JP5089192B2 - 歯科用接着性組成物 - Google Patents

歯科用接着性組成物 Download PDF

Info

Publication number
JP5089192B2
JP5089192B2 JP2007038059A JP2007038059A JP5089192B2 JP 5089192 B2 JP5089192 B2 JP 5089192B2 JP 2007038059 A JP2007038059 A JP 2007038059A JP 2007038059 A JP2007038059 A JP 2007038059A JP 5089192 B2 JP5089192 B2 JP 5089192B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
acid
earth metal
adhesive composition
ion
polymerizable monomer
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2007038059A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2008201697A (ja
Inventor
浩司 松重
健 鈴木
静香 清水
歩 百々海
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
TOKUYMA DENTAL CORPORATION
Original Assignee
TOKUYMA DENTAL CORPORATION
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by TOKUYMA DENTAL CORPORATION filed Critical TOKUYMA DENTAL CORPORATION
Priority to JP2007038059A priority Critical patent/JP5089192B2/ja
Priority to EP07831875.5A priority patent/EP2123246B1/en
Priority to CN2007800503155A priority patent/CN101588782B/zh
Priority to PCT/JP2007/072145 priority patent/WO2008102489A1/ja
Priority to US12/526,070 priority patent/US8513327B2/en
Publication of JP2008201697A publication Critical patent/JP2008201697A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5089192B2 publication Critical patent/JP5089192B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Dental Preparations (AREA)
  • Adhesives Or Adhesive Processes (AREA)

Description

本発明は歯科医療分野において、金属、有機高分子、セラミックス、又はこれらの複合材料等からなる歯科用修復物と歯質とを接着するための歯科用接着性組成物に関する。
齲蝕等により損傷を受けた歯質において、それが、初中期の比較的小さい窩洞の場合には、審美性、操作の簡略性や迅速性の点から、コンポジットレジンによる直接修復を行うことが多い。一方、比較的大きな窩洞の修復には、金属やセラミックス、或いは歯科用レジンで作られた補綴物が多用されている。
これらコンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物は歯質への接着性を有していないため、これを歯質へ接着させるための重合性単量体組成物からなる接着材が併用される。しかして、こうした接着材に使用される重合性単量体は、通常、メタクリレート系単量体を主成分としているが、その歯質への接着力は十分ではなく、例えばコンポジットレジンの接着用であれば、該コンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ち、歯質とコンポジットレジンとの界面に生じる引っ張り応力に打ち勝つだけの接着強度に達していないことが多かった。更に、交合によって掛かる力に対しても耐えられる接着強度に達していないことが多かった。そのため、これら接着材の接着強度を向上させるために、使用に際しては、歯面に対して次のような前処理を施している。すなわち、1)硬い歯質(主にヒドロキシアパタイトを主成分とするエナメル質)をエッチング処理するための前処理材の塗布し、さらに、2)プライマーと呼ばれる、歯質の中へ浸透促進剤としての前処理材の塗布を行っている。
ここで、前者のエッチング処理用の前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の水溶液が用いられている。
一方、後者のプライマーとしては、酸水溶液の脱灰による粗造化したエナメル質表面や、脱灰後に象牙質表面に露出したスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な隙間に接着材が浸透して硬化する必要があると言われているいため、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等の上記歯質との親和性の良い親水性モノマー、或いは有機溶媒などを主成分とする重合性単量体組成物が用いられている。なお、このプライマー自体には、重合開始剤は通常含有されていないが、その上に塗布されるコンポジットレジン用接着材の光硬化反応時に、該接着材で生じたラジカルが作用することにより、含有される重合性単量体は重合硬化する。
こうした中、より高い接着強度と、上記操作の煩雑さの軽減を目的として、上記歯科用接着材において、歯質に対する接着性を有する重合性単量体を含有させたものが開発されている。すなわち、重合性単量体成分の少なくとも一部として、歯質(ヒドロキシアパタイトやコラーゲン)に対して高い親和性を有するリン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する重合性単量体(酸性基含有重合性単量体)を含有させることで、より高い接着強度を発現させるものである(例えば特許文献1および特許文献2を参照)。特に、こうした酸性基含有重合性単量体は水と共に含有させることにより、得られる接着材は、酸性基の作用により酸水溶液の脱灰機能とプライマーの浸透促進機能も併せ備えたものにすることができる。そのため、該接着材は、1回の塗布操作のみで使用でき、操作性に優れた接着材(1ステップ型接着材)として有利である(例えば、特許文献3〜6を参照)。なお、こうした酸性基を有する重合性単量体を重合性単量体成分に含有させた接着性組成物は、上記エッチング処理機能やプライミング処理機能を応用して、これら2つの機能を兼ね備えたセルフエッチングプライマーとしても使用されている(例えば特許文献8および特許文献9を参照)。
また、これら酸性基含有重合性単量体としてリン酸基含有のものを用い、これをカルシウム塩の形態で用いることで、その接着強度を一段と向上させることができるという報告がある(特許文献10)。そして、上記した酸性基含有重合性単量体と水を含有する接着材やセルフエッチングプライマーの中には、多価金属イオン溶出性フィラーを配合させることで、自己の重合硬化性を一層に高めることを試みているものもある(例えば、特許文献4〜7を参照)。ここで、後者の多価金属イオン溶出性フィラーを配合させた接着材等において、該多価金属イオン溶出性フィラーとは、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸性溶液下で金属イオンを溶出するフィラーを意味し、これから溶出される金属イオンとしては、アルカリ土類金属、アルミニウム等が挙げられている。しかして、こうした多価金属イオン溶出性フィラーを含有させた接着材において上記の如くに接着強度が向上する理由は、接着材の硬化時には、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の重合と共に、該多価金属イオン溶出性フィラーから溶出した多価金属イオンが、上記酸性基含有重合性単量体の酸性基と塩を形成し、これによりイオン架橋が生じて、その硬化体の強度を高めていることが大きいと推定される。
特開昭52−113089号公報 特開昭58−21687号公報 特開2004−352698号公報 特開平9−263604号公報 特開平10−236912号公報 特開2001−72523号公報 特開2000−86421号公報 特開平7−82115号公報 特開2000−159621号公報 特開昭53−113843号公報
酸性基含有重合性単量体を含有する接着性組成物(接着材やプライマー)は、該単量体を含有しないものに比べて高い接着強度が得られるものであり、更に脱灰機能も備えていることから、上述のように接着操作の簡便化を実現できる有用なものであったが、前記したように歯質と歯科用修復物との間には極めて強い接着強度が求められるため、このものにおいても、その接着強度は未だ十分ではなく、さらなる高い接着性を安定して発揮できるものに改良することが必要であった。
この点、前記のリン酸基含有重合性単量体のカルシウム塩を用いた接着材は、接着強度がかなりに向上し有用であるが、それでもまだ満足できるものではなかった。
同様に、多価金属イオン溶出性フィラーを含有させた接着材も、接着性はさらに一層の向上がみられるものの、実用上十分な域にはなかった。しかして、本発明者らの検討によれば、こうした多価金属イオン溶出性フィラーを含有させた接着材は、次の理由から、その接着強度の向上効果が十分に発揮されていないことが推察された。すなわち、これらの接着材は、使用されている重合開始剤が、アリルボレート化合物等の酸と反応してラジカル開始剤として機能するものである場合が多く、そのため保存安定性の面から試薬形態が、上記酸性基含有重合性単量体および水を含む部材と、該酸と反応してラジカルを発生する重合開始剤を含む部材とに分包してある(特許文献5)。そして、こうした試薬形態において、多価金属イオン溶出性フィラーは後者の、酸と反応してラジカルを発生する重合開始剤を含む部材の方に配合させてあるのが普通である。また、こうした接着材には、多価金属イオン溶出性フィラーから溶出した多価金属イオンと酸性基含有重合性単量体とのイオン結合による組成物の経時的な増粘を避けるために、同様に多価金属イオン溶出性フィラーと、酸性基含有重合性単量体を含む部材とに分包してあるものもある(特許文献6)。そうして、こうした2部材に分包された試薬形態の接着材の場合、使用に際して、これら2つの部材を混合してから、調製された混合液を歯面に塗布するまでの操作時間はせいぜい数分の短時間であるから、酸水溶液に対する溶解速度が決して速くない多価金属イオン溶出性フィラーにおいては、この短時間に溶出する多価金属イオンの量は極僅かでしかない。したがって、前記説明した、こうした多価金属イオン溶出性フィラーを含有する接着材における、接着力向上の作用、すなわち、重合硬化時に、酸性基含有重合性単量体の酸性基が該多価金属イオンと塩を形成してイオン架橋を発達させる相乗作用は、このような試薬形態の接着材においては、十分に発揮されていないものであった。
また、こうしたタイプの接着材の従来例の中には、実施例等において、上記各構成成分を一液に調合後、そのまま直ぐに接着試験に供しているものもいくつか見受けられるが(特許文献4)、この場合でも、多価金属イオン溶出性フィラーの溶解時間が短時間であることは明らかであり、上記イオン架橋を発達させる相乗作用が十分でないことは何ら変わりがないものであった。
さらに、多価金属イオン溶出性フィラーを含有させた接着材において、十分なイオン架橋を発達させて、高い接着強度を得ようとすると、使用する多価金属イオン溶出性フィラーから溶出される金属イオンの種類や量も極めて重要であり、例えば、これら溶出イオンが、1価の金属イオンや前記カルシウムイオン等の2価金属イオン等が主であると、十分な接着性の向上効果は得られず、加えて、これらから溶出している金属イオンの量が多くなりすぎると(例えば、特許文献7、実施例9)、硬化後の接着材の耐水性が大幅に低下し、硬化直後であればかなり高い接着力が得られている場合でも、長期における接着耐久性は十分でないものになっていた。
以上から、酸性基含有重合性単量体を含有する接着性組成物において、その接着強度と耐久性を、さらに高めて、歯質とコンポジットレジンや補綴物との接着をより強固に長期間安定的に実施することができるものを開発することが、大きな課題であった。
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねたてきた。その結果、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を、重合性単量体成分の少なくとも一部として含んでなる歯科用接着性組成物において、その液中に、多価金属イオン溶出性フィラーを混合させる等して、土類金属イオンを含む金属イオンを、特定量で共存させることにより、上記の課題が解決できること見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を、重合性単量体成分の少なくとも一部として含んでなる、保存形態が一液型の、酸性を呈する歯科用接着性組成物であって、土類金属イオンを含む金属イオンが共存してなり、該リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体全量における酸の総価数に対する、上記土類金属イオン全量における総イオン価数の割合が0.2〜3.0であり、且つリン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸の共役塩基イオンを実質的に含有していないことを特徴とする、保存形態が一液型の歯科用接着性組成物である。
また、本発明は、上記保存形態が一液型の歯科用接着性組成物の製造方法として、1)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、
2)溶出する金属イオンとして少なくとも土類金属イオンを含有してなる多価金属イオン溶出性フィラーを、該土類金属イオンの総イオン価数が、前記リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体全量における酸の総価数に対して0.2〜3.0の割合になる量、
3)水
を、リン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸を実質的に含ませないで一液に混合した後、得られた混合液を、上記2)多価金属イオン溶出性フィラーに含有される土類金属イオンが、前記規定した範囲内の量溶出するまで保存してから使用する方法も提供する。
本発明の歯科用接着性組成物は、重合硬化時に、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体の該酸性基と特定の多価金属イオンとがイオン結合することによるイオン架橋を、十分量で発達させて生じさせることができていると考えられ、その相乗作用により、歯質(象牙質とエナメル質とに拘わらず)に対して極めて高い接着強度を発揮することができる。したがって、歯科用修復物と歯質の接着材として使用した場合には、歯質とコンポジットレジンとの界面に生じる引っ張り応力に対抗するだけの接着強度を有しており、また、治療に使用後の交合によって掛かる力に対しても対抗するだけの接着強度を有している。また、酸性を呈しているため、歯質脱灰能も兼ね備えており、エッチング操作を行わなくても、上記高い接着強度を実現できる。
したがって、本発明の歯科用接着性組成物は、この高い接着強度を利用して、高耐水性で長期間安定的に歯質とコンポジットレジンや補綴物の歯科用修復物とを接着できる接着耐久性に優れた接着材として有用であり、更には、こうした接着に際して接着材の使用の前に歯面に塗布する前処理材としても有用である。
歯科用接着性組成物に含有される重合性単量体成分について説明する。重合性単量体において、分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であるのが好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が最も好ましい。
本発明では、この重合性単量体成分の少なくとも一部として、リン酸から誘導される酸性基を有するものを含有させる。ここで、上記リン酸から誘導される酸性基としては、次に示す構造を有するものである。
Figure 0005089192
具体的には、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸水素モノエステル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基等が挙げられる。これらの中でも基−0−P(=O)(OH)(リン酸二水素モノエステル基)、基(−O−)P(=O)OH(リン酸水素ジエステル)等のリン酸エステル系基が歯質への浸透性の観点から好ましい。これらのリン酸から誘導される酸性基は、歯質の脱灰作用が高いばかりでなく、本質的な結合力も高く、さらに本発明においては共存する土類金属イオンとのイオン架橋の形成能にも優れており、特に高い接着強度が得られる。
こうしたリン酸エステル系基を含有している重合性単量体として好適に利用できる化合物を例示すれば、
Figure 0005089192
等が挙げられる。但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
その他の、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体として好適に利用できる化合物を例示すれば、ホスフィン酸基を有するものとしてビス(2−メタクリルオキシ)ホスホン酸、ビス(メタクリルオキシプロピル)ホスフィン酸、ビス(メタクリルオキシブチル)ホスフィン酸等が、またホスホン酸基を有するものとして3−メタクリルオキシプロピルホスホン酸、2−メタクリルオキシエトキシカルボニルメチルホスホン酸、4−メタクリルオキシブトキシカルボニルメチルホスホン酸、6−メタクリルオキシヘキシルオキシカルボニルメチルホスホン酸、2−(2−エトキシカルボニルアリルオキシ)エチルホスホン酸等が、またホスホン酸水素モノエステル基を有するものとしては2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノ(メタクリルオキシエチル)エステル、2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。
リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体(以下、「リン酸系モノマー」と略する)は、その量に特に制限はなく、重合性単量体成分全体がリン酸系モノマー成分のみからなっていてもよいが、接着材の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させる観点から、酸性基を有しない重合性単量体(以下、「非酸性モノマー」と略する)と併用するのが好適である。こうした非酸性モノマーを併用する場合においても、エナメル質及び象牙質の両方に対する接着強度を良好にする観点から、全重合性単量体成分中において、これらリン酸系モノマーは5質量%以上の範囲で使用するのが好適であり、より好ましくは5〜80質量%、特に10〜60質量%の範囲で使用するのが好適である。リン酸系モノマーの配合量が少ないと、エナメル質に対する接着強度が低下する傾向があり、逆に多いと象牙質に対する接着強度が低下する傾向がある。
本発明で用いることのできる、非酸性モノマーは、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を持つ物で有れば、公知の化合物を何等制限無く使用できる。具体例を示すと、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート又はメチルメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
更に、非酸性モノマーとして、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を混合して重合することも可能である。これらの他の重合性単量体を例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。これらの重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
また、水と疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用し、水の分離を防ぎ、均一な組成とした方が接着強度の点で好ましい。
本発明の接着性組成物は、保存形態が一液型であり、上記リン酸系モノマーを少なくとも一部として含む重合性単量体成分は、特定量の土類金属イオンの共存下に含有されている。このような土類金属イオンの共存下で、該重合性単量体成分を硬化させることにより、その接着強度は著しく高まり、耐水性が向上し、優れた接着耐久性を備えたものになる。


本発明において、このように特定量の土類金属イオンの共存させることにより、高い接着強度が得られるようになる理由は、必ずしも定かではないが、次のような作用によるものと推定している。すなわち、リン酸系モノマーが含まれる系中に、金属イオンが存在すると、上記酸性基と該金属イオンとはイオン結合し、金属イオンが多価のものであるとイオン架橋が生じる。そうして、重合性単量体の重合反応時に、この多価金属イオンの共存に起因した、リン酸系モノマーのイオン架橋が十分に発達して形成されていると、重合硬化による接着力の発揮に相乗的に作用してその強度を向上させる。このイオン架橋を、より発達させて形成させようとすると、前記多価金属イオンは、カルシウムイオンのような2価の金属イオンよりも3価の金属イオンの方が効果が高く、しかもこの3価の金属イオンの内でも土類金属イオンは、特に、この作用に優れているため、上記優れた接着強度が得られるものと考えられる。
本発明において、土類金属イオンとは、周期律表の第3族と第13族に属する金属イオンであり、具体的には、イットリウムイオン、スカンジウムイオン、及びランタノイド類イオン(ランタンイオン、セリウムイオン、プラセオジムイオン、ネオジウムイオン、プロメチウムイオン、サマリウムイオン、ユウロピウムイオン、ガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロシウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン、ツリウムイオン、イッテルビウムイオン、ルテチウムイオン)等の希土類金属イオン;アルミニウムイオン、ガリウムイオン、インジウムイオン等のアルミニウム族イオンが挙げられる。このうち、より効果が高い土類金属イオンとしてはアルミニウムイオン、およびランタノイド類イオンが挙げられ、中でもアルミニウムイオンおよびランタンイオンが好ましく、最も好ましくはランタンである。これら金属イオンは二種以上を混合して用いることができる。二種以上を混合して用いる場合においても、ランタンが含有されているのが好ましく、好適には土類金属イオン中の10モル%以上がランタンであるのが望ましい。
歯科用接着性組成物中における、これらの土類金属イオンの存在量は、前記リン酸系モノマー全量における酸の総価数に対して、該土類金属イオン全量における総イオン価数の割合が0.2〜3.0になる量である。
ここで、上記「リン酸系モノマー全量における酸の総価数」とは、接着性組成物中に含まれるリン酸系モノマーのモル数と、該リン酸系モノマー中の酸価数を掛けた値である。例えば、リン酸系モノマーがリン酸二水素モノ(2−メタクリルオキシエチル)エステルであれば、酸価数は2価であり、リン酸水素ジ(2−メタクリルオキシエチル)エステルであれば1価になる。また、リン酸系モノマーがこれら2価のものと1価のものの混合物である場合は、それぞれのリン酸系モノマーごとに酸の総価数を求めて、これらを合計して求めればよい。
他方、「土類金属イオン全量における総イオン価数」とは、接着性組成物中に含まれる土類金属イオンのモル数と、該土類金属イオンのイオン価数である3を掛けたものである。
本発明の接着性組成物では、この「土類金属イオンの総イオン価数」/「リン酸系モノマー全量における酸の総価数」が0.2〜3.0であり、接着強度をより強固にする観点からは、この割合は、好ましくは0.3〜0.9であり、より好ましくは0.4〜0.7である。この「土類金属イオンの総イオン価数」/「リン酸系モノマー全量における酸の総価数」が、0.2より小さくなると、脱灰はするものの十分な接着強度が得られなくなる。一方、この割合が、3.0より大きくなっても、接着性は十分でなくなり、耐水性が低下し接着後の長期耐久性が低下する。
歯科用接着性組成物中における、土類金属イオンの種類および含有量は、固体成分を除いた後、誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定することにより求めることができる。具体的な方法を示すと、接着性組成物を水溶性有機溶媒で濃度1質量%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルター等で用いてろ過し、固体成分を除去する。得られた濾液のイオン種および濃度をICP発光分析装置で測定し、接着性組成物中の土類金属イオン種と量を算出する。なお、土類金属イオン以外の金属イオン種およびその含有量も、同様な方法によって測定することができる。
同様に、歯科用接着性組成物中におけるリン酸から誘導される酸性基の種類および含有量の測定は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより組成物中からリン酸系モノマーを単離し、単離したリン酸系モノマーの質量分析からその分子量を測定し、また、核磁気共鳴分光(NMR)測定して、構造を決定することにより実施すればよい。特に、31PのNMRを測定することで、その化学シフト値から、リン酸から誘導される酸性基の種類を同定することができる。具体的には、化学シフト値は、同条件(希釈溶媒、濃度、温度)で既知の化合物の31P-NMRを測定し、それを標準とすることで決定することができる。具体的には、ホスフィン酸基を有する化合物としてはジメチルホスフィン酸、またホスホン酸基を有する化合物としてはメチルホスホン酸、またホスホン酸水素モノエステル基有する化合物としてはメチルホスホン酸水素モノエチルエステル、リン酸二水素モノエステル基を有する化合物としてはリン酸二水素モノメチルエステル、リン酸水素ジエステル基を有する化合物としてはリン酸水素ジメチルエステルが挙げられる。
また、リン酸系モノマーの配合量は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより単離したリン酸系モノマーから、標準物質との検量線を作成し、上記ろ液の1部に内標準物質を添加して高速液体クロマトグラフィーで測定することで求めることができる。
なお、本発明の接着性組成物には、上記特定量の土類金属イオンの他に、後述する接着性組成物の酸性が維持されている限りにおいて、その他の金属イオンが含有されていても良い。こうしたその他の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の1価および2価の金属イオンが挙げられ、さらに鉄(III)、ルテニウム(III)、コバルト(III)等の上記土類金属イオン以外の3価の金属イオンで合っても良い。土類金属イオンによるイオン架橋を良好に発達させる観点からは、これらその他の金属イオンの全量における総イオン価数が、含有される全金属イオンの総イオン価数に対して0.5以下、より好ましくは0.2以下の割合であるのが好適である。
上記したように接着性組成物中において、土類金属イオンを含む金属イオンの共存量が多くなってくると、重合性単量体成分における、リン酸系モノマーの酸性基は、これとイオン結合し中和されてしまう。したがって、「全金属イオンの総イオン価数」/「リン酸系モノマー全量における酸の総価数」が1以上になると、通常、接着性組成物は酸性を呈さなくなり、その場合、該接着性組成物は、エッチング機能(歯質の脱灰機能)を有さなくなり、その接着強度が大きく低下するようになる。よって、本発明では、このように「全金属イオンの総イオン価数」が多すぎる場合には、組成物の酸性が保持されるように、その他の酸性物質を含有させる。
この場合、本発明の接着性組成物の酸性度は、以下の方法で測定したpH値が4.8未満であれば良い。すなわち、接着性組成物の酸性度は、該接着性組成物を10質量%の濃度でエタノールに混合し、速やかにその混合液のpHを測定することにより実施する。pHの測定は、従来公知の方法で測定可能であるが、25℃において、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)で校正したpH電極を用いたpHメーターで測定する方法が簡便で好ましい。希釈するのに用いるエタノールは純度が99.5%以上であり、該エタノール単独のpH値が下記に示す方法で測定したときに4.8〜5.0であれば特に問題ない。接着性組成物は、歯質の脱灰性の強さから、この方法で測定したpHが、0.5〜4.0の範囲であるのが好ましく、1.0〜3.0の範囲であるのがより好ましい。
上記酸性度に調製するために、その他の酸性物質を配合してpH値を調製する場合においても、リン酸系モノマーが一定量以上含有されていることが好ましく、酸性物質全体(リン酸系モノマー+その他の酸性物質)において、リン酸系モノマーが20モル%以上、好ましくは40モル%以上含有されているのが好ましい。
上記その他の酸性物質は、pKa値が水中25℃において2.15を超えるものが使用され、歯質の脱灰機能の強さから、該pKa値が6.0以下、より好ましくは4.0以下のものを使用するのが良好である。好適に使用されるものを例示すると、クエン酸、酒石酸、フッ化水素酸、マロン酸、グリコール酸、乳酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メトキシ酢酸等が挙げられる。このうちフッ化水素酸は、後述するように、本発明の接着性組成物を多価金属イオン溶出性フィラーを用いて製造した際には、系中に水が含有されていると形成されることになる。
また、こうしたその他の酸性物質としては、上記非酸性モノマーの含有量の一部に代えて、2−(6−メタクリルオキシヘキシル)マロン酸、2−(10−メタクリルオキシデシル)マロン酸、トリメリット酸−4−(2−メタクリルオキシエチル)エステル、N−メタクリロイルグルタミン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸−2,4−ビス(2−メタクリルオキシエチル)エステル、3,3,4,4,−ビフェニルテトラカルボン酸−4,4−ビス(2−メタクリルオキシエチル)エステル等のような、リン酸から誘導される基を以外の酸性基を有する重合性単量体を用いることで含有させても良い。
なお、このようにその他の酸性物質を含有させる場合であっても、本発明では、該酸性物質として、25℃水中において、リン酸の第一解離に基づくpKa値(2.15)以下のpKa値を有する強酸は使用しないようにしなければならない。すなわち、接着材組成物中に、このような強酸の共役塩基イオンが含まれていると、硬化体において接着強度が低下することにつながる。その理由は、該強酸の共役塩基イオンは、土類金属イオンとイオン結合するに際して、リン酸から誘導される酸性基と競合反応になるため、このような強酸の共役塩基イオンが有効量で含有されてしまうと、上記リン酸から誘導される酸性基と土類金属イオンとのイオン結合の形成が抑制されてしまうからである。したがって、斯様な強酸の共役塩基イオンは実質的に含有されないことが必要であり、効果に影響しない程度に多少に含有されることは許容されるが、その含有量は、含有される土類金属イオン対して5モル%以下、より好ましくは3モル%以下であることが望ましい。
本発明において、接着性組成物中に、このような強酸の共役塩基イオンが含まれているかどうかは、イオンクロマトグラフィーを用いた測定により確認できる。具体的には、接着性組成物を水で抽出し、得られた水相をろ過し、そのろ液をイオンクロマトグラフィーにより測定することで確認することができる。
このようなリン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸としては、塩酸、臭酸、ヨウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;アルキル硫酸、スルホン酸等の有機酸が挙げられ、これらの強酸に対応する共役塩基イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機酸イオン;アルキル硫酸イオン、スルホン酸イオン等の有機酸イオンが挙げられる。
本発明の接着組成物において、系中に土類金属イオンを共存させる方法は、特に制限されるものではなく、接着性組成物を調製する際に、リン酸系モノマーを少なくとも一部として含んでなる重合性単量体成分に、上記土類金属イオンのイオン源となる物質を配合または接触させて、系中に該土類金属イオンを前記量で溶出させれば良い。土類金属イオン源としては、土類金属単体、土類金属イオンを溶出するイオンに含んでなる多価金属イオン溶出性フィラー、または土類金属化合物が挙げられる。
ここで、土類金属化合物としては、少なくともリン酸の第一解離に基づくpKa値より高いpKa値を有する酸、即ち、リン酸より弱酸の金属塩を用いることができる。上述のようにリン酸よりも強酸の塩を用いても、遊離した土類金属イオンとリン酸から誘導される酸性基とのイオン結合が十分に生じないため好ましくない。このようなリン酸より弱酸の土類金属塩としては、炭酸塩、1,3−ジケトンのエノール塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フッ化物、マロン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、酢酸塩、メトキシ酢酸塩等が挙げられる。尚、後述するように、これらの弱酸の土類金属塩の中には、土類金属によっては、溶解性が著しく低いものがあるため、予め予備実験等で確認した上で用いればよい。また、こうした土類金属化合物としては、水酸化物や水素化物、アルコキシドも使用できる。これらの土類金属化合物のなかでも、金属イオンの溶出が早く、副生物が常温で気体或いは水や低級アルコール等の、接着強度に影響がなく除去容易なものであることから、水酸化物、水素化物、炭酸塩、或いは炭素数4以下の低級アルコキシドが好ましい。更に、取り扱いが容易な点から水酸化物、アルコキシド、炭酸塩がより好ましい。
これらの好ましい土類金属化合物の具体例を示すと、アルミニウムメトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムヒドロキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、ガリウムエトキシド、インジウムエトキシド、スカンジウムイソプロポキシド、イットリウムイソプロポキシド、ランタンメトキシド、ランタンエトキシド、ランタンイソプロポキシド、ランタンヒドロキシド、炭酸ランタン、セリウムイソプロポキシド、プラセオジウムイソプロポキシド、プロメチウムイソプロポキシド、ネオジウムイソプロポキシド、サマリウムイソプロポキシド、ユーロピウムアセチルアセトナート、ガドリニウムアセチルアセトナート、テルビウムアセチルアセトナート、ジスプロシウムアセチルアセトナート、ホルミウムアセチルアセトナート、エルビウウムアセチルアセトナート、ツリウムアセチルアセトナート、イッテルビウムイソプロポキシド、イッテルビウムアセチルアセトナート、ルテチウムアセチルアセトナート等が挙げられ、このうち、アルミニウムメトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムヒドロキシド、ランタンメトキシド、ランタンエトキシド、ランタンイソプロポキシド、ランタンヒドロキシド、炭酸ランタン等が特に好ましい。
なお、土類金属イオン源として、アルミニウムやランタンの酸化物、及びカルボン酸塩は、重合性単量体または有機溶媒に不溶性のものが多く、一般には、水の存在下であっても、前記した必要量の該土類金属イオンの溶出には極めて長時間を要するため、土類金属イオン源としては不適である。特に、アルミニウムおよびランタンの酸化物は、水の存在下であっても殆ど対応する金属イオンを溶出しないため、土類金属イオン源としての使用は通常は困難である。
一方、土類金属イオンを含んでなる多価金属イオン溶出性フィラーは、酸性を呈する歯科用接着性組成物中で、上記土類金属イオンを溶出させることができるものであり、且つリン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸の共役塩基イオンは実質的に溶出させないフィラーである。これらは、上記性状を有する公知のものが制限なく使用できるが、一般には、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に土類金属イオンを含む金属イオンを保持したものが好適に使用される。好ましい例を挙げると、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類としては、酸化物ガラス、フッ化物ガラス等を挙げることができる。酸化物ガラスからなるものとしてはアルミノシリケートガラス、土類金属が含まれるホウケイ酸ガラス、同様にソーダ石灰ガラス等からなるものがあげられ、フッ化物ガラスとしては同様にフッ化ジルコニウムガラス等からなるものを挙げることができる。
なお、これらのガラス類からなる多価金属イオン溶出性フィラーは、土類金属イオンを溶出させた後は、凝集したり粒径が大きい等により沈降しているものについては、濾別等して少なくとも一部を除去しても良いが、こうしたもの以外はそのまま多孔性の粒子として歯科用接着性組成物中に残留させておくと、充填材として硬化体の強度の向上に寄与するため好ましい。
上記多価金属イオン溶出性フィラーの中でも、アルミノシリケートガラスからなるものが好適に使用され、さらに歯質を強化するフッ化物イオンを接着後に徐々に放出する、所謂フッ素徐放性を有するフルオロアルミノシリケートガラスからなるものが最も好適に用いられる。
好適に使用できる上記のフルオロアルミノシリケートガラスは、歯科用セメント、例えば、グラスアイオノマーセメント用として使用される公知のものが使用できる。フルオロアルミノシリケートガラスには、上記土類金属イオンとして、アルミニウムイオンが多量に含有されており、その他、場合によりランタン等のその他の土類金属イオンも含まれている。一般に使用されている、フルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン質量パーセントで、珪素、10〜33;アルミニウム、4〜30;アルカリ土類金属、5〜36;アルカリ金属、0〜10;リン、0.2〜16;フッ素、2〜40及び残量酸素のものが例示される。本発明において使用するのに、より好ましい組成範囲のものを例示すると、珪素、15〜25;アルミニウム、及びランタン10〜40;アルカリ土類金属、5〜10;アルカリ金属、0〜1;リン、0.5〜5;フッ素、4〜40及び残量酸素である。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をスカンジウム、イットリウム、イッテルビウム等、他の土類金属で置き換えたものも好適に使用可能である。
多価金属イオン溶出性フィラーとして、上記フルオロアルミノシリケートガラスを用いる場合、このものには前記好適な組成から明らかなように、相当量のフッ化物イオンが含有されており、これは溶出して系中の水と反応してフッ化水素を生成する。フッ素イオンは、リン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸の共役塩基イオンではないため(弱酸の共役塩基イオン)、系中に含有されても問題はなく、その溶出量により、接着性組成物の酸性度を調整すれば良い。
これらの多価金属イオン溶出性フィラーの形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状等の粒子を混ぜることもできる。
前記リン酸系モノマーを少なくとも一部として含んでなる重合性単量体成分と、前記土類金属イオンのイオン源を混合し、該土類金属イオンを溶出させるには、通常、水が必要になる。特に、土類金属イオン源として、多価金属イオン溶出性フィラー用いると、水を存在させない限り前記特定した量の土類金属イオンを溶出させることは困難である。こうした水は、本発明の接着性組成物を歯面に塗布した際に、該接着性組成物を硬化させる前にエアブローにより除去させるのが、硬化を十分に進行させる観点から好ましい。また、土類金属イオンを溶出させた後に減圧留去等により、接着材組成物中から取り除いてしまっても問題ない。
一方、本発明の接着性組成物は、水が含有されない場合であっても、口腔内の呼気中の水分や、歯面上に存在する水分等が介在することで、接着力向上に有効な程度に脱灰作用を発揮させることが可能である。より脱灰を進行させ、より高い接着強度を得る観点からは水を配合させることが好ましい。こうした水の配合量は、重合性単量体成分100質量部に対して3〜150質量部、より好ましくは5〜100質量部であるのが好適である。
本発明の接着性組成物は、上記土類金属イオン源として、多価金属溶出性フィラーを用いて製造するのが、製造の容易性や、前記した該多価金属溶出性フィラーの残滓の充填材効果が得られることから好ましい。すなわち、1)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、
2)溶出する金属イオンとして少なくとも土類金属イオンを、前記リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体全量における酸の総価数に対して、総イオン価数が0.2〜3.0の割合になる量で含有してなる多価金属イオン溶出性フィラー、
3)水
を、リン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸を実質的に含ませないで一液に混合した後、得られた混合液を、上記2)多価金属イオン溶出性フィラーに含有される土類金属イオンが、前記規定した範囲内の量溶出するまで保存して製造する方法である。ここで、多価金属イオン溶出性フィラーとしてフルオロアルミノシリケートガラスを用いた場合は、上記土類金属イオンが、前記規定した範囲内の量で溶出するまでに要する時間は、通常、室温条件下で少なくとも12時間である。土類金属イオンが前記規定した量で溶出した後においては、土類金属イオンの溶出量が比較的多い場合等において、保存期間が長期に及ぶと、液の粘性が増しゲル化することがあるため、このような場合には、上記ゲル化するまでに使用に供することが望ましい。
本発明の接着性組成物は、歯科用途において、歯質の接着用に使用される。特に、コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物を歯質に接着させる際に使用される歯科用接着材、ブラケット等の歯列矯正用器具を歯面へ接着させる際に使用される歯科用接着材、更には、歯質用前処理材として有用である。
本発明の接着性組成物には、有効量の重合開始剤を配合させても良く、特に歯科用接着材として用いる場合、こうした態様で使用される。このような重合開始剤としては、任意のタイミングで重合硬化させることができることから、光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤としてはカンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等のα−ジケトン類、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン等のα−アミノアセトフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド誘導体等が好適に使用される。
また、上記した重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ドデシルメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のメルカプト化合物を挙げることができる。
こうした重合開始剤の配合量は、通常、重合性単量体成分100質量部に対して、0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
更に、上記に重合開始剤、重合促進剤に加え、ヨードニウム塩、トリハロメチル置換S−トリアジン、フェナンシルスルホニウム塩化合物等の電子受容体を加えても良い。
また、歯科用接着材として用いる場合には、無機充填剤を添加することが可能である。当該無機充填剤としてシリカやジルコニア、チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニアなどが挙げられ上げられる。
これら無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化することで重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。疎水化の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。
これらの無機充填剤の配合量は、通常、重合性単量体成分100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜100質量部である。特にコンポジットレジン用接着材として調整する場合は、2〜20質量部の範囲、より好ましくは5〜10質量部である。
また、これらの接着性組成物には、揮発性有機溶媒が配合されても良い。ここで、揮発性有機溶媒は、室温で揮発性を有し、水溶性を示すものを使用することができる。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
これらの揮発性有機溶媒の配合量は、通常、重合性単量体成分100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜100質量部である。
なお、これらの揮発性有機溶媒も、前記水と同様に、本発明の接着性組成物を歯面に塗布した際に、該接着性組成物を硬化させる前にエアブローすることにより除去させて使用される。
さらに、本発明の接着性組成物には、用途に関わらずに必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
略称及び略号
[リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体]
PM1:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート
PM2:ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート
PM:PM1とPM2の2:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HP:
Figure 0005089192
[その他酸性基含有重合性単量体]
MAC−10:
Figure 0005089192
[酸性基を含有しない重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[金属イオン源]
Al(O−i−Pr):アルミニウムトリイソプロポキシド
Al(OH):アルミニウムヒドロキシド
La(O−i−Pr):ランタントリイソプロポキシド
La(OH):ランタンヒドロキシド
Sc(O−i−Pr):スカンジウムトリイソプロポキシド
Yb(O−i−Pr):イッテルビウムトリイソプロポキシド
Mg(OH):マグネシウムヒドロキシド
Ca(OH):カルシウムヒドロキシド
Ba(OH):バリウムヒドロキシド
Ti(O−i−Pr):チタニウムテトライソプロポキシド
Zr(O−i−Pr):ジルコニウムテトライソプロポキシド
V(acac):バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト
Cr(O−i−Pr):クロミウム(III)トリイソプロポキシド
Mn(acac):マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト
Fe(OEt):鉄(III)エトキシド
Co(acac):コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト
Ni(acac):ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト
Cu(OEt):銅(II)エトキシド
Zn(OCHCHOMe):亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド)
Al:酸化アルミニウム粒子(平均粒径13nm)
Al(sal):サリチル酸アルミニウム
AlCl:塩化アルミニウム
MF:フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を15分間処理して得た、多価金属イオン溶出性フィラー。
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:27meq/g−フィラー)
[揮発性の水溶性有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
BTPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンソイル)−フェニルホスフィンオキサイド
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール

また、以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
(1)金属イオンの測定方法
本発明の接着性組成物を調整し、24時間攪拌した後、100mlのサンプル管に0.2gを計り取り、IPAを用いて1質量%に希釈した。この液をシリンジフィルターでろ過し、ろ液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、重合性単量体1g当りに含まれる各金属イオン濃度(mmol/g)を測定した。
(2)リン酸系モノマーの測定方法
上記の金属イオン量の測定方法に用いたIPA溶液をHPLCで測定し、重合性単量体1g当りに含まれる、リン酸系モノマーの濃度(mmol/g)を測定した。
(3)陰イオンの測定方法
接着性組成物2gと水100g、ジエチルエーテル10gを激しく混合し、静置後、水相をシリンジフィルターでろ過し、ろ液をイオンクロマトグラフィーにより測定し、重合性単量体1g当りに含まれる陰イオン濃度(mmol/g)を測定した。
(4)接着性組成物のpH測定方法
接着性組成物2gを無水エタノール8gと混合し、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)で校正したpH電極(GTS−5211C、東亜ディーケーケー社製)を用いて、速やかにそのpHを測定した。
(6)接着耐久性の試験方法
a)接着試験片の作成方法I(歯科用接着性組成物が歯科用接着材の場合に適用)
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に歯科用接着材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片Iを作製した。
b)接着試験片の作成方法II(歯科用接着性組成物が歯科用前処理材の場合に適用)
上記a)接着試験片の作成方法Iと同様の方法により形成した模擬窩洞内に歯質用前処理材を塗布し、20秒放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、その上に2ステップ型コンポジットレジン用接着材(トクソーマックボンドIIのボンディング材、トクヤマ社製)を塗布し、歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片IIを作製した。
C)接着試験方法
接着試験片Iまたは接着試験片IIを熱衝撃試験器に入れ、4℃の水槽に1分間浸漬後、60℃の水槽に移し1分間浸漬し、再び4℃の水槽に戻す操作を、3000回繰り返した。
その後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を耐久試験後の接着強度として測定し、接着耐久性を評価した。
実施例1
重合性単量体として1.5gのPM、3.0gのBisGMA、2.0gの3G及び3.5gのHEMAと、土類金属イオン源として0.4gのアルミニウムイソプロポキシドと、重合開始剤として0.1gのカンファーキノン、0.15gのDMBEと、8.5gのIPA、1.5gの蒸留水、及びその他成分としてBHTを0.03質量部を用い、これらを24時間攪拌混合して本発明の接着性組成物からなる、1ステップ型コンポジットレジン用接着材を得た。
この接着材について、リン酸系モノマー、金属イオン、及び陰イオンの各測定とpH測定を実施した後、これを用いてエナメル質および象牙質に対する接着耐久性を試験した。接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
実施例2〜20
実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なる接着材を調整した。
得られた各1ステップ型コンポジットレジン用接着材について、リン酸系モノマー、金属イオン、及び陰イオンの各測定とpH測定を実施した後、各々を用いてエナメル質および象牙質に対する接着耐久性を試験した。接着剤の組成を表1、結果を表2に示した。
実施例21
1.5gのPM、1.0gのフルオロアルミノシリケートガラス、8.5gのIPA、1.5gの蒸留水、及びその他成分としてBHTを0.03質量部用い、これらを24時間攪拌混合した。攪拌後、水及びIPAをロータリーエバポレーターで留去し、更に真空ポンプを用いて2時間減圧乾燥した。乾燥物に、3.0gのBisGMA、2.0gの3G、及び3.5gのHEMAと、重合開始剤として0.1gのカンファーキノン、0.15gのDMBEと、10.0gのIPAを加え均一になるまで攪拌し、接着材を調整した。
得られた各1ステップ型コンポジットレジン用接着材について、リン酸系モノマー、金属イオン、及び陰イオンの各測定とpH測定を実施した後、各々を用いてエナメル質および象牙質に対する接着耐久性を試験した。接着剤の組成を表1、結果を表2に示した。
比較例1〜26
実施例1の方法に準じ、組成の異なる接着材を調整した。
得られた各1ステップ型コンポジットレジン用接着材について、リン酸系モノマー、金属イオン、及び陰イオンの各測定とpH測定を実施した後、各々を用いてエナメル質および象牙質に対する接着耐久性を試験した。接着剤の組成を表3に、結果を表4に示した。
比較例27
実施例12と同組成の接着材であるが、該接着材調製のための攪拌時間が1時間の時点で、リン酸系モノマー、金属イオン、及び陰イオンの各測定とpH測定の実施と、各々を用いてエナメル質および象牙質に対する接着耐久性を試験した。接着剤の組成を表3に、結果を表4に示した。
Figure 0005089192
Figure 0005089192
Figure 0005089192
Figure 0005089192
実施例1〜21は、リン酸から誘導される酸性基含有重合性単量体と、土類金属イオンが、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても耐久性の試験結果は、エナメル質、及び象牙質のいずれに対しても良好であった。
これに対して、比較例1〜18は金属イオンが全く含まれないか、含まれる物であっても土類金属イオンを含まない場合であり、いずれの場合においても耐久性の試験結果は、象牙質或いはエナメル質、象牙質双方に対して良好な接着強度が得られないものであった。
比較例19は土類金属イオン源として酸化アルミを用いた場合であるが、アルミイオンの溶出は殆ど無く、耐久性の試験結果は、特に象牙質に対して良好な接着強度が得られないものであった。
比較例20は土類金属イオン源としてサリチル酸アルミニウムを用いた場合であるが、アルミイオンの溶出は極僅かであり、耐久性の試験結果は、特に象牙質に対して良好な接着強度が得られないものであった。
比較例21は土類金属イオン源として塩化アルミニウムを用いた場合であるが、アルミイオンは溶出するものの、リン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸の共役塩基イオンであるクロライドイオン(塩化水素のpKaは−6.1)が含まれるため、耐久性の試験結果は、特に象牙質に対して良好な接着強度が得られないものであった。
比較例22〜25は土類金属イオンが含まれるものの、本発明の範囲外の量であるか、範囲内であっても酸性を呈さない場合であり、耐久性の試験結果は、象牙質或いはエナメル質、象牙質双方に対して良好な接着強度が得られないものであった。
比較例26はリン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体以外の酸性基含有重合性単量体のみを用いた場合であり、耐久性の試験結果は、特にエナメル質に対して良好な接着性が得られないものであった。
比較例27は土類金属イオン源として、フルオロアルミノシリケートガラスを用い、そのガラス中に含有される土類金属イオン量が本発明の範囲内になるよう配合されたものであるが、攪拌時間が1時間であるため、該土類金属イオンの溶出が僅かであった。そのため、耐久性の試験結果は、特に象牙質に対して良好な接着強度が得られないものであった。
実施例22〜29、比較例28〜33
表5、表7記載の前処理材を、実施例1の接着材と同様に調整し、得られた前処理材を、2ステップ型コンポジットレジン用接着材の前処理材として用いた。前処理材に含まれる酸性基含有重合性単量体及び各種イオンの測定、耐久試験後のエナメル質、象牙質接着強度を評価した。評価結果を表6、表8に示した。
Figure 0005089192
Figure 0005089192
Figure 0005089192
Figure 0005089192
実施例22〜29は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯質前処理材を用いたものであるが、いずれの場合においても耐久性の試験結果は、エナメル質、及び象牙質のいずれに対しても良好であった。
比較例28〜33は、土類金属イオンが含まれないか、含まれる場合であってもその配合量が本発明の範囲外の歯質前処理材ものであるが、耐久性の試験結果は、特に象牙質に対して良好な接着強度が得られないものであった。

Claims (9)

  1. リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を、重合性単量体成分の少なくとも一部として含んでなる、保存形態が一液型の、酸性を呈する歯科用接着性組成物であって、土類金属イオンを含む金属イオンが共存してなり、該リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体全量における酸の総価数に対する、上記土類金属イオン全量における総イオン価数の割合が0.2〜3.0であり、且つリン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸の共役塩基イオンを実質的に含有していないことを特徴とする、保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  2. リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体の含有量が、重合性単量体成分の5質量%以上である請求項1記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  3. リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体が、リン酸二水素モノエステル基及び/又はリン酸水素ジエステル基を有する重合性単量体である請求項1または請求項2に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  4. 水を含有してなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  5. 土類金属イオンが、アルミニウムイオン及び/又はランタンイオンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  6. 重合開始剤を含有してなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物からなる歯科用接着材。
  8. 請求項1〜6いずれか一項に記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物からなる歯質用前処理剤。
  9. 1)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、
    2)溶出する金属イオンとして少なくとも土類金属イオンを含有してなる多価金属イオン溶出性フィラーを、該土類金属イオンの総イオン価数が、前記リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体全量における酸の総価数に対して0.2〜3.0の割合になる量、
    3)水
    を、リン酸の第一解離に基づくpKa値以下のpKa値を有する強酸を実質的に含ませないで一液に混合した後、得られた混合液を、上記2)多価金属イオン溶出性フィラーに含有される土類金属イオンが、前記規定した範囲内の量溶出するまで保存してから使用することを特徴とする請求項1記載の保存形態が一液型の歯科用接着性組成物の製造方法。
JP2007038059A 2007-02-19 2007-02-19 歯科用接着性組成物 Active JP5089192B2 (ja)

Priority Applications (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007038059A JP5089192B2 (ja) 2007-02-19 2007-02-19 歯科用接着性組成物
EP07831875.5A EP2123246B1 (en) 2007-02-19 2007-11-08 Adhesive composition for dental use
CN2007800503155A CN101588782B (zh) 2007-02-19 2007-11-08 牙科用粘合性组合物
PCT/JP2007/072145 WO2008102489A1 (ja) 2007-02-19 2007-11-08 歯科用接着性組成物
US12/526,070 US8513327B2 (en) 2007-02-19 2007-11-08 Adhesive composition for dental use

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007038059A JP5089192B2 (ja) 2007-02-19 2007-02-19 歯科用接着性組成物

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2008201697A JP2008201697A (ja) 2008-09-04
JP5089192B2 true JP5089192B2 (ja) 2012-12-05

Family

ID=39779572

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2007038059A Active JP5089192B2 (ja) 2007-02-19 2007-02-19 歯科用接着性組成物

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP5089192B2 (ja)
CN (1) CN101588782B (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
ES2683883T3 (es) * 2013-06-20 2018-09-28 Ivoclar Vivadent Ag Ácidos ß-cetofosfónicos y materiales dentales a base de los mismos
WO2018074594A1 (ja) * 2016-10-21 2018-04-26 クラレノリタケデンタル株式会社 自己接着性歯科用コンポジットレジン

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3520706B2 (ja) * 1997-02-27 2004-04-19 株式会社トクヤマ 接着性組成物
EP1169006B1 (en) * 1999-04-14 2018-02-28 The Procter & Gamble Company Denture adhesive compositions
TWI284540B (en) * 1999-05-13 2007-08-01 Kuraray Co Bonding composition suitable to tooth tissue
JP4636656B2 (ja) * 1999-07-08 2011-02-23 株式会社松風 歯科用接着剤組成物
JP4818591B2 (ja) * 2004-03-05 2011-11-16 株式会社松風 1ステップ歯科用接着剤組成物

Also Published As

Publication number Publication date
CN101588782B (zh) 2012-12-19
JP2008201697A (ja) 2008-09-04
CN101588782A (zh) 2009-11-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5484334B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP5059443B2 (ja) 歯科用接着性組成物
US8513327B2 (en) Adhesive composition for dental use
JP4966301B2 (ja) 1液型歯科用接着性組成物
JP5279404B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP5089192B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP5279233B2 (ja) レジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物
EP3730121B1 (en) Dental adhesive material kit
JP5846980B2 (ja) 歯科用接着材キット
JP5052121B2 (ja) 1液型歯質用前処理材
JP5084390B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP2012020975A (ja) 歯質用接着性組成物
JP5669753B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP5914067B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP2010202625A (ja) 歯科用接着材
JP5783761B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP6244207B2 (ja) 歯科用接着性組成物
JP5808447B2 (ja) 歯科用接着材
JP5802960B2 (ja) 歯質用接着材

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20091116

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20120515

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20120709

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20120816

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20120911

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20150921

Year of fee payment: 3

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5089192

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250