<二剤型歯科用接着剤>
本発明の二剤型歯科用接着剤は、A剤とB剤とを別々に備え、使用直前において、A剤およびB剤を混合して使用される。
(1)A剤
A剤は、モノマー成分として、第1重合性モノマーを少なくとも含有する。
第1重合性モノマーは、重合可能なモノマーであって、遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基を有する。
酸性基(遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基)は、例えば、第1重合性モノマーの分子中において、一方の末端に位置する。
遊離の酸性基として、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基などが挙げられる。このような酸性基は、第1重合性モノマーの分子中において、1種のみ含有されてもよく、2種以上併有されてもよい。言い換えれば、酸性基は、カルボキシ基、リン酸基およびスルホ基の群から選択される少なくとも1種の官能基である。また、酸性基の官能基数は、1以上であれば特に制限されない。
このような酸性基は、酸無水物を形成することができる。酸無水物は、2つの酸性基が脱水縮合することにより形成される。なお、以下において、酸無水物を形成している酸性基を酸性基の酸無水物とする。
酸性基の酸無水物として、例えば、カルボキシ基の酸無水物、リン酸基の酸無水物、スルホ基の酸無水物などが挙げられる。酸性基の酸無水物は、第1重合性モノマーの分子中において、1種のみ含有されてもよく、2種以上併有されてもよい。
このような遊離の酸性基および酸性基の酸無水物のなかでは、好ましくは、遊離のリン酸基、および、カルボキシ基の酸無水物が挙げられる。
また、第1重合性モノマーは、好ましくは、重合性基と、結合基とをさらに含む。
重合性基は、例えば、第1重合性モノマーの分子中において、酸性基と反対側の末端(他方の末端)に位置する。
重合性基は、エチレン性不飽和二重結合を含む。重合性基として、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミド基、ビニル基、シアン化ビニル基などが挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。つまり、第1重合性モノマーは、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基を含む。なお、(メタ)アクリロイルとは、メタクリロイルおよび/またはアククリロイルを含む。
結合基は、重合性基と酸性基とを結合する。つまり、結合基は、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基と、酸性基とを結合する。
結合基は、アルキレン基を少なくとも含む。アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、好ましくは、2以上、さらに好ましくは、4以上、例えば、30以下、好ましくは、18以下である。つまり、結合基は、好ましくは、炭素数4~18のアルキレン基を含む。
アルキレン基の炭素数が上記の範囲であると、二剤型歯科用接着剤の接着性の向上を図ることができる。とりわけ、アルキレン基の炭素数が4~18であると、アルキレン基の炭素数が4未満(例えば、2)である場合と比較して、二剤型歯科用接着剤の接着性の向上を確実に図ることができる。
結合基は、アルキレン基からなってもよく、アルキレン基に加えて他の原子団を含んでもよい。
具体的には、結合基がアルキレン基からなる場合、アルキレン基の一方の末端は、酸性基と直接結合し、アルキレン基の他方の末端は、重合性基と直接結合する。この場合、第1重合性モノマーは、好ましくは、遊離の酸性基を含む。
また、結合基がアルキレン基に加えて他の原子団を含む場合、アルキレン基の一方の末端は、他の原子団を介して酸性基と結合し、アルキレン基の他方の末端は、重合性基と直接結合する。この場合、第1重合性モノマーは、好ましくは、2つ以上の遊離の酸性基、または、1つ以上の酸性基の酸無水物を有する。
他の原子団として、例えば、芳香族環および連結基が挙げられる。
芳香族環には、2つ以上(好ましくは2つ)の遊離の酸性基、または、1つ以上(好ましくは1つ)の酸性基の酸無水物が結合される。芳香族環として、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環などの炭素数6~18の芳香族環が挙げられる。芳香族環のなかでは、好ましくは、ベンゼン環が挙げられる。
連結基は、アルキレン基の一方の末端と芳香族環とを結合する。連結基として、例えば、カルボニル基、アミド基などが挙げられ、好ましくは、カルボニル基が挙げられる。
これら第1重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、200以上、例えば、600以下、好ましくは、400以下である。
また、第1重合性モノマーは、含有する酸性基の種類によって分類することができる。
第1重合性モノマーとして、例えば、カルボキシ基および/またはカルボキシ基の酸無水物を含有するカルボキシ型第1重合性モノマー、リン酸基および/またはリン酸基の酸無水物を含有するリン酸型第1重合性モノマー、スルホ基および/またはスルホ基の酸無水物を含有するスルホ型第1重合性モノマーなどが挙げられる。第1重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができるが、好ましくは、単独使用される。
第1重合性モノマーのなかでは、好ましくは、カルボキシ型第1重合性モノマーおよびリン酸型第1重合性モノマーが挙げられる。
カルボキシ型第1重合性モノマーとして、例えば、特開2006-347943号公報の[0043]段落に例示されるカルボキシル基含有重合性単量体などが挙げられる。カルボキシ型第1重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
カルボキシ型第1重合性モノマーのなかでは、好ましくは、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物が挙げられ、さらに好ましくは、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物(以下、4-METAとする。)が挙げられる。
4-METAは、分子の一方の末端に位置するカルボキシ基の酸無水物と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、カルボキシ基の酸無水物が結合するベンゼン環(結合基)と、ベンゼン環に結合するカルボニル基(結合基)と、カルボニル基とメタクリロイルオキシ基とを結合するエチレン基(結合基)とからなる。
リン酸型第1重合性モノマーとして、例えば、特開2006-347943号公報の[0045]段落に例示されるリン酸基含有重合性単量体などが挙げられる。リン酸型第1重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
リン酸型第1重合性モノマーのなかでは、好ましくは、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートおよび10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが挙げられ、さらに好ましくは、2-メタクリロイルオキシエチルアシドホスフェート(以下、MEPとする。)および10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート(以下、MDPとする。)が挙げられ、とりわけ好ましくは、MDPが挙げられる。
MEPは、分子の一方の末端に位置する遊離のリン酸基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、リン酸基とメタクリロイルオキシ基とを結合するエチレン基(結合基)とからなる。
MDPは、分子の一方の末端に位置する遊離のリン酸基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、リン酸基とメタクリロイルオキシ基とを結合するデシレン基(結合基)とからなる。
A剤における第1重合性モノマーの含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、20質量%以下である。
また、A剤のモノマー成分は、詳しくは後述するが、第1重合性モノマー以外のモノマーを含有することができる。
モノマー成分における第1重合性モノマーの含有割合は、例えば、3質量%以上、好ましくは、15質量%以上、例えば、70質量%以下、好ましくは、45質量%以下である。
A剤のモノマー成分は、好ましくは、水酸基含有重合性モノマーをさらに含有する。また、A剤のモノマー成分は、必要に応じて、その他の重合性モノマーをさらに含有する。なお、A剤のモノマー成分は、第1重合性モノマーのみからなることもできる。
つまり、A剤のモノマー成分は、第1重合性モノマーのみからなってもよく、第1重合性モノマーおよび水酸基含有重合性モノマーからなってもよく、第1重合性モノマーおよびその他の重合性モノマーからなってもよく、第1重合性モノマー、水酸基含有重合性モノマーおよびその他の重合性モノマーからなってもよい。
水酸基含有重合性モノマーは、分子中に水酸基と上記の重合性基とを有する一方、上記の酸性基を有しない。また、水酸基の官能基数は、1以上であれば特に制限されない。
水酸基含有重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、120以上、例えば、800以下、好ましくは、600以下である。
水酸基含有重合性モノマーとして、例えば、水酸基含有モノ(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレートなど)、水酸基含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ1,3-ジメタクリロキシプロパンなど)、水酸基含有(メタ)アクリルアミド(例えば、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなど)などが挙げられる。水酸基含有重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
このような水酸基含有重合性モノマーのなかでは、好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、および、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパンが挙げられ、さらに好ましくは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAとする。)、および、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(以下、Bis-GMAとする。)が挙げられる。
モノマー成分における水酸基含有重合性モノマーの含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、2質量%以上、さらに好ましくは、20質量%以上、例えば、70質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
A剤における水酸基含有重合性モノマーの含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上、さらに好ましくは、10質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、25質量%以下である。
A剤が水酸基含有重合性モノマーを含有すると、二剤型歯科用接着剤の接着性の向上を確実に図ることができる。また、水酸基含有重合性モノマーがA剤に含有されているので、水酸基含有重合性モノマーの水酸基と、B剤に含有される第2重合性モノマーから生じるカルシウムイオンとが反応することを抑制できる。そのため、二剤型歯科用接着剤の貯蔵安定性を確実に確保することができる。
その他の重合性モノマーは、第1重合性モノマーおよび水酸基含有重合性モノマー以外の重合性モノマーであって、分子中に上記の重合性基を有する一方、上記の酸性基および上記の水酸基を有しない。また、その他の重合性モノマーは、分子中にアルコキシシリル基を有しない。
その他の重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、100以上、例えば、1000以下、好ましくは、700以下である。
その他の重合性モノマーとして、例えば、一官能(メタ)アクリレート、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その他の重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
一官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキルモノ(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなど)、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなど)、アリールモノ(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。一官能(メタ)アクリレートは、単独使用または2種以上併用することができる。
二官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなど)、ウレタン結合を有するウレタンジ(メタ)アクリレート(例えば、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなど)、オキシアルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなど)、芳香環含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
三官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソシアヌレート環を有するイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート(例えば、トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなど)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。三官能(メタ)アクリレートは、単独使用または2種以上併用することができる。
その他の重合性モノマーのなかでは、好ましくは、一官能(メタ)アクリレートおよび三官能(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレート、および、イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートが挙げられ、とりわけ好ましくは、メチルメタクリレート(以下、MMAとする。)、および、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(以下、TAEIとする。)が挙げられる。
モノマー成分におけるその他の重合性モノマーの含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下、さらに好ましくは、50質量%以下である。
A剤におけるその他の重合性モノマーの含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下である。
このようなモノマー成分の総量の含有割合は、後述する溶媒を除いたA剤の質量(固形分質量)に対して、例えば、40質量%以上、好ましくは、95.0質量%以上、例えば、99.8質量%以下である。
また、A剤は、任意成分として、光重合開始剤、重合禁止剤、還元剤などを含有することができ、さらに必要に応じて、フィラー、シランカップリング剤などを含有することができる。
光重合開始剤は、光(例えば、紫外線、可視光など)によって増感される化合物であって、例えば、α-ケトカルボニル化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物などが挙げられる。光重合開始剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
α-ケトカルボニル化合物として、例えば、α-ジケトン(例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノンなど)、α-ケトアルデヒド(例えば、メチルグリオキザール、フェニルグリオキザールなど)、ピルビン酸などが挙げられる。α-ケトカルボニル化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
アシルホスフィンオキサイド化合物として、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。アシルホスフィンオキサイド化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
光重合開始剤のなかでは、好ましくは、カンファーキノン(以下、CQとする。)、および、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(以下、DTMPOとする。)が挙げられ、さらに好ましくは、CQおよびDTMPOの併用が挙げられる。
モノマー成分100質量部に対する、光重合開始剤の含有割合は、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下、さらに好ましくは、2質量部以下である。
また、A剤における光重合開始剤の含有割合は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、例えば、5質量%以下、好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.5質量%以下である。
重合禁止剤は、モノマー成分の意図しない重合反応を抑制できる化合物であって、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジンなどが挙げられる。重合禁止剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
重合禁止剤のなかでは、好ましくは、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTとする。)、および、ヒドロキノンモノメチルエーテル(以下、MEHQとする。)が挙げられ、好ましくは、BHTおよびMEHQの併用が挙げられる。
モノマー成分100質量部に対する、重合禁止剤の含有割合は、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上、例えば、1.0質量部以下、好ましくは、0.4質量部以下である。
また、A剤における重合禁止剤の含有割合は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、例えば、0.5質量%以下、好ましくは、0.30質量%以下である。
還元剤として、例えば、芳香族第三級アミン化合物(例えば、N,N-ジメチルp-トルイジン、N,N-ジエタノールp-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルなど)、芳香族置換グリシン化合物(例えば、N-フェニルグリシン、N-トリルグリシン、N,N-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニルグリシン、および、それらの塩など)、有機スルフィン酸化合物(例えば、o-トルエンスルフィン酸リチウム、o-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウムなど)が挙げられる。還元剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
還元剤のなかでは、好ましくは、芳香族第三級アミン化合物が挙げられ、さらに好ましくは、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(以下、DMABAEとする。)が挙げられる。
モノマー成分100質量部に対する、還元剤の含有割合は、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上、例えば、1質量部以下、好ましくは、0.5質量部以下である。
また、A剤における還元剤の含有割合は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、例えば、1質量%以下、好ましくは、0.2質量%以下である。
このようなA剤の形態は、特に制限されず、25℃(常温)において、固体であってもよく、液体であってもよいが、好ましくは、液体である。
A剤が25℃において液体である場合、A剤は、溶媒を含有する。
溶媒として、例えば、水、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類など)が挙げられる。溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。溶媒のなかでは、好ましくは、水およびアセトンが挙げられ、さらに好ましくは、水およびアセトンの併用が挙げられる。
A剤における溶媒の含有割合は、例えば、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上、例えば、85質量%以下、好ましくは、75質量%以下である。
フィラーとして、例えば、有機質フィラー、無機質フィラーおよび有機質複合フィラーなどが挙げられる。フィラーの配合によって、組成物の硬化層の機械的強度を向上させることや組成物の粘性を調整することができる。
有機質フィラーとして、例えば、前述した種々の重合性モノマーを予め重合硬化させた後に粉砕した粉末、あるいは分散重合によって得られた粉末重合体を使用できる。ここで、使用できるフィラーの原料となる重合性モノマーの種類に特に制限はない。重合性モノマーから形成されたフィラーを構成する樹脂として、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル(PBMA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)、ポリビニルアルコール(PVA)などを架橋剤によって不溶化させた粉末状重合体などが挙げられる。また、MMA/ブタジエン/スチレン3元共重合体などを挙げることができる。
無機フィラーとして、例えば、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、アルミナ石英、ガラス(バリウムガラスを含む)、チタニア、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウムなどが挙げられる。これら無機フィラーは、予めシランカップリング剤あるいはチタネートカップリング剤などで表面処理し、親水化または疎水化されていてもよい。
有機質複合フィラーとして、例えば、前述した無機質フィラー表面を重合性モノマーで重合して被覆した後に粉砕して得られるフィラー、または無機質フィラーと重合性モノマーとを懸濁重合して得られるフィラーなどが挙げられる。具体的には、無機質フィラーのうち、微粉末シリカをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)あるいは分子内にウレタン結合を有し、かつ、重合性基を通常2~8個有する多官能重合性モノマーを主成分とする重合性モノマーで重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラー(TMPT・f)を挙げることができる。また、PMMAを溶解したアセトンなどの溶液にシリカあるいは酸化ジルコニウムなどの無機フィラーを加えて分散し、溶媒を留去して乾燥した後に粉砕することによって得られるフィラーを挙げることができる。
モノマー成分100質量部に対する、フィラーの含有割合は、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1質量部以上、例えば、100質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
A剤におけるフィラーの含有割合は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、25質量%以下である。
シランカップリング剤として、例えば、分子内にアルコキシシリル基を有する重合性モノマーが挙げられる。アルコキシシリル基を有する重合性モノマーとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、トリメトキシシリルプロピルアリルアミンなどが挙げられる。シランカップリング剤のなかでは、好ましくは、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび2-スチリルエチルトリメトキシシランが挙げられる。
モノマー成分100質量部に対する、シランカップリング剤の含有割合は、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1質量部以上、例えば、20質量部以下、好ましくは、10質量部以下である。
A剤におけるシランカップリング剤の含有割合は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、1質量%以上、例えば、15質量%以下、好ましくは、10質量%以下である。
(2)B剤
B剤は、モノマー成分として、第2重合性モノマーを含有する。
第2重合性モノマーは、重合可能なモノマーであって、カルシウム塩を形成している酸性基を有する。
カルシウム塩を形成している酸性基は、例えば、第2重合性モノマーの分子中において、一方の末端に位置する。
カルシウム塩を形成している酸性基は、カルシウムイオン(Ca2+)と、上記した遊離の酸性基からプロトン(H+)が脱離した酸性イオンとから形成される。
このような酸性基のなかでは、好ましくは、カルボキシ基(カルボン酸イオン)およびリン酸基(リン酸イオン)が挙げられ、さらに好ましくは、リン酸基(リン酸イオン)が挙げられる。
第2重合性モノマーが有する酸性基がリン酸基であると、二剤型歯科用接着剤の接着性の向上をより確実に図ることができる。
また、第2重合性モノマーが有する酸性基の種類は、好ましくは、第1重合性モノマーが有する酸性基と同じである。つまり、第1重合性モノマーがカルボキシ基を有する場合、第2重合性モノマーは、好ましくは、カルボキシ基(カルボン酸イオン)を有し、第1重合性モノマーがリン酸基を有する場合、第2重合性モノマーは、好ましくは、リン酸基(リン酸イオン)を有する。
第1重合性モノマーが有する酸性基と、第2重合性モノマーが有する酸性基とは、種類が互いに同じであると、二剤型歯科用接着剤の接着力の向上をより一層確実に図ることができる。
また、第2重合性モノマーは、上記の酸性基を除いて、上記した第1重合性モノマーと同様の分子構成を有する。つまり、第2重合性モノマーは、好ましくは、上記した重合性基と、上記した結合基とをさらに含む。
重合性基は、例えば、第2重合性モノマーの分子中において、カルシウム塩を形成している酸性基と反対側の末端(他方の末端)に位置する。重合性基として、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。つまり、第2重合性モノマーは、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基を含む。
結合基は、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基と、酸性基とを結合する。結合基は、上記したアルキレン基を含み、アルキレン基の炭素数は、好ましくは、4以上18以下である。つまり、結合基は、好ましくは、炭素数4~18のアルキレン基を含む。
アルキレン基の炭素数が上記の範囲であると、二剤型歯科用接着剤の接着力の向上を図ることができる。とりわけ、アルキレン基の炭素数が4~18であると、アルキレン基の炭素数が4未満(例えば、2)である場合と比較して、二剤型歯科用接着剤の接着性の向上を確実に図ることができる。
より具体的には、第2重合性モノマーは、上記した第1重合性モノマーのアニオンと、カルシウムカチオンとを含む。
このような第2重合性モノマーの分子量は、例えば、180以上、好ましくは、300以上、例えば、600以下、好ましくは、500以下である。
第2重合性モノマーは、含有する酸性基の種類によって分類することができる。
第2重合性モノマーとして、例えば、カルシウム塩を形成しているカルボキシ基を含有するカルボキシ型第2重合性モノマー、カルシウム塩を形成しているリン酸基を含有するリン酸型第2重合性モノマー、カルシウム塩を形成しているスルホ基を含有するスルホ型第2重合性モノマーなどが挙げられる。
このような第2重合性モノマーのなかでは、好ましくは、カルボキシ型第2重合性モノマーおよびリン酸型第2重合性モノマーが挙げられる。
カルボキシ型第2重合性モノマーは、上記したカルボキシ型第1重合性モノマーの酸性基がカルシウム塩を形成するモノマーである。カルボキシ型第2重合性モノマーのなかでは、好ましくは、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩が挙げられ、さらに好ましくは、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩(以下、4-MET・Caとする。)が挙げられる。
4-MET・Caは、分子の一方の末端に位置するカルシウム塩を形成する2つのカルボキシ基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、2つのカルボキシ基が結合するベンゼン環(結合基)と、ベンゼン環に結合するカルボニル基(結合基)と、カルボニル基とメタクリロイルオキシ基とを結合するエチレン基(結合基)とからなる。
リン酸型第2重合性モノマーは、上記したリン酸型第1重合性モノマーの酸性基がカルシウム塩を形成するモノマーである。リン酸型第2重合性モノマーのなかでは、好ましくは、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートのカルシウム塩、および、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートのカルシウム塩が挙げられ、さらに好ましくは、MEPのカルシウム塩(以下、MECPとする。)、および、MDPのカルシウム塩(以下、MDCPとする。)が挙げられ、とりわけ好ましくは、MDCPが挙げられる。
MECPは、分子の一方の末端に位置するカルシウム塩を形成するリン酸基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、リン酸基とメタクリロイルオキシ基とを結合するエチレン基(結合基)とからなる。
MDCPは、分子の一方の末端に位置するカルシウム塩を形成するリン酸基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、リン酸基とメタクリロイルオキシ基とを結合するデシレン基(結合基)とからなる。
このような第2重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができるが、好ましくは、カルボキシ型第2重合性モノマーおよびリン酸型第2重合性モノマーが併用される。
つまり、第2重合性モノマーは、好ましくは、リン酸型第2重合性モノマーおよびカルボキシ型第2重合性モノマーを含有し、さらに好ましくは、それらからなる。言い換えれば、B剤は、好ましくは、カルシウム塩を形成しているリン酸基を有する第2重合性モノマー(リン酸型第2重合性モノマー)と、カルシウム塩を形成しているカルボキシ基を有する第2重合性モノマー(カルボキシ型第2重合性モノマー)とを含有する。なお、以下において、リン酸型第2重合性モノマーおよびカルボキシ型第2重合性モノマーを含有する第2重合性モノマーを、リン酸・カルボキシ併有第2重合性モノマーとする。
しかるに、カルボキシ型第2重合性モノマーは、リン酸型第2重合性モノマーと比較して、再石灰化能に優れる一方、後述するブラシの製造工程に使用される分散媒に対する分散性に劣る。そのため、第2重合性モノマーがカルボキシ型第2重合性モノマーのみからなる場合、ブラシの製造効率が比較的低下してしまう。一方、第2重合性モノマーがリン酸型第2重合性モノマーのみからなる場合、ブラシの製造効率の向上を図ることができるが、再石灰化能が比較的低下してしまう。
これらに対して、カルボキシ型第2重合性モノマーおよびリン酸型第2重合性モノマーを併用すると、再石灰化能とブラシの製造効率とをバランスよく確保することができる。
また、第2重合性モノマーがリン酸型第2重合性モノマーおよびカルボキシ型第2重合性モノマーを含有する場合、第2重合性モノマーにおけるリン酸型第2重合性モノマーの含有割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは、70質量%以上、例えば、99質量%以下、好ましくは、95質量%以下であり、第2重合性モノマーにおけるカルボキシ型第2重合性モノマーの含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下である。
リン酸型第2重合性モノマーおよびカルボキシ型第2重合性モノマーのそれぞれの含有割合が上記の範囲であれば、再石灰化能とブラシの製造効率とをより一層バランスよく確保することができる。
このような第2重合性モノマーは、例えば、遊離の酸性基を有する第1重合性モノマーを上記の有機溶媒に溶解してモノマー溶液を調製し、モノマー溶液に水酸化カルシウム水溶液を滴下した後、生成物をろ過および乾燥することにより、調製することができる。
また、リン酸・カルボキシ併有第2重合性モノマーは、リン酸型第2重合性モノマーおよびカルボキシ型第2重合性モノマーを別々に調製して、それらを混合することにより調製することができる。また、リン酸・カルボキシ併有第2重合性モノマーは、遊離のリン酸基を有する第1重合性モノマーと、遊離のカルボキシ基を有する第1重合性モノマーとを上記の有機溶媒に溶解してモノマー溶液を調製し、そのモノマー溶液に水酸化カルシウム水溶液を滴下することによっても、調製することもできる。
B剤のモノマー成分は、好ましくは、上記した水酸基含有重合性モノマーを含有しておらず、さらに好ましくは、第2重合性モノマーのみからなる。
B剤における第2重合性モノマーの含有割合は、例えば、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上、例えば、99質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
B剤は、任意成分として、上記した還元剤などを含有することができ、さらに必要に応じて、フィラー、シランカップリング剤などを含有することができる。
B剤に含有される還元剤として、好ましくは、上記した芳香族置換グリシン化合物および上記した有機スルフィン酸化合物が挙げられ、さらに好ましくは、N-フェニルグリシンのナトリウム塩(以下、NPG・Naとする。)およびp-トルエンスルフィン酸ナトリウム(以下、p-TSNaとする。)が挙げられ、とりわけ好ましくは、NPG・Naおよびp-TSNaの併用が挙げられる。
B剤における還元剤の含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上、例えば、80質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
B剤に含有されるフィラーとして、例えば、上記した有機質フィラー、無機質フィラーおよび有機質複合フィラーなどが挙げられる。
B剤におけるフィラーの含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下である。
B剤に含有されるシランカップリング剤として、例えば、上記した分子内にアルコキシシリル基を有する重合性モノマーが挙げられる。その中でも特に好ましくは、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび2-スチリルエチルトリメトキシシランが挙げられる。
B剤におけるシランカップリング剤の含有割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下である。
また、B剤の形態は、特に制限されず、25℃(常温)において、固体であってもよく、液体であってもよいが、好ましくは、固体である。また、B剤は、ブラシ、スポンジ、布、ダッペンなどに付着している形態であってもよい。
(3)キット
二剤型歯科用接着剤は、例えば、図1に示すように、接着剤キット1として調製される。なお、本実施形態では、25℃において、A剤が液体であり、B剤が固体でありブラシに付着している場合について説明する。
接着剤キット1は、ボトル2と、ブラシ3とを備える。
ボトル2は、A剤を内包しており、ボトル本体2Aおよびキャップ2Bを備える。
ブラシ3は、B剤を保持しており、シャフト3Aおよびブラシ部3Bを備える。
シャフト3Aは、棒形状を有する。ブラシ部3Bは、B剤を保持しており、シャフト3Aの一端部に設けられる。ブラシ部3Bの材料として、例えば、複数の繊維、スポンジなどが挙げられる。
ブラシ3にB剤を保持させるには、例えば、まず、固体のB剤を分散媒に、必要に応じて超音波を付与して分散させる。分散媒として、例えば、水、エタノール、アセトンなどが挙げられ、好ましくは、エタノールが挙げられる。
次いで、B剤の分散液にブラシ3のブラシ部3Bを浸漬する。その後、ブラシ部3Bを、B剤の分散液から取り出し、乾燥させる。
以上によって、B剤が、ブラシ3のブラシ部3Bに保持される。
なお、A剤と同様に、B剤に上記した遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基を有する第1重合性モノマー以外のモノマーや溶剤を含有させ、B剤を25℃において液体となるように調製してもよい。この場合、図示しないが、B剤はボトルに内包され、接着剤キットは、A剤を内包する第1ボトルと、B剤を内包する第2ボトルとを備える。
(4)作用効果
このような二剤型歯科用接着剤は、遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基を有する第1重合性モノマーを含有するA剤と、カルシウム塩を形成している酸性基を有する第2重合性モノマーを含有するB剤とを、別々に備えている。
そのため、二剤型歯科用接着剤を貯蔵しても、カルシウムイオンが、第1重合性モノマーから生じる酸イオンと、第2重合性モノマーから生じる酸イオンとを疑似架橋することを抑制でき、二剤型歯科用接着剤がゲル化することを抑制できる。その結果、二剤型歯科用接着剤の貯蔵安定性の向上を図ることができる。
また、このような二剤型歯科用接着剤は、A剤およびB剤を使用直前に混合することにより、修復材料と歯質との接着に利用される。
例えば、図2に示すように、二剤型歯科用接着剤が接着剤キット1である場合、接着剤キット1の使用直前において、A剤を、ボトル2からダッペン4の凹部4Aに注入する。そして、ブラシ3のブラシ部3Bを、凹部4A内のA剤に浸漬し、A剤を撹拌する。
これによって、A剤とブラシ部3Bに保持されるB剤とが混合される。その後、ブラシ部3BをA剤から取り出し、A剤およびB剤が混合された接着剤を、ブラシ3によって、歯質および/または修復材料に塗布する。次いで、修復材料を歯質に取り付け、または塗布し、必要により、光(例えば、可視光や紫外光など)を照射して接着剤および/または修復材料を硬化させる。以上によって、修復材料が、接着剤によって歯質に固定される。
このようなA剤およびB剤が混合された接着剤は、上記の酸性基を有する第1重合性モノマーと、カルシウム塩を形成している酸性基を有する第2重合性モノマーとを含有するので、歯質と接着剤とのハイブリッド層を形成できながら、歯質に対してカルシウムを供給することができる。そのため、二剤型歯科用接着剤は、修復材料と歯質との接着性の向上を図ることができながら、歯質の再石灰化を促進することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
<<A剤の調製>>
<調製例1~6>
表1の配合処方に従って、モノマー成分(第1重合性モノマー、水酸基含有重合性モノマーおよびその他の重合性モノマー)と、光重合開始剤と、重合禁止剤と、必要に応じて還元剤とを、溶媒に溶解または分散して、A剤を調製した。A剤は、25℃において液体であった。
表1中の略号の詳細を下記する。
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート
MEP:2-メタクリロイルオキシエチルアシドホスフェート
4-META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物
Bis-GMA:2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
TAEI:トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート
MMA:メチルメタクリレート
CQ:カンファーキノン
DTMPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
MEHQ:ヒドロキノンモノメチルエーテル
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
DMABAE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル
<<B剤の調製>>
<調製例7>
MDP3.2質量部をエタノール64質量部に添加して、10℃において撹拌して、MDPが溶解したモノマー溶液を準備した。また、水酸化カルシウム0.7質量部を蒸留水400質量部に溶解して、水酸化カルシウム水溶液を準備した。
次いで、モノマー溶液の温度を10℃に維持した状態で、モノマー溶液に水酸化カルシウム水溶液を30分間で滴下した。その後、混合液を、30分間、25℃(室温)において静置した。
次いで、混合液をろ過して、ろ物(生成物)を回収して、エタノールにより洗浄した。その後、ろ物を乾燥させて、10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェートのカルシウム塩(MDCP、第2重合性モノマー)を調製した。MDCPは、25℃において固体であった。その後、MDCPを粉砕および分級した。
次いで、表2の配合処方に従って、MDCPと還元剤とを乾式混合して、B剤を調製した。B剤は、25℃において固体であった。
<調製例8>
MDP3.2質量部をMEP2.1質量部に変更したこと以外は、調製例7と同様にして、2-メタクリロイルオキシエチルアシドホスフェートのカルシウム塩(MECP、第2重合性モノマー)を調製した。MECPは、25℃において固体であった。その後、MECPを粉砕および分級した。
次いで、表2の配合処方に従って、MECPと還元剤とを乾式混合して、B剤を調製した。B剤は、25℃において固体であった。
<調製例9>
MDP3.2質量部を4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4-MET)3.2質量部に変更したこと以外は、調製例7と同様にして、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩(4-MET・Ca、第2重合性モノマー)を調製した。4-MET・Caは、25℃において固体であった。その後、4-MET・Caを粉砕および分級した。
次いで、表2の配合処方に従って、4-MET・Caと還元剤とを乾式混合して、B剤を調製した。B剤は、25℃において固体であった。
<調製例10>
表2の配合処方に従って、調製例7と同様にして調製したMDCPと、調製例9と同様にして調製した4-MET・Caと、還元剤とを乾式混合して、B剤を調製した。B剤は、25℃において固体であった。
表2中の略号の詳細を下記する。
MDCP:10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェートのカルシウム塩
MECP:2-メタクリロイルオキシエチルアシドホスフェートのカルシウム塩
4-MET・Ca:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩
NPG・Na:N-フェニルグリシンのナトリウム塩
p-TSNa:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
<実施例1~6、8~10および比較例2>
調製例1~6のA剤と、調製例7~10のB剤とを、表3に示す組み合わせとなるように選択した。
そして、A剤をボトルに充填した。
また、B剤1質量部を、エタノール8.1質量部に超音波により分散した。次いで、B剤の分散液にブラシのブラシ部を浸漬した後、ブラシ部をB剤の分散液から取り出し、乾燥させた。以上によって、二剤型歯科用接着剤(接着剤キット)を調製した。
<比較例1>
調製例3のA剤26質量部と、調製例9のB剤0.6質量部とを、撹拌混合した。以上によって、一剤型歯科用接着剤を調製した。
<<評価>>
<保存安定性>
実施例1~6、8~10および比較例2の二剤型歯科用接着剤および比較例1の一剤型歯科用接着剤を、25℃の環境下で保存した。保存開始から1日後および30日後に性状を目視にて確認し、ゲル化または析出などの変化を生じた日数を記録した。その結果を表3に示す。
<接着性>
ウシ下額前歯を注水下#180 エメリーペーパーで研磨し平坦な接着用象牙質面を削りだし、象牙質面に、直径4.8mmの穴を有する両面テープを張り付け、接着面積を規定した。
そして、両面テープの穴から露出する象牙質面に、実施例1~6、8~10および比較例2の二剤型歯科用接着剤および比較例1の一剤型歯科用接着剤のそれぞれを塗布し、塗布膜が動かなくなるまでエアブローした。
5秒間、光照射(ペンキュア2000、モリタ社製)した後、直径4.8mmの穴を有する厚さ1mmの厚紙を、その穴から接着剤の塗布膜が露出するように両面テープ上に設置し、厚紙の穴にコンポジットレジン(メタフィルCX、サンメディカル社製)を充填し、20秒間光照射(ペンキュア2000、モリタ社製)した。
硬化したコンポジットレジン上にPMMA製引張試験用ロッドを接着(スーパーボンド、サンメディカル社製)し、30分静置して、試験サンプルを準備した。
次いで、試験サンプルを37℃水中に1日間浸漬した。その後、室温(25℃)において、オートグラフ(島津製作所社製、クロスヘッドスピード2mm/min)により引張試験を実施し、得られた接着強さを接着性(初期)とした。
また、上記と同様に準備した試験サンプルを、サーマルサイクル(5℃の水中と、55℃の水中とに交互に20秒間ずつ浸漬するサイクル)を5000回繰り返した後、上記の引張試験を実施し、得られた接着強さを接着性(H.C.5000)とした。それらの結果を表3に示す。
<イオンエッチング耐性>
ウシ下額前歯を注水下#180 エメリーペーパーで研磨し平坦な接着用象牙質面を削りだし、実施例1~6、8~10および比較例2の二剤型歯科用接着剤および比較例1の一剤型歯科用接着剤のそれぞれを塗布し、塗布膜が動かなくなるまでエアブローした。
その後、5秒間、光照射(ペンキュア2000/モリタ社製)した後、人工体液(水酸化カリウムでpH7.4に調製した10mmol/LのHepesに、2.24mmol/L塩化カルシウム、1.34mmol/Lリン酸二水素カリウム、150mmol/L塩化カリウム、0.02%アジ化ナトリウムを添加した水溶液)に、0、1、2、7日間浸漬した。
得られたサンプルをニッパで割断し、割断面をイオンエッチング装置(メイワフォーシス社製)にて12mA、30分の条件にて処理した。走査型電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて接着剤層を観察し、イオンエッチングに対する耐性を獲得した浸漬日数を記録した。その結果を表3に示す。