同時に表面処理を行うことが効率的である。
[第2の無機1次粒子(B)]
第2の無機1次粒子(A)は、水中で正のゼータ電位を示す。具体的には、水中でのゼータ電位が、10mV以上であるのが好ましく、20mV以上であることがより好ましい。ゼータ電位の上限は特に限定されるものではないが、一般的には60mV以下である。
水中で正のゼータ電位を示す第2の無機1次粒子(B)としては、該電荷性状を有する限り制限されるものではないが、得られる無機凝集粒子を、歯科用硬化性組成物に配合する、有機無機複合フィラーの原料に使用するのであれば、高いX線造影性を与えることから、希土類化合物粒子が好ましい。具体的には、3フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等が例示される。これらの内でも、3フッ化イッテルビウムが、特に高いX線造影性とシリカ系複合酸化物粒子に近い屈折率を有するので、好ましい。
第2の無機1次粒子(B)の製造方法、表面処理方法、平均粒子径等は、第1の無機1次粒子(A)と同様であるので、その説明を省略する。
また、第2の無機1次粒子(B)は、前記無機1次粒子(A)と同様に、水中で負のゼータ電位を示す性状が損なわれない範囲で、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤等の表面処理剤により表面改質されていても良い。
第2の無機1次粒子(B)の配合量は、第1の無機1次粒子(A)100質量部に対して5〜200質量部が好ましく、20〜70質量部がより好ましい。5質量部より少ない場合、第1の無機1次粒子(A)と懸濁液中で引き合って粘度を高める現象が穏やかにしか生じず、これを改善する本発明の効果が顕著に発揮されなくなる。また、無機凝集粒子が、歯科用硬化性組成物に配合される有機無機複合フィラーの製造用の場合には、該第2の無機1次粒子(B)は前記したとおり希土類化合物粒子がX線造影性の高さから好適であるが、その配合量が上記5質量部より少ないと、該X線造影性を十分に向上できなくなる。他方、第2の無機1次粒子(B)の配合量が100質量部より多い場合には、硬化性組成物における高い曲げ強さが得られ難い。
[イオン性界面活性剤]
本発明の無機凝集粒子の構成成分であるイオン性界面活性剤には、アニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤がある。第1の無機1次粒子として好適なシリカ系フィラー等は金属酸化物として表面に強い酸点を有しており、これが強い負のゼータ電位を示す原因になっているが、その影響をカチオン界面活性剤の作用により完全に打ち消すのは難しい。これに対して、希土類化合物粒子等の第1の無機1次粒子の正のゼータ電位をアニオン界面活性剤により打ち消す方が比較的容易であり、第1の無機1次粒子と第2の無機1次粒子との引合を防止する効果がより高いため、本発明では、アニオン界面活性剤を用いるのが特に好ましい。
なお、イオン性界面活性剤の分類には、アニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤の他に、これらのイオン性基を両方有する両イオン性界面活性剤があるが、このものは量の多いほうのイオン性基に従って、上記アニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤のいずれかとして扱えば良い。ただし、反対電荷のイオン性基の相反作用により、本発明の効果は弱められるため、アニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤は、反対荷電のイオン性基はイオン性基全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
本発明に用いるイオン性界面活性剤が有するイオン性基は、アニオン界面活性剤であれば、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム基等があげられ、カチオン界面活性剤であれば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が好ましい。また、これらイオン性界面活性剤の上記イオン性基に結合する疎水基は、炭素数が20以下であることが好ましい。さらに、本発明の無機凝集粒子を歯科材料等に用いる場合、口腔粘膜等の人体への刺激性を抑制する観点から、上記イオン性基に結合する疎水基は炭素数12以上であることが好ましい。なお、これらのイオン性界面活性剤のHLBは10以上であるのが一般的である。
具体的なカチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(例えば、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド等)、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(例えば、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等)が挙げられる。
具体的なアニオン界面活性剤としては、脂肪酸石鹸(例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、高級アルキル硫酸エステル塩(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸アンモニウム等)、N−アシルサルコシン酸(例えば、ラウロイルサルコシンナトリウム等)、高級脂肪酸アミドスルホン酸塩(例えば、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム、ドデシルメチルタウリッドナトリウム等)、リン酸エステル塩(ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等)、スルホコハク酸塩(例えば、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン等)、高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩(例えば、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等)、N−アシルグルタミン酸塩(例えば、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等)、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸ジトリエタノールアミン、カゼインナトリウム等が挙げられる。
更に、アニオン界面活性剤として、水溶性高分子界面活性剤がある。具体的には、平均分子量が1000〜30万、好ましくは2000〜10万のポリアクリル酸の部分的又は完全塩、ポリリン酸塩、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩等が挙げられる。これらは、カリウム、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム等と塩を形成しているのが一般的である。これら水溶性高分子界面活性剤は、そのもの自体の人体への浸透力が小さく刺激や毒性が少なく安全性が高いことから、歯科材料等として用いる上で、特に好ましい。更に、入手のしやすさ、耐候性が高く着色しない点、水系懸濁液を調製する際に起泡しにくく取り扱いが容易な事から、ポリアクリル酸の部分的又は完全ナトリウム塩が最も好ましい。
本発明において、イオン性界面活性剤の配合量は、第2の無機1次粒子(B)の100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。アニオン性界面活性剤であれば第2の無機1次粒子(B)の正のゼータ電位を0以下に低下させる量が好ましい。この観点で、第2の無機1次粒子(B)の100質量部に対して、0.1〜5質量部がより好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。特に、アニオン性界面活性剤が水溶性高分子界面活性剤の場合は、その配合量は、第2の無機1次粒子(B)の100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。
他方、カチオン性界面活性剤であれば第1の無機1次粒子(B)の負のゼータ電位を0以上になる量が好ましい。この観点で、第2の無機1次粒子(B)の100質量部に対して、0.1〜5質量部がより好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。
上記イオン性界面活性剤の配合量が、0.01質量部未満の場合は、後述する本無機凝集粒子の製造の際の分散液の粘度が高くなり、噴霧乾燥が困難になる。上記イオン性界面活性剤の配合量が、10質量部を超える場合は、特に問題はないが、配合量を増加することにより得られる技術的利点は無い。
[無機凝集粒子の製造方法]
無機凝集粒子の製造においては、まず、第1の無機1次粒子(A)と、第2の無機1次粒子(B)と、イオン性界面活性剤とを水系溶媒に分散させ、これらの水系懸濁液を調製する(水系懸濁液の調製工程)。
本発明において、無機一次粒子の水系懸濁液の調製方法は特に限定されない。例えば、ビーズミル等の混合装置を用いて、水系媒体に無機一次粒子を分散し、スラリー状に調製する方法が好ましい。懸濁液の調製に於いては、イオン性界面活性剤を共存させることにより、無機1次粒子(A)と、第2の無機1次粒子(B)とが凝集し、懸濁液の粘度を高め、懸濁不能になる状態を避けられる。
無機一次粒子の懸濁液に用いる液状媒体には水を用いる。必要に応じて、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を添加してもよい。
また、水系懸濁液中の無機一次粒子の濃度は、噴霧乾燥において噴霧化可能である限り制限はない。通常、無機一次粒子の濃度は、5〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
上記のようにして調製した水系懸濁液は、次いで噴霧乾燥され、好ましくは、ほぼ球状の無機凝集粒子が製造される(無機凝集粒子を調製する工程)。
噴霧乾燥法としては、高速の気流を用いて、上記方法で調製した水系懸濁液を細かい液滴にして噴霧し、乾燥させる方法が挙げられる。更に、水系懸濁液を円盤状の回転体上に滴下し、水系懸濁液を遠心力によって霧状に弾き飛ばして、乾燥する方法がある。円盤状回転体の回転速度は一般的に1000〜50000rpmである。
噴霧状にされた水系懸濁液を、直ちに高温の空気や不活性気体などによって乾燥させれば、粒度の揃った無機凝集粒子が得られる。乾燥に使用する気体の温度は、60〜300℃が一般的であり、好ましくは80〜250℃である。水系溶媒が揮発するに伴い、液滴内に分散する多数の無機一次粒子は凝集し、実質的に一個の球状の無機凝集粒子を形成する。噴霧乾燥を用いる造粒法においては、噴霧形式や噴霧条件に応じて、凝集粒子の粒径及び粒度分布を制御できる。これらの制御方法自体は、公知技術である。
なお、上記噴霧乾燥により得られる無機凝集粒子には、僅かであるが水系懸濁液を調製するために用いる溶媒が残留することがある。このため、噴霧乾燥の後に、得られる無機凝集粒子を真空乾燥することが好ましい。真空乾燥の時間は一般には1〜48時間であり、温度は20〜150℃であり、減圧度は0.01〜100ヘクトパスカル以下が一般的である。
第1の無機1次粒子(A)と、第2の無機1次粒子(B)とは、ゾルゲル法で製造することが好ましい。ゾルゲル法で製造することにより、単分散性が良くなる。乾燥工程や焼成工程を含むゾルゲル法で製造するこれら無機一次粒子は、前記工程中に於いて一部凝集することがある。この場合は、そのままでは上記噴霧乾燥に供し難い場合がある。また、湿式法や乾式法で製造する無機一次粒子の場合、より激しく凝集(特に湿式法)しているのが普通である。このような場合は、凝集している無機一次粒子を粉砕した後、噴霧乾燥の原料とすれば良い。
噴霧乾燥による造粒法は、本有機無機複合フィラーの製造原料として所望される平均粒子径が3〜100μmの無機凝集粒子を、粒度分布が狭い状態で製造することができるので、有利な方法である。噴霧乾燥による造粒法によれば、粒度の変動係数CVが75%以下、好ましくは70%以下、特に好ましくは70%以下で60%以上、の無機凝集粒子を簡単に製造できる。そして、変動係数CVが70%以下の無機凝集粒子を用いて後述する有機無機複合フィラーを製造する場合、得られる有機無機複合フィラーの粒度の変動係数CVも70%以下に出来る。本発明において、有機無機複合フィラーや、その原料である無機凝集粒子の粒度分布は、変動係数CVで評価する。変動係数CVは以下の式で定義される。
(数3)
CV=SD x 100/X
(但し、SDは標準偏差、Xは算術平均径を表す。)
上式から明らかなように、変動係数CVは標準偏差に比例するため、CVが小さいほうが粒度分布はシャープであると言える。
更に、この造粒法により無機凝集粒子を製造する場合には、無機凝集粒子内部に、水銀圧入法で測定する1〜500nmの範囲の細孔(すなわちミクロ孔)の容積が0.015〜0.35cm3/g、より好適には0.15〜0.30cm3/gの凝集間隙が、自然に形成される。このミクロ孔容積を有する無機凝集粒子を用いて本有機無機複合フィラーを製造する場合、通常、得られる有機無機複合フィラーの内部には、0.01〜0.30cm3/g、より好適には0.03〜0.20cm3/gのミクロ孔容積が形成される。
無機凝集粒子の表面近傍において凝集している無機一次粒子は、通常、六方最密充填構造に近い配列構造を有する。無機一次粒子が、六方最密充填構造に近い状態で無機凝集粒子表面に沿って配列することにより、隣接する各無機一次粒子の間には、上記凝集間隙からなるミクロ孔が形成される。このミクロ孔の平均孔径は、通常、5〜330nm、より一般的には20〜300nmである。
なお、無機凝集粒子のミクロ孔容積は、一般に、無機凝集粒子を構成する無機一次粒子の粒度分布幅が小さい場合は大きくなる。一方、無機一次粒子の粒度分布幅が大きい場合には、小さくなる。更に、平均粒子径が異なる無機一次粒子の複数種類を組合せることにより、無機凝集粒子のミクロ孔容積をより小さくすることができる。また更に、無機一次粒子の複数種類を最密充填状態になるような割合で組合せることにより、無機凝集粒子のミクロ孔容積をさらに小さくすることができる。
上記方法で製造する本無機凝集粒子は、前記の如く、特定の細孔容積のミクロ孔を有するので、これを用いて製造する有機無機複合フィラーの機械的強度の向上の面で大変有利である。なお、この無機凝集粒子には、通常、無機凝集粒子の中心を通る断面の観察に於いて、最大幅が1μm以上になる巨大な空隙(マクロ空隙)がその内部に形成されている無機凝集粒子がかなり多く含まれている。更に、上記製造方法により得られる無機凝集粒子の形状としては、発達したマクロ空隙が形成され、その結果粒子の表面に深いくぼみが形成されたディンプル状と、ディンプル状のくぼみが粒子を貫通しているドーナツ状とがある。更に、球状や略球状であっても、内部に、上記マクロ空隙が形成されている中空形状もある。
なお、無機凝集粒子に形成されているミクロ孔容積や平均孔径は、後述の有機無機複合フィラーと同様の測定方法により求められる。
(有機無機複合フィラー)
以上説明した本発明の無機凝集粒子は、第2の無機1次粒子(B)が希土類化合物粒子である場合には、良好なX線造影性を有するため、歯科用硬化性組成物に配合される有機無機複合フィラーの製造用に使用するのが好ましい。この場合、有機無機複合フィラーは、本発明の無機凝集粒子と重合性単量体及び任意添加物との混合物を調製し、重合性単量体を重合させ、得られる硬化物を適宜粉砕する、有機無機複合フィラーの一般的方法に従って製造しても良い。
しかしながら、以下の方法
a)本発明の無機凝集粒子を、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体3〜70質量部と有効量の重合開始剤とを含有させた重合性単量体溶液に浸漬する工程
b)浸漬した無機凝集粒子から有機溶媒を除去する工程と、
c)無機凝集粒子に含浸されている重合性単量体を重合硬化させる工程
とを含む製造方法により得られた有機無機複合フィラーは、無機1次粒子の凝集間隙に由来した、孔径が1〜500nmの範囲の細孔(すなわちミクロ孔)を有しており、これを配合して得た歯科用硬化性組成物は特に機械的強度に優れたものになり好ましい。
上記製造方法により得られた有機無機複合フィラーは、前記無機凝集粒子と、各無機凝集粒子の表面を覆うと共に各無機1次粒子を相互に結合する重合性単量体の重合硬化物と、イオン性界面活性剤とを含む有機樹脂層とを含んでいる。そして、有機樹脂相は、上記各無機一次粒子間の全空間を埋めるものではなく、多数の無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の間には、無機一次粒子の凝集間隙からなるミクロ孔が形成されている。すなわち、有機樹脂相に覆われる無機一次粒子の凝集間隙には、水銀圧入法による測定値として、孔径1〜500nmの範囲のミクロ孔が0.01〜0.30cm3/gの容積で形成されている。
このようにミクロ孔を有する有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物では、前記ミクロ孔内に重合性単量体が毛細管現象によりミクロ孔内を充満させた状態で浸入する。この状態で重合性単量体を硬化させると、フィラー内外は一体的に硬化樹脂で覆われると共にフィラーと硬化樹脂との接着は強固なものとなる(いわゆるアンカー効果)。その結果、無機フィラーは硬化体中に高い嵌合力で保持される。この接着は、単にフィラー表面だけで接着している従来のフィラーと硬化樹脂との間の接着と比較して遙かに強固なものである。
以下、上記製造方法により得られるミクロ孔を有する有機無機複合フィラーについて説明する。
有機無機複合フィラーの特徴的ミクロ孔構造を、図1の一次粒子の凝集状態を示す拡大部分図により説明する。有機無機複合フィラー1は、複数の無機一次粒子2が凝集してなる。この複数の無機一次粒子2は、それぞれ有機樹脂相3によりその表面が覆われていると共に、これらの有機樹脂相3は互いに溶けあって一体化した状態で固化している。その結果、一次粒子2同士は互いに有機樹脂相3を介して強固に結合している。
この有機樹脂相3は、無機一次粒子が凝集することにより形成される間隙の全空間を埋めておらず、凝集間隙4が残存している。この凝集間隙4で形成されるすべての細孔の中で、孔径1〜500nmの範囲のミクロ孔容積の合計は、0.01〜0.30cm3/gで、好ましくは、0.03〜0.20cm3/gである。
本発明において有機無機複合フィラーのミクロ孔容積は、水銀圧入法により測定した値である。水銀圧入法によるミクロ孔容積の測定は、以下に記載するとおりである。
まず、測定するべき有機無機複合フィラーの所定量を測定セルに入れる。次いで、水銀ポロシメータを用いて、有機無機複合フィラーの凝集間隙に形成される各孔径に相当する圧における水銀注入量を測定する。その後、各ミクロ孔における水銀注入量を積算することにより、ミクロ孔容積が求まる。なお、ミクロ孔容積を測定する際の測定対象ミクロ孔の孔径は、前記したように、1〜500nmの範囲にある。
ミクロ孔容積が0.01cm3/g未満の有機無機複合フィラーは、これを硬化性組成物に配合する場合、重合性単量体がミクロ孔内に侵入する量は少ない。その結果、十分なアンカー効果が発揮されず、得られる硬化体の機械的強度は小さい。
一方、ミクロ孔容積が0.30cm3/gを超える場合、有機無機複合フィラー自体が脆くなり、またその製造も難しくなる。従って、これらの効果をより高度に発揮させる観点から、有機無機複合フィラーの有するミクロ孔容積は、0.03〜0.2cm3/gが好ましい。
有機無機複合フィラーのミクロ孔の平均孔径は、特に制限されるものではないが、3〜300nmが好ましく、さらには10〜200nmが特に好ましい。この平均孔径の範囲にある有機無機複合フィラーの場合、そのミクロ孔容積は、多くの場合上記ミクロ孔容積の範囲に入る。なお、凝集間隙からなるミクロ孔の平均孔径は、水銀圧入法で測定した孔径1〜500nmの範囲の孔における細孔容積分布をもとにして求めるメディアン細孔直径を示す。
有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)は、3〜100μmが好ましく、5〜70μmがより好ましい。平均粒子径が3μm未満の場合は、歯科用硬化性組成物中に充填することのできるフィラーの充填率が低下する。その結果、得られる歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的強度の低下や、歯科用硬化性組成物の粘着性が高くなり、歯牙治療の際の操作性が悪くなる。平均粒子径が100μmを超える場合は、歯科用硬化性組成物の流動性が低下する。その結果、歯牙治療の際の操作性が悪くなる。
なお、有機無機複合フィラーの平均粒子径は、レーザー回折−散乱法による粒度分布をもとにして求めるメディアン径を示す。測定に供するサンプルは、0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mlに均一に分散させて調製する。
有機無機複合フィラーの外観は、特に限定されるものではないが、後述の方法で製造されることにより、球形及び略球形の形状となる。なお略球形とは、前述のとおり平均均斉度が0.6以上のものをいう。有機無機複合フィラーの平均均斉度は、前記第1の無機1次粒子(A)で説明したのと同様な方法により、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて測定される。
有機樹脂相において、重合性単量体の重合硬化物に対するイオン性界面活性剤の含有量は、通常、重合性単量体の重合硬化物100質量部に対して0.05〜50質量部であり、より好適には0.5〜25質量部になる。
有機樹脂相の形成に用いられる重合性単量体としては、例えば下記A〜Dに示される各モノマーが挙げられる。
A 単官能性ビニルモノマー
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;あるいはアクリル酸、メタクリル酸、p−メタクリロイルオキシ安息香酸、N−2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル−N−フェニルグリシン、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、及びその無水物、6−メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10−メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート等。
B 二官能性ビニルモノマー
B−1 芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
B−2 脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等。
C 三官能性ビニルモノマー
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
D 四官能性ビニルモノマー
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加から得られるジアダクト等。
上記モノマーの中でも、有機溶媒と相溶性を有する重合性単量体が好ましい。また、得られる重合体の機械的強度や生体安全性等が良好であることから、(メタ)アクリル系重合性単量体が好ましい。更に、重合性の高さや硬化体の機械的物性が特に高くなる等の理由から、二官能以上、より好適には二官能〜四官能の重合性単量体が好ましい。
これらの重合性単量体は、単独で使用しても、異種を混合して使用してもよい。
有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物のフィラーとして用いる場合は、重合性単量体は、その重合体の屈折率と、無機一次粒子の屈折率との差が0.1以下になるように、選択することが好ましい。この様に単量体を選択することにより、得られる有機無機複合フィラーに十分な透明性を付与できる。更に、有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物に配合する場合、該有機無機複合フィラーの屈折率と、歯科用硬化性組成物に配合される重合性単量体の重合体の屈折率と、の差を0.1以下になるように重合性単量体を選択することが好ましい。上述のように単量体を選択することにより、透明性のある歯科用硬化性組成物の硬化体が得られる。
有機無機複合フィラーにおいて、有機樹脂相の含有量は、無機一次粒子100質量部に対して通常、1〜40質量部であり、5〜25質量部が好ましい。なお、有機樹脂相の含有量は、示差熱-熱重量同時測定を行った際の質量減少量より求めることができる。
前記したa)〜c)工程から成る有機無機複合フィラーの製造方法において、a)工程は、本発明の無機凝集粒子を、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体3〜70質量部と有効量の重合開始剤とを含有させた重合性単量体溶液に浸漬する操作を行う。この工程において、無機一次粒子の表面に付着しているイオン性界面活性剤は、後述する方法にて有機溶媒を除去し、重合性単量体を重合することにより、重合性単量体の硬化物に取り込まれ、有機樹脂相の一部となる。
重合性単量体溶液において、有機溶媒に対する重合性単量体の含有量は、上記範囲内に制御する必要がある。この範囲内に重合性単量体の含有量を制御することにより、得られる有機無機複合フィラーの凝集間隙に形成されるミクロ孔容積を前記特定範囲内に制御できる。すなわち、無機凝集粒子の凝集間隙に浸入した重合性単量体溶液に含まれる有機溶媒は、重合性単量体を重合硬化する前に除去される。この溶媒の除去により生じる体積減少量に相当する体積量のミクロ孔が、無機一次粒子の凝集間隙に形成される。上記理由により、有機無機複合フィラーのミクロ孔容積を前記値の範囲(0.01〜0.30cm3/g)とするためには、重合性単量体溶液に含まれる重合性単量体の含有量を上記含有量にする必要がある。
重合性単量体の含有量が前記範囲外である場合には、ミクロ孔内に充填される重合性単量体量に過不足が生じる。重合性単量体の含有量が多すぎる場合には、得られる有機無機複合フィラー中に、微細な空気泡が形成される場合がある。更には、重合性単量体の含有量が多すぎる場合には、余剰の重合性単量体が無機凝集粒子の外周に多量に付着している。この状態で重合性単量体を重合硬化させると、無機凝集粒子同士が結合した塊状物が生成する不都合を生じやすい。これら不都合を勘案すると、重合性単量体溶液における重合性単量体の含有量は、有機溶媒100質量部に対して10〜50質量部がより好ましい。
重合性単量体溶液に含有される有機溶媒としては、公知の溶媒が制限なく使用できる。例えば、パークロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系有機溶媒や、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;などの非ハロゲン系有機溶媒などがあげられる。これら溶媒の中でも、溶媒除去工程の短時間化を可能とする高い揮発性を有していること、入手がしやすく安価なこと、製造の際に人体へ安全性が高いこと、などの観点から、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタンなどがより好ましい。
重合性単量体溶液に含有させる重合開始剤は、光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤のいずれであっても良い。光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、操作が簡便である点から、光重合開始剤または熱重合開始剤が好ましい。遮光下や赤色光下などの作業環境の制約無しに使用できる点で、熱重合開始剤がより好ましい。
熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物;5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類;ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
前記熱重合開始剤の中でも、操作上の安全性が高く、有機無機複合フィラーに対する着色が少ない等の特徴を有するアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が好適に使用される。
これら重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は、重合を進行させるに十分な、有効量であれば良い。一般的には、重合性単量体100質量部に対して重合開始剤の配合量は0.01〜30質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。
有機無機複合フィラーに種々の機能を付与するため、重合性単量体溶液には、紫外線吸収剤、顔料、染料、重合禁止剤、蛍光剤等の公知の添加剤を配合させても良い。
重合性単量体溶液を無機凝集粒子に浸入させる方法としては、重合性単量体溶液中に無機凝集粒子を浸漬する方法が例示される。浸漬は、通常は常温常圧下で実施するのが好ましい。無機凝集粒子と重合性単量体溶液との混合割合は、無機凝集粒子100質量部に対して、重合性単量体溶液30〜500質量部が好ましく、50〜200質量部がより好ましい。混合後は、静置することが好ましい。静置温度は特に制限がないが、通常は室温である。静置時間は30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凝集間隙に重合性単量体溶液が浸入することを促進するために、重合性単量体溶液と無機凝集粒子との混合物を、振とう攪拌、遠心攪拌、加圧、減圧、加熱しても良い。
重合性単量体溶液に無機凝集粒子を浸漬した後、重合性単量体を重合硬化させる前に、凝集間隙に充填されている重合性単量体溶液から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去においては、無機凝集粒子の凝集間隙に浸入している有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)を除去する。視覚的には、無機凝集粒子が互いに粘着して形成する凝固物が無くなり、流動状態の粉体が得られるまで除去を行えば良い。
有機溶媒の除去操作は、公知の如何なる乾燥操作によっても良い。例えば、対流伝熱乾燥、輻射伝熱乾燥、伝導伝熱乾燥、内部発熱乾燥などの加熱系乾燥や、真空乾燥、真空凍結乾燥、遠心乾燥、吸収剤による乾燥、吸引乾燥、加圧乾燥、超音波乾燥、などの非加熱系乾燥などが挙げられる。これらのうち、加熱系乾燥や真空乾燥、真空凍結乾燥等が好ましい。
真空乾燥による有機溶媒の除去の場合、減圧度は、重合性単量体や有機溶媒の沸点や揮発性を考慮して適宜選択すればよい。一般的には、減圧度は、100ヘクトパスカル以下、好ましくは0.01〜50ヘクトパスカル、最も好ましくは0.1〜10ヘクトパスカルである。
加熱系乾燥を実施する場合、加熱温度は、有機溶媒の沸点に応じて適宜選択すれば良い。有機溶液中に、重合開始剤として熱重合開始剤を含有させている場合は、その重合開始温度以下で加熱乾燥する必要がある。
乾燥方法は、上記した方法を組み合わせてもよい。乾燥時間を短縮する為に、真空乾燥と伝導伝熱乾燥などの加熱系乾燥を組み合わせることが特に好ましい。有機溶媒の除去操作は、有機無機複合フィラーの特徴を損なわない範囲で、攪拌下で行っても良い。
有機溶媒を除去した後、重合性単量体を重合硬化させる。採用する重合硬化方法は、用いる重合性単量体や重合開始剤によって異なるため、適宜最適な方法を選択すればよい。熱重合開始剤を用いる場合は加熱によって重合を行い、光重合開始剤を用いる場合は対応する波長の光を照射することによって重合を行なえば良い。
熱重合を行う場合、重合温度は用いる重合開始剤によって異なるため、適宜最適な温度を選択すればよい。一般的には、重合温度は、30〜170℃、好ましくは50〜150℃である。
光重合を行う場合、用いる光源は重合開始剤の種類に応じて異なるため、適宜最適な光源を選択すればよい。光源としては、一般的にはハロゲンランプ、LED、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の可視光線の光源や、低圧水銀灯、キセノンアーク灯、ジュウテリウムアーク灯、水銀キセノンアーク灯、タングステンハロゲン白熱灯、UV−LED、キセノンプラズマ放電管等の紫外線の光源等を挙げることができる。
以上の方法により、本発明の有機無機複合フィラーを効率的に製造することができる。なお、重合性単量体溶液中の重合性単量体の濃度を低くしておき、上記操作を複数回繰り返して実施しても良い。これらの操作を複数回繰り返すことにより、無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の量を徐々に増加させることを繰返して、ミクロ孔容積の形成量を調整することができる。
使用目的に合致する適当な粒度の無機凝集粒子を用いて、上記のようにして製造する有機無機複合フィラーは、そのまま製品として使用できる。適当な粒度の無機凝集粒子としては、上記噴霧乾燥法により造粒した無機凝集粒子が挙げられる。
目的とする用途に適する粒度と比較して、得られる有機無機複合フィラーの粒度が大きすぎる場合は、必要に応じて有機無機複合フィラーを適度な粒度に粉砕しても良い。粉砕は、振動ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて、行うことができる。更に必要に応じて、フルイ、エアー分級機、あるいは水ひ分級等を用いて分級しても良い。なお、粉砕処理を実施する場合、粉砕工程は、無機凝集粒子に重合性単量体溶液を含浸させ、有機溶媒を除去した後であって、且つ重合性単量体を重合させる前の時点で行っても良い。
有機無機複合フィラーは、更に表面処理が施されても良い。表面処理が施された有機無機複合フィラーは、この有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物の硬化体に、より高い機械的強度を与える。表面処理剤及び表面処理方法は、前述の無機一次粒子の表面処理剤及び表面処理方法と同様である。
(歯科用硬化性組成物)
既に説明した通り、本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物に配合される歯科用フィラーとして、特に有用である。歯科用硬化性組成物には有機無機複合フィラーに加えて、少なくとも重合性単量体と重合開始剤とが配合される。
重合性単量体としては、歯科用途に使用される公知のものが制限なく使用できる。通常は、前記有機無機複合フィラーの製造用に例示した重合性単量体と同じ範疇から採択すれば良い。重合性単量体の配合量は、有機無機複合フィラー100質量部に対して10〜100質量部で、20〜80質量部が好ましい。
重合開始剤としては、公知のものが制限なく使用できる。例えば、前記無機凝集粒子に浸入させた重合性単量体を重合硬化させるために例示した熱重合開始剤等が使用できる。一般に、歯科用硬化性組成物の硬化(重合)手段としては、その使用時の操作の簡便さから、光重合法が採用される場合が多い。上記理由により、本発明の歯科用硬化性組成物においても、重合開始剤として光重合開始剤を用いることが好ましい。
好ましい光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類、α-ジケトン類、チオキサンソン化合物、ビスアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加される。還元剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルデヒド類、含イオウ化合物などが例示される。さらに、必要に応じてトリハロメチルトリアジン化合物、アリールヨードニウム塩等を添加することも出来る。重合開始剤の配合量は、重合性単量体100質量部に対して0.01〜10質量部が一般的である。
歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機フィラーを添加することもできる。他の無機フィラーとしては、歯科用途に使用される公知のフィラーが制限なく使用できる。例えば、他の無機フィラーとしては、前記無機一次粒子と同様の材質の無機粒子を挙げることができる。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物においては、その効果を著しく阻害しない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光剤等が挙げられる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、一般に、前記各必須成分及び必要に応じて添加する各任意成分の所定量を十分に混練してペーストを得、さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去することによって製造される。歯科用硬化性組成物の用途は特に限定されないが、特に好適な用途は、歯科用充填修復材料や歯科用間接修復材料などの、歯科用複合修復材料である。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例に先立ち、基礎検討を行った。その結果を検討例1〜3に示す。
検討例1
平均粒度0.15μmのSiO2−ZrO2と、平均粒度0.05μmのYbF3とをそれぞれ懸濁水濃度が0.5質量%となるように超音波を60分間照射して水に分散させた。これら懸濁水をゼータ電位測定装置(マルバーン社製 ゼータサイザーナノ)を用いてゼータ電位を測定した。その結果を、図2に示した。SiO2−ZrO2のゼータ電位はZp=−43.5mVで、YbF3のゼータ電位はZp=17.3mVであった。両懸濁水を混合したところ、互いに相反する極性の電荷を有していた為、両無機粒子は激しく引き付けあいスラリーの粘度が上昇した。
検討例2
YbF3(平均粒度0.05μm)の懸濁液に、YbF3のに対して0.1質量倍の各種化合物を添加して、YbF3のゼータ電位を測定した。結果を表1、及び図3に示した。
アニオン系界面活性剤を添加することで、YbF3のゼータ電位をプラス側からマイナス側に移動させることが出来ることが分かった。
検討例3
界面活性剤として分子量の異なるポリアクリル酸ナトリウム(SPA)を添加した場合のYbF3(平均粒度0.05μm)のゼータ電位の変化を検討した。添加量は、YbF3の質量倍で示した。YbF3の懸濁液は、検討例2と同じものを使用した。
結果を図4及び表2に示した。
表2から、低分子量のSPAがゼータ電位の変化に対してより効果的であることが分った。添加量については、最小限の使用量として、YbF3に対して0.01倍量であることが分った。
実施例1〜10、比較例1〜4
(1) 表3に記載する無機1次粒子P〜Uの100gを、水150gに懸濁させ、40質量%の懸濁液を得た。懸濁液の調製は、循環型粉砕機(SCミル、三井鉱山製)を用いた。得られた分散液のゼータ電位をゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて光散乱電気泳動法で測定した。
(2) 得られた各分散液に表4及び化学式1)〜4)に示す界面活性剤を任意量添加し、撹拌混合した。無機1次粒子P〜Uの各単位面積あたりのイオン性基の量を算出した。この値は、対応する界面活性剤の吸着量に相当する。結果を、表6に示した。その後、変動したゼータ電位の値を測定した。結果を表6に示した。無機1次粒子の表面積1m2当りのイオン性基は、1018〜1020個であった。
なお、界面活性剤の添加量は、以下の表5の通りであった。
(3) 表6に示す第1の無機1次粒子(A)の懸濁液と、第2の無機1次粒子(B)(界面活性剤を含む)とを混合し、得られた混合懸濁液の粘度、粒度分布を測定した。結果を表6に示した。粘度は、B型粘度計BL2(東機産業社製)を用いて、粒度分布は、粒度分布計LS−230(ベックマンコールタール社製)を用いて測定した。
(4) 表面処理と、噴霧乾燥
4g(0.016mol)の表面処理剤(シランカップリング剤)と、0.003gの酢酸と、80gの水とを混合し、1時間30分撹拌して均一な水溶液を得た。上記の水溶液を、前述の2種の懸濁液を混合した濃度40質量%のスラリー250g(無機1次粒子100g)に混合し、均一になるまで撹拌した。
その後、スラリーを軽く撹拌しながら、ノズル式スプレードライヤーL8-i(大川原化工機社製)に供給し、噴霧乾燥法により造粒を行った。表面処理剤としては、3- メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いた。
(噴霧乾燥条件: 噴霧圧0.05MPa、供給スラリー流量3L/h、乾燥雰囲気空気の温度:230℃)。
造粒されて得られた無機凝集粒子の粉体を80℃、15時間真空乾燥し、無機凝集粒子82gを得た。
得られた無機凝集粒子の平均粒子径、粒径の変動係数の測定を行った。測定には粒度分布計LS−230(ベックマンコールタール社製)を用いた。結果を表7に示した。
(5)無機凝集粒子のミクロ孔容積および該ミクロ孔の平均孔径
水銀ポロシメータ〔「ポアマスター」(PoreMaster)、商品名;クワンタクローマ(Quantachrome)社製〕を用いた。0.2gの無機凝集粒子または有機無機複合フィラーを測定セルに入れて、ミクロ孔容積分布を測定した。ミクロ孔容積分布孔径1〜500nmの範囲の容積を積算し、ミクロ孔容積とした。また、この範囲のミクロ孔を対象にして、ミクロ孔容積分布から求めたメディアンミクロ孔直径を凝集間隙の平均孔径とした。結果を表7に示した。
(6)有機無機複合フィラーの製造
重合性単量体の略号を以下に記載する。
3G: トリエチレングリコールジメタクリレート
HD: 1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート
GMA: 2,2−ビス〔(3メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル〕プロパン
UDMA: 1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2−4−トリメチルヘキサン。
重合開始剤の略号を以下に記載する。
AIBN: アゾビスイソブチロニトリル
CQ: カンファーキノン
DMBE: N、N−ジメチル−p−安息香酸エチル。
先ず、GMAを60g、3Gを40g、AIBNを0.3gを混合し、有機無機複合フィラー調製用の単量体組成物を調製した。ナス型フラスコに、上記単量体組成物を1gと、エタノール5gとを入れて混合し、重合性単量体溶液を得た。この単量体溶液に、前述で得られた無機凝集粒子10gを浸漬した。
上記ナス型フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、混合物が均一になるまで30分間撹拌混合を行った。更に、撹拌状態において、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件下で、前記混合物を1時間乾燥させ、流動性の高い粉体を得た。
その後、前記乾燥した粉体をロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、1時間加熱することにより、前記粉体中の重合性単量体を重合硬化させ、有機無機複合フィラーを得た。
得られた有機無機複合フィラーの粒径を測定した。その後、粒径の変動係数CVを求めた。測定には粒度分布計LS−230(ベックマンコールタール社製)を用いた。これらの結果を表9に記載した。
(7)有機無機複合フィラーのミクロ孔容積および該ミクロ孔の平均孔径
無機凝集粒子のミクロ孔容積および該ミクロ孔の平均孔径の測定と同様の方法を用い、測定を行った。これらの結果を表9に記載した。
(8)硬化性組成物
前記製造した有機無機複合フィラーを用いて、下記表8に記載する配合の硬化性組成物を調製した。調製に際しては、赤色光下で、乳鉢を用いて下記組成の各成分を混練してペースト状にし、脱泡することにより硬化性組成物を得た。
(X線造影性)
直径7mm、深さ1mmの貫通孔を形成したモールドに上記調製した各硬化性組成物を充填し、孔の両端をポリエステルフィルムで覆った。可視光線照射器「パワーライト」で、両ポリエステルフィルムを通して硬化性組成物を30秒ずつ光照射し、厚さ1mm、直径7mmの硬化体を得た。
この硬化体と、厚さ1mm、2mm、3mm、4mmのアルミ板とを厚さ方向を一致させて並設した。この状態で、歯科用レントゲンを用いて、上記硬化体とアルミ板を同一視野で撮影した。
得られたレントゲン写真の各アルミ板と硬化体に相当する部分の白バックのL*値を測定した。測定には、色差計「TC-1800MKII」(東京電色社製)を用いた。
アルミ板1mm、2mm、3mm、4mmのL*値から近似曲線を求め、硬化体1mmのL*値をもとにして、アルミ相当厚さ(X線造影性)を求めた。結果を表9に示した。
(曲げ強さの評価)
打抜き溝を形成したモールドの打抜き溝に上記硬化性組成物を充填し、孔の両端をポリエステルフィルムで覆った。可視光線照射器「パワーライト」で、両ポリエステルフィルムを通して硬化性組成物を30秒ずつ光照射し、硬化体を得た。硬化体を#800の耐水研磨紙を用い、2×2×25mmの角柱状に整え、試験片を得た。
この試料片をオートグラフAG5000D(島津製作所製)に設置し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件で3点曲げ破壊強度を測定した。試験片5個について測定し、その平均値を曲げ強さとした。結果を表9に示した。
実施例1、2,3に於いては、界面活性剤量が多めな為、わずかに曲げ強さが低い結果となった。
実施例4に於いては、表面処理が不十分な為、曲げ強さがやや低い結果となった。
実施例5〜10においては、第2の無機1次粒子であるYbF3の配合量が少ない為、X線造影性がやや低い結果となった。
更に、実施例7においては、界面活性剤量が多いため曲げ強度がやや低い結果となった。
比較例1、2に於いては、懸濁液粘度が高く、噴霧乾燥を実施する事ができなかった。そのため、X線造影性、曲げ強度の測定が出来なかった。
比較例3に於いては、YbF3を添加していない為、X線造影性が低い結果になった。
比較例4に於いては、粉砕型の有機無機複合フィラーを用いているため、硬化体の曲げ強度が低い値となった。