JP5052121B2 - 1液型歯質用前処理材 - Google Patents

1液型歯質用前処理材

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Description

本発明は、歯科医療分野において使用され1液型歯質用前処理材、詳しくは、コンポジットレジンや矯正用ブラケットを歯質に接着する際に使用される1液型歯質用前処理材に関する。
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、コンポジットレジンと呼ばれる歯科用修復材料が主に用いられ、近年では操作簡便性から光硬化性のコンポジットレジンが多く用いられている。コンポジットレジンは、その大部分がメタクリレート化合物のような重合性単量体とフィラーから成り、光硬化性コンポジットレジンは、光重合開始剤が配合される。このコンポジットレジンは歯の窩洞に充填後、ラジカル重合により硬化させて使用されることが一般的である。しかし、この材料自体は歯牙への接着性を持たないため、コンポジットレジン用の歯科用接着材(以下、単に「コンポジットレジン用接着材」とも称する)が併用される。この接着材には、硬化に際して発生する内部応力、即ち、歯質とコンポジットレジンとの界面に生じる引っ張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用によりコンポジットレジンが脱落する可能性があるのみならず、歯質とコンポジットレジンの界面で隙間を生じ、そこから細菌が進入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
一方、歯列矯正用ブラケット(以下単に「ブラケット」とも称する)も、歯科用接着材により歯質に接着される(この接着材を以下、単に「ブラケット用接着材」とも称する)。このブラケット用接着材も、同様にその簡便性から、光硬化性のものが用いられるようになっている。これら光硬化性のブラケット用接着材は、歯面上にてブラケットの位置を決めたあと、任意のタイミングで光硬化させて、接着でき操作性に優れる。その接着方法としては、ブラケット接着面にブラケット用接着材を塗布し、この塗布面を歯面に密着させた後、光硬化させる方法が一般的である。しかしながら、これらブラケット用接着材も歯牙に対する接着性が十分でなく、矯正治療中にブラケットの脱落が生じてしまう問題が生じる。
そこで、コンポジットレジンやブラケットを歯質に対してしっかりと固定させるために、コンポジットレジン用接着材またはブラケット用接着材を歯質に塗布する前に、以下のような前処理を施すことが行われている。すなわち、1)硬い歯質(主にエナメル質)をエッチング処理するための前処理材の塗布、2)プライマーと呼ばれる、歯質の中へ浸透促進剤としての前処理材の塗布である。
このようなエッチング処理用の前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の水溶液が用いられてきた。
一方、プライマーとしては、酸水溶液の脱灰による粗造化したエナメル質表面や、脱灰後に象牙質表面に露出したスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な隙間に接着材が浸透して硬化する必要があると言われているいため、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等の親水性モノマー、或いは有機溶媒などを主成分とする重合性単量体組成物が用いられている。なお、このプライマー自体には、重合開始剤は通常含有されていないが、その上に塗布されるコンポジットレジン用接着材またはブラケット用接着材の光硬化反応時に、該接着材で生じたラジカルが作用することにより、含有される重合性単量体は重合硬化する。
また、上記操作の煩雑さの軽減を目的として、酸水溶液の脱灰機能とプライマーの機能を併せもつセルフエッチングプライマー組成物も既に知られている。すなわち、重合性単量体成分の少なくとも一部として、歯質に対する親和性及び歯質脱灰性を向上させる作用を有するリン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するものを含有させ、さらに、歯質脱灰に必用な水も配合させたセルフエッチングプライマー組成物が開発され、1段階の前処理で酸水溶液の脱灰機能とプライマーの浸透促進機能の両方を発揮させることが可能となった。(コンポジットレジン接着用としては、例えば特許文献1および特許文献2を参照。ブラケット接着用としては、例えば特許文献3を参照)。ここで、上記ブラケット接着用のセルフエッチングプライマー組成物には、多価金属イオン溶出性フィラーの一種であるフルオロアルミノシリケートガラスを使用しても良いことが記載されている。なお、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体成分および水を含む歯科用材料において、さらに多価金属イオン溶出性フィラーが含有される組成物としては、他に、重合開始剤の配合により、自己の重合硬化性が高められて、エッチング処理やプライマー処理の機能を兼ね備えたコンポジットレジン用接着材とされたものも知られている(例えば、特許文献4を参照)。
特開平6−9327号公報 特開平6−24928号公報 特開2002−226314号公報 特開平10−236912号公報
本発明者らの検討によれば、コンポジットレジンやブラケットの歯質への接着に際して使用されるセルフエッチングプライマー組成物において、多価金属イオン溶出性フィラーを配合させたものは、エナメル質、象牙質双方に高い接着強度を与え、とても良好なものであった。すなわち、このプライマー組成物では、歯質の脱灰機能やプライマーの浸透促進機能が発揮される他、その上に塗布されるコンポジットレジン用接着材またはブラケット用接着材の光硬化反応時に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体成分が重合硬化する。そして、この硬化反応に加えて、酸性基含有重合性単量体由来の酸性基、水、および多価金属イオン溶出性フィラーの作用によるポリマー鎖のイオン架橋も合わせて生じ、これらの相乗効果により、エナメル質、象牙質双方に対して、強固な接着力が発揮される。
しかしながら、この多価金属イオン溶出性フィラーを配合させたセルフエッチングプライマー組成物では、前記構成成分を1液に混合して保存すると、前記酸性基含有重合性単量体、水、及びおよび多価金属イオン溶出性フィラーの作用によるイオン結合が徐々に発生し、ゲル化する問題があった。したがって、このプライマー組成物では、予め酸性基含有重合性単量体を含む液と、多価金属溶出性フィラーを含む液の2液をそれぞれ調製しておき、歯科医師が臨床に使用する直前にかかる2液を混合して使用する必要があった。かかる操作は歯科医師等にとって極めて煩雑であり、また混合操作や混合時間など、混合条件には操作者によりある程度のばらつきは避けられず、習熟度を要する等の問題があった。
したがって、重合性単量体成分の少なくとも一部として酸性基含有重合性単量体を含み、多価金属イオン溶出性フィラーが配合されてなるセルフエッチングプライマー組成物において、構成成分が1液に混合されて保存される試薬形態でありながら、ゲル化の発生が抑制された保存安定性に優れ、かつその歯質とコンポジットレジンやブラケットとの接着強度を高度に高めることができる可能なものを開発することが大きな課題であり、このような状況に鑑み本発明者等は、以下のような1液型歯質用前処理材を先に特許出願した。すなわち、
下記(A)〜(D)成分を含有する1液型歯質用前処理材。
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分100質量部、
(B)該前処理材中に溶出される多価金属イオン量をX(meq)としたとき、(A)成分1g当たりXが1.0〜7.0(meq)となるように配合された、多価金属イオン溶出性フィラー、
(C)30〜150質量部の範囲で且つ、その配合量が20×X質量部以上となるように配合された揮発性の有機溶媒、
(D)水を3〜30質量部、
この1液型歯質用前処理材は、上記多価金属イオン溶出性フィラーが配合されてなるセルフエッチングプライマー組成物であり、構成成分が1液に混合されて保存される試薬形態でありながら、上記(C)特定量の揮発性の水溶性有機溶媒の使用によりゲル化の発生が高度に抑制できる。そして、この有機溶媒は、前処理剤の使用時には、液を歯面に処理した後にエアブローすれば揮発除去でき、その多価金属イオン量を強固なイオン架橋を形成させるのに必要な量に短時間で濃縮できるため、該前処理剤では、これを塗布した歯質とコンポジットレジンやブラケットとの接着強度を高度に高めることができ大変有用である。
しかしながら、この前処理剤は、上記揮発性の水溶性有機溶媒の使用量が20×X質量部という、比較的多量でなければその保存時のゲル化抑制の効果が発揮されるものではなく、この場合、液を歯面に処理した後において使用するエアブローの風量によっては該有機溶媒の除去にかなりの時間を要していた。一方、水の使用量は、前記(A)重合性単量体成分100質量部に対して3〜30質量部であるが、これより多くするとエアブローによる除去性が低下して処理面にかなりの量の水が残留し、この場合、使用されている重合性単量体成分の水との親和性が悪いと十分な接着力が得られなくなることがあった。
これらから、上記前処理剤は、有機溶媒および水の各使用量に関して、組成比選択の幅が狭く、さらに改良の余地があった。
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、前記先に提案した(A)酸性基含有重合性単量体を特定量含む重合性単量体成分、(B)特定量の多価金属イオン溶出性フィラー、(C)特定量の揮発性の水溶性有機溶媒、及び(D)特定量の水を含む1液型歯質用前処理材において、(A)重合性単量体成分として、上記酸性基含有重合性単量体の他に、歯質との親和性に優れる親水性重合性単量体を特定量以上含有させ、且つ、疎水性の強い重合性単量体の含有量は一定割合以下に抑えた場合には、(C)揮発性の水溶性有機溶媒の使用量をかなり低減させても、1液に混合されて保存された時のゲル化抑制効果が良好に保持でき、さらに、水の使用量をかなり増加させた場合においても、エアブローで除去できなかった水と該重合性単量体成分との親和性が良いため高い接着性が良好に保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、少なくとも下記(A)〜(D)成分が混合されてなる1液型歯質用前処理材。
(A)i)酸性基含有重合性単量体5〜70質量%及びii)酸性基非含有重合性単量体95〜30質量%からなる重合性単量体成分であって、
該ii)酸性基非含有重合性単量体は、重合性単量体成分全量に対して少なくとも37質量%が、20℃における水への溶解度が50質量%以上である親水性重合性単量体であり、且つ重合性単量体成分全量に対して多くても10質量%しか、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体を含有していない上記重合性単量体成分100質量部
(B)該前処理材中に溶出される多価金属イオン量をX(meq)としたとき、(A)成分1g当たりXが1.0〜10.0(meq)となるように配合された、多価金属イオン溶出性フィラー、
(C)10〜250質量部の範囲で且つ、その配合量が5×X質量部以上となる量で配合された揮発性の水溶性有機溶媒
(D)水を3〜80質量部
本発明の1液型歯質用前処理材(以下単に、「前処理材」とも略する)は、歯質の脱灰機能を有し、該歯質への浸透促進機能にも極めて優れる。そして、歯質に塗布された後において、その上に塗布される歯科用接着材や歯科用修復材料の重合性組成物の硬化反応時に、(A)重合性単量体成分が重合硬化する。そして、この硬化反応に加えて、(A)重合性単量体成分に含まれる酸性基含有重合性単量体由来の酸性基、(D)水、および(B)多価金属イオン溶出性フィラーの作用によるポリマー鎖のイオン架橋も合わせて生じ、これらの相乗効果により、エナメル質、象牙質双方に対して、強固な接着力が発揮される。
そうして、この前処理材は、構成成分が1液に混合して保存される試薬形態であるにも関わらず、ゲル化し難く保存安定性に極めて優れる。したがって、使用時には、混合操作の必要がなく操作性に優れる。そして、このゲル化し難く保存安定性に優れる効果は、(C)揮発性の水溶性有機溶媒の使用量を比較的少量にしても良好に維持できるため、この場合には、歯質への塗布時におけるエアブローをより簡単化でき、揮発除去の確実性も向上させることができる。さらに、水の使用量がかなり多い場合でも、歯面に該水が多少残留してもこれと重合性単量体成分の親和性が良いため、接着性を高く維持できる。
本発明の大きな特徴は、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体成分、多価金属イオン溶出性フィラー、水を用いた歯質用前処理材において、これらを1液に混合すると共に、さらに、揮発性の水溶性有機溶媒を、B成分から溶出されるイオン量をXmeqとした時、その配合量を5×X質量部以上となるように配合した点にある。すなわち、歯面に塗布した前記前処理材層上での、コンポジットレジン等の重合性組成物の硬化時に、酸性基含有重合性単量体が重合したポリマー鎖の、より強固なイオン架橋を形成させようとすると、該多価金属イオン溶出性フィラーは、一般に、前処理材中の多価金属イオン量が1.0〜10.0meqとなるように配合することが必要であり、これをそのままの状態で保存すると、該保存時においてイオン結合が生じてゲル化してしまうため、前記従来技術のように2液に分ける必要性が生じる。
しかしながら、前述したように揮発性の水溶性有機溶媒を特定の量添加し、溶出されるイオンを特定の濃度に希釈することによって、該イオン結合は実質上問題になるレベルでは発生しなくなり、1液での保存が可能になる。そして、本発明では、この多価金属イオンの希釈を、揮発し難い水の増量だけではなく、揮発性の水溶性有機溶媒を加えることにより行っているため、前処理材の使用時において、液を歯面に処理した後にエアブローすれば、該有機溶媒は簡単に揮発除去され、該歯面に塗布された前処理材における多価金属イオン量を上記強固なイオン架橋を形成させるのに必要な量に短時間で濃縮できる。かくして、本発明の前処理材では、上記使用時の操作性に優れる1液型でありながら、保存時の安定性に優れ、しかも、そのラジカル重合による接着と、重合した酸性基含有重合性単量体のイオン架橋による接着の相乗効果はほとんど損なわれることなく発揮され、エナメル質、象牙質双方に対して高い接着強度を有するものになる。
本発明の(A)成分である重合性単量体において、分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であるのが好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が最も好ましい。
本発明において、上記(A)成分の重合性単量体は、i)酸性基含有重合性単量体5〜70質量%及びii)酸性基非含有重合性単量体95〜30質量%からなる。このうちi)酸性基含有重合性単量体は、その酸性基の作用により歯質に対する親和性に優れ、さらに歯質脱灰性も有するため、該酸性基含有重合性単量体を上記値で含有させることにより、本発明の前処理材はセルフエッチングプライマーとしての機能を備えたものになる。さらに、後述する(B)多価金属イオン溶出性フィラーから溶出する多価金属イオンとイオン架橋を生じて、その接着強度を大きく高める作用を有する。
ここで、該酸性基含有重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。分子中に存在する酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
Figure 0005052121
これらの酸性基の中でも、基−0−P(=O)(OH)、基(−O−)P(=O)OH等のリン酸系の基が最も好ましい。このような酸性基では、歯質の脱灰作用(主に酸性度の強いリン酸系の基を有する為と思われる)が高いばかりでなく、歯質への結合力も高く、特に高い接着強度が得られる。
こうした酸性基含有重合性単量体として好適に使用できる化合物を例示すれば、下記式に示す化合物の他、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
Figure 0005052121
Figure 0005052121
Figure 0005052121
Figure 0005052121
但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができるが、その中でも分子内において酸の価数が2価以上になるものがイオン結合向上の観点から好ましい。分子内における、酸の価数が2価以上の酸性基含有重合性単量体は、分子内に1価の酸基を2個以上有する形態であってもよいし、2価の酸基であれば分子内に1個有するだけで、この要件は満足される。このように分子内において、酸の価数が2価以上になる酸性基含有重合性単量体のみを用いた場合、上記のように強度向上の観点から好ましいが、1液状態での保存安定性は若干低下する傾向があるため、このような、分子内において同酸の価数が1価のものと2価以上のものを組み合わせて使用することがより好ましい。その中でも基−0−P(=O)(OH)、基(−O−)P(=O)OH等のリン酸系の基を含有している重合性単量体の上記組み合わせで使用することが最も好ましい。このような系では、歯質の脱灰作用(主に酸性度の強いリン酸系の基を有する為と思われる)が高いばかりでなく、本質的な結合力も高く、特に高い接着強度が得られ、更に1液状態での保存安定性も良好なものが得られる。
本発明において、上記i)酸性基含有重合性単量体を(A)重合性単量体成分中において全量に近い状態で用いた場合、脱灰力は向上するが、酸性が強すぎるため、象牙質のコラーゲン組織に対して悪影響を及ぼし、接着強度が高度には満足できなくなるため、ii)酸性基非含有重合性単量体を併用する。このi)酸性基含有重合性単量体による脱灰効果とii)酸性基非含有重合性単量体による希釈の効果を十分に発揮させるためには、i)酸性基含有重合性単量体の配合量は5〜70質量%であり、他方、ii)酸性基非含有重合性単量体の配合量は95〜30質量%とする必要がある。上記効果をより良好に発揮させる観点からは、)酸性基含有重合性単量体の配合量は10〜60質量%であり、他方、ii)酸性基非含有重合性単量体の配合量は90〜40質量%とするのが好ましい。ここで、i)酸性基含有重合性単量体の配合量が5質量%より小さく、ii)酸性基非含有重合性単量体の配合量が95質量%より多い場合、歯質脱灰性が十分でなくなりエナメル質に対する接着強度が低下する。一方、i)酸性基含有重合性単量体の配合量が95質量%より大きく、ii)酸性基非含有重合性単量体の配合量は30質量%より小さい場合、酸性が強すぎるため、象牙質に対する接着強度が低下する。
また、本発明において、このii)酸性基非含有重合性単量体は、(A)重合性単量体成分全量に対して、20℃における水への溶解度が50質量%以上である親水性重合性単量体を少なくとも37質量%含有し、且つ20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体を多くても10質量%しか含有していない組成にすることが必要である。
ここで、上記親水性重合性単量体は、前記したように歯質中への浸透促進機能に優れるため、該成分が含有されることは、前処理材としてのプライマー効果を高めることができて好適である。そしてさらに、該親水性重合性単量体を多量に含有していることにより(A)重合性単量体成分は、(C)成分の揮発性の水溶性有機溶媒との親和性が向上する。その結果、理由は定かではないが、各構成成分が1液に混合されて保存された際のゲル化発生の抑制効果が高まり、(C)成分の揮発性の水溶性有機溶媒の使用量を後述する少ない量にまで拡張することが可能になる(具体的には、5×X質量部以上20×X質量部未満)。また、同様に、(A)重合性単量体成分と(D)成分の水との親和性も向上し、使用時において、歯面にエアブローで除去できなかった水が多少残留しても接着性は高く維持できるため、(D)水の含有量を後述する多い量まで拡張することが可能になる(具体的には、A)重合性単量体成分100質量部に対して30質量部を超えて80質量部以下)。
こうした親水性重合性単量体は、歯質中への浸透促進機能、および上記ゲル化発生の抑制効果や重合性単量体成分の水との親和性を向上させる観点からは、20℃における水への溶解度が70質量%以上、最も好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶する強親水性のものであるのが好ましい。また、上記効果を十分に発揮させる観点からは、重合性単量体成分中において該親水性重合性単量体は、少なくとも37質量%含有させることが必要であるが、さらにこの効果を高めようとするならば少なくとも40質量%含有させることが好ましい。一方、酸性基非含有重合性単量体における全量が該該親水性重合性単量体で占められる等、この親水性重合性単量体の含有量があまり多すぎても、後述する酸性基含有重合性単量体による歯質脱灰能が低下するため、該親水性重合性単量体の含有量は80質量%以下に抑えるのが好ましい。
こうした親水性重合性単量体を具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(アクリレート又はメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でもヒドロキシ基を有するものが好ましく、前処理材を低粘度のものにすることができることから分子量が170未満のものがより好ましい。このような親水性重合性単量体としては2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが最も好適に利用できる。
一方、ii)酸性基非含有重合性単量体中において、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体は、耐水性を向上させる等の理由で、重合性単量体成分中において少量含有させても良いが、その含有量が10質量%を超えた場合、歯質中への浸透促進機能が十分でなくなり、接着性が低下し始める。加えて、(A)重合性単量体成分の(C)成分の揮発性の水溶性有機溶媒や(D)成分の水との親和性が低下し、前記1液型の試薬の保存時におけるゲル化発生の抑制効果が低下するため、(C)揮発性の水溶性有機溶媒の使用量を少なくできなくなる(具体的には、20×X質量部未満にできなくなる)。さらに、使用時において、歯面にエアブローで除去できなかった水が残留し易くなり、その場合接着性が大きく低下するため、(D)水の含有量を多くすることができなくなる(具体的には、A)重合性単量体成分100質量部に対して30質量部を超える量にできなくなる)。
特に、20℃における水への溶解度が0.1質量%以下である強疎水性重合性単量体は、上記ゲル化発生の抑制効果の低下がより激しく、水が残留した場合の接着性低下の問題も生じ易くなるため、上記量を超えて含有させないのが好ましい。また、こうした、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体の使用量は、多くても5質量%にするのが、上記効果を高度に発揮させる観点から好ましく、含有させない場合が最も好ましい。
こうした疎水性重合性単量体を具体的に例示すると、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
なお、上記ii)酸性基非含有重合性単量体は、前記親水性重合性単量体でも疎水性重合性単量体でもないその他の重合性単量体を、該親水性重合性単量体および疎水性重合性単量体の使用量の要件を満足させた上での残余の量として含有させても良い。このようなその他の非酸性重合性単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート、グリセリルジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセテート、2−(メタ)アクリルオキシエチルプロピオネート、3−(メタ)アクリルオキシプロピルアセテート等が挙げられる。
本発明の(B)成分として用いられる多価金属イオン溶出性フィラーは、接着層の機械的強度を向上させる為のフィラーとしての機能と共に、前述した酸性基含有重合性単量体とイオン架橋させる為の多価金属イオンを溶出させる機能を有する。本発明の歯科用1液型プライマーでは、該多価金属イオン溶出性フィラーは、酸性基含有重合性単量体とイオン架橋し高い接着強度を得るために、接着材中に溶出される多価金属イオン量が(A)成分1g当たり1.0〜10.0meqとなるように配合されることが重要である。すなわち、歯面に形成されるプライマー層に含まれるA成分1gあたり1.0〜10.0meqのイオン架橋できる多価金属イオンが存在することで界面に強固な層を形成することが可能となるのである。より高い接着強度を得る観点からは、上記接着材中に溶出される多価金属イオン量が(A)成分1g当たり1.0〜7.0meqとなるように配合されるのが好ましく、2.0〜5.0meqとなるように配合されるのが最も好ましい。接着材中の多価金属イオン量が(A)成分1g当たり1.0meq未満の場合には、イオン架橋が不十分になり、10.0meqを超える場合には、歯質脱灰力が低下するため、何れの場合においても接着強度が低下する原因となる。
ここで、多価金属イオンとは、前記酸性基と結合可能な2価以上の金属イオンのことであり、代表的なものを例示すれば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、ランタノイド等の金属イオンである。これらのうち、接着強度の観点から、アルミニウム等の3価のイオンは少なくとも一部として含有させるのがより好ましい。なお、多価金属イオン溶出性フィラーは、これら多価金属イオンを上記特定量溶出するものであればナトリウム等の一価の金属イオンを含有していても良いが、該一価の金属イオンをあまり多量に含有していると上記多価金属イオンのイオン架橋の反応性にも影響するため、該一価の金属イオンは、できるだけ含有量が少ないのが好ましく、通常は、多価金属イオンの含有量の10モル%以下であるのが望ましく、5モル%以下であるのが特に望ましい。
本発明において、多価金属イオン量(meq)は、A成分1g当りの多価金属イオンによるイオン結合量をミリ当量で表したものであり、A成分1g当りに含まれる各多価金属イオン濃度(mmol/g)にそれぞれの金属イオンの価数をかけて得られる値の総和を求めることによって計算できる。また、各イオン濃度はICP発光分光分析や原子吸光分析等で測定することができる。
また、多価金属イオン溶出性フィラーからの前処理材中への多価金属イオンの溶出は、通常、調整後室温(23°C)にて3時間〜12時間ほどで全て溶出される。故に、上記多価金属イオン量とは室温(23°C)にて調整24時間後の多価金属イオン量と実質的に等しく、(B)成分中に含まれる総多価金属イオン量とも通常は実質的に等しくなる。
(B)成分の多価金属イオン溶出性フィラーは、上記の条件を満たすものであれば特に限定されないが、多価金属イオンが、該多価金属イオンと同時に溶出可能なカウンターアニオンの塩として含まれている場合、溶出−解離した該カウンターアニオンが接着強度に悪影響を与える恐れがあるため、本発明では、多価金属イオンのカウンターアニオンが同時に溶出しないものを用いるのが好ましい。こうした要件を満足するフィラーとして、本発明では、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に多価金属イオンを含有したものが好適に使用される。
好ましい例を挙げると、多価金属イオンを含有させるための、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類としては、酸化物ガラス、フッ化物ガラス等を挙げることができる。酸化物ガラスからなるものとしてはアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等からなるものが挙げられ、フッ化物ガラスからなるものとしてはフッ化ジルコニウムガラス等からなるものを挙げることができる。なお、これらのガラス類からなる多価金属イオン溶出性フィラーは、該多価金属イオンを溶出させた後は、網様構造を有する多孔性の粒子となり、歯質用前処理材の強度を向上させる作用を有する。
上記多価金属イオン溶出性フィラーの中でも、硬化体強度の向上の点でアルミノシリケートガラスからなるものがより好適に使用され、さらに歯質を強化するフッ化物イオンを接着後に徐々に放出する、所謂フッ素徐放性を有するフルオロアルミノシリケートガラスからなるものが最も好適に用いられる。
多価金属イオン溶出性フィラーにおける多価金属イオンの溶出特性は各元素の配合比で制御することができる。例えば、アルミニウム、カルシウム等の多価金属イオンの含有率を多くすればこれらの溶出量は一般に多くなるし、また、ナトリウムやリンの含有率を変えることにより多価金属イオンの溶出量を変えることもできるので、多価金属イオンの溶出特性を比較的容易に制御することができる。
B成分として好適に使用できる上記のフルオロアルミノシリケートガラスは、歯科用セメント、例えば、グラスアイオノマーセメント用として使用される公知のものが使用できる。一般に知られているフルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン質量パーセントで、珪素、10〜33;アルミニウム、4〜30;アルカリ土類金属、5〜36;アルカリ金属、0〜10;リン、0.2〜16;フッ素、2〜40及び残量酸素のものが好適に使用される。より好ましい組成範囲を例示すると、珪素、15〜25;アルミニウム、7〜20;アルカリ土類金属、8〜28;アルカリ金属、0〜10;リン、0.5〜8;フッ素、4〜40及び残量酸素である。上記カルシウムの一部又は全部をマグネシウム、ストロンチウム、バリウムで置き換えたものも好ましい。また上記アルカリ金属はナトリウムが最も一般的であるが、その一部または全部をリチウム、カリウム等で置き換えたものも好適である。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えることも可能である。
本発明に用いられる(B)成分の多価金属イオン溶出性フィラーの形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状等の粒子を混ぜることもできる。
また、本発明の(B)成分である多価金属イオン溶出性フィラーは、前処理材の製造を容易にするという観点から、平均粒子径が0.01μm〜5μmのものが好ましく、より好ましくは0.05μm〜3μm、さらに0.1μm〜2μmの範囲のものが最も好ましい。更に、フィラー0.1gを温度23°C、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時の24時間後に溶出した多価金属イオンの量が、5.0〜500meq/g−フィラーであることが好ましい。より好ましくは、10〜100meq/g−フィラーである。この時の多価金属イオン量も、ICP発光分光分析や原子吸光分析等で測定することができる。なお、上記の条件下における24時間後の多価金属イオンの溶出量を、以下、「24時間溶出イオン量」ともいう。
溶出特性を制御する方法は、一般に知られている方法を用いることができるが、代表的な方法としては、多価金属イオン溶出性フィラーを酸で処理することにより、フィラー表面の多価金属イオンをあらかじめ除去し、溶出特性を制御する方法を挙げることができる。この方法に用いられる酸は塩酸、硝酸等の無機酸、マレイン酸、クエン酸等の有機酸など一般的に知られている酸が用いられる。酸の濃度、処理時間等は除去するイオンの量によって適宣決定すればよい。
本発明の歯科用接着材に使用する(C)成分である揮発性の水溶性有機溶媒としては、室温で揮発性を有し、水溶性を示すものを使用することができる。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100°C以下であり、且つ20°Cにおける蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20°Cでの水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
本発明の(C)成分は、前記A1成分と共に本発明のプライマーを1液状態で保存可能にするために必要である。前記したように、本発明の最大の特徴は、揮発性の水溶性有機溶媒を、(A)重合性単量体成分100質量部に対して10〜250質量部の範囲で且つ、B成分から溶出されるイオン量をXmeqとした時、その配合量が5×X質量部以上となるように配合することによって、溶出されるイオンを特定の濃度に希釈することにより、試薬の1液での保存を可能にした点にある。この配合量は前記した条件を満たすように配合されれば十分その効果を発揮できるものであり、本発明では、(A)重合性単量体成分が前記親水性重合性単量体を多量に配合し、且つ前記疎水性重合性単量体は一定量以下に配合量が抑えられているため、該有機溶媒の配合量が比較的少量(具体的には、5×X質量部以上20×X質量部未満)でも、上記保存安定性を良好にする効果が良好に発揮されるものになる。また、該揮発性の水溶性有機溶媒は、上記(A)重合性単量体成分に多量に含まれる親水性重合性単量体との親和性が良いため、その配合量を多くして(具体的には、A)重合性単量体成分100質量部に対して150質量部を超えて250質量部以下)、使用時にエアブローが不足して該有機溶媒が歯面に多少残留したような場合にも、その接着性を高く維持できるものになる。
この揮発性の水溶性有機溶媒の使用量は、上記保存安定性の良好さや接着強度の観点等から、更に好ましくは20〜150質量部の範囲で使用することが好ましい。更に、保存安定性を特に良好にする観点からB成分から溶出されるイオン量をXmeqとした時、その配合量が10×X質量部以上となるように配合することがより好ましい。
ここで、揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が10質量部未満では、保存安定性の効果を発揮させることが難しくなる他、前処理材の歯質への浸透性が低下し、十分な接着力が得られなくなる。他方、250質量部を越えると、過度のエアブローをしなければ有機溶媒が歯面に多量に残留するようになり十分な接着力が得られなくなる他、接着成分が薄まる為、エアブロー処理後に前処理材層における接着成分が不足し、接着強度が低下する。また、その配合量が前記条件である5×X質量部に満たない場合には、前処理材がゲル化してしまう為、1液での保存が不可能となる。実際に歯面に対して使用する際には、歯面に本発明の前処理材を塗布後、エアブローによって有機溶媒を揮発させる。この時、歯面に有効成分が濃縮され、酸性基含有重合性単量体と多価金属イオン間でのイオン架橋が促進されることにより優れた接着強度を得ることができる。
本発明の(D)成分で用いられる水は、歯質の脱灰、及び酸性基含有重合性単量体と多価金属イオン溶出性フィラーとのイオン架橋の促進の為に必要である。本発明では、前述のとおり(A)重合性単量体成分には親水性重合性単量体が多量に含有されており、そのため該水との親和性が良いため、この水の配合量をかなり多くして(具体的には、A)重合性単量体成分100質量部に対して30質量部を超えて80質量部以下)、使用時にエアブローが不足して該有機溶媒が歯面に多少残留しても、接着性が高く維持できる効果が発揮される。使用する水は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。
本発明に用いられる(D)成分である水の添加量は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して、3〜80質量部の範囲、より好ましくは3〜30質量部、最も好ましくは5〜25質量部である。C成分の添加量が3質量部未満では歯質の脱灰及びイオン架橋が不十分になる。また、80質量部より多い場合には、プライマーを歯面に処理した後においてエアブローによる除去性が低減し、処理面に水が多量に残存するようになり十分な接着力が得られなくなる。
また、本発明の前処理材には、硬化後の前処理材層の強度を向上させる目的で(E)無機充填剤を添加することが可能である。当該無機充填剤としては、シリカやジルコニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア、シリカ・アルミナなどの複合無機酸化物などが挙げられる。
当該無機充填剤の粒径は特に制限されないが、好ましくは1次粒径が5μm以下、より好ましくは0.001〜1μm、もっとも好ましくは0.01〜0.5μmである。当該無機充填剤の形状は何ら制限されず、不定形、球状の何れであってもよい。
これらの無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化することで重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。疎水化の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。
これらの無機充填剤の配合量は、通常、A成分100質量部に対して2〜30質量部の範囲、より好ましくは5〜20質量部である。2質量部未満では強度向上効果が十分に得られず、30質量部を超えると粘度が上昇し、歯質への浸透性が阻害され歯質接着強度の向上効果が十分に得られなくなる。
さらに、本発明の1液型歯質用前処理材にはその性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
また、本発明の前処理材において、その塗布面は歯科用接着材やコンポジットレジンで覆われるため、硬化時に空気中の酸素の影響は殆ど受けず、接着力にも何ら影響を及ぼすものでは無いが、該前処理材中に溶存する酸素の影響を最小限に抑えるために、第三級アミン類を添加しても何ら問題ない。第三級アミン類の具体例を挙げるとN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
以上説明した各成分は、1液に混合された試薬形態にされる。その混合方法は、公知の歯質用前処理材の製造方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
上記混合後において、(B)多価金属イオン溶出性フィラーから多価金属イオンが溶出し酸性基含有重合性単量体とイオン架橋が形成された後、残滓粒子は前記したとおりフイラー成分として前処理材の接着強度向上に寄与するが、液の塗布性を低下させたり、粒子径の大きいものは沈殿する場合もあるため、必要により少なくとも一部を除去して用いても良い。この場合、前処理材に、前記説明した無機充填剤が配合されていないか、或いは配合されていたとしてもその好適な配合量の下限値に満たない場合には、斯かる多価金属イオン溶出性フィラーの残滓粒子は、上記無機充填材の配合量と併せて、前記無機充填材の好適な配合量の下限値(A成分100質量部に対して2質量部、より好ましくは5質量部)以上は含有されるように除去するのが好ましい。各成分の混合液から(B)多価金属イオン溶出性フィラーの多価金属イオン溶出後の残滓粒子を除去する方法は、特に制限されるものではないが、液をデカンテーションして沈殿した粒子径の大きい残滓粒子から分離する方法や、濾過する方法等が挙げられる。
本発明の1液型歯質用前処理材は、歯科治療分野における歯質への接着対象物を該歯質に接着させる際の、接着力を高めるための前処理材として制限なく使用できる。一般には、セルフエッチングプライマー組成物として、コンポジットレジンやブラケットの他、補綴物の歯質への接着に際して利用できる。具体的にはコンポジットレジン用接着材またはブラケット用接着材、補綴物用接着材の塗布前に歯質に塗布して使用すればよい。ここで、コンポジットレジン用接着材やブラケット用接着材、或いは補綴物用接着材は、化学重合型のものであっても良いが、中でもコンポジットレジン用接着材やブラケット用接着材は操作簡便性等から、光重合開始剤が配合された光硬化型のものが好ましい。こうした光硬化型のコンポジットレジン用接着材またはブラケット用接着材としては、従来公知のものが何ら制限無く利用できるが、例えばコンポジットレジン用接着材としては、特開平6−9327号公報、特開平6−24928号公報、特開平8−319209号公報等に記載のものが利用できる。また、ブラケット用接着材としては、例えば、特表2005−529637号公報、特表2004−510796号公報、特開平5−85912号公報等に記載のものが利用できる。或いは、後述するようなコンポジットレジンをブラケット用接着材として用いても良い。
また、本発明の1液型歯質用前処理材は、歯質の修復部に対して、歯科用接着材を施さないで使用される、コンポジットレジンの充填前にも良好に使用できる。この使用態様は、コンポジットレジンが光硬化型である場合において、特に優れた操作性が得られて好ましい。具体的には、歯面に対して前処理材を塗布し、これを光硬化させることなく、その塗布面に光硬化型コンポジットレジンを充填して光硬化することで、該光硬化型コンポジットレジンだけでなく、その下層の前処理材層も同時に光硬化させる態様として実施される。この場合、前処理材の光硬化及び光硬化型コンポジットレジンの光硬化の2回の光照射を必要としていたものに対し、1回の光照射で該光硬化型コンポジットレジンの歯質への接着が可能になり、操作性が大きく改善される。この態様に使用する、光硬化型コンポジットレジンとしては、例えば、特開2005−089729号公報、特開2001−139411号公報、特開2000−026226号公報、特開平10−114616号公報、特開平06−157230号公報等を挙げることができる。
以下本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号、接着強度測定方法、保存安定性評価方法、及び多価金属イオン量測定方法については以下の通りである。
(1)略称及び略号
(A)重合性単量体成分
i)酸性基含有重合性単量体
PM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの2:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
ii)酸性基非含有重合性単量体
・親水性重合性単量体
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
(20℃における水への溶解度が任意)
HPMA:3−ヒドロキシプロピルメタクリレート
(20℃における水への溶解度が任意)
・疎水性重合性単量体
BisGMA:2,2’−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
(20℃における水への溶解度が0.6質量%以下)
D−2.6E:2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン
(20℃における水への溶解度が0.6質量%以下)
(B)多価金属イオン溶出性フィラー
MF1:製造例1で得た多価金属イオン溶出性フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:10meq/g−フィラー)
MF2:製造例2で得た多価金属イオン溶出性フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:25meq/g−フィラー)
MF3:製造例3で得た多価金属イオン溶出性フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:50meq/g−フィラー)
(C)揮発性の水溶性有機溶媒
Et−OH:エチルアルコール
IPA:イソプロピルアルコール
[重合開始剤、その他]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン
MDEOA:メチルジエタノールアミン
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
BTPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンソイル)−フェニルホスフィンオキサイド
TAZ:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジン
IMDPI:4−メチルフェニル−4′−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
[重合禁止剤]
HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
[その他成分(無機充填剤)]
F1:非晶質シリカ、粒径0.02μm、メチルトリクロロシラン処理
F2:球状シリカ−ジルコニア、粒径0.4μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、球状シリカ−チタニア、粒径0.08μm、tγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物の質量比70:30の混合物
F3:粉砕石英、粒径6μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、F1の重量比70:30の混合物
(2)コンポジットレジンの接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に前処理材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上に歯科用コンポジットレジンを充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
(3)矯正ブラケットの接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、唇面を歯面研磨剤(ネオ製薬株式会社製)で研磨し、水道水で洗浄後圧縮空気を吹き付けて乾燥させた。この研磨面に前処理材を塗布し、20秒放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この前処理材の塗布面に、金属製矯正ブラケット(中切歯用、デンツプライ三金製)の接着基部(面積、10.5mm)に矯正用接着材を塗布したものを圧接し、はみ出した余剰の接着材をピンセットの先で除去した。その後、ブラケットの近心及び末端側を20秒ずつ可視光線照射器(トクソーパワーライト)で光照射した。
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、0.50mmの丸ステンレスワイヤーをブラケットウイングにループ連結し、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙と矯正ブラケットの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
(4)保存安定性評価方法
調整後37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存した本発明の前処理材を用いて、上記した接着強度測定方法と同様の方法を用いて接着強度を測定し、37℃保存前の接着強度と比較した。その後、37℃のインキュベーター内で更に1ヶ月間保存し、ゲル化の有無を調べた。
(5)多価金属イオン量測定方法
本発明の前処理材を調整し、24時間攪拌した後、100mlのサンプル管に該前処理材を0.2g計り取り、IPAを用いて1質量%に希釈した。この液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、A成分1g当りに含まれるAl、La、Caイオン濃度(mmol/g)を測定した。得られた各イオン濃度にそれぞれのイオン価数をかけた値の総和を計算することで、A成分1gに対するイオン架橋量、即ち多価金属イオン量/meqを求めた。
なお、本実施例及び比較例で使用したフィラーから溶出する多価金属イオンは上記したAl、La、Caイオン以外のものは検出されなかった。
製造例1(多価金属イオン溶出性フィラー)
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を40分間処理し多価金属イオン溶出性フィラーMF1を得た。
得られた多価金属イオン溶出性フィラーMF1の0.1gを温度23℃、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時の24時間後に溶出した多価金属イオンの量をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて分析した結果、この多価金属イオン溶出性フィラーMF1の24時間溶出イオン量は10meq/g−フィラーであった。
製造例2(多価金属イオン溶出性フィラー)
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を20分間処理し多価金属イオン溶出性フィラーMF2を得た。ICP発光分光分析の結果、この多価金属イオン溶出性フィラーMF2の24時間溶出イオン量は25meq/g−フィラーであった。
製造例3(多価金属イオン溶出性フィラー)
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、多価金属イオン溶出性フィラーMF3を得た。ICP発光分光分析の結果、この多価金属イオン溶出性フィラーMF3の24時間溶出イオン量は50meq/g−フィラーであった。
製造例4(コンポジットレジンおよびブラケット用接着材の調整)
6.0gのBisGMA、4.0gの3Gに対して、0.03gCQ、0.05gのDMBE及び0.01gのHQME、0.003gのBHTを加え、暗所にて均一になるまで撹拌し、マトリックスとした。得られたマトリックス3.8gと、6.2gのF1をメノウ乳鉢で混合し、真空下にて脱泡することでフィラー充填率62%の光硬化型のコンポジットレジンCR1を得た。その組成を表1に示す。同様に、表1に示す組成比で、コンポジットレジンCR2〜CR9を調製した。
同様に表1に示す組成でブラケット用接着材OB1〜OB4を調整した。なお調製したコンポジットレジンおよび矯正用接着材は全て遮光容器で保存した。
Figure 0005052121
実施例1
(A)成分は、酸性基含有重合性単量体として5.0gのPM、同様に酸性基非含有重合性単量体の親水性重合性単量体として5.0gのHEMAを用いた。また、(B)成分として1.5gのMF1を用い、(C)成分として2.5gのIPAを用い、(D)成分として2.0gの蒸留水、その他成分として0.03質量部のBHTを用いた。これらの各成分を混合して本発明の歯質用前処理材を調整した。
該前処理材、及びコンポジットレジンとしてCR1を用いて、前処理材調整直後のエナメル質、象牙質接着強度、及び37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存後のエナメル質、象牙質接着強度をそれぞれ評価した。前処理材の組成を表2に、評価結果を表3に示した。
実施例2〜10、実施例12〜31
実施例1の方法に準じ、組成の異なる前処理材を調整し、該前処理材を用いて調整直後のエナメル質、象牙質接着強度及び37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存後のエナメル質、象牙質接着強度を評価した。前処理剤の組成を表2に、評価結果を表3に示した。
実施例11
実施例1と同様に、表2に示す組成で混合し、得られた混合物を1晩静置後、沈降成分をデカンテーションにより取り除き、上澄みを前処理材として評価した。評価結果を表3に示した。尚、デカンテーションにより、多価金属イオン溶出性フィラーにおける多価金属イオン溶出後の残滓粒子の粗大粒径のものが除かれ、デカンテーション前に含まれていた該残滓粒子の量は、90質量%に減少していた。
比較例1〜8
実施例1の方法に準じ、組成の異なる前処理材を調整し、該前処理材を用いて調整直後のエナメル質、象牙質接着強度及び37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存後のエナメル質、象牙質接着強度を評価した。前処理剤の組成を表4に、評価結果を表5に示した。
Figure 0005052121
Figure 0005052121
Figure 0005052121
Figure 0005052121
実施例1〜31は、各成分が本発明の前処理材の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においてもエナメル質、及び象牙質に対して良好な接着強度が得られている。また、37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存した場合においても歯面処理材がゲル化することなく、歯質に対する接着性能も維持されており、良好な保存安定性を有していることがわかる。
これに対して、比較例1、及び比較例8は多価金属イオン溶出性フィラーが配合されておらず、また比較例2は多価金属イオン溶出性フィラーは配合されているが、イオン溶出量が本発明の範囲に満たない場合であり、いずれの場合も象牙質の接着力が十分でなく、37℃1ヶ月保存後の接着力が大幅に低下した。同様に、比較例3はC成分である揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が本発明で示される条件(10〜250質量部の範囲で且つ、B成分から溶出される多価金属イオン量をX meqとした時、その配合量が5×X 質量部以上)を満足しない場合であるが、調整直後における歯質接着強度は良好であるもの、37℃に放置後1日〜3日経過時点で前処理材がゲル化した。また、比較例4は、疎水性重合性単量体の量が本発明で規定された量より多く配合されたものであるが、37℃に放置後10日〜15日経過時点で前処理材がゲル化した。また、比較例5は親水性重合性単量体の量が、本発明で規定された量より少ない場合であるが、37℃に放置後10日〜15日経過時点で前処理材がゲル化した。比較例6および7は揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が本発明で示される条件(10〜250質量部の範囲で且つ、B成分から溶出される多価金属イオン量をX meqとした時、その配合量が5×X質量部以上)を満足しない場合であるが、溶媒量が少ない場合は37℃に放置後1日〜3日経過時点で歯面処理材がゲル化し、多い場合は十分な接着強度が得られなかった。
実施例32〜35、比較例9
表6記載のプライマー及びブラケット用接着材を用いて、歯面処理剤調整直後の矯正ブラケット接着強度、及び37℃のインキュベーター内で歯面処理剤を1ヶ月間保存後の矯正ブラケット接着強度を評価した。評価結果を表6に示す。
Figure 0005052121
実施例32〜35は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても矯正ブラケット接着強度が得られている。また、37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存した場合においても接着性能も維持されており、良好な保存安定性を有していることがわかる。比較例9は、比較例1と同様に、37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存した後の接着強度が大幅に低下した。

Claims (10)

  1. 少なくとも下記(A)〜(D)成分が混合されてなる1液型歯質用前処理材。
    (A)i)酸性基含有重合性単量体5〜70質量%及びii)酸性基非含有重合性単量体95〜30質量%からなる重合性単量体成分であって、
    該ii)酸性基非含有重合性単量体は、重合性単量体成分全量に対して少なくとも37質量%が、20℃における水への溶解度が50質量%以上である親水性重合性単量体であり、且つ重合性単量体成分全量に対して多くても10質量%しか、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体を含有していない上記重合性単量体成分100質量部
    (B)該前処理材中に溶出される多価金属イオン量をX(meq)としたとき、(A)成分1g当たりXが1.0〜10.0(meq)となるように配合された、多価金属イオン溶出性フィラー、
    (C)10〜250質量部の範囲で且つ、その配合量が5×X質量部以上となる量で配合された揮発性の水溶性有機溶媒
    (D)水を3〜80質量部
  2. A)ii)酸性基非含有重合性単量体中における親水性重合性単量体が、ヒドロキシ基含有重合性単量体である請求項1に記載の1液型歯質用前処理材。
  3. (A)i)酸性基含有重合性単量体が、リン酸基含有重合性単量体である請求項1または請求項2に記載の1液型歯質用前処理材。
  4. 多価金属イオン溶出性フィラーが、23°Cの10質量%マレイン酸水溶液10mlに該フィラー0.1gを加えて24時間後の多価金属イオン溶出量が5.0〜500meq/g−フィラーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の1液型歯質用前処理材。
  5. 更に、多価金属イオン溶出性フィラーの平均粒子径が、0.01〜5μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の1液型歯質用前処理材。
  6. 歯質に対して、歯科用接着材の塗布前に使用されるものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の1液型歯質用前処理材。
  7. 歯科用接着材が、歯科用修復材料または歯列矯正用ブラケットの接着用である請求項6に記載の1液型歯質用前処理材。
  8. 歯質の修復部に対して、コンポジットレジンの充填前に、歯科用接着材を施すことなく使用されるものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の1液型歯質用前処理材。
  9. 少なくとも下記(A)〜(D)成分
    (A)i)酸性基含有重合性単量体5〜70質量%及びii)非酸性基含有重合性単量体95〜30質量%からなる重合性単量体成分であって、
    該ii)非酸性基含有重合性単量体は、重合性単量体成分全量に対して少なくとも37質量%が、20℃における水への溶解度が50質量%以上である親水性重合性単量体であり、且つ重合性単量体成分全量に対して多くても10質量%しか、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体を含有していない上記重合性単量体成分100質量部
    (B)該処理剤中に溶出される多価金属イオン量をX(meq)としたとき、(A)成分1g当たりXが1.0〜10.0(meq)となるように配合された、多価金属イオン溶出性フィラー、
    (C)10〜250質量部の範囲で且つ、その配合量が5×X質量部以上となる量で配合された揮発性の水溶性有機溶媒
    (D)水を3〜80質量部
    を混合させることを特徴とする1液型歯質用前処理材の製造方法。
  10. 少なくとも下記(A)〜(D)成分
    (A)i)酸性基含有重合性単量体5〜70質量%及びii)非酸性基含有重合性単量体95〜30質量%からなる重合性単量体成分であって、
    該ii)非酸性基含有重合性単量体は、重合性単量体成分全量に対して少なくとも37質量%が、20℃における水への溶解度が50質量%以上である親水性重合性単量体であり、且つ重合性単量体成分全量に対して多くても10質量%しか、20℃における水への溶解度が0.6質量%以下である疎水性重合性単量体を含有していない上記重合性単量体成分100質量部
    (B)該処理剤中に溶出される多価金属イオン量をX(meq)としたとき、(A)成分1g当たりXが1.0〜10.0(meq)となるように配合された、多価金属イオン溶出性フィラー、
    (C)10〜250質量部の範囲で且つ、その配合量が5×X質量部以上となる量で配合された揮発性の水溶性有機溶媒
    (D)水を3〜80質量部
    を混合させた後、(B)多価金属イオン溶出性フィラーにおける多価金属イオン溶出後の残滓粒子の少なくとも一部を除去することを特徴とする1液型歯質用前処理材の製造方法。
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