JP3666842B2 - 陽イオン溶出性乾燥フィラー及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科用接着材料やグラスアイオノマーセメント等の歯科材料に使用される陽イオン溶出性乾燥フィラー及びその製造方法、並びに陽イオン溶出性フィラーを含む歯科用接着材に関する。
【0002】
【従来の技術】
フルオロアルミノシリケートガラスフィラー等の陽イオン溶出性フィラーは、水の存在下でポリカルボン酸等のポリ酸と接触すると、酸−塩基反応によるキレート架橋を起こし硬化するという性質を有しており、この様な性質を利用して多くの歯科材料に使用されている。
【0003】
例えば、従来から、各種補綴物の合着用、裏装用、修復用、および小窩裂溝填塞用等、幅広い臨床用途に利用可能なグラスアイオノマーセメントの原料として陽イオン溶出性フィラーが用いられている。また、近年は、アイオノマーセメント以外にも、レジン強化型アイオノマーセメントやコンポマーと呼ばれる充填材料や歯科用接着材にも使用され始めている。
【0004】
陽イオン溶出性フィラーを歯科用接着材に使用する場合には、酸性基含有重合性単量体、水および重合開始剤等と組み合わせて使用されるのであるが、この時の接着性能は用いる陽イオン溶出性フィラーのイオン溶出量および溶出速度、並びにフィラーの粒径や粒径分布に大きく影響を受ける。
【0005】
特に歯科用接着材のように予め液体成分中にフィラーを分散して取り扱う場合には、フィラーの沈降を防止するために、従来のアイオノマーセメント用に使用されているフィラーよりもさらに小さい微粒子(5μm以下)のフィラーの使用が望ましい。
【0006】
この様に小さな粒子径の陽イオン溶出性フィラーは、大きな粒子径のフィラーを粉砕することにより得ることができるが、乾式による粉砕では目的の粒子径まで小さくするのは難しいため、通常は、水を媒体とした湿式系で粉砕する方法が採用されている。また、陽イオン溶出性フィラーは、その陽イオンの溶出速度を調整することを目的に、酸を含む水溶液で表面処理等が施されることも多い。
【0007】
このように歯科用接着材に好適な陽イオン溶出性フィラーは水性懸濁液中で得られることが多いが、歯科用接着材の製造に際しては、取り扱い性や保存上の理由から、この様な水性懸濁液を一旦乾燥して乾燥状態の陽イオン溶出性フィラー(陽イオン溶出性乾燥フィラー)を得た後に所定量を他の液体成分に配合し再分散させられている。水性懸濁液の状態のままよりも陽イオン溶出性フィラーを一旦乾燥した方が、歯科用接着材の製造に使用するまでの取扱いや保存も容易になり、また、歯科用接着材製造時の工程も簡略化することができる。
【0008】
このとき、水性懸濁液を乾燥して乾燥状態の陽イオン溶出性フィラーを得る方法としては、加熱による乾燥、熱風中で乾燥させる熱風乾燥、減圧下で乾燥させる真空乾燥、水性懸濁液の液滴を熱風中で乾燥させる噴霧乾燥などの方法が一般に採用されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術に従って微粒子化および乾燥を行った陽イオン溶出性乾燥フィラーを歯科用接着材に用いた場合には、製品ごとにその接着性能にバラツキが生じることが分かった。
【0010】
本発明は、優れた接着性能を有する歯科用接着材を再現性良く安定して提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、陽イオン溶出性乾燥フィラーを液体成分に再分散させたときの分散性に着目して鋭意研究を行った。その結果、湿式粉砕やイオン溶出量調整のための処理によって得られる陽イオン溶出性フィラーの水性懸濁液から陽イオン溶出性フィラーを乾燥させる段階で微粒子が凝集して形成された凝集粒子は、液体成分に再分散させても容易に崩壊せず、もとの分散状態を再現することができないこと、及びこのときの粒子の分散状態が条件によって大きく変動するということが明らかになった。
【0012】
そして更に検討を行ったところ、歯科用接着材の液体成分に分散しているときの陽イオン溶出性フィラーの平均粒子径(D50)が0.01〜5μmであり、且つこの時の平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5であるときには歯科用接着材の接着性能は常に良好であるという知見を得た。
【0013】
そこで、本発明者等は、液体成分に再分散させたときの分散状態が上記のようになる陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法について検討を行ったところ、陽イオン溶出性ガラスを上記のような分散状態になるまで湿式粉砕した後、得られた水性懸濁液を直接乾燥させずに一旦その分散媒である水を有機溶媒で置換してから乾燥を行えば、液体成分中に再分散させたときに上記分散状態を再現性良く示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
一般に微粒子は、その粒径が小さくなればなるほど粒子表面の活性が増大するため乾燥工程でおこる粒子同士の凝集は強固になり、強固に凝集した凝集粒子を崩壊させて凝集前の状態に戻すのは困難である。これに対し、上記本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーは、液体媒体に分散させた時に容易に崩壊し、乾燥による凝集前と同様な分散状態に戻ることができる。
【0016】
湿式粉砕により微粉砕されたフィラーをそのまま乾燥させて得た従来の陽イオン溶出性乾燥フィラーは、粒子間の凝集力が強く液体媒体に再分散させても目的の分散状態を得ることができない。本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーのように、液体媒体に分散させたときに前記のような良好な分散状態を実現する陽イオン溶出性乾燥フィラーはこれまで知られていない。
【0017】
即ち、本発明は、陽イオン溶出性ガラスを湿式粉砕して、平均粒子径(D50)が0.01〜5μmで、且つ平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5である陽イオン溶出性フィラーの水性懸濁液を得、次いで該水性懸濁液の分散媒である水を有機溶媒で置換した後、乾燥させることを特徴とする、液体媒体に分散させた時の平均粒子径(D 50 )が0.01〜5μ m であり、且つこの時の平均粒子径に対する90%粒子径(D 90 )の比(D 90 /D 50 )が1〜5である陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法である。
【0018】
該本発明の製造方法によれば、前記本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーを容易にしかも効率よく製造することができる。なお、有機溶媒として水溶性有機溶媒を使用した場合には、水との置換が容易であり、更に効率よく本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーを製造することができる。
【0019】
本発明の製造方法により、本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーのように液体媒体に分散させたときに微分散し易いフィラーが得られる理由は必ずしも明らかではないが、水性懸濁液をそのまま乾燥させた場合には、陽イオン溶出性フィラーの表面および周囲に存在している水が蒸発する時に、その表面張力により強力にフィラー同士の凝集を引き起こすのに対し、水を一旦有機溶媒に置換してから乾燥させた場合には、表面張力の影響が弱まり、結果としてフィラーの凝集力が弱められるためではないかと推測される。
【0020】
また、他の本発明は、上記本発明の製造方法で製造された陽イオン溶出性乾燥フィラー2〜30重量部を、酸性基含有重合性単量体を5重量%以上含む重合性単量体100重量部、水3〜30重量部、及び重合開始剤0.01〜10重量部と混合することを特徴とする歯科用接着材の製造方法である。
【0021】
上記本発明の製造方法により製造される歯科用接着材は、安定して高い接着性能を示すという特徴を有する。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーは、該フィラーを構成する凝集粒子が液体媒体中に分散させたときに特定の分散状態を実現するような特殊な凝集状態を有している点を除けば、従来の陽イオン溶出性乾燥フィラーと特に変わる点は特にない。
【0023】
即ち、本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーを構成する物質としては、酸性水溶液の存在下でナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム等の金属イオンを溶出する珪素の酸フッ化物ガラス等の、歯科材料の分野において一般に使われている陽イオン溶出性ガラスが何等制限なく使用できる。
【0024】
好適に使用できる陽イオン溶出性ガラスを例示すれば、それぞれイオン重量%であらわした組成が、珪素10〜33重量%、アルミニウム4〜30重量%、アルカリ土類金属5〜36重量%、アルカリ金属0〜10重量%、リン0.2〜16重量%、フッ素2〜40重量%、残量酸素であるものが好適に使用される。
【0025】
なお、上記アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムが好ましい。また、上記アルカリ金属としてはナトリウム、リチウム、カリウムが好適であり、中でもナトリウムが特に好適である。更に、必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えることも可能である。
【0026】
このような陽イオン溶出性ガラスの製造方法は特に限定されないが、一般的にはガラスの原料となる成分、例えば二酸化ケイ素、人造氷硝石、フッ化アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム等を混合し1000℃〜1500℃の温度で溶融することによって得られる。このようなイオン溶出性ガラスとしては、トクソーアイオノマー{(株)トクヤマ製}、フジアイオノマータイプII{(株)ジーシー製}等が市販されており、工業的に入手可能である。
【0027】
また、乾燥状態での粒子性状も特に限定されず、使用形態に応じて適宜好適な粒子径に調整されたものが使用できる。本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーは、乳鉢等の簡便な粉砕で凝集粒子径を容易に300μm以下とすることができ、歯科用接着材にはこの様な凝集粒子径に粉砕されたものが好適に使用できる。
【0028】
本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーは、該フィラーを構成する凝集粒子が液体媒体に分散させた時に平均粒子径(D50)が0.01μm〜5μmの範囲であり、且つこの時の平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5となるような分散状態を有する。
【0029】
凝集粒子がこの様な分散状態を有さないときには、例えば歯科用接着材に使用したときに良好な性能を有するものを再現性良く得ることができない。即ち、液体媒体に分散されたときの平均粒子径(D50)が0.01μm未満の場合には、粘度が高くなりすぎて操作性が低下する。また、D50が5μmを越えるときには、フィラーの沈降が起こり接着性能が安定しない。さらにD50が0.01μm〜5μmの範囲であっても該比が5を越える場合にはフィラーの沈降が起こり接着性能が安定しない。
【0030】
尚、本発明において、陽イオン溶出性乾燥フィラーを液体媒体に分散させたときの平均粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)は、分散させて得られた懸濁液中に分散している粒子の粒度分布から求められる粒子径であり、平均粒子径(D50)は体積換算で小さい粒子径からの(体積)積算値が50%となるところの粒子径を意味し、90%粒子径(D90)は体積換算で小さい粒子径からの(体積)積算値が90%となるところの粒子径を示す。また、上記粒度分布は、レーザー回折法を用いた粒度分布計(例えばマルバーン社製 マスターサイザー)を使用し、循環させたエタノール中に液体媒体(100g)に陽イオン溶出性乾燥フィラー(2〜30g)を分散させた懸濁液を少量(0.5ml)加えて測定した粒度分布である。
【0031】
本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーは、液体媒体に分散させた時に前記のような分散性を示すものであれば特に限定されないが、歯科用接着材として使用したときに、懸濁液の急激な増粘やフィラーの沈降がより起りにくいという理由から前記D50は、0.05μm〜2.0μmの範囲、特に0.1μm〜1.0μmの範囲であるのが好ましい。
【0032】
ここで、上記陽イオン溶出性乾燥フィラーを分散させる液体媒体とは、液体であれば特に限定されない。歯科用接着材等の歯科用材料としての使用を考える場合には、目的とする物性等に応じて、水の他、アルコール等の有機溶媒、並びにアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の重合性単量体等の歯科用材料で一般に使用される液体成分をなんら制限なく用いることができる。但し、フィラーの分散性及び得られた懸濁液の操作性などを考慮すると100ポイズ以下の粘度を有する液体であることが好ましい。
【0033】
液体媒体に分散される陽イオン溶出性乾燥フィラーの量は特に限定されないが、例えば歯科用接着材として使用する場合は、通常、液体媒体100重量部に対して陽イオン溶出性乾燥フィラー2〜30重量部を分散させる。
【0034】
また、分散の方法についても特に制限はなく、撹拌による分散、ホモジナイザーによる分散、超音波による分散、ボールミル等の粉砕機による分散などを用いることができる。
【0035】
分散条件は、採用する分散方法に応じて目的とする分散状態が得られる様な条件を適宜決定すればよいが、例えば超音波を用いて分散させる場合には、出力600Wの連続型の超音波ホモジナイザー{RUS−600T (株)日本精機製作所製}を用いて500mlの分散液であれば2時間程度分散させればよい。また、ボールミルを用いて分散を行う場合には、振動ボールミル(ニューライトミル 中央加工機商事製)を用いて、200mlの分散液であれば2時間程度分散させればよい。
【0036】
なお、上記分散操作は、本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーを構成する凝集粒子を更に小さい粒子径の凝集粒子或いは一次粒子にまで崩壊させるものであり、後で詳述する、主として一次粒子の破砕を目的とする湿式粉砕操作とは区別される。上記分散操作においては湿式粉砕操作に比べて遥かに少ない労力(所要時間や加える外力の点で)で所期の分散状態を得ることができる。
【0037】
本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法は、次のような方法である。
【0038】
即ち、陽イオン溶出性ガラスを湿式粉砕して、平均粒子径(D50)が0.01〜5μmで、且つ平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5である陽イオン溶出性フィラーの水性懸濁液を得、次いで該水性懸濁液の分散媒である水を有機溶媒で置換した後、乾燥させる方法である。
【0039】
上記本発明の製造方法において、陽イオン溶出性ガラスを湿式粉砕する必要がある。乾式粉砕ではD50が0.01〜5μmで、且つD90/D50が1〜5となるような微粉末を得ることは一般に困難である。なお、ここで、陽イオン溶出性ガラスとしては、本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーのところで前記したものと同じものが使用できる。
【0040】
湿式粉砕の方法は特に限定されず、湿式のボールミルによる粉砕、湿式で連続型のボールミルであるウルトラビスコミルを用いた粉砕、水性懸濁液同士を衝突させて粉砕するナノマイザーを用いた粉砕など、公知の湿式粉砕方法を採用することができる。
【0041】
例えば、湿式で連続型のボールミル(例えば三井鉱山社製 ニューマイミル)を用いて粉砕を行う場合には、イオン溶出性ガラス濃度が5wt%〜60wt%程度の水性懸濁液20リットルをミルの回転数1400回転で7時間(50pass)程度行えば前記粒子径の範囲内のフィラーが得られる。また、ミルおよび粉砕ボールの材質はコンタミをさけるために金属製ではなく、アルミナまたはジルコニア等のセラミックス製のものが好ましい。
【0042】
また、粉砕により陽イオン溶出性フィラーのD50及びD90/D50が前記範囲内になったかどうかの確認は、前記したレーザー回折法を用いた粒度分布計による粒度分布測定により行うことができる。適用する湿式粉砕法について予め粉砕時間と粒度分布との関係を調べておけば、粉砕時間を粒度分布の指標とすることもできる。
【0043】
本発明において、陽イオン溶出性フィラーと水を含む水性懸濁液に特に制限はないが、上記のような湿式の粉砕機で粉砕を行った場合には、一般的には5wt%〜60wt%程度の陽イオン溶出性フィラー濃度の水性懸濁液が得られる。
【0044】
また、イオン溶出量や溶出速度の調整が必要な場合には、粉砕を行い目的の粒子径が得られてから酸処理を行うのが好ましい。粉砕の前に酸処理を行った場合には、粉砕により未処理のフィラー表面ができ、イオン溶出量およびイオン溶出速度がずれてしまう場合がある。酸処理の方法については特に制限はないが、粉砕で得られた水性懸濁液に、所望するイオン溶出量およびイオン溶出速度になるように酸または酸水溶液を添加し所定の時間撹拌した後、余剰の酸を取り除くため水洗することによって調整することができる。この時に用いられる酸は、塩酸等の無機酸やマレイン酸等の有機酸が使用できる。また、温度、時間等も適宜設定すればよい。水洗方法についても特に制限はないが、pHが中性付近になるまで濾過又は遠心分離機等を用いて水洗するのが好ましい方法である。酸処理後の陽イオン溶出性フィラー濃度は5wt%〜80wt%程度の範囲で得られる。
【0045】
本発明の製造方法では、陽イオン溶出性ガラスを湿式粉砕により水性懸濁液中でのD50が0.01〜5μmで、且つD90/D50が1〜5となるように粉砕した後、得られた水性懸濁液、あるいはその後必要に応じて更に前記酸処理を行って得られた水性懸濁液は、乾燥工程に入る前に分散媒である水を有機溶媒に置換する必要がある。この様な分散媒の置換を行わずに水性懸濁液をそのまま乾燥させた場合には、本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーを効率よく得ることができない。
【0046】
このとき用いられる有機溶媒は水より表面張力が小さいものであれば特に限定されず、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−メチル−2−ブタノール、1−ペンタノール、2−プロペン−1−オール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルコール類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が使用できる。
【0047】
これら有機溶媒は単独でまたは2種類以上の溶媒を任意に混合して用いることができる。なお、1−ブタノール、2−ブタノール等の難水溶性有機溶媒およびベンゼン、ヘキサン等の非水溶性有機溶媒を用いる時は、一旦水性懸濁液中の水を水溶性有機溶媒で置換した後、難水溶性または非水溶性の有機溶媒で置換する、あるいは水溶性有機溶媒の一部を難水溶性または非水溶性有機溶媒で置き換えた混合溶媒とする等の方法により、水からこれら有機溶媒への分散媒置換を行うことができる。
【0048】
上記有機溶媒の中でも置換効率の高さや置換操作の簡便性の点から、メタノール、エタノール、アセトン等の水溶性の有機溶媒を使用するのが好適である。特に操作時の安全性の観点から、生体に対する為害作用の少ないものを使用するのが望ましく、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセトン等、特にエタノール、1−プロパノール、2−プロパノールを使用するのが好適である。
【0049】
本発明の製造方法において、水性懸濁液の分散媒である水を上記有機溶媒で置換する方法は特に限定されないが、水性懸濁液中の水を陽イオン溶出性フィラーが乾燥しない程度にあらかじめ取り除き、その後有機溶媒で置換するのが作業性および有機溶媒の有効利用の点から好ましい。例えば、水性懸濁液を遠心分離して上澄みの水を除去した後、有機溶媒を加え混合撹拌し再び遠心分離するという操作を数回繰り返すことによって、または、水性懸濁液を濾過し、フィラーが乾燥しない程度に水を取り除いた後、有機溶媒を加え再び濾過するという操作を数回繰り返すことによって水を有機溶媒に置換することができる。
【0050】
本発明の製造方法において、上記分散媒置換操作を経た後の懸濁液の乾燥方法は特に限定されず、加熱による乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等の一般的な方法を用いることができる。しかしながら、乾燥温度が高過ぎると、陽イオン溶出性フィラーの表面状態が変化し、陽イオン溶出速度等の物性が変化してしまうことがあるため、200℃以下、特に150℃以下の温度で乾燥するのが好ましい。真空乾燥は、乾燥温度を低くすることが可能であるので、特に好適に採用できる乾燥方法である。
【0051】
この様にして乾燥した後、凝集塊を崩す程度の簡単な粉砕を適宜行って、使用形態に応じて好適な凝集粒子径を有する陽イオン溶出性乾燥フィラーを得ることができる。
【0052】
本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーは、酸性基含有重合性単量体、酸性基を含有しない重合性単量体、水及び重合開始剤等と組み合わせる事によって歯科用接着材として使用する事ができる。
【0053】
上記歯科用接着材の組成は特に限定されないが、好適な組成は、酸性基含有重合性単量体を5重量%以上含む重合性単量体を100重量部、本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーを2〜30重量部、水を3〜30重量部、及び重合開始剤を0.01〜10重量部である。
【0054】
上記の様な組成を有する歯科用接着材(本発明の歯科用接着材ともいう。)において、陽イオン溶出性乾燥フィラー以外の成分としては、従来の歯科用接着材に使用されている公知の化合物が何等制限無く使用できる。
【0055】
例えば、酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いる事ができる。具体例を示せば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート等のリン酸系の基を含有している重合性単量体、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等のカルボン酸系の基を含有している重合性単量体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系の基を含有している重合性単量体等が挙げられる。
【0056】
また、酸性基を含有しない重合性単量体としては、分子中に少なくとも1つの重合性基を持つものであれば公知の化合物を何ら制限なく使用できる。好適に使用できる化合物の具体例を示すと、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレートまたはメチルメタクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン等の多官能(メタ)アクリレート系単量体が挙げられる。
【0057】
また、重合開始剤としては公知のものが制限なく使用できる。このような重合開始剤は通常、化学重合開始剤と光重合開始剤に大別される。好適に使用できる化学重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物とN,N−ジメチル−p−トルイジン、N−ジメチルアニリン等のアミン化合物からなるレドックス型の重合開始剤;バルビツール酸誘導体/第四級アンモニウムハライド/銅化合物の組み合わせからなるレドックス型の重合開始剤;接着強度を向上させる目的で、上記したレドックス型の重合開始剤に酸性化合物によって分解し、重合可能なラジカル種を生成することができるp−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類やモノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−フロロフェニル)ホウ素、テトラフェニルホウ素、テトラキス(m−メトキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、メチルキノリニウム塩等のボレート類を添加した系;等が挙げられる。
【0058】
光重合開始剤としては、化合物そのもの自身が光照射にともない分解して重合可能なラジカル種を生成するカンファキノン、ベンジル等;これらにN,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノアセトフェノン等の重合促進剤を加えたもの;色素/光酸発生剤/ボレート類、及び色素/光酸発生剤/スルフィン酸塩類の3元系からなるもの;等が好適に使用できる。なお、上記色素としては、3−ベンゾイルクマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン等のクマリン系色素が好適に用いられる。また、光酸発生剤としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体が好適に用いられる。ボレート類やスルフィン酸塩類としては、前記レドックス型の重合開始剤の項で具体的に例示されたものが使用できる。
【0059】
上記重合開始剤の中でも、操作性に優れるという観点から、光重合開始剤を使用するのが好ましい。特に、色素/光酸発生剤/ボレート類の組合せ、又は色素/光酸発生剤/スルフィン酸塩類の組合せからなる光重合開始剤を使用するのが重合性の点から好ましい。
【0060】
本発明の歯科用接着材においては、保存安定性を損なわないために、酸性基含有重合性単量体と重合開始剤の一部を含む液体(A液)と陽イオン溶出性乾燥フィラーを酸性基を含まない重合性単量体及び水に分散させた液体と重合開始剤を含む液体(B液)とを別々に調整し使用直前に混合して用いることが好ましい。
【0061】
この時陽イオン溶出性乾燥フィラーを酸性基を含まない重合性単量体等に分散させる方法としては、撹拌、超音波、ボールミル等が挙げられる。
【0062】
本発明の歯科用接着材を使用する場合には、齲蝕部分を取り除いた歯の窩洞に上記A液及びB液を混合したものを塗布し、次いで光重合開始剤を使用した場合には光照射して、また、化学重合開始剤を用いた場合には数分間放置して接着材を硬化させ、硬化後、その上に、歯科用コンポジットレジン等の修復材料を充填すればよい。この様な操作により歯と修復材料を良好に接着することができる。
【0063】
また、本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーはポリカルボン酸と水の存在下で混合することにより、歯科用グラスアイオノマーセメントとして使用することもできる。
【0064】
この時使用するポリカルボン酸としては、水に可溶なものが好ましく、代表的なものを例示すればアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸の単独重合体およびこれらの不飽和カルボン酸の共重合体が挙げられる。また、ポリカルボン酸の分子量も特に限定されないが、一般には重量平均分子量で5,000〜500,000の範囲のものが好ましい。
【0065】
本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーを歯科用グラスアイオノマーセメントとして使用する際には、ポリカルボン酸30wt%〜70wt%、水70wt%〜30wt%からなる液を本発明の製造方法により製造される陽イオン溶出性乾燥フィラーと使用直前に液1重量部に対して粉1重量部〜3重量部の割合で混合し、良く練和したものを、齲蝕部分を取り除いた歯の窩洞に充填し、その上に金属等の補綴物を装着することにより歯と補綴物を良好に接着することができる。
【0066】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
なお、実施例及び比較例で使用される物質の略号および略称を以下に示す。
【0068】
MMA;メチルメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
PM2:ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
D26E:2,2−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン
TCT:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
CDAC:3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン
PBNa:ナトリウムテトラフェニルホウ素
実施例1
市販の陽イオン溶出性ガラス(トクソーアイオノマー粉、トクヤマ社製)1.5kgと水13.5kgを混合した水性懸濁液(濃度10wt%)を連続型の湿式ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて1400rpmで7時間粉砕を行った。
【0069】
粉砕前後の水性懸濁液について、その粒度分布計(マスターサイザー、マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定したところ、粉砕前(すなわち、市販陽イオン溶出性ガラス)は平均粒子径(D50)3.0μm、90%粒径(D90)は30μmであり(D90/D50=10)、粉砕後フィラー粒子径はD50が0.5μm、D90は1.2μm(D90/D50=2.4)であった。
【0070】
得られた陽イオン溶出性フィラーを含む水性懸濁液40mlを50mlのプラスチック製遠心管に入れ、遠心分離機(卓上遠心機、日立工機社製)を用いて3000rpmで30分間遠心した。上澄みの水(約30ml)を除去した後、メタノール30mlを加え、下に沈んでいる残さと撹拌混合を行った。次いで再び3000rpmで30分間遠心を行い、上澄み液(約30ml)を除去した。その後同様の操作を2回繰り返して、計3回メタノールを加えて溶媒置換を行った。次いで、このメタノールに置換された懸濁液をガラス製のシャーレに移し、50℃真空下で15時間乾燥し、陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0071】
得られた陽イオン溶出性乾燥フィラー1gを、メチルメタクリレート 5g中に加え、超音波洗浄機中で1時間分散させ、懸濁液中のフィラーの粒度分布を測定したところ、D50 は0.5μm、D90は2.1μmであり(D90/D50=4.2)、ほぼ単分散していた。なお、図1にこの時の粒度分布を示す。
【0072】
実施例2〜6
実施例1で粉砕した水性懸濁液を用いて、表1に示す有機溶媒を用いて実施例1と同様に分散媒の置換および乾燥を行い、陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0073】
実施例1と同様にメチルメタクリレートに分散させたときの分散性を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるように、何れの実施例においても良好な分散性(単一分散性)を示していることがわかる。
【0076】
実施例7
実施例1で粉砕した水性懸濁液を用いて、エタノールを用いて実施例1と同様に分散媒の置換をした後、塩化メチレン30mlを加え、下に沈んでいるスラリーと撹拌混合を行った。次いで3000rpmで30分間遠心を行い、上澄み液(約30ml)を除去した。その後同様の操作を2回繰り返して、計3回塩化メチレンを加えて分散媒置換を行い、その後実施例1と同様に乾燥を行った。
【0077】
実施例1と同様にして分散性を調べた結果を表1に示す。D50が0.5μm、D90は1.9μmであり(D90/D50=3.8)、ほぼ単分散していた。
【0078】
実施例8
実施例7と同様に、メタノールで置換した後さらに2−ブタノールで置換した。
【0079】
実施例1と同様に分散性を調べた結果を表1に示す。D50が0.5μm、D90は2.0μmであり(D90/D50=4.0)、ほぼ単分散していた。
【0080】
実施例1から6は水溶性有機溶媒を用いて置換した例で、実施例7および8はまず水溶性有機溶媒で置換した後、非水溶性または難水溶性の有機溶媒で置換した例であるが、いずれもほぼ単分散しており分散性は良好であった。
【0081】
比較例1
実施例1の粉砕で得られた陽イオン溶出性フィラーを含む水性懸濁液40mlを50mlのプラスチック製遠心管に入れ、遠心分離機を用いて3000rpmで30分間遠心した。上澄みの水(約30ml)を除去した後、スラリーをガラス製のシャーレに移し、50℃真空下で15時間乾燥し陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0082】
実施例1と同様にして分散性を調べた結果、D50が0.8μm、D90は10.9μmであり(D90/D50=13.6)、分散性は悪かった。
【0083】
このとき得られた粒度分布を図2に示す。実施例1に於ける粒度分布を示す図1との比較から、実施例1はほぼ単分散しており分散性が良好であるのに対し、比較例1では20μm程度の粒子径の凝集粒子が残っており分散性が悪いことがわかる。
【0084】
実施例9
市販の陽イオン溶出性ガラス(トクソーアイオノマー粉、トクヤマ社製)1.5kgと水13.5kg(スラリー濃度10wt%)を混合した水性懸濁液を連続型の湿式ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて1400rpmで5時間粉砕を行った。粒度分布計(マスターサイザー、マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定したところD50が0.8μm、D90は3.5μmであった。
【0085】
このスラリーを、実施例1と同様にメタノールを用いて分散媒置換及び乾燥を行い、陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0086】
実施例1と同様にして分散性を調べた結果、D50が0.9μm、D90は3.8μmであり(D90/D50=4.2)、ほぼ単分散していた。
【0087】
比較例2
実施例9の粉砕で得られた陽イオン溶出性フィラーを含む水性懸濁液を用いて比較例1と同様に乾燥を行い陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0088】
実施例1と同様にして分散性を調べた結果、D50が1.5μm、D90は14.8μmであり(D90/D50=9.9)、分散性は悪かった。
【0089】
実施例10〜12
乾燥温度を変更した以外は実施例1と同様の操作を行い陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。乾燥温度および実施例1と同様にして分散性を調べた結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
いずれの温度でも、得られた陽イオン溶出性乾燥フィラーの分散性は良かった。
【0092】
実施例13
実施例1と同様に粉砕を行った後、その水性懸濁液250gを500mlの三角フラスコに入れ、p−トルエンスルホン酸17.2gと水112.4gを加え、40℃で3時間撹拌し、陽イオン溶出性フィラーの表面処理を行い、フィラーからの陽イオン溶出速度の調整を行った。500mlの遠心管にこの水性懸濁液を入れ、3000rpmで30分間遠心分離を行い上澄み液を除去した、これに蒸留水300mlを加えスラリーと撹拌混合した後再び3000rpmで30分間遠心分離を行った。これを5回繰り返し余剰の酸を取り除いた。
【0093】
得られた水性懸濁液をメタノールを用いて実施例1と同様の操作で分散媒置換、及び乾燥を行い陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0094】
分散性を調べるために、HEMA60g、MMA20g、水20gの混合溶媒に得られた陽イオン溶出性乾燥フィラー16gを加え、振動ボールミル(ニューライトミル、中央加工機商事製)で3時間分散させた結果、D50が0.5μm、D90は1.6μmであり(D90/D50=3.2)、ほぼ単分散していた。
【0095】
比較例3
実施例13で得られた表面処理をした水性懸濁液を用いて比較例1と同様に分散媒置換せずに乾燥を行い陽イオン溶出性乾燥フィラーを得た。
【0096】
実施例13と同様にして分散性を調べた結果、D50が1.0μm、D90は16.9μmであり(D90/D50=16.9)、分散性は悪かった。
【0097】
実施例14
PM2を2g、MAC−10を1g、D26Eを1.5g、MMAを0.5g、TCTを0.1g混合したものをA液とし、実施例13で得られた分散液5.8gにPBNaを0.2g、CDACを0.001g加え混合したものをB液とし、歯科用接着材を調製した。
【0098】
この接着材の歯質に対する接着強度を調べるために次の方法で測定を行った。
【0099】
屠殺後24時間以内の牛前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、次に厚さ0.5mm、直径6mmの孔のあいたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。上記調整した接着材A液とB液を混合してこの模擬窩洞内に塗布し、30秒間放置した。可視光線照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて30秒間光照射し接着材を硬化させた。その上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークライトポステリア、トクヤマ社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して接着試験片を作製した。
【0100】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて引っ張り、歯牙とコンポジットレジンの引っ張り接着強度を測定した。
【0101】
尚、同一条件で作製した4本の試験片について引っ張り接着強度を測定し、その時の引っ張り接着強度の平均値および標準偏差を求めた。
【0102】
その結果、エナメル質に対して21.0(2.3)MPa、象牙質に対して18.3(1.9)MPaであった。尚、カッコ内は標準偏差である。エナメル質、象牙質のいずれについても高い接着強度であり、かつばらつきも小さく良好な結果が得られた。
【0103】
比較例4
接着材B液として、比較例3で得られた分散液5.8gにPBNaを0.2g、CDACを0.001g加え混合したものを使用した以外は実施例14と同様に歯質に対する接着強度を測定した。
【0104】
その結果、エナメル質に対して14.1(5.3)MPa、象牙質に対して10.2(5.9)MPaであった。尚、カッコ内は標準偏差である。エナメル質及び象牙質ともにばらつきが大きく安定した接着強度は得られなかった。
【0105】
【発明の効果】
本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーは、液体媒体中に分散させた時に、平均粒子径(D50)が0.01〜5μmで、且つ平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5となるような良好な分散性を示す。
【0106】
そして、従来の陽イオン溶出性乾燥フィラーを用いた歯科用接着材は、その接着性能がバラつくのに対し、本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーを用いた本発明の歯科用接着材は、安定して高い接着性能を示すという効果を有する。
【0107】
また、本発明の製造方法によれば、本発明の陽イオン溶出性乾燥フィラーを簡便且つ効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本図は、実施例1で得られた陽イオン溶出性乾燥フィラーをメチルメタクリレートに分散させた時の粒度分布である。
【図2】 本図は、比較例1で得られた陽イオン溶出性乾燥フィラーをメチルメタクリレートに分散させた時の粒度分布である。
Claims (4)
- 陽イオン溶出性ガラスを湿式粉砕して、平均粒子径(D 50 )が0.01〜5μmで、且つ平均粒子径に対する90%粒子径(D 90 )の比(D 90 /D 50 )が1〜5である陽イオン溶出性フィラーの水性懸濁液を得、次いで該水性懸濁液の分散媒である水を有機溶媒で置換した後、乾燥させることを特徴とする、液体媒体に分散させた時の平均粒子径(D50)が0.01〜5μmであり、且つこの時の平均粒子径に対する90%粒子径(D90)の比(D90/D50)が1〜5である陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法。
- 有機溶媒が水溶性有機溶媒である請求項1記載の陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法。
- 歯科材料に使用される陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法であることを特徴とする、請求項1又は2記載の陽イオン溶出性乾燥フィラーの製造方法。
- 請求項3記載の方法で製造された陽イオン溶出性乾燥フィラー2〜30重量部を、酸性基含有重合性単量体を5重量%以上含む重合性単量体100重量部、水3〜30重量部、及び重合開始剤0.01〜10重量部と混合することを特徴とする歯科用接着材の製造方法。
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