JP5783761B2 - 歯科用接着性組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、歯科医療分野において、金属、有機高分子、セラミックス、又はこれらの複合材料等からなる歯科用修復物と、歯質とを接着するために使用される歯科用接着性組成物に関する。
齲蝕等により損傷を受けた歯質は、それが初中期の比較的小さい窩洞の場合には、審美性、操作の簡略性、および迅速性の点から、コンポジットレジンによる直接修復が施される。一方、比較的大きな窩洞の場合には、金属、セラミックス、或いは歯科用レジンで作られた補綴物を用いた修復が施される。
コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物は、歯質に対する接着性がほとんどないため、重合性単量体組成物からなる接着材を用いて歯質に接着される。接着材に使用される重合性単量体は、通常、メタクリレート系重合性単量体を主成分とするものであり、歯質への接着力は十分とは言えない。例えばコンポジットレジンの接着の場合、その硬化に際して発生する内部応力、即ち、歯質とコンポジットレジンとの界面に生じる引っ張り応力に打ち勝つだけの接着強度に達していないことが多かった。さらに、咬合によって掛かる力に対しても、耐えられる接着強度に達していないことが多かった。そのため、接着強度を向上させることを目的として、接着材の使用前には、歯面に対して次のような前処理が施されている。すなわち、
1)硬い歯質(主にヒドロキシアパタイトを主成分とするエナメル質)をエッチング処理するための前処理材の塗布、さらに、
2)歯質中への接着材の浸透を促進するため、プライマーと呼ばれる前処理材の塗布
が行なわれている。
こうした中、より高い接着強度と、上記操作の煩雑さの軽減を目的として、歯質に対する高い接着性を有する重合性単量体を含有させた歯科用接着材が開発されている。例えば、重合性単量体成分の少なくとも一部として、歯質(ヒドロキシアパタイトやコラーゲン)に対して高い親和性を有する、リン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する重合性単量体(以下、酸性基含有重合性単量体という)を含有させたものが提案されている(特許文献1および特許文献2)。
また、酸性基含有重合性単量体としてリン酸モノエステル単量体を用い、これをカルシウム等との金属塩の形態にして用いることで、その接着強度を向上させた報告がある(特許文献3)。さらに、酸性基含有重合性単量体および水を含有する前処理材や接着材に、多価金属イオン溶出性フィラーを配合させることで、硬化性を大きく高めたものも知られている(特許文献4〜7)。ここで、多価金属イオン溶出性フィラーとは、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸水溶液中で多価金属イオンを溶出するフィラーが該当する。また、溶出する多価金属イオンとしては、アルカリ土類金属、アルミニウム等が一般的である。
こうした多価金属イオン溶出性フィラーを含有させた接着材において、接着強度が向上する理由は、接着材の硬化時に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の重合と共に、該多価金属イオン溶出性フィラーから溶出した多価金属イオンが、酸性基含有重合性単量体の酸性基と塩を形成し、これによりイオン架橋が生じるためではないかと考えられる。
特開昭52−113089号公報 特開昭58−21687号公報 特開昭53−113843号公報 特開平9−263604号公報 特開平10−236912号公報 特開2001−72523号公報 特開2000−86421号公報
特許文献4〜7などで提案されている、酸性基含有重合性単量体、多価金属イオン、水からなる接着材は、前述したように酸性基含有重合性単量体と多価金属イオンとの間にイオン架橋が形成され、それにより高い接着強度が得られるものであり、大変有用である。しかしながら、酸性基含有重合性単量体、多価金属イオン、水を共存させた状態(1液状態)で長期間保管しておくと、徐々にイオン架橋が形成され、使用前にゲル化する現象が生じていた。また、斯様にゲル化が生じ始めた接着材は、液状部分を歯科用修復物の歯質への接着に供しても、もはやその接着強度は大幅に低下するものであった。すなわち、この接着材は、保存安定性において、大きな問題を有しており、更なる改善が求められていた。
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、使用する水として、重水を多く含むものを用いれば、前記ゲル化の発生抑制に対してとても効果的であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(A)酸性基含有重合性単量体、
(B)多価金属イオンとしてアルミニウムイオン又はチタンイオン、および
(C)重水を10質量%以上含有する水
を含むことを特徴とする歯科用接着性組成物である。

本発明の歯科用接着性組成物は、酸性基含有重合性単量体、多価金属イオン、水からなる従来の接着材に比較して、保管中に経時的に進行するゲル化が良好に抑制できる効果を有する。したがって、その優れた接着性能を維持したまま、1液状態で長期間の保管が可能になり、その実用価値を大きく高めることができる。
以下、本発明の歯科用接着性組成物を構成する、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)多価金属イオン、および(C)重水を10質量%以上含有する水の各成分について、順次説明する。
<(A)酸性基含有重合性単量体>
本発明において、酸性基含有重合性単量体とは、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで、重合性不飽和基とは、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。このうち、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基が、硬化速度の点から好ましい。
また、酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、ホスフィニコオキシ基{(−O−)P(=O)OH}、ホスホノオキシ基{−O−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SOH)等が挙げられる。また、これら遊離の酸性基のみならず、当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造(例えば、−C(=O)−O−C(=O)−)の基、あるいは酸性基のOHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(例えば、−C(=O)Cl)等など、水溶液又は水懸濁液として際に酸性を示す基であれば使用できる。
酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有す重合性単量体;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有す重合性単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有す重合性単量体;ビニルリン酸、p−ビニルベンゼンリン酸等の分子内にホスホノ基を有す重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有す重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着材の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
酸性基含有重合性単量体は、単独で又は二種以上を混合して用いることができるが、その中でも分子内において酸の価数が2価以上になるものが、イオン結合を発達して形成できることから好ましい。分子内における、酸の価数が2価以上の酸性基含有重合性単量体は、分子内に1価の酸基を2個以上有する形態であってもよいし、2価の酸基であれば分子内に1個有するだけで、この要件は満足される。このように分子内において、酸の価数が2価以上になる酸性基含有重合性単量体のみを用いた場合、上記のように接着強度向上の観点からは好ましいが、保存安定性は若干低下する傾向があるため、1価の酸性基を有する重合性単量体と組合せて使用することがより好ましい。その中でも、ホスフィニコオキシ基とホスホノオキシ基とを組合せて使用することが、高い接着強度が得られ、保存安定性も優れたものにできることから特に好ましい。
<(B)多価金属イオン>
本発明において、多価金属イオンとは、酸性基含有重合性単量体が有している酸性基とイオン結合可能な2価以上の金属イオンを意味する。具体例を示すと、2価の金属イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、銅(II)、スズ(II)、等のイオンが挙げられ、3価の金属イオンとしては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、プロメチウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、鉄(III)、アクチニウム等のイオンが挙げられる。4価以上金属イオンとしては、チタンイオン、ジルコニウムイオン、タングステン(IV)イオン等が挙げられる。これらのうち、接着強度の高さから、3価以上の金属イオンが好適である。中でも、4価の多価金属イオンは、硬化体の架橋密度を高め、硬化体の耐水性をより向上させることができるため、特に好適であり、チタンイオンが最も好適である。また、4価の多価金属イオン(特に、チタンイオン)は、硬化体の架橋密度を高める作用が強いことから、上記接着強度が高い反面、保管中におけるゲル化の発生が特に激しく、接着強度の低下も本来は進行が速い系である。これに対して、本発明では、この4価の多価金属イオンが含有された接着性組成物でも、係るゲル化の発生を高度に抑制でき、その効果が特に顕著に発揮でき好適である。
本発明の接着性組成物において、多価金属イオンの含有量は、特に制限されるものではないが、下記式(1):
P+=TVP+/TV・・・・・(1)
(式中、TVP+は、組成物中に含まれる(B)多価金属イオンの総価数量であり、TVは、組成物中に含まれる(A)酸性基含有重合性単量体が有する酸性基の総価数量である)で定義される総価数量比(RP+)が0.1〜1.5の範囲であるのが好ましい。このRP+が、0.1より小さくなると、脱灰はするものの十分な接着強度が得られなくなる。一方この割合が、1.5より大きくなっても、接着性は十分でなくなり、耐水性が低下し接着後の長期耐久性が低下する。
多価金属イオンの共存量が多くなってくると、リン酸基含有重合性単量体成分における酸性基は、その多くがイオン結合し中和されてしまう。そして、RP+が1以上になると、通常、接着性組成物は酸性をほとんど呈さなくなり、得られる接着性組成物は、エッチング機能(歯質の脱灰機能)がなく、接着強度は低下する。ただし、チタンイオンのようにアート錯体を形成するものを使用する場合は、RP+が1以上でも酸性を呈することから、その接着強度はあまり低下しない。しかし、このようなアート錯体を形成する多価金属イオンにおいても、その共存量があまりに多くなると、たくさんのチタンイオンが酸性基含有重合性単量体の酸性基と結合するようになり、個々のチタンイオン当りのイオン結合の割合が低下し(すなわち、4価全て結合するチタンイオンが少なくなる)、十分な接着強度が得られ難くなることから、RP+は1.5以下が好ましい。酸性基含有重合性単量体における歯質の脱灰機能を十分に発揮させる観点からは、RP+は0.2〜0.9であるのがより好ましく、0.2〜0.6であるのが最も好ましい。
なお、前記総価数量比(RP+)を示す式において、接着性組成物中に含まれる酸性基含有重合性単量体が有する酸性基の総価数量(TV)は、下記式(1a):
TV=ΣP×A…(1a)
(式中、kは、1,2,3……,nであり、nは、組成物中に含まれる酸性基含有重合性単量体の種類の数であり、Pは、該組成物中に含まれる酸性基含有重合性単量体のモル数であり、Aは、酸性基含有重合性単量体が有する酸性基の価数である)
により算出される。例えば、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート等のリン酸ジアルキル基を有する重合性単量体であれば、酸性基の価数は1価になる。また、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート等のリン酸モノアルキル基を有する重合性単量体であれば、酸性基の価数は2価になる。また、組成物中に含まれている酸性基含有重合性単量体が、リン酸ジアルキル重合性単量体の1種類のみの場合には、上記式により、このリン酸ジアルキル重合性単量体について算出された価数量が総価数量(TV)となる。他方、組成物中に該リン酸ジアルキル重合性単量体を含めて複数種の酸性基含有重合性単量体が含有されている場合には、各酸性基含有重合性単量体について価数量を算出し、これを合計した値が総価数量(TV)になる。
さらに、該組成物中に含まれる多価金属イオンの総価数量(TVP+)は、
TVP+=ΣI×B…(1b)
(式中、kは、1,2,3……,nであり、nは、組成物中に含まれる金属イオンの種類の数であり、Iは、該組成物中に含まれる各多価金属イオンのモル数であり、Bは、各多価金属イオンの価数である)
により算出される。
本発明の歯質用接着材中に存在する多価金属イオンの種類および含有量は、固体成分を除いた後、誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定することにより求めることができる。具体的には、接着材を水溶性有機溶媒で濃度1質量%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルター等で用いてろ過し、固体成分を除去する。次いで、得られた濾液のイオン種およびイオン濃度をICP発光分析装置で測定し、接着材の多価金属イオン種と含有量を算出する。
また、歯科用接着性組成物中の酸性基含有重合性単量体が有する酸性基の種類および含有量は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより組成物中から各酸性基含有重合性単量体を単離し、それぞれの酸性基含有重合性単量体の質量分析からその分子量を測定し、また、核磁気共鳴分光(NMR)により構造を決定することにより、酸性基の同定や含有量の算出を行うことができる。
例えば、31PのNMRを測定することで、その化学シフト値から、リン酸ジアルキル基を同定することができる。即ち、リン酸ジアルキル基を有する既知の化合物、具体的には、ジメチルリン酸を標準物質として使用し、これらの標準物質について、同条件(希釈溶媒、濃度、温度)で31P−NMRを測定し、接着性組成物について測定された31P−NMRとを比較することにより化学シフト値を決定することができる。尚、酸性基としてリン酸モノアルキル基を有する重合性単量体の標準物質としては、メチルリン酸を使用する。
さらに、前記したように多価金属イオンは、3価以上の金属イオン、特に4価の金属イオンがより好ましく、その中でもチタンイオンが最も好ましい。
該4価の金属イオン以外の総イオン価数量は、前記組成物中に含まれる多価金属イオンの総価数量に対して50%以下、特に20%以下であるのが好適である。すなわち、4価の金属イオン(特に、チタンイオン)の多価金属イオンに対する総価数量比(R4+)は、下記式(2):
4+=TV4+/TVP+・・・・(2)
(式中、TV4+は、該組成物中に含まれる4価の金属イオンの総価数量であり、TVP+は、前記のとおり、該組成物中に含まれる多価金属イオンの総価数量である)で表されるが、この総価数量比(R4+)は、0.5以上、特に0.8以上であるのが好適である。
なお、本発明の歯質用接着性組成物には、上記特定量の多価金属イオンの他に、本発明の効果を大きく損なわない範囲であれば1価の金属イオンが含有されていても良い。これら1価の金属イオンの総イオン価数量は、組成物中に含まれる全金属イオンの総価数量(多価金属イオンの総価数量と1価の金属イオンの総価数量との合計値)に対して50%以下、特に30%以下の割合であるのが好適である。すなわち、1価の金属イオンの全金属イオンに対する総価数量比(R1+)は、下記式(3):
1+=TV1+/TV・・・・(3)
(式中、TV1+は、該組成物中に含まれる1価の金属イオンの総価数量であり、TVは、該組成物中に含まれる全金属イオンの総価数量である)で表されるが、この総価数量比(R1+)は、0.5以下、特に0.3以下の範囲であることが好適である。1価の金属イオンが多量に共存していると、1価の金属イオンと酸性基含有重合性単量体の酸性基との中和反応によって、多価金属イオンによるイオン結合の発達が損なわれてしまう恐れがあるからである。
本発明の歯質用接着性組成物において、組成物中に多価金属イオンを含有させる方法は特に制限されるものではなく、歯質用接着性組成物を調製する際に、酸性基含有重合性単量体成分に、上記多価金属イオンのイオン源となる物質を配合または接触させて、該多価金属イオンを溶出させれば良い。
多価金属イオン源としては、多価金属イオンを溶出するイオンを含んでなる多価金属イオン溶出性フィラーが挙げられる。また、多価金属イオン源としては、金属塩、金属アルコキシド等の多価金属イオン化合物も使用できる。金属塩としては、1,3−ジケトンのエノール塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フッ化物、マロン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、酢酸塩、メトキシ酢酸塩等が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、金属メトキシド、金属エトキシド、金属プロポキシド、金属イソプロポキシド等が挙げられる。これらの多価金属イオン化合物のなかでも、炭素数4以下の低級多価金属アルコキシドが、金属イオンの溶出が速く、副生物がアルコールであるため接着強度に影響がなく副生物の除去が容易であり、また取り扱いが容易な点からより好ましい。尚、これらの多価金属イオン化合物中には、溶解性が著しく低いものがあるため、予め予備実験等で確認した上で用いるとよい。
なお、多価金属イオン源としての、多価金属の単体ならびにその酸化物は、重合性単量体または有機溶媒に不溶性のものが多く、一般には、水の存在下であっても、殆ど対応する金属イオンを溶出しないため、多価金属イオン源物質としての使用は通常は困難である。また、一般に、強酸の塩は弱酸と塩交換をし難い傾向がある。そのため、多価金属イオン化合物として、金属塩を用いる場合、酸性基含有重合性単量体の酸性基のpKa値(リン酸等、多段階に解離するものは第一解離に基づくpKa値)より高いpKaを有する酸、即ち、該酸性基含有重合性単量体より弱酸の金属塩を選定して用いることが好適である。すなわち、酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体よりも強酸の塩を用いても、遊離した多価金属イオンと酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体の酸性基とのイオン結合が十分に生じないため好ましくない。
本発明の歯質用接着性組成物は、製造の容易性の観点から、上記多価金属イオン源として多価金属アルコキシドを用いて製造することが好ましい。すなわち、酸性基含有重合性単量体と多価金属アルコキシドとを先に混合したのちに、水と混合する。酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体を配合する場合は、該他の重合性単量体は、先に、酸性基含有重合性単量体と混合したのち、多価金属アルコキシドと混合し、次いで水と混合すれば良い。或いは先に酸性基含有重合性単量体と多価金属アルコキシドとを混合し、次いで水と混合した混合物に、最後に混合しても良い。
酸性基含有重合性単量体と多価金属イオン化合物との混合は、水が存在しない状態で行う必要がある。水存在下で、これらを混合すると、通常は多価金属イオンが固体酸化物となって析出してしまい、酸性基とのイオン結合を良好に形成することができなくなる。即ち、水存在下で、酸性基含有重合性単量体と多価金属イオン化合物とを混合した場合、組成物を調製した直後のものを用いても、十分な接着強度は得られなくなる。従って、酸性基含有合性単量体と多価金属イオン化合物を予め混合し、両者間に十分なイオン結合を形成させた後に、水を配合する必要がある。
<(C)水>
本発明において、(C)水は、各種成分を均一に分散させるための溶媒としての機能を有すると同時に、歯質の脱灰や、(A)酸性基含有重合性単量体と(B)多価金属イオンとのイオン結合の促進の為に必要である。これらの水は、接着性組成物の使用時において歯質に塗布され十分脱灰が進行した後は、エアブローにより乾燥されるため、重合反応時にはほぼ全てが除去されている。
本発明の最大の特徴は、係る水として、重水を10質量%以上含むもの用いた点にある。それにより、長期にわたり組成物を保管しても、そのゲル化を抑制することができる。その理由は定かではないが、次のように推定している。すなわち、重水分子は通常の水分子に比べると質量が大きく運動速度が小さいことから、一般に、種々の化学反応での反応速度は通常の水分子に比べて遅くなる(同位体効果)。この効果が何らか影響し、本発明の歯科用接着性組成物でも、水に前記多量の重水を含有させることにより、保管中のゲル化の原因であったイオン架橋の形成が穏やかに進行するようになるからではないかと考えられる。なお、このように保管中のイオン架橋反応が穏やかに進行したとしても、使用に際しては、歯面に塗布後の濃縮・乾燥に伴って、上記イオン架橋は一気に発達するため、歯質との高い接着力は良好に保持される。
重水としては、一般にDOが用いられるが、D 17O、D 18O、HDO、HD17O、HD18O、H 17O、H 18Oも同様に使用可能である。これらは単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。また、重水以外の水(軽水)は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まなければ制限なく使用でき、水道水であっても良いが、好適には蒸留水や脱イオン水が使用される。
なお、常水にも重水は含有されているが、その含有量は僅か(通常、0.26質量%程度)であり、上記本発明で使用する重水を多量に含有する水とは明確に区別でき、この程度の少量では、前記のゲル化の抑制効果は表れない。粘度低下の抑制効果を十分に発揮させる観点からは、水における重水の含有量は50質量%以上であるのが、より好ましい。
本発明の歯科用接着性組成物に含まれる、重水を多量に含む水の含有量は、酸性基含有重合性単量体100質量部に対して10〜120質量部、特に50〜100質量部が好適である。水の配合量がこの範囲よりも少ないと、歯質の脱灰やイオン結合が十分でなくなり、高い接着強度が得難くなる。また、上記範囲よりも多量に使用されると、この接着性組成物を歯面に塗布した後のエアブローによる除去性が低減し、歯面に水が多く残存するようになり、十分な接着強度が得られなくなる。
<(D)酸性基非含有重合性単量体>
本発明の歯科用接着性組成物には、重合性単量体成分として、前記(A)酸性基含有重合性単量体の他に、(E)酸性基非含有重合性単量体を配合しても良い。こうした酸性基非含有重合性単量体は、接着界面の強度及び前処理材の歯質に対する浸透性を調節し、歯質に対してより優れた接着強度を与える為等の目的に応じて、種々のものを使い分ければ良い。
本発明で用いることのできる、酸性基非含有重合性単量体は、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を持つ化合物で有れば、公知のものを何等制限無く使用できる。具体例を示すと、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート又はメチルメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
更に、酸性基非含有重合性単量体として、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を混合して重合することも可能である。これらの他の重合性単量体を例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。これらの重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
また、疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用し、水の分離を防ぎ、均一な組成とした方が接着強度の点で好ましい。
このような酸性基非含有重合性単量体の配合量は、酸性基含有重合性単量体成分100質量部に対して500質量部以下、より好ましくは350質量部以下であるのが、酸性基含有重合性単量体の配合効果を十分に発揮させる観点から好ましい。
<(E)揮発性有機溶媒>
本発明の歯質用接着材には、さらに揮発性有機溶媒を配合しても良い。揮発性有機溶媒は、室温で揮発性を有し水溶性を示すものを好適に使用することができる。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100°C以下であり、且つ20°Cにおける蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20°Cでの水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。
このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ターシャリーブタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
これらの揮発性有機溶媒の配合量は、通常、酸性基含有重合性単量体100質量部に対して100〜600質量部の範囲、より好ましくは200〜500質量部である。なお、これらの揮発性有機溶媒も、前記水と同様に、本発明の歯質用接着材を歯面に塗布した際に、該接着材を硬化させる前にエアブローすることにより除去されるものである。
<(F)重合開始剤>
本発明の歯質用接着材には、有効量の重合開始剤を配合させても良く、特に、歯科用接着材として用いる場合には必要である。このような重合開始剤としては、任意のタイミングで重合硬化させることができることから、光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としてはカンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等のα−ジケトン類;2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類;2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン等のα−アミノアセトフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド誘導体等が好適に使用される。
さらに、ブチルトリフェニルホウ酸、テトラフェニルホウ酸、或いはテトラキス(p−トリル)ホウ酸のナトリウム塩、又はトリエタノールアンモニウム塩等からなるボレート化合物類、ジベンゾイルパーオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のアルキルハイドロパーオキサイド類、バルビツール酸類などの化学重合開始剤も必要に応じて配合しても良い。
さらに、ハイドロパーオキサイド類及び/又はボレート類の重合開始活性を高める目的で、バナジウム化合物、クロム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、コバルト化合物等の遷移金属化合物を同時に用いても良い。好ましくはオキソバナジウム(IV)ビス(マルトラート)、五酸化二バナジウム等のバナジウム化合物である。
また、重合開始剤と組み合わせて用いることのできる重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類;5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類;ドデシルメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のメルカプト化合物を挙げることができる。さらに、重合開始活性をより高める目的で、上記の重合開始剤、重合促進剤に加え、ヨードニウム塩、トリハロメチル置換S−トリアジン、フェナンシルスルホニウム塩化合物等の電子受容体を加えても良い。
当該重合開始剤の配合量は、有効量であれば制限はないが、通常は、重合促進剤や電子受容体等の配合量も含めて、酸性基含有重合性単量体100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲が好ましく、1〜20質量部の範囲がより好ましい。
本発明の歯質用接着材は、さらに充填剤を添加してもよい。当該充填剤としては、好ましくはシリカやジルコニア、チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニアなどの無機充填剤が挙げられる。
これら無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化することで重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。疎水化の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。
当該無機充填剤の配合量は、通常、酸性基含有重合性単量体100質量部に対して2〜400質量部の範囲が好ましく、5〜100質量部の範囲がより好ましく、5〜40質量部の範囲が特に好ましい。
さらに、本発明の接着材には、用途に関わらずに必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して配合することができる。
本発明の歯科用接着性組成物は、上述した各種成分を均―に混合し製造すれば良い。1液の状態、即ち、ワンパッケージの形態で長期間保管できるため、使用に際して、各成分を混合する面倒な操作が必要なく、歯科医師などの労力を軽減し、しかも、安定して一定の接着強度を確保することができる。保管は、0〜10℃の冷蔵保存するのが好ましい。
このようにして得られる本発明の接着性組成物において、光重合開始剤(F)が配合されていないタイプのものは、歯質前処理材として使用される。この前処理材は、歯質のエッチング処理及び歯質への浸透促進処理の両方の機能を備えており、セルフエッチングプライマーとして、コンポジットレジンやブラケットの他、補綴物の歯質への接着に使用できる。例えば、コンポジットレジン用接着材、ブラケット用接着材、または補綴物用接着材の塗布前に、歯質に塗布して使用すればよい。
他方、光重合開始剤(F)が配合されたタイプは、上記コンポジットレジン用接着材、ブラケット用接着材、または補綴物用接着材等の歯科用接着材として使用される。これら歯科用接着材は、化学重合型でも良いが、コンポジットレジン用およびブラケット用接着材については操作簡便性等から光硬化型が好ましい。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、実施例および比較例で使用した化合物の略称は次の通りである。
(A)酸性基含有重合性単量体
PM1:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート
PM2:ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
(B)多価金属イオン
Al(O−iPr):アルミニウムトリイソプロポキシド
Ti(O−iPr):チタニウムテトライソプロポキシド
(D)酸性基非含有重合性単量体
Bis−GMA:2,2′−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
(E)重合開始剤
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
無機充填剤
F1:平均粒径0.02μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)
また、以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
(1)多価金属イオンの測定方法
本発明の歯科用接着材を調整し、24時間攪拌した後、100mlのサンプル管に0.2gを計り取り、アセトンを用いて0.1質量%に希釈した。この液をシリンジフィルターでろ過し、ろ液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、重合性単量体100質量部当りに含まれる各金属イオン濃度(mmol/g)を測定した。なお、各金属イオン濃度は、各イオンの標準試料(1ppm、2.5ppm、6ppm)から求めた検量線を用いて換算した。
(2)歯質接着性の測定方法
a)接着試験片の作成方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、流水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に歯科用接着材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
b)接着試験方法
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4つの試験片について、引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を、エナメル質或いは象牙質に対する接着強度として、歯質接着性を評価した。
(3)接着材の保存安定性評価方法
調整後37℃のインキュベーター内で保存した本発明の歯科用接着材を6ヵ月間、経時的に観察し、液のゲル化の有無を目視により、変化がない◎、粘度が上昇○、ゲル化しているが塗布可能△、完全に固化×、の四段階で評価した。また、37℃のインキュベーター内で保存した接着材を用いて、上記した接着強度測定方法と同様の方法を用いて経時的に接着強度を測定し、37℃保存前の接着強度と比較した。
実施例1
酸性基含有重合性単量体として、10gのPM1、多価金属イオン源として、2.5gのAl(O−iPr)、水として、8gの重水を50質量%含有する水、酸性基非含有重合性単量体として、12gのBis−GMA、8gの3G、および10gのHEMA、揮発性有機溶媒として、34gのアセトン、重合開始剤として、0.4gのCQ、および0.4gのDMBEを量りとり、24時間攪拌混合して本発明の歯科用接着材を得た。この接着材について、多価金属イオン量の測定と、エナメル質および象牙質に対する接着強さを実施した後、37℃のインキュベーター内に保管し、経時的に液のゲル化の有無を観察した。また、経時的にエナメル質および象牙質に対する接着強さも評価した。歯科用接着材の組成を表1に、保存安定性評価結果(ゲル化の有無評価と、エナメル質および象牙質に対する接着強さ)を表2に示した。
実施例2〜実施例19
表1に示した組成の異なる歯科用接着材を調整する以外は、実施例1の方法に準じ、保存安定性評価を行なった。歯科用接着材の組成を表1に、保存安定性評価結果を表2に示した。
比較例1〜比較例5
表3に示した組成の異なる歯科用接着材を調整する以外は、実施例1の方法に準じ、保存安定性評価を行なった。歯科用接着材の組成を表3に、保存安定性評価結果を表4に示した。
Figure 0005783761
Figure 0005783761
Figure 0005783761
Figure 0005783761
実施例1〜実施例19は、本発明の請求項に記載される要件のすべてを満足するように配合された歯科用接着材であるが、保存安定性評価において37℃6ヶ月の保存で、何れの場合においても粘度上昇はしたものの、液がゲル化を生じることは無く、エナメル質および象牙質に対する接着性も良好で、その保存安定性に関しても大きな劣化は見られなかった。
これに対して比較例1〜比較例2は、水として、重水を有意には含まない常水を用いた場合であるが、いずれの場合にも液がゲル化し、液がゲル化するにしたがって、接着性が低下した。
また、比較例3は、水を全く含まない場合であるが、歯質脱灰効果が得られず、さらに(A)酸性基含有重合性単量体と(B)多価金属イオンとのイオン結合の促進が起こらないため、歯質に対する接着性が大きく低下している。
また、比較例4は、水として重水を8質量%含有するものを用いた場合であるが、液のゲル化が実施例よりも速く、それにしたがって接着性の低下も速くに進行した。
また、比較例5は、(B)多価金属イオンが全く含まれなかった場合であるが、イオン架橋の効果が得られない為、エナメル質および象牙質に対する接着性が大きく低下した。

Claims (5)

  1. (A)酸性基含有重合性単量体、
    (B)多価金属イオンとしてアルミニウムイオン又はチタンイオン、および
    (C)重水を10質量%以上含有する水
    を含むことを特徴とする歯科用接着性組成物。
  2. (A)酸性基含有重合性単量体100質量部に対して、(C)重水を10質量%以上含有する水の含有量が、10〜120質量部である請求項1記載の歯科用接着性組成物。
  3. (A)酸性基含有重合性単量体100質量部に対して、(B)多価金属イオンが下記式(1):
    P+=TVP+/TVA・・・・・(1)
    (式中、TVP+は、組成物中に含まれる(B)多価金属イオンの総価数量であり、TVAは、組成物中に含まれる(A)酸性基含有重合性単量体の酸性基の総価数量である)で定義される総価数量比(RP+)が0.1〜1.5となる範囲で配合されてなる、請求項1または請求項2に記載の歯科用接着性組成物。
  4. さらに、(D)酸性基非含有重合性単量体成分を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。
  5. さらに、(E)揮発性有機溶媒を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。
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